───冒険の書228/守護竜討伐作戦───
【ケース553:穂岸遥一郎/睡眠愚】
サクサクサクサク……───広く長い草原をひた歩く。
目的地はまだまだ先であり、
そもそもここから考えれば走らないと昼までに着くことすら怪しい。
俺はといえば走りたいんだが、それを許さない状況がここにはあるのだ。
遥一郎「寝るって、いつまで寝るつもりなんだこいつは」
ナギー『さあ、のっ……!そんなことはヒロミツにっ……聞いてみるっ……のじゃっ!』
シード『ただしっ……!父上の睡眠を邪魔する、ならっ……!僕が、許さないぞっ!』
遥一郎「………」
ドリアード(ナギー)と、魔王の子(シード)が、
マクスウェルの下、修行をしながら進んでる。
あれだけ歩くだどーだと言っておいて、歩いてるのは俺だけだ。
なにせ中井出はクサナギっていう剣に背中を預けて浮いてる状態だし、
ナギーとシードはマクスウェルとともに浮きながら修行中。
なんの修行かといえば、集中力と……まあ、
空界で言うところの諸力めいたものを鍛える修行らしい。
この世界じゃ諸力なんてものはないから、言うなら魔力だろう。
そんな中、俺はクサナギの端にロープ括りつけて、
浮いてる中井出を引っ張って歩いてるわけだ。
……強敵とのバトル目的で旅をするのも、ファンタジーの醍醐味だよなって参加したのに、
この扱いの酷さはなんなんだろうか。
これってただの雑用だろ、なぁ……?
マクスウェル『ほうれ、もっと集中せんか。ヌシらは集中力が足らんから、
いざという時に詠唱破棄を可能とすることが出来んのじゃ。
特にドリアード。ヌシには随分前から集中についてを説いた筈じゃが?』
ナギー 『そっ……そんなものはっ……忘れた、のじゃー……!』
息も絶え絶えだった。
それはそうだろう、なにせ浮遊に加え、集中しながら魔力の全解放をしてるんだ。
疲れないわけがない。
シードもそうやって、魔力というか不死力を解放させては、
ナギーが放つ力と相殺させている。
これはそういう修行であり、一方が出力を上げすぎるといけないってヤツだ。
長い時間、力を相殺させる。
で、その相殺時間がどこまで続くか、そしてどれほど魔力を振り絞れるか。
それをず〜〜〜っとやっているのだ。
その結果が魔力の最大値の上昇。
上手くやれば力も増すし、精霊としての能力上昇も狙える。
……と聞いたんだが、そんな筋力的に上がるもんなのか?魔力っていうのは。
そこらには俺が知りえない何かが働いているのかもしれない。
中井出「うぅん……や、やめろよ……」
遥一郎「うん?」
と、自分の思考に溜め息のひとつでも吐きたいと思っていた時、
引っ張っていた中井出が妙な寝言を囁いた。
ハテ、と振り向いてみれば、汗まみれで魘されてる中井出が。
中井出「お、俺にはそっちの趣味はヴァーーーーーーーッ!!!」
そして突如として、がばーーーっ!!と起き上がる彼───
が、ズルドシャア!と大地に沈んだのはそれから本当に間も無くのことだった。
中井出「うおだだだだ……!!ハッ!?ダ、ダニエル!?ダニエルは!?」
遥一郎「………」
中井出「なんで無言で十字切ってるの!?」
遥一郎「いや、なんとなく」
剣に乗って寝るだけでも奇跡的な状況がついに終わりを告げた。
寝返りのひとつも打たないから本当に妙なところで器用だと感心してたりしたんだけど。
それも悪夢と、そして大地との熱いベーゼで終わってしまった。
中井出「うぐぐあぁああーーーーーーーーっ!!……お〜お、よく寝た」
遥一郎「あれで満足なのか?」
中井出「クックック、自然の加護を一身に受けているこの博光は、
短時間の睡眠でも精神も肉体も回復しやすいのさ。だから全然平気!
さあ歩きだそうグオオ視界がボ〜っとする……!」
全然ダメのようだった。
遥一郎「やっぱり寝るか?」
中井出「いや、実際眠気というか、精神は回復済みなんだ。
ただほら、目覚めの一発が相当きつかったもんで。誰?俺の眠りを妨げたの」
遥一郎「お前が勝手に落ちたんだが。俺にはそっちの趣味は〜とか言って」
中井出「…………」
思い出したくもなかったようだ。
どうやら相当に夢見が悪かったらしい。
中井出「だから歩こう。こんな気だるさ、歌でも歌ってりゃ治る」
遥一郎「そ、そっか」
相手がそれでいいっていうならと、俺も歩き出した。
そういうのって結局、相手が大丈夫って言うならそうさせるしかないわけだしな。
責任問題なんてのは周囲が勝手に騒ぐだけの問題だ、周りのヤツに罪はない。
中井出「ハァ〜アッブゥのっかぁ〜おりぃ〜♪聖徳太ッ子ィ〜♪」
遥一郎「………」
でも責任云々の前にこの歌はどうなんだ?
そもそも歌かこれは。
中井出「イッケッメッンッすぅぎてぇ〜、困っちゃぁ〜うっぜぇ〜♪
(セリフ)……いや、イケメンすぎて困ることなんて───無い!
それが聖徳ゥ〜セレナァッデェエ〜〜〜ッ!───マンボッ!!
…………この歌の感想を聞かせてくれないか?」
遥一郎「特にない」
中井出「………」
とても悲しそうな顔だった……どう返せと?
でも他人のことなど気にしないことにしたらしく、
コホリと咳払いをすると、また歌いだした。
……何気に耳に留まるというか、印象に残ったから“なんの歌だ?”って聞いてみれば、
ただ一言“オルゴールとピアノと”とだけ答えた。
なんの歌かは言うつもりはないらしい。
中井出「ところでホギーよ。ナギーたちはいったいなにを?」
遥一郎「魔力増加の修行だそうだけど」
中井出「おおそうなのか。それはそれは……随分と遠いところに行ってしまったなぁ」
遥一郎「どういう比喩というか、方程式を並べたらそんな答えに辿り着くんだ?」
中井出「俺は訓練修行鍛錬は命に代えてもやらぬと誓ったのだ」
遥一郎「誓ったって……誰に」
中井出「誰でもねぇよ───ただ俺の……魂にだ!!」
遥一郎「そ……そっか」
魂に賭けて修行をしないヤツって初めて見た。
しかも無駄に男らしい……なんなんだこの男は。
遥一郎「けど映像系の式の鍛錬はやったんだよな?」
中井出「あの時の僕は僕じゃない……って言うのはさすがに卑劣か、くそっ……!
先に立つ後悔ってねぇかなぁもう!!でも言おう。別の言葉を。
このゲームの中では、俺は絶対に修行鍛錬訓練などはせぬわ」
遥一郎「そんなことだからいつまでも神父の世話になるんじゃないか?」
中井出「バカモン!ゲームだからこそ世話になるんじゃないか!
だが好き好んで世話になる気など毛頭無し!
俺は武具とともに、この乱世を生き抜いて悪の皇帝になるんだ!
晦率いるモンスターキングダム!獣人溢るるビーストキングダム!
そしてレイナート率いる王国兵団!その三大勢力を見事制し!
俺は乱世の王となる!それが今の俺の野望です」
遥一郎「王になってどうするんだ?」
中井出「え?全て放り投げて単身旅に出るけど」
遥一郎「どこの孟徳だあんたは……王になる意味がないだろそれ」
……俺の言葉にニコリと笑ったそいつは、
だからいいんじゃないかとお決まりのセリフを吐いた。
結局こいつは楽しければいいんだろう。
確かに、野望ってのは目指している内が花だ、辿り着いたらつまらない。
王になったって何があるわけでもない……
だったら、地位も名誉も捨てて旅に出たほうがよっぽど面白いに違いない。
そういった意味なら……なるほど、こいつの言葉は正しいのかもしれない。
中井出「風任せでもなんでも、好き勝手に生きられたらいいのになって思ったことないか?
俺はさ、そういうことが出来る世界に辿り着けたなら、
そうしてみたいって思ってた。
べつに両親や祖父母たちを自分を戒める籠みたいに思ってたわけじゃない。
守られるのだって、そう悪いことばっかりじゃないよ。
でも、ほら……やっぱ人間なんて我が儘な生き物だろ?
守られてることを縛られてるなんて勘違いする時が、きっとある。
そんなことも理解出来ないくらいにガキなくせに、生意気だよな、ほんと」
遥一郎「……それは、主に自分のことを指してるのか?」
中井出「どうだろうな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でもさ、我が儘でもなんでも───
羽ばたいてみたい、自由に行動してみたいって思う時は誰にだってある。
早くに両親も祖母も亡くした俺にとっちゃ、
自由なんてのは案外狭い空間だったんだけどさ」
だから本当の自由を求めた。
親に縛られている、大人に縛られているやつらに代わって、俺が、と。
そいつはそう言った。
けどその顔はいつも見ることが出来る、とっかかりのない無邪気な笑顔じゃなく……
中井出「……見つからなかったよ、本当の自由なんて。
生きてりゃいろんな誓約、制限に縛られてる。
それらから解放されるなんてこと、人間には無理だったんだ。
だから昔、ブラウン管の中のヒーローに憧れた。そしてそれは、以前まで。
麻衣香はいつまでも子供っぽすぎるよって笑ったけどさ、それでも俺は憧れた」
俺より少し前に踏み出したそいつは、首だけを肩越しに俺に向けて、……苦笑したんだ。
中井出「結果は散々だった……英雄に自由なんて無い。
悪であるほうがよっぽど自由で、生き生きとしていた。
テレビの中の英雄はいつだって悩んでて、
悪たちは悩みも抱えずに悪事だけを連ねて。それどころか……信じられるか?
悩み続けて弱ってた英雄に、貴様がそんなことでどーするとか言ってんだ。
敵に塩送ってどうすんだってな。でも……そんな言葉で立ち上がれる英雄が居た」
遥一郎「だから悪を目指した……ってわけじゃなさそうだな」
中井出「ん。その英雄がそうなれたからって俺までそうなれるわけじゃない。
俺はそれをガキの頃から知ってたから、高い望みなんて持たなかったよ。
授業参観の日なんか、クラスメイトに馬鹿にされて泣いたりしてたんだぜ?
ほんと、今の自分からじゃ信じられないだろ」
遥一郎「………」
中井出「親が居ないってことで、親無し親無しって笑い者にされたよ。
親が居ない辛さを知らないやつらに、そんなことを言われる筋合いはない。
そう何度も思ってた。その頃の俺はまだじーさんにも懐いてなかったから、
寂しさも悲しさも全部自分の中に押し込めるしかなかったんだ。
なにより、ばーさんを死なせてしまった自分が、
じーさんに面倒をかけるわけにはいかないって、子供心に気ぃ張ってた。
だからじーさんに授業参観のことを話さなかったし、
誰になにを言われようが我慢できてた」
遥一郎「……、それは……、───いや……」
どうして俺にそんな話を。
そう言おうとしたけど、やめた。
意味がなければこんなこと話はしない。
中井出「俺はさ、親の愛情を知らないんだ。
誰かを命懸けで守ることの尊さを知らない。
俺に残されたのは、祖父から与えられたちっぽけだけどあったかい日常と、
自分のために死なせちまったばーさんへの謝罪の心だけだ。
守ってくれたお蔭で俺は今ここに居るけど、
命をかけてまで助けてほしかった、なんて言ったらウソになる。
……両方助かる道があったなら、誰だってそっちを選ぶさ。
でもそんな自由さえ、俺の人生っていう運命には存在しなかったんだ。
───俺は俺の生きてきた道を否定しない。運命〜なんて言葉は嫌いだけどさ」
遥一郎「……ん。一言、いいか?」
中井出「いつでもこい!《ジャキィンッ!!》」
遥一郎「いきなり臨戦態勢取るなって!……はぁ。
お前が、そういう経緯で些細な自由さえ求めるようになったってのは予想がつく。
けどさ、それは……なんていうか、悲しすぎないか?」
中井出「よし殺そう」
遥一郎「待てぇえーーーーーーっ!!ななななんでいきなりそうなるんだぁああっ!!」
中井出「うるせぇコノヤロー!!この話をして同情した者には死、あるのみ!
悲しさも寂しさも、俺の胸の中で静かに眠っておるわ!
あ、ちなみに俺が自由を求める理由にばーさんは関係ないよ?」
遥一郎「へ?」
…………無関係?
じゃあこいつはいったいなにを思って自由を願って───いや待て。
もしかして酷く単純なんじゃ……
遥一郎「……不自由か自由かと訊かれたら……」
中井出「自由だろ」
遥一郎「───」
ああ、解った。
難しく考えることなんてなかったんだ。
思って当然、して当然のことをこいつはやろうとしているだけ。
そこに小難しい理由や考えなんて必要じゃない。
ただやり方がややこしいだけで、こいつは誰かが
“やってみたい、こうであったら”って思うことに挑戦し続けてるだけなのだ。
確かに寂しさも悲しさも眠っている。
思い出を、悲しいだけのものにしないために。
……今、久しぶりに思い出せた気がした……人は弱くなんかないんだと。
いつか、屋上のドアを開け───
空を仰いだあの日に出会ったあいつがそうであったように。
遥一郎「お前、強いな」
中井出「俺が強ぇんじゃねぇ……武具が強ぇのよ」
遥一郎「……お前さ、たまには自分のこと認めてやってもいいんじゃないか?」
中井出「自分を認められねぇやつが戦場に立つなど言語道断!
我はいつでも己と武具を信じてる!!
つーか俺にも俺の考えがあるので、純粋に貴様の意見は受け入れん」
遥一郎「普通にひどいなおい」
中井出「貴様が俺を強いと思うのも弱いと思うのも自由だが、
俺は俺の力量でこの乱世を渡る。それ=レベル&俺の人としての強さ。
だったらほら、強かろうが弱かろうが関係ないのだ」
遥一郎「い、いや、俺は純粋に精神面での話を……」
中井出「というわけで遺跡前です」
遥一郎「なにぃっ!?」
言われて見て初めて気づいた……遺跡が目の前に。
ちょ、ちょっと待て!歩きじゃ少なくとも昼頃まではかかる計算で───!
中井出 「マックス爺さん解説をどうぞ」
マクスウェル『時間蝕というのをしっておるかのう。
強い磁場や歪みにより、空間の捩れや時の遅延を促すものじゃ。
時魔術じゃが、魔力の組み合わせ次第では片鱗を生み出すことくらいはの』
遥一郎 「なんだってーーーっ!!?」
じゃあ……なにか?
ナギーとシードの修行でその片鱗とやらが発動して、
予定よりも早く、しかも歩きでさっさと着いてしまった……と?
遥一郎「は……はは、ほんと、すごいな……魔法っていうのは……」
中井出「ほらなにやってんのキミ。さっさと遺跡入るよ?」
遥一郎「感動の余韻に浸ることくらいさせてくれよ!」
中井出「浸ってたじゃないか!一秒でも浸れば浸ってるじゃないか!
なんの問題があるっていうんだよ言葉的に!!」
遥一郎「ことっ!?あ、いや……こ、言葉、的には……ないが……っ!」
中井出「じゃあ行こう」
遥一郎「…………解ったよ!行くよ!」
もはやなにも言うまい。
言っても俺が疲れるだけだ。
こいつと一緒に行動するということは、
自分の中のそれまでの常識を捨てる覚悟を持てということなのだ。
きっとそうに違いない。
中井出「いっちっりゅっう〜の〜困〜りも〜〜の〜〜♪
乗り〜込んだマ〜ザ〜シィ〜〜ップ♪
そ〜れ〜ま〜で〜〜〜の〜〜、じょ〜ぅおし〜〜〜き〜〜♪
捨て〜てか〜ら来〜い〜よ〜〜〜〜っ♪」
遥一郎「人の心を読んだような歌を歌わないでくれ」
中井出「ククク……!貴様の心など、
器詠の理力で貴様の武具から声を聞けば造作もないわグオッフォフォ……!」
遥一郎「うえぇっ!?ウソだろ!?」
中井出「ウソだーーーーっ!!」
……その日、闇の遺跡前で巨大な魔力が炸裂した。
───……。
……。
なにはともあれ、まだ昼にも至ってないっていうのに青空の下で火を灯し、
燃え盛る松明を持って暗闇をゆく俺達。
中井出「おおー!遺跡だ遺跡だダンジョンだーーっ!《シュウウプスプス……!》」
そんな中、顔面から煙を立ち上らせながら、子供のように燥ぐ大人が居た。
遥一郎「燥ぐ前に、その顔面から立ち上る煙をなんとかしようとか思わないのか。
なにがあったのか知らないけどさ」
中井出「いや……アンタにボコボコにされたんだけど……」
や……だってな、避けると思ったのにまともにくらうんだもんな。
加減無しでやったんだ、当たればボロボロにはなる。
ナギー『ほんにヒロミツは攻撃を避けるのが下手よの。
咄嗟のことに対応しきれておらぬのじゃ』
シード『いや、あれはきっと紙一重で避ける練習なんだ』
遥一郎「そうなのか?」
中井出「そうだ」
即答で答えてくれたが、胡散臭いにも程がある立ち居振る舞いだった。
こんなヤツが魔王でいいのかこの世界。
中井出 「それより探索だ!ナギー!シード!宝を一つ残らず手に入れるのだ!
他ならぬ我らの手で!ファイクミー!」
ナギー&シード『サーイェッサー!!』
中井出 「うむ!いい返事だ!ではGO!!ゴッゴッゴー!!」
ナギー 『ゴーなのじゃー!』
シード 『ドリアード!お前には負けないぞ!』
ナギー 『世界を知らぬ小童め……せいぜい頑張るがよいのじゃ』
シード 『それ、お前には言われたくない』
ズダダダダーーーッ!!
遥一郎「あっ───おいっ!」
トラップがある可能性も考えないで(いや、ある意味考えてるのか?)、
彼らと彼女はさっさと奥へと進んでいってしまった。
慌てて止めるが、
声 『大丈夫!何を隠そう、俺は遺跡探索の達人だぁあーーーーーーーっ!!!』
という、なんの根拠もない返事だけが返ってきた。
……ちなみに、足音は離れていくばかりだ。
松明も持たないでどこまで走っていられるのか大変気になったけど、
それで死なれては夢見が悪い。
そう思った故に全力で追うことにした。
……はぁ、ついてこなきゃよかったかも。
【ケース554:藍田亮/フレイムマウンテン】
ゴォオオオ……!!
総員 『フーーーアーーームアーーーーーイ!!!』
灼熱の山をゆく。
クーラードリンクは既に飲んだから、
暑さは軽減されている……筈なんだが、これがまた随分と暑い。
くそ、ニセのクーラードリンクでも掴まされたんじゃなかろうか、
と、つい思ってしまうくらいの暑さだよチクショー。
藍田 「あー……暑ぃいい……」
岡田 「おいヨォオ……火の精霊の力で緩和するとか出来ないのかよ……」
藍田 「そんなんイの一番に交渉してみたっての……無理だってきっぱり言われた。
さらに暑くすることなら可能らしいけど、どーする……?」
岡田 「い、いや……勘弁……」
自然要塞を発ってから全速力での到達は叶った。
さらに、暑さなどなにするものぞとこの山までもを駆けて登ったのだ。
……が、登れば登るほどに暑さは増し、いつしか疲労だのなんだのの問題とは関係なしに、
登る速度はスローペースになっていた。
田辺 『オラどしたー?だらしねぇぞてめぇら』
そんな中で、田辺だけが異常に元気だったりするんだが……なんだこの不公平空間。
藤堂 「卑劣なり田辺てめぇ!なんでてめぇだけ暑さが平気なんだよ!」
田辺 『フフフ、それは俺が妖魔だからさ!暑かろうが寒かろうが大丈夫!
我が名は田辺!俺の体にゃそんなん通用しねぇのさ!』
言いつつ、ゴシャーンと硬い甲殻を見せる田辺!
……何気にセクシーだ……じゃなくて。
清水 「卑怯だぞてめぇ!俺にもそれよこせ!」
田辺 『よこせるわけねぇだろうが!甲殻っつったってこれ俺の皮膚だぞ!?』
丘野 「ケチケチするんじゃねーでござる!同じ原メイツの仲間でござろう!?」
田辺 『ケチがどうとかの問題じゃねーって!!
ちょ、やめっ……いでぇええででで引っ張るなぁああっ!!』
岡田 「じゃあ切り落とそう」
清水 「それだ」
田辺 『それだじゃねぇ!!』
そろそろ暑さで頭の中がとろけてもおかしくないくらいだ……この奇行も頷ける。
本当は頷いたらいけないところだろうが関係ない。
暑いもんは暑いんだ。
藤堂 「なぁラフレシア……水分けてくれ……俺のもう無くなった……」
丘野 「また随分と懐かしいあだ名を出してくるでござるな!
拙者自身忘れていたでござるよ!?」
藍田 「ああ……そういやカール事件で一度、ラフレシアに決定したんだっけお前……。
っと、俺水余分に持ってきたからこれ飲め」
藤堂 「わりぃ……んっぐ、んぐんぐ……はぁ……センキュウ」
何故かメタルスラッグの助けられた捕虜のような声で竹筒を返してくる藤堂。
それを受け取って俺もぐいっとひと飲みすると、埒も無しと歩行速度を速めた。
丘野 「おお?藍田殿?」
藍田 「ここで歩き続けてても喉が渇くだけだろ。
だったら暑くてもとっとと制覇しちまったほうがいい」
そもそも俺達は我慢大会をしにきたわけではないのだ。
見たところ、荒地が続いているだけで、宝箱のたの字も無さそうな場所だ。
とっとと進んで守護竜を見つけたほうがよさそうだ。
───と決定するや、他の野郎どもが駆け出した!!
岡田 「《ズザザァーーッ!!》先に頂へと辿り着くのはこの岡田よ!」
丘野 「《ゴファァッキィンッ》なんの!この丘野、まだまだ負けぬ!』
清水 「《ゴキィーーン!!》はははははは!ハイブリッドパワー……全開!!
この山の頂を制するのはこのディアヴォロだぁーーーーっ!!』
田辺 『ディヤァアォアァアッ!!《ゴヴァアッファァアンッ!!》
いいや!この山を制するのはこの田辺様よぉっ!!』
藤堂 「いいや俺だね!ローラーダッシュ!!《ギュイィイイイイッ!!》』
藍田 「《ゴバァアンッ!!!》いいや、我こそが頂への道を先んじよう』
それぞれが持てる能力を解放して頂を目指す!
またの名を能力の無駄遣い。
けどまあジョブ特性だし、能力限界が来ない限りはいつだって変身出来るから、
能力限界が来る前に変身を解けばいい。
……一応、滅びの母の力は無理だったけど、変身能力持続時間は1秒だけ増えてるし。
あれだけ時間潰してたったの一秒だ……さすがだぜ能力限界。
限界突破って生半可な努力じゃ得られないってことだろう。
藍田 『そういや……限界突破の定義ってなんなんだ?
限界は限界だろ?突破できねーって』
藤堂 『や、そりゃ考え方を軽くすりゃいいんだろ。
“今の自分の限界”ってのがそれだって。
たとえば重たい物を持ち上げるとして、
どれだけ頑張っても10秒しか持ち上げられなかったとする。
でも身体を鍛えたら20秒持ち上げられました。おお限界突破!って』
藍田 『……よーするに限界ってのを重く考えるなってことか』
丘野 『確かに以前の自分を越えられたなら、それは限界突破でござるな』
定義ってのを硬く考えすぎたか。
確かに小難しく考えるからいけないんだよな……最近頭が硬くなってんのかなぁ俺。
と、頭の中が思考で埋め尽くされたそんな時!
田辺 『ワハハハハハ!!貴様らが喋ってる間に我が頂点に先んじる!!』
田辺が一歩を先んじる!一歩っつーか空浮いてるけど!
清水 『なにぃ!?卑怯だぞてめぇ!!』
続く清水がライダーフェイスで駆け抜ける!
藤堂 『くそぅさせるかぁあっ!!』
丘野 『頂への初到達はこの丘野が果たすでござるよ!』
さらに藤堂、丘野が速度をあげ、追い上げる!
もちろん俺も負けてられるかと全力で宙を駆ける!
グラーフがどうして空を浮けたのかは最大の謎だが、浮けること自体に文句など無い!!
ともあれ俺達は全力で山の頂点を目指し───岡田は叫んだ。
岡田 「待ってくれーーーーっ!!」
……そう、ブレードスナッパーは攻撃速度は速いけど、足はべつに速くない。
だから俺達が全力で走れば当然こうなるわけで……。
そういった意味では、ライダーな清水も実は結構遅れ気味である。
フレイムヘイズな丘野は基本身体能力が上がってるお蔭かそう遅くないが……
ARMマイスターな藤堂もきっと、ローラーダッシュが無ければそう速くはないだろう。
そうなるとかなり速いのは田辺というわけで。
藍田 『ぬ、ぬおーーーっ!!田辺お前速すぎ!どうすりゃそんな速度が出るんだよ!
さっきまで牙銀だったのに、なんかやたらとスリムになってるし!』
田辺 『速度重視のために極力身体を絞ったのさ!
無駄なことにも全力挑戦!得るものなくとも力を尽くす!
何故ならそれが原ソウル!常識だけでは語れない!!』
御託はどうあれ灼熱の荒野をゆく!
延々と斜なるそこは、山というよりもハイキングコース!
だが段々と斜が急になり、とうとう坂道というよりも壁に近くなってきた頃。
田辺 『どぅわぁーーーっはっはっはっはっはぁっ!!』
田辺がズシャアと、頂に辿り着く!
空が飛べるということもあり、田辺に続いて俺も登頂!
続いて丘野、清水と来て、……岡田と藤堂が斜面をじたばたともがきながら登ってきた。
藤堂 『だぁくそっ!どうやって壁みたいな斜面をローラーで登れってんだ!』
岡田 「だめだっ……だめすぎっ……!
ブレードスナッパーって剣で戦えなくちゃまるで意味がねぇっ……!
身体的にはなんにも変わってねぇよこれ!!」
藍田 『ああ、なんか見ててそう思うわ』
丘野 『変身してねぇでござるしね』
田辺と清水は本当に変身って感じで、丘野と藤堂は能力解放型。
俺と岡田は基本的にはあまり変わってない。
俺はグラーフ装備をしているものの、滅びの母の力を引き出さないとあまり変わらない。
声がくぐもったりはするし、空も受けるけど……まあ、それだけだ。
ああ、あと暗黒闘気。
力の求道者と戦いの殉教者……本質が似てるって理由で、グラントの能力も使えたりする。
丘野 『しかし藍田殿は仮面を被ると誰だかもう解らんでござるな』
藍田 『仮面だからしょうがないだろ……っと、そうだ《ボゴォンッ!!》』
清水 『フオッ!?』
装備をつけたままオリバ化を図ってみる。
だがまあ当然というか、装備などは引っ込んで、オリバな俺だけが残された。
……何故かパンツ一丁で。
丘野 『グラーフがオリバになったでござるーーーーっ!!』
岡田 「ぶわはははははは!!ふばぁーーーははははは!!
こっ……これは素敵な不意打ちだぁああーーーーーっ!!!」
田辺 『や、ここ笑うようなところじゃねぇだろ』
岡田 「だってよぶっふぁっ!黒マントから
怪力無双がボゴォンって出てきたって考えたらどうにもこうにもぶはははは!!」
清水 『ぶふっ……!い、言われてみりゃ確かに……!』
オリバ『ノーノーユージロー、今がどんな状況だかワカッテルかい?』
清水 『誰がユージローだコノヤロー!
……あ、いや、確かに状況的にはそう笑ってられるもんじゃないな』
藤堂 『それでもどうせなら、
タキシード姿で現れてほしかった気がする俺はイケナイ子ですか?』
シュゴォンッ!
藤堂 『……あれ?』
藤堂がそう言った途端だった。
俺の体が突如として黒い服……つまりタキシードに包まれたのは。
丘野 『おお!これは粋な計らいでござるな!』
田辺 『こういう時のイセリアさんの行動の早さには素直に感謝したいところだな』
オリバ『君の言う通りだ……純粋ではなかった……《ググ……グ……》』
田辺 『え?』
清水 『イヤ……な、なんでこれ見よがしの逆三角形やって……』
オリバ『許してくれ《バヒュッ───!!》』
バリュッ!!───ベチィンッ!!
藤堂 『ギャーーーッ!!!』
頭上に上げた腕を一気に下に下ろし、筋肉を躍動させると、
着ていたタキシードが後方に破れ飛び、後ろに立っていた藤堂にブチ当たった!
オリバ『お待たせした』
藤堂 『待ってねぇーーーーっ!!』
岡田 「どういうポージングとりゃタキシードが全部破れて後ろに飛ぶんだよ!!」
清水 『マッ……マンガの中だけのものと高を括った自分に腹が立つッッ!!
まさか現実にこれを見ることが出来るとはッ……!』
丘野 『や……だってオリバでござるし』
田辺 『オリバだしなぁ』
清水 『……それもそっか』
ひどくあっさりとした理解のされ方だった。
清水 『いやぁ〜〜……しかしオリバ弱かったよな……』
藤堂 『思い返してみれば随分とあっさり負けたしな……』
岡田 「なのにこっちのオリバの異様な強さはなんなんだろうな……」
藤堂 『そりゃお前、あれだろ。俺達の意識がオリバはそういうものだって決めたんだろ。
元が俺達の思念から構築された世界だし』
丘野 『それ以前に現実世界でも滅法強いんでござるが?』
総員 『………………』
俺がモキモキとマッスルコントロールをする中、ただただ微妙な空気が流れていった。
……と、そんな時だった。
頂上の広い荒野でガヤガヤと騒ぐ俺達に、巨大な影が差し込んだのは。
【ケース555:岡田省吾/ファイズ】
───そこからは俺が話そう。
そう、集まる俺達に巨大な影が差したのは、微妙な空気が流れる状況であろうが、
ミスターアンチェインのマッスルコントロールに目が奪われていた時だった。
エ……?なんで目を奪われてたのか…………って?
ハハ、それは当然ってゆゥか……。
筋肉……力瘤っていうのかね、アレがさ……
生き物みたいにオリバの身体を這うように動いていくンだ。
こう……こうやって……ダンゴムシが這うように……ジリジリ…………ってさ。
誰もが釘付けになったね。
唯一、その影を落とした存在だけを除いて。
清水 『ヘ……?オワッ!?』
そんなヤツが乱入したもんだから、
すっかり空気を汚されちまった俺達は、だからこそソイツに気づけた。
よかった………………って、言うべきなのかな……。
ハハ、あのまま魅入ってたら攻撃喰らい放題だったからね。
ゴーレム『───、───!!』
ゴーレムです。
名称なんてのを気にするよりまず驚いたのはその体躯。
竜族とまではいかないにしろ、なんという巨体さッッ!!
巨人族より一回り大きい、赤いゴーレムがそこに居たんですよ。
ええ、そうです……一言で言わせてもらうなら───
アレはゴーレムなんてものじゃあ断じてないッッ!
確かにそれっぽい体つきはしてましたがね……素材が全然違うって、解るんです。
そういうことに関して素人の私がですよ?ハハ……笑うしかありません。
ゴーレム?『───!』
ソイツは何かを叫んでるようなんですがね、
少なくとも日本語じゃなくて、ええ、私たちには理解することが出来ませんでしたね。
……なんてことを思っていた時でした。
目です。
ゴーレムと呼ぶにはあまりに精巧……いや、高すぎる技術で造られたソレは、
頭部のようなものについている目のようなものを光らせたんです。
ええ、鈍く光らせる、なんてもんじゃあ……ハハ、ありませんでしたね。
ゴガァォンッ!!
───飛翔でしたね。
目を光らせたと思ったら突然です。
轟音を出して……ええ、ジェット噴射でもやったらあんな音鳴るんでしょうか。
ハハ、そこらへんのことは私には解りませんが───
清水 『シャラッ!』
ゴギィンッ!
清水 『いぃっ!?』
顔面らしき場所への蹴りでした。
相手の突進力も利用しての、申し分のない綺麗な蹴りでしたね。
けれどゴーレムは無視して、突っ込んできたんですよ。
ええ、まるで効いた様子も見せずに。
お蔭で清水はライダーキックの体勢のまま、後ろに弾かれちまったんです。
蹴ったのにですよ……もうムチャクチャですわ。
予測と違う感触に本人は面喰らってましたが…………
ボリュヴァゴガギョバァアンッ!!!
その脇を潜るように放たれた拳が、その巨体を逆に吹っ飛ばしちまったンですよ。
拳ですよ?蹴りは殴りの倍近くの威力があるって言うほどなのに。
清水 『ハッ……あ、あンたはッ……!』
オリバ『退きたまえ…………わたしがやろう』
総員 『アンチェインオリバッッ!!!』
予想通りといえばそれまでだけど、そこに居たのは怪力無双だった。
ズチャッ……って、この……暑いを通り越して熱ささえ感じる
フレイムマウンテンの大地を裸足で歩く勇姿と……
その身に篭る贅肉ではない引き締まった筋肉の集合体が織り成す肉体美……!
熱さとか寒さとか……痛みとか安らぎとか……そんなんじゃあ繋ぎとめられない男が、
今、倒れたゴーレムの前に立って口を歪ませているんです。
そしてなにをするかと思えば───彼は起き上がるのを待っていたよ。
意外にもその視線は静かで…………とても闘争の最中のものではなく…………
───その時だった。
笑んだ間隙を縫うように、起き上がりざまにゴーレムが先に動いたんだ。
腕のような部分から突き出された鋭い一本の角のような突起が、
ミスターの腹部へと突き刺さす。
あんな拳を喰らって反撃するゴーレムもゴーレムだけど……
ゴーレム?『───!?』
でも……おかしなことに……刺さったと思ったソレが……難なく掴まれちまってた……。
こう、綱引きの綱を握るみたいに……こう、簡単に……。
……素早いンだよ。あんな体してて……。
しかも巨人族より大きいっていうゴーレムを……こう、
ネコジャラシでも持ち上げるみたいに、クイッ…………って……持ち上げちまったんです。
片手でですよ。もう滅茶苦茶すぎて、言葉なんて出ませんでしたよ。
ゴーレム?『───!───!』
蹴ってたよゴーレムは。
残った足で。
そんな中で、ミスターは俺達に向けて突き出した左手で指示をした。
まるで聖火ランナーのような落ち着き払った態度だったよ。
こう、手ェ広げて、離れていろ………………と。
クンッ───
わたしはねェ…………耳を疑ったよ。
キュヴォアバッガァアアンッ!!!
ゴーレム?『AAAAAAAAAAGH!!!!』
初めてだもの──────あんな音ッッッ!!
片手で軽く振り回したゴーレムを、紙鉄砲でも鳴らすみたいに大きく振って…………
ただ単純に地面に叩きつける…………そう、持ち上げて振り下ろす。たったこれだけです。
たったこれだけの動作がこんなにも高い威力を出すだなんて…………
私はね、今日初めて知ったンですよ……。
……え?それで終わったのかって?
ハハ、それがおかしなことなんですがね……。
なにを思ったのか、ミスターはゴーレムを持ち上げて……こう、振るったんです。
まるで洗濯物のシワをパンッと伸ばすみたいな動作をするみたいに。
当然ホラ……巨体なわけだから振るわれる度に地面に激突するわけです。
それでも抵抗はしようとしたんでしょう。
───ビームでした。
最初に光った赤い目のようなものから、鋭く放たれた光の奇跡。
それはミスターの腹部に直撃して大爆発を起こし───
オリバ 『銃が小さすぎるぜ…………なぁジェフ』
ゴーレム?『!?』
けれど、ミスターはまるで無傷でしたよ。
撃たれた筈の腹部にはまるで傷がなかった。
腹部の硬さ?ハハ、ダイヤモンドなんかより硬いんじゃないですかね……。
けど……ああ、ミスターとは関係ないんですがね……ここまでくると、
もうわたしたちにも解ることがあります。
“アレ”は確かにゴーレムだけど、ファンタジーで言う召喚系のゴーレムや、
魔法で象られる“土くれ”的なゴーレムじゃない。
あれは“兵器”だ…………と。
オリバ『オォォオォオオオォォォオッ!!!!』
なのに───ゴッシャァアアアアアッ!!!
ミスターはその兵器を片手で振り回して、硬い地面に叩きつけるンですよ。
まるで地震でしたね。
立っている俺達に、こう、ドカンッて……響くンですよ。
さらにトンッ……て跳躍すると……ええ、拳でした。
ゲバルを仕留めた落下ストレートでしたね。
顔面のようなものに、突き刺すように落としました。
え……?ええ、ヘコミましたよ。
相当硬かっただろうに、顔面のような箇所がベコン…………って。
それで終わりでした。
地面に巨大なクレーターが出来て……ハハ、まるで隕石の落下ですね。
オリバ『………………』
先に動いたのはミスターでした。
さらに拳を振り上げて───ええ、この時はまだゴーレムも動こうとしていたンです。
じゃあどうして終わりだったのか…………って?
止める者が居たからですよ。
イフリート『そこまでだ、契約者よ』
イフリートです。
炎の精霊が、ミスターに攻撃をやめるよう言ったんです。
でもそこはそれ───やはりミスターというべきだったんでしょうね。
パガァッシャァアアアアッ!!!
イフリート『キャーーーーッ!!?』
精霊の言葉なんかじゃあ彼は繋ぎとめられない。
イヤ───恐らくこの地上のなにものであろうと繋ぎとめられないんじゃないか───
そう思わせる何かを、彼は持っているンだと思いますね…………。
振り下ろされた下段突き……それで、終わったんです。
ハハ、ええ……止めに入るだけ無駄だったってことになりますね。
イフリート『き、貴様……!そこまでだと言った我が言葉、
聞こえなかったわけではあるまい!』
オリバ 『戦いの最中のストップ……それこそ有り得るものではあるまい…………。
極上のワインが倉でゆっくりと──────
だが確実に美味くなることを止めないように……。
戦いも美酒のように味わうべきじゃないか?ン……?イフリートくん。
わたしの言うことは間違っているかい…………?
味わうことをやめる無粋を割り込まされた時、とても嫌な気分になる…………
わたしは今、そんな気持ちだよ……ミスター・ファイアエレメント』
イフリート『そもそもコレは敵ではない、戦う理由がないと言っている!』
オリバ 『フフ、オイオイ、言ってる意味がワカラナイな……。
戦うのにいちいち理由が必要かな…………?
キミは美味いとワカッテル極上ワインが目の前に並んだ時、
いちいち食べる理由を探して食うのかな───?』
ミスターは何故かまたマッスルコントロールをしながら、
火の精霊に戦いの在り方を説いていましたね。
その素晴らしいマッスルコントロールには、イフリートでさえ目を奪われるくらいだ。
オリバ 『美味いとワカッテルワインを飲む理由はただ一つだろう…………。
美味いとワカッテル料理を食する理由もそこに絞られる…………。
つまりワイン───』
イフリート『解った!解ったからわざわざワインを比喩に出すのはやめろ!
ワインでしか語れぬのか貴様は!!』
清水 『Noォオオオオオオオオオオッ!!!!
意見するなッッ!!殺されるぞイフリートッッ!!』
藤堂 『おまえはミスターの恐ろしさがワカってないッッ!!
ミスターが何故武器も持たずにそんな姿でいるか考えてみろッッ!!』
田辺 『魔力解放もしてないオマエがミスターに意見するなど自殺行為なんだッッ!!
私ですらがミスターの正面には立たないッッ!立てないッッ!!」
丘野 『やめろォオオオオオオオッ!!!』
イフリート『い、意見することすら許されないというのか!?馬鹿馬鹿しい!
俺は精霊で、こいつは───《スッ……》オッ……!?』
オリバ 『馬鹿だぜアンタ』
イフリート『!』
謝謝、楊海王……ベッシァアアッ!!!
ペキペキ……コキ、コキ……ン……
───ええ、ペシャンコでした。こう……片手で、頭からぐしゃあ!…………って。
人って……イエ、精霊って……あんなに曲るもんなんですねェ…………
ハハ、そうですね。
私だったらそんな相手の正面になんか立たない……いや、立てないですよ、エエ。
───……。
……。
───……
イフリート『……、───!《がばぁっ!》』
岡田 「…………お目覚めかな、ミスターフレイムエレメント」
倒れていたイフリートがようやく目を覚まし、
現状を把握するのにはたっぷりな時間が必要だった。
その間に俺達はクーラードリンクを二本飲み、
レッドドラゴンを探したりしていたんだが……これが案外見つからない。
どっかに行ってるのか、はたまた頂上に居るわけじゃないのか。
ともあれ埒も無しと始めたアンチェインゲームで、俺達は時間を潰していた。
イフリートが目覚めるまでの暇潰しってやつだな。
こいつならなにか知ってるかもしれない……そう思った故に行動だった。
イフリート『俺は……───イヤ、アレは……いったいなにをしている』
岡田 「うん?……ああ、ハハ……アレは……」
自分の状態を瞬時に悟ったイフリートは、すぐに言葉を濁すと……
視線の先……というか、聴覚に届いた激しい衝突音に視覚を奪われ、
目を向けた先にあった事実に疑問を抱いた。
その疑問は当然のもので……実際、俺もやってみたのだからその恐ろしさはワカる。
藤堂 『オォオオオオオオッ!!!』
ミスターアンチェイン・オリバと真正面から殴り合うッッ!!
その機会を設けられ、立ち向かわぬは原中の名折れ……否!雄としての名折れッッ!!
俺達は交互にミスターの前に立ち、真正面から殴り合っていたのだッ……!
藤堂 (ワカっていることが一つある──────!
オリバに勝つ!それは───技術で勝つ───……頭脳で勝つ───……
違う……オリバに勝つ…………って……そういうことじゃない……
100キロも重いオリバに勝つ!それは───腕力で……真正面から……
真正面だけ《ベゴルチャア!!》じゅぎゅっ!!』
ヒュゴォゥンッ!!!
清水 「…………エ?」
藤堂が風になった。
地面を抉るように、つっかえ棒にするようにして殴り進もうとしていた藤堂……
だが殴られた瞬間につっかえ棒にしていた足はあっさりと砕け、
支える筈だった体は顔面を中心に幾度も回転し───やがて遙か遠くの地面に落下した。
丘野 「とっ……藤堂殿!?藤堂殿ォオオーーーーーーーッ!!!」
田辺 「ヒィッ!だ、だめだぁっ!顔面が砕けたザクロみたいにっ……!!
脚もようやく繋がってるくらいにズタズタに捻れてッッ……!!」
清水 「藤堂!藤堂ォオーーーーーーーッ!!!」
結論。
勝てるわけねーよあんなカイブツに。
ナノパワー全開の藤堂があれだもんなぁ。
その前には田辺もやってみたが、甲殻ごと殴り壊されてズタズタのボロボロだった。
その前には丘野が挑んだが、振るった刀はミスターの皮膚を斬ることさえ叶わず、
ジェフ=マークソンのように胸を陥没させる一撃を喰らい、大地に転がった。
その前には俺が挑んだが……正直、
本気の本気でミスターを殴り、拳が砕けたことから先は覚えてない。
無茶な話だったンだッ……ミスターと殴り合うなどッ……!
岡田 「アンタも覚えておいた方がいい……ミスターと殴り合うなど、自殺行為だ。
彼は武器を持たないんじゃない……あの五体こそが武器……そして防具なのだ」
イフリートの横に屈みこみ、だが視線はミスターに向けたままに言う。
その横でゴクリと息を飲む音が聞こえた……当然だろう。
だが、そろそろミスターからこの場へと意識を戻さなきゃいけない。
俺達はここに、ミスターと戦うために来たのではないのだから。
───ゴォッ───
と、その時だ。
この広い頂上に、ゴーレムよりも巨大な影が舞い降りたのは。
食事なのか、口にデケェモンスターを銜えた、
赤く逞しい竜が……轟音とともに飛翔してきた。
岡田 「……おでましだな」
丘野 「うーひゃー……デケェでござるなぁ……!」
清水 「と、とりあえず藤堂に回復アイテムを……」
オリバ『その必要はない』
清水 「ハッ……ミ、ミスター!」
危機の予感をお前に、藤堂を復活させようとする清水……だったが、
その行動はミスターこそに止められ……その直後、
藤堂の体はさっさと回復し、彼はゆっくりと目を開けた……!
藤堂 「あ、あれ……?俺……」
清水 「オッ……オオオ……!?」
丘野 「すげぇ……ミスターパワーだ!」
オリバ『敵対心を解いただけだがね。闘志満々ダ』
いや……つーかミスター?
まさかミスターのまま戦う気じゃ……イヤイヤイヤッッ!
それはそれでとても心強いですがッッ!
たまにはそう、戦士として戦いを楽しんでみたいかなぁと……!
せっかく、完全ではないにしろこういう力を得たんだから……!
レッドドラゴン『ルゴォオウシャァアアアアッ!!!!』
総員 『キャーーーーーーーッ!!!!?』
うん無理。
少しあった戦闘への楽しみが木っ端微塵に吹き飛びました。
やべぇよ……!脚震えてますよ俺!
提督はこんなやつらと渡り合っていたというのかッッ……!
我らが提督ながら、なんと無茶好きなッ……!
田辺 「と、ととととにかく戦闘準備ーーーっ!!」
岡田 「仕切んなこのタコ!」
丘野 「何様でござるかてめぇ!!」
清水 「クズが!!」
田辺 「言っただけでそれかよ!!罵倒してる暇あったら準備しろ準備ぃいいいっ!!」
ハハ……田辺くん。
もう開始()っとる。
岡田 「おっ……おおおおっ……おっしゃぁああああっ!!かかかかってこいオラァ!!」
清水 「変ッ!身ッ!!《ゴシャーーン!》』
丘野 「アラストール!俺に力を!《メギャアアン!!》』
田辺 「妖力解放!ぬぉおおおりゃぁあああああっ!!!』
藤堂 「ARM解放!鉄分タブレット使用で多少の無茶も許される!」
藍田 「正々堂々と……出し抜くッッ!!」
総員 『オリバやめちゃったの!?』
藍田 「い、いいじゃねぇか!俺だってグラーフ能力全力で試してぇんだよ!」
岡田 「や……いいけどさ」
丘野 『けどこう、なんてゆゥのか……ミスターが居てくれるっていう安心感が……』
清水 『なァ……?』
藍田 「いいからやらせろコノヤロー!《ガキィンッ!》』
オリバから姿を戻した藍田が、グラーフの面を被る。
すると即座にその声はくぐもり、妖魔化した田辺やナノ開放した藤堂のような声になる。
それが、合図といえば合図だった。
なんの…………って?そりゃあ……気性が荒く、言葉も通じないドラゴンを前に、
武装した男が6人……───バトルでしょう。
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