───冒険の書148/愛と友情(勝利はしない)───
【ケース409:中井出博光(再コーテック)/ながされてエッフェル塔】
ザ……ザザ……ァ……
中井出「う、ぐっ……つっはぁ〜……効いたぁ〜っ……!」
痛む頭を押さえながら……いや、痛いのは頭どころじゃない、体全体がだ。
中井出「……まいったな」
体が随分とグシャグシャだった。
中井出「……おお!血管芯攻撃!!《チュー》ヒィイ!!血ィ出てる血ィ出てる!」
それでも案外平然としていられるのは、感覚が麻痺しているからだろうか。
HPもたったの2……生きてるのが不思議なくらいだ。
気絶して目が覚めたらこれだもんな……正直たまらない。
助かったのはほぼ偶然だ。
防御をしようと思った俺は、それよりも恐怖に負けて逃げようとした。
その時に発動させた風のスキルとフロートが、メテオの軌道をほんのちょっとだけずらし、
地面への直撃を少しだけ緩和してくれた。
まあ……余波であっさり気絶したけど。
人間の本能って時には役に立つということが立証された気分である。
中井出「あ゙〜〜……」
波に揺られながら思う。
ロドリゲスは無事だろうかなぁ〜と。
咄嗟に蹴ってしまったが、無事ならそれでいい。
デスゲイズからの敵対心も解けたのか、HPも体も回復してきたし。
ていうか俺もたくましくなったもんだなぁ……これもう生きてる人間の状態じゃないよ?
中井出「おぉおお……服まで再生されるのって結構不気味だ……」
折れ曲がった足や傷が癒えるのは何度か見たことがある。
しかしこうもボロボロになった装備が回復する様を見るのは初めてだ。
まるでビデオの巻き戻しを見るかのようにヴジュルモージュルと戻ってゆく。
……でもだめだ。
どうやらまだ動けそうに無い。
外見は治ったようだけど、内側が相当イカレてしまっているらしい。
…………おお!そんな時こそアレだ!
中井出「ぐっ……アバラが何本かイカレちまったらしいな……!」
…………感動。
一度本気で言ってみたかった言葉の中の一つである。
実際にアバラがイカレてるかなんてことは解らないんだが、
やっぱりマンガなどでは結構使われる言葉だ。
一度はやってみたい。
とまあそんなことを海に流されながら思っているわけだが───さて。
中井出「何処まで流されるんだろうなぁ俺……」
海の歌ってなにかあったっけ?
こんな時は歌ってみるに限るんだが……
中井出「…………、ヨイヤッサァ!ヨイヤッサァ!
だめだ……船に乗ってないと雰囲気出ない……」
かなり退屈だ。
感覚が無い所為もあってか、波に身を委ねる気持ちよさも全然感じられない。
波が体を撫でる瞬間ってのは結構好きなんだが。
中井出「ヘタにHPがありすぎるのも問題なんだろうか」
HPはまだ完全回復には至らない。
と、そんなことを思っていると、なにやら耳に届く妙な音。
今さらだけど鼓膜は復活してくれているらしく、
その音に対して俺は敏感に反応することができた。
そして───
中井出「あ、あれ?なんだか引き寄せられてるような……」
波が俺をどこかに運んでいるっ……!
これはその音っ……!
首をメェエエリキキキキキと根性で曲げてみれば、
先に見えるは───というか既に洞穴しか見えなかった。
中井出「な、なにぃいーーーーっ!!お、お前はぁーーーーーーっ!!」
そしてそんな、海水が飲まれるように吸い込まれる洞穴の先に、
俺は見知った顔を見たのだった───!
───……。
……。
ガラガラガラガラ……
声 『ゴ〜ニャッ、ニャッ……ゴ〜ニャッ……ゴニャァ〜〜ウ!!』
ガタタッ!ゴシャアッ!!
中井出「うげっぴ!!」
ボロッちい板張りの台車から捨てられた。
そんでもってゴロゴロと転がって倒れてみれば、そこは……工房にも似た広い場所。
あれから俺は洞穴に完全に吸い込まれたところを網で回収され……
手早く台車に乗せられると、
まるでモンスターハンターのハンターが力尽きた際、
アイルーにそうされるように台車に乗せられて運ばれてきた。
つまり、ここに運んできてくれたのは……猫である。
見知った顔、というよりはアイルー種を見知っていたってわけで。
どうやらこいつは似ているようで、あの万屋猫とは違うらしい。
猫 『起きたニャ?人間を見るのなんて久しぶりニャ』
中井出「う、うぐぐ……」
転がった拍子に頭打った……でも体はもう動いた。
痛いところも頭以外には存在しない。
それを確認すると俺は起き上がって、改めて周りを見てみる。
というかそもそも最初から起きていたんだが。
猫 『どうしたニャ?あんなところに浮いて』
中井出「え?ああ……実はデスゲイズという巨大なバケモノに撃ち落されてな」
猫 『あのバケモノニャ……?時々ここらへんを飛んでゆくニャ……。
でも空を飛んでない限り襲ってこないニャ。そこは安心するニャ』
中井出「そ、そうか」
気をつけないとな……あ〜ほんとビビった。
思い出してもドキドキする。
中井出「ところで……ここって何処なんだ?」
キョロキョロと見渡しながら言う。
と、猫は待ってましたとばかりにピキーンと目を光らせた。
本当に。しっかりと効果音まであったくらいだ。
猫 『よく訊いてくれたニャ!ここは猫の修行の里……言わば───……修行の里ニャ』
別の言い方が思いつかなかったらしい。
猫 『猫達はここで猫師匠に教えを頂いて、立派に成長してゆくのニャ。
あ、ボクはジニーニャ。よろしくニャ』
中井出「ジニーか。俺は中井出博光という冒険者だ」
ジニー『冒険者ニャ?てっきり何処かの村人かと思ったニャ』
中井出「それが狙いなんだ」
自分の装備を見直してニヤリと笑った。
残念ながら目の前の……というか視線の下に居るジニーのように目は光りはしなかったが。
ジニー『ボクはまだ見習いだけど、
なにか鍛えてほしいものがあるなら師匠に言ってみるニャ。
冒険者なら武器くらい持ってるニャ?』
中井出「もちろん金は取るんだよな?」
ジニー『当たり前ニャ!ボクたちはここで鍛冶の腕や商魂を叩き込まれるニャ!
ボクはまだまだ兄のように上手く出来ないけど、
いつかみんなを驚かすような万屋になるのニャ!』
中井出「兄が居るのか?」
ジニー『居るニャ。さすらいのジョニーという名前で世界を歩く万屋猫ニャ。
ボクらアイルーの中では、師匠を除くと一番の腕の持ち主ニャ』
中井出「………」
あの猫だろうか。
万屋猫っていったらあいつしか思い浮かばないもんなぁ。
そうか、あいつジョニーなんて名前だったのか……。
中井出「俺、そいつと会ったことあるぞ」
ジニー『ほんとニャ!?頑張ってたニャ!?』
中井出「おお、それはもう商魂逞しく、人間の弟子二人連れて頑張ってたぞ」
ジニー『で、弟子ももう居るニャ……!?さすがニャ!ボクもやる気出てきたニャ!!』
ゴニャニャウ!と頭を振る猫が居た。
とりあえず話はそれで済んだらしく、
それじゃ猫長老に会わせるニャと言って歩き始めた。
ジニー『でも見たところ、武器持ってなさそうなのニャ。見学だけでもしていくニャ?』
中井出「いや、武器ならあるから大丈夫だ」
何処に転がってようが、念じれば戻ってくるのが霊章クオリティ。
狭い場所を通り、やがて開けた明るい場所に目を突かれながら、そんなことを考えた。
そして───
ジニー『紹介するニャ。ここが猫の修行の場、えーと……グレートキャッツガーデンニャ』
通された場所の広さや猫の数に、俺はとんでもなく驚かされた。
名前は必死に考えたんだろうが、今はそんなことはどうでもいい。
色とりどりの毛の色の猫たちが鍛冶などの勉強や商売の勉強をしている様は壮観だ。
こうして猫たちは逞しく育ってゆくのか……!
教師猫『お客様は神様ニャ!』
生徒猫『お客様は神様ニャ!!』
教師猫『お客様を邪険にする鍛冶屋なんて居ちゃならないニャ!』
生徒猫『お客様を邪険にする鍛冶屋なんて居ちゃならないニャ!』
復唱で覚えさせる特訓もしているらしい。
脳っていうのは目で見て声で知るのが一番記憶しやすいって言うもんな。
だから音読や朗読は記憶に残るんだとか。
ジニー『長老はこっちニャ』
中井出「あ、ああ」
トストスと歩いてゆくジニーに付いてゆく。
いや……本当に驚きだ。
猫の里に居た猫の数にも驚いたが、こんな場所が……。
中井出「ここって外から見るとどうなってるんだ?」
ジニー『海からちょっとだけ顔を覗かせた洞穴にしか見えないニャ。
でも実体は海底に沈む猫たちの楽園ニャ。
夜や波が高い時は海水が流れ込んでくるから、
洞穴は岩で塞ぐから見えないけどニャ。
そんなわけで、ここに辿り着いたお客さんは運がいいニャ。
人間で長老様と会うことが出来た人なんて、人間の勇者くらいだって聞くニャ』
中井出「そうなのか」
人間の勇者か……時々聞くけど、どんなヤツだったんだか。
筋骨隆々ゴリモリマッチョ?
そういやゴリモリマッチョな勇者って全然見たことないよな。
大体がカッコイイ勇者とかだ。時々それもどうだろうかとか思ったりもするんだが。
ジニー『着いたニャ』
中井出「おっと」
猫の言葉でハッとした。
無意識に考え事に集中してしまっていたらしく、
気づけばそこは既に長老の部屋だったらしい。
とすると……あそこに座ってるのが長老か。
……見分けが全然つかん。
せいぜいでヒゲが長いくらい…………だよな?多分。
長老猫『人の子よ、よく来たニャ。人間の勇者以来だからどれくらいぶりになるかニャ』
中井出「いや俺も知らん」
長老猫『ボクは猫たちの長として長い時を生きる猫、アイルーだニャ。
アイルー種というのはボクの名前から取られているからアイルー種というニャ』
中井出「そうなのか!?」
わ、私はあまりの出来事に大変驚きました!
じゃなくて……おぉお……猫の歴史にそんな事実があったとは……!
中井出「じゃ、じゃあメラルーは?」
長老猫『かつての戦乱の中、
古の勇者からモノを盗もうとして散ったとされているニャ……』
中井出「うわぁ……」
説明の必要もないと思うが、メラルーとは猫型泥棒である。
旅人にタックルをかましてはその時必要なものばかりを強奪し、
穴を掘って逃げるとんでもないヤツだ。
猫型と言ったが、某有名猫型ロボではないし、同じく機械でもない。
中井出「ところで猫よ。貴様は何年くらい生きてるんだ?」
長老猫『古の時代から生きてるのは確かだニャ。
だからその技術を今の猫たちに教えることが出来るし、
そういった知識もいっぱい持ってるニャ』
中井出「なるほど……じゃあ早速で悪いんだが、武器を鍛えてもらえるか?」
長老猫『ボクに鍛冶を頼むなんてなかなか度胸があるニャ。
見たところ、それは霊章ニャ?
霊章を持つ人の鍛冶なんてどれくらいぶりかニャ』
中井出「以前にも居たのか……」
ジニー『長老様はあのアハツィオンの武器をも鍛えたことがあるほどニャ!
多分現在において、どんな細工や彫金、
鍛冶や合成も出来る鍛冶屋は長老様くらいニャ!』
中井出「な、なんだってぇーーーーっ!!?」
すげぇ……一見ただのアイルーなのに、そんなに凄いヤツだったとは……!
ジニー『その意志を継いだのがボクの兄だニャ。
兄は長老様の歴代の弟子の中で、最も技術に長けた猫だニャ』
長老猫『ジョニーはとても勉強熱心だったニャ。
ちょこっとだけマタタビや鰹節に弱いところがあったけど、愛嬌というヤツニャ』
ちょこっとどころじゃなかった気がするが。
中井出「……ところでさ。なんだってその長老であるお前は、何年も生きてられたんだ?」
長老猫『千年の寿命ニャ。世界に溢れる武器を愛する者のため、
ボクは猫でも出来る鍛冶の真髄を極めるべく世界を旅したニャ。
その時ボクは湖を見つけて水浴びをしたニャ。
でも激痛に襲われて、生死の境を彷徨って───
持ってた薬草という薬草を噛み締め続けて耐えて───
その末に、とうとう激痛を乗り越えることが出来たのニャ』
中井出「そ、それで寿命を……?」
ナ、ナイスガッツ!
この世界にある寿命が空界と同じようなものだとするなら、
人間にしてみれば猛毒だっていうのに───…………あれ?人間には?
中井出「………」
長老猫『ゴニャ?』
ああ……そうか……猫だもんな……。
長老猫『そんなわけで奇跡の生還を果たしたボクは、
きっと猛毒に違いないニャと湖の水をいっぱい持ち帰ったニャ。
それを武器に滲ませることが出来れば、
きっと強力な武器が作れるに違いないニャと』
中井出「それがどういう水だったのか知ってると、
馬鹿な話以外のなにものでもないなそれって……」
長老猫『しっ……失礼ニャ!!』
ガーンとショックを受けた長老猫だが、めげずに話を続けてゆく。
おお、長生きは伊達じゃない。
長老猫『そんなわけでいろいろ調べていくうちに、それが寿命の原水だって知ったニャ。
竜には癒し、人には毒、人でも竜でも無い存在には、
ちょっと危険だけど耐え抜くことが出来れば大いなる力が手に入る。
それはそういうものだったニャ』
中井出「大いなる力か……」
無の精霊に言われたことを思い出した。
でも今は忘れておくことにする。
だって、人間はやめたくないし。
俺はあくまで人間として旅をしたい。
サイヤ人じゃなくていい……俺はクリリンで居たいんだ。
長老猫『そんなわけで、世界でもここまで長生きの猫はボク以外には居ないニャ』
中井出「大いなる力ってのも得たんだよな?」
長老猫『得たニャ。見るがいいニャ、ボクの力!』
そう言うと長老猫はジャキィンッと爪を伸ばす!
すると背中にバサァッと───竜の翼めいたものが猫サイズで生え、
頭には竜特有の鋭角が出現!
これって……竜化!?
長老猫『と、このように竜化が可能になったニャ』
中井出「ま、まるでそれが当然のように!じゃなくて!
お、おおお……!なんて奇妙な……!でもなくて……!
うおおどういう反応をすればいいのか解らぁーーーん!!」
面白いのは確かだが、反応に困る状況だった。
おお……角と翼の生えた猫とは……。
確か晦もやってた気がするが、今は今のことを考えよう。
よし。
長老猫『もちろん原水の痛みに耐えただけじゃ竜にはならないニャ。
竜から竜の力を搾り出して吸収するようなことでもしないと無理ニャ。
そんなわけで話は別の方向に向かうニャ……聞くニャ?』
中井出「鍛えてもらいながらだとありがたい」
長老猫『それもそうニャ、長くなるしニャ』
そんなわけで霊章から出現させた武器を渡すと、
金額の見積もりや持って来た素材などを見せて検討。
鍛ち始める猫と会話をしながら、俺は少し体を休めることにした。
───……。
……。
猫が言うには、当時世界にはネクロマンサーが結構居たらしく───
その中には根性が捻じ曲がったネクロマンサーが多々居たらしく、
中でもとびっきりのヒネクレ者のネクロマンサーに、ある時猫は捕まったらしい。
で、そのネクロマンサーの猫体実験に用いられたのが竜の血や竜の力などの移植。
変わったモンスターが見たいってことで、キメラの研究とかしていたそうなのだ。
で、なんの因果か寿命を手に入れていたことでそう簡単には死なない体になっていた猫は、
竜の血にも竜の力の移植にも妙な免疫みたいなのが出来ていたために生還。
晴れて竜の力を手に入れて、そのネクロマンサーを八つ裂きにしたのちに旅に出た。
しかし手に入れてみれば便利だったそうで、素材が欲しい時はモンスターも倒せたし、
とても硬い鉱石を加工する時にも簡単に加工できるようになったりと、
案外いいことづくめだったらしい。
荷物を運ぶのにも難儀しないところが一番ありがたい、なんて言っている。
ジュワァアアアッ……!
長老猫『見れば見るほどいい武器ニャ……!おたく、武器をとても愛してるニャ……!』
中井出「もちろんだ!武器と冒険はまさに男のロマン!
これがあってこそ冒険が映えるというもの!!」
長老猫『持ち主が武器が好きだと鍛え甲斐があるニャー!』
熱して、鍛って、冷やしてと、
単純に見えて力加減が難しいであろうことをスラスラとこなしてゆく。
この猫の技術……ホンモノだ!
長老猫『これは今まで誰に鍛えてもらってたニャ?専属ニャ?』
中井出「最初はそうでもなかったんだけどさ、
アイルー……いや、ジョニーに鍛ってもらってた」
長老猫『ジョニーニャ?なるほどニャ、今もメキメキと腕を上げてるようニャ。
でも別の猫のクセも結構目立ってるように見えるニャ。
鍛たせたのはジョニーだけじゃないニャ?』
中井出「見ただけで解るのか……猫のくせに」
長老猫『猫の目利きを甘く見るのは感心しないニャ!』
中井出「はっはっは、すまんすまん。実はさ、猫の里に行ったことがあってさ。
そこで金が許す限り、たっぷりと鍛えてもらった」
長老猫『なるほどニャ。弟子達の頑張りがこの剣からは滲み出てるニャ』
弟子達の成長が嬉しかったのか、
長老猫は鎚を横に置くと剣をいとおしそうに撫でてジュウウ!!
長老猫『ギニャアーーーーーッ!!!』
……火傷した。
中井出「だ、大丈夫か猫!(頭が)」
長老猫『し、失礼ニャ!!別にボケたりしてないニャ!!』
俺が思っていたことそのものを受け取ってくれたらしく、
頭の心配をされていたと理解していたらしい。
凄いぞこの猫。
でも猫が熱がって、手……というか前足をパタパタ振る様はかなり面白いものがあった。
と、そんな時だ。
ナビを通して、俺宛てにtellが届いた。
もちろん俺は通話をonにして───
中井出「おう!俺だぁ!留だぁっ!
今年の花火大会はよぉ、俺ッちの“昇り竜乱れ七変化”を楽しみにしてくんな!」
それだけ言うと、ブツッと切った。
中井出「で、話の続きだが───《ナルルルルル……》うおっ!?誰だ!?」
せっかくときメモ名物迷惑電話の一を実践してやったというのに……。
あの留さん、一方的に電話してきて一方的に電話切るのなんとかしてくれないだろうか。
しょうがない……
中井出「おう!俺だぁ!留だぁっ!
今年の花火大会はよぉ、俺ッちの“昇り竜乱れ七変化”を楽しみにしてくんな!」
ブツッ……ナルルルル……!
ウホッ、しぶといヤツ……!まさか切った途端にいきなりtellしてくるとは……!
だったら何回でも付き合ってくれる!
中井出「おう!俺だぁ!留だぁっ!
今年の花火大会はよぉ、俺ッちの“昇り竜乱れ七変化”を楽しみにしてくんな!」
ブツッ……ナルルルル……
中井出「おう!俺だぁ!留だぁっ!
今年の花火大会はよぉ、俺ッちの“昇り竜乱れ七変化”を楽しみにしてくんな!」
ブツッ!ナルルルル……!
中井出「おう!俺だぁ!留だぁっ!
今年の花火大会はよぉ、俺ッちの“昇り竜乱れ七変化”を楽しみにしてくんな!」
ブツッ!ナルルルル……!
中井出「おう!俺だぁ!とめ───」
声 『いい加減にしろぉおおーーーーーーっ!!!!!』
中井出「《ズキィーーーーン!!!》ギャアーーーーッ!!!」
喋り途中に大音量で叫ばれてしまった。
もちろん耳を劈く声は俺の耳にかなりのダメージを与えた。
中井出「だ、誰!?僕の耳に恨みがあるキミは誰!?」
声 『穂岸だ穂岸!声で察しろ───って言いたいところだが
それ以前にちゃんと人の話を聞け!!』
中井出「話なんてされてないからフフフ無理だ」
声 『そこでわざわざ笑う意味なんてないだろうがぁあ…………!!
さっきロドリゲスっていったか?
そいつに会って、ドリ……ナギーが事情を聞いたんだ。
それから助けに行くのじゃとか探しに行くのじゃとか喚いてるんだよ。
さっさとこっちに来てなんとかしてくれ、俺が宥めても落ち着いてくれもしない』
中井出「おお、そういう時はナギーの肩に手を置いて、
キューティーミルキーチェケラッチョと言うんだ」
声 『そ、そうなのか?えーと……《ザムザム……》
キュ、キューティーミルキーチェケラッチョ!!』
声 『なにをするのじゃーーーっ!!』
声 『《どごぉおおおんっ!!》ぐわぁあーーーーっ!!』
中井出「ちなみにウソだ」
声 『お前なぁあああああっ!!!』
まさか素直にやってくれるとは思わなかったんだから仕方ない。
それは恐らく、子供相手という条件のみ彼が甘くなることに原因があるに違いない。
中井出「まあとにかく無事だってことだけナギーに伝えておいてくれ。
……ところでもう時の加護は貰ったのか?」
声 『ああもらったよ』
随分と投げ遣りに言われた。
だがからかいすぎたと後悔するのはそちら側の人々のやること。
我ら原中は我が身を以って我を通す血塗れの修羅よ。
だから貴様が僕と出会った時、どんな攻撃をしようが僕は全力で受け止めよう。
散々馬鹿にする者がまったく裁かれない世の摂理などは破壊するべきなのだ。
声 『それよりお前は何処に居るんだ?』
中井出「グレートキャッツガーデンに居る。デスゲイズにやられたところを助けられた」
ということにしておく。
中井出「そんなわけで、しばらく戻れそうもないんだが」
声 『ああ、いい。加護は俺だけで集めるから。
で、そのグレートキャッツガーデンは何処にあるんだ?』
中井出「おおちょっと待て、今マップの画像をメールで……」
ピピンッ♪《メールを送った!》
声 『…………、こんなところにあるのか』
中井出「気絶しててさ、気づいたら波に流されてた」
声 『そっか。じゃ、そこにドリ……ナギーが向かうらしいからよろしく』
中井出「おう了解。
あ、でも空だけは飛ぶなって言っておいてくれ。デスゲイズに殺される」
声 『空飛んだだけでか!?』
中井出「空飛んでることが襲撃条件みたいなんだ。
俺もさっき、ロドリゲスに乗ったら襲われた」
声 『あー……わ、解った。じゃあそこまでの距離は海を凍らせて向かわせるから。
その後のことはそっちでなんとかしてくれ。そっちはそっちで冒険するんだろ?』
中井出「おお」
声 『正直俺も自由を楽しみたいんで、ここで解散ってことにしよう。
ナギーはもうそっちに向かったから』
中井出「オーケー了解。いろいろ悪かったなー」
声 『まったくだ……』
ボソリと言い残し、tellは切れた。
うーむ、やっぱり周りに振り回されるヤツの心労は計り知れないらしい。
さて……それはそれとして、俺は武器が完成するまでどうしてようか。
話をするにしても、そうそう話題は無い気がする。
……いいや、少しばかり寝よう。
そろそろ疲労も溜まってきたことだし。
ナギーが来たら起こしてくれるだろう。
長老猫『寝るニャ?』
中井出「うむ。だが心配するな。
この博光は周りが五月蝿かろうと眩しかろうと眠れるのが特技だ」
長老猫『解ったニャ。それじゃあ遠慮なく鍛ち続けるニャ』
頷いて続きをする長老猫に頼むと言って、俺はゆっくりと壁に背中を預けて目を閉じた。
さて……どれだけ眠れるだろうか。
【ケース410:弦月彰利/ブラックさん】
でってーけでーてーててーん♪
ピピンッ♪《バトルランクがA++になった!》
彰利 「っしゃあ!あと一歩ォッ!!」
昼が過ぎ、やがて夜になった頃。
俺は上がったランクを溜め息で向かえ、拳を前に突き出した。
稀黒装にも大分慣れてきたところだ。
もちろんルナカオスも相変わらず使ってはいるが、やっぱ俺ゃ剣より体術のほうが得意だ。
レベルも着々と上がっていってるし、いっそこのまま体術に戻ろうかとか考えてる。
夜華 「彰衛門、食事を持ってきたぞ」
彰利 「おや?」
と、そんな時である。
勢いに乗っていた俺にかかる夜華さんの声。
その手には、食事が乗ったトレーがあった。
彰利 「おやおや夜華さんありがとう。なに、今日誰が作ったん?」
ウホゥと声を出して、自己鍛錬体勢を解いて夜華さんのもとへ。
精霊野郎改めホギーが下界に降りたのち、一番困ったのが食事当番だったりする。
戻ってきてくれないかね、彼。
別に俺が作ってもいいんだけど、
その間も修行したいって思うような状況になってしまってるもんで。
責任がどうとかそんなんじゃない。
ただ可能性があるならもっと上を目指したいって、
男としての純粋な欲求に駆られているのである。
夜華 「食事当番は……すまん、名前が解らない」
彰利 「あらそうなん?じゃあ猛者サイドかブリタニアサイドか」
夜華 「ぶりたにあ側だ。だがすまん、やはり名前は解らない」
彰利 「あらそう……まあいいや、いただきますかね」
夜華 「修練場で食らうなど、行儀が悪いと思うがな……」
彰利 「そういいながらちゃっかり自分の分まで持ってきてるじゃない。
それともなに?これ全部俺が食っていいの?」
夜華 「ぅなっ!?だ、だだだだめだっ!そ、そうだな、よし!
考えてみれば過去、母上の道場でともに食事をとったことがあった!
行儀など気にせず食そう!そうだそれがいい!」
そう言ってもぐもぐと食べ始める夜華さん。
しかし食べた途端に“いただきます”を言うのを忘れたためか、
慌てて箸を置いて手を合わせ、いただきますを唱えた。
ほほ、微笑ましいもんじゃて。
やぁ、やっぱり誰かとこうしてメシを食うのっていいもんだよね。
どれ、ではオイラも。
【ケース411:藍田亮/スペッテキオ】
───……もぐもぐもぐもぐ。
藍田 「ン───こりゃなんの味だ?」
岡田 「………………大福?」
清水 「つーかさ、なんか舌が痺れるんだが……」
藍田 「今日の食事当番誰だっけ……?」
雪音 「わたしー!」
総員 『うわぁ……』
雪音 「あれっ!?な、なになにみんなその顔!
美味しいでしょ!?味見なんかしてないけど!」
藍田 「こ、この馬鹿め!だから貴様は馬鹿なんだ!」
丘野 「その通りでござる!こんなヘンテコ料理を作ってしまっては、ヤツが───」
ドスドスドスドスドスドス!!!
彰利 「このあらいを作ったのは誰だぁっ!!」
総員 『うわぁ来たぁっ!!』
夜の食事中、ヘンテコな味のメシを食わされた俺達は───
予想通りというか、突如として訪れた弦月……いや、敢えて雄山()と呼ぼう。
雄山の登場に、マズイ飯をさらにマズく感じる状況に立ってしまっていた。
雪音 「あらいじゃなくてお汁粉だよぅ!」
雄山 「貴様か!貴様はクビだ出ていけぇっ!!」
雪音 「えぇえっ!?」
つーか汁粉!?晩飯に汁粉!?
餡子を溶かしたものじゃなくて、この大福を溶かしてデロ〜リな物体!?
貴様いっぺん料理の本でも見てみろ!
清水 「ま、まあまあ海原先生、せめて何故晩飯に汁粉だったのかくらい聞いてから……」
雄山 「やかましい!腕の善し悪し以前の問題だ!こやつには料理を作る資格が無い!!」
清水 「誰も腕の善し悪しなんて訊いてねぇよタコ!!」
雄山 「出ていけぇっ!!」
ビュッ───ゴワシャアッ!!
雪音 「ひゃわぁっ!?」
雄山が手に持った器を投擲!
するとそれは見事に食事当番だった……なんつったっけ?馬鹿?まあいいや馬鹿で。
馬鹿の足元でゴワシャアと大きく跳ねた。
雪音 「う、ううぅ……お、美味しくなかったかもしれないけどこれはあんまりだよ!」
雄山 「黙れ!この雄山にこんなものを食わせるとは!
だから食に招かれるのは嫌なのだ!
人を招いておいてこんなものを食わせるなど!」
丘野 「別に呼んでねぇでござるから帰れてめぇ!!マズイのは認めるでござるが!」
岡田 「まったくだ!帰れ!マズイのは認めるけど!」
雪音 「うわぁあああん!!ホギッちゃんみんながヒドイ───あうっ!」
くるりと振り向いた先には閏璃。
閏璃 「やあ、ホギッちゃんだよ」
雪音 「うっ……《かぁああっ……!!》う、うぅううーーーーーっ!!」
岡田 「ホホホ……ホギッちゃんだって」
飯田 「キョホホ……ホギッちゃん」
藍田 「ジョワジョワジョワ……ここを卒業していった男に焦がれるおなご……」
丘野 「ヌワッヌワッヌワッ……微笑ましいったらねぇぜ〜〜〜っ!」
雪音 「ち、違うもん!今のは弾みで言っちゃっただけだよー!!」
藍田 「ジョワ?てめぇ〜〜っ、この期に及んでまだ言い訳を残す気かぁ〜〜〜っ!!」
丘野 「ヌワヌワヌワ!!貴様の本心はそんなものではねぇだろうがぁ〜〜〜っ!!」
カタンッ……
藍田 (お?)
ふと外の方から物音。
現在皆様この食堂に集まって、
馬鹿の行く末を静かに見守ってるから外から音が聞こえる筈が無いんだが……
中村 「さあ!本音プリーズ!」
蒲田 「考えてみれば貴様の本音、まだ聞いたことがねぇ〜〜〜っ!」
島田 「なんだかんだでいっつも一緒に居たが、やっぱ好きなんか!?」
雪音 「う、うー!うぅうーーーっ!!」
総員 『さあ!レッツ告白!』
雪音 「ちっ……違うもん!そんなんじゃないもん!
わたしホギッちゃんのことなんか大嫌いだもん!!」
総員 『───……』
ごしゃっ。
総員 『ざわ……!!』
で、やっぱり聞こえた物音。
振り返ってみれば───
遥一郎「……あ、いや……忘れ物したから取りに来たんだが……」
総員 『ホギャアァオァアーーーーーーーーッ!!!』
総員絶叫。
それぞれが阿鼻叫喚し、二人の行く末とタイミングをとことんまでに案じた。
ちなみに床にはお土産用お持ち帰りパックのうまティー。
岡田 「イ、イヤァアーーーーーッ!!!ラヴコメだ!
ラヴコメ漫画のイタイところが実際に展開されてる!!」
田辺 「このタイミングで戻ってくるなんてどんなラヴコメ加減だぁーーーっ!!」
雪音 「あ、あっ……あぁあ……あ、の……ホギッ……ちゃん?今のはっ……」
遥一郎「安心しろって観咲、」
雪音 「あっ……ほ、ホギッ───」
遥一郎「俺も貴様の馬鹿さ加減はとことんまでに大嫌いだ」
雪音 「!う、うわーーーーん!!」
あ、泣いた。
真由美「あ、あのね与一くん、今のは───」
遥一郎「あーあー、解ってるって。
どうせ周りのやつらに囃し立てられて暴走した結果なんだろ?
それ以前に誰がどう思おうが俺は誰とも付き合わないし」
雪音 「《ぐさぁっ!》うぐぅ!!」
岡田 「うおおむごい!」
田辺 「涙をお拭き!?タイヤキあげるから!ホラ食えうぐぅ!」
閏璃 「そういやそれだけ周りに好意をもたれてるのに、
なんだって付き合ったりしないんだ?」
遥一郎「俺が好きだった相手はもう死んじまってる……生まれ変わりは居るけどな。
俺だけ覚えてるっていうのはフェアじゃないし、
そもそも一度リセットさせたかったんだよ。
あーそれと。他人の色恋にあーだこーだと口を出すな鬱陶しい。
俺はなによりもそういうお節介が大嫌いだ」
閏璃 「うおう」
藍田 「あの、いつも沈着冷静っぽく見えて、
案外周りに振り回されてギャアギャア叫んでるホギッちゃんが……!」
凍弥 「へー、おっさんってそういうの嫌いだったのか。その割には……」
遥一郎「燻ってるヤツの背中を押すのは義務だ。
けどな、そうされるのがイヤだって言ってるヤツの背中を突き飛ばすのは、
それは立派な迷惑行為だ。俺は誰とも好き合うつもりはないし、
受けた好意を無邪気に無責任に返せるほど人間出来ちゃいない。
だから見返りを求めた好意になにをしてやる気もない」
藍田 「ウホッ、随分とCOOLな……!」
穂岸って案外冷たいヤツだったのな。
でもその意見には賛成かもしれん。
飛んでくる好意に甘んじてると、周りはどんどん誤解する。
誰がどう思おうが本人が誰とも付き合わないって言ってるなら、
無理にあーだこーだ言うべきじゃない。
藍田 「ちなみに穂岸よ。貴様がもっとも大事に思ってるものはなに?」
遥一郎「…………友情」
ボソリと言って、息を吐いた。
まるで、決まってるだろ?とでも言うように。
凍弥 「恋より友情か……おっさんらしいって言えばらしいけど」
猛者連中『いや、その意見には我ら原中も賛成だ』
豆村 「なにぃ!?……ちなみに何故?」
岡田 「そらお前。本当の友情ってのは愛情なんかよりよっぽどあったけぇからだ」
七尾 「確かに愛も家族もあったかいけどね」
藤堂 「一緒に居て一緒に笑って、一緒に馬鹿やって一緒に喧嘩する。
でも喧嘩しただけまた相手のことを知って、
仲直りできたらもっと仲良くなれる。そういうのって友達だけだろ?」
下田 「だったら恋人も、とか言うヤツ居るけどさ。正直そんなことないぞ?」
津嶋 「他の女友達と仲良くしてるところ見ると嫉妬したりだとか、
そんなの見てて嫌気が差すしね」
総員 『だからフレンド!この世で最も美しい関係!フレンド!』
藍田 「本当に信頼し合える友情ってのはな、家族よりも恋人よりもあったかいんだ」
丘野 「そうでござるな?弦月殿」
彰利 「え?なに?」
総員 『聞けよてめぇ!!』
藍田 「俺達今美しいこと言ってたのに聞いてなかったのかてめぇ!!」
総員 『このクズが!!』
彰利 「いや、俺ただここに料理の文句飛ばしに来ただけだし……なんの話?」
藍田 「友情!友情の話だ!
家族よりも恋人よりも友情ってスゥーーバラシィーーって話!」
閏璃 「友情って言えばだが………お前って今、晦とはどうなんだ?心配とか」
彰利 「心配?するに決まってんだべさ。
でもあいつが記憶飛ばしてまで何か求めるってんなら、
俺はあいつが何かを得るまで自分のするべきことをするだけだ」
閏璃 「………………へぇえ……」
総員 『これが友情!!』
鷹志 「いや、お前らは黙れ」
散々てめぇとかクズとか言ってた我らの言葉では、説得力に欠けたらしい。
藍田 「でもさ、そうは言っても気になりはするんだろ?
様子見に言ったりだとかは───」
彰利 「あーあー、いいのいいの。他がどう思ってようが、
あいつは自分がコレと決めたらテコでも信念曲げねぇから。
そりゃ記憶飛ばしてやるなら信念のひとつでも曲げてくれるかもだけど、
どんなバッケヤラァになっても悠介は悠介だからな。
俺ゃあいつと会えてよかったって思ってる分、あいつのこと信頼してるから。
だからだいじょ〜〜〜ぶ。心配はしてるけど会いに行こうとかは思わないわ」
藍田 「ほほう……」
豆村 「けどさ、その信頼って相手にとってはただのプレッシャーになるんじゃないか?」
彰利 「勘弁しろよ……だからお前は豆なんだよ」
豆村 「じっ……実の息子を豆扱い!」
彰利 「なんでもかんでも押し付けあって楽しいか?俺と悠介が言う友情ってのは、
重くないけど互いに肩貸し合ってよりかかれるくらいのモンだ。
お互いに馬鹿やって、殴る時は殴って。
それでも笑ってられる時間を一緒に過ごす。
俺達は互いを高望みなんてしてないし、
無理なものは無理だって理解出来る心だって持ってる。
そりゃ、その範疇を越える事態だって当然起こるさ。
だからその時は頑張る。一生懸命頑張って、笑っていられる時間を作る。
足枷なんていらないんだよ。友情は足枷なんかじゃない。
一方的に信じて、相手がそれに適わなかったからって怒るものでもない。
軽く信じる程度で、自分からは絶対に裏切らないって心さえ持ってりゃいい。
ただ俺達は、互いに馬鹿やって笑ってられればそれでいいんだから」
豆村 「……それってやっぱり重いんじゃないか?」
彰利 「ヌム?……はっはっは、ガキだなぁお前。青臭ぇ、反吐が出る」
豆村 「そっ……そこまで言うか!?」
彰利 「まぁ後半は言ってみたかったから付け足しただけだが。
あのな、俺たちゃ互いに感情持ってるだろ?
でも俺と悠介は当時、そう立派な感情なんてなかった。
そんな俺達でも殴り合って、少しでも相手を解ることが出来たから笑えた。
気づけば確認することもなく友達になってて、なんでも言い合える仲になってた。
……友情ってのはいいもんだ。
特に、相手が何処まで冗談で何処まで本気なのかが解る友情は。
罵り合っても笑える瞬間を、俺は確かに原中に入る前から知ってた。
でも正直、原中で過ごした学園生活ほど充実した瞬間ってのは無かったと思う。
それは周りの皆が皆、俺たちを受け入れて、
なんでも遠慮なく騒げる間柄になってくれたからだ。
待ち合わせに遅刻したとか、その所為でテレビ見逃したとか……
そんなくらいで壊れるような友情なら、俺は最初っから願い下げだ。
そんなのは友情なんかじゃないし、知り合いの状態でも居たくないって思う」
豆村 「……平気で怒りそうな気がするけど」
チラリ、と豆ボーヤが我ら原中を見る。
総員 『当たり前だ!見縊るな!!』
豆村 「えぇっ!?そこ見縊るべきとこじゃないの!?」
彰利 「だからガキだっつーとるんじゃオラァ。
怒らずに許容ばっかしてたらただのへりくだった間柄じゃねぇの。
怒る時は怒って、殴る時は男女差別なく殴る。でも、友情だけは壊さない。
互いに信頼してるから間違ったことがあれば殴ってでも止めるし、
それで嫌われようが、真正面からぶつかれば、いつか解り合えるって信じてる」
総員 『それが友情!!』
彰利 「それは、“重くないけど大事な関係”だ」
総員 『それが友情!!』
彰利 「そんな仲がずっと続けば、
俺も悠介も互いに遠慮なんてする意味も無くなるってもんだ。
散々誤解して散々間違った信頼押し付けて。それでもぶつかって信頼し合えた。
散々俺の独りよがりな言葉も受け入れてくれたし、それで悩んでくれたりもした。
全力で殴りあったし、笑い合ったりもした。……なんかさ、それだけでいいんだ。
高望みなんかしない。ただそうやって、馬鹿やって笑っていられればそれでいい。
ガッコ行っても不良扱いで嫌われ者。
相手の家族に目ェ合わせればずっと憎しみの目を向けられてた。
……それでも、あいつだけはずっと同じ目で俺を見てくれていた。
それだけでよかったんだよ、俺は。
周りがどうだろうが、周りにどう思われようが、あいつのために頑張れた」
藍田 「……知れ、ガキめらよ。それこそが親友ってモンだ」
彰利 「信じる心は軽くていい。相手の重荷にならない程度でいいんだ。
でも、裏切りの心だけは持っちゃならない。
自分から相手を裏切るなんて、そんなのあんまりな行為だ。
誤解したっていい、喧嘩したっていい。
でもな、自分から裏切ることをする自分にだけは……なるんじゃあねぇぜ?
そんなヤツが友情を語るなんて、お門違いにも程がある」
豆村 「………」
豆ボーヤはまるで、説教された子供のようにしょんぼりとなってしまった。
つーか……これがさっきまで雄山だった男のセリフなんだろうか。
藍田 「ところでこの料理を見てくれ。こいつをどう思う?」
彰利 「すごく……腹立たしいです……このあらいを作ったのは誰だぁっ!」
鷹志 「うおおぶり返したぁあっ!!」
柿崎 「ああっ!せっかくいいこと言ってたのにシリアスな雰囲気が逃げてゆく!!」
藍田 「そりゃお前……我ら原中が居る場で早々シリアス空間が続くと思うか?」
柿崎 「それもそうだった」
即答だった。
俊也 「ていうかお前!雄山モードの彰利は勘弁だとか言ってたのに!」
藍田 「こんな不味いものを食べさせられて黙っていられるか!
不味いものは不味いと言わねば上達などせぬわ!!」
岡田 「世に住む男どものなんと軟弱なことか!どんなマズイものでも
女の料理ならば食べなければ男ではないとはよく言ったもの!
だがそれが不味いかどうかを指摘してやるのも男の務めというものだろう!
それさえ出来ずになにが漢かッッ!!」
柾樹 「あの、それはそうなんですけど、肝心の張本人たちは別の話してますよ?」
総員 『ナニィ!?』
ババッと一斉に振り向いた!
するとそこには改めて告白して見事玉砕している馬鹿の姿が……!
雪音 「うわぁあああん!!まゆちゃぁああーーーーーん!!」
真由美「……与一くん」
遥一郎「そんな顔しないでくれ、なんて言えたもんじゃないと思うけどさ。
でも俺は誰とも付き合うつもりはないから」
真由美「……うん、解ってる。先にそう言われても告白したのはゆきちゃんだから」
澄音 「やっぱり、フレアちゃんのこと忘れられないかい?」
遥一郎「悪い、蒼木。俺……その言葉好きじゃない」
澄音 「……うん、ごめん」
……?ふと、穂岸とスマイリー蒼木が話している言葉が耳に届いた。
フレア……という人物のことは知らんが、どうやらその人が穂岸の想い人であり、
話方からするとどうやらもう存在していないらしい。
はたまた離れ離れになってしまったか。
よく解らんが───そういやどうしてみんな、
“○○のこと、忘れられないか?”とか言うんだろうな。
忘れる必要なんて無いし、そんなのは本人の自由だと思うんだが。
真由美「……ん、いっぱい泣いていいよ、ゆきちゃん」
雪音 「あぁあああん……!!うぁああああん……!!」
雄山 「貴様かっ!貴様はクビだ!出て行けぇっ!!」
総員 『雰囲気読めてめぇ!!』
鷹志 「普通ここで追い討ちかけるか!?」
藍田 「一度知ったら普通ではいられない……それが我らの原ソウル」
鷹志 「いや……今お前もツッコミ入れてただろが……」
藍田 「入れもしませう。何故ならその方が面白い」
岡田 「近頃の若人はちと常識に囚われすぎて、
普通に楽しむ心を失っている気がするのだ。そんな人々の心に革命を起こしたい。
あ、でもやっぱいいや。我らは我らで楽しんでればそれで。
どうせ今の若人には何を言ったところで反発するだけに決まってる」
鷹志 「……、それは解るかもしれない」
よく若人は大人のことを頭のカタイやつらとか言うけどね。
いや、そりゃ俺もそうだとは思うよ?
でも同じくらいに若人どもも頭硬いんだよね、ほんと。
なに言ったって頭っから否定する気満々なのは大人と大して変わらんだろ。
大人の言うことに反発するのが子供なら、
子供の言うことを真正面から受け取ろうとしないのは大人。
でもそれってどっちもどっちだし、つまりイコール両方とも頭硬い。
そりゃどうにもならんだろ、オイ。
藍田 「じゃ、そろそろ全員で雄山をボコボコにするか」
岡田 「だな」
鷹志 「最近、食事の時間の度にこんなことしてる気がするよな……」
そんなわけで。
雰囲気悪くして悪かったと言い残し、去っていく穂岸に気にするなと全員が言う中。
その全員がまだ罵倒を飛ばしている雄山を囲んで武器を取り出した。
雄山 「この雄山もなめられたものよなッ!
よもやこんな料理とも取れないもので持て成されるとは!!
大体この器はなんだ!この雄山によくもこんな器に盛ったものを出せたものだ!
これだから味も品位も解らぬ豚や猿だとギャアーーーーッ!!!」
もちろんその後は全員で集団リンチ。
喋り途中の雄山をレセプションで蹴り倒し、これでもかというくらいボコったのだった。
……ていうか黒で雄山を象ってるってのに、ギャアーとか叫ぶと物凄くヘンテコだ。
しかもさっき自分が投げた器をわざわざ拾ってまで罵倒。
どうあっても罵倒しなければ気がすまない男を殴りつつ、
我らは微食倶楽部の在り方というものについて、少し考えるのだった。
……もちろん時間の無駄だからものの数秒も考えなかったが。
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