───時空放浪モミ列伝『序章◆始まりの鐘』───
【ケース463:弦月彰利(再)/オヴェール】
それから彼が癒しの大樹の加護を受けて目覚めるまでは、ほんの少しの時間を要しました。
しかしそれは本当に少しだったのです。
“伊達にゲームの中で然の精霊の加護を一身に受けてないね”
と納得出来るほど早かったのです。
中井出「もう……ほんと勘弁してよ……泣くよほんと……」
でも復活を果たした彼はほんと泣きそうな顔をしてました。
僕らとは真逆です。
中井出「ちょ……なにその“いいモン見させてもらった……!”って顔!!
な、なにぃいいっ!?ぼぼ僕のいったい何を見たんだお前ら!!
僕の知らない何を見たんだよぅう!!汁!?汁なの!?ねぇったら!!
僕にも知る権利がある筈だよ!?だって僕のことでしょ!?ねぇ!
なに顔赤くして顔背けてるの!?ねぇちょ───ほんとなに見たの!?」
悪いが言えない。
だがいいもん見せてもらった。
まさか中井出という人体の中にあんなステキなものが……!!
思い出しただけでも心が温まり、頬が赤らんでしまうよ。
……現場は相当にスプラッタだったけどね。
そんなことを考えながら、
『なんなんだこの自分の病名を教えてもらえない患者みたいな気持ち……』
とか呟いている中井出を余所に、みさおと話し合う。
当然、メシを食ったら向かうことになっている過去のことだ。
彰利 「で、どうしたん?」
みさお「はぁ……なんでも過去の旅に、
中井出さんとドリアードさんが参加することになったらしくて」
ナギー『ドリアードではない、ナギーと呼ぶのじゃ』
みさお「……だそうですが」
彰利 「おいおい提督よぉ……こりゃ遊びじゃあねぇんだぜ?
今回ばっかりはさすがに面白そうだで実行出来るほど安いモンじゃあねぇぜ?」
中井出「怖いもの見たさで人を惨殺しかけるヤツに言われたくねぇよそれ……」
彰利 「あ……いや……すんません……」
今や自分の中にどんな秘法が隠されているのか気が気でならない中井出が、
かなり戸惑いに狂った声で辛い一言を語ってきました。
当然俺は謝るしかなかったっす。だってほんとつらそうな声なんだもの。
でも言った言葉は本気である。
さすがに他人の過去に面白いからって理由で乗り出すのはどうか。
と思ったんだが、中井出は沈んだ顔を一点させると俺を真っ直ぐに見てきおった。
中井出「大丈夫!何を隠そう、俺は過去巡りの達人!!
どんな内容が待ち構えてようが受け入れる準備は出来ている!!」
彰利 「いや、そういう問題でなくてね?」
中井出「───そう言うなって。お前はな〜んも覚えちゃいないだろうけど、
こういう結果が残ったってことは俺もそう度外視されてたわけじゃなさそうだし。
まあともかく、俺も行くから。面白さを求めてってのもそりゃあるかもだ。
けどな、それ以上に俺はお前らに幸せになってもらいたいのさ。
消えちまった記憶の分も、な」
彰利 「……?」
何を言っておるのでしょうねこの男は……。
でもなんだか心が暖かいのは何故?
と、自分の胸に手ェ当てて思考しつつ、ふと中井出に視線を戻してみると、
中井出は更待先輩殿やら粉雪やら、キリュっちやら真穂さんを見て遠い目をしていた。
けどそののちにうんと頷くと、俺の視線に気づいて『たはは』と意味もなく笑った。
……そんな中井出に、どうしてかありがとうを言いたくなった。
まあ、理由が解らんから言う義理もないけどさ。
彰利 「そげなわけでオイラたちはちと過去に行ってくるぜ〜〜〜っ!!」
みさお「え?ごはんは───」
彰利 「向こうで食おうぜ?」
みさお「……当てがある、わけじゃないんですよね?って、まさか───」
彰利 「ちちち違うヨ!?べつに食い逃げとか考えて《バゴシャア!》ペサァーーッ!!」
悠介 「人の過去調べるって時になぁああにを考えてるんだお前はぁああっ!!」
彰利 「ヒ、ヒィ!だから違うって!向こうに行ったら適当に用意しようって考えてて!」
悠介 「ほお……だったらその材料はどうする気だったんだ?」
彰利 「………………《バゴシャア!!》ぶべぇえええーーーーーーっ!!!!」
殴られました、思いっきり。
いやね?そりゃ材料考えりゃ盗むしかグオッフォフォ……いや違うって!!
俺マジでそげなつもりなかったって!───多分!
藍田 「で!?その旅に同行するのは何者ぞ!?」
彰利 「オウヨ!それは悠介、俺、みさお、中井出、ナギ子ナリ!!」
ナギー『ナギ子ではないのじゃー!!ナギーと呼べというのに!!』
彰利 「まあそんなわけなり!!」
シード『ち、父上!僕も───』
彰利 「ふん」
シード『《コキンッ!》うきっ!?』
突如人垣から現れた魔王の子の首をソッと折り曲げる!!
すると力を無くし、ドサリと崩れ落ちる魔王の子、シードバルカン。
彰利 「これ以上増えられても困るんでね……眠ってなさい、とこしえに」
みさお「ひどいことしますね……」
夜華 「あ、彰衛門!わたしは《バゴシャアッ!!》ぐあっ!?ぐっ……き、貴様……!」
ゼット「御託はいらん。
晦悠介が晦悠介として確立するのなら、俺はそれに賛同するだけだ。
そして、それをややこしくする者の同行を俺は望まない。故に寝ていろ。邪魔だ」
なんと!ゼットのヤローが我が愛しのハニーの後頭部を殴り、気絶に導いた!
彰利 「オウコラテメェ人のスケになにしてくれてんじゃいオラァ!!」
ゼット「……御託はいらんと言ったが。なにをしたかがなんだ?さっさと行け」
彰利 「かっ……こんガキャ許さん!表出ろコラァ!!」
ゼット「《ヴィジュンッ!!》来るか……?死神風情が……!!』
藍田 「いや……ていうかここ表だし」
突っ掛かろうとする俺を前に竜人化するゼット……!
だがこの彰利、辛抱たまらん!!
目の前で妻を殴られて大人しくしてられる夫が居るだろうか!?いいや居ないね!!
少なくとも俺はカチンと来たね!
……でも目の前の竜人から放たれる殺気はマジモンで、しかも密度がハンパじゃない。
体がバキバキと鱗に覆われてゆく度に殺気が増幅して、
その所為かこっちもいやに冷静になっちまう。
だが出した拳は止められない。いい言葉を言ったよ唐沢さんは。
中井出「止めないのか?いつもみたいに」
悠介 「止める力が無いからなー……。あいつらに説得が通用するなら苦労してないぞ俺」
中井出「まあ、そうだよなぁ」
悠介 「なんだったらお前が止めてくるか?
現実世界に来たことで、ゲーム内での規制は全部解除されてるだろ?」
中井出「その代わり、死ねば死ぬけどなー……」
悠介 「………」
中井出「………」
悠介 「見守るか……」
中井出「そだな……」
ドゴォンドガァンバガァドッガァアッ!!!
彰利 『ガァアアアアアアアッ!!!』
ゼット『ルゥォオオオオオオッ!!!!』
そして開始される容赦無用の極上バトル。
双方ともに自分のエモノを取り出し、互いに殺す気で撃を繰り出してゆく。
殴り続け、隙が出ればそこを武器で穿つように。
しかしその隙さえ殺すことが出来る現状が、決着を先延ばしにさせる───……否。
忌々しいが明らかにゼットの方が実力も戦闘経験も上だ。
彰利 『くはっ……!この、やろぉおおおおっ!!!!』
ゼット『潰れるがいい死神王!所詮貴様は晦悠介のおまけのようなものなのだからな!』
彰利 『っ……!?なんだとこのやろっ……!!何様のつもりだてめぇ!!』
ゼット『貰い物の力に努力しない己自身!さらには晦悠介にばかり変わることを求め、
力を得ることを求めさせ、貴様自身はなにをしていた!?
そんな貴様が力を語るとはな!調子付けるとはな!貴様こそが何様だ!
そんな貴様が王か!ハハハハハ!!笑わせる!!』
彰利 『っ……なにが言いたいんだよ!!俺だって───』
ゼット『貴様の過去は知っている……ゼノとの戦いは随分と勇ましいものだったな。
だがその後の貴様はまるでただの遊び人だ。
恵まれた力に溺れ!努力を忘れ!ただ腐っていった遊び人だ!
そして次は女に溺れるか!クハハハハハ!!つくづく救えん男だ!!』
彰利 『───ガァアアアアアアッ!!!』
ゼット『《バッガァアッ!!》グッ……!』
彰利 『勝手ばっか言ってんじゃねぇこのクソジャリがぁああああっ!!!!
上等だよこの野郎!かかってこいオラァ!!』
押される中で知ったようなことをグチグチ言われ、
ついに俺のヤワな堪忍袋の緒が切れた!!
“貴様に何が解る!”って結構重要な言葉だね。使い方間違えなければ。
……そんなことを思ってみても、実力の差は歴然だった。
ドボォッフシャァアッ!!!!
彰利 『ぶげぇっはぁあっ!!』
腹を突き破るような衝撃が背中へと突き抜ける。
それに怯んだ隙に下がった顔面を思い切り殴られ、地面に沈んだ。
彰利 「ぐ、ぎ……!!」
それで決まりだ。
俺のオーダーは俺の意思と関係なく解け、
俺は忌々しげに俺を見下ろすゼットを睨むだけしかできない。
ゼット『力だけは伸びたか。だが技術がまだまだだ。
次はニ撃くらい当てられるようにしてみろというのだ』
そしてそんな俺に、ゼットは力の求道者みたいなことを言う。
……ほんと、忌々しい。
心の中で殺されなかっただけマシだって思ってる自分も、
ゼットが以前戦った時よりも遙かに力を増している中で力をつけられなかった自分も。
……全力で力を解放すればまだまだ戦えるだろう。
でも今の自分じゃ相手にならないことが理解出来てしまっていたから、
俺はこれ以上突っ掛かることをやめた。
彰利 「………」
ちらりと見た夜華さんは気絶中だ。
そんな姿に心の中で謝りながら、俺はもう移動を開始することにした。
まるで敵わないから逃げるみたいな感じだ。
でも……中井出の言葉を借りるなら、
無様でも生きて、成長した明日の自分で何かに挑めれば───
今噛み締める悔しさも、きっとバネになってくれるだろう。
ゼット「……?」
……もう、やめだ。
ちゃらちゃら生きないわけじゃない。
ただ、回りのために日常になるのを俺はやめようと思う。
悠介は“全てを守ろうとすること”をやめた。
その覚悟はあいつの目に明らかに生まれているし、
決意は相当に固いものだって理解させるなにかを、確かに持っていた。
じゃあ俺はどうだろう。
いつか周囲のみんなが望んだままの“日常”のままの性格でここに至り、
がむしゃらだった少年時代を何処かに置き忘れたみたいに堕落していた。
……このままじゃいけない。
そんなことはとっくの昔に理解していた筈なのに、
それでもなんとかなってきたから心が弱ったままだった。
でも、なんとかなったのは俺の力じゃなくて、
絶望の中でも諦めなかった親友の力だったんだ。
……俺はなにもしていない。
それなのにここに至った事実につくづく怠惰していたのだ。
心の中で、辛い状況がくれば何かに目覚めて簡単に勝てるんだ、
なんて夢物語みたいなことさえ考えていた。
でももうそれじゃあダメなんだ。
この時代の未来は俺が鍵になっている……スッピーはそう言った。
だったらルドラが破壊に出る出ないに関わらず、ずっとこうして俺が怠惰している限り、
ルドラ以外のなにかが迫ったところできっと俺は日常を守れない。
日常を守るために人の日常になろうって、
そんなことを夢想した俺自身の怠惰が、この夢みたいな日常を壊す……
そんなの、俺は許せない。
だから───
ゼット「…………驚いたな。貴様でもそんな目をするのか」
もう、決意する。
覚悟なんてものはとっくの昔に───ゼノを倒せたあの学生の時代に、
きっと俺の中に埋もれてしまっていたんだろう。
だけど今こそそれを掘り起こして、
今度こそ本当に心に取り戻して、ただ前を向いていこう。
日常だった自分にはサヨナラを唱えておく。
俺は……守れなかった苦しみも、一緒に同じ時間を歩けなかった悲しみも、
もう二度と味わいたくないのだから。
彰利 「……悠介、みさお、行こう。変わらなきゃいけないのは悠介だけじゃなかった。
過去に戻って、自分を見つめ直してみる。だから───」
中井出「あの、ナチュラルに俺とナギー度外視しないで……お願い」
彰利 「……いや、あのね?俺これから……ああもういい!!
ゼット!てめぇ覚えてろよ!?俺はこれからうんと自分を高めて強くなる!!
そしたら絶対にてめぇをブチノメしてやる!!」
ゼット「ほう……大きく出たな。いいぞ、待っていてやろう。
その時は晦悠介と同時でもいいぞ?」
彰利 「いいや俺一人だ!!うだうだするのはもうやめだ!!
俺は死神王としてじゃなく、一人の弦月彰利としててめぇをブチノメす!!」
ゼット「───《ギパァッ!》」
俺の言葉に、まるで玩具でも見つけたかのように目を鋭く竜のものに変異させるゼット。
それだけでも嫌になるくらいの殺気だ───けど。
もう怯えるなよ俺……!変わるって決めたんだ……!
もう俺は、今の俺を許せない……だったら変わらなきゃいけないんだから……!!
ゼット「……落胆させてくれるなよ。せいぜいゼノに足元を掬われんようにしろ」
彰利 「ちっ……ンなこた言われるまでもねぇ!!」
そう、この場には居ないが、ゼノの力の付け方には鬼気を孕むなにかがある。
それが、俺と対峙するためにつける力故なのか、
それとも別の目的のためにつける力故なのか。
どちらにしろヒロラインで得る力は、
俺やゼットみたいに常人と一線を画してしまっているやつらにはそう効果が現れない。
力を失った悠介は違うようだが、
実際レベルアップをしてみてもそう力がついたようには感じられないのだ。
それはつまり、
やろうと思えばゼノが今の俺に追いつくことだって無理なことなんかじゃまるでない。
俺が成長を望み、きちんと自分の力を引き出せるようにならなければ、
俺はゼットはおろかゼノにさえ勝てなくなるのだ。
……それが嫌だとか、そんなガキっぽいことを言いたいわけじゃない。
一度勝てた相手にまた負けるのは嫌だとか、確かにそう思うことはある。
でもそれは相手が自分よりも努力した結果で、
俺はその努力に勝てるほど努力できなかったっていう一つの結果だ。
だったらもう、それに勝てるほどの努力をするしかないのだ。
彰利 「……なぁみさお。今の自分と中井出、どっちが実力上だと思う?」
みさお「え?それは……」
ゼット「……中井出博光だ。
貴様と違い、怯えながらでも恐怖と向き合い確かに成長をしている」
みさお「うあ……やっぱりなんだ……」
彰利 「……卍解してもか?」
みさお「卍解をしてもです。技術でなら勝てますが、
それを補う武器の強さがあの人にはあります。それに、その技術も……」
彰利 「……?」
みさお「ああいえ、なんでもないです。
ただあの人には一つだけ眠ってる力があるみたいです。
それはわたしたちみたいに卍解が出来るとか変身の度に力が上がるとかじゃなく、
純粋に……そうですね、人間としての能力……才能、でしょうか。
ああいえ、才能ともまたちょっと違ってきますが、そういうのがあります。
そしてそれは、恐らく武器こそを愛する彼にとってはかなり有効なもので……」
彰利 「………」
才能か……俺に存在する才能ってなんだろう。
少し考えてみる。
……が、思い当たるものなんて全然ない。
みさお「あの、聞いてますか?」
彰利 「……すまん聞いてなかった」
ゼット「腐るなとは言わないがな。
どちらにしろ今の貴様はさっきまでの貴様よりはマシだ。
だが一言言っておこう。前ばかりを見て後ろを見ることを疎かにすれば、
簡単に足元など掬われるぞ」
彰利 「───、それは」
ゼット「我が身を以って経験したことだ。その身に刻んでおくがいい」
それだけ言うと、
ゼットは戦ったことさえ忘れたかのような普通の顔で、俺達から離れていった。
なにがなにやら、なんて思わない。
足元を掬われる……それはつまり、悠介に打倒されたことを思い返してのことなんだろう。
空界に降り立ったばかりの悠介はとてもゼットに敵うような力を持ってなかった。
それでもあいつは努力をし、力を得て、
その間に力をつけようとしなかった黒竜王に打ち勝ってみせた。
……足元を掬われるっていうのはそういうことだ。
小さい存在だからって見もせずにいたら、気づけば追い抜かれていたなんて、笑えない。
そして確かに今、ゼノや中井出は勢いをつけて強くなってきている。
事実としてみさおは追い抜かれ、今に至るのだ。
……これが悔しさと焦燥感。
力を失った悠介は、きっと俺の何倍もの感覚を味わってる筈だ。
努力して手に入れたものをあーだこーだ言われたのちに手放すことになったんだ。
正直……笑えない。
彰利 「ゆ、悠介。俺《ゾブシュ!!》クワォガァアアアアアアッ!!!?」
悠介 「辛気臭い顔見せるな鬱陶しい」
彰利 「な、なにしやがんだこのブタ野郎!いきなり目潰しなんてなに考えてやがる!」
悠介 「そんなことは知らん。それから、謝罪もいらん。今更だ、そんなもの」
彰利 「悠介……」
俺がなにを言おうとしたのかが解ったらしい。
そりゃそうか……こんな沈んだ気分になってるんだ、顔にだって出るだろう。
……だってのに軽く受け流すように接してくれる。
ああそうだな……友達ってのはいいもんだ。
彰利 「───うん、よし!行こう悠介!過去と見詰め合う旅に!
俺はもう迷わない!強くなるためならなんだってしてやる!!」
悠介 「……そか。ほどほどにな。じゃ、行くか」
彰利 「っしゃぁあい!!」
ばしんっ!と頬を叩き、気合を入れた。
すると叩かれた悠介が鬼の形相でゆっくりとボクに向き直り……!!
彰利 「ア、アワワ……!つい今までの奇妙な習慣がボクを……!!」
悠介 「じゃあ殴らせろ。それももう習慣だから構わないだろ?いや構わん」
彰利 「構ってぇええええええっ!!!!」
その日わたしは親友のモミアゲにボコボコにされた。
───……。
……。
で……
中井出「気分はどうだ彰利一等兵」
彰利 「早くもくじけそうです……」
僕はボッコボコでした。
だがもう迷わんと決めた俺は気分的には前向き。
落ち込んでなどいられないんです。
彰利 「よしっ、じゃあ行くか。みんな、お留守番よろしくね?」
聖 「………」
椛 「………」
彰利 「あの……よろしくね?そんな睨まれても連れていけないから」
何故か一部のお子めらが俺を睨む時間が続きます。
ちなみに夜華さんはまだ気絶中。
どんな力で殴ったのかは知らんが、ゼットの野郎はいつか全力で殴ってあげよう。
彰利 「じゃ、準備いいか?」
中井出「いつでも来いトンガリーニョ!!」
ナギー『かかってくるのじゃツンツン頭!!』
彰利 「なんで俺と戦う気満々なの!?」
悠介 「頼むから円滑に進めような……」
みさお「先のこと考えるとちょっと憂鬱ですね……」
彰利 「それでも置いていかれるのは嫌なのね……」
みさお「当たり前じゃないですか」
なに言ってるんだこの人はって顔をされてしまった。
案外内面は成長してないんじゃないかねこのお子は……。
ともあれみんなが見守る中で俺は黒から鎌を取り出すと、
そこに力を流し込んで能力を発動させる。
彰利 「そんじゃ、ちょっと留守にするわ。夕飯までには帰るから」
おーけーね?と返事を促す。
すると、サラマンダーさんからマナの宝玉を受け取っていた藍田がこちらへ振り向き、
藍田 「俺も行きたいんだけど」
と言ってきた。
答えは……NOだよなぁ。
彰利 「ダメ」
藍田 「なにぃ!?」
丘野 「拙者なら構わんでござろう!?」
彰利 「ダメだよ!なにその根拠の無い自信!!」
藍田 「なんだとてめぇ!だったら何故提督はいいのだ!!」
丘野 「そうでござる!卑怯でござる!!」
彰利 「なんでって……悠介がいいって言ってるからなんだよ!俺知らんよ!!」
藍田 「晦!俺もいい!?いいよね!?」
丘野 「ここでお別れなんて……!ウソでござろう!?」
悠介 「ちょっと待てなんだこの駅のホームでのお別れみたいな状況!!」
みさお「あの、彰衛門さん?
もう暦間移動発動させちゃったほうがいいんじゃないでしょうか……」
彰利 「OK!みんな!僕はみさおにそそのかされた!
だから恨むならみさおを恨んでくれ!」
みさお「そういう意味で言ったんじゃないですよ!!」
藍田 「みさおちゃんてめぇ!!」
丘野 「そうまでして拙者たちを置き去りにしてぇでござるかこのクズが!!」
みさお「今目の前で起きてる物事にちゃんと目を向けてます!?
人の話を聞いてくださいよお願いですから!!」
彰利 「ともあれそりゃぁ〜〜っ!!暦間移動〜〜〜〜っ!!」
黒から取り出したセカンドハンズフリーザーを巧みに操り、時間を調節して移動!!
これぞ暦間移動!発動させると同時に我らの周囲に光の粒子が現れる!!
……光っていっても黒だけどね。
中井出「で〜〜〜〜でってって〜〜〜♪で〜〜〜〜でってって〜〜〜〜♪
ドコトンッ!ドコトンドコトンドコトンッ!
ドコトンッ!ドコトンドコトンドコトンッ!」
飯田 「ああっ!提督が光に包まれた途端にFF11の
バーニングサークル突入の音楽口ずさみ始めやがった!」
田辺 「ちくしょう卑怯だぞ提督てめぇ!俺にもやらせろ!」
中井出「だめだ!秘仙丹は秘密の丸薬なんだ!!」
総員 『わけわかんねーよ!!』
中井出「まったくだ!!」
彰利 「そんなわけだから後ヨロシク!
ていうかしまった!オイラ全然準備とかしてねぇ!」
中井出「大丈夫!何を隠そう、俺は旅支度の達人だぁあああああっ!!!!
食材にキャンプ用品、その他アイテムなど、
ヒロライン時にバックパックに詰め込んであるのさ!!」
ナギー『さすがヒロミツなのじゃー!!』
彰利 「す、すげぇや!さっすが天下の中井出さんだ!!」
みさお「ただの変態さんじゃなかったんですね!?」
中井出「ええぇっ!?み、みさおちゃん!?キミ普段どんな目で僕のこと見てるの!?
ちょ、なに急にシマッタって顔で目ぇ逸らしてるの僕の目しっかり見なさい!!
そう!顔をしっかりこっちに───顔だけこっち向けてもだめだよ!!
目ェ見てよ!───え?見詰め合ったらキスするつもりなんだろ?しないよ!!
なに急にそんなこと言い出してるの彰利は!!しないよそんなこと!!
しなっ……しないってば!!やめてよゼット!
そんな視線だけで人が殺せそうなくらいの形相で睨まないでよ!!
だっ、だめぇえええっ!!!斧を手に持ってベキベキ変貌していかないでぇえ!!
ちょ、彰利!?彰利ぃいいっ!!早く転移してぇえええっ!!!
死んじゃう!僕死んじゃう!!
まだ友情も確かめ合ってない友達に殺されちゃうぅうううっ!!!
ちょっとみんな!?黙ってないで助けようとか───えぇ!?
なんで期待を孕んだ目で見てるのみんな!!で、出ないよ!?もう出ないよ!?
なにが出たのか知らないけど僕もう謎汁なんて出さないもん!!
やめてよ!期待されたって期待以上のことなんてそうそう───彰利!?
なんか光の粒子の数が減ってきてるよ!?力弱めてない!?え?弱めてない?
だったらなんでさっさと転移しないの!死ぬって言ってるでしょォ!?
やめてまってぼぼぼ僕はただやめヴァアアアーーーーーッ!!!!」
……その日。
一人の男が早朝の空を舞いました。
───……。
……。
中井出「なんでみんないっつもそうなの!?人の話聞こうよ!!
僕は麻衣香以外は好きにならないって言ってるでしょォオオオッ!!?
咄嗟にジークフリード出さなきゃ胴体千切れてたよ!?
もうちょっとで志半ばで上半身男になって死んでたんだよ!?
え?そうなったらスウィートホームで活躍しろ?いらないよそんな活躍の場!!」
咄嗟に霊章から剣を出してガードした彼は、空を盛大に飛んで壁に激突し、
頭から奇妙な液体を噴水のように噴き出しただけで済んだ。
奇跡の生還である。
その液体がなんだったのかは正直解らんのだが。
……白血球あたりだろうか。よく解らんが血ではなかったのは確かだろう。
彰利 「ほいじゃあ中井出も元気に空飛んだことだし、そろそろ行こうか」
中井出「ちょっと待ってよ!ほら!やっぱり転移中断してたんじゃないか!
力弱めてないとか言ってたのに!ほらみんな見たよね!?ねぇ!?」
殊戸瀬「提督、うるさい」
中井出「えぇっ!?な、なんで僕怒られてるの!?
そりゃちょっとは五月蝿かったかもしれないけど!!
大体みんなが少しも助けてくれないからマァォガァアアアアッ!!!!
やめてやめてぇえ!!もう言わないから毒針で脇腹刺すのやめてぇえっ!!」
殊戸瀬「……弦月くん、早く」
彰利 「OK!時よ巻き戻れ───暦間移動!!」
叫ぶとともに力を最大解放!!
現れる闇の光が俺達を包み込み、やがて望む歴史へと───!!
藍田 「ジョワジョワァアーーーーーッ!!!」
丘野 「ヌワァアーーーーーーッ!!!!」
中井出「《ガッシィイイッ!!》ギャアーーーーーーッ!!!」
彰利 「ややっ!?これ!なにをしているのかね!!」
それは油断という名のバケモノ!?
発動した歴間移動の中、
なんと藍田くんと丘野くんが中井出に掴みかかり、無理矢理同行してきたのだ!!
彰利 「ちょ、危ないでしょう離れなさい!!」
藍田 「ジョワジョワ……!おっとロビンよ〜〜っ、大事なケビンを返してほしくば、
まずこの“五大災厄”を倒してからにしてもらおうか〜〜〜〜っ!」
丘野 「ヌワヌワヌワ、勝ち取ろうともしねぇで何かを得ようなんて、
ヌルい金持ちの坊ちゃんの考えそうなことだぜ〜〜〜っ」
彰利 「グ、グゥウ〜〜〜〜〜ッ!!!!」
などとキン肉チックに話してる場合じゃございません!
歴間移動が始まって、我らの体は時空の波に……!!
彰利 「マジで危ないって!藍田くん!丘野くん!ていうかそもそも中井出!掴まれ!!」
藍田 「ジョワジョワ、時間超人である俺達に時空の中で危ないとはよくも言ったものよ」
彰利 「ジョワジョワじゃねぇよ!!いいからちょっとこっち来なさい!!」
丘野 「ヌワヌワヌワ、俺達はケビンに掴まっているから大丈夫だ」
彰利 「いやあのね!?その中井出くんがキミらに両手両足塞がれて、
しかも背中にドリ子さん背負ってて為す術ないんだってばよ!!」
ナギー『ドリ子ではないと言っておろうに!!』
彰利 「そんなこと言ってる場合でもないんだってばよ!!」
みさお「中井出さん!掴まってください!」
その時である!
みさおさんが月然力・然で作った木の棒を伸ばし、中井出へと救いの手を差し伸べたのだ!
おおナイスみさおさん!こんな時になんという発想!!
……だったのだけど。
中井出「フン断る《ベシィッ!》」
総員 『ゲェエエエーーーーーーッ!!!?』
なんと伸ばした棒をベシィと叩きおったのだ!!
その行動を見て流石の藍田くんと丘野くんも絶叫!!
よく解ってないナギ子さんだけが燥いでいた!!
悠介 「ななななに考えてんだ中井出ぇえええっ!!!」
中井出「手を伸ばせば絶対に助かる。そんな状況で命綱を払いのける……最高じゃないか」
悠介 「何処まで無茶な常識破りに挑戦すれば気が済むんだお前はぁああっ!!」
みさお「命懸けにもほどがありますよ!?
───ダ、ダメです!そっちに流されたら───!!」
中井出「……っ……くっ!お、俺達はもうダメだ……!
い、行けぇええっ!お前らだけでも!!」
ナギー『振り返るでないのじゃ……!真っ直ぐ前だけを見て突き進むのじゃー!!』
藍田 「忘れねぇでくれ!俺の名は虎丸龍次!!」
丘野 「今度生まれかわってくる時も桜花咲く男塾の校庭で会おうぜ!!」
彰利 「何処まで逞しいのさてめぇらぁあああああっ!!!」
そうして歴間移動が続く中、意地でも原ソウルを忘れない四人は時間の波に飲まれ───
歴間景色の中から姿を消したのだった……。
みさお「うわー……探すのが大変そうですね……」
悠介 「時間軸は記憶したんだろ?」
みさお「ええそれはまあ……」
彰利 「でもねぇ悠介……?やつらが一箇所で大人しくしてくれると思う……?」
悠介 「ああ無理だな」
即答だった。
そして俺も同じ意見だった……。
みさお「俺達はもうダメだって……ダメにした張本人から聞けるとは思いませんでした」
悠介 「まあ……なぁ?」
彰利 「中井出だからねぇ……」
もうそんな常識破りなことなど、原中の時から散々と見せ付けられていた。
最初はアタイがそそのかしたのがきっかけだっていうのに、
中井出の順応力ったら凄まじいんだもの。
次第にアタイが驚かされることの方が多くなって、今やそれが当然みたいになってる始末。
ほんとね……何処まで逞しいんだろうね原中の猛者ってのは……。
彰利 「まあいいや……中井出たちは帰りに回収しよう。今はまず───」
悠介 「ああ」
みさお「ですね」
まず、悠介の過去を片付けよう。
どんなことがあったのかなんて詳しくは知らない。
が、逝屠が降りてからその全てが壊れたのは紛れも無い事実だ。
以前、歴史修正日記であの時代に行った時は逝屠を飲み込んでハイ終わりだった。
今思えばあの時いろいろ見てれば、
ここまでややこしくなることもなかったのかもしれんのに。
彰利 「っと、ここだ。覚悟はいいか?」
悠介 「ああ。とっくにだ」
みさお「わたしも大丈夫です」
彰利 「よっしゃ」
それじゃあ、と目的の時代へと降りてゆく。
そこでなにが待ってるのか……それはやっぱり解らない。
それは幸福かもしれないし不幸かもしれない。
でもどの道見なければならないことであり、それはきっと悠介の力になるものだ。
そう信じて、俺達は過去の時代へ降り立った。
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