───いつもと変わらない日常の中に居た。
いつもと変わらない風の中に居た。
どこにでもあるような、ただ穏やかな筈だったその日々。
だけど、どこか違うと感じる日常。
ただその中に身を投じて、ただその日常の中で。
友達と遊んで、友達と笑って、さよならをする。
それは遠い過去。
ひとりの少女が夢見た未来。
───それぞれの葛藤。夢が語り始める過去───
【ケース05:閏璃凍弥/ドリームス】
静かな夢だった。
緩やかな風を体中で受けて、俺は笑っていた。
その夢は寒い冬の季節のことだった。
だから吹き荒れる風は、きっと寒い筈だった。
……でも、だけど、風は暖かく……
そんな暖かさが心地良かった。
凍弥 「ん〜、気持ちいいなぁ……」
その夢の中で、俺は子供だった。
難しい事なんて考えようともしない、小さな子供だった。
……俺はいつものように近くの公園の中をひとりで駆け回って遊んでいた。
ふと、視線を感じて後ろを見ると、そこには小さな少女がいた。
凍弥 「なにやってるんだ、そんなとこで」
俺は喋りながら少女に近づいた。
少女 「………!!」
微かに脅えた表情を見せ、後退りする少女。
凍弥 「こら、なんで逃げるんだ」
俺はすかさずツッコんでいた。
しかし、そのツッコミにすら脅える少女。
そうだ……思い出してきた……。
俺は脅える少女を笑わせてみたいと思ったんだ……。
凍弥 「……あまり見ない顔だな。引っ越して来たのか?」
少女 「………」
俺が近づくと、それだけ逃げる少女。
凍弥 「………」
少女 「………」
凍弥 「間合いは2メートルってところか。
近距離パワー型を警戒せんばかりの間合いだな」
少女 「………?」
意味が解らない、そんな顔だった。
凍弥 「安心しろ、俺はスタンド使いじゃないぞ」
俺は人気があって有名だったマンガのネタを駆使して意地でも笑わせようとした。
少女 「………??」
ますます解らない、そんな顔だった。
凍弥 「まいったな……知らないのか……」
いきなり方法が無くなった。
その夢を見ていた俺は苦笑した。
子供の知恵なんてこんなもんだろう、と。
必死で使い慣れない頭を駆使して考える少年。
そしてそれを脅えながら見る少女。
凍弥 「そんなにビクビクしないでくれ。別に怪しい者じゃない」
とりあえず警戒心を解くために言うだけ言ってみる。
少女 「………」
しかし、それを脅える瞳で返す少女。
凍弥 「用心深いやつだな」
そう思わずにはいられなかった。
凍弥 「よし!それなら自己紹介しよう!俺は閏璃凍弥!今をときめくナイスガイだ!」
ズビシィ!と決めポーズをとる。
ナイスガイなんて言葉の意味なんて解らないけど、
この言葉を使って近所のおばさんを笑わせた経験がある。
少女 「………」
しかし、静かだった。
寒い風が吹いた。
しかも悲しかった。
さらに恥ずかしかった。
多分、おばさんを『笑わせた』んじゃなくて、おばさんに『笑われた』んだと痛感した。
凍弥 「うう……」
こういうのを『ハズした』と言うのだろうか?
またひとつ利口になった。
凍弥 「なあ、名前くらい教えてくれ」
少女 「………」
凍弥 「もしかして喋れないとか……?」
少女 「………」
顔を横に振る少女。
それは喋る事が出来ながら、俺をからかってるのだろうか。
凍弥 「じゃあ自己紹介だ。閏璃凍弥、これが俺の名前だ。お前の名前は?」
少女 「………」
無言。
凍弥 「名前が無いのか?」
少女 「………」
俺の言葉に顔を横に振る少女。
凍弥 「そうか、不便だな……」
少女 「………!!」
顔をぶんぶん振る少女。
凍弥 「……そうだ、俺が名前をつけてやる。ムゴンリーっていうのはどうだ?」
少女 「〜〜〜〜っ!!」
『押しても駄目なら引いてみろ』、という言葉がある。
俺はその作戦を実行していた。
しかし、みるみるうちに少女の顔が歪んでゆく。
作戦は見事失敗した。
……というか非常に危険だ。
目の前にひとつの爆弾がある。
ご近所の体裁を考えると、核兵器並の威力だろう。
凍弥 「あわわわ、えっとその……落ち着け!!
こんなことをしたら国民が黙っておらぬぞ!!」
俺は必死に止めた。
しかし、止めれば止める程、導火線を縮めている気がするのは俺の気のせいだろうか。
そしてとうとう限界のようだった。
俺は絶叫のように泣き叫ぶ子供が苦手だ。
凍弥 「落ち着けボーイ!!そんなことしたら、ただでは済まんぞ!!」
トドメだった。
とうとう少女の瞳から涙がこぼれた。
凍弥 「く……来るっ!!」
俺は覚悟を決めた。
でも……
凍弥 「……あれ?」
少女は泣き叫ぶ事無く、その場で静かに泣いていた。
凍弥 「……」
どうやら理解のある少女だったようだ。
凍弥 「……よかった……」
心底ホッとした。
そしてとりあえず、泣きやませてやろうと近づく。
少女 「……っ!!」
しかし、それすらも拒む少女。
凍弥 「……いい加減にしろっ!!」
俺は走って少女の手を掴み、抱き寄せた。
端から見ればきっとそう見えるだろうけど、俺は逃げないように捕まえただけだ。
少女 「〜〜〜〜っ!!!!」
俺から逃げるために、必死にもがく少女。
俺はそんな少女の頭を撫でた。
少女 「………?」
困惑顔で俺を見る少女。
凍弥 「俺はな、別に怒ってるんじゃないぞ。
泣かせちゃったから泣きやませてやろうと思っただけなんだ」
少女 「あ……」
少女の口が動いた。
凍弥 「お、やっと喋ってくれたなっ!!一言だけどなっ!!」
俺は嬉しくて早口で喋った。
こころなし声が大きくなって、その声に少女が怯えた。
少女 「………」
凍弥 「いや、黙らないでくれ。こっちが不安だ」
落ち着いてはくれたが、やはりあまり喋らない子だった。
凍弥 「よし、じゃあ改めて。俺は閏璃凍弥だ。お前は?」
少女 「……ゆ……え……」
ゆ……え……ゆえ?
凍弥 「ゆえって名前か?」
少女 「……違う」
凍弥 「じゃあ、ヌエか?」
伝説上の獣の名をあげてみる。
由未絵「違うぅ……!」
違うらしい。
もしかして俺、からかわれてる?
少女 「由未絵……」
柾樹 「ゆみえ?」
由未絵「………」
コクリと頷く。
凍弥 「ゆみえ……由未絵か!!よし、覚えた!よろしくな、由未絵!!」
由未絵「うん……」
こうして自己紹介は無事終了した。
しかし……相変わらず笑わない子だった。
───……。
……。
ふと、目を開けると見える天井。
凍弥 「………」
朝である。
むう……よく解らない夢を見た気がする。
体を起こして時間を確認する。
凍弥 「……7時」
珍しく早起きだった。
凍弥 「7時ぃっ!?」
でも喜べなかったりする。
凍弥 「チィイ!!あと1時間は寝れた筈なのに!!」
俺は叫んだ。
しかし、何も起きなかった。
凍弥 「………」
仕方無く、制服を着て階下へ。
凍弥 「確か今日はパン屋は休みだったよな……」
キッチンの戸を開けてインスタントラーメンを取り出す。
朝からラーメンか、体によろしく無いのでは?
そう思ったものの、どうする事も出来なかった。
凍弥 「食えるだけマシさね」
独り言を言いながら水を加熱する。
凍弥 「はぁ〜ぁ……。冷めててもいいからまともな食事にありつきたいよ、まったく」
姉さんはまだ寝ているようだった。
安心して食事にありつける。
……しばらくすると、鍋がボシュー!!と熱湯を吹き出す。
凍弥 「……っとと、忘れてた!!」
蓋を開けて、乾燥麺をボチャアと投下。
凍弥 「ホアチャア!」
跳ねたお湯に対して奇声を上げながら、ほぐれる程度まで待ち、箸でかきまぜる。
お好みの歯応えになったところでザルへ。
そして冷水で冷やしたのち、もう一方で熱しておいた熱湯に投下。
熱が全体に広がったらスープへ。
凍弥 「フフフ……この手間こそ通ぞ……」
テーブルに座り、ラーメンを食す。
ズルズル……もぐもぐ……。
誰も居ないダイニングルームに麺をすする音が響く。
凍弥 「………」
非常に悔しいのは何故だろう。
そんな事を考えていると、姉の葉香が降りてきた。
凍弥 「おはよう、姉さん」
葉香 「ああ、おはよう凍……おい。なにわたしのラーメンを食べている」
凍弥 「なぁ〜にが『わたしのラーメン』だ。買って来たの父さんじゃないか」
葉香 「……失せろ凍弥。そのラーメン、わたしが頂く」
凍弥 「断るっ!!これは貴重な朝メシだ!いくら姉さんでも譲れねぇっ!!」
葉香 「いい度胸だ」
凍弥 「やるか……!?」
葉香 「来い、後悔させてやる」
姉さんが指をちょいちょいと動かす。
こ、この……馬鹿にしおってからに!
凍弥 「キィェエエエッ!先手必勝!くたばれノストラダムブホォッ!?」
……ドシャア。
向かっていった途端に目には見えないくらいに速いナックルが顔面にヒット!!
あ、相変わらず何者……!?とても同じ人間とは思えん……!
葉香 「……どーした?もう諦めるか、男」
凍弥 「やらいでかっ!おぉおりゃあ!」
ブンッ!ドゴォッ!
凍弥 「ごっ───!」
ドシャア。
……つ、強ぇ……!強すぎる……!
振り出した拳がことごとくカウンターで返されてる……!
あ、悪魔や……!この方、悪魔やで……!
葉香 「……フウ、だらしがないな、凍弥。
そんなことじゃあいざという時に守りたいものも守れないぞ」
凍弥 「だ、だから俺は今このラーメンを守りたいんだよ!そしてねーさん!
その障害である貴様を完膚なきまで叩きのめす!
ついでに今までの個人的な恨みとかも晴らす!」
葉香 「……ほー……面白い。来な、遊んでやる」
凍弥 「クゥーッハァーッ!吠え面かくなよ姉さん!」
葉香 「お前相手にそんなものかくか。御託はいい、時間の無駄だ」
凍弥 「ッ……んの……!」
まずはスピードで撹乱してそのあとにたっぷり料理してやる!
バッ!ババッ!バッ!
葉香 「………」
凍弥 「ふははは!この俺の円の動きについてこれるかな!?」
葉香 「……どーでもいいが、凍弥」
凍弥 「なにぃ、もう降参か!?はははは!そんなことじゃあ」
ドゴォンッ!
凍弥 「ギャア!」
ゴシャア……。
凄まじい勢いで、食器棚にビッグバンタックルを極めてしまった。
おかげで転倒。
葉香 「……馬鹿かお前は。少しは周りを見て動け」
凍弥 「フフフ……どうやら今の衝撃で軽い脳震盪が起きたらしい……。
だが愛しのラーメンを守るためなら俺はやるぜ……!
さ、さあ来い姉さん!遠慮なんていらねぇ!」
葉香 「阿呆が。わたしに逆らう時点で手加減なんかするか」
───そういえばそういう人だったね。
ドカバキ!!
凍弥 「ギャァアアーーーッ!!!!」
その日俺は姉の葉香にボコボコにされた。
もちろん『ちくしょ〜〜』と嘆いたが。
───……。
……。
スズ〜〜〜〜ゴトン!!
葉香 「……ごちそうさまでした」
試合結果は言うまでもなく惨敗。
俺はホントに遠慮なしにボコられ、改めて姉の恐怖を知った。
凍弥 「そんなだから……嫁の貰い手が……」
葉香 「……黙れ」
姉の葉香は弟である俺から見ても、なかなかの美人だ。
頭も良くて、スポーツ万能。
子供には優しいが、俺とかの同年代には容赦ない。
性格は悪くもないが良くもない、が、キレると怖い直情型。
10歳以上には地獄を見せてくれる素敵な姉さんだ。
時々思うのだが、もしかして姉さんってショタ───ドカァッ!!!
突如!俺の頬の横を包丁が突き抜ける!!
凍弥 「おッ……アァ……!?」
葉香 「今……何か余計な事、考えたか……?」
イカン!目がマジだ!!
凍弥 「めめめめめめ滅相もない!!!!!」
俺は目の前で手をブンブン振った!!
葉香 「……そうか」
……フゥ……フゥ……!!
今、蛇に睨まれた蛙の気持ちが解った……!!
葉香 「ラーメン、美味かった。ありがとうな」
そう言い残し、家を出てゆく姉さん。
凍弥 「は……」
呪縛が解けたように、その場にしゃがみこむ。
凍弥 「はぁぁ……」
これだ……。
散々滅茶苦茶やって、人を脅かしておいて『ありがとうな』だ。
凍弥 「……ったく、これだから嫌いになれないんだ……」
俺は立ち上がって食器を洗い、片付けた。
凍弥 「それはそれとしても……だ」
ぐきゅるるらぁ〜〜〜〜〜……。
……腹へった……。
だがしかし、無常にも先程見た限りでは麺はもう無い。
冷蔵庫は空だし、ラーメン以外美味く作れる自信が無い。
……腹へった……。
凍弥 「……仕方無い……」
立ち上がる時は今だった。
俺は家を出て、来流美の家に侵入した。
辺りに気を配りながら階段を上がってゆく。
凍弥 「………」
俺達や、俺達の親は互い互いに家の出入りを許可している。
だから気にする事など無いのだ。
やがて来流美の部屋に辿り着く。
コンコン……。
一応ノックしてみる。
声 「はいは〜い」
チッ、起きてたか……。
寝てたら閏璃家に代々伝わる紙型目覚まし、
『激裂破璃戦』で起こしてくれようと思ったのに……。
凍弥 「起きてたか。これから由未絵も起こしに行くが、お前はどうする?」
声 「まだ余裕だから、本見てから行くわ」
凍弥 「そうか、解った」
……フフフ、そうか。
それならば───階下へ降りて、冷蔵庫の中身をちょいと拝借するとしよう!
来流美の朝食よ!我が礎(となれ!!
───……。
……。
凍弥 「ウッフッフ。さあて、冷蔵庫の中身はなんじゃらほい?」
グワチュァア……と粘りッけのありそうな音が鳴る。
と言っても、ゴム越しにある磁石の所為でそんな音が鳴っているだけであって、
べつに来流美の家の冷蔵庫が汚いってわけじゃない。
凍弥 「……んー、ふむふむ。そうか、昨晩は丁度有り合わせのもので終わらせたのか。
冷蔵庫になにもないところをみると、どうやらビンゴだな。
……フッ、俺もついにシャーロック・ホームズに迫りつつあるな」
ポン。
凍弥 「うん?誰だ、このシャーロック閏璃の肩を軽々しく叩くのは」
来流美「わたし」
凍弥 「なんだ来流美か、邪魔するなよ。
今お前の秘密をひとつでも暴いて世間に公表しようとしてるんだから」
来流美「どうして目の前でそういうこと言えるのよアンタってば……!」
凍弥 「フッ、俺はたった今、人という殻を破って生まれ変わったのだ。
さしずめシャーロックホームズの卵、
シャーロックホムンクルスといったところか」
来流美「人の殻を破ってまで不特定生命体になってどうすんのよ……」
凍弥 「そう誉めるなよ、照れるじゃないか」
来流美「……賑やかでいいわね、アンタの脳内」
凍弥 「ところで買い物には行った方がいいぞ。これじゃあ俺の食う分が皆無じゃないか」
来流美「その前に人の家の冷蔵庫漁ってるんじゃないわよ」
凍弥 「お前にゃ俺の気持ちは解らんさ。
お腹を空かせてラーメン作ったのに男のプライドズタズタにされて、
しかもその上ラーメン奪われた上に食器まで洗わされた俺の気持ちなど」
来流美「男のプライドって?」
凍弥 「……それなりに本気でかかって、姉さんにボロ負けした」
来流美「……アンタさ、まずあの姉に勝とうって思うのが間違ってるわよ」
凍弥 「馬鹿野郎、俺は『守るものを持つ強さ』を証明したかったんだ」
来流美「守るものって?」
凍弥 「ラーメン」
来流美「……負けるわけだわ」
溜め息をゴフォシャアアアアと吐き散らして哀れみの目で俺を見る来流美サン。
アータ……そりゃいくらなんでも反応がヒドすぎません?
凍弥 「チ、チィイ……!もういいわい!この枝豆!菜の花!」
来流美「あーあー待ちなさいよ。変な捨て台詞残して消えるなんて失礼じゃない。
だいたい何よ、菜の花って」
凍弥 「そんなことも知らんのか最近の女は……」
来流美「菜の花くらい知ってるわよ!」
凍弥 「なにぃ、免許皆伝じゃないか。
だったらもうこのお腹を空かせたカワイそうなロンリベイベーに話し掛けるな。
いつしか人肉に手を出してしまいそうな自分が愛しくなりつつある」
来流美「トチ狂ってんじゃないわよ。何か食べたいの?なんならおにぎりでも」
凍弥 「馬鹿言うな馬鹿。馬鹿かお前はこの馬鹿。
お前の施しなんぞ誰が受けるか馬鹿」
来流美「わざわざ馬鹿馬鹿言ってんじゃないわよ!」
凍弥 「叫ぶな、空きっ腹に響く」
来流美「……やっぱり一度、思いきりその体に解らせた方がよさそうね……」
凍弥 「な、なに……?やめろ……やめろ!こちとら腹が減って力が出ないんだぞ!?
今なら顔の塗れたアンパンマンより弱い自信があるほどだぞ!?」
来流美「問答無用。さ、ちょっとこっち来なさい」
凍弥 「や、やめれー!やめれぇえええっ!ギャアアアアアアアアアアアア!!!!」
ゴタタッ!ゴシャッ!ゴシャッ!ズザザーーー───……
───……。
……。
来流美「失せなさい!」
ドカッ!ズザァア!!
凍弥 「ギャアア!」
来流美の家から叩き出された。
それも散々ボコられてからだ。
うう、なんとご無体な……もうお婿にいけない体にされちまった……。
……もちろん冗談だが。
凍弥 「さてと……こうなると由未絵だけが頼りだよな……」
そば屋なんだから食材には困ってないだろう。
ということで、俺は由未絵の家へ。
───
鈴訊庵の二階にある由未絵の部屋の前に立つ。
凍弥 「お〜い、由未絵〜!!」
シィ〜〜〜〜〜ン……
凍弥 「由未絵〜〜〜!!」
シィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン……
凍弥 「寝てるか……。まあ、当然か……」
俺は『激裂破璃戦』を手に、由未絵の部屋のドアを開けた。
ドサドサドサァッ!!!
凍弥 「うおっ!?」
開けた途端、雪崩が起きた。
……と言ってもぬいぐるみの……だ。
由未絵の部屋はぬいぐるみで埋もれてた。
凍弥 「………」
久しぶりに入ったがここまでヒドイとは……。
というか、何処で寝てるんだアイツは……。
ぬいぐるみのあまりの多さにただただ驚愕。
凍弥 「おーい!!由未絵!!いるか!?」
声 「むにゃ……イルカさぁ〜ん……」
寝言で返すとは……できる!!
……いつもの事だろうけど。
さて───今の声から察するに、由未絵が埋まってるのは部屋の中央付近だな。
問題はあそこまで如何にして行くかだ。
1:ほっとく。
2:ぬいぐるみを廊下に移動させながら進む。
3:かつて、拳法の達人は柔らかい物体の上を平然と歩いたという。
結論:3
凍弥 「我は達人!!我は神なり!!
とぅぁああああああああああああっ!!!!」
俺はぬいぐるみの上に乗り、ぬいぐるみからぬいぐるみへと歩いて行った。
ちなみに頭のすぐ上には天井があった。
……結構高いが、案外どうにかなるものなのかもしれない。
凍弥 「なんだ……結構簡単じゃないか」
しかしそう思ったら失敗するのが世のルール。
スボォッ!!!
凍弥 「どわぁっ!?」
ズブズブ……
凍弥 「うおおおおおおお!!お、俺の体がぬいぐるみどもに呑まれてゆく!!」
ちくしょう!!俺はぬいぐるみに負けるのか!?
などと遊んでいると、沈んだ足に何かぬいぐるみとは違った物が当たる。
確認しなくても、なんとなく何か解った。
凍弥 「……由未絵?」
俺はぬいぐるみの山に潜り、手探りで由未絵を探す。
そして……
凍弥 「……お、居た居た!……よっ……と」
ぬいぐるみの山から由未絵を掘り起こす。
引きずり出して立たせたが、意識が眠っているらしく、俺の方に傾いてくる。
そしてそれを受け止める俺。
凍弥 「フラフラしないで起きろ」
由未絵「……うや?」
凍弥 「なんなんだよ、その『うや?』ってのは……」
由未絵「うう……ん」
凍弥 「いいから起きろ」
由未絵「………」
凍弥 「……由未絵?」
由未絵「……ぅく〜……」
寝てました。
凍弥 「いい根性してるな。ならこっちも手加減無しだ!
我が右手に夢と力と栄えあり!!
閏璃流破璃戦奥義アルティメット・インパクト!!」
俺は手に持ったハリセンを大きく振り上げ、渾身の力を持って振り下ろした!!
ズッパァアァーン!!
由未絵「きゃぅうぅっ!!」
うむ、良い音が鳴り響いた。
由未絵「あ……あれ……?凍弥……ふぁあ……くん?」
しかし、あまり効いていない様だった。
凍弥 「ああ、凍弥くんだぞ」
由未絵「おはよう……凍弥くん」
凍弥 「ああ、おはよう由未絵」
由未絵「………」
凍弥 「………」
由未絵「……あ……」
凍弥 「どうした?」
由未絵「えっと……その……」
凍弥 「?」
由未絵「も、もう……起きてるから……ね?」
凍弥 「ああ」
由未絵「………」
凍弥 「………?」
由未絵「うぅ〜……」
何故か顔を真っ赤にして、
視線をキョロキョロさせている由未絵。
凍弥 「なんだ?」
すぐ目の前の由未絵に問いかける。
……ん?
すぐ目の前……
凍弥 「って、うわぁっ!?」
俺は慌てて由未絵から離れた。
凍弥 「わ、悪い……」
由未絵「……う、ううん……」
……………………
凍弥 「………」
由未絵「………」
なんか長い間。
由未絵「あはは……」
凍弥 「?」
突然、由未絵が笑い出した。
由未絵「……昔のこと……思い出した……」
凍弥 「昔?」
由未絵「初めて凍弥くんに会った時のこと……」
凍弥 「ああ、あの時か……」
思い出した。
今日見た夢は俺の過去だ。
なんとなく触発されて、ゆっくりと昔のように由未絵の頭を撫でる。
由未絵「わっ……」
凍弥 「あの時のお前、無口だったからなぁ……」
由未絵「は、恥ずかしいよ……」
凍弥 「気にするな」
さらに撫でる。
由未絵「………」
やがてポーッとしてくる由未絵の顔。
なんだか猫みたいな奴だ。
凍弥 「………」
……腹へった……。
イカン……力が抜けていく……。
凍弥 「あ……あら……?」
視界が回る……?
空腹なのに、あんなに暴れたからか……?
由未絵「え……?」
ドサッ!!
俺は倒れた。
そして由未絵も。
由未絵「とっ……凍弥く……ん……?」
しかし、何も知らない由未絵が俺が空腹で倒れたなんて思う筈がない。
来流美「ウッギャァーーーッ!!凍弥が由未絵を押し倒したぁああああ!!」
突然ドア付近から絶叫。
後ろを見ると、来流美が立っていた。
凍弥 「待て……これは……」
ぐきゅるるるぅ〜〜〜〜。
由未絵「あ……」
凍弥 「と、いう訳なんだ……」
由未絵「……あははっ♪そっか、じゃあわたしが何か作ってあげるよ」
凍弥 「……すまぬ……」
由未絵「いいよ、わたし凍弥くん好きだもん」
凍弥 「俺も好きだぞ」
ある意味で、だが。
本当のところ、どうなのかは謎である。
由未絵「え……ほ、ほんと……?」
凍弥 「ああ、お前の料理、美味いもんな」
来流美「……へ?」
由未絵「……あ……あはは……はぁ。……なんだぁ……料理かぁ……」
凍弥 「?どうした?」
由未絵「え!?あ……ううんっ!!なんでもないよ、あははは……」
凍弥 「………?」
来流美「……鈍さ、ここに極まれり」
凍弥 「なにがだ」
来流美「べっつにぃ〜?」
挑発するような感じで大袈裟に声を高くして言う来流美。
チィ、あからさまに隠しやがって……。
由未絵「じゃ、作ってくるよ」
来流美「わたしも手伝うわ」
凍弥 「却下する」
来流美「なんでよ!!!」
凍弥 「お前、料理出来たっけ?」
来流美「ふっ、愚問ね凍弥……聞いて驚きなさい。
こう見えてもわたしはねぇ……!
焼そばをラーメンにして食べた経験があるのよぉおおっ!」
決めポーズまでフリつけて演出する来流美。
凍弥 「………」
素直に驚いた。
よもや俺以下の料理音痴が存在したとは……。
来流美「さあ!!わたしの役割は何!?」
凍弥 「寝てろ」
来流美「オーライ任せてっ!って、ふざけないでよ!!」
凍弥 「至って真面目だ!俺は焼そばラーメンなんて食いたくないわ!!」
来流美「くっ……!!」
由未絵「アハハ……。じゃ、じゃあ作ってくるね」
凍弥 「おう、期待してるぞ」
由未絵「うんっ!!」
とたとたと走ってゆく由未絵。
その場に残された俺と来流美はギラリと睨み合い……
というか来流美が一方的に睨んできてる。
来流美「さてと……凍弥。アンタとは一度、白黒つけるべきね……」
凍弥 「だめだ。今日は分が悪い」
来流美「安心なさい……。不利有利なんて無いわ」
くぅ〜〜〜……。
腹が鳴った。
来流美「昨日、買い出し忘れたのよ……」
悲くも、遠い目だった。
もちろん偉そうに語れる事ではない。
凍弥 「おにぎりでも作るんじゃなかったのか?」
来流美「……米すら無かったのよ」
凍弥 「な、なるほど……」
来流美「さあ、ケリを着けるわよ……───凍弥!!」
凍弥 「貴様の死を持ってなぁっ!!!」
由未絵の部屋にてぬいぐるみが飛び交う。
威力の高そうなぬいぐるみを選びつつ投擲(する。
よし、このロバのぬいぐるみは威力がありそうだ。
凍弥 「よっ……と!」
ズシィッ!!!
凍弥 「オォッ!?」
持ち上げたが、予想以上に重かった。
だが威力は期待出来る。
凍弥 「ぬぉおおおおおお!喰らえ!
奥義!!超核弾道ロバートブラストォオオッ!!!」
大回転遠心力を利用してロバティックフェイスを前にして発射!
ドカァアアァアアアアアアァァァァァァン!!!!!
来流美「キャァアアアアアアッ!?」
よし!!見事命中!!
などと状況を確認している最中も吹き飛ぶ来流美。
嗚呼爽快!!
凍弥 「俺の勝ちだぁッ!!……あら……?」
天高らかに拳を振り上げた時、とある謎の物体に気付いた。
天井にぶつかりそうなくらい高く舞った、
ジャイアント猪のぬいぐるみが俺に目掛けて落下してくるのだ。
凍弥 「んなァッ!?」
恐らく来流美が俺と同時に投げたのだろう。
凍弥 「ハッ!こんなもの避けて……!?」
ぐきゅるりらぁ〜〜〜〜……
腹が鳴った。
それとともに足が鉛を付けられたように動けなくなった。
凍弥 「バ、バカな!動けぬ!?体が全く動かぬだとぉおおお!?」
見るからに重たそうな猪が降ってくる。
凍弥 「く、くそォッ!!こんな物!!こんな物ォッ!!!
こんな……ギャァアアアアアア!!!!!」
ズシィイイイイイイイイイイイイン!!!!!!
猪は予想を遥かに凌駕する程に重かった。
凍弥 「……きゅう……」
来流美と同様にぬいぐるみに敗北する俺。
結局、俺と来流美は由未絵が来るまで気絶していた。
起き出した俺は由未絵にメシを作ってもらい、それを喰らって登校。
遅刻ギリギリで担任を追い抜いて教室に滑り込んで事なきを得たあとには、
やっぱり俺達は虫の息だった。
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