───綺麗な雪景色だったのを憶えている。
記憶の中に鮮明に残るやさしい笑顔と、静かに降り揺らぐ真っ白な雪。
俺は雪が好きだった。
見ているだけで幸せだった。
だけどそれは少し違うって、そう気づいた。
自分が雪を好きになるきっかけを与えてくれた彼女が俺を微笑む。
……そう、きっと俺が好きなのは雪ではなく、あの笑顔。
彼女が笑ってくれるのなら、自分はなんでも出来るつもりでいた。
どうすれば笑ってくれるかとか考えて、精一杯馬鹿やって。
───守っているつもりだった。
だけどふと気づくとどこかで自分が支えられていた。
俺は男の子だから、って。
幼い俺はそう考えてたのに、女の子に支えられる自分が恥ずかしくて……
俺は、その手を払ってしまった。
もちろん悲しませるつもりなんか無かった。
守られるんじゃなくて守る存在でありたい。
勝手に思い込んだその考えの辿り着く場所は、
きっと自分本意な結果しかもたらさないことを……俺はその時に知った。
俺はいつでもその子の前では強い自分でありたかった。
それでもその手を払った時。
それが間違いだと気づいた。
……その子は泣いていた。
ただ手を貸してあげたかっただけなのに、
その子は払われた手を見て泣いた。
馬鹿だったんだ。
意地なんて張らずに手を貸して貰えば良かったんだ。
そうすれば泣き顔なんて見なくて済んだのに。
俺が謝ると彼女は静かに泣き止み、すぐに涙を浮かべたまま微笑んだ。
少年はそんな彼女の微笑みがとても暖かく思えた。
だからずっと……守っていたいと……───
───マーダーライセンス柿崎。不意打ちされた馬鹿───
【ケース24:閏璃凍弥/超ドリームス】
───朝である。
本日もお日柄がよく、大変結構な朝でございマッスル。
柿崎 「友よ!朝だぞ!起きろ!」
ホラ、柿崎も騒いでる。
凍弥 「って、どうしてお前がここに居るんじゃあっ!!」
柿崎 「おお起きたか友よ!グッジョブ!」
凍弥 「やかましい!どこから入り込んだ!」
柿崎 「うむ、生憎と鍵が無いのでな、
こう、窓ガラスにガムテープ貼ってゴシャアと」
凍弥 「そりゃ犯罪だ!泥棒かお前は!」
柿崎 「冗談だ友よ。本当は軍事的許可を得た上で合い鍵を精製してもらって堂々と」
凍弥 「どこのエージェントだてめぇ!」
柿崎 「……起きたばかりでよくもそこまでロレツが回るよな」
凍弥 「ほっとけ。……冗談はさておき、なんか用なのか?」
柿崎 「いやー、今日のコレ自体が用だったんだ。
日頃から言葉で翻弄されているからな、
今日は意外性を見出してアグレッシヴな行動に出てみた」
凍弥 「アグレッシヴの意味、履き違えてないか?」
柿崎 「正当な意味より雰囲気を大事にするのが俺の流儀だが」
凍弥 「べつにいいけど。それより一発ネタ披露するためにここに来たのか?」
柿崎 「そんなところだ。もう帰る」
凍弥 「………」
柿崎が去っていった。
……なんだったんだいったい。
鷹志 「まったくだ」
凍弥 「うおぉっ!?」
鷹志 「やあ、おはよう友よ」
凍弥 「……ひとつ訊くが。どうしてお前が俺の布団で俺と一緒に寝てるんだ?」
鷹志 「いや、驚くかなーって」
凍弥 「……これ以上ないってくらい盛大に驚いたぞ……」
鷹志 「そうか、それはよかった。ところで友よ。
起き抜けのモーニングコーヒーはいかがかな?
あなたにと〜ってもナチュラルな気分の朝をもたらすこと請け合い」
凍弥 「パープルなコーヒーなんぞ要らん!」
鷹志 「なにを言う、これさえ呑めばあなたもナチュラルピュアぞ?
なんたって、酔った人間ほど純粋なものはないというしな」
凍弥 「酔う時点でコーヒーだって認めてないこと、気づいてるか?」
鷹志 「………」
凍弥 「………」
鷹志 「ばかーっ!」
鷹志が涙を拭いながら走って部屋ゴバァンッ!
鷹志 「ギョオ!」
………のドアに衝突して倒れた。
凍弥 「前見て走れよ馬鹿……」
柿崎 「はっはっは、鷹志ったらシャイなんだよきっと」
凍弥 「……帰ったんじゃなかったのか柿崎」
柿崎 「実は俺は忍者のライセンスを取得していてな。
見せびらかしたくて屋根裏から侵入してみました」
凍弥 「今すぐ燃やしてしまえそんなもん」
柿崎 「ほーれ、ゴールデンカード」
凍弥 「見せんでいいっ!なんだよそのテラ光りしたいかにもニセモノチックなカードは」
柿崎 「ライセンスカードだ。
殺人許可も一緒に取れてる優れものだぞ。牙を突きたてろ!」
凍弥 「とりあえず帰ってこい。暴走トリップしたまま踊るな」
柿崎 「なに言ってるんだ友よ、俺はいつもこういう感じだ」
凍弥 「洗面所貸してやるから顔洗って来い」
柿崎 「そんなこと言って、利子がとんでもなく高いってオチだろ」
凍弥 「……変なもの食ったんだろ!正直に言え!今日のお前絶対変!」
柿崎 「チョコバットを4ダースほど」
凍弥 「アホかてめぇ!」
柿崎 「鼻血が溢れた時はどうしようかと思いました。こんな熱い気持ちは初めて。
チョコ食いすぎると鼻血が出るってホントだったみたいです。
でも女体を見たからって鼻血が出る漫画は大袈裟だと思うんですよ」
凍弥 「演出にツッコミ入れるなよ……」
鷹志 「いやいや、まさしくその通り。いいですか友よ。
人体とは興奮状態になると血が頭に回るわけですよ。
俗に言う『頭に血が昇る』の語源ですな。
例えば女体を見て鼻血が出るにしても、それは興奮したからだろ?
頭に回っていった血が極度の興奮により鼻血と化すという仮説に基づき、
俺はこう力説するわけだ。
パッと見た瞬間に鼻血が出るのは明かに人体の域を凌駕している」
凍弥 「だから……演出にツッコミ入れても仕方ないだろ……?」
ああ、鷹志が壊れてゆく。
ていうかいつの間に復活したんだ?
柿崎 「友よ」
凍弥 「なんじゃい」
柿崎 「俺にグレート・バン・ビーノに勝つ魔球を教えてくれ」
凍弥 「いきなりなに飛び抜けたこと仰ってるんだお前は」
柿崎 「俺、野球に目覚めたんだ。この手でベルディに勝ってやる!」
凍弥 「いや、それサッカーだし」
柿崎 「つくづく思うんだが、日本代表が髪染めててどうすんでしょうね。
俺はそこんところを激しくツッコミたい」
凍弥 「それについては意義無し」
柿崎 「というわけで俺が空手を引っ張っていく!」
凍弥 「なんでそうなるんだよ!」
鷹志 「俺が方程式でそれを説明してやろう」
凍弥 「普通に説明しろ!」
鷹志 「まずX=柿崎で……」
凍弥 「うわぁワケ解らねぇ!」
柿崎 「どうも、Xの値のことなら何でも知ってるヘビーユーザーの柿崎です」
凍弥 「それ違う!」
柿崎 「なにぃ、ならブックオフのことならなんでも知っていればいいというのか!」
凍弥 「意味不明にキレてんじゃねぇ!」
柿崎 「時間が〜♪足〜りな〜い」
凍弥 「歌うな!」
柿崎 「歌った途端にオトすな!」
な、なんだ……?いったい何が起きているんだ……!?
ああ、ワケが解らない……!
悪い夢なら醒めてくれ……!
───……。
……。
───……カチッ。
『なにぃ!?朝か!?朝なのかぁあああああっ!!?』
久々にルークン人形が騒ぎ出す。
ああ、そういえば電池取り替えたんだっけ……。
カチッ。
『ギャアアアアアア!!!』
スイッチオフで断末魔の叫びをして止まる目覚まし。
凍弥 「…………んあ?」
……あら?柿崎は?
………………夢?
夢オチですか?
凍弥 「ぬう……こんなことなら普段出来ないような危険な技とかかければよかった」
そう、例えばDSC(デンジャラス・スープレックス・コンボと読む)とか。
…………アホか。
そんなこと実際やるにしても、ひとりじゃ無理だ。
せめて強力なタッグパートナーでも居れば別だが。
……今度、来流美と練習してみるか?
凍弥 「ん……くぁあ〜ぁ……っとぉ」
大きく伸びをして起き上がり、パパッと着替える。
ふむ、今日も壮健ぞ。
幼馴染が来る前に目覚ましをセットした理由は特に無いが、
まあこれも意外性の一環ということで。
ああ、どうせなら逆に柿崎の家に侵入するのはどうだろうか。
そして額に肉を書いて逃走。
もちろん油性だ。
この前の泥棒ヒゲは面白かったな〜。
結局、油性も落とせる石鹸を鷹志が買いに行って事無きを得たんだしなぁ。
凍弥 「……でもいいや、学校への道を逆走するのは面倒だ」
あくびをしながら階下へ降りて、キッチンを漁る。
えーと……前に買い置きしておいたラーメンがここに……あった。
カップラーメンを手にしてビシィと決めポーズをとる。
俺はラーメンを手に入れた!
葉香 「……なーにやっとるんだお前は」
凍弥 「うおっ!?」
ね、姉さん!?
凍弥 「か、帰ってたのか……」
葉香 「母さんと一緒に居ると疲れるんでな……。
それより凍弥、腹が減った。それをよこせ」
凍弥 「断る」
葉香 「………」
凍弥 「よし解った、トレードだ。160円をくれ」
葉香 「……却下」
凍弥 「なにぃ、なら140!」
葉香 「……却下」
凍弥 「ダメネ!これ以上はまけらんないよ!?余所を当たってくれ!」
葉香 「金を払う必要性が無いと言っている。
お前をブチノメせばいいだけなんだからな」
凍弥 「へ?あ、いやっ……ま、待たれよ!話せば解る!」
葉香 「黙れ、面倒な話など不要だ。くたばれ」
凍弥 「ア゙ーーーッ!!!!」
容赦なく振り回される拳。
吹き飛ぶ俺の体。
薄れゆく意識の中で思った。
……これで、友たちがここに来ることがまた無くなるな……。
───……。
……。
ズズー、ズズッ、ズー。
葉香 「……マズイな。インスタントとはいえ、ちゃんと選んで買え」
凍弥 「文句言うなら食うなよ……」
葉香 「黙れ。助言しているだけだ」
命令じゃないっすか。
パンポーン。
葉香 「……ん?客か。凍弥」
凍弥 「解ってるよ、今出る」
葉香 「そうじゃない。残りを食え、わたしが出る」
凍弥 「えぇ!?」
葉香 「マズくて食えたものじゃない。
いいか、次わたしがここに来るまでに食い終えておけ」
凍弥 「なっ……ちょっと姉さん!?」
姉さんはとたとたとダイニングを出ていった。
……なんか嫌な気分だが、食わなきゃ殺されるな。
俺は半ば流し込むようにラーメンを掻っ込む。
声 「おう友よ〜ってギャア!」
声 「柿崎か。なんの用だ?」
声 「はっ……はぁあ……!
あ、あのっ……こ、こここちらに凍弥くんはいらっしゃいますでしょうか……!」
声 「……寝惚けた思考でわたしを呼び出すとはいい度胸だ」
声 「えぇっ!?よ、呼び鈴鳴らしただけっすよ!?」
声 「黙れ」
声 「あ、おおぉお俺用事思い出したんで帰りま」
声 「うわっ!?お、おいいきなり走り出すなよ危ないだろ?」
声 「た、鷹志!?に、逃げろぉっ」
声 「へ?……ヒィッ!?」
声 「……人の顔を見るなり、随分な挨拶だな鷹志」
声 「いやっ……あのっ……!」
声 「ふたりとも付き合え。腹ごなしがしたい」
声 「い、いやぁああああああああああああああっ!!!!!!!!」
声 「あっ!か、柿崎!てめぇ白状者ォオッ!」
声 「───フッ!」
声 「ギャアアア!!」
声 「ヒィ!石まで投げますか!?」
声 「……鷹志、逃げたければ逃げろ。ああなりたいならな……」
声 「た、たっけてママーン!」
…………。
小さくなってゆく絶叫を耳に、俺はむせた。
……かわいそうに。
どうしてこうタイミングが悪いんだあいつらは。
ズズー……トン。
うん、確かにあまり美味くなかったな。
スープまで飲む気は起きなかったので流しに捨てて事無きを得た。
さーてと、幼馴染ども叩き起こしてガッコ行きますかぁ。
……鬼の居ぬ間に。
───……。
……。
───で。
ホームルームで突如伝えられた実力テスト(基礎知識編)。
その言葉で凍りついた休み時間の教室の中に居る。
というか俺も凍りついている。
俺の隣に来た由未絵がツンツンと俺をつつき、その硬さで遊んでいる。
動いているのは由未絵だけだった。
凍弥 「………どうしよう」
困った。
今の今まで忘れてた。
てっきり小テストが実力テストなのだとばっかり……。
まいったな、俺は勉学は苦手なのだ。
そもそも俺の中に備わってくれた勉学の知識など、もう皆無です。
なんて都合のいい頭してやがるんだまったく。
せめてこのテストが終わるまでもっていてくれたら良かったのに……。
由未絵「勉強すれば大丈夫だよ」
簡単に言ってくれる。
確かに由未絵は悩むことなど無い。
こいつはこれでもクラスでトップの能力者だ。
普段の馬鹿っぷりからは到底考えられない。
由未絵「一緒に頑張ろうよ」
凍弥 「それは構わんが……」
困った。
俺は努力は苦手なんだ。
由未絵「みんなで頑張ればなんとかなるよ」
簡単に言って……って、うがぁああああ!!!
凍弥 「凍り付いている場合じゃない!!」
由未絵「うんっ!頑張ろっ!」
凍弥 「よし!やるぞ俺は!」
由未絵「うんっ!その意気だよ!」
凍弥 「よし!由未絵!テストの答えを予知しろ!」
由未絵「うんっ!て、無茶だよ〜っ!」
凍弥 「無茶と考えるから無茶なのだ!さあ!今こそ覚醒の時ぞ!」
由未絵「うぅ〜、覚醒なんて出来ないよ〜!」
凍弥 「ぬうう!出来ぬと申すか!」
由未絵「当たり前だよ!」
凍弥 「くっ……俺達の命運は尽きた……」
由未絵「いきなり尽きちゃ駄目だよ……」
それは正論かもしれない。
だが、このクラスを見ていると命運尽きた者勝ちの様な気がしてならない。
凍弥 「そんな気がしませんか?」
由未絵「なんのことだか解らないよぅ」
凍弥 「残念だ」
大きく息を吐いて、勉強道具を取り出す。
そして検討。
……………
凍弥 「うがぁああああッ!!」
10秒後、絶叫。
凍弥 「なんだこれは!日本語を書け!」
由未絵「日本語だよ」
凍弥 「なんだこれは!意味が解らんぞ!」
由未絵「だから訳すんだよ……」
凍弥 「なんだこれは!政治家は何をやっておる!」
由未絵「全然関係ないよ〜」
凍弥 「実家に帰らせていただきます」
由未絵「だっ、駄目だよ〜っ!」
凍弥 「ヒドイわっ!俺に死ねと!?」
由未絵「死なないよ……」
凍弥 「ぐわっ!急に背骨にヒビが……ッ!!
ぬおお……これは猫背が悪化した症状!いかん、早く帰宅せねば……!」
由未絵「わっ、大変だぁっ!た、立てる!?」
凍弥 「うむ立てる。さっさと帰ろう」
由未絵「嘘つきぃ〜っ!」
うお、いきなりバレた。
凍弥 「……しまった!立てない!うん、立てない!」
由未絵「だめだよ、もう解ってるんだから」
凍弥 「じゃあ頭蓋骨陥没だ」
由未絵「死んじゃうよ〜!」
凍弥 「これは迂闊だ」
由未絵「凍弥くん、勉強しようよ……」
凍弥 「……解ったよ」
机に向き直り、シャーペンを手にする。
そして再びゴガシャアン!
美並 「きゃああっ!柿崎くんがっ!」
……またやってるのか。
懲りないなぁあいつも。
………
凍弥 「由未絵」
由未絵「……うや?」
凍弥 「寝るな」
由未絵「あ、ごめんなさい……」
凍弥 「ところで、ちょっと教えてほしい箇所が……」
由未絵「うん、どこ?」
凍弥 「えっとだな……」
パラパラと教科書をめくり、箇所を教える。
凍弥 「こことここ、そしてここからここまでだ」
由未絵「………」
凍弥 「どうした?」
由未絵「テスト範囲全部だよ」
凍弥 「うむ」
由未絵「うむじゃないよ〜!」
凍弥 「なんと!?駄目と申されるか!!」
由未絵「それじゃテストにならないよ……」
凍弥 「しかし、これではテストどころじゃないぞ」
由未絵「うぅ〜……」
凍弥 「観念しろ」
由未絵「訳が解らないよ……」
───……。
……。
───結局、時はテスト中へ。
裏返しにテスト用紙が配られる。
凍弥 「………」
そして開始の合図と共に用紙を返し、とりかかる。
まずは第一問だ。
さっそく目を通すと『この英文(?)の意味は?』という文字のあとに、
ズラァと英文が並んでいる。
凍弥 「これはいきなり難問だ」
さて答えは……
1:知らん。
2:解らん。
3:理解不能。
結論:全部。
凍弥 「これは困った」
大体ジャパニーズ・ヒューマンである俺に、こんな英文を訳せということ自体が間違いだ。
跳ばそう。
おいどん日本人でゴワスから、外国語なんぞ知らんでも生きてゆけるでゴワス。
第二問。
……どうでもいいが、クイズみたいだな……。
普通は『問1』とかって書くだろう。
まあいい。
これらの漢字の読み方を答えなさい。
1:暫く
2:潔い
3:嘆く
4:怪訝
5:囁く
6:蠢く
7:喚く
英文の次は漢字かい。
もうちょっと、まとまりを持ってくれ。
というか、これは高校で出すような問題か?
……さて、答えだが。
1:暫く(しばく)
2:潔い(はくい)
3:嘆く(かんく)
4:怪訝(かいき)
5:囁く(ごうく)
6:蠢く(はぶく)
7:喚く(わめく)
こんなとこだな。
うむ、完璧!
ちなみに答え↓
1:しばらく
2:いさぎよい
3:なげく
4:けげん
5:ささやく
6:うごめく
7:わめく
結論:正解数1。
結局あの小テストの時の俺がどうかしてたってわけで。
潔く諦めよう。
……というわけで適当に埋めることに決定。
【ケース25:閏璃凍弥/まちゅり】
───キーンコーンカーンコーン……
凍弥 「……あ〜……」
よく解らん内にテスト終了。
実に永い闘いだった。
由未絵「はぅ〜!凍弥くん!と〜やくぅ〜ん!!」
凍弥 「由未絵が現れた」
由未絵「モンスターみたいに言わないでよ……」
凍弥 「まあまあ、お気になさるな」
由未絵「うぅ〜……」
凍弥 「で?どうしたのかねムスタディオ君」
由未絵「誰?」
凍弥 「俺の好きなゲームキャラだ。ロボの手違いな攻撃で一度死んでいる」
由未絵「うんと……わからないよ……」
凍弥 「そうだろうな」
由未絵「うぅ〜……」
凍弥 「で、本当にどうした?」
由未絵「はう、目的忘れてたよ。凍弥くん、テストどうだった?」
凍弥 「周りの奴等と同じ結末だと思うぞ」
そう言って視線を促す。
……と、その視界に広がる灰色な人々。
見事に燃え尽きたクラスメートだ。
来流美も例外ではない。
というか頭から煙が出てる。
来流美「出てないわよぅぉ〜……」
その反論さえも溜め息と言える物だった。
鷹志 「はっはっはっは!!済んだ事を言っても後の祭り!!
ささっ!テスト終了記念パーティだ!!」
柿崎 「グッジョブ友よ!付き合おう!」
叫び出す鷹志に跳ねる柿崎。
由未絵「あ、鷹志くんと柿崎くんは元気だね」
凍弥 「いや、よく見ろ。こいつらも灰色だ」
しかもやつれとる。
鷹志 「ハハハハハハハハハ!!」
柿崎 「オヒョヒョヒョヒョヒョ!!」
由未絵「ふゎ……泣きながら笑ってるよ……」
凍弥 「カラ元気というやつだ」
来流美「吹っ切れてるあんたには解らないわよ!」
凍弥 「いいから行くぞ。喫茶だ」
来流美「あ、ちょっとなんで耳引っ張るのよ!いたっ!いたたたっ!」
───……。
……。
騒ぎたてる来流美と鷹志と柿崎を連れて喫茶店へ。
そんなこんなで終了記念祭。
凍弥 「えー、それでは。まがりなりにもテストが終了したことを喜ぶ会と称して、
ただ呑んで食べて騒ぐだけのヤケ食いパーティを開始します」
柿崎 「グッジョブ!」
鷹志 「友よ!今日も呑もう!」
柿崎 「おねえさーん!生ビール5杯ねー!」
ボゴォ!
柿崎 「はぐぅ!?」
凍弥 「それはマズイだろうが!今制服着てるんだぞ!?」
来流美「制服着てなくてもマズイと思うけどね」
鷹志 「まあまあ、まずは水で乾杯しよう」
由未絵「お水?」
鷹志 「イエース、杯を合わせることによって親睦を高めるのさ。
これで明日はホームランだ」
意味が解らん。
柿崎 「じゃあ各自グラスを持って構えてください」
凍弥 「構えるのか」
柿崎 「それでは乾杯〜」
キキン、キン。
合わさったグラスが軽快な音を出す。
それとともにウェイターが注文を取りに来る。
凍弥 「うおう、えーと……ランチひとつ」
由未絵「えと……ランチ」
来流美「アンドレ・ザ・ジャイアントパフェ」
凍弥 「メニュー見てから言えよ……」
来流美「あるわよ?ホラ」
凍弥 「あるのかよ……」
なんてデタラメな喫茶店だ……。
鷹志 「あ、俺Aセットランチ、コーヒーは食後で」
店員 「はい、御注文は以上で?」
凍弥 「はい」
柿崎 「俺がまだだろが!」
凍弥 「……居たのか」
柿崎 「さっき行くって言っただろうが……俺A定」
凍弥 「ここは学食じゃないぞ……」
店員 「A定食ですね?かしこまりました」
凍弥 「あるんかいっ!」
……なんだかんだで注文も終え、店員さんの後ろ姿を見送って一息。
凍弥 「……しっかし懲りない奴だな、お前も……」
鷹志 「なにがだ?」
凍弥 「今度こそコーヒーだろうな……」
鷹志 「なに言ってるんだ当たり前だろ?それにもし違っても大丈夫だ。
俺は違い解る男だからな、コーヒーなら任せろ」
凍弥 「店員さ〜ん!Aセット取り消し……もが!?」
鷹志 「バカッ!なんで取り消そうとする!」
凍弥 「お前にコーヒーは必要無い!」
鷹志 「だからってランチごと取り消すな!」
凍弥 「解った、だがコーヒーは無しだ!」
鷹志 「お、俺に死ねと!?」
凍弥 「なんでそこに行き着く!」
柿崎 「謎だな」
鷹志 「俺は食後にはコーヒーと決めているんだ!」
凍弥 「紅茶(でも飲んでろたわけ!」
来流美「ケチケチしないで飲ませてあげればいいじゃない」
来流美が口を挟んでくる。
凍弥 「だめだ、そうはいかん」
由未絵「せっかくのお祭り(宴会?)なんだから楽しく行こうよ」
凍弥 「うぐっ……し、しかしだな……」
来流美「ハイ、引いた時点で凍弥の負けよ」
凍弥 「いや待て、あのな……」
鷹志 「おおう!優しいねふたりともぉう!おおう料理が来たぜ!さあ食おう!」
凍弥 「おいっ……」
柿崎 「味方が増えた途端に強気になったな……」
由未絵「凍弥くん、食べよ?」
凍弥 「あ〜───……解ったよ、勝手にしろ……」
由未絵「いただきま〜す」
カチャカチャ……。
鷹志 「うむ、美味なり」
来流美「ムキョォオオオオ!!」
ガチャガチャガチャ!!
由未絵「うわ……来流美ちゃんスゴイ……」
ダンッ!
来流美「次!!」
柿崎 「速ッ!?」
凍弥 「もう食ったのか!?」
由未絵「わゎぁ〜……」
来流美「愚問!あと2杯は軽いわ!」
凍弥 「パフェとはいえ、あの量をか!」
来流美「力とはこういうものよ!」
凍弥 「やかましい!」
鷹志 「こりゃ漢として負けられん」
柿崎 「ふっ……同意見だ。このどう見ても学食のA定にしか見えないこれをくらって、
絶対に早食い+大食いで勝ってくれるわ……!」
鷹志と柿崎がなにやらヒートアップしてゆく。
やがて物凄い勢いでがつがつと料理を食らうふたり。
……もう、誰にも彼らを止められない……!
カチャカチャ……ゴトッ!
柿崎 「おねーさーん!紅茶(追加ーッ!!」
鷹志 「俺には食後のコーヒーギブミー!」
凍弥 「……どうなっても知らんぞ」
鷹志の言葉に、大した間もなくトン、と置かれるコーヒー(であってほしい)。
柿崎 「俺の紅茶(は!?」
店員 「あ、すいません、完全に忘れてました」
柿崎 「うわ、ひでぇ……」
鷹志 「………」
悲しむ柿崎を余所に、コーヒーを口につけて優雅に飲む鷹志。
由未絵「美味しい?」
鷹志 「違いの解る男よ?俺……」
解るかどうかではなく、味を訊いとるんだ。
凍弥 「まあいい、念のため訊くが……ブラックか?」
鷹志 「……いや、またパープルだ」
ドカン!!
由未絵「わっ!?」
俺はズッコケた。
その拍子でテーブルに頭突きする。
凍弥 「ごちそうさま、美味しかったよ」
言って席を立つ。
由未絵「まだ残ってるよ?」
しかし由未絵に捕まる。
凍弥 「俺は小食なんだ」
由未絵「それならハムサンドあんなに食べられないよ」
凍弥 「………」
まだ根に持っていたのか……。
凍弥 「そろそろロミオの青い空が始まる」
由未絵「とっくに最終回やって終わってるよ」
凍弥 「お昼の奥様劇場が……」
由未絵「もう夕方だよ」
凍弥 「えっと、えぇと……ぬおお、ネタが無い」
柿崎 「俺なら日本昔話だな」
凍弥 「別の意味で渋いな」
柿崎が妙な感心をする。───と、その時!
鷹志 「……フヘヘヘヘ」
凍弥 「ぬお!?」
鷹志が恐ろしい声を絞り出した。
由未絵「ふぇ?」
来流美「ムキョォオオオオオオ!!!」
ガチャガチャガチャガチャガチャ!!
凍弥 「異変に気付けよ!」
鷹志 「トォオオテムポォオオルロマンスァアアッ!!」
凍弥 「ヤバイ!!発動した!!」
鷹志 「ランディング・フォビア・アンソロジー!!」
柿崎 「なにぃ!?ぎゃあああああああっ!!」
柿崎が鷹志にボコボコにされてゆく。
まるで瞬獄殺を見ているような景色の中、柿崎がドシャアと力尽きた。
由未絵「え?え?なに?なんなの?」
来流美「ムキョォオオオオ!!」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!
凍弥 「何杯食う気だ馬鹿!!」
鷹志 「そこのガール!!キミも一杯どぎゃんね?」
凍弥 「何弁だ」
由未絵「ふぇっ!?わ、私!?」
鷹志 「なんら?俺のコーヒーがぁあ……飲めないんられろれらぁあああああ!?」
ガシッ!!
由未絵「きゃっ!」
鷹志 「飲むんら!ほれのおごりら〜!!」
由未絵「わわわ!鷹志くん待っ……むぐ!?」
鷹志 「コーヒーはブラックに限るら〜!!」
由未絵「ンッ……ムムッ……!!」
凍弥 「やめろ馬鹿っ!!」
ドン!!
鷹志 「もぎゃあ!?」
ドガシャズダァアアン!!
由未絵「ぷはっ……!!ハア……」
凍弥 「大丈夫か由未絵!!」
由未絵「……うや?」
凍弥 「うや!?」
由未絵「……う〜、変な気分ら〜……」
凍弥 「………」
酔っとる。
由未絵「アハハハハ!凍弥くんの顔が歪んで見えるのら〜!!変な顔ら〜!!」
変なのはお前だ。
凍弥 「おい来流美!なんとかしてくれ!来流美!くる……」
来流美「……きゅう……」
テーブルに突っ伏していた。
凍弥 「食いすぎだ馬鹿たれぇえええええッ!!!」
由未絵「凍弥くん!と〜やくん!!」
凍弥 「なんだよ!」
由未絵「大好きっ♪」
ガバァッ!!
凍弥 「おわぁっ!?ババババカッ!!離れろ!!」
由未絵「やぅ〜……」
凍弥 「やぅ〜じゃない!!」
からみ酒はタチが悪い。
ううっ、視線が痛い……!!
凍弥 「す、すいません!お勘定!!」
俺は支払い(全員分)を済ませて、外にガシッ!!
凍弥 「ぬお!?」
由未絵「………」
凍弥 「由未絵?話なら後だ!とにかく外へ」
瞬間、由未絵が背伸びする。
そして───まちゅり、と。由未絵と俺の唇が重なった。
凍弥 「───!?」
ざわっ!!
店内がざわめく。
凍弥 「え……えああ……!?」
由未絵「………」
ポテッ。
倒れる由未絵。
凍弥 「………」
状況を理解出来ず、顔を真っ赤にして立ち尽くす俺。
突き飛ばした勢いで気絶した鷹志。
食いすぎで死んでる来流美。
そして糸の切れた人形のようにぐったりと動かない柿崎に、
すいよすいよと眠る由未絵。
……ある意味、パーティは全滅した。
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