夢を見る。
それは懐かしい昔話。
自分勝手な子供が、初めて他の誰かのために何かをしあげたいと思った蒼い季節。
少年の頃、自分に無かった笑顔を持っていた少女がとても眩しく見えた。
だけど彼女は弱くて。
だから自分がしっかりしなくちゃって思って。
俺は俺なりにあいつを守ってきたつもりだった。
だけど突然、全てが色あせる。
自分がやったことは本当にあいつのためだったんだろうか。
そんな身勝手なエゴがどうしても消えてはくれなかった。
───それでもあいつは微笑む。
だから俺はこう思う。
あいつが笑っていてくれる限りは、きっとこのままの自分でいいのだろうと───
───過保護男。屁理屈唱えし王子様───
【ケース18:閏璃凍弥/マッスルメンタルグラフティ】
朝である。
本日快晴、素晴らしき朝なのである。
本日もお日柄がよく、素晴らしいかぎりですわねと、
思考回路の中でご婦人方が談笑している。
その中にアドン(超兄貴)を発見するに至り、俺の意識は覚醒した。
凍弥 「…………嫌な夢見ちまった……」
朝から凄まじく気分が悪い。
時間を確認すると丁度いいくらいの時間だった。
凍弥 「……うむ」
頷いてから起き上がり、パパッと着替える。
そしてドアノブに手を伸ばそうとしたとき、思い当たって部屋へと振り返った。
凍弥 「………」
その先には小さな袋。
その中に入っているのは月詠街で買ってきたお守りだ。
……学校で渡すっていうのもアレだよなぁ。
ま、いいか、学校行く途中で渡せばいいんだ。
机まで歩き、その上にちょこんと置かれていた小さな袋を手に取り、鞄に放り込む。
凍弥 「さてと、顔でも洗ってスッキリサッパリなモーニングを迎えようか。
フフフ、やつらに俺だって起きようとすれば起きられることを知らしめるのだ」
不敵に笑い、部屋を出て階下へ。
家の中は相変わらずシンと静まっていて、
いい加減帰ってこない家族達が心配になってきた。
今日、学校で鷹志に状況訊いてみるか。
宿にまだ居るっていったら相当だ。
凍弥 「っと、あんまり余裕無いな。目覚し時計の方、壊れてたのか?」
水を飲むためにやってきたダイニングルームの時計は結構いい時間を叩き出していた。
俺は傍に置いておいた鞄を引っ掴むとそのままの勢いで家を出た。
───で、外に出てみれば。
そこは陽射しに当てられた眩しい世界だった。
最近いい天気が続くなとか思いながらその陽光に当てられる。
小鳥も元気に鳴いていて、いい朝であることは間違い無い。
凍弥 「んーむ、なんかこういうのを清々しい朝って呼ぶんだろうな。いい気分だ」
ぬおおと伸びをする。
───さて、これからどうしようか。
1:学校直行
2:顔を洗うのを忘れた
3:来流美の寝込みを襲う(キャメルクラッチ)
4:由未絵の寝込みを襲う(くすぐり地獄)
5:そもそもこの時間で起きてないわけがないので待ってみる
結論:2
凍弥 「いかんいかん、俺としたことが顔を洗うのを失念していた」
そそくさと家に戻り、靴を脱ぎ捨てて洗面所へ。
時間に余裕がないこともあって、俺はすぐさまに蛇口を捻った。
ゴシャーと水が出る中、覚悟を決めて顔を洗う。
凍弥 「───ッッッ……!!」
予想以上に冷たい水に身体を戦慄かせる。
ぬおお、顔が痛い……!
すぐさまタオルを手にして顔を吹く。
おお……壁掛けのタオルでさえ暖かく感じる世界の神秘に感謝。
凍弥 「今日もキマッてるぜ」
ナイトゥルースの某主人公の真似をして溜め息。
馬鹿なことやってる場合じゃない。
再び鞄を引っ掴んで走り出す。
えーと、家を出て、それから───
1:由未絵は奇跡でも起きなければ起きてないだろうから先に由未絵の家へ
2:来流美を先に起こして夢のタッグコンビネーションで由未絵を起こす
3:歯を磨くのを忘れた
4:さっさと行ってパンを購入する
5:全てを無視して学校へ
結論:3
凍弥 「またかい!」
俺は言葉を吐き捨てるとそのままの勢いで家の中に飛び込んだ。
洗面所まで駆け抜けて、その入り口の横の壁に鞄を放って中に入る。
そして歯をゴシャー!と磨いてうがいをして、
また来るのは面倒だから生えてもいない髭を剃るフリをして優雅に過ごす。
サクッ!
凍弥 「ギャア!」
なんてこと!横滑りしてしまった!
だが安心ぞ。
凍弥 「切れてナーイ!ってギャア切れてる!」
チッと舌打ちをして、ひとまず無視で鞄を引っ掴んで家を出る。
忘れ物無し!
とってもダンディー!
故にパーフェクト!
さあ次の行動だ!
1:腹が減ったから先にパン屋へ
2:ラジオ体操がまだだ
3:由未絵の部屋へ行く
4:来流美の部屋へ行く
5:学校へ
結論:…………決まらん。
凍弥 「まったくあいつら何やってんだよ……もう時間無いってのに……!
ああもう!先に由未絵だ!」
俺は鈴訊庵に入り込み、その先の二階を目指す。
少々長めの廊下を滑るように走り、由未絵の部屋の前へ。
凍弥 「……うむ、よく掃除が行き届いておる。
靴下だったらちょっとしたスケート気分だ」
試しに障子に指を伝わせてみたが、埃のひとつもない。
凍弥 「……完璧超人かここの人間は」
或いは潔癖症ってやつか。
どちらにせよこういうのは息が詰まる。
程よく……まあ汚れたって言うのも変だが、
程よく少し散らかったくらいが住みやすいと思うんだがな、俺は。
さてと。
コンコンと、由未絵の部屋のドアをノックする。
が、予想通りに返事無し。
仕方ないな、毎度のことだが……
凍弥 「由未絵、入るぞ」
一応声をかけて数秒待つ。
が、応答無し。
……やれやれ。
小さく溜め息を吐いてドアノブを捻った。
そして中へ入ると───
凍弥 「………」
由未絵「………」
……由未絵が居ました。
しかも……下着姿。
由未絵「……うや?」
……しかも寝ぼけてるようです……。
って、違うだろっ!
バタンッ!
俺は部屋を飛び出してドアを閉めた。
凍弥 (…………ったくあの馬鹿っ……!
なんつぅ格好してるんだよボケ者が……っ!!)
顔がチリチリと熱くなるのを感じる。
軽く痛いと感じる何かが顔に集まって……って!
だーっ!消えろ消えろ!頭の中から消えやがれ!
凍弥 「あーっ!なんだってんだくそっ!」
さっき見た光景が頭から離れない。
くそったれ!この後どんな顔して中に入ればいいんだよ!
かー!考えたらムカツいてきた!
凍弥 「ウルァーッ!由未絵ぇええっ!起きやがれぇええっ!!」
ダンダンダン!!
凍弥 「起きてるかーっ!?起きてたら返事しろぉおっ!!」
だんだんだんだんだんっ!!
荒れ狂いながらドアを殴る。
が、予想通りに返事無し。
凍弥 「………」
これで来流美のところ行って由未絵が起きないんだー、なんて言ったら……
どうして中に入らないの?とか訊かれて……ああ、ダメだ。
あいつのことだから盛大に勘違いする。
くそっ、どうすりゃいいんだよ……。
1:部屋に入ってマジマジと観察する
2:寝ぼけながらでも着替えていたんだから待つ
3:もう一度ノックンロール(ノック乱舞)
4:様子を見てみる
5:来流美を呼ぶ
結論:5
こうなったらこれしかないだろ。
……でもなぁ、こんなの来流美の家に行く途中で鉢合わせしたら言い逃れできないよな。
来流美に頼むってことは一度中を見たってことがバレることにイコールしている。
来流美を呼ぶなら、来流美がまだ自分の部屋に居る状態じゃなければならない。
そこにさりげなく起きてるかー?とか言えばアリバイ完了。
……急ぐか。
凍弥 「よし、とにかく来流美が部屋を出る前に」
声 「由未絵ー、凍弥ー、居るのー?」
凍弥 「ッ!!」
ぐあっ!
なんて間の悪いヤツだ!
あーとうーとえーと!
ここに突っ立ってたら、どうして中に入って起こさないのよなんて言われて───
あいつのことだ、変態のレッテルどころじゃ済まないぞ!?
……くっ、これだけはやりたくなかったが───
由未絵が着替え終わってることを願って!
すまんっ!入るぞ由未絵!
───がちゃっ!バタンッ!
中に入ってすぐさまドアを閉める。
来流美が来た時の時間稼ぎのためだ。
って、そこまでは……あ、いや、決していいとは言えないが、一応ここまではいい。
あとの問題は……
凍弥 「………」
俺は恐る恐る顔を上げていった。
俺が入ったっていうのになんの反応もないのが不安で仕方が無いが……
ここは寝惚け由未絵に賭ける。
凍弥 「っ!」
バッと勢いよく顔を上げ───
凍弥 「ぐあっ!」
───た先には、上の下着まで脱いだ状態で、
制服を抱き締めてボケ〜っとしている由未絵の姿があった。
凍弥 「───」
そんな由未絵を見て、俺の中で何かがキレた。
凍弥 「───……んのっ……ばぁかたれぇええええええええっ!!!!」
ぼかぁっ!!
由未絵「きゃうぅっ!!」
凍弥 「なんて格好してんだ馬鹿!恥ずかしいと思わないのかお前はっ!」
由未絵「と、凍弥くん?あ……きゃあっ!?わ、わわわたし……と、凍弥くん……!?」
凍弥 「妙な勘違いしてんじゃねぇ!俺が入った時にはそんな格好で寝惚けてたんだよ!
……あーもう!ほらっ!さっさと着替えろ!」
上着のように掛けているだけだった学生服を由未絵に掛け、ドアノブを握った。
来流美のヤツが入ってこないようにするためだ。
……ていうかそれなら鍵閉めるだけで十分か。
カチッとな。
……ふう。
由未絵「と、凍弥くん……?どうして鍵閉めるの……?」
凍弥 「だーかーらぁ、誤解してないでとっとと着替えろって言ってるんだよ。
何もするわけないだろうが……」
由未絵「……う、うん……」
……はぁ。
まったく年頃の女があんな格好のまま夢遊病みたいなことしおって……!
誰かに見られたらどうするんだよ……!
事故とはいえ、他の誰かがあいつのあんな姿見るとしたら……ダメだ許せない。
そんなヤツが居たら俺が成敗してくれるわっ!
由未絵「と、凍弥くん?なんで唸ってるの……?」
凍弥 「今日は念仏の日なんだ」
由未絵「そうなの?」
凍弥 「ああもうっ!着替えるまで話し掛けるな!
なんかの拍子に見たらどうするんだよ!」
由未絵「あう……ご、ごめんね……」
……なぁにやってんだろうなぁ、俺……。
由未絵「……わたしってそんなに魅力ないのかな……」
凍弥 「なんだ?なんか言ったか?」
由未絵「…………なんでもない」
それっきり由未絵は喋らず、ただ衣擦れの音だけが聞こえる。
そんな時だった。
ヂャコッ!
声 「あら?」
ヂャコッ!ヂャココッ!
声 「……鍵?珍しいわね、由未絵が鍵をかけるなんて」
……やつが来た。
声 「まあいいわ、どうせ寝てるんだろうからこういう時こそスパイラルハンガー!」
凍弥 「!?」
し、しまった!あいつにはあの理不尽な開錠術があった!
ハンガーでどうやって開けてるんだよあいつは!
とかなんとか思っている内に鍵がパチンと音を鳴らす。
声 「よしっと。由未絵ー?」
かちゃん。
ヂャコッ!
声 「あら?」
ヂャコッ!ヂャコッ!
声 「変ね、開けたと思ったのに」
……危ねぇ、咄嗟に鍵を掛け直してよかった。
声 「ここをこうして……」
がちゃがちゃ……パチン。
声 「はいオッケ。由未」
かちゃん。
ヂャコッ!
声 「………」
───パチン!かちゃん。ヂャコッ!パチン!かちゃん。ヂャコッ!
パチン!かちゃん。ヂャコッ!パチン!かちゃん。ヂャコッ!
声 「うがぁーーっ!!」
うわっ、キレた!!
凍弥 (ゆ、由未絵〜!早くしろっ!長くはもたない……!)
由未絵(う、うん)
パチン!かちゃん。ヂャコッ!パチン!かちゃん。ヂャコッ!
声 「うがぁあああっ!!!」
ドゴォンッ!
うわっ!?
今殴った!ドア殴ったぞ!?
由未絵(───おまたせっ)
凍弥 (よしっ!俺はぬい原の中に埋もれてやりすごすからあとは任せた!)
由未絵(う、うん)
来流美「うおらぁーーーっ!!!」
ドバァンッ!
来流美「あら?開いたわ……」
由未絵「く、来流美ちゃん?」
来流美「あら由未絵、起きてたの?」
由未絵「うん……」
来流美「そ、なら凍弥起こしにいきましょ。
どうせまだ寝てるんだろうから、今日はペンデュラムバックブリーカーで」
由未絵「うん……」
来流美「……どうしたのよそんな悲しそうな顔して。怖い夢でも見たの?」
由未絵「……来流美ちゃん、わたし……魅力ない?」
来流美「……寝惚けてる?」
由未絵「ううん、起きてるよぅ」
来流美「……まあ受け取る側の問題じゃない?
由未絵は知らないだろうけど、あんたって結構男子に人気あるのよ?」
由未絵「うそ言っても足しにもならないよ?」
来流美「……どうしてこう自分に自信が無いことに自信があるのかしらね。
ああ、それじゃあこれなら知ってるでしょ?凍弥が女子に人気があるの」
由未絵「───え?」
来流美「なに?これも知らないわけ?」
由未絵「……うそ」
来流美「本当よ?容姿だけならいいセンいってるからね、凍弥のヤツ。性格はアレだけど」
由未絵「そんなのウソだもん!」
来流美「へっ?あ……あっちゃあ……。
ご、ごめんね由未絵、こんなこと言うつもりじゃなかったんだけど」
由未絵「うぅ〜……うそだもん……」
来流美「ごめん由未絵、由未絵の気持ち知ってて言う言葉じゃなかったわ。
あーほら……泣かないの」
……俺って人気上がっちゃいけない存在だったのか?
そこまで否定されると悲しいぞ由未絵よ。
……別に人気が有るからって嬉しいわけでもないけどな。
まあさっきの話は来流美のでっちあげだろうな。
俺はこれでも身の程はわきまえてる。
俺に人気があるならラヴレターのひとつくらい来てもいいだろうに、
この3年間一度も貰ったことないしな。
……考えが古いか?
いや、古いの好きだし。
来流美「えーと、さ、先に行ってるわね?用意できたら凍弥の部屋に来てね。じゃ」
来流美は気まずくなったようで逃げ出した。
俺はその足音が階段を降りるまで待機して、音が消えてから顔を出した。
凍弥 「緊張の一瞬だった……」
まるでどこかのスパイになった気分だ。
由未絵「…………凍弥くん」
凍弥 「ん?」
由未絵「凍弥くんって人気あるの……?」
凍弥 「あるわけないだろ?あったらそれなりに形として現れるだろこの3年の内に」
由未絵「………」
凍弥 「でも由未絵が人気あるのは事実だぞ?清水とかってお前のこと好きらしいし」
由未絵「え───?そ、それでどうなってるの……?」
凍弥 「ん?俺に『この手紙、支左見谷に渡してくれ』なんて言うから実力で排除」
由未絵「わ……」
凍弥 「自分の気持ちを伝えるのに他人に任せる行為が気に入らん」
由未絵「そ、そうなんだ……」
凍弥 「ほら、そんなことはいいから行くぞ。来流美は俺がなんとか丸め込むから」
由未絵「………」
凍弥 「由未絵?」
由未絵「あ、うん……」
凍弥 「阿ーーっ!!」
鷹志 「云ーーっ!!」
由未絵「ひゃうっ!?」
阿吽の呼吸を唱えようとした途端、鷹志が降臨した。
鷹志 「───はっ!?ここはどこぞ!?」
しかもやはり自分でもよく解らんらしい。
なにやら部屋の前で困惑している。
鷹志 「いや、冗談だが。モーニン凍弥」
凍弥 「おうモーニン。ナイスな阿吽だったぞ」
鷹志 「そうか?それにしてもどうして『云』かね」
凍弥 「知らん」
鷹志 「即答か……ま、いいけど。考えても仕方ないことだしな」
ほんと仕方ないことだ。
鷹志はうむうむと頷くと、そのまま部屋から出ていった。
凍弥 「……はふぅ、強敵だった」
だが巧みな話術で丸め込んだぞ。
さすがだ俺。
凍弥 「よし、行こうか」
由未絵「うん」
由未絵がぬい原の中をボッスボッスと歩いてくる。
が、途中で足を引っ掛け転倒。
凍弥 「なーにやってんじゃい、ほらっ」
由未絵「え?わ、きゃあっ!」
俺はそんな由未絵を抱き上げて引き寄せると、そのまま部屋を出た。
……驚いたことに、由未絵は人の重さで言えば相当に軽かった。
凍弥 「……軽いぞお前。普段何食ってるんだ?」
由未絵「重いよりいいもん」
凍弥 「そらそうだけど。でもいざという時に馬力が出ないぞ。
もしダイエットとかしてたら無理はするなよ?」
由未絵「うー、そういうこと女の子に対して言っちゃだめだよ……。
女の子がダイエットするのってね、それなりの意味があるんだから」
凍弥 「痩せたいだけだろ?」
由未絵「……違うもん」
凍弥 「いーからほら、行くぞ」
由未絵「うぅ〜……」
何故か渋る由未絵を……うむ。
お姫様抱っこしてみた。
由未絵「ひゃうっ!?え?わ、わわわっ!?」
凍弥 「とわっ!?こ、こら暴れるなっ!」
由未絵「だだだって!は、恥ずかしいよぅ……!」
凍弥 「一度やってみたかったんだ、大人しくしてろ」
由未絵「う……うー、うー」
顔を真っ赤にして視線を泳がす由未絵。
フフフ、愛いやつめ。
ワシゃあお前が嫁に行くまでこうして見守ってやるけぇのう、
もしその時が来たら……───
凍弥 「………」
来たら…………ワシが直々にその相手をブチノメーション!
やっぱ渡せん!なんじゃいヘラヘラ笑いおって小童が!図に乗ってると堕とすぞコラ!
由未絵「凍弥くん……?」
凍弥 「───はっ!」
いかん、なに想像上の相手をシュミレートしてキレかけてるんだ俺は。
トリップ(?)していた俺を心配そうに見上げる由未絵を見て俺は『なんでもない』と言う。
そしてそのままの状態で前進。
由未絵「凍弥くん、降ろしてよぅ……」
凍弥 「ん?嫌か?嫌なら」
由未絵「嫌なわけないよ」
凍弥 「え?なに?」
相当な即答すぎて聞き取れなかった。
由未絵「な、なんでもないよ、うん……」
凍弥 「ヘンな奴だなぁ」
由未絵「凍弥くんほどじゃないよ」
凍弥 「……言うようになったな、ホント」
由未絵「日々、これ鍛錬なり♪」
凍弥 「お前にそういう言葉って似合わない気がするが」
由未絵「勉強も鍛錬だよ?」
凍弥 「なにぃいい、俺にとっては拷問ぞ?
あんなもん取り組んだだけで持病の偏頭痛が」
由未絵「………」
凍弥 「喋り途中に呆れた目で見るな。とても虚しい」
由未絵「呆れてないよ、だって凍弥くんってそんな人だもん」
……今更呆れることでもないですか。
なるほど正論だ。
とかなんとかやりつつ階段を降りて玄関へ行き、靴を履く。
俺は映画や漫画などでいるマッスルキャラのように由未絵を肩に乗せると、
その足に由未絵の靴を履かせた。
その過程で『無茶苦茶だよぅ』と言われたが無茶で苦茶なのは生来だ。
俺は面白くなったからそのままの状態で外へとゴスンッ!
由未絵「きゃうっ!」
……出ようとしたら由未絵の頭が出入り口の上の部分に当たった。
凍弥 「だめじゃないか由未絵、こういう時は素晴らしいウェービングでかわさなきゃ」
由未絵「うぅ……やっぱり無茶苦茶だよぅ……」
凍弥 「大丈夫か?変なところ打ってないか?」
由未絵「お鼻ぶつけた……」
凍弥 「そりゃいかんな。よっと」
由未絵「きゃうっ!」
由未絵をお姫様抱っこに抱え直してその症状を見る。
凍弥 「ちょっと赤くなってるな。平気か?」
由未絵「う、うん、わたし平気……」
凍弥 「そっか。よし行くか」
由未絵「……ホントにこのままで行くの?」
凍弥 「俺は王子様に憧れてたんだ」
由未絵「ふぇ……?そ、それって……いまわたしがお姫様だから、それがそれで……」
なにやらごにょごにょ言う由未絵。
…………うむ、聞き取れなかったので無視しよう。
っと、頷いたところで鷹志発見。
凍弥 「待たせたな友よ」
鷹志 「へ?ああ別に待ってなうぉおおっ!?」
凍弥 「ん?どした?」
鷹志 「どしたって……なぁ、ひとつ訊いていいか?」
凍弥 「だめだ」
鷹志 「いきなり話の腰折るなよっ!」
凍弥 「だったらわざわざ確認とるな。さっさと言え」
鷹志 「あ、ああ……それじゃ訊くけど。
……どうしてお姫様抱っこで登場しとるんだお前は」
凍弥 「意外性を追求してみた。驚いたか?驚いただろ。驚いたと言え。そして歌え」
鷹志 「歌うかっ!……まあ、心底驚いたが」
凍弥 「ふっ……正直なやつめ」
鷹志 「それより今日のお前の心境が気になって仕方ないな」
鷹志は俺と、俺に抱きかかえられている由未絵を交互に見る。
そんな時。
来流美「おっかしいわね、凍弥のヤツ何処に……───」
来流美が現れた。
俺と由未絵を見て固まっている。
来流美「…………つ、疲れてるのかしらわたし……。
なんかこの世のものにあらざる風景が見えるわ……」
それヤバイって。
三途の川に辿り着いた霊体かお前は。
凍弥 「よし鷹志、アホゥなパワーイズヴァイオレンスは放っといて行こう」
鷹志 「構わんが……そのままで行く気か?」
凍弥 「俺はいつも通りだが?」
鷹志 「容姿のことじゃなくて今の格好のことだよ……」
凍弥 「いやー、お前ってツッコミ上手だよなー。
よくもまあそれだけ俺の真意を探り当てられるもんだ。
ここで容姿のことを言ってたって解るのはせいぜいお前くらいだぞ」
鷹志 「あーそりゃあんがと。
くだらない誉め言葉謳ってないでそのままでもいいから行こうや……」
鷹志は疲れている。
凍弥 「だな。それより時間大丈夫か?俺が見たとき結構な時間だったが」
鷹志 「んあ?なに言ってるのさキミ。まだ随分早い時間だぞ?ホレ」
鷹志が時計を見せてくる。
凍弥 「なにぃ貴様ロレックスなど何処で!?」
鷹志 「そんなもんつけるか!俺は無駄遣いはしない性質なんだよ!」
凍弥 「まあな、時計なんぞ時間見るためのものなんだから、
それ以上でもそれ以下でもない造型なんぞは多趣味なヤツに任せるべきか」
鷹志 「細かいボケはいいから見ろよちゃんと」
凍弥 「そう言って鷹志は時計を見せびらかすのであった」
鷹志 「……時計で殴るぞ……」
凍弥 「メリケンサックの代用品になることは世間で実証済みなので遠慮する。
ていうかほんと早い時間だな。
……どうして俺の身の回りのものって狂いやすいかなぁ」
止まっていたであろうダイニングの時計を思う。
それと多分、目覚ましの時計も止まってたんだろう。
虚しいなぁ、電池取り替えないと。
凍弥 「まあいいけどな。出るには早いけどこのまま行っちゃいますか。
早く行って困ることもないし」
鷹志 「そだな。……おーい霧波川ー?石化してないでいきましょうやー」
来流美「夢……夢よ……これは夢……思い遥かドリームデイズ……」
鷹志 「……悪夢を目の当たりにしたかのように固まっておりますが」
凍弥 「無視だ。正気に戻られても厄介だ」
鷹志 「だったら降ろしてやれよ、支左見谷困ってるぞ?」
由未絵「あうあうあう……」
凍弥 「これは歌ってるんだ」
鷹志 「……苦しい言い訳だなぁ」
凍弥 「よしいいだろう、本人に訊いてみよう。
由未絵、このままがいいか投げっ放しジャーマンで降ろされるのがいいか、
ふたつの内ひとつを選べ」
鷹志 「無茶言うな!!」
凍弥 「無茶だと思うから無茶なのだ。やってやれないことはない。
たとえアスファルトの所為で頭蓋が割れようとも己の意思を貫ければ最強だ」
鷹志 「確かにある意味で最強だけどさ……」
凍弥 「由未絵、どうする?降ろして欲しいか?それともこのままでいいか?」
由未絵「………」
凍弥 「降ろすか?」
由未絵「………」
ふるふるふるっ!
物凄い勢いで首を横に振る由未絵。
凍弥 「ほれみろこの悪党め」
鷹志 「今確実に身の安全を優先した首の振り方だったぞ!?」
凍弥 「そんなことないよな?由未絵」
由未絵「………」
凍弥 「……どうしてそこで目を逸らすかな」
鷹志 「ほれみろこの悪党め」
凍弥 「やかましっ!ともあれこのままでいいっていうんだ、行こうじゃないか。
来流美ー!行くぞー!」
鷹志 「……いいけどな」
未だに石化したままの来流美は声が聞こえていないようなので無視確定となった。
俺は由未絵を抱えたまま通学路を闊歩する。
鷹志 「……実は歩き辛いのか?」
凍弥 「俺に限ってそのようなことは皆無ぞ」
鷹志 「そうかぁ?」
ただ大股に歩いてみたかっただけだし。
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