───冒険の書251/VS刻震竜7───
【ケース604:弦月彰利/やれることをやりなさい】
キィイイ───イィイ……ン……!
彰利 「ウ、ヌウウ……」
気づけば教会に居た。
目の前には神父で、周りは……死々累々。
今なお筋肉痛に苦しむ人々でごった返している教会の中で、俺は静かに溜め息を吐いた。
……途端。
ピピンッ♪《強制イベントが発生しました》
彰利 「キャア!?な、なに!?なんなの!?」
なにやらログに危険な文字が!
強制イベント!?なに!?……って、メールだドゴォーーーーン……!!
彰利 「………」
メールが届いた途端に、どっかで聞いた覚えのある爆発音。
……中井出花火、だよね?
驚いたなぁ、あいつ噛み砕かれてたのに生きてたんか?
噛み砕かれてる途中で瀕死になったから逆鱗が発動したとか?
まあいいコテ、今はメールだ。
◆特殊メール
このメールは特殊な技能を閃いたのちに、
一日を待たずして死亡した人へ送られるものです。
閃いた能力がどうにも使いづらかった、もしくは別の能力がいい場合、
特定の条件下においてのみ変更が可能です。
あなたの能力/ネロ=アビス
この能力は現在、九頭竜闘気側への変換が可能です。
同時にアンギアの能力も変更されます。
この能力を変更しますか?
…………。
いや、変更しますか?と言われても……チュミミミィイイイン♪
中井出「やあ」
彰利 「……すげぇスッキリ現れんねぇキミ」
どうやら死んだらしい中井出が、神父前に光臨めされた。
と同時に、視線を動かして首を傾げている。
中井出「……メール?能力の変更って……」
彰利 「おや」
メールらしい。
しかもアタイと同じものっぽ───
中井出「イエス!!」
彰利 「速ェエーーーーッ!!!」
い、と思うより先に中井出が能力変更を決定!
直後に中井出の霊章の紋様が変わり、ボシュンッ!と一度火闇を噴き出した。
彰利 「キ、キミねぇ……もうちょい考えなくてよかったん……?」
中井出「いや……俺デビルメイクライのことよく知らないし。
スナッチって言うんだろ?あの手みたいなの伸ばすやつ」
彰利 「知らんかったの!?……って、ああそっか。
そういやキミ、空界暮らしが長くて、ゲームから離れて久しいんだっけか」
中井出「うむ。よく知らん技に身を委ねるのも面白そうだが、
俺は技術ではなくパワーでいくことにした。
名前はジャバウォックのままだけど、
能力はベルセルクがやってた火闇操作と同じものになった。
ジャバウォック=スタイリッシュモードの時みたいに、
振り回したりだの叩きつけまくったりだのと、
器用なことは出来ない分、直接的や直線的な行動に長けるようになった。
その名もジャバウォック=ベルセルクモードだ。ジャバウォックって呼ぶけどね」
彰利 「………OKトニー!」
ならば俺も抜け出そう!
ジジイブレードが使えなくなるのは残念だが、まあ能力はそれが全てじゃないし!
はいスイッチオン!
ギピンッ♪《設定を確認しました》
ピピンッ♪《武具が格闘武器に変異!黒死霧葬拳ダークマターに変化!》
ピピンッ♪《強制合成!レヴァルグリードとダークマターが合成されました!》
ピピンッ♪《ネロ=アビスが“霧装ニーベルマントル”に変異しました!》
ピピンッ♪《黒操術が強化!闇と影の具現が容易になり、夜のスキルが強化!》
……うおう。
嬉しいことに武具が体術武具になってくれた。
他にもいろいろと能力が追加されたようだけど、今はこれが一番嬉しい。
彰利 「中井出中井出!そっちはどうかね!?なにか特典あった!?
アタイ、ダークセンチネルとアモルファスが召喚できるようになったYO!
あ、前から出来てただろってツッコミは、形だけだったってことで。
あんなの人形劇と変わりませんから、ハイ」
中井出「そうか。ちなみに俺の特殊能力は教えてやんねー!くそしてねろ!!」
彰利 「ななななんだってぇええーーーーーっ!!?」
しもうた!図られたわ!気分的に!
でも言ってる場合じゃないからそれでよし!
中井出の方だって直接的だの直線的だのの能力に長けるとか言ってたし、
それが解っただけでいいってことで!悔しくなんかないやい!
とか思ってたら中井出は装備を巨大鞘に変えて、剣を納めて背中に背負った。
……なにかするつもりなんかね。
彰利 (…………よし解らん)
などと心の中で溜め息を吐いていると、中井出が俺の目を見て言った。
中井出「……どーするよ、彰利」
彰利 「どーするったって……まいったなおい」
そう……そうだ。
バケモンを見た。
時間を操る竜だ。
止めたり飛ばしたりカウンターしたりって、そりゃもう滅茶苦茶な───
声 「メメメメメェエエエデェエエーーーーッ!!!
サウザンドドラゴンがこっち飛んできてるぅーーーーーっ!!!」
家系関係者『なんだっ《ズキィーーン!!》ギャアアアアアア!!!』
叫ぶや、痛みにのた打ち回る僕の“同胞”と書いて“はらから”と読む。
だがしかしサウザンドドラゴンが来てるって言われて黙ってなどおられん!
彰利 「ああもうどうするよ!いくっきゃねぇ!」
中井出「物凄い速度の自問自答だな!よろしい!ならば突撃だ!」
麻衣香「ちゃっと待ってヒロちゃん!無闇に突っ込んでも死ぬだけだよ!」
彰利 「おや麻衣香ネーサン?戻ってたん?」
中井出「止めないでくれ麻衣香……!今やらなければならないことなんだ!」
麻衣香「ヒロちゃん……!」
あれ?無視?
つーかいきなり謎空間が展開されとるんですけど。
なにこのホームで別れるカップリャみたいなの。
麻衣香「どうして……?どうしてそんなに今にこだわるの……?」
中井出「……今まで黙ってたけど、僕は末期ガンなんだ」
麻衣香「そんな……あと何ヶ月の命なの?」
中井出「あと20秒だ」
総員 『早ェエーーーッ!!《ズキィーーーン!!》ギャアーーーーッ!!』
一ヶ月どころか一週間はおろか一日すらなかった。
悠介 「提督ぅうう!!こんな時にそんなことやってる場合じゃないだろぉ!?」
中井出「む?だがいい感じに息抜けただろ?危機にこそ息抜きだぜ!」
悠介 「へ?───あ」
彰利 「……てめぇって時々すげぇよね。OK、いい感じだ」
いわれた通り、息抜きというか気が抜けたというか。
いい感じに頭の中がリセットされた気分だった。
中井出「ワハハハハハ!僕と麻衣香は以心伝心が出来そうでいて出来ないのさ!
だからまあ勢いだけで適当に喋ってたらなんとかなりました。
というわけで彰利一等兵!戦いが貴様を待っている!」
彰利 「え?俺?」
悠介 「彰利?……なにか秘策でもあるのか!?」
彰利 「ありませんよそんなん!なんで俺!?」
中井出「いや……ヤツの能力を見極めたっぽかったから。きっとすごいんだぜ?
ソウルスティールの見切りを授けられたジェラール並みに能力を見切ったんだ」
彰利 「やっ……!見切ったっつーか……!エィイ!見切ったっつーより理解しただけだ!
ヤツの能力は時!時間停止はもちろんのこと、時間飛ばしまで使ってきやがる!
時間飛ばしってのはアレだ!ジョジョでディアヴォロが使ってたアレ!
キングクリムゾンね!?アレとまったく同じと考えてヨロシ!
……ただし飛ばした時の中を動けるってのはないみたいだ」
だってせっかく時間飛ばしたのに、一歩も動いてなかったしね。
悠介 「飛ばした時の中じゃあ誰もが平等ってわけか。
そりゃそっか、飛ばされたんじゃあ誰の自由にもなるわけがない」
声 「おおおおい!?誰か居ないのかぁあっ!?強い人!誰か!誰かぁああっ!!」
彰利 「外が騒がしいねィェ……せっかく状況整理しとんのに」
遥一郎「この状況で状況整理出来る神経も相当だと思うが……」
彰利 「む?……おやホギー。もう大丈夫なんかい?」
遥一郎「ああ、大分休ませてもらったお陰で回復した。……それより状況は?」
中井出「株価が下がっております。早々に売却したほうがよろしいかと」
遥一郎「冗談はいいから」
彰利 「アタイと中井出で限界ブッチギリバトルやってきたけどボロ負けした。
敵さんは随分とスリムに」
どごぉおおおおおんっ!!!
彰利 「なっキャアーーーーーッ!!?」
説明途中で突如浮遊要塞を襲う地震!!
何事!?などと考えるより先に原因が解ってちまう僕らはもうヤバイです。
中井出「ついに来たっ!東京大地震だ!!」
彰利 「マジで!?サウザンドドラゴンがぶちかまししたんじゃなくて!?
じゃあ悲鳴を“ギャッ”に言い換えなくてはならんな!!」
悠介 「遊んでる場合じゃないだろうが!!《ズギィッ!》いぢっ……!!」
彰利 「すっこんでろこの筋肉痛めが!
アレほど筋トレはほどほどになさいと言っておいたのにこの子ったらもォオ!!」
悠介 「俺か!?この筋肉痛は俺の所為か!?」
中井出「そうだ《ボゴォッ!》ビップス!」
ベポラップ。
とりあえず電光石火で殴られた中井出はほっとくとして、
俺達は教会を出て外へと走り出た。
───すると、縮んだとはいえ嫌でも目に入る、宙を飛び交うサウザンドドラゴン。
彰利 (う、……くぐっ……!)
途端に体が震えるのを感じた。
平然を装ってはいるが、内心は怖くて仕方がない。
家系に戻ったってのも理由に入るかもしれないけど、いろいろなものが怖く感じる。
なによりも死ぬのが怖くなったし、
こんな強いやつを目の前にして平然ではいられなくなっていた。
人に近づくってのはつまり、こういうことだ。
中井出の言うとおりだろう。
人ってのはとことんまでに弱い。
精神的にも肉体的にも、様々なもので様々な種族に負けている。
仕方のないことだと言ってしまえば終わりだ。
だが俺は……俺達は、そんな人間でしかないやつの無茶な生き様を見てしまっている。
怖くて仕方がない筈なのに無茶をする馬鹿野郎を知っている。
……歯ァ食いしばれ弦月彰利。
どんな状況でも、どう捉えるかは自分次第だ。
絶対絶命のピンチにだって、自分が気づいてないだけで活路があるのかもしれない。
まずそれを知れ。
死中に───活ありだ!!
ドゴォッパァアアン!!!
刻震竜『グオルギャァアアアアアッ!!!』
彰利 「オワッ!?」
いよいよ突っ込んできたサウザンドドラゴンの顔面が、巨大な爆煙で包まれる。
途端にサウザンドドラゴンの体が後方へと思い切り吹き飛び、大地に激突する。
こりゃいったい───?
アイルー『みんな踏ん張るニャー!特性弾はあと数発あるから、
これが無くなるまでになんとかすれば大丈夫ニャー!』
……猫だった。
一番先端の砲台で輝く弾を放ち、サウザンドドラゴンを吹き飛ばしたのだ。
彰利 「───《バンパンッ!!》ギャア痛い!!」
頬を思い切り叩いて気付けをする。
そうじゃい!猫が頑張ってるのに燻っててどうするか!
合言葉は“燻るハートを地獄の業火で焼き尽くせ!”だ!
火をつけるだけなど生温し!!業火だ!心の巴里に火をくべろ!!
彰利 「いいかねみんな!言った通り、敵は無敵に近い能力を持っとる!
───あ、時止め&時飛ばしね?
今のアタイじゃ時止めには少しは抗えるけど、時飛ばしには対抗出来ん!
やられたことに気づけない上に、やられた時にはもう飛んだ先に存在してるから!
時飛ばしに関しては抵抗のしようがないってわけさ!
よ〜するに……俺達の命運は……尽きた……」
遥一郎「随分と諦めるのが早いな!キリッとした目になったと思ったらもうか!?」
見渡す限り、広場の外側にぎっしりと設置された砲台から放たれ続ける大砲が、
サウザンドドラゴンをなんとか引き止めてる中。
俺はただただ頭を抱えるしかござんせんでした。
死中に活ありっていったって、そげなもんがポンと浮かべば誰も苦労はせんのだ。
中井出の愉快な脳ならなにか導き出せんかな〜とか思ったが、
チラリと見た彼はニコニコ笑顔で猫から回復アイテムを購入しているところだった。
……どこまでマイペース大王なんだろうねこいつ。
悠介 「……猫とドワーフたちが精霊たちと作ってくれた兵器も、
無駄になっちまうってことか?」
中井出「兵器?」
悠介 「ああ。穂岸が猫と一緒にアンヘル素材を使って作ったレーザー砲だ。
殊戸瀬が部品の余りで作ってもらった属性大砲とは違って、
レーザー砲はマナを力に変えて放つものらしいんだ。つまり魔法大砲だな」
中井出「ホギホギが設計したのか」
遥一郎「ホギホギ言うな。設計したっていうよりは、
そういうものを作れないかって訊いてみただけだよ。
そしたら“やってみるニャ”って言われて……ほら、あそこ」
彰利 「ウィ?」
促された先、教会の下の広場に、巨大な機械の塊が鎮座ましていた。
それぞれのアンヘル素材が使われるためか、ヘンテコなくらいカラフルだ。
その先の崖っぷち付近で大砲を撃ちまくってるのはドワーフや猫や天使だった。
妖精どもは回復に専念しとるらしく、ここには居ない。
遥一郎「この要塞から掻き集めたマナがあの中で渦巻いてる。
相当無茶して詰め込んだマナだ。撃ててせいぜい一発。けど破壊力は無類だ。
ここのマナさえあればチャージなんてのは無限に可能なんだが、
アンヘルカノン自体が保たない。
だから一発。確実に当てられるって判断した時に撃つ」
彰利 「お、おお……」
いいね、そういうの。
アタイそういう博打めいた状況って大好き。
彰利 「よし、光明は見えた。いくぜ中井出。
俺とてめぇとでサウザンドドラゴンを抑えんのYO」
中井出「いや。俺も溜めてるから勘弁ノリスケ。───ゆけ!宮毘羅大将!!」
悠介 「……………………え?俺?」
ジ〜〜〜っと見られてた悠介が自分を指差し、言った。
彰利 「よろしく宮毘羅!!」
悠介 「ノリがいいのも大概にしろ!!大体!俺はまだ筋肉痛がだなっ……!」
彰利 「じゃあホギー!」
遥一郎「俺は魔導砲発射役だから無理だ。ああ、レーザーのことだぞ、念のため」
中井出「じゃあ…………あ」
彰利 「ウヌ?」
───……あ。
藍田 「うおお玉が切れた!ナギ助!玉!玉を!」
ナギー『ええいぎゃーぎゃー喚くでない!男であろ!
もっとどっかりと構えて望むのじゃ!あそこのヒロミツを見るのじゃ!
目の前にサウザンドドラゴンがおるというのに焦った風情も見せぬであろ!?
……うむ、豪気なものよの』
藍田 「そりゃ目の前で対一で戦うことに比べりゃ、眺めるくらいどうってことないだろ。
ところで豪気と剛毅って、ほら、こう書くやつな?
この状況で言う“ごうき”ってどっちが合ってるんだ?」
ナギー『豪気と……こっちのほうであろ?ヒロミツは豪放磊落()じゃからの』
藍田 「ああ確かに」
藍田くんとナギ子さん発見。
と思いきや、ナギ子さんは玉を生成するととっととゴシャーと飛んでいってしまった。
ああして玉を生成して回ってるんだろう……それこそ豪気なもんだと思うが。
ていうかナギ助って漢字の勉強でもしたの?
悠介 「期待されてるぞ提督!」
遥一郎「頑張ってこい中井出!」
中井出「え?俺?な、なんで俺期待されてるの!?た、溜めてるって言ってるじゃん!」
みさお「なにをですか?」
中井出「おやみさおちゃん。───うむ!超極悪攻撃をである!
あまりの恐ろしさ故に忘れ……ああいや、……うん、まあ忘れてたんだけど。
だがしかし!これが溜め終わり!当てることが出来たなら!
勝つのは僕らだ!……と信じたい」
希望的な考えが盛りだくさんだった。
彰利 「キミねぇ……ちったぁ自信満々にズガーと言えんの?
見りゃ解るし感じりゃ解る。ソレ、確かにとんでもなさそうな力だ。
当てれば……倒せるかは別として、確実にモノスゲェダメージ与えられる」
みさお「ええ。ですが肝心の当てる側である中井出さんがそんなのでは、
いざという時に外してしまいます」
中井出「外してもいいじゃない」
彰利 「ゲェエーーーッ!すげぇ大胆発言!」
悠介 「いや……あのな?外したら大変なことになるんだが……」
中井出「うむ!エトノワールが襲われるだろうな!
だが俺にはエトノワールの都合など関係ねー!
倒して素材が剥げれば俺はそれでいいのよ!
……冷静になって考えてみるんだ。自分の目的を忘れるな。
敵がエトノワールを狙ってるからつい守るみたいな形になって、
それが必死になってくるからついつい忘れがちになるが。
エトノワールを守る理由はなんだ?───彰利一等兵!」
彰利 「イェッサァ!それは──────……あれ?なんだっけ」
あらあら待ちなさい?
そういや必死こいてギャーと戦ってるけど、守る理由なんぞあったっけ?
あたしたちゃ冒険者ですよ?それが何故、恩も義理もない国を守らにゃならん。
あそこに大切な仲間が居らっしゃるわけでもなし……あれぇ?
彰利 「───理由なんかねーや」
悠介 「お、おいおい……そりゃないだろ」
中井出「では晦一等兵!」
悠介 「サーイェッサー!!…………あれ?」
彰利 「結局キミもじゃないのさ!」
悠介 「ま、待て待て、いや、そりゃな?……うう」
みさお「助ける理由なんて、
そこに居たままじゃ死んでしまう人が居るから、で十分じゃないですか!
なにを躊躇することがあるんです!」
中井出「じゃあみさおちゃん!国のみんなを安全な町に転移させるのだ!」
みさお「…………どうしましょう、理由がなくなりました」
みさおさんキミもですか……。
遥一郎「いや、住み慣れた家とかが壊れるかもしれないだろ。住む家がなくなるのは……」
中井出「冒険者である僕らが何故彼らの家の心配をしなくちゃならないんだ!
僕らは傭兵でも助っ人でもないだろう!
……つーか僕魔王だし、エトノワール王直々に指名手配されてるんですけど」
総員 『………』
いや……まいったねこりゃ。
ここに来て戦う理由を潰しますかこの野郎。
悠介 「提督……お前はそれでいいのか?転移させるにしても見殺しにするにしても、
結局“助けなかった”って事実は残るんだぞ?
それって、努力もしないで見捨てたってことに───」
中井出「晦一等兵!」
悠介 「!《ビシィッ!》サーイェッサー!!」
中井出「偽善は捨てよ!この世全て、善など偽善!むしろそう思え!貴様は特にだ!
自分にとってのメリットがどうかをまず考えろ!……違うよ!弱酸性じゃないよ!
妙なことはツッコまなくていいよ彰利一等兵!」
彰利 「サーイェッサー!!」
中井出「いいかヒヨッ子ども!戦いとは純粋なものである!
誰かを守るためってのが己の深淵から生まれた、よほどに深いものなら良し!
だが力があるから助けるなど……そんなものは純粋ではない!」
彰利 「サー!発言許可を!ではサーはどんな気持ちでこの戦いに望むのでありますか!」
中井出「え?俺?刻震竜素材が欲しいだけだけど。
国の連中がどうなろうと知ったことではないわグオッフォフォ……!!」
総員 『うぉあすげぇ正直だぁあーーーーーっ!!!』
みさお「な、中井出さん!人として恥ずかしくないんですか!?」
中井出「他人の人間像など知ったことではないわ!俺は俺が俺らしくあればそれでいい!」
遥一郎「こ、こいつ……!」
総員 『クズだ……!』
ほんとクズである。
覚悟も決まってキリっとしてるなーとか思った矢先だから、もうほんと落ち方も半端ない。
じゃけんども冒険者としてはこれ以上ないくらい立派だろう。
いちいち会う人会わない人の命まで気遣ってたら、楽しむことなぞできんもの。
いやね……もうほんと、死ぬ前までの切羽詰った心とか、
復活してから見たサウザンドドラゴンの怖さとか、
シュゴーと何処かに飛んでいってしまった。
危なや危なや……まぁ〜た詰まるところだった。
多少力に目覚めたからって、誰かを守らなきゃ〜なんて気持ちが生まれてた。
力があるなら守らなきゃいかんなんてことは、守りたいやつだけにやらせときゃいいのだ。
俺達ゃ冒険者だ。国を守るための仕事をしてるわけでもなければ、
誰かを守るために生きてるわけでもない。
そうYO!アタイは家族を守れてりゃそれでいいのYO!
中井出「じゃ、いこう」
悠介 「結局行くなら今までの問答はなんだったんだよ!」
中井出「てめーにゃ教えてやんねー!くそしてねろ!!」
彰利 「まさに外道!!」
悠介 「あのなぁあああああっ!!!」
中井出相手にまともな問答が通用する筈がないのに。
悠介もいい加減、学ばなけりゃあ……いかんよ?
中井出「つーわけでみさおちゃん一緒に来てくれ!あ、月影力繋ぐの忘れずに。
マナを通せば筋肉痛の治りも速いから」
みさお「え?わ、わたしが行ってなにか役に立つんですか?」
中井出「無条件でゼットがついてくる」
彰利 「あの……今だから言うけど、無言でみさおの傍に居るお前、キモイよ?」
ゼット「黙れ」
黙れって言われた……。
物凄い真顔で黙れって……愛の貴公子に言われた……。
なんだろう……物凄くショックだ……。
中井出「あ、ちなみにゼット、来るか来ないかは貴様の自由意志に任せる。
俺は月空力の転移が必要になるだろうからみさおちゃんを指名するだけだし」
彰利 「だったらアタイがやってやらぁ!」
中井出「否!この作戦、引き付けるのは二手のほうがよろしい!
オーソドックスパーティーでいこう!戦士=俺!魔法使い=ホギー!
僧侶=みさおちゃん!破戒僧=彰利!───OK!?」
彰利 「破戒僧!?はか───えぇ!?いつから破戒僧って職業になったの!?
つーかオーソドックスパーティーに破戒僧!?この場合アタイ武道家っしょ!」
中井出「武闘着の前方に“楽”一文字があるのか?」
彰利 「ただの山賊だよそれ!」
ゼット「待て、中井出博光。俺も行く。
ようはヤツを引き付け、そこの男が放つ魔導砲を当てればいいんだろう?」
中井出「イグザクトリィイ〜〜〜」
その通りでございます。
しかしねぇ……。
彰利 「ちと待てナッキー。当てるにしたって時飛ばされたら終わりだろ?
引き付けたとして、撃って当たる確実性はねぇぜ?」
中井出「や〜……大丈夫だろ。飛ばした時の中で自分が動けないんじゃ、弱点だらけだし。
むしろ全然倒しやすくなったぞ?……なぁホギー」
遥一郎「ホギー言うな。……けど、まあ……そうだな」
彰利 「エ?」
倒しやすくなった?何故?
戦ってみた俺としては、滅茶苦茶戦いづらくて参ってたんだけど……って待て。
中井出の言葉を難しく考えるコトナカレ。
ヤツは倒しやすくなったと言った。うん言ったね。
倒しやすくと戦いやすくは違う。
倒しやすく……──────あ。
彰利 「あ、あーあーあー!解った解った!確かにこりゃザコだ!いやザコは大げさだ!
つまりアレじゃろ!?引き付けるアタイたちはtellで連絡取り合う必要がある!」
中井出「うむ!解ってくれたようで嬉しいぞ彰利一等兵!ではGOだ!
このクソッタレなバトルに決着というものをつけるのだ!」
みさお「あ、あの?そんなに簡単に倒せるんですか?」
中井出「“倒す”のは簡単だ!討伐って意味での“倒す”な!?転ばせるの類ではない!
だが戦うのは大変だ!この意味をよく考えるのだ!───GO!!」
彰利 「オイサー!」
みさお「と、とりゃさー!!」
みさおさんとともに中井出に影を伸ばし、加護をやマナを受け取りつつ飛び出した。
さあまいりましょう!御託の時間は終わりだぜ!
中井出「ゼェーーット!彰利の方を頼む!俺の方は人数が少ないほうがやりやすいんだ!」
ゼット「む───いいだろう!ひとつ貸しにするぞ!」
中井出「ええっ!?なんで!?」
みさお「…………《かぁああ……!》」
翼を生やしてゴシャーと飛んできたゼットとともに飛翔すると、
顔を赤くしたみさおさんや、疑問を抱く中井出が離れてゆく。
まあ……つまり、貸しにしたくなるほどみさおさんと一緒に居たいんだろうねこいつ。
色ボケドラゴンだな、うん。
よっしゃあ!ほいじゃあいっちょやったるかい!
【ケース605:中井出博光/進化する怪物】
ドゴォオッシュゴシャーーーアーーーーッ!!!
中井出「各馬一斉にスタートォッ!!」
もうスタートとしてるけどね!
というわけでランドグリーズに乗って空をゆく!
ランドグリーズ状態じゃクサナギ噴射は無理かな〜と思ったものの、
男爵様状態の時でも出来るんならなんとかなるだろう、という考えで今に至る。
左腕にはみさおちゃんを抱き、右手をサンバイザーにするみたいに額に当てている。
孫悟空さんってどうして筋斗雲に乗るとこのポーズとるんだろうね。
みさお「わぁあーーーわわわわ!!速いです速いですってば!
サウザンドドラゴンからこんなに離れてどうするんですか!?」
中井出「え?引き付ける」
みさお「引き付けるって……ど、どうやってですか?」
中井出「うむ。まずこうやって───」
みさおちゃんを抱きかかえたままにランドグリーズから飛び降りると、
ランドグリーズを器詠の理力で引き寄せて背中に装着&フロート!
そのままの状態で霊章から燃え上がらせたジャバウォックを発動!
ゴバァォゥン!!と激しい音を立てながら火闇を伸ばし、
かなり遠くに居るサウザンドドラゴンの尻尾に炎を巻きつけて掴んで───
強引に引き寄せるァアアッ!!
中井出「くぉおおおりゃぁああああっ!!!」
ルォシャァオドォッガァアアアンッ!!!
みさお「うひゃわぁあああああああっ!!?」
引き寄せるどころか、
暴れるもんだから半月を描くが如く我らの後方の大地にビトゥーンと叩きつけてしまった。
スタイリッシュモードのように手として火闇を具現出来れば早いんだが、
俺はベルセルクモードを選んだのだからそれでよし!
怯むな俺!俺達の戦いは───始まったばかりだ!
みさお「ど、どどどどどうなってるんですかその炎!
敵を掴める炎なんて初めて見ましたよ!」
中井出「大丈夫!サイキックフォースでバーンが使ってたから!」
言いながら、大地にめり込んだサウザンドドラゴンの体を火闇で覆って圧迫する。
……イメージだ。
包むのではなく、いっそ握り潰すくらいの強烈なイメージをォオオオッ!!!
中井出「火傷じゃ済まないぜぇっ!!パァアアイルバンカァアアアッ!!!!」
ゴコッ───ゴバァンッ!!
左腕の霊章から出る火闇でサウザンドドラゴンを引き寄せて!
右腕の霊章から出る火闇で炎の拳骨を作る!!
高速でこちらへ引き寄せられるサウザンドドラゴンへ向けて!
火闇ナックルを思い切りィイイ!!
中井出「みさおちゃん今!!月空力で俺達の周りの時間を包んで!」
みさお「───!そういうことですか!はい!」
サウザンドドラゴンの目が怪しく光る!
途端、景色の色が灰色に変わり、
サウザンドドラゴンの後方の瓦礫から舞っていた砂埃などが停止する。
だが変わらずサウザンドドラゴンは引き寄せられている。
俺を真っ直ぐに睨みながらだ。
予想通り、攻撃をくらいそうになった途端に時を止めてきやがった。
が、止まった時間の中で俺達までもが動いてることに気づくや、
振るわれる炎の拳を前に咆哮。
再び目を鋭く輝かせ───グエフェフェフェ……!それが命とりだと気づかんとは!!
中井出「みさおちゃん次!俺の時間の流れを一瞬だけゆっくりに!」
みさお「え?あ、はい!」
ドボォッガボガガガガォオンッ!!!
刻震竜『ギッ……!?グギャァアアアアッ!!!!』
みさお「ひゃあっ!?」
中井出「……徹った」
みさおちゃんが俺の時間を月空力でいじくったと思った途端、
俺の火闇ナックルが刻震竜の顔面を殴りつけていた。
ボォッガァォオオオオオンッ!!!
ドンガガガガォオオオンッ!!!
直後、火闇による爆発で大地に吹き飛ぶサウザンドドラゴン。
その様子を見ていたみさおちゃんは、
地面に激突したサウザンドドラゴンを見下ろしながらポカンとしていた。
みさお「え?え……?な、なにがどうなって……」
中井出「知識をひけらかすのは嫌いなので断る」
みさお「教えてくださいよ!」
中井出「だめだ」
みさお「中井出さんには情ってものがないんですか!?」
中井出「情とかそういう問題じゃない気がするんだけど……」
つまり、考え方を変えてみりゃいいのだ。
テッポーを撃ったとして、それは一秒間の間に敵に当たるのだとする。
敵もそれは予測できてるから一秒間時間を飛ばして、
当たる筈の一秒を無かったことにする。
だからそもそも一秒間の間に通り過ぎるべき場所に弾丸は存在できないし当たりもしない。
ところが俺の火闇は当たった。
これは簡単なことなのだ。
これが俺と彰利が理解した、刻震竜をザコと呼んだ所以。ザコじゃないけどね。
時間を飛ばす……飛び道具系は無効化も同然。
俺の火闇ナックルだって、固めた拳以外には大した攻撃力はなかった。
固めて固形化したのは拳の部分だけだしね。じゃあ何故?って話だが。
ヤツは飛ばした時の中を動けるわけではないのだ。
ならば“この分だけ時を飛ばせば避けられる”、
と予想して時間を飛ばすに決まってる。
ここで活躍するのが“スロウ”……行動遅延化能力だ。
……一秒の間に通り抜ける筈の弾丸が急に遅くなったらどうなる?
そう、飛ばされた時の中でも動けないんじゃあ、
当たるか避けるかしか選択肢がないのだ。
で、時っていう“絶対”っぽい能力を持つヤツってのは大抵、
心ン中に慢心があるわけだ。時が僕を守ってくれるから大丈夫!って。
そこを付け込めばグオッフォフォ……!!
みさお「───あ……あ、ぁああああっ!!」
中井出「え?あ、あれ?どしたのみさおちゃ───はうあ!!」
地面に映る僕の影を見た。
みさおちゃんとくっついてる、僕の影を。
中井出「返してぇええっ!!ぼっ……僕のプライバシーを返してぇええええええ!!!」
みさお「なわっ……い、いきなり誤解を招くような言い方をしないでください!!
で、でもその、理解に至りました……。なるほど、そうだったんですね」
中井出「……エッチ」
みさお「だから誤解を招く言い方はやめてくださいってば!!」
ともあれ、理解に至ったようで、みさおちゃんが目を丸くして声をあげた。
そう、答えは簡単だったのだよ!
中井出「う、うむ!つまり弾丸は当たる!
その結果があそこで大地に埋まっておるサウザンドドラゴンよ!
ククク……愚かなり刻震竜……!!
時を飛ばした程度でこの博光を出し抜けると思うてかグオッフォフォ……!!」
みさお「……つくづく常識破りに長けてますね……。
普通こんな切羽詰った状況でそんなこと考えつきませんよ」
中井出「焦りの時こそ深呼吸さ!慌てるべき時に慌てない……素晴らしい」
素数を数えるんだ。
素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。
わたしに勇気を与えてくれる。
みさお「それってただ単に天邪鬼って言うんじゃあありませんか?」
中井出「こんな言葉がある。楽しければどうでも良し!!」
みさお「ただの原中理論じゃないですか!」
中井出「だって原中だもん!提督だもん!いいじゃん天邪鬼いいじゃん!
鬼なのに“く”って読むんだよ!?読み方には“キ、おに”しかないのに!
“国の語りと書いて国語と読む”に逆らってるみたいで実に素晴らしい!!
ちなみにゲームに夢中なファミコン世代のクソガキャアたちが、
よく“鬼のように強い”などといった“鬼のように”と使うことの語源は、
鬼を“く”と読むように“常識では捕らえられんほど”という意味があるらしい。
だから鬼のように強い、というのは常識外に強いという意味であり───」
みさお「ウソはいいです」
中井出「ウソじゃないもん!原中語のひとつだもん!」
みさお「ああもう真面目に戦ってくださいよ!ほら!起き上がってきましたよ!?」
中井出「ウ、ウーム」
やっぱりあれくらいじゃあまいってくれないか。
困ったなぁ……俺のジャバウォック、
掴むことには長けてるけど攻撃には向いてないみたいなのに。
そりゃ爆発力は向上したけど、火闇で殴ってみて解った。
火闇を武器にした場合、あまり攻撃力はない。
霊章を通してジークフリードなどの武具に灯してこそ真価を発揮するブツだ。
みさお「そういえば……追撃、しませんでしたね。敵が倒れているっていうのに」
中井出「武器が使えない状態だからさ。防具も無いし。
ランドグリーズにして背負ってる以上、
下手に攻撃くらったら一撃死も夢じゃない」
みさお「……あの、なにを溜めてるんですか?
大ダメージを与える自信がある攻撃っていったい……」
中井出「知りたければ僕のお乳をお飲み」
みさお「知りたくなくなりましたから結構です!!」
冗談のつもりだったのに、本気で引かれたようだった。
まあいいや、今は集中だ。
時のコントロールを打ち破る手立ては見つかったけど、
サウザンドドラゴンが弱くなったわけでは決してないのだから。
みさお「あ、あーのっ!そういえばどうして、
サウザンドドラゴンが時を止めたりするタイミングが解ったんですか!?」
中井出「いやあのー……直感っていうか。サウザンドドラゴンの肉食ったんだけどね?
多分その所為じゃないかなー、って。ビビッとくるんだ。なにかが。
最初は電波ですか?と思ったんだが……えっとね。
ゲル状のぬるま湯に放り込まれたみたいな感触が来るんだ。
最初はそれこそ何がなんだか解らんまま背中引っ掻かれて終わったけどさ。
だが見切ったね!あれはきっと合図だねと踏んだ故!───ってうおお!?」
ガタガタぬかしてる内にサウザンドドラゴンが強襲!!
怒りに喉を震わせて咆哮しながら、空中の俺とみさおちゃん目掛けて牙を剥く!!
や、やべぇ!この速度───躱すにしたってどこまでいけるか……!
中井出「みさおちゃん!」
みさお「は、はい!」
中井出「───好きだ!結婚してくれ!」
みさお「は───え、えぇえええええっ!!?ななないきなりなにをっ!?」
ゼット『《ズギャオ!!》中井出博光貴様!
トチ狂ったか《ガブシャア!》ぐわぁああああああっ!!!』
みさお「ひゃわぁゼットくん!?」
中井出「危なかった……!(俺が)」
突然の俺の告白に、
一瞬にして飛んできた僕の親友が……なんと身を挺して僕を助けてくれた!
え?ええ、確信犯です。
彼ならきっと来てくれると信じていたさ!ああカタパルトさ!
彰利 「ギャアお馬鹿なにやっとんのキミ!」
遅れて辿り着いた彰利が、バキベキと咀嚼されるゼットに当然のツッコミを入れた。
や、参戦した途端に咀嚼されてりゃツッコミのひとつも入れたくなる。
……誰が首謀者かは別として。
中井出「ヘイゼット!そこでおもむろに喉へGO!」
ゼット『ぎっ……がはっ……!簡単に、言ってくれるな……!』
彰利 「よし!じゃあ俺が押し込んでくれよう!霧装九頭竜()!」
ゼット『なっ……ままま待てぇええーーーーーーーっ!!!』
闇&影『覚悟はいいかぁ!?荊棘を踏んだぞぉ!!』
ギリギリと体を磨り潰されそうになっているゼットへ向けて、
篭手と具足から放たれる闇と影を固めて振るう彰利!
巨大な竜の手のような形になった黒の霧が、
咀嚼を続けるサウザンドドラゴンの顔面へと突き出される!!
うむ素晴らしい!躊躇いの“た”の字もパゴォシャア!!
………………あ。なにも聞こえなくなった。
彰利 「……あれ?ゼット?おーい、ゼットー?」
…………返事がない。
殴りつけた途端、シンと静まり返った。
サウザンドドラゴンも咀嚼をやめて……あれ?もしかして逝った?
否だ!諦めるなテリー!ゴーフォーブロォック!当たって砕けろ!
もう砕けてるかもしれねーけど!
中井出「ヘイテリー!そこで竜化だ!ゴー!!」
彰利 「うおお残虐だ!でもそれなら一撃死も夢じゃねぇ!!つーか中井出てめぇ!
それならてめぇが内部に入った時にこそやりゃあよかったんじゃねぇか!」
中井出「すまん!非情に無念だが忘れていた!!」
みさお「…………ゼットくんの反応が浮遊要塞の方に移りましたね」
彰利 「オラたちのパワーが勝ったぁああーーーーっ!!!」
中井出「やったな!念願の黒竜王討伐だ!」
彰利 「アタイ……アタイ、悠介無しでやれたのね!?
やり遂げることが出来たのね!?もうゴールしてもいいのね!?」
みさお「真面目に戦ってくださいってばぁあああっ!!!」
どんな時でも言うことは言う!
機会を逃せば掴めぬ楽しさここにあり!
それが我らの原ソウル!───って、言ってられる余裕はもう無いようだ。
刻震竜『グォオオルシャァアアアッ!!!!』
三人 『キャーーーッ!!?』
怒りの咆哮を受けて、三人で叫んだ。
が───切り替えるのは早かった。
申し合わせたように頷き合うと散開し、
飛翔し、襲い掛かってきたサウザンドドラゴンを避けうおおっ!?
中井出「なっ───なななんでまっすぐに俺の方に───!」
みさお「中井出さんっ!?」
彰利 「きさん、死ぬ前になにかしたんじゃなかと!?」
中井出「口の中で自爆しまくりました!!」
彰利 「ンなことすりゃ誰だって怒るわ!!───構わん中井出!アドミラルスタイム!」
中井出「エンペラーだって!《ヂャギィッ!》ぎっ───!!」
腹にじぐりとくる鋭い痛み。
逃げながら受けた鍵爪が肉を浅く抉っていった。
掠った程度だというのにダメージが酷い……やっぱり防具が無いのはあまりにキツすぎる。
咄嗟に反撃をして離れようとするが、行動に移った途端にざわりと広がるあの感覚。
時間行使が来る───!
中井出「みさ《ザゴォンッ!!》───、ア……」
伝える暇も、なかった。
間も無く俺の心臓には角が突き刺さり、風穴が空き、一緒に穴が空いた肺からは、
吸った筈の空気が冷たい冷気となって傷口を凍てつかせた。
……侮っていたわけじゃない。
油断だってしてなかった。
じゃあなにが足りなかった?
それは想像。
なにかを感じられるだの、次になにが来るだの、そんな予測は正直どうでもいい。
問題なのは敵になにが出来るか。
竜だからこれしかできないだの、デカいからこんな動きは出来ないだの、
そんな閉鎖空間を覗き見するような小さな視界じゃ見えないものを見るべきだった。
時間行使が来るって判断したとして、
俺がそれをみさおちゃんか彰利に伝えるまで、
サウザンドドラゴンが待つ必要なんてどこにもなかったのだから。
中井出「……、」
だが不幸中の幸いがあったとすれば、それは背中にランドグリーズを背負っていたこと。
胸に風穴は空いた。
巨大化なんてしてなかったから、腕も千切れかねないくらいの巨大な穴だ。
即死級のダメージだったが、角の先端がランドグリーズに弾かれたお陰で、
完全に角に穿たれることなく俺は中空に放り出された。
……、彰利とみさおちゃんの声が聞こえる。
回復しなきゃいけないんだが、意識が朦朧として……ドゴォン!!
中井出「ぶべぇっしぇ!!?」
落下してるところに砲弾が直撃!!
しかも丁度傷口にずきぃっ!!
中井出「あいっ───!!……、っ……!!」
貫かれてから麻痺していた傷口に、痛覚が蘇る。
と同時に意識がハッキリして、なんとか持ち直した。
けど頭は混乱してるもんだから、痛みがある場所をつい触ってしまい、
ぐにょりというかつてない感触に、心の底から凍てついた。
なにか触ってる!しかもドクンドクン動いてる!そして物凄く痛い!!
おお……おお!これが……これが母なる鼓動!我が生命の源か!!
つーか心臓触っちゃってるよ俺ェエエエエ!!
中井出「ヒィイイ!!マナ!自然のマナよ!傷を治して!!
ヒール!今すぐに!ヒール!お願いだぁあああっ!!!!」
恐らく炸裂した回復砲弾が、心臓だけでも回復してくれたのだろう。
だがヒヤリとしすぎる状況にパニックになるのは仕方のないことでして。
ジワジワと襲ってくる痛みに恐怖しながらマナを掻き集め───つつ!!
中井出「サミング!!」
ゾブッシャゴババババォオオンッ!!!
刻震竜『グギャァアアアアアアアッ!!!!』
よっぽどトドメを刺したかったのか、
俺を追って降りてきていたサウザンドドラゴンの右目に火闇サミングをお見舞いする!
これで両目は潰れた……ヤツの視界は奪った。
そう思えた瞬間こそが、まだ平和の只中に居られた時間だった。
ザゴンッ、という音が骨を通して全身に響き渡る。
塞がったばかりの胸の横、左腕があった場所から、ソレが無くなっていた。
近づかれたことに気づけなかっただけじゃない。
時を止める瞬間すら感じ取れなかった。
次いで、襲い掛かる激痛。
痛みに集中力を散らした俺がフロートの能力を手放してしまうまで時間はかからず、
俺は───潰した筈の目でハッキリと俺を睨む双眼に睨まれながら、大地へと落下した。
【ケース606:弦月彰利/時を破壊する、その手立ては───】
中井出が大地に落下した。
左腕を破壊され、血色を青くして。
ショック状態ってやつだろう───ああなっちまうと人はまず立ち直れない。
すぐに回復してやりてぇけど、刻震竜のヤロウが中井出から俺とみさお……じゃないな。
俺に殺気を向けてきてやがる。
ヘタに動けば一瞬でオシャカだ。
とはいえ……影を通して月生力って方法もあるにはあるけど、
相手がこいつじゃあ集中出来ないし、
中井出の回復に集中すればさっきコロがされた時の二の舞だ。
彰利 「みさお!影ごと転移して要塞に戻ってろ!
こいつの引き付け役は俺がするから!」
みさお「え───でも!彰衛門さんは───」
彰利 「引き付け役は!俺がするから!
ああもうこういう場面でいちいち問答繰り返させんな!
〜ったく!ゲームでも漫画でもいっつもそうだ!行けって言われたら行く!
決死の覚悟で時間稼ぎするってやつに言葉を返すな!───行け!!」
みさお「は《ザゴフィィンッ!!》───い……、…………?」
彰利 「───!?」
たった一言を口にする間に、いつの間に接近したのか、
みさおの体は鋭い爪の一撃で抉り斬られていた。
吹き出る赤と、訳も解らないままの表情で、力なく落下してゆくみさお。
助けに行こうと思ったが、
敵から眼を離せば死ぬ未来が俺の眼に焼きついて離れてくれなかった。
彰利 「……ザコってのは訂正しなきゃマズイか」
軽くついた悪態。
それに、サウザンドドラゴンが小さく笑んだ気がした。
ああ、そうだろう。
じゃなきゃ的確な行動なんて取れるわけがない。
脱皮だのなんだのを繰り返すごとに時を飛ばしたこいつは、
とっくに古の時代からここまでの歴史への追走を完了させていた。
俺達の言葉だってとっくに理解しているし、誰がどう厄介なのかも理解しているんだ。
その上で俺がこうして残ってる。
……笑わせてくれる。
彰利 「自分が一番強い……そういったイメージは誰にだってある。
どんな災害が起ころうが誰が死のうが自分だけは生きている。
イメージっていうよりは妄想だ。現実にはそんなことは起こりえない。
死ぬときは死ぬし、助からない時は助からない。
そんな世界を、人を、生き物を、生きてきた千年の中で幾度も見てきた。
……サウザンドドラゴンか。古竜中の古竜とはよく言ったもんだ。
お前はどんな歴史を見てきた?争いだけの世界か?それとも───」
拳を握るイメージ。
それとともに、九頭竜闘気を纏った闇と影の飛翼が武具に重なり、
黒のオーラを放ち始める。
───訊くだけ無駄だ。
そう、争いばかりじゃなければ、これだけ知識の深い竜が世界を壊す必要などなかった。
必要だったから壊したんだろうなんて思わない。
ただそうなるまでの過程には、そうしなきゃいけない理由がこいつにはあったのだ。
敵だからどうでもいいだとかはこの際無しだ。
そういうことが過去にあったのだろうってことだけ、覚えておこう。
忘れちまってもいいけど。
彰利 「ひゅっ───せいっ!」
飛翔とともに殴りかかる!
武器のリーチが随分と短くなってしまったが、
その分体重が乗せられるから俺には丁度いい。
元々武器の技術なんてそんなになかったんだ。
俺にあるのは喧嘩殺法!素手喧嘩のみよ!
ガァンゴンガギゴギゴガォンッ!!
彰利 「つっは───!思いっきり金属殴ってる音じゃねぇか!」
連打を繰り出すも、それが効いている様子はまるでない。
それどころか俺がもがく姿を見て楽しんでいるようですらある。
……いいね、俺お前みたいなヤツ大好きよ?
そうやって、油断してくれるんだからね。
彰利 「アンギアおぉりゃあっ!!」
拳を振るうとともに意識を集中させて、篭手と具足から鋭い両刃の黒爪を出現させて攻撃!
まず鼻先に一撃を落とす───が、やはりダメージはほぼゼロ。
ガギン、と弾かれるが、そんなことは予測済みだ。
一発目は囮よ!こちらの新たな攻撃が効かないとなれば敵は油断する!
というわけで次!
彰利 「ジョォオラァアッ!!《キュバァンッ!!》」
黒と闇と影を左手に集中させて、アンギアの密度を上昇!
アンドSTRマックスで思い切り
彰利 「今、究極の!体術奥義ムックハンドファイナル!!」
キョフィィン♪ドォッゴォオオンッ!!!
渾身のショートレンジアッパーを、余裕ぶったヤロウの顎に炸裂させた!
すると、僅かではあるが勢いに持っていかれる体───OKいける!!
彰利 「九頭竜闘気()!」
確認の一撃で自分の力と覚悟ってやつに気付けを刺し込むと、
さらに意識を集中させて九頭竜闘気(俺はオロチと呼んでる)を発動させて、
左手の黒の密度をさらに上昇させてゆく!
───どうせなら両手に出来ればよかったんだけど、
受け入れたのが左手だった所為もあってか、
爪(武器)か左手からしか黒が発動できないんだよね。
ああくそ、右手で思い切り殴りたい。
彰利 「うぉおおおおおらぁあっ!!!」
殴り上げた刻震竜を、今度は打ち下ろすように振るうチョッピングレフト!!
ヒュボドゴォンッ!!
刻震竜『グ───!』
九頭竜闘気の竜属性を多大に含んで肥大化した黒の拳が、
刻震竜の顔面を殴りつけ、今度こそ吹き飛ばす!!
付近にあった山へと豪快に突っ込み、
山だった場をただの土の塊にするのはほんと一瞬だった。
よし……よしよしよし!九頭竜闘気を発動しながらならいける!
ストックは5つフルで九頭竜闘気……こうなりゃいけるとこまでいくしかねぇやね!
彰利 「フンム!!───ありゃ」
中井出がやったみたいに手を伸ばしてキャッチしたかったんだけど、
残念ながら伸ばせはしないみたいだ。
そらそっか、竜の手だもの。
黒になったとはいえ、そこんところはまだ完全に馴染んでない。
くそ、いいなぁ中井出のベルセルク。
俺も応用できるようになりゃ伸ばせたりはするだろうけど、
俺の黒操術は遠回りをして、今ようやくスタートラインから大激走し始めたばっかだ。
受け取り方を間違えてたんだから、しゃあないって言やぁしゃあないんだけど。
え?そりゃ皇竜王の力の問題であって黒とは関係ねーだろって?
いや……その黒に皇竜王の力を流し込んでるんだから、関係大有りなんですハイ……。
能力の基本はそう変わってないけど、黒の全部が初期化されたような状態なのさ。
彰利 「さあ……どこからでもかかってきなさい」
そんな問題はどうあれ、俺は大地に降り立つとターちゃんの構えを取った。
イマイチ緊張感に欠けるが、俺は構えなんてもんを持ってないからしょうがない。
ようは気分の問題だ。
どう見えようが、自分が緊張してればそれでいい。
集中、集中、集中、集中───!!
ボガァッゴォオオオオッ!!!
刻震竜『グヴァァアカカカォオオオン!!!』
瓦礫を吹き飛ばし、咆哮とともに起き上がるサウザンドドラゴン。
そいつがヴオンッ、と首を振り、俺を見据えるまでの時間は二秒程度。
飛び道具でもなんでも放てばよかったんだろうが、
こいつには波動系の能力は大して効かない。
いや、詳しく言えば俺の持つ能力でこいつにダメージを与えられる波動系能力が少ない。
だからオメガレイドだ。
どの部位でも駄目だろうが、
ニーベルマントルを籠めた左手でのオメガレイドを直接叩き込めば、
少なくともノーダメージってことはない筈だ。
彰利 「ひゅう……はぁ……すぅ……はぁあ……!!」
意識を集中させる。
集中させる……集中させる……!
こんな緊張感は久しぶりだ。
高揚はもちろんだが、恐怖しながらでも前に進みたいと思うことなどどれほどぶりか。
無限地獄の中でゼノと戦った時か、それともレオと対面した時か。
いや、そんなこたぁどうだってヨロシ。
彰利 「弦月彰利、参ります」
極限まで高まった集中力を全身に行き渡らせる。
と、視界が紅蓮に染まるのを感じた。
恐らく眼が真紅眼化してるんだろう。
血の色のような赤が意識を高ぶらせるが、湧き上がる感情さえも集中力に変えてゆく。
なにせ相手の一撃が必殺効果を持つって考えたほうがいいくらいの破壊力。
緊張など、していて当然の相手なのだ。
集中がいくらあっても足りないくらいだろう。
彰利 「焚()ッ!!」
大地を蹴り、疾駆とともに飛翔する。
同時に刻震竜も低空飛翔で大地を破壊しながら突撃してくる!!
真っ向勝負だ!この一撃に別にすべては賭けねーけど力は込めよう!!
彰利 「うおぉおりゃぁああーーーーーーっ!!!」
刻震竜『グガァアアアアアアアアアッ!!!』
俺は左手に黒を籠めて突撃!
刻震竜は俺を一撃で粉微塵にしてくれようと、
角に得体の知れない力を込めて突撃してくる!
感じ取るに、恐らく時間蝕。
しかも触れた途端に時間を操作されて、生まれる前まで巻き戻されて消滅させられるか、
死ぬまで時間を飛ばされて消滅させられるかってくらいの圧縮加減。
当たればほぼ即死と考えていいだろう。
こんな能力があるから、傷を受けても時間操作で治しちまえるんだろう。
彰利 「集───中───!!」
感じ取れ月空力。
あれはどっちの時間蝕だ?
彰利 「───駄目だ間に合わん!!こうなりゃ巻き戻しでGO!!
弾けろ黒霧の竜拳!つぅううらぬけぇえええええええええっ!!!!」
左手に巻き戻しの月空力を籠めて振るう!!
が、突然刻震竜が飛翔速度を緩めて───うわやべっ!
ゾボォンッ!!
振るわれた拳が、刻震竜に当たることもなく消え失せる。
攻撃はまるで無意味なものと化し、角に貫かれた体は間も無く消え失せた。
……まあいいけどね、どうせ幻覚だし。
刻震竜『グ───!?』
彰利 「幻覚だよ、ばーか」
時間を飛ばして俺の攻撃を無効化、
速度を緩めた自分はしめしめと俺を消し去る予定だったんだろうけど、
速度を緩めた時点で中井出の作戦と同じだって直感が働いた。
直接近くで見たわけじゃないが、影を通してそういった作戦は知っていた。
じゃなければ今の一撃を食らってたのは幻覚じゃなくて俺だった。
月奏力に感謝だ───やっぱ無意識下ほどまでに自分に馴染んだ能力じゃなけりゃ、
こうまで即座に発動なんか出来やしない。
キュヴォァバガドガァンッ!!!
刻震竜『ゲギウッ!!』
月然力・重とともに、中空から振り下ろした左のオロチが振り向きざまの顔面に炸裂する。
直後に勢いに体を持っていかれたのか、その場の地面に体ごと激突する刻震竜。
いいインパクトだった───体の芯にピンと透き通るような一撃だ。
……だがそれで終わってくれるわけがない。
オロチは残り七発。
ストックの分も合わせれば結構あるが、律儀に一発一発籠める必要なぞない。
彰利 「ディナータイムだアモルファス!!」
だからと、左手に残り七発全部を込めると同時に、敵の影からアモルファスを召喚!!
圧縮度の高さからか、左手にまとわりつく黒の霧が巨大な竜の手になるのを確認してから、
己の影に吹き飛ばされた刻震竜目掛けて一気に振り下ろす!!
彰利 「うぅっ……───ぉおおおおおおおらぁああああああああっ!!!」
ドボァドガァンッ!!!
ドガァアガガガガバギャギャズガァアッ!!!
後先考えずに振るったSTRマックスの一撃が飛ばされてきた刻震竜を地面に殴り飛ばし、
大地に突き刺さるだけでは消えなかった勢いが、
刻震竜を大地を破壊しながら跳ね飛ばしてゆく。
……自分の左手が撃鉄のようだった、なんて感触、初めてだった。
銃爪()は己の意思。
弾丸となったのは刻震竜で、俺の腕にはそれだけの弾丸を飛ばした感触が鋭く残っていた。
彰利 「かはっ……はぁ、はぁ……!!」
けど全力はさすがに骨身に染みる。
死神の頃のように全身黒かで衝撃を消す、なんてことが出来ない今、
攻撃の衝撃は直で俺の中に響いてくる。
だがしかし目は離さん。
どれだけ痛かろうが、敵から目を離せば一瞬でコロがされる。
集中、集中……!
月空力は常に発動させておいて、時間操作を感じ取ったらコレを増幅、対処する。
彰利 「───、後ろ」
刻震竜『グガァアォ!!!』
ゴフォォッフィィイ───……ィイン……!!
刻震竜『───!?』
時間を止めて後ろに回りこんできての攻撃を転移で避ける。
こいつが転移できないことはせめてもの情けだと感じておこう。
転移まで出来たら本気でボコボコだ、攻撃だってまず当てられない。
だが、だからこそ前言撤回だ。
絶対に勝てない、勝てるわけないなんて言葉は、
全力を出し切って、散々と絶望してから唱えよう。
彰利 「ストック全解放!命名藍田!四五竜闘気!!そして───」
刻震竜『ギシィイイ!!!』
頭上に転移した俺を見上げるや、可笑しそうに笑む刻震竜を見下ろす。
楽しそうだ───が、俺の顔もきっと笑っていた。
彰利 「てめぇが時を操れるというのは───嘘だ!!デスティニーブレイカー!!」
四十五もの九頭竜闘気とレヴァルグリードの力、ダークマターの力、
月操力の全てが螺旋の黒となって左腕で渦巻く!!
刻震竜は愉快そうにこちらへ上昇してくるが、
その表情が、俺に近づくにつれ疑問のものへと変わってゆく。
ああ、頭も力も立派なもんだよお前は。
けどな、常識破壊を常とする俺達原中に常識的に喧嘩売るなんて、自殺行為なんだよ!!
彰利 「時間を操れりゃ無敵ってか!?違うね!
時間っていう規定さえ破壊出来る相手が居ることすら想定できない時点で、
てめぇの負けは決まってんだよ!!」
刻震竜『ガ───』
ルヴォアバガァアォオオオンッ!!!
ドンガガガガガバギャゴギャドガァアッ!!!
刻震竜『クギャァアアアアアッ!!!!』
振り切った黒の竜の左手が刻震竜の顔面を捉えた。
余裕ぶっていた顔面はへしゃげ、なにかが砕ける音が俺の腕へと駆け抜ける。
ああ、俺の拳が砕けたのも確かみたいだが───ただでは砕けない。
殴られた勢いについてこれなかった体がメキメキと嫌な音を立てたのだって聞いた。
これで多少のダメージだったら泣くぞ、もう。
彰利 「い、いぢぢ……!」
四十五竜闘気は諸刃に近いようだ……衝撃が強すぎて拳が砕けちまったよ。
だがそげな痛みもグミを噛みながら、
地面を転がり滑ってゆく刻震竜を眺めてりゃ和らぐってもんだ。
けど磨り減った精神まではそうはいかない。
思わず出る溜め息を噛み締めながら、tellをいじくってホギーに繋いだ。
彰利 「はぁ……こちらアルファワン……。どこまで引き付けりゃいいんだよ……」
声 『弦月か。どこまで、って……当てられるって確信できるまでだが』
彰利 「なんだとてめぇホギーこの野郎!!
よもや貴様!自分が戦ってねぇからって適当ぶっこいてんじゃあるまいね!」
声 『言うかぁあっ!いいからなんとか動きを止めてくれ!
こっちの準備はもう万全だから!』
彰利 「貴様が直々に面と向かって、
ゼットに“この雑魚野郎!”と言ってくれたら考えんでもない」
声 『死ぬだろそれ!』
彰利 「ええいあれもだめこれもだめで通ると思うな!通してぇのはよく解るけど!
こっちは中井出もみさおもやられて大変なんだよ!
もうパーティーバトルっていうよりロンリーバトルなんだよ!
血まみれなんだよこっちはもう!」
つーかそうだよ!今のうちに中井出とみさおを回復してやらにゃあ!
……あ、あれ?どこ行った?
さっき落ちてった場所に居ない気が……ハテ?
なんて思ってたらどごごごごぉおおおおん!!!
刻震竜『クギャァアアォアアアアアアン!!!』
彰利 「ウヒョオ!?」
倒れ伏していた筈の刻震竜が暴れだし、ビタァンビトゥンと大地を転がりまわっていた。
いったいなにが───!?と思ったら、その近くで中井出とみさおが嘔吐してた。
……なんかもうそれだけで解った気がした。
彰利 「tell:中井出博光───《ブツッ───》アルファツーなにやってんのキミ!!」
声 『ゴエッ……オヴェッ……!く、臭い息を……少々……!』
彰利 「や……そりゃ解っとるけどさ……。
あの、傷とかもういいの?俺結構心配してたんだけど……」
声 『傷など落下中にグミを食して直したわグオフォフォ……!
みさおちゃんも大丈夫だ、下で受け止めてからグミ食らわせたから』
彰利 「じゃあなんで今まで戦いに参加しなかったの!こっち大変だったのYO!?」
声 『準備さ!みさおちゃんと一緒に、地面にちょっとした罠を作っていたのだ!
いいか彰利!地面にデカいラインを引いてあるから、
なんとかそこに刻震竜を誘き出してくれ!むしろ吹き飛ばしてくれてもいい!』
彰利 「なんと!?き、貴様、アタイが戦っているうちにそげな姑息な真似を……!」
声 『姑息?勝てばいいのよ勝てば……グオッフォフォ……!!』
彰利 「クォックォックォッ……!そちも悪よのう……!」
いまさら確認するまでもないけどね。
さて……ラインね。
彰利 (───、っと、あそこか)
ちぃとデカすぎるんじゃないですか?ってくらいの大きさの六角形の線があった。
声 『では健闘を拝む!』
彰利 「オウヨ!おが───拝むの!?」
声 『影繋がってるなー?うむよし!ではこれより三分間の奇跡を貴様に!』
ブツッ───メギャアアアアアアン!!!
彰利 「ギョァアアアアーーーーーーッ!!!!」
体が熱い!焼けるように熱い!
高揚がマックスになっているのではと思うくらいにじっとしてられん!
野郎!特殊能力全解放しおったな!?
そして彼自身は───アーーーッ!!みさお抱えて逃げておりゃんせ!
彰利 「フッ……だが任されたからにはヤバくならん限りは男を見せるが原ソウル。
まあ男っつーても、肉体以外に男女差別が特にない仲だから、
女でも男を見せる時は見せるわけだけど」
ようするにキメる時はキメなさい、心ゆくまで、ということである。
彰利 「さて。提督のお時間のお陰でリミッターは外された。
途中で死んだお陰で筋肉痛もなかったし、
これで三分以内に仕留められればペナルティも無しとくる」
すぅ、はぁ、と呼吸をしてから───左手に禍々しいほどに竜闘気を集めてゆく。
リミットブレイク……九頭竜闘気を出し放題という、修羅的状況下において、
俺の攻撃力が足りなくなる、などということは残念だが有り得ねぇぞ、刻震竜よ。
彰利 「よっしゃあ!気力充実!元気リンリンだぜぇええええっ!!!」
黒霧が竜巻の如く渦巻く。
どれほど解放したかはもう知らんが、九程度じゃないのは確かだ。
そんな、殺戮兵器めいた左手に力を込めながら、
俺は臭い息に大激怒して冷静さを失わせた刻震竜へと突っ込んでいった。
それに気づくや、怒りのぶつけどころを見つけたとばかりに突撃を開始する刻震竜。
大地へ向けて降りる俺と、空へ向けて飛翔する刻震竜。
それは方向が違うだけで、ぶつかろうとしている状況などはさっきと同じだ。
だがこちらの能力はさっきまでとは桁が違う。
彰利 「思い知れよ刻震竜!これが───、───!?」
次の句を口にしようとした途端、景色が灰色に変わる。
時を止めたのだろう、刻震竜の飛翔速度が一気に増し、
俺の眼前へと一瞬にして到達した。
微量の月空力を纏っている俺では、
刻震竜の時の停止の中では泥沼を泳ぐ程度の速度でしか行動できないということだ。
そんな俺の事情を知ってか知らずか、ギシィイと可笑しそうに笑み、大口を開ける刻震竜。
───だが、そんな事情なんてのは、俺の能力が制限されていたらの話だ。
彰利 「───これが。時を止めるということだ───!!」
ゴコォッキィイインッ!!!
刻震竜『───!!』
笑んだ表情が引きつり、そのままの状態で停止する。
リミットを外された状態で刻震竜の時操をデスティニーブレイカーで破壊。
直後に纏っていた月空力の規模をこれでもかというほど広げ、無理矢理に停止させる!
しかしそれでも動こうとするこいつは、真実時の竜。
こいつが怒りに狂い、余裕に溺れなければ時を止め返すことなんて成功しやしなかった。
彰利 「いくぜ相棒」
黒に軽くキスをして、身を大きく振りかぶる。
捻り、溜め、力を込め、やがてそれらを渾身とともに発射する!!
ゴフォォンッ!!
彰利 「───!?」
───が、空振りする。
時間は止めている筈なのに、当たる距離に居る筈なのに、振り切った拳は───
彰利 「時飛ばしか!ここに来て───!」
振り切った拳の勢いを利用して、
その場で一回転してからもう一度、勢いを殺さずに拳を振るう!!
だがその頃になると刻震竜も全力で時間操作を開始し、
止まった時間の中から抜け出したかのように飛翼をはためかせ、攻撃を避けた!!
彰利 「くそっ!───くあっ!?」
しかも避けるとともに口を大きく開け直し、
拳を振り切ったままで隙だらけな俺目掛け、
大きくはないが俺を殺すには十分な威力のレーザーを───!!
彰利 「転───」
移、と唱えようとした。
能力は充実しているんだ、すぐに跳べるはずだった。
だが月空力もレヴァルグリードの力もなにもかも、左手に集めていたのが裏目に出た。
能力解放が一手遅れ、俺はキュヴォガガガガガガォオオオンッ!!!!
彰利 「───!!うおわっ!?」
なにかにギュンッ!と引かれ、間一髪、消滅を免れていた……!!
中井出「やあ」
彰利 「───…………アレェ!?中井出!?
き、貴様!我がDIOの世界に潜り込んでくるとは!
みさおが居るにしたって、どうやって!?全力で時止めてんのに!」
中井出「……あの。キミが僕に繋いでるものはなんすか?
今キミを包んでる能力はどっから流れた能力なんすか?」
彰利 「ア」
すげぇ簡単な答えだった!
そしてそのお陰で助かった!!
どうやらアタイ、中井出のジャバウォックに助けられたらしいですハイ!!
彰利 「つーかキミいい加減戦いなさい!能力解放したんなら出来るっしょ!?」
中井出「だめだ!秘仙丹は秘密の丸薬なんだ!」
彰利 「じゃあしゃあ!ボーマンさんの丸秘なんて訊いておらんわ!」
はぁ、と息を吐くと同時に停止空間が解ける。
刻震竜もとっくに解いていたようで、
大地に立つ俺達を見下ろしながら、忌々しげに喉を鳴らしている。
これが猫だったらまだ可愛くホクルルルと奇妙だが可愛げがあったんだろうけどね。
……つーかほんと、こやつってばなにをそげに溜めてるんじゃろうねぇ。
いや、いいや。
どおれ助けられた命分の仕事は返してやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。
彰利 「クォックォックォッ……ここはこの俺に任せておけ」
中井出「そこをあえて“フッ……”とかにしないお前がかなり素晴らしい」
彰利 「ありがとう」
ピシガシグッグッと拳と指を合わせ、
中井出はみさおを連れて疾駆、
俺は空に居る刻震竜へと飛翔をゴギャー……どごぉーーーん!!
彰利 「オヒャーーーーーッ!!!?」
空に居た筈の刻震竜が大地に落下した。
何事ォオオ!?と動揺していると、
長く赤黒いなにかがジョルジョルと縮んでいき、走る中井出の腕に戻るのが見えた。
……どうやら去り際にジャバウォックで掴んで、地面に叩き落したらしい。
そして起き上がるや、バキベキと激怒顔で何故か僕を睨むジャイアントドランゴ。
……ドランゴっていい名前だと思いませんか?グゥに消されるだけの存在だけど。
彰利 「ちくしょうあの野郎!ただ怒らせただけじゃねーか!
そりゃ地面でのバトルのほうがやりやすいけどさ!!」
と、とにかくあのラインの中にあいつを放り込めばいいのだ。
狙いを決めて、この左手を叩き込めばなんとかなる!と思う。
彰利 「焚ッ!!」
一呼吸ののちに疾駆。
俺にも烈風脚があれば、なんて思ったが、そんな思っても仕方のないことは無視だ。
篭手をギリッと握り締め、肉迫するより早く拳を振るう!
が、さすがにもう油断はせんと踏んだのか、拳は尻尾によって軽くガードされ、
ついでだとでも言うように力任せに俺を後方へと吹き飛ばした。
彰利 「うぅおおお……!!すげぇパワー……!!《ビギィッ!!》いぢっ!?
……う、ぉああああっ!!!?腕がっ!俺の腕がぁあ!なんという柔らかさだ」
じゃなくて!俺の右腕がガリガリのミイラみたいに……!!
まさか今の尻尾か!?
尻尾に時間蝕が───っかぁああくそ!!
全然動こうとせずに構えてるからヘンだとは思ったん───!?
彰利 「くわぁあああっ!!《ルヴォォンッ!!》───ッチィイッ!!」
こちらが不利と見るや、即座に追撃の爪を振り下ろしてきやがった!
日頃から中井出の卑劣な奇襲に慣れてなきゃやばかったぞ今の!
彰利 「このっ───!うぉお───とわっ!?」
殴りかかった途端に時間が飛んだ!
拳を振るったっていう結果だけが残された俺は、
勢い殺しのペース配分も出来ないままに拳に振り回される結果となり、
あろうことか刻震竜の目の前でたたらを踏み……って!
彰利 「うわぁああああっ!!!《ザゴォンッ!!》ガギッ───!?」
ヤバイと思ったときには終了していた。
落とされた鋭く巨大な爪に、
枯れた腕が肩から砕け、枯れ葉でも落としたかのような軽い音を立てて地面に落ちる。
血すらも出ない。
ただ、肩に走る痛みだけが、体が竦み上がるほどの狂いを俺に与えてくる。
彰利 「はっ……はぁっ……はぁああ!!」
痛い。
死神の頃に黒を解放した時は、こんなもの腕を影で飲み込んで生やして、ですぐ終わった。
けど今はどうだ、この鋭い痛みを、腕を回復するまで堪えなきゃいけない。
しかも右腕はもげていて、左腕は今なお巨大化する黒の渦の中。
腕が痛いから今更溜めたものを解除するなんてこと、
こんな状況下でやってみろ、男として最悪だ。
……原中としてはある意味最強だが。
彰利 「っ……ツガァアアアアアッ!!!」
痛みに折れそうになる体を、歯を食いしばって奮い立たせる!!
再度振るわれた尾撃を跳躍で避け、落とされた爪攻撃を飛翔で回避!
次いで襲い掛かるぶちかましを転移で避け、
現れた中空へと即座に突き出された角を……───!
だめだ、避けきれドゴォオオン!!!
彰利 「クヴァッチ!?」
角が黒衣の前面を貫かんとした瞬間───!
俺の体に自然要塞から放たれた砲弾が直撃し、そのお陰で角から逃れることができた。
しかも痛みが和らいでいて……
声 『ヌハハハハ!ご機嫌でござるか弦月殿!』
彰利 「その声は……丘野くん!?マア丘野くん!今のは貴様が!?」
声 『射撃投擲、飛び道具なら任せてほしいでござるよ!』
声 『さあ、歯ァ食いしばって立ち上がれ彰利。
英雄になれだなんて言わない。ただの男として、出来ることをしてこい。
俺達が全力でサポートするから』
……キィイイイン……!!
彰利 「……エ?オワッ!?う、腕が再生して───!?」
枯れて、千切れた筈の腕が生えた!
何事!?と思っていると、生えてきた腕の周りに一匹の蝶々が……!
なにこの蝶々!!
声 『腕を生やす蝶々だ。痛みは伴うけど、回復で生やすよりよっぽど速い』
彰利 「……な、なんと……う、うす、サンクス親友」
声 『でもそれじゃあ中身がモロくなってるから───キュア!』
マキィンッ♪
生えてはいたけど動かせなかった右腕に光が灯る。
と、直後に動くようになり……なるほど、
コレは確かにHPを回復させて生やすよりもよっぽど早い。
彰利 「あ、あの、麻衣香ネーサン?この距離で俺の腕、見えるの?」
声 『ふふ〜ん、魔法使いの技術を甘く見てはいけませんっ』
胸を張っている麻衣香ネーサンの姿が目に浮かぶようだった───が、
頭上から振り落とされる爪が、そんな思い浮かべたイメージを楽しむことすら許さない。
ヒュオバゴォンッ!!
彰利 「っ───とぉっ……!」
バックステップというよりは、後方への跳躍で避け、大地を滑る。
ズザザと砂利を巻き込む足を踏ん張らせ、攻撃の直後の隙を突かんと疾駆!
しかし敵さんも俺がそうするだろうと読んだのか、
攻撃直後の硬直もなにも無視して飛翼を広げて飛翔!
再度の角での突撃を開始した!
彰利 「ッチィ───!」
感じ取る空気からは再び空間の乱れ。
額から鋭く突き出た角から、異常なまでの揺らぎを感じる。
あれに触れたら一瞬でミイラになるかスケルトンになるか。
ヘタをすれば風化するかもしれない。
けど、もう避けた先でピンチになるばかりは御免だ。
考えてもみろ、中井出のレベルでさえこいつには歯が立たなかったのに、
俺のレベルでどうこう出来たらそれこそ奇跡だ。
じゃあその奇跡を起こすにはどうすればいい?
───簡単だ、常識外の行動で“どうこう出来ないレベル”ってのをぶち壊せばいい!!
彰利 「月空力&……デスティニーブレイカァアアアアアアッ!!」
覚悟は決めた!
この左手に全てを込める!!
てめぇが持つ規定全てを破壊して!
俺は───この戦の先に行く!!
彰利 「おぉおおおおおおおおおおおっ!!!!」
刻震竜『グガオシャァアアアアアアッ!!!!』
裂帛の気合とともに振るう竜の左手!
やばくなったら転移で逃げるだの、そんな逃げ腰ではなく本気の本気!
そうだ!殺すと決めたからには殺される覚悟をしろ!
相手を殺そうとしてるのに自分が逃げようとしてどうする!
決めろ!覚悟を!もっともっと、鋭い覚悟を!!
彰利 「ッ───ガァアアアアアアッ!!!!」
黒の渦が振るう左手に引かれて螺旋を帯びる!
もはやどれほど解放したかも解らない九頭竜闘気の渦が、
秒と経たずに接触するであろう角へと向けて───!
パキィイイ───ィ……ィイン……───!!
───だが。
あろうことか、全力のぶつかり合いだというのに……
少なくとも俺は小細工無しの全力のぶつかり合いだと断じて突撃したというのに。
そう、あろうことか、刻震竜は再び速度を落とし、時を飛ばしてきた。
それどころか、奥の手として隠していたのか、
飛ばした時の中を移動してまで俺へと角を突き出してきたのだ。
その、飛ばした時の中のことがどうして解るのか───
そんなもの、既に事象破壊を済ませたからに他ならない。
そして俺は怒っていた。
珍しく、軽く怒るなどという生易しいものではなく、本気で。
こいつは自分だけ助かろうとしたのだ。
実力など俺の遥か上に居るくせに、
突撃していれば負けていたのは確実に俺だと解り切っていたというのに、
この土壇場で保身を選んだのだ。
確かに誰だって痛いのは嫌だろう。
だが今はそんなことを唱えていられる状況ではなかったというのに───
だから唱えたのだ。誰にも届かないほどの小さな声で、
───ばかやろう、と───
ズヴォォアアッギャゴガァンッ!!!!
黒の渦が爆裂した。
今までのインパクトとは比べるのが馬鹿らしいほどの衝撃。
骨を軋ませ、筋肉を断裂させるほどのそれは、
何故こうなったのかも理解できていない表情の刻震竜を無遠慮に吹き飛ばした。
もちろんその先には中井出とみさおが用意した六角形のラインが───!
中井出「ハイストップおぉりゃあっ!!」
ゴドバァンガァッ!!!
そこに止まるよう、
待機していたらしい中井出が飛んできた刻震竜をジャバウォックで殴り落とす!
それを合図に神魔月昂刃を回転させたみさおが、切っ先を地面に突き刺す。
すると六角形のラインが光を放ち、中心に落ちた刻震竜を光の幕が包み込んだ。
この感じは───そうか!月聖力の標的固定!
うあああ懐かしい!
そういやまだ無限地獄に居る時、ゼノに使ったなぁ!……ルナっちを巻き込んで。
彰利 「その説はすいませんでした」
声 『きゃわあっ!?ゆゆゆゆーすけ!?なにか言った!
ネックレスが急になにか言った!』
彰利 「ドナルドです」
声 『ドナルドって名乗ってる!』
声 『提督か彰利だから切っていいぞ』
声 『う、うん』
ブツッ───……強制接続はあっさり切られた。
っと、遊びは終わりにして。
彰利 「みさお、手伝うぜ!月聖力全力解放!
そして貴様がこの光の中で動けるというのは嘘だ」
パギィンッ!!
起き上がり、暴れようと前足を動かした刻震竜の動きが停止する。
しかしそれも数秒のことで───くはぁあああ!!
リミットブレイクしても破壊し続けることが出来ないなんて、
存在力がありすぎだぞこいつ!!
彰利 「おいホギー!撃て!今なら当たる!!」
苛立ち混じりにホギーにtellを飛ばす!
すると“解ってる”の一言のみののちに通信は切れ、
直後に自然要塞から放たれる巨大な魔導砲!!
随分と離れたここでも聞こえる、大きくうねる大気の震え。
巨人族や竜族さえ軽く飲み込むであろう輝きが、この場を目指して飛んできている。
触れているわけでもないのに大地は抉れ、瓦礫が浮上するや消滅。
草花も地面もなにも関係ない。
あれはただ“破壊するための光”だと考えたほうがいいと思えたくらいだった。
刻震竜もそれを感じ取ったのか、光の中を無理矢理動き、離れようとする。
彰利 「《ミギヂヂヂ……!!!》ぐあああああっ……!!くっは……!」
みさお「……抵抗力が……すごいです……!」
こっちはリミットブレイクしてる状態だってのに、
基本能力の差なのか、月聖力で押さえてられない。
っ……そうだ、中井出……!あいつに手伝ってもらって───
中井出「俺だ!瀬戸内だ!」
───ってこんな時に何処にtellしてんのお前ェエエーーーーッ!!!
彰利 「《ブシィッ!》ぎあっ……!がああ!!」
みさお「あ……彰衛門さん!左腕から血がっ……!」
彰利 「殴った時に切れた肉がさらに砕けただけだ!月操に支障はねぇ!」
とはいえ、刻震竜はもう立ち上がってしまっている。
ギリギリと歯を噛み締め合わせ、唸りながら力を溜めて───やべぇ!
光の幕を一気に破壊する気だ!!
も、もうちょっとだっていう時に……!!
中井出「お待たせ僕のキミたち!」
と、そんな時だ。
tellを終わらせたのか、いつの間にか跳躍していた中井出が、
六角形のラインの上空でニコリと微笑んだのは。
中井出「義聖拳!重力100倍の能力のみをランドグリーズから頂戴する!!
100倍ジャバウォックナックルァアーーーーーッ!!!」
ヒュバドゴォオンッ!!
バガギギギベギィッ!!!
真下へと放たれた100倍の重力が、立ち上がった刻震竜を再び地べたへと這い蹲らせる!
それでも再び起き上がり、咆哮とともに俺とみさおを月聖力ごと弾き飛ばして───!
やべぇ!逃げられコキーン♪
彰利 「へ───?」
声 『───……ゥゥゥゥウウウロォオッ!!』
耳に届いたなにかの声。
発生源を辿り、どうしてか空を見上げた───その時!
藍田 『シェットォッ!!』
キュゴドォッガァアアアンッ!!!!
刻震竜『グギィッ!?ガァアォアアアアアッ!!!』
なんと空から降ってきたのは藍田くん!
灼熱色の具足を履いて錐揉み一足蹴を叩き込んだ彼は、
勢いよく起き上がったばかりで、
バランスが不安定だった刻震竜を転倒させると即座に離れる。
だが刻震竜はなお起き上がり、
埒もなしと飛翼をはためかせるとゾガァッフィィイインッ!!!
彰利 「……、あ……はは、───無茶しやがって───」
広げられた飛翼は、役目を果たす前に地面に落ちた。
その理由は、
ゼプシオン「っ……このような無茶は……これっきりにしてもらいたいものだな……!」
離れた場所で屠竜剣閃を放ったであろう英雄王にあるのだろう。
あんなに息荒げて……はは。一、二発が限度だって言ってたのに無茶するからだ。
けれど、それでも足を封じたわけじゃない。
移動手段があるのだ、危険だと解っていてそこに留まる馬鹿など居ない。
刻震竜はそれこそ獣みたいに四本足を地面につくと、
尻尾を巻いて逃げるみたいな格好で移動を
声 「ブレイブハート&ダンシングソード!炸裂しろ!エースインザフォーーール!!」
キィンッ……ゾガァアアガガガガガガガゴバシャォウンッ!!!
どおっがぁああああああああああんっ!!!!
───するより速く、滑り込んできた岡田がウェイクアップで巨大化した剣を閃かせ、
移動しようとしていたために重心がズレていた刻震竜の足を切りつけ、転倒させる!!
直後に地面に巨大な魔法陣が現れ、刻震竜の動きを鈍くしてゆく!
……要塞に居る魔法使いたちか!
よし!これなら当たる!そう、もう目の前に───!
───ぞくんっ───
彰利 「あ───」
ふと感じる寒気。
恐怖とかじゃない。
空気が震えたのを感じた。
これは───これは、時間操作の───
彰利 「───!」
そう気づいた時には既にそれは終わっていて。
直撃する筈だった魔導砲は、
刻震竜に当たることもなく役目を果たさぬままに通り過ぎて……!
……ああ、もうだめだ。
こいつはどれだけ傷を負っても、治せる時間さえあればすぐ回復しちまう。
ここで倒せなきゃアウトだったのに。
くそ……どうしてこんな───
ビジュンッ!!
声 「諦めない!それが、俺たちが唯一できる戦い方だ!」
総員 『───!!』
聞こえた声にハッと顔を上げる。
すると───魔導砲が進む先。
ただどこかにぶち当たって消えるだけだったソレを前に、
椛に連れられ転移して現れたのは───
散々溜めに使っていたはずのジークフリードを抜き去った中井出博光その人だった!!
中井出「エターナルッ───ディイイザスタァアアアアアアッ!!!!!」
ゴッ───キュゴォッフィィイイインッ!!!!
マナと魔力の集合体であり、そもそも自然の要塞から湧き出たそれ───
ただ消えるだけだった巨大な一発限りの光を、中井出は破壊力を倍にして吹き飛ばした!!
刻震竜は後ろでそんなことが起こっているとも知らず、ゆっくりと振り返り───
直後、初めて体感するであろう身を滅ぼす極光の恐怖を前に、
刻震竜『ア───ギアァアアアォオオンッ!!!!』
まるで恐怖する犬のように叫び───極光の直撃を浴びた。
───耳を劈く絶叫と爆裂音。
剥がれた先から破裂する鱗や、肉が破裂する音さえもがどうしても耳まで届いた。
だがそんな光を浴びてもまだ、未だ炸裂し続ける光の中で、
刻震竜は咆哮を上げて立ち上がる。
……つくづくバケモノ、つくづく竜族。
ぶるっ……と体が震えた。
怖さとかじゃない……純粋に、竜族という存在に尊敬にも似た感情を抱いたが故だった。
が……やはり満足に動けるわけでもない。
時を遡らせているのか進ませているのか、なんとか傷を癒そうともがいているが───
中井出「エネルギィイイイッ!!全ッ開ッ!!」
ここに来て、全身とフレイムサークルから火闇を放つ中井出が動き出した。
手に持つ武器は双剣。
既に四十八閃化が完了しており、リミットも既に解除済み。
けど最後の技って言葉に違和感を覚えた。
溜めてたのってエターナルディザスターじゃなかったのか?
だって溜めてたのに攻撃したし───と、そこまで考えて思い出した。
溜めている能力以外で攻撃して、
溜めていたものが消えるわけがない、とかなんとか中井出が言ってたのを。
つまり。
これから放つものこそが、中井出が溜めていたなにかで、
仕留められる的なことをあの中井出に口にさせた絶対的ななにか。
それは一体ドゴォンッ!!
彰利 「って速ァアーーーーッ!!?」
まだ説明キャラっぽく言いたいことがあったのに、
それが終わる前に中井出が烈風脚で駆け出した。
そこでようやく、残像めいたジークフリードの刃束()の異変に気いた。
普段とはなにかが違うと。
なにか───そう、剣の中に恐ろしいくらいの“属性”が込められてるんだ。
たとえば、全種類のキャリバーを装填したみたいな………………って、え?
まさか、だよな?
いや、いくらなんでも属性を掻き集めたからってあの刻震竜が倒せるとは───
中井出「いくぜサウザンドドラゴン!まずは巨大化ァアッ!!
先に蓄積させといたキャリバーを武器に込めてから“溜める”を解除!
四十八閃分の溜めたレイジングギガフレアを込め、
さらに極悪能力“庭師剣【楼観】”を使用!
一撃を十閃にするこれを以って、想いとマナと魔力こそを力に!!!」
彰利 「あ」
ようやく“あまりの恐ろしさ”って部分の意味が解った。
四発目の烈風脚が大地を弾いた瞬間、俺は静かに十字を切った。
紫色と金色の闘気を帯びた、四百八十閃の刃束を眺めながら。
中井出「灼()!紅()!蒼()!藍()!剣()ぇえーーーーーん!!!」
振るわれる斬撃。
烈風の踏み込みと疾風より放たれる五つの連撃が放つ音は、既に斬撃の音ではなかった。
斬り下ろし、斬り上げ、突き上げ、回転斬り上げ。
重くて仕方のない敵を、百を超える黄竜と滅竜の波動が弾き上げ、
トドメの跳躍斬り上げが今、炸裂する!!
彰利 「って、どう見ても斬空天翔剣だぁああーーーっ!!!」
違うといったら破壊力。
もはや技だのどうののレベルではない……アレはまさに破壊の象徴……!
……魔導砲とあまり変わらん感想だが、こっちの威力はそれ以上。
攻撃自体は今までともそう変わらないのに、
なにがそうさせているのかと疑問を抱いたが───
一体の巨大な敵を倒そうと望むこの場の皆、
要塞より流れる自然のマナと、そこに集う精霊や魔法使いから流れる魔力。
そしてなにより、魔導砲と接触したときに得たのであろう想いやマナや魔力の集い。
それらが中井出と、剣に宿る意思たちに力を与えているのだろう。
……中井出の影から得た情報だから、多分事実だ。
巻き起こる炎風と、込められていた属性全てが巨大な体を砕いてゆく。
魔導砲の光に包まれながら斬り上げられてゆく巨体からは、
血が大量に出ている筈なのに、
それらの全てが魔導砲の光から逃れることなく焼かれてゆく。
俺は、太陽を背に激音散りざむ空を見上げながら、
ようやく終わるであろう戦いに安堵の息を吐いた。
Next
Menu
back