───VSアンノウン/怪物───
【ケース24:豆村みずき(再)/破壊者】
ひゅう、という音とともに発音された何かの言葉。
全く聞き取れず、言葉にさえなっていないなにか。
しかしそいつは確実に、変色した目で俺を睨み、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
まるで、怨敵でも見つけたかのように顔を崩しながら。
豆村 「っ……来るんじゃねぇ!!」
俺は握り潰した石を目潰し代わりに投げ、ソイツの腕を蹴り弾いた。
───たったそれだけ。
それだけでソイツの腕は───もげてしまった。
豆村 「───」
弧を描き、ぐしゃりと石畳みに落ちる腕。
ぶしゅりと黄色い液体を撒き散らしたそれは、見るからに腐っていた。
腕を伸ばす、なんて機能が働いたことが信じられないくらいだった。
豆村 「〜〜っ……な、なんなんだよお前っ……!!」
訳の解らない恐怖感。
力さえあればどうとでも出来る相手。
こんなヤツ、それこそ腕の一本もあれば倒せる。
けど───それって“殺す”ってことじゃないか───?
???「グ───ヴヴヴ……」
ごぼり、ごぼりと穴の開いた喉から黄色い液体がこぼれる。
血、なのだろうが───そこに鉄のような臭さはまるでない。
つまり、既に鉄分などの構築要素が存在していないのだ。
豆村 「………」
人間じゃない。
確信しろ、目を逸らすな。
バケモノ退治だと覚悟を決めろ。
ここには俺しか居ないんだ、俺がやらなきゃ誰がやる。
豆村 「っ───くそぉおおおおっ!!!!」
手に月醒力を込めた。
それを放ち、バケモノの腹に穴を穿ってやった。
が───
???「ッ……、……、……、───」
ソイツは頭をガクガクと揺らし、なにかをやっていた。
…………。
もし、あれが動作だとするならば。
きっとそいつは───
豆村 (───イカレてる───!)
ソイツは笑っていた。
声にならない声で、心底愉快そうに。
まるで攻撃される度に何かを思い出すかのように、無抵抗なままに攻撃を受けていた。
豆村 「っ……」
どうかしてる。
散々身体に穴を穿った。
怖くなって、心臓があるべき場所にも穴を穿った。
それなのにソイツは笑っている。
タリナイ、タリナイと笑っている。
そしてついに頭に穴を穿った時。
絶命する筈のソイツはニヤリと笑い、穿ったばかりの頭半分を“再生”させた。
豆村 「───!?」
それは頭だけじゃない。
腕も足も、体の至る箇所全てをだ。
そいつは表情もなにもない、まともな血も通っていない真っ白ななにかになった。
人の形はしているのに、特徴がなにもない白に。
しかし、だが確実に───そいつの耐久力は上がっていた。
まるで、こちらの力を吸収するかのように。
???「───……」
徐に手が伸ばされる。
指もない、まるでぬいぐるみの手のようなソレが。
もちろん俺はそれを弾き、今度は思い切り殴ってやった。
???「ッ……、……」
目も口も耳もないソイツの顔が歪む。
だが次の瞬間には、
のっぺらぼうなのに確実に狂気していると解るほどの何かを表し、襲い掛かってきた。
豆村 「くっそ───なんなんだよ!!」
血の通わない白いソレは鈍い動きで俺を攻撃してくる。
俺はその度にそれを弾いて攻撃して───
そのどれもがどんどんと本気の一撃になっているというのに、
そいつは怯むどころか嬉しそうに前に出てきた。
最初は鈍間に。
そして徐々に、だが確実に鋭くなってゆくその攻撃。
まるで戦闘経験を思い出すかのようにして、幾度も怯むことなく向かってきた。
そして───
豆村 「───!?」
バガァンッ!!
豆村 「ッ───!!」
ついに防御が間に合わなくなった。
白かったそいつは俺の攻撃を受ける度に人に近づき、指が生え、髪の毛が生えた。
だが顔の輪郭も体のつくりも完全にハッキリしない。
ただ、今言えることは───ドボォッ!!ドゴッ!ガコォッ!!
豆村 「───っ……!!」
“俺の強さ”など、ソイツはとうに越しているということだ。
連ねられる連撃は勘を頼りに腕を動かして、ようやく何発かを防げる程度。
もう速さでは勝てなかった。
それでも速いだけで、致命傷には至らない。
だから俺は無理矢理ソイツから距離を取ると手に光を溜めた。
ゼノさんに消された技だけど、死神化した今なら威力は何倍にもなってる筈───!!
豆村 「くたばれぇええええっ!!!!!」
そうして放った。
想像した以上に巨大な光はソイツを一瞬にして覆い、景色の果てへと吹き飛ばした。
豆村 「───……、はぁ……」
直撃だ。
よほどのことが無い限り───ゴォゥンッ!!
豆村 「え───?」
直撃だった筈だ。
あんなに、自分でも驚くくらいの威力だった筈。
なのにソイツは───まるで傷を負わず、むしろようやく現れた口を歪ませて笑っていた。
豆村 「───っ……」
うそだ。
こんなのうそだ。
───ドボォッ!!
豆村 「げはぁッ!!」
こんな筈じゃなかった。
俺は力を手に入れた。
親父にだって、誰にだって負けない筈だったのに。
うそだ、こんなの……。
───ベキンッ……!
豆村 「あっ───ぎ、あぁあああああああああっ!!!!!」
解らない。
なんなんだこいつ。
どれだけ殴っても効かない。
どれだけ回復しても間に合わない。
怖い。
顔が無いのも手伝って余計に怖い。
痛めつければ痛めつけるほど人として成り立っていくバケモノ。
戦う度に何かを思い出すように爆発的に強くなるバケモノ。
そんなバケモノが、動けなくなった俺の頭を掴んで宙に浮き、
硬い石畳めがけて俺を───渾身を持って投擲した。
……それで死ぬんだって思った。
最後に頭の中に浮かんだのは親父の顔。
いつもの調子で、だけどどこか心配そうに何かを言っていた。
『強くなれても天狗にだけはなるな』
その言葉が耳に届いた時、俺は静かに後悔した。
ちゃんと自分のことを心配してくれていたのだと。
そう思っても後の祭り。
せめて心の中で謝って、俺は静かに目を閉じた。
暖かいぬくもりに抱かれながら───って、ぬくもり?
───ダタァンッ!!
豆村 「っ───!!」
小さな衝撃。
けどそれは自分の頭蓋を滅茶苦茶にするでもなく、
ただ地面に勢いよく降りたような衝撃だった。
とりあえず……なんか生きてるみたいだった。
恐る恐る目を開けてみれば───
みさお「無茶をしすぎだ、馬鹿者」
俺を抱き止めて立っているみさおさんの姿があった。
豆村 「えっ……な、なんで───?親父たちとどっかに行ったんじゃ───」
みさお「父さまに頂いたスカーフを忘れたのでな、取りに来たらこれだ。
まったく、いつの間に死神化など身に付けたのかは知らんがな。
自分の力として扱えないうちは何者かと戦おうなどと思うな、たわけ」
豆村 「………」
思わずしゅんとしてしまった。
怒られても仕方ない。
今まさに後悔していたところなんだ。
豆村 「……手も足も出なかった。最初は押してたのに、あいつどんどん強くなって……」
みさお「ああ。そのお陰で気づけた。
ここまで気配が大きくなっていなかったら気づけなかった。……立てるか?」
豆村 「あ、なんとか……って、うおう」
今さら気づいた。
俺、みさおさんにお姫様抱っこされてた……。
うおお恥ずかしい……。
みさお「月生力は使えるな?下がって回復でもしていろ」
豆村 「え───でもみさおさんは?」
みさお「あいつを黙らせる。見ていると酷く苛つくのでな」
みさおさんがのっぺらな顔を睨みつける。
表情も解らない謎のなにか。
そいつは俺とみさおさんを交互に見たのちに、俺を睨むと一気に飛んできた。
しかし───
豆村 「えっ───!?」
みさお「回復しろとは言ったが気を抜けとは言ってないぞ馬鹿者!!」
その特攻は、
瞬時に俺を抱き上げて跳躍したみさおさんのお陰で石畳を破壊するだけに留まった。
みさお「みずき……貴様きちんとゼノさんの修行を真面目に受けていたのだろうな……」
豆村 「えっと……すいません」
みさお「……ああいい。今は説教よりあいつだ」
豆村 「いやっ───無理ですよ!力手に入れた俺でさえダメだったんですよ!?
女のみさおさんが敵うわけが───!!」
みさお「……男より女が弱いなど誰が決めた、うつけが。いいから黙って見ていろ」
言うや否やみさおさんはブラストを白へと放ち、自分が敵であることをソイツに教えた。
みさお「みずき、死神化を解け。どうやらこやつは死神の気配に引かれているらしい」
豆村 「あ───は、はい」
言われたままに死神化を解いて回復に専念した。
けど、油断はしない。
視線はきっちりと白へと向け、いつ攻撃が来ても避けられるように身を低くした。
みさお「“戦闘、開始()”」
みさおさんが構える。
手は徒手空拳。
普段手にしている刀は無く、ただ武道の構えのようなもので白を睨みつけていた。
───無茶だ。
死神化も出来ないのに、素手で立ち向かうなんて───!
???「ルアァアアアアアッ!!!!」
みさお「───」
白いソイツが固めた拳を疾駆とともに振るう。
だっていうのにみさおさんは構えたままで動こうともしない。
もしかして速すぎて見えてない───!?
やっぱり無理だったんだ、女に戦いなんて───!
みさお「なんて顔をしている、馬鹿者」
豆村 「え───?」
───ドゴォンッ!!!
???「アギィイイイイイイイイッ!!!!」
……へ?
あの……今、素手でブン殴りましたか……?
しかも相手、ゴロゴロズシャー、って……。
俺がいくら殴っても怯みもしなかったのに……?
え……なに?みさおさんて……死神化した俺より……強い?
みさお「“力”というものを教えてやる。乱暴に振るうだけが力じゃない。
恐らく彰衛門さんからも言われていると思うが、
“ただの力”を手に入れただけで天狗にはなるな。
力とは鍛錬の先で己が望むままに振るえるようになって初めて力と言える」
豆村 「………」
みさお「先に言っておくがみずき。お前の父親はわたしなどよりよっぽど強いぞ」
豆村 「うえっ……!?」
うそだ……悪夢だ……あのチャランポラン親父はそこまで……!?
みさお「まあ、父さまはもっと強いがなっ」
ムンと胸を張るみさおさん。
ああ、なんだかんだで父親を自慢したかっただけなのか。
でもそれが事実なら俺って物凄く情け無いんだが。
みさお「……どこまで保つからは解らん。だが、出来るところまではやろう」
みさおさんがもう一度構えた。
その先には、吹き飛ばされた状態から回復したバケモノが飛翔してくる。
その速度はまた上がっていたようだった。
豆村 「気をつけてみさおさん!そいつ、こっちの攻撃を吸収して強くなるんだ!」
みさお「たわけ、何を見ている。こいつは『強くなっている』んじゃない。
『強さを思い出している』んだ」
豆村 「え───?じゃあ、なに?こいつって……元はこんなに強かったってこと……?」
みさお「見切れないが、恐らくこんなものじゃない。
先に言ったろう、どこまで保つかは解らんと。
わたしでは押さえることだけで手一杯だ。
そればかりか攻撃をすることでより一層力を思い出させてしまう」
豆村 「……あいつ、攻撃されることで自分の強さを思い出してるのか……?」
みさお「どうやらそうらしい。恐らく今はなにも覚えていないのだろう。
その記憶がどんなものかなどわたしにも解らんが、
ただ根元に存在した本能こそがあいつを動かしている。わたしはそう感じた」
豆村 「………」
つまり……俺程度の攻撃じゃあ、あいつの全力を引き出すことにすら足りてなかったと。
そういうことなのか。
みさお「時間稼ぎが出来る相手でもなさそうだ……まいったな、これは」
徒手空拳のままにみさおさんが構える。
飛翔してきていたバケモノはみさおさんの目の前で停止している。
相変わらず口だけあるソイツの顔は笑っていて、見ていて気持ちが悪くなった。
???「ォオオオオ、オォオオン……!!」
突然の疾駆。
未だ掠れた声を出すバケモノが、ついにみさおさんへと攻撃を始める。
それを迎撃すべく、みさおさんは攻撃を開始した───!!
フオッ───パパァン!パァンパァンッ!!
鞭のように撓る拳。
向かってくるバケモノは、己へと襲い掛かる蛇のような拳を身に受けながら前進してくる。
みさお「シッ───!!」
攻撃をされれば強くなるバケモノ。
それを見越してか、みさおさんは威力の少ない攻撃を連ねていっている。
別の誰かが来るまで時間稼ぎをしているのか、それとも遊んでいるのか。
……いや、遊ぶなんてことが出来る相手じゃない筈だ。
とすると、やっぱり時間稼ぎ───?
???「オァアアアアォオ……ッ!!!」
バケモンはまるで弾丸のような拳を幾発食らっても弱らない。
それどころかどんどんと強さを思い出し、人らしき姿を象ってゆく。
身体には鉄分が通り、白から人肌に近い色へと変色し、
それとともにかつてはそうだったのであろう筋肉も思い出したように隆起してゆく。
みさお「ッ……」
そんな折。
とうとう耐久力までもがみさおさんの攻撃力を超えたのか、みさおさんの手から血が出た。
豆村 (なんて硬さだよ……!あのバケモノ、こんなに強かったなんて……!)
でもそれに対抗するみさおさんもみさおさんだ。
俺は今まで、こんな強い人が傍に居た事実に気づけなかったんだ。
みさお「“人”で押さえられるのはここまで───だったら」
そんなことを思っていた次の瞬間、みさおさんの目が紅蓮に染まった。
その途端にバケモノの雰囲気も変わる。
あれは───俺が死神化した時と同じ雰囲気だ。
探し物のカケラを見つけたような───ってことは、あれ?
もしかしてみさおさん……死神化……してる?
みさお「疾ッ!!」
ドボォッ!!
???「ギィイッ!!!」
凄まじい速さでバケモノに近づいての鳩尾突き。
その衝撃に体を折ったバケモノの顔面に膝蹴りを見舞い、身を捻っての顔面横蹴り。
滅茶苦茶だ……でもバケモノは吹き飛び、再び石畳に転がった。
……強い。
ひょっとしたらさっき言ってたことはただの危惧で、案外あっさり勝っちまうんじゃ───
???「クッ……フクククク……」
……否、その考えはあまりに甘い。
バケモノはまるで何も無かったかのように起き上がると、みさおさんを見て口を歪めた。
みさお「………」
それでもみさおさんは徒手空拳。
死神化したなら鎌を使えばいいのに、それをしようとしない。
みさお「……みずき、離れていろ」
豆村 「え……?もう十分に離れて───」
みさお「もっとだ。巻き込まれて死んでも責任は持てない」
豆村 「………」
まるで子供扱い。
俺だって、確かに敵わないけど死神の力を手に入れたってのに……。
俺はなんだかむしゃくしゃした気分のまま、少しだけ離れた。
その俺の様子にみさおさんは溜め息を吐く。
そのことが酷く頭の中に苛立ちを残した。
みさお「忠告はした。責任は持たんぞ」
豆村 「あーはいはいどうぞご勝手にっ!?」
むしゃくしゃする。
確かに俺じゃああいつには敵わない。
けど、だからってその態度はムカツク。
なんて思っていたが───
みさお「───卍解」
その言葉が紡がれた時、景色が歪んだ。
いつの間にかみさおさんの手に現れていた“刀”が大きく躍動し、形を変える。
みさお『“神魔月光刃()”』
細くなった月を思わせる刀。
月明かりを思い出させる淡い光を放つそれはまるで、
真実月が刀にでもなったかのようだった。
それに加え───みさおさんから放たれる雰囲気が明らかに変わった。
死神、だけじゃない。
神聖な力と死神の力、そしてそれを繋ぐ何かの力が混ざったような───やばい。
なにやってんだ俺は───!!こんな力の傍に居たらどうなるか解らない!
ああくそっ……なにつまらない意地張ってたんだ俺はっ!
離れてろって言われたら素直に離れてればよかったんだ!!
そしてただいま恐怖と驚きで足が全く動きません!!キャンユーヘルプミー!!
ヘルプス!ヘルプスミー!!
なんて思ってるうちにみさおさんの周りの景色が歪んでゆく。
ああ……あれ、月空力だ……しかも相当圧縮されてる。
みさお『疾ッ───!!』
フフォンッ───ガガァッキィイインッ!!!
振るわれる刀から剣閃が放たれる。
それは風を裂き虚空を裂き、三日月状の刃となって景色を断裂していった。
恐らく、触れれば空間ごと切り裂かれるであろうソレ。
それを、みさおさんは一気に何発も放ってゆく。
対して、バケモノの方は───
???「ギリィイイアァアアアアアッ!!!!」
それを気にすることもせずに前進してくる。
腕が切れようが足が切れようが関係無い。
すぐに再生させて、幾度となく向かってくる。
豆村 (っ……)
その在り方に吐き気がした。
コイツは何を思ってここまでするのか。
正体不明な事実以上に、それが気になって気持ち悪かった。
だがそれを次々と迎撃するみさおさんもみさおさんだ。
近づいてくれば月醒力を圧縮したようなもので吹き飛ばし、
吹き飛ばしたら───刀を突き出すように構えて、
みさお『アルファレイドッ───カタストロファーーーッ!!!!』
キィイイ─── バァッガァアアアォオオンッ!!!!
その切っ先から、目が潰れるんじゃないかと思うほどの凄まじい極光を放った───!!!
豆村 「ちょ、待って!こんな近くでそんなの撃たれたら───」
先に立つ後悔など無い。
その時、俺は盛大に吹き飛びながら心の底からそう思った。
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