───冒険の書244/VS刻震竜2───
【ケース587:穂岸遥一郎/地を歩む霊峰】
カキ、キチンッ……コシャッ!
飯田 「薬莢は拾って帰れよ」
蒲田 「解ったよエドらもん」
猫たちに火薬の調合レシピを教わり、筒に詰め込んではグフフと笑う原中の猛者達。
そんなやつらを横目に、
俺はさっきまでアイルーが立っていた要塞の突起の先端に立っていた。
突起とはいってもきちんと柵のようなものはあるから、
しがみついている限りは揺れてもそうそうには落ちない。
澄音 「お待たせ、穂岸くん」
遥一郎「蒼木……もう大丈夫なのか?」
澄音 「うん、妖精の霊薬を飲ませてもらったら、腕の火傷は消えたよ。
ただ今日は絶対にエクスカリバーを撃っちゃいけないって」
遥一郎「それは俺からもお願いするよ。無茶して腕が使い物にならなくなったら、
レイチェルさんが悲しむだろ。……もちろん俺もだ」
澄音 「はは、うん。約束するよ。無茶はしないって」
小さく笑い合いながら、遠くの景色を眺める。
サウザンドドラゴンは依然としてエトノワールに向かい進軍中であり、
ここまでは相当あるにしてものんびりとなんてしてなれない。
精霊たちの大半はサウザンドドラゴンの足元まで行き、
アンヘルとともに戦ってくれているが、
それも少しずつHPを減らしてゆく程度のものにしかなっていないようだ。
あの図体にしてあの強度だ、耐久力がバカ高いのも頷ける。
散々と重ねがけしたエクスカリバーでもせいぜいで鱗を破壊する程度。
肉には至ったものの、大打撃とまではいかなかった。
澄音 「弱音吐くようで悪いけど……勝てるかな」
遥一郎「……どうだろうな」
勝たなきゃいけないのは確かだ───でも使命感は捨ててゆく。
そんなものに縛られたくて学んだ術じゃないからだ。
由未絵「あ、穂岸くん。わたしに手伝えること、あるかな」
遥一郎「あ……えっと確か───支左見谷、だったな。
妖精たちとこの要塞の耐久の回復と、傷ついたヤツの回復を頼んでいいか?」
由未絵「うん。やってみるね」
澄音 「僕はどうしようかな」
遥一郎「無理しない程度に攻撃魔法……だな。俺もそれでいくつもりだ。
大砲とバリスタは猛者連中に任せよう。……ていうかもう撃ってるな」
見上げてみれば、頭上を物凄い数の大砲の弾やバリスタが飛んでゆく。
上手く狙えば届くには届くんだろうが、いかんせん遠すぎるために威力が弱まっている。
灯村 「グウウ〜〜ッ、ここからでは届か〜〜〜ん!!」
島田 「おーい猫たちー!前進できないかー!?」
アイルー『お任せニャ!旦那さんが持ってきてくれた竜宝玉のお蔭で、
大分自由に動けるから全然平気ニャ!───面舵一杯ニャー!
全速前進ヨーソローだニャー!……ヨーソローってなにニャ?』
灯村 「歯槽膿漏の仲間だ」
違う。
ゴコッ───シュゴォオオオオオッ!!!
遥一郎「うおあわぁっ!?」
澄音 「うわっ、わわわっ」
猫の言葉に反応した要塞が空を飛ぶ。
結構な速度で発進し、結構な速度でサウザンドドラゴン目掛けて飛翔。
形が変わってしまった山を通り過ぎ、その先に居る巨大生物へと接近してゆく。
灯村 「よっしゃストップストップーーーッ!!」
島田 「ここならもう届くだろ───相手が一歩進むごとに一歩分ずつ後退するんだ!
そうしながら撃ちまくろう!」
皆川 「いや〜……やっぱ男なら大砲くらい撃ってみたいよな。発射ァアアアッ!!」
ドゴォッ───シュゥウウンドガァアアアンッ!!!
皆川 「おお当たった!……でもあんまり効いてなさそうなんだけど」
灯村 「それだけ強いってことだろ?とにかく撃ちまくればきっと勝てるさ!
ヤツが一撃の威力に長けてるなら俺達は数で勝負!」
結局のところ、俺と蒼木以外の魔法操者はバリスタや大砲、
この要塞の魔法障壁強化や回復などに回っている。
天空城の修行でほぼ魔法一本に絞った俺と蒼木以外では、
大魔法や最上級魔法に辿り着いているやつがあまり居ない。
遥一郎「すぅ……はぁ───うん。じゃあ、いくか」
澄音 「うん」
頷き合って杖を構え、詠唱を始めてゆく。
口で詠唱して頭の中でも詠唱して、
魔法陣を次々と出現させてはさらにさらにと意識を集中。
手の甲にある霊章が詠唱速度UPの手助けをしてくれているお蔭で、
魔法陣の数は増すばかりだ。
……贅沢を言うなら、魔法使いだけじゃなくて戦士も欲しかったな。
そんな意を込めて、隣で詠唱している蒼木の目を見た。
するとそれに気づいてか、穏やかな顔で“そうだね”って目で言って頷いた。
……なんてことをやっていた俺が“ソレ”に気づいたのは、それから少し後だった。
【ケース588:綾瀬麻衣香/地を歩む霊峰2】
シタタタタタタ───
夏子 「麻衣香、ストックは?」
麻衣香「───、うん、全部漢神の祝福で埋めた。そっちは?」
夏子 「冥哭の泉で全部。けど無茶言うよね麻衣香も。
間近に言ってアンヘルの手伝いしよう、なんて」
麻衣香「ラオシャンロンの基本は腹の下での乱舞だし」
夏子 「や……アレ、ラオシャンロンじゃなくてパオシャンロンだから」
その名前もわたしたちが勝手につけたんだけどね。
夏子 「よしっ……と。じゃあ早速いきますか」
走り、アンヘルたちの近く───つまり巨大な竜の足元まで来ると、
夏子は凶々しいけど神聖な杖を取り出した。
杖って言うよりも錫杖って言うほうが適切だけど。
呪いという呪いを合成させ続け、レベルアップとともに反転した聖なる武具の一つだ。
妖刀ニヒルとか混ざったままで反転させたから、
錫杖なのに輪っかの部分に物凄い斬れ味があったりする。
夏子 「ルゲイム、アルゲルイ、ガルディオル、ガルディエル……。
我唱えん。我等を宿す黒き大地の上に───
さしずめ、鈍色の剣のごとく、太陽の目から遠く、死の岸辺に誘う───」
詠唱しているのは魔術ではなく邪術。
召喚側のものであり、わたしも知らないようなものだ。
……後半の詠唱は知ってるけど。
夏子 「おいでませ!リィイイビングアァアマァアアッ!!!」
結局発動させたのはジョブ秘奥義の亜空召喚。
詠唱する意味がないんじゃないかと突っ込みたくなったけど───
そこにはちゃんと意味があったらしい。
夏子 「魔力全部持ってけドロボー!パパトスカーニに肉付けしてバーサーカー召喚!!」
ズフィィインッ!ごしゃーーーん!!
夏子がパパトスカーニを召喚。
自分の魔力全てを血肉に変えて、バーサーカーへと象らせる。
夏子 「そんでもってぇえ───冥哭の泉!バーサーカーを強化させて巨大化!」
次いで10分アビリティ発動!
バーサーカーを強化させて、骨組みや肉付けをした魔力を肥大化、
姿形をそのままに巨大化させていった!
夏子 「さらにCOMP融合発動!
場に出ているリビングアーマーとバーサーカーを融合!」
シュゴォゥンオガガガガォオンッ!!!
それだけじゃ飽き足らずバーサーカーとリビングアーマーをなんと無理矢理合体させて、
鎧を着たバーサーカーを作成!
夏子 「さらにストックにある冥哭の泉全てを使ってリビングバーサーカーを強化!!」
ゴンシャンシャンシャンシャァアアンッ!!!
バーサーカー『■■■■■ーーーーー!!!!』
次々と発動される5回もの強化が、
バーサーカーの体をなんだか物凄くモキモキにしてゆく!
怖い!これ見てるだけで十分怖い!しかもデカッ!デカいよ夏子!これデカすぎだよ!!
夏子 「───さあ行け超巨大アーマーバーサーカー!!
あ、出来れば背中とか横から狙うこと。じゃなきゃ砲弾とかの餌食になるから」
でも言うことだけは言っとくみたいだった。
夏子 「───麻衣香!」
麻衣香「オッケー!」
あとは距離を取って、ダメージを負ったらバーサーカーを回復させるだけ。
とにかく時間を稼ぐんだ。
倒せるのなら倒したいけど、多分わたしたちだけじゃそれは叶わない。
せめてヒロちゃんと戦ってる
ブレイバータイプのみんながこっちに来るまでは耐えなきゃいけない。
レム 『面白いことをやっているな』
イフリート『巨大召喚か。なるほど、下手に力を分散するよりは───』
シルフ 『面白いじゃねぇか。俺はノるぜ?』
ノーム 『決まりだの〜ん』
夏子 「え?や、ちょ───」
耐えなきゃとか思ってた矢先に───
いや、矢先って言葉が喩えとして適当なのかはどうでもいいけど、
精霊たちが悪知恵を閃かせたらしい。
と思ったら急になにかを詠唱し始めて、
それが終わったと思ったら今度はアンヘルたちが光を放ち始めて……
ってだからなんなのー!?なにやりたいのー!?
もったいつけないで教えれー!ってうひゃわぁあああっ!!?
ガギィンガギィンゴギンゴギィンガギィイイインッ!!!
アンヘルが壊れていく!───じゃなくて、バラバラになってゆく!
え?廃棄処分!?と思いきや、
バラケたパーツは宙に舞ってバーサーカーのもとへと飛んでゆく!
そしてなんか合体始めてるし!なんなの!?この状況なんなの!?
でも合体ロボみたいでいい……!
レム 『アンヘルの能力全てをあのデカブツに託した。
効率化というものだ。どのみちアンヘルではデカさが足りず、
効果的なダメージは期待できなかった』
麻衣香「だからって……うわぁ……」
地から然までのアンヘルがバラバラになり、
その全てが力を持ったままバーサーカーに纏わりついた。
……機動装甲バーサーカーの誕生である。
麻衣香 「然のアンヘルまで……どうやったの?」
マクスウェル『居ないドリアードの分はワシがなんとかしたわい。
さて、サポートにはワシらも参加するぞい。
おぬしだけではこの巨体相手に回復しきれんじゃろう』
麻衣香 「あ、はは……実は回復魔法は可も無く不可も無くで……」
恥ずかしい限りである。
バーサーカー『グゴォオオオオオオゥウッ!!!』
ヴオドッゴォオンッ!!!
バーサーカーが拳を巨大石斧を振るい、サウンザンドドラゴンを斬りつける。
その一撃はエクスカリバーが斬りつけた鱗の傷口を上手く斬りつけ、
サウザンドドラゴン『グ……!?グシャァアアォオオオゥッ!!!』
ゴギガシャァアアッ!!!
今まで散々と攻撃をくらっても動じもしなかったサウンザンドドラゴンが、
ここに来てバーサーカーへと振り向いた。
そして逆に振るわれた爪攻撃がバーサーカーの機動装甲を攻撃!
だがそのたった一撃で、アンヘルの装甲がへしゃげる。
麻衣香「うわわ……!どうするのあれ……!」
夏子 「回復出来るのかな。どうなのあれ」
シルフ『余裕だぜ!要塞がありゃあマナなんて腐るほどあるからな!
それで修復すりゃどうとでもなる!』
キュイイイボゴンッ!!
麻衣香「わっ!直った!」
夏子 「あ……あははは!これ面白い!いけー!超人ロボー!」
要塞があれば傷を直せて、しかも精霊からのバックアップも万全!
だからしぶとくサウンザンドドラゴンとバトれるわけで───
バーサーカー 『グガァアアアアアッ!!!』
サウンザンドドラゴン『ルォシャァアアアッ!!!』
ドガドガァンッ!!
ザゴォッ!バギャアッ!ドガァンゾバァンッ!!
麻衣香 「うわわわーーーっ!」
夏子 「戦ってるだけで地震が凄いーーーーっ!!ってうあわわわぁっ!!
来てる来てる!このままじゃ踏み潰されるーーーーっ!!」
マクスウェル『なにをやっとるんじゃまったく……』
地震の所為で動けなくなったわたしたちを、マクスウェルが助けてくれた。
正面なんかに立つんじゃなかった……もうちょっとやり方ってものがあっただろう。
でも面白いのは確かだから気にしないことにした。
ヒュワッ……ストンッ。
破壊された山の上に降ろされて、わたしと夏子は超獣対決を見上げた。
山の上なのに見上げる形っていうのも物凄いことなんだけど───
山に来て、空以外を見上げることになるとは思わなかった。
さすがラオ……じゃなかった、パオシャンロン。
デカさで言えばラオシャンロンなんて目じゃない。
でも攻撃の度に地震だの衝撃波だのが飛んでくるのは相当に辛い。
足を掬われるような感覚のあとに衝撃波に襲われて、動こうにも動けない。
サウンザンドドラゴン『ルゴォオオオオアアッ!!!』
ザゴォンッ!!ドパァンドゴォンッ!!
バーサーカー『ガアァアアッ!!』
ゾガァンッ!!ガンザゴゾガァンッ!!
石斧だと思うのに相当に硬いソレがサウンザンドドラゴンを斬りつけ、
反撃の爪攻撃や尾撃がバーサーカーを襲う。
その度の衝撃がまるで花火みたいだと、こんな状況なのに暢気に思っていた。
【ケース589:穂岸遥一郎/地を歩む霊峰3】
遠くの景色で巨大生物が戦っている。
また無茶なことをする……と思ったものの、
丁度戦士が欲しかったのもあってツッコめやしなかった。
灯村 「おおおおバーサーカーだバーサーカー!
そういや木村も綾瀬も見ねぇなって思ったら、あんなところに居たのか!」
飯田 「巨大生物バトルとは素晴らしい!
せめてバーサーカーの肩の上でワハハハと笑ってみたかった!」
皆川 「いやいやこんな我らにも出来ることがある!狙えドラゴン!
サウンザンドドラゴンに巨大な雨を降らしましょう!!」
三島 「撃て撃て撃てぇええっ!!わははははは!!!」
ドゴォン!ドゴドゴォンドゴォオオンッ!!!
佐東 「おーい!誰か大砲やらせてくれー!バリスタと交換しようぜー!」
灯村 「オーケー俺が交換しよう!───んじゃ俺ちょっと下行ってくるわ!」
島田 「お、じゃあ俺も行くわ。あとよろしくな。大砲撃ちたくなったらまたくるわ」
佐東 「オーケー!」
聞こえる声はとことん楽しんでいるやつらの声ばっかりだった。
楽しそうでいいな、ほんと。
遥一郎「舞い降りろ!灼熱のバーンストライク!!《ピキィンッ!》」
ともあれ、俺も魔法陣を弾けさせて大魔法を発動させる。
バリスタや砲弾が届く位置とはいえまだ距離のあるここから、
大量の巨大な火球を空より舞い降らせ、
上手くコントロールしてサウンザンドドラゴンのみに当ててゆく───!
ドゴォンドゴォンドゴォォオン!!!
ボゴォッ───ゴファァアォオンッ!!!
そして火球が大地へと落ち、燃え盛る炎の海を作り出したところで
遥一郎「まだだ!《ゴキィンッ!!》ヴォルカニックアース!!」
火と地の加護を霊章の中で合わせ、複合魔法を発動!
特定の条件の下に発動するそれらの魔法は、面倒だが威力は高い!
ゴバァンゴバァンゴバァンゴバァンッ!!
ヴァガガガガガガォオオンッ!!!
まるで活火山のように燃え盛る岩石を噴き出させ、最後に爆発を起こす大地。
それらが空へと昇る頃、次の魔法陣を弾けさせる!
遥一郎「くらえ!《ゴキィンッ!》イグニート・ジャベリン!!」
ゾガガガガザゴザゴゾゴファファファアッ!!!
槍状の炎を豪雨の如く降らせる。
だがどれだけやってもサウンザンドドラゴンのHPはそう減らず、
大魔法ランクでは大してダメージが与えられないことを俺に確信させた。
向こうでも綾瀬が頑張ってくれているようで、メテオまでも降らせているが───
調べるで解るHPは、願うほど減ってくれはしなかった。
声 「なんだありゃあ!メテオくらっても平然としてるぞ!?」
声 「うあ……もしかして速まった……?提督と戦ってたほうがよかったかも……」
心底バケモノだ。
だが木村が召喚し、精霊たちが強化したと思われる巨大生物は相当に強い。
そうじゃなければサウンザンドドラゴンも見向きもしなかった筈だ。
それがわざわざ振り向いて反撃をしているということは、
少なくともあいつを敵として認識してるということだろう。
ただ、俺達の攻撃だってダメージを与えてないわけじゃないのだ。
だから詠唱はやめない。
次々と魔法陣を弾けさせ、一番効果的だと思う属性魔法を探してゆく。
無属性魔法のメテオでも大したダメージじゃないのが辛いが、それでも探すのだ。
遥一郎「───いや、そうじゃない」
ダメージをあまり与えられないなら、別の考え方でいけばいい。
原中連中から学んだことだが、敵が強いから魔法も強くするんじゃなく───
そう、小ズルい発想で状況の裏を掻いてやればいいのだ。
そしてこの場で役に立つズルさといえば───
遥一郎「……そうか!《キィンッ》アシッドレイン!!」
思いついた魔法を即座に無詠唱で発動させ、アシッドレインを降らせる。
もちろん対象はサウンザンドドラゴンであり、その効果は防御力低下。
魔法が効かないなら今戦っているバーサーカーの補助と、
砲弾やバリスタのダメージがよく通るようにと敵を弱体させればいいのだ。
難しく考えようとするからいけない───もっと人間的に考えろ。
非常識の中に居すぎると常識を忘れてしまう……悪い循環だ。
声 「オ〜〜〜ッ、あ、あえてその手段を選ぶとはなかなかの外道っぷりだぜ〜〜〜っ」
声 「お、俺達も魔術師のはしくれだ〜〜〜っ。その程度の魔法はもちろん使えたが、
強いままで戦ってくれようとわざわざ使わないでおいたというのに〜〜〜っ」
……外野、じゃなくて内野が五月蝿いが、気にしないでおく。
ていうか思いついてたんならやろう、頼むから。
けどそうなると面白がってか、猛者という猛者がこぞって魔法詠唱を開始する!
もちろん発動させるものは弱体魔法ばかりで、
容赦ってものや限度を軽く無視した魔法の雨が、サウンザンドドラゴンに襲い掛かった。
とことん敵に対しては容赦のないやつらである。
ドゴォンドゴォンドガァンバガァンドガァッ!!
しかもしっかりと弱体カは通じるらしく、
バーサーカーが与えるサウンザンドドラゴンへのダメージは確かに上昇していた。
微々たるものかもしれないが、積み重ねは重要だということを俺は知っている。
声 「おっしゃあーーーっ!ダメージ上がってる上がってる!こりゃ面白ぇ〜〜〜っ!」
声 「おっしゃあーーーっ!じゃあバリスタも撃ちまくってやるぜ〜〜〜っ!」
そして再び放たれる砲弾とバリスタの雨、雨、雨。
しかしそれでもサウンザンドドラゴンにはあまり効いていないらしく、
怯むどころか動きを早くなった気さえする。
澄音 「───穂岸くん、あれは」
遥一郎「目が覚めてきたってところ……か?」
メキメキと音さえ立てて、サウンザンドドラゴンが体を怒らせる。
鱗のひとつひとつが立つように色を変え、
遠くからでも解るほどの巨大な双眼が鋭く変異する。
まさか、とは思うが───いや、間違い無いだろう。
……体質変化。
口から蒸気のように白く濁った吐息を吐き、
今までとは比べ物にならない速度でバーサーカーへと襲い掛かる───!
【ケース590:───/天を衝く霊峰】
ゴバァッ!メキメキメキ……ガバァンッ!!
麻衣香「わ、うあ……!」
夏子 「あ、わわ……!」
サウンザンドドラゴンの体の色が変わってゆく。
焦げた茶色を更に深くしたような、鈍い銅色から灰色へと。
しかもその背に今までなかった翼が生え揃う。
体液らしき液体を纏い、背から生えてきたそれは、
大気に触れるや否やメキベキと音を立てて乾いてゆくと、瞬く間にとても硬い翼に変異。
尻尾も更に更に長くり、尻尾だけでも体躯が大き目の竜族ほどある。
まさに圧巻……要塞から離れた場所、
砕けた山の高い位置に立つ麻衣香と夏子は息を飲むばかりだった。
少し気を取られるだけではなく、
バーサーカーのサポートをするのも忘れて敵の変化に唖然としていた。
しかし砲弾が硬い鱗に直撃する音に体を震わせると、
ようやく意識を取り戻したかのように目を瞬かせた。
麻衣香「夏子!」
夏子 「え───あ、い、いまじゃ!パワーをメテオに!」
麻衣香「いいですとも!───って違うでしょ!!あなた何処の月の民!?」
夏子 「ご、ごめん!素で混乱してた!サポートしなきゃいけないのに───」
どういう混乱の仕方をすればフースーヤになれるのかは、
彼女にも誰にも永遠に解りそうもなかった。
バーサーカー 『ゴガァアアアアッ!!!』
サウンザンドドラゴン『ギガォシャアアッ!!!』
大地から大気にかけてを震わせる戦いは依然として止まることを知らない。
振るう斧が、爪が、拳が、尾撃が、互いを打ちつけ、吹き飛ばしてゆく。
だが一目で解るほど、劣勢であるのはバーサーカーだった。
爪攻撃から尾撃に、
次いで翼に空いた穴から大気に散ったマナを吸い取って口からレーザーを放つ。
それを何処で見ただろう。
いつか風翔竜と戦った時───そう、
波動風と呼ばれる風のレーザーを放った守護竜の姿が麻衣香の脳裏に浮かんだ。
何故、と思うより先に奇妙な理解が思考を襲った。
古竜中の古竜という言葉。
あくまでもだが、もしこの竜が全ての竜族の原点だとするのなら、
全ての守護竜の特性を持っていても不思議ではないのではと。
何故時を担うことになったのかなど伝承には記されてはいない。
人々が物心ついた時には、巨大な竜は既にこの世界の時として生きており、
竜族と話せるわけでもない人々がそれを知る方法など、
憶測を立てる以外にありえる筈もなかった。
兵士1「巨竜討伐隊の皆様ですね!?王国より駆けつけました!」
遥一郎「王国から───」
兵士長「我らが来たからには竜族になど勝手な振る舞いをさせることなどせん!
魔法兵団!すぐに隊列を組みたてよ!」
兵士達『ハッ!!』
立てられた憶測はいつしか人々の間でのみ勝手な真実とされ、現在までに至る。
真実がそうであってもなくても、それを信じる以外に納得出来るわけもなかった。
知りたがりの人間がしそうなことだ、と精霊達は笑った。
もし封印されし竜が復活したらどうするのか。
どんなものが通用するのか。
そんなものまで憶測で伝えられた現在において、人々がこの太古の竜に敵うわけもない。
だがそんなことも知らずにのうのうと駆けつけたエトノワール王国兵士たちは、
これが効果的だと伝えられたように行動を執った。
兵隊長「伝承によればサウザンドドラゴンは毒に弱いとされている!
魔法兵団は毒魔法を、
戦闘兵団は毒の弓矢と毒を仕込んだ武器での攻撃を積極的にしてゆけ!」
兵士 『ハッ!』
遥一郎「───」
要塞の上で、大地を駆ける者たちの言葉を聞いた遥一郎は呆れる他なかった。
生き物として、毒に弱いのは当然の領域だ。
出血多量になれば死ぬし、首を完全に切断されて生きていられるものなどいないだろう。
さらに言えば既に毒魔法などかけてあり、毒状態でもある。
だというのにそれにすら気づけない頭の平和な兵士長にこそ呆れたのだ。
兵士の中にはそれに気づいている者も居るだろうが、
兵士長に意見するなどと自粛してしまう始末。
攻撃も隊列が整うまで───さらに言えば合図がなければ動こうともしない兵士たち。
自由度が無く、攻撃の機会を自ら捨てているやつらを見て、貶すかのように鼻で笑った。
あいつらに期待はすまいと。
兵士長 「てぇーーーーっ!!」
魔法兵団『はぁああーーーーーっ!!』
戦士兵団『うおぉおおおおおっ!!!』
合図と同時に矢や魔法が飛翔する。
毒魔法と攻撃魔法を隊列ごとに放ったらしく、
サウンザンドドラゴンの足元周りに爆煙がたちこめる。
だがどれもが中途半端な威力であり、
弱体カしているサウンザンドドラゴンの皮膚にすら掠り傷も負わせられない。
魔法にいたっては大魔法どころか中級魔法どまり。
随分と長い詠唱だと思ってみればこんな結果だ。
兵士長 「構えぇえーーーい!!」
あまつさえそれを見て、
ダメージがあったかどうかを確認するべく煙が消えるのを待つ始末だ。
……王国というものは硬い頭の集まりだ、
同じ訓練を同じだけしかやらせないために突飛した能力者も居ない。
地上の人々の技術などこんなもの。
これならば要塞に攻めてきた魔術師の方が、まだ役に立っただろう。
この場に居合わせたほぼ全員が、そんな思いを心の中で───
蒲田 「弱ェエーーーーーーッ!!」
飯田 「なにしに来たんだこのタコォーーーーッ!!」
佐野 「構えてる暇あったらとっとと攻撃しろアホかてめぇ!!」
───いや、心の中で思わない者たちが大半だった。
高い位置から素直に口にし、
巨竜を前に隊列をいちいち気にする兵士長へと罵倒を飛ばした。
兵士長「なんだと!?貴様ら我らエトノワール兵団を馬鹿にするか!」
飯田 「馬鹿にじゃねぇ!貶してんだこのタコ!」
バリスタ広場からたたんたんっと遥一郎の側に軽快に降りて来たのは飯田。
そこから柵に手をかけ下を覗き込んでは、
怒りに我を忘れるとともに攻撃も視認も忘れるご立派な精鋭に罵倒を飛ばした。
飯田 「アァンタァアアアアアッ!!王国でなに学んでんのォオオ!!?
なにをするかと思えば中級魔法ばっかりで、
放つ弓矢も中途半端すぎる威力でェエエッ!!
なんですか!?あれですか!
全てを投げ打つと見せかけて一番最初に投げ打ったのが匙ですか!
諦めたお医者さんみたいに匙投げですかァア!!」
兵士長「貴様こそ何を学んでいる!地上で覚えられる魔法は中級魔法が最上位なのだぞ!
そんなことも解らず罵倒するなど器が知れるというもの!
それら全てを治めた魔法兵団に恐れるものなどない!」
飯田 「うわぁ言い切ったよこの人!」
遥一郎「ちょっと待てさすがに呆れるぞ!?
要塞に攻めてきた魔術師でも上級魔法くらい使えたぞ!?」
兵士長「要塞に攻めたァ……?あぁあの平民上がりの魔術師か。
統率の取れない馬鹿なヤツだから、
位の低い兵士長の下に就かされたあいつがそんなことを出来るわけがないだろう」
遥一郎「───無視しよう」
飯田 「クズだなあいつ」
遥一郎「いや、お前らが言うな」
ヒロラインメンバーたちはもう相手にするのはやめた。
思えば敵を前に御託を並べている暇があるのなら、と自分たちで言ったのだ。
とはいえ下との話し合いは喋りながらでも魔法を放ち続けていた遥一郎にとっては、
ただ集中する時間と魔法発射速度が下がった程度の些事だったが。
遥一郎「くらえ!《ピキィンッ!》エクスプロード!」
魔法の発射から約2秒。
空より舞い降りる光の球体が地面に落ちるや大爆発を起こし、
中級魔法しか知らない魔法兵団を驚愕させた。
遥一郎「まだだ!《ゴキィンッ!》イグニート・プリズン!!」
さらに地面を燃やす炎を利用し、追加魔法を発動。
地面より灼熱の檻を出現させ、巨大な体を燃やしてゆく。
だが鱗の一つも燃やせない状況が、発動者に舌打ちをさせた。
魔法防御力を下げてもこの程度か、と。
故に思いついたのは亜人戦争で行使したディメンショナルゲート。
数々のバックアップがあって初めて使えた絶対破壊の禁呪。
だがあまりにも集中力と複雑な詠唱が必要であり、この状況で使っている暇などない。
そう己に断じた遥一郎は、杖を構えると大気に散ったマナを自分のTPに変換、
視界を閉ざし、自分の意識下に集中し、詠唱を始める。
遥一郎「無茶かもしれないけど───フルブラスト!発動!!」
喩えるならそれは歯車。
頭の中に存在する、回転し続ける歯車を無理矢理に繋げる歯車を、
最も回転を早くさせる部位に嵌めこんだような感触。
ウロボロスに備わっていたフルブラストという潜在能力を引き出し、
大魔法、最上級魔法、古代魔法、秘奥義系統魔法の連発を狙ってゆく。
今までとは比べ物にならないほど巨大な魔法陣を展開させ、
手の甲にある魔導霊章ミスティシンボルの加護の下、幾重にも魔法を連ねてゆく。
遥一郎「はぁ───んっ!グランヴァニッシュ!フィアフルストーム!
インブレイスエンド!エンシェントノヴァ!アクエリアンジャベリン!
インディグネイション!《ビギィッ!》ぐっ……つうっ……!
っ……次だ……!エクセキューション!ディバインセイバー!
イーヴィルスクレイバー!タイムブレイカー!《ズギィッ!》がぁっ!……っ!」
最上級魔法の連発。
それは脳や魔導を通す体にも影響を及ぼし、
体全体───特に脳に異常なほどの痛みを走らせ、遥一郎の詠唱の邪魔をする。
だが彼は歯を食い縛り、ここで負けたら後でも同じだと心の中で断じ、詠唱を連ねた。
マナもTPも十分。
なにが足りないのかといえば、己の魔力の許容量が低すぎるのだと。
地、風、氷、火、水、雷、闇、光、死、時と、弱点となる属性順に連ね、
地を乾かし、風を凍らせ、氷を溶かし、炎を濡らし、水を帯電させ、雷を闇で包み、
闇を光が切り裂き、死が光を閉ざし、時が死を打ち破る。
魔法で撃たれたサウンザンドドラゴンの体にはそのマナが染みつき、
間隙なく染み付いたマナの弱点である属性のマナを放てば威力は向上する。
それさえ狙っての連続魔法だった。
事実今まで然程効いている様子もなかったサウンザンドドラゴンは、
ここに来てようやく苦しむように唸り、バーサーカーではなく要塞側へと向き直ったほど。
遥一郎「こ、の……っ!痛がってる場合じゃないだろう───!」
次を、と発動させたのは然の魔法。
次いで元素魔法を繋いだ時点で遥一郎の視界がブレ、痛みに涙すら流した。
歯を食い縛ってなんとかなる痛みではない。
体中に走るマナの回路が悲鳴を上げている。
遥一郎(……そういえば、中井出が言ってたっけ───)
ブレる視界に自分が突き出している杖を見ながら、思考が勝手に動いた。
それだけでも痛いというのに、遥一郎はその思考を手放さなかった。
英雄が、倒されても倒されても起き上がるなんていう奇跡。
そんなものは夢でありまやかしであり、
幾度倒されても立ち上がるなんてこと、生き物である以上絶対に無理だと。
何故そんなことを考えたのか。
痛みはするが立っている自分には関係ないし、
そもそも戦いの中で考えることじゃないだろう、と。
だがあと最後の一歩で全てを放てるというところまで来てのこの痛み。
それに耐え、放つことは確かに英雄が立ち上がることに酷似しているのかもしれない。
立ち上がれば英雄になれるのかといったらそうではないし、
諦めたらどうにかなるというわけでもない。
選ぶのは己であり、助けてくれる者など何処にも居ない。
自分に架せる答えを出せるのは自分だけなのだ。
ならば彼はどうするのかを小さく考え、痛みに顔をゆがめながらも無理矢理笑った。
遥一郎「くらえ───!《ゴシャァッキィンッ!》エターナルファイナリティ!!」
放ち続けることでサウンザンドドラゴンの周囲に散らばったマナ全てを使い、
上空に巨大な剣を生成させる。
今だけは己を捨てようと。
今だけは後先など考えず、原中の連中のように突っ走ってみようと、彼は考えた。
───やがて舞い降りる巨大なマナの剣。
巨大な竜よりさらなる上空より雲を螺旋状に切り裂き降りる剣は、
空を引き裂く音に気づいてか剣に振り向いたサウンザンドドラゴンの眉間に襲い掛かった。
だが硬い硬い鱗はそれを通すことを許さず、降りた勢いのままに火花を散らしていた。
その火花の雨に驚いたのは、最も近くに居る麻衣香と夏子だった。
麻衣香「すごいマナの集束……!なのに貫けないなんて───」
様々なマナの複合でも貫けぬ鱗……大魔法程度では効かない事実は道理。
だがさらなるマナの集束を感じ取った麻衣香は、ハッとして手を翳した。
夏子もそれに加わり、集中する。
エクスカリバーを放った時と同じ要領───
己の魔力を援護のマナとして放出し、魔法の威力を高めるために。
───それは、それを見ていた要塞に立つ者たちも同じだった。
飯田 「シゼル様ー!」
三島 「ネレイド様ー!!」
言っていることは滅茶苦茶だったが、
まるで元気玉のために手を翳す人々のように、巨大なマナの剣に向かって手を翳した。
人も、亜人族も。
ただ王国の兵士たちだけは、初めて見る古代魔法を前に驚愕し、動けないでいた。
───マナが弾け続ける。
剣の先と竜の眉間が火花とマナを散らし、散る音とともに響き渡る轟音は、
既に人が日常的に聞ける音とは明らかに違う戦慄。
寒気さえしてくる激しい瞬きと輝き───
そして負けてなるものかと魔力を流し続ける人々。
だが元を辿れば全ては防衛本能と防衛本能のぶつかり合い。
攻撃されるから攻撃するという原子的なものへと帰るソレだが、
力の差が歴然としているのならせめて数ではと力を込めた。
人と、亜人と───そして、精霊が。
その時、奇跡が起こる。
精霊の後押しがマナを変異させたのか、火花とともに散らばるマナが剣の周りに集まると、
まるで衝撃波で後押しをするように弾けた。
幾度も、幾度も───。
飯田 「ゲーーーッ!エ、エターナルインフィニティ!」
蒲田 「ウワーーーッ、本来極光壁という壁を作るべき技が、
カタパルトの役目となって剣を押し出した〜〜〜っ!」
遥一郎「わざわざ口で説明するなぁあーーーーっ!《ずきぃっ!》ぐあああ!!」
三島 「やーい!ツッコミで頭痛めてやんのー!バッカでーーっ!」
遥一郎「あのなぁあああ……!!」
弾けた魔力は尋常ではない。
幾度も幾度も弾けてはサウンザンドドラゴンの鱗を破壊せんとする剣は、
弾かれるごとに輝きを増し、少しずつではあるがサウンザンドドラゴンを圧していた。
だがそれに気づかないサウンザンドドラゴンではない。
再び体質を変化させ、眉間から角を生やすと、それを以ってマナの剣を逸らしに入った。
飯田 「うぅわずりぃ!なんだよあいつ!」
蒲田 「ドラゴンだ!」
飯田 「いやそういう直球的なこと訊いてるんじゃなくて!」
三島 「こうなったらこっちも変形だ!穂岸!てめぇの力───見せてやれ!!」
遥一郎「出来るかぁっ!!」
三島 「え……出来ないの?」
蒲田 「だったら次なる魔法だ!追加魔法が得意なお前ならきっと出来る!」
遥一郎「こっ……ここまで繋げるのにどれだけ苦労したと思ってやがるーーーーっ!!」
悪態は既に突き放題だった。
緊張はしているのだが周りが緊張し続けることを許さぬ状況で、
遥一郎はただただ頭を痛めた。
視界は変わらずブレていて、間を置いたとはいえマナを放ち続けているのだから当然だ。
その上でさらに繋げるとなれば、それこそ回路がイカレかねない。
しかして、これほどの高位魔法をつなげたことも初めてなら、
これほどの無茶をしたことも初めてだろう。
ならば今さらあと一歩を躊躇する理由が何処にあろう。
遥一郎はもう一度、肺の隅々にまで酸素を送ると───
目を見開くくらいの勢いでサウンザンドドラゴンを見据えると、口を開いた。
遥一郎「深淵なる極限の闇……!フィナリティ・デッドエンド!!」
弾けさせた魔力が、散らばり続けるマナが、弾かれんとする剣が、闇の雷へと変異する。
ソレはサウンザンドドラゴンを包み、焦がし、
エクスカリバーによって切り裂かれた胸部を容赦なく焼き付けてゆく。
飯田 「おお!ファイナリティ・デッドエンドだ!」
三島 「シゼル様ー!」
皆川 「こうきたらあれっきゃねぇだろ!今じゃ!パワーをメテオに!」
下田 「いいですとも!」
蒲田 「そうじゃねぇだろうが!み、みんなー!今こそ俺達の力を見せてやる時だぜ!」
島田 「言われなくても解ってるぜ〜〜〜っ!MND───全開!!」
あらぶる闇の雷を見た全ての者達が手を翳し、MNDをマックスにさせた状態で望む。
奇跡をと。
今度は王国の兵士たちも一緒に、ただ希望に導かれるように───手を翳していた。
そして叫ぶ。
その名を知る者だけが、高らかに。
総員 『紡がれし光の波動……インフィニティーリヴァイヴァーッ!!!』
発動するかどうかも解らないもののために叫び、結果はなにも起こらない。
それに嘆く者は居なかったが、叫び続け、魔力を放出し続けるやつらは居た。
……それは、サウンザンドドラゴンに立ち向かう全員だった。
飯田 「リヴァイヴァーが発動しない!───何故!?」
蒲田 「魔力が足りてねーんだ!もっと!もっと魔力を!」
島田 「ンなこといったってどうやって!」
シェーラ「───こうすればよい」
手を翳し、力を放出し続ける者たちの前に現れたのは月の天使たち。
飛翼をはためかせ、要塞とサウンザンドドラゴンの間に飛翔し、体から光を放ち始めた。
───この世界では、月の力はマナを増幅させると言われている。
海の水が満ちるように、月の花が花開くように、その力は神秘にして偉大。
ならば、皆と同じくマナを放つのではなく、この膨大な量のマナを増幅してやれば───
───奇跡はまた、訪れる───!!
遥一郎「───!来た!」
マナの流れが完全に一本の道となり、
バラバラだったマナが、死にゆく筈だったマナが蘇るのを一番に感じたのは遥一郎だった。
それをきっかけに、
自分から流れてゆく魔力が増幅されるのを感じた者達の胸に希望が芽生える。
そして叫ぶのだ。
今度こそはと───失敗は有り得ないと断じた上で───!!
総員 『紡がれし光の波動ォオオッ!!
インフィニティィイッ!!リィイヴァイヴァァアアッ!!!』
叫ぶと同時に魔力が金色の輝きを放ち、
黒の雷が光の柱となってサウンザンドドラゴンを攻撃する!
光の粒子一つ一つが破壊のマナとなり、
サウンザンドドラゴンの鱗さえ砕いて甲殻を貫き、
あれほど頑丈であった筈のサウンザンドドラゴンを圧倒してゆく───!
遥一郎「っ……うぶっ!?《ゴプッ……!》」
澄音 「穂岸くん!?───う、くっ……!」
だがそんな魔力を放てば、放ったものとて無事には済まない。
遥一郎の回路は内側から砕け、その影響か血を吐いた。
魔力を放出した者たちにも似たような症状は起こり、
眩暈を起こし、中には倒れる者も居た。
だがどれも遥一郎ほどのものではない。
ここまで繋げるのに無茶をした彼は既に脳に損傷をきたし、目が見えなくなっていた。
マナを紡ごうにもマナを探れず、そうするための感覚すらもが砕けてしまっていたのだ。
邪魔な鱗は破壊した。
ならばあとは追撃を加えるだけだというのに───
遥一郎はこの時になってようやく、澄音が呟いた“悔しいな”の言葉の意味を噛み締めた。
知っているのだ……この感覚を。
抗うことが出来れば乗り越えられる筈なのに、抗うことが出来ない辛さを。
澄音 「無理だよ、穂岸くん……無茶のしすぎだ。
妖精に癒してもらわないと、キミの体が保たない……」
遥一郎「……、……」
ああ、と口にしたつもりが、彼の口から漏れるのは掠れた吐息だけだった。
飯田 「そう、だぜ……!なにせこっちにゃ……う、ぐっ……!
ほ、うだんが……あるんだからな……!」
蒲田 「うげっ……ぐ……!バリスタなら……任せとけ……!」
三島 「っ、……魔力の枯渇が……こんなに辛いとは……思わなかったな……」
大打撃は成った。
だが、そのための消費は尋常ではない。
古の竜を砕く光は既に消え、身を守る甲殻の大半を破壊され、
ところどころから血を流すサウンザンドドラゴンが残されているのみだ。
ここまでくればバーサーカーの攻撃はとても有効であり、
振るう斧はサウンザンドドラゴンの肉を裂いた。
───響く絶叫。
エクスカリバーの傷を抉るように振るわれた斬撃は血の雨を降らせ、
サウンザンドドラゴンを追い詰めてゆく。
飯田 「漢神の祝福使ったら……マシになると思うか……?」
蒲田 「や、やめとけ……!それ絶対にやめとけ……!
多分これ、TPがどうとかの問題じゃない……!回路側の問題だ……!」
空界側の回路が、膨大な魔力の放出に耐えられなかったのだろう。
マナに魔力を託しただけで疲労困憊になり、立っているのもやっとな者が大体だった。
が───それだけの苦労をかけた魔法も、全てが無駄になる。
───最初にその異変に気づいたのは、やはり近くに居た麻衣香と夏子。
メキメキと音を立てて再度変異する体からは、鱗とは別の何かが生えていっていた。
麻衣香「なに、あれ……───鏡……?」
喩えるならば鏡。
だがその実、それは丹念に磨き上げられたかのような大きな堅殻。
鱗が繋がったようなそれは鱗とは比べ物にならぬほど巨大であり、
陽光を受け、反射する光はその姿さえ眩く隠すように光り輝いていた。
飯田 「……うわー……」
蒲田 「皆まで言うな……俺もう予想ついた……」
三島 「もう……魔法は使わない方がいいな……」
鏡面といえば反射。
悠介のイージスを見ているやつらは極々普通に魔法は使わないようにしようと諦めた。
そのまま砲弾を撃つも、直撃したというのに傷もつけられない事実に心底落胆したという。
兵士たちが腰を抜かし、口々に勝てるわけがないと言うのも頷けるというものだ。
だがダメージは確かに与えた。
あの鏡面になにが有効なのかは解らぬままだろうが、
それ以前に与えたダメージは蓄積されている筈だと、戦い自体を諦めることはしなかった。
飯田 「俺……今とってもゼットに会いたい……」
蒲田 「破壊が上手そうだからなー……」
三島 「───おお!サウンザンドドラゴンが口を開けた拍子に砲弾が口の中に!」
皆川 「おぉっはっはっは!!爆発した爆発した!苦しんでる苦しんでる!」
総員 『そして俺達も苦しい……』
だがそれが火付けとなったのか、それぞれは持ち場に付くと、
砲弾やバリスタをサウンザンドドラゴンの口目掛けて放ちまくった。
その狙いに感づいてかサウンザンドドラゴンは飛翼を広げ、
高く咆哮すると───
なんと巨体であることを忘れたかのような速度で要塞目掛けて飛翔する!
飯田 「うわぁああああっ!!?ととと飛びやがったぁあああっ!!!」
兵士たち『ひぃいいいいっ!!?』
皆がその迫力に悲鳴を上げた。
あんなものが突撃してくれば、いくら要塞といえど一溜まりもない。
兵士たちは怯え、猛者連中も慌てふためいた。
───だが。
アイルー『ニャハハハハ……大層な元気ニャ。
けどボクら亜人種はあの頃の旦那さんの恨みを忘れたわけじゃないニャ。
受けてみるニャ!猫印の炸裂弾-バッドエイジ-!!』
一人……否、一匹のみ勇敢に砲台の前に立ち、
特性の砲弾を詰めて発射させる猫の姿があった。
飛翔する巨竜と砲弾。
巨竜はなにするものぞと砲弾を無視して突っ込んでくるが、
それが顔面に炸裂した時───状況は変わった。
サウンザンドドラゴン『ルガァオガァアッ!!?』
耳を劈く音と、今までとは違う反応。
今まで散々の砲弾をくらっても怯まなかった巨竜が、たった一撃の炸裂弾で───
怯むどころか後方へと思い切り吹き飛ばされたのだ。
バーサーカー『ゴガァアアアアアッ!!!』
そして、後ろから疾駆して来ていたバーサーカーに尻尾を掴まれ、
その後方の地面へと叩きつけられる。
飯田 「オッ……アッ……!?」
蒲田 「な、なにごとォオ!?」
アイルー『いつか来るこんな時のために、
たった一発にボクの猫人生を込めて作った秘密兵器ニャ!
倒すまではいけないにしても、古い旦那さんの一矢は報いたつもりニャ!』
バーサーカーが暴れる。
地面に叩き落としたサウンザンドドラゴンの顔面に蹴りを打ち下ろし、
頭部の鏡を全体重と筋肉の力を以って破壊する。
それから幾度も足を落とし、拳を落とし、斧を落とす───が、
敵もやられっぱなしなわけがない。
長い尻尾をバーサーカーの体に巻きつけ、
呆れるくらいの巨体をその尻尾だけで持ち上げ、同じく地面に叩きつけた。
飯田 「……はは……俺……帰りてーかも……」
震動は浮いている要塞にまで響き渡り、大気が震えているのが解った。
二つの巨体がぶつかり合いを始めると、兵士たちは耐えられなくなり逃走。
腰が抜けた兵士長を置いて走り出していった。
だがそんな小さなこととは関係無しに巨体はぶつかる。
片や鏡を砕く狂人、片や鎧を斬り裂く巨竜。
二体の戦いは天災レベルにまで達し、
近くの山々は言うに及ばず、立派に聳え立っていた遠くの山までをも破壊する。
吹き飛ばされれば吹き飛ばされるだけ壊れゆく景色を見て、
小さき者たちは震えるばかりだった。
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