───冒険の書193/宙を舞う災厄───
【ケース508:中井出博光/空より来たる災厄】
ドガァアアアアアアンッ!!!!
中井出「ぬおおおーーーーーっ!!?」
彰衛門「キャアなに!?何事!?地震!?」
それは───やがて訪れた夕刻を前に突然やってきた。
浮遊要塞の内部、キッチンの中で仲良く昼食を食していた俺達を襲った衝撃。
思わず食べていたものを吐き出してしまいそうになるのを食いとめ、
咽ながらも状況を確認しようとした。
───が、あまりに予想出来ない事態を前に、やはり狼狽えるしかない。
遥一郎「浮遊してる要塞にこれだけの衝撃……巨大生物か!?」
しかしそこは頭脳明晰のホギー。
ハッとした様子を見せると、思考が導き出したであろう言葉を即座に並べてみせた。
総員 『………』
そして俺達はその言葉をもとに、とある人物をジッと見つめることとなるわけだが。
悠介 「……ちょっと待て。どうしてそこでみんなして俺を見るんだ」
彰衛門「いや……だって……」
中井出「巨大生物っつったら……」
藍田 「なぁ?」
悠介 「そんな奇妙な方程式は今すぐ桃にでも詰め込んで小川に流してしまえ!」
それはそうだ、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
頷く俺達は我先にと無駄に競争意識を高めながらキッチンの出入り口へと走り、
建物の中以外ならばほぼ何処だろうが木漏れ日が差し込む景色の下へ躍り出た。
ドッガァアアアアアアアンッ!!!!
と同時に再び地震。
浮遊しているのに地震だなんて妙な呼び方だとは思うが、
他に唱えようがないからこう言っておこう。
彰衛門「ぬうう!なんだってのよこれ!」
悠介 「何処かにぶつかってるわけじゃなさそうだな……」
彰衛門「もしやボッスィーくん?どこぞのボスさんが責めてきたの?
ほっほっほ、ならばこのアタイの超アビリティを今こそ試す時じゃぜ?
2000レベル記念で習得した、
黒操術と死神王の能力を合わせたようなものなんじゃがね。
それはもうハートドキドキの切羽詰ったアビリティじゃぜ?」
ナギー『ともかくここで問答していても仕方ないのじゃ!
砲台広場へ行けば解るであろ!ともかく急ぐのじゃ!』
そうだ、あそこなら見晴らしがいいから全方向を広く見渡せる。
けど、そんなことをするまでもなくバリスタがある広場へ行けば見渡せるのも事実だ。
だったら今すぐそこへ行って状況の確認を、
なんてことを珍しく真剣に考えてる俺を余所に、
どこぞの死神さんがしゅごーと空を飛んで壁抜けしたりしながら言った。
ルナ 「ねぇ悠介?なんだったらわたしがすぐに状況を見て───ひきっ!?」
いや、言おうとして固まった。
丁度下半身だけを天井の大木から覗かせてる間抜けな状態だ。
なにを見たのか、なんてことは当然わかりようもないのだが、
あのルナさんが固まるなんて相当な状況ってことだろう。
ここでいう“相当”は各自の判断で任せる。
出来れば考えたくはないと本能が叫んでいる。
中井出「よし逃げよう」
悠介 「マテ」
踵を返したがあっさりと捕まった。
その際、晦が閃足(“白”の能力だそうだ)を使ったのを報告しておこう。
なんていう心のゆとりを掻き集めた状況報告は、
この場に舞い降りた真っ青な顔の月の精霊さまによって打ち砕かれた。
ルナ 「ゆゆゆゆゆ悠介悠介!?逃げよう!?今すぐ!」
悠介 「どわっと!?待て!まず落ち着け!何故逃げなきゃならんのか説明しろ!」
月の精霊さまは動転しているようだった。
動転の理由は間違い無く彼女が見たであろう物体、に違いない。
それがなんなのか……解らないなら知るまでだ。知りたくないけど知るべきなのだろう。
解らないものを知りたくなるのは人の性と書いてサガと読む。
開けるなと言われれば鶴を見てしまうのは当然のことだ。
人から“興味と好奇心”を抜いたらただの人型になるだけだろう。
そんな人間になど俺はなりたくもない。怖いけどなりたくないんだからしょうがない。
ただ、予感ってのはいつでも人の心の奥底に潜んでいるもので……
今回の予感は間違える筈もないくらいドス黒い、嫌な予感だった。
ドガァォオンッ!!
悠介 「だわぁっ!?」
彰衛門「おわぁあ〜〜〜っ!!」
中井出「ぬわっ───ひっ!?」
目を疑う。
再度襲った衝撃に揺れる要塞はこの際どうでもよかった。
問題は、衝撃によって揺れた大木の先に見た存在にあった。
この、身体が勝手に逃げ出そうとする感覚。
願ったわけでもないのに喉の奥から漏れた小さな悲鳴。
こんなことを見ただけでさせる存在を、俺はこの世界ではひとつしか知らない。
その者 宙を舞う災厄
咆哮は悲鳴が如く禍々しく 理さえ打ち破りて空から岩の雨を降らすだろう
唱える者よ 恐怖とともに吐き出すがいい 翼竜王を蝕みし災厄の名を
彼の者はデスゲイズ この世の空を支配する躯なり
───頭の中が真っ白になった。
それでも、白紙の頭に浮かぶものは、どっかで見た壁画の文面。
恐怖で頭がどうにかなっちまいそうだってのに、
その恐怖に拍車をかけるように文面が幾度も思い返される。
ナギー『ど、どうしたのじゃヒロミツ!震えておるぞ!?』
言われるまでもない。
身体が震え、頭の中に死のイメージしか浮かばなくなっている。
未だ、ヤツを前にすると身体が竦みあがってしまう。
それなのに目を逸らすことが出来ないのだ。
目を逸らそうものなら、
即座に攻撃されて殺されてしまうんじゃないか……そんな恐怖心からだ。
怖いのに、怖いものから目を背けることさえ出来ない。
中井出「か、あ……はっ……!ぐ……!」
そんな状況が、俺の呼吸を殺してゆく。
恐怖で喉や肺が圧迫されるなんて感覚、冗談じゃない。
冗談じゃないのに、俺の体は自分の意思から完全に外れ、恐怖に飲まれてしまっていた。
彰衛門「───!?中井出!?どうした!?すげぇ汗だぞ!?
そうか腹痛だな!?さっさとビッグしてこいこのエロスが!」
中井出「無理矢理そっち方面に持っていくなよドカスが!!───はっ!」
しかしそんな恐怖がほんの数瞬のみ、理不尽な発言によってほぐされた。
言ってみれば、肺を呼吸で満たし、
強い意思を保つだけなら───数瞬があれば十分だったのだ。
あとはやせ我慢が続く限り強気でいけば、多少は飲まれずに自分を保っていられるはずだ。
中井出「はぁっ……ふんっ!!」
ばんばんっ、と音が響くくらいに強く頬を叩く。
これくらいの痛さがなければ誤魔化せない。
いや、これでも誤魔化せないくらいの恐怖が俺の中に渦巻いている。
人間ってのは恐怖の前ではどうしても縮こまってしまうものだ。
例外ももちろんあるんだろうけど、俺は例外には至れていないらしい。
覚悟をどれだけ決めようが、本当の恐怖の前には生き物なんて弱いものだ。
それでも状況を伝えるべきだと喉を震わせ、嗚咽を吐き出すかのように呟いた。
中井出「……敵、確認……した。デスゲイズだ……」
総員 『なにぃ!?』
なんとかそれだけを喉から搾り出すと、全員が驚愕の色に染めた顔で俺を見た。
彰衛門「デスゲイズって……あの宙を舞う災厄って言われてる、あれ、だよな」
次いで震える声を搾り出したのは彰衛門。
普段はおちゃらけているこいつでも解るんだろう。
あいつがヤバすぎる相手だってことが。
悠介 「“曰く、虚空を駆る躯。死する全てがそこに集い、魔物と化すという”。
フェルダールの歴史書物に書いてあった一文だ。
あいつはモンスター以外の死した者の血肉や魂を喰らう躯なんだそうだ。
モンスターの血肉や魂はボ・タに飛ばされてたから、
今までは喰われることはなかったそうだが───」
藍田 「ボ・タって……モンスターユニオンでの戦いでコナゴナになったアレだよな」
丘野 「……じゃあ、受け皿が無くなった今、モンスターの血肉も───」
ヤツが喰らっている、と。
誰も答えはしなかったが、そういうことなのだろう。
改めて、禍々しい姿を見て気づけることがある。
以前よりも一回り大きくなっている、という確信。
身体を包むボロボロのマントのようなものが風に揺れるたび、
その下に存在する死者の成りの果てがゾワゾワと蠢くのが見える。
何処かで何かが死ぬ度に、あの蠢きが増えてゆく。
あの中には俺が斬り殺したモンスターや兵士たちの血肉も混ざっているのだ。
そう考えると、思わず嘔吐してしまいそうになる自分が居た。
中井出「ぐ……」
彰衛門「エチケット袋ならここに」
中井出「雰囲気読もうねマジで!!」
彰衛門「馬鹿野郎!読んだからこうして用意してやってんじゃねーか!!
ほれ吐け!吐いて楽になっちまえ!カツ丼あげるから!」
言いながら、ドチャリと黒で象られたカツ丼を差し出された。
……何処までも、どんな状況でも愉快なヤツだ。
けど今はそんな奔放さに救われた。
うだうだビビってても仕方ない。
このままじゃ、浮けはするけど動けはしないここが、あいつに破壊されちまう。
……守りたい、なんて思ってるわけじゃない。
自分の力があれば守れるものがあるなんて、
そんなことを考えられるほど俺は人として強くない。
思ってることは“助かってほしい”とか、
“助かってもいいだろう”なんていう希望的なことばっかりだ。
俺の力はなにかを守るためにあるんじゃなく、自分が自分としてあるためだけにある。
武器がなければなにも出来ないちっぽけな俺だ、
そういう風にしか捉えられないのはある意味で当然だ。
けど───こんな大事な瞬間に、
敵わないからって逃げ出すような自分にだけはなりたくない。
やらないで後悔するとかやって後悔するなんてことはどうでもいい。
ただ俺はその場その場で自分がこうしたいと思うことだけをする───ただそれだけだ!!
中井出「各員に通達!これより宙を舞う災厄の二つ名を持つヤツを撃退する!!」
総員 『なんだってぇえーーーーーっ!!?』
想いを口にした途端に全員に驚かれた。
……構うもんか、来てくれるヤツだけが来てくれればいい。
誰も来ないなら、何回死のうが俺だけでもやってやる。
いつもいつも決まるのが遅い覚悟だけど、今はもう胸の中で確かに息づいている。
怖さなんて知りやしない。
まだ、身体は無様にも震えているが、だからどうしたって気持ちを持って走り出した。
───ドグシャア!!
中井出「あべし!」
───途端、震える足がもつれて転倒。
どこまでも格好つかない自分に、いっそ泣きたくなった。
悠介 「……はぁ。無茶を好むのは相変わらずだって納得するけど……うん。お前らしい」
彰衛門「そんじゃ、いっちょ撃退してみますかい。なんだったらコロがす方向で」
藍田 「ほら、手。足震えてるのに走るからそんなことになるんだよ」
丘野 「まったく提督殿はそそっかしいでござるなぁ。
はっはっは、困った時はお互い様と言うでござろう?
手を貸してほしい時は遠慮なく言うべきでござる」
言ったのになんだってーって言うだけでろくに返事もくれなかったじゃないか。
って言ったら怒られるでしょうか。
ともあれ、藍田が差し出した手を掴んで立ち上がると、
改めて木々の先の物体───デスゲイズを見やった。
まるで自分以外の浮遊物を許さないといった風情を以って、
この要塞に体当たりを続けている巨大な躯だ。
彰衛門「お?なに見てンのギャアーーーーーーッ!!!デ、デケェエーーーーーッ!!!」
俺の目線を追った彰衛門がデスゲイズを確認、絶叫。
……それがマズかったと言えばマズかったのだろう。
声 『ゲキャァアアアグァァオオオオッ!!!!』
この世のものとは思えない声をあげ、
とうとう……と言うべきか、デスゲイズが俺達を見据えた。
これで、逃げ道はなくなったのだ。
今回ばかりはもともと逃げる気などなかったが……
泣きたくなる現状はきっとウソじゃなかった。
彰衛門「ヤベェエエエエッ!!デケェ声出しすぎ───」
悠介 「言ってる場合か!デスゲイズっていったらアレだろうが!」
中井出「急ぐぞ!砲台広場だ!全部逸らすか破壊しろ!!」
遥一郎「くそっ!なんで急にこんなことに……!!」
言うより早く全員で駆け出した。
飛んだ方が速いヤツは飛び、ショートカットできる場所は跳躍してでも登り、
一刻も速くと上へ上へ登り続ける。
中井出「そうだ彰衛門!お前は最寄の町に行って神父連れてきてくれ!
この戦いはなにがなんでも勝たなければならん!
死んでもすぐに復活できるように、ここに神父を設置しよう!」
ルナ 「設置って……モノなの?神父って」
悠介 「そう認識したくなる気持ちは俺にも解るけど言ってる場合じゃないだよ!
ルナ!神父のことは彰利に任せて上だ!篠瀬も悠黄奈も急いでくれ!」
夜華 「う、い、いえわたしは彰衛門と───」
悠介 「お前に転移が出来るなら話は別だ!出来るか!?出来ないな!?よし来い!!」
夜華 「ゆ、悠介殿!最近なにかと強引になったのでは……!?」
悠介 「だから!言う暇があったら走れ!」
中井出「あ、スマン、やっぱいいわ。考えてみりゃここに一応神父居た」
悠介 「こういう時に頭の悪いこと言うなたわけっ!!」
中井出「な、なんだよー!忘れてたんだからしょうがないだろー!?」
さすがの晦も相当に焦っている。
全力で頂上に向けて走る中でも、
篠瀬さんやルナさんに向けて簡潔に言葉を放っては、勢いを緩めることなく走っている。
悠黄奈さんには俺達が焦る理由が解っているんだろう。
俺達と同じく焦った表情で、ともすれば我先にと競うように走っている。
地盤が樹木なのだ、当然階段らしい階段もなければ、梯子があるわけでもない。
斜面を駆け上がるようにして上を目指すか、空を飛ぶ以外に上に昇る方法がないのだ。
ならば走るしかない。
あの恐ろしい、開幕メテオがこの要塞を潰してしまう前に。
悠黄奈「広場に出ると同時に氷の膜を張ります!
出来るだけ層を増やしますが、防ぎ切れる可能性はほぼゼロです!
勢いを緩めることしか出来ません!ですから───」
悠介 「解ってる!氷の膜を破壊してきたメテオを弾き逸らせっていうんだろ!?
そっちのことは全力でバックアップするから任せろ!」
中井出「うむ!俺と藍田と丘野くんとで弱まったメテオは出来る限り弾いてみせよう!」
藍田 「よっしゃあ腕が鳴るぜ!!」
丘野 「では少しでも多くに届くように───生分身&分身!!」
遥一郎「じゃあ俺は昏黄の氷の前に、外側に向けて回転する風の渦を巻き起こす!」
夜華 「わたしはその風を強化しよう。この刀があれば可能な筈だ」
それぞれが思い思いに自分のするべきことを口にすることで、
この場ですべき全力を確認する。
他のことなど一切無視し、自分がすると言ったことのみに全力を注ぐ。
今のはそういう意味を込めた言葉だ。
互いにするべきことを確認しつつ、それでも走る足は緩めずに力を込めてゆく。
ナギーもシードも己がすべきことなど口に出すまでもなく解っているのだろう。
やがて見えてきた砲台広場に辿り着くや、互いに距離を取って座禅を組むと、
ナギーは然の力を以って要塞の強化を、
シードは魔の力を以ってデスゲイズの力の弱体を、それぞれ開始した。
同じ属性の力を持っているであろうシードの力だ、相殺とまではいかなくても、
メテオの勢いを殺すことくらいは出来るだろう。
中井出「ナギー!強化しながらでいい!広場の天井の樹木をどかしてくれ!
シード!相殺できなくったっていい!貴様のありったけをぶつけてやれ!」
シードの力はナーヴェルブラング譲りの不死側の力。
ジュノーンに吸収されるほどだ、それは間違いないだろう。
そしてデスゲイズも疑う必要がないくらいに不死側だ。
吸収なんて器用なことはできないだろうが、
同じ属性の力をぶつけることで勢いを殺すくらいは、という作戦だ。……多分。
勢いが多少弱まったメテオなら、悠黄奈さんの氷と、
篠瀬さんに強化されたホギーの風に守られたのち、
ナギーによって強化された樹木に当たってもそうダメージは出ないだろう。
ようするに───あとは俺達次第ってことだ。
霊章から武器を取り出して、開いてゆく天井を目にして大きく深呼吸をした。
他のやつらも一緒だ。
緊張するな、恐怖するなって注文は無茶の域だ。
ザワザワ……ギチ、ギチチ……!!
砲台広場の虚空を覆っていた樹木が少しずつ移動し、
やがて俺達に蒼空と絶望を見せ付ける。
絶望の名はデスゲイズ。
その巨体をあますことなく見せ付けるとともに、
悲鳴のような咆哮を吐いて───遙か彼方の空から幾つもの隕石を降らしてきた!!
中井出「ぬっ……オォオオオオオオオッ!!!いくぞ野郎どもぉおおおおっ!!」
総員 『今すぐ帰りてぇえーーーーーっ!!』
中井出「俺も帰りてぇえーーーーーーっ!!」
こうして───悲鳴のような咆哮に対し、
悲鳴でしかない本音をぶちまけるとともに俺達の戦いは始まった。
【ケース509:───/躯骸王()撃退作戦】
喩えるなら空を飛ぶ山。
馬鹿げた大きさのソレは宙を舞い、遙かに小さい生き物を見下ろしている。
デスゲイズ『グルゥウォェエァアアアッ!!!』
言葉として成り立たない咆哮は人の断末魔のように聞こえ、
今まで戦ってきたどの生き物とも似つかない、見上げる者たちに恐怖を植えつける。
遥一郎「Es rezitiert!! Drehen Sie sich bitte von uns Boser,
der sich auf uns sturzt, hinunter!!」
だが見上げる者たちも黙ってやられるわけではない。
迫り来る隕石を前にそれぞれがそれぞれ唱えた己のすべきことを実行し、
全力を以って抗わんと力を振り絞ってゆく。
遥一郎「弾き飛ばせ!“エアリアルリフレクター”!!」
遥一郎が虚空に高速回転する風の渦を作り、
夜華 「躍動しろ!“翔風斬魔刀()”!!」
夜華が振るう風の刀が渦巻く風にさらなる風を送り込み、
悠黄奈 「フェンリル!」
フェンリル『フゥウォオオオオオーーーーーゥウン!!!』
悠黄奈 「いきます!“氷画壁牢陣”()!!」
悠黄奈が、召喚したフェンリルとともに風の渦の後方に分厚い氷の壁を精製、
一枚だけでなく幾層も連ねてゆく。
ルナ 『“鎌解”()───封天円月鎌()』
それを確認するや、それぞれが頷くとともにアビリティなどを解放し、準備を整えてゆく。
悠介が未だ世界創造を行使出来ないため、能力が制限されているルナは鎌だけを強化。
世界無しで出せる全力を、自分の意思で引き出して構えていた。
中井出「武器はしっかり二刀流!!エネルギー───全開ぃいいいいっ!!!!」
藍田 「武装錬金!ヴィクタースキル全力解放!!エナジードレイン全開!!』
丘野 「………」
中井出がジークムント、ジークリンデを片手ずつに力を解放し、
藍田がヴィクター化を実行して具足を装着し───だが。
そうしてそれぞれが力を解放する中で、丘野だけが押し黙ったままに立ち尽くしていた。
当然、焦りを感じながらも不思議に思った彼らは丘野を見る。
と、視線を感じたのか丁度そうしようと思ったのか、
丘野は小さく息を吐いてから頭の中で渦を巻いていた思いを口にした。
丘野 「……老婆から買った忍術書の中に、
“禁術・八門遁甲”っていうのがあったでござる……」
総員 『グルービー!!』
が、口に出された言葉でそれがどんな能力を秘めているのかを一瞬にして理解した彼らは、
何よりもまず親指を立ててそう叫んでいた。
丘野 「忍術も武器も使えなくなるんでござるよ!?
や、もちろん使おうと思えば武器は使えるでござるが!
体術武器以外のスキルが1になるって書いてあるでござる!
忍術は一切使用不可能になるでござるよ!?」
総員 『グルービー!!』
聞いちゃいなかった。
否、聞いた上で親指を立てて叫んでいた。
それも全員だ、救いなど一切ない。
珍しく夜華も、……と言いたいところだが、彰衛門に釣られてやっただけのようだ。
今は顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
丘野 「せっかく手に入れてここまで育てた龍刀【朧火】と虎刀【鵬炎】が無駄に───」
総員 『グルービー!!』
丘野 「分身の術も使えなくなるんでござるよ!?」
中井出「構わーーーん!!俺が許す!!」
丘野 「!……アハッ……ハハハハッ───
なんて真似してみたけど不安でしょうがねぇーーーっ!!」
叫ぶ丘野だが、手には既に禁術書が握られていた。
先の苦労を考えるよりも今の面白さを。
それが、彼らの心に宿る……無駄に自殺行為めいた行動原理なのだ。
丘野 「アイテム使用!八門遁甲!───…………完読!!」
そして自ら体術のみに生きることを、このフェルダールに誓った猛者がここに一人。
体術のスペシャリストの恩恵を受けた彼のナビのログには、
やれ体術以外のスキルが1になっただの、
体術武器以外の全ての能力が使用不可能になっただの、
膨大な量の悲しいお知らせが流れ続けていた。
その際、彼の瞳に雫があふれ出したのを誰もが見逃さなかったが、
見なかったことにしたという。
丘野本人はといえば、
使い物にならなくなってしまった忍者刀をバックパックに仕舞い込むや、
仕込み鎖分銅を腕に巻きつけると、降り注ぐ隕石を前に構えなおした。
彰衛門「よっしゃあ仕上げは俺と悠介に任せれ!“影鎌繰り殺ぐ闇黒の秩序()”!!』
悠介 「なにをしろって言うのかは訊かないでおく!“雷世眩き白光の秩序()”!!』
灼岩の雨は間も無く降り注ぐだろう。
声を張り上げずに黙っていれば、
誰かの息を飲む音くらい聞こえてきそうなくらいの緊張がそこにはあった。
───それがギリギリだ。
次の瞬間には風の渦を突き破り、
氷壁を破壊して落ちてきた隕石が彼らと自然要塞を襲う───!
彰衛門『間に合え───!“ブラックホール”!!』
だがそれに一番に反応したのは黒の死神王だった。
いや、準備していた行動が間に合ったと言うべきだろう。
黒を躍動させ、確実に要塞の中心を穿つであろう隕石のみを黒の渦で飲み込むと、
離れた場所に移動していた親友を見やって頷いて見せた。
悠介 『返すぞくそったれ!“ホワイトホール”!!』
次いで行動したのは白の神だ。
デスゲイズが浮いているさらに上空に白の渦を出現させ、
黒が吸い込んだ隕石を解放してみせたのだ。
当然落下すべき場所への軌道に居るデスゲイズへと、
発射という言葉が似つかわしい速度で落下。
不意打ち一閃、反応出来なかった……もしくは反応する気もなかったデスゲイズの体を、
隕石群が貫いてゆく。
中井出「うおっ!?すげぇ威力だ!貫通力ありすぎじゃ───あ、あれ?」
躯の身体を貫く隕石。
まるで腐ったものに石を投げつけるような気色の悪い音が高鳴り、
その場に居た者の身の毛を弥立たせる───だけでは済まなかった。
貫いた隕石の一つがとある男性目掛けて一直線に落下。
男性は突然のことに数瞬混乱したが、すぐさま双剣を構えるとドグォシャア!!
間も無く潰れたという。
彰衛門『なっ……中井出ぇええーーーーーーーっ!!!』
悠介 『提督!?提督ゥウーーーーーーッ!!!』
塵となってゆく魔王を前に、その場は騒然となった。
緊張感などありはしない───しないのだが、
コォッ───ザンガガガガガガガガザバシャアッ!!!
悠介 『ぐあぁあああっ!!?』
夜華 「がっ!ぐっ……!うぁあああっ!!」
そんな状況を待っててくれるほどまともな意志を持った相手はここにはいなかった。
再び空から舞い降りる雨は隕石ではなく、巨大な躯から放たれた正体不明の骨だった。
ところどころがボロボロに砕けたものや、折れて大きくささくれ立った巨大な骨、
鋭く尖った骨や爪などが、逃げる場所もないくらいに降ってきたのだ。
それは、一瞬訪れた馬鹿げた雰囲気を払拭し、
殺してしまうには十分なダメージを彼らに残す。
そうなれば意識の切り替えなど早いものだ。
命がかかっている。
生き物は自己防衛のためにこそ潜在能力を働かせるものだ。
悠介 『ちぃっ!油断したっ……!光になれば避けられた筈なのにっ……!』
彰衛門『ほれ夜華さん!グミ食いなさい!』
夜華 「っ……す、すまない……」
はぁ、と息を吐いたのちに顔を上げた彼らの目に、もう甘ったるさはなかった。
ダメージを受けた者はすぐにグミを口にし、
死んだ中井出は再び大木を駆け、再びこの場に立っていた。
中井出「気をつけろヒヨッ子ども!あの隕石……一撃必殺能力がある!」
総員 『………』
そんなものは彼よりレベルが低い彼らから見れば一目瞭然の事実だった。
だが何も語るまいと彼らは口をつぐんだ。
当然の結果だとしても、それは彼が命懸けで理解した事実だからだ。
我らが提督を思えばこそ……なんて考えは微塵にもなく、ただ哀れんでいるだけだろう。
そんな無言の遣り取りを中井出を除いた者たちが視線で行う中、
とうとうデスゲイズが浮遊原理の解らない身体を、広い砲台広場の崖口に降ろす。
藍田 『やる気まんまんってことかよくそっ!穂岸レッツゴー!』
遥一郎「自分がまず突っ込むって気はないのかお前ら原中は!」
藍田 『贄を差し出して相手の出方を見るのは原中の常套手段!』
威張れることではないにしろ、叫びつつも突っ込んだのは藍田亮。
褐色の肌をした彼は姿勢を限界まで低くすると、
獣のように鋭く地を這うようにして、具足を地面に擦り合わせて疾駆する。
擦り合わせる理由は一つのみ───帯熱スキルをより高めるためだ。
藍田 『烈風脚───1ィッ!!』
地面に引きずるようにして駆けた具足に灼火が灯ると同時に、
グッと踏みしめた地面と藍田の具足の間に集束してゆくような風が出現し、
地面を蹴り弾くと同時に、
まるでバネにでもなったかのように藍田の身体を前方へと一気に移動させた。
藍田 『決める!羊肉───』
デスゲイズ『ヴェギィイイルァアアアォオオッ!!!』
藍田 『いっ───!?』
だが。
その、途中では方向転換も着地も出来ない“一歩”が災いとなった。
待ち構えていたかのような咆哮と、
禍々しく開かれた口……と形容していいのかも解らない部分から放たれる波動。
赤と黒を混ぜた、地獄を連想させるソレは飛び掛った藍田を容易く飲み込み───
ジュガガボゴゴゴガガォオオンッ!!!!
藍田 「ぎあぁっ!?ガァアアアァァァ……ァ……ォオ……───!!!」
波動が消えた後には、……なにも残ってはいなかった。
彰衛門『うそだろ!?一撃かよ!』
悠介 『藍田ッ!───くそっ!彰利!いくぞ!』
彰衛門『言われるまでも───っ!?』
驚愕を露にしようが、恐怖に飲まれまいと疾駆した。
だがそんな二人の前に広がる光景は、
圧しこめようとした恐怖を浮上させるには十分なものだった。
膨れ上がる死骸、蠢く亡者の成れの果て。
躍動する身体という身体から漏れ続ける断末魔の悲鳴が、
駆ける筈だった疾駆を歩に変えてしまったのだ。
───油断をしていたわけではない。
生物である以上、どんな状況でも自分を保てる者など居はしないのだ。
それは神や死神王に至った彼らでも変わりはない。
そして、そんな状況に陥った者は油断をするよりも一層の危機に曝されることとなる。
悠介 『はっ───なっ……んだ!?』
悠介が我に返ったのと、
躍動し、膨張し、破裂に至った蠢く躯が悠介と彰衛門に襲い掛かったのはほぼ同時だった。
人が腕立て伏せをするような格好で要塞に張り付いている躯が、
人ならば腕や胸、顔や手であろう部位から自らの血肉である死骸を飛ばしてきたのだ。
おぞましさを感じるのと同時に、
ただの肉塊ならばそうそうダメージは、などと考えたのがその数瞬。
だがいくら相手が死骸が密集した怪物だからとはいえ、知能が無いと言ったらウソになる。
悠介 『これくらいの攻撃なら───!くわっ!?』
ものともせずに駆け出そうとする足が止まる。
いや、止められた。
足首に違和感を感じて見下ろした自分の足に、悠介はさらに驚愕した。
ただ飛ばされ、落ちてゆく筈だった肉塊が、
蠢く死骸となって自らの足にしがみついているのだ。
それだけではない。
足を皮切りに、死骸どもはまるで死を前に狂ったように生を求める亡者の如く、
悠介の身体に纏わりつき始めた。
ルナ 『悠す───』
悠介 『来るな!巻き込まれる───!』
叫ぶ姿も亡者の波に消えてゆく。
胴も、腕も、首も、そして顔も。
抗うために放った雷も、払うように放った白の力も全てが全てごと飲み込まれてゆく。
ルナ 『なによこれっ……!ちょっと!悠介を放しなさい!』
即座に鎌を振るい、鎌から放たれる鎌閃で亡者の波を斬り裂くルナだが───
放った先から別の亡者が嫌な音を立てて張り付き、次々と悠介の身体を圧してゆき、
さらに衝突した先から亡者どもがじゅくじゅくと結合してゆき、
中に居る悠介の身体を締め上げてゆく───!
夜華 「悠介殿!今助けます!」
のちに待つのは圧殺か窒息死。
そうはさせまいと女性陣が駆け出そうとするが、それを中井出が止めに入った。
夜華 「なにをする貴様!邪魔をするなら───!」
中井出「それは否だ篠瀬さん!この状況で自分以外を心配するべからず!
ここは効率を考えて戦うのだ!というわけでホギー!」
遥一郎「断罪の剣よ、七光の輝きを持ちて降り注げ。“プリズムソード”!!」
中井出が夜華を制した数秒後、
遥一郎は既に開始していた詠唱を唱え終えると魔法陣を弾けさせ、
虚空に霧散した魔力がこの場に幾つもの光の剣を降らせてゆく。
ルナ 『なにこれ……光の剣?』
中井出「どうせやるなら攻防一体!攻撃と救出を同時にした方が遙かにステキ!」
俺にそんな器用なことはできねーけど、と続ける中井出の言葉は正しかった。
空から降る光の剣は狙いすましたかのように悠介を包む亡者どもを殲滅し、
それだけではなくデスゲイズにも降り注ぎ、蠢く躯の身体を幾度も幾度も突き刺してゆく。
攻撃と救出が同時に出来るなら、これほど効率のいい話はないだろう。
事実悠介も肉塊から解放され、
しかしダメージを負わないわけもなく、その場に片膝をついて荒く息を吐く。
飛び散る肉塊が地面に落ちるたびに悲鳴を上げ、
動かなくなってゆく姿に中井出や丘野が吐きそうになるのを耐える。
だが戦闘意欲が消えたわけではない。
中井出「ぐぶっ……くそ!このままでいられっかぁああああっ!!」
丘野 「第一の門!開門()───“開”()!!」
それぞれが武器を手に、一度顔を見合わせたのちに頷き、疾駆。
中井出は作戦もなにも考えずに正面から突っ走り、
丘野は開門を開くことで爆発的に向上した身体能力を以って、
右方から円を描くようにして疾駆する。
だが当然、やられるまで待つ生き物など居はしない。
巨大な躯は七光の剣によって切り落とされた部位をぐじゅりぐじゅりと再生させると、
そこから再び亡者を飛ばしてくる。
中井出「燃え盛れ!“ヒノカグツチ”!」
丘野 『遅い!』
中井出はそれを己を守る炎で、燃やすと同時にボマースキルで爆砕。
丘野は向上した超筋力を以って強引に回避。
勢いを殺すことさえしないまま、一気にデスゲイズへと攻撃に移る───!
中井出「黄竜剣&楼観剣───奥義!十連()ッ!黄華斬()ッ!!」
ヒュゴギシャゴババンガガガォオオンッ!!!!
デスゲイズ『ゲギャァアアアォオオオッ!!!』
下から掬い上げるような、腕を狙ったアッパーめいた一閃。
黄竜の力を込めた一撃は楼観のスキルで十閃となり、
一撃では微動だにするはずもない巨体を要塞から引き剥がし、僅かだが宙に浮かせた。
そこへ、超尺鎖分銅を外した丘野が巨体を追うようにして跳躍。
てんで長さが足りない鎖分銅を、せめてとデスゲイズの腕に巻きつけ、
捉えると同時に回転を込めて落下してゆく。
丘野 『終わりです!“表蓮華”()!!』
八門遁甲・一の奥義、表蓮華だ。
開門を開くことで筋力を限界まで向上させ、蹴りこみ、浮かせた相手を包帯や鎖で捉え、
頭から落とす体術奥義……それが表蓮華。
だが───
遥一郎「ばっ……そんな巨体を投げるなんて出来るわけないだろーーーっ!!」
そう、相手があまりにも巨大すぎて、通常ならば投げられるはずもない。
回転を加えたところで回転するかという疑問が産まれたのなら、
間違い無く回転は不可能だ。
……そう、通常では。
丘野 『無理、不可能───そんな言葉は知りません!
青春はァアアアッ……!ばぁああくはつだぁあああああっ!!!』
ギ……グリィッ!グリィッ!グリィッ!!
遥一郎「んなっ───!?」
身を捻り、さらに捻り───強引に、僅かながらでも遠心力を込めてゆく。
所詮僅か。されど僅か。
筋力向上状態のうえ、
STRをマックスにした状態での回転は僅かを少しずつ確かな力とし、
やがては高速回転へといざなってゆく!
中井出「よし!───いいぞ!弦月一等兵!」
彰衛門『なんだバレてたの!?つーか俺彰衛門ね!弓彰衛門!』
高速回転を確認した中井出が虚空を見上げて叫ぶ。
そこには亡者が放たれた時から姿が見えなかった彰衛門が浮いており、
背中に出現した17枚の黒翼が大気から力を吸い上げるようにして輝いていた。
だがその黒い輝きも翼とともに背中へと埋没し───
いつしかそれは、突き出された双掌へと移動していた。
なにが狙いか、などということを疑問に思う必要などない。
突き出された手は回転するデスゲイズを捉えているのだから。
“宙を舞う災厄”の二つ名の通り、デスゲイズは浮遊生物だ。
いくら回転を加えたところで、
デスゲイズ自身が浮遊をやめない限りは落下することなど有り得ない。
故に───
彰衛門『そのまま潰れて死んじまえ!
ビッグバンッ……!かめはめ波ァアアーーーーーーーーッ!!!』
ギガァアガガガチュゥウウウウンッ!!!!
故に、落下するための力が必要なのだ。
そしてその重力代わりの力は、亡者の肉塊を転移で避けて以降、
ずっと黒翼を解放して力を溜めていた彰衛門に委ねられた。
丘野 『もう一度言いますよ!これで終わりです!
この波動に乗って、僕は貴方を仕留め───あ、あれ?
ちょっ……威力が強すぎギャオアァアーーーーーッ!!!!』
だが加減というものを知らない男にそんなものを任せるべきではないのだ。
圧倒的な力によって滅ぼされてゆく体術のみになってしまった忍者の体。
だが、それでも発動させれば最後まで。
回転を緩めぬまま、HPの続く限りは離さない覚悟で地面を目指した。
丘野 『ガ……ガガ……!』
だが───届かない。
無情にもHPの残りは雀の涙ほどにまで近づいていた。
30秒もしないうちに消滅が決定していることなど本人が一番知っているだろう。
彰衛門『……俺達は忘れない。丘野くん……貴様のような男が居た───へ?』
故に開いた。第二の門……体力を無理矢理向上させる、休門を。
途端に丘野のHPが完全回復し、次いで回転力がさらにさらにと向上してゆく!
丘野 『第三、第四、第五の門、開!!』
彰衛門『ゲゲェ一気にそこまで!?や、やめれぇっ!!身体がズタズタになりますよ!?』
第三の門を開けた時点で、丘野の顔が変貌する。
変化なんて言葉では足りないくらいの、文字通りの変貌。
目が白目になり、顔が真っ赤になり、第四、第五までに至ると血管が浮き出てきた。
身体の限界などとうに越している。
だがそれでも力の解放をやめず───否、
丘野自身がどこまでいけるかを試しているような、挑戦めいた覚悟がそこにはあった。
丘野 『第ッ……六の門……!景門……開!』
さらに開門。
八門遁甲・六の門までを開放し、丘野はそこでデスゲイズを離した。
しかしフルブレイクカタストロファーに飲まれたまま、
離しはしたが密着して距離をとろうとはしなかった。
丘野 『この命尽きるまで戦います!たとえ尽きたとしてもそれは己の忍道を貫く故!
そうですよね!ガイ先生!《テコーン!》』
チラリと見せた歯が輝いていた。
立てた親指も実にグルービーだったが、
フルブレイクにHPを削られ続けている中でやることではないだろうと誰もが思った。
丘野 『覚ッ……悟ォオオオオオオッ!!!』
誰もが暑苦しいヤツだと思う中で、構えた丘野の両手に炎が点る。
体内でリミッターが解除されたチャクラがそうさせるのか、
拳にやどる熱き思いがそうさせるのか。
理由はどうあれ、アンデッドが苦手としている炎を拳に宿したまま、
落下しながらデスゲイズの身体───左腕の付け根に狙いを定め、高速で殴りつけてゆく!
丘野 『はぁあああああっ!!!』
ドガガンドガンガンガガッガガァッ!!
殴るたびに身体を構築している死骸や亡者が飛び散り霧散する。
その上からさらにさらにと火花を散らす高速の連撃が連ねられ、
高速再生をさせる余裕も与えないまま、今───
丘野 『でぇえええやぁああああっ!!!』
ドッバァアンッ!!!
幾度も殴り、削り、地面が目の前に迫った頃。
渾身を込めて放たれた掌底が、ついには巨大な躯の左腕を吹き飛ばした!
彰衛門『う、おおぉっ!?すげぇやりやがった!』
当然、彰衛門が放ったフルブレイクの力もあっただろう。
だが極限に近い状態まで高められた身体能力は、レベル倍化などの能力を単純に上回り、
再生速度を上回る速さで亡者で構築された腕を切断、破壊に導いた───直後、
ギシャヴァボォオッガガガォオオオンッ!!!
デスゲイズを巻き込んだまま地面に衝突したフルブレイクの黒い光が、
大爆発を起こしたのちにドーム状の巨大な黒い半球を発生させる。
斜に放たれたフルブレイクは要塞より離れた位置に落下したが、
だというのに要塞には地震にでも襲われたかのような衝撃が徹った。
中井出「グ、グウウ〜〜〜ッ!!た、立ってられ〜〜〜ん!!」
遥一郎「この状況でよくもまあふざけた口調で喋れるな!」
中井出「どんな時でも楽しむことを忘れない……こんにちは、中井出博光です」
遥一郎「自己紹介されるまでもないっ!生きてるぞ、あいつ!」
中井出「もちろんだ!アレくらいで死んでくれるなら恐怖など感じぬわ!」
故に、と中井出は駆け出す。
そこに追いついた藍田も、状況を察すると一緒に走り出した。
中井出「おお!大事ないか藍田二等!」
藍田 「イェッサー!死んで蘇れば至って健康!
それよりデスゲイズの野郎を落としたんでありますな!?」
中井出「うむ!やるべきことは解っているな!?」
藍田 「イェッサー!俺達は降りて戦って、
ナギ助と種坊主、それと亜人族全員にこの要塞ごと逃げてもらうんだろ!?」
中井出「うむ!その通りだ!つーわけで戦える者はレッツハバナーウ!!
なによりもまずすべきことは亜人族と要塞を守ることである!
迎え撃つぞ戦士たち!宝玉を集めれば超移動要塞になるという、
そんな面白いものを壊されるわけにはいかーーん!!」
彰衛門『オウヨー!……と言いたいところなんだけど、
さっきのビッグバンかめはめ波の爆発で丘野くんが昇天しちゃったんだけど』
中井出「このクズ野郎!」
藍田 「最低だなてめぇ!この味方殺しが!」
彰衛門『うおおいきなり矛先が俺に!?いいからとっとと降りなさいよキミたち!』
走らせていた足を止めてまで罵倒した彼らは、彰衛門の言葉にハッとして再び走り出す。
いちいちその場その場を全力で生きているため、
罵倒する時は罵倒のみに魂を費やすので、やられるほうはたまったものではないだろう。
彰衛門『ホレ夜華さんもルナっちも悠黄奈さんも!レディーなんたらはどうでもいい!
戦えるなら戦いなさい!我らの中で男女差別など一切無し!』
中井出「戦場では誰もがソルジャーよ!甘えることなど許されん!
殺せる時に殺さねば己が死ぬと理解せよ!
女だから殺されないなどという考えは今すぐ捨てろ!
そんなクソジャリはこの博光こそが抹殺してくれるわ!ターミネイト!」
藍田 「おお!叩くとかそういうのを素っ飛ばして抹殺とは!
すげぇや!さっすが天下の中井出さんだ!」
彰衛門『ゴクリ。女相手でもクソジャリ扱いとは……中井出博光……恐ろしい男よ』
中井出「いや……わざわざ口でゴクリって言わんでも……ほら、いいから飛び降りようよ」
飛び降りずに砲台広場の崖っぷちでギャアギャアと騒ぎ合うのもそこそこに、
中井出、彰衛門、藍田、夜華は早々に広場から飛び降りた。
ルナと悠黄奈はHPを消耗し、
亡者どもの毒にやられたらしく動けなくなっていた悠介の介抱を。
遥一郎は解毒と回復をするためにその場に残っていた。
コォッ───ダンッ!!
やがてそれぞれが夜華が発生させた風に乗りつつ地面に降り立つと、
休むこともなくデスゲイズへと駆け出した。
中井出「晦は!?」
彰衛門『亡者どもに埋め尽くされた時に毒受けたみてぇだ!
今ホギーとルナっちと悠黄奈さんが治療にあたってる!』
藍田 「丘野は!?」
中井出「彰衛門が殺した!」
藍田 「このクズが!」
彰衛門『さっき既に味方殺し扱いしたでしょうが!
解ってて言ってんじゃねィェーーーッ!!』
夜華 「言っている場合じゃないぞ彰衛門!やつが動き出す!」
彰衛門『だってよぅこいつらがよぅ!』
中井出「オラさっさと構えろ羅武てめぇ!
ただでさえフルブレイク使った所為で力使い果たしてんだから、
せめてカタチだけでも構えてみせろ羅武てめぇ!」
彰衛門『羅武言うなこの野郎!』
叫ぶ言葉を、恐怖の逃げ道として駆けてゆく。
大地に落ちた巨体は、空を見上げたよりもより大きく見え、
逆に自分たちがどれほど小さいのかを見せ付けているようだった。
故に産まれた恐怖を、ふざけ、叫び合うことで殺しながら駆けた。
中井出「で、どうするよ」
彰衛門『デスゲイズっつったって所詮は亡者どもの塊だろ?
聖や光、火にゃ弱いと見た。逆に言やぁ俺の黒や闇や影は逆効果だな。
だから役に立つのはもっぱら悠介やルナっちやホギー、
それと属性に頼らない強撃だけってことになる』
藍田 「晦は光、ライトくんは月、穂岸はいろいろな属性魔法か。
あ、でも俺火属性だぞ?なんとかいけるんじゃないか?」
夜華 「ならば目医者にでも行くのだな。
よく見ろ。腕はもげているが、出血などは一切ない。
やつの身体が死骸や魂で出来ているのだとしたら、
どこが削げようが髪の毛一本が落ちただけにすぎないだろう」
彰衛門『え……マジ?』
夜華 「何処に目をつけているんだ彰衛門っ!あれはむしろ貴様に近い能力だろうっ!
貴様の黒が、何処を斬り落とされても痛いだけで再生できるように、
やつの身体もそういったもので出来ているんだ!
黒と亡者の違いだけだ!少しは相手の能力を把握する努力をしろ!」
彰衛門『なんとまあ……マジすか?』
とぼけた声が緊張感を無くした。
だがそうはいっていられない状況は目前に迫っているのだ。
まず中井出と藍田がそれぞれ左右に割れ、
フェンリルに乗った悠黄奈が虚空を駆り、上空から。
話しながら走っていた彰衛門と夜華が真正面からというかたちで接近を続ける。
作戦なんてものは結局ないだろう。
だがいつでも話は通せるようにと、ナビの通信はONにしておいた。
中井出「紅蓮に元素!蒼碧に光!連ねて一つの力と成す!
エネルギィイイッ!全ッ開ィイイイイイイッ!!」
最初に攻撃に移ったのは中井出だ。
双剣にそれぞれ光と元素を込め、長剣化させるとともに義聖剣を発動。
元素の力で光属性を極限まで高め、烈風脚の速度と光の力の恩恵からくる速度を合わせ、
中井出「ジュースティングッ!クラッシャァアアアーーーーーーッ!!!」
超速度とともに跳躍し、宙を駆る。
構える武器は紅蓮蒼碧の巨大剣だが、それもギミックによって巨大槍と化していた。
ジークフリードは巨大剣の名が示す通り、刃の部分が異様に長い。
それはいわゆるロングソードでいう90センチほどでは収まらず、
さらにさらにと長いシロモノだ。
双剣に変化させるとその長さも半分近くになるものだが、
だからといって短いわけでもない。
ジークフリード自身も中井出が振るう場合にのみ本領を発揮し、
重そうな外見とは裏腹に軽く振るわれ、その反動に身体がもっていかれることは稀だ。
それは確実に持ち主の体捌きが影響するものであって、武器に一切の問題はない。
そういった意味では槍というカタチは理想的だ。
突くという単純軌道という利点を以って、反動で身体を持っていかれることがまずない。
さらに直線攻撃ばかりで技術が無い彼にとっては、
突撃槍()という武器は剣よりも勝手がいいと言える。
藍田 『ヴィクター化発動!今度はヘタは撃たねぇぞ!仔牛肉()ショットォッ!!』
一方の藍田は烈風脚は使わず、デスゲイズの地面に密着している部位へと疾駆。
一歩ずつ熱を発する黒戦激足装が次第に赤灼に変わり、
目で確認出来るほどに熱を帯び、具足の周囲は熱に歪み、地面さえも焦がしてゆく。
夜華 「加減無しでいくぞ!《ドシュンッ!》紅葉刀閃流・嵐華の型!』
彰衛門『ウッシャシャシャシャシャシャ!ヤケクソになった俺は強ぇぜ〜〜〜っ!!』
そうした中で夜華が死神の力を解放、彰衛門はTP半分を使用し、再度九頭竜闘気を展開。
影から引きずり出したルナカオスを手に、身に宿る鎌の力を集束させてゆく。
彰衛門『蝕()し蠢け、“紅桜”()』
放った言葉とともに刀が躍動し、変異する。
刀と呼ぶにはあまりに太く、剣と呼ぶのは適当ではない片刃の刃物。
それが、デスゲイズを前に巨大化する。
人型の者の身体から構築されているとは思えないほど、巨大に、そして鋭く。
夜華 『なっ……なんだそれは!貴様、刀型の鎌などいつから───!』
彰衛門『ギャアほれ!アタイのことなんか気にせんでいいから!
奥義のための力、とっとと溜めなさい!“穿紅鱗-殺華-”使うんしょ!?
時間稼ぎはオイラたちがやっとくから、全力で溜めて全力でやりんさい!』
言うや否や、彰衛門は巨大な刀を巨体に向けて一気に振るう。
中井出「つぅうらぬけぇえええええっ!!」
そこに中井出の突撃槍での一撃と、
藍田 『炎は出ねーけど一応これも火葬ってことで!
お亡くなりになりやがれぇええっ!!』
藍田の赫足での攻撃が重なる。
武器が圧倒的に巨大な分、近づきすぎる必要もなく振るわれたソレは、
一切の迷いなくデスゲイズを縦に両断するためのもの。
その両脇から中井出と藍田が攻撃をしかけ、
仕留められないまでも怯ませることに目的があった。
───だが。
デスゲイズ『ギルゥウウルルルァアアォオオッ!!!』
突如としてデスゲイズの身体のあちらこちらに巨大な目が出現し、
各方向に居る敵───中井出らを凝視する。
藍田、彰衛門、夜華は嫌な予感に咄嗟に目を閉じたが───中井出だけはそうしなかった。
そう、ここで彼の“覚悟”が仇となった。
嫌な予感も無視し、攻撃に移る際は相手をよく見て、なんて思考が彼にはあったのだろう。
結果として目から放たれた禍々しい色の光を一身に浴び……
中井出「ガッ───ぎ……!?」
ガカァンッ……!《ディザスターの効果!能力の一部が封印された!》
亡者どもの呪いをたった一人で浴びた中井出は、
突き出した槍を当てられないままに失速、地面に落下して苦しみもがいた。
中井出「なっ……んだこりゃ……!身体がっ……───!?う、わ……!」
もがきながら地面を掻く自分の手を見た中井出は驚愕した。
自分の手……肘から指の先まで走っている霊章が、ジワジワと変色していっているからだ。
呪いのためか、黒かったソレは紫色に変わり、ハッとして拳に力を込めるが───
中井出「っ……冗談、だろ……?」
ファフニールとしての力は健在だ。
だが、霊章融合のお蔭で得られた全武器に全能力を通す力はなくなっていた。
彰衛門『どうした中井出!また腹か!?腹壊したのか!?
だからいつも言ってるだろォがァアア!!アイス食うのは控えろってェエエ!!』
中井出「なっ……何処まで馬鹿なんだテメェエエ!!
今はそんなことよりそのデケェ武器一気に振るえェエエ!!!」
彰衛門『ホホッ……シコルくん。───もうやっとる』
中井出「え?」
黒が躍動する。
右腕と結合し、右腕から巨大な刀が出ているように見えるソレが、
まるで紙細工の剣でも振るうかのように、
だがただ振るうのではなく黒から黒へと移動するように。
否、振るうという言葉は適切ではない。
事実、力によって武器を振るってなどいないのだ。
全身が黒で構築されている彼は、
紅桜と呼ばれた巨大刀を右腕から左腕へと高速移動させることで、
力を全く使わずに敵を切り刻んでゆく。
黒を操ることならば熟練のもの。
それは下手に力任せに振るうよりもよっぽど速く、
そして───武器の鋭さに意識を集中出来る行動だった。
彰衛門『我が黒操術は無敵!悠介ほどのイメージの正確さはねェザマスが、
それでも鋭利なれぇい!と意識すればするほど鋭さは増すのだ!
そして躯の王よ!貴様の身体はそう硬くねぇ!
ならば粉微塵になるまで切り刻んでやるのみよ!ウシャアーーーーッ!!』
言葉とともに影が地面を走ってゆく。
まるで突然地面に広げられた泉のように、彰衛門の足元を軸に一気に。
彰衛門『名付けよう……これこそアタイが四苦八苦しながら考えた俺の我流技。
その名も───“裏・冥府”()!』
元々そうすることが目的だったのか、
起き上がりだしたデスゲイズの下方の地面を完全に埋め尽くした黒が、
今度は端の方から盛り上がり、
デスゲイズの山のような巨体をドーム状に包み込もうとする。
だがそれよりも早くデスゲイズは浮遊を開始し、
包もうとする黒よりも早く空へと───
声 『“串焼き()ォオーーーッ”!!』
チュゴバジュガドバッガァアアアンッ!!
デスゲイズ『キギャァアォゥウァアアッ!!!』
───いや、飛び立つことなど許されなかった。
ただそうしたかったからそうしたのか、それとも行動を予測していたのか。
既に跳躍し、空から相手を串刺しにせんばかりに放たれた蹴りが、
浮遊し始めたデスゲイズを再び地面へと落下させた。
藍田 『今だやれトンガリーニョ!』
彰衛門『おお!謝謝!謝謝マッスルィーニョ!!』
コォッバズゥンッ!!
黒が一気に蠢き、天井部分を塞ぐと完全なドーム状の檻が完成する。
デスゲイズが見えなくなるほどの巨大ドームが。
声 『あ、あれ?おーい!?ちょっ……待て待て待て!!
俺!俺まで閉じ込めてるよ!?』
彰衛門『あ、ありゃ?OHシット!てめぇどうしてさっさと逃げ───』
中井出「くっ……デスゲイズめ!藍田の声色を使って我らを騙そうって魂胆か!」
声 『おおおい!?提督てめぇちょっとそりゃねぇだろ!』
彰衛門『な、なるほど!これは策略だったわけかこの卑怯者めが!』
ならば容赦せんと、腕から生やした紅桜を自らに沈める。
どうするか、という疑問など無意味だ。
相手を黒の檻に閉じ込めた以上、やることなど一つ。
この巨大な刀が黒を走るものならば、当然黒の半球の中でさえ縦横無尽に走るだろう。
つまりこの技の最大の利点はそこにある。
相手を閉じ込めるのももちろんだが───
彰衛門『奔れ!紅桜!』
地面を染める黒を伝い、泳ぐように奔る刃がドーム状の黒へと埋没。
次の瞬間には強引に肉を裂く音と、躯骸王の悲鳴とも咆哮とも呼べない声が聞こえた。
……そう、武器が黒を走るのなら、あの巨大な刀がドームの内側を走ったならどうなるか。
しかも操るままの速度を以って、力など入れずに黒として攻撃したのなら。
中の敵など無事でいられる筈もない。
属性云々以前にそれが“刃”であるのなら、切れない筈がないのだから。
声 『助けてぇえええええええっ!!!』
彰衛門『キャア!幻聴が聞こえるワ!きっとデスゲイズに張り付いた怨霊の声に違いねー!
くわばらくわらば桑原和馬!』
声 『ギィイイイイイイイッ!!!!』
同時に聞こえる悲痛な叫びはあっさりと無視された。
そうした中で、改めて力を溜めていた夜華に向け、彰衛門がニヤリと笑んでみせる。
彰衛門『───ほんじゃ、準備OK?』
夜華 『ああ……いつもでいい』
言うや、散々と切り刻んだと推測されるデスゲイズを解放。
黒のドームが砕け、霧が如く散り……やがて彰衛門の中に戻るより速く───
夜華 『嵐風よ!風の刀の力を以って存分に荒れ狂え!』
ドゴォンッ!!───風を身に纏い、死神の力とともに踏み出した一歩が大地を揺らし、
その歩みから放たれる風圧が大気さえ揺らす。
が、構えた場所は距離にしてみればあまりに離れすぎた位置だ。
ゼットとの戦いの際に出した技だと思い起こしてみれば、
技の特性からしてこの場はあまりにも適当でない。
接近し、風詠み最大の力で振るわれる一撃を当てるには遠すぎるのだ。
だが夜華はそんな場所で刀を居合いに構えている。
踏みしめた一歩は未だに風を巻き起こし、
まるで足から高い密度の風を発生させているかのように。
やがてその風が嵐のように吹き荒れる頃になると、
夜華は振り向かずに中井出へと言葉を投げた。
夜華 『そこの男!歩法を借りるぞ!』
中井出「え?俺?」
夜華 『紅葉刀閃流嵐華の極み───!!』
グッ───バガァォオンッ!!
踏み締め、蹴り弾いた地面が風によって爆裂する。
それと同時に夜華の身体は爆発的に前進し、デスゲイズとの距離を一気に縮めた。
そう、まるで烈風脚のように。
夜華 『“穿紅鱗()-殺華()-”!!』
デスゲイズと肉薄するのはそれこそ秒も要らなかった。
間合いに入るや振るわれた、鋭く荒れ狂う風を纏った翔風斬魔刀が、
身体からボタボタと亡者どもを落としながら浮遊してゆくデスゲイズを襲う。
ヒュフォゾガァッフィズバシャシャシャア!!
奔った軌跡はデスゲイズの右腕を切り裂き、後を追う荒れ狂う風がさらに切り刻み、
彰衛門の紅桜の無差別乱斬によって刻まれた部位が千切れかけ、やがて切り落とされる。
───直後、ブチャア、という気色の悪い音。
腐ったものが地面で崩れたという言葉が一番似合う、思わず吐き気を催す光景だった。
中井出「う、げっ……!すげぇ臭い……!」
彰衛門『ウヒョロヒョヒョ!まさしく臭ェけどいけるんじゃない!?
なんか思ってたより弱ぇよこいつ!開幕メテオだけだって怖いの!』
中井出「いや……俺もなんかそう思い始めてきてたけどさ。
でもバハムート喰ったって相手だぞ?それを───」
彰衛門『きっと伝承の伝え間違いかなんかしたのよ!
寿命間近で弱ってたバハムルを食べたとかそーゆーの!
故に俺はまさに今日この日に英雄になる!
ガァアトリングッ!カタストロファァアーーーッ!!!』
多少の反撃はするが、ほぼ一方的に攻撃をくらっていた宙を舞う災厄。
攻撃力は脅威だが、大して素早くもない存在に大して浮上した疑問を糧に、
彰衛門はここぞとばかりに力を放出した。
グミをエーテルで流し込み、TPを回復させながらの連続アルファレイド。
黒い閃光が幾重にもデスゲイズの身を穿ち、
亡者で埋め尽くされた躯が削られてゆくさまは、いっそ爽快ですらあった。
中井出「おおスゲースゲー!どんどん削られていってる!……ところで藍田は?」
彰衛門『紅桜での斬撃の中……僕のこの手に、というか黒に確かな手応えが!』
中井出「殺してんじゃねーかよそれ!」
彰衛門『ほっほっほ!だがこれで終わる!そろそろ悠介の毒も取り除けてる頃だろうし、
復活した藍田とかと一緒にこっちに来るさ!
ほれ、少しずつだけど確かに要塞も逃げてってるしね』
言いながら放たれる閃光の数は、秒にして四発。
一発だけでも十分に強力なものを、TPとアイテムが許すかぎりに放っていた。
躯の身体を破壊し、崩し、まるで彫刻でも削るように面積を減らしてゆく。
だが府に落ちないことが一つだけあるのを感じていた。
彰衛門(……?外側に行けば行くほど簡単に崩れるのに……中心だけはてんで───)
巨大な身体は撃てば撃つほど崩れていった。
だが、身体の中心を狙って撃つと、
決まって途中でアルファレイドが霧散していたのを彰衛門は感じていた。
他の部位ならば簡単に貫通さえする威力だ、弾かれて消えるなど、信じられないことだ。
しかし事実それは起こっており、放った先から火花のようなものを出しては、
反射した閃光は亡者とともに散り散り消え去っていた。
中井出「火花か?あれ。なんだって───つーか俺、カラクリが読めちゃったんだけど」
彰衛門『───み、皆まで言うでない!つーか俺も解っちゃった!
チィイなまじっかゲームとか知ってるとこういう時に悔しいなチクショウ!
おい中井出てめぇ!』
中井出「いきなりてめぇ呼ばわり!?なんの用だコノヤロー!」
彰衛門『俺多分死ぬだろうからあと任した!出来れば使いたくなかったけど───
覚悟、決めて逝くぜ!?』
中井出「逝くの!?」
中井出が困惑する中で、彰衛門が己の顔面を左手で覆うように隠す。
そして指の間から覗く目を真紅眼に変異させると、ある能力を深淵から引きずり出した。
彰衛門『デスモード……解放!』
解放されたのは死の宣告とも呼べるもの。
デスモード……タロットカードの死神が表す“13”の通り、
13秒のみダメージ無効状態を維持出来る能力で、
13秒が経過するうちに相手を仕留められなければ死亡、
仕留められればカウントがリセットされるという、
レベル2000に達した際に追加されたジョブアビリティである。
その間能力が使い放題だとかそういう特性は一切ないが、
代わりにどんな攻撃でも防ぎきる……それがデスモードという能力だ。
彰衛門『一秒たりとも無駄に出来ないから焦りすぎるのがなによりの欠点!
その所為で僕のスペシネフが何度死んだことか!
だが俺は違うぜ!?窮地はむしろドンとこいだ!』
言うより早く攻撃に移っていた彰衛門は、
身体に宿る鎌をこれでもかというほどに黒から出現させ、
それらをデスゲイズの中心より外側……つまり、
人で言うならば体皮の部分を削るように放ってゆき、
次々と死骸の塊を破壊し霧散させてゆく。
そこにどんな目的があるのか───それを、彰衛門と中井出だけが理解していた。
夜華は隙あらばと再び力を溜め、デスゲイズと彰衛門の動きに注意を払っていが───
その攻撃は恐らくもう通用しないということを、二人は予測出来ていた。
彰衛門『これで最後ッ───!滅災せし影黒の大鎌()!!』
故に出来ることなら災狩の鎌で屠れればと。
ディザスティングヴァニッシャーを強化した鎌を振るい、
今や初見の頃から5分の1程度まで小さくなった“宙を舞う災厄”を斬りつけた。
───刹那、飛び散る肉塊。
最後のソレが剥がれ吹き飛ぶと、そこには───亡者もなにもつけていない、
面積的には小さくはなったが、小さいと呼ぶにはあまりに大きい躯骸王の姿があった。
紫色をした骸骨。
ボロボロの布切れのみを纏った、骨の翼を持った宙を舞う躯。
身体が大きかったのは単純に人やモンスターの死骸が多かっただけのこと。
それらの耐久力などタカが知れているだろうが、
相手がバハムートを喰らった存在の本体ともなれば、その力は未知数だ。
中井出「グ、グウウ……!すげぇ殺気だ……!勝手に足が震えて動けねぇ……!
あ、彰衛門!なにか打開策は───」
彰衛門『フフフ……どうやら限界みてぇだ……《シャアア……サラサラ》』
中井出「ゲゲェ死んだァーーーーーッ!!!デスモードで見事に死んだァーーーッ!!」
夜華 『彰衛門!?ま、待て!消えるな!貴様に死なれたらわたしはどうすればっ!』
彰衛門『強くいきるのですよ夜華さん……。
わしはどうやらここまでのようじゃ……。
貴様と過ごした日々を……わしはきっと忘れんよ……』
夜華 『そ、それは嬉しいが───こんな時に貴様とはなんだ!』
中井出「や、それキミが言えた言葉じゃないから《ズビシ》」
中井出のツッコミがズビシと振るわれる。
しかし現状はそんなことをしている場合ではない。
紫色の気色の悪い骸骨が、ザワザワと躍動しながら中井出らを睨みつつ浮遊してゆく。
目がない存在に“睨む”という喩えは適当ではないが、
災厄の二つ名を持つ躯の頭蓋には、
顔を向けるだけでも睨んでいるという比喩が合っていた。
中井出「ギャッ……ヤヤ……!!」
そして、こちらを喩えるならば蛇に睨まれた蛙。
全身が冷や汗さえかくことも忘れ、ただただ行動を停止した。
辛うじて絞られた声は、肺の震えから漏れるものだった。───のだが。
夜華 『ぐっ……なんという殺気だ……!身体が……動かん……!!』
中井出「かはぁっ!?(訳:なにぃっ!?)」
その、夜華の何気ない一言で、彼の中で何かが変わった。
中井出「がっ!ごっ!ごっ……ゴォオオゥォオオオオオオッ!!!!」
強引に身体を動かしてゆく。
目を瞑り、恐怖を見ないようにして、震える身体を強引に。
思考の移動にはイメージを通し、“震えているのだから動けないわけではない”と意識。
やがて少しずつ動き出した身体を使い、
武器で己の身体を傷つけ、キツケとガブゥァッ!!
中井出「《ズキーーーン!!》いっでぇええええーーーーーーーっ!!!!」
……するわけではなく、なにを思ったのか自分で舌を噛み、
その激痛を以って身体に覚悟の芯を入れなおした。
中井出「っしゃああーーーっ!!俺がやる!!」
夜華 『───っ!?き、貴様っ……どうやって……!』
中井出「生憎このワシは……強ぇのよ」
夜華 『答えになっていないぞ!まったく……!彰衛門といい貴様といい……!
何故そうやってわたしの質問に正面から答えようとしないんだ!』
中井出「問答なんてやってる余裕あったら俺だってむしろ遊ぶさ!
とにかく気合い!考えてもみるんだ篠瀬さん!恐怖によって身体は震えている!
そう、震えている!つまり動いているんだ!それを糧に無理矢理に動かす!
あとは身体を傷つけてでもキツケ!これでOK!俺はOKだった!
え?問答する余裕がなかったんじゃなかったのかって?そんなことは知りません!
いつでも常識に挑戦する男……こんにちは、中井出博光でギャアーーーーッ!!」
口早に喋っていたにも関わらず、相手にしてみればそれは隙とも呼べる時間だった。
すっかり身軽になったデスゲイズが身体を宙に浮かせ、
拍子も無いままに飛翔してきたのだ。
中井出「ちくしょっ───ジークフリード!」
対して、通用するかも解らないままに剣を構えるは中井出。
能力の一部を封印され、霊章融合が解けてしまった現在、
ジークフリードの武器レベルも持ち主と同じものではなくなってしまっている。
それを言うならば、既に+2761まで鍛えられていた、
素のままのジークフリードの方が強いといえる。
だが篭手や具足へジークフリードが持つスキルが届かなくなった今、
剣以外での攻撃による威力は著しく低下したと考えるべきだろう。
中井出「レェエエイジングッ───ロアァァアッ!!」
ならばと、突き出した剣から極光を放ち、考える時間を得ようとした。
覚悟を決めなおしたとはいえ、恐怖の前では安寧を求めてしまうのは人としての性か、
彼も例に漏れずそれを望んだのだ。
が───
中井出「───えっ……!?う、うそだろ!?レイジングロアがっ……」
両手で持ち、突き出した剣はなんの反応も示さなかった。
そして、焦りながら試してみたもの全てが、意に反し使用不能となっていた。
中井出「じょ、冗談じゃっ───う、ぉわぁああああっ!!!」
ゴォヴァァンガァアアッ!!!
中井出「ぎっ……ぎあぁあああっ!!!!」
受けた呪いの脅威に頭が混乱したまさにその時、
飛翔したデスゲイズがそのまま止まることもなく、中井出に体当たりを実行し、
なんとか剣でのガードが間に合った彼を容赦なく吹き飛ばした。
中井出「いっ……い、ぎ……!」
だが。
ガードの上からだというのに衝撃は身体を穿ち、
骨が軋むほどの痛みに、彼は地面に着地すると同時にその場に屈み込んだ。
夜華 『っ〜〜……馬鹿者!なにをしている!後ろだ!』
中井出「はっ……は、ぐぅぅ……!!」
言われなくても解っている、と言いたげな顔のまま、
それでも痛みが勝りすぎて動けないでいる。
吐く息は震え、衝撃を受け止めた腕は完全に痺れてしまっていた。
それでも知らずに殺されるのは嫌だというかのように、
意志とは対照的に思うように動かない身体を振り向かせ───
悲鳴のような咆哮とともに、自らを包む魔術の前に塵と化した。
夜華 『なっ……!?』
ほぼ一瞬といっていいだろう。
離れていても解るほどの熱を夜華が感じ取った刹那、
次の瞬間には凍えるかと思うほどの冷気を感じ───
気づいた時には中井出の身体はガラス細工のように砕け、塵と化していた。
夜華 『馬鹿な……こうも簡単に……!?』
気づけば己一人となった夜華は、目の前の光景に息を飲むばかりだった。
身体は未だ満足には動かず、だというのに……
仲間の全てを滅ぼした躯骸王はゆっくりと宙を旋回し、夜華を見下ろしてくる。
───瞬間、頭に浮かんだものは恐怖だろうか。
自分は間違い無くこの場で殺されるのだと。
抵抗一切不可能なまま、殺されてしまうのだと。
そう頭に浮かび───いや。頭で考えるよりも身体がそれを感じていた。
夜華 『か、ぐっ……!動け……動け!そうだ……!震えているんだぞ!動いているんだ!
だというのに満足に動けないなどまやかしだ!
震えだろうとなんだろうと動いていることに変わりはないだろう!
何故動かない!この身体はわたしの身体だろう!?
それが───妖を見ただけで固まるだと!?
動け!口が動くなら身体だって動かせるだろう!くそっ!くそぉっ!!』
恐怖が迫る。
目の前の躯が夜華を見下ろすのは変わらない。
だが、そこに明らかな違いが現れた。
魔力、と呼べばいいのか、
景色が歪むほどの“なにか”がデスゲイズの口へと集束していっているのだ。
焦りは募る一方だというのに身体は依然動かぬまま。
夜華はそれこそ頭がどうにかなってしまいそうなくらいの恐怖を前にし、
ただただ“助け”を求めていた。
潜在的……或いは本能的に。
そしてそれは───ほんの数瞬を置いて叶うこととなる。
夜華 『───!』
ヒタッ、という音。
恐怖から逃げるために目を閉じていた夜華の耳に届いたソレは、
ハッとした夜華の閉ざされた瞼を解放し、生への希望を───
ジークン『ヘイガール、貴様はちょっと下がってなさい』
───より一層の絶望へといざなったという。
ジークン『ヌ?ガール?……ガール!?ヘイガール!?どうしたんザマス!?』
絶望は人を失意のどん底に叩き落し、時には気絶もさせるという。
泡を噴いて気絶した夜華は、恐怖の在り処も何処へやら、
身体を硬直から解放させるとその場へ倒れ伏した。
ジークン『………グンナイ!』
それを見た彼はなにか盛大な勘違いをしたようで、
ハリガネのような手を器用にグニニと曲げると、
まるで人が親指を立てるようなカタチに変えてニヒルに笑った。
……その姿が、時折歪み、声さえブレさせているのに誰にも気づかれることなく。
ジークン『さあ骨の者よ、我が相手ザマス。
村人っぽい男からもらった麦茶で我の力もマックスモード……
亜人族代表としてこの場を仕切る!故に我は歴史の証人となりましょう!
ディメンションフォース!誘おう!亜空の世界へ!!』
唱えるジークンの身体から得体の知れない力が流出する。
創造の理力とは違う、ミル・棒人間のみが持つとされる異能にして無形の能力。
世界を作るわけでもなく、空間を利用し、敵を翻弄しつつ襲い掛かる。
それこそいつか悠介がゼットを空間ごと斬り裂いた、
ファイナルストライク級の力が無ければ、
傷さえつけられないくらいの空間干渉能力。
そしてもちろん回避だけではなく攻撃にも特化し、
動きが鈍い相手では捕まえることさえ出来ずに始末されるであろうもの。
ジークン『いざ参らん!《ヒタァッ!》』
ジークンが一歩を踏み出す。
地面を蹴っているというのにヒタヒタと鳴る足音は様々な意味で異様ではあるが、
本人(人?)はいたって真面目である。
デスゲイズ『ルゲェエエゥウアアギィイイッ!!!』
ジークン 『ムッ!?』
走る小さな存在に対して発動する魔法。
岩ほどもある大きさの氷が空中で精製され、ジークンへと降り注ぐ。
そしてさらにそれを避けようと空へ意識を集中させているところに、
地面から噴き出る火炎魔法がさらにジークンへと襲い掛かる───!
ジークン『ハハン無駄ザマス《ビジュンッ!》』
だが自らが移動して避けること自体を選択肢に入れていなかったジークンは、
早々に空間にゲートを精製───その中に逃れると、
次の瞬間にはデスゲイズの背後から出現。
すぐさまその気配に気づき、振り向いたデスゲイズへと
ジークン『アァンリミテッドストリィイイイム!!!』
ギュピィイイドゴォッチュゾガガガガォオンッ!!!!
デスゲイズ『ギィッ!!』
人間の子供よりも小さな体躯でありながら、
両目から放たれた巨大なレーザーがデスゲイズの肩に直撃する。
それも、彰衛門のアルファレイドさえ弾いた躯を傷つけた上で。
そこにどんなタネがあるか、などという疑問は持つ必要もない。
それは相性の問題であり、彰衛門の攻撃属性は全て闇。
対するデスゲイズも闇と死を担うものであり、
攻撃を当てたところで、よくて蠢く亡者を削る程度のダメージしか与えられない。
だが空間干渉能力によって放たれるジークンのレーザーは、
それこそ“空間で敵を削る”ような効果を引き出すことも可能のようであり、
さらに敵と接触しない限りその効果を現すこともなく、無闇に空間を傷つけることもない。
デスゲイズ『ギギャァアアアゥウアアアアッ!!!』
ジークン 『クックック、無駄……!無駄ぞ……!!』
デスゲイズの反撃───だが空から降り注ぐメテオさえ、
空間転移を繰り返し全てを避けてゆく。
しかも、転移するごとにデスゲイズのあちらこちらをレーザーで攻撃しながらだ。
ジークン『棒人間だからと強さの調整をせずに降ろしたのが運の尽きよ……!
麦茶をチャージしたばかりの我はまさに無敵ぞ!』
自信に溢れた言葉は事実だった。
現にジークンはデスゲイズの攻撃を一切くらわず、高速転移しながら死角に出現しては、
デスゲイズにレーザーを放ち続けていた。
ジークン『今頃浮遊要塞はあのトンガリが強引に転移させている頃ぞ……!
そして貴様はその事実を知らずにここで辛酸を舐めるんザマス……ククク』
決定打こそないものの、
ノーダメージのままデスゲイズの身体のいたるところに傷をつけてゆくジークン。
こんなことはほぼ奇跡に近く、現在ヒロラインに存在するブレイバーやメイガス、
どれをとってもここまでいける者など居ないだろう。
……いないだろうが、
ジークン『《プスンッ……》ウィ?」
気づけばジークンの身体から漏れていた歪みは消え去り───
声のブレも無くなり、浮いていた体がシュゴーと地面へ向けて落下していっていた。
ジークン「ギョッ……ギョオオオオオオッ!!!」
ようするにTP切れというやつである。
調子に乗って、
競うように宙を舞ってゆくデスゲイズの上部に転移し続けていたこともあり、
まるで雲の上から落ちたかのような落下時間を彼は体感した。
しかもそうして落下する己の視界には、再びデスゲイズが放ったメテオが接近していて……
ジークン(フフ……終わった……終わったな……こりゃ……。
こんなことなら忍者の里に伝わる高級麦茶豆に釣られて、
こんなことするんじゃなかった……)
そんなことを思いながら、やがて───
ジークンは空中でメテオを受け、そのまま地面に激突し───
ジークン「ブギョォッ!!フ……フフフ……すまねェザマスガール……。
トンガリに貴様を転移してくれと頼まれていたんザマスけど……
調子に乗ってTPがゼロ……どうやらここまでみてぇザマス……」
倒れた夜華にそれだけ言うと、
伸ばした手を震わせ、地面に落とすと同時に……───無理矢理起き上がった。
デスゲイズ『ギ……?』
ジークン 「ホワホワホワ……!お生憎だが我は棒人間!不死身よ!
どれだけ死ぬ思いをしようが、そのままの状態で降り立った我は無敵!
見よ!我がHP!数字ではなく“───”と棒線が書かれているだけぞ!
勝てはしないが負けもしない……勝利を掴みたくば消滅してみるがいい!
我が名はジークン!こうして麦茶を飲めばいつまででも戦える、
棒人間族の長《コシャアンッ!!》ギョッ───』
───だが。
デスゲイズの眼球の無い空洞がジークンを睨むと、
呪いでもかけられたかのように巨大な氷に閉じ込められ、氷結した。
そして、次の瞬間には中井出と同じく……無惨にも砕かれ、霧散する。
……ニークンが。
デスゲイズ『グギィ……!?』
ジークン 『無駄……無駄ぞ……!!《ズゾゾゾゾ……!!》』
氷結凝視が発動する前に麦茶でTPを回復させていたジークンは、
咄嗟に変わり身として同じ棒人間であるニークンを自らが居た場所に空間転移。
自らも空間転移し、まんまと空間の中に逃げ出し、安全と解るや空間から這い出てきた。
が───ジークンにしてみれば未だに無傷のままなわけだが、
力の差が解らなかったわけではない。
空間干渉理力でどれだけ削ろうが、
その攻撃自体がさほど効いていないことは彼が一番知っていた。
無鉄砲加減で言えば彰衛門並に無鉄砲であろう彼も、
麦茶が無くなった時点で敗北することは目に見えているだろう。
ジークン『フフフ……ヒューマンどもが無理だ勝てんと言ってた理由がこれザマスか……。
敗北を認めて逃げ帰るなぞやりたくないことザマスが、仕方ねェザマス。
どうせここで待ってても誰も来やしねーザマスし、
やつらもなんとか逃げるのに手一杯故、我が駆り出されたわけザマしたし。
さて、では報告ぞ。《カチリ……》やあ、我ぞ。
これより武士女を回収するザマス、そろそろ戻りますぞ』
声 『オウヨ!こっちも無事転移は成功じゃい!
あとは全力で息を潜めるだけ!つーわけでとっとと夜華さん連れてこい!』
ジークン『ウィ。麦茶と交換とあってはこのジークン、黙っておれん。
仕事はきっちりこなしますぞ』
どうやら買収されたのは間違いないらしく、
それ故か、軽く転移すると気絶している夜華の傍へ降り、夜華を抱えると
ジークン『ギョオッ!重ッ!!重い!!なんという重圧ぞ……!これが命の重さッ……!』
己の非力さを棚に上げて、人の重さに苦しんでいた。
しかしすぐにやせ我慢全開の笑顔をデスゲイズに振りまくと、片手を挙げて言った。
ジークン『……それではごきげんよう!』
直後に展開される空間転移。
紫と黒を混ぜた、深い色の歪みがジークンと夜華を包み込むと、
やがてそれは景色と融合し、溶けて消える。
その場にはデスゲイズのみが残され……敵を見失った躯は、
音もなく色を変えてゆく空を舞いながら、
大気さえ震えるような咆哮を残し、
再び己以外の浮遊する物体を求めて移動を開始したのだった。
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