───冒険の書80/清水国明の一日(再)───
【ケース264:清水国明(再ラーグのお姫さん)/シケルペチム愛】
人生は夢である、という言葉がある。
ああ、もちろん俺の言葉などではないし?周りを走る二人のクラスメイツの言葉でもない。
ただその言葉は確かにあり、
俺は───というよりむしろ田辺がそうであってほしいと願うのが現状。
己の脚に、それこそ命をかけて走る田辺と、それに連れ添って走る俺達は、
見事に夢の中を延々と走り続けるピエロのように見えることだろう。
あるいはガラガラ回転し続ける、
名前は忘れたがハムスターあたりが延々と走るあの物体を延々と走らされている、
どこぞの奴隷のようにも見えるだろうか。
清水 「くっそぉおおおおお!!!戦争なんて大嫌いだぁああ!!」
岡田 「疲れないって素晴らしいなぁちくしょう!!」
田辺 「戦争のお蔭でレベルが一気に120まで上がったけど、
それでも戦争の所為で走るしかないなんてなにかが間違ってる気がしてならねぇ!
120じゃ足りねぇよぅ!もっとステータスが欲しい!!ヌッ!?」
田辺が突然驚愕!無理も無い!
突如としてモンスターがブワァッ!!と出現したのだから───!
田辺 「ダンターク流究極奥義ぶちかまし!!」
バゴシャォオンッ!!!!……バラバラバラ……
バンブルビー(蜂型モンスター)がタックルでバラバラに砕けた。
田辺 「バカヤロー!何処見て飛んでやがる!!
余所見してっと怪我だけじゃ済まねぇんだぞ!!(俺が)」
清水 「……怪我しても回復するしなぁ」
岡田 「可哀相に……ただ現れただけでぶちかまし殺されるなんて」
ナギー『おぬしらもっと早く走れぬか?ロドが退屈しておるのじゃ』
シード『父上たちはルルカよりも速く走れたぞ?それを見習え、人間』
総員 『無茶言うなコンガキャアーーーーーーッ!!!』
提督軍は既にバケモンの集まりです!今俺達が決め付ける!
そしてこれは我らのブレイバーとしての決定だ!誰にも文句は言わせん!!
ルルカより速い人間なんて、ゲームシステム完全に無視してるじゃん!!
……や、そりゃあ金払ってルルカに乗るよりは無料で、
しかも疲れるわけじゃないんだから経済的でいいんだろうけど。
清水 「す、すまんが何かステキな力をくれまいか!!
聞けばキミたち、獣人たちに癒しの加護と力の加護を送ってたらしいじゃない!」
シード『人間はすぐに人の力を当てにする……そこが嫌いなんだ』
清水 「ギ、ギィイイーーーーーーーッ!!!!」
どうしろというのでしょう。
そりゃあ力を当てにしたのは確かだが、こちとら田辺の命がかかっているのだ。
なんにだってすがりたくなるのは仕方の無いことだと思う。
ナギー『そう邪険にするものではないのじゃ、シード。
わしらはヒロミツに頼まれてこの者たちに付いてやっているのだぞ?
多少の力を貸すことくらいはヒロミツも望むところだろうよ』
清水 「おお!それじゃあ!?」
望むところだろうよ、などとやはり老人のような言葉を放ちつつ、
無い胸を精一杯張って踏ん反り返っているドリアード。
どうやら彼女は胸を張るのが好きらしい。
一方の魔王さまは小さく俯いたのちに、
『それが父上の望むものならば』と不承不承に頷いていた。
ナギー『……ふむ?そういえばおぬしらにはまだ癒しの加護を渡してなかったかの?』
清水 「加護?あー、そういや……」
元々そのために提督たちを探してたんだっけ。
ごたごたの所為ですっかり忘れてた。
ナギー『欲しいか?欲しいのならやらんでもない。なにせヒロミツの知り合いじゃからの』
清水 「………」
なぁ提督よ。
何故この自然の精霊さんは貴様にここまで入れ込んでいるのですか?
どういう感じで出会って、どんな風に攫えばこんな風になるのか是非聞いてみたいもんだ。
清水 「じゃあ、頼む。あとステータスとかを一時的に向上させるものとか───」
ナギー『そう焦るでない。焦りはのちに起こる出来事を悪い方向に進ませるだけなのじゃ』
田辺 「命かかってりゃ焦りもしますが……」
田辺はもう冷や汗満載な顔をしていた。
…………、と、そんなこんなで我らはドリアードより癒しの加護を受け取り───
さらに魔王様との合成魔法によって身体能力向上。
飛翔する黒ルルカよりは劣るものの、それでも速く走れるようになった!!
岡田 「フハハ……軽い!!重りを外したら……体が軽いぞお!!」
清水 「重りなんてしてたっけ?」
ナギー『すごいだろすごいだろ!わしにかかればこんなものなのじゃー!!』
清水 「……時にドリアード。何故に『だろ』とかなんとか語尾が妙に荒れてるの?」
ナギー『?おおそれか。よく解らんのだが、
ヒロミツが“そうした方が三千院のお嬢さまっぽいから”、とか言うのだ』
清水 (……なるほど)
岡田 (ナギー……ナギーね)
田辺 (さすがだ、提督……)
僕らはきっと、思考の中で大いなる勘違い帝国を築き上げているのだろう。
だが、誰がそれを勘違いだと断定できるだろう。
だって相手はあの提督だ、
彼が最初っから彼女を三千院のお嬢様に改造するために攫ったと考えてしまっても、
それは然程おかしくないだろう。
だって原中だし、そこの提督だし。
……はてさて、そうして微妙な思考に決着をつけたところで。
そろそろ答えをもらってもいいだろうか。
清水 「ドリアード。アンタはどういう経緯で我らが中井出博光提督と出会ったんだ?」
ナギー『なんじゃ、藪から棒に。あれはわしが自由になった瞬間の大事な思い出じゃ、
いくらヒロミツの知り合いでも教えるわけにはいかんのじゃ』
清水 「む……そか」
ナギー『じゃ、じゃがまあその……どうしてもというのなら話してやってもいいがの?
そ、そうかそうか聞きたいか、それほどまでに聞きたいのなら仕方ないのじゃー』
清水 (………)
岡田 (……滅茶苦茶話したかったようにしか見えないんだが)
田辺 (なるほど、こんな娘ッ子が傍に居ちゃあ、寝ようにも眠れねぇよなぁ……)
それから僕らは延々と提督と彼女の出会いを、
事細かく何処までも鮮明に話して聞かされることとなりました。
その話がもうほんと、
彼女の思考やら提督の思考(捏造率2千万パワー)やらが奇妙に織り交ぜられ、
夢見がちな少女がマジで夢見る勇者と姫の出会いを捻じ曲げて伝える伝奇ホラーだった。
や、ホラーの部分は木村が関わっている故らしいのだが。
どんな遊びを教えてもらい、どれほどの遊びをともに行い、どれほど憎んでいたかも、
しかしどれほど好きになれたのかもも鮮明に話してくれやがりました。
しかも感情が高ぶると同じところの話を何度もするのだ。
ナギー『命を賭してわしを助けに来てくれた時、わしは思ったのじゃ……。
きっとヒロミツはわしの白馬の王子様なのじゃと……』
総員 『バッファアッ!!!』
ナギー『?どうしたのじゃ?』
思わず噴いてしまった。
白馬に乗って白タイツやらカボチャパンツやらを装備して、
颯爽と現れる提督の姿を思い浮かべた故に耐えられずに少々開いた口から、
霧状の汁が飛び散った。
だって提督だぞ?
あの人と白馬をどう織り交ぜれば王子様に至るというのだろう。
どっちかっつーと絶対に蛮族だの盗賊頭あたりが合ってそうだが。
や、それより凡兵か?
どちらにしろ俺達って人の上に立つガラじゃないんだよな。
だからこそ王族とか嫌いだし、提督以外の人を奇妙に崇める気にもならんし。
提督はリーダーっつーよりは原中代表、って雰囲気なんだよな。
や、それがリーダーって意味ならそれ自体を否定するつもりは一切ない。
ヤツと一緒に馬鹿をやるのは我らの最高の楽しみである。
しかしそんな彼が白馬……白馬の王子様って……!!
清水 (ブハッ……!ボホッ……!!)
岡田 (ばっ……馬鹿耐えろっ……!!ここで笑ったりしたら鉄槌が落とされるぞ……!)
田辺 (けどよっ……!マジで辛ボホッ!!くふっ……クッフッフッフ……!!)
やはり提督と一緒に居ると退屈だけはしないのだろう。
なにせ、この場に居ないっていうのに人を笑わせてくれるのだ。
いっそ思い切り笑えないことが拷問になりつつあるが。
ナギー『あれはきっと恋する目なのじゃ!ヒロミツはわしにぞっこんなのじゃ!』
清水 (ぞ、ぞっこブホォッ!!)
岡田 (ところどころに世代の差を感じる発言がボッホォ!!)
田辺 (だ、だめだ……!疲れないとはいえ、笑いを堪えながら走るのは辛すぎる……!)
ナギー『……もちろん冗談じゃぞ?人と精霊との間なぞに恋なぞ芽生えないのじゃ』
総員 『冗談ッスカ!?』
なんたる大どんでん返し!!
……ところでどんでんってなんだっけ?
昔調べた覚えがあるんだが、思い出せん。
ナギー『おぬしらのコロコロ変わる表情、見ていて面白かったのじゃ。
ヒロミツに“出会いの経緯を訊かれたらこう言え”と言われたが、なるほどの。
こういった反応を楽しむのが“ハラチュー”なのじゃな?』
清水 「ぐっ……!!提督の差し金か!!」
岡田 「道理で妙に手の込んだ壮大なストーリーだと……!!」
田辺 「妙に物事が事細かに纏められてるところからして気づくべきだった……!!」
シード『浅はかだな。まあ、父上の描いたシナリオが、
空想とは思えないほどによく出来ていた故なんだろうがな』
清水 「グ、グウウ〜〜〜ッ!!」
まんまとハメられたっ……!!
この、この原中の清水ともあろうものがっ……!!
子供の純粋さに騙された……っ!
なんとか言い訳を…………っ!
がっ……ダメっ…………!
失敗…………!痛恨の失敗………………っ!
岡田 「カスっ」
田辺 「ゴミっ」
岡田 「クズ……っ!」
清水 「俺だけ悪いみたいに言うなぁああ!!
お前らだってものの見事に騙されてただろうが!!」
シード『うるさいぞお前ら、ギャーギャー喚くな』
清水 「ち、ちくしょう!この子供さんとってもムカツキます!サー!!」
だがその強さは計り知れない!!
今の我らではきっとダメっ……!!
それが解っているからか、
岡田と田辺も何も気にしない疲れた中年男性のような顔をしつつ全力で走るのみで───
もはや何も言わなくなっていた。
……そうだね、そうしようか。
───……。
……。
その後我らはおよそ4時間をかけて、
ほぼ出発地点の裏側にあるのではなかろうかと思うほど
遠い場所に位置するシヌラウマに到着。
清水 「うう……すっかり暗くなっちゃってまあ……」
田辺 「篠瀬さーーーん!!篠瀬さん!?何処ォーーーーーッ!!?」
岡田 「田辺の心の重圧も限界だな……余裕が完全に無くなってる」
そりゃなくなるだろ。
ナギー『ふむ……?おぬしらはヒロミツのように通信能力は持ち合わせておらんのか?』
清水 「お、おお〜〜〜、そうだ〜〜〜〜っ!!俺達にはそれがあった〜〜〜っ!!」
田辺 「早速tellゴー!!tell:篠瀬夜華、と……!!もしもし!?」
声 『…………あ、あー……お、おい、また声が聞こえてきたぞ……?
こ、これはどうすればよかったのか……すまない女、教えてくれないか?』
声 『女、じゃなくて桐生真穂だってば……えっと、もしもし?誰ですかー?』
田辺 「も、っ……ハァ、ハァ……!もし……もし……ハァ……ハァアア……!!」
声 『……悪戯電話だね、切っていいよ』
ブツッ……
田辺 「ホゲェーーーーーーッ!!?」
清水 「なにやってんだばかっ!!テルしといてハァハァ言うだけなんて、
どこぞのストーキンマスターかてめぇ!!」
田辺 「しょしょしょしょうがないじゃないかぁ!!
自分が死ぬってプレッシャーでもう僕は大変ですよ!?死んだもんじゃねぇや!」
岡田 「よし、次は俺がかけるわ」
清水 「頼む。こいつじゃダメだ」
田辺 「し、失礼な!!」
岡田 「tell:……っと、桐生が一緒に居たなら桐生にかけたほうが良さそうだな。
tell:桐生真穂、っと。もしもーし?こちら岡田省吾ー」
声 『もしもし岡田くん?どうかした?』
岡田 「貴様ら今どこぞに居る?
こちら、篠瀬さんに命を賭して届けなければならんものがあるんだが」
声 『いきなり物騒だね……』
岡田 「すまん、マジで田辺の命がかかってるんだ。
時間がないのですぐに教えてくれるとありがたい」
声 『なんだってそんな事態に……ああそれはいっか。
えっとね、今わたしたちはエトノワール城下の道具屋に───』
総員 『中井出ぇえええっ!!てめぇえええええええっ!!!!!』
やられた!!本気で騙された!!
アノヤロウ、元々田辺を生贄にするつもりだったのだ!!
おのれなんて時間に厳しい面白ェ罠にハメやがる!!
俺も提督側だったら間違い無く実行してた!!
清水 「ど、どうする!?残り3時間でエトノワールに戻るなんて無理だ!」
岡田 「い、いや!落ち着こう!
ここにルルカがあるのだとしたら、2時間で帰ることも夢じゃあねぇ!!」
田辺 「ボクハコノセカイガダイスキデシタ……」
清水 「ヒィ待て!!首吊るのはまだ早い!───い、いや!遅くても吊るな!!
ルルカ牧場があればなんとかなるんだ!まずはそれを探そう!!」
こうして僕らのルルカ牧場探しが───
声 『───って、言ってくれって提督さんに頼まれたんだけど。
実際はシヌラウマの宿に居るよ?』
ドグッシャゴワシャシャシャァアアアアンッ!!!!
総員 『ギョアァアーーーーーッ!!!!』
盛大にズッコケることで幕を閉じた。
しかもズッコケたすぐそこの建物が宿屋だったのだ。
これではあまりにも報われるのか報われないのかわからない。
……ちなみに。
先ほどのズッコケがどれほどのものだったのかは───
遠くの方まで吹き飛んだポリバケツの蓋が物語っている。
清水 「よく……飛んだな……」
岡田 「そうね……」
田辺 「ほんとそう……」
我らは遠い目をしつつ、宿屋のドアを開けたのだった。
───……。
……。
カランカラン……♪
遥一郎「あー……いらっしゃい」
清水 「へー、入ってすぐの場所は食堂になってるのか」
岡田 「軽いレストラン気分だな」
田辺 「そうだな。なんとなく、パーティーメンバーの所為で借金した誰かさんが、
汗水流して働いてそうな雰囲気があるよな」
清水 「ああそうそう。しかもその借金した張本人はどっか別のところに行ったりして」
まあなにはともあれまず座ろう。
俺達は適当な場所に座り、
メニューを見ながら店員さんが置いてくれた水をグイッと飲んだ。
遥一郎「……ご注文を」
清水 「えーと……ワカメとサラダのパスタセット。コーヒーで」
岡田 「俺も」
田辺 「俺もそれでいいや」
遥一郎「……コーヒーは食後にお持ちしますか?」
清水 「食後で」
遥一郎「ご一緒に八稚女はいかがですか?」
岡田 「やをっ……!?い、いえ、結構です……」
遥一郎「そのまま死にますか?」
田辺 「し、死にません……」
ズシーンズシーン……
注文を取ると、店員さんは去っていった。
清水 「……ツッコんでやるべきだったんカナ……」
岡田 「いや……これで……よかったんじゃよ……」
田辺 「そう……これでな……」
ナギー『騒々しいのぅ。もう少し静かに出来んのか?
おお、わしはこのオムライスが食べたいのじゃ』
シード『僕はこのワカメグラタンというのが食べたい』
清水 「すまんが経費は提督から落ちないと思うので貴様らの注文は却下とする」
ナギー『ケチなのじゃー!ヒロミツはなんでも買ってくれたのじゃー!!』
シード『底が知れるぞ、人間』
岡田 「うるせー!!俺達ゃ日々を極貧に過ごしてんだよ!!
そう!全ては武器のため!アイラブ武器!!
男が己の武器に全てを託してなにが悪い!!」
ナギー『その割には+が100も行ってないのじゃ』
シード『貧弱だな。父上は150近くあるぞ』
岡田 「だから提督軍を基準に物事考えるのやめれ!」
───さて。
俺達が料理を注文し、程無くして───その場は喧噪に包まれることになった。
提督軍はいっつもこんなにまで騒ぐ子供らと一緒に居たのかと思うと、
少々同情してしまう次第だ。
だがそれもいつしか慣れていったのだろう。
そうでもなければあんなに熱心に助けようなどと誰が思うだろう。
や、純粋に楽しそうだったから突貫しただけとも考えられるわけだが。
などと、テーブルに頬杖をつきながらぼんやりとしていたまさにその時だった。
俺達に声をかける姿があったのだ。
夜華 「静かにしろ貴様ら。上には宿をとり、就寝しようとしている者も居るのだぞ。
迷惑というものを考えろ」
それならば我らの苦労と迷惑も考えてほしい。
いったい誰の所為でこんな遠くまで全力疾走してきたと思っているのだろうか。
……いや、考えるまでもなく提督の所為なのだが。
というわけで、声をかけてきたのは我らが捜し求めていた篠瀬夜華その人だった。
寝巻きなのか、白い浴衣のようなものを着た篠瀬さんが……そこに居た。
肌襦袢は……もちろん付けてるんだろうね、うん。
でも視線が気になるのか、
顔を赤くしながら辺りを視線だけでキョロキョロしてるのは篠瀬さんらしかった。
田辺 「篠瀬さんっ!」
夜華 「っ?な、なんだっ」
田辺 「なにも言わずにこの刀を受け取ってくれ!!」
夜華 「なに……?───これは……かなりの業物じゃないか。
造型に一分の隙もない。蒼く滑らか、やさしい雰囲気を持ち合わせているが、
それでいてどこか凶々しい……」
田辺 「見ただけでそこまで解んの!?
───ああいやそんなことより!受け取ってくれ!」
夜華 「断る」
田辺 「あ、ありがホゲェエーーーーーッ!!?」
ありがとうは届けられなかった。
そして田辺の死まであと2時間45分……くらいか?
夜華 「そこまでの業物、なんの理由も無く受け取れるわけがないだろう。
どんな事情があるのかは知らない。が、わたしは受け取ることは出来ない」
田辺 「りりり理由ならありますよ!?
俺の命がかかってるの!!だから受け取って!?ね!?」
夜華 「命が……?」
田辺 「そう!命が!」
夜華 「………」
田辺 「……!!」
篠瀬さんと田辺がジッと見詰め合う!
恐らく篠瀬さんが田辺の目を見て、真偽を定かにせんとしているのだろう!!
田辺 「〜〜〜っ……《ポッ……》」
夜華 「目を逸らし、動揺したな?己の命を安い嘘になど使うな、器が知れる」
ボゴシャア!!!
田辺 「ウギャーーーーリ!!!」
岡田 「アホかてめぇ!!なに頬染めてんだコノヤロー!水島に言いつけっぞコラァ!!」
田辺 「ヒィ!それだけは勘弁を!で、でもだってしょうがねぇだろ!?
篠瀬さん綺麗だし、俺だって美空と離れて長いんだぞ!?
女性とあんだけ見つめ合ってりゃ赤くなりもするわ!!
それを貴様!いきなり殴りつけるとは何事!!」
岡田 「何事!じゃねぇーーーっ!!いいからとっととその刀渡せ!死んでもいいのか!」
田辺 「そ、それはよろしくない!つーわけで篠瀬さん!
これに俺の命がかかってるのは本当なんだ!だから受け取ってお願い!!」
夜華 「断る。わたしは……その、あ、彰衛門以外からの贈り物なぞ受け取らない」
田辺 「お、俺の命よりそんな信条が大事とな!?」
夜華 「そうだ」
田辺 「言い切っちゃったぁーーーーーっ!!!!」
夜華 「それより貴様、人の信条を“そんな”呼ばわりするとは……!無礼者め!」
田辺 「人の命を信条以下って唱えた人に無礼云々言われたくねぇよチクショー!!
いいから受け取れ!受け取っ……受け───受け取ってぇええええ!!!!」
再び余裕を失くした彼は泣きながら絶叫した。
もちろんその後、上の階に居たらしい強面のオニーサマがたに囲まれて、
きっちりとシメられて床にノビてた田辺の姿が数分後に展開されたりもしたんだが。
ともかく、俺達は運ばれてきたワカメとサラダのパスタをズゾゾーと食しつつ、
気絶している田辺の分のパスタを篠瀬さんに譲ることでこの場を凌いだ。
まあその、つまり篠瀬さんをこの場に引き止めることに成功。
そうこうしているうちに田辺死亡まで2時間30分。
清水 「あーのー、なんとか受け取ってもらえませんかね」
夜華 「断る」
岡田 「一度手に取るだけでもいいんで」
夜華 「くどい、断ると言っている」
ナギー『頑固なやつじゃの。やると言っているのだから、受け取ればよいじゃろ』
夜華 「駄目だ。わたしは彰衛門のつ、つつつつ妻、として、
他の男からの貢ぎものなぞを受け取るわけにはいかないのだ!!」
清水 「……ドリアード」
ナギー『うむ。では、───名をなんと言ったか?
わしは自然の精霊、ニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアードじゃ』
夜華 「篠瀬夜華だ」
ナギー『シノセヤカか。ではヤカよ、これを受け取るのじゃ』
スッ、と、俺から受け取ったマグナスを差し出すドリアード。
夜華 「……?なんの真似だ」
ナギー『男からのものは受け取れんのじゃろ?
ならば女であるわしから受け取れば問題なかろ?』
夜華 「………」
どうだー、とばかりに胸を張るドリ子さん。
対する篠瀬さんの反応は───!?
夜華 「屁理屈を込めたところで無駄だ。受け取れないものは受け取れない。
大体、何故そこまでの業物をわたしに押し付ける。
そこに転がっている男は曲がりなりにも刀士と見受けられる。
ならばその武器は、そこの男に持たせるべきだろう」
岡田 「この刀は篠瀬さんが持たなきゃ意味がねぇんだってばさ!!
田辺じゃ扱いきれん!大体てめぇ!
業物、名刀が素人の手によって適当に扱われ、
錆びてしまってもいいっていうのかコノヤロー!!」
夜華 「ぐっ……!!そ、それは……!!」
清水 「しかもこの刀は世界に一本限りの伝説の名刀!古より伝わる、刀の中の刀!!
ソレをキミ!田辺なんぞに持たせて本当にいいというのか!?」
ナギー『……よく解らんがヒドイ言われ様じゃの、タナベとやらは』
シード『やれやれだ……。全然話が終わらない。
これじゃあ父上の袂に戻れないじゃないか』
ナギー『ふむ……そうじゃの。これ、ヤカとやら』
夜華 「な、なんだ」
ナギー『よいからこれを受け取るのじゃ。これはおぬしが刀の扱いに慣れているからと、
ヒロミツが考えに考えぬいた末におぬしに譲ると決めたものじゃ。
おぬしの親は、そんな持ち主の心を無碍にするようにおぬしを育てたのか?』
夜華 「っ……母上を馬鹿にするな!!母上は素晴らしい方だった!!
誇りだけだったわたしに、生き方というものを教えてくれた!!
その母上が間違っている筈がない!!」
ナギー『ならば受け取るのじゃ。おぬしの母は“生き方を教えてくれた”と言ったな?
ならば手に入る力をみすみす逃すのは生き方を捨てるということじゃろ。
……ひとつ訊くがの。おぬしはなんのために己を磨く?
ただ一点を極めんとするためか?それとも、守りたいものがあるからかの?』
夜華 「……守りたいものがあるからだ」
……おや、これは意外。
てっきり一点を極めたいから、って言うかと思ってた。
夜華 「わたしには守りたいと思う家族が出来た。
目を合わせれば彰衛門の取り合いばかりだが、
それでも……居心地がいいと感じた。
わたしと彰衛門との間に子供を授かることは出来なかったが、
それでもわたしは守りたいと思えた。いがみ合いをしようがどうしようが、
いざ別の何かが起きた時、わたしたちは手を取り合って戦えることを知った。
それが全てのきっかけだろう。
……今の他の者達がどう思っているのか。そんなことは二の次なのだ。
わたしは、わたしが守りたいと心の底から思うことが出来たからこそ、
守りたいと思った全てを守るための力を欲する」
ナギー『……うむ。いい返事なのじゃ。ならばますますこれを受け取るべきじゃ』
夜華 「なに……?」
ナギー『よいか?もしおぬしがただ一点を極め、
そのためだけに強くなりたいというのなら、
わしはこの刀をおぬしには渡そうとは思わなかったのじゃ。
きっと応援をするだけして、あとは放置だったろうな』
夜華 「どういう意味だ」
ナギー『……強くなりたい者は一つを極めるだけで十分じゃ。
それは間違ってはおらぬし、立派な目標じゃろう。応援するに値する。
じゃがの?その“強さ”が“守りたいものを守る”なんてものに対する強さなら、
その根底は全て覆さねばならぬのじゃ』
夜華 「だから……それはどういう───」
清水 「ん……それは俺も解る」
夜華 「なに……?」
岡田 「俺もだ。多分、篠瀬さんも解ってるからこそ“風”を受け入れたんだと思うし」
夜華 「なに……?」
清水 「晦が求めた“強さ”は間違いなんかじゃなかったってことさ。
あいつは守りたいものを守れるなら、自分は人じゃなくてもいいとまで言った。
そして、いろんな回路、いろんな種族の力を高めて強くなっていった。
……これの意味、解るかな」
夜華 「…………───そうか。つまり───」
ナギー『そうじゃ。強くなりたい者は“1”を極めておればいい。
そこが終着じゃ、誰も文句は言わん。むしろよくやったと誰もが褒める。
じゃがの、“守りたい”と願う故に強さを求める者に、
限界なぞあってはならんのじゃ。1も2も3も極めねばならん』
夜華 「………ああ……そうだ。満足などしてしまったら、それは───」
ナギー『広い世界、極めたものでは間に合わない災いというものがある。
例えばおぬしが守りたいと思ったものが病に冒されたら。
その病は剣術や刀術で助けられるのか?
おぬしが力をつけ、守りたいものを守るために立ち向かった相手が、
剣の通じない相手だった場合、魔法も使えぬおぬしは守りたいものを守れるか?』
夜華 「う……ぐ……っ……」
清水 「晦はそれを知ってたから、
どんな辛い修練でも甘んじて受けていろんなものを吸収していった。
力となるものは拒もうなんて考えなかった。
でもその力が暴走してしまうようなものじゃあ意味が無い。
だからこそ、どんな強大な力を手に入れても、一気に吸収せずに、
自分の力として慣らしてから少しずつ吸収していった」
岡田 「俺もまだるっこしいな、とか思ってたけど……今なら解るわ。
“守りたいものを守る”なんて言葉、
よほどの覚悟と忍耐が無いと実行なんて出来やしない」
ナギー『そうじゃ。極めた力で守れるものはきっとたくさんあるじゃろう。
しかし“その力”では及ばぬ局面に至った時、きっとおぬしは後悔するじゃろ。
故にこれを授ける。限界なぞを作らず、いつまでも上を目指す“守る者”であれ』
夜華 「しかし……わたしは……」
差し出される刀を、篠瀬さんはまだ拒む。
しかしドリアードはその手を取ると無理矢理に刀を握らせ、篠瀬さんを睨んだ。
ナギー『たわけめ、なにを迷うことがある。
その刀はおぬしに害をなすものではないのだぞ?
そんなものに対し何を恐れ、何を悩む必要がある』
岡田 「まあまあ、それはそれとして───頭が高ェぞ小娘」
ナギー『………』
その時、彼女の目が輝いた───気がした。
───……。
ぎゃぁああああああぁぁぁぁぁぁ…………
……。
さて……正直者が床で動かなくなった今。
その場にはムフーと息を吐くドリアードと魔王と、神妙な面持ちの篠瀬さんと、
原中としての意思を貫いた岡田二等兵を見下ろしながら敬礼する俺が残された。
いやぁ……やっぱね、篠瀬さんってどうしてか応援したくなるんだよね。
そのために貫き通した彼の意思がどうボッコボコにされたのかは度外するとして。
ナギー『……では。受け取ってくれるな?』
夜華 「ああ。受け取らない理由が無くなった……悠介殿の意思は間違いなどではない。
何かを守りたいと真に願うのなら、手段など選んではいけなかった。
わたしの目指す武士道は、誰が決めたものでもなかった。
母からわたしに伝えられ、己の誇りとともに合わせて育んだわたし自身がそれだ」
チャキ……と。
とうとう、篠瀬さんはマグナスを受け取った。
すると、突如田辺の頭の中からボワリと小さな骨っぽい死神が出てきて、
その場で消滅して見せた。
……どうやらマジで、田辺の体には死亡の呪いは封入されていたらしい。
ああ……一応間に合ってよかったってことにしておこう。
実は呪いによって死亡した場合はどうなるのか気になっていた、
という事実は今際の際まで大事に心のタンスに便利に収納しておこうと思う。
なんにせよ疲れた。
俺達も今日はここで寝ていくとしようか。
遥一郎「……コーヒー……」
清水 「オワッ!?」
……忘れていた。
コトリと置かれた三つのコーヒーが俺にとある事実を思い出させる。
……さて、こいつはな〜んでこんなところで仕事なんぞしているのか。
そして、他の連中は何処でなにをやっているのか。
俺は意を決して、それらの詳細を訊ねてみることにしたのであった……。
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