───オイモとナーギー/やっぱりいつもの風景───
【ケース620:中井出博光(再ンコサインタンジェント)/夏の気配とともに】
シャカァアアカカカカカ!!!
中井出「ダァアブルヘッドモービット!!」
山々を滑走しつつ、ウェポンチャクラムと化したジークを回してゆく。
刃もジークムントとジークリンデだけではなく、全ての刃を突き出させた状態だ。
べつに硬い鱗を切るわけでもないし、これで十分さと思ったからです。
自然の言葉を受け取り、邪魔な部分だけを伐採。
武具に直接言葉を届け、あとは武具が動くままに振るったり放るだけで伐採は完了する。
意思を持つ武具の強みだねぇこれは。
ナギー『ヒロミツー!もう随分と落ち葉が溜まったのじゃー!』
中井出「うむナギー!では落ち葉名物“夜鬼威喪”を始めよう!」
やってみれば案外早いもので、伐採自体にはそう時間がかからなかった。
武具が勝手に動いてくれるもんだから、STRはまったく要らず……
AGIさえあれば十分な始末で、投げたり振るったりで30分も掛からず終了。
後を追うナギーが落ち葉や枝を集め、今に至っていた。
細かくとはいえ、散々切ったお陰か山は緑の香りに満ちていて、
息を吸って吐くと、然の加護の所為か体が癒される気分だった。
ナギーも心なし顔を上気させ、ニコニコと笑んでいる。
ナギー『なんじゃ?やきいもとは』
中井出「イモさ。イモを焼く単純な料理だ。これがあれば騎士王はまだ戦えた」
ナギー『?』
首を傾げるナギーの頭を撫でて、山を降りてゆく。
せっかく掃除してくれた晦には悪いけど、神社の境内を使わせてもらおう。
あんなところでやるもんじゃないかもしれないが、今日はちょっと風が強めだ。
火の粉が飛んで山火事にでもなったら困る。
中井出「あ、でも薩摩芋があるかどうか」
ナギー『サツマイモ?それは植物かや?だったらわしに任せるのじゃー。
種でもあれば見事に成長させてみせようぞ?』
中井出「うーむ、その種があるかどうか。
まあいいや、とりあえずは落ち葉とかを境内に置いていこう」
ナギー『解ったのじゃ』
実に平和なひと時。
強いとはいえ、高所に吹く風は比較的穏やかなもので、
届く風も遠くの方から運ばれてくるわりに、
神社の敷地内に入るや自然の領域に癒され、綺麗な風となってここに届く。
意識してそれを吸って吐く瞬間が、なんとも心地いい。
ナギー『ふう、さすがに結構な量になったの』
中井出「軽く切っただけとはいえ山ひとつ分だからなぁ。
よし、じゃあ母屋に行って、晦に芋があるか訊ねてみよう。
ここに居ないとなると、多分あそこだろうから」
ナギー『おもや、とやらか。ふむ』
バサバサと境内の隅に落ち葉などを置いてから、連れ立って歩く。
と、少しもしないうちにナギーが浮いて、俺の肩にセットイン。
どうやらここが気に入ってしまったらしい。
ナギー『ヒロミツ、そのイモとやらは美味いのかの』
中井出「ああ、美味いぞ〜?ただ焼くだけで味が出るステキな食べ物だ。
なんだったかな、あまり詳しいこと知ってるわけじゃないが、
熱することででんぷんが甘みに変わるとかなんとか」
ナギー『よく解らんの』
中井出「うむ。ようは食って美味けりゃそれでいいんだよ。
俺達は食通じゃないんだから」
肩車状態で神社の石段を降りてゆく。
ここしばらく走ったり急いだりの連続だったから、
階段をゆっくりと下りる、という行為でさえなんだかくすぐったく感じた。
だからだろうか。
自然に頬が緩み、それを感じ取ったのか、ナギーも笑っているようだった。
……。
じゃんしゃんしゃんしゃんしゃんっ!
中井出「おーい晦ー!居るかー!?」
ややあって、母屋の玄関前の引き戸に辿り着いた俺はそれをノックして晦を呼ぶ。
呼び鈴はもちろんあるんだが、ほら、こういうのってノックしたくなるだろ?
日本家屋だからってわけでも……多少はあるんだろうが、そういう気分になったのだ。
少ししてから中の方で誰かが小走りする音。
開けられた引き戸の先には晦が居て、呼び鈴を鳴らせ呼び鈴を、と言って苦笑していた。
中井出「山の伐採が終わったからさ。集めた落ち葉とかで焼き芋をしようと思うのだ。
悪いが、サツマイモかその種があったら分けてくれまいか」
悠介 「そっか。ちょっと待ってろ、種ならあった筈だ。
随分前に、ルナが大根の種と一緒に買ってきたやつが」
中井出「大根……ああ、ルナティック菜園で作るのにね……」
悠介 「おかしいだろ。あいつ、サツマイモは大根の亜種だと思ってたんだ」
中井出「そうなのか?っはは、そりゃ物凄い勘違いだ」
いい笑顔をしながら奥へ引っ込んでいく晦。
玄関の段差に腰掛けて待とうかなと思ったが、
玄関をくぐろうとしたところでナギーが玄関上部を押さえて進行を阻止した。
ああ忘れてた、このまま入ってたらナギーが衝突しているところだ。
と、そんなことでナギーと小さく話していると、とたとたと歩く音。
目を向ければ、晦が小さな紙の袋に入った種を持ってきてくれていた。
悠介 「ほら、これ。古いから芽吹く保障はないぞ?」
中井出「ん、大丈夫大丈夫。ナギー、これでいいか?」
ナギー『お任せなのじゃ』
コサ、と受け取った種を頭の上のナギーに渡して、また歩く。
っと、閉め忘れた玄関を閉めてから歩き出す。
閉めようとしていた晦と目が合って、お互い笑ってからピシャンと。
中井出「あ〜……いい天気」
ナギー『こうのんびりな日もいいものじゃのー……』
陽を浴びながらグミミと伸びる。
朝独特の空気のしっとり感を味わいながら、降りてきた石段をまた上がってゆく。
ナギー『ヒロミツ、種を育てるのはよいが、水が無ければ出来ぬのじゃ』
中井出「おう了解」
たんとんとんっとリズムよく石段を登りきって、境内の隅に歩いていってから義聖拳。
綺麗な水を出して、それを糧に、
俺の肩から降りたナギーがサツマイモの種に力を流してゆく。
するとナギーの手の上の種が急成長し、あっという間にサツマイモへと変化。
成長っていうよりもう変化の域だろ、この速さは。
ナギー『……おお、これがサツマイモなのじゃな』
中井出「うむ。これを焚き火の中で燃やすんだ。
……っとしまった、アルミホイル貰ってくるの忘れた」
あと新聞紙。
やっぱ食す時に包むといったら新聞紙だろう。
べつになんでもいいんだが、今はそういうのにこだわりたい気分だった。
ナギー『む?なんじゃ?』
中井出「アルミホイル。銀色の紙みたいなやつでな、
そいつに包んで焼いてやると、熱反射が起こって中まで火が通りやすくなるんだ」
ナギー『おお、それは便利じゃの』
中井出「正直原理がそれで合ってるのかは解らんが。適当に言っただけだし」
ナギー『それに包んだほうが美味いという話じゃろ?
ならば原理などどうでもいいのじゃ』
中井出「まったくだ」
そんなわけで再びドッキング。
俺の肩の上に乗ったナギーを連れ、また母屋を目指してのんびりと歩いてゆく。
……ちなみに。
蒼空院邸の晦の部屋から転移で来たんなら、靴を履いてないんじゃないか?
という質問に対しては、ドンナーを履いているから大丈夫だーと言っておこう。
ん?蒼空院邸?
…………なにか忘れているような。
まあいいや、すぐに思い出せないのは、きっと兄さんが満たされてるからだよ。
【Side───その頃の彼女】
………………。
リオナ「…………遅い」
いつまで待たせるんだあの男は……。
くっ、無様にも鳴る腹の虫が忌々しい。
少し待っていろ、あいつを叩きのめしたあと、存分に満たしてやる。
浅ましい地界人のことだ、卑怯な手を尽くすために準備をしているのだろう。
せいぜい足掻かせてやればいい。
リオナ「…………《きゅるぐー》……ああ、いや……今なら大盛りでもいい、なんて……
わたしは思ってなんか……ないぞ……?」
ああ、まったく……こんないい天気の日になにをしているんだわたしは……。
【Side───End】
メシャメシャモシャ……
ナギー『おお、これが“あるみほいるん”か』
中井出「アルミホイルな。これでこの立派なオイモを包んでやってだな……」
ナギー『わしにもやらせるのじゃ』
中井出「うむ、どんどんやりなさい」
ナギーと一緒になってサツマイモを包んでゆく。
思えば朝飯もまだだった俺だ、これが朝食ってことになるんだろうが、この量だ。
きっと僕を満たしてくれるだろう。
ナギー『おー!まるで甲冑に身を包んだような風情じゃの!』
中井出「へ?……はははっ、確かにそうだな、甲冑に身を包んだイモみたいだ」
テコーンと朝日に当てられ輝くアルミ。
それに身を包んだイモが輝く様に、ナギーは大変ご満悦のようだった。
その一言があってからというもの、
ナギーは如何にアルミがつるつるの状態でイモを包めるかに挑戦しだした。
つるつるしていた方が、より鎧らしく見える、というのが理由らしい。
ナギー『出来たのじゃー!……おおお、なんという雄々しい風情……!
名づけるのじゃ!このイモはー……その、なんじゃ。イモ=カッチューアじゃ!』
会心の作が出来たのか、名前までつけ始めたナギーは、
アルミに包まれたイモに、
どこぞのミャンマーに伝わる伝説の格闘技っぽい名前をつけていた。
芋と甲冑を足しただけだろう。
ともかく、包み終えた無数の芋たちを落ち葉などが詰まれた場所に埋めていく。
あまりに量があるから、落ち葉たちも無駄にならないだろう。
ナギー『これを燃すのかの?』
中井出「うむ。しかし落ち葉全部を一気に燃やすのでは山火事発生の恐れありだ。
だからこれを使ってから燃やす」
バンッ!と胸の前で両手を合わせて能力解放。
義聖拳から氷と災(竜)を引き出し、
フリーズドラゴンの体質変化奥義“絶氷の膜”を発動。
これで落ち葉が詰まれた場所を囲い、中で燃やせば火の粉は飛ばないという寸法だ。
ナギー『いろいろ心得てきたのぅ』
中井出「足らないことは武具が教えてくれるからな。
武具が無くなったら、そんな俺にいったいなにが出来るやら」
ゲームに戻ったら武器が封印されてて、しかも俺自身まで封印中だ。
はっはっは、手詰まりって怖いなぁ。
刻震竜の素材をジークに組み込むのはいつになるかな……。
それが出来た時、きっと僕は空間翔転移が出来るようになるんだ。と思わせてください。
そうなればアルベイン流最終奥義がついに完成版に至るのです!
僕はそれが待ち遠しい!
中井出「あ、そうだナギー。時が過ぎたフェルダールでアイルーは見たか?
種族としてでなく長老猫のほうな?晦が猫の里で見たとは言うけど」
ナギー『ふむ……わしもこうしてヒロミツにこの世界に引き込まれるまでは、
あの世界で10年を過ごしたわけじゃが……
最初の頃こそ要塞に住んでおったが、
帝国のやつらに捕らえられてからは違うのじゃ。
そういえばヒロミツ、おぬし長老猫に刻震竜の素材を投げ渡したそうじゃな』
中井出「おお。バックパックに入らなかった分をアイルーに渡したんだ。
腕に抱えてた分だな。両手は宝玉で塞がってたから」
ナギー『しばらくは猫たちもこき使われておったんじゃがの。
隙を見てわしが逃がしたのじゃ……がの、その所為で、
わしは力を使い果たしてずっと帝国に幽閉されておるわけじゃが……』
中井出「なんと……頑張ったな、ナギー」
ナギー『あやつらの猫の扱い方はほんに目に余ったからの。
それで……その、じゃな。ヒロミツが投げた刻震竜の素材が、
帝国のやつらの武器に使われてしまったのじゃ』
中井出「なんだってぇえーーーーーっ!!!?」
え……い、いや、ちょっとお待ち?
俺が散々、死ぬ思いしてまで剥ぎ取った素材が……帝国の野郎どもなんかに……!?
ナギー『も、もちろんアイルーはずっと抵抗したのじゃ。
じゃがの、味方を人質にとられてしまっての……』
中井出「グ、グウウ〜〜〜〜ッ!!!」
なんという卑劣!人のこと言えた義理じゃねーけど!
中井出「……いや、不問にしよう。猫は渡すまいとしてくれた。
しかし人質というか猫質を取られて仕方なくやった。……仲間思いじゃないか。
猫たちにはこれ以上ないってくらい恩がある。俺はそれを怒ったりはせぬよ」
ナギー『ヒ、ヒロミツ……!』
中井出「ぶっちゃけ刻震竜素材はバックパックに腐るほどあるし」
バックパックを取り出して、ゴチャアと見せると刻震竜素材がぎっしり。
ナギー『こ、これは凄い数じゃの……』
中井出「限界ブッチギリバトルだったから、回復アイテムやらなにやら全部使い切ったし」
だからもうギッチリだ。
入れられるだけ入れまくったからなぁ。
中井出「それで?その使われた素材でなにが出来たんだ?」
ナギー『ふむ……ノヴァルシオの技術を基に、
猫の技巧で作られた奇妙な“機械”という篭手じゃ。
銀色の……なんといったかの。アガ、アガなんたらという名前なのじゃ』
中井出「機械の銀の篭手?銀の手じゃなくてか?」
ナギー『うむ。銀の篭手だったのじゃ』
銀の手だったら岡田くんが最強伝説に至れたかもしれないのに。
残念だ。
ナギー『猫たちが言ってたのじゃ。いつか旦那さん……ヒロミツのことじゃな。
“旦那さんがこれを手に入れてくれた時、きっと力になるニャ”と。
……これだけ言えば解るじゃろ?
猫たちは、帝国のためではなくヒロミツのためにあの篭手を作ったのじゃ』
中井出「………」
あ……やばい。
じ〜んときてしまった。
ナギー『今その機械兵器が誰に使われておるかは解らんがの。
あれはヒロミツのものじゃ。もし見つけたら、必ず手に入れるのじゃ』
中井出「うむ。そうしなければ猫たちに申し訳ないしな。
と……よし、では属性が満ちたところで。
我が右手に炎、我が左手に元素……義聖拳!!
裏返し要らずの炭火焼きファイヤー!!」
ヂュゴォンゴゴモゴシャァアアアッ!!!
ナギー『おお!若い枝葉じゃというのに簡単に火がついたのじゃ!』
中井出「《フゥッ……》火力が違うんだよ」
人差し指の先にチリチリと残る火を吹き消しての一言。
歴史じゃないのが秘訣です。……なんのだ?
中井出「よっしゃ、じゃあ焼けるまで休憩といこう。───ジーク」
キィンッ!ガシャンシャンシャンシャゴシャアンッ!!
意思を通すや、武具の全てが一つになり、ランドグリーズとなって俺の右手に集う。
そんな巨大な鞘ごとの剣をザゴォン!と境内脇の土に突き刺してから、
俺とナギーは社務所の階段に腰を下ろした。
ナギー『豪快に燃えておるのじゃー』
中井出「普通の火じゃなくてマナの炎だからなぁ……」
木が乾いてるから燃えるんじゃなく、燃やす能力だから燃える。
これはそういった能力なのである。
……軽く物理法則を無視しているが、そんなものは今更だろう。
ナギー『のうヒロミツ?今日という日……“おふび”と言ったかの?
が、終われば、もう一度フェルダールに戻るのかの?』
中井出「オフ日な。言葉の前に“気力充実の”をつけると尚よし。
うむ、そうなるな。夏の終わりも間近だ、
それまでにやっておかなきゃいけないことが山ほどある」
ナギー『ふむ……それではわしはまた捕まってしまうのじゃな……』
中井出「俺も動けないんだ、そう落ち込むな」
ナギー『………………そうじゃの。のうヒロミツ?助かる時は一緒じゃからな?』
中井出「うむ。誰が助けてくれるのかは解らんが、のんびり待つとしよう」
しっかし、篭手の機械兵器ねぇ……。
ノヴァルシオの技術がどんなものかは知らんが、
それが刻震竜の素材と猫の技術で完成されたものなら相当に欲しい逸品だ。
そういやナノマシン……
エンシェントレリックスマシンもノヴァルシオの遺産ってことになるのか?
……だよな。
機械技術があの頃のフェルダールにあったとは思えないし。
中井出「………」
ナギー『………』
炎を眺めていた。
社務所へ続く木造の階段に腰を下ろして、ただゆっくりと。
……風が吹いていた。
セミが鳴いていた。
草が……揺れていた。
ナギーは俺が語るなんでもない話に笑みをこぼし、
その傍らでは……俺が解放してやったシャモンが賑やかに鳴いていた。
そうした夏の気配の中、俺は……こんな日々がいつまでも続けばいいな、と……
ただぼんやりと、考えていた……。
【ケース621:中井出博光(笑顔が満再)/芋、ところによりメイドさん】
ザザッ……ゾス、ゾリ……
中井出「ン〜〜〜……おー焼けてる焼けてる」
ナギー『おおすごいのじゃ!このアルミとやら、あの炎の中でも平気だったのじゃ!』
実はアルミまで燃やすんじゃないかと不安だったりもしたが……いやはや、
地界の技術も捨てたもんじゃないのかもしれん。
芋を包んだアルミを全て回収してから、
すっかり灰燼と化した枝葉たちに水をぶっかけて鎮火終了。
ナギー『これはもう剥がしていいのかの』
中井出「うむ。立派に役目を果たしてくれたアルミに感謝を。
剥がしてみろ、ホックホクだと思う。ほれ、新聞紙。これに包んで食うのだ」
ナギー『ほっくほく?……やわらかいとか、そういう意味かの。
あれだけ硬かったものが燃やした程度でやわらかくなるとは思えんがの』
言いながらソシャッ、コシャッと、バナナの皮を剥くみたいにアルミを剥いでゆく。
顔を覗かせたのは、夏場の陽の下だっていうのにしっかりと湯気を立てるサツマイモ。
ナギーはそれを見て、
あれだけの熱の中で原型を留めるとは……見上げた植物よの、と感心していた。
ナギー『……ヒロミツ?』
中井出「皮を剥いて食べるんだ。ほら、こうやって」
自分の手にある芋を剥いて見せてやる。
そんなことまでしてみて、ああ……ほんと親子みたいだな、って笑った。
ナギー『ふむ…………む?む、むむむ……おおっ!綺麗な中身じゃの!
しかもどこかよい香りもするのじゃ!』
中井出「食べてみろ。きっと美味いぞ」
ナギー『うむ!…………む?ヒロミツ、ナイフとフォークは何処じゃ?』
中井出「うん?……ああ、違う違う、それはそのまま食べるのだ。がぶっと、こう」
言って、がっと食べて見せる。
するとホクッという抜けるような歯ごたえとともに、口の中で溶けるような食感。
おお、こりゃ美味い。
ナギー『大胆な食べ方の食物なのじゃな。どれ……とりゃっ《はくっ……もくもく》。
……む、むむむむー!ヒロミツ!これはなんという植物なのじゃ!?
い、いやそうではないのじゃ!いつ味付けをしたのじゃ!?』
中井出「や、熱するだけでいいんだって。熱を加えてやるとー……あー、なんだ。
でんぷんが旨み成分とやらに変わってだな、あー」
ナギー『ともかく美味くなるのじゃな!?』
中井出「うむ!つまりそういうことだ!過程や方法などどうでもいいのだ!」
ナギー『うむ!美味ければよいのじゃー!』
どうやら大変気に入ったらしく、小さな口で懸命にもふもふと食べていっている。
ナギーもやっぱ女だなぁ、焼き芋がこんなに好きになるなんて。
……いや、それもあるだろうけど、どうもそれだけじゃないらしい。
と……そこまで考えて、ああ、と……理解に至った気がした。
ナギー『美味しいのじゃー!ほれヒロミツももっと食べよ!
わしが作った、えーと、なんじゃ?さつ、さつー……』
中井出「サツマイモ」
ナギー『───じゃ!残したら罰が当たるぞよ!』
……ま、つまりはそういうことらしい。
まがりなりにも自分が作ったものを誰かに食べてもらう、
もしくは食べることが嬉しいんだろう。
俺はそんな、いつもの何割か増しで燥ぐナギーを見て、くつくつと笑った。
中井出「………」
何気なく空を仰いだ。
隣からは“あちゅちゅちゅちゅ”とか騒ぎながらイモと格闘しているナギーの声。
空には雲雀が飛んでいて、独特な鳴き声を放ちながらぐるぐると旋回していた。
……いい天気だった。
本当に、なんて穏やかな時間だろう。
こんな日がいつまでもいつまでも───
中井出(……続くわけ、ないのにねぇ)
溜め息を吐いた。
ずっと同じものなんてのはないって解り切ってる。
少しでもそのままで居たいって気持ちはそりゃああるが、無茶なもんは無茶だ。
たとえば歳を取らなくなっても、周りは変わってゆくだろう。
周りが停止しても、自分は変わっていくだろう。
生きてる限りそりゃ仕方ない。
だから、こんな考え事も仕方のないことだ。
中井出「よし!食うか!」
ナギー『もう食べれないのじゃあああ……!!』
中井出「ホワッ!?───うおおすげぇアルミの残骸!
ナギー貴様いったい幾つ食いやがった!?」
ナギー『フフフ……10から先は覚えておらんのじゃ……』
中井出「なにその無駄にカッコイイ返答!俺も言ってみたい!」
だがイモはまだまだ残ってるわけで。
……うーむ、やはりこの世界は捨てたものではない。
俺が腐ってても周りが放っておいてくれないのだ。
苦笑しながら水キャリバーで水を出してナギーに飲ませると、俺も芋に手をつけ始める。
中井出「《もぐっ……》……ん。美味いな」
やめやめ。
未来は待ってりゃやってくるのだ。
相手が夏の終わりに動くのか秋に動くのかなんてのはどうでもいい。
ようはそれまでの間に自分らがどれだけのことを出来るかで───
死んじまうのはもったいないけど、正直俺は楽しめてればそれでいいと思ってる。
未来を変えるために暗黒英雄をどうこうする〜とかじゃなくてさ、
この夏を自分なりに楽しめてりゃあそれでいいや。
もちろんその先で未来も得られたらめっけもんだなって思う程度。
未来は諦めたくないし死にたくもない。
けど楽しみたいなら、結局はこうなるわけだ。
それでいいじゃないか。
中井出「よしナギーよ!この美味を母屋に居るやつらにも分けに行くのだ!」
ナギー『うぷっ……ま、待つのじゃ……食休みが欲しいのじゃ……』
中井出「今という時間は今しかないんだぜ!そんな弱音は知ったこっちゃねー!」
ナギー『《ガヴァー!》ひゃううっ!や、やめるのじゃ動かすでないのじゃー!!』
中井出「うむ!喚く元気があるなら素晴らしい!まだまだいけるぜナギー!」
ナギー『うぷっ……そ、そうじゃがの……。
もう少しやさしゅうに出来ぬのかと申しておるのじゃ……』
中井出「頭痛にバファリン」
ナギー『胃痛なのじゃ!』
中井出「バカモン!バファリンの成分の半分はやさしさで出来ているのだ!」
ナギー『そ、そうなのか!?やさしさなぞどう封入したのじゃ!?』
中井出「そ、それは国家機密とされているのだ……!」
ナギー『……ま、まさかその裏で暗躍するのはジーラではあるまいな……』
中井出「その通りです」
ナギー『やはりか!うぬぬ、恐ろしき猿よの、ジーラは……!』
ナギーの中では“ジーラ=大魔王”の方程式が既に完成しているようだった。
しかしだ。
過程はどうあれ、多少は持ち直したようなので、このまま母屋へ直行してしまおうと思う。
脂汗……というのか?ともかくじわじわと汗をかいているナギーを肩に乗せると、
またのんびりと夏の蒼空の下を歩く。
聞こえるセミの声は風物詩だ。
山が近くということもあって、神社周りの大合唱には耳が痛い。
それでもそこまで気にならないのは、
ひとえに……こんなうるささも悪くないと思ってる自分が居るから、
ってことにしておこうと思う。
……。
じゃんしゃんしゃんしゃんしゃんっ!
中井出「ヤーホー!俺、参上!」
そうしてまたノックする。
叩くたびに揺れて、独特の音を出す玄関がなんだか心地よい。
うるさいのは当然だが、今はうるささも寛容できる器を何故か僕は持っていた。気分的に。
と、しばらくノックしていたのだが中からの返事はなく───
声 「中井出かー!?裏に回ってくれー!」
代わりに、外の裏の方から声が聞こえてきた。
チラリと横を見れば、小さな石が敷き詰められた庭。
歩くたびにジャリジャリ鳴るソレは、やはり日本ならでは、という気がしてならんのだが。
それはただ俺がそう思ってるだけであって、
外国にも案外こういうものがあるのかもしれん。
や、なにを考えてるんだろうな、俺は。
夏の暑さが僕の頭を穏やかにする……こんにちは、博光です。
無駄にはだけた上半身の着衣をいそいそと正し、すたすたじゃりじゃりと歩いてゆく。
さて、脱ぐためにわざわざ地面に置いた芋も忘れずに取ってと。
ナギー『うぅむ……これは石かの……?何故こんなにもたくさんあるのじゃ……?』
中井出「泥棒対策である!こう……歩くとジャリジャリ鳴るから気づくのだ!」
ナギー『なるほどの!』
適当だが、きっと当たってるだろう。
それ以外に理由といったら……風情みたいなものか?
景色を愛でる人が開発したとか。……うん、よく解らんな。
ともあれそんな石の上をじゃりじゃりと歩いてゆく。
どうやら本日は通った人が居ないらしく、妙に整った石の海がそこにあった。
それをなにするものぞとごしゃごしゃと歩き回し、ハフゥと輝く汗を拭う。
今日もいい仕事をした。
悠介 「たわけぇええっ!!わざわざぐしゃぐしゃに歩いて回るやつがあるかー!!」
すると早速聞こえる怒号。
うん、穏やかなのもいいが、やっぱり騒がしいのが一番だ。
……ああいや、目的を忘れるな博光よ。
今日は気力充実のオフ日だから穏やかでいいんだ。
中井出「やあ」
悠介 「いや……やあじゃなくて……あのなぁああ……」
額に手を当てて溜め息を吐く晦だったが、
芋を抱えてナギーを肩に座らせている俺を改めて見ると、苦笑した。
まあそんなもんだろう。
どんな理由にせよ、ずっと怒ってるのは気分が悪いもんだ。
中井出「芋が出来たからお裾分けに来たんだ」
ナギー『わしとヒロミツの合作なのじゃ。心して食べるのじゃぞ?』
悠介 「種をあげたのは俺だけどな」
中井出「ふむ。だったらこれは種を作ってくれた製造元とそれを買ったルナ子さんと、
いつまでもこれを使わなかった晦家の面々と、種を渡してくれた晦と、
種を芋にしたナギーと、芋を焼いた俺の合作、ということになるのか」
ナギー『それと燃すための落ち葉などの提供をしてくれた自然に感謝、なのじゃ』
中井出「うむ。ありがとう様々に重なった偶然」
悠介 「何処に居ようが楽しそうだな、お前らは」
中井出「楽しいとも。だから早くヒロラインでの僕とナギーとシードを救ってくれ」
悠介 「出来ることならな」
やっぱり苦笑してから、芋を抱えて縁側まで歩いてゆく。
そこに芋を置くと、早速一本を剥いてもくもくと食べてしまう晦。
悠介 「ん……美味いな。いい味してる」
ナギー『うむうむっ、そうであろそうであろっ』
中井出「ちなみに毒入りだ」
悠介 「ぶっほっ!?なっ───お前なっ───!」
ナギー『もちろんウソなのじゃ』
中井出「わーははははは騙されおったわー!!」
ナギー『わーはははははざまぁないのじゃー!!』
悠介 「……はぁ。お前ら、それで親子じゃないっていうんだからなにかがウソだ」
そうだろうか。
他人でも本気出せば案外スゲェぜ?と、ニコリと笑顔で語ってみるが、
晦はとくに返事をするでもなくもくもくと二本目を食べていた。
どうやら気に入ってくれたらしい。
中井出「グフフフフ、喜べナギーよ……晦が黙々と食べるということは、
和食魔人のお墨付きを得たということ……!
このサツマイモはかなりの良質食品と考えてよし……!」
ナギー『ふむ?この男は魔人じゃったか』
中井出「エ?……うむ!」
悠介 「こらこら提督っ!無責任に勝手な知識を押し付けるのはやめろっ!」
中井出「責任や使命や夢に縛られない大人に成長してもらいたいのです」
悠介 「そうしたら果ては我が儘大王だろうが!」
そうかも。
だがナギーは、俺以外にはそう我が儘は言わない気がする。
なんていうんだ?
子供っぽさというか、弱さを見せてるのが俺にだけ、のような気がするのだ。
各地で見せまくってるような気もするが、ぶつけられてるのは俺だけだ。
だったらそれでいいんではなかろうか。
中井出「うむ、積もる馬鹿話もこのヘンにしてと。彰利とシードと紀裡は中だよな?」
悠介 「むぅ……奥の方の屋根裏に居る。手前の屋根裏はセレスの部屋だから気をつけろ」
中井出「まだメイド談義してるのか」
悠介 「あいつがメイドを語り出したら止まらないことくらい知ってるだろ」
声 『メイドじゃねぇええーーーーっ!メイドさんと言えぇええーーーーーっ!!』
中井出「……ああ確かに」
悠介 「家系に戻った所為か、また随分とうるさくなってな。
ま〜た人のことをダーリンとかぬかしだすわなにわ……」
賑やかそうでなによりじゃい。
そう言いながら縁側を登ろうとして、ハタ、と晦に質問。
中井出「あ、こっから上がっていいか?」
悠介 「ああ。靴は玄関に回しておくから───って提督、それ脚甲じゃないか」
中井出「うむ。実にイブシ銀。
蒼空院邸からは外に出ずに転移してきたから、裸足のままだったのだ。
ナギーはもう何処であろうが靴のままだからよかったが、俺はそうもいかん。
だからドンナー。イブシ銀脚甲ドンナーだ」
意思を通せば雷を放つ具足が、朝日に当てられゴキャーンと輝いた。
実に素晴らしい。
と、素晴らしさに頬を緩ませてないでさっさといこう。
ほんといっぱいあるから、誰かに渡さなきゃ無くなりそうになゴドンゴ!
ナギー『うぴぃっ!』
中井出「あ」
ナギーの頭が障子枠にヒットした。
おおお震えてる震えてる!よほど痛かったのだろうよ!
だが知ったこっちゃねー!
中井出「大丈夫だナギー!傷はない!」
ナギー『傷はなくとも痛いであろ!もう少し気をつけて進むのじゃー!』
中井出「断る!俺は我が道突き進むスパイラルドライバーよ!
行く先に何があろうが突き進むが吉なのだ!」
悠介 「そこが滝つぼであってもかー?」
中井出「きっと滝の裏に小さな穴があって、ティラノザウルスをやりすごせるんだ」
悠介 「よくもまあそうポンポンとそういう返事出せるよな、提督」
中井出「うむ、僕の頭の中はいつも賑やかなのだ」
理由はそれだけで十分さ。
細かいことは気にしません。
中井出「ではナギーよ!レッツゴーだ!」
ナギー『……屈んでおるのじゃ』
言うや、ナギーがこの博光の頭を抱えるように縮こまる。
こうすればぶつからないだろうと踏んだ故だろう。
そんなナギーの発想にニコリと笑みつつ、
俺はとすとすと日本家屋独特の廊下を歩く音を満喫しつつ歩いてゆく。
確か奥の方だって言ってたな。
───晦家は大きく分けて、二つの家がくっついたようなカタチをしている。
晦が奥、といったのは玄関などがある部分……ここだな。
ここよりも一家屋分離れた場所、ということになる。
もちろん繋がってはいるんだが、まあ、なんだ。
ひとえに“離れ”的な役割に位置すると考えてほしい。
そこを目指して歩いてゆく。
外から回ったらどうだろうか、なんて話は却下だ。
なにせ離れの方は崖っぷち近くなので、こっちから回っていかないと危険なのだ。
ちなみに崖の先には滝つぼに続く細い道がある。
神社脇から行ける場所よりも低い位置だな。
中井出「イ゙ェアアアア!!」
ナギー『《ドゴォッ!》うきっ!?』
長く続く廊下の途中で、無意味にコマネチしながらジャンプしてみた。
すると、廊下の仕切の枠に頭をぶつけて悶絶するナギー。
ナギー『かぁここここ……!!ななななにをするのじゃああ……!!』
中井出「マリオは……残機が無くなるとついやっちゃうんだっ♪」
ナギー『うう……よく解らぬが急に飛び上がるでない……』
うむ。
やってはみたが、ジャンプとしてはどうなんだって感じだったから多分もうやらない。
中井出「……で、ここを抜けて、あっちへ渡って……」
廊下の先にある勝手口めいた引き戸を開ける。
そこには学校でよくある体育館への渡り廊下のようなものがあって、
先の離れへと続いている。
屋根だけはきっちり繋がっているここと離れとは、
俺も数えるくらいしか通過したことがない。
カラカラ……
離れの引き戸を開けて中へ入る。
冬ならばここを通るのは強烈に寒いが、この季節だ。
逆に暑いくらいの風が吹いていて、寒さに困ることなどない。
……暑いのは暑いので当然いやなのが人間の我が儘チックなところだな。
中井出「おーい彰利ー!
……つーかお前こんな場所に居るくせにメイドさんがどうとか言うなよー!」
声 「ククク……甘いわ!お茶請けの菓子を奪いに行ったら声が聞こえただけさ!」
ナギー『むっ!?ど、何処なのじゃ!?近いのじゃ!』
中井出「きっと死んで浮遊霊になったんだ」
彰利 「真顔でウソついてんじゃねー!!」
彰利が現れた!
コマンドどうする!?
1:芋をあげる
2:芋を投げる
3:イモコを歌う
4:騙されちゃだめだ!幽霊は人を騙すのが上手いんだ!───悪霊退散!!
5:ナーギーズヘッドブラスト(ナギーを投げる)
結論:……5!
中井出「ヘイナギー!タッグフォーメーションAだ!」
ナギー『嫌なのじゃーーーーっ!!』
中井出「なにぃ!?《ゴキキ!》ぐおおっぷ!?こ、こらナギッ……!
そんなに頭にしがみつかれたら……!
アオアーーッ!《ゴキィ!》グアッ!?ゴゲッ!アベシャリッ……ゲリッ……!」
ナギーの体がメキメキと我が頭蓋を締め上げる!!
投げられることを悟ったのだろうか、しっかりとしがみついたまま、
詳しく言えば我が呼吸口さえ封じてギッチリと締め上げてくる!
必死さのためかSTRも随分高くなっているようで、
さすがのこの博光も打撃や斬撃ではなく絞め技でこられたら───あ……光が……!
い、いかん……このままでは絞殺されてしまう……!!
中井出「イ゙ェアアアア!!」
ナギー『《ドゴォッ!》うきゅっ!?』
中井出「イ゙ェアアアア!!イ゙ェアアアア!!イ゙ェアアアア!!」
ナギー『《ドゴゴスゴドンゴゴシャアッ!》うきゃきゃぁあっ!!やややめるのじゃー!』
中井出「───!───!」
コマネチジャンプをしてナギーを天井にぶつけ、振り払おうとする!
がっ…………ダメッ…………!
いよいよ危険を感じた俺はベシベシとナギーの脚を叩くが、
意地悪で叩かれてるとでも思ったのか、我が手をげしっと蹴ってきた。
ノ、ノー!!
中井出(くっ……こうなればもはや手段は問わぬぞナギー!!)
もはや限界!
最後の力を振り絞り、ナギーの足をしっかりと掴むや否や跳躍!!
そしてバック転をする要領で身を捻る!
中井出「わううぉんふぇんぼぼっぷ()ーーーーーッ!!」
ガゴドシャアッ!!
ナギー『はぎゅうっ!!?《コキコキ……!》』
…………徹った。
衝撃とともに解放される口と鼻とでゴヒュウッ!と息を吸い、
次に衝撃で妙な方向に曲がった首の痛さに悶絶。
俺とナギーは仲良く離れで廊下を転げまわることになった。
あーあ、芋が転がっちゃったよもう。
彰利 「ワーオゥ、なにこれ。サツマイモ?
肉じゃが嫌いがたたってとうとう薩摩に逃げた?」
中井出「……………………」
彰利 「……、……?中井出?」
中井出「………………《ガタガタガタガタガタガタガタガタガタタタタタタタタ……!》」
彰利 「ウヒョオ!?すげぇ震えてる!人ってこげに震えられるもんなん!?」
中井出「イ、イヤダ……!ニクジャガ、イヤ……!コワイニクジャガコワイ……!!!」
彰利 「お、落ち着け中井出!オイ!なに!?その出したロープどうすんの!?オイ!
なんで窓枠に引っ掛けとるの!?オイ!それぶらさげてどうするんだ!?オイ!
輪ッか作ってどうする気なんだ!?オイ!や、ちょ───」
中井出「ボクハコノアオイチキュウガダイスキデシタ……」
彰利 「早まるなぁあーーーーーーーっ!!!
OKアタイが悪かった!肉じゃがのことはもう言わんから!ね!?
なかっ───ちょ───ええいしっかりせんかぁーーーーい!!」
中井出「《バゴォン!!》ニーチェ!!」
───空を飛んでいた。
ハテ、ここは何処だろう。
あれ?俺なにやってたんだっけ。
なにか恐ろしいことがあったような気がドガシャァアーーーーン!!!
中井出「ぎゃああああああーーーーーーーーーーーーーー………………───」
彰利 「アッ───アアーーーーーーッ!!!」
なにやら知らぬ間に渡り廊下への窓ガラスをブチ破ってフライアウェイ。
すぐ脇にあった崖っぷち目掛けて勢いよく吹き飛んだ僕は、
ようやく差し込んできた、高くなった朝日に照らされて現れた滝壺にかかる虹を見ながら、
大空を羽ばたく鳥になったのでした。
───……。
……。
べちゃり……どちゃり……
中井出「滝壺の裏に通路を発見したんだぜ!」
彰利 「ウソおっしゃい!」
戻ってきてそうそう即答だった。
くそう、いくら夏場だからって、あまり陽の当たらない滝壺に落ちりゃあ寒いんだぞ?
すっかり水もしたたるダンディズム……博光です。
彰利 「とりあえず家ン中が濡れるから入ってこないでね?」
中井出「あの……僕自身、なんで滝壺に落ちていったのかが解らないんだけど。
でもなんだか左頬が痛いんだ。何故だか知らない?」
彰利 「シラナイヨ?」
ウウム、僕の記憶がとんでいる内にいったいなにが……?
まあいいや、とりあえず霊章を全身に行き渡らせて……レッツファイア!!
ヂゴォンガガゴババババォオンッ!!!
中井出「……僕のお乳をお飲み《脱ぎゃあっ!》」
彰利 「水を蒸発させた途端になにやっとんすかキミ」
や、意味はないんだが。
ともあれ自然乾燥、ではないけど乾燥完了。
まるで風呂上りな風情の僕が、ファサァッと髪を払う今この瞬間が素晴らしい。
……え?ち、違うよ?ナルシストじゃないよ?乾いてよかったって話をしてるだけだよ?
彰利 「しっかし貴様の霊章って便利やねー」
中井出「《ズキキキキ……!》ウググ……!
便利なのは認めるけど、使うと筋肉痛がね……。
今なら爆発()系の呪文を使ったザーマスの気持ちが解る……」
彰利 「珍遊記か」
ナギー『なんなのじゃ?それは。ドン系?』
中井出「うむ。爆発系の呪文を使うと関節が痛くなるんだ。
薬でなんとかなるらしいが、こればっかりはどうにも───」
ロビン「デザートだ」
中井出「いらないよもう!!」
間も無いままにズチャッと差し出されたバケツいっぱいの液体に恐怖する。
確実にプロテインだ。間違い無い。
そもそもいつの間にロビンになったんでしょう彼は。
ロビン「知らんのか。酷使した筋肉はいつだって蛋白質を求める。
一回飲んだからそれでいいと思ったら大違いだ。
昨夜の一杯は、貴様の中での不足分が補給されたにすぎん。
だから、さあ。そのままにしてほうっておきゃあ、
筋肉はズタズタなままでまた酷使されて、筋肉は弱っていく一方よ。
マナで回復するとはいえ、そこに筋肉を構築するための栄養がないのではな」
中井出「……ねぇナギー。
ロビンに真面目に説法されるのがなんだかやたらと腹立つんだけど。
本物の紳士超人ならまだしも、中身が彰利なのがまたなんとも……」
ナギー『けど間違っておらぬじゃろ。飲むのじゃ、ヒロミツ』
中井出「グ、グウウ……」
ロビン「ウム。ではナーギーズエンジェル、このカンペを読むのだ」
ナギー『誰がエンジェルじゃ』
言いつつも、コサ……と受け取った紙を見て、読み始めるナギー。
くそ、地界文字が読めないとかだったらよかったのに、
すっかり慣れたネックレスの翻訳機能を見事に使ってやがる。
ナギー『14キロの……砂糖水……』
ロビン「奇蹟が起こる」
中井出「それはもういいって!飲むから!もうそのネタいいからァアア!!」
がぶっ、とバケツに入ったプロテインをあおってゆく。
って不味ッ!!相変わらず不味いよこれ!なにこれ!!
彰利 「イッキ!イッキ!イッキやイッキ!!」
ナギー『……?───イッキ!イッキ!!』
中井出「ゴブボ!?」
や、やめろ!囃し立てるようなことは!
盛り上げることを求められたら俺は───!!
彰利 「イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!!」
ナギー『イッキ!イッキ!』
ダメでした。
最早抗う意思が逃走した。
代わりに僕にやあと語りかけてきたのは、飲むと決めた覚悟さんで───
ゴキュリゴブゴブグビグビンビンビ!!
ズビビゴキュキュゴフリゴフゴフガブゴブゴキュグビ!!
彰利 「イッキ!イッ───」
中井出「うじゃああ〜〜〜……《ドシャア!》」
ナギー『ヒロミツ!?───ストレートに気絶したのじゃ!』
彰利 「だっせーんだよデブちん!!」
飲みきった途端、胃の限界を迎えた僕はあっさり気絶。
膝から崩れ落ちるなんて悠長なこともせず、ドゴーンと頭から廊下に倒れ伏した。
いや……つーかね彰利。
セオリー通りとはいえこりゃキツいよ。
だっせーんだよって言われたブーの気持ち、解らんでもないけど面白かったからいいや。
……。
中井出「ところでメイド談義はどうなったんだ?」
彰利 「メイドさん!はい復唱!つーか回復速ェエねキミ!!」
気絶して数秒で復活。
相変わらず体はスチーム状態だが、なんか面白かったのでスチームマンになってみてる。
汗臭さ?昨夜はあったらしいけど今はもう無しさ。
体が健康な証拠だろう。きちんと筋肉も作られていっているようでなにより。
まあ俺の状態はさておき、とたとたと階段を上ってゆき、屋根裏まで一気に登る。
ちょっと薄暗いそこは、まあ……なんだろう。
いわゆるエプロンドレスがズラリと並んでいた。
中井出「これってついさっき作ったのか?」
彰利 「バカモン!メイド服作るのにスピードなぞ求めるものか!
これはずっと前にアタイが縫ったメイド服たちYO!!」
中井出「………」
虫食いひとつないまま安置されているってのも凄いもんだな……。
彰利 「小から大まで様々なサイズが用意されております。
どれもこれもが厳選されたものから縫われており、
抗菌防虫もキャ〜ンプリィ〜ツ!あ、コンプリートね?完全無比なの。
肌触りにもこだわりありだぜ?アア、なんて素晴らしい……!」
ナギー『そんなにすごいのかの《べしぃっ!》みぎゃっ!な、なにをするのじゃ!』
彰利 「汚い手で触るんじゃありません!触りたいならミャーズで手を洗ってからです!
芋の匂いが移るでしょう!?」
ナギー『ならば叩く前に申せばよかろ!』
彰利 「言葉じゃ間に合わないと判断した!故に叩きました!最強!」
中井出「───」
チラリと屋根裏を見渡してみる。
と、頭から煙を出してるシードと紀裡がメイドサンメイドサンと呟きながら倒れていた。
……逃げよう。
ここはメイドさんに興味がない人が立ち寄っちゃいけない場所なんだ。
彰利 「ほいじゃあまず最初からね!?まずこれをどうぞ!イリーズブートキャンプ!
ひぐらしのなく頃にの入江所長がメイドさんについてレクチャーしてくれます!
基本はまずこれで覚えてください!でも染まりすぎんように。
入江所長のメイドさんへの愛は主に肉体的なものに近いから。邪さはいりません。
純然たるメイドさんたらステキって思いだけを持ってください。
ですのでまず、このテキスト《ゾブシャア!!》ごぎゃあああああああっ!!!」
果てなく長くなりそうだったので超サミング!!
凄まじい声を上げて仰け反り、蹲る彰利を他所にシードと紀裡を回収!
ナギーには肩に乗ってもらい、屋根裏から逃走開始!!
あいつ、メイドのことになると周りが見えなくなるからなぁ。
……それから、彰利に捕まるわけにもいかなくなった俺は、
ともかく月詠街から逃げようと必死になって疾駆&飛翔。
晦への挨拶も適当に、取り出したジークに乗ると各馬一斉にスタート。
空を飛び、蒼空院邸へと戻ったのだった。
……そこで待つ、一人の腹を空かせた修羅の存在を知ることもなく。
Next
Menu
back