───冒険の書263/街灯演劇マスカレイド仮面様───
【ケース677:弦月彰利/ジェームス=モット伯】
ちくちくちくちくちくちく………………ばさぁっ!!
彰利 「ふつくしい……(美しい)」
旅の途中、あり合わせでメイド服を縫いました。
オロ硬貨がないってのはこれで結構不便で、だったら金作ンべー、ということになって。
で、アタイがバックパックをあさって、コレモンよ。
やべぇ、美しいよメイド服。
彰利 「さあ!買ってくれるダニね!?」
女性 「なんて美しい仕上がり……!けれどこれ、サイズとかは───」
彰利 「フハンッ!?アタイにかかれば、
おなごのサンライズ(スリーサイズと言いたい)なぞ一目で解る!
上から83、55、85!!《ベパァーーン!!》チェルノ!!」
女性 「大きい声で言わないでください!」
こんな調子で買ってもらっては資金を貯め、
材料さえ持ってくれば仕上げますといった感じに至るまでにはそう時間は要らんかった。
男 「おい……お前が噂の仕立て屋だな?俺に極上のスーツを───」
彰利 「俺はメイドさんの聖服ともよべる法衣しか作らん。失せろ」
男 「なにっ!?───金なら言い値でくれてやる!俺には必要なんだ!」
彰利 「金の問題じゃあねぇ……魂の問題だ。俺はメイド服しか縫わん。
殿様が殿様衣装しか縫わぬように、
この俺もまた、メイド服しか縫わぬと、そう誓った。
誰でもねぇよ……ただの俺の───魂にだ!!」
男 「チッ……だったらメイド服を縫え!この際それでも───」
彰利 「アルティメットアイ!!《パワ〜〜〜……》
………………失せろクズが!
貴様の立ち居振る舞いからはメイドさんのメの字すら存在せん!
言ってしまえばローマ字入力のMの字すら無いわ!失せろ汚らわしい!
言っておくがなー!アタイはこれまでにも、
メイド服の作成を依頼してきたヤツには言いたいこと散々言ってきたんだぜ!?
なんだいみんなして物珍しさを先行させて“作ってくれ”って!
俺のメイド服は材料の他に、半分がメイドさんへの愛で出来てるんだよ!
バファリンのやさしさなんてメじゃねぇんだ!失せろ!」
男 「クク〜〜〜ッ」
彰利 「ムウウ〜〜〜〜〜ッ」
苛立ち顔の男がアタイを睨む。
何故かクク〜とか言ったから、こちらも敬意を払ってムウウ〜〜〜ッと返しました。
肉語って素晴らしいよね。
男 「つ、潰してやる!こんな、国の許可も取らずに金を取る仕立て屋なんて!」
彰利 「………」
男 「ははは!終わりだ終わ《ガキィ!》がああああ!!」
問答無用で井之頭式アームロック発動。
せっかくいい気分だったのに、こいつの所為で台無しだ!
男 「痛っイイ!お……折れるゥ〜〜……」
彰利 「あなたは仕立て屋の気持ちを全然まるで理解していない!
メイド服を作る時はね、誰にも邪魔されず自由で……
なんというか救われてなきゃあだめなんだ。独りで静かで豊かで…………。
それを自分の都合であーだこーだと!恥を知れ!」
男 「だ、黙れ!たかが使い走りの服を作ることになんの意義がある!
そんなことより偉いやつらの服をだな《ゾクゥッ!》ヒッ───!?」
彰利 「───……ねぇボクちゃん?人の趣味に、魂にイチャモンつける権利が、
ただ偉いからって理由で存在するとでも思ってる?
俺ゃあね、自分がそうしたいと思ってやったことに、
いちいち突っかかってくるヤツが大嫌いだ。
───よって貴様に今からメイドさんの素晴らしさを説いてやる!!
小説とかだったら第一章が半分くらい潰れそうなくらいねっちりと!!」
男 「なんだと!?俺は《グキィ!》がああああ!!」
彰利 「メイドさんを使い走りと豪語した時点で、
貴様の自由はこのアタイが独断と偏見と実力行使で剥奪した。
さあ、ゆっくり話そう。今日はオールナイトだ、ぜ?」
男 「まてやめろ!俺はこれから大事な用が!は、離せぇええええっ!!!」
……。
───……。
……。
ピキーン♪
男 「メイドサン……スバラシイ!!」
藍田&岡田『なんか洗脳されてるーーーーっ!!』
アタイが稼いだお金でいろいろと準備をしてきた藍田と岡田が戻ってきた。
その手にはグミだのなんだのの回復アイテムと、……何故かおでん。
彰利 「はいテメェ!メイドさんは!?」
男 「主ヨリモ素晴ラシキ存在デス!主ガ出来ナイコトヲ定期的ニ素早クサポート!
アア素晴ラシイ!僕ハ今マデナンテ愚カナ間違イヲ繰リ返シテキテイタノダロウ!
心ガ洗ワレルヨウダ!メイドサンハ素晴ラシイ!」
彰利 「…………な?」
藍田 「い、いや……親指立てられてもどう反応していいのか解らねぇんだけど……」
彰利 「いやぁ、ついついメイドさんの素晴らしさを口伝してしまって。
アタイが持つメイドさんへの愛をこれでもかってくらい説いたら、
もうコヤツってば涙流しながら聞き入ってね?」
岡田 「それ……普通に逃げ出したくても逃げられなかったから泣いてたんじゃ……」
失礼な。
必死に抵抗してたから黒で足を少し沈めて、
貴様が反論出来るなんて嘘だ、とWOPを解き放っただけだ。
WOPについては、ロマンサーズをどうぞ。
ワイルドハーフの作者が描いたジャンプコミックスです。
WOPなんぞ関係なく、ただ既存破壊をしただけだけど。
事実の破壊、運命の破壊ってフツーに考えてスゲーことザマスよね。
ハアア……ほんに、運命に抗う生き様をしてきてよかった。
じゃなけりゃあ、運命破壊の漆黒鎌なんて完成しなかったし。
……と、そげなことを考えとったらふと違和感。
彰利 「おりょ?ナギのすけは?」
藍田 「退屈だから歌を歌うのじゃー、とか言ってきたから、
岡田が歌ったら顔を真っ赤にして逃げてった」
彰利 「真っ赤って……なに歌ったん?くそみそ☆センセイション?」
藍田 「いや、“高らかにオ○ニー”。大声で」
彰利 「どこの勇者ですかアンタ!!」
岡田 「ちなみに歌ったのは藍田であって俺じゃない」
藍田 「オ○ニーってなんじゃ?と訊いてきたから詳しく教えてやったら逃げた」
岡田 「こいつどうかしてるぞ。
女に、しかも容姿子供にしか見えないヤツにあーだこーだって」
藍田 「や……べつに特別好きな相手も居るわけじゃないし、飾るのつまらないし。
それならいっそ、変態と呼ばれようが男らしくあろうと思っただけだって。
あ、ここで書く男ってのは“漢”……サンズイのオトコじゃなくて、
フツーのオトコな?田んぼの田に力の男。
男のランクって男、侠、漢……どんな感じに決まるんだろうな」
言いながら、藍田が地面に文字を書く。
男と侠と漢……ウムム。
彰利 「アタイ的には男……こっちは最下だと思うね」
岡田 「俺も。で、てっぺんが漢だろ」
藍田 「そか?俺は侠がてっぺんだと思うんだが」
彰利 「ンム……そういう意味では貴様は“男”じゃね」
藍田 「自信を以って、そうだと言おう」
岡田 「執事服でそこまで下品ってどうなんだ?」
藍田 「フリーの執事はいつでもプライベートタイムさ。
主を思って取り繕う必要ないし。
その点、弦月はメイドさんとは日々常に〜とか言いそうだよな」
彰利 「メイドさんならば当然です。私服の時は普通で結構。
ですがね、メイド服を来たその瞬間、その人はメイドさんでなければならんのだ。
もちろん普段からメイドさんとして振舞うのは超上級メイドさんさ。
私生活からしてそのレベルに達している方はまさにメイドさんさ!」
藍田 「けどさ、メイドさんってあまり色気がない気がしないか?露出とか少ないし」
彰利 「死ね!!」
藍田 「うおゎっ!?い、いきなりだなおい!」
な、なんば言いはらすばいこんげら!
よりにもよってメイドさんに露出を求めるなんぞ!
……つーか、好きな相手が居ないだけでこうまで思春期ボーイみたいな思考になるとは。
まあヘタに隠してるよりかはマシなんだけど。
こやつにも誰ぞ好きなヤツでもおれば、こげなことにはならんかったかもしれんのに。
じゃけんどそれはそれとして。
彰利 「メイドさんに露出なぞ求めちゃういかん!いいか!
メイドさんはロングスカートに長袖だからいいんだ!
ミニスカなぞはただのウェイトレス!胸元が強調されてるのもいかん!
黒か紺でロングスカート!スバラシイ!世紀末を救うのは愛でしょ愛!!」
藍田 「俺、とある漫画でメイドさんはロングに限るとか、
ミニは邪道だと思うんだとか叫んでた男が、
先の回でミニもこれはこれで……的なことを言ってたのを見たんだけど」
彰利 「彼にはがっかりしました……所詮メイドさんそのものを愛するのではなく、
メイドさんへ向ける“萌え”的なものを求める者はそんなものさ……」
岡田 「なんの話だ?」
彰利 「ヘタに愛が広いと誘惑に弱いのが男ってやつさ!って話。
アタイはロングスカート派だから迷わないけど。
つーわけでナギ子さん探しに行かんと」
藍田 「高らかにオ○ニー聞かせるためか?やっぱあれは大合唱じゃないと」
彰利 「やめれ!!」
藍田 「外国語チックに誤魔化すんじゃなく、ハッキリと発音するのがミソだゼ?」
彰利 「だゼじゃねー!!いいから黙りんさい!!」
いやもうほんとこやつフリーダムすぎる!
なぁんで中井出のこと忘れちまうかなぁもったいねぇ!
彰利 「………………あ、そうだ」
えーと……mailto:ノートン先生、と……。
◆ノートン先生へ
今中井出ンこと覚えてるヤツ一人を生贄に、誰かの記憶を蘇らせるとか出来る?
◆Re:ノートン先生へ
無理だ
速ぇえ!!
一秒も経たずに返信が来た!しかも無理って!
彰利 「ググー」
藍田はなんだかんだで中井出のモノスゲー近くに居たから、是非とも覚えててほしいのに。
残念だのう……無理ですか。
運命破壊しようにも、俺の力じゃまだ敵わん。
もっと強くなりゃあ別かもしれんが、それもどれほど先になることやら。
……そういや中井出からナギ子を見つけたら拾ってやってくださいってメール来てたよな。
封印されてるのにどうやって、って思った矢先に、
無理矢理プレイヤーとして降臨したってなもんだからたまげたけど。
彰利 (……?)
あれ?じゃあ体の方はどうなるんだ?
この世界ってゲームの世界で、俺達のこの体は魂そのものの筈だ。
だから分かれることなんて出来る筈がねーんじゃけど……。
彰利 「なんだろな……すごい嫌な予感がする」
寒気とでも言うんだろうか。
たとえば……たとえばだ。
中井出の魂が今ひとり歩きしてるとして、体封印状態にあるとする。
だとしたら今俺が“体”と呼んだ存在は“別の魂”として確立していて、
中井出じゃない何か、という存在としてそこに居るんじゃないか。
そしてそれは、中井出が殺しちまった───
彰利 「……まさかね」
そうだとしても、なんとかならぁ。
人の呪いってのは怖いもんだけど、
もし霊魂が中井出の体を乗っ取ったとしても何も出来やしねー。
なにせ中井出ウェポンは中井出にしか使えないし、武器が無ければ激烈雑魚な中井出だし。
んだども、ヤツならばたとえ自分と向き合うことになっても───
彰利 「あ、そうだ。なぁ藍田に岡田よ。貴様らってさ、“覚悟”って持っとる?」
藍田 「なんだよ藪から棒に……覚悟?」
岡田 「それってどういう意味での?」
彰利 「戦闘に対する覚悟。殺す覚悟と殺される覚悟……かね」
藍田 「まあそりゃ、戦う限りは。普段は怖くて出来たもんじゃないけどさ、
やっぱり戦うって決めたからには普通するだろ」
岡田 「殺す気で行くなら自分の命を賭けるだろ。戦いってのはそういうもんだと思う」
彰利 「ホムホム……」
二人ともしっかりと頷いてる。
じゃけんどもそれはゲームの中での話だ。
復活出来るからこそ楽観して言える言葉もある。
……あたしゃ正直、中井出はもうヒロラインには参加しないかと思ってた。
本当に人を殺しちまったんだ、
その心には本当の“殺す覚悟と殺される覚悟”ってのが刻まれたことだろう。
じゃけんどもヤツはこの世界に降り立った。
このまま進めばルドラか誰かに殺されるって解っていながらだ。
彰利 「………」
いや、違うか。
中井出は自分が死ぬって知ってた。
未来だかなんだか知らねーけど、この夏か秋かに死ぬらしい。
影通して全部聞かせてもらったことだけど、そこに嘘はないだろう。
だったら……そか。
死ぬ覚悟、殺される覚悟なんてとっくに出来てるんだ。
ヒロラインの中で死ぬって解ってるのにヒロラインに降りた。
それが答えだ。
彰利 「ぬしらに問う!もしぬしらを狙う者が居たとして、
それが本当の殺気を持つ子供だったらどうする!」
藍田 「無力化させて放置、かな」
岡田 「逃げる……かな。お前ならどうするんだ?」
彰利 「黒で食います」
岡田 「率直にひどいなおい!
べつに子供なんだから、適当に無力化するか逃げるかすれば───」
彰利 「甘いわ!そげなことではやがて増殖した刺客に寝首を掻かれることになる!
……ちなみに中井出、魔王ならばきっとコロがしてくれます」
藍田 「え……本気でか?」
彰利 「あいつ男女差別とか嫌いだから。
“殺す覚悟には殺される覚悟を”がモットーだし。
子供だから叩かれる程度で済むとか、女だから大丈夫とか思ってたら、
次の瞬間首が飛んでらっしゃると思うよ?殺す気には殺す気でかかります。
容赦なさすぎだ〜とかひでぇとか思ってるなら、
きっとそれはキミらがやさしすぎるからだ。
感情を込めて言おう。俺も本気でそう思ってるから言うことだ」
藍田 「………」
岡田 「ああ」
俺のマジメな雰囲気を読んでか、二人はゴクリと喉を鳴らす。
俺もそれに頷きながら口を開き、言うべきことを伝える。
彰利 「……殺さずに生き延びたい、死にたくない、殺したくないって思うならな。
敵の命を心配できるヤツなんかがその場に立つな。
戦場ってのは命の遣り取りをする場所だ。
何度も殺されたことがある俺だから言うけどな。
死ぬって解ってて立ち向かうのって、言葉で言うよりよっぽど辛い。
“人を殺す”ってのは、正直憎たらしい相手でもよっぽど手に残る。
肉を斬り裂く感触が、なんて言うんじゃない。命を奪うって感触が残るんだ。
……なぁ、もし数日のうちにこの世界から復活システムが無くなると知っても、
お前らは誰かを殺す覚悟が持てるか?」
藍田 「え……や、それは……」
岡田 「───……お前は?」
口にはせず、首を横に振った岡田が俺に問いかける。
俺?俺は───
彰利 「俺は殺すよ。自分が助かるためなら、殺す。
そうしなきゃ生き残れないんだったら仕方ないだろ。
殺したくなかった、じゃ済まされない。
殺されそうになってるってのに殺さないでどうする。
殺される覚悟を以って、自分が生きるために、誰かを殺す。
戦場ってのはそういうもんだ。ゲームだからってタカくくってるけどさ、
もしここで殺した相手がモンスターに化けた知り合いで、
しかも既に復活の奇跡が無くて、
知り合いを殺しちまったら……お前らならどうする?」
藍田 「……謝って済む問題……じゃないよな」
岡田 「なぁ。それって魔王のこと、例えに出してるのか?」
ヌ?なんだか岡田くんはヤケに質問を返してきますな……だが答えましょう。
彰利 「んにゃ?ただ、いずれそういう世界になるかもしれないってことを、
しっかりと覚えててほしいだけさね。
殺伐とした世界にはやさしさは眩しいよな。
だけどやさしいヤツってのは大体が誰かに裏切られて死ぬ。
常日頃から非情になれって言ってんじゃない、
戦場に立って、敵と向かい合ったからには同情なんて必要じゃないってことさね」
藍田 「んー……んじゃあさ、もし殺したヤツには家族が居て、
その家族が敵討ちに来たらどうするんだ?」
その質問は、この話をすれば絶対にくるものだって予想がつくから面白い。
そらね、誰でもそこに不安を抱きますわ。
彰利 「言い分しっかり聞いてから殺します。言い分もなくかかってきたなら殺します。
命乞いしてきたら見逃します。
もちろん最後まで油断せずに、攻撃の意思を見せてきたら殺します。
“前提”として、“相手が俺を殺す気なら”ってのを忘れずに。
遊びたいだけとか勝負したいだけってんなら、それに全力でぶつかるだけさね。
……あんね?戦場に立ったら老若男女なんて関係ないのよ?
家族からの憎しみが怖くて人が殺せますか。
ハッキリ言えばそげなもん、憎んでるヤツの一方的感情デショ。
家族を殺されりゃあ憎いかもしれんよ?
でもだったら、もしアタイが逆に殺されて、
みずきがそいつを恨んだとして、殺しに行ったとして、
その時そいつは大人しく殺されてくれると思う?」
二人 『無理だな』
彰利 「そゆこと。結局、お互い戦場に立ってるならそうなるんだ。
どっちが死んでも家族が居るなら恨まれる。
家族にも理解しろなんて言えないけどね、恨むのはお門違いだよ。
そういう場所で剣を持って殺そうとしたんだろ?
死ぬ可能性があるのは相手だけじゃないんだから。
面白半分にイジメに走ったりだとか、
集団じゃなきゃなんの勇気ももてないヤツだとかも同じだ。
イジメる側なんだから反撃はされないとか、
集団だから自分は安全だとかしっぺ返しも分割されるとか、
そんな甘いこと考えてるヤツはいっぺん人生やり直せ。イジメられる側として」
イジメる側の気持ちもイジメられる側の気持ちも、よく解っちゃいない。
けどその現状のままにいつまでもいられると思ったら大間違いだ。
ある日突然、ヤケを起こしたイジメられっこに刺されるかもしれない。
普通に反撃を受けて、殴られた拍子に歯が折れたり大怪我をするかもしれない。
けど、そうなったら怒られるのは、責められるのはイジメられてたヤツだ。
俺はそういうのが納得いかない。
傷つけてきたのなら、傷つけられる覚悟くらい心に秘めるべきだ。
それすら出来ずにあーだこーだ言うヤツはハッキリ言って嫌いだ。
彰利 「問いましょう。中井出博光は……我らが提督は、そういうヤツだ。
殺す覚悟と殺される覚悟、対象になる覚悟ってのを持ってる。
おみゃーらが、状況が状況ならば子供相手でも剣を振るうであろうヤツに、
キッパリと一緒に歩めるかどうかを問いたい」
藍田 「ノった」
岡田 「俺もだ。けどその前にひとつ訊きたい。
……魔王も、年中無休の危険野郎じゃないんだよな?」
彰利 「普段は気さくな馬鹿ですよ?弱いし。
個人的ないさかいや遊びごとにはあまり能力は使わんヤツさ」
だから大抵ボッコボコで弱いんだけどね。
岡田 「え……弱いの?」
彰利 「弱ェエエエよ?武具装備してなけりゃあ、
この世界のレベル1より弱いかもしれん」
藍田 「うわぁああ……」
なんとも複雑な顔をされた。
でもほんと弱ェエエし。
岡田 「なんでそんなヤツが魔王やってられるんだ?その理由が解らないんだけど」
彰利 「武具があればゼットより強ェエエから」
藍田 「なんなんだよそのアンバランスさ加減……」
彰利 「じゃからね?ヘタな正義感振り回して、
関係もねー空界人の仇だ〜とか言うの、やめときんさい。
麻衣香ネーサンの娘の友達の仇討ちだ〜ってのもね。
ほんにあやつは好きで殺人に走ったわけじゃねぇんだから。
それでも我慢ならねーってんなら止めません。
ただし殺す気でかかるのはやめなさい。
クラスメイツのよしみじゃい、それだけは注意しときます」
岡田 「……それをした時点で、魔王も殺す気で来るってことだよな?」
彰利 「そゆこと。そりゃね、話し合いするだけだったらいいよ?
戦いの中で語り合って、心を許し合うのもいいでしょう。
じゃけんども、本気の本気で殺しにかかるやつが、
そげなことをする余裕なんてねーデショ?
だから話がしたいんだったら話しなさい。武器取り出さずに。
それか、拳で語り合うこと。
砂かけだのなんだのと最上級の姑息な手を使われまくること必死だけど」
藍田 「ろくな魔王じゃねぇな……」
岡田 「その、なんだ。プライドとかないのか?そいつ」
彰利 「ない」
即答したら物凄く微妙な顔をされました。
しゃーねぇでしょ、ないもんはないんだから。
彰利 「そんなわけじゃきん、こちら側に着くにしても敵対するにしても、
ヤツは既にいろいろなもんを背負ってるようでいて放ッポリぱなしで、
マジメでいるようで適当に生きておるから。
いろいろな覚悟は決められるようになっておきんさい。
少なくともアタイはあやつのお陰で、
慢心してばっかの心は置き去りに出来たから。殺す殺されるの覚悟ももちろん。
悠介も“守る”ことをやめたし、ゼットも友情に目覚めた。
中井出の傍はなんつーか安心するんだわ。
だから俺ゃヤツが裏切るまでは裏切らんし、
中井出もこっちが裏切るまでは裏切らん精神を突っ切ってる。だから安心」
藍田 「……この場合、忘れちまってる俺達は……」
岡田 「裏切ったってことに、なるのか?」
彰利 「まさか。もしそうだとしても、傍に来るヤツをあやつは拒絶せんよ。
よっぽど嫌なヤツじゃなけりゃあね。
基本的に面白いことが好きだから、
裏切られても面白さに繋がるんなら大体許しちまうんだわ、あの馬鹿」
藍田 「………」
岡田 「………」
それだけ話すと、藍田と岡田はどこか申し訳無さそうな顔をした。
どうして忘れちまったんだろう、って感じの顔だ。
そげな二人に喝を入れてくれようと、立ち上がった───まさにその時!
???『天知る地知る我が知る!正義を壊せとわしを呼ぶ!』
謎の声が聞こえてきて、僕らと通行人を驚かせる!
彰利 「ぬ、ぬうなにやつ!」
藍田 「……?これってナギ助の声だよな?」
彰利 「ノー!藍田よ!こういう時は素直に驚いてりゃあいいのよ!
そういう心を忘れちゃいけません!いいですか!?原中大原則ひとつ!
“いつも心に童心を”!!笑う心と楽しむ心と好奇心は童心から来るのだ!
だから童心だけは心に持つ!楽しむ時は全力で楽しむ!
中井出とともに歩むというのであれば!それだけは心に刻みなさい!」
藍田 「───…………驚き方とかはどうでもいいのか?」
彰利 「オウヨ!」
岡田 「訳がわからないときは?」
彰利 「とりあえずノリで驚いたりなさい!じきに慣れます!」
藍田 「───つ、つまり、その……難しいこと考えないで」
岡田 「状況を、楽しめばいい……ってわけか?」
彰利 「ザッツライト!人はそれを原ソウルと呼ぶ!!」
藍田 「……っ……《わくっ……》」
岡田 「……《うずりっ……》」
藍田 「よっしゃああーーーーーっ!!もう恥なんて知るかぁっ!!
お、俺楽しむぞ!楽しむヤツになっちゃうぞ!?いいんだな!?」
彰利 「よろしい!それから仲間になるのだったら中井出のことは提督と呼ぶこと!
返事はサーイェッサー!!オーケー!?」
藍田 「サーイェッサー!!」
彰利 「馬鹿野郎!アタイは提督じゃないから言わんでええの!
アタイは一等兵!んで貴様は二等兵!」
岡田 「お、俺もか?」
彰利 「貴様もじゃい!ではまいりますぞ!───おーいナギッ子!最初からだー!」
???『わ、わしはナギーなぞではないのじゃーーーっ!!』
謎の仮面をつけたナギッ子が、わたわたと慌てながら叫ぶ。
……どの格好さげてそげなこと仰るんでしょうかね、ヤツは。
だけど律儀に姿を隠し、高い位置で再登場してくれる彼女はやはり、
流石は中井出直属の猛者よ。
???『天知る地知る我が知る!正義を壊せとわしを呼ぶ!』
彰利 「な、なに〜〜〜〜っ!!だ、誰だてめぇ〜〜〜〜〜っ!!」
藍田 「オ、オ〜〜〜〜ッ!き、きっと悪行超人に違いねぇ〜〜〜〜っ!」
岡田 「そ、そうか〜〜〜〜〜〜っ!正義を壊せとぬかしてやがったからな〜〜〜〜っ!」
彰利 「で、名前は?」
???『街灯のお友達!マスカレイド仮面様なのじゃーーーーっ!!《ジャーーーン!》』
三人 『なっ……なんですってぇーーーーっ!!?』
…………。
藍田 「なんだ?マスカレイド仮面って……」
岡田 「そりゃお前……なんだ?」
彰利 「マ、マスカレイド仮面様……あの方が伝説の……!」
藍田 「し、知っているのか雷電……」
彰利 「OK、その返し方ナイスです。
───マ、マスカレイド仮面様……伝説のみとばかり思っていたが……」
◆マスカレイド仮面様───ますかれいどかめんさま
説明しよう!マスカレイド仮面さまとは、夜中の街灯の下に現れる仮面さまで、
道を歩いていると突然演劇を見せられるのだ!
ちなみに仮面の目の部分に黒い厚紙が張ってるから、
前が見えずに電柱にぶつかることもしばしば。
街灯の一歩手前で人を待って、
足音が聞こえてきたら一歩前に踏み出て、突然街灯の下で演劇を始めます。
なもんだからポリスのお世話になりそうなこともあり、通り名は“深夜の演劇魔”。
通り魔とか露出魔とかじゃなくて、演劇魔。
誰彼構わず演劇を見せるのは、極度の上がり性を直すためらしい。
客をかぼちゃと思えと言われて実践しようとしたらしいけど、
かぼちゃが大の苦手らしく、逆に緊張してだめだったとか。
そんなマスカレイド仮面さまのストーリーがコレ。
*神冥書房刊『ハニー・カミング・スーン』より
……。
藍田 「な、なんだと……そんな面白い存在が居たとは……!」
彰利 「というストーリーを、中学時代に中井出がヘタクソな漫画として描いてた。
タイトルはハニー・カミング・スーン。
主人公が毎朝幼馴染に起こされてガッコ行く、コテコテの恋愛物語だ」
岡田 「うわぁ……」
藍田 「お……いいじゃんそういうの。俺結構好きだぞ?」
彰利 「え……マジで?なにキミ、毎朝金的されて起こされたいの?」
藍田 「どういう幼馴染なんだよそいつ!!」
彰利 「おなごはお隣に住んでいる娘さんで、主人公は何処にでも居るような男。
おなごは主人公のことが好きなんだけど、素直になれずに───って話」
藍田 「素直じゃないと金的なの!?金的で幼馴染起こすの!?
怖ぇよ!朝迎えたくねぇよ!」
彰利 「主人公の名前は闇一郎で、愛称はアン。
ヒロインである幼馴染のおなごはモルゲン=サンシャイン。
生粋の日本人女性なのに、親の気まぐれでそう名づけられた可哀想なヤツだ。
苗字は上条だ。どっかで聞いたことがある気がしてもまったくの気の所為だ」
岡田 「いやな幼馴染だな……いろんな意味で」
俺もそう思う。
でもこれでも中学時代はかなりの人気漫画だったんだ。
俺達はそれはもう、毎度楽しみに見てたもんさ。
彰利 「で、問題の伝説のマスカレイド仮面様が、実は闇一郎の妹なんだ。
夜の公園近くの街灯に出没し、突然演劇を始めるんだ。
彼女の人気はそれはもうすごかっただぜ?
もう金蹴り女帝なんかに比べりゃ癒しの域だね。
だってさ、モルゲンさんってば部屋に鍵かけとくとピッキングして侵入すんだよ?
その上で布団剥いで両足掴んでゴキィン!って!
ヒィイ!!思い出すだけで恐ろしい!」
藍田 「それってなにが面白いんだかまるで解らないんだが……」
彰利 「マスカレイド仮面様の馬鹿っぷりがよかったんだって!
それ以外は悲しみばっかりだったけど。
いつ主人公が種を残せぬ体になるのかヒヤヒヤもんよ」
岡田 「で……終わりはどうだったんだ?」
彰利 「上級生のゾノクレア=皐月さんが教室のベランダから落とした植木鉢がモルゲンの
頭に激突してモルゲンさんが記憶喪失になって事なきを得て、その感謝の意を込め
て闇一郎くんがゾノクレアさんに告白してあっさり玉砕。悲しみに暮れているとこ
ろに現れたタギャー=マリポーサ様のツンデレっぷりに惚れて告白して玉砕して、
立ち直れずに夜中までその場で腐ったあとの帰り道でマスカレイド仮面様と遭遇。
もう貴様でいいから俺を慰めておくれと破れかぶれで求愛したらあっさりOK。こ
うして闇一郎くんは実の妹と恋に落ちたためにポリスに捕まったのです」
藍田 「……救われねぇなぁ……しみじみと」
岡田 「なぁ……これってほんとに中学の時に描ける内容なのか……?」
彰利 「だって実際描いてたし。ナギ子さんに“ヒロミツの過去を教えるのじゃー”と言わ
れたから月視力で見せたら、もう大絶賛でしたぞ?」
藍田 「うわーお」
岡田 「すげぇなそれ……」
で、今もなお高いところでビッシィと決めポーズを取ってるマスカレイド仮面様は……
グゥウ……ど、どうしてくれましょう。
彰利 「…………行きますか」
藍田 「え?ナギーはいいのか?」
彰利 「ノウ……ノリだけで生きなさいどすえ。面白おかしく我武者羅に生きていれば、
いつか他人の目も気にならなくなりますどすえ」
藍田 「なんでどすえ弁なのか知らんけど…………そだな、その方が面白そうだ」
岡田 「じゃ、ここは無視する方向でいいんだな?」
彰利 「OKです」
ザッ……と歩いてゆく。
金は得た───さあ旅立とう。
まだ見ぬ新たなる場所を目指して───!!
マ面 『むあぅ!?ま、待つのじゃー!わしを置いてゆくでないー!
わ、わしは!わしはーーーっ!』
声 「テメェエエ!!人ン家の屋根の上でなーーにやってやがる!!」
マ面 『マスカレイド仮面様じゃ!《どーーん!》』
声 「なにわけの解らねぇことぬかしてやがる!いいから降りがああああ!!」
マ面 『おぬしはわしの気持ちを全然まるで解っておらぬのじゃ!
なんぞ真似をする時はの、誰にも邪魔されず自由で……
なんというか救われてなければならぬのじゃ。独りで静かで豊かで……』
声 「痛っイイ!お…折れるゥ〜……」
……ちらりと振り返ると、
マスカレイド仮面様が太っちょのおっさんに井之頭式アームロックをなさってた。
それだけ見届けられたら十分さ。
にこりと笑った僕は、藍田と岡田とともに南西を目指した。
【ケース678:セレスウィル=シュトゥルムハーツ/ケフカ】
ズドドドドドドド…………!!
セレス「……?」
荒野を独り歩く中で、なにかが近づいてくるのを感じた。
感じたもなにも、砂煙を巻き上げて走っているのだから、
十分肉眼で確認できたわけですが。
セレス「んっ───《キィンッ》」
視る、という意識を高めて目を見開く。
するとまだまだ遠くに居るソレも楽に確認でき、
それが───小さなドリアードだということが解った。
名前は確か、ナギー。
耳を澄ましてみれば、
声 『わはははは!!ざまーないのじゃー!
ちょいと妙なことをすれば反応に困り、無視して進んでいきおったわー!
そもそもわしはあのツンツンに捕まっておったのじゃからの!
あやつらの旅路に連れ添う理由なぞ最初からないのじゃー!』
……のようなことを叫んでいた。
どうやらツンツン……弦月彰利から逃げ出してきたところらしい。
逃げ出したということは捕まっていたということなのでしょうけど。
ナギー『むっ!?《ギョキキキィイイイッ!!───ザザァ!》』
と、物凄い速さでここまでを走ってきた彼女が、
突然わたしを確認し次第に足を止め、とたとたと近寄ってくる。
ナギー『おお、よいところで会ったの!確か、セ、セー……セバスチャンなのじゃ!』
セレス「セレスウィル=シュトゥルムハーツです」
ナギー『おおそうじゃそうじゃ、そういう名前じゃったの。
サイボーグ・ズリズリナインなのじゃ』
セレス「全力で違います!!」
ナギー『お、おおおそうかそうか……むう、ならばこの際名前はどうでもよいのじゃ。
ここで会うたのも何かの縁……おぬし、帝国が何処にあるのか教えるのじゃ』
セレス「……はい?」
帝国……って、あの帝国ですか。
……困りましたね、わたしも地図を持っていないから解らないのですが。
セレス「帝国が何処にあるのかはわたしには解りませんが───
何処かの村で訊けばすぐに解ると思いますよ」
ナギー『む、そうじゃの。手間をとらせてすまぬのじゃ。ではの』
それだけ言うと、ドリアードは再びドタタタ……と走っていってしまった。
セレス「………」
そう、ですね。
別にこれといった目的があるわけでもありませんし。
“誰かに付き合うのも悪くない”
そう思ったわたしは、離れてゆくドリアードを追って駆け出した。
───……。
……。
それで……
セレス「どういう速さをしているんですかあなたは!」
ナギー『わっはっはっはっはー!───知らぬわ!《どーーん!!》』
散々追いすがって、散々呼び止めて、ようやく捕まえた。
前提となるレベルが違いすぎて、追いつくのでさえ一苦労。
……まさか全力で走る日が来るなんて思ってもみなかった。
エドガーでいた頃でさえ、全力で駆けたことなんてなかった筈なのに。
ナギー『それでなんの用なのじゃ。金か?金ならないのじゃ』
セレス「最初に金の例えを出す精霊を初めて見ましたよわたしは……!」
ナギー『ククク、わしをそんじょそこらの精霊と一緒にするでないわ。
わしこそはヒロミツとともに失われし伝説の魂を保守する存在!
ニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアードなーのじゃーーーっ!!
もはや大半が忘れてしまった原ソウル……それがある限り、
わしはそこいらの精霊とは常識の匙加減からして一線を───画すとよいの?』
セレス「なんでそこで疑問系なんですか……」
ナギー『そんなもの、自信がないからに決まっておろ?』
セレス「………」
ええと……どう反応するべきなんでしょうね……。
選択、違えましたかね、わたし……。
ナギー『それで、なんの用じゃと申したかの、サイボーグ・ズリズリ───』
セレス「セレスです!セレスウィル=シュトゥルムハーツ!!」
ナギー『おお!そのグレート・ブッコキーナが何用じゃ!』
セレス「くきひぃいいいーーーーっ!!」
ああ悠介さん!今物凄く怒り心頭ですよわたしは!
いいですか!?殴っていいでしょうかわたし!!
セレス「あなたの耳は異常なんですか!?何度も言っているでしょう!!」
ナギー『うむ。ヒロミツがの、詳しく知らぬ相手が近づいてきたら、
まずは相手を逆上させて出方を見ろと言っておったのでの。
それにはまず、名前を不名誉な名で間違えるのがいいと、そう教えられたのじゃ』
セレス「………」
ヒロミツ……魔王の名でしたね。
いつか出会ったら文句のひとつでも言ってあげましょう。
精霊とはいえ、子供になんてこと教えるんですか。
ナギー『して、何用なのじゃ?わしは帝国に行って、ヒロミツを助けねばならぬのじゃ』
セレス「いえ、別に主立ってやることもないので、手伝ってもいいかなと思っただけです」
ナギー『断る!!』
セレス「えぇ!?」
どういうわけだか男らしく断られました。
いえ本当に……どうしてでしょうか。
ナギー『わしはおぬしのことなど信用しておらぬのじゃ!
どうせ助けると見せかけて、
ヒロミツをまた封印しようとするに決まっておるのじゃ!
皆そうじゃ!誰も彼もヒロミツのことを忘れ、人殺しじゃ殺人鬼じゃと!
もう誰も信じぬのじゃ!
わしはヒロミツやシードとともに亜人族と生きていくのじゃ!
おぬしの用件がわしの手助けだというのなら、わしはそれを断るのじゃ!』
セレス「………」
口早く言ってみせたドリアードの目は、わたしを恐れていた。
それこそ、まるで信用していないかのように。
いえ……かのように、ではありませんね。
まるで信用してもらえてません。
ナギー『みんなひどいのじゃ!今まで提督提督とヒロミツを慕っておったくせに!
突然掌を返したように殺人鬼じゃ人殺しじゃと!
仕方なかったと言っておろうに、何故信じてやらぬのじゃ!
お陰でどれだけヒロミツが悲しんだと思っておるのじゃ!
じゃからもういい!わしに構うでない!
わしはもうヒロミツとシードと亜人族しか信じぬのじゃ!
……じゃが手伝い以外なら話を聞いてやってもいいのじゃ』
セレス「《がくっ》……」
しんみりとなった途端にがくりと来た。
悲しみの態度から一変、きょとんとした顔で聞いてやってもいいだなんて……。
切り替えの早いお子様だ……少しうらやましい。
ナギー『ヒロミツが言ってたのじゃ〜。熱くなったときこそクールダウンじゃと。
そのままで突っ走れば、その時でしか取り戻せないものや、
大事なものまで失ってしまうと言っておったからの』
セレス「…………いい子ですね、あなたは」
ナギー『任せるのじゃ』
優雅に胸を張ってみせられた。
セレス「…………?子供扱いされるのには慣れているんですか?」
ナギー『その時が楽しければ、子供扱いも許せるものよの。
あらゆる状況を利用して楽しむのが原ソウル。
たとえ子供扱いにイラっと来たとしても、
瞬時に気持ちを切り替えてその場で利用できる楽しさを見つけるのじゃ。
ククク、つまりわしを子供扱いして怒り心頭させようとしても無駄なのじゃー!』
いえ……そんなつもりはなかったんですけどね。
どうしましょう、この子かわいいです。
ナギー『もはやわしは関所の中で寂しがっていただけの弱いわしとは違うのじゃ!
というわけでわしは帝国を目指すのじゃ。……着いてくるでないぞ?』
セレス「いやだと言ったらどうします?」
別れるのがもったいない気がして、つい意地悪するようにそう言ってしまった。
すると、
ナギー『神父の言葉を聞く覚悟は出来ているのであろうな!』
有無も言わさず戦闘態勢の自然精霊がそこに現れました。
巨大なピコピコハンマーをゴファアォウン!と振り回し、
緑色の光に包まれて軽く浮き上がりはじめました!
セレス「ま、待ってください解りました!着いていきませんから!」
ナギー『その方がいいのじゃ』
あっさりとにこりと笑うと、武器をがしゃんと仕舞う精霊さん。
……どこにあれだけ大きなハンマーを仕舞ったのか、とても気になります。
ナギー『ではの!───待っているのじゃヒロミツーーーっ!!』
その後は声をかける暇もなく、走り去ってしまった。
はぁ……なにをしているんでしょうね、わたしは……。
もう少し、この世界で“やろうと思えること”を探してみますかね。
ただレベルをあげるだけではつまりませんし。
【ケース679:昏黄悠黄奈/悠黄奈、ナギーと出会う縁】
ズドドドドドドドガッ!みぎゃっ!?
───どごしゃっ!ごしゃっ!がっ!ごっ!
バキベキゴロゴロズシャーーーーーアーーーーーーーッ!!!
みぎゃああああーーーーーーーーーーっ!!!
……自然要塞から放り出されていくばく。
もう10年になりますか……
各地を放浪しながらいろいろ考えていると、懐かしい顔と出会いました。
悠黄奈「ナギーさん……ですよね?大丈夫ですか?」
ナギー『触ってもよいがソッと触るのじゃ!』
悠黄奈「……触るなー、とは言わないのですね……」
ナギー『ククク、わしは冷静じゃからの』
質問はよく解らない言葉で返されました。
豪快に、物凄い勢いで転がってきた少女の言葉とは……はい、とても思えませんね。
ナギー『おぬしは、えぇと……クラッキーじゃったの』
悠黄奈「はい、昏黄悠黄奈……略してクラッキーですね」
ナギー『……むぐっ。これは想定外なのじゃヒロミツ……
受け入れられた場合はどうすればいいのじゃ?』
そしてどうしてか急に悩み始める始末。
えぇと、どうしま───ってそうです。
悠黄奈「博光さん?博光さんは無事なんですか?」
ナギー『もちろんなのじゃなんじゃとぉおーーーっ!!?』
悠黄奈「ひゃあんっ!?ど、どうしました!?」
仰天です。
ええ、つまりびっくりしたのですが……
ナギー『お、おぬし!ヒロミツのことを覚えておるのか!?』
悠黄奈「え……ええ、覚えてるものなにも……あの、博光さんですよね?中井出博光さん。
原沢南中学校迷惑部部長さんにして提督さんで、
悠介さんと彰利さんの中学時代のお仲間さんにして密かな恩人さんです」
ナギー『………』
悠黄奈「……?ど、どうしました?」
ナギー『おぬし、ヒロミツのことは嫌いか?好きか?
人としての質問じゃぞ?恋愛感情だったら許さんのじゃ』
悠黄奈「ええ、大好きですよ?傍に居ると落ち着きますから《がしぃっ!》ひゃんっ!?」
ナギー『ゆくのじゃ来るのじゃわしらの旅は始まったばかりじゃーーーーっ!!』
悠黄奈「え!?え、えぇっ!?あの、いったいなにがどうなってぇえーーーーーっ!!?」
強引な話です。
ナギーさんはわたしの腕を掴むと、レベル差を強引に行使して走り出しました。
わたしはといえば……よく解らないなりにもナギーさんの真剣さを受け止めて、
苦悩しているようなら手助けがしたいと、静かに思っていた。
守るんじゃなく、手助けがしたい。
不思議なことですけど、自分を犠牲にしてまでなにかを守りたいと思うことは……
本当に、綺麗さっぱりと、完全に頭の中から消えていた。
Next
Menu
back