───厄祭───
…………。
校舎裏から出てしばらく歩く。
と、そこには人だかりが出来ていた。
悠介 「……? なんかあったっけ」
気になってちょいと覗いてみた。
……ら。
水穂 「あ、あの、写真はやめてくださいぃいいっ!
ボボ、ボクはただの宣伝係で……」
…………ええ、なんか謝りたくなってしまいました。
ごめんよ水穂ちゃん。
今の今まで忘れてた。
悠介 「水穂ちゃんと俺以外の人間の足を痺れさせる霧が出ます」
人だかりに満遍無く霧を噴射してみました。
するとどうだろう。
まずは『うわっひゃぁーっ!』とかいう声と共に、目の前に居た男性が蟹股になった。
それを合図にしたかのように、足を押さえて屈む者や、苦笑いを浮かべて必死で立つ者。
挙句はなにやら叫びまくる輩も現れた。
その人々の足をコツンコツンと叩きながら水穂ちゃんに近づいた。
悠介 「水穂ちゃん!」
彰利 「ああっ!せ、先輩!」
ドゴォッ!!
彰利 「ゲネファーッ!」
彰利が地面を転がった。
悠介 「い、いつの間に入れ替わったんだお前は!」
彰利 「あうぅうん……ダ、ダーリンが殴った……。
どうでもいいけどダージリンとダーリンって似てるよね。
ぼかぁ、つくづくそう思うんギャアアア!!無視して行かないでーっ!」
悠介 「しまった見つかった!水穂ちゃん、走れ!」
水穂 「え?あ、はいっ」
彰利 「オホホホホ!このアタイから逃げられると思って!?
見よ!我が足の速さを!とくと思い知れ!」
彰利が立ちあがり、そして走った。
が、滑って見事に転ぶ。
なんて筋肉メンチックな奴なんだ。
彰利 「ゲゲェエエエーーーーッ!!!足が痺れてる!?なんで!?」
どうやら空気中に漂っていた霧を吸ったようだ。
ていうかゲゲェーッ!て言うほどのことか?
ま、とりあえずドスゥと。
彰利 「ギャアァーッ!!さ、触っ……!!触るぁああっ!!」
るぁあってなんだ。
悠介 「まあ、なんだ?ここはもう大丈夫そうだから、
店に戻って着替えてきな水穂ちゃん」
思い立った考えを述べる。
その言葉に頷き、水穂ちゃんは駆けていった。
彰利 「ば、馬鹿な……!この俺様が獲物を逃がすだとぅ……!?」
悠介 「別に獲物にしてたわけじゃないだろう?」
彰利 「うーん、やっぱり長い付き合いだと違うねぇ」
悠介 「いいことばっかりじゃないけどな」
彰利 「そらそうだわ」
笑いながら、しかめっ面をする彰利。
ドス。
彰利 「ギャアァーッ!すはっ……!あ、足に触っ……!」
ドスドス。
彰利 「ウギャアーッ!!触るなって言っておるのに……!」
悠介 「電動マッサージ機が出ます」
彰利 「!?」
彰利の顔面が蒼白になってゆく。
彰利 「ゆ、悠介さん?悪い冗談はよそうよ……ね?
ははは、話し合えば解るからさ……ね?」
カチッ。
ドルルルルルル……。
彰利 「いや待て!待って!シャレにならないよそれ!
足が痺れてる人に電動マッサージは」
ヒタッ。
彰利 「おぎゃあああああああああああああああああああっ!!!!
あっ……あぎゃあああっ!うひゃぁあああはあぁあああっ!!!!」
彰利がドタバタと暴れ回り、手のみで地面を掻き毟るように逃げる。
しかし、俺もそれに合わせて間合いを詰めてゆく。
雪子 「……なにやってんの、悠ちゃん」
そんな所へ雪子さんがやってきた。
彰利 「ああ雪子さんヘルプユー!」
雪子 「あたしを助けてどうすんのさ」
正論だ。
悠介 「彰利の奴がさ、足を痛めちゃってね。
で、マッサージ機を出してくれって言うから出したら、くすぐったいって。
だからこうしてやってるんだけどさ」
彰利 「うーわー!すげェ嘘八百!」
雪子 「そうなんだ、じゃああたしにもやらせて」
彰利 「……雪子さん?今の話をどう聞いてくれましたか?」
雪子 「足痛いんでしょ?あたしがやったげるわよ、保護者として」
彰利 「嘘だーっ!その目は面白いものに首を突っ込む暇人の目だーっ!!」
雪子 「てい」
ヒタッ。
彰利 「アァアアアアアアイヤァアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
その瞬間、彼は中国人になった。
まあこれはこれで万事解決。
さてと、どっかで食事でもとりますかなぁ。
俺はとりあえず、彰利の絶叫がこだまするその場から立ち去った。
………………。
…………。
……。
校舎の中を歩く。
腹を満たす場所を探しているわけなのだが……えーと?どこで食すかな。
声 「おうおうおうおう!?なんじゃぁこの店ぁ!あぁん!?
この店でぁ客に『おしぼり』だと言ってタオルケットプレゼントすんのか!?」
…………どうしてこう、行く先々でトラブルがあるんだ?
ていうか、この店でぁ、ってなんだよ。
店ぁ!って……訳解らん。
まあとりあえずだ。
彰利 「なんじゃこらこのわらしゃあ!やんのかコラァ!」
ドスッ!
彰利 「ギャア!」
悠介 「すんません、すぐ退散しますんで」
騒いでた彰利の頚動脈を懇親の雷撃混じりの手刀で黙らせて襟首掴んで引きずり、
廊下の先の方にあった『今にも廃棄処分されそうなロッカー』の中に積め込んだ。
これでよし。
というか足痺れてたんじゃなかったのか?
なんて思ってる内に廃棄物処理所の方々がロッカーを運んでいった。
これで良かったんだよ、きっと……。
悠介 「そんなことより飯だ飯」
さっきの場所ではもう食えないだろうなぁ……。
まったく、なんてことをしてくれたんだ。
……こうなったらアレだな。
基本に忠実にたこ焼きでも食すか。
校舎から出て、とりあえずはたこ焼き屋を目指した。
悠介 「こういうところのたこ焼きってあまり、なんというか……なぁ?」
苦笑しながら屋台を見つけて歩み寄る。
悠介 「たこ焼き、1個ね」
はぁ、なんだかんだ言っても空腹には勝てぬものよの。
声 「おうおうおうおう!?なんじゃあぬしゃあ!
このたこ焼きタコが入っちょられらるぁああああああっ!?
どうしてくれんのじゃぁ!おう!?ねえちゃんよう!」
………………はぁ。
彰利 「焼き加減も甘いっちゃあ!そぎゃんこってなして金ば取っとや!?」
悠介 「狼髏館() 回頭閃骨殺()!!!」
メゴキャッ!
彰利 「ニーチェ!」
悠介 「……すんません、退散します」
騒いでた彰利の首を360度回転させる勢いで捻って黙らせ襟首掴んで引きずる。
……後、簀巻きにして体育用具室に捨てたのちに鍵を閉めた。
鍵ごとき、簡単に創造できる。
悠介 「はぁ……」
溜め息を吐きながら、その場を後にした。
………………。
…………。
……お好み焼き。
彰利 「おうおうおうおう!?なんじゃこらぬしゃぁっ!
ここのお好み焼きにゃあヤキソバも入ってゲブボッ!」
……クレープ(抵抗はあったが)。
彰利 「おうおうおうおう!?なんじゃこらぬしゃ……あぁああああああっ!!?」
……カフェ。
彰利 「おうおギャアア!!」
飲食せし場所、その全てが彰利によって邪魔された。
何をしたいんだこいつは……。
彰利 「なにもさ、椅子振り下ろすことはなかったんじゃないか?クレープ屋の時」
悠介 「お黙りやがれこの野郎。人様に迷惑かけるなって言いたいんだよ俺は」
彰利 「えー?だってさ?刺激的な方がさ?店としてさ?評判がさ?上がるってさ?」
悠介 「何度も疑問系で言うな!」
彰利 「ようは暇だったんだ」
ドムッ!
彰利 「ギャア!」
最後にもう一度ボディブローをして、俺はその場をあとにした。
彰利 「イヤア待ってーっ!」
悠介 「あとにさせろこの野郎」
彰利 「なんのこと?」
悠介 「……知らん」
彰利 「そっれよっかさーっ♪アタイと一緒に見て回らなぁい?
めくるめく愛のイベントがてんこもイヤアアアア!無視しないでってばぁ!」
悠介 「ん?あ、なんだ、居たの」
彰利 「今まで話してたじゃないの!白々しくてよ悠介サン!」
悠介 「はいはいはい、どうしてほしいんだよお前は」
彰利 「おごって♪」
……はぁ。
何度目だっけ?溜め息……。
悠介 「どっかにレタスなんて売ってたっけ?」
彰利 「……えーと……さ、悠介?
………………もしかして、さ。お前の中の俺って、レタスしか食わないの?」
悠介 「……違うのか?」
彰利 「ちっがぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁう!!!!」
彰利が吼える。
彰利 「お、俺だってなぁ!俺だって屋台に行ってヤキソバとか食うわい!
タコの入ってないたこ焼きだってお好み焼きだってクレープだって!
レ、レタスなんてなぁ!レタスなんて……!!どうして無いのよ畜生!!」
俺に言われてもなぁ。
悠介 「わぁったわぁった。とりあえずそこの3年の店で何か食うか」
彰利 「おごり?」
悠介 「……わかったよ、おごればいいんだろ?」
彰利 「キャアア!ナイスよ悠ちゃん!もうラブリィイイ!!」
悠介 「うわっ!飛びついてくるな!」
彰利 「ぐ、ぬぬぬ……!どうして抱擁させてくれないのぉおおん……!」
のぉおおんじゃないっての……!
悠介 「いーから……!さっさと店に入れよ……!」
彰利 「……ラ・ジャー」
彰利は少し考えたのち、腹が鳴ったので店に入っていった。
店って言っても教室だけどさ。
女 「いらっしゃいませ」
和服姿の女生徒がペコリとお辞儀。
彰利 「……うむ」
遠い目で頷く彰利。
またヘンなこと考えてるんだろうなぁ。
彰利 「和服もいいなぁ」
やっぱり。
彰利 「入るまで気付かんかったけど、ここって甘味処なんだな。
主はあれですか?おしるこですか?」
悠介 「知るか」
女生徒「失礼します、お茶です」
女生徒がお茶を持ってきてくれる。
それをじっと見つめ、そして
彰利 「天然不純物100%カルキ絞りの茶と見た」
ゴパァン!!
彰利 「うっはァッ!!」
ゴトリ。
全力で彰利を黙らせ、とりあえずは事無きを得た。
悠介 「あ、おしるこをふたつ、お願いします」
苦笑いをしつつ、やはりとりあえず注文をする。
彰利 「待ったァー!オイラは白玉ぜんざいがイイ!!」
女生徒「あ……すいません、献立に無いものはちょっと……」
彰利 「なして!?白玉ぜんざいったら甘味処の王ザマショウ!?そんなの」
ガスッ!
彰利 「あだぁっ!」
悠介 「すいません……こいつには……あんみつお願いします……」
女生徒「は、はぁ……」
どうしてこうまで疲れなきゃならないのだ……。
彰利 「なにすんだよ悠介ぇ……。弁慶の泣き所をトーキックなんてあんまりよ?」
悠介 「お前が無理難題を頼むからだろうが……。頼むから静かに食ってくれよ……」
彰利 「むう……愛する悠介の頼みじゃ仕方あるめぇ……」
彰利はそう言って、ようやく静かになってくれた。
…………。
……。
そわそわ……。
彰利 「………うー」
そわそわそわ……。
彰利 「…………うー」
そわそわそわそわ……
彰利 「………………うー」
ごしゃっ。
彰利 「ギャア!」
悠介 「静かにしろというのに……!」
彰利 「だってサ悠介!こんな風に何もせずにいたら腐っちまうだよ!
そりゃ手持ち無沙汰でそわそわしたりもしますわよ!?」
悠介 「いーから静かにしろって!
作った場所とはいえ日本風な所で騒ぐ輩は俺の敵だ!」
彰利 「愛ゆえに」
静かになった。
…………。
……。
女生徒「お待たせしました、おしることあんみつです」
彰利 「……や、これはどうも」
彰利があんみつを受け取りながら会釈する。
女生徒「それでは、ごゆるりとどうぞ……」
女生徒さんもお辞儀をして、しずしずと去ってゆく。
彰利 「……凝ってるな……」
彰利がポカンとした表情のまま女生徒を目で追う。
彰利 「いやしかし、これぞ日本の真の姿か。こうでなければ日本とはいえまい」
悠介 「だな。やはり日本人はこうじゃないとな」
彰利 「顔黒人(なんぞはもってのほかぞ。インドにでも行きなさい」
悠介 「それは言いすぎだと思うが」
彰利 「いやいやいや、悠介殿?
日本の誇りである姿を偽ってまでチャラチャラとしている輩なんぞ、
日本に必要ですかな?わしはそうは思わん。日本はやはり、こうあるべきだ」
遠い目をしながら、何故か老武士が如く喋る彰利。
気持ちは……そうだな、よく解る。
彰利 「……ここ、気に入った」
至福の表情で店内を見回している。
と、その時だった。
彰利 「こ、このたわけモーン!!」
突如、彰利が叫んだ。
すぐ止めようと思ったが、俺もそれを見てしまったので何も言えなかった。
視線に映るは、ガングローリィな店員さん。
こうして彰利の説教は始まった。
3年の生徒達も彼女に対して不満を持っていたのか、止めようとはしなかった。
彰利 「このたわけ!日本の店にどうしてインド人が居るのだたわけ!
貴様は日本人であろうがこのたわけ!
その誇りを忘れて店の名を汚しおってこのたわけ!」
女生徒「っさいなー、い〜じゃんべぇつにぃ〜」
彰利 「黙れたわけ!アクセント狂った言葉を出すなたわけ!」
どうでもいいけどどうしてそこまで『たわけ』と言いますか。
彰利 「貴様など勘当じゃたわけ!出てゆけたわけ!もう顔など見たくないわたわけ!」
なんにしても止めた方がよさそうだ。
悠介 「あの顔黒人の化粧と黒みのみを吸い尽くすブラックホールが出ます」
イメージを弾かせ、その全てを吸いこむ。
悠介 「ほい終了、と」
彰利 「大体……───許す」
ポムと肩に手を置いて彼は微笑んだ。
が。
女生徒「な、なんなワケぇ?こいつ〜」
彰利 「!!」
女生徒サンが喋り始めた所為で全ては台無しになった。
彰利 「こ、このたわけ!安心したと思ったらこれじゃ!このたわけ!
アクセントをしっかりつけるのだたわけ!」
悠介 「………」
もういいや、無視して行こう……。
悠介 「おあいそ、お願いします……」
溜め息は止まらなかった。
女生徒「えっとさ、キミ、あの男の子と友達なの?」
悠介 「え?あ、そうだけど」
女生徒「いい友達持ったわね。聞いててスッキリするわ。
あの娘さ、いっつもあんな調子で苦手だったの。
甘味処をするって言ってもあのままで来るし……困ってたのよね」
でもどうして急に化粧とか取れたんだろ、と。
目の前の3年生は首を傾げていた。
それに対し、俺は苦笑するしかなかった。
女生徒「あ、あの男の子、ほっといていいの?」
悠介 「気づけば光よりも速く追いつくから大丈夫」
何度目かの溜め息を吐き、俺は甘味処を出た。
さてと、何処に行くかな……。
───……。
声 『迷子のお知らせを致します』
悠介 「うん?」
突如、校舎全域にスピーカーからの声が響く。
迷子って……デパートとかじゃないんだから……。
声 『晦神社からお越しの晦悠介様、晦悠介様。
放送室にて、愛人の弦月彰利様がお待ちです。至急』
悠介 「あの馬鹿あぁああああああああああああああっ!!!!」
かつて無い早さで、俺は大地を蹴った。
放送室のドアをドバァアン!と開ける。
彰利 「あ、いうす」
ドグシャア!!
彰利 「あごがっ!」
目に映った友人の顔に飛び蹴りをぶちかまし、ぐったりとした彼を引きずり退散。
悠介 「来いっ!」
彰利 「キャアアアアアア許して!だってしょうがないじゃない!
気づいたら悠介居ないんですもの!不安だったんですもの!」
悠介 「だからってなぁ!迷子だの愛人だのってどういうつもりだこの馬鹿!!
お前は俺に喧嘩売ってるのか!?売ってるんだな!?売ってるんだろう!!」
彰利 「や、やだなぁ、ダーリンたら。かぁるいジョーク♪」
悠介 「キャベツが出ます」
彰利 「!?」
彰利の体が跳ねる。
悠介 「罰だ」
彰利 「ゆ、ゆゆゆいういう……悠介!?それは見合わない!やめろ!やめて!や」
ガボッ。
彰利 「───!!」
その時、彰利の例えようの無い絶叫が文化祭の喧噪をかき消した。
彰利は膝から崩れ落ちるなんてことにはならず、ストレートにゴトォンと倒れた。
そして何の反応も示さずにぐったりとしている。
戦いは終わったのだ。
悠介 「お前は強かったよ。だが……間違った強さだった」
俺もさっさと退散しよう。
そう思い、駆け出したその時。
若葉 「見つけましたーっ!」
我が妹の声が聞こえましたとさ。
若葉 「こちら若葉!木葉、おにいさまを2階階段前で発見!」
悠介 「こらこらっ!怪しい通信をしない!」
若葉 「怪しくないです。ただの連結魂ですから」
悠介 「十分怪しいって」
若葉 「そうでしょうか」
悠介 「そうなんです!」
若葉 「まあそんなものは置いておきまして」
悠介 「置くな!」
若葉 「木葉が来たら一緒にいろいろ冷やかしましょう」
悠介 「あのさ、若葉?俺の話、聞いてる?」
若葉 「あ、おにいさまは食事をとりましたか?」
悠介 「聞いてないね……」
キュキキィイイッ!
悠介 「?」
何かが急ブレーキをかけたような音を聞き、目を傾ける。
と……
木葉 「晦木葉ァ!見ッ!参ッ!!」
木葉が妙な体勢でポーズをキメていた。
お祭り騒ぎで浮かれているのか、元々こうだったのか。
あぁ……頭痛い。
若葉 「おにいさまのお気持ちも解らないでもないですけど。
せっかくのお祭り騒ぎなんですから、細かいことは忘れましょう」
にこやかな顔で頷かれた。
俺に選択権は無いのですか?
木葉 「さあお兄様、さっそく参りましょう」
悠介 「こらっ……子供じゃないんだから腕を組むなっ……」
木葉 「子供でいいです」
しれっと返答される。
若葉 「細かいことは気にしないと言ったばかりですよ?おにいさま」
悠介 「こ、こらっ……若葉も……!」
若葉 「子供でいいです」
悠介 「………」
若葉にもあっさりと答えられてしまった。
…………まあ、そうだよな。
楽しもうって言ったのは俺だしな。
悠介 「……よし、まずは何処に行くんだ?」
若葉 「え?」
悠介 「え?じゃなくて。どこに行くんだ、と言ってるんだ」
若葉 「それでは……まずはわたしのクラスに行きましょう」
微笑みながら、若葉と木葉は俺の腕を引いた。
悠介 「どわっ……!同時に引くな!コケるだろうが!」
若葉 「時間は待ってはくれないのです!」
木葉 「コケてでも急ぎます!」
悠介 「なにぃ!?ちょ、ちょっと落ちつけお前らっ!」
俺の言葉は聞こえないかのように腕を引っ張り、修羅が如き勢いで駆け巡る妹達。
俺はというと……途中で走ってた記憶は無くなってる。
どちらかというと引きずられていたという気もしないでもない。
というか今の状況を見れば、走るだの歩くだのの記憶なんぞは無用の長物だろう。
悠介 「おぉあぁああああああああっ!!」
ふたりが走る。
俺の腕をしっかりと掴みながら。
俺は半ば宙に浮きつつも、腕を放してくれない妹達に恐怖した。
飛んでる……俺いま、飛んでるよ……!
なんて思ってみても、これはジェットコースターより性質が悪い。
低空の地面すれすれをゆくのは本当に怖いということが、よぉおおおっく解った。
一族伝統の腕力(筋肉とかは不用らしい)を駆使して俺を離さぬふたりに涙する。
たすけてー!誰か俺を助けてー!!
悠介 「ふ、ふたりともっ!いい加減離せ!はな……ぁあああああっ!!」
前方に人影が現れた。
彰利 「彰利ちゃん、ふっかーつ!」
ビシィッ!とキメポーズを取る彰利。
そしてそんなことはお構い無しで走るふたり。
悠介 「あ、彰利っ!どけぇえええええええええっ!!」
彰利 「え?なに?」
ドゴォッ!!
彰利 「グヘェエアァァーーーーッ!!?」
彰利の脇腹に俺の頭がヒットし、毎日丹念に掃除された廊下を転がり滑ってゆく。
その威力たるや、ロングホーントレイン級であろう。
かくいう俺はマッスルインフェルノ級のダメージを頭に食らい、苦しんでいた。
悠介 「と、止まれこら……!!死ねる……!」
若葉 「はい?なんですか?」
ようやく止まるふたり。
だがしかし、その急ブレーキに反動がつき、俺はやはり空を飛んだ。
若葉 「あ」
木葉 「ああっ!」
若葉と木葉のシェークハンド(いや、違うが)からも解き放たれ、俺は飛んだのだ。
……先の方に転がっている彰利に向かって。
彰利 「あてててて……な、なんなのさ、いった……いぃいいいいいっ!!?」
飛翔してくる俺に気づき、慌てて身を翻す彰利。
だが、間に合うはずも無かった。
彰利 「ゲェエーッ!なんて滞空時間だーっ!!」
ガッ!ガシィッ!!
彰利 「ややっ!?」
悠介 「ウォール・ワーク・タワーブリィイイイッジ!!!!」
仕方なしに……というよりはヤケクソになって、
彰利の背に頭が当たった刹那に彰利の首と太股を掴んで叫ぶ!!
ドグシャァ!!
彰利 「ギャアアァーーーッ!!!!」
止まることを知らぬ勢いは俺と彰利を飛ばしたままに廊下の壁へと誘った。
彰利 「……グヘッ!」
ドサァ。
数秒遅れて、彰利が廊下に倒れた。
ちなみに俺は首を痛めた。
思いっきりだ。
ルナ 「やー、どうだった?低空飛行」
そんな時、鞭打ち気味になっていた俺に、楽しげに話し掛ける影ひとつ。
ようするにアレか?
ルナが俺の体を抱えてたってわけですか?
というとさっきのタワーブリッジへの滑走もそうですか?
……滑ってないけどさ。
どうりで滞空時間が異様に長かったわけだ。
悠介 「あ、あ、あのなぁ……」
心臓がばっくんばっくん鳴ってる。
こういうのは勘弁だ。
恐怖とかよりも、なんていうか……なぁ。
いや、それよりも例によって彰利が痙攣しとる。
彰利 「がぼっがぼっ……」
悠介 「起きろ彰利!スモーキーの真似してる場合かっ!」
彰利 「うう、あと5分」
ドムス!!
彰利 「ホゲェッホ!!?」
布団で粘る学生のようにたわけたことを言った彼の脇腹に正拳打ち下ろしをプレゼント。
彼は陸に上げられた魚のように暴れてみせた。
悠介 「それだけ余裕があるなら大丈夫だな?」
彰利 「イ、イエッサ」
よろよろと立ち上がり、とにかく脇腹を押さえる彰利。
かなり痛かったらしい。
彰利 「フ……いいキックだったぜ?」
なにやら訳のわからんことをぬかしている。
悠介 「正拳打ち下ろしだ」
彰利 「気にするな」
パタパタと服についた埃を叩き、彼は歯をギシャアと輝かせて笑った。
彰利 「ゲイ脳人は歯が命」
悠介 「帰れ!」
彰利 「冗談冗談」
ピンピンしてる。
やはりノスフェラトゥだな。
彰利 「そんでさ、若葉ちゃんに木葉ちゃんは何処行くの?」
若葉 「……まずはクレープ屋さんに行くつもりです」
悠介 「食い物関係は危険だ」
若葉 「どうしてですか?」
悠介 「そこの馬鹿が大暴れした所為で、睨まれると思う」
若葉 「………」
彰利を示した途端、若葉から言いようの無い威圧感が溢れ出す。
し、死ねる!
彰利 「落ち着いてくれ若葉ちゃん。決してわざとじゃないんだ」
悠介 「うそつけ」
彰利 「うわ、即答」
悠介 「まあこいつが行くわけじゃないんだし、多分大丈夫だろ」
彰利 「え?」
悠介 「ん?」
彰利 「俺、一緒に行っちゃだめ……なの?」
悠介 「お前とはもう十分に駆け巡っただろう」
彰利 「なにぃ!足りぬ!」
悠介 「俺はもう十分すぎる。雪子さんと一緒に回ったらどうだ?」
彰利 「うおうそうか!ヒャッホウ!雪子さぁああああああああん!!!」
言葉を撒き散らしながら駆けてゆくホモさん。
……異様だ。
ルナ 「……元気ね」
まったくだ。
悠介 「はぁ、まあとりあえず騒がしいのが居なくなったわけだ。
のんびりゆっくりと見て周ろうじゃないの」
若葉 「駄目です」
俺の希望はものの見事に粉砕された。
悠介 「な、なんで?いいじゃないかのんびり見るのって」
若葉 「そうしたいところですが、あまり時間もありませんので」
悠介 「時間?」
木葉 「わたし達は交代制でしか動けませんので」
悠介 「あ、そういうことか」
若葉 「そういうわけです!行きますよ!」
悠介 「よし来た!」
やはりたまにはいいかもしれない。
こうして妹達とはしゃぐのも。
……まあ、そんなわけで。
それから交代の時間まで、俺と若葉と木葉は至るところを駆け巡った。
それはもう、嵐のような怒涛だった。
おかげでもう息絶え絶えである。
ルナ 「あ、おかえり〜」
ようやく開放されて戻って来た俺に、ルナが手を振る。
悠介 「あのなぁ……仕方なかったんだぞ?」
ルナ 「それでもイヤなものはイヤなの」
ぷぅ、と頬を膨らませてそっぽ向くルナ。
俺が自分以外の女と一緒に居るのが嫌らしいが……。
悠介 「だからってさ、体力の注入を止めることないじゃないか……」
ルナ 「悠介の嫌がることはしないつもりだけど、これだけは許してあげない」
悠介 「うう……」
ルナ 「じゃ、今度はわたしと行コ」
ぐいっと腕を引っ張られた。
その前にこのぐったりした体をなんとかしてほしい。
エリクサーは副作用があるから勘弁だ。
ルナ 「行こー!」
ふわりと体が宙に浮く。
悠介 「うわわぁあっ!飛ぶなっていってるだろぉぉっ!?」
ルナ 「あ、そうだったそうだった」
あははーと、のん気に笑ってくれやがります目の前の死神さん。
ルナ 「じゃあ行くよーっ」
じゃりっ、とスプリンターばりに屈みこむルナ。
悠介 「あ、あの……ルナさん?」
ルナ 「ゴー!」
悠介 「おあっ───」
風が吹いていた。
いや、実際には風など吹いてなかった。
空気抵抗というものだろう。
それが突風……いや、それ以上の勢いで体を打つ。
時折飛んで来る枯れ葉が頬に触れた瞬間、俺の頬の皮は切れていた。
悠介 「ほぎゃあああああああああああっ!!!!!!!」
そう、それは絶叫マシーンよりも遥かに恐ろしいものだった。
ルナは興味を引かれるモノを見つける度に、
急ブレーキ(というか完全にピッタリと止まる)をかけ、俺の体を痛めつけた。
掴まれてるのは手首だ。
止まられる度にその勢いが俺を襲い、手首にもの凄い負担がかかる。
その速さたるや、もしも手を離されたら何処までも飛んでいけそうな幻想を思うほど。
その時点で死ねることを告発したい。
いや、させてくれ。
ルナ 「悠介、次行コ、次っ!」
悠介 「ま、待てっ!ひとまず落ち着け!落ちぉおおおおおおおおっ!!」
彼女の走りは正確だった。
どんなに速くても己自身がどこかにぶつかることなど全然無い。
しかしだ。
それはあくまで、彼女のことだ。
引っ張られ、宙に浮き、遠心力というものが存在する世界に居る俺にとって、
彼女の速さと力強さ、そして自由奔放な思考回路と傍若無人っぷりには泣けてくる。
悠介 「うわっうわっ、曲がれ!曲がれぇ!曲がぁあああああああっ!!」
どかぁっ!
悠介 「ぐっはぁっ!!」
どどどどどど……!
悠介 「止まれ!止まってくれ!ルナ!ルナァアアッ!!」
がしゃん!どがしゃああん!!
悠介 「ぎゃああああああっ!!」
死ぬ!死ねる!
悠介 「だ、誰か助けてぇえええええっ!!」
どごっ!
悠介 「はうっ!───……」
ルナが走り始めて約数分で、俺はもう喋れなくなった。
勘弁して、もう……。
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