───秋は月の季節─── 幼い日から、そう教えられてきた。 ……いや、聞いてきたんだ。 祖母はやさしい人だった。 その人はもうこの世には居ないけど、思い出は残った。 ……月には色々な物語がある…… その言葉は、祖母が好きな言葉だった。 そして、俺も好きだった。 その言葉は確かに現実として起こったことだから。 ─LunarCalendar〜月の輝く夜〜─ 試作でボツネタ第一弾・十五夜の灯し火 ……───親の急な転勤は、なんとやら。 それはよく、マンガやゲームなどに現れる、転校生登場の筋書だった筈だ。 だが、いざこうして自分がなってみると、 筋書がどうのこうのではなく、別の何かが胸を襲う。 それは不安だろうか。 ……高校二年の秋、俺は住み慣れた街や学校、 そして友と別れ、この場所……北浦町に引っ越してきた。 高校は『漣(さざなみ)第二高等学校』に転校。 なんでこんなことになったのか……。 ……言うまでもなく、親の急な転勤とやらだ。 まさか我が身を持って体感することになろうとは。 で、転勤したらしたで朝から晩まで仕事仕事仕事〜……。 男手ひとつで俺を育ててくれたことには大変感謝。 でもさ、静かな家にひとりっきりって、結構悲しいよ。 それが民家に囲まれた賑やかな場所ならまだしも……。 悠介 「どうして山奥なんだよぉおおっ!!」 俺は叫んだ。 もちろん、近所迷惑の『き』の字も、ここには存在しない。 ちなみに言うと、回覧板すら一度として回ってきてない。 ……大丈夫か、俺の未来。 ただ、唯一の救いなのが、やはり見晴らしがいいこと。 と言っても、何百段という長い石段を登ればの話だが。 ……どっちにしろ、あまり喜ばしいことではない。 悠介 「…………時間だ」 今日は心機一転の日。 つまり、漣高校への初登校の日だ。 その道のりはここからバスに乗って電車に乗り換えて、 更に歩いて……フォオオウルァアアアアアア!! 悠介 「だぁああっ!くそっ! なんだってこんな場所に別荘立てたんだよ!」 俺は到着して一番に親父に言った言葉を繰り返した。 だが、当然の如く返事は無い。 その代わり、何かの虫が群れをなして森で鳴いている。 非常にやかましい。 悠介 「……もう行くか……。 ここに居ると頭が痛くなる……」 俺は適当なものを手に、家を出た。 ………。 ……。 ……バスはあまり好きじゃない。 もちろん、電車もだ。 タクシーなど、もってのほか。 老婆 「……兄ちゃん、顔色が悪いねぇ……」 バスの座席に座っていた老婆がフと声をあげた。 悠介 「……よく言われる」 それはもちろん、俺に向かって放たれた言葉だった。 そんなことが電車に乗っている時にも起こり、 俺はもううんざりだった。 悠介 「気持ちわりぃ……」 学校への道のりを歩く。 何故に俺が好きでもないバスや電車に揺られ、 しかも金を払わなけりゃならんのだ。 悠介 「だぁああっ!!親父のアホ――――ッ!! 運賃だって馬鹿になんねぇんだぞ――ッ!!」 俺は叫んだ。 ブツブツと考えごとをしながらだったので、 そこが人垣の中だと知った時、 今なら顔からヨガファイアを出せそうな気がした。 悠介 「……アホか……」 自分に呆れつつも、俺は学校を目指した。 一度、偵察には来たから場所は覚えてる。 ここを右に曲がって……というか、 校舎自体が既に視界内にある。 ちなみに言っておくが、漣高校は男子校だぞ。 ……誰に言ってるんだか。 そうこうしている内に、下駄箱へ到着。 ……したはいいが、上履きが無いことに気づいた。 悠介 「野郎……」 見えない誰かに毒づいた。 仕方無く客人用スリッパを履いて職員室を目指す。 コパ――ン。 コパァ――ン。 悠介 「……いい音、鳴るな」 スリッパに感心した。 悠介 「……で、職員室は何処だろうか」 初心者の俺としては、見取り図が欲しいところだった。 一階によくあるとは思うが……。 一階をしらみつぶしにあたってみる。 悠介 「……あった」 たいした間も無く、それは見つかった。 悠介 「失礼します」 一応礼儀を通し、そう言って入る。 悠介 「今日からここに通うことになった十六夜ですが」 近くに居た教師に話す。 教師 「……ああ、キミが十六夜くんか。 私がキミが通うクラスの担任の及川だ。 じゃあ、少し質問してから教室に案内するよ」 担任になる教師の名字は魚のようなものだった。 ………。 ……。 ……廊下で待つことになった。 実に退屈だ。 別に一緒に入ってもいいんじゃないだろうか。 声 「あ〜、静かにしなさい」 オイカワの声。 声 「断る!」 声 「ゲェーッ!?即答!?」 いきなり断られた。 声 「今日は転校生クンを紹介する!」 ───……静まった。 悠介 「どういう速さだ……」 声 「入ってきなさい」 担任の声。 悠介 「………」 目の前のドアをすべらせ、俺は中へと入った。 そして、黒板の前に立つ。 及川 「え〜、今日からお前達のクラスメートになる」 カカカッ……と、チョークを黒板に滑らせる及川。 生徒 「字が読めませ〜ん」 及川 「今言うから待ってろ」 書き終えるとコホンと咳払いをして、言葉を放つ。 悠介 「十六夜 悠介(いざよい ゆうすけ)です。 急な親の転勤でこの街に引っ越してきました。 趣味は月見。嫌いなものは乗り物です」 自己紹介を済ませる。 すると、オイカワが悲しそうな顔で俺を見ていた。 生徒 「ナイス・フェイントォッ!!」 生徒から拍手が巻き起こった。 ……いや、自分の自己紹介は 自分で言いたかっただけなんだが……。 及川 「え、え〜……では席だが……」 生徒 「先生、俺様の隣が空いてます」 及川 「…………」 間ノ村「何故黙る」 及川 「……解った、頼むぞ間ノ村……」 間ノ村「任せろ」 及川 「じゃ、席に着いてくれ」 言われた通り、席に着く。 窓際だったのは、かなり運がいい。 間ノ村「よろしく、隣人の新しい友」 席に着くと一番にそう言われた。 悠介 「……よろしく」 一応返事をする。 乗り物酔いの所為でまだ頭が痛く、 元気に行動するのは不可能だ。 間ノ村「我は間ノ村 秋。 名字で呼んでくれるとうれしいかもしれない」 悠介 「……間ノ村、ね」 間ノ村「これから、よろしく隣人の友」 悠介 「よろしくならさっき言われた」 間ノ村「気のせいだろう」 きっぱりと否定された。 間ノ村「……ところで友よ。 顔色悪いみたいだがどうした友よ」 悠介 「……友よ友よ言うな、ただの乗り物酔いだ」 間ノ村「なるほど」 及川 「ホームルームを始める」 早く終わらせてくれるとありがたいのだが。 なにやら語るオイカワの声を耳に、俺は外の風景を見た。 そこにはまだ緑ののこる、大きな木があった。 やがてホームルームが終わり、長い一日が始まる───。 Next Menu