───……ふと思うこと。 それはあまりに鮮やかな思いで、 だけど、ひどく曖昧なものだった。 懐かしいものは、いつ感じても懐かしくて、 その瞬間その瞬間に心が暖かくなることが嬉しかった。 たとえそれが取り戻せないものであっても、 自分はきっと幸せを求めていたいんだと思う。 だからこそ、ずっとしてきたことがある。 むくわれない想いだと知っていても、それは続くんだ。 -神々を凪しもの?のコト- 粕志 「オ、オレッ……なにも出来ないダメな男だけど、 でも、お前のことが好きってことじゃ 誰にも負けないから、だから俺と───!!」 かおり「顔洗って出直してきなさいよ」 粕志 「えぇっ!?」 かおり「ハッキリ言って、しつこい男は嫌いなのよ」 粕志 「そ、そんなっ!……ハッ!? か、勝男か!?野郎がお前をたぶらかして!」 かおり「……はぁ、さよなら」 粕志 「あ、あの魚介類め! あげな奴にマイスウィ〜トハヌィ〜は渡さん! かつお節にして、美味しく出汁を取り殺す!」 その日の月の無い夜、 勝男が何故か落とし穴に落ち、 その短くも愉快な人生に決着を着けたという。 そして、その後…… 本当にかつお節にされたかは謎のままである───。 つづく サクラ「ぐ……えぐぅぅう……泣けまです……!! 感動ですぅううう……!!」 昼。 学校から帰って来た俺が見たものは、 お昼の定番、奥様劇場なドラマだ。 途中からなのでよく解らないが、 見た限りでは感動出来るところは無かった筈だ。 というか『泣けまです』ってなんだ。 サクラ「はぅう……おかえりなさいです与一ぃ……」 涙を流しながら、俺に挨拶。 遥一郎「なぁサクラぁ、いったい何処で泣けるんだい?」 サクラ「この主人公、粕志の ふられっぷりですぅうう……!! ふにゃぁあ…… ここまでくるとかわいそうです……」 確かこのドラマは、人を好きになりやすい男、 中島 粕志が凄まじい勢いで異性に告白し、 それでいてフラレっぱなしという、恐ろしいドラマだ。 殺されては甦る勝男も恐いが、見てて面白い。 遥一郎「えぇっと、マスターは何処に居るかな」 サクラ「はや?マスターさんならさっきまでそこに……」 近くのソファーを見るサクラ。 遥一郎「店の方では見かけなかったし……」 少し考える。 真由美「お父さんなら多分、事務所の方だよ」 遥一郎「やあ、真由美さん。おかえりなさいまっスェ」 真由美「一緒に帰ってきたでしょ」 遥一郎「まあまあ、愛敬ということで」 真由美「与一くん、ちょっといいかな」 遥一郎「ウィ?」 真由美「お父さんからはあとで話されると思うけど、 仕事のことを軽く教えておくね」 遥一郎「や、助かりますな」 真由美「簡単に言うと、 わたし達が担当するのは主にウェイターです。 注文を取ったり、料理を運んだり、 食器の片付けをする仕事です」 遥一郎「ふんふん」 真由美「ですが、少し余裕がありそうなら皿洗いの バックアップも忘れずに」 遥一郎「うんうん」 真由美「キャッシャー…… オーダーの清算はわたしがやっています。 調理担当はお母さんが。 お父さんは全部やってます」 遥一郎「ふむふむ……って全部!?うそっ!!」 真由美「ホントだよ。 お父さん、わたしなんかよりずっと上手だし」 ……なるほど、『マスター』の名が相応しい。 まさか全部をやっていようとは。 真由美「ハイ、ここで要注意」 遥一郎「えっ?」 真由美「料理を運んでいる時、または、お皿を洗っている時。 もしお皿を割ったりしたら給料から引かれます」 遥一郎「うおっ!」 真由美「ですが、流石に鬼では無いので、 練習期間として二週間以内なら大丈夫。 それまでに慣れてください」 遥一郎「……了解」 真由美「……ちなみに言うと、 前はわたしも結構割っちゃっててね? 給料少なかったんだ……」 苦笑する真由美さん。 うう、これは真剣に憶えないと……!! 真由美「じゃあ、やり方とか教えるから付いてきて」 遥一郎「りょ、了解っ」 なにやら気合いが入りすぎたのか、舌がこんがらがる。 ああ、先行き不安だ……。 ………………。 …………。 ……。 遥一郎「───だはぁああ……っ!終わったぁ……!!」 少し冷える夜。 ようやく初仕事終了。 真由美「おつかれさま。 待っててね、今何か飲物煎れてあげる」 遥一郎「あ……すいません……」 どうして俺の倍以上に動いた真由美さんが、 あんなに元気ハツラツなんだ……? うう……情けない……。 真由美「はい、熱いから気をつけてね」 遥一郎「ありがとう……」 コーヒーを受け取る。 溜め息混じりにそれを飲み、ようやく一息。 あらかじめ真由美さんに料理の名前などから、 注文の取り方やらを一通り聞いて頭にたたき込んだが、 実際やると緊張して記憶回路が働かなかった。 結局二回も皿を割っちゃうし。 ああ……なんてこったい……。 女将さん(こう呼べと言われた)は、 『いいのよそんなこと。オホホホホホ』 なんて笑っていたが、逆に恐かったのが本音だ。 早く慣れないとなぁ……。 遥一郎「はぁ……」 再び溜め息。 真由美「大変だった?」 遥一郎「正直なところ、そうだね。 う〜ん、記憶力には自信があったのになぁ……」 真由美「実戦じゃあ、記憶はあまり役に立たないよ。 大事なのは経験だから」 なるほど、ごもっとも。 つまりは頭で考えるより、体で慣れろと。 遥一郎「しかし、真由美さんはよく疲れないね」 真由美「伊達に小さい頃から手伝ってませんから」 えっへんと、胸を張る真由美さん。 確か通学路でもやってたな。 もしかして癖なのか? ……変な癖だな。 真由美「あ、そうだ。サクラちゃんは?」 遥一郎「サクラ?」 見渡す限りでは、ここには居ないな。 真由美「さっきまでそこに居たんだけど」 遥一郎「え?居たの?」 全然気がつかなかった。 真由美「なんか、柱の影から与一くんを見てたけど」 遥一郎「柱?なんだってそんなところから……」 ……もしかして、ドラマか? あのドラマで、そんなシーンあったっけ? 有り得ないぞ。 あれは主人公がフラれるだけのドラマの筈だ。 真由美「そうそう、サクラちゃん気に入ってくれたかな。 わたしが小さい頃に買ってもらった少女マンガ」 あんたかっ!! というか、何気に説明的だ。 全てを把握してますと言わんばかりです。 遥一郎「……何か言うことは?」 真由美「少女チック万歳」 遥一郎「万歳。じゃないでしょうがぁあああっ!!」 ちゃぶ台をひっくり返したい気分に襲われる。 しかし、んなモンが喫茶店にあったら嫌だ。 真由美「まあまあ、せっかく真似してるんだから、 少しくらいつき合ってあげなよ」 遥一郎「……俺、色恋沙汰は苦手なんだよ」 真由美「昔、派手にフラれたとか?」 真由美さんがいたずらっぽく笑う。 だが、それは確信を突いていた。 真由美「……え?あ、もしかして……」 遥一郎「……ま、そうだね」 昔、俺には好きな人が居た。 その娘はどこか変わった娘で、 いつもひとりぼっちで公園のブランコに座っていた。 その時、幼馴染だった村雨が彼女に話し掛けた。 全てはそこからだった。 完全に少女に無視された村雨が俺の所に戻ってきた。 話し掛けても返事もせんぞ、あやつ。 そんなことを言って、あっちで遊ぼうぞと促した。 だけど、俺はどうしてもその娘が気になった。 村雨に先に行っててくれと言って、彼女のもとへ走った。 遥一郎「……なあ、こんな所で何やってんだ?」 少女 「………」 無視。 遥一郎「会話はキャッチボールと同じで、 お前が返してくれないと困るんだけど」 少女 「………」 無視。 遥一郎「……お前な、 黙ったままだと変なあだな付けられるぞ」 少女 「………」 無視。 遥一郎「………」 少女 「………」 どうして無視するのさ。 俺、なにかした? 遥一郎「もしかして、喋れないとか」 少女 「………」 無視。 遥一郎「……ぐぅうう……」 だんだん、ムカツいてきた。 遥一郎「最後の忠告だ。何か喋ってみろ。 喋らないと……ヒドイぞ」 なにがどうヒドイのかはお楽しみだ。 少女 「………」 だが、少女は困ったように首を傾げるだけだった。 遥一郎「……俺は本気だぞ」 少女 「………」 遥一郎「……ホントにホントだぞ」 少女 「………」 遥一郎「………」 いくら、少しの反応を見せたとしても、 俺の要求は達成してない。 俺は少女に近づいた。 意地でもなにか喋らせてやる。 頭の中はそれだけだった。 自分でも解るくらい、俺は恐い顔をしている筈だった。 だけど少女はきょとんとした表情で、俺を見上げていた。 遥一郎「……お前、何されるか解ってるのか?」 少女 「………」 遥一郎「俺はお前を殴ろうとしてるんだぞ?」 少女 「………」 遥一郎「それでお前はいいのか?」 少女 「………」 遥一郎「すごく痛いんだぞ」 少女 「………」 遥一郎「………」 今度は何の反応も示さない。 ……もしかして、聴こえてないとか? ………………。 まさか、だよなぁ。 少女 「………」 ……まさか、なんて……う〜ん……。 よし、確かめてみよう。 俺は少女の後ろに回った。 少女はそんなこと興味がないのか、振り向きもしない。 遥一郎「スゥ――――――…………───」 思い切り息を吸う。 遥一郎「わぁあああああああああああっ!!!!!!」 そして、大声。 少女 「………」 遥一郎「はぁっ、はぁっ……」 少女 「………」 しかし、何の反応も示さない。 遥一郎「…………嘘…………」 『まさか』は確信だった。 事実を知ってから、俺は驚愕した。 それと同時に、自分が恥ずかしくなった。 ……殴らなくてよかった。 殴っていたら俺は、今感じている自己嫌悪など、大きく凌駕していただろう。 遥一郎「………」 かと言って、どうすればいいんんだ? ……わからない。 遥一郎「………」 ……そうだ。 なにかノートでもあれば! そこまで考えると、 村雨がスケッチブックを持ってきていたのを思い出す。 えっと、村雨は……居た。 離れた所から俺を眺めている。 俺は村雨の所まで走った。 村雨 「む?どうした親友?」 遥一郎「そのスケッチブック、貸してくれ」 村雨 「なにぃ、これは我の美学ぞ。 これから風景をスケッチして、 ノーベル賞を獲得するのだ」 相変わらず意味が解らん奴だ。 遥一郎「もう少し、子供らしい発言をしてくれ」 村雨 「なにを言う、 我ほど子供らしい少年なんぞ居るものか」 遥一郎「いいから、貸してくれ」 村雨 「一泊二日で200円だ」 遥一郎「……どこの世界に、スケッチブックのレンタルで 金を取る子供が居るんだ」 村雨 「ここに居る。我が代表なり。 まあ、他ならぬ兄弟の頼み。 通常200円のところを500円に敗北しよう」 下がるどころか上がっている。 しかも2倍以上……。 遥一郎「……随分と狭い友情だな」 村雨 「冗談だ、本気にしてくれるな親友。 さあ受け取れ。これが我の気持ちだ」 村雨はそう言って、スケッチブックを渡してきた。 遥一郎「あ、ああ、サンキュな」 村雨 「なに、礼には及ばん」 遥一郎「……ところで、書く物は無いのか?」 村雨 「男なら拳で語れ」 遥一郎「……お前、ホントに子供か?」 村雨 「この幼児体型たる肉体美に、 ケチをつける気か盟友」 だったら脳内がオヤジなんだな。 遥一郎「鉛筆持ってるんだろう?貸してくれって」 村雨 「今なら良心価格の9万8千円だ」 遥一郎「どっかのテレホンショッピングかっ!!」 村雨 「色々な用途のある各色の色えんぴつに、 さらに大した用途もない砂ケシゴムを付け、 たったの9万8千円。これは大変御買い得だな」 遥一郎「いいからよこせっ」 村雨 「アイヤー!タオチェイ!」 遥一郎「子供らしい発言をしてみろっての!!」 村雨 「フッ、子供か。 悪いが我はそんな小さな存在に留まるつもりは これっぽっちもないのでな」 遥一郎「さっき子供らしいって自分で言ったのは誰だよ」 村雨 「人生とはいつでも一刻を争うもの。 ……そんな昔のことは忘れたな」 遥一郎「そうか、じゃあ俺、行くから」 村雨 「夕飯までには帰るのだぞ」 遥一郎「そんなにまで遅くなるつもりはないって」 ……こいつといると、俺まで口調が子供らしくなくなる。 困ったものだ。 遥一郎「えっと……」 そんなこんなで少女の前に立つ。 そして文字を走らせる。 『こんな所で何をしてるんだ?』 そして、少女にスケッチブックを渡し、書くように促す。 村雨 「ほう、いわゆる文通というやつだな」 違う。 遥一郎「なにしに来た……」 村雨 「なぁに、ちょっとヤボ用だ、気にしてくれるな」 遥一郎「……どんなヤボだ」 村雨 「汝らの偵察だ。決まっているだろう」 遥一郎「………」 もうイヤ、こいつ……。 少女 「………」 遥一郎「ん?」 少女の視線が俺をとらえているのに気がつく。 スケッチブックには……何も書いてない。 まさか、文字の書き方まで解らないんじゃないだろうな。 村雨 「フフン、青いな盟友。青空よりも尚、青し! まずは相手の心を開かねば物語は始まらん」 お前に言われたくない。 村雨 「村娘よ、スケッチブックを貸してみるがいい」 貸すもなにも、お前のだって。 村雨 「…………これでどうだ村娘」 サラサラとすべり書きをして、 スケッチブックを少女に渡す。 『今日、我は友たる穂岸遥一郎と共に 浪漫を追求せんがために外界へと名乗りを挙げた。 その一部始終を偵察していた神は使客をよこした。 それがこの村娘の正体に相違無い。 そういうことにしておくのだ。 所詮この世は弱肉強食。 だが、法に背くことになろうとも男を貫くことは 間違いではない。いや、むしろ真実なり。 故にこの神の使客を友と共に手懐け、 神の許まで行き、チェーンソーで両断することこそ 真の答と我は信じて疑わないのであったのだったのか』 少女 「………」 少女が戸惑っている。 遥一郎「なにをいきなり日記書いて渡してるんだ!」 村雨 「女と親睦を深めるためには 交換日記すると相場が決まっているだろう。 そんなことも解らんのか盟友よ。 我は悲しい気持ちで胸がいっぱいだぞ」 遥一郎「……わかった、いいから黙っててくれ」 村雨 「つれないな、親友」 遥一郎「え〜と」 俺は少女の手をとり、書くように促した。 少女 「………」 カリ……。 やがて、少女の手が動き出す。 しかし、その文字は謎の物体だった。 村雨 「……ヘタだな、絵心がない」 遥一郎「ハッキリ言うなって!」 村雨 「なにを言うか友よ。 悪いものは悪いと言わなければ、 その者はそこから歩けないものなのか?」 遥一郎「こっちに訊くな!」 村雨 「もう少し子供らしく語ったらどうだ」 遥一郎「だ、誰の所為だよ……」 村雨 「拙僧は何もしていないが」 遥一郎「………」 幸せな思考っていいなぁ。 少女 「……フ……レア」 遥一郎&村雨「!?」 少女 「フレア……レイン=ハート」 遥一郎「フレア?」 村雨 「……外国人だったのか」 遥一郎「違うと思うぞ……」 村雨 「まあ聞け、今のが名前だとは限らないだろう」 遥一郎「それを聞いて、 まっさきに外国人って言ったのは誰だよ……」 村雨 「幼いながらにして、言動はもう一人前か」 遥一郎「………」 呆れて声も出ない。 少女 「………」 困ったような顔をして、手を動かす。 ……クレア=レイン=ハート。 遥一郎「……フレアじゃなかったのか?」 村雨 「多分、字が苦手なのだろう」 遥一郎「……いやさ、さっきの意味不明文字よりは……」 村雨 「よし、とりあえず名前と断定! 頭の文字をとってクレハと呼ぼう!」 遥一郎「いや、フレアじゃ……」 フレア「………」 村雨 「まあ待たれよ。 この村娘、耳が聞こえぬのであろう? 我に任せるがよかろう」 遥一郎「ど、どうするっていうんだよ……」 村雨 「………」 少女の耳に手を触れ、なにやらブツブツ言っている。 村雨 「ハン!」 そして、バッと手を離す。 村雨 「……成敗」 成敗してどうする。 村雨 「これでどうだろうか。 村娘、我の声が聞こえるか?」 フレア「……あれ?」 首を傾げる。 フレア「……うん、聞こえる」 遥一郎「はい!?ど、どうして!?」 村雨 「ふふっ、我にかかれば、このような万病…… 治すことなど造作もないわ!ハーハハハハ!!」 遥一郎「で、どうやったんだ?」 村雨 「なに、簡単なことだよ親しき友よ。 村娘の耳に、こんなものがついていた」 スッと耳栓を見せる。 遥一郎「アホかぁああああっ!!」 村雨 「アホとはひどいな」 フレア「………」 遥一郎「もういい……疲れた……」 村雨 「まあ待て心の友。 先を急ぐ旅でもあるまい。 ここはひとつ、我の話でも聞いてゆけ」 遥一郎「旅なんてしてない」 村雨 「なにを言うか、人生とは己の旅。 その心得を忘れてまで目指す物などあるものか」 遥一郎「いいから、ほっといてくれ……」 村雨 「……フーム、どうやらいじけてしまたらしい」 フレア「?」 村雨 「時に村娘よ。汝はどこの出身だ?」 フレア「天界……」 村雨 「……重傷だな。まあいい」 遥一郎「俺、帰る……」 村雨 「まあ待てと言っている。 ここでこうして出会ったのも何かの縁。 どうだ、我らの盟約にこの村娘を入れてみては」 遥一郎「……俺は無理矢理入れたくせに」 村雨 「細かいことは気にするな盟友。 よし、今日から汝は我らの盟友だ。 さあ、立ち上がり、共にと唱えよ。 我らは誓わん、悠久の絆!」 遥一郎「………」 村雨 「………」 フレア「……?……?」 おどおどした感じで困っている。 遥一郎「困ってるぞ」 村雨 「唱えるのだ村娘! 我と……いやさ!我らと誓え!悠久の絆!!」 遥一郎「落ち着いた方がいいと思うけど」 村雨 「ならぬ!手を広げ、我と唱えよ! さあ盟友、汝も共に!」 遥一郎「……俺もか」 村雨 「さあ誓え今誓えすぐ誓え!」 遥一郎「………」 ズビシッ! 村雨 「かはっ……!」 とりあえず頚動脈に手刀を入れておいた。 遥一郎「えぇと……俺は穂岸遥一郎。 ここらへんに住んでる民草だ。 で、こいつが神凪村雨。 ……正面から相手にしなくていいから。 良かったら、友達にならないか?」 村雨 「ゴホッ……や、やめろ盟友……! 我らの友情は誓いの下に……」 遥一郎「大差無いと思うけど」 村雨 「そんなことは断じて無いのだよ。 というわけで誓うのだ村娘。 我らを裏切るような行為はしないと」 遥一郎「どういう回復力だよ……」 村雨 「人間とは精神の生き物なのだよ盟友。 神の作った道徳や法則など我には無縁の代物だ」 遥一郎「さすが神凪家の息子……」 村雨 「照れるではないか、そう誉めてくれるな」 別に誉めてないけど。 村雨 「よし、気分がいい。 村娘、汝を我らの盟友に認定しよう」 ……まあ、結局こうなるわけか。 俺の時と何ひとつ変わらない。 フレア「………」 が、少女は黙ったままだった。 村雨 「そうかそうか、嬉しくて声も出ぬか。 ヌハハハハハハ!よきにはからえィ!」 意味が解らん。 遥一郎「なるべく、 こいつには近寄らないことをお勧めするよ。 それで……今から遊ばないか?一緒にさ」 俺は苦笑しながら少女に手を差し伸べた。 フレア「………」 その手をきゅっと掴み、少女は笑った。 その日から、俺達はここで待ち合わせするようになった。 だけど、それもいつしか遠い思い出になって、 俺はそこに向かうことは無くなった。 それは何故か。 ……答は簡単だ。 フレアがそこに来ることは、もう二度と無かったから。 それがどうしてだったのか……。 俺はそれが思い出せないでいる。 …………………。 …………。 ……。 真由美「……そんなことがあったんだ」 遥一郎「うん……まあ」 話し終えると、真由美さんが溜め息をついた。 真由美「全然思い出せないの?」 遥一郎「ん……全然ってわけじゃないんだ。 だけどひどく断片的で、曖昧なんだよね」 真由美「……そっか……」 遥一郎「ただ……」 真由美「……ただ?」 遥一郎「ひどく……悲しかったような気がする」 真由美「………」 遥一郎「俺さ、ずっと待ってたんだよ。 フレアが来なくなった日からずっと。 でも……そこに居るのが悲しくなって…… それで、行くのをやめたんだ」 あまり思い出したくないことだ。 来る筈の無いものを待つことほど滑稽なものは無い。 だってそれは無意味だから。 だけど、諦めた時点で 全てを忘れてしまいそうな自分が恐かった。 遥一郎「……まあ、思い出ってやつですよ。 どこにでもあるような……ね」 真由美「ムー……あ、そうだ。 えっと……なんだっけ?その村雨って人……」 遥一郎「え?ああ、村雨は俺の幼馴染。 ヘンな奴だけど、面白い奴だった……」 真由美「過去系?」 遥一郎「……そうでもしないと思い出が汚れる」 真由美「うわ、言い切った」 遥一郎「で、村雨がどうかした?」 真由美「んと……確か高ノ峰の校長の名字が 『神凪』だった気がして……」 遥一郎「はいぃっ!?」 たまげた。 ええ、たまげましたよ僕ァ。 神凪なんて名字が存在するとしたら、奴の家系くらい。 と、いうことはだ……。 遥一郎「そう言えばあいつ、あの時…… 親戚の家にやっかいになってるって……」 嫌な予感がした。 今の段階、これ以上無いってくらいの嫌な予感だ。 真由美「あはは、もしかして生徒として居たりして」 遥一郎「実家に帰らせてもらいます」 真由美「うわわっ、いきなり帰ろうとしないでっ! しかも何処から出したのその荷物っ」 遥一郎「いや、冗談抜きで帰ります。 止めてくれるな御嬢さん」 真由美「落ち着こうよとりあえずっ! 居るって決まったわけじゃないでしょ?」 遥一郎「いやっ!あいつは執念深い奴だ! こうしている間にも、学校での情報を元に」 ガシャ――ン!! 遥一郎「………」 真由美「………」 来た。 間違い無い。 ……奴だ。 遥一郎「あ、俺ここに居ないからっ!後よろしく!」 全てを真由美さんに任せて、俺は隠れることにした。 カランカラン……。 その直後、喫茶店の入り口が開かれる。 そこに居たのは紛れもなく奴だった。 真由美「すいません、営業はもう……」 男 「街娘、ここに我が盟友が居ることは解っている。 大人しく人質を解放しろ」 真由美「うわぁ……」 真由美さんが声を振り絞る。 思い切り納得したような呆れたような、 そんな『うわぁ……』だった。 まあ、話で聞いたくらいじゃ納得出来んわな、 あいつの性格は。 村雨 「我が盟友、穂岸遥一郎! 幼少時より久しく見ていなかった汝! その生き様を拝見しに来たぞ!」 真由美「……うわぁ」 もう、どうしようもないくらいに『うわぁ』だった。 解るよその気持ち。 カランカラン……。 ん?また誰かが入ってきたみたいだ。 サクラ「ただいまです〜」 サクラだった。 トンッ。 村雨 「む?」 サクラ「ふや?」 目が合う。 サクラ「……真由美、これ誰です?」 真由美「あ、えっと……」 『俺の知り合い』と言った時点で、全てがパァ。 しかし説明するにあたって、それは避けられそうにない。 くっ……どうする! サクラ「あ、お客さんです? こんばんわです、サクラです」 ペコリとお辞儀する。 村雨 「……フム。 相手の名を訊く時はまず自分から名乗るもの。 その心意気や実に天晴。 記念にアメをくれてやろう、受け取れ村娘」 サクラ「ありがとです〜っ♪」 アメを受け取って感激するサクラ。 ……子供よのぅ。 村雨 「さて、話を戻そうか街娘」 サクラ「ウィキャァアアアアアアアアッ!!」 突如、サクラが吠えた。 真由美「きゃっ!?ど、どうしたのっ?」 村雨 「……しかし、訊いてもいないのに名乗られるのも 何かシャクに触る気がしないか街娘」 真由美「あ、あなたの仕業っ!?」 村雨 「なに、ただのワサビ飴だ。 普通、口に含む前に匂いで解る筈なのだがな」 ……まあ、そうだろうけど、 放り投げて口に入れたんじゃ匂いもなにも解らん。 今のサクラが正にそれだった。 サクラ「えぅぅ……舌が……舌が痛いです……」 当のサクラは涙ぐんでいる。 村雨 「すまなかったな村娘、 お詫びにこの団子をくれてやる」 サクラ「欲しくないです……っ!与一ぃ……っ!」 サクラが村雨から離れ、 俺を探すように店の奥へ駆けていった。 くっ……!すまんサクラ……! 頭のひとつでも撫でて慰めてやりたいところだが、 今ここから動くわけにはいかないんだ……! 村雨 「……ふむ……これだけ騒いでも現れないとは。 もしや盟友は外出中なのか?街娘よ」 真由美「……与一くん、出てきて」 遥一郎「ぐはっ」 あっさりと出てきてと言われてしまった。 村雨 「おお、そんな所に居たのか盟友」 遥一郎「……相変わらずだな、盟友……」 諦めるしかないようだ。 真由美「あと、よろしくね。 わたしサクラちゃんのところ行くから」 遥一郎「うん、頼むよ」 ……うん、真由美さんの中で村雨、好感度マイナス50。 遥一郎「壮健かい?」 村雨 「無論だ、我に法則は必要無い」 法則がどうとかは置くとして。 遥一郎「しっかし……いきなりサクラを苛めるとは……」 村雨 「……こればっかりは止められん。 今や、我の心内は燃え盛っている」 遥一郎「……何のことだ?」 村雨 「先ほど汝は『相変わらず』と言ったが、 ……実はそうでもない」 遥一郎「………」 なにやら嫌な予感がした。 遥一郎「お、おまえ……まさか……」 例える言葉は見つからなかった。 ただ、そこに在るのは確信のみ。 村雨 「……涙ぐんだ顔が眩しかった」 遥一郎「……ぎゃああああああああああ!!」 俺は村雨から逃げ出した。 村雨 「まあ待て盟友」 遥一郎「や、やめろ!今のお前が俺を盟友と呼ぶな!」 知らなかった。 こいつがそういう趣味だったなんて……!! 村雨 「あの思わず抱き締めたくなる細い体……。 たまらんとは思わんか盟友」 遥一郎「俺に訊くな馬鹿っ!離せ! 俺はまっとうな人間だ!!」 村雨 「フフン、何を言うか盟友。 この道と普通の道など、常に紙一重。 思考の持ち方で道が逸れるくらいなら、 それは普通と変わり無い。 考え方を少し動かしただけで まっとうな人間ではないと決めつけるのか? それこそ、よっぽど人の道を外れているな」 遥一郎「ぬぐっ……」 村雨 「と、いうわけで、今の村娘のスリーサイズを教えろ」 遥一郎「知るか馬鹿!」 村雨 「名はサクラということが解った。それはいい。 だが、気になるのはやはりだな……」 遥一郎「もしもし……警察ですか?」 プツッ。 村雨 「フフフ、させんよ盟友」 遥一郎「………」 前略御袋様……かつての知り合いは暴走してました。 村雨 「年齢を教えろ」 遥一郎「16だろうが馬鹿」 村雨 「たわけ、汝のではない」 遥一郎「……俺達よりは下なんじゃないか?」 村雨 「ふむ、まあそうだろうな。 ……まあいい、今日のところはこれで帰ろう。 しばらく通うことになりそうだ、また会おう」 遥一郎「帰るのか?そりゃ良かった……って」 今、さらりと恐ろしいことを言わなかったか? ……しばらく通うことになりそう……? 村雨 「ハハハ、それではな、盟友」 歯を輝かせて立ち去ってゆく村雨。 村雨 「おっと言い忘れた。 明日から我は汝と同じクラスだ。 仲良くやっていこうではないか」 遥一郎「なっ……!?」 村雨 「そう喜んでくれるな、照れるではないか」 驚愕したんだよ……。 村雨 「それではな、盟友。ハハハハハハハハ!!」 出てゆく彼の笑顔は、それはもう恐ろしいものでした。 例えるなら、それは野心。 奴は必ず、明日の朝ここに訪れることでしょう。 目当てはやはり…… くいくい。 遥一郎「ん?」 唖然と愕然を同時に味わっていた俺の袖を引っ張る何か。 確認するまでもなく、サクラだろう。 サクラ「与一ぃ……」 表情を歪ませて、俺の胴に抱きついてくる。 ………………ハッ!! いや違う!違うぞ遥一郎!! 俺は今、可愛いだなんて微塵にも思ってないぞ! ああ思ってないとも!! 落ち着け!落ち着くんだ俺!! そ、そうだ深呼吸……!! 遥一郎「………ふう」 真由美「何、やってるの?」 遥一郎「いや、かわい……いやなんでもないっ!!」 な、何を言いそうになってるんだ俺は! 俺は奴とは違う!ああ違うとも!! 遥一郎「泣くなって。とりあえず、うがいでもしてこい」 ポム。 サクラの頭を撫で、そう言う。 サクラ「みぅ……」 すると目を細め、くすぐったそうに顔を赤らめるサクラ。 遥一郎「………」 なでなでなで……。 真由美「……ねえ、与一くん」 遥一郎「………」 なでなでなでなでなで……。 真由美「………与一くん?」 トントン。 遥一郎「………………………」 なでなでなでなでなでなでなでなでなでなで…………。 真由美「………」 スパァ――――ン!! 遥一郎「ギャウッ!!」 ……ハッ!?お、俺は一体何を……ッ!? 真由美「人の話、聞いてる?」 遥一郎「…………面目ない……潔く切腹致す……」 前略御袋様……。 どうやら俺の心は、 村雨の言葉にそそのかされてしまったようです……。 こんな俺ですから、 先立つ不幸を許すどころか呪ってやってください……。 遥一郎「御免ッ!」 スパァン!! 遥一郎「ギャウッ!」 真由美「馬鹿やってないで、看板下げてきてってば!」 遥一郎「………」 神様、俺は本当に馬鹿なんでしょうか……。 い、いや……。 今日のことはもう忘れよう。 うん、それがいい。 不要なメモリは消去するに限る。 溜め息混じりに外に出て、明かりの消えた看板を仕舞う。 ……で、とりあえず感想。 こういう行為は、バーの方が似合ってると思う。 ハイ、感想終了。 ………。 看板を仕舞い終わると、 俺とサクラは遅い夕食に招かれた。 ……と言っても、 同じ屋根の下で招かれるもなにも無いと思うけど。 サクラ「美味しいです〜っ♪」 親子三人で作った郭鷺家の料理は美味しくて、 サクラはその味に目覚めたのか、 パクパクと皿をこなしていっている。 遥一郎「落ち着いて食べないと喉に詰まるぞ?」 そんなサクラにもの申した。 サクラ「………」 遥一郎「サクラ?」 サクラ「………」 パタリ。 遥一郎「うわぁっ!?サ、サクラッ!?」 サクラが倒れた。 どうやら詰まったらしい。 遥一郎「すいません、水……」 なんというか、呆れてものも言えない状況だった。 真由美さんが持ってきてくれた水をサクラの口に流す。 ……というか、少し詰まったくらいで呼吸困難になるか? 遥一郎「……よくわからん……」 誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。 遥一郎「ほらサクラ、水だぞ〜、一気に飲み込め〜」 なんか悲しくなってきた。 遥一郎「………」 動きません。 ……どうしよう。 えっと?こういう時はどうするんだっけ? その時、俺の頭脳は唸りを上げた。 とどのつまりは回転したのだ。 遥一郎「……おお、崩拳」 確か背中をさするとか、衝撃を与えればいいんだっけ。 よし、長年独自に練習した崩拳、見せてくれる! 遥一郎「って出来るか!」 ああもう、わけわからんっ! 遥一郎「……じゃあ、これでどうだ」 口に水は入ってるわけだし、 あとは背中辺りに軽い衝撃を……。 トントントン……と。 こくん。 遥一郎「おお」 飲んだ。 サクラ「……ふにゃぁあ…… し、死ぬかと思ったです……」 ぐったりと俺に寄り掛かってくるサクラ。 遥一郎「……そりゃ、たいした大冒険だ……」 俺はもう、溜め息しか出なかった。 真由美「仲良いね」 遥一郎「……そう見える?」 真由美「うん、見える」 あっさりと肯定された。 サクラ「仲良いのは当然です。 与一の性格を判断した上で、サクラがもぇもむめまま……」 言い終える前にサクラの口を塞いだ。 何を言おうとしてるんだこいつは……! 真由美「性格判断?」 遥一郎「カウンセラー漫才に憧れてるんですよこいつ」 真由美「……すさまじい目標だね」 真に受けて、ゴクリと喉を鳴らす真由美さん。 遥一郎「まったくです」 俺もうんうんと頷く。 ……その行為がひどく虚しかった。 サクラ「カウンター万歳?なにです?それ」 遥一郎「俺に訊くな、こっちが知りたい」 真由美「頑張ってね、サクラちゃん」 サクラ「うや?……ハイ、頑張るです」 なんかもう、疲れるばかりだった。 遥一郎「ごちそうさまでした」 とりあえず食い終わり、一息つく。 サクラ「ごちそうさまでしたです」 サクラも手を合わせる。 真由美「おそまつさまでした」 それに真由美さんも応える。 遥一郎「ところで気になったんだけどさ」 真由美「ん?なにかな」 遥一郎「『おそまつさまでした』って、 『粗末』に『お』がついたものなのかな」 真由美「……難しい質問するね」 遥一郎「粗末っていうのはさ、 なんていうか……あまり良い言葉じゃないよね」 サクラ「です?」 遥一郎「です」 真由美「昔からこう言ってたんだから、別の意味じゃないかな。 さすがにごちそうさまって言った人に対して、 粗末様でしたって言うのもどうかと思うけど」 そりゃ確かに。 遥一郎「さてと、これからどうしようか」 ふと考えてみる。 サクラ「遊ぶです?」 遥一郎「遊ばないです」 サクラ「何故です?」 遥一郎「なんでだろう」 サクラ「………」 真由美「とりあえずさ、仕事のことを復習してみる?」 遥一郎「……そうさのぅ」 サクラ「するです」 何故かやる気満々のサクラ。 遥一郎「お前が気合い入れてどうする」 サクラ「……それもそですね」 少し残念そうだった。 真由美「では、復習を始めます」 遥一郎「了解」 サクラ「はいです〜」 何故かサクラもこくこくと頷く。 苦笑しながらのんびりと仕事について語り合う。 そんなこんなで今日という日は過ぎていった。 Next Menu