───黄色い太陽がいっぱい/プールサイドの怪力無双───
【ケース361:中井出博光/ヒロミチュード・カニバリズムハート】
ばしゃばしゃばしゃばしゃ……
ナギー『ヒロミツ、やはり臭いのじゃ。なんとかせい』
中井出「だめだ」
ナギー『少しは考えてから返事するのじゃ!』
シュカァと照る眩い日差しの下、この博光はナギーとシードに泳ぎを教えていた。
……んだが、どうにもナギーが臭い臭いとやかましいのである。
そりゃな、自然の精霊なんだから、塩素入りの水なんぞ知らんのだろうけど。
俺達の中じゃあ当たり前だからなぁ。
ナギー『そもそも水がおかしいのじゃ。空気も濁っておるし』
シード『僕は別にどうってこともない』
ナギー『それは当然であろ』
あんな腐臭まみれの場所で産まれりゃ、そらぁなぁ。
とはいえ、こうしていても埒も無し。
早く泳ぎを教え、俺も盛大に騒がねば〜〜〜っ!!
中井出「とはいえ……」
ズズゥウ〜〜〜〜〜と辺りを見渡す。
と、おるわおるわの男女の人垣。
広いとはいえ、こうまで多いとぐったりしてしまうってなもんだ。
しかもナンパメンが多いこと多いこと。
猛者どもの中にもナンパされる女たちが相次いでいるとの情報も得た。
嬉しい誤算なのか計算づくなのか、tell機能はそのままついているのだ。
……って、考えてみりゃ当然か。
あれは精神の中での出来事で、精神の俺達がネックレスをつけてる限り、
俺達は精神で繋がっているんだ。
なんて思っていると再びナンパされているらしき女を発見。
って、あれは───
男 「ヘイ彼女〜、一人?俺に付き合えヨ」
夏子 「絶滅種族かと思ってたのに……」
木村夏子二等だ。
ナンパ文句にむしろ感動してるフシはあるが、それでもヤツの心は藍田のもの。
そして───ズチャッ……。
男 「あん?」
オリバ「馬鹿だぜアンタ」
男 「!」
謝謝、楊海王……ベッシアアア!!ベキバキ!ペキッ、コキンッ……
……潰れた。
後ろから頭に手を乗せられ、一息でぺしゃんこだ。
ナンパした相手が悪すぎたなこりゃ……とはいえ死ぬから、ほんと。
中井出「麻衣香!?麻衣香ァーーーッ!!死者が出る!回復をーーーっ!!」
麻衣香「また!?もうっ、いい加減にしてよ!」
さすがの麻衣香もうんざりモードである。
何故って、ナンパに来た男たちを猛者どもが悉く血祭りにあげているからである。
……今までのナンパメンの中で、こうもグシャグシャなのは初だが。
男1 「な、なんだぁーーーっ!!あいつはぁーーーーっ!!」
男2 「オ、オイ見てみろ!あんなところに物凄い褐色マッチョが!!」
男3 「頭薄いぞ!」
男4 「あ、ああっ!俺知ってるぞ!?確か一昔前の漫画、バキってやつに出てた男!
名前は確かえっと……で、出てこねぇけど、怪力無双なアイツだ!!」
男5 「あ───俺も知ってる!オリバッ!ビスケット=オリバッッ!!」
男6 「怪力無双……」
男7 「トランクス一枚になると一段とスゴいな……」
男8 「胸が……まるでケツだ……」
男9 「腕が……頭よりデカい……」
男10「だいたい技が通用するのか……?」
技をきめるつもりはさらさら無いんだろうが、民衆は思いっきり怯えていた。
そりゃそうだ、平凡でキャイキャイと賑やかなプールに、突如舞い降りた怪力無双。
そんなマッチョに人々は驚愕しきりなのだ。
我ら原中だってまだまだ驚愕できるほどのマッチョなのだ、初めて見る人じゃあそうなる。
麻衣香「みんな注目!」
総員 『ざわっ……!』
と、ここで麻衣香がテシッ、と石の地面を踏みつけるように叫んだ。
靴とか履いてたら“ダンッ”といい音が鳴っていたんだろうが……
麻衣香「これからナンパする人が来ても、まず話し合うこと!
こんなに怪我人出されたんじゃたまらないよもう!」
岡田 「なるほど一理ある……」
総員 『だが断る。我ら原中が最も好むものの一つは!
懇願してくる同じ猛者にNOと断ってやることだ!!』
麻衣香「今回ばっかりは断らないでよぉおっ!!もうやだぁーーーーっ!!!」
ヘタに回復役に回ったのが効いたな……。
麻衣香は涙を撒き散らしながら頭を抱えてぶんぶんと左右に振っていた。
そんな麻衣香の傍らでは、さきほど潰された男がムクリと立ち上がって、
男 「ひ、ひぃいいっ……!!」
這うようにして逃げていった。
回復してもらったお礼は一切無いらしい。
男11「すげぇ!潰されたヤツが平然と走っていったぞ!」
男12「どうなってんだありゃあ!」
中井出「特撮だ!!」
男ども『特撮か!!』
みんな納得してくれた。
ああ……ほんと人間っていい加減。
男13「け、けどよ、あんなにベキバキ鳴って、特撮もなにも」
男 「オルラァッ!!」
男ども『ざわっ……!』
突如聞こえた声ッ!
何事かと振り向いてみれば、ナイフを持った先ほどの男がッ……!!
男 「ナッ……ナメてんじゃあねぇぞ……!
これでも俺ャア何度も問題起こしてんだ……!今さら誰か刺したところでッ!!」
女1 「きゃああ!ナイフを持ってるわっ!」
いや、そんなもんは見れば解るから。
女2 「い、行コッ!守山くん!」
男35「えっ?お、おうっ……」
流石にナイフは危険だと判断したのか、民たちが逃げてゆく。
だが逆に、我ら猛者どもは冷静だった。
むしろオボクサマの話を続行させている者だって居るくらいだ。
オリバ「ン〜〜〜〜……」
男 「オ……オルラァッ……!!オ、ラァ……!!」
ズチャッ……ズチャッ……ズチャッ……ズチャッ……
男 「オラァ……オ、オラァアア……!!」
ゆっくりと、だが確実に近づいてゆく怪力無双を前に、
ナイフを持つ男はレックスに遭遇した不良のようにガタガタと震え出した。
ちなみにレックスってのはバキ外伝の花山さん物語に出てくる巨体の持ち主だ。
オリバ「ココニハ俺タチ以外ニ人ハ居ナイ……逃ゲチマッタカラナ。
本当ニ……本当ニヨク現レテクレタ……。コレデ邪魔ハ入ラナイ……。
イヤァ……嬉シクッテネ……」
言いつつ、あまりに馬鹿げた筋肉の多さ故か、
申し訳程度にしか見えないパンツからズチャアと櫛を取るオリバ。
それで何故か筋肉ゴリモリになりつつ血管を浮き上がらせながら、
薄い髪の毛を梳かしてゆく。
オリバ「米国ジャ……私ノ前ニ立トウナドト言ウ強者ハ……
トウノ昔ニ居ナクナッテシマッタ」
中井出「生粋の日本人だろうがお前!!」
下田 「や、やめるんだ提督!」
瀬戸 「ヘタにツッコんで標的がこっちになったらどうするの!?」
オリバ「アドレナリンガ分泌シテイルノサ。闘志満々ダ」
総員 『関係ねぇ!!』
そんな言葉を聞きつつ、とうとうオリバが男への距離を完全に詰めた時だった!!!
男 「オッ……うわぁあああっ!!!」
あまりに馬鹿げた超規格外の筋肉を眼前に、
緊張の糸が切れた男がヤケを起こしてナイフで攻撃を仕掛けたのだッッ!!
普通ならばこれで危ないと思うんだがバギィンッ!!
男 「オワッ!?」
ナイフはあっさりと折れ、キャリィンと地面に音を立てて落ちた。
もちろん男は初めて目にする事態に思考がついていけず、
ガタガタと震えながら折れたナイフとオリバの腹筋を見比べるばかり……!
一方のオリバといえば───
オリバ「…………ド…………イ…………ル…………」
何故か腹筋を庇うようにして目を見開き、苦しがっていた。
中井出「いやだから刺さってない!刺さってないって!なに切なそうに言ってんのキミ!」
丘野 「こりゃあツッコまずには居られねぇでござるーーーっ!!」
オリバ「わたしの筋肉の厚さは世界一だ。
こんなちっぽけなナイフじゃ内臓まではとてもとても」
飯田 「だったら苦しそうに言うなよ!」
総員 『まったくだ!!』
と、そんな俺達の言葉を当然のようにシカトし、ズチャリと男に向き直るオリバ。
男 「ア……ア、アア……!?な、なんで……!?刺したのに……!
信じられねぇよ……どうなってんだよこれ……!」
オリバ「無理ダ……オマエサンガソノナイフ捌キヲ身ニ着ケルタメ
ドレホド鍛錬ヲ積ンダノカハ知ランガ───
俺ガ本気()で腹筋ヲ固メタトキニハアキラメタ方ガイイ……」
男 「ふ───ふっき……腹筋!?」
オリバ「オマエサンガ周リヲ脅カスタメノ技術ヲ身ニ着ケルタメニ
想像ヲ絶スルトレーニングヲシタヨウニ───
俺ハ俺デ色々ヤッテイルノサ……幾度モ、幾度モ、幾度モ……」
下田 「……不良になるための想像を絶する努力ってなんだろな」
灯村 「あ、俺も気になった」
丘野 「すげぇでござるな……ヤツはそこまで不良になりたかったのでござるか……」
中村 「不良の鏡だぜ……」
岡田 「男……俺はお前を誤解してたぜ……」
男 「なっ……なんだよてめぇら!人のことを何処までもやさしい顔で見やがって!
み、見せもんじゃねぇぞ!?失せろよ!」
男が折れたナイフで俺達を牽制する───が、
こうなってしまった猛者どもはもう止められんのだ。
もちろん俺も止める気無し。
むしろ全力でこの男を───からかう!!
中井出「よぅしヒヨッ子ども!オリバが男の顔面を掴んで頭突きする前に、
超不良を目指す男を胴上げだ!」
総員 『サーイェッサー!!』
男 「オ、オワッ!?なんだてめぇら近寄るんじゃねぇ!
来んなって言って───うおっ!?」
男衆 『ワーーーショイ!ワーーーショイ!!』
女衆 『ワッショイワッショイワーーーッショイ!!』
男 「や、やめっ……やめてくれぇええーーーーーーっ!!!」
やがて始まる強引な胴上げ絵巻。
こうして男は“想像を絶する不良トレーニングをしている”という伝説を築き上げられ、
いつしか日本における最強の不良にドグシャア!!
男 「うぶわぁっ!?」
岡田 「うおっ!?しまった落としちまった!」
蒲田 「こりゃやべぇ……とんずらぁああーーーーーーーっ!!!」
とても硬い地面に脇腹から落ちた彼は、
平均台で脇腹を強打して血反吐を吐く浦安鉄筋家族の中田ちゃんのように血反吐を吐き、
ピクピクと痙攣していた。
麻衣香「はぁ……」
そんな彼を見て溜め息を吐く猛者が一人……麻衣香である。
だが俺は妻である彼女の肩にポムと手を置くと、自業自得だと結論づけた。
ナンパするのにナイフまで持ってきちゃあいかんよなああ〜〜〜っ。
そんなわけで我らも、
そして逃げ出した猛者たちも各々で好き勝手にやろうと決めたのだった。
───……。
そんなわけで───
ナギー『うむ。ここの水だけ綺麗にしたのじゃ。もう臭くないし平気なのじゃー』
勝手にプールの水を浄化してしまったナギーや、
シード『父上見てください!僕泳げるようになりました!』
既に永久水泳でも出来そうなくらいの進化を遂げたシードとともに、
俺達は気侭に水との戯れを堪能していた。
もちろん二人だけじゃなく、なんだかんだで麻衣香も一緒に居てくれてるんだが。
麻衣香「やっぱりその腕の……なんだっけ?れい……?」
中井出「うむ、霊章である」
麻衣香「あ、そうそう。それって消えないの?」
中井出「グーム、どうやら魂のレベルで植えつけられているようなのである。
そんなわけで旦那にタトゥーがついた妻の心境はどんな感じなのか聞かせてくれ」
麻衣香「めげないね……。でも、そうだね。
べつに彫ってあるわけじゃないから嫌悪感はないかな」
中井出「そかそか」
それはよかった。
タトゥーなんて言語道断!と言われたら、さすがにバツが悪いというか……なぁ?
だが消してくれといわれても困るのも事実!
何故ならば、これは俺がファ〜ンタズィーで手に入れた夢の証!
勲章と言ってもいい!
この博光は面白いことを愛してる!
その結果がこうして残ることになんの文句があろうか!!
冒険とはロマン!旅路とはファンタジー!
剣と魔法の世界には男の夢と希望がウェルカム!じゃなくて詰まっている!
そんな思いを無下に消すことなど出来るだろうか!いや出来ん!……反語。
麻衣香「それにしても……」
中井出「《ぺたぺた》フオッ!?」
突如、麻衣香が我が腕や胸板に触れてきた。
麻衣香「……随分逞しくなったね〜」
中井出「お?お、おお……まあ」
精神のレベルから鍛えられていってるためか、体つきも結構よくなってきていたりする。
以前の俺なんてひょろちぃって言葉が似合っているくらいだったのに、
今ではこう……なぁ?男塾とまでは行かないまでも、しっかりと筋肉があるのだ。
脂肪が少ない所為か、水が以前より冷たく感じるんだけどね。
などと冷静に分析してると、ふと肩をトトンと突付かれた。
中井出「だ、誰だ〜〜〜っ───おや穂岸」
遥一郎「悪い、この馬鹿どもを預かっててくれ」
振り向けば穂岸───だったんだが、
やたらと据わった目をしながら両腕に抱えたちびっ子を俺に差し出してきた。
えっと……サクラッ子とノアッ子だったっけ?
中井出「な、何故だ〜〜〜っ!り、理由を言え〜〜〜っ!」
遥一郎「読書の邪魔だ」
サクラ「みうっ!ひどいです与一!」
ノア 「マスター!わたしはただマスターにも娯楽の時間があればと───!」
遥一郎「だからって人の周りで観咲と一緒になってギャースカ騒ぐやつがあるかっ!
俺は荷物番でいいから遊んでこいって言ったって全然聞かなかったろお前らっ!」
サクラ「与一が一緒じゃないとつまんないです……」
ノア 「マスター、わたしは……」
遥一郎「いーから思う存分遊んでてくれ……。
せっかく束の間の安寧の時間を獲得できたんだから……」
雪音 「あ、ホギッちゃん見っけたー!一緒に泳ごー!?」
遥一郎「はぁ……」
穂岸は……なんというか見ていても悲しくなるくらいに溜め息を吐いていた。
こいつはこいつで苦労してるんだなぁ……。
雪音 「ちょっと移動してた間に居なくなるなんてヒドイよぅ。
ほら、動く気になったなら泳ご?ね?」
遥一郎「頼むから、一人で溺れててくれ……」
雪音 「溺れること前提なの!?ホギッちゃんヒドイ!わたし泳ぎには自信あるもん!!」
遥一郎「俺はいいって言ってるだろ?蒼木でさえ姐さんと一緒に繰り出してるんだ、
お前がここで燻ってる理由はないだろ」
雪音 「うー、だってわたし、まだ彼氏とか居ないし……」
遥一郎「………」
モブルシャアと穂岸が溜め息を吐いた。
あ、もちろん効果音は俺が勝手に決めたんだが。
遥一郎「お前、ちょ〜〜っとこっち来い」
雪音 「え?やっ、いたっ!ちょ、ホギッちゃん!?耳引っ張らないでよ千切れるよぅ!」
中井出「………」
なんだったのか。
二人は一方が引っ張り、一方が引っ張られる格好でこの場をあとにした。
……しっかりと、桃色娘と金髪娘を置いて。
サクラ「……置いてかれたです」
ノア 「あなたがマスターを引っ張ったりするからですよ、サクラッ」
サクラ「違うです、ノアだってお茶を用意するとか言って、
買ってきた紅茶を与一にぶちまけたです」
ノア 「うぐっ」
サクラ「犯人です」
ノア 「人を殺人犯みたいに言わないでくださいっ」
……と、まあ……突如として喧嘩めいたものを開催した二人を見て、
俺は小さく思うのだった。
最近のちびっ子は元気だなぁと。
いや、昔からか、そんなのは。
中井出「で……娘らよ。読書の邪魔しただけでここに連れてこられたのか?」
ノア 「サクラが引っ張りすぎて、マスターが顔から地面に落下しました」
中井出「うわ痛ッ!!」
サクラ「違うですっ、ノアも代えの紅茶を買ってきて、それもぶちまけたですっ」
中井出「熱()ッツゥーーーーーッ!!」
サクラ「しかも熱がってた与一を立たせて、慌ててプールに突き飛ばしたら、
その先にヤクザさんが居て、イチャモンつけられたです」
ノア 「あっ、あれは想定外というかっ……!」
サクラ「見事な頭突きだったです。ヤクザさんはそれはもう大激怒だったです」
中井出「………あぁ……いや……うん……もういいや……」
麻衣香「穂岸くんがキミたちを預けに来た意味、よ〜〜〜〜っく解ったから……」
聞いてるだけで泣けてくるような感動秘話だった。
いっそヤツが哀れよ。
中井出「じゃあ、悪いけどあいつらと遊んでやってくれないか?」
サクラ「誰です?」
中井出「あそこの、頭にサークレットつけたままの緑色の髪の小娘だ」
サクラ「あの緑色です?」
中井出「あの緑色です」
ノア 「すぐ傍に居る一名は……」
中井出「シードだ。銀色の髪と真紅の瞳がセールスポイントだ」
ノア 「なにを売る気ですか」
中井出「顎だ!顎を売るんだ!キャッチコピーは銀色の髪のアギト!これは売れる!」
麻衣香「て〜いとく、そこまで無理矢理に話を広げなくていいから」
中井出「ヴ」
今や麻衣香が俺を提督と呼ぶ時は、
あまり行き過ぎないようにと諌める時に使われるのが主。
最近じゃあすっかり尻に敷かれているようで……トホホイ、男って弱ェエ。
中井出「と、ともかく遊んでやってくれると大変嬉しい」
サクラ「べつにいいです」
ノア 「……ふぅ。確かに今さら、マスターに会わせる顔はありませんからね」
サクラ「会わせなければいいです?」
ノア 「そういう屁理屈は身を滅ぼしますよ、サクラ」
はぁ、と溜め息を吐きながらプールに入る金色。
一方の桃色は梯子が珍しいらしく、
プールによくある梯子をぺたぺたと触っては、なにかに感動していた。
うーん……よく解らん娘だ。
でも金色は交渉上手らしく、簡単に緑色と銀色と打ち解けた。
さらには中々来ない桃色を引っ張り、合流。
麻衣香「……しっかりしてるんだね、ノアちゃん」
中井出「まあ……そこはほら、実年齢から考えりゃあ、なぁ」
若返った姿は子供的な彼女たちだが、
元の年齢からすればお姉さんって言葉が合う二人の筈。
そう考えると、天然っぽい桃色の相手をしている穂岸の苦労が目に浮かぶようだ。
しかし、改めて見ると……緑、銀、桃、金と……やたら妙な色が揃ったもんだ。
しかも地毛色っていうんだからこれまた不思議。
天界とゲーム界の神秘が今まさに集っていた。
丘野 「ハッピーでござるか?」
中井出「おう丘野二等か。貴様今まで何処に?」
丘野 「適当に走り回ってきたでござるよ。もちろん監視員には見られぬ速さで」
殊戸瀬「わたしは、ジュースを」
蒲田 「俺は晦が弦月を救出してた現場を見てきたけど」
麻衣香「救出?またなにかやってたの?」
蒲田 「キャベツパン食って死んだんだって」
総員 『あ〜なるほど』
いつの間にやらぎっしりと戻って来ていた猛者どもが一斉に頷いた。
さすが彰利だ、既に死ぬことさえ常識的に考えられてる。
蒲田 「そいで……提督達はここで何を?」
島田 「我らが逃げたのちもずっとここに居たようだが……」
沢村 「もしかしてヒューマンウォッチング?」
丘野 「おお……さすがエロマニアでござるな」
中井出「勝手に話を進めた上にエロマニア言うのやめましょうね!?
お、俺達はあれだ、穂岸にあの桃色と金色を頼むって託されて───」
殊戸瀬「それで誰も見てないことをいいことにプールの中で押し倒」
中井出「さないよ!!エロから離れろって言った矢先になんて妄想を!
大体水の中で押し倒したら溺れるよ!?溺れるよね!?」
殊戸瀬「大丈夫。夢を追うことは悪いことじゃないらしいから。
それを貫いた人だけが勇者となって檻の中で時を過ごすの」
中井出「檻の中で過ごす勇者ってどんな勇者!?なりたくないよそんなの!!
しかも質問の答えにもなってねぇ!!」
丘野 「まあまあ提督殿、落ち着くでござるよ。
せっかくこうしてナギー殿やシード殿も泳げるようになったのでござる。
どうせなら───」
ニヤァと丘野くんが笑う。
……なるほど、久しぶりにあれをやろうというわけか。
中井出「総員聞けぇーーーい!!」
総員 『イェッサァッ!!』
あちらこちらを見ていた猛者どもがビッシィと敬礼をし、俺を見る。
大勢の人から見られるってのはこれで案外緊張するもんだが、そこはこの博光。
中学時代からこんな調子だったためか、もう既に慣れてしまっている。
中井出「いいかヒヨッ子ども!これより水中演習を始める!」
田辺 「サー!発言許可を願います!」
中井出「うむ!なんだ田辺二等兵!」
田辺 「サー!水中演習とは、いったいどのようなものをするのでありますか!」
中井出「うむ!これより始める水中演習とは、
水中の中で如何に機敏に動けるかが勝負の決め手となる演習!!
まず───殊戸瀬二等兵!」
殊戸瀬「大丈夫、こんなこともあろうかと用意してある」
中井出「うむよし!まずこの黒のハチマキを総員が額に巻き、
適当な場所に待機してから開始!ルールは簡単!取られれば敗者、取れば勝者!
取られた者は大人しくプールから上がること!
しかしただ待っているだけではつまらん!
プールサイドからだろうがプール内の者のハチマキを取れば、
それが敗者の勲章となり、その者は復活することが可能!!
取られた者はたとえ敵から奪ったハチマキがあろうとも、
敗れた時点で全てのハチマキを捨てねばならない!
さらにプールから上がった者は問答無用で失格!」
総員 『ざわ……!!』
蒲田 「て、提督……それはまさか……!」
下田 「あの懐かしき原中在学中に伝説と化したプールの戦い……!」
中井出「そう!これよりあの伝説の戦い、“棲威肘殺死唖武()”を復活させる!!」
沢村 「しょ、正気なの提督!あの恐ろしい戦いを……!?」
水島 「あの、男も女も関係なく、ただハチマキのみを望んだ血塗れの戦いを……!?」
神楽 「きっと大変なことになるわよ!?今からでも───」
中井出「なお今回は特別ルールにより!
ヒロラインパワーを存分に使っても構わないものとする!
魔法だろうがなんだろうが存分に使い、意地でもハチマキを奪還せよ!!
最後まで勝ち残った猛者にはこのプールの名物、
超豪華な味わいが楽しめるシェフ料理がプレゼントされる!」
総員 『よし乗った!!』
みんなとても正直だった。
中井出「ヒヨッ子ども!後悔しないな!?必ず戦い抜くと誓うな!?」
総員 『サーイェッサー!!』
中井出「よく言った!もはや何も怖いものは───」
オリバ「ナニモネェ……ッテユウコトカ」
総員 『怖ェエエーーーーーーーーーーッ!!!!』
やっぱりみんな正直だった。
そうだ、忘れてた……この怪力無双が居たことを。
下田 「ア、アワワ……!」
岡田 「か……怪力無双……!!」
島田 「これほどのものかッ……!」
飯田 「胸が……まるでケツだ……!」
永田 「腕が……頭よりデカい……」
蒲田 「だいたい技が通用するのか……?」
田圃ファミリーを始めとする猛者どもが、怪力無双を見て震えた。
そう……ハチマキ全てを手に入れるには、ヤツとも戦わなくちゃならないのだ。
これが脅威でなくてなんだッッ!!
そう、この博光は!猛者どもはッ!紛れも無く恐怖しているッッ!!
誰あろう、目の前の怪力無双にッッ!!
総員 (プールだから海パン穿くのは当然なのに、
怪力無双が穿いてるだけでただのパンツに見えるのはどうしてだろう……)
でも心がちょっとだけ軽くなった気がした。
よし大丈夫!だ、大丈夫!……だよね?
中井出「うだうだ言っても埒も無し!!こうなりゃやるしかねぇ!
叫べヒヨッ子ども!イェア・ゲッドラァック!ラァイク・ファイクミー!!」
ザザァッ!!
総員 『Sir()!!YesSir()!!』
叫ぶと同時に、殊戸瀬の手からハチマキを取ってゆく猛者ども。
当然俺も適当に取り、ギュッと締めると気も引き締めた。
さあ……これより始まるは一時の宴。
血で血を洗う、醜き死餓鬼どもの戦いである。
言うなれば相手は“念願のハチマキ”を持っている者で、
俺達はそれを殺してでも奪おうとするRPGの主人公。
それぞれがきっとそんな感じなのだ。
周りに味方など居ない。
それがこの原中封印名物その壱、棲威肘殺死唖武()である。
中井出「総員配置についたか!」
総員 『サーイェッサー!!』
中井出「ではこれより原中名物棲威肘殺死唖武()を開始する!!
各自、武器を使おうが魔法を使おうが構わん!
だが公共物破壊だけはやってはいかん!」
佐東 「武器の使用許可だってぇ!?訓練とはいえ命懸けだぜ!!」
中井出「あ、やっぱ斬ったり斬られたりはマズイな。拳で語れ!!」
総員 『サーイェッサー!!』
ノア 「……あの。それはわたしたちも……?」
中井出「参加は自由!ハチマキを巻いた時点で五体満足にはいられんと知れ!!」
ナギー『わしが相手でも殴るのかの?』
中井出「見縊るな!この博光、誰であろうと参加した限りは差別などせん!!」
藤堂 「そうだ!」
皆川 「その通りだ!!」
三島 「よく言った!!」
中井出「まずはそこで見ているがいいナギーよ!我ら原中の間に男女差別など微塵も無し!
相手が女だろうが殴る!蹴る!どつく!投げる!極める!締め上げる!!
周りが最低などとどれだけ謳おうが周りの常識なぞ知ったことではない!」
総員 『それが我らの原ソウル!!』
中井出「よろしい!ならば戦だ!
全力を以って生き残るために貴様らヒヨッ子どもに復唱を命ずる!
総員復唱!!“戦闘開始”()!!」
総員 『サーイェッサー!!復唱します!“戦闘開始”()!!』
中井出「うむよし!それでは始めるぞヒヨッ子ども!
ここを戦場と思い、どんな手段を使ってでも生き延びよ!!」
総員 「サーイェッサー!!」
中井出「演習ッ!始めェーーーーーーイ!!!」
総員 『Sir()!!YesSir()!!』
ザバァッ!!
各地に配置付いた猛者どもが一斉に動きだす!
しかしその動きは既に地界人の標準を遙かに越えている!!
永田 「ヒョハァーーーッ!!」
飯田 「ニュフーーーーッ!!」
ザババァッ!!───永田と飯田がまず先手を取った!
向かう先は……なんとオリバ!!
一人がやられても一人が奪えばいいと踏んだのだ!
やがて全速力から発揮されるであろう速度で、
オリバのハチマキに手を伸ばしバゴルチャドッパァンッ!!!
永田&飯田『ほぎゃああああーーーーーーーーっ!!!!!』
両手でそれぞれが殴られ、別のプールまでの距離を一瞬で素っ飛んで
バキベキゴロゴロズシャーーーアーーーッ!!と転がり滑ったのちに流れるプールに落ち、
プ〜カ〜……と浮きながら流されていった。
総員 『ざわ……』
その様子に、動き始めていた猛者どもの動きがビッタァと止まる。
もちろん俺もゴ、ゴクッと息を飲んだ。
藤堂 「ア、アワワ……!」
皆川 「武器がどうとかの次元じゃあねぇ……!」
三島 「ヤツのアレ……あの五体こそが凶器ッ……!」
沢村 「これはいけない……!たとえ最後に残れたとしても、
あの怪力無双相手に一人で立ち回れるわけがっ……!!」
吾妻 「み、みんな!ここはまず───」
七尾 「言われるまでもなくみんな一緒の気持ちよ!」
野中 「いくわよヒロくん!」
三島 「お、おうっ!」
綴理 「最後に潰されるよりも、今いってなんとか出し抜いた方が───!」
内海 「やっ……でも無謀なんじゃないかなぁ」
春日 「なんとかなるなるっ!」
津嶋 「それじゃ鮎さん?あなた特攻してらっしゃい」
春日 「うわやぁっ!?さすがにそれはちょっと!
それなら原中の貴子さんの異名を持つ貴子さんが!」
三月 「ああっ!津嶋さんが立ったわ!」
水島 「オボクサマの厳島貴子さんと名前が似ている貴子さんが立った!」
津嶋 「立っていませんっ!」
宇佐見「声も貴子さんにそっくりなのに、苗字が足りないなんて……」
美奈 「佐野くんと同じくらいもったいないよね……」
柴野 「佐野くんはうえきの法則の佐野清一郎に声が似てるのに、
名前が一文字足りないのよね……」
佐野 「そこでわざわざワイの名前出すなやっ!」
夏子 「せっかくの前原圭一くんボイスなのにね」
そんな賑やかさ(賑やかであろうと努力している)を前に、
俺はこの先の未来をなんとなく詠んでいた。
……まず間違い無く、全員潰されるんだろうなぁ……とか。
きっとみんなもそれを理解しているからこそ、
わざと無理に賑やかにしているんだろうと思うと……
なんだか悲しくなってきた夏の日の昼下がりだった。
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