───孤児───
朝。
目を覚ませば自然な陽光が俺の部屋の窓越しに差し掛かっていた。
起きた原因はこれかな、とか思いながら布団を放置して着替える。
5分程度経ってから布団を仕舞い、部屋から出ていった。
もちろん考えることは朝食のことばかりだ。
姉さんの食中毒は幸いすぐに治ったが、
俺の料理じゃなければ嫌だと言う禁断症状が見え隠れするようになってしまった。
まあ、あいつらの料理の味見役をさせられていたのならそれも頷けるわけで。
半分は俺の所為もあるのだから、また旅に出たりするまでは普通に作るのも悪くない。
悠介 「よし、料理開始」
台所に着くとそのまますぐに調理を開始する。
日課になっていると案外いろいろなことがパターン化してきて、
考えるよりも先に行動出来るようになる。
……しかし。
悠介 「……んー、やっぱりあの忘れられた村で作ったような味は出ないな……。
幻でもなんでもいいからあの味噌だけでも貰ってくればよかった」
無茶な思考回路もこの際ご愛嬌だ。
欲しいと思うものは隠さず欲しいと思うようにしたのだ。
悠介 「……まあ、イメージさえ纏まれば創れはするんだが。田舎味噌が出ます」
味噌を創造して、あらかじめ張っておいた出汁に溶かす。
それを軽くすくって味見。
悠介 「……む、なんか違う気がする。もっとこう……広がるものがあった筈なんだが」
どことなく不満が残る。
何かが決定的に足りないのだ。
それは野菜か?
出汁が違うのか?
それとも───
悠介 「…………あ、こりゃ無理だ。同じ味が味わえるわけがなかった」
味わってる途中で単純な事実に気づく。
味の変化の違いは恐らくあの景色と高揚していた俺の心の問題だろう。
くそ、不覚。
少し考えれば解っただろうに。
少々ヘコミながら調理を続ける。
一応食卓には田舎味噌使用の味噌汁を出すつもりだ。
味がいいのは確かだからな。
悠介 「よし、完成っ」
なかなかの出来映えに感心する。
うーむ、やはり料理はいいな。
何かを作るという過程が楽しくてたまらない。
さてと、あとはこれをダンダンダンッ!
悠介 「……誰だ、こんな朝っぱらから玄関叩くヤツは」
だいたい、チャイムあるんだからそれ鳴らせって。
ピンポーン。
悠介 「………」
人の心を読むかのようにいきなり鳴らされる。
ああ、こりゃ彰利だ。
わざわざ確認とって入ってくるようなヤツじゃないが、これは間違いない。
ぶつくさと考えながらも玄関まで歩き、そこを開放する。
彰利 「よぅ、親友」
悠介 「なんの用だ」
彰利 「おう、ちょっと相談事があってな。今回はマジだ」
悠介 「………」
彰利 「……あの、ダーリン?
たまには親友の言葉信じてくれてもいいんじゃない……?」
悠介 「……ま、いいか。それで?」
彰利 「立ち話もなんだから朝飯食わせてもらいながらでも」
悠介 「今ここで話せ」
彰利 「うう、切ねぇ……」
わざわざハンケチーフを取り出して優雅に涙を拭う彰利。
彰利 「切なすぎて涙も止まることを知らず、
やがて溶解液のようにハンケチーフすら溶かしてしまうわ……」
悠介 「なに馬鹿なこと言って……うわぁホントに溶けてるーっ!」
彰利 「まあそんなことはこの際忘却の彼方にすっとばして。
ひとまず聞いてくれよアロエリーナ」
悠介 「誰がアロエリーナだ」
彰利 「ちょっと言いにくいんだけどさ、聞いてアロエリーナ」
ぴしゃん。
玄関を閉めた。
声 「キャーッ!冗談です!真面目に話すから閉めな───鍵までかけんなコラ!
待て!話す!待って!ストップ!止まれ!止まって!」
ぐわらぁっ!
悠介 「うるさい!静かにしろ!」
彰利 「そんなこと言ったってYO!もとはと言えばダーリンが」
悠介 「愚痴はいいから用件だけ言え」
彰利 「ぐおっ……よ、用件だけか。よ、よーし……。
孤児院に行くから一緒に来てくれ」
悠介 「……孤児院?」
彰利 「そ、孤児院」
悠介 「ここらへんにそんなのあったか?」
彰利 「うんにゃ、弦月屋敷のずっと遠くの方だ。
えっとな、中学の時に通ってた学校方面だ」
悠介 「……あっちか」
彰利 「あんまり乗り気じゃなさそうだな」
悠介 「いや、構わん。行こうか」
彰利 「おっしゃあ!さすがアタイのダーリソ!
というわけで邪魔者が来る前に……プレイスジャン〜ンプ!」
悠介 「え?あ、おい!俺まだ朝飯ッ!」
キィンッ!!
───気がつけば知らない場所でした。
悠介 「………」
彰利 「あらダーリソ、どしたのショゲかえっちゃって」
悠介 「あ、いや……なんか俺って周りに振りまわされてばっかだなぁって……」
彰利 「俺は散々殴られてるが」
悠介 「自業自得だボケ」
彰利 「うう……ちくしょう」
溜め息を吐いて目の前の建物を見る。
悠介 「ここがそうか?」
彰利 「そう、ここが後楽園遊園地ぞ!さあ!俺様と握手!」
悠介 「寝言は寝て言え」
彰利 「起きてる!アタイもう最強に起きてる!
赤マムシの効果も裸足で逃げ出すくらいギンギンぞ!?」
悠介 「ここで何をするんだ?」
彰利 「何をだなんてそんな……アタイにそれを言わせるの……?」
ボギャアッ!
彰利 「ダニーッ!?」
ザシャアッ!ドシャアッ!ゴロゴロズシャーアーッ!!
彰利が器用に滑ってゆく。
やがて建物の壁にぶつかったあたりで中に居た子供に気づかれた。
子供 「あ、あっくんだー!」
子供は嬉しそうに彰利の傍に駆け寄り、抱きつく。
彰利 「はっはっは、俺様降臨。超降臨」
子供 「あはははは!ばーかばーか!」
彰利 「……時々、子供の悪意の無い無邪気さに泣けてくる……」
目頭を抑えて涙をこらえる彼の姿がロダンの考える像になっていた。
彰利 「みか、あんまりヒドイこと言うと俺様泣くぞ」
みか 「あっくんの泣いた顔、面白いから好きー」
彰利 「ひでぇ……何がこの子をこんなに変えてしまったの……?」
十中八九お前だボケェ。
彰利 「みか、院長はどうしてる?」
みか 「いんちょーせんせなら裏でお花にお水あげてるー」
彰利 「そかそか。そんじゃまあ挨拶でも。悠介、行くぞー」
悠介 「……お前が仕切るのってなんか変な気分だよな」
彰利 「あ、やっぱり?」
みか 「……この人だれ?」
彰利 「この人か?この人はな、この歳になっても未だオーマイコンブの会員証を」
ギロリ。
彰利 「───……俺の親友だ」
みか 「そうなんだー。ね、おにいちゃん。お名前は?」
悠介 「………」
彰利 「悠介?」
悠介 「……あ、いや。俺は晦悠介。悠介だ」
みか 「ゆーすけ?」
悠介 「ああ」
みか 「じゃあゆっくんだね」
悠介 「ゆっ……」
彰利 「……気にしちゃならねぇ、これはこの子の癖なんだ……」
悠介 「………」
声 「おや、彰利じゃないか」
彰利 「お?おはーッス!シズノおばちゃんひさしぶりー!」
シズノおばちゃん?って……ミズノおばちゃんじゃないか!
悠介 「なっ……いや、ど、どうしてこんなとこに……!?」
彰利 「ああ違う違う。ダーリン?この人はミズノおばちゃんの姉でシズノさんだ」
シズノ「妹がいつもお世話に」
悠介 「ふ……双子……?」
彰利 「いや、もひとつ上に姉が居るんだ」
悠介 「三つ子!?あ……で、名前は……?ユキノか?ツキノか?カノか……?」
彰利 「マッスルインフェルノ」
悠介 「うそつけこの野郎!」
彰利 「なにぃ!?嘘と決めつけるのはよくないぞダーリン!」
悠介 「それにしたって限度ってもんがあるだろが!」
彰利 「バッケヤラァ!そんなこと言って、
もし真実だったら悲しむのはマッスルインフェルノおばちゃんなんだぞ!?」
悠介 「ぐっ……」
シズノ「姉はユズノって名前だけど」
悠介 「死ねェェエエエッ!!」
彰利 「ば、バラしちゃならねぇーっ!ちょちょっと待」
バガァアア!!
彰利 「ギャーオォオオオオオゥ!」
ギュリギュリギュリギュリドカバキベキゴキゴロゴロズシャーッ!
悠介 「あぁくそまったく!少しでも間に受けそうになった自分が恥ずかしいわ!」
彰利 「恥ずかしがらなくたっていいのよダーリソ、じきに慣れてくるわさ……。
クォックォックォッ、ウヴなネンネじゃあるまいし」
悠介 「当然のように横に立ってんじゃねぇーっ!!」
ドバァアアアアアンッ!!
彰利 「ギャーッ!!」
ドグシャゴガシャドガッゴスッゴロゴロゴロ……ドサ。
シズノ「……やれやれ、いつまで経っても変わらないんだねぇ、彰利は」
悠介 「え……?いつまで経ってもって……随分前からあいつのこと知ってるんですか?」
シズノ「ああ、彰利は浄子さんに連れられて、たまにここに来ていたからね。
子供の頃から知っているっていえば知っているんだよ」
悠介 「浄子さんって確か……」
シズノ「そう、彰利のお母さんさ。やさしい人だったのにねぇ……」
悠介 「………」
シズノ「アンタ、悠介だろう?ミズノから話は聞いてるよ」
悠介 「あ、はぁ……」
シズノ「さてと、子供達の朝ご飯は終わったけど……何か食べてくかい?」
悠介 「いや、こっちはこっちで適当にやるんで」
シズノ「そうかい。それじゃあ……彰利ー!子供達が待ってるよー!」
彰利 「応ッ!」
バシュウッ!
倒れたままの状態で飛ぶ彰利。
そしてドシュウウウと降りてきて着地。
彰利 「ギャア!」
しかし足を挫いたようだ。
彰利 「フフフ、どうやら足の骨が折れたらしい……。
だ、だがよ……俺が行かなけりゃあいつらは寂しい思いをする……。
へへ……行かねぇわけにはいかねぇだろ……?」
悠介 「なんで俺に言うんだよ」
彰利 「かーっ!ノリの悪いお方ね!
ここは劇的なシーンを引きずっていった方が喜ばれるでっしゃろ!?
なんのために足挫いたと思ってんの!」
悠介 「趣味だと思った」
彰利 「んなわけあるかぁっ!」
悠介 「怒るな怒るな。ていうか怒りながらでもふざけるのをやめないのかお前は。
なんだよそのポーズ」
彰利 「鳳天堕空格闘流・無点裂殺拳の構えだ。
如何なる方向からの攻撃も凌ぎ、倍にして返す柔の最終奥義ぞ」
悠介 「今思いついた流儀だろ」
彰利 「なにぃ違うぞ、この型は遥か昔のモンゴリアン柔術の中でだなぁ」
悠介 「ブラジリアン柔術じゃないのかよ……」
彰利 「あ、そう!それ!それの開祖たる人がだな」
悠介 「よし、もう行くか」
彰利 「無視!?てめぇダーリン!アタイが怖いの!?」
悠介 「キモい」
彰利 「ヒドイ!あっさりとした言葉の中に最強の中傷が混ざってる!」
シズノ「なにぼさっとしてんだい、早く入りな」
彰利 「うおっと、こりゃスマネェザンス。
フフフ、とうとうこの日のために用意しておいたこれが報われるぜ」
彰利は懐から白く中々大きい包みを出した。
大きさからして絵かなんかだろうか。
あの形は……額縁ごと持って来たってわけか?
というよりまず何処から出したのか謎だ。
悠介 「お前さ、そういうのってどこから出してるわけ?」
彰利 「うむ、実は俺の腹部にはだな、
四次元ポケットとは名ばかりの異次元ポケットがありまして。
そこからズオオと出しているわけですよマイク・タイソンくん」
悠介 「それを言うならワトソンだろ。なんだよその鉄の拳持ってそうな名前は」
彰利 「まあまあダーリソ。おばちゃんもああ言ってることだし、まずは中入ろう」
悠介 「……お前に先を促されていいことがあった試しって無いんだが」
彰利 「ダーリンが女の裸体について熱く語ってるから悪いんでしょ!?」
悠介 「いわれの無い妙なことで怒るな!
お前のそういうところが原因だって言ってるんだよ俺は!」
彰利 「その時、その言葉が最後の言葉になるとは夢にも思わなかった……」
悠介 「勝手に死期を決めるな!」
彰利 「いや、俺が」
悠介 「お前の死期かよ!しかも女の裸体ってのが最後の言葉か!?」
彰利 「いやーんダーリンたら白昼堂々女の裸体だなんて叫んで!助平!この助平!」
悠介 「お、おおおおお前にスケベとか言われたかないわっ!」
彰利 「うっふっふ、わかってる、アタイ解ってるワ。
ダーリンたら実はムッツリスケヴェだったのね」
悠介 「スケヴェ言うな!」
彰利 「あらやだ!この子ったらムッツリの部分否定しねぇのね!?
助平!この助平!ダーリンのムッツリ助平!」
悠介 「───」
ブチリ。
彰利 「あ」
悠介 「がぁああああああああっ!!」
彰利 「ウギャアダーリンがキレたーッ!!
ちょっと待ってェ!ちょっとしたジョークのつもブボ!ちょブボ!
ゲブボ!は、話くらいさせぼはぁっ!ぶべらはべら!ぎゃあああああっ!!」
───……
ぱちぱちぱち。
子供達の拍手で迎えられた場所で、俺と彰利はまず挨拶をした。
彰利の顔がピカソに匹敵するほどボコボコなのはまあ無視だ。
これはこれで芸術かもしれん。
彰利 「んなわけねぇでしょ!?」
悠介 「怒るな。ていうかだいたい、なんのために俺連れてきたんだよ」
彰利 「ダーリンにもこの紙芝居を観てもらいたくてな。
ままま、子供達と一緒にそっちに座ってごろうじろ。
さすればいい大人の分際で子供に混じって紙芝居見る疲れた中年男性の気持ちが」
悠介 「もう少し人類の心にやさしい例え言葉はないのかよ!」
彰利 「むう、やさしい例え……
昼間っからスーツを着つつ、公園でたそがれながら紙芝居見てる疲れた中年男性」
悠介 「変わってねぇ!やさしくもねぇ!」
彰利 「あ、じゃあスーツ着ながら公園でお弁当食べつつ、
時折空を見上げて『……どう切り出そうか……』とか言ってる疲れた中年男性」
悠介 「お前の例えの中にゃあ疲れた中年男性しか出てこんのか!?
謝れ!世界のお父さん達に謝れ!ていうか例えの根本がまず変わってねぇ!」
彰利 「いや、違うぞ悠介。実は彼はスーツをびしっと決め、
ハニーにお弁当まで作ってもらっておきながら、
その日自分が休みだったことを途中で思い出した疲れた中年男性でだな」
悠介 「だったら紛らわしい言いまわしするなよ!
ていうかじゃあ『どう切り出そうか』ってなんなんだ!?」
彰利 「………」
悠介 「そっ……そこで目ぇ逸らすなーーーっ!」
彰利 「はっはっは、え〜、それでは。
子供達に夢と希望と栄えを知らしめる紙芝居の始まり始まり〜」
悠介 「なっ、ちょ───まだ話が」
彰利 「子供達が待ってるんだ……待たせるわけにはいかない……」
悠介 「なにいきなりいい顔になっていい言葉言ってんじゃい!」
彰利 「まあまあいいから座りなされ。え〜、では始まります」
悠介 「………」
仕方なく傍観。
はぁ、まったくなんでこんなことに……。
彰利 「───それは昔の物語。
とある街で出会ったふたりの少年の小さな小さな冒険……」
……ん?
それって……
彰利 「少年のひとりを……仮にYと名づけようか。
そしてもうひとりの超絶美形の少年の名前がA。ふたりはいつも」
悠介 「なんでアルファベットなんだよ!」
彰利 「いきなりツッコミモード全開にならねぇでよダーリソ!進まないじゃない!」
悠介 「別にいいからちゃんと名前で語れよ……。
子供達がAだのYだの言われたって解るわけないだろ?」
彰利 「ぬ……然り。それじゃあ名前を非公開から公開にチェンジだ。
少年のひとりの名前はゴリモルジェフ・オドレナニガンツケテンネン・ヤクザ。
そしてもうひとりの超絶」
悠介 「どこの国の人様だよそりゃあ!」
彰利 「ええいあれもダメこれダメで我を通すなんて非道いわよダーリン!
それにちゃんとアルファベット通りじゃない!ヤクザって!」
悠介 「子供の未来を尊重した名前の関連付けくらい出来んのかお前はぁっ!」
彰利 「えー?それってあれだろ?希望と書いて『さき』とか読む……頭大丈夫か悠介」
悠介 「だからお前に頭の心配とかされたくないわ!」
彰利 「そんなこと言ったってYO、騎士と書いて『ないと』ちゃんはまずいだろ?」
悠介 「文献の紐ほどいて引っ張り出してきたようなネタはいいんだよ……!」
彰利 「いやしかしだな。そこまでやる気ならどうせなら……うむ。
一番最初に生まれたヤツに王様と書いて『きんぐ』と読む名をつけるとか。
女だったら女王と書いて『くいーん』とか。うはははは!これ俺なら首吊る!」
悠介 「……死んでも御免だな……」
彰利 「で、俺がそこらへんの流儀で考えたわけですよ。
豹戦士と書いて『ぱんさーうぉりあー』くん。自害したくなるような名前だ」
悠介 「……自分の子供にだけはそんな名前つけるなよ……。絶対グレるぞ」
彰利 「俺もそう思う」
くいくい。
悠介 「ん?」
みか 「ゆっくん、紙芝居見たいから邪魔しちゃだめだよぅ」
悠介 「うぐ……」
彰利 「ムヒョヒョヒョヒョ、これで悪は決定したな」
悠介 「正義はそんな笑い方しないと思うが」
彰利 「チィ、勝ったというのに勝った気がせんのはそういうことか」
意味が解らん。
彰利 「では再開しますぞー!……以下略!」
悠介 「話になってないだろそれじゃあ!」
彰利 「馬鹿野郎!この紙一枚いくらすると思ってんだ!
俺には数枚買うだけで精一杯だったんだ!」
悠介 「だったら普通の画用紙買わんかい!」
彰利 「こ、この子達の喜ぶ顔が見たくてつい見栄張っちまって……!」
……馬鹿だ。
馬鹿が居る……。
彰利 「さあ冗談はこれくらいにして。始まり始まり〜ンヌ」
悠介 「冗談かよ!」
彰利 「子供達よ、これは実際にあったお話だぞ〜。
耳の穴かっぽじって耳汁出しながらとくと聞けー!」
悠介 「出せるか!」
彰利 「ええい!いちいち揚げ足をとらないでくれたまえ!」
悠介 「生ける揚げ足取り野郎のお前に言われたくない!」
彰利 「リビングアギャアシャー!?ひでぇ!なにもそこまで言わなくても!」
悠介 「誰もそんなこと言ってな───アギャアシャー!?」
彰利 「揚げ足のことね」
悠介 「わざわざ説明されなくても解る」
彰利 「だよなぁ。では続きいこう」
……俺も落ちつこう。
こんなところでツッコミまくってたってこいつの術中からは逃げられん。
いや、そもそも自分でハマってるのか?俺ってば……。
───……さて。
紙芝居の中の少年の名前は予想通りに俺と彰利の名前で、
物語はふたりの子供時代のことを語っていた。
出会ったことからゼノとの対面までを簡潔に表したものだ。
彰利 「───しかし!悠介はゼノの攻撃を受けて吹き飛びました!
嗚呼、なんという無慈悲!しかし俺やその他の人々も立てない状況の中!
絶望するしかなかったその瞬間!悠介は生まれて初めて神頼みをするのでした!
『ああ、かみさま……どうか俺に力を貸してください……』と!」
……ところどころ捻じ曲がっていたが、気にするほどでもなかったので聞き流す。
しかしまぁよくこれだけネタが出るもんだ。
みか 「それから……?どうなったのあっくん……」
彰利 「しかし世界は無慈悲だった……。
神様は居なかったのか、彼に力を与える者は居なかったのです……」
みか 「そんなぁ……ゆっくん死んじゃうの……?」
実際に起きたこととか言っておいて殺すなよ……?
彰利 「その時です!急に空が暗雲に飲まれ、その先から神様が降りてきたのです!」
……いや、暗雲って時点で期待は持てない……。
みか 「わぁ!どんな神様だったのっ!?」
彰利 「技巧の神様」
悠介 「やっぱりかてめぇーーっ!!」
彰利 「やがて技巧の神が悠介の体に入ると悠介の体にシマ模様が浮かび上がり」
悠介 「や、やめろーっ!人の尊厳を壊しつくすような発言するなーっ!」
彰利 「とうとうゼノという死神をマッスルインフェルノで退治したのでした!
強いぞゼブラ!すごいぞゼブラ!今日この日からお前は晦悠介ゼブラだ!」
みか 「ぜぶらーっ!」
子供 「ぜぶら!ぜぶら!」
彰利 「キャアアゼブラ!このゼブラ!ニクイねこの!クソゼブラ!このゼブラめが!」
悠介 「くっはーっ!勝手にあだ名つけてしかもクソゼブラ!?てめぇ死なす!」
彰利 「いやーん!勘弁ー!」
みか 「いんふぇるのー!」
子供 「いんへるのー!」
彰利 「ゼブラ!ゼブラ!」
バガァッ!
彰利 「キャーッ!?」
みか 「いまだー!いんふぇるのー!」
子供 「まっするー!」
悠介 「で、出来るかーっ!」
彰利 「ごめんなさいねぇ、この子ったらあの時に比べるとヘトゥァーレになっちゃって。
もう三大奥義のひとつ、マッスルインフェルノはうてなくなっちゃったのよ」
みか 「えー……?」
子供 「へたれー……」
な、なんで俺がここまで言われなけりゃならないんだ……!
彰利 「よし、代わりにホラ、おにいさんが空を飛んであげよう。
俺様の大きな背中に乗るがいい。部屋の中だけだが、空の旅を披露しよう」
みか 「みか乗る〜っ!」
子供 「ぼくも乗る〜っ!」
彰利 「はっはっは、焦るな焦るな。まずはあつしからだな」
あつし「やったぁ〜」
彰利 「よし、しっかり掴まるんだぞ〜?ぬううん!!」
ブワァッ!
あつし「わぁ、ほんとに浮いたー!」
彰利 「クォックォックォッ、おいどんは子供にゃあ嘘つかねぇだー!」
ドシューッ!ゴシャーッ!
あつし「あははははは!すごいすごいー!」
彰利 「よし、次はみかだ」
みか 「はーい」
あつし「えー?もう終わりー?」
彰利 「また今度な。さ、どんどん乗れー!」
みか 「はーい」
ドシュウウウン!ゴシャーッ!バシュウウ!
みか 「すごいすごいー!」
彰利 「よし次だ!」
悠介 「次は俺だ」
彰利 「……ど、童心を取り戻した悠介!?」
悠介 「裏キャラみたいな名前つけるな」
彰利 「よっしゃあどんと来い!飛んでやるぜ!」
悠介 「だが跨るのはどうかな……そうだ、足で乗っていいか?」
彰利 「ああ、そりゃ構わんぞ」
悠介 「よっと……」
ゴリゴリ……!
彰利 「おおお、そこそこ、最近凝っちゃってもう……」
悠介 「マッサージじゃないって」
彰利 「よし、いくぞ?」
悠介 「ああ待て。ここはひとつアクセルとブレーキの感覚を決めよう。
前足……まあ今前に出してる右足だな。そこに体重がかかったら前に進め。
後ろ足……左足に体重がかかったらブレーキだ。どうだ?」
彰利 「ふむ、じゃあちょっと試してみますか」
悠介 「よし。よっと……」
彰利 「……ふむ、この状態……悠介が態勢を前に傾けたら前に進むって感じか」
悠介 「そういうこと」
彰利 「OK!こりゃなかなかおもろい!いくぜダーリン!」
悠介 「おうこい!」
彰利 「スリー!トゥー!ワァン!イグニッション!」
ドシュウウン!
彰利 「フフフ……いいスタートだ……!後ろの車が追いついてきてねぇぜ……!」
悠介 「レースじゃないって。……よし、ここでUターン!」
彰利 「うらぁっ!」
ギュリィッ!
彰利 「おっほっほっほ!こりゃオモロイ!
これなら目ェ瞑ってでも出来るわ!操縦任せたぜダーリン!」
悠介 「おう任せろ!いくぞ!」
彰利 「よし来い!」
悠介 「上に上昇!」
彰利 「OK!落ちるなよ!」
グワァッ!
悠介 「そのまま前進!」
彰利 「なにぃ!?」
悠介 「思い知れ!お前がキン肉星の大王の器でないことをーっ!」
彰利 「おわーっ!」
悠介 「マッスルインフェルノォッ!!」
ドガァアアアアアアンッ!!
彰利の頭が天井に突き刺さった。
悠介 「───っと。いいか子供達、あれがマッスルインフェルノだ」
みか 「かっこいー!」
あつし「すっげぇー!」
子供 「でもあっくん、刺さったまま落ちてこないよー……?」
悠介 「あれはあいつの趣味なんだ」
ズボォッ!
彰利 「なにあることないこと吹聴してんのさダーリン!」
悠介 「おお生きてたか」
彰利 「うわヒドイ言いぐさ!
でもまさかマッスルインフェルノをやられる日が来るとは夢にも思わなかった」
悠介 「普通は無理だって」
彰利 「当たり前じゃあ!ダーリンてばヒドイじゃない!
親友にマッスルインフェルノ極めたヤツ初めて見たよ俺!」
悠介 「出来るわけないんだから当たり前だ。そう怒るな」
彰利 「うう……頭蓋が……頭蓋がぁぁ……!
へへ……だ、だがよ……これで思い出したぜ……!
中学時代に理科室の人体模型に、
マッスルリベンジャーかけて壊したのは俺だ……!」
悠介 「余計なことは思い出さんでよろしい」
彰利 「あれはそう……俺がまだあどけないベイビーだった頃のこと……」
悠介 「いきなり回想モードに入るな!ていうかベイビーじゃ赤ん坊じゃないか!」
彰利 「はっはっは、いちいちツッコんでくれて嬉しいぜ親友。
───……あれは……俺と悠介が動く人体模型の真偽を暴くために、
夜の学校に潜り込んだ時のことだった……」
───……再現VTR……───
悠介 「……どうして俺がお前に付き合わなきゃならないんだよ……眠いっていうのに」
彰利 「まあまあいいじゃないの。こういうスルリがないと日々は刺激が足りないのよ」
悠介 「それを言うならスリルだ」
彰利 「おっといけねぇ。しかしまぁ俺も律儀よねぇ。
中井出との論争を経て、わざわざ真偽を確かめに来るなんて」
悠介 「そういうのはムキになった馬鹿って言うんだ」
彰利 「……そうかも」
遠い目でたそがれた先に現場の理科室が見えた。
なんというタイミングぞ。
彰利 「よし着いた。さーてと、うりゃ」
メキャッ!
まずは指で鍵穴を破壊する。
悠介 「どういう力してるんだよお前!」
彰利 「しーっ!お馬鹿さん……!そんな大声出したら見つかるでしょ……!」
悠介 「くっ……」
彰利 「アタイの気を惹きたくてツッコミ入れるダーリンの気持ちはわかるけどね、
今は抑えてダーリン。抑えるのよ。抑えるのよ?」
悠介 「一度言えば解るっ……!」
彰利 「おっとこりゃすまねぇ。さて、ご対面……ってギャア!」
悠介 「うおっ!?」
い、いや……こりゃ驚きですよ殿!
マジで動いてらっしゃる!
しかもなんかブレイクダンスしていらっしゃるーっ!
彰利 「お、おばけーっ!」
模型 「!」
ギャア!こっち見た!
悠介 「馬鹿!逃げるぞ!」
彰利 「え!?イヤァ待ってーっ!」
ズルドシャア!
彰利 「ギャア!いやーん滑っちゃったー!助けてダー」
悠介 「お前の尊い犠牲は未来永劫語り継がれるであろーう!」
彰利 「ゲゲェーッ!一瞬にして見捨てられたーっ!」
がしゃっ。
彰利 「はう!?」
模型 「………」
彰利 「こ、こなくそーっ!半裸半肉の分際でアタイを襲うなんて片腹痛いわーっ!」
ブンッ!ゴツンッ!
彰利 「ッッッ───ってぇえええええっ!!硬ッ!痛ッ!ギャアアアア!!
なんて硬い顔して───ってキャーッ!?脳が!脳が落ちた!」
模型 「…………」
ブンッ!
彰利 「ひぇぇぃ!?しかも攻撃してくる!?
馬鹿な!中井出あたりが操作してると思ったのに!」
模型 「───」
ブンッ!ゴスンッ!
彰利 「いだぁっ!くっはぁ痛い!こりゃ痛い!」
くっ……思わぬ強敵……!
五体全てが凶器だぜこりゃあ……!
こうなりゃこっちも自爆覚悟で───!
彰利 「ディイェエエエエエイッ!!!」
ドガァッ!
まずはタックルで空いてを宙に浮かし───ここだ!
ガコォッ!
落下してくるヤツにヘッドバット!って───
彰利 「ギャアア頭蓋が!こりゃ痛い!」
そうこうしてる内に落下してくる模型さん。
くっ、なんて涼しい顔してやがる───!
こうなりゃ意地でもその賢いオツムを快適に破壊してやる!
ガコォッ!
彰利 「ギャーッ!」
ガコォッ!
彰利 「ギャーッ!」
も、もうダメ!こっちも脳味噌落ちちゃう!死んでしまう!
彰利 「ぬ、ぬおおお!」
ガコォオッ!
彰利 「キン肉星王位を永久のものとするためにも!邪魔者は灰にするのだァッ!」
ガコォッ!
彰利 「トドメだ!」
ガッ!ガシィッ!
彰利 「ッ───マァッスルリベンジャァアアアアアッ!!!!」
ゴォオオッ───ゴシャァアアアアアアンッ!!
……ガシャッ。
ガラガラガラ……!
彰利 「……もはやわたしを誰も止められぬ……!」
声 「こらぁっ!誰だぁあっ!」
彰利 「ゲッ!?とんずらーっ!」
声 「あっ……こらぁ!待てーッ!!」
ズドドドドドド───!
悠介 「馬鹿!なにやってんだよお前!」
彰利 「あ、ダーリーン!見た見た!?
俺とうとうマッスルリベンジャーをナマでやっちゃったよ!
かっ……かんむりょーっ!」
悠介 「そんなことよりどーすんだよ!人体模型還付無きまでに破壊しちまって……!」
彰利 「だってあの模型野郎が俺を殴るんですもの!なんだったのよいったい!」
悠介 「お、俺に訊くな!こっちが知りたい!」
彰利 「と、とにかく逃げましょ!さっさと逃げましょ!」
悠介 「言われんでも走っとるわ!」
───こうして俺とダーリンの怪奇な夜は終わった。
あの模型が何故動いていたのか。
そして何故あえてブレイクダンスだったのか……。
その答えが、今も見つからない───
───……。
彰利 「いやぁ、結局アレってなんだったんだろねィェー」
悠介 「今思ってもホント、謎だよな。あ、でも案外悪戯心爆発させたルナがやったとか」
彰利 「ルナっちがぁ〜?だって高校入ってからっしょ?ルナっちに会ったのって」
悠介 「まあそうだけどな。なんとなくそうじゃないかなと」
彰利 「んー……だとしたら、夜の学校で密会してたアタイ達に嫉妬したのね。
やぁねぇ、これだからヒス女は」
みか 「あっくん、ゆっくん、もっとお話して〜?」
彰利 「おういいぞ。そうだなぁ、あれはまだ俺が幼い頃、
初めておばけに会った時の話だ」
みか 「ええ、怖いよぅ。ほかのお話にしよ〜?」
彰利 「だめだ」
悠介 「そこで即答するか!?」
そんなこんなで、俺も関わったあの霊事件が話された。
……あれは冗談じゃなかったなぁ。
Next
Menu
back