───冒険の書163/人体能力超越物語───
【ケース435:中井出博光(緋村抜刀再)/常勝無敗と東方不敗は似てる】
ザッ……
総員 『………』
そうして僕らは辿り着いた。
風が吹き荒ぶ谷の頂上、切り立った崖の先の先にあった小さな集落に。
名前もないその場所は村とか町とか言えるような場所じゃなく、
そう、集落という言葉が一番似合った場所だった。
藍田 「随分寂れた場所だな……」
中井出「うむ、ナイスストレート意見だ藍田二等。
集落の人々からの痛い視線を独り占めだ」
藍田 「すんません失言でした……」
でも実際、豊かとはいえないくらいに寂れていた。
居るのも数えられる程度の人数で、子供の姿もそうない。
ナギー『ふむ……どうするのじゃ?』
中井出「とりあえず……」
藍田 「そだな。進むか」
ルルカ『ゴエ』
とりあえず進んでゆく。
実際、ここに気脈点穴法の秘術があるかどうかなんて解らんのだ。
だったら訊いてみるしかない。
そしてそういう重要なことを訊くっていったら族長だろう。
ていうかこういう集落の族長とは一度でいいから話してみたかった。
そんなわけで一際豪華なテント……ではなく、一番小さなテントを探して先へ進んだ。
一番大きなテントにこそ長が居るなんてまやかしさ。
お偉いさんにはそれが解らんのだ。
中井出「御免」
そうして見つけた小さなテントに、まず断りを入れてから入る。
しかし中はカラッポ。
誰も居ないテントには小さな雑貨などばかりが転がっていた。
……どうやら物置らしい。
ナギー『のうヒロミツ?ここは手分けしたほうがいいのではないかの』
藍田 「お、賛成」
中井出「だな。無駄に広いだけで人はそう居ないみたいだからすぐに終わるだろ」
ルルカ『ゴエ』
それぞれがウンと頷いて、各方面へと歩き始める。
ナギーとルルカは脇を逸れた方へ、藍田二等はその逆。
俺はさらに奥へ。
中井出「………」
歩いていく中で見る景色は、なんていうか……うん、
不思議ってイメージが一番似合ったものだった。
言葉で言い表せないのが悔しいけど、
こんな人達も居るんだなって思わせる景色がそこにある。
痩せ細った人ばかりなのに食事を求めているわけでもなく、
乾いているように見えるのに水を欲するわけでもない。
言ってしまえば下の方に清流はあるし、その近くに果実の樹だってあった。
ようするに……必要以上のものを手に入れようとしない人達がここには居た。
それは子供も同じだ。
食事などよりも、樹にぶらさげた木柱を足で蹴ったりしている。
貧しい人っていうよりは戦いに命を捧げる部族のようにも見えた。
中井出「………」
そんな景色を見る中で俺は、力を得るならこういう場所でこそ得たいなと思った。
欲望にがっついて力に翻弄されるんじゃなく、自然と一体になるように力をつける。
ここにはそんな空気が確かに存在していた。
じゃなきゃ、あんな子供があんな風に自分を鍛えるだなんて思えない。
木をあんなに強く蹴っているのに、子供の足はまるで赤くなっていないのだ。
それはつまり、木を蹴る足自体がすでに凶器と化すほど硬くなっているということだ。
……見れば、そんなことをしているのは一人や二人じゃない。
地面の上に直接座り込んで何かを削っていた老人は、よく見ればナイフなど使っていない。
研ぎ澄まされた爪で木を削り、木製のナイフを作っていた。
その横では若いながらに無精ヒゲを生やしたような青年らしき男性が、
指で石らしきものを撫でていた。
そう、それは確かに石なのだが、何度も何度も時間をかけて指の腹で撫で、
角ばった石を丸いものへ変えていっているのだ。
中井出(……すげぇ……)
素直にそう思った。
岩を破壊してみせるよりもよっぽど凄いと思った。
だって、あんなのはよほどの根気や集中がないと出来やしない。
それを、まるで当然のようにやっているのだ。
……そう、“人間”が。
だから俺は人間の小さな高みをこの目で見ることが出来た気がして、
静かなこの集落で確かな胸のうずきを感じていた。
中井出「お……」
やがて俺の足がとあるテントの前で止まった。
まるでそここそが目指している場所なのだと、俺の本能が訴えているかのように。
だがズガガガガガガガンッ!!
中井出「オッ……アッ……!!?」
いざテントに手を伸ばそうとしたら、
テント横にあった厚い板にパチンコ玉のようなものや木製のナイフが突き刺さった。
い、いや……パチンコ玉じゃない……これ、ただの石だ……!
そ、そうか指弾!あの石削り、これを作るための……!
青年 「……旅人よ、そこは我らの長の住む所……。何用で訪れた……」
老人 「……つまらぬ用ならば今すぐ立ち去るがよい……。
ここは、遊び半分で訪れて汚していい地ではないのだから……」
中井出「………あ……いや、俺は……」
突然のことでかなり驚いた。
なのに、彼らの言葉は酷く落ち着いていた。
そして、それにつられるように俺の心も大した間もなく落ち着きを見せる。
……すげぇ。すげぇよ……。
怖いって感じたのは驚いた時だけだ……。
だって、彼らには俺を攻撃するだとかそういう雰囲気がまるでない……。
あれだけのことをしたのに、されたのに、俺の深層がそれを信じ込んでら……。
……でも、解る。
俺がこの地を汚す存在なら、彼らは容赦なく攻撃してくるだろう。
だから俺は答えた。
取り繕った言葉じゃなく、素直な自分の気持ちで。
なんだか既に自分自身が見透かされているような気がしたからだ。
中井出「汚しに来たんじゃない。自分を越えたいからやってきた」
青年 「…………」
老人 「……ふむ……まごうことなき人間か。
この地に人が足を踏み入れるなどどれくらいぶりのことだろうかな……」
青年 「高みを目指す人間を、我々は拒まない。だがその前に“力の理”を示してもらう。
それが高みを目指すに値するものか否かを確かめさせてもらう」
中井出「───……」
青年が一歩前に出る。
それだけで場の空気が変わった。
俺はもう何がなんだか解らないうちに拳を構えていて、
知らずのうちに頬を伝う汗に驚いていた。
青年 「戦闘本能と防衛本能はあるようだ……。ではいくぞ、互いに無手、徒手空拳だ」
中井出「っ……」
───…………慌てて防衛本能から出る、防御方面の構えから攻撃型の構えに切り替えた。
その時点で、自分は一度気を失っていたんだと気づく。
そう、俺が構えを変える間にこの青年にはそれが出来た。
青年 「まず一度目の気絶だ。反射速度はそう速いものではないらしいな《トッ……》」
中井出「え?うわっ!」
突然消えた青年。
だが背後に気配を感じて慌てて振り向けば、そこに彼は居た。
青年 「……気配をこれでもかというくらいに出してやらなければ気づけもしないか」
中井出「っ……はっ、はぁっ……!」
ほんの少しの立会いなのに、心臓がバクバクいって呼吸がままならない。
プレッシャーが尋常じゃない。
試されてるって解ってるから余計にこのままじゃいけないって思うのに、
てんで思うようになってくれない。
……そして理解する。
これが、本当に“人を極めんとする者”たちの動きなのだと。
気配に気づいて振り向くまでに、五回以上は食らってた。
その事実が自分をさらに驚愕させた。
でも……それが嬉しかった。
人にはまだまだ可能性があることが、俺の目の前で証明された。
だからたとえここで不合格を出されようが、俺はまだまだ頑張っていけるって思えた。
青年 「───……、」
老人 「ほっ、こりゃ面白いわい……。うむ……合格じゃな」
中井出「……、……へ……?」
突然言われたことに頭がついていかなかった。
というより、言葉を理解して飲み込むまでにかなり時間がかかった。
……え?合格って……
中井出「ご、合格って……だって俺……あんなにボロボロで……」
青年 「先に言った筈だ。力の理を示してもらうと。
そして我々が見たかったそれは、純粋な破壊力でも護る力でもない。
ただ“人としてどうあるか”、“挫けぬ心を持っているか”だ。
辛くて諦める者、力量不足に絶望して諦める者を我々は幾度も見てきた。
だからこそ力ではなく、我々は意志を試す。
力とは己が意志から生まれて初めて何かを為す力と化す。
意志無き力に理など存在しない。それはただの暴力だからだ」
中井出「…………じゃあ」
老人 「うむ、入るがよい。そこにおぬしの望む“力”があるかは解らんが、
おぬしの理の手助けにはきっとなる筈じゃ」
中井出「………」
老人の言葉に小さく頷くと、青年の目を見たのちに長のテントをくぐった。
その先で俺が目にするものは……いや、感じたものは、
外のソレとはまるで違ったものだった。
中井出「………」
落ち着いているわけでもない。
だからって息が詰まるわけでもない。
とにかくなにもかもが不安定なのにしっかりしている……そう、
喩えるなら、自分が感じる意識の全てが頼りなく感じてしまうような空間。
落ち着いてるのに落ち着かない、息が詰まるわけでもないのに居づらい、
そんな矛盾が、この場そのものとなっているような……
長老 「……珍しいな、客か」
中井出「うおっ!?」
で、突然聞こえた声に驚いて、出した一声が“うおっ”である。
続け様に“まぶしっ!”とでも言っておくべきだったかもしれない。
長老 「外界の人間がこのテントをくぐるのは随分と久しいが……。
ゲラスとグラハが通す輩なら信用も出来よう……」
中井出「………」
テントの中はそう大きいものじゃない。
せいぜい寝る場所となにかをするスペースが軽くある程度だ。
長老といえどべつに贅沢をするわけでもなく、
ただ己を磨くことに邁進しているのかもしれない。
中井出「あ、お、俺、中井出博光っていいます……うおっ!?───まぶしっ!」
知らず、敬語になってる自分に相当驚いた。
で、その驚きが口についた時、慌てて“まぶしっ!”を追加した。
長老 「普段通りの口調で構わない。
……さて、遠方より来る旅人よ。何を求めてこの地に来た」
中井出「すぅ……はぁ………………よし。
……人間のままで強くなれる秘術があったら、俺に施してくれ。
それを願うが故に、俺はこの地に降り立った………………っ!」
長老 「…………ふむ」
無頼伝涯の真似はあっさりスルーだ。
もっとも、自分を自分として保つために言ったことだ、通じなくても意味はある。
長老 「あるにはあるが、苦痛を伴う。地道に極めんとするつもりはないのか?」
中井出「一・切・無し!!俺……もっと強くなりたい!
でもそれをじっくりとやるには時間が無い!
だから頼みに参上つかまつった!いいからやれ!!」
長老 「頼んでいるようには見えないんだが」
中井出「これが俺の祖国の頼み方なんだよ。俺の祖国じゃそりゃお前、
いつでもてめぇとか貴様とかクズがとかカスがとか平気で口にするんだぞ?
それをお前今更頼み方が異常とか言われたってもう手遅れなんだよ。
半世紀くらい手遅れなんだよ。もうどっぷり浸かっちゃってんだよ。
足を洗ったくらいじゃ抜け出せないくらいに全身浸かっちゃってんだよ。
泥沼なんだよこっちはもう」
長老 「そ、そうなのか。まあいい……望むのなら私はそれを施すのみだ。
素質がある者が理を力に変えることが出来る。
故に審判するのは私ではなくお前自身だ。私はきっかけに過ぎないのだからな」
中井出「おおでは!」
長老 「気脈点穴法をお前に授けよう。激痛を伴うが、それを乗り越え、
舞い落ちる落ち葉を縦に振るう剣で切り裂いた時、
お前の腕に十字の紋章が現れるだろう。その時がお前が“疾風”を手にする時だ」
中井出「断る!!」
長老 「なにぃ!?ことわ……なにぃ!?」
よほど驚いたらしく、なにぃを二回言った。
中井出「腕だけでは満足出来ん!全身のチャクラの全開放を求む!!」
長老 「馬鹿を言うな!そんなことをすれば人の器が耐えきれんぞ!」
中井出「人体で生成されるものに人が耐えられないなんてことは聞く耳持たん!!
大丈夫!俺は全チャクラ常時開放状態だった男を知っている!!だからさあ!!」
長老 「…………本気、なのか」
中井出「当然だ!俺はその理を得るためにこの地に降り立った………………っ!」
長老 「………」
そしてまた無視された。
しかし長老はフゥ……と息を吐くと、無数の針を取り出した。
長老 「言っておくが……チャクラは確かに体内で生成されるものだ。
だが、体外からも吸収し、力とするのもチャクラの性質。
お前に素質があるのかはまだ解らんが、もし開放されれば大変なことになるぞ」
中井出「それでも構わんという、今だけの覚悟が俺にはあると言ってるんだが。
俺、こういうところでもたくさと否定語ばっか出されるの好きじゃないんだよね。
だからさ、こう……ねぇ?一思いにやっちゃってくれないか?」
長老 「ふぅむ……仕方が無い。後悔しないな?」
中井出「後悔とは後で悔やむと書く!後になんなきゃ知らねー!!」
長老 「いや……あぁ……ゲラスとグラハは何故こんなヤツを導いたんだ……?」
なんだか混乱しているようだが、それでも針の用意はしてくれた。
あとはこの博光が激痛に耐えられるかどうかよ!
……もちろんそのあとに素質があるかどうかも問題になるんだけどさ。
長老 「では……いくぞ」
中井出「よしこい!」
装備を外してバックパックに入れ、ゴロリと寝転がった俺に長老が近づく。
やがて無数の針を俺の風魔穴にブスリと刺すとズキィイーーーン!!!
中井出「ギャアーーーーーーーッ!!!!!《シャアア……キラキラ》」
長老 「ぬおおぉーーーーーっ!!!?」
あまりの痛さに一撃で死んだ。
そして長老は、突如霧になって消える旅人を見て大層驚いていた。
───……。
中井出「蝶・サンタ!《ビシィ!!》」
長老 「………」
で、戻って来た俺を迎えてくれたのは、なんだか酷く疲れた顔の長老だった。
長老 「何処に行っていたのだ……」
中井出「実は暗黒大魔王に呼び出されまして。死んだんじゃないよ?平気平気」
とりあえずウソついといた。
長老は首を捻りながらもならばそこに横になれと促してくれたし。
だから俺は横になると、痛みに耐える覚悟を以って構えた!!
中井出「《ブツッ……》ッ〜〜〜〜〜…………!!」
しかし覚悟しててもとんでもなく痛い。
だが耐える!!
この痛みの先にまだ審判があるのだ!
第一段階の試練さえ耐えられずにどうして人間の能力限界を超えられようか!!
長老 「全身のチャクラ開放など、やるのは初めてだ。だが点穴の箇所に間違いはない。
耐えてみせろ。その先に、お前がその身に秘めたるチャクラが開放される。
それは腕かもしれなければ脚かもしれない。頭かもしれなければ腹かもしれない」
中井出「〜〜〜〜〜…………」
長老 「痛みで喋ることも出来ないか。ああ、だがそれでいい。
その痛みに耐え、全てを受け入れた先に秘めたる素質が目覚める。
なんの苦労も無しに人の能力を超えることなど不可能だ。
その痛みは代償だとでも受け入れていけ」
中井出「───、───……!!」
喋れない。
冗談抜きで、痛すぎて体が強張り、全身の筋肉が固まったまま動いてくれない。
そうしている間にも長老は次々と点穴を穿ち、さらなる激痛を齎してゆく。
やべ……意識が飛ぶ……!
中井出「〜〜っ……かっ……ぐあぁああああーーーーーーっ!!!!《ギシィイッ!!》」
否!耐える!!
叫びと同時にゴヒュウと息を吸い込み、強張る筋肉に酸素を届ける!
強張ったままでいたいならそうしておけこの親不孝者めが!!
だがこの博光は決して諦めん!!歯ァ食い縛って耐え抜いてみせる!!
何故ならば───諦めない!それが俺達に残された唯一の戦い方だからだ!!
あ、で、でももうちょっと痛みを和らげてくれるととても嬉しいかな……ほんと。
───……。
……。
藍田 「ごめんくださいよっとうおっ!?」
長老 「静かに。今、彼が彼を試しているところだ」
藍田 「いや……そりゃ解るけど、なんだいあのハリセンボンみたいな状態は……」
長老 「全身のチャクラを開放したいというからやった」
藍田 「ぜっ……!?す、すげぇや!さっすが天下の提督さんだ!!」
なにやら声が聞こえる。
だが今は耐えるので精一杯だ。
ていうか背中に針刺された時はほんと意識が飛ぶかと思った。
相変わらず背中は弱点のままだ。
あれで死んでたらきっと、
毒針で急所刺されて死ぬメタルスライムの気持ちが解ってたに違いない。
長老 「……さて、あとは彼が耐えればいいだけのこと。キミの用件を聞こうか」
藍田 「おお、じゃあ足の風魔穴を開放してもらいたい」
長老 「お前もか……ああいい、ではそこに横になるのだ」
藍田 「アイサー!!」
激痛に耐える中でそんな声が聞こえ、横に藍田二等が寝転がる。
そして素早くブツリと針を刺され
藍田 「ギャアーーーーーーーーッ!!!《シャアア……キラキラ》」
やっぱり死んだ。
そうだよなぁ、痛いよなぁあれ……。
───……。
……。
あれからどれほどの時間が経ったのか。
一分さえ一時間に思えるその激痛の最中、そういえばナギーはどうしてるんだろう、
なんて思考が頭に浮かぶくらいに余裕が出来た頃。
中井出「───…………」
ふと、痛みが消えた。
途端に体がもう限界だと言わんばかりに筋肉を緩めると、
今度はドッと汗が吹き出て、気持ち悪いくらいにその場を濡らした。
長老 「……ふむ」
しかしやっぱり風魔穴の痛みに耐えたんなら、
キリッとした顔で立っていなければと立ち上がり、
キリッとした顔でテントのあらぬ方向を見つめてみた。……全身に針を刺したままで。
長老 「どうやら越えたようだな」
中井出「うむ。辛く苦しい戦いだった」
しかし本当はそうじゃない。
風魔穴でのチャクラ開放はこれからがより一層に重要なのだ。
なによりも“素質”がなければ意味がない。
そういう、とても無情な試練がコレなのだ。
だから俺は、俺の時のように再び戻ってきて、
再び気脈を刺されてもがいている藍田を横目にテントの外に───
長老 「待て待て、針をつけたままでどうするつもりだ」
中井出「うおう」
いきなり忘れてた。
───……。
……。
第一試練、疾風。
───ザァアッ……!!
中井出「………」
そうして全身から針を抜いて、
一本の枯れ木の前に立っている……こんにちは、中井出博光です。
グラハ「この刀で舞い落ちる枯れ葉を縦に斬る。引いてはいけない、ただ下方に下ろす。
力で斬るのではなく速度で斬る。これが疾風剣の極意。
成功すればお前の両肩には十字の紋章が浮かび上がる」
中井出「お、おう」
と返事をした途端に都合よく舞い落ちる枯れ葉!!
ヒィちょっと待って!心の準備が───!!
中井出「ええいどうにでもなれ!チエスゥトォッ!!」
ヒュッ───シュフィィンッ!!ザコォッ!!
中井出「………」
グラハ「………」
青年が見守る中、俺は振り下ろした刀の先を見る。
遠慮無用に振り下ろしたソレは地面に刺さり、しかし───
グラハ「人には産まれもっての資質、裡に秘めた素質というものがある。
人によってはそれさえ得られない者も当然居る。……失敗だ、小僧」
中井出「小僧!?」
何故か突然呼び方がお前から小僧に変わったことにショックを受けた俺だった。
なにも状況が同じだからってガラハットの真似までせんでいいのに……。
───……。
第二試練、烈風。
ゲラス「大事なのは呼吸。
疾風にも烈風にも重要なのは、それだけの速度を生み出すための呼吸法だ」
中井出「波紋法みたいに?」
ゲラス「そういうことだ」
中井出「波紋知ってるの!?」
どうやらこの集落は僕が思っているよりほっぽど高みにあるようです。
そんなわけで第二試練烈風。
つまり烈風脚を会得するための試練である。
ゲラス「この谷には毎分に一度、突風が吹く。その風に向かい疾駆し、
風を突き破るほどの一歩を生み出す。これが烈風脚の極意」
中井出「うう、なんだか嫌な予感がするのう」
男塾の松尾鯛男のようにドキドキしながら、突風を待つ。
いや、突風を貫くくらいならいいんだけどさ、
その上谷の先にある向こう岸まで辿り着けっていうんだこのゲラハ。
じゃなかったゲラスさん。
そう、ここはまさに谷。
失敗すればもちろん真ッ逆さまに落ちてデザイア。
だがやろう!何故なら俺は……男じゃけぇのう!!
ゲラス「───、来るぞ」
中井出「おぉおおおおおおっ!!!」
脚に力を!喉には呼吸を!!
この二つが合わさった時、この俺に奇跡が起こる!!
中井出「“1”!!」
ダンッ!!と地面を蹴り弾き、先は崖だというのに真っ直ぐGO!!
迫り来る突風を体が貫き、しかしそれでもその一歩は
中井出「ギャアアアアアアアアアアァァァァァ………………」
落ちた。
───……。
……。
のちに……第三第四第五と、五体に関する試練全てを受けたが……どれもダメ。
結局痛みに耐えた価値は“まったく零”であり、俺は顔を覆ってしくしく泣いた。
ひでぇよ……あんまりだよ……。
長老 「お前……素質が無いにも程があるぞ……。
よくもその状態でここまで来れたものだ……」
終いには長老にまで哀れまれる始末だ。
五体から爪の先まで全てにおいて素質が無いなんて前代未聞らしい。
俺、穴が無くても掘り砕いて入りたい……。
藍田 「ただいまよ〜!いやぁ提督見てくれこれ!烈風脚体得したぜ!?」
中井出「ギィイイイイイーーーーーーーッ!!!!」
藍田 「《ガバァーーッ!!》おわぁあーーーーっ!!?
うわちょっ……なにをするだァーーーッ!!!」
俺が様々な試練で失敗を繰り返す中、戻ってみれば居なかった藍田が戻って来た。
しかもところどころが破けたズボンの下の脚にはしっかりと十字の紋章が。
だから哭いた。哭いて、藍田二等の首をギース=ハワードのように絞めた。
中井出「くかか死ね、死ね…………死ね…………っ!!」
藍田 「ごぉおおおおおお……!!ちょ、ちょっと待てなにがなんだか……!!」
中井出「う、うるせー!!全身にダメだしされた俺の気持ち!誰が知る!!
どうせ俺は究極の凡人だちくしょーーーーーーっ!!!」
長老 「人は誰しも、自分は他の誰かとは違い特別だと誰しも思うものだ。
しかしその幻想を砕かれて初めて、さらなる高みを目指せる。
ならば……いいだろう。才の無いお前には奥義“八門遁甲”を授けよう」
中井出「んマジでかァ!マリリィン!!」
長老 「誰がマリリンか」
中井出「あの……ていうか今サラリと“才の無い”とか言わなかった?ねぇ」
長老 「では説明を開始しよう」
中井出「………」
無視された。
藍田 「………」
そして俺の腕の中では、試練を終えてきたばかりの藍田二等が冷たくなっていた。
───……。
……。
───じゃがじゃんっ!!!
やがて修練を終えた俺は誇らしげな顔でザムザムとテントから産まれ出た。
その先には集中力が必要だからと外に出されていた藍田二等と、
その隣に退屈そうに立っていたナギーが!
藍田 「おお戻ってきたか提督」
ナギー『退屈だったのじゃー!なにをもたもたしておったのじゃ!』
中井出「うむ!結論から言おう!……ダメでした」
総員 『痛ッたぁあーーーーーーーーっ!!!』
あっさり終わった八門遁甲物語。
まず始めにチャクラ開放のために必要な技法を叩き込まれたんだが、
長老がその眼力で俺を見た時全てが無に還った。
ようするに……俺には他人に誇れるほどチャクラが備わってないらしい。
そして五体だけでなくチャクラにまでダメだしされた俺は、軽い絶望状態にあった。
だが諦めない!それが俺達に出来る唯一の戦い方なんだよ!!
藍田 「その顔……またなにか企んで」
中井出「ないよ!ただ最後の試練ってのがあるらしいからそれをするだけだよ!!」
藍田 「そ、そうなのか?」
中井出「う、うむ……素質も資質も無い究極の凡人野郎が行き着くというファイナル。
そこに入る=自分が究極の凡人野郎であることを認める。
という方程式まで出来ているほど、この集落では恥とされているものだ」
ナギー『そこに入るというのか?』
中井出「うむ入る!自分が凡人であることなんてとっくの昔に知っている!!
ていうかここに来てさらに自覚させられたよ!
どうせ俺武器とレベルが無けりゃ並以下のクズ野郎だもの!
だが!だからこそ行くのだレボリューションマイセルフ!!
恥がどうした!ここで諦めるほうがよっぽど恥だわ!」
ナギー『お、おお……!ヒロミツが燃えておるのじゃ……!』
藍田 「全身くまなくダメだしくらったのがよっぽどショックだったんだな……」
中井出「うるさいよもう!!」
ええもう……もちろんショックだったさ。
【ケース436:中井出博光(伐再)/のだめカルタグラ】
ザムゥ〜〜〜ッ……!!
中井出「ぬふぅ!」
俺の緊張は絶頂に達した。……こんにちは、中井出博光です。
そんなわけで最後の試練にやってきた俺なんだが。
なんでも巨大な門を抜けた先に居る5人の番を倒し、
奥に眠る秘宝を手にすることが出来れば、疾風と烈風を授かることが出来るのだとか。
そんなことを聞いてやってきたわけだが、どうにも暗い。
門の先は暗闇地獄でした……ってほど暗いわけでもないんだが……
中井出「ぬう……」
そんな暗がりを、うっすらと点る蝋燭の火を頼りに歩く。
思ったんだがこの蝋燭ってこの中に篭ってる門番がつけてるのかな。
いかんぞ?ひきこもりは。
声 「止まれ!」
中井出「断る!」
声 「なにぃ!?《バゴルシャア!!》ぶるあぁあああーーーーっ!!!?」
聞こえた声に体を跳ねらせ、一気にナックル!!
不意を突かれた番はバキベキゴロゴロズシャーーアーー!と転がり滑り、動かなくなった。
中井出「ふう……一人目クリア」
物凄い試練だったぜ……!!
あと一歩遅れてたら俺が殺されるところだった……!!
───……。
……。
ザッザッザッザッ……
声 「止まれ!」
中井出「何故だ!」
声 「これより試練を開始する!まずその方!
どうしても遣り遂げなければならん任務があったとして、
しかしそれを遂行すると親が死ぬことになる!
しかしそれを遂行しなければより多くの者が死ぬことになる!!
その方!そのような時にどうするのか、覚悟の程《バゴシャア!》ぼべぇ!!」
中井出「質問に質問で返すなァーーーーーーッ!!!!………………あ、あれ?」
人のことほっぽらかしにしてさっさと話し始める番を力いっぱい殴った。
すると壁にゴゴチャアと衝突してぐったり。
中井出「………」
物凄い試練だったぜ……!!
あと一歩遅れてたら俺が殺されるところだった……!!
…………。
中井出「……ようはさ、
奥にある秘法をどんな手段を使ってもいいから手に入れりゃいいんだよな」
うむ、なんと的を射た思考。
ならばどんな姑息な手段を用いろうとも、先に進めばいいのだ。
だったら───
中井出「えーと?HPTPともにマックス、と……」
声 「止まれ!これより試練を」
中井出「“極光吼竜閃ァアーーーーーーッ”!!!」
ギガァアガガガガチュゥウウウンッ!!!!
声 「ウオオオオーーーーーーーーッ!!!?」
ガォオオオオオオオン!!!!
ゾンガガガガガガガガガァアアンッ!!!!
中井出「よし進もう」
結構広い空洞の中をこれでもかと抉っていった極光レーザーを追うように、
ツカツカと歩いていった。
そうしてるうちにもHPTPは自然回復し、
僕はツヤツヤのままに奥の部屋へと向かったのだった。
───……。
で……さて。
レイジングロアが奥の部屋まで破壊し、
番人らしき人がプスプスとこんがり煙を出しながら倒れているのを発見したのが、
事実そのしばらく後のことだった。
倒れている番人は二人。
立っている番人は一人。
その番人は俺を睨み、ギシャーンと剣を突きつける。
番人 「貴様な!試練をなんだと思っている!!」
中井出「試練だ!!《どーーーん!!》」
番人 「たっ……確かにその通りだが
後ろに控えた番人まで一気に殲滅にかかるなんて非道すぎると思わないのか!!」
中井出「馬鹿野郎!!どのみち打ち倒すのに、
わざわざ手段なんて選んでてこの乱世を生き延びれるかこのクズが!!」
番人 「こっ……この最後の試練に挑む輩の中でこうまで外道なヤツは居なかったぞ!!
体もチャクラも並以下なら精神まで並以下ということか!!」
中井出「アァーーーッ!!言ったな!?それ言ったなこの野郎!!
この中井出博光という存在自体を並以下と謳いやがったなこの野郎!!
くうううううこの博光辛抱たまらん!!」
番人 「言ったがどうした!貴様は我が“嵐”を以って、
目に留まらぬうちに八つ裂きにしてくれる!!」
ゾンッ───!!
中井出「ウオッ!?」
番人が消えた!
い、いや───これは高速で動いているのだ!!
何故って風が舞い上がっている!これは……うおおやべぇ!思考が追いつかん!
中井出「《ゾバシュウッ!!》いだっ!?」
風が揺らめいたと思うや、腕に切り傷が出来る。
姿は見えないのにしっかりと攻撃は食らう……ヌハァ嫌な技だ。
だがこの博光、伊達に凡人のくせにここまで上がってきた男ではないわ。
戦いってのはここさ!ここを使わねば!
……言いつつ指差したのは武器だったりする。
だって結局のところ、俺は武器のお蔭でここに居るわけだし。
中井出「さあ来るがいい!どんな攻撃もこの博光が受け止めてくれよう!!」
声 「……?フン、諦めたか……?ならば望み通りやってやる!!」
中井出「おう来い《ズバシャシャシャシャシャシャ!!!》ギャアーーーーーッ!!!!」
思ったより速く来た!なんと潔い!!
声 「ッ……!?防御もしないとは、勝負を捨てたか!?」
中井出「フッ……フックックックック……!!
捨てる?勝負を?そんなことはこの博光、死んでもせぬわ!!
何故わざわざVITを下げまくった状態でダメージを受けたか解らんか!!
そいつはなぁ……これをするためさ!!ストック解除!!」
声 「なに《ズバァッシャア!!》ぐはぁあっ!?……な、……な、に……!?」
ドシャアズザザザザァアーーーーッ!!!
ストックを解除した途端、虚空から血が噴き出し、
かと思えば遠く離れた場所で地面を転がり壁に激突する番人。
番人 「かっ……がはっ……!!き、さま……!なにを……!!」
中井出「来る攻撃が物理攻撃だけならば、この博光はそう簡単には死なんのだ。
故にVITを下げた状態でこれを使った。宝玉のストック能力だ。
もちろんストックしてたのは貴様から受けたダメージを返す、
ヘッジホッグスキルの累積ダメージ。確かに俺は凡人だが、
これまでに上げたレベルとHPの高さには自信があるのよ!
だからたとえダメージの半分を返す能力だとしても、
貴様にしてみりゃ大ダメージ。
……俺はな、番人よ。自分が凡人だって解ってるからなんだってする。
元から貴様の速度に追いつけるだなんて思っちゃいなかった。
だから自分が手を出さなくても済む方法を選んで、
貴様はまんまとそれに騙された」
番人 「ぐっ……くそっ……!まだだ……まだやれ《ガシィッ!》ぐわっ!?」
中井出「お前は無力だ」
番人 「《バゴォッシャアアア!!》ギャアーーーーッ!!!」
起き上がろうとする番人の横に素早く片膝を付き、
同じ方向を見ながら頭を掴んで地面に叩きつけた。
これぞ戸愚呂100%スタイル。
ちょっと勢いが強すぎて顔面埋まっちゃったけど、なんとかなるさ。
さあそんなことより秘法だ秘法。
番人 「げはっ……ま、まだだ……《ガシィッ!!》うぐっ!?」
中井出「お前は無力だ」
番人 「《ドゴォオオオンッ!!》ギャアーーーーーーッ!!!!」
しかし秘法を手に取ろうとすると懲りず起き上がる番人を、再び戸愚呂スタイルで沈める。
しぶといが……これが番人としての根性なのかもしれない。
だが……今回ばかりはこの博光の勝利だ。
やすらかに眠れ、番人よ。
中井出「さて秘法を」
番人 「ぐっ……!お、俺は《ガシドッゴォオンッ!!》ギャアーーーッ!!!」
中井出「お前は無力だっつーのに!!」
今度こそフルパワー戸愚呂スタイルで沈めると、番人は動かなくなった。
でもなんとなくまた蘇りそうだし、さっさと秘法とやらを手に入れることにした。
中井出「といっても……」
レイジングロアで滅茶苦茶である。
秘法ってやつが無事だといいんだが……っと、
中井出「宝箱見ィイイーーーーッけ!!!」
ジャジャーーンと宝箱発見!しかも二つも!
さて中身はなんじゃらほい!?って自分で思ってて懐かしい言葉を思い出してしまった。
そんなこんなでゴバァとそれらを開けると……一方には双剣、一方には……刀、か?
名前は“烈風剣ツヴァイハンドソード”らしいんだが……剣なのか、一応。
双剣の方は“疾風剣ランスロット”と“神速剣エレイン”だ。
ランスロットとエレインって……確かガラハッドの両親だったっけ?
円卓の騎士って結構好きな名前のやつ多いんだよね。
ともかくそれぞれ固有スキルに疾風と烈風を揃えてる。
つまり……これを持ってれば疾風と烈風の恩恵を授かれるってことか!
中井出「やっぱ武器だ!
全ての才能に恵まれないっていうんなら、俺は武器を極めるしかない!」
く、悔しくないんだからね!?
凡人結構!だってオラ人間だもん!!
見ていろ身体能力がズバ抜けた能力者どもめ!
才能が無くたって強くなれるってことを知らしめてやる!……悪名として!
だって俺魔王だし。
さあ旅立とう!目的地は───……………………猫洞窟かなぁ。
また合成してもらわないと……。
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