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───で。 彰 「成敗!」 俺は雪山の上でズビシィと決めポーズをとった。 小娘はというと、 創造した数十個の梅干を叩き込まれ───真っ赤になった雪原に倒れていた。 断言するが、けっして血ではない。 彰 「決着はついたな……。勝負が終われば敵も味方もない。 さあ立ちなさ───うわっ、くさッ!! 梅干くさっ!!」 真っ赤な雪原に倒れた小娘はとても臭かった。 さすがに罪悪感。 ミア「う、うー……! 勝てなかった……! くやしい……くやし……くさっ!? 臭いっ!」 彰 「すまん、屁ェこいてしまった」 ミア「下品だよ彰くん!」 彰 「冗談じゃい! その臭さは貴様の体臭だ! 臭ェぞこの野郎、ちゃんと風呂には入っているのかね!」 ミア「体臭じゃないよ! 彰くんが投げたこの赤いのの匂いだよ!」 彰 「ウソおっしゃい!」 ミア「ウソじゃないってば!!」 ところどころが赤い小娘が勢い良く起き上がり、俺をキッと睨む。 が、全然迫力が無い。 ミア「彰くん! なにかべつの勝負しよ! 絶対に勝って、友達にしてやるんだから!」 彰 「お前さ、『友達を作る』ってことを根本から勘違いしてないか?」 この小娘の脳内じゃあ、『勝負して勝てば友達』ってだけなんだろうなぁ。 ひと昔前の漫画の中だと、熱い戦いの中で芽生える友情もあったんだろうけど。 それはひと昔前の話であって今じゃない。 ミア「だって、勝負に勝てば友達になってくれるんでしょ?」 彰 「いや、そうは言ったが……」 どうやらマジらしい。 やはり勝負に勝てばいいと思っているようだ。 彰 「あのさ、友達ってのはだな」 ミア「しょーぶだー!」 小娘が雪球を作る。 もはや問答無用らしいボゴシャッ! 彰 「ぷおっ!?」 また顔面に雪球。 俺に不意打ちを仕掛けるとは……。 なにが小娘をこんなおなごに変えたのか……って、俺か? ミア「ふふーん、勝負の最中に考え事はいけないよー?」 彰 「お、おのれ小娘……!」 完全に見下した態度で俺を見る小娘。 俺はそれに応えるように、雪をすくいあげボゴシャッ! 彰 「………」 ミア「あはは、彰くんったら隙だらけ〜♪」 ……雪を手に持った瞬間、顔面に雪球が飛んできました。 もはや辛抱たまらん! 彰 「おのれ小娘がぁああああっ!!」 ミア「今度は負けないからね!」 再び交戦。 飛び交う雪球と罵倒。 やがて雪球が弾けるのと同時に、その場に梅干の香りが───! ミア「彰くん! また雪の中に赤いの入れたでしょ!」 彰 「アイヤーッ、それは言いがかりってものネー! ワタシ、そんなもん入れてないネーッ!!」 ミア「白々しいよ彰くん!」 彰 「アイヤーッ!? 急になにを言うアルかこのチンチクリン! 白々しいのは貴様の髪の毛ヨーッ! 青色の髪の毛ってナニヨーッ!!」 ミア「これは産まれつきだよ!」 彰 「ウソヨーッ! アナタウソつきヨーッ!! このウソつきーッ!」 ミア「うぐぐ……ぐぐがぁああああっ!!!」 小娘、咆哮。 やがてその手に光を集め───って! 彰 「アイヤーッ!? アナタなんにも解ってナイヨーッ!! そこで光弾撃ったらアナタ最低ヨーッ!? 一戦目はワタシが勝ったんだから謝るコトを─── ダメヨーッ! ダッ……キャーッ!?」 問答無用再来。 巨大な光が俺に向かってきてギャアアアアアアアア!!!!! ───白煙が舞っていた。 それも、俺の顔面から。 ミア「やったー、勝ったよー♪ 彰くん彰くん、これで彰くんとわたし、友達だよね?」 転がる俺を見下ろしながら、小娘はきゃあきゃあと騒いでいた。 彰 「この馬鹿め……! 勝負は雪合戦だろ……!」 ミア「ふふーんだ、負け惜しみは男らしくないよ〜?」 彰 「貴様は勝利を捏造して勝った気になってるだけだろうが!!」 ミア「負けは負けでしょ?」 彰 「むぐっ……!」 たしかに油断したとはいえ、あっさり気絶させられたが……! いや、負けを認めないのは漢らしくないか? 武士道を愛すのならば、敗北は敗北と認めるべきでは…… 彰 「チッ……小娘、なにが望みだ」 倒れた体を持ち上げて、座った状態で小娘を見る。 が、小娘はきょとんとした顔で『え?』と言うだけだった。 彰 「負けを認める、って言ってるんだ。願いを言え」 ミア「いいの? 強引だな、って思ったんだけど……」 彰 「なんと! 無かったことにしてくれるのか! ではこれで貴様の勝利は無しだ!」 ミア「わぁあっ! ダメダメ! 彰くんは負けたの! 負け犬なの! ザコなの! だからわたしのお願いをちゃんと聞かなきゃいけないの!」 彰 「………」 ミア「あ」 ひでぇ。 なにも負け犬とかザコとか言うことないだろ……負けを認めたことはたしかだけど……。 ミア「あ、ご、ごめんね彰くん……あ」 とことん落ち込んだ俺に、小娘が謝って───謝る!? 彰 「───こ、小娘! 貴様、謝ったな!?」 ミア「う、うー……だって、彰くんも負けを認めてくれたし……」 彰 「……へ? あー……なんだ? つまりお前って、俺より先に負けを認めたくなかっただけ?」 ミア「………」 真っ赤になって俯く小娘。 どうやらビンゴらしい。 彰 「お前って妙なところに競争意識があるんだな」 ミア「彰くんには負けたくないから」 彰 「負けたくない……? なんでさ」 ミア「絶対に見下した態度で馬鹿にするから」 ……しまった、こっちもビンゴだ。 俺は小娘に習って顔を真っ赤にして俯いてみた。 ミア「キモチワルイよ彰くん!」 彰 「なんだとてめぇ!」 正面きってキモチワルイと言われてしまった。 かなりショック……だが、まあ……結果オーライ? 小娘も謝ることを受け入れたわけだし。 そう考えたら、妙に暖かい気持ちになってきた。 彰 「小娘……貴様も成長したもんだな」 ミア「どうしたの? いきなり」 彰 「言ってみたかっただけだ。もはや俺が貴様に教えることはなにもない……」 ミア「わたし、彰くんになにか教えてもらってたっけ?」 彰 「……さあ」 教えたことなどない気がする……ていうか教えてない。 謝ることだって、結局こいつが納得して終わりだったわけだし。 彰 「そんなことより、なにか願いはあるか? できる限りのことをひとつだけ叶えてやろう。 なにか欲しいなら、イメージできるものはなんだって作り出せるぞ。 ……まあもっとも、漠然としすぎたものは無理だが」 ミア「……そういえばさ、彰くんってどうしてそんな能力使えるの?」 彰 「それを訊くのが願いか? 俺はひとつと言ったらひとつしか叶えんぞ」 ミア「ダメ。決めてあったでしょ? わたしが勝ったら友達になってくれるって。 だから、お願いは『たったひとりの親友』になってくれること。 それは変わらないよ?」 彰 「ム……」 武士にも漢にも二言はあらず。 とはいえ、これは頷いていいものか? ミア「納得できないならさ、彰くんのことをもっと聞かせてよ。 そうすれば分かり合えるんじゃないかなぁ」 話し合いをしようって言った俺に、問答無用で光弾撃ったのって誰だったっけ? まあいい、たしかに話し合いもしないで無理と決めつけるのは、俺の嫌いな行為だ。 ……冗談でなら大好きですが。 彰 「まあよかろう、話してしんぜよう。この俺の過去と家系の云々を」 ミア「うんうんっ、どんな過去があるの?」 彰 「あれはまだ、ワシがピチピチのクソガキャアのころじゃった……。 当時のワシは高名な修行僧で、世界を旅して回って」 ミア「ウソはいいよ」 彰 「………」 ひでぇ、喋り途中なのにウソって断言されちまった。 彰 「わかった、わかりましたよぅ。ひとまずこの部屋を片付けてから話すとしよう」 ミア「あ……そういえば雪が積もったままだね。どうするの?」 彰 「簡単だ。───この部屋の雪を吸い込むブラックホールが出ます」 『雪を吸い込んで消す穴』というイメージを弾かせて、部屋の中の雪を消し去った。 小娘はそんな俺をボケ〜っとした顔で見て、開いた口を塞げないでいた。 彰 「そんじゃあ……そうだな、外の芝生に寝転がりながら話すか」 ミア「え、あ……外?」 驚きと困惑が消えないのか、小娘は狼狽しながら俺を見上げた。 だがそんな困惑は受けつけません。 彰 「行くと言ったら行く! 天気のいい日に外に出ないのは愚考と唱えよ!」 勢いよく窓を指差し、その先の芝生を見やった。 その場には穏やかにして雄大な太陽の光が差し、草木が風で揺れていた。 ぬおお、なんとも寝心地良さそうではないですか!! 彰 「よし、貴様が行かなくても俺は行く。たった今、この場で俺がそう決めた」 ミア「わっ、待ってよ、わたしも行くよっ」 彰 「ンン〜? なぁにかねぇ〜? 貴様、外には出たくないのではなかったのかねぇ〜?」 ミア「彰くん根性捻じ曲がってるよ!」 彰 「ほっとけこの野郎!!」 ミア「わ……否定しないんだ……」 彰 「や、やかましい!」 そんな罵倒を交わしながら、俺と小娘は並んで外を目指した。 遠慮せずに罵倒し続けることが思いのほか嬉しいのか、 不覚ながらも頬が緩むのを感じた。 まったく呆れてしまうことだが───なんだかんだで俺も楽しんでいるらしい。 屋敷の外に出ると、陽の光が俺と小娘を招くように舞い降りた。 ……ぶっちゃけてしまえば、雲に隠れてた太陽が顔を出しただけなんですが。 ミア「どこで話すの?」 彰 「さっき指差しただろうが。あっちの木の下だ」 一本の大きな木を顎で促す。 大きな木、といっても……その枝に咲き誇るものはなにひとつとしてなく。 ただ大きいだけの、痩せこけた木がそこにはあった。 季節の所為というわけでもなく、この木だけが痩せこけている。 現に、周りにある木の枝は緑を生していた。 彰 「ほれ、お前もこっちに来い」 俺はその痩せこけた木の幹にどっかりと座り、背中を預ける。 が、小娘はそんな木を見て、どこかおろおろするだけだった。 彰 「なんじゃい小娘、この木がどうかしたのか?」 ミア「……ううん……なんでも……ないよ」 小娘の顔は『なんでもない』どころの表情じゃあなかったが、 それでもちょこんと俺の隣に座った。 ミア「そ、それじゃ……聞かせてくれるよね、彰くんのこと」 まるで急ぐように、この木の話を避けようとする小娘。 もちろんそんな状況で自分の話に集中できるわけがない。 彰 「待った。俺の過去よりも、この木のことを先に聞かせろ」 ミア「……どうして? ただの木だもん、聞いたって面白くないよ……?」 彰 「それでもだ。お前、なんだってそんな嫌そうな顔をしてるんだ?」 ミア「あ……」 横目に見た小娘の顔は、とても居心地悪そうな表情をしていた。 個人的には悪くない場所なんですがねぇ。 ミア「だ、だって……」 彰 「だって?」 ミア「だって……この木、ひとりぼっちだから……」 彰 「ひとりぼっちって……なにが」 さっぱりです。 俺には小娘が何を言いたいのかがさっぱりです。 だが───待てよ? ……ああ、そっか……そういうことか。 俺もさっき、自分で確認したじゃないか。 『この木だけが痩せこけている』って。 彰 「ふむ……なぁ小娘よ。この木はずっと枯れてるのか?」 ミア「ううん……わたしが産まれたときに枯れたんだって。 それからずぅっと、このままなの……」 彰 「……そうだったのか」 まさか小娘が、大木の栄養を吸い上げて産まれてきた木人だったとは……。 ミア「彰くん、いま失礼なこと考えなかった?」 彰 「考えてないぞ」 そもそも『小娘に対して失礼だ』なんて思ってなかったし。 うむ、あれは正当な思考だろう。 彰 「ま、とにかく原因を知りたい。枯れた原因はわかるか? それがわかればなんとかできるかもしれない」 ミア「ほんと?」 彰 「まあ、俺に解決できることならな。できなくても恨むなよ」 あらかじめ、ダメだったときのフォローをしておく。 はっきり言って、俺は期待の眼差しが苦手である。 何故って、もし失敗したらその期待の眼差しが落胆に変わるからだ。 それなら大きな期待なんてさせないほうがいいに決まってる。 ミア「……あの、ね。この木には昔、すごい魔力が込められてたの」 彰 「魔力?」 ミア「うん。魔術を使用すると、その魔力は空気に弾けて酸素と一体化する。 けど、それは誰かの糧になるわけじゃなくて、 風に流されてひとつのなにかに吸収されるの。 その『なにか』は魔術師たちが決めて、 そのなにかに流れるように『魔力の道』を作る」 彰 「ああ、ようするに今回のその『なにか』ってのが……この木だったわけだ」 ミア「………」 彰 「ぬお?」 なにやら小娘に睨まれました。 次いで、『わたしが言おうとしてたのに……』とふてくされる小娘。 いいじゃないか、察しがいいほうが。 彰 「まあそれはいい。俺が知りたいのはその先。木が枯れた原因だぞ?」 隣に座る小娘の頭をポムポムと叩き、先を促す。 すぐに罵倒が飛ぶと思ったが、小娘は俯くだけだった。 彰 「小娘? どうし───」 ミア「……木が枯れた原因はね、わたしなんだよ」 彰 「なに……?」 どうした、と言おうとした俺に、小娘はそう言った。 木が枯れた原因は自分にあると。 彰 「そりゃ……いったい?」 わけがわからんが…… まさか小娘が魔女チックに、 『鏡よ鏡よ鏡さん? この世でもっとも美しいのは誰?』と鏡に問い、 鏡は庭にある大木ですと答えたために、ジェラシー全開で光弾をぶっ放して……!? ミア「彰くん……」 彰 「いや落ち着け。俺はなにも失礼なことは考えてないぞ」 ミア「魔導魔術師になるってことはね、 『千年の寿命』っていう枷を植え込まれるって意味なの」 無視ですか? まあいいけど。 彰 「千年の寿命ってのはなんだ?」 ミア「言葉のとおりだよ。自分の寿命に加えて、千年余分に生きること」 彰 「……なんでそんなもんが?」 ミア「だから『枷』なの。早く言えば、千年の寿命っていうのは『強過ぎる魔力』なの。 それを体に植え込むことで、体内に魔力が発芽する。 けど、自分にはなかったものを植え込まれたことと、 魔力の強さの所為で罰が与えられる。それが千年の寿命」 彰 「ほほう……」 なにやら難しいことだらけだが、これだけは言える。 小娘がやたらと偉そうだ。 彰 「よし、当て推量だが俺の結論を言ってみよう。 つまり小娘の魔力に使われたものってのが」 ミア「ダメ! それはわたしが言うの!」 彰 「なんと!」 小娘が俺の口を手で押さえた。 さきほど自分が言おうとしたことを言われたのが気に入らなかったらしい。 ミア「わたしに植え込むために使われた魔力は……」 声 『この木の魔力だったわけだ』 ミア「あれぇ!?」 どこか悲しそうに言葉を発していた小娘だったが、その表情も簡単に砕けた。 口を塞いでいるはずの俺が喋ったことが不思議だったらしい。 声 『馬鹿め……イメージさえできれば自分の声を創造するなど容易いわ!』 ミア「彰くん! どうして邪魔ばっかりするの!?」 声 『しとらんわ! 俺は暗い雰囲気ってのが嫌いだから、 それをお手軽簡単にブチ壊したかっただけだ!』 ミア「あ……」 俺の口から、小娘の手が離れる。 ミア「ご、ごめんね……気を使わせちゃったね……」 彰 「うりゃっ」 『でごしっ!』と小娘の頭に手刀を落とした。 すると小娘が、よくわからないって顔で俺を見上げる。 彰 「なぁに大人みたいなこと言ってんだ。 俺は気を利かせたつもりはないし、小娘は木が枯れた原因を話していただけだろう。 だったらどっちも謝る必要なんてないだろ?」 ミア「彰くん……謝れって言ったり謝るなって言ったり……」 彰 「謝る必要もないのに謝られたら誰だって気分悪い。おわかり?」 ミア「…………うん」 うーむ、なにやら小娘が素直である。 よいことなんだろうが、少々調子が狂う。 彰 「ほれほれ、俺は気を落とすようなことを言った覚えはないぞ? 落ち込む必要なんてないだろ」 ミア「だって……この木はわたしの所為で魔力失って……。 わたしもこの魔力の所為で孤独に……」 彰 「しめっぽく言うでないわ! よいかね、原因がわかったなら解決に導くのが探偵! ……探偵? まあいいや、解決しようか」 ミア「解決……? どうにかできるの?」 彰 「……ふむ」 俺は小娘の頭をポムッと撫でると立ち上がり、その大木に片手で触れた。 もう一方の手を小娘に向ける。 彰 「小娘、貴様の魔力を俺に送れるか? ああ、言っておくけど少し流す程度でいいぞ? 魔力の波長ってのを知りたい」 ミア「できるの? 木を復活できるの?」 彰 「期待はするな。あくまで『かもしれない』ってくらいだ。 それよりホラ、送れるなら送ってくれ」 ミア「う、うん……」 小娘が俺の手を握る。 やがて目を瞑り、小娘の体が薄く輝くと、 俺の手に暖かいけど混沌としたなにかが流れてくる。 ───これが、小娘の魔力の波長か。 よし、インプット完了。 彰 「イメージ───」 創造を始める。 頭の中のイメージを活性させ、その魔力を具現化───ぐっ!? 彰 「ぐあぁっ!?」 頭痛。 やっぱり自分の世界のもの以外を創造するのは無茶か……!? ここで無茶をしちまえば、頭痛程度じゃ済まないかも……───う。 彰 「……ったく」 よくよく思うが、俺も相当に馬鹿らしい。 握られたままの手に、力が込められたのが分かってしまった。 ……俺、こんなに馬鹿だったっけ? 彰 「小娘、離れてろ」 ミア「え? でも……」 彰 「手ェ握られてると雑念が流れてくる。集中させろ」 ミア「……う、うん……」 小娘の手が離れる。 頭痛が増す。 だがそんなもんは無視だ。 彰 「イメージ……」 魔力を大量のものだなんて想像するな。 大きいが、ひとつのものだと想像しろ。 彰 「───クリエイション!」 イメージを弾けさせる。 頭痛が爆発するが、それさえも無視。 そして俺は、小娘から感じ取った魔力のイメージが、 手の平から大木へと流れるのを感じた。 彰 「は───はぁあ……」 大木が輝きに包まれるのを確認してから、その場に倒れ込んだ。 ミア「彰くんっ!?」 小娘が駆け寄ってくるが、返事をする余裕など皆無。 というか……小娘が、倒れた俺をゆっさゆっさと揺する。 ミア「彰くん!? 彰くん! 大丈夫!?」 彰 「う、うげっ……うげげ……! や、やめれ……揺するな……やめれぇ……!」 揺すられながらも見える、おぼろげな空。 霞む景色の中、俺はやがて意識を───ややっ!? 彰 「こ、こむす……小娘……ごごむ……!」 ミア「彰くんっ!? な、なに? なにか言い残すことが……!?」 彰 「殺すなボケッ!!」 根性を振り絞って『ガバーッ!』と起きあがる。 そのままの勢いで立ち上がり、小娘の視線が上を向くように促した。 ミア「彰くん、大丈夫なの……?」 彰 「今は俺のことなんざどうでもいいわ! それより気づかないのかね!」 ミア「気づく……? ああっ!!」 小娘驚愕。 小さく震えながら、やがて口を開いて───言葉を発した。 ミア「彰くん! 髪の毛が銀色になってるよ!?」 彰 「なんと!?」 俺も驚愕。 小さく震えながら、やがて髪の毛をブチャアと引き抜き───絶叫。 彰 「おぉわぁーーーっ!! 銀色だぁあああああああっ!!」 ミア「大丈夫なの!?」 彰 「大丈夫、峠は超えた」 ミア「峠!?」 彰 「それよりも小娘よ、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな」 ミア「彰くん……?」 小娘がきょとんとした顔で俺を見上げる。 そんなとき、一枚の葉っぱが舞い降りた。 ミア「あれ……? ───あぁっ!!」 ようやく気づいたようで、小娘は大きな木を見上げた。 すでに孤独ではない、緑に染まった大木を。 ミア「わー、鳥さんがとまってるよー」 彰 「シャラッ!」 ベチーン!! ミア「みぅうっ!?」 デコピン一閃。 小娘が俺を見るのと同時に罵倒を飛ばした。 彰 「わざとか!? わざとかテメェ! デコピンで足りねぇなら拳を飛ばすぞこの野郎!」 ミア「じょ、冗談だよぅ! ちゃんと分かってるもん!」 彰 「では貴様が見たものを400字以内で答えてみよ!」 ミア「400? えーと……木が復活してるね」 彰 「………」 ミア「………」 沈黙。 感動も感激もあったもんじゃあなかった。 彰 「何故だか自分がすごく無駄なことをした気分になってきた……。 能力の酷使で銀髪にまでなったってのに……」 さきほど抜いた一本の髪の毛が、陽光を浴びてキラキラ輝いております。 ミア「そういえば彰くん、どうして髪の毛が銀色になってるの?」 彰 「むむっ、いい質問だ小娘」 ズビシと小娘の鼻に指を突き付け、ニヤリと笑って見せる。 彰 「もともとそういうこと話すためにここに来たんだしな。ま、座りなさいな」 ミア「うん」 大木の幹に腰を降ろして息を吐く。 ……と、小娘は何故か俺の股のあいだに座り、 大きな帽子をすぐ傍の草むらに置いて、俺の胸板に後頭部を預けてきた。 彰 「なんのつもりだ貴様」 ミア「えへへ、一度やってみたかったんだ〜♪」 そんなものは恋人にでもやってもらえと言おうとしたが、 こいつの性格じゃあ、何年先になるか解ったもんじゃないからやめておいた。 彰 「あー……話、始めるぞ?」 ミア「う、うん」 照れくさいのか恥ずかしいのか、自分でやっておきながら真っ赤になっている小娘。 やってみたかったからって、これじゃあなぁ……。 彰 「えーと……どこから話したもんかな。 ああ、月の家系の魂には神と死神が混ざってるって言ったよな?」 ミア「うん、聞いたよ」 彰 「まずはそこからだ。俺も親父から聞いただけだから、詳しいことは知らんけど」 ミア「それでもいいよ。聞きたいな」 胸板に後頭部を押し付けながら俺を見上げるその目はまるで、 子が親の昔話に期待するような眼差しだった。 ……よっぽど寂しがりだったんだなこいつ。 ちょっと気を許すとこれじゃあ、将来がかなり心配ですよ? 彰 「……ま、いっか。よし、心して聞きなされ。 もう随分昔のことになるんだけどな、 普通の男に恋をした神の子が居たらしいんだ。 その神の子ってのは神降ろしの儀式ってので産み出された子供で、 その男ってのも子供だった。ふたりは一緒に育っていって、いつも一緒だった。 けど、その仲は裂かれることになる。 成長したふたりは『神の子の力』を欲した男に、離ればなれにさせられたんだ。 男のほうを殺すっていう、永遠の別れって意味でな」 ミア「そんな……」 『死』というものに縁がなかったのか、小娘は震えた。 だが俺は無視して話を続けた。 嫌がらせ万歳。 彰 「まあそんなことがあって、神の子は悔やんだんだ。 『自分に戦うための力があれば』って。 神の子の力ってのは『癒し』とかばっかりで、 争いの力なんてものはなかったそうだ。 だから───」 ミア「……あ、そっか。死神の力を借りようと思ったんだね?」 彰 「そういうこった。死神の力は主に『破壊』だったわけだ。 だからその力があればって思った。そして選んだ選択が『死神との融合』だ」 神が死神と融合、なんて、無茶な話だ。 当然俺だって実際の場面を見たわけじゃないから、確実なことは言えないけど─── 神と死神じゃあ存在的に反発するものだろ。少なくとも、親父からはそう聞いた。 彰 「結論言っちまえば融合は成功して、 神の力と死神の力を合わせた『月操力』って力が産まれた。 『癒し』とか『破邪』の力が神の力で、『破壊』と『蝕み』が死神の力。 それぞれの効果をもたらす力なんかには名前がつけられてて、 『月生力』だとか『月壊力』だとか、いろいろな呼び方があった」 ミア「ふーん……」 彰 「で、だ。神の力のほうを使い続けると神寄りの自分になって、 死神の力を使い続けると死神寄りの自分になるんだ。 ようするに、神寄りだと金髪になって、死神寄りだと銀髪になるわけだ。 どうして神が金で死神が銀なのかは親父も知らんと言ってた」 ミア「髪の色が変わる意味は?」 彰 「それ自体には大した意味なんてないだろ」 親父も完璧ではないのだ。同じ人間だしね。 俺もいつか結婚とかして子供が出来たとしたら、 こうして完璧ではない知識を話して聞かせては、 完璧じゃない部分にツッコミ入れられて困るんだろうなぁ……嬉しくない。 ミア「そっか……じゃあ、創造の理力……だっけ? それはどうして使えるの?」 彰 「先祖の中に『創造神』の能力を受け取った人が居たんだ。 まあその人が、俺が尊敬する人の『たったひとりの親友』だったわけだけど。 その影響……じゃないか? いや悪い、この力に関しては、親父もまるで解らないらしいんだ。 ただ先祖にもこの力を持っていたヤツが居たらしいってこと以外は」 ミア「へぇ、創造神から……なんだ、結局彰くんって神さまの存在信じてるんだ」 彰 「見てないものは信じません! 答えを書いたって数式が無ければ正解じゃない問題と同じですよ!」 実際俺だって、聞いただけの話なんだからよく分からないし。 自分の経験上で分かっていることといえば、神寄りのときは神側の能力が簡単に使えて、 死神寄りのときは死神側の能力が簡単に使える、って程度だ。 今回は月操力自体は使ってないが、 創造した『魔力』に触発されて死神寄りになっただけだろう。 ミア「ね、ね、彰くん。その『げっそーりょく』とかいうの、今使えるの?」 彰 「使えるぞ。癒しから破壊、そして音楽演奏から空中浮遊までなんでもござれ。 一家にひとり、弦月彰」 ミア「……なんでもできるんだね」 彰 「地界人だと思って甘く見るなよ?」 ミア「へー……ね、見せて?」 彰 「いいぞ? ……よし、この草あたりがいいな……あたぁっ!」 シュピンッ! ミア「いたっ!?」 手に取った草で、小娘の指を少し切った。 ミア「あ、彰くん……なにを……」 彰 「黙ってろ。……月生力」 血が出たが、そこに指を添えて力を解放させる。 すると、その傷は存在さえしていなかったかのように消え失せた。 ミア「わ……すごい……」 彰 「すげぇだろ。褒め称えろ」 ミア「いやだよ」 ぬう、ノリの悪いヤツだ。 彰 「あとは───月鳴力」 能力を小さく解放して、地面に小さな雷を落としてみせる。 雷は『バチィッ!』と小石を砕き、消え失せた。 ミア「え……あれ、彰くんがやったの……?」 彰 「おうよ。ちなみに貴様の攻撃を受けても平気なのは、遺伝らしい」 ミア「遺伝? 彰くんの家系ってやつって、堅い肌の末裔なの?」 彰 「ブッ殺スぞこの野郎」 ミア「じょ、冗談だよ……」 とか言いながら、小娘は俺の腕をふにふにと触った。 その目が『堅いよ?』と語りかけてくるが、俺は『筋肉の所為だ』と答えた。 無駄な贅肉の無いこのボディこそが我が誇り! ……って、こんなことやってる場合じゃ……ないわけでもない。 彰 「遺伝ってのはな、俺の先祖の体質からの問題だったんだ。 生命力やらなにやらが、すべて人間の倍以上あったらしい。 人からバケモノだって言われても仕方が無かった人だろうな」 ミア「ふーん……」 彰 「でも……俺はその人を尊敬してる。 バケモノだとか言われようが、その人はたったひとりの親友のために生きたんだ。 普通、できないだろ。自分以外の誰かのために命を賭けるようなこと」 ミア「……わたしはできないと思う」 小娘は素直に頷いた。 俺はそれを嬉しく思いながら、小娘の頭をポムポムと撫でた。 彰 「ああ、俺も多分できないと思う。だから尊敬してるし憧れてる。 まあルナさんから言わせれば、俺はその人に似すぎてるらしいんだけど」 ミア「ルナさんって?」 彰 「死神」 ミア「えぇっ!?」 小娘、驚愕。 なににそんなに驚いているのかは解らんが。 ミア「だ、だって彰くん、自分は見たことがないから信じないって……」 彰 「それは神の話だろ。死神なんて、月の家系の者からすれば日常的なものだぞ?」 ミア「………」 なんだかとても複雑そうな顔をされております。 まあ、家系以外のヤツがこんな話されても、呆れる他はないだろう。 彰 「ルナさんは俺の先祖でもあるんだ。 死神が居るだけで驚いてたら心臓がいくつあっても足りん」 ミア「……わたし、彰くんの性格がヘンなの、頷ける気がするよ……」 彰 「この性格は遺伝だ」 ミア「だからそう言ってるの。性格が遺伝するだなんて、聞いたこともないけど」 そりゃそうだ、俺だってない。 小さく息を吐きながらそう思い、俺は苦笑した。 そうしたときに風がこの場に流れ、復活した大木の緑を揺らしては、 少し熱を持った身体を静かに涼ませてくれた。 そんな拍子にふと───草むらに置かれていた大きな帽子が目に入り、訊ねることにした。 彰 「その帽子、どこで手に入れたんだ?」 考えてみれば、こういう海賊っぽい帽子はどうやって手に入れるものなのかが解らん。 人嫌いな小娘が、村に出て購入するとは思えないし。 そもそもなんで海賊帽子なんだ? 普通は魔女っぽい三角帽子みたいなのを選ぶだろ。 と、疑問の眼差しをぶつけてみると、小娘までもが俺に疑問の眼差しをぶつけ、 ミア「え? 彰くんのお話、もう終わり?」 と小首をかしげながら言った。 人を見上げながら、なかなか器用なヤツだ。 彰 「ああ。感動巨編だっただろ」 ミア「全然……」 思いっきり溜め息を吐かれてしまった。 なにか俺に恨みでもあるのかこいつは……って、あるんだろうなぁ。 彰 「俺の話なんてこんなもんだろ。次は貴様の番だ」 ミア「うん、わかった。じゃ、話すよ?」 小娘がムンと構える。 もちろん意味は無いのだろうが……うむ、やはりまだまだ子供だな。 そう思って、笑いながら小娘の頭を撫でた。 ミア「……彰くん、それって癖?」 彰 「うん? 癖とは?」 ミア「彰くん、さっきからわたしの頭、撫でてくるから」 彰 「……ふむ。まあ、あれだ。撫で心地がいいことは認めよう。 そして貴様が俺の前に居ることで、俺は腕を組むことができぬのだ。 よって、手持ち無沙汰という事態が発生している。 俺はなにかやってないと落ち着かないのだ」 ミア「でも、くすぐったいよ」 彰 「我慢なさい! 男の子でしょう!」 ミア「彰くん! わたし女だよ!」 小娘、予想通りの言い返し。 ……うーむ、やはり認めざるをえないな。 俺自身、こいつの『押せば弾き返すような性格』が気に入っている。 彰 「まーまー落ち着け小娘。一日は待ってくれないぞ、話すなら話せ」 ミア「彰くんが話を捻じ曲げてくるから悪いんだよ!」 彰 「なにぃ……そうかも。よし解決だ、話せ」 ミア「……時々、彰くんの思考回路が羨ましくなるよ」 彰 「なんなら輸血でもしてみるか? 俺の血液が貴様の血液を侵食して、たった5分で頭のキレるナイスガイに」 ミア「全力で遠慮するよ」 全力で遠慮されてしまった。 ひでぇや小娘、ほんの冗談なのに。 ミア「ねぇ彰くん、もう言うことない? 話していい?」 しかも警戒されてる。 俺だって年中無休で人をからかってるわけじゃない……って、 どうして断言できないんでしょうね。 彰 「あー、言うことなぞ皆無だ。好きなだけ話せ。 誰かの昔話ほど心地いい睡眠薬はないからな」 ミア「眠ったら全力で光弾撃つからね」 彰 「……全力で起きてます」 えーと……小娘から遠慮が無くなったのっていつからでしょうかね。 いつからこんな、平気で人を脅迫するようなおなごになったのやら。 ……多分、出会った初日でしょうな。 もちろんこんな小娘だからこそ、からかい甲斐があるのだが。 ミア「それじゃ、話すよ? わたしはね……」 彰 「実は木の魔力を吸い尽くして産まれた突然変異の寄生虫で、名前はゴンザレス、と。 なぁんつってなー、うはははは!!」 ゲラゲラと笑いながら小娘の頭をポムポムと叩いた。 が、当の小娘は極上の笑みを浮かべて振り返り、 ミア「……屠るよ?」 そう言って、手の平に巨大な光弾を作った。 その輝きはまるで太陽のよう……! 直視していると目が潰れてしまいそうな輝きっぷりで、 こんな場面で、 燦然と輝くという言葉を使っていいものかを考えてしまうくらいに眩い光だった……! え……? 死ぬ? 彰 「ゴメンナサイ」 それはもう謝りました。謝るしかなかったとも。 まさか『屠る』とくるとは……末恐ろしい娘ッ子じゃあ……! ミア「もう、真面目に聞いてよね」 彰 「俺は年中無休で真面目だが」 光弾を消しながら、ぷんすかと怒る小娘に言う。 怒ると光弾を作る癖は、そう簡単には直っちゃくれないらしい。 そりゃそうだな、出会って三日目とはいえ、実際に話し合ってる時間は案外長くない。 ミア「……そうだったね、ごめん。彰くんって真面目にヘンだからね……」 そして真剣に謝られてしまった俺は、 自分の性格について、遠くを見ながら少し真剣に考えてみた。 だが俺の股のあいだのお子様はそんな俺をおいてけぼりにしたま、 話の続きをするよ? と気軽に言ってきた。 しかもその目が、聞かないとヒドイよ、と訴えかけてきているようで…… つまり俺には小娘の話を聞く以外、選択肢を与えられなかった。 いや、もういっそのこと好き勝手に口を挟んで滅茶苦茶にしてくれようか。 ミア「えーと……わたしの家は代々続く魔術師の家系だったの」 彰 「ほほう! それは───ゲッ!」 さっそくなにか言ってやろうと思ったが、 小娘の手がスタンバイしてあるかのように輝いていたのでやめた。 なにか喋ったら殺される……これはそういう状況に違いない。 ミア「空界は魔力の大きさで上下関係が決まるの。 あ、もちろんその家系としての関係だよ? 人間関係なんて、そうそう変わるものじゃないし」 彰 「ほー……」 ミア「チェルシートンの家系は弱小だったんだって。 だから、禁忌を破ってまで上を目指した。 その結果がわたしなんだけど……やっぱり違法だから、責められちゃって」 禁忌ってのはあれだな。大木に宿った魔力を植え込んだってやつ。 そりゃ責められもするだろ。 彰 「で、産んだ輩も誰も彼もが責任を貴様に押し付けて、とんずらしたと」 ミア「……とんずら?」 彰 「逃げるってことだ」 ミア「あ、そっか。うん、全部わたしに押しつけて逃げちゃったの」 なんとまあ……ひでぇヤツも居たもんだ。 でも意外に小娘は平気そうに喋ってる。 もう馴れてるって感じだ。 ミア「そして、この屋敷にはわたしとテッドだけが残されたの」 彰 「テッド?」 ミア「えーと……さっき聞いたよね、この帽子のこと」 彰 「おうよ」 ミア「この帽子がテッドだよ。これでも元は猫なの」 ……猫? この帽子が? 彰 「……よし帽子、ニャーと鳴いてみろ」 帽子をムンズと掴み、そう語りかけてみる。 が、返事は無い。 彰 「まいったぞ小娘。この猫、ただの屍のようだ」 ミア「無理だよ、テッドはもう帽子になっちゃったんだから」 彰 「なんと……猫が帽子に? 三味線の要領か?」 三味線って、猫の皮を使ってるとか聞いたことがあるような無いような。 もしやこの帽子も、猫の皮がふんだんに使われているとか。 ミア「その『しゃみせん』っていうのがなにかは知らないけど、 テッドは自分の意思で帽子になったんだよ?」 彰 「なにぃ……まさか猫が魔術を使って帽子になったとでも?」 ポムスと帽子を草むらに置いて、俺を見上げる小娘を見下ろす。 その顔は、いかにも不満がありそうな顔だった。 ミア「違うよぅ。テッドはね、喋れる猫だったの。でも寿命が普通の猫の半分だったの。 だからね、死んじゃう前にわたしに頼んだの。 自分を着衣かなんかにして、わたしの傍に置いてくれって」 彰 「着衣……ほう。つまりそのテッドという猫はロリコンキャットだったのか。 小娘の着衣になりたいとは……すげぇ猫も居たもんだ」 ミア「それ以上言うとグーで殴るよ?」 彰 「まて、さらりと攻撃方法を限定するな。しかも痛そうだ」 小娘の拳なんぞは恐れるまでもないが、その拳が光っていることを見逃しちゃあならねぇ。 渾身の一撃でもくらったら、顔面が大空へ旅だってしまうかもしれん。 いくら頑丈だからって、首が飛べば死にますよ? 家系の能力と身体能力以外は普通のオトコノコなんですから。 彰 「あ、いや、ちょっと待て? もしかしてその猫を帽子に変えたのってお前か?」 ミア「他に誰が居るの?」 彰 「近所にお住まいのロドリゴ=ロドリゲスさんとか」 ミア「ロド……誰?」 彰 「……すまん。俺も自分で言ってて、わけがわからなくなった」 自分の知らないことでからかおうとすると、大体がボロ出すなぁ。 人間って難しいやぁ。 彰 「ま、よ〜するにお前は先人の馬鹿げた行為の所為で魔力を得て、 おまけに孤独になったわけだな?」 ミア「……そうだね」 寂しそうな顔で肯定する小娘。 彰 「んで、猫と一緒だったけど、その猫は帽子になって……本当の孤独を味わった、と。 ほへ〜、やっぱ俺の家系以外にもそういうことってあるもんなんだな」 ミア「……そうだね」 思い出したのか、相当に暗い声で返事をする小娘。 これだな、これがあるからいかんのだ。 孤独だって自分で認めてるなら、あえてハシャぎ倒してみるのも悪くないのに。 彰 「そう落ち込むでない。 俺の憧れの人はな、お前より相当ひどい人生を生きたんだぞ?」 ミア「……うそだよ、そんなの。だってわたし、こんなに辛いんだよ?」 彰 「フッ……大海を知らぬ蛙が何を吼えるか……」 ミア「彰くん、いちいち見下した言い方で言うのはどうかと思うよ……」 そりゃあ貴様に覇気がないからだ……なんて、思ったとしても口にはしませんがね。 そんなことを頭のなかで小さく呟きながら、次に言うべき言葉を組み立てて……口にした。 彰 「俺の憧れの人はな、話に残ってる限りじゃ、 300年以上を生きながらもその大半が孤独だったっていうヤツなんだ。 300年ってのは文献だとか言い伝えだとかの話で、 俺自身は本当のことを知らないし、1000以上だったって噂もある」 ミア「300……バケモノ?」 ぐにぃっ。 ミア「いひゃっ!? いひゃいひょ! あひひゃふん!!」 彰 「失礼のことを言うのはこの口かね!」 人の先祖を化け物呼ばわりする失礼な口、じゃないな、頬を引っ張る。 ぬおお、ふにふにと柔らかく、なんと触り心地の良い頬よ……!! じゃなくて。 ミア「はらひへひょ〜! ひほいほはひはふん〜!!」 彰 「ヒドイとはなんですか! 貴様が失礼なことを言うからでしょう!」 だがこのままでは話が進まん……そう思って手を離すと、小娘の頬がスパンと元に戻る。 ……どれだけ弾力性に優れてるんだ、子供の頬ってのは。 ミア「あうぅ……」 彰 「よいかね、俺がその人の生き様を凄いと思ってるのは事実なのだよ? それをバケモノなどと言われたら切ないじゃないですか」 ミア「……うん」 彰 「まあ、実際バケモノ級な人だったのは確からしいけど」 ミア「じゃあどうして抓ったの〜……?」 小娘が頬を撫でながら言う。 そんな小娘に『ハッキリとバケモノなんて言うからだ』と返した。 でも、素直に非を認めてくれるとは思わなかった。 小娘も変わってきているんだろうか、この数時間で。 俺が、なんとなくでもこいつのことを気に入れたように。 彰 「あのな、その人が300年生きたのは能力のおかげなんだ。 その人が実際にバケモノだったからじゃない。解るかね?」 ミア「うん……なんとなく」 彰 「そかそか、なら良し!! で、話の続きだがな? その人がお前よりひどい人生を歩んだってのは間違いじゃないぞ。 何度も死んだし、好きで100年以上生きてたわけじゃない。 最後がどうなったのかは俺もよく知らんけどね」 ミア「でもわたしはこれから千年だよ? どう考えたってわたしの方が辛いよ」 彰 「……あのね。その人は10回以上死んどるのですよ? その度に生き返されて、また死んだ。同じ時を繰り返してね。 そんなことを100年以上も続けられますか?」 ミア「………」 小娘が小さく息を飲んだ。 けどそれは、話を聞いたからってわけではないようだった。 俺から目を逸らして俯く姿は、まるで俺の顔に恐怖しているような……。 ……まいったな、怖い顔でもしてたか? 彰 「あー……すまん。とりあえず顔を俯かせるのはおやめなさい。調子が狂う」 ミア「うん……」 おぉ? と小さく漏らすくらいに意外だったのは、小娘の素直な反応だった。 散々反発していたくせに、今は驚くくらいに素直だ。 そんな小娘の瞳が、怖々と俺を見て……安堵に変わる様が、どうしてか嬉しかった。 ちょっと待て、なんで嬉しがってるんだ俺。もしかして惚れた? いやいや待て? すぐに惚れる惚れないに走るのは悪い癖だ。 これはほら、あれだよきっと。子を見つめる親の気分か、妹を見守る兄の気分。 彰 「エッホオッホン!! では、話を続けますぞ?」 ミア「うん」 おお、今度の返事はさっきよりシャキっとしてるな───ってだからちょっと待て! どうしたの俺! なに!? なんなのこのやさしい心! まさか、学校ではザ・無愛想と呼ばれるほど相手を無視するこの俺が、 こんな小娘ごときに心を完全に開いてしまったと!? それで、同じ孤独を味わっている者同士、傷でも舐め合いましょうとか考えてると!? それともマジで惚れてて、 俺はロリコン街道まっしぐらに……いやいやそれは無いよ。無いよね? 彰 「あ、あのー、つかぬことをお訊きしますが……あなたの実年齢はおいくつで?」 ミア「え? あ、うん……十六歳だけど……どうしてそんなこと聞くの?」 彰 「おおじゅうろ───十六!? えぇ!? だって───えぇ!? こんなちっこいのに!?」 ミア「う、うるさいなぁ! 魔力の強さの所為で身体の成長に異常が起きてるだけなの! これからどんどん伸びるからいいんだもん!」 ちっこいって言われたのが悔しかったのか、じたばたと暴れだす小娘さん。 しかもそのじたばた暴れが、 これでもかってくらい似合うほどちっこいもんだから、正直始末に負えん。 おお神よ……信じてないけどウソだろ? この小ささで俺の一コ下……? 世の中って……ファンタジーって解らねぇ……。そう思わざるを得なかった。 彰 「あ、あのー、さらにつかぬことをお訊きしますが…… 魔法とかで成長を促進させることとかって出来ますか……?」 ミア「出来るよ? でもなんで敬語なの?」 彰 「やって! ちょっとやってみせてよ! そんな格好で16なんて信じられません! 僕が十六歳だって認められる姿をしてみせてよ!」 ミア「それよりも彰くんのご先祖さんの話を───」 彰 「見せてくれねば教えぬ!」 ミア「じゃあわたしも聞かせてくれなきゃ見せない」 彰 「な、なんと! 卑怯だぞてめぇ!」 ミア「それ彰くんには言われたくないよ!」 小娘が見上げ、俺が見下ろす状態でカッと睨み合う。 先ほどまでのやさしい心は何処にいったのか…… 好奇心に勝てない若い少年な僕は、 そのまま小娘と睨み合い……額の『漢』の文字を見た途端、一気にやる気が消え去った。 自分で書いておいてなんだけど、小娘相手になにやってんでしょうね俺……。 でも自分で認められるくらいの出来なので、消すのももったいない。 ……まあ、いい息抜きにはなったし、 ここで折れてやるのも余裕の見せどころに違いないさ、クォックォックォッ。 彰 「……ふむ。じゃあ続きでも話ましょうか」 ミア「うんうん。人間、素直が一番だよ?」 ……そして早速後悔した。くそう偉そうだぞこの小娘。 もっと素直ならまあ可愛げがあるのに。 いや、素直だから可愛げがないのか? まあいい、続きだ。 えっと、どこまで話したかな……っと、そうそう、 彰 「俺の尊敬している人の話だったな。 300年以上を孤独に生きたソルジャーの話」 ミア「ソルジャー?」 彰 「そこは流してヨロシ。 で、その人がなんだって300年も生きていられたっていうとだ。 先に話したよな? 月操力のこと。 実はそれの中には時を越える力や蘇生の力もあったんだ。 今じゃせいぜいで治療や浮遊、破壊くらいしか出来ないんだけどさ」 ミア「じゃあ……その力を使って、自分の寿命とかをいじくってたの?」 彰 「おおそんなとこ。本当かどうかは知らんけど、 親友が死神に命を狙われたことがあったそうで、 その死神から親友を守るために死神ごと過去に転移。 で、その先で死神ごと自爆して死亡。 その人は当時、その時代でも死んだことがあったらしくて─── まあそこを親友の蘇生の力に助けられたんだとか。 でもそこで間違いが発生しちまったわけよ」 ざっと話して聞かせると、疑問符を浮かべながら俺を見る目とぶつかった。 そりゃそうだ、まだ話の決着がついてない。 ミア「間違いって?」 彰 「ああ……本来過去の時代で親友さんが蘇生させるつもりだったのは、 その時代で死んじまったご先祖さまのはずだった。 でも、その時代には死神もろとも自爆したご先祖さまの魂まであった。 自爆で肉体と離れた魂は、子供の頃のご先祖さまの魂をさしおいて、 過去の肉体を媒介に復活しちまったんだ。それが歴史の連鎖だ」 その以前にも死神と対峙し、過去に飛んでは死に、蘇ったご先祖さま。 運命ってものが決められているものならば、 死ぬと解っているのに生きることには当然抵抗があったはずだった。 でも……ご先祖さまは諦めなかった。 なにより運命って言葉が嫌いだったらしいその人は、 自分の未来は自分で切り開くもんだって無茶を続けたらしい。 彰 「そこから、また死神が来訪する時期までを生きて、 来訪したら不安定な力で戦い、 敵わないと踏んだらもろともに転移して過去で自爆。そしてまた蘇生。 当時、まだ月操力を安定して使えなかったご先祖様は、 死神に対抗できる力がなかった。 だから自爆でもしなけりゃ倒せなかったんだろうな」 ミア「それも彰くんのお父さんから聞いたことなの?」 彰 「いや、死神との戦いのことに関しては、 俺が倉を掘り返して見つけた文献で調べたことだ。 歴史と伝統ある弦月屋敷には不思議がいっぱいさ」 月の家系が神と死神の魂を混ぜ合わせた存在っていう歴史があるように、 家系の名を連ねる者たちの歴史は長い。 倉を探してみれば、五十年前、百年前の文献などあっさり見つかる。 そんな中で見つけたのがご先祖さま……弦月彰利の日記だ。 ご丁寧に『アキトシメモルィ〜』と書かれたそれには、 彼が高校で死神と出会う前のことまでのことが記されていた。 タイトルとは掛け離れた黒い歴史だ。 両親が死ぬ……いや、自らの手で殺してしまうまではずっと地獄を見てきたとか、 ガキの頃はなんの力も無かったせいで、 役立たずと断ぜられて父親に半殺しにされ続けてきたとか。 中途半端に力を持っていたせいで、誰かのためにと走っては傷つき続けたとか。 俺が見つけた日記が何回死んだのちのものかは解らない。 それでも───俺が弦月として産まれてくることが出来た理由は、 ご先祖さまの頑張りにこそあるんじゃないだろうか。 彰 「もちろんその人も好きで続けたわけじゃない。 どっちかっていうと無理矢理続けさせられたんだ。 嫌なら蘇った時点で逃げちまえばよかったんだしな。 それでもその人は生きることを諦めなかった。……たったひとりの親友のためにね」 ミア「あ……」 なにかに気づいたかのように、ハッとする小娘。 その目が俺を見上げる。 ミア「その人……本当に『たったひとりの親友』だったんだね……」 そして、俺の目を見てそう言ってくれた。 さすがの小娘も解ったんだ。 たったひとりの誰かのために、 何度死んでも生きることを放棄しなかったその人の生き様が。 彰 「……ああ。俺はその人に似ているって言われたことを誇りに思ってる」 俺はそれが嬉しくて、照れ笑いを無理に隠すようにニカッと笑ってみせた。 ミア「すごいんだねぇ、そんな人が本当に居るんだぁ……わたし尊敬しちゃうよっ。 あ、ねぇねぇ彰くんっ。彰くんはその人のどんなところと似てたのっ?」 彰 「むっ! いい質問だ!」 待ってましたとばかりに胸を張る。 が、俺の股の間には小娘が居るので、 小娘の背中を胸で押すようなカタチになってしまった。 それでも小娘はどこかわくわくした顔で俺を見上げる。 彰 「聞いて驚け。俺とその人の似ている個所……それは顔と性格だ!」 ミア「………」 途端、小娘が凄まじく落胆したような顔をした。 ウゲェ……って顔だ。 ミア「ごめんね彰くん……。今の言葉でその人のイメージがグンと下がったよ……」 彰 「どういう意味かねそれは!!」 こやつ、言うことにどんどんと遠慮が無くなってきてますよ!? ミア「彰くんって格好悪くはないけど性格がヘンだもん」 彰 「正面きってなんてこと言うかね、この小娘は……」 ミア「それからね、わたしはずっとここで暮らしてるんだよ」 彰 「何の前振りもなく話を戻すなよ……」 結論を出しましょう。 『話した俺が馬鹿だった』。 だが話して聞かせる意味が俺には二つもあったんだからOKさ。 まず一つ。小娘に『たった一人の親友』の素晴らしさを教えること。 そして二つ目は─── 彰 「さあ小娘よ! 成長した姿を見せてもらおうか!」 これである。 ミア「うわ……まだ憶えてた……」 彰 「オウヨ憶えてたとも! さあ見せるのだ! 約束破ったらヒドイぞ!」 ミア「うぅ……先が長いことだからあまり見せたくないのに……」 馬鹿な約束したなぁ……と思わず漏らしてしまうくらいに見せたくないらしい。 だが約束は約束ぞ。こやつは確かに俺が話せば見せると言ったのだから。 ミア「じゃあ見せるけど……笑ったら怒るよ?」 彰 「大丈夫! 怒られたって笑ってやる!」 ミア「もうちょっとやる気の出る返事を返してよ!!」 それでもやる気はあるらしい。子供扱いされ続けるのが悔しいんでしょうかね。 立ち上がり、俺の股のあいだから離れ、数歩進んだのちに振り向いて俯く。 ガムでも踏んだ? と訊こうとしたが、 既に魔法の準備が始まっているようなのでやめといた。 大木に背中を預けたまま、小娘がなにかを呟き始めるのをのんびりと眺めていた。 なにを言ってるのかは聞き取れない。 聞き取れても、日本語ではないようで理解できやしない。 それでも理解しようと努力してみた途端に詠唱は終了。 光の点った指を動かして空中に何かを描くと、小娘はそれを弾けさせた。 ミア「───……どうかな」 彰 「ぬう!?」 空中に描かれる光にばかり意識をとられてた。 ハッと視線を動かせば、既に成長促進は終わっていたらしく、 小娘が立っていたそこには……───そ、そこにはァア……!! 彰 「ア、アワワ……!!」 キツくなった黒い服を邪魔っけそうに撫でながら、照れつつも我が反応を気にする…… とてもとても綺麗な青髪のおなごがいらっしゃいました……! え? も、もしかして小娘!? これが!? 彰 「えーと……小娘ですよね?」 ミア「だからどうして敬語なの?」 ビンゴだ……どうやら間違いないらしい……。 さらりと長く伸びた青髪に、綺麗に整ったプロポーション……。 どこぞのモデルみたいに自己主張しすぎてない控えめな綺麗さが、 困ったことにどこまでも眩しかった。 うわぁウソだろ……メチャクチャ俺好みじゃないですか……。 不覚にもこの彰、トキメいてしまっている……! ああ、この早鐘が如き胸の鼓動はなに……? 僕は……僕は恋をしているのか……? 座ったまま硬直している俺を見て、小娘は首をかしげながら言った。 ミア「あの、彰くん? どうかなって訊いてるんだけど……ほら、 笑うって言われてたのに笑われないのも複雑っていうか……」 彰 「結婚してください」 ミア「え? ───えぇっ!?」 あ、あれ……ノー違う! なに口走ってんだ俺! ちょっと待て! お待ちよ! 会って一週間も経たない相手に求婚!? 見えないわからない! 自分のハートの奥が、まるで深い霧の中を歩くみたいに見えないよ! ミア「あああ彰くん!? いきなりなにを───! け、結婚!?」 彰 「そそそそうだよねおかしいよね!? 今のなし今のなし! 僕たち友達だものね! 会ったばっかりだものね! いいのさそれで! 僕らの関係は───始まったばかりなのだから!!」 そして今日で終わる関係! それでいい! 今の俺がおかしいだけさ! いやでも……本気で綺麗ですこの人ってば。 まさかまだ学生の身分である自分の口から、 結婚してくださいなんて言葉が出るとは思わなかった。 これが……これが恋! 男としての本能! 心からトキメいた者のみが語ることが許される……ザ・ひと目惚れ!! ……でもマズイことになりました。よりにもよって、相手が小娘ってのが……! しかも告白しちまったよオイ。 小娘のやつ、そんなことは初めてだったのか真っ赤になって俯いてるし。 彰 「え、えーと…… とりあえず元に戻ってくれると助かるんだけど…………あのー、小娘?」 話し掛けても返事なし……もしや無視!? ああいやいや、なにやら必死に考え事をしているご様子。 ここは自分の心を落ち着ける時間を頂くという理由もかけて、 ほうっておくことにしましょう。 ミア「あ、あの……彰くん」 ほうっておきたかったのにほうっておいてくれなかった。 彰 「な、なにかね?」 なもんだから心を落ち着かせることも出来ないままに、どもりつつ言葉を返すハメに。 人間関係ってうまくいかないことばっかりだよね。 ミア「その、け、結婚したら……彰くん、地界に戻らないでいてくれるのかな……」 彰 「ホワッ!? ……ななななにぃいいーーーーっ!?」 彼女の言葉に仰天した! ……そしたら何処までも蒼い空が僕を向かえてくれました。 綺麗な青空……ああ、鳥が飛んでいるよ、風に身を任せながら鳥が飛んでいる……。 カタチが地界産の鳥とは明らかに違って、 なんだかモンスターに見えなくもないけど飛んでるよ……。 …………ふぅ、少しは落ち着けた、ありがとう青空と鳥。 そう、俺は帰るって決めたんだ。こんなところで小娘と暮らすわけにはいかぬ! 彰 「俺は嫌だぜ! 帰るって言ったら帰るんだい!」 何故なら俺には……地界でやらなきゃならないことがあるのだから!! でも心がトキメキまくってて困りますほんと! 助けてぇええ!! ミア「ど、どうして? 彰くん結婚してくださいって言ったでしょ? わたし、また独りぼっちになるくらいなら……」 彰 「バッカモォオオーーーーーーン!!」 ミア「ひゃあぅ!?」 だがしかし! 彼女───いやさ小娘の一言で俺は自分を取り戻せた!! 危ないところだよまったく! あのままだったらコロリといってたよ! 彰 「まったくけしからん! そんなだから貴様は小娘だというのだよ! この弦月彰! 自らを犠牲にすれば男がいうことを聞くと思っている女がなにより嫌い! ゆえに叫ぼうドチクショウ! さっさと元に戻りなさい! 小娘に戻るのです!」 じゃないとまたトキメいてしまうでしょう! ちくしょうやっぱ美しい! だからお願い僕を解放してぇええ!! 早すぎる! 僕にはまだ恋は早すぎる! まだ無垢な僕でいたい! ミア「……彰くんのばか……」 彰 「ぬ!?」 小娘がなにかを呟いた気がしたが、ハートがうるさすぎて聞き取れやしなかった。 はて……いったい? 彰 「惚れた?」 ミア「惚れてないってば! 惚れたのは彰くんのほうでしょ!?」 彰 「ソソソソンナコトナイヨ!? なに言ってるんだい小娘! おかしなことを言う小娘だなぁ! まったくもう小娘ったら!」 ミア「小娘小娘言わないでよ! ミアだって言ってるでしょ!?」 彰 「ギャアもういいから小娘に戻ってぇええ!! 僕に心の平穏をくださいお願いします!!」 冷静になどなれようはずもなし……そう、結局のところ俺は、 目の前の『成長した小娘』に心を奪われてしまったのだ。 不覚……! 不覚だけどカワイイ……! なんてこった……初恋がまさか小娘の成長した姿なんて……。 ミア「自分で見たいって言ったくせに……じゃあ戻るよ?」 彰 「あっ……ゲッ!?」 ミア「……? 彰くん?」 あ……って言葉とともに伸ばしかけたこの手はなに!? ち、違う違う違う! べつに惜しんでなんかないやい! 初恋の君と別れることくらい僕には平気なことさ! だから落ち着けマイハート! ……などと悶えているうちに小娘の変身は終了。 実に小娘なその姿を見たとき、俺の心にとても悲しげな風が吹いた気がしました。 さよなら、僕の初恋。 空を仰ぎながら小さく呟いた言葉が風に流されてゆく。 そよぐ風は緑の香りと綺麗な空気と小娘の香りを運んできて───って、 彰 「あのー……小娘? なぜに再び俺の足のあいだに座るの?」 ミア「そんなことは気にしなくてもいいの。ほら、もっと話続けよ?」 気にするなって言われてもな。ついさっきまで俺好みであったおなごがすぐそばに。 そう思うだけで……不思議とトキメかん。 もしかして俺の中で彼女と小娘は完全に別人として認識されたんだろうか。 ならよし、むしろよし。小娘を見て赤面したりなんてしたら、 目の前の後頭部にどれほど馬鹿にされることか。 はぁ、とため息を吐いて、全体重を大木に預けた。 それに習うように小娘が俺に全体重を預け、くすくすと笑っていた。 ───……。 ミア「くー……すー……」 彰 「……で、なんで人に体預けて寝ますかね……」 体預けて、なんて……いやん、イケナイ響き♪ 彰 「じゃなくてだな……」 くそう、どうしてくれようか。 俺だって眠いんだぞこのチンチクリンさんめが。 なんて、小さくぼやきながら、緑が芽生えた大木を見上げてみる。 枯れ木じゃなくなったってだけで、寿命が延びたわけではないその木を。 もしその時が来て、木が枯れたら……こいつは泣くだろうか。 彰 「いや、泣かないな。想像できねぇもん」 こいつには怒り顔が似合ってる。 最初見た時の寂しげな顔よりもよっぽど似合ってる。 まあ、人間誰しも笑ってる方がいいんだろうけど。 彰 「気持ち良さそうな顔で寝ちゃって、まあ……」 こんなに無防備に寝られちゃあイタズラしたくなるじゃないですか。 彰 「クリエイション」 スッと右手を持ち上げてイメージを弾かせる。すると右手に創造される縄。 それで小娘をぐるぐる巻きにして……フオオ、起こさぬようにやる緊張感がたまらん!! 苦しくて起きないよう、 しかし緩すぎて外れないよう、微妙なバランスで巻いてゆくのだ。 で、巻き終わったら大木の枝に普通に吊るして、と。うむ、ミノムシの完成だ。 ステキだ……ステキすぎる。 逆さ吊りじゃないのはミノムシだからということで。 ミア「う……いた……?」 ミノムシ状態の小娘を眺めつつ、 うんうんと頷いていると、みじろぎをしてゆっくりと目覚める小娘。 自分の状況がつかめていないのか、 キョロキョロと辺りを見渡しては疑問符を飛ばしている。 おお、これは是非からかってやらねば。 彰 「目覚めたな、魔王ミノムシャーテ!! 世界の平和のためにオイラがやっつけてやる!!」 ミア「え……あれぇっ!?」 ミノムシ状態の小娘は状況に悩んでいるようだ。 まあ俺だって、目覚めたら吊るされてミノムシ状態でした、なんて状況になったら戸惑う。 しかし小娘は、フェンシングポーズで小枝を構える俺を見て、 心底呆れたように我が名を吐き出しつつ、ぶらぶらと揺れていた。 彰 「儀式じゃあーーっ!! 生贄を捧げる儀式の開始じゃあーーーっ!!」 ミア「生贄って……さっき魔王がどうとか世界平和がどうとか言ってなかった?」 彰 「知らん! 大人しく生贄になりなさい!」 さて! 生贄の儀式といえば焚き火だよね!! まずは枯れ枝を集めなきゃなぁ。 ミア「……はぁっ……! せっかくいい気分だったのに……!! 今回はちょっと本気でカチンと来たかなっ……!!」 小娘がなにかを言ったが、今はそれよりも枯れ枝だ。 枯れ葉でもいいんだが…… ミア「あ〜き〜らくんっ♪」 彰 「なんぞね! 今忙しいから後に───あれ?」 ふと振り向くと、そこには自由を手にして光弾を溜めてる小娘がおりました。 ……幻覚? 彰 「えーと……なんで降りてんの? ちゃんと縛ったのに」 ミア「そんなの魔法で切り刻んだよ……」 彰 「ぬおお……じゃ、じゃあなんで光弾溜めてんの?」 ミア「それはねぇっ……!!」 あっ! 嫌な予感!! 逃げなきゃだめだぜエマージェンシー!! ミア「彰くんに罰を与えるためだよぉーーーっ!!」 彰 「やっぱりぃーーーっ!!!」 言うや否や放たれた光弾。 俺は全速力を以って逃走を謀ったが─── ものの見事に光弾をくらい、気絶したのでした……。 ───……見慣れないのは当然だが、 今まで入ったどの部屋よりも綺麗な部屋で目を覚ました。 ふかふかのベッドに、なにやらいい香り。 とりあえず寝たままなのもなと上体だけを起こして辺りを見渡す。 とくに飾り気もない部屋だったけど、 どこだろうかと考えるより先に、ああ、ここは小娘の寝室かと理解した。 で、何故俺がこんなところで目覚めたのかといえば…… 売り言葉に買い言葉というわけでもないが、 散々とからかった結果として気絶させられた俺は、どうやらここに運ばれたらしい。 誰に、と訊くのは無粋だろう。どうせここには小娘しか居ないのだから。 そうなれば、ここが小娘の部屋だって理解するのも早い。 ただ解らないのが、どうして傍に居る小娘が俺を睨んでいるかってことなんだが……おお。 彰 「睨むな。俺が気絶したのは貴様のせいであって俺のせいじゃない」 頭を掻きながら窓を見やれば、その先は真っ暗だった。 ようするに俺はたっぷりと気絶していたようで、今は既に夜。 約束の時間を目の前にして、ようやく俺は気絶から回復したってことだ。 ミア「だって彰くんがわたしのことからかうから!」 彰 「お馬鹿! 冗談を冗談として受けとめられずに、 よくもまあこの俺さまを『たったひとりの親友』にしたいなどとほざけたものだな! それは誉めてやる!」 ミア「そんなことで誉められたって嬉しくないよ!」 正論だ、俺だって嬉しくないし。 それでも言わなきゃいけないことは言おうと、一息吐いてから切り出した。 彰 「……しっかし、わりとあっけない幕切れだったな」 それは終わりの言葉だ。 俺から言わないと、小娘はいつまで経っても切り出さない気がしたからだ。 事実、言われた途端に小娘は黙り込んだ。 黙り込んだまま、チラチラとこちらの様子をうかがってきているのだ。 まるで叱らるとわかっていながらも言いたいことがある子供のようだ。 けどこのままじゃいけないって思ったのか、やがて口を開いた。 ミア「あ、の……その。彰くん……やっぱり……帰りたいの?」 ひどい顔だった。 怯えてるって言葉が似合いすぎている。 こんな俺と別れるのを嫌がっての表情がこれか? ……やっぱり、孤独ってのは怖いもんだよな。お前ほどじゃないけど、解るよ。 でも……やっぱりだめだ。 彰 「当たり前だ。今まで暮らしてた場所をそうそう捨てられるかよ。 ……ま、テストで失敗して留年決定を下されて、 しかも家から追い出されたりしたら……考えてもいいかな」 ミア「そんなに条件がいっぱいじゃあ、叶うわけないよ……」 彰 「叶ってたまるか馬鹿! 留年なんて冗談じゃねぇぞ!?」 叫びながらも、小娘を気遣っている自分に気づく。 冗談じゃねぇと言いながら、 わざと小娘がつっかかってきやすい状況を作ろうとしている自分が居る。 そんな自分に気づいたら、もうだめだった。 ……さっさと帰ったほうがいい。 これ以上こいつの……同じ孤独を持ったヤツの近くに居ると、俺が俺じゃなくなる。 今まで作ってきた自分が、全部剥がされてしまう気がする。 彰 「はぁ……まあ、いいさ。最後だし、多少の無礼も大目に見るわい。 だから、さよならだ。さっさと送り帰せ」 ミア「………」 小娘は、きゅっと本を抱き締めると、辛そうな顔をした。 そんな様子をため息混じりに見て、俺は言う。 彰 「約束だろ?」 その言葉に、小娘の肩が小さく跳ねた。 視線をうろうろと動かして、何処ともとれない場所を見たまま、口早に言葉を放ち始めた。 ミア「あ、あのさ、彰くん。 夜っていってもまだまだ時間があるしさ、今度はなにしよっか」 彰 「……小娘」 ミア「そうだ! わたしの書庫に案内してあげる! 面白い本がいっぱいあるよ!? 一緒に見ようよ!」 彰 「小娘」 ミア「そしてさ、そして……ずっとずっと話そうよ……! 喧嘩でもいいから……叩いてくれてもいいから……!」 彰 「ミアッ!!」 ミア「ひうっ!!」 今度は大きく。 小娘の肩が跳ね上がった。 彰 「俺を、地界に戻せ」 そんな小娘に、区切るように言ってやる。 けど、小娘は首を横に振った。俺の顔を見ないままに、本をぎゅっと抱き締めながら。 ミア「やだ……やだよ……。喧嘩友達でもいいから……。 やっと心を許せる人に会えたのに……わたし、彰くんともっとお話したいよ……! もっと……『楽しい』の中に居たいよぅ……!」 気持ちは解る……解るけど、だめだ。 俺にはやらなきゃいけないことがあるし、 親父たちになにも言わないまま行方不明になるわけにはいかない。 彰 「だめだ」 だから言った。湿っぽいのは好きじゃないのもある。 けど、小娘のためにこそ即答した。 そうしたら『なんてことを言うんだろうこの人は』って顔で驚かれ─── ここにきて、ようやく目が合った。 ミア「な……なんで!? 彰くんは寂しくないの!? 戻っても孤独なんでしょ!?」 彰 「ああ、そうだな。『たったひとりの親友』のことだって、 親父がじいさんに教わったことを俺に言っただけだ。 俺にもそんな親友、居やしない」 ミア「だったら……」 彰 「だから探すんだろ? 幸い、俺はまだ二十歳にもなってないクソガキャアだ。 人とぶつかる機会はいくらだってあるだろ。だから帰るんだ」 小娘は俺の言葉を取りこぼさないように真剣に聞いていた。 が、その顔はやっぱり寂しそうな顔でしかなかった。 ミア「止めても……だめなんだよね?」 彰 「当たり前だ。貴様がなんと言おうが俺は帰るぞ」 俺の言葉に顔を俯かせ、目をぐしぐしと拭う小娘。 ……俺のほうはどうだろう。寂しいと思っているか、 と自分自身に訊いてみるが……答えなんて返ってきたりはしなかった。 ミア「じゃあ……これ、持ってて」 彰 「ウィ?」 小さな水晶玉のようなものが手渡された。 小娘が首から下げていたそれは、 蝋燭の光を受けて赤と水色を混ぜたような色に輝いている。 彰 「なんだ、これ。プレゼントかなんかか?」 ミア「うん……それを持って、もう一度ここに来たいって思えば……来れるから」 彰 「どうせ使わねぇぞ?」 ミア「いいから、持っておいて……」 『一生のお願いだ』とでも言うかのように真剣な目を見ていると、 さすがの俺も断れそうになかった。 だからしっかりと受け取り、ここらで一息つく意味も込めてこう言った。 彰 「解った。地界に戻ったらさっそく『質屋』に流して金にしよう」 ミア「なっ───そ、そんなことしたら絶対に許さないよ!? ウソつきになってでも彰くんを帰さないから!!」 彰 「なにぃ!? そ、それは困る! ていうか質屋知ってるのかね!?」 ミア「空界にだってそういうのはあるよ!」 な、なんてこった……知らないと思ったから言ってみたらこれだ……。 危ない危ない、もう少しで帰れなくなるところだ。なにせ目がマジだ。 でも多少は元気が出てくれたようで、よかった。 やっぱりこいつには怒った顔でもいいから、元気なのが似合ってる。 ミア「はぁ、絶対だよ? 絶対に無くさないでね?」 彰 「御意」 ミア「ん……それじゃあ、ついてきて」 かと思えばまた沈んだ顔に戻り、小娘は部屋をあとにした。 覚悟が出来たってことだろうか……その真意は俺には解らないが、 俺もベッドから降りて、そのあとを追った。 暗い屋敷の中を歩く小娘の後ろ姿を見ながら、ゆっくりと。 ……つくづく思う。 夜になったらなにも見えないような場所で一人きりなんてと。 俺がもっと自由だったら、こいつと一緒に居てやれただろうかと。 考えてもみよう。地界に戻ったとして、俺にはなにがあるだろうか。 高校を卒業したら好きに生きろだの家を出ていけだの言われてる俺だ。 地界に戻って、高校卒業して一人立ちしたところで…… あの親父のことだ、俺になんの期待も持ちはしないだろう。 だったらこのままこいつと───……いや、だめだな。 俺には守らなきゃいけない場所がある。 彰 (はぁ……驚いたねまったく。俺が他人の心配かよ……) ここに来るまでの自分じゃ考えられないことだ。 散々と周りから嫌われ、人はそういうものなんだって決め付け、 そのくせたった一人の親友に憧れてた俺が…… 小娘をほうっておきたくないって思ってる。 割り切っちまえば一緒に居てやれる。 俺だってここまで遠慮なく言い合えて、 それでも互いに嫌ってない相手なんて初めてなんだ。 出来ることならこいつこそを親友にしたい。 男女の友情が有り得るかなんてのは知らない。 けど……困ったことに、俺はそうなりたいって思ってしまっている。 これって惚れた弱みか? いや、惚れたのは成長したほうだし。 彰 (……いや、小娘も覚悟を決めたから進んでるんだよな。 だってのに言いだしっぺの俺がこれじゃあだめだ) 後ろ髪が引かれる思いのままに歩き続けた。 暗い中を、小娘が持つ蝋燭の灯火を頼りに。 大きな帽子をゆらゆらと揺らしながら歩く小娘は、 今どんな顔をしているんだろうか。 吹っ切れてるか、それともやっぱり暗い顔のままなのか。 明かりを頼りに覗いてみようかとも思ったが…… それをする前に、小娘が歩みを止めた。 つまり……目的の場所に辿り着いたのだ。 彰 「……ここは」 そこは、俺が召喚された儀式の間だった。 小娘は俺が漏らした声なんて聞こえなかったのか、 半ば走るように部屋に入り、部屋の中心に魔法陣を描き始めた。 ヤケクソになってるのかもしれない。 ミア「……ねぇ、彰くん」 彰 「ん、ああ……なんぞね」 魔法かなんかで、床に魔法陣の線を焼きつけていた小娘が声をかけてくる。 ミア「怒らないで聞いてね、ほんとにこれが最後だから。 ……地界に帰らないで、空界に居てくれないかな」 彰 「だめだ」 即答。こればっかりは、どれだけお願いされても頷くわけにはいかない けどそれは心の準備が出来ていたからだ。 なにも考えずにここに辿り着いていたら、俺はきっと答えを迷っただろう。 ミア「あははっ……うん、彰くんならそう言うって思ってたよ」 彰 「会って三日しか経ってないってのにか?」 ミア「彰くんって掴みどころがない人だけど、やることとかはなんとなく一定だもん。 案外、行動とか読みやすいかもしれないね」 ……よく見てるなって、素直にそう思った。 けど、それも終わる。 たった今繋がった線が終着だったのだろう、 描かれていた魔法陣が鈍く輝き始め、緑色の粒子を飛ばし始めた。 その中心に小娘は立っていて、 さっきと同じように俺と目を合わせないままに言った。 ミア「じゃあ……彰くん。魔法陣の中心に立って」 ああと返事を返し、促されるままに魔方陣の中心に立つ。 入れ替わりに、 俺と目を合わせようともせずに擦れ違い、魔法陣の外に出る小娘。 そんな仕草が気になって、俺はとうとう訊いてみることにした。 彰 「そんで、何故に貴様はさっきから目を合わせようとしないのかね」 ミア「……ほっといてよ」 声が震えていることを察して、それ以上の追求をやめた。 知りたがりは長生きしないっていうしな。 ───だから多分、俺は長生きしないだろう。 彰 「はは〜ん? さては小娘、俺との別れが寂しくて泣いてるんだな?」 ミア「我導くは光、我誘うは闇、我彷徨うは時空の歪み。 希望を糧とし、生きる者を身に置くことで存在する時空よ、 我が願いを叶えたまえ……」 ……小娘よ、完全無視はヒドイんじゃないか? それに、せめて前振りくらいしてから詠唱を開始しようよ。 雰囲気は大事ですよ〜? とか思ったけど、俯いた小娘の立っている石床に水滴が落ちるのを見たら、 言えるわけも───あった。 彰 「馬鹿野郎! なんの前振りも無しに始めるとは何事か! 貴様、それは雰囲気を愛する俺に対する挑戦かね!?」 人に気を使うほど、人間が出来ている俺じゃない。 それに……友達になるってことを頷いた。 だったら涙のままの別れなんて冗談じゃない。 ミア「彼の者の居るべき場所はここにあらず、 彼の者が彼の者の住まうべき世界へと戻る光をここへ───」 小娘は俺の話を完全に無視して、魔術の本を読み上げている。 ───が、こぼれる水滴は止まない。 そしてその水滴が魔法陣の端に落ちたとき、魔法陣から光が溢れ出した。 そういえば、学校の図書室に行こうとしてた時にこんな光に包まれた。 つまり、これで本当にさよならってことに……なるんだよな。 ミア「───ねぇ、彰くん……」 詠唱はもう終わったのか、小娘が俺の名を呼んだ。 ミア「さっき、怒りながらでもわたしのこと……名前で呼んでくれたよね」 彰 「む……まあ、な」 ミア「もう一回、今度はちゃんと呼んでほしいな。怒鳴りながらじゃなくて」 彰 「遺言はそれでいいか?」 ミア「えぇっ!?」 彰 「いや違う! 『別れの言葉はそれでいいのか?』だ! うわ、素で間違えちまった! キャアア恥ずかしィーーーッ!!」 俺は眩い光の中で、恥ずかしさのあまりに奇妙に頭を振った。 それが可笑しかったのか─── ミア「くふっ……! ぷくくく……! あはははははは!!」 小娘は光の向こうで腹を抱えながら笑った。 ……なんでしょう、この切ない気持ち。 これはそう、まるで……親に教わったウソを信じ、 知人に話したら大恥をかいたあの時のよう……! ……そんな風に、小娘の笑顔をみていたら……俺の調子も戻ってきてくれた。 即席だけど……やっぱり友達ってのはいいもんだ。 彰 「おのれ小娘! 人の間違いを笑うなど、人のすることじゃねぇぞ!?」 ミア「ふーんだ! 彰くんだってわたしのこと散々馬鹿にして笑ったもん! だからこれで、おあいこだよー!」 『んべー!』と舌を出して俺を挑発する小娘。 俺はその態度に何かを言い返そうとしたが、 ポンと投げられた何かを受け取ったことで、出かけた声は戸惑いの声で終わった。 彰 「小娘?」 ミア「わたしにはもう必要無いと思うから。彰くんにあげるね」 俺の胸に投げられたモノ。 それは、小娘が大事そうに持っていた魔術書だった。 彰 「いいのか?」 ミア「うん。使い道なんて無いと思うけど、彰くんに持っててほしいから」 彰 「そかそか。くれるなら大体は頂くぞ俺は」 水晶玉を首に下げ、本を小脇に抱えるようにして持った。 それを見た小娘は『うん』と頷いて微笑む。 その目からはやっぱり涙がこぼれていたが───まあ、いい笑顔だったから。 俺も初めて小娘に心からの笑顔を見せて、口を開いた。 彰 「そんじゃあな。なんだかんだといろいろ……無かったが、まあ楽しかったぞ、ミア」 魔法陣がいよいよといったふうに輝きを増す。 見えていた景色は真っ白に染まっていき、その中でミアが何かを叫んでいたが…… それも『空間』という光に遮られ、俺に届きはしなかった。 やがて俺の視界も光に遮られ───その全てが真っ白に染まる。 そして……次に目を開けたとき、俺は見慣れた景色に立っていた。 Next Menu Back