───冒険の書145/凡人魔王・その青春───
【ケース403:晦悠介/利用する者される者】
タンッ───
悠介 「斬り刻む───」
ザンザザザザザザザンッ!!
タクシム『ルェエエゥウ!!』
悠介 「死後に迷わず刹那に消えろ!“瞬閃斬襲撃”!!」
ザブシャボッファァアンッ!!
斬り刻み、急所という急所を穿って一気に塵に変える。
そうしてから双剣を振るい、腰に納める。
ディル『ふむ……攻撃に迷いがないな』
悠介 「当たり前だ。迷う理由がない」
次いで向かってくるグールを背中の大剣で、斬るというより叩き潰すように滅する。
アンデッドは斬るより叩き潰した方が確実だ。
ディル『王よ、これからお前がどう成長しようが王の勝手だ。
私は付いてゆくまでであり、その在り方も受け入れる。
だが慢心だけは持つな。油断の無い誇り高き王であれ』
悠介 「慢心はしない。油断もするつもりはない。
だが誇りなんてものは俺は知らない。戦いの中でそんなものがなんの役に立つ」
ディル『最低限、己が己であるべきを持てと言っているのだ、王よ。
お前の力は高めようとすれば上限なく上がってゆく、果ての無い力だろう。
私はその在り方を見てきた。
だが、だからこそ記憶を失ったお前が進むべきは見守る必要がある』
悠介 「記憶を無くし、
名前以外のことが解らない俺にどれほどの“己”があるっていうんだ。
あるとするならば、この体に染み付いた戦いへの本能のみだろう」
ディル『………』
ディルゼイル、という俺の傍を飛ぶ飛竜は、俺が俺だと気づいた時には既にそこに居た。
気づけば自分が誰かも解らなかった俺に、俺の名前を教えてくれた喋る竜族だ。
何故俺を王と呼ぶか。
何故俺とともに来るのか。
その全てが謎のままだが、
敵意を感じるわけでもないので斬り伏せることもせずにほうっておいている。
自分が誰なのか……などということは些細なことだ。
どんな目的で草原の上に立っていたのかも知らない。
遠くの朝日が目を刺す頃には俺は俺だったのだ。
それ以前のことなんて覚えていない。
ただディルゼイル……ディルと呼べと言われたが、
こいつが言うには俺は自分探しの旅の途中だったらしい。
悠介 (自分探し……)
自分がどういった人物だったのかなんて解らない。
どうして戦いになれば、どう動けばいいのかを体が覚えているのかも知らない。
だが自分探しに出ていたとなれば、
記憶が無くなる前の俺も、今の俺とそう変わらなかったということだ。
そうでもなければ自分を探そうとする意味が無い。
悠介 (今は……どうでもいい)
俺がまず最初にしたことは、無用の持ち物を全て売り、
武器を新調することだった。
より手に馴染み、破壊力のあるものを。
そうして選んだ“切り刻む道具”と“破壊するための道具”が俺のもとにある。
今はそれがあればどうでもいい。
自分探しの旅、というものをすること自体に反対はないし、
向かう場所が決まっているのも都合がいい。
悠介 「自分探しとはよく言ったもんだが、
精霊に会うだけで自分を知れるものなのか?」
ディル『さてな。だが進まなければ何も変わらん。私は王とともにゆくのみだ』
悠介 「…………。ディル、王だ王だと言うが、俺はいったいなんの王だったんだ」
ディル『別の世界の竜族の王だ。もちろんここでは違う。
今は私がそう呼んでいるのみで、ここでの王は別に居る』
悠介 「別の世界?……解らないな。この世界以外にも別の世界があるっていうのか」
ディル『一から説明するのは面倒だな。
旅をしているうちに解るものだと今は理解しておくのだ、王よ。
それがお前が求めた答えになれば、なんの問題もないだろう』
悠介 「……ああ、それもそうだ。じゃあ行こう。
まずはこの水の宝石を指輪にしてもらうと言ったな」
ディル『そうだ。居るのならドワーフか、それとも古の技術を持つ者に頼むほかあるまい』
悠介 「………」
自分が誰なのか……そんなものは真実どうでもいい。
これから探していくのなら、今はそれすら些事だ。
今必要なのは力だ。
こんなものじゃ足りない、自分の奥底に眠る技術を全て引き出せる状態───
その更に上を目指さなくてはいけない。
そうあるようにと言われたわけでもないのに、俺の深淵が強くなれ強くなれと叫んでいる。
だったら……いいだろう。
望み通り、俺は強くなる。
強くなった先になにがあるのかも解らないが、
そんなものは強くなった先にこそ解るものであり、
今から気にしていても仕方の無いことだ。
悠介 「俺に“教えるな”よ、ディル。俺は俺の力で自分を知る。
それが結果がどれだけの外道だろうが破壊の権化だろうが、
そこに至るまでの俺の軌跡で全て塗り潰してやる」
そこに至った時……その時は以前の俺が“俺”になるんじゃない。
今の俺が“以前の俺”を食ってやる。
過去がどうだろうが俺は俺だ。
ディル『ああ、承知した、我が王』
静かに、だが何処か愉快そうに言うディルを横目に、俺は歩き出す。
古の技術を持つ者が何処に居るのかも解らない手探りぎる状況だが、
心はむしろ高揚していた。
……そしてそんな高揚した気分の中、俺は遠くの方から何かが近づいてくるのを見たのだ。
【ケース404:中井出博光/ある日、草原のド真ん中、モミさんに、出会った】
中井出「はうあ!?あ、あれに見えるは───」
神父から加護を頂こう作戦の途中、晦一等兵を発見!
何故ムコソルバンで貰わなかったかって?……あそこ教会が無いんだよ……。
で、どうせだからって、時の大地で時の加護を、
その前のノースノーランドに居るらしい死の精霊から死の加護を、
さらにはノースノーランドの教会で無の加護を受け取るために、
一直線に突き進んでいたら───晦一等兵を発見。
接触は避けてくれって言われたばっかだってのになんてこと……!
いや、もちろん素通りしてもいいんだけど、なにやらヤツめ、俺とやる気らしく、
双剣を構えて目をギラつかせてやがります。
おお、記憶が飛んでるっていうのはどうやらマジらしい。
……っと、そうだ。
確かこの前別れ際に、変化の指輪を手に入れた的なこと言ってたよな。
丘野くんの話じゃああれは壊れることがあるそうだし、
せっかくだからこのコーテライトを……
というわけで俺は速度を緩め、少し遅れて辿り着いた穂岸や、
ロドリゲスに乗ったナギーに先に行っててくれと促して、ギラリと晦一等兵を見る。
悠介 「……身ぐるみ全部、置いていけ」
中井出「───」
で、俺は彼の開口一番にスコーンと頭を打たれたような衝撃を受けた。
すげぇ……記憶の封印が彼をこうまで大胆に……!
いや、いや、こんな晦を見れただけでもなんだか十分だ。
というわけで俺はピンッとコーテライトを指で弾いて晦一等兵に掴ませると、
ニコリと笑った。
悠介 「……?なんだこれは、なんの真似だ」
中井出「命乞いってことで、それで勘弁してくれ」
悠介 「断る。戦って勝ち取る以外は御免だ」
中井出「うーお、なんとアグレッシヴな……!っと、まあまあ。
実はそれはコーテライトというものでな、
壊れやすい指輪と合成させることで、壊れない指輪が完成する優れものだぞ」
悠介 「───、解らないな。何故そんなものを簡単に渡す」
中井出「THE・命乞い!」
悠介 「ふざけるなよ、お前は剣士だろう。戦いもせずにモノを渡す馬鹿が何処に居る」
中井出「いーから受け取っとけって。じゃ、俺はここで」
チャオ、と手を上げて去ろうとする。
が───ザコォッ!!
中井出「ヒィッ!?」
逃げようとした足元に剣が一本投擲され、地面に突き刺さった。
中井出「な、なにすんの!危ないでしょ!?」
悠介 「これは確かに頂く。今の俺に、強くなるための手段を選ぶ余裕なんか存在しない。
それが正当でも邪道でも、俺は強くならなければいけない。
だからこれは貰い受ける。そして───お前とも戦う」
中井出「ええっ!?どうして!?タダだよタダ!それで満足しないの!?」
悠介 「先に言った筈だ。身ぐるみ全部置いていけ、と」
中井出「おおクズだ!!」
だが俺が受けた感情は喜び!
あのお硬くて仕方が無かった晦が!
よもやこうまで目をギラつかせてハイエナのような行動に出るとは!
俺は嬉しく思います!!
中井出「グブブブブ……ならばいいだろう……。
素直に引き下がるのなら見逃してくれようと思ったものを……。
我が名は魔王ヒロミツ……!この世界、フェルダールを支配する大魔王なり!」
悠介 「魔王……?お前がか」
晦が、我がユニーク装備を下から上まで見て……溜め息。
悠介 「虚言を吐くならまず姿から騙そうとしてみろ」
中井出「………」
もっともなことを言われてしまった。
確かになぁ……勇者に憧れてるけどそんな装備が無いから、
なんとなくスカーフを首に巻きつけてみました、どうでしょう?
って感じの、どっかの村人の青年にしか見えないし。
街頭インタビューしたら100人が100人、村人だって言うよ、うん。
だが、だからこその装備だ。
魔王が村人っぽい格好をしている……面白いじゃないか!
中井出「グブブブブ……!信じられぬというのならそれも良し……!
何処からでもかかってくるがいい……!
そして力の違いというものを知るがいい……!」
悠介 「ほざけ───!」
晦が駆ける!
俺はすぐさまステータスを全てVITに振り分けると、ノーガード戦法で歩み寄る!
何故なら僕にはリングシールドがあるから!
気づいた時には無かったけど、
嵌めている者を攻撃から守るのがこのリングシールドのステキささ!
フォンッガギィンッ!
悠介 「ッ……!?」
もちろんしっかりと攻撃を弾いてくれた。
虚空に現れた薄い膜の盾が、晦一等兵の双剣を受け止めたのだ。
一瞬驚く晦一等兵───だがすかさずバックステップすると、
ステップが終わる前に双剣を腰に刺し、
着地と同時に背中の大剣を手に取ると疾駆と同時に振り下ろす!
だが甘し!見せてくれよう!我輩大魔王ヒロミツの真の力を!
ゴガァッギィインッ!!
悠介 「───!?な……!」
斬るのではなく叩き潰すと言ったほうが最適の大剣。
それを、右人差し指だけで止めてみせた。
おお……!成功してよかった……!もし失敗してたら物凄く格好悪かったよ!
中井出「グブブブブ……!貴様ではこの博光に傷ひとつ負わすことは出来ぬ……!」
悠介 「チッ───いい気になるな!」
次いで横から繰り出されるは双剣の奇襲!
だがそれを、右足と左手でビッタァと止めてみせた!
悠介 「……、こんな……《ブワッチィイイッ!!》ぶあっ───!?」
それによって訪れた驚愕による硬直。
その間隙に顔面への張り手で晦を吹き飛ばし、草原に倒した。
悠介 「っ……くそがっ───、……な、に……!?体が動かない……!?」
皆様ご存知、麻痺スキル発動。
既に我が五体は毒と麻痺と睡眠、思いのままの薬攻拳よ。
中井出「若すぎる……遅すぎる…………そしてなんと弱い……」
で、俺はそんな彼の傍に屈むと、マホメド・アライの言葉を送った。
いやまあ……ただこれがやりたかっただけ。
悠介 「弱い……だと……!?」
中井出「貴様はまだ己を知らなすぎる……。
自分の力量でどんな相手と戦えるのか……それさえ知らぬ者がなんと無鉄砲……」
俺も知らないけど。
でもここは棚にあげておこうと思う。
悠介 「っ……殺せ……!どうせ動けぬならトドメを───」
中井出「フン断る」
悠介 「なに……!?」
中井出「その命、この博光の名の下に預けておこう……。
次にまみえる時、貴様がどれほど腕を上げているかが見物だ」
悠介 「〜〜っ……ふ、ざ……けるなっ……!!情けをかける気か───!!」
中井出「グブブブブ……!その通りだ弱き者よ……!
せいぜい腕を磨け……!我が名は博光……大魔王博光だ……!
いつか貴様が腕をあげた時、もう一度かかってくるがいい……!
その時に真に強くなっていれば良し───成長していないのなら……グブブブブ」
悠介 「……!貴、様……!遊んでるのか!俺で!」
中井出「そう思うのなら見返してみるがいい……!
まずはその指輪とコーテライトを持ち、旅をする雑貨屋猫を探すがいい……!
そいつは古の技術を持つ猫であり、大抵のものを完成させるだろう……!
あとは貴様次第だ……グブブブブブ……!!」
悠介 「〜〜〜っ……!!」
悔しそうにするが動けない晦をそのままに、俺は颯爽と走り───
悠介 「がぁあああああっ!!!《メキィッ!》」
中井出「うおっ!?」
走り出そうとして驚愕した!
なんと、麻痺しているはずの晦が体を強引に起こし、立ち上がったのだ!
ば、馬鹿な……ば、馬鹿な……!起きれる筈が無いのに……!
……い、いや……違うな。
彼はいつもこうやって立ち上がってきたのだ。
ならばこの博光も、彼が動けなくなるまで付き合うのが───道理なのでその裏を行く。
中井出「我が右手に熱き炎!我が左手に元素の力!無剣流“義聖拳()”!!
裏返しいらずの炭火焼きファイヤァーーーーッ!!!」
チュゴォオッファァアアアンッ!!!
悠介 「ぐわぁああーーーーーーっ!!!!」
剣を出さず、素手のままで両手に属性を込め、
あたかもかめはめ波のように手を合わせて突き出し、そこから紅蓮の炎を発射する!
まともにくらった彼は炎上中。
でも大丈夫!STRはかなり低くしてあるし、
呼吸困難で動きが鈍くなってきたらちゃんと消してバッガァアンッ!!
中井出「あ」
爆発した。
ぬおぉおーーーーっ!!ボマースキルのこと忘れてたぁああーーーーっ!!!
あ、でも生きてる!良かった、生きてる!
爆発で炎も吹き飛んだし、これにて一件落着!
中井出「別了()!!」
逃げるなら今しかない!
そう踏んだ俺はスチャッと手を軽く、しかし鋭く挙げると逃走した!
ディルゼイルが呆れたような顔をしていたけど、
残念ながら俺じゃあ彼の言葉は理解出来ない。
だから親指を立ててケダモノのようにニヒルな笑みをすることで、
解り合ったつもりになって走った。
ちなみにケダモノについてはポピーザぱフォーマーをどうぞ。
なにはともあれミッションコンプリィイーーーーーーッ!!!
ボォーーーハハハハハハ!!!
中井出(……あ、でも……本気で強くなって襲い掛かってきたらどうしよ……)
ふと心をよぎる冷たい戦慄。
そう……今でこそレベルで圧倒しているけど、
死に物狂いで強くなってきて襲い掛かられたら……ヒ、ヒィ!なんと恐ろしい!
しかもその時、ドラゴン倒して宝玉全部解放してたら……
俺属性系統安定するまでなんにも出来ないんだよな?
中井出「…………やっちまったぁあーーーーーーっ!!!」
THE・後悔。
思うんだが外国の映画って大体短いタイトルだと最初にTHEがついてるよな。
関係ないけど。
とまあそれはそれとして……やっちまった。
なんていう早まった行動を……!
今から戻って撤回してこよっかなぁ……ちなみに私は善良な一市民です、って言って。
……信じてもらえないよなぁ。
ああ、俺の馬鹿……。
い、いや!彼奴が強くなることを望んでいるのなら、俺は喜んで壁になりましょう!
そしていつか彼が俺を打ち倒す時が来た時───俺は盛大に状況を楽しもうと思う。
例えば……記憶がないんだから、それを利用して遊ぶとか。
中井出「そう、たとえば───」
……倒れた俺、剣を突きつける晦。
そんな景色の中、俺はわざとニヤリと笑い、フフフ、強くなったな……とか御託を並べる。
もちろん彼は一蹴するだろう。
だがその一蹴も受け入れ、やがて語り始めるのだ。
実は貴様はこの魔王の兄弟だったのだ〜!とか、そんな大ボラを。
……あ、考えてみたらちょっと楽しみになってきたかも。
そんな大ボラを必死になって否定する晦なんだが、
そこはこの博光、言いくるめになら自信があります。
あることないこと並べて見事騙してご覧にいれよう。
実は我らは神と魔王との間に産まれた子で、
俺が魔の血を、貴様が神の血を多く引き継いだ。
それが公になる前に親は我らを引き離し、
冒険者の体に魂を詰め込むことで公の目を誤魔化してきたのだー!
……などと、あらゆる方法を使って騙してみるのも面白い。
ああ、実は親子ってパターンも結構あるな。
じゃあ晦が親で俺が子供というパターン。
え?普通は逆だろうって?だからいいんじゃないか……!
魔王が自分の子供だったなんて、それはもうハプニングだろ。
しかも知らぬとはいえ息子を容赦なく切り伏せていたなんて知ったら、
その時の相手の反応がどんなものなのか……!興味深い……なんと興味ぶかぁい……!!
でもウソつけの一言ののちにトドメ刺されそうだね。
なにせ晦だし。
中井出「うーーーむ、そこのところはこれからじっくり考えるとするか〜〜〜っ!!」
今はまず穂岸たちに追いつかないとな。
中井出「………」
走りながら後ろを見てみるも、
やっぱり考えながら走ってた所為か既にその姿形すら見えない。
考え事してる時とか話しながら進んでると、目的地に着くのって早いよね。
私にはそれが…………時々残酷に思えるのです。
いや、べつに今の現状に残酷がどうとかなんて関係ないけど。
ただなんとなくグリーンマイルのラストを思い出しただけ。
中井出「うおぉおおおおおおおっ!!!」
さあ追いつこう!全力を出して!
べ、別に出来るだけ晦から離れたいわけじゃないよ!?
違うって言ったら違うんだからね!?そんなんじゃないんだからね!?
ただ……そ、そう!ただみんなを待たせたら悪いと思ったから!
というわけで急ごう!走るンだッッ!!
【Side───晦悠介】
───……。
悠介 「………」
酷く無様だ。
慢心も油断もしないつもりがこれだ。
相手が敵だったのなら、外見がどうであれ甞めてかかる理由にはならなかった筈だ。
……なんという忌々しさ。
魔王と名乗る男との一騎打ちに、結局血の一滴すら敵に流させることなく終わった。
悠介 「………指一本……」
たった指一本だ。
新調したばかりの大剣を、これでもかというほど本気で振り下ろした。
それを、指一本……なんていう力の差だ。
あれが魔王……それが魔王か。
多少、体に経験が染み付いているからと少々驕()っていたかもしれない。
いいや、真実驕っていたのだろう。
……だがそれも今回のことで教訓になった。
汝、驕り腐ることなかれ。
相手が兎だろうが全力で狩る獅子たる者であれ。
悠介 「いいぞ……越えてやる。以前の俺も、あの魔王も……!」
麻痺していた体が完全に治る頃、
俺は爪が食いこむほどに手を握り締め、自分への怒りに震えていた。
まだ足りない。
もっと力が必要だ。
力を行使する理由なんてどうでもいい。
強いやつを打ち下すことが出来るならそれでいい。
野心を持て……決して曲らぬ野心を───!
悠介 「…………」
渡された透明な指輪を見る。
そう……まず猫だ。
古の技術を持つという猫を探す。
ヤツの言う通りに動くのは癪に障る……だが。
強くなるための手段を選んでいられるほど、俺はのんびり屋じゃない。
悠介 「ああ……言われるまでもない」
……強くなってやる。
より速く、より確かに、だが驕ることなく、己の力として全てを扱いきれるくらいに。
ディル『……やれやれ……』
歩き出した俺についてくるディルが溜め息混じりに呟く。
だがやはり、何処かに楽しんでいるような雰囲気を持った溜め息だった。
【Side───End】
ドドドドドドドド……スボシュッ!ゾボゾボゾボ……スボッ、スボッ……!
中井出「うおお進みづれぇえーーーーーっ!!」
ややあって、雪風吹き荒れる地帯まで来たわけだけど……進みづらい。
走っていた足がいつの間にか歩みに変わってるよ……おおすごい。
こういう場所だとルルカの方が進みやすいんだろうなぁ。
中井出「よし、どうせ戦闘中じゃないからTPもすぐ回復するだろうし───
い、いやいかんいかん!!すぐに能力に頼ろうとするのはよくない!」
雪原地帯は雪原地帯だからこそ意味があるのだ!
危ねぇ危ねぇ、もう少しでド外道さんになっちまうところだったぜ!
ゲームの裏をかくのは好きだが、
だからってファンタジーにイチャモンつけたいわけじゃないのだ。
というわけで無理矢理走ってゆく!
思い出せ!オーガストリートのスピードワゴンたちは、
そこが雪原だというのに豪快に走っていたじゃないかッ!!
というわけで走る!走ってゆくっ!
中井出「うおおおおおお!!!」
ドドドドドドドドド!!!
鬼気迫る顔で走ってゆく。
別に視線の先にジョナサン=ジョースターが居るわけでもないが、走ってゆく。
そうして、途中から進むのではなく走ることが目的となり───
…………。
……気づけば遭難していた。
中井出「何処!?ここ何処!?」
雪風は無くなってるのに、雪風があった頃よりいっそ寒い。
考えてみればナビマップも見ずに適当に突き進みすぎていた。
随分走ったもんな……雪風が無くなってから気づくなんてアホか俺は。
そう思いつつ、この一面銀世界な場所を一望。
眩しいくらいの雪が積もり、しかし足が埋まるほど積もってるわけでもない。
この寒い中で草などはちゃんと生えており、
雪に包まれてなお、静かに銀色の身を揺らしていた。
中井出「なんとも美しい……!っと、感動するより場所の確認を……」
なんだか頭上の方で妙な音が聞こえるけど、まずは確認だ。
えー………………プラチナル平原。
プラチナル平原か。
なるほど、確かに白銀っぽい景色だよなここ。
なんだかヘンな音聞こえるけど。
あれ?でもプラチナル平原って名前、どっかで見た気が…………なんだったっけ?
中井出「ん〜〜……、───お、あ……」
考え、探偵のように顎に手を当て空を仰いだ……途端、思考停止。
……なにか見える。
ていうか羽ばたいてる。
ていうか……ヘンな音の正体はアレが羽ばたいていた音らしい。
中井出「アー……ソウイエバココッテ、フリーズドラゴンガ出ルッテユウ……」
てゆゥか……あいつじゃん。
中井出「でっ……で、ででででっ……ででで出ぇええたぁああーーーーーっ!!!」
でかっ!!なにあれデカッ!!
すげぇ!マジでドラゴンだ!
かなりプラチナだよ!雪原のクシャルダオラだよ!
いかん!やばい!怖い!戦ってみたいとは思うものの、物凄く怖い!!
ドラゴンと戦うのなんて初めてだぞ俺!
飛竜となら以前戦ったけど、あれも戦ったっていうよりは逃げてたってほうが正解だし!
晦との付き合い上、竜族は確かに見てきたけど戦うとなると別……!話は別…………!
あ、やばい……足震えてる……!!
いかん逃げなくては!こんな状態でやったら確実に死ぬ!
死んだら金がパーになる!戦うならせめて金を預けてからだ!
あ、でも穂岸に請求された所為で、今金がスッカラカンに近いんだった。
ていうかエィネ!?エィネェエーーーッ!!
キミが居てさえくれればここがどんなところかなんてすぐに解ったのにぃいーーーっ!!
ピピンッ♪《コマンド、どうする!?》
俺の中で最終防衛ラインというか、コマンドが展開された!
1:戦う
2:逃げ出す
3:背中に乗って『ごわぁ〜、速ウィ速ウィ〜!』とマッスルドラゴンの真似をする
4:ごめん、本当はマッスルドラゴンじゃない
5:話し合いをする
結論:…………1!
中井出「魂のッ!叫びッ!!」
言葉通りに魂を跳ね上がらせるように自分に気合を入れると、霊章から双剣を取り出す。
そんでもってマグニファイを発動させ、すぐさま長剣に変えると───
中井出「キャプテェンッ!ソォーーーーードッ!!!」
レイジングロアを天に放ち、
放ったそのままでゾンガガガガガガガギシャアアア!!とフリーズドラゴンを叩ッ斬る!!
フリーズドラゴン『クギャァアアォオオゥウッ!!!』
するとゆっくりと降りて来ていたフリーズドラゴンが落下し、
雪原にドッゴォオンと落ちた!
中井出「おぉおおゎあっ!?」
それだけでも物凄い一時的な地震が俺を襲った。
だが怯まない!怯んだけど怯まない!!
中井出「せぇええいやぁああっ!!」
長剣を双剣に変え、ミニ黄竜斬光剣を倒れたドラゴンに放ちまくる!
放つ放つ!放つ放つ放つ放つ放つ!!
中井出「しっ……しんで───死んでくれぇえええっ!!!」
気分は闇狩人だった。
もちろんこんなもんでドラゴンが死んでくれるなら苦労はしないわけで。
フリーズドラゴン『ゴバァアシャァアアアッ!!!』
中井出 「ぐぉあぁああーーーーーーっ!!!《ギキィイイインッ!!!》」
起き上がりとともに咆哮をくらい、耳が痛すぎて行動が封じられた。
しかしこの博光はモンスターハンターの狩人とは違う!
相手の咆哮が終わったのにいつまでの耳を塞いでる彼らとは違うのだ!
ドラゴンの動きで咆哮が終わったことを察知すると、
押さえていた耳から手をどかしてすぐさまグミを食う食う食う!!
レイジングロア撃った所為でHPもTPも1だからさ、食わないと死にます。ほんと。
ここまでで17秒。
マグニファイの効果が切れるまで、残り1分43秒───!
ストックは───はうあしまった!
そういやガイアフォレスティアで使って以降、全然封入してなかった!!
中井出「ア、アワワ……!」
いかん、これはいかんぞ。
このままでは全力で戦えない。
いや、全力で戦うってこと自体なら出来る。うん出来る。
命の保証一切無しだけど。
だってね……?今食べたのでグミ尽きちゃった……。
俺ゃあ町にまで行ったくせに、グミも買わずになにやってたんだろうねぇ……。
ああいやいやいや、考えるまでもなく穂岸に金払ってスッカラカンなんだけどさ。
だから買い物にもいかずに進むことにして、
アイテムもいっぱいだから食料も受け取らずに今ここに立っているわけで。
そんな悲しい現実が重なった末に……こんなことになってしまったがね……。
中井出「よ、よぅし!ここは引き分けってことにしよう!この戦い───預けた!」
ならばここはまず逃げ出すこと最優先!
いくら金が少ないからって死ぬのは嫌だし。
ゲームの中で死んだって霊章は消えないから安心だけど、でも死ぬのは嫌だ。
痛いし怖いし。
でも俺の中の狂戦士は戦う気満々みたいです。
逃げようとする俺に、
霊章を躍動させながら“男に後退の二文字はねぇ”とか言ってきてる。
あんた何処の暴走者だ!
思わずそうツッコミたくなるような状況だ。
中井出「こンの暴走馬鹿!この博光、危険な状況から容赦無く逃げ出す凡人中の凡人!
貴様の都合や道徳など知ったことではないわ!
大体貴様が勝手に俺の中に入ってきたんでしょ!?聞いてるの!?」
躍動は続く。
というか……次第にまた霊章が広がっていってるような……
中井出「ヒィ!待て!待って!体を乗っ取られるのは嫌だ!
俺は俺としてこの世界を堪能したいんだ!解ったよ解りましたよぅ!!
解ったから強引に体を奪おうとするのやめてよもう!
ちゃんとやるから力貸してよ!貸すだけだよ!?乗っ取ったらだめだよ!?」
言いつつ、とっくに逃げられない状況に深い溜め息をついた。
何故逃げられないのかって、
フリーズドラゴンがこの雪原を巨大でブ厚い氷の壁で覆ってしまったからだ。
脱出方法は敵をコロがすか俺が死ぬかか……ひどい話だ。
この迷える博光を問答無用でコロがそうというのか。
…………最初に問答無用で攻撃したのは俺なんだけどさ。
中井出「それじゃあ行くぜよ狂いし者!俺の両手に破壊を齎せ!“解除()”!!」
言葉とともに双剣化させた剣を手に構えると、
ソレを持つ腕の霊章が方まで広がり炎上する。
燃え盛る闇の炎は俺を焼くこともなく揺らめき、だが舞い降りる雪を確実に溶かしていた。
中井出「ぬおお……まるで怪物の手だな……!」
燃え盛る腕は、まるで炎に包まれたソレ自体が腕だとでもいうかのように腕の形を象る。
もちろん手に持つ双剣にもその炎は伸び、しかしやはり“俺”は焼くこともせず、
俺の敵のみが触れることを許可しない。
中井出「……ゴ、ゴクッ!」
目の前には巨大な白銀の鱗を持つ巨大なドラゴン。
相変わらず足は震えたままである。
な、なにくそっ!逃げられないならやるしかないだろ!
ブリーズドラゴン『ゴォオァアアアッ!!《ギンッ!!》』
ファギィンッ!!
中井出「……え?」
ブリーズドラゴンが鋭く俺の足を凝視した。
途端、足が氷結……どころか、氷に包まれて動けなくなった。
中井出「んなっ───!!」
石化睨みって特種攻撃なら知ってるけど、氷結睨みって……!!
フリーズドラゴン『クォオオオオオカカカカァアォオオッ!!!!』
中井出 「!」
すぐ傍で高鳴る、耳を劈く咆哮に顔を上げる。
と、そこには既に巨大な口いっぱいに氷のブレスを溜めているフリーズドラゴンの姿が!
中井出「ちょ、ちょっと待───!」
シャアアゴォッフィィイイインッ!!!!
中井出「う、おあぁああああっ!!!」
待て、と言う暇さえなかった。
放たれた氷のブレスだと思っていたものはブレスどころかレーザーといった感じで、
慌てて火円を展開した程度じゃ防ぎようのない氷の力を以って───
俺を完全に氷像化させたのち、
見るからに硬そうな白銀の鱗が敷き詰められた巨大な尾撃で、
防ぎきれずに完全に凍った俺を砕いたのだった。
……覚えてるのはそれだけ。
気づけば俺は神父の前に居て、
神父 「おお旅人《チゴォオオッファァアアンッ!!!!》よぉぎゃああーーーっ!!」
中井出「裏返し要らずの……炭火焼きファイヤー!!」
早速説教を開始する神父に裏返し要らずの炭火焼きファイヤーを実行!
神父 「なめたらかんでぇ!!《ゴオオメラメラメラ……ドゴォンバゴォン!!》」
中井出「ヒ、ヒィイ!!」
そして俺は世にも恐ろしいものを見るのだ。
そう、それは……炎上しようが爆発しようが突き進もうとする、
異常だとも思える神父の姿だった。
中井出「ばっ……バケモノォーーーーッ!!《バゴルシャア!!》ヘギョーーーリ!!」
そうして神父にボコボコにされるに至り……
この神の名を語って暴力を振舞うクソ神父をどうしてくれようかと本気で考えた。
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