───VSアンノウン/覚醒───
【ケース25:Interlude/混沌にして明確たる覇王】
微塵と消える極光。
最初からそうなるように放ったのか、
刀から放たれた光は対象を巻き込むと、少しののちに霧散した。
みさお『………』
放った女性の視界に存在するのは体の半身を吹き飛ばされたバケモノ。
姿はまるで放置され続けた案山子のよう。
黄色ではなく赤色の血を削れた部分から噴き出し、ガタガタと揺れている。
だがそれも、ものの刹那。
身体は十も経たずして再生し、より強靭となって蘇る。
???「ク……クハハ……」
笑む存在は男だった。
体の輪郭は随分と完成し、口のみである顔……その口からは鋭い歯が並ぶ。
ただしその歯は吹き飛ばされた体内から溢れた鮮血に染まり、
そんな口が笑みに歪む様子は見る者の怖気を出すには十分すぎた。
???「ヒハハヒヒヒヒヒ……!!!」
その笑みはなにに対するものか。
バケモノは硬くなった腕を武器のように構え、みさおへと襲い掛かる。
フオッ───!!
みさお「───!」
───ギィンッ!!
みさおはそれを容易く弾く。
が、一体どういう硬さか。
刀で弾いたというのに削ぐこともなく高鳴る金属音のような音。
みさおは刹那に息を呑むが、連ねられる連撃に驚き払っている間も無い。
???「ハ───ハァ、ハ、クアハハハハハハッ!!!!」
ソイツは笑っていた。
口だけが機能を果たし、目の無いその物体は気配を頼りに腕を振るうだけ。
だがその一撃一撃のどれもが正確無比であり、的確に急所を狙ってくる。
みさお(っ───いったい、どういう───!!)
焦りは当然だ。
今まで彼女は、正体不明だというのにここまで強い相手など見たことが無い。
その強さも矛盾していれば、恐らく存在こそが矛盾していた。
戦いの最中に爆発的に成長する怪物───その在り方は彼女の父親を彷彿させる。
みさお(馬鹿なっ───)
だがそれは有り得ない。
彼女の父親であり拠り所である晦悠介は現在空界に居る。
そして彼は悪戯に人を傷つけるような人ではないと彼女がよく知っていた。
だが、そうなるとこの強さに説明がつかない。
???「ハッ───ハァアアアアッ……!!!」
フフォンッ!!ギィンギィンギィンギチィイインッ!!!!
連ねられる硬質の腕を斬り弾く。
バケモノはまだ完成していない心臓の鼓動に息を乱しながら、
そのまま絶命するんじゃないかと思わせるくらいに連撃を早めてゆく。
だがバケモノが欲するものは身体を動かす酸素などではない。
ただ感じる気配を切り刻みたい。それだけだった。
みさお(っ……!!)
連ね、弾き、弾かれ、連ねられる。
バケモノの連撃は速度を増すばかりで、
その度にバケモノは歓喜の表情をしながら絶命しそうな息苦しさに包まれる。
だがそれでも連撃は止まない。
ハヤク、ハヤク、と呟きのようなものが聞こえる錯覚。
みさおはそんな状況の中で、裡に存在する力を引き出し、攻撃を連ねていった。
みさお「破ッ───!!」
フオンッ───ギィンッ!!ヒュフォンッ!ゾフィィンッ!!!
???「ギリィイイイイッ!!!!」
弾かれ、だが返す刀がバケモノの肘関節を斬り裂いた。
バケモノの腕は鮮血を撒き散らしながら石畳に落ち、だが次の瞬間にはやはり再生する。
より硬度を増して、より鈍器に近づきながら。
みさお「っ───」
それはまるで無間地獄。
彼女が攻撃を連ね、バケモノを傷つける度に景色は赤く染まり、バケモノは硬度を増す。
今でさえ硬いソイツはさらに硬くなり、そればかりか強さまでもが上がるのだ。
だとするならばそのバケモノは何者で、いったいなにを思い出そうと狂っているのか。
それが理解に至らないみさおは表情を歪め、舌打ちをした。
ヒュオッ!ギィンッ!!ゾプシャアッ!!ガガァッキィイインッ!!!!
それでも連ねる刃は留まりを知らない。
対象が速度を増すのであればこちらも、と唱えるかのように速度を増す剣閃。
既に常人では太刀筋すら見えぬであろうそれは確実にバケモノの反射能力を超越し、
次々とバケモノの不完全な身体を削いでいった。
???「ヒ、ヒハハハハハハハハッ!!!!!」
みさお「っ……」
耳に障る笑い声。
理性さえ無いのか、バケモノは斬られても斬られても笑っていた。
荒い息遣いは既に限界を突破し、
だというのに連撃は速度を落とすどころか増すばかりだった。
この速度で仕留められぬのならよりハヤク。
それで仕留められるのならよりハヤク。
まるで獣じみた思考で、ただ気配の先に居るであろう存在を潰すことのみを望んだ。
ギンギャリンギィンギヂィンッ!!!!
火花が虚空へ舞う速度もそれに習うが如く増してゆく。
が、相手が両腕に対して彼女は一刀。
その状況はやはり、彼女に圧倒的な不利を───
みさお「はぁあああああっ!!!!」
フフォンフォンフォンッ!!!ガギギギギギギィインッ!!!
???「───、ギッ───!!」
───否。
速度が人の域を超越しているのはバケモノだけではない。
相手が一の間に五を連ねるのなら彼女はその倍を連ねる。
神懸かりだと思えるほどの速度を以って連撃の全てを捌き、
事実彼女は傷らしい傷など未だ負っていない。
???「───、───」
だがバケモノに驚愕の様など皆無だ。
それどころか歓喜に身を震わせ、
最早息切れのために笑い声も出ない口を歪めて笑っている。
みさお「───」
そんなバケモノを、みさおは『解せぬ』と取った。
やはり存在自体が謎なのだ。
今まで父やその親友とともに今日までを生きてきた。
だが、彼ら並の強者など彼女は知らない。
未だ強くなり続けている目の前の存在が不理解であり、不愉快でならない。
みさお「フッ───!!」
ザゴォンッ!!バシャアッ!!ゾフィィンッ!!!
???「ギガ───、───!!」
忌々しい、と彼女は渾身を以ってバケモノの両腕と左足を切り裂いた。
様子見などもういい、と彼女は確信したのだ。
強くなり続けるのであれば、真なる強さに到達する前に滅ぼせばいい。
みさおは苛立ちの中で石畳を蹴り、一気に疾駆した。
畳みかけ、終わらせよう。
そう思ったが故だ。
───が。
???「ギグアァアアアッ!!!!」
焼け付いた喉から絶叫を搾り出すように振るわれた一撃。
切り裂かれた腕を再生すると同時に仕掛けられた攻撃が、
とうとう一撃となって彼女の腹に減り込んだ。
みさお「ッ───!!」
ギシリ、と軋む音が骨を伝って耳に届く。
その威力はとうに二秒前を越えている。
みさおは大きく吹き飛ばされ、しかし身を翻すと石畳に着地した。
みさお「っ───は、かはっ……!!」
だが再び構えた彼女に、先ほどまでの勢いは無い。
殴られた箇所が悪かった。
腹に減り込んだ拳は体の中にあった酸素を勝手に霧散させ、
彼女が磨き上げた身体の在り方を大きく崩したのだ。
行動のために必要だったエネルギーを勝手に破壊されたのと同じ。
体内器官は突然無くなったエネルギーを探し始め、彼女に大きな疲労を齎す。
みさお「───、……」
───だがそれもすぐに消えた。
彼女には、どんな月の家系の人物よりも鋭く効果の高い治癒能力があるからだ。
卍解に至った冥月刀はみさお自身を常に月操力で包み、傷なども瞬時に癒す。
故に彼女にとって打撃を受けることはそう苦ではない。
癒しを越えた打撃を加えられない限り、幾度でも戦闘続行が可能と言えるだろう。
───そう。癒される暇さえあれば。
???「ヒハハハハァッ!!!」
みさお「はっ───!!」
傷は確かに癒えた。
だがそこには若干の隙があり、
彼女は立ち直りの際にバケモノから視線を外してしまったことを後悔する。
バケモノは地盤を踏み砕くほどの脚力を以って疾駆し、構えたみさおの顔面を掴んだ。
当然みさおは抵抗し、その腕に刀を通そうとした。
が───顔を掴まれ、さらに宙に浮かされ、
あまりに近すぎる距離では構えや勢いが成り立たない。
結果、刀は硬い腕を徹すことは無く、
彼女はバケモノの一呼吸ののちに石畳へと叩きつけられていた。
みさお「っ───はっ……!!」
呼吸が飛び、意識が飛び、身体のみが石板に沈む。
女だからと容赦することもなく、
恐らくは現在出せるであろう全力で、バケモノはみさおを地面に叩きつけた。
みさお「あ───、づ……!!」
衝撃で根こそぎ吐き出してしまった酸素を追うように器官が躍動する。
だがバケモノは酸素の通り道である首を強く圧迫し、それをさせない。
みさお「───、───!!」
右拳が握られる。
振り下ろされれば頭蓋など容易く砕くであろうソレは、
まるでよく出来た削岩機にも見えた。
ルオッ───!!
風を裂く音。
足りない酸素を探すので手一杯の思考の中で、
ただ眼前に迫る絶対の破壊だけが意識に残った。
バガァアォオンッ!!!!
???「───!?」
───いや。
意識を完全に失おうとした正にその時、バケモノを横から吹き飛ばす光があった。
みさお「がはっ!けはっ……!!あ、は……っ……!!」
途端に限界まで酸素を欲していた器官に空気が入り込む。
一呼吸一呼吸が身体に満ちてゆき、
あまりの息苦しさに出ていた涙を拭うと、みさおはようやく光の飛んできた方向を見た。
そこには───
春菜 「……うわ、まだ生きてる。なんなのあれ」
夜華 「どうでもいい。この神社を破壊しようとするのなら滅ぼすだけだ」
彼女がよく知ったふたりの女性が居た。
恐らく光を放ったのは歪んだ弓を持つ春菜だろう。
みさお「春菜さん……篠瀬さん……」
春菜 「大丈夫だった?みさおちゃん」
夜華 「ここは任せろ、と言いたいところだがな───」
やってきた女性ふたりは、狂気のままに起き上がるバケモノを見据えた。
光の矢を受けたところで、
吹き飛んだこと以外はどうということもないと笑っているバケモノを。
ふたりは知っていた。
神魔解放を出来るみさおでさえやられた相手なのだ、
自分達が加勢したところでどんな力になるだろう。
だがそれでも、知り合いを見捨てられるほど腐った根性は持ち合わせていない。
そう断ずるがために、逃げもせずにそれぞれの“鎌”を解放した。
春菜 『卍解───“閃光弓・熾天”』
夜華 『卍解───“緋凰焔紅諡()”』
唱えとともにそれぞれが黒衣に包まれる。
その気配にバケモノは歓喜乱舞し、涎を撒き散らしながら吼えた。
???「ウェェエルォオオオオオオオゥウウッ!!!!」
その咆哮は真実獣のソレ。
聞くだけでおぞましささえ覚える声に、三人は戦闘態勢を固める。
夜華 『春菜、後方援護を頼む。みさおは死神の力の向上を頼む』
春菜 『任せて』
みさお『はいっ!』
春菜が後方へ跳躍、みさおは身体を回復させるとともに刀を地面に突き刺し、
神魔月光刃の能力で死神の力を爆発的に向上させる場を精製。
そして───
夜華 『紅葉刀閃流、篠瀬夜華───参る』
当時の頃の姿の剣豪少女が黒刀を構えた。
当然そんな言葉などバケモノには届いていないだろう。
バケモノの中の記憶は未だ不完全。
本能にあるものは、ただアイツを殺すということだけ。
そして、アイツと似た気配を持つ存在は例外無く襲うという制約。
記憶はそれのみであり、戦闘とともに経験のみが身体が思い出してゆく。
ソレはそういったバケモノだった。
???「ガァアアアアアアアッ!!!!!」
焼け付いた喉から皺枯れた咆哮が轟く。
それとともに疾駆し、───対面している夜華ではなく、
場を精製し終えたみさおへと突進した。
みさお『っ───!!』
その疾駆の速さは馬鹿げていた。
今までの速さが嘘のような疾駆。
当然、力の解放をしたばかりの彼女に隙が無かった筈も無く───
ヒュオガギィンッ!!
???「ギ……!!」
夜華 『何処を見ている。貴様の相手はわたしがする』
……それすらも否。
軽く地面を蹴った夜華はその馬鹿げた速度にさえ追い着いてみせ、
さらに攻撃を刀で受け止めてみせた。
───これこそ彼女の能力。
風を詠み、風とともに疾駆することで通常では有り得ない速度で移動。
死神中最大の速度を誇る疾駆と鋭さを持つ女性。それが篠瀬夜華だ。
固体の実力では確かにみさおには劣るが、
こと戦闘経験においては日々の修行を絶やさぬ彼女にこそ一歩を先んじるものがある。
???「ギリィイイイイアァアアアアッ!!!!!」
バケモノはまるで得物を狩る本能を邪魔されたと叫ぶかのように凶器である腕を振るう。
その威力はそこらの武器などとは比べるべくもない。
が───
夜華 『飛燕龍-壊牙-───!!』
夜華は頭上より斜め上から袈裟に振るわれるそれを身の回転とともに柄の先端で圧し弾き、
そのまま渾身の一撃を力の解放とともにバケモノの脇腹へ叩き込む───!!
ゾバァッフィィイインッ!!!!
???「ゲヒャァアアォオオオオオンンンンンンッ!!!!」
一閃にて切り裂かれる脇腹から脇腹にかけての線。
背が辛うじて繋がっている程度で、本来ならば即死級のダメージ。
が、そんな常識などこのバケモノには通じないことなど夜華は読めていた。
だからこそ次弾に淀みがなかった。
反撃しようと腕を振り上げたバケモノが
背後から放たれた七つの極光に穿たれた刹那、
彼女は一瞬にしてバケモノの懐へと潜り込んでいた。
夜華 『紅葉刀閃流、嵐華の極み───』
???「ギギャァアアアアアォオオオッ!!!!!」
夜華 『“穿紅鱗・殺華()”!!』
踏み込んだ地盤が砕ける。
超近距離でこそ発揮される、零距離専用刀技の極み。
───通常、刀技・嵐華穿の型の利点は
遠距離からの高速移動にて対象を切り刻むことにある。
風を詠み、同時にどう刀を流せば対象を斬れるのかを熟知しているため、
遠く離れた場所からの攻撃で仕留められれば傷を負うことも無いからだ。
だがこの極みは違う。
近距離で、かつ全力で風を放ち、風を詠み、風とともに究極の斬撃を放つことこそが極み。
故に風を完全に発動させるまでに時が必要となるし、その間は完全無防備となる。
加えて“一撃必殺”の意を込めて放つ故、あとの余力など残さぬのがこの一撃。
如何に硬いものであろうと“目”が存在し、そこを穿てば破壊出来ぬものなど無し。
言うなれば風を詠み、対象の“破壊しやすい部分”を知る夜華にとって、
これこそがまさに“究極の一撃”となる───!!
フィキィンッ───バッシャァアアアアッ!!!!
???「ッ───……!!!」
鮮血とともに肉塊が霧散する。
“究極の一撃”はバケモノの五体を塵と裂き、色づいた紅葉のように虚空に舞わす。
次いでその塵を破壊する光こそ閃光弓。
更待春菜の鎌、熾天である。
圧縮した極光を矢として構え、
放つと同時に七つの光の矢へと変える死神にして唯一弓を駆る彼女の武具だ。
その威力は語るまでもなく、肉塊を確実に滅ぼしていった。
───一部分を除いて。
春菜 『───!?なに……?』
切り刻まれ、射られてなお存在する部分があった。
───それは頭。
生首とも言える頭だけが石畳に転がり、しかし狂気の笑みのまま首から下を再生させる。
より強靭に、より強く。
死ぬと判断した本能が、司令塔である頭部に硬度を凝縮、全てに抗ったゆえである。
夜華 『っ……!?こんなことが……!?』
みさお『───……』
解せないどころではない。
みさおは、回復能力から身体能力まで一気に跳ね上がったバケモノを見て
ある確信に辿り着いた。
それは、バケモノが突如として強くなった理由。
つまり───
みさお『篠瀬さん、春菜さん、死神化を解いてください』
夜華 『なに───?そんなことをすれば───』
みさお『お願いします。これは───一種の確信に近いものです』
春菜 『───……』
夜華、春菜が死神化を解いた。
途端に疲労に襲われるが、それを横目にみさおはもう一度刀を地面に突き立てていた。
無論、より一層の能力向上のためではない。
“死神の力”を抑制するための場を精製するためである。
???「ギ───!?アギィイイイイイァアアアッ!!!!」
突き立て、念じ、力を抑制する。
みさお自身も当然力が下がるが、それでもこれは不思議な確信の下に発動させられ───
事実、バケモノの力は一気に下がったのだ。
みさお『───!』
夜華 「なに……!?これは……!」
春菜 「……うそ。このバケモノ、死神……?」
そう思ったのも束の間。
バケモノは突然雰囲気を変貌させると、先ほどと同等くらいの力を以って突進してきた。
みさお『この反応───神力!?』
夜華 「どうなっている!こいつは死神ではなかったのか!?っ───!?春菜!!」
春菜 「はっ───」
ゾボォン───ッ!!
春菜 「えはっ───……!?」
みさお『あ───』
夜華 「───!!春菜ぁあああっ!!!!」
敗因があるとしたなら、
再生したバケモノが強くなるという事柄をより深く視野に納めなかったことが敗因だ。
バケモノは先ほどよりもやはり速さを増し、
一気に春菜の目の前まで疾駆すると、勢いを殺すこともなく凶器である腕で腹を貫いた。
春菜 「っ……かっ……あ、……!!」
???「ク……クヒヒ……ヒヒヒハハヒヒヒヒヒ……!!」
そして、まるで壊れた玩具を捨てるかのように石畳に捨てられる身体。
見慣れた景色がびしゃりと音を立てて鮮血に染まった。
夜華 『貴様───!!』
夜華はすぐさま死神化し、焔紅諡を手に駆け出した。
人の目ではおよそ視認することさえ出来ない風の疾駆だ。
だが───バシャアッ!!
夜華 『な───に……?』
振り切った、鈍器のようで鋭利な刃物でもある腕が、
視認を許さぬ移動をひと振るいで止めた。
刀技の極みに全力を使った夜華には、既に先ほどまでの速力など無かったのだ。
夜華の足は太腿の部分を削がれ、
それとともにバランスを崩した夜華の顔面がバケモノによって鷲掴みにされる。
夜華 『───、……!!が……、あ───』
その握力はまるで悪夢。
本気で握力を込めれば頭蓋など容易く砕くだろうに、
わざと楽しむように少しずつ力を込めてゆく。
夜華 「───……」
だが。
やがて気絶し、死神化が解けるとソイツはつまらなそうに夜華を石畳へと捨てた。
そして───
みさお『───!!』
お預けにしていたご馳走を見るかのように、気配に感覚を尖らせてみさおを見るバケモノ。
一方のみさおはますます理解出来ない思考で頭がどうにかしそうだった。
天地空間において神魔を保有する存在など、恐らく彼女と晦悠介くらいだ。
だが、だとするならば目の前のバケモノはなんだというのだ、と。
死神の力を持ち、神側の力まで見せるこのバケモノはいったい───?
みさお『くっ───!!』
襲い掛かってくるバケモノに対し、攻撃ではなく防戦に出る。
もはや理解している。
自分ではこのバケモノには敵わないと。
否、それはみずきを助けた時からとうに知っていたことだろう。
このバケモノは得体が知れない。
いや、知れなすぎるのだ。
だというのに“勝てない”と予感させるなにかがあった。
その感覚を知っているからこそ勝てないと直感できた。
なぜならばそれは、
彼女が己の父やその親友に向ける“越せない壁”への焦燥だったのだから。
───……。
豆村 「くそっ……くそぉ……!なんなんだよ……!!」
みさおがバケモノとの攻防を繰り返す中、みずきは傷ついた春菜と夜華の治療をしていた。
身体は震え、恐怖で思うように身体が動いてくれない。
豆村 「うそだ、こんなの……!頼むよ……!刺激が欲しいなんてもう言わない……!
俺が世間知らずだったことも認めるから……!!悪い夢なら醒めてくれ……!!」
───彼の感情を喩えるのなら、それを絶望と唱えよう。
井の中の蛙よ、知るがいい。
この世に“我こそが最強”などという感情が存在することはない。
否、存在することが出来ない。
何故ならばその夢想など、より強大な存在に打ち滅ぼされるためにあるからだ。
そして最強だと思った時点でその存在の高は知れる。
強者の余裕は慢心を生み、弱者にさえ滅ぼされよう。
そして、最強への興味より狂うことを選んだバケモノは、とうにその枷から外れている。
覚醒したばかりの死神風情が敵うべくもないのだ。
豆村 「あんなに強いみさおさん達でも敵わない相手が居るなんて……!」
世界に存在する現実が、
何かの間違いならいいなどという幻想こそが荼毘に付すことを知らしめる。
弱者の理の中に希望はあるか、などという幻想こそが現実にこそ届かない。
ガゴォン───ッ!!!
豆村 「っ……!?」
なんとかふたりの傷を治したところでみさおが吹き飛ばされ、
神木に衝突して神魔化を解いた。
みさお「あ、───……」
豆村 「みさおさ───、っ!!」
みさおの意識が混沌に染まる。
もはやみずきの声も届いてはいないだろう。
するとバケモノは目標を見失ったかのように唸り始めた。
豆村 「───……くそっ!俺だってやられてばっかじゃ───!!」
それを突くべき弱点だと感じたかは解らない。
みずきは死神化さえすることなく走り、バケモノの頬に拳の一撃を振るった。
が───
豆村 「っ───あ、ぐあっ……!!」
相手は微動だにしない。
そこにある結果は、攻撃したみずきの拳が砕けたという事実だ。
そしてさらに、攻撃を加えられたことで本能が動き、
バケモノはみずきを目の無い顔で睨みつけた。
豆村 「っ……く、そ……!くそぉっ!!悪いかっ……!弱くても立ち向うことが悪いか!
俺はあんたには敵わないかもしれない!
みさおさんにだって、多分知り合いの大半に勝てない!
けどな───!女がやられてるってのに、
男が逃げ出すわけには───いかねぇんだよぉおおおおっ!!!!」
そうして彼は死神化を実行した。
黒衣を身に纏い、間髪入れずに疾駆し、再びバケモノへの攻撃を開始する。
用いるのはまだ名も無き鎌。
それを袈裟斬りで振るい、バケモノの肩から脇腹に掛けての斜めの一線を裂こうとする。
が、それこそが愚である。
既に刃などを超越した硬度に、覚醒したばかりの鎌が通るわけも無し。
鎌は肩の部分でいとも容易く砕け、みずきの死神化をあっけなく砕いた。
豆村 (っ……ちくしょう……!!)
───振るわれる豪腕。
残っていた鎌の柄ごとみずきの肋骨を砕き、
そのまま円を描くようにみずきを浮かせ───バガァンッ!!
豆村 「ッガ───あ、がぁああああああああああっ!!!!!!」
後方の石畳へと叩きつける。
砕けた肋骨が肺に刺さり、背骨までもが軋みを上げ、やがて砕ける。
かつて感じたことの無いほどの激痛に意識が飛びかけ、
だがその痛みこそが気絶を許さぬ絶望の空間。
思考がどうかしてしまうんじゃないかという最中、
みずきは自分を見下ろして口を歪めるバケモノを見た。
腕を振り上げ、次の瞬間には自分を殺すであろうその存在を。
だがふと───その振り上げた腕が肘から切断される。
豆村 「───!?」
???「……?」
バケモノは痛みに飽きたのか、腕を斬られたところでもう叫びもしない。
だがその気配に気づいたのか、みずきから顔を背けると───己の真後ろを見た。
シュバルドライン「これは驚いた。のっぺらぼうと喧嘩か?」
ゼノ 「喧嘩と言えるほど立派なものでもないだろう。
こうまで一方的では、我も自らの弟子だなどと声を高く出来ぬ」
そこにはふたつの人影。
ひとりは漆黒の象徴であるゼノ=グランスルェイヴ。
そしてもうひとりは───空界の黄竜王、シュバルドラインである。
豆村 「……ゼ、ゼノさっ……がはっ……!!」
ゼノ 「ああいい、喋るな。黙って回復に専念しろ馬鹿者が」
豆村 「っ……!」
みずきは押し黙る。
だが確信は持っていた。
いくらゼノであろうと、このバケモノには敵わない。
確かにそれは真実だ。
このバケモノの強さは既に、彼らが知りうる様々な強者の力を超えている。
が、だからといって彼らが引くことは無い。
ゼノとシュバルドラインはそもそも、マグナスほどとまではいかないが戦いを好む存在だ。
たとえ敵わぬと知ろうが、強敵が居るのなら向かわずして何が男か。
そう断ずるが如く、ふたりは全力を以って構えた。
ゼノ 『躍動せよ、“魔人漆黒鎌”()』
ライン「黄竜珠よ、我が力となれ……」
ゼノが卍解、シュバルドラインが黄竜珠より力を引き出し、互いに力を最大まで高める。
そして───まず地を蹴ったのはゼノだった。
ゼノ 『いくぞ───!!』
構えるは巨大な爪となった闇の両腕。
魔人漆黒鎌───鎌を圧縮した闇の爪にすることで両腕を鋭い武器へと変換。
さらには世界に存在する闇という闇を吸収し、身体能力を爆発的に向上させるため、
よほど光に溢れた世界でない限りその身体能力の向上は弱まらない。
現に───ザフィゾフィィインッ!!!!
???「ッ───!!」
両腕での攻撃はバケモノの皮膚に弾かれることなく腕を切り裂いた。
普段は閉じられている双眼を完全に開き、対象を直視するゼノ。
その姿に、慢心や隙などは見つからない。
そして───
ライン「少し強めにいくぞ───」
徒手空拳のままにバケモノに飛び掛かるはシュバルドライン。
本来、そのまま攻撃をすれば、みずきのように拳が砕けるに違いない。
だが───
ヴオォッ───バァッガァアンッ!!!!
???「ゲハァッ!!?」
───だが見よ。
これぞかつての空界、その四方の一端を担いし知性の竜王の力である。
振り切られた拳は確実にバケモノの頬にブチ当たり、
しかし拳が砕けることなく逆に対象の頬を砕いて吹き飛ばした。
さらには口に溜めていた極光レーザーを放つと、
起き上がったバケモノを一撃の下に吹き飛ばす。
人の姿であろうがその強さは衰えを知らない。
むしろ人になることで力を最大に圧縮でき、恐らく竜であった頃より強くなっている。
ライン「やったと思うか、ゼノよ」
ゼノ 『……否。この程度で終わるならばそこいらに転がる者たちだけで事足りただろう』
ライン「───フン、忌々しい」
言って、振り向くと同時に拳を振るう。
するとどんな速さで移動したのか、後ろから突進してきたバケモノの頬を捉えた。
変わらずの再生能力、変わらずの強者変異。
身体が砕け、再生するたびに強くなるソイツは、未だに口だけの顔のままに笑う。
ライン「厄介な。起き上がる度に力が増しているぞ」
ゼノ 『……ふむ。どうやら地界で将棋の仕切り直しをする、という件は流れそうだな』
ライン「……実に忌々しい。だがただでやられるのも癪だ。せいぜい抗うぞ、ゼノよ」
ゼノ 『言われるまでもない』
───そうして激突する一と二。
闇の爪が連ねる連撃を今度は弾き、
振るわれる黄竜の一撃に拳を合わせ、砕けようが押さえるバケモノ。
なんたる悪夢か。
事此処に至り、未だに進化するかのような急成長を見せるバケモノに、
ゼノの攻撃やシュバルドラインの一撃は次第に無意味なものへと成り下がってゆく。
決して弱くない───否。
一撃の質量で考えれば今までで最高の一撃だろうゼノとシュバルドラインの同時攻撃。
その破壊を以ってしても、そのバケモノの進化は止まらない。
止まらぬどころかさらに進化をし、ついには───……!
バグシャアッ!!!
ゼノ 「ガッ───づ……!!」
ライン「チッ……!!」
ついには、ふたりの攻撃にもビクともしなくなった。
首から下は完全に型を成し、だが顔だけが未だに空白。
未だ己を取り戻すに至らぬが故に顔の無いソイツは、口だけ歪めて高らかに笑う。
喩えるなら、やはり悪夢と呼ぼう。
現代におけるナイトメア───この存在こそその具現と知れ。
???「ギィイイ……リリリリィイ……、───?」
───それは突如としてのこと。
恐らくゼノもシュバルドラインも気づかなかったが、バケモノの力が極端に落ちた。
それに気づいたのは、彼らがバケモノの疾駆を見た時だった。
ゼノ 「───?」
卍解が自然に解かれたゼノの眼にも、その速度は速いとは言えないものだった。
その時にようやく気づく。
己たちの他に、その場で意識を保っている存在が居ることに。
聖 『力はわたしが抑えておきます!今のうちに早く!!』
───聖である。
いつの間に来たのか、
彼女は卍解した能力を以って災いたるバケモノの能力を一気に低下させていたのだ。
さらに。
みさお『強化はわたしが!全力を用い、殲滅してください!!』
その聖域の力が死神の力を刺激したのか、
気絶していたそれぞれが眼を覚まし、再びそれぞれの鎌を限界まで解放。
敵ひとりを睨み、構えていた。
そして展開される低下の力と向上の力。
構えられる極光の弓と、風を纏った究極の一撃。
そして───破壊に長けた闇の爪と黄竜の拳。
そのどれもが、可笑しそうに笑うバケモノへと向けられる。
───だが気づけ。
彼の存在こそ破壊の象徴。
如何なる手段を用いようともそれが彼を完全に破壊するものでない限り、
彼の破壊は叶わない。
だとするならば───個別に攻撃したところで破壊できなかった存在───
その、既にその時より遥かに強大となった破壊の具現に敵うものか?
否。
彼らと彼女らはそんなことは考えもしなかった。
勝てないと解っていながら戦うのだ、そんな思考はとっくに捨てたのだろう。
だが、だからこそ。
???「───」
ニィ、と口を歪めたそいつの速さに真実驚愕した。
消えたと思わせるほどの速度を以ってゼノの左腕を裂き、シュバルドラインの右腕を砕き、
夜華の左足を削ぎ、春菜の右足を切断。
さらにみさおの頭を石畳に叩きつけ、聖の足を掴むと、勢いとともに石板に叩きつけた。
───僅か10秒にも満たない攻防。
否、攻撃こそ存在したが、そこに防御など無い。
ただ一方が一方を抵抗させぬままに黙らせただけ。
ひとり動けないでいるみずきは、そんな景色に絶望するだけだった。
弱るどころの問題ではない。
弱らせられればそれ以上に強くなり、
力の向上から度外されていたというのに爆発的に力が増したのだ。
その結果がこの圧倒的な敗北だ。
───既に立っている者はおらず。
ただその鮮血の景色の中、狂ったバケモノだけが愉快そうに笑っていた。
豆村 「はっ……く、そ……!夢なら……醒めてくれ……!」
そんな景色の中、自分を回復した彼は立ち上がった。
骨がようやくくっつき、呼吸が満足に出来る程度の状態だ。
だが今のバケモノ相手では、それこそ一秒とかからず殺されてしまうだろう。
それでも彼は立ち上がった。
意識がある以上、戦える以上、
戦わないのは格好が悪いからというつまらない意思の下だった。
それでもそれは、彼が自分で描いた信条なのだ。
だから無謀と知りつつ向かい合った。
足の震えを押さえようとしているというのに余計に震える足に涙を流しながら、
あまりの恐怖に涙しながらも向き合った。
そして───その気配に気づいたソイツが笑いを止め、姿を消した次の瞬間───!!
「───消えろ。そいつで遊んでいいのは俺だけだ」
乾いた苛立ちとともに、黒い極光が降り注ぐ───!!
───ガガォンガォンガォンガォンガォオンッ!!!!
バガァアッシャァアアアォオオオオオンッ!!!!!
豆村 「───!?あ、うあぁあああああああっ!!!!!」
それはまるで真っ黒な柱の雨。
一撃一撃が呆れるくらいの破壊を齎すソレはいとも容易くバケモノを飲み込み、
右腕から右足、股、左足と、順を追うように削ぎ殺してゆく。
───そして。
威力のあまりに恐怖し、一歩引こうとして蹴躓き、
後方に倒れそうになったみずきの背を、力強く抱きとめる存在があった。
豆村 「えっ───お、親父!?」
彰利 「よ、無事か?」
───弦月彰利である。
既に黒衣に身を包んだ豆村みずきの父親は、己の息子を抱き止めてバケモノを睨みつけた。
そして言葉を吐く。
彰利 「……呆れたな。マジで生きてたのかよ」
豆村 「え───親父、あいつのこと知ってるのか……!?」
彰利 「………」
彰利の言葉に、深手を負ったが意識はあるそれぞれが彰利を見る。
みさおと聖は月生力を全開にしてそれぞれを回復しながら、その意味を探った。
みさお「彰衛門さん……あのバケモノはいったい……?
わたしは……あなたと父さまと永い間同じ時を過ごしました。
ですがあんな存在は見たことが……。
死神の力を持ち、神の力まで持つ存在なんて、
わたしと父さま以外に存在するのですか……?」
彰利 「───ひとりだけ居る。
ちっと柾樹に用があって戻ってきたんだけどな、その時に解ったよ」
みさお「柾樹───?何故柾樹に会うことで解るのですか……?」
疑問点が浮かぶ。
およそ月の家系やこんな化け物とは縁遠い存在である柾樹の名が、
なぜここに来て出されるのか。
だがそれは早合点というものだ。
彰利が述べた言葉は柾樹が全てを知る者、という意味ではもちろんない。
彰利 「あいつは有り触れたニュースを見てた。
ああ、最近じゃあ何処でもやってるようなニュースだな。
けどそれこそがこいつの正体だ」
聖 「正体……?それって……」
彰利 「───博物館。
そこで起こった爆発事故の際、ひとつの展示物が消えたんだそうだ。
最初は泥棒かなにかだとか騒いでたけどな。
そんな重いものを爆発に乗じて持ち去ることなんて常人には無理だ。
……そう、展示物が自分で動かない限りはな」
夜華 「展示物が自分で……?なにを言っている、彰衛門……」
ますます解らない。
彼らと彼女らは表情を歪めた。
だが───その中で、みさおだけが青ざめた表情をしていた。
その間にバケモノは身体を再生させ、
これ以上無いってくらいの衝撃とともにさらに力の増幅させた状態で再生させる。
身体をより強靭に、強く。そしてついに、顔と記憶までもを───!!
彰利 「会ったことがある筈なんだ。思い出せみさお。
世紀の発見と謳われた“人の形を保っていた化石”の真。かつて最強を誇り、
お前を食らうことでお前の持つ全ての力を融合吸収した絶対の王。
その過程で神や死神の力をも保有し、
現皇竜王である悠介の一撃にて敗れ去った伝説の“黒竜王”───!!」
みさお「ッ……!ゼット=ミルハザード……!!」
ゼット「オォオオオオオオオオオッ!!!!」
───そう。
それこそバケモノの正体。
かつて悠介に敗れ、
時の濁流に飲まれた果てに遥か太古の地界の火山へと沈んだ伝説の黒竜王。
本来そこで滅びる筈だった彼はしかし、マグマの熱でも死ぬことなく───
しかしマグマから抜け出すほどの余力も残っていなかったため、
そのまま時を経て化石と化した。
だがそれでも彼は死ななかった。
気が遠くなるほどの時を経て現代に至り、
だがその時は彼の体を蝕み、脳さえ腐らせようとしていた。
だが本能こそは“晦悠介”への憎しみを忘れてはいなかった。
だからこそ晦悠介が保有する“神魔”を探し、死神化したみずきたちの力に反応し、
“神魔”を解放したみさおにこそ、より一層反応したのだ。
───だが。
何故彼は今になって化石状態から復活したのか?
その謎こそが、以前悠介がルナの前で神魔霊竜人を解放した時の謎の気配にある。
忌むべき存在の波動を感じたミルハザードは、それをきっかけにゆっくりと目覚めた。
やがて記憶を無くした狂人と化すと、身体に纏わりつく化石を払拭するために力を解放。
あまりの威力に博物館を爆発させたのだ。
ゼット「ツゴモリ……ツゴモリィイイイイイイッ!!!!」
咆哮が放たれる。
その迫力はかつてを軽く越している。
彰利 「っ……」
そう。ここに来て彼らには誤算が生じた。
自覚することも出来ない誤算だ。
彼ら彼女らがバケモノだったミルハザードを切り刻み、
破壊する過程でミルハザードは進化してしまったのだ。
かつては発動さえ出来なかった神の力の発動と死神の力の覚醒。
加えて、恐らく神魔の解放さえ可能になったソイツは最早生きた破壊の象徴。
彰利 「……みずき、離れてろ」
豆村 「だっ……大丈夫なのかよ親父!
いっつもチャランポランだったあんたなんかが───」
彰利 「……いいから。お前には深冬ちゃんを守るって未来があるんだろ?
だったらなによりもまずそれを優先させろ。俺がどうなろうが気にするな」
豆村 「───……!」
その驚愕はどこから来たものだったのか。
みずきは、初めて見るあまりに凛々しすぎる父親の姿に胸を打たれていた。
同時に、知らなかったんじゃない、知ろうともしなかった自分に腹が立った。
豆村 「だ、だめだ……!やめろ親父!勝てねぇよ!
勝てるわけがねぇ!!あんな化け物───!!
な、なんなんだよ“ミルハザード”って!
解らないことばっかで頭が混乱してるんだよ!
謝らなきゃいけないことだってきっといっぱいある!
今あんたに死なれちゃ、俺は───!!」
彰利 「……ゼット=ミルハザード。十八年前、悠介がやっつけた伝説の黒竜王だ。
それだけ解ってりゃいいよ。けど……頑張ったな、みずき。
あのミルハザード相手によく生きていられた。
ちったぁ成長したってことなのかな?
ま、暇潰しにお前の中の死神化を少しずつ促進させてやってたのが効いたのかな?
あっはっはっはっは!!」
豆村 「親───っ!?」
みずきとあまり背格好の変わらない父親。
そんな彼が、ニカッと笑いながら彼の頭を撫でた。
それは、きっとなんでもない気まぐれ的な行為だったんだろう。
けれども喧嘩ばかりで、
いつも掴み所が無い父親が───恐らく初めてしてくれたであろう行為。
みずきは何かを言おうとしたが、しかしそれは彰利にこそ遮られた。
彰利 「大丈夫だ、死にゃしないって。
さて───……残念だけどな、ミルハザード。ここに悠介は居ない。
だから代わりに俺が相手してやるよ。眼が存在してなかったとはいえ、
みさおを殴ったことはお前にとって辛い事実だったろ。
鬱憤晴らしなら付き合うぜ」
ゼット「ツゴモリィイイイ……!!ルォオオオオオオオッ!!!」
彰利 「聞いちゃいないな……下がってろみずき。出来るだけ遠くに」
豆村 「けどっ───!!」
彰利 「───卍!解!!」
最早問答をしている余裕などなかった。
彰利は月操剣ルナカオスを黒から引き出すと、それに全ての鎌を込めて強く握った。
───躍動する黒。
身体は刹那に漆黒に変異し、呆れるくらいの力の波動が彰利を中心に渦巻く───!!
彰利 『───“影鎌繰り殺ぐ闇黒の秩序”()!!』
───完了する卍解。
見よ、最強の黒竜よ。
これこそが死神の王。
全ての死神の鎌を有し、卍解に至らせ、
その力の全てを自分のものとして行使するに至った至高の死神の姿なり───!!
彰利 『いくぜ黒竜王……!お前のその執念……ここで全部砕いてやる!!』
ゼット「グバァシャァアアアアアアアッ!!!!!」
やがて激突する黒と黒。
記憶を取り戻したゼットの身体はみるみる黒く染まり、
かつての竜人の姿を思い出させる姿へと変貌した───!!
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