───撲滅───
───殺気!?
バッ!と起き上がると、俺はその殺気の発生場所を探した。
……ていうか一発で解った。
光ってる。
思いっきり光ってるよ。
そしてやがて、素晴らしい勢いで俺の方へ飛んでくる光球。
悠介 「超電磁スパイク!」
俺はそれを月鳴力のこもった手で逸らした。
ドカーン!
悠介 「うっ……!」
俺の後方で光球が炸裂する。
こ、殺す気か……!?
悠介 「まったくっ……!月鳴力、雷の印……!」
俺は集中して印を解放した。
狙いはあの大木だ。
悠介 「月鳴の裁き・落雷バージョン!」
ガカッ───!
ゴガシャァアアアアアアアアアン!!!
大木の上空の雲に青白い光が見えた途端、それが落ちる。
結果、大木は崩壊した。
若葉 「いたた……おにいさま、無茶しすぎです……」
悠介 「俺がなんだ?」
若葉 「はうっ!お、おにいさま!?」
悠介 「おにいさまだぞ」
若葉 「………」
だらだらと汗が流れる。
若葉 「あ、わ、わたし達、散歩中だったんです。それでは」
悠介 「待たれよ」
若葉 「お、おかまいなくです!」
悠介 「まあまあ、話でも聞いていけ。
いきなり光球ぶっぱなすとはどういう了見だこの野郎」
若葉 「わ、わたしではなく春菜先輩が!」
悠介 「……ガムテープで口封じされて体をロープで縛られてる姿を見て、
どうやって先輩を犯人だと思えと言うんだお前は……」
若葉 「えっ!?」
春菜 「ムー……ムムムムー……ウゥ……」
木葉に捕縛され、だーっと涙を流す先輩。
木葉 「ご安心ください姉さん、逃げられないように捕縛は万全です」
若葉 「こ、木葉ちゃーん!」
絶望の表情で叫ぶ若葉。
悠介 「はぁ……で?なにしに来たんだ?」
若葉 「うー……お、おにいさまの貞操が」
悠介 「貞操!?」
若葉 「い、いえ!てい、てい…………そ、そう!提督!」
悠介 「誰が提督だ」
若葉 「だ、誰でしょう……」
決まりが悪そうにあははと笑う若葉。
悠介 「別にどうもならないから帰れ」
若葉 「嫌です」
木葉 「姉さん、ファイト」
若葉 「応援してないで助けなさいっ!」
木葉 「わたしは姉さんを見守るだけで幸せです」
若葉 「不幸でいいから助けなさい!」
木葉 「お言葉ですが姉さん。望んで不幸になるたわけ者がどこに居るでしょうか」
若葉 「たわけでいいから!」
木葉 「道化は趣味ではないので、承伏できません」
若葉 「うきゃーっ!」
ぼかっ!
若葉 「はうっ!」
悠介 「落ち着け」
若葉 「ですが、木葉ちゃんが……木葉ちゃんがぁ」
木葉 「姉さん、一度言えば聞こえます。名前の連呼は控えてください」
若葉 「ほらっ!今朝からなんか変なんです!」
悠介 「……木葉?」
木葉 「なんでしょうかお兄さま」
悠介 「………」
木葉 「……………声をかけてからの沈黙は相手を不快にさせるだけです。
お兄さま、用件があってお声をかけてくださったのではないのですか?」
悠介 「……これは重症だな」
木葉 「話の途中で真正面に言うほど優れた言葉とは思えません。謹んでください」
悠介 「………」
若葉 「……重症です」
木葉 「姉さん、わたしは病気なわけではありません。
ですから『重症』、という言葉は適切では」
悠介 「とう」
ドスッ。
木葉 「かはっ」
ガクッ。
悠介 「……何が原因か解るか?」
若葉 「木葉ちゃんが言うには、あの死神にくすぐられて、その際に頭部を強打したとか」
悠介 「あー……あれね」
心当たりはあった。
泣き叫び笑いながら逃げてる途中、タンスのカドに頭をぶつけてぐったりしたんだった。
声 「───……ゆーすけー?」
ふと聞こえるルナの声。
木葉 「起きてしまったようですね」
悠介 「うおっ!」
突然ガバァッ!と起きあがる木葉。
木葉 「対面するとややこしそうなので、これで失礼します」
言うや否や、若葉と先輩の手を取って───なにぃ!?
木葉 「ごきげんよう、お兄さま」
木葉は空をゴシュウウン!と飛んでいってしまった。
悠介 「……………………………………え?」
俺は馬鹿みたいな声をあげ、その場にへたり込んでしまった。
ルナはというと、途中まで飛んでたんだが突然ガクンとバランスを崩した。
悠介 「ルナッ!」
俺は無意識に走り、ルナを抱きとめるために腕を───伸ばす前にルナが落ちた。
ルナ 「いたっ!……うう……」
悠介 「すまん、俺はスプリンターでも超人でもないんだ」
ルナ 「それは別にいいんだけど……なんだろ、いきなり力が奪われたっていうか……」
悠介 「………………」
……なるほど、月影力だな?だから木葉は飛べたのか。
ルナ 「それよりどうしたの?いきなり起きあがって」
悠介 「いや、性質の悪い尾行人達を追い払っただけだ」
ルナ 「ふーん……」
結局、今の騒ぎで眠気なんて飛んでしまっていた。
さてどうするか。
悠介 「ルナ、これから何かしたいことあるか?」
ルナ 「うん?んー……デートって何をするものなの?」
悠介 「別になんでもいいと思うぞ?自分達が楽しければいいんだから」
ルナ 「んー……それってさ、『友達』ってやつと変わらないんじゃない?」
悠介 「そりゃそうだ。人間が出来ることなんて限られてるんだ。
友達と恋人が取る行動に大差なんてあるわけがないと思うぞ」
ルナ 「うー……」
納得いかなそうに口を尖らせるルナ。
一体何が不満なのやら。
ルナ 「それじゃさ、『友達』も別れ際にキスしたり、
どっかに寄ってあげなことそげなこと」
ガゴッ!
ルナ 「こはっ───!」
ルナがふらふらと揺れて、その場に屈む。
ルナ 「───……はうう、はうううう……」
足にキているらしい。
ルナ 「ひどいよー、なにすんのさ悠介ー……」
悠介 「誰から聞いたんだ、そんなこと……」
ルナ 「……え?それは…………………………あれ?」
口に指をあて、考えるルナ。
ルナ 「あ───れ……?誰……だったっけ……」
その言葉で、理解出来た。
彰利だ。
悠介 「………」
ルナ 「……え?」
俺は無言でルナの頭を撫でた。
───存在は消えても、そこに居た事実が残っていること。
それが、とても嬉しかった。
ルナ 「?」
どうして撫でられているのか解らず、
それでもくすぐったそうに目を細める顔が印象に残った。
ルナ 「あぃ───?ひょっほ、ゆーふへ、いはい(……」
でも、憶えてるのがそういうことってのが頂けない。
気づけば頭を撫でていた筈の五指はルナの頬を引っ張っていた。
悠介 「ほら、立てるか?」
頬をすぱんと離し、手を差し伸べる。
ルナ 「……顎に気持ちのいい一発をキメたのは悠介だよ……」
それを少し睨むような顔で見たあと、手を握り返してきた。
ルナ 「元気になってくれたのは嬉しいけどさ」
悠介 「うん?」
立ち上がりながら、口を尖らす。
ルナ 「ちょっと乱暴になったよね、悠介」
悠介 「そうか?」
ルナ 「ん」
頷くルナ。
悠介 「まあアレだ。理不尽な異端を背負うってのも、安心できないってことだろ」
ルナ 「異端?悠介が?」
悠介 「あ、えーと……なんでもない」
ルナ 「なに?なんなの悠介。言ってくれなきゃ解らないよ」
悠介 「解らなくてよろしい」
ルナ 「………」
悠介 「……あのね、ルナさん?そういう目で見られると困るんですけど」
寂しそうな子猫の目をするルナ。
ふと、抱きしめて振りまわして走り回りたくなる衝動に駆られる自分は、
果たして正常なのだろうかと心配になってしまうが。
まあ自分の本能(か?)を無理に押し込める行為など偽善───というか馬鹿らしい。
でも俺はそういう趣味は無いと断言したいようなそうでないような。
いや、そもそも俺は、
こいつが時折見せる大人しい姿がなんだかとても好きだということを自覚している。
それがどういった『好き』なのかは俺はまだ解らんわけで。
原点に立つとすれば俺は色恋沙汰に染まる気は無いわけだ。
もし誰かが俺を好いてくれたところで(もとよりその可能性を否定してるが)、
俺がそれに応えるのかと自問自答するならば、それはまず無い。
悠介 「───って、人が悩んでる時に顔を摺り寄せてくるな」
ルナ 「悠介、いいにおいがする」
悠介 「そういう言葉は心に仕舞え。言うべきじゃない上に恥ずかしい」
ルナ 「あはは、悠介顔真っ赤ー」
悠介 「こらっ!」
ルナ 「ふーんだ、悠介がわたしのことほっぽらかして考え事なんてしてるからよ。
これくらい、からかっても足りないくらいでしょ」
悠介 「あのなぁ……」
ルナ 「それより悠介、あっち行コあっち」
悠介 「だぁっ!だから引っ張る───おぉぁあああっ!」
ルナは俺の腕を掴むと、持ち前の力と速さでその場から疾走した。
その時の俺はというと───
……ああ、こりゃあ『デート』って言葉にはほど遠いなぁ───
などと思ったのである。
───……。
水穂 「平和ですね……」
セレス「ええ、ほんと。お茶が美味しいです……」
どこかで小鳥が鳴いていた。
街行く人達の声など届かない景色の中、わたしとと水穂さんはお茶をすする。
水穂 「いつもは騒がしいだけですし、こういうのもなんかいいですよね……」
セレス「同感です……」
騒ぎの原因は外に出ていった大半なので、わたしたちはまあ、平穏を好んでいた。
……もっとも、わたしは人とは種族が異なるので巻き込まれれば騒ぐのも確か。
セレス「あ、おかわりどうぞ」
水穂 「え?あっ……恐縮です」
急須が香り穏やかなお茶を出す。
水穂 「あの、セレスウィルさん」
セレス「セレスで結構ですよ、水穂さん」
水穂 「あ、はい。それじゃあ、セレスさん」
セレス「はい」
水穂 「あの、セレスさんは先輩のこと、どう思ってるんですか?」
セレス「悠介さん、ですか?」
水穂 「はい」
セレス「どう、とは……また漠然とした質問ですね」
水穂 「あっ、えっと、どう思ってるかって、あ、すいません、
受け取り方では答えがいっぱいすぎますよねっ!
た、単刀直入に言いますと、男性として好きかどうかを……ですね」
最後になるにつれ、水穂さんの声は熱が冷めたように低くなる。
が、顔は反面的に真っ赤だった。
セレス「そうですね……あれほどの美味しい人はそう居ないかと」
水穂 「食料の話じゃなくってですねっ!?」
セレス「……水穂さん?わたしたち亜種は永い時を生きます。
それこそ、永久かと思えるほどに。
その中で、多くて100年を生きることしか出来ない人間を愛することは、
自然とタブーになってきます。当然、わたしもそれを知っている。
……解りますか?
好きになったとしても、一緒に死ねない悲しみというものはあるものですよ。
老いてゆく想い人と、何も変わらぬ自分。
やがて消える生命と、もの言わぬ想い人。
……永く生きる者にとって、記憶というそれは、時には足枷にもなるんですよ」
水穂 「………」
セレス「それでもやっぱり、誰かを好きになるという気持ちはどうしようもないんです。
抑えたところでなんの特にもならない上に、それでもやっぱり後悔しますから。
好きなら好きで、その人が生きている間だけでも一緒に居たいという気持ち。
それもまた、わたしは知ってますから。
やらずに後悔するよりも、やって後悔。それが適切な言葉です」
水穂 「……はぁ」
セレス「もっとも……わたしの場合は相手を吸血鬼にしてしまえば永遠に一緒ですけど」
水穂 「だっ、だめですよそんなっ!」
セレス「冗談ですよ。大体にして悠介さんの中にあったヴァンパイアウィルスは、
彼の体からもう無くなっているんですから」
水穂 「……え?」
セレス「犬歯とは言ってもそんなに長いわけじゃありません。
噛んだとしても因子が脳に到達する前に太陽光で死に絶えます」
水穂 「あ───の、そういうのってボク、わからないんですけど」
セレス「つまり、噛んだ喉から吸血因子が脳に辿り着くには時間が要るってことです」
水穂 「はぁ……」
かくん、と頷く。
あまり解ってなさそうだけど、構わず続ける。
セレス「それがたとえ結晶だったとしても人がよっぽど日光を嫌わない限り、
大抵の場合は太陽にあてられて、因子は死滅するんです。
メラニン、とでも言うんでしょうか。それが原因かと思います」
水穂 「それじゃあ、先輩はもう安心なんですか?」
セレス「いいえ?波動娘とルナが居るかぎり、いつ死んでもおかしくありません。
……あ、逆ですね。ルナが居なくなれば死ぬんでした。
それと……まあ、確かにルナは死神で、
『死』なんてものには程遠い存在だと思うかもしれませんが……。
それは純粋に死神であればの話です。
人であり、月の家系の血を持っている彼女は、
他のどの死神よりも消滅条件が揃っています。
それはつまり、この先あまり長生きは出来ないということにイコールします。
最低で残り百年、といったところでしょうか。
もちろん、その過程で彼女が望まない限り、体の成長はありません。
ルナと悠介さんがそういう仲になったとして、
今の彼女は一緒に老いることもできれば死ぬことも出来ると思います」
水穂 「それじゃあ、今のルナさんは空飛んだりアルティメットストレングスだったり、
トップアスリートより足が速かったりって、それ以外は人間ってことですか?」
セレス「それと壁抜けと月の魔力……まあ融合とかですね。
そういえば悠介さんの脇腹がえぐられた時も、
『無』との融合を成功させてましたね」
水穂 「?」
セレス「こちらの話です」
水穂 「はぁ……」
再びかくんと頷く水穂さん。
子犬みたいで可愛かった。
セレス「なんにせよ、わたしが誰かを望むのはずっと先でしょう。
……別に悠介さんが嫌い、という訳でもありませんがね」
水穂 「あ、知ってますか?
先輩って意外に照れた顔とか慌てた顔がカワイイんですよー」
セレス「ええ、知ってますよ。
話を聞けば、そういう人間的なものから見放された生き方をしていたそうで。
結果、そういう時にする表情や感情がコントロール出来ないのでしょう。
だからこそ、その時の悠介さんは純粋でカワイイというわけで」
水穂 「怒った時も純粋に怖いんですけどね……」
セレス「ああ、それはありますね」
水穂 「でも───なんでしょうかね。
いつも悠介さんと一緒に騒いでた人が居た気がするんですが……」
セレス「……奇遇ですけど、それを聞いたら悠介さんが怒りますよ」
水穂 「え?どうしてですか?」
セレス「恐らく、その存在が悠介さんの言う『あきとし』なんでしょうから」
水穂 「あ───」
一緒になって黙った。
先程までの賑わいが嘘だったかのように、静かに。
水穂 「……訊いていいですか?」
でも、水穂さんがその沈黙を破る。
水穂 「その人は、本当に存在していたんですよね?」
当然の疑問。
知らない存在に対する疑問なんてものはそんなものだった。
セレス「………」
ふぅ、という息遣いが聞こえる。
わたしは一呼吸置くと、ゆっくりと口を開いた。
セレス「見なかったわけではないでしょう?」
水穂 「そう……ですけど」
セレス「わたしも写真を見せられた時、悠介さんが哀れに見えました。
でも、考えてみればそれは辛いことだったんです。
わたしはその存在であるが故に、
生まれながらにしてこの世界では異端でした。
それはとても辛いことだった。
だって、人間のように同種属の者が現世に居るわけではないのだから。
孤独、そして異端。それは存在を不安にさせることしかなかった。
そうして育ったとしても、やっぱり不安なんですよ。
だから自分にしか無い記憶を他の誰かに解ってもらおうとした彼の気持ち。
今なら解る気がします。
……もっとも、解るだけで分かり合えることはないんでしょうけど」
苦笑する。
それを見て、水穂さんは難しそうな顔をするだけだった。
セレス「さて、そろそろ体を動かすとしますか」
お茶を置き、立ち上がる。
水穂 「え?仕事?」
セレス「ええ、これでも居候ですから」
微笑み、そして片付けを始める。
それを見て水穂さんも立ち上がり、それを手伝ってくれる。
声 「キャーッ!」
なんて締めくくりをしようとしたところで、奇声。
やがてドカーン!という激しい音を耳にする。
木葉 「ただいま戻りました」
水穂 「きゃああっ!ど、どこから入ってくるんですかっ!」
木葉 「ここはわたし達の家です。どこから入ろうとわたし達の勝手です」
淡々と言う木葉さん。
その手には若葉さんと波動娘が引きずられていた。
若葉 「……水穂、お茶を一杯いただけるかしら……」
水穂 「あの……大丈夫ですか?」
若葉 「大丈夫だから、お茶……」
水穂 「は、はあ……」
水穂さんが台所へと駆けてゆく。
春菜 「フフフ……インド洋万歳……」
ガクッ。
意味深な言葉を残し、波動娘、気絶。
セレス「いったい、どこまでフライトを?」
若葉 「……世界一周……」
セレス「うわ……」
呆れた……なにをしているのだろう。
木葉 「おふたりは初めてだったようで、緊張なされたようです」
若葉 「木葉、あなただってそうでしょうが……」
若葉さんが木葉さんを『木葉ちゃん』と言わずに言う。
珍しいと感じたけれど、なにかあったのかもしれない。
木葉 「ご心配には及びません。イメージトレーニングは万全でしたから」
そういう問題じゃないと思います。
セレス「それでは、せっかくですし……お茶にでもしますか」
そう言って微笑むと、わたしは水穂さんの後に続くように台所へ向かった。
若葉 「……なんだか、だんだんと使用人じみてきたような……」
木葉 「そうではないのですか?」
若葉 「……もういい、お茶にしましょう……」
そんな声にやっぱり苦笑しながら、ゆっくりと時間が流れてゆく。
暗かったこの家の雰囲気が暖かくなったことを、わたしは素直に喜んでた。
───……。
ルナ 「うーまーいーぞぉおおおおおおおおっ!!」
悠介 「ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺の脳が救難信号を発している。
ルナがひたすらに走る中、俺は絶叫していた。
走っている場所が悪い。
悠介 「どうしてっ!どうして海面を走るんだお前はぁあっ!」
ルナ 「え?美味しいもの食べたら海の上を走らなきゃいけないんでしょ?」
悠介 「どこで手に入れたそんな知識ッ!」
ルナ 「波動娘が」
悠介 「先輩のアホォオオオオオオオオオッ!!」
ルナ 「そんな、叫ばなくても」
悠介 「これが叫ばずにおられようか!いや!おられまい!反語ォッ!」
ルナ 「あはは、悠介おかしー」
悠介 「やかましい!いいから降ろせ!」
ルナ 「うん」
悠介 「うわあっ!馬鹿!陸に着いたらって意味」
ごばしゃあぁあん!
悠介 「ぶっはぁっ!ギャーッ!冷てぇっ!」
ルナ 「あはは、あはははははは」
ルナは何が面白いのか、海に濡れた俺を海面から引きずり出し、そして走る。
悠介 「どこ向かってんだ!」
ルナ 「インド!」
悠介 「帰せ!今すぐ俺を家に帰してくれっ!」
ルナ 「ヤ」
悠介 「ひとことで打ち切るなっ!」
ルナ 「じゃあドイツ!ナチスの科学力はぁあああああ!
世界一チィイイイイイイイイイ!!」
悠介 「世界一チィイイイ!ってなんだ!一チィイ!!って!」
ルナ 「わたし知〜らない♪」
悠介 「くはぁ!こうなったら実力を行使して!月鳴の」
ルナ 「わぁあっ!だだだダメだってば!
こんなところで月鳴力の印を結んだらそれこそ魚の餌よ!」
悠介 「だったら今すぐ帰るぞ!」
ルナ 「……帰らないとダメ?」
悠介 「………」
ルナ 「ね、悠介……」
空に浮き上がり、怯えるように訊いてくる。
まったく……。
どうしてそんな顔するかね、このデス様は。
悠介 「お前はさ、今日は何がしたかったんだ?」
ルナ 「え?…………………………たの」
悠介 「うん?」
ルナ 「悠介と………………ったの」
悠介 「?」
ルナ 「うぅう……」
顔を真っ赤にするルナ。
ゼノの一件が片付いてからというもの、
こいつはこいつで人間らしくなったというかなんというか。
悠介 「聞こえないぞ、もっとハッキリ」
ルナ 「ゆーすけと一緒に居たかったのっ!」
顔を真っ赤にして涙目混じりに叫ぶ目の前の死神さん。
悠介 「……俺はどこも痛くないが?」
ルナ 「………………」
悠介 「うわっ!待て!泣くなっ!」
ていうかなんで泣く!?
異端死神としての我が儘なルナしか知らない俺は、
こんな人間のようなルナは苦手だった。
なんというか、どう扱っていいか……いや、どう接すればいいかが解らない。
悠介 「わかった!わかったから泣くな!変な冗談言った俺が悪かった!」
ルナ 「…………」
ルナがスンスンと鼻を鳴らしながら、滲んだ視界で俺を見る。
俺を両手で持ち上げているせいで、その涙は拭えないでいる。
───仕方ないヤツだな、と。
妙に諦める感じに優しくなれるのはこういう時なんだと思う。
ルナ 「あ……」
悠介 「………」
ルナの涙を拭ってやる。
ルナはびっくりしたような表情をしたあと、俺に任せるように目を閉じた。
悠介 「ほんと、子供みたいなヤツだよ。お前ってさ」
思わず出る苦笑。
それも心地良く思える。
ルナ 「うぅ……」
泣き疲れた子供の掠れたような声で落ち込み度合いを表すルナ。
でも、思ってみれば当然なのかもしれない。
ルナは異端として生まれ、
黄泉でもこの世でも相手をしてくれる者なんて居なかったんだ。
思えば、この永い年月。
ルナが生きた数百年の中。
唯一まともに話せた相手なんて俺だけだったんじゃないだろうか。
それも俺が子供の頃の時だけ。
それからの年月はきっと孤独だったんだろう。
そんな彼女だ。
本能的に人と話すこと以外は、本当に子供なんだろうと。
そんな勝手な想像をしてしまった。
だというのに、その想像に強い説得力のようなものを感じ、納得してしまう。
悠介 「……なぁ、ルナが好きな場所ってあるか?」
ルナ 「………」
悠介 「怒らないから」
相変わらずちょっと怯えているルナを宥める。
というか、何に怯えているかは謎だ。
いきなりこういう態度をされると、こちらも対応のしようが無い……。
はぁ、恋愛感情とか抜きにしても男って馬鹿だよなぁ……。
ルナ 「……悠介の隣」
悠介 「あう?」
ルナ 「悠介の、隣……」
悠介 「……それはなんですか?
『今の悠介なんて大ッ嫌い!』と言ったアナタの言葉ですか?」
ルナ 「………」
あ、また涙目になった。
なかなかからかうと面白い。
悠介 「まあ冗談だ。とりあえず望んだ答えとは違うな。
場所って言っても、行きたい場所とか好きな所とか、そういう意味だ」
ルナ 「……悠介ってさ、一度親しくなった人には遠慮しないクチでしょ……」
悠介 「だろうな。だから人は選ぶ」
ルナ 「うー……」
悠介 「ほら、うじうじしてないでどっか行こう」
ルナ 「悠介に『うじうじしてないで』って言われたくない……」
ぼかっ!
ルナ 「うぅっ……」
悠介 「殴るぞ」
ルナ 「もう殴られてる……」
悠介 「気合で治せ。それより……」
ルナ 「………」
あ、不満そうな目。
悠介 「ルナ、お前さ。俺が子供の頃に契約したあと、何処に行ってたんだ?」
ルナ 「……教えてあげない」
悠介 「そうか」
ルナ 「………」
悠介 「………」
ルナ 「もっと食い下がってよぅ〜……」
悠介 「言いたいなら早く言えばいいだろう」
ルナ 「う〜……」
うーん、ホントに面白いヤツだ。
こんなに面白いヤツだったとは気づかなかった。
……いや、気づこうとすらしなかったんだろうな。
契約という依代(を過信して、
近くにありながら近くに居ようと思わなかった。
そこで、なんとなく思った。
魂結糸が弱まったのもそうした拒絶や心の置き方に問題があったんじゃないだろうかと。
……いや、今更なんだろうな。
気づくのが遅すぎた。
ルナ 「……悠介?」
悠介 「うっしゃあルナ!インドでも何処でも付き合うぞ!」
ルナ 「え?」
悠介 「ほらっ、一日は待ってくれないぞ!急げ!」
ルナ 「あ───らじゃーっ!」
疑問の顔が一変して満面の笑みに変わり、ルナは俺を抱きかかえて空を飛んだ。
ルナ 「えっとね、悠介」
そんな中、ルナが口を開いた。
ルナ 「悠介と契約したあと、わたしはね」
悠介 「ストップ」
ルナ 「?」
悠介 「もうどーでもよくなった。言わなくていいよ」
ルナ 「むー」
悠介 「はははっ、そう困った顔するなよ」
苦笑というわけでもなく、俺は純粋に笑った。
憑き物がとれたように、心から気持ちが溢れてくる。
こんな気持ちは初めてだった。
悠介 「まずはカレーだな」
ルナ 「え?」
悠介 「インドといったらカレーだ」
ルナ 「インド通貨なんて持ってないよ?」
悠介 「どうしてお前はそういうところで常識的なんだ……」
ルナ 「えっ?ご、ごめんっ、ごめんね悠介っ」
悠介 「………」
どうしてそこまで慌てて謝るんだ?
悠介 「ルナ、お前なにか変だぞ?」
ルナ 「あう……自分でも解ってるつもりなんだけど……」
目を閉じて溜め息を吐く死神さん。
ルナ 「……えっと、悠介?」
悠介 「ん?」
ルナ 「………………わたしのこと、嫌いにならないでね」
悠介 「……なにを言っとるんだお前は」
ルナ 「あ、あはは……そうだよね。変だよね、わたし……」
もう一度溜め息を吐く死神さん。
さっきより暗い溜め息だ。
……変だな、確かに。
こっちのペースも狂わされる。
もしやこいつなりの策略なのか?
……解らん。
ルナ 「あはっ、あははははっ!と、飛ばすよ悠介っ!」
悠介 「なにっ!?ちょっと待てルナ!待」
ヴオ───ッ!
風が鳴った気がした。
顔が変形してしまいそうになるほどの風圧。
というか空気の壁。
お、音速、越えてしまうのですか?
悠介 「止ま───ガハッ!」
喋れる状態じゃなかった。
し、死ねる!
久々に死ねる気がする!
嗚呼懐かしいなぁこの感覚!
ゼノの時とは違う、別の意味で死ねる感覚!
いや、確かにヘタすりゃ死ねるんですけど!
ていうか止まって!止まってーっ!
必死になって魂結糸に意思を伝えるような感覚を作る。
ルナ 「───!」
と、ルナの表情が変わった。
俺と目が合った途端、なにやらとろけるような笑顔になった。
と、思ったら。
きゃーきゃー言いながらスピードを上げ、さらにひねりも加えた。
イ、イッツ・ミラクル!じゃねえ!
ああ、大いなるインド様!その大地に一刻も早く着きたい!
なんてことを思いながら、俺の意識は遠のいていった。
それは人間の自己防衛本能に感謝した瞬間でもあった。
───……。
木葉 「香港、ラオス、ミャンマーを突っ切り、インドに到着した模様です」
レーダーを見ながら、ポツリと言う双子の妹。
若葉 「公園に居たんじゃなかったんですか……?」
それに対し、疑問をぶつける双子の姉。
春菜 「ゔ〜……インド洋が……インド洋がぁ……」
うなされている先輩。
水穂 「お茶、入りましたよー」
お茶を持って参上する後輩。
セレス「毎回毎回、羊羹で悪いんですけど」
羊羹を持ってくるわたし。
木葉 「現在インドを突っ切り、巻き返して日本に向かってます」
中継を続ける双子の妹。
若葉 「それはもういいからお茶にしましょ……」
やはり溜め息を吐く双子の姉。
それに一同(一部を除く)が賛同して、お茶会が開始された。
学校の屋上に行こう。
そう言い出したのはどっちだったのか。
或いは、どちらともなくの無意識によるものだったのか。
経緯はどうあれ、俺とルナは学校の屋上に居た。
ルナ 「うぅ〜にゅ〜ぅ……」
調子にのって飛ばしまくったルナに待っていたのは凄まじい疲労でしたとさ。
悠介 「大丈夫か?」
そんなルナに膝枕をしている自分。
それがまた妙な気分だ。
……断っておくが、申し出たのはルナであって俺じゃない。
しかも半ば強制的に俺の膝は枕にされ、ルナは退こうともしない。
ルナ 「うー……ごめん、ちょっと眠る〜……」
喋るのも一苦労といった感じで、搾り出すように喋るルナは面白いものがあった。
それから数分。
ルナから規則正しい寝息が聞こえ始めた。
悠介 「……馬鹿だな、ホント」
こんなになるまでハシャがなくても、時間なんてたっぷりあるのになぁ。
今日じゃなくてもまた明日。
明日がダメでも明後日がある。
別に急ぐ要素なんて何処にも無いのにな。
悠介 「……まあ、気持ちは解らなくもないけどな」
小さく笑いながら、ルナの寝顔をつついた。
そんなものには大した反応も見せず、むにゃむにゃと寝ている。
どんな怖い存在でも寝顔はカワイイとは良く言ったものだ。
時折に吹く風に揺れるルナの髪の毛に触れながら、
手間のかかる子供を眺めるように笑う。
……ふぅ。
こう見てると、ほんとに普通の女だよな。
壁抜けするところと家系の血に勝る馬鹿力と空飛ぶところとかを引けば完璧だろう。
爆発の中で平気だったり天井に大穴開けたりしたことが無いのはちょっと残念だが。
悠介 「……なんのこっちゃ……」
溜め息をひとつ吐いて、俺も寝転がった。
膝枕といっても横向きに寝かせてあるので足を伸ばすのに問題はない。
悠介 「あーあ……今日は無意味に疲れた……」
目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。
そうすることで俺の意識はゆっくりと闇に飲まれていく。
そんな中で、こんな日も別に悪くないかな、とか思って安心している自分に気づいた。
───そして、時間は流れてゆく。
それが当然であるように、止まることもなく。
寝過ごして慌てるのもいい。
遅刻して苦笑するのもいい。
ただ、生きているということ。
それがどれだけの意味があるか。
俺はこの数ヶ月の間に知ることが出来た。
生きる意味が解らないのなら探せばいい。
疲れてしまったら休めばいい。
先にあるものを夢見て、ただ歩いていこう……。
ゆっくりと……ゆっくりと。
やがて隣に居てくれる人が現れた時、自分は笑っていられるように───。
悠介 「…………これからも、よろしくな……」
言って、穏やかな寝顔の頬を撫でた。
そうすると、くすぐったそうにして、彼女は笑ったのだった。
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