───修羅───
…………そして訪れた深夜。
彰利 「なんかこういうのって合宿みたいでいいよなぁ」
悠介 「自分の部屋じゃなかったらそう感じたんだろうけどな……」
彰利 「枕投げでもしてみるか?」
悠介 「大却下」
彰利 「ぬう」
水穂 「……地底でミミズさんに遭いました……。
モグラさんにも遭いました……。
途中で水脈に辿り着いたみたいで、そこでびしょ濡れになって……。
うふ……うふふふ……」
彰利 「ああ、だから濡れてたのか」
水穂 「寒くて……寒くて……。
そしたらマグマで乾かそう、なんて言い出して、それで、それで……」
彰利 「可哀相に……俺様が温めてあ・げ・る」
ぎゅむ。
…………。
彰利 「……あれ?ナックルは?」
悠介 「お前は殴られたくて毎回抱きついてるのか」
彰利 「さすがにそれはないけどさ。
でも、殴られるんじゃないかって思うでしょ、普通。
ノーリアクションだと、ふつふつと罪悪感が」
水穂 「目の前で溶岩がゴポゴポって、赤くて熱くて目が痛くて、
景色が歪んで、落ちたら一瞬で絶命しそうで……。
カーズが……カーズがぁああああああああああっ!!!!」
彰利 「ああっ!なんか幻覚見てる!」
悠介 「水穂ちゃん!気をしっかり!水穂ちゃん!」
水穂 「究極生物が!イカが!ピラニアがぁあっ!」
彰利 「チィイ!いろんな意味で錯乱してる!」
悠介 「当身!」
ドス!
水穂 「かはっ!」
ふるふると痛がってる。
悠介 「落ち着いたか?」
彰利 「いやさ、当身で正気に戻るのってどうかと思うぞ」
悠介 「そうでもないだろ」
水穂 「痛いぃ……」
彰利 「うおう、正気に戻ってる」
悠介 「えーと、早速で悪いんだけど、ちょっと質問。
水穂ちゃん、家とかに連絡はしてるかい?」
水穂 「はぅ……い、いえ、してませんよ」
彰利 「だいじょぶ?親父さんとお袋さん、心配すんじゃない?」
水穂 「平気ですよ。ボクにそういうの居ませんから」
彰利 「居ない?両親が?」
水穂 「はい。互いに殺し合ったんです。保険金目当てで。
それで……結局はふたりとも死んでしまいました。
ボクはお父さんの親に引き取られて……。
でも、おじいさんはボクが小学を卒業する頃、死んじゃいました。
確かに家にはおばあさんが居ますけど、
ボクのことを厄介物としか見てませんから」
彰利 「うわ……シビアな人生……」
悠介 「切っ掛けってのは……おじいさんの死か?」
水穂 「はい、自分のことは自分で守れるように、護身術を習いました」
彰利 「くぅぁああっはぁああああああああっ!!
可愛いなぁ!健気やなぁ!も、チューしてやるァ!ラブリィイ!!」
ぼかっ!
彰利 「ギャウッ!」
ズパァン!!
彰利 「いぎゃあっ!」
ドサッ。
俺の拳と水穂ちゃんの足が唸りをあげた。
彰利 「ふっ……貴様らの想い、確かに受け取ったぜ……。
水穂ちゃん……ナイスホワイティン……!」
ガクリ。
よくわからん言葉を残して彼はオチた。
しかも更に、顔を真っ赤にした水穂ちゃんにストンピングされた。
まったく何を考えてるのか、いよいよもって解らん。
水穂 「……はぁ。あの、そういうわけで、
家に電話しても冷たくあしらわれるだけですから」
悠介 「そっか……」
水穂 「先輩は……」
悠介 「うん?」
水穂 「先輩は、どうでした?」
悠介 「なにが?」
水穂 「小さい頃に死神に会って、その力を貰ったのは聞きました。
でも、切っ掛けとかは無かったんですか?」
悠介 「………」
……まあ、別にもうどうでもいいことだしな。
悠介 「十六夜の両親は……ろくでもない人間だったよ。
一言で言ってしまえば、金の亡者だった。
強欲だったし意地汚かったし。
……元は一族の中のひと家系だったんだけどね。
でも……追い出されたらしい。
当然だよな、あんな最低な奴ら……」
水穂 「先輩……」
悠介 「俺は間違って産まれた子供なんだってさ。
産むつもりもなかった、邪魔な子供。
俺は毎日両親に殴られながら生きてきた。
時には腕を折られたりもした。
そうなると、『しめた』って顔をして、親がどこかに電話するんだ」
水穂 「電話?病院ですか?」
悠介 「───家系の誰かさ。それらに来てもらって、
姿が見えるとすぐに『金をよこせ』って言ってたらしい」
水穂 「らしいって……先輩、覚えているわけじゃないんですか?」
悠介 「俺の親に関する知識は、晦の親が持っていた書記の中の物にすぎないよ。
……だけど、それを確実に納得出来る何かが自分の中にある」
水穂 「………」
悠介 「そんなことが何度か続いた後さ。
ここの両親が堪り兼ねて、十六夜の両親と喧嘩を始めたのは。
初めこそ、それはただの言い合いだった。
だけど、それも知らず知らずのうちにエスカレートしていって、
耐えきれなくなった十六夜の両親は一家心中を図った」
水穂 「───!」
水穂ちゃんが息を飲む。
それでも構わず、俺は続けた。
悠介 「家に火をつけて、炎に囲まれて……。
そんな中で、十六夜の両親は体を焼きながら笑ってたよ。
いま思い出しても吐き気が出る。
顔を焼き溶かしながら、俺の名前を呼ぶんだ。
焼けた喉がカタカタと動いて……俺の方に歩いてきて……。
そして……俺の前で絶命した……」
水穂 「………」
気付けば、水穂ちゃんは涙目になっていた。
確かに想像しただけで気分の悪いものだ。
悠介 「天井がさ、落ちてきたんだよ。
それに潰されて……あいつらは絶命した……。
その後さ。ルナに会ったのは。
炎の中から俺を助けてくれた。
それから契約して魂を繋いで……この力が備わった」
改めて、自分の人生に苦笑する。
他の家に生まれていれば、もっと幸せな人生を歩めたのだろうか。
都合のいい考えばかりが出てくるのは毎度のことだけど、
やっぱりそう思ってしまう。
悠介 「んー……彰利を突つきまくるハトが出ます。
ちなみに10秒で森に帰る」
ポム。
バサバサバサ……ヒタッ。
彰利 「うぐ……?なんかチクって……」
ドス!
彰利 「ギャア!」
ドスドスドス!
ガス!ガガス!ガガガガガッ!!
彰利 「いげらっ!いたいてて!な、なに!?なんなの!?」
彰利はたっぷり10秒間突つかれたあと、立ちあがった。
彰利 「……なんなのさ」
悠介 「看板を仕上げよう」
彰利 「くっ……眠いのに」
悠介 「俺もだけどな。だけど提出が今日までじゃ仕方ないだろう」
既に時間は4時ときている。
悠介 「水穂ちゃん、キミも寝たほうがいいよ」
彰利 「『も』ってわりには、俺は寝かせてくれないのね」
悠介 「お前は寝なくても一週間は頑張れる」
彰利 「うわあ無茶苦茶」
悠介 「あ、そうそう。どうせ俺は停学中だから。
俺の布団使っていいよ」
彰利 「なにっ!」
彰利が目を輝かせ、俺の布団を引っ張り出して潜り込んだ。
ドムッ!
彰利 「ギャア!」
それを踏んでやる。
悠介 「靴下くらい脱げやボケ!」
彰利 「そ、そんな……まだ早いわ俺様達……」
悠介 「なーにを勘違いしてるんだよ変態オカマホモコン!
靴下だ!靴下を脱げって言ってるんだ!」
彰利 「……ダーリンにそんな趣味があったなんて」
ゴホゥシャァアアッ!!
彰利 「ほぎゃああああっ!!」
拳がクリーンヒットした。
悠介 「お前はっ!どうしてそうっ!勘違いばっか!するんだよっ!」
彰利 「いやっ!ごめんっ!本気でソーリーッ!髭ソーリーッ!
悪気は無いけどギャッ!悪戯心がギャッ!!
満天の星空風味でギャアア!!殴り続けないで!痛い!」
水穂 「あ、あの……」
悠介 「あー、こいつのことは無視していいよ。
寝るならそこ使っていいから」
水穂 「は、はい……」
彰利 「そぉんなこと言っちゃってぇ♪
その後、寝込みを襲うんでしょう?
……許せねェ!俺様の愛しの悠介が俺様以外の寝込みを」
悠介 「アラビアンバーグラリーバックブリーカーッ!!」
ゴフシャァッ!!
彰利 「ギャアーッ!!」
ドサリ。
彰利 「せ、背骨辺りがボキボキって……ボ、ボボボキボキボキって……」
彰利、痙攣。
背中を押さえながらピクピクと震えている。
悠介 「ったく……いいからさっさと仕上げるぞ」
彰利 「そ、そんな無慈悲なぁ……」
悠介 「お前が悪い」
彰利 「うう……靴下脱がなかっただけでこんな目に遭うなんて……」
悠介 「靴下の云々はこの際論外だろう」
彰利 「そんなっ!ヒドイわ!俺様の性格が捻じ曲がってるとでも言いたいの?」
悠介 「いや、言いたいどころか叫びたい」
彰利 「ゲゲェエーーーッ!!なんか悪化してる!」
悠介 「ほら、早く起きろ」
彰利 「あ、あなたがこんな体にしたのよ!?責任取ってYO!」
悠介 「スパーク」
ゴシャァアアアアアアアアアアン!!
彰利 「あばぼべぐひゃごげあべぼげごがぁああああああっ!!!!」
彰利がスパークする。
髪の毛が逆立って、見ているだけで面白い。
彰利 「………」
彰利、再び痙攣。
見事に煙を上げている。
悠介 「手伝うのか手伝わないのか」
彰利 「て、手伝わなかったら……?」
悠介 「………」
無言のままに、掌で雷撃をスパークさせる。
彰利 「悠介サン、知ってる……?そういうのを脅迫って言うんだよ……?」
悠介 「お前相手なら殺人以外、全て許される気がする」
彰利 「うおお!?そこまで進化しますか人種差別!
人種っていうか俺様以外の男にはそんなことしないんでしょ!?」
悠介 「当たり前だ」
彰利 「ギャー!個人種差別!横暴ですぞ殿!」
悠介 「いーからとっとと手伝わんかぁあああっ!!」
彰利 「キャーッ!解った解りました手伝わさせて頂きますですハイッ!」
悠介 「はぁ……」
なんかもう、溜め息吐いてない日とか、
そんなもんは存在しないんじゃないかと思うほどに溜め息の嵐だ。
彰利 「………」
悠介 「彰利?」
彰利 「………」
悠介 「?」
彰利が何かを見つめている。
そちらに目を動かすと……
水穂 「………」
既に布団の中に入っている水穂ちゃん。
彰利 「……は〜!凡羅破魅陀・亜仏弟斗羅(……!修羅忍道破魔砂蜘蛛(!」
彰利が姿勢を低くして、まるでゴキブリのように水穂ちゃんが眠る俺の布団にグシャッ!
彰利 「ギャア!!」
辿り着く前に、踏み潰した。
彰利 「な、なにをなさるの?」
悠介 「お前こそ何をするつもりだ」
彰利 「え?あ、いや、その……破魔砂蜘蛛……」
悠介 「………」
彰利 「……あっ、そ、そうだ、看板作らないとな〜!あはっ、あはははは」
バチィッ!!バリバリバリィイッ!!
彰利 「ぎゃわごげおぼぶばげひゃあああああっ!!!!」
悠介 「どーしてお前はそうなんだっ!
この馬鹿!愚者!たわけ!ボケ!ボケ者!!」
彰利 「ぐわぁひゃあああっ!!やややめって!や……やめらったぁあ!
雷撃が電撃がナマっ!ナマズのが電がナマッァア!!
死ぬししししほべぎょギャアアアアアアス!!」
ドサッ。
彰利 「……あ、あぇぃぇぁあ……」
感電を体感し、ピクピクと動く彰利。
その様はまるで、陸に打ち上げられた魚のようだった。
悠介 「馬鹿はほっといて作業続けるか……」
彰利 「そ、その言葉……雷撃流される前に聞きたかった……」
そして彼は気絶した。
……って、どうせすぐ復活するんだろうけど。
悠介 「はぁ……」
看板の下書きになぞって絵の具やらなにやらを塗ってゆく。
悠介 「……絵の具?まあ……絵に塗る具なんだから絵の具だよな、これも」
ぺたぺたぺた……。
悠介 「………」
───そうして時間は過ぎてゆく。
ゆっくりと、だが確実に。
眠くはあったけど、それでもやっていたい気持ちが先行した。
看板にはただ、いらっしゃいませと描いてあるだけのようもの。
人が描いてあろうと、必要なのは『いらっしゃいませ』だろう。
悠介 「………」
ただ、静かに塗ってゆく。
気づけば時間はどんどんと進んでいて、日が出ていた。
そうして迎えた朝。
看板も完成して、あとは俺自身が休むだけだった。
悠介 「……とうとう起きなかったなこの野郎……」
幸せそうに寝ている彰利を見る。
途中、
『や、やめて夜華さん……アカン……アカンわ……!!
そこで刀は反則でしょ……イヤ……イヤァアアアッ!!!』
って魘()されて叫んでたけど、こいつなら心配無用だろう。
むしろどんな夢を見ていたのか気になる。
夜華さんって誰だよ。
悠介 「まあいいや……疲れた……」
その場に倒れて、そのまま眠りについた。
…………。
……。
声 「ラブリィイイッ!!」
悠介 「うっさいっ!」
ドゴスッ!
彰利 「ギャヤァア!!」
悠介 「人が寝てんのに邪魔すんな馬鹿!」
彰利 「だ、だってYO!俺の分の作業領域まで完成させちまうんだもん!」
悠介 「お前がいつまでも寝てるからだろ!?」
彰利 「んもう、そんな叫ばないの。寝起きが悪いのは相変わらず?」
悠介 「睡眠を邪魔された時だけはな……」
彰利 「んなこと言ったってさ、これからどうしろっていうの」
悠介 「お前が悪いんだ、諦めろ」
彰利 「うう、俺とハニーの素敵な時間が……」
悠介 「……寝てから2時間しか経ってねぇじゃねぇか……!
どうしてくれるんだよ……!」
彰利 「あ、いや、まあ……そんな怒らないで。寝よう、な?俺も寝るからさ」
悠介 「……そだな」
彰利 「ふう……」
彰利が安堵の溜め息を吐く中、俺は視線を動かしてみた。
水穂 「………」
水穂ちゃんはまだ寝ているみたいだ。
悠介 「………………あれ?」
ちょっと待て。
今日、休みだったか?
悠介 「彰利、今日休みだったっけ?」
彰利 「いんや、バリバリの平日日和だけど」
悠介 「………」
起こさないとなぁ。
やれやれ……。
悠介 「水穂ちゃ」
彰利 「待った」
悠介 「どした?」
彰利 「こういう時は布団に潜り込んで起こすべきだ」
悠介 「たわけ」
彰利 「たわっ……」
悠介 「水穂ちゃん、朝だぞ」
声をかけた。
しかし反応無し。
彰利 「たわけのひとことで簡単にあしらわないでダーリン!」
悠介 「うっさいっての」
彰利 「じゃあこれはどうだ!彼女の耳に息をふぅ〜っと!」
悠介 「痴呆」
彰利 「ボケ!?」
悠介 「水穂ちゃん!」
叫んでみる。
しかし反応なし。
まいったぞ。
結構……いや、かなりのモーニング虚弱体質と見た。
どうしてくれよう。
彰利 「やはり俺様が行こう」
悠介 「行くな」
彰利 「だってYO〜……」
悠介 「YOじゃない」
彰利 「じゃあ布団をひっぺがすくらい」
悠介 「変態かお前は!」
彰利 「お前が堅すぎるんだよ」
悠介 「堅かったら自分の布団で寝かせると思うか?」
彰利 「……そ、そんな……それじゃあもしやそのオナゴが好きなの!?」
悠介 「いや全然」
彰利 「うわ非道い」
悠介 「友達として認めた。それだけだよ。
信頼は……してるけど、いつ裏切られることやら」
彰利 「キャア!悠介サン!
裏切られるのを恐れるのは信頼とは言わなくてよ!?」
悠介 「あ───」
そうだった。
とんだ勘違いだ。
……ふむ。
悠介 「よし、彰利と同じくらいの扱いをしよう。
なにもかもこだわりを拭い去って、ぶつかっていこう」
彰利 「いや、俺と同等だったら水穂ちゃん死ねるって」
それもそうだ。
悠介 「と、いうわけで、彰利さん」
彰利 「ハイともさ、悠介さん」
水穂ちゃんが寝る布団(俺のだけど)を囲むようにして立つ。
彰利 「マグネットパワー・プラス!」
悠介 「マグッ……って違うだろ!」
彰利 「いいんだ!これで合ってる!
これは俺の勇者としてのやり方だ!誰にも文句は言わせん!」
悠介 「俺は言う」
彰利 「ダーリンなら許すワ♪」
悠介 「そうか。ならマグネットパワーは却下だ」
彰利 「許さん!」
悠介 「どっちだ馬鹿!」
彰利 「俺が許す」
悠介 「お前さ、日を負う毎に変になっていってないか?」
彰利 「いや、俺は常に正常だ」
悠介 「ようするにお前のアイデンティティは『変』なんだな」
彰利 「正常だってば!」
悠介 「それはいいから、さっさと起こそう」
彰利 「任せろ」
悠介 「……不安だが、とりあえず任せる」
彰利 「よしきた!」
彰利が懐からマジックを取りだし、構える。
彰利 「順当に行って、まずは額に肉でしょう」
悠介 「やめんかっ!」
彰利 「え、え?ちゅ、中の方が良かった?」
悠介 「そういう問題じゃないだろ……」
彰利 「あ、じゃあ王で」
悠介 「書くな」
彰利 「じゃあ……アレだな。
眠れる女子は王子様の接吻で目を覚ます」
悠介 「やった時点でどうなるか解ってるな?」
彰利 「……俺が死ねるね、確実に」
悠介 「普通に揺すればいいじゃないか」
彰利 「え?え?ま、間違って変なトコ触ったりしたらどうし嘘!冗談です!
冗談ですから鉄パイプ出さないで!」
真面目にやる気あるのかこいつは。
ほとほと呆れてしまう。
悠介 「水穂ちゃん、起きろ」
ゆさゆさゆさ。
彰利 「………」
悠介 「水穂ちゃん」
ゆさゆさ。
彰利 「お、俺にもやらせて?」
悠介 「何を企んでいる」
彰利 「うっわ!すっげぇ疑いの眼差し!
大丈夫だって。別に変なことしたりしないから」
悠介 「お前の『変』は日常化してるから怖いんだよ……」
彰利 「な、何ィ!?それはお前、アレか!?
変が俺の中で常識になってしまっているとでも」
悠介 「だから、そうだって」
彰利 「………」
おお、また落ち込んでる。
悠介 「てゆーかさ、俺もう眠いよ」
彰利 「寝ればいいじゃないの。あとの処理は俺が好き勝手に」
悠介 「したら俺はお前を病院送りにするだろう」
彰利 「しません!しませんとも!」
悠介 「まあいい加減、呆れてきたことだし。少々手荒くいくか」
彰利 「襲うの?」
ゴスゥッ!
彰利 「いでぇっ!」
悠介 「月鳴の裁きぃいいいいいいいっ!!」
ぐわしゃぁあああああああああああん!!!!
彰利 「ぎゃぁあああああああああああああああっ!!!!!」
どしゃぁっ!
彰利、完全に沈黙。
悠介 「一生寝てろたわけ者!」
手加減しらずで思いっきりいきました。
でもまあ、自業自得ということで。
こういう時って、ホント縁切りたくなるよな、こいつって……。
悠介 「……うっ……」
世界が揺れた。
いかんな……。
寝不足の上に、力使いすぎた……。
こうなったら手段なんてどうだっていい……。
悠介 「ふんっ!」
ずしゃぁっ!
勢いよく、敷布団を引っ張る。
転がる水穂ちゃん。
水穂 「あう……」
ごすっ、と壁に頭をぶつけていたが、まあ起きたから良し。
水穂 「………」
ぬぼぉ〜〜〜〜っとしている。
とてつもなく眠そうだ。
まあ、あまり寝ていないのも事実だ。
悠介 「学校、遅刻するぞ」
水穂 「…………………………あう?」
ごすっ!
水穂 「みぎゃあっ!」
悠介 「目、醒めたか?」
水穂 「はたたたたぅう……殴り起こすのは反則ですよぅ……」
悠介 「じゃあ、早く飯食って行ってらっしゃい」
水穂 「……聞いてませんね、人の話」
少しし呆れ気味の彼女に、弁当をふたつ渡す。
水穂 「……これは?」
悠介 「夜食用に作っておいた弁当。
ひとつは朝食、ひとつは昼食にして食べなさい」
水穂 「……えぇええええええっ!?い、いいんですかっ!?」
悠介 「いや別にそんな驚くことじゃないだろ……」
水穂 「そんなことないですよっ!
ボ、ボク、おばあさんがあんな調子だから、
お弁当って憧れだったんですよぉおっ!か、感動ですうぅうう!」
弁当箱を抱えながら泣く少女。
ハタから見れば、かなり異様な光景だろう。
悠介 「じゃ、俺は寝るから……」
水穂 「ハ、ハイ!ありがとうございました!……って、あ、あの」
悠介 「ん……なに」
水穂 「その布団で眠るんですか?」
悠介 「これ……俺の……布団だけど……」
いよいよ目蓋が重くなってきた。
信じられないほどのGが、俺の両目蓋にのしかかる。
水穂 「あ、の……それは、ボクが今まで……その……」
悠介 「……?」
水穂 「……いいです……お、おやすみなさい、先輩……」
悠介 「ん……おやすみ……」
ばさっ。
布団を敷き直し、今度こそ寝た。
………………。
…………。
……。
……気付けばそこは午後系の雰囲気だった。
悠介 「んん……っ!よく寝た……かもしれない」
大きく伸びをして、辺りを見渡す。
と、既に彰利の姿は無かった。
悠介 「……帰ったのかな」
まあいいけど。
さてと、看板届けに行きますか。
上半身だけ起こしていた体を立ち上がらせ、再度、伸びをする。
悠介 「ん〜……なんか俺って、結局寝てばっかりだよな」
言ってても始まらないが。
よし、行くか。
看板を持って、部屋をあとにした。
……って待て。
念のため制服着ていこう。
学校は嫌いでも、この制服は結構好きなんだよな。
ごそごそ。
よし、完璧ぞ。
さあ行こう。
………………。
…………。
声 「キャーッ!悠介先輩〜っ!」
それは石段を降り始めた時のことだった。
妙に聞き慣れた声が、俺の聴覚を掠める。
振り向かなくても相手が解るから、俺は無視して歩いていった。
声 「あ、あれーっ!?行っちゃうのーっ!?
ねぇーっ!ちょっと待ってよトニーッ!」
一目瞭然……というよりは、一聴瞭然というのか。
声 「はーっ!」
ごたぁっ!
妙な音とともに、奴の奇声。
そして、ごしゃぁあっ!という音。
声 「ギャーッ!」
どうやら屋根から飛び降りたらしい。
馬鹿だ。
声 「お、おい……ちょっと待たれよ……」
聞こえる声に、仕方なく振り返る。
悠介 「なんだよ」
彰利 「看板届けに行くなら俺も行くって……」
悠介 「そうか、そりゃ助かる……ってお前、それ何だよ」
彰利 「え?看板だけど」
悠介 「……なんでもうひとつあるんだ?って訊いてるんだけどな」
彰利 「だってほら、骨組みひとつ多かったじゃん。
だから持ち運びし易いように形作った。直すの大変だったけどさ」
悠介 「なるほど」
彰利 「じゃ、いこかぁ」
悠介 「ああ」
スタスタと石段を降りてゆく。
下に降りつくまで、妙なことを話す。
なにが先輩だ、とか飛び降りるなとか。
本当に、こいつの思考回路は読めない。
いわば『変』が蓄積され、
年中無休で変のホワイトホールが発生しているブラックホールのようだ。
悠介 「?」
で、だ。
下に辿り着いたとき、ひとつの疑問点に辿り着いた。
悠介 「彰利」
彰利 「んあ?どした?」
悠介 「お前さ───」
彰利 「んー」
悠介 「持ち運ぶためだけに骨組み完成させたのにさ、
どうして用紙まで貼り付けてあるんだ?」
彰利 「ん?いや、ただこうした方が用紙を持たなくていいんじゃないかって」
悠介 「………」
怪しい。
他の誰かなら『あっはっはぁ、なーんだ』って、
テレフォンショッピング形式に誤魔化せるかもしれんが、俺は違う。
甘くは無い。甘くはないぞ。
悠介 「じゃあさぁ」
彰利 「ま、まだ何か?」
悠介 「どうしてあからさまに、
その用紙の部分を俺が見えないように隠してるんだ?」
彰利 「んなこと言ったって、どう持つかなんて二分の一の確率じゃないか」
悠介 「………」
彰利 「………」
悠介 「見せろ」
彰利 「だめだ」
即答。
悠介 「肯定しやがったなこの野郎……」
彰利 「べ、別に何も描いてあったりしないって……」
悠介 「じゃあ見せてくれたっていいだろ」
彰利 「それは出来ない!」
悠介 「……思いっきり肯定しやがったな……」
彰利 「否定してるんだってば!」
悠介 「あーっ!雪子さんがメイド服着て歩いてるーっ!」
彰利 「な、なにぃいいいいいいいいいいいいいっ!!!???」
今ァッ!
彰利 「う、うわぁあああああああっ!!
ホントだぁああああああああっ!!」
悠介 「な、なにぃいっ!?」
雪子 「あら、どうしたのふたりで」
彰利 「───」
ドゥ。
悠介 「彰利っ!?」
彰利が鼻血出して気絶した。
……で、その手にあった看板には、
予想通り『ようこそメイド喫茶へ』と描いてあった。
ご丁寧に絵まで。
凝っとるのぅ……。
でも却下。
雪子 「どう?似合う?」
その場でくるりと回る雪子さん。
悠介 「………」
雪子 「や、やぁねぇ、そんな冷めた目で見ないでよ」
呆れてたンスヨ……。
悠介 「仮にも聖職者が何を考えてんですか……」
雪子 「仮じゃないってば」
自信満々な返答。
わぁ、すごいや。
俺が彼女だったらこうまで言えない。
悠介 「だったら控えてくださいよ、彰利が死ねるじゃないですか」
雪子 「あたしが悩殺したいのは悠ちゃんだけど」
悠介 「絶対に嫌です」
雪子 「も〜……あたしの何がいけないってのよ」
悠介 「童心があるところは好きですけど、
その無茶苦茶な思考回路はなんとかなりませんかね」
雪子 「やだ、悠ちゃんてば子供っぽいコが好きなのっ?」
なぜか微笑む雪子サン。
悠介 「そういう意味じゃなくて」
雪子 「悠おにいちゃん♪とか呼んだら喜ぶ?」
悠介 「殴ります」
雪子 「や、やぁね、冗談よ……チッ」
悠介 「聞こえてますよ」
もうイヤ……この人。
呆れさせるのが上手いところと、変なところは彰利そっくりだ……。
いや、彰利がこの人に似たんだろうなぁ。
……なんにせよ、迷惑な話だ。
雪子 「言ってみたかっただけよ。あたし一人っ子だったから」
悠介 「年下をおにいちゃんと呼ぶたわけた教師がどこにおりますか」
雪子 「ここに居るわよ?」
むん。と胸を張る目の前の聖職者サン。
悠介 「……はぁ……」
雪子 「あ、なぁによその深い溜め息!」
悠介 「んなこたどうだっていいんですよ。
なんでこの時間に教師であるあなたがここに居るんですか」
雪子 「創立記念日ー♪」
悠介 「うそつけっ!」
雪子 「嘘じゃないってば。ほら、あたし私服だし」
私服どころかメイド服である。
悠介 「サボったんだろ……」
雪子 「ホントに創立記念日だってば」
なんてことを言っている時だった。
視線の先の方から、ひとりの女生徒が歩いてきたのは。
女生徒「あ、先生ー、今日はどうして来なかったんですかー?」
雪子 「ぐあっ……!?」
悠介 「………」
女生徒「あ、もしかしてデートですか?」
雪子 「わーっ!きょ、今日創立記念日でしょ!」
女生徒「え?創立記念日ってまだまだ先じゃないですか」
雪子 「はうっ……!い、いいの!今日が創立記念日!OK!?」
女生徒「それじゃあ私、損しちゃったじゃないですかー」
あははと笑う女生徒。
俺は黙って、聖職者の肩に手を置いた。
悠介 「麻野雪子サン……?こりゃどういうことですか……?」
雪子 「……ど、どういうことだろ……」
女生徒「えーと、この服ってあなたの趣味ですか?」
メイド服を指差す女生徒。
女生徒「趣味が合いますね、
私もいつかは先生にこういう格好をさせたいと常々」
悠介 「……いや、暴走中悪いんだけど、これはこいつの趣味だ」
顔全体で幸せを表現している彰利を指差す。
女生徒「その、至福の表情で鼻血出しながら倒れている男の人ですか?」
悠介 「そう。その名を、弦月彰利という」
女生徒「変わった苗字ですね」
悠介 「まったくだ」
雪子 「ほ、ほら樋口サン!そろそろ帰りなさい!
ごご、ご両親が心配するわよっ」
女生徒「そうですね、ウチの親は過保護ですから」
悠介 「どうもありがとね。訊きたいこと聞けたから満足だよ。
気をつけて帰って」
女生徒「あ、はい。センセー、デート頑張ってくださいねー」
とたとたと走り去ってゆく女生徒。
悠介 「……立派な生徒をお持ちで……」
雪子 「言わないで……。時々あのコ、視線が怖いのよ……」
悠介 「俺としては、そんな格好でここをうろついてる雪子の方が怖いけど」
雪子 「あっ!雪子って言った!いま雪子って言った!」
悠介 「騒ぐな馬鹿っ!」
雪子 「なんだかんだ言って、骨の髄まで染みてるじゃない」
悠介 「………」
雪子 「赤くなるところも相変わらずみたいで、雪ちゃん感激ぃ」
ごどっ!
雪子 「いたっ!」
看板で殴った。
いい音が鳴った。
実に風流。
悠介 「いいからさっさと着替えろよまったく……」
雪子 「あの頃のように愛してくれたら考えてあげてもいいけど」
悠介 「うわぁあっ!誤解されるようなこと言うなよっ!
呼び捨てで呼ばないと口利いてあげないって、
パブロフ仕込みで俺を変えたのはお前だろうがぁっ!」
雪子 「そんな昔のことは忘れたわ」
あさっての方向を眺め、涼やかに言い放つ。
悠介 「な、名前だって雪子って呼べとか雪ちゃんて呼べとか……」
雪子 「そうそう、それまではよく彰利の部屋に来てたのにねー。
雪ちゃんて呼んで♪って言ったら『もういやだぁあっ!』て、
部屋から飛び出していって、それから近寄らなくなったのよね」
思い出せば出すほど、恥ずかしくなってくる。
俺は生涯、この人には勝てないと思う。
認めたくはないが、弱みを握られすぎてるんだ。
考えるだけで溜め息が出るよまったく……。
悠介 「雪子さん……頼むからもう変なこと考えないでくれよ……」
雪子 「いやー、悠ちゃん見てるとどうしても構いたくなるのよねー」
悠介 「なるなっ!」
彰利の面倒を見ていただけあって、本当に支離滅裂な人だ。
俺はそのまま逃走しようとしたけど、雪子さんは逃がしちゃくれなかった。
雪子 「そうそう、彰利から聞いたわよ?
相変わらず人を遠ざけてるんだって?」
この野郎……いらんこと話やがって……。
どうせ会話のネタが尽きたからって俺をダシ汁にしやがったんだ。
ダシ汁:ひとつ程度のネタじゃ飽き足らないので、
『ダシに使う』という言葉程度では語りきれない。の意。
悠介 「……必要ないから」
雪子 「本当に相変わらずね……。
そういう弱いところに母性本能擽られて惚れちゃったのよねぇ」
正面きってなんてことぬかすんだこの聖職者は。
そんな服着ながらじゃあ俺の人格が疑われる。
悠介 「警察呼ぶぞ……」
雪子 「あ、なんでよー。好いた惚れたは個人の勝手でしょー?」
その服装が危険だって言ってんです、解って聖職者……。
悠介 「……とにかく、あまりあの頃のことは言わないでくれよな……」
雪子 「そ、そんな……!あたし、悠ちゃんが初めての相手だったのに……っ!」
悠介 「うぎゃぁあああああああっ!!
だっ……だだだから誤解を招くようなことを言うなってばーっ!!」
さっきから通行人がこっちをちらほら見てるんだってば!
なんかボソボソ話してるしっ!
雪子 「あはははははっ!からかうと面白いところも相変わらずっ!
まったく面白いわぁ」
悠介 「……俺、ガッコ行ってきます」
話していると疲れる。
ホントもう、何があろうとガッコに行こう。
雪子 「じゃ、あたしも行く」
悠介 「憑いてこないでください」
雪子 「……なんか、『ついて』って部分に霊的なものを感じたんだけど」
悠介 「気のせいです」
憑依されている気分なのは否定しないが。
雪子 「ねー、また雪子って呼んでよー」
悠介 「子供じゃないんだから甘えないでください。
ていうか腕をからめるなっ!」
雪子さんが俺の腕に自分の腕をからめてくる。
そして、いやぁ大きくなったねーなどと言って微笑む。
雪子 「家族が居ないから誰かに甘えたいってくらい、いいんじゃない?」
悠介 「それ以外の何かを感じるんですよ」
雪子 「え?それってばあたしの愛?」
悠介 「帰れ」
雪子 「うあ、そんな冷めた声で言わないでよ」
ここらへんはホント彰利みたいだ。
露骨に愛を語るとことか。
しかしだ。
こんなところを誰かに見られたりしたら……ギャア!
若葉 「………」
木葉 「………」
悠介 「や、やはっ……ふたりとも……」
声が上ずった。
ふたりの肩越しから黒いオーラが滲み出ているような気さえする。
というか出てる。
それはやがて人の形をとり……ってギャア!
悠介 「……ルナさん」
ルナ 「……“異端の三日月鎌()”」
迷わず鎌を出現させる彼女に、
俺はなんと言えば五体満足で生還できるのでしょうか。
誰か、知っていたら教えてくれ。
あて先はこち
女人達『どういうことよこれはぁあああああああああっ!!!!』
全て語る前に、彼女達の咆哮が響き渡りました。
いやん、もしかして全部聞いてたりした?
いつもなら妹ふたりに『これっ!はしたない!』とか口調の注意をしているところだが、
さすがに今回は反論を許さぬオーラが溢れ出ている。
悠介 「盗み聞きは良くないぞ!」
ルナ 「黙りゃああっ!」
悠介 「りゃああ!?」
うわぁ、怒りで言語回路さえもがおかしくなってる。
嗚呼、死ねる。
死ねるな、こりゃぁ……。
穏やかな秋の午後、雪子さんのみが微笑む世界の中。
……俺は確かに死ねた……。
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