例えば、と考える。
例えば過去、夢に見た未来。
それがその先において現実のものとなる時、自分はどんな大人になっているのだろう。
そして……そんな夢を前に、どんなことをするのだろう。
受け入れるのか、それとも別の夢を追うのか。
子供の頃に夢に見たものが大人になっても同じとは限らない。
だけどきっと……夢は夢のままなんだと、夢の中に現れた少年は呟いた。
それが子供だった自分だって気づいて。
ああ、そっか……と納得して空を見上げた。
その時、思ったんだ。
大人になっても子供でいたいって───
───再来。男たちの一日───
【ケース16:閏璃凍弥/ところどころに愛が溢れない】
世の中って解らん。
まず解らん。
凍弥 「そうは思いませんか?」
柿崎 「なんのことか解らんぞ」
凍弥 「なにぃ、友情のハートコンタクトはどうした」
柿崎 「ああ、あれな。却下」
凍弥 「自分で言ったことも守れんのか、さすが柿崎」
柿崎 「どういう意味だそりゃ」
凍弥 「……ところでひとつ訊いていいか?」
柿崎 「ホントお前って好き放題話の向き変えるよな」
凍弥 「話術多彩と言え。そして崇めろ」
柿崎 「崇めるかっ!」
ぬう、シャレの通じないヤツめ。
凍弥 「いいから聞け。そして耳の穴かっぽじれ。
むしろその過程で出血しろ。馬鹿!かっぽじりすぎだ!」
柿崎 「勝手にシュミレートしとらんでさっさと話進めろよ」
凍弥 「なにぃ、俺のハイテクブレインシュミレートを馬鹿にするなよ。
いいか、俺の脳はなぁ」
柿崎 「屁理屈以外には使われないんだろ?そんなこと全人類が知ってる」
凍弥 「まだ見ぬ人々もか!?」
柿崎 「俺の柿崎ネットワークにかかればちょろいものよ……」
凍弥 「ふっ……さすがだ柿崎……。伊達にウチに来る度に鼻血出してないな……」
柿崎 「それは全部お前が原因だろうが!」
うおう、確かに。
凍弥 「まあ聞け」
柿崎 「聞く姿勢で居るのに茶化してるのは誰だよまったく……」
凍弥 「お前だ」
柿崎 「俺!?」
凍弥 「安心しろ、冗談だ」
柿崎 「当たり前だこの野郎……!」
凍弥 「そう、冗談だ。半分は」
柿崎 「半分だけかよ!」
凍弥 「そうカッカするなって。つまり俺が訊きたかったことはだな」
がちゃっ。
鷹志 「ふう、スッキリした」
凍弥 「……こういうことだよ」
鷹志 「へ?なにが?」
どうして休みになると人の家に押し掛けるんだおのれら……。
柿崎 「ははぁ、どうして休みになると俺の家に〜、とか考えてるんだろ」
凍弥 「鷹志、気をつけろ。こいつ絶対この家に盗聴機隠してるぞ」
鷹志 「なにぃ!?」
柿崎 「いきなり突拍子のないこと言うな!」
凍弥 「ならば問う!何故俺の考えていることが相解った!!」
柿崎 「相解ってどうする!訳解らんぞ!」
凍弥 「なにぃ!そんな時こそ友情のハートコンタクトだろうが!
言葉の意味は違ってもその真意は届くんだろ!?」
柿崎 「お前の愉快な思考回路が俺に届くわけないだろが!
そもそもお前の考えてることが盗聴機で聞けるわけないだろ!?」
凍弥 「俺は念写が趣味なんだ」
柿崎 「関係ねぇ!」
凍弥 「なにぃ、俺のサイコキネシスを信じてないな?
俺のサイコキネシスは言葉通り最高なキネシスなんだぞ」
鷹志 「とっても寒いぞその駄ジャレ」
柿崎 「そもそも念写って自分が思い浮かべた映像を写真に写すやつだろ?
盗聴機と関係ないだろ」
凍弥 「解ってないな柿崎よ。念写も応用すれば空だって飛べるんだぞ」
鷹志 「解りやすい強がり言うなって」
柿崎 「今回は俺の勝ちだな。お前に言葉で勝つのって貴重だしな」
凍弥 「まだ終わってないぞ。いいか?それを実証してやる。
柿崎、そこのクロゼット、開けてみてくれ」
柿崎 「んあ?なんだよ、こんなところに何か仕舞ってあるとか?」
柿崎がクロゼットまで歩いていき、そしてガチャッと開ドバァン!
柿崎 「ヘボ!!」
ドシャア。
柿崎をやっつけた。
凍弥 「俺に勝とうだなんて10秒早いわ」
鷹志 「微妙な数値だな。
しっかしこんなところにもあったのか、飛び出しボクシンググローブ」
倒れた柿崎の前のクロゼットからはマインマインと小さな音を立てながら、
スプリング付きボクシンググローブが揺れていた。
凍弥 「こんなこともあろうかとスプリングを最大まで圧縮しておいた。
マイク・タイソンにも匹敵する破壊力を保証するぞ」
鷹志 「……そうか、マイク・タイソンに殴られると柿崎でも一撃K.Oか」
叫ぶ暇もなかったしな。
凍弥 「さて、やかましいヤツも黙ったところで話を戻そうか」
鷹志 「やかましくなる原因を作ってるのは自分だってことくらい自覚してやれよ」
凍弥 「馬鹿だなぁ鷹志、柿崎をからかわないで何が柿崎だ」
鷹志 「よく解らんが、いっそ彼奴が哀れだな……。まあ柿崎だからいいか。
それで?話ってなんだよ」
凍弥 「どうして今日に限って学級閉鎖なんだろなぁって」
鷹志 「風邪が流行ってるからだろ?」
凍弥 「流行なんて嫌いだ」
鷹志 「いや、そういう意味じゃなくてさ」
凍弥 「何も言うな、解る。つまり全ての原因は柿崎ってことだろ?」
鷹志 「……凍弥さ、柿崎に何か恨みでもあったりするのか?」
凍弥 「いや、面白いからやってるだけ」
鷹志 「……だと思った」
鷹志がモシャアと溜め息を吐いた。
むう、俺って先読みされやすいのか?
それはいかんな。
鷹志 「ところでさ。ひとつ訊きたかったことがあったんだが」
凍弥 「うん?なんぞね」
鷹志 「支左見谷って子供の頃にここに引っ越してきたって言ってたよな?
その前はどこに居たんだ?」
凍弥 「……知らん」
鷹志 「知らんのか」
凍弥 「そっか、そうだよな。考えてみれば訊いたこともなかったな」
鷹志 「気にならないか?」
凍弥 「ならん」
鷹志 「いつでも話を盛り上げる気で居るんじゃなかったっけお前……」
凍弥 「そんな昔のことは忘れたな」
鷹志 「……つまるところ、やっぱりお前って盛り上げよりも屁理屈が好きなだけだろ」
凍弥 「なにを言う、紳士な俺がそげなこと」
鷹志 「紳士は友人をトラップに導かないと思うんだが」
糸の切れたマリオネットのようにノビてる柿崎を眺めながら呟かれた。
凍弥 「紳士的に怒りをぶつけたんだ」
鷹志 「紳士ならまず冷静に話し合いで解決しようって思わないんかい」
凍弥 「紳士だって人の子なんじゃい!見損なう以前に呆れたぞ鷹志!
お前が紳士差別するヒューマンだったとは夢にも思わなかったわ!」
鷹志 「もっともらしいこと言ってキレるな!」
凍弥 「まあそれは捨てておくとして」
鷹志 「散々言っておいて捨てるのかよ……。
せめて置いといてやる思い遣りはないのか?」
凍弥 「絶無!」
鷹志 「ひでぇ……」
そんな会話を繰り返している中、ふと鷹志が繰り返した。
鷹志 「しかしあれだよな。実際どういうところでどんなことしてたんだろうな」
凍弥 「なんの話だ?」
鷹志 「支左見谷だよ。気にならないか?」
凍弥 「そりゃあ少しは。だけど訊くに至るほどじゃないな」
鷹志 「お前って妙なところで中途半端だよな〜。
知りたいって思ったら訊いてみればいいじゃないか」
凍弥 「そうか?」
鷹志 「そうだよ。お前ってそういうこと訊きたがらないじゃないか」
凍弥 「そうか?」
鷹志 「ああ」
凍弥 「これでも結構訊いてると思うんだが」
鷹志 「肝心な部分の問題だよ。核心に迫らずに屁理屈に持っていくからだ」
凍弥 「ぬう」
鷹志 「試しに訊いてみたらどうだ?」
凍弥 「そうだな。鷹志、お前のスリーサイズを暴露しろ。
明日、黒板に大きく書いておいてやる」
鷹志 「そういうところがダメだっつっとんのじゃあ!!」
凍弥 「なにぃ!?これで公表しなけりゃお前……ウソだぜ!?」
鷹志 「なにドラマぶった会話に持ち込んでるんだよ!
俺にじゃなくて支左見谷に訊けって言ってるんだ!」
凍弥 「な、なにぃ!?由未絵にスリーサイズを訊けってのか貴様!堕とすぞ!?」
鷹志 「だから堕とすってなんなんだよ!って、そうじゃなくて!
どこに住んでたかくらい訊けるだろ!?」
凍弥 「黙れこのわらしゃあ!貴様がそんな男だとは思わなかったわ!」
鷹志 「人の話を聞け!まず聞け!あ、いや、その前に落ちつけっ!な!?」
凍弥 「このヘモグロビンがぁーっ!!」
鷹志 「なにぃ!?ぎゃああああああっ!!!」
───……。
【Side───橘鷹志】
───……。
来流美「……それで。なんでウチに来るのよ」
鷹志 「……あいつじゃ話にならんからだ」
ああくそ、しこたま殴りやがって。
婿入り前の体がキズモノになるところだったじゃないか。
来流美「それで?なんの話だったかしら」
鷹志 「凍弥と支左見谷の話。
どーしてあの馬鹿、支左見谷のことになるとキレやすいんだ?」
来流美「だから言ったじゃない。妹みたいに考えてるのよ。
それをいきなりスリーサイズだなんて、橘くんって案外スケベだったのね」
鷹志 「だからぁ!あれはあいつが盛大に勘違いしただけだっつの!」
来流美「冗談よ。冷静になりなさいな」
鷹志 「……凍弥との論争で真っ先に我を忘れるのは誰だよ」
スパァーン!
鷹志 「ぐおっ!」
来流美「……なに?」
鷹志 「……な、なんでもないっす……」
なんか、凍弥の気持ちがスズメの涙ほど解った気がした……。
鷹志 「あ、そ、そいでさ。支左見谷が前に住んでた場所ってどこか知ってるか?」
来流美「知らないわよそんなの」
鷹志 「……ホントに幼馴染なのか?」
来流美「うっさいわね、暗黙の了解ってやつよ。
過去がどうであれ、由未絵は由未絵なんだから。
プライベートを掻き回してもし歪みでも出来ようものなら、
そんなもの邪魔でしかないじゃない」
鷹志 「不安ではあるわけだ」
来流美「そりゃね。あの娘もここで生まれてれば、もっと大切に出来たのにね」
鷹志 「大切にしてないのか?」
来流美「そんなわけないでしょ、あの娘がどこかで遠慮してるのよ。
だからこそ言ってるの。わたしはあの娘のこと大好きよ。
でも、違う場所で生まれたからこそ埋められない壁ってあるのよ。
あ、だからって今が嫌いってわけじゃないからね。
そこらへん、履き違えないでちょうだいね」
鷹志 「そりゃもう。気持ち解るし」
来流美「あ、そっか。橘くんも幼馴染が居るんだっけ。どんな娘?」
鷹志 「え?へっへっへ、どんな娘かって、そりゃアナタ。語ると長いよ?俺」
来流美「じゃあいい」
鷹志 「聞けこの野郎」
来流美「……納得できたわ……凍弥の友達やってるだけのことはあるわね」
───……
【Side───End】
───トントン。
部屋のドアがノックされた。
別に困ることもないので、開いてるぞと言ってぐったりする。
しばらくあった間ののちにドアが開かれ、由未絵が入ってきた。
凍弥 「由未絵か。珍しいな、お前がチャイム鳴らさないなんて」
由未絵「うん、一度やってみたかったの」
凍弥 「そかそか。それで、どした?」
由未絵「うん。お仕事まで時間があるから遊びに来ちゃった」
凍弥 「ん、そっか」
由未絵「うん」
凍弥 「だが、見ての通り何もないぞ」
由未絵「凍弥くんが居るよ」
凍弥 「俺はオモチャか?」
由未絵「そうじゃないよ、お話、しよ?」
凍弥 「ふむ」
そうだのぅ、鷹志と死闘を繰り広げたのも事実だが、
確かにこいつがどこに住んでたのかは気になるところだ。
よし。
凍弥 「丁度いいな、訊きたいことがあったんだ」
由未絵「ふぇ?そうなの?」
凍弥 「うむ」
由未絵「珍しいね、凍弥くんがわたしに訊くなんて」
凍弥 「…………そう思うか?」
由未絵「うん。改めてこうやって訊かれるのは初めてだと思うよ」
凍弥 「……子供頃、随分詮索した気がするんだがな。散々無視されたが」
由未絵「あう、あれは仕方ないよ。右も左も解らなかったのに、
凍弥くんてば会ったばっかりのわたしに訳の解らないことばっかり言うんだもん」
凍弥 「正論だ」
確かにそんな記憶ばっかりだ。
なんだ、俺の質問の仕方がハイセンスすぎたのかと思ってた。
凍弥 「そうかそうか、そうだったのか。じゃあこれが改めた最初の質問ってことだな?」
由未絵「うん、そうだね」
凍弥 「じゃあ訊くぞ」
由未絵「うん」
凍弥 「由未絵ってさ、ここに来る前はどんなところに居たんだ?」
由未絵「ふぇ?」
凍弥 「うん?」
由未絵「そんなことでいいの?」
凍弥 「俺が訊きたかったのはそれだけだが。何か不都合か?」
由未絵「ううん、そんなことないけど。
えーとね、わたしはここに来る前には月詠街って場所に住んでたの」
凍弥 「月詠街……ああ、あそこか。そんなに遠くないんだな」
隣街みたいなものだ。
電車で行けば待ってるだけで嫌でもつく。
由未絵「信じられないかもしれないけどね、そこだとわたしにも友達が居たんだよ」
凍弥 「そりゃ居るだろ」
由未絵「うん、でも初めて凍弥くんと会った時、わたしって挙動不審みたいだったよね?」
凍弥 「確かに。あれには参ったよ、人の話は聞かないわ近寄ると逃げるわ」
由未絵「不安だったんだよ、新しい場所での生活が。
友達も居ないし、お母さんもお父さんも怖くなっちゃってたし。
お母さんが怖くなっちゃってから、わたしって怒られてばっかりでね?
いつからか解らないけど笑えなくなっちゃってたんだよ。
でも泣くからって大声出したらまた怒られちゃって。
どうしていいか解らなかったわたしが考え出した答えが、
あの時やってたみたいに感情を抑えることだったの」
凍弥 「………」
由未絵「凍弥くん、ありがとうね。わたし、凍弥くんに会えてほんとによかったよ」
凍弥 「…………ばか」
くしゃっ……。
俺はなんだか照れくさくなって、由未絵の頭を撫でた。
だけど照れとは別に、なにかもどかしい感情が溢れていた。
それはきっと……由未絵の両親に対する怒りだ。
解ってる、こいつはあんなことがあっても親を恨んだりはしない。
根っからのお人よしで、飴をちらつかされたら誰にでもついていくような、
心に隙がありすぎる子供のようなやつだ。
そのくせ、騙されてたって気づいたところで……
由未絵「凍弥くん……?」
……きっと、こいつは笑うのだ。
そんなことは悲しすぎる。
いつだって周りの所為で我慢してきたんだ。
好きなことはちゃんとさせてやりたい。
だからこそ、俺がこいつを守って───
凍弥 「……なんでもない」
最後にもう一度頭を撫でて、手を離した。
そのままベッドに倒れ込み、大きく伸びをして溜め息を吐いた。
由未絵「ねぇ、凍弥くんは?」
凍弥 「俺ならここに居るが」
由未絵「あう、そういう意味じゃなくて。凍弥くんはどんなふうに過ごしてたの?」
凍弥 「……ああ、お前に会う前か?」
由未絵「うん。気になるな〜」
凍弥 「聞いてもつまらんぞ」
由未絵「それでもいいよ」
凍弥 「……どうしても聞きたいか?」
由未絵「うん」
凍弥 「……しゃあないな、だったらハンケチーフを用意しろ、感動必至だぞ」
由未絵「つまらないんじゃなかったの?」
凍弥 「お黙り」
由未絵「えへへ、怒られちゃった」
凍弥 「ったく……さて、それじゃあお話致すか。俺の感動巨編を」
俺はどんな話を織り交ぜて由未絵を楽しませようかと思案していた。
やがてゆっくりと思考を纏め、口を開こうとした時。
外から由未絵を呼ぶ声が聞こえた。
由未絵「あ……っ……」
途端、由未絵がとても悲しそうな顔をした。
……オフクロさんが仕事だからと由未絵を呼んだのだ。
───そうだ。
いつもいつも由未絵を悲しませてるのは他でもない、あの両親だ。
その考えに至った時、俺の中で何かが爆発した。
勢いよく体を立たせて、窓に向かって駆ける。
その窓を開けて大声で罵倒しようとした。
だけど、その背中に抱きつくものがあった。
それは間違う筈もない、静止の合図だった。
凍弥 「……由未絵……」
由未絵「だめだよ凍弥くん……お母さんも必死なんだよ……?」
凍弥 「だからって……お前の時間が潰されていいわけないだろ!?」
由未絵「……だめなんだよぅ……。
もし喧嘩があって、お母さんがここに居たくないって思っちゃったら……
今度は凍弥くんとお別れしなくちゃいけないんだよ……?
わたし、そんなの嫌……!嫌だもんっ!」
凍弥 「………」
由未絵「……ごめんね、わたしのために怒ってくれたこと、嬉しかったよ。
それじゃあ……またね、凍弥くん」
由未絵は蚊の鳴くような声でそれだけ言うと、俺の部屋を出ていった。
……やがて外に居るオフクロさんに声をかける。
そのごめんなさいって声に、さっきまでの涙声の雰囲気は一切無かった。
凍弥 「……どうしてだよ……どうしてまだ、お前が我慢する必要があるんだよ……」
おかしいじゃないか……。
こんなの間違ってる……。
働かせてもらってる身だが……俺はあの両親を好きにはなれない気がした。
柿崎 「……あのー」
凍弥 「うおっ!?」
柿崎 「……あの、さっきから声かけてたんですけど」
凍弥 「……お前、いつの間に」
柿崎 「キミが俺にクロゼットを開けてみろと言った時から」
凍弥 「……もしかして、今の会話、全部聞いてたか?」
柿崎 「恭悦至極に存じます」
凍弥 「意味が解らんが……あ、おい柿崎。頭にゴミがついてるぞ」
柿崎 「え?あ、まいったな、ずっと倒れてたからか?」
凍弥 「いや、そこじゃない……ああそこでもない。じれったいな、俺がとってやる」
柿崎 「悪いな、頼む」
凍弥 「そうそう、ちゃんと頭見せて……もうちょい屈め」
柿崎 「こうか?」
凍弥 「うむ。死ねーッ!!」
柿崎 「なにぃ!?ぎゃあああっ!!」
ドゴォッ!!
柿崎の後頭部に容赦無い拳を落とす。
凍弥 「忘れろ!忘れやがれ!今起きたこと全てを!」
柿崎 「ヒ、ヒィイ!だ、誰にも喋ったりせんから堪忍やー!」
凍弥 「だめだ」
柿崎 「お前には情ってものがねぇのか!」
凍弥 「貴様にかける情は無い!」
柿崎 「な、ちょっと待───ギャアアアアア!!」
───間───
〜しばらくお待ちください〜
鷹志 「……なにやってんだお前」
部屋に入ってきた鷹志が開口一番にそう言った。
部屋の隅には布団に包まれた状態で、その上から縄で縛られた柿崎がぐったりしている。
その布団には『粗品』という張り紙が添えられている。
それを見て、鷹志が手で顔を隠しながら溜め息を吐く。
凍弥 「丁度良かった、今からお前の家にお歳暮を届けるところだったんだ」
鷹志 「全力で要らん」
凍弥 「ナマモノだから早急に食べてくれな」
鷹志 「食わんっ!」
凍弥 「なにぃ、それならばこのお歳暮、どうしてくれよう」
鷹志 「それを俺に訊くなよ困るだろ……?」
凍弥 「よし、店に返品しよう」
鷹志 「買ったんか!?それホントに買ったんか!?」
凍弥 「騒ぐな騒ぐな。100%果汁入りでスウィーティンな冗談だ」
鷹志 「………」
ぬう、俺を見る彼の目がいつになく疑わしい。
なんて失礼な。
凍弥 「まあこいつには伊達巻の気分をエキサイティングに味わってもらうとして。
なんか用か?戻ってくるとは思わなかった」
鷹志 「いんや、霧波川に俺のロマンを延々と語っていたんだが、
フロントスープレックスで放り出されてな。
仕方なくここに戻ってきたわけだ。家に帰ってもやることないし」
凍弥 「そっか。ところでな、鷹志」
鷹志 「ん?なんじゃい」
凍弥 「由未絵の居た場所がわかったぞ」
鷹志 「居た場所?ああ、さっき言ってた引越し前の場所か?」
凍弥 「ああ。月詠街に居たって」
鷹志 「月詠街かぁ。懐かしいな」
凍弥 「嫌な思い出しかないが」
鷹志 「俺と筋肉耐久力番付をして負けたんだもんな」
凍弥 「途中で這ってたお前に負けただなんて思いたくないぞ」
鷹志 「それでも勝ちは勝ちだろ。……そういえばまだあるのかな、晦神社」
凍弥 「そりゃああるだろ、神社壊したら大変なことだぞ。
それにあんな高いところの神社壊してどうするっていうんだよ」
鷹志 「ははっ、そだな」
凍弥 「………」
鷹志 「どした?」
凍弥 「なにもやることないよな?」
鷹志 「うん?ああ、そうだな」
凍弥 「……行くか?無駄足」
鷹志 「……いいねぇ〜」
柿崎 「ふっ……その無駄足、俺も付き合うぜ」
伊達巻状態の柿崎が歯を輝かせながら笑った。
鷹志 「無様だな、柿崎。今のお前ならコルトパイソンひとつで勝てる」
柿崎 「大抵の生物殺せるだろそれは!」
凍弥 「よかったな、それほど危険人物としてランク付けされたんじゃないか」
柿崎 「それって俺が猛禽類に見られてるってことだろうが」
凍弥 「くっ、否定できない」
柿崎 「してくれよ!」
鷹志 「いまからなら丁度いい電車があるな。用意してすぐ行けば問題無い。
あ、俺はこのままでも直行できるぞ?柿崎、お前は?」
柿崎 「侮るな、俺だってそれくらいの用意はしてからここに来た」
凍弥 「そうか、じゃあ行くか。俺も準備万端だ」
やがて俺達は立ち上がった。
さあ、目指すは月詠街。
一度は見たけど一応言おう!いざ!まだ見ぬ世界へ!
柿崎 「待てコラ」
凍弥 「なんだ柿崎、出発の門出を邪魔する気か」
柿崎 「これ解け。歩けないだろ」
凍弥 「なにぃ!?それがお前のしてきた準備じゃなかったのか!?」
柿崎 「んなわけあるかぁっ!」
凍弥 「そ、そうだったのか……!どうして……どうして黙ってたんだ……!
もっと早く気づいてやれたら、お前を助けることが出来たのに……!」
柿崎 「助からないのかよ俺!」
鷹志 「冗談やってないで行こうや。乗り遅れたら面倒だ」
凍弥 「残念だ……お前と旅をしたかった……」
柿崎 「えぇっ!?置いていくのか!?俺を置いて行く気なのかお前!」
凍弥 「今度お前と出会えたら……いい友情が築けそうだよ」
柿崎 「ま、待てーっ!俺達友達だろ!?
置いていくのか!?お、おーい!凍弥ー!鷹志ー!待てよぉおお!!イヤー!」
……ばたん。
やがて部屋のドアを閉める頃。
彼のすすり泣く声が聞こえた。
……もちろん冗談だ。
がちゃあぁっ!!
凍弥 「ていうかツッコめよ!」
柿崎 「散々ツッコんだだろうがぁっ!マジ泣きするとこだったぞ今!」
凍弥 「俺とお前との仲じゃないか、涙を恥じるなよ」
柿崎 「そうだな。今は憎しみで血の涙が出そうだ」
凍弥 「それはいい、是非見せてくれ」
柿崎 「その前にまずお前を血祭りに挙げたい気分だ」
凍弥 「全力で遠慮する」
そういいつつも柿崎を開放。
彼は生まれたてのベイビーのような顔で開放を喜んだ。
凍弥 「じゃあ行くか。これぞ出発点」
柿崎 「いやなスタートラインだな……」
鷹志 「今そう思ってるのはお前だけだろ」
柿崎 「伊達巻扱いされて喜べるかぁっ!おのれら人をなんだと思ってやがる!」
凍弥 「パーシモン」
鷹志 「柿」
柿崎 「果し状送るぞこの野郎!」
凍弥 「いやー、なんだかんだ言って楽しみだなー」
鷹志 「そうだなー。木刀あったら買おうかなぁ」
柿崎 「さわやかに無視すんなぁあああっ!!」
こうして我らの旅は始まった。
俺と鷹志とパーシモンで募ったパーティーに、
これからどのような冒険が待ち受けているのか……!
それは、言葉で表せば『神のみぞ知る』のである。
神の存在なんぞ信じてないが。
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