───弦月───
……ふと気がつくと、そこは屋上だった。
空はもう赤く染まり、終わりが近づいていることを教えてくれていた。
声 「目、醒めた?」
聞こえた声に目を向ける。
その声は少し離れた場所から聞こえたものだった。
屋上のフェンス越しに、そこから眺める世界に穏やかに微笑んでいる女の人。
……先輩だった。
悠介 「先輩?……あれ?どうして俺……」
春菜 「えっと……話すと長くなるけど……聞く?」
悠介 「……一応」
俺の返事を待ってから、先輩は笑った。
そしてその経緯を話してくれる。
春菜 「悠介くん、フラットさんに振りまわされてたのは憶えてるよね?」
悠介 「一応」
春菜 「わたしもちょっと交代の時間だったから甘味処手伝ってたんだけどね」
悠介 「あ、なんだ、あそこって先輩のクラスだったのか……。
ってそうだよ、クラス見れば解ったんじゃないか」
春菜 「あれ?来てくれたの?」
悠介 「ああ、おしるこ食べた」
春菜 「……あ、じゃあ合点がいく気がするよ。
結構噂になってたよ、ふたりの男子が騒いでたって」
そうか、騒いでたもんな。
ふたり……ふた、ふたり!?
悠介 「先輩、その噂はデマだ」
春菜 「え?どうして?」
悠介 「騒いでたのは彰利だけだ」
春菜 「でも、ツッコミ役が傍に居たらしいけど」
悠介 「ツッ……!?」
ツッコミって……え?あ……お、俺……?
俺が……?
悠介 「………」
春菜 「落ちこんでるところ悪いけど、話進めていいかな」
俺は無言で頷いた。
春菜 「じゃあ話すよ?
時間が経って交代の時間が来て、ようやくわたしも開放されたんだけどね。
その時、『誰か助けてぇえっ!』って声が聞こえたんだよね」
あー……そういえば言ったような。
春菜 「それで駆けつければ……まあ先回りなんだけど、
悠介くんを振りまわしながら人外の脚力で走り回る死神さんが居たんだよ」
あ、なんかオチが解ったような。
春菜 「でもさすがに学校で撃つわけにはいかないから、
破邪能力満点の足払いをしてみたんだよ」
悠介 「……足払い、ですか」
春菜 「うん、思いっきり吹っ飛んで壁に激突してふたりとも気絶しちゃったけど」
おいおい……。
春菜 「それでふたりを回収してきた、というわけ」
悠介 「ふたり?……ルナ〜、居るのか〜?」
空に向かって声をあげてみた。
すると、校舎へのドアの上……梯子を登ったところか。
名前があるなら知りたいが、とにかくそこの上から顔をのぞかせる。
ルナ 「呼んだ〜?」
その顔は実に、子猫が母猫を見るような、『心を許してます』な表情だった。
ルナは俺の顔を見たまま、宙を浮いて俺の傍らに舞い降りた。
ルナ 「んふふ〜、ゆ〜すけ〜♪」
そしてそのまま、上機嫌な様子で俺に抱き着いてくる。
悠介 「うわっ!こ、こらっ!抱きつくなって!頬擦りもするなっ!」
ルナ 「えへへ〜、悠介のこういう時の顔って子供っぽくて好きだなぁ」
悠介 「は、恥ずかしいこと言うな!」
春菜 「はいストップ」
ゴスン。
ルナ 「いたぁっ!……な、なにすんのさ!」
春菜 「人の目の前でいちゃつかないでね、お願いだから」
ルナ 「うー……!」
春菜 「……なにかな?やる気かなぁ……」
ゴゴゴゴゴゴ……と、大氣が震えているのが解る。
ああっ!この空間だけ歪んでいるような気がするのは何故なのっ!?
悠介 「お、落ち着いてくれよふたりとも!学校で爆発は危険だって!」
いや、神社でも危険だが。
ていうかなんで俺が身の危険を感じてまで止めなきゃならんのだ?
俺はここに、理不尽の集成を感じた。
ルナ 「……今日は見逃してあげる」
春菜 「そうなの?じゃあ次が楽しみだね」
だ、だから……!漆黒の笑みを浮かべながら空気を歪ませるのはやめてくれ!
なんて、そんな超常現象を目の当たりにしている時だった。
ガチャリ、とドアが開いたのは。
水穂 「センパ〜イ、居ますか〜?」
頼りなさげにドアから顔を覗かせる少女。
水穂ちゃんだった。
ルナ 「やっほー」
そしてその頼りなさげな表情は一瞬にして凍りつくことになる。
まあその後、屋上に少女の絶叫が響いたのは言うまでもない。
………………。
…………。
……。
ルナが水穂ちゃんを連れ去り、俺がそろそろどこかに行こうとした時。
先輩は『風と空を見ていたいから、わたしはここに居るよ』と微笑んだ。
風なんて見えるのか?と訊いたら、
先輩は『この風にはやさしい意思が感じられるよ』と笑った。
それがどんな意味を持っているのか、俺には解らなかった。
悠介 「………」
屋上から校舎に戻ってみたものの、別にこれといって見たいものなんて無い。
ただ何を求めるわけでもなく、校舎の中をうろついていた。
途中、雪子さんや彰利を発見したりもしたけど、まあ声をかけようとは思わなかった。
それから……少し気になって、校舎裏に行ってみた。
そこでは及川とセレスが真剣に話し合っていた。
内容は日本文化と外国の文化のことだった。
俺には理解出来ないような内容だ。
言ってる意味は解るが、大体にしてふたりが俺に気づいてない。
苦笑しながら俺はその場をあとにする。
しばらくしてもう一度屋上を訪れた時、先輩の姿はもう無かった。
俺はそのままドア脇の梯子を登り、その上に寝転がった。
目に映る景色は、いつか見上げた蒼空とは異なり、うっすらと闇を帯びていた。
そうした世界の中、俺はゆっくりと目を閉じ、眠りについた。
…………。
───月が綺麗だったのを憶えている。
幼い頃に見た、輝く月。
満月だったその月はやがて輝きを失い、もとの月の姿に戻った。
なんだったのだろうと、首を傾げた。
それは隣に居た男の子も一緒だった。
けれど……その月のことも時間が経つにつれ、俺の中で霧に埋もれていってしまった。
どうしてだろう。
あんなに綺麗だったのに。
あんなに綺麗だと思えたのに。
僕はなんだか悲しくて……涙をこぼした。
それは昔の物語。
僕らがまだ、能力のことなんて深く考えていなかった蒼い季節のこと。
いつか大人になったら、あの輝く月のことが解るのだろうか。
そんなことを考えていた自分が、今はただ懐かしく思えた。
…………。
……うっすらと。
だけど、確実に意識は覚醒した。
目を開けた先に見えるのは綺麗な満月。
雲ひとつ無く、その円はくっきりと映し出されていた。
体を起こして辺りを見下ろす。
どれだけ眠っていたのか解らないが、既に終了のキャンプファイヤーが始まっていた。
綺麗だな、と。
正直にそう思った。
火の粉が輝いて見えた。
それとともに、今見た夢が、自分の中に溶け込んでゆくのが解った。
……夜空を見上げる。
その月は輝いたりはしないけど、その姿は綺麗だった。
悠介 「……よっ、と」
体を立ち上がらせて、梯子を降りて。
そして、屋上をあとにする。
ただ、ドアを閉めようとした時。
穏やかな風が、その緩やかな勢いでドアを閉めた。
俺は呆然としてしまったが、やがて苦笑し、階段を降り始めた。
声 「悠介〜!」
そんな時、聞こえた声に顔を上げた。
彰利 「いうあ、居た」
もう一度呼ぼうとして俺を見つけ、走り寄る彰利。
彰利 「悠介!キャンプファイアーが燃えておるぜ!
共に躍ろう!血涌き肉躍る程に!狂おしい程に!」
彰利は俺の答えを待たずに反復横跳びをした後、俺の手を取り駆け出した。
そしてあらかじめ開けてあったのか、その窓から華麗なジャンプおおわぁああっ!!
悠介 「ばば馬鹿っ!死ぬ気かっ!」
彰利のジャンプを寸前の所で止め、俺は大きく息を吐いた。
彰利 「いや、なんか眠そうだったから目を覚まさせてやろうと」
悠介 「寿命が縮みそうなことはするな、頼むから……」
彰利 「やー、失敬失敬。では参ろうか」
今度は身を翻し、ひとりでさっさと走っていった。
……屋上へ。
なにがしたいんだアイツは。
溜め息を吐いた後、俺は彰利のあとを追うことにした。
来た道を戻り、階段を登る。
そして既に開け放たれているドアをくぐり、屋上へ。
彰利の姿を探してみたが、見当たらない。
彰利 「ゆーすけ、こっちだこっち」
その俺を見て、梯子の上に座った彰利が自分の隣を叩く。
隣に座れということだろう。
俺はもう一度梯子を登り、彰利の隣に腰掛けた。
彰利 「全部、話す約束だったよな」
途端、彰利が少し笑い気味に話を始めた。
彰利 「……これから言うことをよく聞いておくんだぞ?
俺の家系……弦月では、今まで生きてきた中で、
ただの一度として能力を持った子は生まれなかった。
いや、正確には産まれはしたんだが、みんな暴走して殺された」
急に話はじめる彰利を前に、俺は少し戸惑った。
しかもその内容が能力のことだったから尚更だった。
彰利 「俺の親……厳密には親父だけど、彼が俺の力に気付いて、力を求めた。
だけど……悠介も知ってるよな?俺の力が無意味だったこと」
そうだ。
彰利は自分の力の使い方が解らず、親に役立たず扱いされてたんだ。
彰利 「他の家系の大半は能力を確定していたから余計に悔しかったんだろうな。
結果、俺は役立たずとか言われて、親父にはずっと嫌われていた」
どこか懐かしむように、彰利はキャンプファイアーの炎を眺めていた。
彰利 「だけどその日常は平穏だった。
争いごともなく、静かで穏やかだったんだ……あの日が訪れるまでは」
炎を見つめる目は、いつしか憎悪に満ちていた。
彰利 「親父は荒れていた。自分の血の能力を確定出来ないことに。
くだらない話だけど、あいつは完璧主義者だった。
自分の代で必ず、能力確定をするつもりだったんだろう。
だけど、いざ産まれてみれば、力の使い方も解らない出来損ない。
能力を持っていながらも、その力を使うことが出来ない俺に腹を立てていた。
もちろん俺は殴られたりもした。とても痛かった。
でも、母さんが居ればそれで良かった。唯一、俺を庇ってくれる人が無事なら」
俺も彰利がそうしているように、キャンプファイアーの炎を眺めた。
轟々と看板などの面影を飲みこんでゆく紅蓮のモノ。
それは俺に、過去のあの場面を思い出させた。
彰利 「だけど……親父は母さんを殴った。
出来損ないなんか産みやがって!ってね。
……許せなかった。母さんは病弱ながら、苦労して俺を産んでくれたのに。
あいつのあの態度が……許せなかった……!!」
ギリッ!という音が耳を掠めた。
歯が擦れる音。
それは間違い無く、彰利の憎しみの音だった。
彰利 「その時俺は……初めて暴走したんだ」
悠介 「暴走?」
彰利 「言ってただろ?家系の血には魔が宿ってるって。
あれは姿にこそ現れはしないけど、その血は確かにあるんだ。
そして……弦月の血には、それがどす黒く宿っている」
吐き捨てるように彰利は喋った。
彰利 「気がついた時には、
あいつは傷だらけになりながら部屋の隅でガタガタと震えていたよ。
恐らくその傷は、俺の中の魔がつけた傷だろう、って。
自分でもそう解ったよ。だけど悪いことをしただなんて思わなかった。
俺は母さんを守った。母さんをこいつから助けたんだ!って。
でも……でもな……?」
一呼吸。
その間があってから、彰利は静かに言った。
彰利 「母さんは俺を見て言ったよ。バケモノ、って」
泣き出してしまうんじゃないか。
そう思うほど、彰利の声は力無かった。
その日から俺の穏やかな日常は消えたんだと言う彰利に対し、俺は何も言えなかった。
彰利 「そして……その日はやって来た。
憶えてるか?晦の神社に一族が集まった日のこと」
悠介 「……微かに、だけど……」
彰利 「うん……。あそこでな?俺は殺される筈だったんだ。一族のみんなに」
悠介 「………」
彰利 「親父が逃げ腰になりながら叫んでたよ。『バケモノを殺せ!』ってね。
でも、それもいいって思った。
母さんにバケモノだと言われながら生きていたくないって。そう思った。
頑張って、次の子を産んで、
その子こそが期待に応えられればいいんじゃないかって。思った。
……思ったのに、なぁ……」
すごく辛そうな顔がそこにあった。
そんな顔をまともに見ることが出来ず、俺は空を見上げていた。
彰利 「親父が言ったんだよ。俺の前に母さんを殺すって」
悠介 「ッ!?」
衝撃が走った。
何故?どうして?と思考がめちゃくちゃになる。
彰利 「理由は、出来損ないを産んだからだとさ……。
俺の子供があんな役立たずなわけが無いってな……。
そして……そして母さんは……俺の……前で……」
言葉が続かなかった。
横を見ればきっと、涙に濡れた顔か、憎しみに満ちた顔があるだろう。
そんな彰利なんて見たくなかった。
彰利 「…………その時さ。俺の中で何かが完全に弾けたのは。
頭の中が真っ白になって、気付けば俺は血溜りの中に居た。
地面には動かなくなった人の形。手には喋らなくなった親父。
身震いが全身を駆け巡った。どうしようもなくて、怖くて、気持ち悪くて。
逃げ出したかったのに、自分の体じゃないみたいに体が動かなかった。
そして……石段の方に悠介の姿が見えた。
俺を見る悠介の目が、いつか見た母さんの目に似てて、
大事な友達を失いたくないとか考えてたのに、俺の体は勝手に動いて……」
また一呼吸、彰利は息をついた。
自分にとって忘れたいことを話すことは、どれだけ辛いことだろう。
だけど、それを知りながらも、俺は真実が知りたかった。
彰利 「……魔の暴走が始まると、自分はもう居ないのと同じなんだ。
視界だけが見えて、でも体は別の何かが動かしていた。
だから、悠介に向かって体が動いた時、いけない!って叫んだ。
でもどうすることも出来なかった。
そして……その後、俺は……死んだんだ」
悠介 「え……?」
待て……待ってくれ。
今……こいつ、なんて言った?
悠介 「死んだって……どういうことだよ。
お前、ここに居るじゃないか」
自分でも動揺しているのがよく解る。
だけど、矛盾と謎が頭を駆け巡って、まともな自分が保てないでいた。
そんな俺に、彰利は冷静に言った。
彰利 「もしかしたら。……そう、考えたことがあるだろう?」
それはいつか、聞いたような気のする言葉だった。
彰利 「俺はあの時、自分の腹を貫いた。
信じられないほどの血が溢れて、自分でも死ぬんだなって理解できた。
俺はあの時、本当に死んだんだ。でも……お前が居た」
悠介 「俺……?」
ますます解らない。
俺が居たからどうしたって……いや、待ってくれ。
なんだ?俺の中で何かが……!!
何か、俺は何かを見逃してないか……!?
彰利 「あの時、生きていた俺が最後に見たのはお前の泣き顔だった。
必死に俺のことを呼んでさ。泣いてくれたんだ、バケモノのために。
俺、嬉しくてさ。だから、本当に良かったって思えた。
だから……お前が無事な内に、正気を取り戻せて良かったって。そう言えた」
悠介 「あ……!」
頭の中で何かが弾けた。
固まっていた何かの一部が、ゆっくりと溶けてゆく。
俺はあの時、原因不明の昏睡状態に陥った。
もし、それが……体力の消耗によるものだとしたら。
確かにそんなことを一度考えたことがある。
でもそれは……出来るわけないじゃないか。
出来ちゃいけないんだ、あの時に。
彰利 「悠介……もう、解るだろ?」
悠介 「………」
答えられなかった。
答えられるわけないじゃないか。
だってそれは……
彰利 「俺は……お前に『創造』して造られた存在だ」
悠介 「───!」
なにもかも。
その全てが弾けてしまった。
思い出さなければ良かったものや、思い出しちゃいけなかったもの。
その全てを。
彰利 「結果、まだ創造の理力が馴染んでいなかったのに無茶な創造をしたお前は、
知っている通り、原因不明の昏睡状態になった」
悠介 「くっ……」
頭が……いや、体がその記憶を拒否しようとしている。
でもどうしようもない。
逃げ出したいのに足が動かないのと同じだった。
そんな中で、まだ疑問が残っていることに気付いた。
知らなければいいかもしれない。
でも、もう……どっちでも同じだろうと、そう吹っ切った。
悠介 「……彰利、教えてくれ。
若葉と木葉、それに先輩がお前を嫌う理由はなんだ?」
彰利 「……あの後俺は、悠介に助けられて生きかえった。
そして、血溜りの中で倒れている悠介と自分血で汚れた手と見比べていた。
確かに俺は死んだ筈なのに、って。
でも、なんとなく理解出来た。悠介のお蔭で生きかえれたんだと」
悠介 「………」
彰利 「そんなことを思っている時だよ。あの三人が石段を登ってきたのは。
先輩殿は恐らく、親と一緒に連れてこられたか、遊びに来てたんだろうな。
俺とぐったりとしている悠介を交互に見て、絶句してたよ。
若葉ちゃんと木葉ちゃんは悠介の傍に駆け寄って泣いてた。
死んでるって……そう思ったんだろうな。
そして俺の腕にべったり付着してる血を見て……俺を凝視した。
きっと、俺が悠介を殺そうとしたんだって、そう思ったんだろうな」
悠介 「そんな……じゃあなんでだ?どうして誤解だって言わないんだよ!」
彰利 「俺が言って信じると思うか?実際お前は昏睡状態になった。
それだけでもあのふたりにとって辛いことだったのに……。
そんなことがあったのに、俺が何を言っても信じてもらえるわけが無い。
それに、俺は……若葉ちゃんや木葉ちゃんに睨まれて、
辛かったのに、悲しかったはずなのに……笑ったんだよ……。
お前があんなことになってたのに、笑ってたんだ……。
誰が……信じるっていうんだよ、そんな奴の言うこと……」
辛そうに目を閉じる彰利。
でもすぐに目を開けて空を見た。
そして懐かしそうな顔をする。
彰利 「……なぁ、憶えてるか?輝く月のこと……」
悠介 「……あ、ああ……憶えてる」
彰利 「綺麗だったよな……あれ」
悠介 「ああ……綺麗だった」
彰利 「………」
悠介 「……彰利?」
彰利 「なぁ、お前の家、行かないか?」
悠介 「俺の?十六夜のか?」
彰利 「アホウ、晦だよ」
悠介 「彰利、あそこを俺の家って言うのはやめてくれって」
彰利 「いいからいいから。今から歩いて丁度くらいだから」
悠介 「丁度?なにが」
彰利 「ん……後で解る」
悠介 「………」
訳が解らなかった。
それでもここに居たって何もすることなんてなかった。
だから何も言わずに帰路につくことにした。
………………。
…………。
……。
彰利 「なあ悠介」
悠介 「ん?」
神社への石段を登りながら、彰利が俺に話し掛ける。
彰利 「文化祭、楽しかったなぁ」
悠介 「……そうだな」
なんでもない会話。
こいつがこういうことを話すのは、かえって珍しい気がする。
彰利 「あんなにハシャイだのは初めてだよ」
悠介 「そうか?お前は年中無休でハシャイでる気がするけど」
彰利 「心から、ってのはそうそう無いってことだよ。
それと……体力、残ってるか?」
悠介 「体力?なにか造ってほしいものでもあるってか?」
彰利 「いや、そういうわけじゃない。結構大変だっただろ、今日」
悠介 「そういうことか。気にするな、さっき寝たから体は休まってる」
彰利 「そりゃ何よりだ」
どうしてだか、彰利は家には向かわず、神社へと向かっている。
そこで何をするつもりなんだろう。
そんなことを、俺はずっと考えていた。
彰利 「それから……」
一度立ち止まり、彰利が真っ直ぐに俺を見た。
悠介 「どした?」
彰利 「…………ありがとうな」
悠介 「え?」
言った意味が全然解らなかった。
なにかしただろうか俺は。
悠介 「ありがとうって……なにが」
彰利 「……いろいろさ。今までのこととか、全部ひっくるめて」
悠介 「? ヘンな奴だな」
彰利 「なに、今に始まったことじゃない」
悠介 「……それもそうだな」
やがて、再び足を動かす彰利。
もう神社はずぐそこにある。
そしてその場に足をついた時。
俺は……立ち尽くすしかなかった。
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