───HOT一息/彼ら彼女らの夜───
【ケース40:弦月彰利(茶流再々)/ポリエステル加工のアルミ製品】
彰利 「グ……ムム……」
そうして目を開けてみれば、僕らは蒼空院邸に居た。
彰利 「あれっ!?ファンタジーは!?僕らのヒロミツオンラインは!?」
悠介 「体験版はここで終了だ。言っただろ、初心者修練場までしか創ってないって」
彰利 「グム……」
なんてこったい……これからって時におあずけですか。
彰利 「次の場所の製作予定は?」
悠介 「まだもうちょっとかかる。イメージが結構難しいんだ。
なにせ精神を扱う場を創造するわけだから、半端があれば精神に異常が起きる」
彰利 「うお、そりゃ怖い」
悠介 「ああでもヒロミツオンラインで取った行動の全ては無駄にはならないぞ?
ちゃんと精神を鍛えられる。鍛えた状態で身体に精神が戻れば、
今度はその精神が肉体の方を変えていく。
自然と身体にも影響が出るってことだ」
中井出「……でも棒とか振っても火は出ないぞ?」
悠介 「変身してからやってみろ。能力は全部そっちの方に繁栄されてる」
中井出「マジでか!?へ、変身ッッ!!」
マカァーーーン!!!
中井出「完……了……」
提督が腕にある時計に声を向けると大戦士カルガラになった。
するとその手の中にはヒロラインで貰ったグレートソードが!!
中井出「お……おお!!グレートソードに皮系の装備まで完全再現!?」
喜びを胸に提督がグレートソードを振るうと、きちんと火が出た。
総員 『おぉおおおおおおおおっ!!!!!』
提督は皆様とともに喜びはしゃいだ!!
清水 「つ、晦!次!次俺!俺頼む!!」
蒲田 「いや、次はそれがしが!」
中村 「いやいや順番は守ってもらわんと!!」
悠介 「悪い、今日はここまでだ。思ったより疲れる」
総員 『そげなぁああーーーーーっ!!!!!』
能力者ではない人は、それはそれは悲しんだそうな……。
彰利 「提督、そういや剣士の10分アビリティってなに?」
中井出「そっちはなんだったんだ?」
彰利 「界王拳。1分間格闘能力上昇アビリティだった」
中井出「そか。こっちは剣の能力を引き出して攻撃するアビリティだった。
名前はマグニファイっていったかな。
ほら、武器防具には付加能力があるものがあるって言ってたろ?
その能力を1分間だけ完全に引き出せるんだそうだ」
彰利 「ほうほう、で、グレートソードの付加能力は?」
中井出「20%の確率でクリティカル発生。それが一分間だけ確実に引き出せるってこと」
彰利 「じゃあ1分間、当たりさえすれば確実にクリティカル?」
中井出「そういうこと」
おお……なんかステキじゃないですか。
しかも付加能力ってのは合成出来るらしいし、
武器を強くすればするほど恐ろしく役に立つ能力になるのでは?
彰利 「真穂さん、アコライトの10分アビリティは?」
真穂 「漢神の祝福だって。女神の祝福じゃないところがポイントみたいで、
範囲内のHPMP完全回復および1分間だけ力だけを25%アップ……」
丘野 「それは……なんとも雄々しいでござるな……」
彰利 「おお丘野くん。丁度良かった。忍者の10分アビリティはなんだった?」
丘野 「生分身でござるよ!!1分間だけ拙者の実体が25人に増えるでござる!!」
総員 (“影”分身じゃないんだ……)
丘野 「考えてみたら影分身では影が分身するだけで、
実体が増えるという意味ではおかしいのでござるよ。
そこのところを忍者師範が教えてくれたでござる。よって“生分身”だと」
総員 (意味は通るけど格好悪ぃ……)
多分みんな考えてることは同じなんだろうと思った。
悠介 「それから、このヒロラインでジョブを得たやつらは、
“変身後”の姿の特殊能力も使えるようになるから」
彰利 「へ?それって?」
悠介 「アンパンマンならアンパンチとアンキックが使えるって、そういう意味だよ」
凍弥 「……マテ。テウーチソバットの場合どうなるんだ?」
悠介 「体術の“プロレス技”を閃きやすくなるぞ」
凍弥 「……嬉しいのか嬉しくねぇのか微妙だな、それ……」
真由美「世良田二郎三郎元信は?」
悠介 「決まってる。刀技を閃きやすくなる」
真由美「あ……それいいかも」
雪音 「そうかなー。まゆちゃんの場合、絶対に僧侶系が似合ってると思うけど」
真由美「これでも運動神経には自信があるからね。一度戦う人になってみたかったんだよ」
遥一郎「当然お前が選ぶジョブはモンクなんだろうな……」
雪音 「ホギッちゃん失礼だよ……わたしは断然、清楚なアコライトだよ!」
総員 『似合わねぇ!!』
雪音 「ガッ……ガッデムーーーーーッ!!!」
まあガッデムさんは無視するとして。
彰利 「ロ、ロビンマスクは?」
悠介 「体術での攻撃に+修正がつく」
彰利 「……超人っていっても所詮プロレスラーか」
藍田 「オリバの場合どうなるんだ?」
悠介 「考えるまでもないだろ……力と防御力に+修正だ」
総員 『これ以上強くさせてどうするんだよ!!』
悠介 「大丈夫だって。変身後の能力効果はステータスによるものがほとんどだ。
+修正が付くって言ったって、基本能力が低い序盤じゃ大した差は無いよ」
総員 『あ……なるほど』
納得。
一応考えて創られているようです。
丘野 「アナカリスの場合、どうなるでござるか?」
悠介 「いつでもどこでも棺が出せるぞ。それで攻撃も可能だ」
丘野 「嬉しくないでござるな……」
殊戸瀬「カレー先輩の場合は?」
悠介 「カレー先輩か……
そっち方面は彰利のイメージを基に創ったからよく知らないんだが」
彰利 「やっぱシエル先輩なら無限黒鍵では?
どこに何本隠してんのか不思議でしょうがない」
悠介 「……とのことだが」
夜華 「ゆ、悠介殿……ペンギンの場合、どうなるのでしょうか」
悠介 「口からブリザードが吐ける」
夜華 「………」
夜華さん、頭を抱えて屈みこむの巻。
どうやらその場面を想像して落ち込んでしまったらしい。
真穂 「じゃあ、望月双角は───」
悠介 「武器が錫杖の場合のみ、奇妙な式神が行使可能だ。
安心しろ、きちんと無惨弾も出来るぞ。HP半分使うが」
真穂 「アコライトが自爆覚悟で敵をブチノメしてたら怖いよぅ!!」
◆無惨弾───むざんだん
リアルバウト飢狼伝説スペシャルの望月双角の潜在能力である。
黄金色の巨大な式神を召喚し、自分自身を武器にして相手を殴る奥義。
己を武器に、というのは人間が鈍器になるのを想像していただければそれでいいかと。
つまり式神が人間を掴み、大きく振り上げてから振り下ろして相手をブチノメす。
*神冥書房刊:『リアルバウト2はあまり面白くなかった』より
彰利 「あ、それはそれとして悠介、質問があるんだけど。
なんだって固有ジョブアビリティって10分アビリティにしたんだ?
FF11みたいに二時間とかじゃなくて」
悠介 「あのなぁ……リアルタイムバトルで、
二時間待たなきゃ使えない能力になんの意味があるんだよ」
彰利 「うおう」
まさしくその通りだった。
超アクティブタイムバトルに二時間は意味が無さすぎる。
というか絶対に存在忘れる。
中井出「それとは別に質問があるんだが。
えっとさ、このゲームって精神を鍛える以外に目的ってあるのか?」
悠介 「空界に住むための予行練習って思ってくれ。
今の空界、結構荒れてるから普通の地界人が行ったんじゃ危ないかもしれない」
総員 『あ、な〜るほど』
満場一致で納得完了!!
そういう意味があったんか!!
道理であの悠介がすぐに実行したわけだよ!!
清水 「……ところで話を戻すけどさ。
この場合、キャプテンアフリカの変身後の能力はどうなるんだ?」
悠介 「槍使用時の戦闘能力が上がる」
清水 「………」
清水はとても微妙な顔だった。
鷹志 「トーテムポールはどうなる?」
悠介 「ワールドヒーローズのマッドマンを仲間として出せる」
鷹志 「うわ要らねぇ!!」
柿崎 「カオヤイ・ソンチャムは……」
悠介 「拳を構えると戦闘力が50%マイナスされる」
柿崎 「意味ねぇ!!」
総員 (ひでぇもんだなカオヤイ……)
来流美「邪神ゲンドラシルはどうなるのかしら」
悠介 「仲間が死ぬとパワーアップする」
総員 『この外道めが!!』
来流美「なんでわたしに言うのよ!!」
でもしょうがないです。
邪神ゲンドラシル自体、死者の魂を食らって強くなるバケモンですから。
由未絵「トマトマンの場合どうなるんだろ……」
悠介 「トマトをいつでも何個でも出せるぞ」
凍弥 「トマトをマグマに変えたりとかは?」
悠介 「出すだけだ。大体それはきっとトマトの王が許さない」
彰利 「トマトの王?誰それ」
悠介 「咲桜純」
彰利 「……彼、神界でなにやってんの?」
悠介 「俺に言われてもなぁ」
遥一郎「BUKIボーイは……やっぱりプロレス技を覚えやすくなるのか?」
悠介 「残虐系の技ばっかりな……」
遥一郎「ひどいなそれ……じゃあ仮面ライダーアマゾンは?」
悠介 「爪での攻撃が強くなる」
彰利 「ほうほう……じゃあ桃色ッ子のお嬢は?」
悠介 「5分に一回、ソウルスティールが出来るようになる」
総員 『クジンシーかよ!!』
悠介 「一応魂の運び屋らしいしなぁ……」
でもソウルスティールってことは、5分に一回敵からHPを奪えるってことだよね?
さすがにロマサガ2みたいに一撃で殺せるってことはないだろうけど。
遥一郎「……じゃあ、ノアの雪さんは?」
悠介 「……彰利」
彰利 「うむ。雪さんといえばメイドさん。しかも専属。
つーか思いっきりホギッちゃん専属メイドさんだし……なんだろ。
なにが付加されるのか皆目見当もつかんのですが。
なんだったらジョブの中に“メイドさん”を入れる?」
悠介 「なっ……」
あ、動揺した。
中井出「おおそれは面白そうだ!(特に晦が一瞬動揺したことが)」
丘野 「面白そうだから是非入れるでござるよ!(特に晦が一瞬動揺したことが)」
悠介 「いや、けどな……っ!そんなジョブ入れて、
ファンタジーでどうやって活用させろってんだよ……!」
丘野 「主人のために闘うメイドさんってのもステキではないでござるか?」
麻衣香「魔法を使えるメイドさんとかもいいんじゃないかな。魔法メイド少女とか」
彰利 「却下却下大却下ァ!!そんな意見は通りません!!世の中甘く無いんです!!」
ざわ……
彰利 「やっぱダメ!無し!!メイドさんはメイドさんだから映えるのだ!!
それを貴様ら、闘うメイドだの魔法使いメイドだの!!
そんなのはメイドさんじゃねぇ!!悠介くん!キミなら解ってくれるね!?」
悠介 「いや、俺も趣味で刀神倭道人ってジョブ入れたわけだし、別に入れてもいい」
彰利 「なんで!?ダ、ダメ!ダメヨーーーッ!!!
つーかてめぇ親友この野郎!今絶対楽しんでるだろ!!」
悠介 「たまには人の心労味わえたわけ。───イメージ、完了」
彰利 「ギャアアーーーーーーーッ!!!」
……イメージは完了しちまったらしい……嗚呼、バージョンアップ完了。
彰利 「うぐっ……ぐっ……ひっく……うぇええ……」
総員 『うわぁマジ泣きしてるーーーーーーっ!!!!!』
彰利 「違うんだ……メイドさんの戦場は屋敷の中と買い物市場だけなんだ……。
ベッドの中でも魔物の前でも無いんだよぅ……」
悠介 「ちなみに武器防具はお前の中のイメージ通り、
モップや箒、ハタキにバケツに如雨露、包丁にナイフといった家事のものだ。
防具はエプロンドレスのみ。靴から頭まで全ての装備がこれに統一されてる。
レベルアップごとに防具も強化される仕組みだ」
彰利 「お、おのれ親友てめぇ……!素晴らしきメイドさんを戦場に駆り出すなど……!」
悠介 「男の場合は執事ってことになる。当然ながらメイドガイは無しだ」
彰利 「や、それは素直にサンクスだけど。
あれはあれで面白いけど、あれをやる男はさすがにおらんでしょう」
悠介 「クラス分けはこんな感じだが……いいか?」
悠介がメモを創造して見せてくれる。
それには───
女中───メイドサーヴァント──メイドさん
執事───スチュワード─────バトラーさん
……とあった。
中井出「やっぱクラスは三つあるわけか」
清水 「これってバトラーになれば、
どこぞの借金一億五千六百万執事みたいにトラも倒せるのか?」
悠介 「鍛え方次第ではだが」
田辺 「メイドと執事のジョブスキルってなにがあるんだ?」
悠介 「献身、だな。主人と認めた者の傍に居ると能力が上がる。
永久持続能力だ。10分スキルは別にあって、尽くす心ってのがそうだ。
発動させると永久持続能力に+修正が入る。
ただしあくまで主人と認めた者の傍に居る時のみだ。単独だとダントツで弱い。
しかも主人だと認められる人はひとりまでだ」
清水 「制約が結構あるんだなぁ」
悠介 「じゃないとこの馬鹿が納得しそうにない」
彰利 「グ……グウウ〜〜〜ッ」
納得がどうとか言われたってね……。
そげな、ギャルゲーだの漫画とかでありそうなものを認めろというのですか?
そりゃね、確かにギャルゲーとか漫画にはたまぁにステキなメイドさんとか居るよ?
むしろエルドラドはそこにこそあるやもだし。
でもエロ好きなメイドさんとかはとにかく勘弁なんですよ……。
彰利 「……あれ?」
でも待たれい。
清楚で可憐で健気でお淑やかで献身的で丁寧でステキなメイドさんなら、
俺はそれで良かったのでは?
エロくて主人の言うことならなんでも聞いちまう幻滅的なメイドさんでなければ……
さらに口調が悪く乱暴で無ければそれで良かったのでは……?
彰利 「あ、なんだ」
ポムと手を打った。
そうだよそう、そうじゃないか。
ようするにアレだ、好戦的じゃなけりゃあいいんだよ。
敵と戦うのはあくまで主人の危機か己の危機のみ。
清楚で可憐に相手をブチノメしてくれりゃあ文句など無いやもしれません。
そう……ひとまずは口調が悪いとかエロがなければそれで良し!!
彰利 「OKそのジョブ受け入れよう!
ノアっちもなんだかんだで丁寧語だし、それはそれでOK!」
ノア 「それではわたしはマスターを主人として認め、ずっとお傍に」
遥一郎「あ、あのなぁ……四六時中一緒に居られても困るぞ……?」
ノア 「わたしは構いませんが」
遥一郎「俺が構うのっ!!」
彰利 「まあそげなわけで。
雪さんに変身した場合のスキルは献身スキルに+修正ってことで」
悠介 「解った。じゃあ大まかなことは書面として創造するから目を通しておいてくれ。
今日のところはもう夜だし、これで解散といこう」
彰利 「じゃ、提督〜、挨拶頼むわい」
中井出「よし───ヒヨッ子ども!今日はいろいろあったがご苦労だった!!
総員、己の居場所へ戻りのんびりと身体を休めてくれ!!」
総員 『サー・イェッサー!!』
中井出「そして翌日こそ総員で創造空間を堪能するとしよう!!───すわっ!解散!!」
ザザッ!!
総員 『Sir()!YesSir()!!』
合図をすると、それぞれがザッザッと去ってゆく。
それは精霊野郎率いる穂岸組だったり、閏璃凍弥率いる友の里組だったり、
グレゴリ男組や愚息組だったりした。
そんな中───
原中の猛者『……考えてみれば、帰る場所ないや……』
原中の猛者どもだけが、ようやくその事実に気づいて蒼空院邸に残っていた。
丘野 「あっちゃー!しまったでござるー!!
考えてみれば拙者たちは既に死んだことになっているでござるよ!!」
真穂 「わたしたちの家は全焼だし……」
麻衣香「わたしと博光は家が空界だから別に平気だけど……」
夏子 「あちゃあ……困ったなぁ」
櫻子 「だったらここに泊まっていきなさいな」
総員 『なんと!?』
ジャーンチャーカチャーン♪櫻子さんが現れた!!
悠介 「さ、櫻子さん……もうちょっと考えてから言ったほうがいいんじゃないか……?
さすがにこの人数は無茶だろ……」
櫻子 「あら平気よ。入りきらない人たちは彰利ちゃんの家に泊めればいいんだもの」
彰利 「む。確かに」
夜華 「………」
春菜 「………」
粉雪 「………」
真穂 「………」
仁美 「………」
聖 「………」
彰利 「えーと、なにやら六名ほどぼくを睨んでますが、あまり気にせんでください。
つーかお願い泊まって。じゃないとぼく、今夜こそ大岡越前の前に引き裂けそう」
悠介 「お前が言うと冗談に聞こえないからな……」
櫻子 「じゃあこうしましょう?彰利ちゃんの屋敷も結構大きいのよね?」
彰利 「ウィ?ウィ、かなりのもんですぜ?」
櫻子 「だったら女の子を彰利ちゃんの屋敷に、男の子をこの屋敷に泊めましょう」
彰利 「ふむ……まあなんとかなるデショ。悠介、布団創造してもらっていいか?」
悠介 「ああ、お安い御用だ」
言って、即座に手の平に光を込めると、小さな箱を創造して俺に渡した。
で、『それの上にあるスイッチ押せば人数分の布団が出てくるから』と説明してくれた。
うーむ、相変わらずの便利人。
一家にひとり、モミアゲくん。
彰利 「んじゃあ俺もここに泊まっていいってこったよね?
さ、さすがに女の中に男がひとり〜♪なんて状況はないよね?」
櫻子 「あらあらなにを言っているの?家主が家に居ないなんてそんなこと許しません」
彰利 「ゲェエエーーーーーーッ!!!!」
戦慄のドゥーム兵……じゃなくて、ぼくの身体に戦慄が走りました。
彰利 「い、いやだ!ぼくだけ仲間外れなんかイヤだーーっ!!
ぼくだって男だ!漢じゃないけど男だ!ぼくも蒼空院邸に泊まりたい!」
櫻子 「だめです、許しません」
彰利 「そげなぁあーーーーっ!!!!」
オイラの叫びは夜の蒼空院邸に響き渡りました。
すると櫻子さんの後ろでちっこいベヒーモス三匹と、
姿を隠しているであろう幾数もの召喚獣の視線が
『やかましい』という意を込めて突き刺さりました。
うう、ご近所迷惑ゴメンナサイ。でもぼくはとても悲しいのです。
粉雪 「彰利♪帰ろっか」
ガシィ!
彰利 「ややっ!?」
春菜 「アッくん♪ささ、行コ行コ♪」
ガッシィ!!
彰利 「え、いやちょっ───」
夜華 「今日はわたしも貴様の屋敷に泊まることにした。……よもや、嫌とは言うまいな」
彰利 「嫌ァーーーッ!!!」
言いました。……でも無視されました。
真穂 「じゃ、わたしも」
ガシィ!!
仁美 「もちろんわたしも」
ガッシィ!!
彰利 「ギャ……ヤヤ……!!」
次々とぼくの腕を掴むおなごたち。
というかむしろキリュッち……じゃなくて仁美さんはぼくの胸に抱きつく状態です。
振り払おうにも両手は既に花束状態……動けません。
夜華 「聖、転移を頼む」
聖 「うん、ママ」
彰利 「い、いかーーん聖!!これは罠!なにかの巨大な陰謀だーーーっ!!!!」
聖 「家主が家に帰るのは当然だよパパ」
彰利 「ギャヤーーーッ!!!た、たすけてぇ!!大岡越前たすけてぇ!!」
ぼくはあまりの恐怖に、クラスメイツというか男衆に手を伸ばした!
すると───
中井出「旅行く勇者に敬礼!!」
総員 『敬礼ッッ!!』
彰利 「中井出ぇええっ!!てめぇええーーーっ!!!!」
提督が敬礼を促したため、彼らはあっさりとぼくを見送りました。
しかも叫んだ瞬間には景色はビジュンとブレ、
気づけばぼくと女性のみなさまは弦月屋敷の前に……。
粉雪 「さ、じゃあわたしと彰利は同じ部屋で寝ようね。いつも通りに。
他のみんなは自由にしていいから」
春菜 「じゃあわたしもアッくんと同じ部屋で」
夜華 「あー……その、なんだ。不本意だが、わたしもそうしてやってもいいぞ……」
真穂 「じゃあわたしも」
仁美 「わたしもー」
聖 「わたしも」
粉雪 「ちょっ……みんな!?地界では一夫多妻の状態は厳禁だってあれほど───!!」
春菜 「じゃあ今だけ愛人?」
粉雪 「却下!!」
真穂 「間男ならぬ間女」
粉雪 「却下!!」
聖 「わたしはパパの娘ですから文句はないですよね?」
粉雪 「却───う、うぐっ……!!」
夜華 「それを言うならわたしも聖の母だが?」
粉雪 「で、でもそれはっ!!」
仁美 「アキちゃ〜ん♪一緒に寝ようね〜♪」
彰利 「ギャヤヤヤーヤヤヤ!!!!抱きつかないで抱きつかないで!!」
懐かしきキリュッちの香りが!!昔と変わらぬあのやさしい香りがぼくを包み込む!!
つーか助けて!なんかこの状況いつもの倍は危険な香りがします!!
粉雪 「あっ───桐生先生!!勝手に抱きつかないでください!!
あなたそれでも教師ですか!!」
仁美 「もう教師じゃないも〜ん♪あはははは〜、アキちゃ〜〜〜ん♪」
彰利 「ギャヤヤヤヤ……!!!!」
スリスリしないで仁美さん!む、胸が!胸が背中に当たっとります!
助けて!みずきが産まれて以来、
ずっとのらりくらりと押さえ込んできていた“男”が今再び……!!
麻衣香「あー……あのさ。頼むからわたしたちが居る中で夜の営みは勘弁してね?」
春菜 「それはちょっと保証できないかなぁ〜」
彰利 「してくれぇええええーーーーっ!!!!!」
その夜、ぼくの絶叫が夜の草原に響き渡りました。
ああ……俺、明日の朝日見れるかなぁ……。
【ケース41:イセリア=ゼロ=フォルフィックス/棒人間たちの日常】
イセリア「ん……なんか裏の屋敷が騒がしくなったけど」
ジークン「ウィ?恐らくツンツン頭が帰って来たんザマショウ。
それよりサンクスイセリア殿。
わざわざ神々の泉の水とチャイルドエデンの麦茶用の豆を取ってきてもらって」
イセリア「いいって別に。それが無いと麦茶作れないんでしょ?
その麦茶で助かってるエデンの子って多いんだからさ」
ジークン「ウィ」
さて。
遠路はるばる地界に来たわたしこと、イセリア=ゼロ=フォルフィックス。
なんのために来たのかといえば、言った通り水と豆を持ってきただけ。
悠ちゃんの様子と地界の様子を見たかったのが第一だけど、まあ悠ちゃんも元気そうだし。
イセリア「けど、地界って意外に空気美味しいのね。
もっとマズイのを想像してたんだけど」
ジークン「モミアゲ野郎が精霊を使って綺麗にしたんザマス。
お陰で我も、我ら棒人間も健やかに生きていられるってわけザマス」
コポコポコポ……グラスに麦茶が注がれ、促される。
これで何杯目だったかな。忘れた、いいや。
イセリア「それで、もう空界に住む気は無いの?」
ジークン「ミル・ラットンの野郎が驚愕の強さになってしまった以上、
もう集落には戻れねぇザマス。それ以前に崩壊したわけザマスが。
ともかく我はここでの暮らしが中々気に入ってるわけでして。
だから気が向かん限りはここでの生活が続くわけだねぇ。漬物食う?」
イセリア「あ、お気遣いなく。というよりさ、漬物なんて作ってるの?」
ジークン「我ら棒人間は食えないんザマスがね。住まわせてもらってるわけだから、
こうして作物を作ったり漬物を作ったりしてるわけザマス」
そう言うジークンの後ろでは……器用に編み物をするシークンと糸を作るニークンが居た。
他にもそれぞれが作業をしているけど、なんだかもう手馴れた感じだ。
イセリア「いっつもこんなことやってるの?」
ジークン「今日はたまたま仕事の日だっただけザマス。
ここの御仁がたは打ち解けてみれば中々理解のある方々。
仕事があるのは週に二度のみなんザマス」
イセリア「へぇ……ちなみにスークンはなにをやってるの?」
ジークン「蒼空院殿のところの超獣の抜け毛を掻き集めたものを丁寧に並べ、
暖かい天然毛布絨毯を作っているんザマス。これが中々好評で」
イセリア「ってことは前にも?」
ジークン「ウィ。抜けた毛にはもう雷が無いから安心して加工出来るんザマスよ。
暖かくて寒い日も安心ってわけザマス」
イセリア「いろいろ考えてるのね……」
ヘタな工房よりよっぽどいいもの作ってる。
材料がいいからってこともあるけど、それにしても作り方が丁寧だ。
金儲けが目的の大雑把な作り方じゃないから、本当にひとつひとつが丁寧……
イセリア「っと、ここでこんなにものんびりしてる場合じゃなかった。
わたしそろそろ帰るね」
ジークン「おお、これは失礼した。引き止めてしまったみたいですまねぇザマス」
イセリア「いいっていいって。また必要になったらいつでも呼んでくれていいから。
こっちに来る口実が出来るし」
ジークン「ウィ」
イセリア「それじゃーね〜」
ジークンたちに手を振りながら、小さな小屋をあとにした。
広い広い草原に聳え立つ、悠ちゃんの親友の家。
そこから少し離れた隅にある小さな小屋───それが棒人間たちの家。
わたしにしてみれば小さいんだけど、棒人間にしてみれば十分らしい。
イセリア「……うん。どうしよっかな、これから」
ふと思案する。
悠ちゃんの顔を見に行くのもいいし、騒がしいツンツン頭くんの家に寄るのもいい。
わたしたち魔術師にとって徹夜の一度や二度など既に日常的だ。
その所為か今は眠気が全く無い。
とはいえ、長い魔術師生活のためか『眠ろう』と思えば眠れないこともない。
さて……そんななかでわたしが取る行動は───
───……。
……結局、悠ちゃんの居る場所……蒼空院邸、とやらに来ることだった。
声 「ゲロゲロゲロゲロ」
声 「タマタマタマタマ」
声 「ギロギロギロギロ」
声 「クルクルクルクル」
声 「ドロドロドロドロ」
声 「なんかひとり声デカくない?」
声 「ギロギロに気合込めるのは基本だろ基本」
それで……来たはいいけど、屋敷の中から聞こえる奇妙な声はなんだろう。
しかもそれも長く続かず、突然喧噪に変わるとドタンバタンという騒音が聞こえ始めた。
イセリア「……?まあいいや」
とりあえずはノック。
喧噪に掻き消されないように強めに叩いた。
すると少しの間のあとにガチャっとドアが開けられて───
イセリア「やっほー、遊びに来たよー」
男 「ええい帰れ帰れ!今宵の蒼空院邸は女人禁制でござる!!」
ガチャバタン!!
わたしを女と認識するなり、ドアを閉めてしまった。
イセリア「……あれ?」
つまり、悠ちゃんのところに来た途端、追い返されてしまったということになる。
そして家の中から聞こえるのは喧噪ばかり。
窓から漏れる光が、暴れまわるシルエットばかりを映し出していた。
イセリア「むー」
ドンドンッ!!───わたしは懲りず、玄関ドアを叩いた。
すると再びさっきの妙な喋り方の男が現れて───
男 「何用でござるか!今我らは原中名物“魔繰羅那解()”で大忙しなんでござるよ!?」
なにやら焦った雰囲気のままに一気に言葉を言い放った。
むー、人の用件も聞かずに怒鳴らないでもらいたい。
でもまあ、こんな人間はアカデミーで散々見てきてるから今さら怒る要素なんて無い。
イセリア「魔繰羅那解?」
男 「───……貴殿は良い人でござるな?
普通訳も解らず怒鳴られれば怒って帰りそうなもの。
合格でござる。用件はなんでござるか?」
───と思ったら、途端にやさしくなる目の前の男。
どうやら試しただけらしい。
男 「おっと失礼、拙者は丘野眞人。
現代最後の忍者となるべく生誕した男でござるよ!!
サムライニポーン!ハラキリゲイシャ!!」
ゲイシャ、という存在は年中腹でも斬ってるんだろうか。
丘野 「おっと失礼。取り乱してしまったでござるよ。
して、何用でござるか?空界のイセリア殿とお見受けするでござるが」
イセリア「あれ?知ってるの?」
丘野 「晦殿と弦月殿に見せてもらった映像の中で貴殿の姿を拝見したでござる。
あぁ、安心していいでござるよ?拙者、晦殿と弦月殿のクラスメイツでござる」
イセリア「クラスメイツね。まあいいや、悠ちゃんは居る?」
丘野 「現在瞑想に入りつつ、
ヒロミツオンラインをグレードアップしていってるでござるよ。
話し掛けて相手をしてくれるかどうかは微妙の極みでござる」
イセリア「ヒロ……?」
丘野 「精神世界のゲームでござる。
創造世界に精神だけを飛ばし、そこで遊ぶゲームでござるな」
目の前の丘野とかいう男は『にんともかんとも』とか言って頷いてる。
どうやらそのヒロミツオンラインというのが楽しくて仕方ないらしい。
イセリア「そっか。ちょっと挨拶をって思ったんだけど───って、精神世界?」
丘野 「そうでござるが?」
イセリア「大丈夫なの?一歩間違えれば大変なことになるけど……」
丘野 「拙者たちは同じ猛者である晦殿を信用しているでござる。
口ではどうとでも言えるでござるが、
そんじょそこらの集団の信頼度合いになど負けるつもりなど皆無でござる。
故にたとえ精神異常をきたしても、治してくれると信じているでござる」
イセリア「へぇ……」
感心。
悠ちゃんって人外以外にもきちんと信頼されてるんだ。
てっきり普通の人からは嫌われっぱなしだと思ってたのに。
イセリア「解った。じゃあわたしも手伝うわ。上がらせてもらっていい?」
丘野 「ちょっと待つでござる。先ほどは突如として怒鳴ってすまなかったでござるが、
今のこの蒼空院邸が女人禁制なのは紛れも無い事実なのでござるよ。
出来れば明日の正午あたりにもう一度出直してきてくれればありがたい」
イセリア「精神干渉系の行動が危険なのは解ってるんでしょ?
精神関連なら地界人より空界人のほうがよっぽど詳しいの。いいから任せて。
ヤムベリングのババアほどとはいかないけど、役には立てるから」
丘野 「む……失礼したでござる。イセリア殿の腕を疑ったわけではないでござるが……
気を悪くしたなら謝るでござるよ」
イセリア「あははー、いいっていいって。
悠ちゃんにこんな友達が居るだけで十分だって思えるんだから」
丘野 「友達じゃないでござる。メンバー……そう、原中という名の猛者集団でござる」
イセリア「で、悠ちゃんはどっち?魔力の気配探って勝手に探していいの?」
丘野 「無視でござるか……」
丘野くんはどこか悲しそうな顔をしたのち、すぐに先立って案内をしてくれた。
階段を上がって、地界にしては大きな屋敷の長い通路を歩いて───
そしてようやく辿り着き、開け放ったドアの先。
そこで───
Next
Menu
back