───後半戦・午後の部/緩やかに、いつもの風景───
【ケース632:中井出博光/甘えたい年頃たち】
程なくして昂風街、蒼空院邸に戻ってきた俺と閏璃。
大きな扉を開けて屋敷の中に入ると、そこで待っていたのはユミえもんだった。
由未絵「凍弥くん!」
閏璃 「《がばしー!》フオオ!?」
主人を待つ犬のように玄関ホールで待っていたのか、閏璃の顔を見るや抱きついた。
物凄い反応速度だ。
で、僕はといえば…………
中井出「…………《キョロキョロ》………………うう」
誰も待ってくれなかったことに、少し寂しさを感じるのでした。
思わず嫉妬を込めた瞳で閏璃を睨んでしまうほどに。
閏璃 「な、なんだ?」
中井出「べ、べつになんでもないわよ!
言っとくけど羨ましくなんかないんだからね!?《ポッ》」
閏璃 「そうか、それはよかったな」
中井出「うわぁ冷たい!でもなんか新鮮だ!」
さて、一頻り状況を楽しんだところで。
中井出「みんなは?でぇととかゆーやつ?」
閏璃 「デートも知らないのか」
中井出「うむ。実はこの博光、でぇととやらなぞしたことがない。
意中の女と町を練り歩いて笑って語って飯食ってショッピングして、
お代金は全て男持ちだという恐ろしいものだとは聞いているのだが……!」
閏璃 「偏りまくってるけどあながち間違いじゃないのが辛いところだな……」
由未絵「あ、あのあのええっと凍弥く、くくくくん、その、ね?
わたわたた……わたしも、その、でぇと、したい、かな……」
閏璃 「そうか。俺はしたくない」
由未絵「はうぅっ!?《ガーーーン!!》」
中井出「……デートってそんなにいいもんなの?」
閏璃 「いや……終始女に振り回されっぱなしだと噂では聞いたが」
ああ……やっぱり?
中井出「そうか。と、それはいいとして、俺ちょっと紀裡たちの様子見てくるわ。
そういやいつか、シードを思い切り甘やかしてやろうと決めたことがあったのだ」
閏璃 「子供はあんまり甘やかすと付け上がるぞ?」
中井出「望むところです」
俺は相手が子供だろうが取る態度はそう変わらんし。
俺の自然体で相手がどうなっても、俺は知ったこっちゃねー!
……うん、よく解らんね。
───……。
……というわけで、紀裡を発見。
遊戯室で遊ぶナギーとシードの周りをうろうろと行ったり来たりしてる。
なんだろあれ。
とか思いきや、突然ナギーに声をかけていた。
あ、声の大きさにナギーが驚いてる。
ナギー『なんなのじゃいきなり!おぬしわしを驚かせたくてうろついておったのか!』
紀裡 「ち、違う、そうじゃなくて……その……あ、あ───ありがとう!!」
ナギー『………………?なにがじゃ?』
紀裡 「だからそのっ、か、庇ってくれて!」
ナギー『?…………おお、あの“くるまー”とかいうやつから守ったことか。
べつにどうということもないのじゃ、
おぬしが弱いことはヒロミツから聞いておったからの。
“先輩”であるわしが守ってやるのは当然のことなのじゃ』
先輩って部分を随分と強調して胸を張るナギー。
腰に当てた手がまたなんとも子供っぽくて、思わず笑ってしまった。
ナギー『誰じゃ!?』
中井出「ゲゲエ見つかった!!───博光です」
ナギー『なんじゃヒロミツか』
見つかったからとりあえず驚いてみたけど、すぐさま普通に対応。
遊戯室にトコトコと入ってゆくと、黙々とビリヤードの玉を重ねていたシードをキャッチ。
ババー!と肩に乗せて、ニコリと笑った。
シード『うわぁっ!?ち、ちちち父上!?』
ナギー『むああっ!?こりゃー!そこはわしの特等席なのじゃー!!』
中井出「ククク、甘いわナギー。この世は未だ乱世よ。
自分のものだと思っていたものがいつ、
誰に奪われるのかなんてのは解らないんだぜ!」
ナギー『そうなのか!?』
中井出「ウソだ」
ナギー『だから真面目な顔でウソをつくでないのじゃー!!』
いや、そうは言うけど。
午後は思い切り甘やかそうと決めてしまったものは仕方なし。
中井出「ゴフェフェフェフェ、どうだシードよ……父の上から眺める景色は」
シード『な、なんだかおかしな気分です……。今まで見ていた景色とまるで違う……。
浮遊しているわけでもないのに景色が高いなんて、本当におかしな気分で……』
ナギー『ううー!じゃからそこはわしの特等席だと言うておろうがー!!
降りるのじゃー!下ろすのじゃー!!』
ナギーがグイグイと我が服を引っ張ってくる!
マア何事!?いったいなにが不満なの!?───これはもしや縄張り争い!?
……ていうか甘やかすっていったって何すりゃいいんだろうね。
俺、早くから両親も祖母も無くしたから、子供にはどう接したらいいかがいまいち解らん。
そんなもんだから紀裡も随分と真面目になってしまったわけだし。
中井出「き、紀裡よ……こんなこと訊くのはなんだと思うが……」
紀裡 「?……なに?お父さん」
中井出「親として、子供にはどう接すればいいんですか?」
紀裡 「───………………お父さぁん……」
物凄く呆れた顔でした。
紀裡 「それ、親が子に訊くことじゃないよぅ……」
中井出「うるせー!解らないことを誰かに訊くことは恥じゃねー!だから教えて!?
今日僕はこの子たちをたっぷりと甘やかさなければいけないんです!」
紀裡 「…………わたしは?」
む?紀裡?
…………おお!確かにこの博光、紀裡を甘やかしたことなぞてんでない!
何故って甘やかし方を知らなかったから!博光うっかり!
中井出「うう、すまなかったなぁ紀裡……この博光が親の愛情を知らなかったばかりに、
貴様には何一つ親らしいことをしてやれなかった……」
紀裡 「え……お、お父さん……?」
中井出「今まで黙っていたが、この博光は両親を早くに亡くしてな……。
親の愛というものを知らずに育ったのだ……。
祖父の穏やかな接し方とかなら知っているのだが、両親からの愛はからっきしで」
紀裡 「…………え、あの……じゃ、じゃあ……お父さん、
わたしのこと嫌いだったわけじゃ───」
中井出「え?なんで嫌いなの?」
───あれ?もしかしてこの博光、誤解されてた?
俺ってばほんとどう接していいか解らなくて、
つい猛者と語り合うように強い口調で喋ったり突き放したりしてたが───
いや……そういやそうだよなぁ、紀裡は娘であって猛者じゃない。
猛者どもみたいな強靭な精神を持っているわけではなかったのだ。
……てことは俺、ただの鬱陶しい馬鹿教官じゃないですか。
などと思いつつ改めて見てみれば、小さく震えながらなにかをこらえている我が娘。
息子ってマイサンって言うけど、娘ってなんていうんだろ。
まあそれはいいや、今はともかく───
中井出「娘よ……この博光、家族を嫌ったことなど無し。
両親のことはいまいち覚えてないが、祖父母はとても暖かな方々だった。
そして麻衣香もこの博光にとっては最高の妻であり、
貴様という娘も、この博光にとっては大事な家族の一人よ」
紀裡 「お父さんっ……!う、うぅっ……うわぁああああんっ!!」
中井出「ムッ!?」
紀裡が我に向かって走ってきた!
ヌウウなんというヤツよ!こんな時にまで我が命を狙ってくるとは!
よろしい!ならば俺も───誠意を以って応えねばならんな!!
中井出「52の関節技のひとぉつ!!キャァアプチュードォオオッ!!」
ナギー『ホチャーーッ!!』
中井出「《ズパァン!!》なにぃ!?」
ガッと構えた途端、ナギーが我が足を勢いよく払いおったわ!
ぬ、ぬかったわぁーーーーっ!!
よもやこんな身近に伏兵がおったとはドグシャアッ!!
シード『べぶっ!!』
中井出「アアッ!シーーーードォオーーーーーッ!!!」
でも肩車してたシードが、僕の頭をきっちりと守ってくれました。
子供の柔らかさが僕の頭を救ったのだ!ありがとうシード!
中井出「おおシード……博光の可愛いシード……!よくぞ我が頭を守ってくれた……!」
ナギー『……のうヒロミツ?一人称を己の名前で言うのはどうなのじゃ?』
中井出「私の可愛いシード、とか言うのがありきたりな気がして……」
ナギー『少しは砕けるのじゃ。そうどの規定にも挑戦しておったら苦労が絶えぬぞよ?』
中井出「いやいや、砕けてるって。砕けてるから挑戦してるのさ。
誰かの意見も大事だが、己は己として突き進む。それがスパイラルドライバー。
人それぞれでいいじゃないか、こだわる必要はあるが、押し付ける必要はない」
ナギー『ヒロミツは原中の面々にいつも命令しておるのじゃ』
中井出「いや……これで案外命令聞いてもらえなかったり、
クズだのカスだの言われてますから。僕はそんな原中が大好きです」
命令だからって聞いてもらうのってあまり面白くないしね。
ノリで動いてくれるから嬉しいのだ。
そういう意味で言うと、俺のは命令っていうよりは提案だ。
相手がそれにノってくるかどうかは完全に相手次第なわけだし。
というわけで、思いをどこへぶつけるべきか、
おろおろしてた紀裡を座りながら引き寄せ、抱きしめる。
オリバがバキにそうしたように、ポフリと。
紀裡 「ぁぅゎっ……!?お、お父、さん……?」
中井出「うむ。とりあえず甘やかし方なんて知らんから抱きしめてやろうかと。
えーと、子供を甘やかす方法ってなにがあるんだ?
抱きしめる?オモチャを買ってやる?お小遣いをやる?頭を撫でる?
ううむ、これっぽっちしか思い浮かばん父を許せ」
ナギー『……弱気なのに命令口調なのじゃ。さすがはヒロミツよの』
中井出「任せてください」
背中をしこたま打ち付けても我が頭を離そうとしなかったシードが、
俺が喋るたびに微量にわさわさと揺れる。
そんな感触を楽しみつつ、左手で紀裡を抱き締め、
右手でナギーの頭を撫で、肩車にはシードを。
これぞ超人界に伝わる友情のトライアングル。……違うけどね。
中井出「というわけで今日は貴様らを甘やかすと決めた!さあ!甘えるがいいわ!
どうしたぁ!甘えてみせろコノヤロォオオオオオオオ!!」
紀裡 「……お父さん……それ、もう甘えられる雰囲気じゃないよ……」
中井出「なんで!?」
ナギー『ヒロミツはほんに甘えることを知らんかったのじゃな。
甘えるがいいとか甘えてみせろなどと言われたのは初めてなのじゃ』
シード『甘えるとは……どうすればいいんでしょうか』
中井出「ふむ……シードよ。
普段貴様がこの博光としたいこととかあったなら言ってみなさい」
シード『え───し、しかし』
中井出「かまわぬ!それがどんなものであれ受け入れましょう!」
ドンッ!と胸を叩いた。
でもナギーの頭を撫でていたので右手で叩くことは出来なかったので、
ナギーを引き寄せてナーギーズヘッドバットでドンッと。
ナギー『なにをするのじゃー!』
中井出「胸を叩きたかったんです!というわけでさあ!シード!」
シード『……そ、それでは……ち、父上!』
中井出「うむ!」
シード『その……み、みみみみみ───耳掻き、というものをしてほしいです!』
中井出「よしきたさあ来いやってやる!!
大丈夫!なにを隠そう、俺は耳掻きの達人だぁああああっ!!!」
紀裡とナギーをスッとどかし、
肩の上のシードを下ろして常備用博光耳掻きを懐から取り出す!
ほら、異様に耳が痒くなる時ってあるじゃない?
俺あれが嫌いだからさ、耳掻きだけはいっつも持ってるの。
……誰に説明してんだろ、俺。
中井出「さあ!」
座ったままの状態でバンバンと自分の足を叩く。
するとシードはおずおずとだが寝転がり、我が足の上に頭をちょこんと乗せた。
中井出「消力!もっと力を抜く!」
シード『は、はい父上!』
スッ……と軽い重力が俺の足にかかる。
だが心地よい重さだ……これが膝枕というものか。
案外悪くない重みだ。
こう……なぁ?疲れた体に布団をいっぱいかけて寝る、みたいな感じに似てる。
さて、それでは耳を。
中井出「ン、ンン〜……ン〜……」
ゴゾゴゾ、ゴゾリ……カリコリカリ……
シード『ふくっ……!う、うくくっ……!ち、父上っ……!くすぐったいです……!』
中井出「大丈夫。天井のシミの数を数えているんだ。すぐ終わるから」
シード『こ、この体勢では見れません……っ、く、うくふふふ……!!』
中井出「ククク、おいナギー、どうやらこいつ、耳が弱いらしいぜ?」
ナギー『そんなところが弱点なのか、存外妙な弱点を持っておるものよの。
で、じゃな、ヒロミツ。そのー……次はわしも、いいかの』
中井出「うむ!存分に甘えるがいい!紀裡、貴様もどうだ?」
紀裡 「う、うん!わたしも!」
言いながらも目を逸らさずに、カリコリと。
いや〜……穏やかだ。
お……こりゃ結構でかいな……ゾリ、ゾリ……と。
中井出「お〜ほほほ、結構デカいの取れたぞ。
ところでこの耳クソを見てくれ。こいつをどう思う?」
シード『すごく……大きいです……』
ナイスな返し方だった。
さて、ではお待ちかねのモサモサリフレッシュ。
中井出「モッサァモサァ・ウォ〜ウウォウ・ウォウォウウォ〜〜〜ウ♪」
シード『《モシャリ》うわぁああああっ!!?』
シードの弱いところに耳掻きのモサモサを突っ込み、クルクル回す。
いやぁ、これを人にやるのってなんだか楽しいよね。
シード『ちちちち父上これはいったい!?なにを!?くはっ!くすぐった───!!』
中井出「モサモサである!名称はすまんが解らん!
耳に残ったカスを回収するための最終兵器である!」
ナギー『おお!最終兵器とな!それは凄いのかの!?』
中井出「うむもちろんだともナギー!こんな素晴らしいものは他にはない!
───さあ反対側だシード!スイッチ!スイッチしてシード!
ハイ!ワン!トゥー!スリー!フォー!
ファァイ!シィックス!セヴン!ワンモアタァィム!GO!!
count it!count it!count it!count it!count it!
count it!count it!ワンモアセッ!GO!」
ノリノリでコリコリと耳垢を取ってゆく。
他人にする耳掻きって結構楽しいね……クセになっちゃいそう。
さて、そんなわけで再びモサモサタイム。
中井出「サーコォ!(サークル)サーコォ!サーコォ!
サーコォ!サーコォ!サーコォ!サーコォ!ワンモアタァィム!GO!
ワァン!トゥ!スリー!───アッケンヒューイガァイ!」
もはやなにを言ってるのかも解らんが、
くすぐったそうにしているシードの気を紛らわすために声を出してます。
でも一度くすぐったさに集中してしまった神経ってのは、
そうそう掻き消せるものでもなく。
シードは終始くすぐったさにビクンビクンと痙攣していた。
うむ、最後は耳に息を吹きかけ、取りきれなかったカスを排除して完了。
中井出「スリー!トゥー!ワン!ビクトゥルィー!」
シード『《フゥッ!!》はうぐぅううっ!!』
それがトドメになったのか、シードはぐったりとして動かなくなってしまった。
……ハテ?
まあいいや、シードは横に寝かせてと。
中井出「さあ……覚悟して寝転がるがよいナギー……!
この博光、全力を以って貴様の耳を掃除してくれる……!」
ナギー『フフフ……望むところなのじゃ……!
果たしてヒロミツにわしの耳の中を綺麗にするだけの能力があるかの……!?』
中井出「グオフォフォフォ、言ってくれるではないかグオッフォフォ……!!」
怪しいやりとりをしながらも、体は普通に動いてこてんと寝転がるナギー。
ええ、口だけですよ僕らは。
では早速───
ナギー『《カリッ……》はうっ!
……な、なるほどの、これは、くくっ……くすぐったい、のじゃー……』
中井出「我が血流の音でも聞いていなさい。すぐ終わるから」
ナギー『血流じゃの?解ったのじゃ』
頷かれてしまった。
……まあいいや、えーと耳垢は……おお、結構あるな。
さすがは僕らの中で一番の年長者。
……そりゃ関係ないか。
中井出「よっ、ほっ、ほりゃっ!お、おお〜〜〜」
紀裡 「わぁ……」
ナギー『な、なんじゃ?なにを感嘆を吐いておるのじゃ?』
中井出「え?い、いや、なんでもないよ?」
紀裡 「う、うん、なんでもないなんでもない」
ナギー『むう……?』
カリカリ、コリ、コリリ……ゴゾォ。
ナギー『ふぐっ……!う、ううー……!
気持ちよいが、このくすぐったさはなんとかならんのかの……!』
中井出「………《ゴクリ》」
紀裡 「………《ゴ、ゴク……!》」
ナギー『こ、これヒロミツ?キリ?何故黙っておるのじゃ』
中井出「え?や、ハハハ!?な、なんでもないなんでもない!」
紀裡 「ほ、ほらナギちゃん!動いたら危ないって!」
ナギー『むう……』
で、でけぇ……!
物凄くでけぇ耳垢が取れた……!
しかも後から後からゴッソリと……!
どうすりゃこれだけ溜まるんだって言いたくなるほどたくさんだ……!
……あ、耳垢としてはって意味ね?
と、ではお待ちかねのモサモサを。
ナギー『《モシャリ》はきゅうっ!?ふっ……!?ふぐぐっ!?
やっ……!なんじゃこの感触は!かつてないよく解らぬ寒気がわしの耳に……!』
中井出「ハーイモシャモシャキモチイーネー。はい!サーコーサーコー!」
モシャシャシャシャシャシャシャ!!
ナギー『はわうぁうわわぁあーーーーっ!!!』
うむ、くすぐったすぎて悶えていらっしゃる。
実際笑いまくってるし。
ナギー『く、くぅう……!ミミカキとは……!恐ろしくくすぐったいものじゃの……!
シードがぐったりするのも……頷ける、のじゃー……!』
中井出「さあ!次は反対側だ!」
ナギー『う、ぐ……の、望むところじゃー……!』
既にぐったり気味のナギーが腕だけで上半身を持ち上げ、こてりと反転する。
そうして見えた耳の奥に電灯の光を当てるように調整し、再びカリコリ。
ナギー『ふぐっ!うぐっ!う、ううーー!』
うん、やっぱりくすぐったいらしい。
両手で口を押さえて震えている。
いやしかし出るわ出るわの巨大耳垢。
俺と紀裡は楽しくなって、カリコリモシャモショとナギーの耳を掃除しまくった。
さて、フィニッシュは息を吹きかけジ・エンド。
中井出「スリー!トゥー!ワン!ビクトゥルィー!」
ナギー『《フゥッ!》ふわわわぁああーーーーーっ!!《…………くてり》』
オチた。
ちなみに片方にだけやる意味はてんでありません。
中井出「さあ次だ紀裡よ!耳垢との別れは済ませたか!?」
紀裡 「…………お父さんって物凄く愉快な人だったんだね」
中井出「もちろんさぁ」
ナギーをどかしたところに、こてんと寝転がってきた紀裡の耳を早速掃除。
…………が、ううむ、ナギーほどにもシードほどにも詰まってない。
綺麗なもんである。
だから細かなところをちょちょいと掻き、モサモサで掻き回してリフレッシュ。
中井出「うむ、普段から綺麗にしておるのだな。感心感心」
紀裡 「うーん……もっと汚くしておけばよかったかも……」
中井出「なんで!?」
質問には答えず、苦笑いで反転する紀裡。
ううむ……?彼女にいったいなにが……?
ともあれ反対側も綺麗なもんで、とくにいじることもなく終了。
では恒例の、
中井出「スリー!トゥー!ワン!ビクトゥルィー!」
紀裡 「《フゥッ!》あうぅううっ!!」
掃除後の耳にマフゥ!と息を吹きかける!
すると盛大に笑いだす我が娘。
……ううむ、我が吐息には笑力でもあるんだろうか。
中井出「さあ!次はなにを望む!貴様らが望むものを出来るかぎり叶えてやろう!
不意打ち!裏切り!なんでもあり!さあ!なにを望む!」
紀裡 「は、はふぅ……不意打ちや裏切りは誰も望んでないよ……」
中井出「そ、そう?ではナギー!紀裡!
シードの願いを叶えてやった今、次は貴様らの番ぞ!
さぁ……ぬぇえがいを言うぇ……!」
わざとシェンロン風に言ってみました。くぐもった声で。
すると、おずおずとだが紀裡が手を挙げ、
紀裡 「じゃ、じゃあわたし……ヤキュウ、とかいうのやってみたい……かな」
中井出「や、耶鬼幽迂……!」
ナギー『し……知って、おるのか……らい、でん……』
中井出「う、うむ……耶鬼幽迂とは……!」
◆耶鬼幽迂───やきいう
野球。親と子がする代表的なもので、ここで言うべきはキャッチボール。
が、普通に言えばこれは男親と息子がやるようなものであるが、
どうやら紀裡は親と子がやるコミュニケーション的なもの、としか知らないらしい。
ルールは単純であり、投げて打って走って取っての連続。
野原で球技をすれば野球という文字には繋がる。
*神冥書房刊:『サンドロット〜僕らのいた夏・地獄変〜』より
……。
ナギー『はぁ、ふぅ……!そ、そのような恐ろしいものがあったのじゃな……!』
中井出「う、うむ……!というわけで庭だ!庭に出るンだッ!
さあ起きろシード!野球だ!プレイボールだ!」
シード『う、うぅ……は、はい……』
紀裡を抱き上げナギーを肩に、シードを背にしてレッツゴー!
特等席と豪語していた場所に乗れたことでご満悦なのか、
くてりとしながらもギュッと我が頭に抱きついてくるナギーの感触がくすぐったかった。
───……。
……。
ピピー!
中井出「プレイボォオオオ〜〜〜ゥル!!」
さて。
暇人だった何人かを集い、プレイボールを宣言した僕、博光。
なにげにピッチャー役に立たされ、結構緊張してます。
ちなみに皆様にはルールを知ってもらいました。
存外複雑じゃの……と呟きながらもバットを持つナギーと向き合う僕。
その後ろでは、レイル殿がキャッチャーをやっていた。
レイル「ザ・キャッチャー!」
やる気満々だ。
キャッチャーミトンをボスボス殴ってるし。
レイル「カーブだ!カーブでこい!」
中井出「おおカーブ宣言!男らしい!」
でもキャッチャーとしては最悪だと思う。
ともあれ普通に投げたんじゃあ難しいってことで、アンダースローが義務付けられた。
だからこう、グイッと腕を回して───
中井出「見てくれ俺の剛速球」
ニヒルな笑みのままにゴヒュウと投げる!
ナギー『欠伸が出るのじゃ!とりゃー!』
ズバーム!
レイル「ストゥ〜〜ライ〜〜〜ッ」
ナギー『なんとな!?』
振るったバットは掠りもしなかった。
ナギー『む、むう……!思ったより難しいものよの……!
……ち、違うのじゃ!外したわけではないのじゃ!
わしの見立ては完璧だったのじゃ!
このヨシオくんとかいうのが小さいからいけないのじゃ!』
打てなかった恥ずかしさからか、はたまた三千院節からか、
木製バット“ヨシオくん”をブンブン振り回すナギー。
作ったのはナギーで、命名は俺である。
バッドだね、ヨシオくん。
アル 「そこまで細くする意味はあるのか?」
中井出「それで当てるからこそ競い合いになるのです」
ビスッ!とボールを受け取り、構える。
え?グローブ?あるわけないじゃないですか。
キャッチャーミトンだってただの衝撃吸収枕だし。
ナギー『ヒロミツ!本気でくるのじゃ!わしはおぬしの本気に打ち勝ってみせるのじゃ!』
中井出「おお!やる気だなナギー!では見せてくれよう!
野球漫画とは思えんことでかつては有名だったこの一投!」
言いつつ、その場でくるくると回転する。
知ってる人の方が少ないだろうなぁ……でもやる。だからこそやる。
回転してるうちに両手を合わせて義聖拳を完成させ、ストック。
うむ、準備完了。
中井出「スーパー……トルネー……ド!」
クルクル回転したのち、ボールを持った右手を前に突き出す。
この際、ボールは握らないのがお約束。
中井出「波()ーーーーーーッ!!!」
ドゴォッチュゥウウウウウン!!!
ナギー『はぅわわわわわぁあああああーーーーーーーっ!!!?』
レイル「え?いや!ちょっ───待てぇええーーーーーーっ!!!」
仕掛けておいた風と竜の義聖拳を解除!!
我が右手から風の守護竜の体質変化能力“波動風”により放たれた球は、
唸りを上げてナギーやレイル殿が構える場所へとまっしぐら!
思わず逃げ出そうとする二人だったが、
しかしナギーはキッと目つきを変えるとバットを強く握り締める!
ナギー『負けぬのじゃ!ヒロミツは本気を見せたのじゃ!
ならばわしもふぎゃぁあああああああっ!!!!』
ドンガガガガガオォオン!!!
…………。
……。
ヒョ〜〜……ポス。
ヒョ〜〜〜……ポス。
ヒュゴドバァン!ヒュゴドバァン!!
ナギー『ヤキュウ、とやらはっ!危険!すぎるの───じゃっ!』
中井出「うむ!まったく、だっ!お陰で!アルベルト氏に!怒られて!しまった!」
結局打てなかった波動風的球は途中で破裂。
風もさっさと霧散させたお陰で町を破壊することはなかったが、
本気だからってあんなもん出すなとアルベルト氏に怒られてしまった。
レイル殿にいたっては殺す気かぁああと涙ながらに叫んでくる始末。
……そういや昔あったなぁ、野球で人殺しまくる漫画。
いや、地獄甲子園じゃなくてさ。
なんか軍人さんが出たりとかいろいろあった野球漫画だった。
……さて、それはそれとして、今僕らがなにをしているかというと。
紀裡 「いくよ、シードちゃんっ」
シード『ちゃんはよせっ!』
ヒョ〜……ポス。
……ええ、キャッチボールです。
ナギーに頼んで衝撃吸収力のある植物を生やしてもらい、それでグローヴを作ったのだ。
知らない植物は種が無ければ作れないものの、
知ってるものなら一度作れば記憶できるんだとか。
だからキャッチボール。
紀裡とシードはゆったりと、俺とナギーは全力で。
ナギー『しかしこのきゃっちぼるとはなかなか面白いものよの!
こう、少しでもミスをすれば、
自分が大変なことになるという緊張感がたまらんのじゃー!』
中井出「うむ!これぞ“鬼夜痛血墓卯流()”の真髄よ!」
ヒュゴドバァン!!ヒュゴドバァン!!
投げた矢先に衝突音。
ミトンに炸裂する球の感触がたまらんのです。
シードは紀裡に遠慮してやさしく投げ、紀裡はあれでも普通に投げている。
だが俺とナギーはいつでも全力。
ワッハッハと笑いながら、額に汗して投げまくっていた。
しかし待て。
俺は紀裡の提案でこのキャッチボールを承服したのであり、
ここは紀裡とキャッチボールをするべきでは?
……などと考えたのが間違いだった。
いや、正しいんだけどさバゴォオオオン!!!
中井出「ごぉおおおぅああ!!?」
ナギーが投げた剛速球が我が左頬に大激突!!
俺はまるで凶徒の拳の、サッカーボールが激突したおじゃる丸のように大地を滑走した。
ナギー『お……おお!やったのじゃ!ヒロミツに勝ったのじゃー!!』
ナギーが滅茶苦茶嬉しそうだったのが印象的です。
あれ……?キャッチボールっていつから勝敗を競い合う競技になったんだっけ……?
中井出「ぬっ……ぐぅううううあああ…………!!!」
意味もなくメキメキと音を鳴らしながら起き上がる。
ふっ……どうやらアバラが三本イカレちまったようだぜ?
……当たったの顔面だから関係ないけどね。
中井出「くっ……どうやらこの博光の負けらしい……!
ではローテーションだ!次はナギーVSシード!俺VS紀裡だ!」
ナギー『望むところじゃー!』
シード『かかってくるがいい!僕は負けない!』
言った先からオガーン!と奇妙な奇声をあげて駆け出し、
疾走投擲だのジャンプ投擲だの、とにかく様々な方向に投げつけ、
取れなかった方の負けというルールを勝手に作って燥ぎ始める子供たち。
うん、実に微笑ましい。
中井出「さ、始めるぞ紀裡。貴様が望んでいたキャッチボールだ」
紀裡 「あ……う、うん!」
俺の意図が読めたのか、元気な顔……子供に相応しい顔で頷く紀裡。
そうして始まった穏やかな(一部騒がしいが)キャッチボール。
投げたボールを取りこぼしても、笑いながら拾いにいけるくすぐったさが素晴らしかった。
ナギー『とりゃとりゃとりゃとりゃー!!』
シード『せやせやせやせやぁーーーっ!!』
向こうはもう激戦だが。
……。
ややあって、紀裡が疲れたと言った時点でキャッチボールは終了。
ナギーとシードは汗だくになってぐったりと倒れ伏し、
結局勝敗は決まらなかったらしいことが悔しそうな呟きから知ることが出来た。
しかしそれも癒しの大樹とマナの大樹の恩恵によりさっさと回復。
起き上がったナギーは、癒しの大樹に寄りかかる俺に抱きつくと言った。
ナギー『うむ!ではいよいよわしの番じゃな!』
と。
中井出「ゲートボールだな!?よしきた!」
ナギー『なんなのじゃ?それは』
中井出「ナンデモナイヨ?」
ゲートボールじゃなかったらしい。
中井出「うむ。それで貴様はなにを望む?あなたの願い、叶えましょう?」
ナギー『う、うむ。ではの。今日はずっと一緒に居るのじゃ!』
中井出「うむよし!了解した!」
ナギー『ずっとじゃぞ?さすがに風呂や厠なぞは別じゃがの』
中井出「大丈夫!なにを隠そう、俺は同伴の達人だぁあああっ!!
というわけでピクニックに行こう!」
シード『ティキ・ミック……!?それはいったい……』
中井出「ピクニックね!?ピクニック!」
紀裡 「あ……じゃあお母さんも!」
中井出「うむ!もちろんだ!場所は空界でいいか?」
紀裡 「うんっ!」
シード『くーかいというのは、あの猫が居た森がある場所、ですね?』
中井出「うむ!メシはもう食ってしまったからお菓子を持っていこう!
それらを穏やかな風に吹かれながら食らうのだ!」
ナギー『おおっ……それは楽しそうじゃな!』
シード『しかし父上、そのお菓子はどう調達を……?』
中井出「もちろん作る!!」
やるからにはハンパは───あってもいいけど今回は無しだぜ!
そうと決まれば早速櫻子さんにご教授願おう!
あの人はお菓子作りの匠者だからね!
───……。
……。
ぺっぺらぺーん♪
櫻子 「はいはい、では始めましょうねぇ」
ナギー『殺るのじゃ』
麻衣香「殺気だしてどうする気なのナギちゃん!」
厨房に集まった僕らはエイヤとボウルや攪拌器を手にしていた。
こういうの持つと、どうにも片手は普通、片手は逆手にものを持ちたくなる。
……TOD2のジューダスの影響だろうね、うん。
櫻子 「お菓子はクッキーでいいのね?」
中井出「はい!世に生を受け、初めてのクッキー作りです!
そして僕は皆がクッキーを作る中、サックリとしてバターの風味が香ばしい、
サブレを作ってみたいと思っています!」
ナギー『おお!孤独な挑戦なのじゃ!じゃが甘いのじゃヒロミツ!
今日はわしと一緒と言ったであろ!わしにもやらせるじゃー!』
中井出「なにぃ貴様ナギー!こ、ここまで予測しての行動だったというのか!」
ナギー『フフフ、わしにかかればかようなことなどちょちょいのちょい!なーのじゃー!』
中井出「そうかそうか!わーーーっはっはっはっは!!」
ナギー『わーーーっはっはっはっはーーーっ!!』
楽しければ問題無し!
俺とナギーは腰に手を当てて踏ん反り返って大いに笑った。
麻衣香「じゃあ紀裡とシードはわたしの方を手伝ってね」
紀裡 「はい」
シード『うう……父上ぇえ……』
麻衣香に連れていかれるシードが情けない声で僕を見る。
僕はそんなシードに強く生きろとアイコンタクトし、
シードはそれを受け止めてクワッと胸を張った。
櫻子 「それじゃあまず───」
中井出「先生!僕とナギーはカタチに囚われないクッキーモンスターを目指します!
だからレシピは結構です!」
櫻子 「あらあらっ、それは面白そうだわね〜!
博光ちゃんのそういうところ、わたしはいいと思うわよ〜?
ええ、それじゃあ汚しても構わないから好き勝手にやっちゃいなさいな?」
中井出「謝謝!!」
ナギー『サクラコは話が解るのじゃー!』
早速とりかかる。
とはいえレシピなど1ほども解らんのだから、本当に適当にやるしかない。
ナギー『のうヒロミツ?サブレとはなんなのじゃ?』
中井出「うむ。これより作る“提督サブレ”はな、
過去、ギャグマンガ日和という漫画内に存在した、
聖徳サブレに対抗するべくして作られようとするものだ」
ナギー『しょ、聖徳サブレとな……?』
中井出「うむ。魚臭くてカニの食べられないところみたいな味がするんだ。
飲み込めないほど不味いらしい」
ナギー『そんなもの作ってもどうしようもないであろ!』
中井出「いや、罰ゲーム用にでもしようかと」
ナギー『ノったのじゃ』
さわやかな笑顔でした。
ナギー『ではまずどうするのじゃ?』
中井出「うむ。まず力が付くように、この強力粉を……」
ナギー『こっちの……これはどうするのじゃ?』
バサバサと強力粉をボウルに空ける僕に、ナギーが薄力粉を持ち上げて言う。
中井出「ダメだ。そんな力の無い粉など使ってられん。
弱気になるなナギー、僕らはいつだって全力だ」
ナギー『おお!そうじゃの!』
えーと、強力粉と卵……ああ、こういうのってよく卵黄だけを使う〜とかやってるよね。
でも材料がもったいないから白身も入れようホトトギス。
あとバターとか砂糖とかそれっぽいもの入れてと……
ナギー『ヒロミツ、魚とカニはどうするのじゃ?』
中井出「無いから刻震竜の肉でも混ぜよう」
ナギー『無駄に豪勢じゃの!
い、いいのかの、お菓子なぞに刻震竜の素材を入れてしまって』
中井出「いや……皮とかならまだしも、肉は武器にならないだろ……」
ナギー『ま、まあヒロミツがよいのならそれでよいのじゃがの……』
では。
取り出した小さめの刻震竜の肉をザックザクに切り、
練り、ツミレ状にしてからサブレの生地に───混ぜる!!
ナギー『お……おおぉおお……赤くなってゆくのじゃ……』
中井出「う、うむ……黄色っぽさが全て消し飛んだな……」
異様なオーラを放っている気がする。
恐らくこのサブレほど高級なサブレなど、地界中探しても見つからんだろう。
ナギー『こ、これからどうするのじゃ?』
中井出「確か生地を寝かせるのがいいとか言うが───
大丈夫!なにを隠そう、混ぜた肉は刻震竜の生肉だぁああっ!!
時を司るんだから、きっと生地もあっという間に寝たに違いない!
だからこのまま焼きます」
ナギー『焼ければ完成なのかの』
中井出「うむ!出来あがりが楽しみだ!ではまず焼くための第一歩。
こうして生地を薄く伸ばし……うむ。次に型で刳り貫くのだ」
ナギー『カタ?……この妙な形の物体かの。あるみほいるんに似ておるの』
中井出「それじゃなくても、好きな形に刳り貫いてもOKだ。俺は〜……棍棒にしよう」
ナギー『お……おお、なるほどの。
そうやって千切って、好きな形に整えればよいのじゃな?』
ナギーと二人で黙々と型を取る。
俺は棍棒だのグレートソードだの、武器ばかりのものを。
ナギーは花だのなんだの、自然的なものを。
ナギー『ヒロミツ、これはなんじゃ?太陽かの』
中井出「モーニングスターだ」
といっても、棘のついた鉄球の形を象っただけだけど。
しかし今回のことで解ったことがある。
お菓子作りってやってみると結構面白い。
中井出「よ〜〜〜〜しあとは焼くだけだぜ〜〜〜〜っ」
ナギー『どおれこんがりと焼いてやるとするかの〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ』
プレートの上に敷いたシートに乗せたサブレ(?)をプレートごと持ち、
いざ焼成をせんために運んでゆく。
ナギーが火は起こさんのか?と疑問を投げてくるが、見ててごらんとさわやかに返答。
…………ところでこれって何分くらいやりゃいいんだ?
その前にオーブンを先に温めておきましょうとかよく言ってなかったっけ。
思い出せ僕の脳!あの日見たお料理番組を思い出す───必要もないか。
僕らは独創性を目指してこの場所に降り立った…………!
ならば今更完成がどうとかなど二の次!
焦げようがどうしようが、僕らが作ったということが大事なのだ!
中井出「GO!!」
タイマーを適当な時間にセット!
あとはキツネ色になるまで待つだけさ!
…………某ウィンナーCMじゃないんだから無茶の極みだけど。
中井出「よしナギー!あとは焼けるまで待つだけだ!」
ナギー『なんとな!?あれでもう焼き始めておるのか!
……言われてみれば赤く光っておるの。
まったく不思議なこともあるものなのじゃ。マナもなにも感じないのじゃ。
ふむ、まあいいのじゃ。ヒロミツ、待っている間、なにかするのじゃ』
中井出「おう!───では歌でも歌っていよう。
激しい歌ではなく、静かだけど楽しげな歌は……思い浮かばないので適当に」
ナギー『ラーサー!』
ビッと敬礼するナギーを後ろから抱き上げ、肩車すると早速声を出す。
シードと麻衣香と紀裡は未だにクッキー作り中だが、
その光景は遠目から見てもしっかりと家族っぽかった。
……よかった、ちゃんとシードは溶け込めている。
大半が櫻子さんのお陰だけど。
あの人はなんというか、人を丸め込むのが上手いから。
シードも櫻子さんには弱いようで、
麻衣香には教わらなくても櫻子さんからは教わってる感じだ。
けどそれも段々とこなれてゆき、麻衣香からの言葉も自然と受け入れるようになっていた。
強くおなりなさい我が子よ……そうやって周りを受け入れて、
その上で周りを散々とからかえる猛者に至るのです……!
誰かをからかえるということは、とても素晴らしいことなのですから……!
中井出「遠い、道を、歩く〜とき〜。う〜たを歌えばち〜かい〜。
み〜ちばた〜の〜は〜〜〜な摘みながら〜〜〜」
ナギー『む?なんなのじゃ?その歌は』
中井出「小公女セーラの歌」
そういや今の子供たちは、僕らが子供だった頃に聞いた歌を知っているのだろうか。
……知らないだろうね。
でもまあそんなことはともかく、ロミオの青い空を知らない人は是非見てほしい。
僕は友情物語が大好きです。
中井出「よしナギー!トランプをしよう!」
ナギー『解ったのじゃー!…………して、とらんぷとはなんじゃ?
ばるばとすとかいうやつが使った、雷が出る踏み付けのことかの』
中井出「あれはトランプルね?まあまあルールは見てのおかえりでい!」
適当なことを言いつつ、トランプを用意しようとしたのだが───
そんなものがないことに気づくと、
僕とナギーは大人しくTAIIKU−SUWARIで待つことにした。
しかもナギーが頭から降りてくれなかったため、
ナギーを乗せたままTAIIKU−SUWARIという奇妙な格好だ。
このまま何処かの顔無しさんのようにボ〜〜〜〜〜っと座っていよう。
そう、今日は穏やかに過ごすのだから。
……。
…………。
チーン♪
中井出「出来た〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
ナギー『出来たのじゃ〜〜〜〜〜〜っ!!』
ややあって、出来上がったサブレをオーブンから引きずり出して、
ウッヒャッホォーーイと叫ぶ僕ら。
もうほんと子供です。
ナギー『おおっ!サックリ焼けているようなのじゃ!
おおっ!これがわしが作った花じゃな!?上手く焼けておるではないか〜!
これがサブレーとかいうやつなのじゃな!』
中井出「どおれ早速味見をするとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
モーニングスター型を手に取ると、ハクッと口に放り込む。
とても熱かったが、構わず歯と歯で押し潰す───と、サクリと───はいかず、
ゴニョリとしていてモチモチとした歯ごたえが……!!
え……?餅……?
ナギー『………………変わった食感じゃの』
中井出「うん…………」
高揚が裸足で逃げてった。
残されたのは、やっちまった感溢れる微妙な空間だ。
そのくせ無駄に美味いから悲しい。
サブレ作ってたはずなのに、どうしてこんなモチモチお菓子が……。
だ、だめだ高揚さん!そっちにお魚くわえたドラネコは居ない!
だから裸足で駆けていっても無駄なんだ!
戻ってきて!戻ってぇええええええっ!!!
中井出「……美味いな……」
ナギー『う、うむ……無駄に美味いのじゃ……』
いや……美味いよ?なんかまともに料理するのが馬鹿らしくなるくらい美味い。
肉だけでこれだけの物理的な味わいを発揮するとは……
これも竜の肉の……刻震竜の力なのか……とか言いたくなるほどに。
でもサブレとしてはどうなんだろう……サックリバター味がウリのサブレの筈なのに、
これではモチモチパン(うまい肉味)を食べているような───OK!
中井出「ナギー!これが僕らサブレ!提督サブレだ!!食感なぞ気にしない!
だって僕らはこうして独創的なサブレを完成させることが出来たのだから!」
ナギー『───そうじゃの!サブレを作ろうとしてこれが出来たのなら、
これは誰がなんと言おうがサブレなのじゃー!』
レッツポジィティヴ!!
もっちりしてようがどうしようが、材料が違おうがもうこれはサブレ!
提督サブレだ!ていうかノートン先生!?
刻震竜の肉を混ぜるとなんでも美味くなるのはどんなカッパーフィールドですか!?
俺、むしろ不味いのを期待してたんですけど!?
だってこれじゃあ罰ゲーム的なものにならないよ!
中井出「ナギー!もう一品作るぞ!」
ナギー『なんじゃと!?このサブレだけでも時間を食ったのじゃぞ!?
あまり時間をかけては今日という日が終わってしまうのじゃ!』
中井出「大丈夫!なにを隠そう、俺は時間保持の達人!!意味わかんねーけど!
tell:ヤムベリング=ホトマシー!………………ダメだ繋がらねー!
ではtell:イセリア=ゼロ=フォルフィックス!」
……ナルルルル……ブツッ───
声 『はいはいはいはい、こちらゲームマスターのお姉さんですよー』
中井出「黙れクズが!」
ナギー『死ね!!』
声 『い、いきなりなんてことを!ヒロミチくん!?キミヒロミチくんだよね!?』
中井出「ドナルドです」
声 『あからさまな声色使ったって解るから!なに!?今休憩を貪ってるんだけど!?』
おお、怒っている。
まあいきなりクズ扱いで死ねじゃあ怒りもしませう。
でもいきなりのわりにナギーが即座に反応してくれたことに感謝。
既に然の精霊である自覚なんてあんまりないんだろうね。
いや、自覚はあるんだろうけど行儀よくとかそーゆーのは全然だろう。
ともあれ、tellの先の彼女が“お姉さん”という歳でないのは確かです。
中井出「や、今の空界の状況を教えてほしいのです。
今の空界、こっちより時間の進みが速かったりする?」
声 『んむ?ん、ちょっと待って』
怒ってたわりに、コロッと態度が変わる。
うん、彼女のこういうところは俺は結構気に入っていたりする。
やっぱ人間、臨機応変でいかなければ。
声 『ん、今は空界の方が速いわね。どうしたの?そんなこと訊いて』
中井出「実はピクニックに行くことになりまして。
地界ではなくもっと空気の澄んだ場所を選ぶとしたら、やはり空界でしょう。
神界とかにも行ってみたいけど、神界は人間は入れないらしいし……」
声 『あー、神界ね。わたしも興味あるけど、こればっかりはね。
で、質問なんだけどね、ヒロミチくん』
中井出「……なんでしょう」
声 『神界にもし行けたとしたら、どうしたい?』
中井出「旅をしたいです。様々な場所を巡るのです。
邪魔するヤツはどんな手を使ってでも出し抜いて逃走!旅を続行します」
声 『た、戦わないんだ……』
中井出「だって神って強いんでしょ?力に限界がないって聞いてるし。
そんなやつらと戦うなんてこと、とてもとても。
力を示しに行くんじゃなくて冒険がしたいんだ。
いや、そりゃあね?神の持つなんたらで素敵な武器が作れる〜とか言うなら、
かっぱらってでも作りたいとは思うけどさ。やっぱり主体は逃走になるかと」
神の力は未知数さ。
きっと武具封印とかも平気でやってきて、
無力化されたのちにジワジワネチネチと殺されるんだ……!
……それってどんな残虐神なんだろう。
中井出「よく神族は傲慢だ〜とか言うけど、どうなんだろ」
声 『さあ。力に溺れやすいイメージはある気もするけどね』
中井出「サガの神からして態度太いしなぁ……」
ナギー『む?じゃが神とやらは“ちぇーんそー”があれば一撃なのじゃろ?』
中井出「うむ。バラバラになるが普通は効かないと思うから」
声 『ヒロミチくん……あんまり適当なこと教えないほうがいいわよ……』
中井出「適当だからいいんじゃないか!」
声 『うわぁ〜〜〜あああ!適当なことって事実を隠そうともしないよ!』
中井出「僕はその一瞬一瞬を楽しむ修羅になりたい」
だから隠し事をするよりは曝け出して、むしろそれをネタに笑いたい。
……自分が死ぬ未来は笑い事に出来ないからちと難しいけど。
って、そうだそうだ、そのことについてノートン先生と話し合ってみるのもいいかも。
中井出「ナギー、ちょっとここで待っといで」
ナギー『ダメなのじゃ』
即答だった。
……しまった、そういや今日はずっと一緒に居るという契約を交わしてしまったのだ。
中井出「ちょっとレコーディングに行ってくるだけだから!ね!?」
ナギー『れこ……?ステファンがどうしたのじゃ?』
中井出「どっから身に着けてくるのそんな知識!」
ナギー『殊戸瀬に教えてもらったのじゃ』
中井出「殊戸瀬ぇええええっ!!テメェエエエエエエエッ!!!」
別に叫ぶようなことでもないが、とりあえず叫んでおいた。
ステファン=レコの名前は俺も好きだけどさ。
中井出「話が逸れたがレコーディングっていうのはつまりだな、音入れだ。
な?音を入れる……と、こう書いてレコーディング。つまりおトイレッス」
ナギー『……おお厠か《ポムッ》』
手を打たれてしまった。
中井出「……トイレとか口にするのに恥らうことはしないんだな、ナギーって」
ナギー『む?厠なぞ誰でも行くであろ?』
そうだけどさ。
……うん、そうだな。
中井出「そういえば精霊って排泄とかはどうなってるんだ?《ガドッ!》痛い!!」
脛をトーキックされた!何故!?
ナギー『藪から棒になんてこと訊くのじゃー!!
ヒロミツには恥じらいというものがないのか!』
中井出「ええっ!?トイレはよくて排泄はダメなの!?
って普通に考えりゃそれもそうだった!
だが俺は普通こそを破壊したいのだからそんなことは知ったこっちゃねー!」
ナギー『こ、こんな時にまで豪気にならずともよいであろ!忘れよ!
精霊は排泄なぞしたりせんのじゃー!!』
中井出「答えてるじゃないか!───しかしマジですか?排泄しない………………って」
じゃあ別に恥ずかしがることでもないのでは……って、そうでもないか。
一応人型の精霊にも、排泄器官と恥じらいってのがあるわけだし。
ナギー『そ、それはの、害になるものは吐いたりもするがのぅ……。
ほぼ全て体に吸収されて、マナの源になったりするのじゃ。
まったく、なにを急にこんなことを……ヒロミツはデリカシーがないのじゃ』
中井出「デリカシー!フハハハハそんなもの欲しいと思ったこともないわ!」
思えばガキの頃から寂しさを知り、エロスを知り、勝手気ままに生きてきました。
そんな頃からデリカシーなぞとは無縁の生命体……博光です。
そんな僕が今さらデリカシー?…………デリカシーってなんだろ。
確か気配りや配慮とか、なんかそういったものだった気が……
でもとりあえず恥ずかしがってる理由は思い出した。
だってナギーったらおもらししたことがあったし。
中井出「なるほど!ではナギー!」
ナギー『な、なんじゃ?』
中井出「タイが曲がってるぜ」
ナギー『《ゴキィ!》うぴっ!!《……ガクッ》』
曲がっていた襟元のリボンをゴキュッと絞めて……じゃなくて締めてやった。
するとゴトリと倒れるナギー。
す、すげぇ……!娘も一発ノックダウンの気配りだぜ……!
ではさらにデリカシーを行使して、昏倒中のナギーを…………まな板の上にでも。
さぁて、ノートン先生と話に行きますかぁ。
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