───蒼空下特大号/飛んで跳ねて悩んで叫べ───
【ケース362:穂岸遥一郎/ステッキンと愉快な仲間たち】
バゴロシャァアンッ!!!
遥一郎「だぁうわっ!?」
ドゴゴシャバキベキゴロゴロズシャーーーーアーーーーッだっぽーーーん!!
遥一郎「……おいおい」
なんとか観咲を説得し、読書の続きをしていた俺だが……
突然地面と平行に空を飛んで来た誰かを避けると、
ソレが俺が背を預けていた椅子なのかベッドなのかよく解らん……名前なんていったか?
ああ、ビーチチェア、だったか?ともかくそれに直撃。
ようやく地面に落ちるとそのままの勢いで地面を転がり滑って流れるプールへと落下し、
仰向けの状態のまま流されていった。
あれは……瀬戸、って女だったか?
ひどいな、女でも容赦無しってのは本当らしい。
遥一郎「……やれやれ」
確認するまでもなく騒ぎの渦中は原中だろうし、
俺は気にせず読書の続きをどごーーーん!!
男 「ギャアーーーーーーーッ!!!!」
……読もうとしたんだが、丁度寝転がるためのビーチチェアを立て直したところで、
通行人の男が飛翔してきた人間に撥ね飛ばされた。
そして一緒にバキベキゴロゴロズシャーと転がり滑ると、やはり流れるプールへと落下。
同じくプカ〜と浮き、流されていった。
……ちょっとシャレになってないと思うんだが、どうか。
いったい何が起きてるんだ……?
などと思い、持ってきておいた双眼鏡で遠くを見てみる。
と───まず目についたのが褐色の悪魔だった。
というかそれだけでもう十分だった。
遥一郎「…………」
筋肉の神様がプールで猛者どもを薙ぎ倒してた。
そりゃあ……あいつに殴られれば空だって飛べるよな……。
ゴォドグワッシャァアアアアアッ!!!!
遥一郎「だぁっ!!?」
双眼鏡の狭い景色の中、
誰かが殴られたと思ったら一瞬で俺の横のパラソル型の日陰に激突、破壊した。
そして奇妙に回転しながらドシャアと倒れるソイツは───中井出だった。
中井出「グビグビ……」
……ダメ、だな。
なんとか全力でガードしたんだろうが、胸に大きなヘコミ跡がある。
死んでないのが不思議だが、泡を吹いてて動こうともしない。
遥一郎「……セット」
仕方なしに唱えた。
このままほうっておくと死にそうだし。
そうなると、一応流れていったやつらも回収したほうがいいか……はぁ。
遥一郎「晦のことを強くなんか言えないな、俺……」
助けられるなら助けなきゃ、せっかく手に入れた力がもったいなドゴォンッ!!
遥一郎「げっはぁああああっ!!?」
突然景色がブッ飛んだ。
気づいた時には目の前にプールがあり、
俺は何が起こっているのかも理解できないままにプールに落下。
先ほどの教訓を生かして(ノアにプールに突き落とされた例)、着衣はしっかり水着だが。
まさか再び落ちるハメになるとは思ってもみなかった。
遥一郎「げっほごほぉっ!うぇえっ!!」
塩素臭さが俺を襲う。
プールの水を飲んでしまった所為か、これでもかってくらいの嘔吐感が現れた。
しかしそんな状況にも挫けずに……いや、慣れたと言うべきなのか。
ともかく俺を吹き飛ばした元凶を見ようと振り向いてみれば、
プカーと浮いている丘野。
……哀れな。
遥一郎「あぁもう回復回復……」
他人に知られないように、一度水中に沈めてから実行。
すると丘野はジャボォリと起き上がり、口と鼻から盛大に塩素配合の水を吐き出した。
丘野 「うげぇっふぇっ!!不味いでござるーーーーっ!!」
どうやらしこたま飲んだらしい。
丘野 「ハッ!?ここは……おお穂岸殿ではござらんか。荷物番の貴殿が何故ここに?」
遥一郎「飛んで来たお前に巻き込まれた」
丘野 「ゲッ……そ、それは失礼したでござる」
大変申し訳なさそうに謝ってくる丘野。
悪いことをすれば謝るのはいいところなんだが、
集団になるだけでどうしてあそこまでふてぶてしくなれるんだろうかこいつらは。
遥一郎「今どんな状況なんだ?どうせまた原中名物とかいうのをやってるんだろうが」
丘野 「まさしくその通りでござる。
しかし予想外なことにオリバの参戦を許してしまったのでござるよ。
おかげで拙者たちは空を飛び放題。先ほどの一撃など、死ぬかと思ったでござる」
それで弾丸と化して人を強襲したのか。
勘弁してほしい。
丘野 「おっとこうしちゃおれんでござる。
拙者、今一度オリバ殿に挑戦してくるでござるよ。
今や名物バトルではなく本気バトルと化したこの戦い、
負けっぱなしというわけにはいかんでござる!」
遥一郎「………」
ここは頑張れ〜、とでも言ってやるべきなんだろうか。
いや、頑張られたらこっちに危害が及ぶ可能性が……というか既に危害にあってるんだが。
結局荷物番やってても巻き込まれるんだもんな、どうしろっていうんだろうか。
声 「あ……おーいおっさーん」
溜め息をついているところに届いたのは凍弥の声。
おっさんはやめてくれと言ってるのに。
凍弥 「っと、おっさんは無しだったな」
遥一郎「どうせわざと呼んでるんだろ?それはいいから、何か用か?」
凍弥 「そうそう、周りの客が次々と帰り支度してるんだけど、なにか知ってるか?」
遥一郎「帰り支度って……おお」
改めてみてみると、確かにさっきよりも人の数が減っている。
見渡してみれば一人や二人、または一組や二組ずつコソコソと帰っていっている。
こりゃドゴォーーーン!!
男 「メギャーーーリ!!」
……いや、理由は解った。
というか目の前を横切っていったヤツが猛者の体当たりで吹き飛んだ。
体当たりなんて呼べたもんじゃないロケットまがいに吹っ飛んできた猛者の女だったが。
遥一郎「……帰りたくもなるか、これじゃあ」
丘野 「これはこれで面白いでござ《ブゴルシャ!!》るごぶっ!!」
凍弥 「うおわっ!?」
目の前に立っていた丘野くんが人身事故にあったかのように
バキベキゴロゴロズシャーと素っ飛んでいった。
一緒に飛んでいったのは……田辺、だったな、確か。
遥一郎「このままじゃ埒が明かないな……凍弥、騒ぎの渦中に行くぞ」
凍弥 「うえっ!?俺もか!?」
遥一郎「お前はなにか?精霊でもなんでもない俺に竜巻の中に飛び込めっていうのか」
凍弥 「ちょっと鍛えてるからって俺に行けっていうのかよ!
与一にだってヒロラインパワーがあるだろが!」
遥一郎「俺はそういう力に頼らないようにしてるんだよっ、自分が精霊とかならまだしも」
凍弥 「ヘンに生真面目で面倒臭い性格は相変わらずかよ……」
遥一郎「ほっといてくれ、俺ほど平凡な日々を願ってるヤツなんて他に居ない」
ただそれを許さない状況が周りにありすぎるだけなんだ。
ああ、くそっ、なんだって俺がこんなことで状況にせっつかれなきゃならないんだ。
よく考えてみろ、俺はこんな風に振り回される未来を望んでたのか?
楽しく賑やかな状況は好きだが、
無意味に喧噪に巻き込まれるのは俺の望むところだったか?
俺はもっと───
凍弥 「っと……与一?」
遥一郎「え……あ……」
気づけば、立ち止まった俺に凍弥が声をかけていた。
……そうすると、不思議と浮かんだ問題が砕ける。
俺はそれを頭を強くがしがしと掻くことで掻き消し、溜め息として吐き出した。
つまんないことはどうでもいい。
そうだよな、楽しけりゃいい。
……巻き込まれるのは勘弁だが。
望む楽しさと巻き込まれる楽しさはかなり違うと思うし。
───そんなわけで騒ぎの渦中であるプールに来たわけなんだが。
オリバ「なぁソノダよッッ!!いいじゃないか!全員に勝ったらブラックベルトだ!!」
清水 (片手で振り回されているッ……!80キロを超える私が……!!)
春日 「国明くん80キロも無いでしょ!?」
清水 「《バオッ!!》ほぎゃぁあああーーーーーーっ!!!」
ヒョーーーーーー……だっぱぁーーーーん!!
投げ飛ばされた清水が空を飛び、遠くのプールに落下した。
凍弥 「ビッ……ビスケット・オリバッッ!!」
丘野 「みんなで協力してヤツを倒すでござるよ!!」
遥一郎「無理だろ《キッパリ》」
丘野 「早ッ!!確かにかなり無茶ではござるが!」
ていうかいつの間に復活したんだキミは。
中村 「オリバ相手に素手では無理と判断するッッ!チョェエエーーーーーッ!!!」
ザクザクゾシャアッ!!
もはや素手では無理と判断した中村が武器を出現させて攻撃を加える!
が───
中村 「斬れ……ない!?」
オリバ「粗塩を肌にスリ込んである」
斬ったと思われた部位は、全く、全然切れていなかった……!
オリバ「古のベアナックルボクサーはそうやって切れにくい肌を完成させたものさ」
中村 「いつもながら無茶苦茶すぎだお前《ベゴッシャア!!》ウギョーーーリ!!!」
三島 「ち、ちくしょーーーっ!!くらえ剣閃!そぃやあーーーっ!!」
キィンッ!ズバァッ!!
三島 「あ───切れた!?」
総員 『なにぃ!?』
確かに切れた。
放たれた剣閃はオリバの胸部に炸裂して消え去ったが、そこには確かな傷跡が───!!
オリバ「……弾丸デモ……通サネェンダケドナ……」
藤堂 「オリバの鋼鉄の筋肉に傷がッ!!」
オリバ「───ナイフカ」
総員 『ナイフくらいで切れてたら苦労しねぇよこの野郎!!』
切れたといってもほんのちょっと。
そのあまりの絶望加減に、原中の連中はそれはもう叫んだ。
そうこうしているうちに周りには人が居なくなり……事実上、貸切状態になってしまった。
三島 「くっ……剣閃でようやくほんの数ミリ切れる程度……!
かと言って連発すると周りのやつらに感づかれて───」
遥一郎「一般人なら危険だと悟ったみたいで帰ったぞ〜」
三島 「なに!?───うわマジだ!すげぇ!オリバ効果だ!」
藤堂 「ならば今こそ!力を合わせて全力で戦う時!みんな集まれぇえーーーっ!!」
総員 『オォオオーーーーーーッ!!!』
オリバ「オヤオヤ……フフ、一般人ガ居ナクナッタカラ全力デ集団攻撃ヲ開始スル……。
意外トミミッチィト言ウカ《ズバァン!!》オブッ!!」
彰利 「何故抜かぬ」
オリバ「………」
彰利 「反撃できぬまでも、ポケットから手を抜くことくらい出来るだろう」
悠介 「彰利彰利、ありゃどう見てもポケットじゃなくてパンツだ」
ルナ 「そもそも手を入れたりもしてないし」
気づけばあれよあれよという間に人が集まってくる。
一般人が居なくなったことで、藤堂の声が届きやすくなっていたんだろう。
現れた途端にビンタというのはどうかと思うけボリュバゴッチャア!!
彰利 「オギャーーーリ!!!」
凍弥 「あ、殴られた」
丘野 「おー、飛んでいったでござるなー」
藤堂 「くっ!このままではダメだ!えぇと───丘野GO!!」
丘野 「了解でござる!!チョァアアーーーーーッ!!!」
丘野がプールサイドを駆け抜ける!
その速度は散々とヒロラインで鍛え抜かれたものであり、
そこから繰り出されるジャンプキックは岩さえも破壊する!
と思われたがベッチィイッ!!
丘野 「どうでござるっ!?」
オリバ「ン〜〜〜」
丘野 「《ガッシィッ!!》キャーーーッ!!?」
顔面蹴られても全然効いていないようだった。
しかも足を取られ、先ほどの清水のように振り回され始めた。
丘野 「片手デ振リ回サレ《ビッタァンッ!!》オギャーーーリ!!」
振り回された丘野が何度も何度も水面に叩きつけられてゆく。
オリバの怪力からなる水面への激突はとんでもないものなのだろう。
みるみるうちに丘野の背中は赤く染まり、
しかしそれでもビターンビトゥーンと叩きつけられてゆく。
丘野 「オギャーーリゲファーーーリゴフォーーーリ!!!たたた助けてぇええっ!!!」
遥一郎「すまん無理だ」
丘野 「即答でござ《ビタァン!》ゲフォーーーリ!!」
凍弥 「もう……俺達ではどうすることも出来ない……」
閏璃 「こんな俺を許せ……」
遥一郎「っと、いつの間に来たんだお前」
閏璃 「そりゃ、人が居なくなったってのにここだけ騒いでれば来るだろ。ほれ」
閏璃が促すままに辺りを見渡すと、もう全員がここに揃っていた。
流されていたヤツらや倒れてたやつも既に誰かに復活させてもらったようで、
ここに集いし全ての者がオリバと丘野くんを傍観していた。
……不思議と丘野って“くん”をつけたくなるんだよな。
どうしてだろうか。
なんてことを小さく考えていると、
復活したての中井出が一歩を歩んで拳を高く上げて唱えた。
中井出「うむ!全員が復活し、全員が揃ったところで!
これより極上過酷指令・怪力無双討伐を開始する!!」
総員 『よっ……よっしゃぁあーーーーーっ!!!』
そして、よせばいいのにそれに賛同する人々。
しかもまるで弾丸特攻部隊のように、最初から捨て身の覚悟でそれぞれが突貫。
あとは……まあ、地獄絵図というか。
透明だったプールが、炸裂音とともに染まってゆく様を、俺と蒼木とレイチェルの姐さん、
そして一部の女性陣だけが傍観していた。
【ケース363:中井出博光/キャッチフレーズとかいろいろある世界】
カァッ───と晴れた真っ青な空!
照りつける太陽!眩しい日差しの下にある紅蓮のプール……。
気づけば俺達は真っ赤なプールに浮かんでいた。
もちろんオリバもシュバルドライン相手では歯が立たず、
今では藍田状態で赤い水溜りに浮かんでいる。
今現在立っているのはシュバルドラインとゼノ氏くらいなものだ。
他は全滅。
原中の女性陣以外の女性の大半は傍観してたし、晦も彰利も奮闘はしたものの、
晦は弱っているために実力が出せないまま一撃でダウン、
彰利は余裕こきすぎてたために一撃でダウン。
かくいう俺も真っ先に突っ込んでいって斬りこんでみせたはいいけど、
その隙に顔面を捕まれてオリバの顔面頭突きをナマで体感した。
もちろん耐えようとはしたんだが、
意識ある限り何度でも頭突きしてきたもんだから本気の本気で地獄を見た。
どうにも情けない状況がここにあった。
今ではそれも治ってるようだ、あら不思議。
現実でも自己治癒能力が働くようにしてくれたんだろうか。
そこのところは謎だけど、治ったことに文句を言っても仕方が無い。
中井出「はぁ……けど、これはどうしたものか」
まるで噂に聞く血の池地獄である。
そこら中にぐったりした猛者どもが浮いているもんだから余計にそう見える。
と、そんな時だ。
悠介 「い……ちちち……っと……このままじゃマズイか……。イド、頼む」
バシャリと、浮いていた晦が起き上がってイドを解放。
すると血の全てが晦に吸収されるようにゾリュンッと消え去った。
あとに残されるのは綺麗なプールのみ。
つくづく思うけど、晦っていつか便利マンになってしまうんじゃなかろうか。
困ったことが起きれば晦を頼ればいい、なんて。
……そんなことにはなってほしくないな、うん。
でもそれって晦にも原因はあるんだよな。
……あとでそれとなく言っておこうか。
今の俺が言って説得力があるかなんて知らんけど。
ともなれば、まずは───
中井出「すわっ!!気を付けェィ!!」
バシャシャアッ!!
総員 『イェッサァッ!!』
一声で浮いていた総員が気を取り戻して起き上がり、さらに気を付けをする。
気絶してても何処までもノリがいい連中だった。
僕はそれを大変嬉しく思います。
中井出「そろそろ腹が減ってきたので食事タイムといこうではないかっ!!
総員が吼え猛るストマックへ燃料を注ぎ込むことを提案する!」
総員 『サンキュー・サー!!』
中井出「すわっ!解散ッ!!」
総員 『サーイェッサー!!』
バシャリバシャバシャ……!!
それだけ言うと総員は蜘蛛の子を散らすが如く四方八方からプールを出て、
一直線に荷物へと駆け出した。
プールサイドは走るな、なんて言葉はもう今さらなんだろうなぁ。
中井出「あ、晦ちょっと待った。ちと話があるんだが」
悠介 「話?珍しいな、提督が面と向かって話なんて」
中井出「そ、そうか?」
彰利 「オウヨ。いつもは強引に巻き込むのが中井出という男じゃねぇかコノヤロー」
中井出「どうしていきなり喧嘩腰なんだコノヤロー。
ま、いいからさ、話があるから話そう友よ」
彰利 「断る」
中井出「断るなよ!大体俺が話があるって言ってるのは」
悠介 「断る」
中井出「断るなって!!こりゃ大事なことなんだって!」
彰利 「愛の告白か」
中井出「するかそんなのっ!!」
岡田 「なにっ!?愛の告白とな!?」
藍田 「ジョワジョワ〜〜〜〜ッ、これは是非とも告白現場を拝見せねば〜〜〜っ!」
丘野 「ヌワヌワヌワ、俺も首を突っ込まさせてもらうぜ〜〜〜っ!」
藍田 「少しは慎めサンダージョワジョワ」
丘野 「言い出したのはてめぇだろうが〜〜っ!!」
藍田 「いいから慎めサンダージョワジョワ」
丘野 「じ、自分ばっかりずりぃぜライトニングヌワヌワ」
総員 『語呂悪ッッ!!』
丘野 「拙者のせいじゃねぇでござるよ!!」
サンダージョワジョワに慣れたあとでは、ライトニングヌワヌワは異様である。
とまあそんな話は置いといてだ。
中井出「ええいヒヨッ子ども、貴様らメシ食いに行ったんじゃなかったのか?」
三島 「もちろんプール名物カップラーメンを買って、お湯を入れてきたであります」
彰利 「これだけ広けりゃもっと別のモンあったりするだろ……ていうか戻るの早すぎ」
三島 「馬鹿お前解ってねぇなぁ」
岡田 「冷えた体にカップラーメン……ありがてぇ」
田辺 「しかも普通に食ったら大して美味くもねぇちっこいラーメンが、
泳いで体力使った体にゃご馳走代わりになるってモンよ」
彰利 「そんなもんかね。一口くれ」
田辺 「まだ2分も経ってねぇが」
彰利 「わたしは一向に構わんッッ!!」
田辺 「いや、つーかこれ俺の《バシィッ!》って普通に強奪するなよ!」
彰利 「一口!一口だけだから!ね!?」
田辺 「そんなこと言って!一口で食っちまおうとか考えてるんだろお前!」
彰利 「当たり前だ!見縊るな!!」
田辺 「そう来ると思ったぜこのヤロウ!!返せよ!返せよう!!」
彰利 「なんだよぉ!やめろよぉ!!」
彰利と田辺がカップ麺“闘狂ラーメン・これ……だよね?”を賭けた悶着を開始した。
その様はまるで小学生同士の押し合いのようでもありゴバッシャア!!
悠介 「うおっちゃぁああーーーーーーっ!!!!」
彰利&田辺『ゲェエエーーーーーーッ!!!!』
やがて二人の手から滑ったラーメンは、
隣に居た晦にその小さな口を広げて襲い掛かったのだった。
口は小さいが、まあその、入れたての熱湯なわけで。
彰利 「それしきも避けられんとは情けない!今までの悠介ならば避けられましたよ!?」
悠介 「言いたいことはそれだけかコラ……!!」
彰利 「え?あ、いや、だからこれは抜き打ちのテストみたいなものでね?
これくらいは避けられるかなとか、えーと、田辺の野郎が考え出したゲームで」
田辺 「あっ!て、てめぇ!!ここで人の所為にするかよ!!」
中井出「そんなこと提案したのか?」
田辺 「原中の名に懸けてしておりません!サー!!」
彰利 「そりゃまたなんとも胡散臭い……」
田辺 「お前が言うなよ!他に懸けるもんがねぇんだからしゃあないだろが!」
彰利 「だったら貴様の刀武器を賭けたまえ!
我輩はこの黒い“ネロ・カラス”を賭けよう!!」
田辺 「“かける”の意味が違うしそんなものいらねぇよ!!」
まったくだった。俺に要るかと訊ねられようものなら俺は要らんと即答するだろう。
大体アレは黒なわけだし、彰利の気が向いたらとっとと回収されるんだろう。
だったら余計に要らんよな、あんなもの。
中井出「一ついいか?なんだってここってこんなに大きい上に、
いろんな品物が売ってるデパートっぽい場所まであるんだ?」
丘野 「それはここがそういう場所だから、としか言えないでござるな。
服から雑用品、文房具からティーセットや家具など様々でござる。
一応水着もあるでござるが、種類が豊富ではないのでござるよ」
彰利 「ふむむむ?そげなことを何故に丘野くんは知っておるのかね?」
殊戸瀬「それはここが殊戸瀬傘下のグループが営業してる場所だから」
悠介 「どれほどデカいんだよ殊戸瀬グループってのは……」
丘野 「そうでござるなぁ……
社長権限で適当な人材を30人以上あっさりと雇えるくらいは」
田辺 「それって俺らのこと?」
丘野 「ザッツライトでござる」
彰利 「それって大きさに繋がるん?」
丘野 「普通はもっといろいろするものでござるよ。採用試験とか身分がどうとかと。
けれどそれも通さず部下に有無も言わさず一気に雇うのは難しいでござる。
書類の一枚も通さずに一発採用、しかも全員同じ場所ときたら、
普通は何処かから不満も出るものでござる」
殊戸瀬「そこのところは実力で黙らせた《ニヤリ》」
総員 『ゴ……ゴクッ!』
殊戸瀬……怖いコ!!
悠介 「まあでも、原中は元々団結力は高いからな。
力を合わせれば大体はこなせたってことだろ」
丘野 「そういうことでござる。こなせれば認められてゆくのは当然でござる。
やがて反発も無くなって、実績も残せるようになったでござる」
総員 『その矢先に死亡事故だ。なんと素晴らしくてなんと面白い』
悠介 「……ここは流石原中って言うべきところなのか?」
彰利 「知らんよ……もうほんとこやつらってば無駄に逞しいから」
中井出「俺と麻衣香は空界に居たからそこのところは知らんのだが……」
田辺 「残念だよなぁ、提督が一緒に居ればもっと楽しめただろうに」
中井出「そりゃ、俺も出来ればそっちに居たかったけどさ」
でもあれは自分で決めたことだし後悔はしていない。
ていうかいい加減に話をしたいんだが……。
などという俺の思考を適当に受信したのか、彰利がニヤァ〜と笑って会話を切り出した。
彰利 「して?このラーメン臭い創造者に話ってなにかね中井出」
悠介 「ラーメン臭いは余計だ。
ラーメン汁やら具材を飲み込むブラックホールが出ます、弾けろ」
ズゴゴゴ……ズチュゥウウウン!!!
田辺 「ウギャア俺のラーメンがぁあーーーーっ!!」
こうして田辺のラーメンが虚空へと消え去った。
とはいえ、あそこまでばしゃばしゃに散らばったものを今更惜しむのもどうかと思うが、
そこのところはどうなんだ、田辺よ。
彰利 「じゃあ田辺のラーメンも消えたことだし、本題に移ろうか」
田辺 「人のメシをきっかけ代わりにすんなぁ!ウウ……腹減ってたのに……」
彰利 「田辺は無視の方向で」
総員 『もちろんだ!』
田辺 「ひでぇ!!」
中井出「確かに話進まないしな。じゃあ話すぞ?えっとだな……」
悠介 「ああ」
中井出「晦よ。貴様に言おう。“守る”のなんかやめちまえ」
悠介 「───……随分いきなりだな。どうしたんだ?」
彰利 「そうだこの野郎。悠介から“守ること”を抜いたらおめぇ……アレだ。
骨と皮しか残らんぜ?」
……ど、どういう構成なんだ?それは。
骨と皮を除いた全ての構成物質が守りたい思いなのか?
中井出「ああいやいや、彰利は無視するとして。考えてもみろって。
実際守りたいものを守る、守るための力がほしいって願ったのは、
空界でゼットを倒すためや、狭界の思念破壊とかのためだろ?
結果的にこの地界でのゼットとの戦いでも役立ったわけだけどさ」
彰利 「ふむふむ?普通にひでぇけどここはスルーしよう」
中井出「頼む。で、俺は思ったわけだ。このままでいいのか?って。
俺達はヒロラインが終われば空界に移り住むわけだけどさ、
お前らはそのまま地界で歳を取るフリをして、その果てで喧嘩するわけだろ?
この地界でそうそう争いごとなんて起きないと思うし、
お前が守りたいものってのは彰利との未来だけだろ?
だから言う。それ以外は守らなくていいと思う」
悠介 「中井出……それは」
彰利 「ウシャア賛成!こればっかりは賛成だぜ!?
そりゃね、目の前で誰かが苦しんでれば助けたくもなるさね!
アタイらはそれを助けることが出来る能力を持っちまってんだからね!
だがそれを助け続けてたらどうなるか!?
そげなこと、今のキミなら言われんでも解るっしょ!」
悠介 「………」
彰利 「理解しろ……COOLにな。キミがなりたいのは英雄なんかじゃない筈だ。
まして、あんな姿を見たお前がそうなりたいと思うとは思えんがね」
悠介 「けどな、それは───」
彰利 「親父さんの意思を継いでる、とかかね?ファザコンも大概になさい。
ン〜なもんはまず感情を完全に取り戻してからほざきやがりなさい。
このままじゃホントに、守りたいものを守るってものを抜けば骨と皮だぞキミは」
俺が言いたかったことを彰利が言ってくれる。
あんな姿、ってのはよく解らないが、理解してくれるならそれに越したことはないのだ。
悠介 「でもだ。守らなかったらあっという間に壊れる世界だってあいつは言ったんだぞ。
それを守れる力があるのにそれを見捨てろっていうのか?」
彰利 「それで終わるならそれが地界の“運命”ってやつなんじゃにゃーの?
運命に抗ってきた俺だけどね、
ハッキリ言ってあんなお前はどんなことがあっても見たくねぇ。
そのために地界がとっとと滅ぶならどうだっていいさね。
大体、その時になったらお前が守りたいものがどれだけ残ってるっていうん?」
悠介 「…………」
彰利 「俺らの子孫?それとも家かね?馬鹿におしでないよ。
人間生きてりゃそりゃ死ぬさね。それを守って何年も生きさせるなんざ、
そんな行為は確実に世界を堕落させるってもんだ。
噛み砕いて言ってやろうか?そんなのは“守ってる”なんて言わんよ。
そういうのはね、怠惰させてるって言うんだ。
一度怠惰したら助けられて当然って思う。で、キミが居なくなってしまっては、
せっかく何もしなくても助けてもらえる世界が水の泡。
だから願わずに居られなかったのさね。キミが助け続ける未来を。
そりゃ英雄にもなるわな、怠惰した人全員がキミの存在を願ってる」
悠介 「………」
彰利 「他のことなら適当に流しましょう。だがこの問題だけは厳しく言わせてもらうよ?
あんな英雄、あたしゃ見とうないよ。キミがそうなっちまう場面なんざ特にだ。
未来のキミと一緒に居た俺は相当な馬鹿じゃね。
そんなキミをずっとほっといたばかりか、一緒になって守ってたと来る。
だがここに居るこの俺は甘く───ねぇぜ!?」
中井出「や、なんでここでテルカズの真似をするんだよ」
彰利 「ところどころにやさしさのエッセンスがあった方が息抜きになる気がして」
そんなことするから真面目に話してるかどうなのか解らないって言われるんだ。
と、敢えて言葉にしないのはやさしさなのか楽しんでいるのか。
どっちでもいいか。
ちなみにテルカズっていうのは、
少年ジャンプにおいて読み切り掲載されたCOSMOSに出ていた男。
読み切り二回目の続編にて“輝和”と書くことが判明。
このCOSMOS、読み切りながら結構ファンは多い。
と、そんなことは置いておいて。
彰利 「ともかぁーーく!!キミの未来は俺が守る!
で、俺の未来はキミが守る!それでOKじゃないですか!えぇーーーっ!?」
悠介 「……って言われてもな」
彰利 「なにぃ不服だと!?なにが不服なのかね!!」
悠介 「助けられる状況だっていうのに知り合いまで見捨てろっていうのか?」
彰利 「知り合いまでならOK。ただし子孫は無し。キリが無いからね。
つーかさ、もうここに居るメンバー以外誰も守らない方向でいいんでないのかい?
もしくはここに居る皆様も自らを鍛えてるわけだし、もっと強くなっていく。
死んじまったらそこまでなのは当然じゃろが。
そりゃ俺達ゃ普通じゃ体験できない経験してきたし、
それに見合った能力も得てきたさね。でもいつまでもそれを使って、
死ぬ筈だった人を生き返らせまくってどうなるのかね。
あたしゃもういい加減悟ったのですよ。
異能力者は異能力者同士でつるむのが一番だって」
悠介 「けど」
彰利 「でももけどもヘチマもねぇだよ!!
オメさ言ってるのは結局全てを守るってのと同じだ!!
力があるからって天狗になってるのはいったいどっちだい!」
総員 『お前だ!!』
彰利 「うわひっでぇ!全員が全員俺を指差しますか!?
よく考えてみんさい!!力があるからって守らないのはヘン!?
だったら力が及ぶ限りは全て助けるってことじゃん!
悠介の能力忘れたかね!?創造ですよ!?ヘタすりゃどんな災厄からも守れる!
訊きますけどね!だったらそんな能力の限界ってのはなにかね!?
そら単なる創造者のままだったらスルーするさね見逃すさね!!
けどこやつは限界超越者なの!解る!?こやつが守ることが出来ない時は、
相手がこやつ自身か、
未だ越すことの出来ないなにかが前に立ち塞がった時だけなの!
さあ!天狗になってるの、だーーーれだ!?」
総員 『お前だ!!』
彰利 「ヒドイ!なんてヒドイ!!」
再びな満場一致状況に彰利が悲しみの涙を流した。
しかしそれが嘘泣きだということは周知の事実なので、
今更誰も慌てたりしないのが素晴らしい。
けど、そんな中で晦だけが神妙な顔で考え事をしているようだった。
……そら、そうだよな。
言われたからってすぐに出来るほど単純な問題じゃない。
でも、それでも他の誰がどう言おうがあいつにはもう守ってほしくはないのだ。
せめて今まで他人のためと走ってきた分、今度は自分のために生きてほしい。
そう願わずにはいられないのだ。
悠介 「……お前も、同じことを?」
中井出「んあ?あ、ああ……まあ」
彰利が猛者どもに食って掛かり、集団でボコボコにされている最中に晦が言ってきた。
それに対する答えは……答えた通りだ。
晦の願いには果てが無い。
力が続く限り、守りたいものを守るなんていう滅茶苦茶なものなんだ。
そしてそれは、今となっては簡単に叶ってしまう願いだ。
地界に産まれた神に近い存在。
それを英雄と呼ぶのなら、きっと晦はいつかそこに辿り着いてしまうだろう。
そうなった時、果たして周りのやつらは助けてと願わずに居られるだろうか。
楽して助かるなら、人としてこれほどありがたいことはない。
悠介 「助けられる力がある。例えば、猛者の中で病に苦しむヤツが現れたとする。
そんな時、助けることが出来るっていうのに───」
中井出「まあ、助けてくれって言うだろうな」
悠介 「……だよな」
中井出「誰だって死にたくないって考えるだろうさ。
死に直面したからこそもっとやりたいことがあるのにって思うヤツもきっと居る」
悠介 「ああ、俺もそう思う」
中井出「けど……まあ、もしそれが俺だった場合、そんな助けはいらないかな」
悠介 「……?なんでだ?」
中井出「俺の命はばーさんに助けてもらったものだ。
その助けてもらった命を、じーさんが俺が成長するまで繋いでくれた。
俺はこの命を大事にしたいし、そう簡単に死んでやろうとも思わない。
だからこそさ、“一度きり”にしたいんだよ。
そりゃ死に直面すりゃ助けてって言いたくなるんだろうけどさ。
どんだけ強がってもほら、人間だしさ」
悠介 「……ああ」
中井出「でも、こうして“死に直面してない俺”は死ぬなら死んでもいいって思ってる。
……きっと死に際はかなり無様だろうけどさ。
死にたくないって泣いたりするんだろうけどさ。
それでも最後は、少しは自分の生き方を誇って死にたいって思ってる。
……はは、なのにさ、それで生き返ったりするのってヘンだろ?」
悠介 「でもその先でもっと楽しいことがあるかもしれない。
助かることで新しい“先”が見えることだってきっとあるだろ」
中井出「……そだな、多分、いや絶対にいっぱいあると思う。
死にそうになれば価値観なんてきっと変わるさ。
ガキの頃の俺でさえそうだったんだ、今ならもっと変わってくれると思う」
悠介 「だったら」
中井出「でも。俺はお前に何度だって言ってやる。“守るな”って。
お前はさ、彰利やルナさんとの未来だけを守ればいいんだよ。
彰利がお前を、お前が彰利を守ってればそれでいい。
その代わり、お前らの周りにある日常って世界は俺たちが守るからさ。
だから、もうそれ以外を守るなよ。そんな義務も、しなきゃいけない理由も無い。
そりゃ俺達はお前らに比べりゃ存分に弱いけどさ。
それでも俺達にしか出来ない守り方ってのは探せばきっとある。
退屈させないだけでもいい。
こんな馬鹿みたいな遣り取りを続けるだけだって構わない。
生きることの意味、死ぬことの答えを知ってるのはお前らだけじゃないんだから。
だから、あー……その、なんだ?」
悠介 「……“無茶はするな”、か?」
中井出「ソレダ」
悠介 「……くっ、あ、ははははっ……なんでわざわざオリバの真似なんだよ……」
中井出「知らん」
肩を竦めるように指を差した俺を前に、やがて笑いだした晦が居た。
俺はそんな笑顔に苦笑みたいに溜め息を吐いて、ただ思う。
自分の未来がどうなるか、なんてのは知らないほうがいいことが多い。
でも、知ったことで変えられる未来はきっとある。
だったら───今目の前で笑っている晦の未来は、
知っていたほうがいいのか知らないほうがいいのか。
そんなことは俺には解らなかったけど、やっぱり思うのだ。
周りに利用されて、助けるだけの英雄にはなってほしくない、と。
中井出「多分だけどさ、お前は守り続けることで本当に英雄になっちまうんだと思う。
彰利が言ってたのはそういうことで、俺もそんな未来を簡単に想像出来る。
だって、今のお前って力があるから守ってるって感じだもんな」
悠介 「力があるから守る……?」
中井出「そ。守りたいから力をつける筈だったのが逆になってるんじゃないか?」
悠介 「……さあな、ちょっと解らない」
中井出「よし、じゃあお前が守りたいものってのはなんだ?」
悠介 「守りたいもの……未来だな。こうやって馬鹿やってられる世界を守りたい。
そのためには世界がこのままである必要があって───」
中井出「あーちょっと待ったちょっと待った!ソレダ!ソレがいかんのだ晦一等兵!」
悠介 「……?」
いかんって、なにがだ?って顔をされてしまった。
いや、ほんとに危険だぞ晦よ。
そのままキミが成長を続ければ、そりゃ確かに英雄にもなるわ。
中井出「別にお前が守ろうとしなくても、この世界は簡単には壊れたりしないって。
もっと簡単に考えよう」
悠介 「って言われてもな」
中井出「この際だから言うけど、お前は勇者でもなんでもない。
この世の平和を守るために立ち上がったんでもなければ、
元々そんな目的で力をつけたわけじゃないだろ?」
悠介 「……ああ、そりゃそうだ」
中井出「だったら天地空間の在り方なんて自然に任せておけばいいんだよ。
お前は多分、ゼットを打倒することで救った空界や、
思念のレヴァルグリードを破壊して狭界を救ったことや、
その他いろいろを助けたり救ったりすることで、
根本的な意志ってのが曲ってたんだよ。
地面に亀裂が出来たとする。それを直すことが出来るのはお前だけ。
だからってどうしてお前が直す必要がある。
そこに亀裂があるとお前が困るのか?」
悠介 「中井出、そりゃ極論───」
中井出「だぁーーーまらっしゃああーーーーい!!
世界は確かにモロイ!だがお前が思う以上には絶対に丈夫だ!!
お前が手を貸さなくてもそこまで早くは壊れはせん!!
解るか晦一等兵!貴様がやろうとしていることは確かに救済だ!
しかしそれは同時に世界への怠惰へと繋がるのだ!!」
悠介 「………」
中井出「いや、熱は無いから無言で人の額に手を添えるのはやめようね?」
ぬう……所詮俺のような世界を知らん男の話は真面目に受け取れんか?
だが声を高くすれば届くのならいくらだって叫んでやる。
このままじゃこいつの未来は滅茶苦茶だ。
守るだけの人生なんて、自分には全然救いがないってことじゃないか。
中井出「改めて言うけど、守り続けりゃ守られて当然って思うのが人間ってもんだろ?
そんな世界にゃするべきじゃない。
大体、ただでさえ増えるばっかりの人を救いまくってたらどうなると思う。
もっと簡単に考えろ。視界を狭めろ。お前は誰だ?」
悠介 「晦悠介」
中井出「そう、晦だ。俺達が知ってる、原中出身の晦。
で、その晦に訊こう。お前の夢は英雄になることか?神になることか?」
悠介 「……あのな、中井出」
中井出「ああ怒ってる、俺は怒ってるぞ?」
悠介 「まだ何も言ってないんだが」
中井出「いいから聞けって。お前は確かに力をつけた。
世界を創るなんてとんでもない存在にもなった。既存超越も出来る。
物凄い。俺達凡人にゃあ考えられない能力だよ。驚いてばっかりだ。
守るために人じゃなくなってもいいとまで言ったお前だ、本気で尊敬してる。
でもそれ以前にお前は友達だ。お前がどう思おうが俺はそう思ってる。
人間として一緒に騒いだ頃が確かにあっただろ?
そんな“人間・晦悠介”がするべきことは世界を救うなんてことだったのか?
俺はそうは思わないな。ただ平凡に生きて、死神もなにも知らない、
普通に生きて、普通に彰利と馬鹿やってられる。
そんな世界を望んでただけじゃなかったのか?」
悠介 「………」
中井出「もう一度言うぞ?人が困ってるからって、どうしてお前が救う必要がある。
見知らぬヤツを、どうしてお前が助ける必要がある。
そりゃ些細なことで助けて、ありがとうってお礼言われる程度ならいいさ。
でも能力に任せてなんでも救うのは絶対に間違ってるぞ。
その時はいいかもしれないけど、
そんなこと何度も続ければ待ってるのは滅びだけだ」
悠介 「滅び……?助けたのにか」
中井出「……お前って時々ひどく盲目にならないか?
死ぬ筈だった命をずっと救い続けたら、
この世界には自然なんてものが無くなるだろ。
その先に酸素なんて無い。歩く場所も無いくらいに家が建って建物が建って、
食料も無くなって全てが滅ぶ。……想像してみろ。
お前はそんな世界を駆け回って、自然を創ってはその上に家を建てられ、
酸素を作っても破壊され、
創っても創っても足りないくらいの食料を創り続けるんだ。
イメージ出来るか?それが、お前が守り続ける未来になる」
悠介 「……いい加減にしてくれ中井出。いくらなんでもそれはない」
はぁ、と溜め息を吐く晦。
でも俺は容易に想像出来た。
なにもかもから守るってのはそういうことだ。
ただでさえ一日にかなりの人数が死ぬこの世界───
それでも自然は破壊されて、
建物が建てられ、見慣れた景色が消えていくのが情景だというのに。
その一日に死ぬかなりの人数を救っていたら、この世界は滅びに向かうだけだ。
そして、歴史が進めば進むほど晦が守ろうとするものの数は増えてゆく。
そりゃ広く考えすぎだとは思うし大袈裟とも思う。
でも、だ。
彰利 「それはないって言うなら、何故に英雄はここに来たと思うのかね?」
悠介 「───!」
中井出「彰利……」
田辺 「オワッ!?知らぬ間に弦月が等身大マスオ人形に!?」
岡田 「イ、イッツマジック!!」
少し離れたところで猛者たちが叫んでいた。
俺はそんな猛者どもにしっかり昼を摂るようにと伝えると、彰利とともに晦に詰め寄る。
悠介 「お、おい……」
彰利 「キミももう解っておる筈じゃよ?守るのはもうやめにしたほうがよいと。
そらぁね、救える力があるのに見捨てるのは辛いことさね。
じゃけんどもなんでも力で解決したら、この世界は堕落するだけ。
そうなってからキミ、今更助けるのはやめるなんて言えるのかね?」
悠介 「……それは、解ってる。
でもな、一方的に話すだけじゃなくて俺の話も聞いてくれ。
俺は守れるってことがどれだけ素晴らしいかってことを知ってる。
力が無くて守れなかった悔しさも、守ることが出来た時の喜びも、
助けられた人の笑顔も、助けられなかった人たちの涙も、全部。
そんなのを知ってるのに助けないのはウソだろ……?」
彰利 「解らんのかね。その先にあいつが居たんだろ?
で、キミはそんなあいつの過去を断片的にとはいえ見てた。違うかね?」
悠介 「………」
彰利 「その後悔を知ってもまだ、キミは守りたいっていうのかね」
悠介 「……俺は……」
彰利 「……なぁ、悠介。自惚れるのはもうやめにしようや。
俺達は勇者でも英雄でもない、ただの人間がちょっと強くなっただけの存在だ。
たまたま死神側として産まれて、いろんな出来事の末にここに至った。
いろいろな能力手に入れたよ。レーザー放ったり転移したり、
歴史を飛んだり空を飛んだり……ほんと、なんでもありだ。
でも、お前言っただろ?自分が人間だったことを思い出せって。
お前が言ってる守りたいものを守るってのは、人間に出来る範囲のことか?」
悠介 「彰利、けど俺は───」
彰利 「こんなこと言うのは間違ってるって思うけどな。
お前、不良のままで良かったのかもしれない。友達は一人でいいって言って、
俺以外に冷たく当たるような……そんなヤツでよかったのかもしれない。
人を助けるのは確かに美しいさ。俺だって憧れたし、何度も救ったつもりだ。
でもな、世界中の困ってる人を助けたいだなんて微塵にも思わない。
俺は、俺が守りたいって思った周囲だけを守りたい。
他人がどうなろうが知ったこっちゃねぇ。残酷なようだけどね、
俺達の力で守ることが出来るのは、たったそれだけの数なんだよ」
悠介 「………」
彰利の言葉に、晦が自分の手の平を見る。
俺もそうしてみたが───俺がこの手で守れるものの数なんて、きっと少ない。
晦はきっともっとあるんだろう。
それも自分の意思次第でその数は倍以上になる。
彰利 「なぁ悠介。俺はお前のことを友達として誇りに思ってる。
でも、困ってる人を誰でも守るような英雄になるっていうなら軽蔑する。
それがどんなに美しかろうが、間違いは間違いって受け止めるべきだ。
つーかキミが俺にこんなこと言わせんなよ」
中井出「………」
思わずまったくだ、と言いそうになった。
けど真面目な話を茶化すのはダメだ。
彰利 「世界は守るもんじゃない、見守るもんだろ。
世界が壊れるなら、その世界はそれまでのものだったって受け入れようや。
俺達は俺達の日常を守ってりゃいい。で、俺達の中に英雄なんて要らない。
必要なのはこのメンバーと、ちょっとした非常識だけ、だろ?」
悠介 「………」
はぁ、と溜め息を吐きながら……晦は頭を掻いた。
納得したかどうかなんて知らないが……
悠介 「知らないぞ、どうなっても」
でも多分、俺と彰利にしてみれば、
そんな言葉だけでも酷く燥ぎたくなるほど嬉しかったのだ。
中井出&彰利『イィイイーーーーッハァーーーーッ!!!』
ズッパァアンと手を叩き合わせる音だけが高鳴った。
ひとまずはこれで十分だ。
これで少しはマシに……なってくれたらいいなぁ。
悠介 「はぁ……ノート?お前も今の言葉には賛成か?」
声 『当然だな。汝は確かに“守りたいものを守るために”と我らと契約をした。
だがその当時は世界を救うなどという意志などまるで無かった。
純粋にただ“守りたいものを守る”というものだ。
世界救済は汝が思うほど易いものではない。
全てを救おうなどと思うよりもまず己を救ってみせろというのだ』
悠介 「それって、幸せを掴んでみろって言ってるのか?」
声 『そう聞こえなかったか?ならば噛み砕いて言ってやろうか。
今の汝は能力さえあればなんでも出来ると信じすぎている。
確かに汝の力ならば様々なものが救えるだろうな。
だが。それは“我々精霊が望むマスターの在り方”ではない』
悠介 「俺……の……在り方……?自分の……?」
声 『全てが救えるなどと思うな。その弱った体で今一度考えてみろ。
救うとはどういうことか、守るとはどういうことか。
今なら未来の汝が言った言葉がよく解る。
あの状態、“精霊のまま”の汝ではどう足掻こうが未来など切り開けなかった』
悠介 「………」
……ちと会話についていけない自分が居た。
そんな俺の肩をポムと彰利が叩き……
彰利 「クォックォックォッ……仲間外れ、だ〜だれ」
中井出「ギ、ギイイイーーーーーッ!!!」
極上ガイアスマイルでそんなことを言ってきたのだった。
もちろん理解しようとしても理解出来ない俺にとって、その笑みと言葉は痛恨の一撃。
しかしここで攻撃をすれば敗北宣言を掲げたも同じ!いや構わん殴る!!
彰利 「《ボゴシャア!!》オギャーーーリ!!な、ななななにすんのぉーーーっ!!」
中井出「ずるいぞ貴様だけ!俺にも教えろなにがあったコノヤロー!!」
彰利 「ホッ?そりゃ未来の悠介のことを言ってるのかね?ほ、ほっほっほ!
知りたいかネ!エ!?知りたいのかネ!!」
中井出「知りたくなけりゃこうして訊くわけないだろが!!」
彰利 「それもそうだネ……だが断る。この彰利が最も好きなことの一つは!
知りたいと願う者に対してNOと断ることだ!」
中井出「ぐっ……そう来ると思ってたが、こうもあっさり断るとは……!!」
彰利 「クォックォックォッ!くやしいか!?エ!?悔しいかネ!!」
中井出「当たり前だコノヤロォーーーッ!!」
彰利 「《ゴギギイ!!》ギョエェエーーーーーーーッ!!!」
高らかに笑い途中の彰利に友情のネックハンギングツリーを進呈した。
もちろんネックハンギングとくれば
パンドラおかあさん(ハーメルンのバイオリン弾き)であり、
持ち上げた状態で左右にユッサユッサと揺らすことを忘れない。
悠介 「………」
声 『汝は少々、一人で抱え込みすぎだ。
私は他の者などどうであろうが知ったことではないが、
汝にはああして汝を案じる者たちが居るだろう。
その事実を否定してまで一人で走り続けることになんの意味がある』
悠介 「……そうだな。そうかもしれない」
声 『守るのは目に見える範囲だけにしておけ。
汝は元々そういう願いの先に力を求めた。
“全てを守りたいなんて言わない。
けれど、せめて目に見えるものくらいは守りたい”。
それが、汝が願った“守りたいものを守る”という強さだ。
今の汝は困っている者全てを守るという力任せのものだ。
確かに救うことが出来るというのはそれだけで素晴らしいだろう。
だが忘れるな。この地界はそんな能力が許されていい場所ではない。
地界のことは地界の者に任せればいい。他の世界とてそうだ。
言っている意味が理解できるか?』
悠介 「…………ああ。まいったな、ほんと。いつからこんなに変わっちまったんだか。
知らない間になんでも出来る気になってた。
地界には地界の強さがある。空界だって、他の世界だってそうだ。
能力ばっかりに頼ってれば医者なんて要らないし、
力任せに全てを抑制するならブレイバーだって要らない。
……それじゃダメなんだよな。
今まで、いろんなやつらが頑張って未来を切り開いたからこそ今があって───
俺がやろうとしたことは、その歴史に対する冒涜……」
声 『理解出来たならいい。今後はそれを忘れぬよう前を見ろ。
……汝は友人に恵まれたな。
まあ、感情が大分安定した汝でさえこうも頑固だったのだ。
未来の汝がこうして友の言葉を聞いたかどうかは怪しいな。
恐らく、受け止めることが出来なかった故に英雄に至ったのだろう。
あんな状態のマスターを、弦月彰利がほうっておくわけがない』
悠介 「……そうだな。本当に、自分でも解るくらいに何処までも馬鹿だ」
耳に届く会話はそんなもの。
丁度その頃、ワンハンドネックハンギングツリーに挑戦していた俺は、
もちろんセオリーを忘れずに
中井出「テェ〜〜〜ルゥ〜〜〜カァ〜〜〜ズゥ〜〜〜」
と唸りをあげるようにツリー。
それに大して彰利はCOSMOSの輝和のように離せィジジィと膝蹴りをしようとしたが、
俺が急にパッと離したもんだからドグシャアと落下。
膝蹴り実行中だったもんだから見事に脇腹から落ち、
平均台で脇腹を強打した浦安鉄筋家族の中田ちゃんのように血反吐を吐いていた。
丈夫なのかモロイのかいまいち謎な友人だった。
中井出「すまん、腕力続かなかった」
彰利 「ええいこの中途半端マッスルめ……!勝負だ小僧!!」
中井出「人を小僧呼ばわりするとはいい度胸です……それでは死になさい!!」
倒れた状態からわざわざ一度黒化し、
それを伸ばしてから人型となる彰利に軽くツッコミを入れたくなる。
なにもそんな格闘ゲームのキャラの真似みたいな起き上がり方までせんでもと。
誰だったっけ?えーと……
中井出「ギルティギアのザトー=ONE!!」
彰利 「おお!解ったかね!さすが提督死ねぇえーーーーっ!!」
中井出「さすがなのに死ぬの!?うおお負けっかぁーーーっ!!」
ゴヴァー!と黒い塊と化した友人を前に、霊章から双剣を出現させて迎え撃つ!!
そんな瞬間に、中学時代のあの頃に比べて随分と非常識になった俺の日常を少し思った。
そうしてから“不満はあるか?”って心が訊ねてきた気がしたから───俺は笑った。
あるわけがない、と。
中井出「うりゃうりゃうりゃうりゃ!!」
彰利 「へあへあへあへあ!!」
中井出「ナイス虫取り網!!」
彰利 「ノオオオオオオオッ!!!」
悠介 「どういう会話だよ!戦ってる様と言葉がまるで合ってないぞ!!」
彰利 「オ?なんだてめぇ俺とやろうってのか?」
中井出「キョホホ……文句があるならかかってこい!!
今の貴様なら俺でも勝てるぜ〜〜〜っ!!」
悠介 「よく言った死ねぇえーーーーーっ!!」
中井出「よく言ったのに死ぬの!?いやちょっ……!!
お前らの二人掛かりはあんまりなんじゃギャアーーーーッ!!!」
やがて、どんな冗談なのか瞳を真紅に変えた元人で現在人外な二人が襲い掛かってきた。
───もちろん俺は頑張ったッ!!
出来うる限りの方法で立ち回り、手段を選ばずの戦いを幾度となくした!
しかし手段を選ばない方法では彰利に叶う筈もなく、
突如として噴出された毒霧に目をやられた刹那、俺は二人の猛者どもにボコボコにされた。
彰利 「クォックォックォッ……!!これぞ我らの実力……!
寿命を手に入れただけのただの人だった貴様がここまで強くなっていたのは
正直意外以外のなにものでもありませんでしたが……結果が全てさ!」
中井出「て……てめぇらよってたかってぼこぼこにしやがって……!」
悠介 「ヘンな言いがかりはよしてもらおう!この戦いを望んだのはお前だ!!」
中井出「望んでねぇーーーっ!!《ズキーン!!》あがぁーーーっ!!」
叫ぶと同時に体がズキーンと大激痛信号を発信。
定期的に訪れるその痛みの信号はまるでモールス信号のようだった。
エ、エスオーエス!メーデー!我が体が大変なことになってます!
彰利 「ほっほっほ……悔しいかネ?エ?悔しいかネ!!」
中井出「ごっ……!こ、こンのっ……!!」
ズリ、ズリ……と倒れた状態のまま進む。
おお……近くに水があるから思うわけじゃないが、
まるでザーボンさんにやられたベジータのような気分だ。
彰利 「クォックォックォッ!今の貴様はまるでイモムシYO!!
敗者にはやはりそういう姿が似合っておる!
漫画やアニメで言うなら一人で親玉と戦ってボッコボコにされ、
だがしかし闘志だけは失くさずに《がしぃっ!》ホホ?
そうそう、こうして倒れながら足を掴んでくるのYO!!
そしてこちらを見上げながら悔しそうに、ボロボロな顔で───」
中井出「“三陰光圧痛