───祭厄───
外に出ると、彰利は真っ先に校舎裏へと足を運んだ。
そしてそこにおわすは雪子さん。
なにやらゴタガタゴシャガシャとやってる。
彰利 「今帰ったぞーぅ」
彰利が旦那様風に声をあげる。
ガコォッ!!
彰利 「ヘナップ!!」
その途端、木材が飛んできて彰利の頭にヒットした。
彰利 「フフフ、なかなかのコントロールだ……世界……狙えるぜ……」
ドサッ。
当たりどころが悪かったのか、彰利ともあろう者が一撃で沈む。
雪子 「ああ、悠ちゃんも来てたの」
悠介 「いえ、今から帰るところです」
雪子 「………」
わぁ、なんか睨まれてる。
悠介 「冗談です」
視線がキツかったのでそう言った。
するとあっさりと微笑む雪子さん。
水穂 「……こんな校舎裏に客なんて来るんですかね」
若葉 「確かにそれは問題点」
木葉 「どうする気ですか?」
丁寧語3人娘が口々に疑問を挙げる。
セレス「客なら呼び寄せればいいのではないでしょうか」
それに対して、丁寧語の長様が助言を挙げる。
ルナ 「誰が呼ぶの?」
その助言に対し、死神さんが疑問をぶつける。
セレス「看板か口コミで十分でしょう」
その疑問に対し……もういい。
悠介 「具体的にどんな店をやるつもりなのか教えてくれませんか?」
雪子 「え?あ、あたし?……えーと、メ、メイド」
悠介 「壊そう」
雪子 「あぁああっ!ちょっと待って!待ったぁっ!
せっかくここまで組み立てたのに何する気!?」
悠介 「『文化祭』の名において、破壊します」
雪子 「ダ、ダダダダメ!あたしの苦労が水の泡に!」
雪子さんが懸命に俺の行動を止めようとする。
…………おかしい。
雪子さんのこの行動は、ヤケに…………。
悠介 「雪子さん?まさか、メイド服着て接客したいなんて言わないよな?」
雪子 「はうっ……!」
俺の言葉に思いっきり視線を泳がせる目の前のオネーサン。
悠介 「水穂ちゃん、手榴弾の使い方を教えよう」
水穂 「あ、ハイ。手榴……しゅりゅぅううううっ!?」
悠介 「まずこの、ここにある安全ピンを」
水穂 「れ、冷静に説明しないでくださいぃ!」
悠介 「み、みみ水穂ちゃん!しゅ、手榴弾のつかっ!使い方を!」
水穂 「慌てて説明しないでくださいっ!」
悠介 「どうしろと」
水穂 「教えないでください……」
若葉 「ではおにいさま、わたしが。この若葉がやりましょう」
水穂 「名乗りを挙げないでください若葉さんっ!」
木葉 「木葉、参ります」
水穂 「参らないでくださいぃ!」
悠介 「むう、我侭な娘さんじゃて」
木葉 「水穂、最近付き合いが悪いんじゃないですか?」
若葉 「まったくです」
水穂 「無茶言わないでくださいよぉおおお……」
情けない声で泣く水穂ちゃん。
なんかからかいたくなるんだよな、この娘。
彰利 「きっと難しい年頃なのよ」
悠介 「出たなノスフェラトゥ」
彰利 「違うっちゃらぁぞ!?ぬしゃあ!なんば言いよっとや!?」
何語だ。
彰利 「じゃあ始めるか」
セレス「なにを?」
彰利 「この小屋もどきを完成させるのYO!これぞ漢意気!」
ルナ 「またメイド?」
彰利 「……他に何をすると?」
水穂 「待ってくださいよ。そもそも材料がないですよ?
どうやって経営するつもりですか?」
彰利 「大丈夫、我等には謎のホワイトホール男が居る」
悠介 「ホワイトホール男?誰だそれ」
彰利 「キミ」
悠介 「……俺?」
首を傾げた。
俺が何故ホワイトホー……って!
悠介 「おい!まさか俺に材料を創造しろって言うんじゃないだろうな!?」
彰利 「ザッツラァ〜イ♪」
ドスッ!
彰利 「ベムッ!」
悠介 「ちょっとは人の能力の限界ってものを考えろ馬鹿者!
なにを考えてるんだお前は!それでも友か!?友なのか!?」
彰利 「は、腹が軋む……ボディはヤバイってばさ……!」
悠介 「ヤバくない!当然の制裁だ!
おのれは!おのれは!おのれはぁあぁあああっ!」
水穂 「き、キャメルクラッチ!?見事な曲線が今ここに!」
ぼかっ!
水穂 「はうっ!」
若葉 「状況説明は必要ありません」
水穂 「なにも叩かなくても……」
若葉 「なぁに……?」
ギロリ。
水穂 「な、なんでもないですぅうう……」
彰利 「キャーッ!背骨がメキメキッて!軋む!痛い!折れる!?
イヤアア!!ブロッケンが!ブロッケンマンが手を振ってるーっ!
ブロッケンのオヤジが俺に微笑みかけてるーっ!!
なんかイヤ!なんかイヤ!!なんかイヤァアアアッ!!」
雪子 「馬鹿やってないで手伝ってほしいんだけど」
悠介 「いや、馬鹿なのはこいつだけだから気にしないで雪子さん」
雪子 「……それもそうね」
彰利 「ゲェーーーッ!!!あっさり頷かれちゃったよオイ!
雪子さん!?雪子さん!雪子さぁあああああん!!
ヘルプミー!バードンミー!ザ・バイソン右だ!」
ルナ 「えい」
ドス。
彰利 「うひゃぁっ!」
ゴキュ。
彰利 「ギャア!!」
ルナが彰利の脇腹を突ついた。
その瞬間彰利の体の力が抜け、見事に背骨がゴキュリと鳴った。
彰利 「アイヤーッ!痛い!これは痛い!」
彰利がブリッジ風味で痛がってる。
悠介 「見よ!この腹筋!」
彰利 「おだまり!」
今、彼は英雄だ。
悠介 「さてと、いい加減作業始めるか」
彰利を無視して、俺は小屋もどきへと歩み寄った。
彰利 「ええ!?俺このまま!?直してくれないの!?
ねえ!ダーリン!?ダァアアリィイイン!!」
その朝、彰利の悲痛の叫びが校舎裏に轟き、
学校の七不思議『朝に泣くホモの靈』として恐れられたとか。
……ウソだぞ。
ついに文化祭が本格的に始まった頃、小屋もどきも完成した。
結局なにをすべきかも解らないままに、だが。
悠介 「結局何をするんだ?」
彰利 「普通に喫茶店でいいんじゃないか?
そのヘンの用意は悠介に創造してもらうとして」
悠介 「あくまで俺かよこの野郎」
彰利 「まあまあまあ、疲れるだけなんだから、
最後に疲労回復のものでも創造して飲めばいいのよ」
悠介 「簡単に言ってくれるなよな、まったく……」
彰利 「じゃあ俺、宣伝してくるから。
みんな着替えといてくれ。そこに着替え置いてあるからさ」
そんなことを言い残し、彰利は走り去っていった。
悠介 「……なんか妙に手回しがいいというか……」
まあこんなこともあるか。
じゃあ着替えとやらを……
ルナ 「……悠介、着替えって……これ?」
ルナが綺麗に作られた服を見せる。
言わずと解る、メイド服である。
しかも男性用の服は無く、メイド服だけが『人数分』あった。
……着ろというのか、俺にも。
悠介 「あの馬鹿……」
頭が痛くなった。
なぁにが『普通に喫茶店でいいんじゃないか?』だよ。
というか、いつの間に人数分作ったんだあいつは……。
悠介 「あー……」
……学校のいたる所からは賑やかな声が響き、それはもう明るそうだった。
それなのに、この校舎裏はとてつもなく……その、暗かった……。
雪子 「さーぁみんなぁ!ちゃっちゃと着替えて頑張ろ」
ドス!
雪子 「うぐっ!」
騒ぐ彼女にモンゴリアン。(チョップ)
悠介 「着替えるかっ!頑張れるかっ!楽しめるかっ!」
雪子 「け……頚動脈への一撃は……危険なのよ……悠ちゃん……」
悠介 「知ってる。だからやった」
雪子 「うう……」
悠介 「とりあえず俺、彰利に話つけてくるよ。これ以外に無いのか、って」
若葉 「はい、いってらっしゃいませ」
悠介 「その妙に畏まるの、やめてくれないか……」
若葉 「面白いから嫌ですね」
悠介 「………」
小さな溜め息を吐いたあと、俺は校舎裏をあとにした。
で、だ。
校舎に裏があるのなら、それ以外は表という心理に基づき、
俺は校舎表に出る寸前のところで、ひとつの声を聞いた。
『ヘンな男がヘンな看板振りまわして、おいでませー!って叫んでるぞ!』
内容はそんな感じだ。
…………行くべきか?
間違い無く彰利だろうけどさぁ……。
とかなんとか考えていると、男の悲鳴が聞こえた。
聞き間違えるわけもなく、俺は溜め息を吐き散らしながら走った。
───……。
彰利 「アイヤーッ!?なにをなさるの!?俺の懇親の逸品に手を触れるなんて!」
案の定、彰利が他の生徒と先生やらともめている。
その手には『メイド喫茶』の看板。
また作ったのかあの馬鹿……。
しかもなにやら造形がバージョンアップしてる。
色鮮やかに飾られた……って、説明してる場合じゃない。
ここはとにかく止め……
悠介 「………」
……傍観してよう。
これ以上脱力したくないし、ヤツの力があればなんとかなるだろう。
彰利 「ぬおお!メイドラヴパワァアアアーーーッ!!!!」
彰利を止めに入る先生達をばったばったと薙ぎ倒し、彼は吼えた。
彰利 「悲願成就のためなら先生をも張り倒してくれる!
メイド万歳!万歳ーッ!ウオォーッ!!てんぎゃメン!てんぎゃメェーン!!」
その叫びはそれはそれは心のこもった雄叫びでしたとさ。
しかし彼は先生と生徒らに捕獲された。
かなりあっさり。
頑張って抵抗していたのだが、さすがに多勢に無勢だったようだ。
しかし。
しかしだ。
誰かの手が看板に近寄ると、彼はヘラクレスが如き力を発揮した。
何故か『アァイム・ザ・チャンピオォオオオオオン!』とか言ってたけど、
結局看板も奪われていた。
……で、トドメ。
彼の看板は終了のキャンプファイヤーを待たずして、燃やされた。
彰利 「や……やめろ!やめろぉおおお!!
なにすんだよ!看板に罪は無いだろ!?
俺が何したっていうんだよ!も、燃やすことないだろ!?
あ……くっ!!離せ!離せよ!離せ……離せぇえええええっ!!
うわぁあああああああああああああああああああああっ!!!!」
看板は彼の目の前で燃え尽きた。
彼はしばらく炭クズの前に跪き、言葉を無くしていた。
そんな彼にかける言葉もなく、俺はただその様子を見ていた……。
………………。
…………。
……。
彰利 「次の作戦だ」
しかし彼はめげなかった。
確かにあれくらいでヘコたれる男では無いとは思ってはいたが、
戻って来て早々、こんなことを言うとは思わなかった。
若葉 「次……って、このメイド服は?」
彰利 「使う……!意地でも使ってやる……!
目にモノ見せてやるぞあのハゲ……!!
同じハゲなら中学ン時の劉堂の方が面白かったわい……!!」
涙を拭う彰利サン。
ちなみに看板を燃やそうと言い出したのが、
俺達が停学を喰らうきっかけになった通称『ハゲ』の鶴本だ。
ボールをぶつけられたことを根にもっているのだろう。
水穂 「ハゲ……ああ……あの鶴本先生ですか……。
わたし一度、あの人に……」
彰利 「なにぃ!?な、なななにかされたのかい!?」
水穂 「ひぇっ!?あ、その……」
水穂ちゃんが顔を赤くして、彰利の耳に語りかけた。
彰利 「死なそう」
そして彼は思いっきりそう言った。
悠介 「穏やかじゃないな、何事?」
彰利 「キミには散々穏やかじゃないことを言われてると思うんだけど」
悠介 「お前なら許せる」
彰利 「だな。だが!あのハゲはなんと!水穂ちゃんのお尻を触」
水穂 「きゃああっ!!言っちゃダメですってばぁっ!」
ドム!
彰利 「ごほぅっ!……ご、ごめ……!!」
綺麗なボディブロゥが決まった。
彰利もかなり油断してたのか、ダメージはデカイようだ。
彰利 「はうう!痛い……!これは痛い……!」
体を捻り、唸っている。
彰利 「う、産まれるワ!悠介とアタシの子が」
ズパァーーン!!
彰利 「ブッファアッ!!」
限界を越えた速度で殴りました。
ええ、手加減など出来るか。
悠介 「おのれは!どうしてこんな時にまでそんな馬鹿を!」
彰利 「イヤアア!殴らないで!細かい笑いが欲しかったのよーっ!!」
ちなみに誰ひとりとして笑ってない。
若葉 「あぁ……あの変態教師なら、わたしもいやらしい目で見られました。
ず〜っと後をついてくるんですよ。
そして階段を上り始めると、すごい早さで……」
木葉 「わたしもそういう体験、あります」
春菜 「わたしの場合、正面きってスリーサイズ訊かれたけど。
あんまりにしつこいから、テープに録音してみたの。
で、今度近づいたら校長にこれを渡すって脅しつけたら、
これまたとんでもなく嬉しそうな顔するの。
女の人との面識が相当に乏しいみたいだよ」
悠介 「うお……彰利以上の変態か」
彰利 「………」
悠介 「悲しそうな目で見るな」
彰利 「いや……その、悠介の中の俺ってそんなに変態じみてたの……?」
悠介 「うむ」
彰利 「………」
悠介 「だから、そんな悲しい顔をするな」
彰利 「こうなったら、この怒りをハゲに……!」
彰利が再び頷いた。
彰利 「我が愛しのメイド様を燃やす奴ァ生かしておく価値も無い!」
悠介 「……文化祭は?」
彰利 「後回しッ!今日こそ奴に引導を手渡してくれる!」
手渡しなのか……。
セレス「……!」
なんてことをやっていると、
セレスが突然何かに反応したかのように霧になって消えた。
悠介 「セレス?……ルナ?」
気づけばルナの姿も見えなかった。
ルナ 「しーっ!しーっ!」
が、声は聞こえた。
全力で全ての波長を遮断して、消えているのかもしれない。
なんでだ?
彰利 「とにかく!我は鶴本教諭を死なすことに全力を」
及川 「なにを物騒なことを言ってるんだ?」
と、そこに担任であるオイカワが現れた。
……もしかして、オイカワが来たのを察知したからか?
相変わらず耳がいいなぁ、ふたりとも……。
彰利 「やあオイちゃん」
及川 「その略し方はやめろ」
及川秀一。
温厚かつ人当たりの良い性格。
生徒の話には真剣に耳を傾け、相談に乗ってくれる教師の鏡だ。
そしてなにより日本の文化が好き。
家を見に行ったことがあるが、正に『日本!』といった感じだった。
時折、神社を見に来る時もある。
そんな時は決まって、袴とかに見惚れている。
つまり日本系の彰利……なのか?
そこのところは怖くて、深く考えられないが。
及川 「簡単に人を死なすだなんて言っちゃだめだろう」
彰利 「そんなこと言ったってオイちゃん」
及川 「やめろというのに……」
なんて話をしていても、及川の顔は笑っていた。
彰利 「オイちゃん、なんとかヤツを懲らしめる方法は無いかな」
及川 「そうは言ってもなぁ……。
俺はあの人に新米教師として随分と可愛がってもらったからなぁ。
……痛い意味で」
ハゲはとことん人当たりがよろしく無いらしい。
及川 「鶴本体育教諭が恐ろしいのはバレンタインの時さ。
自分が貰えないと、人の靴に画鋲を入れるんだ」
春菜 「画鋲ねぇ……」
先輩がジロリと彰利を見る。
彰利 「あ、や……照れるな、そんな目で見つめられると……」
春菜 「か、勘違いしちゃダメだよ!!見つめたんじゃなくて睨んだの!」
彰利 「ほっほっほ、一丁前に照れてやがる」
春菜 「照れてないよ!!」
水穂 「及川先生はあの人に何かされなかったんですか?本当に嫌なこととか……」
及川 「……されたよ。俺の大事な日本刀に唾を吐いた。
『清めの酒だ!』なんて言ってね」
悠介 「うわぁ……」
及川 「彼は人を妬む気持ちが大きい。
だから人の宝のようなものを奪うのが好きなんだ」
彰利 「な、なにぃいい……!そんなことのために俺の看板が……!?」
悠介 「俺は康彦さんと奈津美さんに貰った御守りを取り上げられて、
しかもその場に叩きつけられて踏みつけられた。
今思えばあの時殴っておくんだった」
若葉 「……ごめんなさい、おにいさま」
悠介 「……なんでお前が謝るんだよ」
木葉 「わたし達が居たから、殴れなかったんですよね」
悠介 「………」
若葉 「『お前の兄は不良だ。お前もだろう』とか、そう言われないために……」
……若葉と木葉の言葉に、何も言わず頭を撫でてやった。
そして一言、ありがとうと言って腕を降ろした。
及川 「晦、お前のそういうところが俺は大好きだよ」
及川が微笑む。
彰利 「なにぃ!?俺の方がより深く悠介を愛」
悠介 「お前は喋るなぁっ!話がややこしくなるだろ……!」
彰利 「だ、だって……負けてられませぬよアタイ!」
なにに対して苛立っていたんだこいつは。
敵視する対象が変わってやしないか?
及川 「なんにせよ、日本の文化を汚した罪は重くあってほしい。
……ふむ……この服は?」
彰利 「お目が高い!これはメイド服と言いましてね?
俺の趣味の一環どころじゃ済ますことの出来ない逸品です。
どうですか?素晴らしい造形でしょう?」
お前はどっかのキャッチセールスか。
及川 「お前のその興味が少しでも日本文化に向いてくれればなぁ」
彰利 「大丈夫ですじゃ。流行は嫌いですから」
及川 「別にそういうことを言ってるんじゃないんだがな……」
少し困ったように笑う及川。
彰利 「ならばどういうことを言っているのかね!
私にも解るように平明に答えてもらいたいところだね!!」
及川 「お前に解るように……?すまん無理だ」
彰利 「うわヒッデェ!!」
あっさりと授業範疇から除外された彰利は相当なショックを受けた。
及川 「……それはそれとして話を戻すが、どうだろう。
死なすわけにはいかないから、どうせなら彼をもてなすのは」
彰利 「もてなす?……あいつをぉ!?」
悠介 「……!それはいいな、盛大にもてなすとしましょう」
彰利 「悠介まで……!ど、どうしたっていうんだみんなっ!
あの怒りを忘れてしまったのか!?」
悠介 「ドラマぶるのはもういいから」
彰利 「あ、バレた?」
ルナ 「ねえ悠介……」
ふと、今まで黙っていたルナが語りかけてきた。
ルナ 「このオイカワって人が居るってことは、わたしは出れないってこと?」
悠介 「なんで?」
その声に小声で返す。
ルナ 「だって、わたしとネッキー、ここの生徒じゃないもの」
あ、そうか。
なんか思考回路が麻痺してた。
そうだよな。
そういう問題もあったんだった。
どうしましょうか。
ふと、彰利を見てみる。
彰利は『心配しなさんな』という顔を見せてくれた。
彰利 「オイちゃん」
及川 「オイちゃんはやめてくれ」
彰利 「おい魚類」
及川 「魚類言うな!!」
彰利 「なんと!ならばどうしろというのかね!?」
及川 「頼むから先生と呼んでくれ……」
彰利 「教師ー」
及川 「いや、先生と……」
彰利 「教師」
及川 「………」
彰利 「………」
及川 「オイちゃんでいい……」
彰利 「ありがとうオイちゃん。
で、早速なんだけど、実は人手が足りなそうだから、
あらかじめ助っ人を頼んでおいたんザマス」
及川 「助っ人?ウチの生徒か?」
彰利 「いえ、知人でゴワス」
及川 「……真面目に話す気あるのかお前は」
彰利 「そりゃもう抜群に」
ウソだな。
思いっきり頷けるほどにウソだろう。
なにせ目が笑ってる。
からかう気なら抜群そうだが。
及川 「それで?その人達は来てるのか?」
おっと。
彰利が俺に合図を送った。
悠介 (ルナ、セレス、あっちの方まで行って、
名前呼ばれたらさりげなく出てきてくれ)
小声で話し掛ける。
姿が見えないから、あとはあっちに任せるしかないのだが。
彰利 「フフフ、もちろん来てますぞ。今はあっちの方で」
ぼかっ!
彰利 「あぁんっ♪」
奇妙な声を発する彰利の首根っこを固め、小声で話す。
悠介 (馬鹿……!ルナ達が居るのはあっちの方だ!)
彰利 (な、なんだって〜!?そ、そうなのか〜い!?)
悠介 (ええい!なにをマスオ風に喋っているかっ!いいから早く話を続けろ!)
彰利 (まーかせて)
おどけながら、及川現代国語教諭の前にズシャアと立ち塞がる彰利。
言いようの無い威圧感が醸し出されていた。
話をするだけなのにあんなに殺気出してどうすんだ。
彰利 「とりあえず、あちらにおられます。
さ、ルナさん、セレスさん、ご指名で」
ドカァッ!!
彰利 「げはぁっ!」
ズシャァア!
彰利 「い、いきなりなにをなさるの悠介サン!
背後からの飛び蹴りは紳士的じゃなくってよ悠介サン!
お蔭で地面を滑ってしまったじゃないの悠介サン!」
悠介 「連呼するなっ!何をぼったくりバー的な事をやってやがりますか!
お前、ちょっとこっち来い」
彰利 「え?な、なななに?え?」
悠介 「いいから、こっちへこい」
彰利 「そ、そんな、いきなりなんて。アタイまだハートの準備が」
なんて言ってられたのもその内だけだった。
後に校舎裏の影の方で、彼の絶叫が響き渡ることになる。
悠介 「紹介する。知人のルナ=フラットゼファーと、
セレスウィル=シュトゥルムハーツだ」
彰利がカタカタと震える中、ようやく自己紹介などが出来た。
悠介 「ふたりとも日本文化が好きで、今は晦家に住んでます」
若葉 「……おにいさま」
木葉 「お兄様……」
どうして『俺の家』と言わないのかと、彼女達の瞳が訴えかけている。
しょうがないじゃないか。
そんな目で見られたってさ、俺は養子だったんだから。
そりゃあふたりのことは大事な妹だって思ってるけど。
家が欲しくて晦の家で暮らしてきたわけじゃない。
だからドスッ!
悠介 「うごぉあっ!」
突然、何者かに地獄突きをされた。
彰利 「さささ、難しい顔してないで。とっとと始めますわよ」
痛む喉を押さえながら及川を見ると、
『おお、日本文化が好きかぁ!』と、歓喜乱舞している姿が見れた。
なんだか貴重だったさ。
……そんなこんなであれこれこうして、波瀾の文化祭は始まった。
水穂ちゃんが犠牲……も、もといっ!客引きになった。
メイド服を着用していたことは言うまでもない。
最後まで反対した俺に、
『あの、楽しくするためですから』と微笑んだ彼女は英雄であろう。
で、今現在は我が校が誇る風景写真部に囲まれて、写真を撮られまくってるわけだが。
そしてその周りには『焼き増しっていくら!?』とか言ってる奴らも居る。
それに景気良く応えて『ここに名前書いといて。あ、前払いね』とか言う写真部。
……廃部してしまえ、こんなクラブ。
そう思ったのは言うまでもない。
まあ、その甲斐あってか、客足は結構あるのは事実だけど……。
納得いかない部分が多々ある。
彰利 「ぬおお、夢のメイド喫茶が実現出来るたぁ……!
お、俺は……俺はぁああああああああああっ!!」
いいなぁ、幸せ者は。
こんな状況を喜べるなんて。
悠介 「なあ彰利……楽しいか?」
彰利 「楽しい楽しくないは関係無い。
ねこミミメイドが接客しているところを見れただけで俺は満足だ」
悠介 「満足ねぇ……」
彰利 「ん……なんだ、不満そうじゃん」
悠介 「はぁ……あのさぁ、ど〜して俺がここまで来て料理作らなきゃいけないんだ?
それもあんな下心みえみえのたわけ共の食事を。
俺の休憩時間内もお前が料理作るってだけで、俺は警備に回されるし。
大体なんだ?この催し物はハゲを懲らしめるためのものじゃなかったのか?」
彰利 「え?おもてなしするんじゃなかと?」
悠介 「あれはそういう意味の『おもてなし』じゃない。
もっと腹黒い方のおもてなしだ」
彰利 「……そ、そうだったの?」
悠介 「彰利……お前さ、妙なところで鋭くないよな……」
彰利 「まあまあ、こうして労働している限りはお客様は神様ですぞ?
もう少し温厚に平明に行きましょうや」
悠介 「平明さは関係無いぞ」
彰利 「……そうなの?まあいいや。温厚〜に、温厚〜にな。
そんな怒ってばっかじゃせっかくの文化祭がもったい」
声 「きゃぁっ!」
彰利の声を遮るように、悲鳴があがった。
あの声は……木葉!
すぐに厨房(名ばかりだが)から出て、テーブル側へ駆ける。
すると木葉が抱き着いてきた。
木葉 「お、お兄様……!あ、あの人が……」
木葉がひとりの男性客を指差す。
いかにも、といった感じの客だ。
男 「なんだよ、んなカッコしてんだし、いいじゃねぇのケツ触るくら」
彰利 「おんどりゃぁああああああ!!んなカッコとはなんだこの野郎!
……じゃなくて!木葉ちゃんになにさらすんじゃあああ!!」
彰利がチェーンソーを持って男に襲いかかった。
男 「うわぁああっ!!んだよこいつ!頭イカレてんじゃねぇのか!?」
悠介 「ば、馬鹿!そんなもん持ってどうする気だ!
お客様は神様じゃなかったのか!?」
彰利 「お〜ぉ神だとも!神ならチェーンソーで惨殺しても許されるんじゃい!」
悠介 「なんだそりゃ!お、おわぁああ!やめろって!本気で殺す気か!」
彰利 「キルユー!ヘルユー!アスタラビストゥァアアアアアアアア!!」
男 「お、おい!早くこいつ止めろよ!助けろよ!
冗談じゃねぇよ!たかが女ひとりのケツ触ったくらいで!」
…………ピクリ。
悠介 「…………たかが?」
男 「……へ……へ?」
俺の顔を見て、男が掠れた声をあげる。
悠介 「て、てめぇええ……!!俺の大事な妹を、『たかが』だとぉおおおっ!!?」
自分でも驚くくらい、俺は怒っていた。
男 「え?あ、あの……!?」
悠介 「彰利……遠慮はいらねぇ。死なすぞ」
彰利 「依存無し」
男 「ひっ……!」
彰利が斬りかかろうとした瞬間、男は慌てて逃げていった。
で、だ。
───再現VTR───
男は逃げ出した。
俺と彰利は男を追った。
男、叫びながら逃走。 彰利、まずはチェーンを思いっきり引き、モーターを回転させる。
チェーンソーがけたたましく回転する。
その音を聞き、男はよりスピードを上げた。
俺の理性が少し戻った時、彰利に『店から出れば客じゃないんじゃないか』と訊ねる。
しかし『金を払ってないヤツは払うまで客だ』と言い張る。
尚且つ『もっとも、出されても受け取る気は無いがねェ……クォックォックォッ』と笑う。
彰利は『その人食い逃げです!しかも痴漢です!捕まえてください!』と、
喉が崩壊せんほどの大声で叫んだ。
すると生徒だの教師だのが団結して男に襲いかかった。
途中、『文化祭で食い逃げと痴漢たぁいい度胸だ!』とか、
『弦月が追ってるってこたぁメイド喫茶だな!?
貴ッ様ァア!!なんて羨ま……ひでぇことを!』とか、皆様が口々に叫んでいた。
……結果、男は警察に届けられた。
ざまぁない。
───再現VTR終了───
もちろん、その後は怒られた。
しかし、及川は『気持ちは解る』と言って微笑み、必要以上に怒ろうとはしなかった。
問題点はやはりチェーンソーだったらしい。
そのことで彰利はたっぷりと叱られた。
それはそれとしてだ。
悠介 「……なぁ……いつまでこうやって営業するんだ……?
いい加減疲れたよ俺……。創造やら料理やら警備やら……」
はっきり言って俺は腐っていた。
こんな状況が続けば無理も無い。などと、気休めを脳裏に響かせてばかりいる。
お目当てのハゲは全然来ないしさぁ。
どうなってんのよまったくもう。
彰利 「なぁ悠介、レタスくれない?」
悠介 「……あのね、俺ゃ疲れてんの。
なにか食いたいなら適当に作って食えよ」
彰利 「今レタス作り始めたらいつ食えるんだよ。そんなに待ってられんよ」
悠介 「……お前の脳にはレタスとメイドとねこミミしか無いのかよ……」
思いっきり呆れた声が出た。
極自然にだ。
彰利 「ダーリンのことや雪子さんのことや椛や夜華さんのこと……
その他がもろもろにいろいろとござーますわよ?」
既に何を言ってるのか理解も出来ん。
誰だよ椛と夜華さんって。
悠介 「……寝ていいか?」
彰利 「そんな、アタイと寝たいだなんて」
ドスッ!
彰利 「ブボゥッ!」
相変わらずたわけた馬鹿者の脇腹に貫手()を進呈。
悠介 「あのなぁ……これ以上俺のアドレナリン分泌を手伝わないでくれ……」
彰利 「うわぁ、相当疲れてるねぇ。どうしてまた」
首を傾げる彰利。
俺は黙ってルナを指差した。
彰利 「……あー、なるほどぉ」
指の先に立つルナさんは、それはもう疲れてた。
今までは俺が疲れててもルナが元気だった時は気力を分けてもらってたわけだが。
こうなるともうお手上げだ。
疲れてるのは他のみんなも同じだが、セレスだけはピンピンしてる。
と思いきや、結構辛そうだ。
最近忘れてたけど、そういえばセレスって病弱だったんだよな。
……なんかチラチラと俺を見てるし。
厳密に言うと首筋を、だが。
……狙ってる……。
絶対狙ってるよ俺の血液……。
慌ててセレスから目を逸らし、他の皆様を見ていく。
みんなはかなり疲れている。
うん、一目で解る。
普通は交代制で休憩とったりするけど、ここには俺達しか居ないわけで。
彰利 「交代もなにもあったもんじゃにゃ〜ズラ」
悠介 「丁度俺もそう思ってたところだよ……」
俺と彰利はほぼ同時に溜め息を吐いた。
彰利 「しゃあない、ここはひとつ、休憩を入れよう」
悠介 「あのさ、彰利」
彰利 「うん?」
悠介 「これからは自由行動にしないか?」
軽く提案をしてみる。
いい加減疲れたということもあるけど。
彰利 「……そだな、そこまで縛り付ける権利は誰にも無いもんな」
珍しく、彰利と意見が一致した。
てっきり却下してくるかと思ったんだが。
彰利 「じゃあ俺、終了って看板出してくるよ」
悠介 「……あるのか?」
彰利 「お前が料理作ってる間にちょちょいっとな」
……バケモンですかアンタは。
彰利 「オラオラオラオラけぇれけぇれ!!
なにぃ!?写真!?だめだ!
なにぃ!?情が無いのかだとう!?貴様にかける情は無い!」
彰利が順番待ち(その大半はメイド目当て)を蹴散らしてゆく。
見てて清々しい。
看板を頭上で横転させつつ、その遠心力の勢いのままにドカァッ!と閉店。
彰利 「なに!?待ってた!?俺は待ってねぇ!
なに!?俺達だけでも入らせろ!?馬鹿野郎!閉店だっつの!」
彰利が絶叫たてて蹴散らす。
それを見て、先輩の独断と偏見と実力行使が誘発。
疲労とストレスと営業スマイルを振りかざし、彼女は暴れ回った。
さて、ここでひとつ言っておこう。
我等『月の家系』はその血に『魔』が宿っている。
確かに姿形にはなんの変化もない。
極々普通のヒューマンぞ。
だが……
春菜 「写真?撮らせないって言ってるんだよ」
彰利 「そうだそうだ帰れ!」
その特性は『能力』と『人並み外れた力と運動能力』にある。
『能力』は言うまでもないだろうが、
『力』についてはこれはもう本当に『腕力』や『運動能力』である。
俺が妹達や水穂ちゃんを軽々持ち運べた理由もここにあるわけだが……。
春菜 「あっ……!」
カシャリ、という音がした。
後ろの方から誰かがシャッターを押したのだろう。
彰利 「コラぬしゃあ!注意が聞こえなかったと!?
激しく殴るぞおんどりゃぁあああああっ!!」
逃げ出すキャメラメンを物凄い勢いで追ってゆく彰利。
そしてあっさりと追いついてから
彰利 「タックルは腰から下ァーッ!!」
男 「うわっ……!」
強烈なタックルをお見舞いした。
ズァアシャアと大地を滑る彼ら。
彰利 「ホホホ……!どう料理してくれようか……!」
彰利が形相で微笑む。
男 「ひえっ……!ネガごと返すから許して……!」
彰利 「だめだ」
男 「ええっ!?そんな!」
うわぁ、情が無ぇ。
彰利 「たとえ神が許してもこの俺が惨殺してでも覆してくれるほどに許さん」
もはや何を言いたいのかも解らないが、言ってる意味は解らんでもない。
悠介 「ルナ、若葉、木葉、先輩、セレス、ついでに雪子さん、今のうちに着替えて!」
雪子 「ついで?い、今……ついでって言った?」
悠介 「言ってない。いってないぞーぅ」
雪子 「言った!言ったわよ今!」
悠介 「さあルナ、さっさと着替えて店の冷やかしにでも行こうな〜」
ルナ 「そ、その前に少し休も……?人間の部分が疲れてる……」
悠介 「そっか、ハーフも結構大変なんだな」
ルナ 「え?やだなー、ハーフじゃなきゃこうして地に足をつけないんだから、
どんなに苦しくてもこれでいいのよ」
悠介 「そっか、それならいいけど」
雪子 「話を逸らさない!」
悠介 「逸らしてないぞーぅ」
雪子 「真面目に聞く気、ある?」
悠介 「無いと思う」
雪子 「………」
小さな溜め息を吐かれてしまった。
若葉 「さあおにいさま、一緒に見てまわりましょう」
ひと足先に着替えた若葉が俺の傍らに来る。
木葉もそれに続く。
悠介 「……いや……お前らさ、他に誰かと約束とか無いのか?」
若葉 「ええ。約束しませんでしたから」
うおう。
木葉 「さあ、今日は家族水入らずで楽しみましょう。
あ、今日はお兄様がおごってくださいね」
悠介 「こらこらこら、勝手に話を進めるな」
若葉 「嫌です。今日はわたし達に合わせてください」
……いつになく気迫があるな、今日は……。
彰利 「アタイも連れてって♪」
悠介 「地獄になら」
彰利 「勘弁してください」
というかさっきの男はどうしたんだ?
悠介 「なあ彰利」
彰利 「あそこでぐったりしてる奴がそうだ」
全てを言い終える前に、彰利が指差す。
そこには本当にぐったりした男がいた。
彰利 「くすぐりほど最高の拷問は無いとつくづく思う」
あ〜ぁ……だからぐったりしてるのね。
彰利 「それよりサァ!早いトコ行きましょうぜアニキ!
店が俺達を呼んで……いるのか!?」
悠介 「訊くなっての!」
若葉 「ダメです!おにいさまはわたしと!」
木葉 「わたし達、です」
若葉 「………」
木葉 「………」
なんかイヤな雰囲気になってきたなぁ。
増える前に逃げとくか。
彰利と女子衆が騒いでいる内に俺は逃走を図った。
見事、人ごみに紛れた俺の逃走は成功したと言えよう。
嗚呼、自由って素晴らしい。
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