───冒険の書296/多分零度(絶対ではない)───
【ケース740:晦悠介/展開みっくみくバトル1】
バヂュゥンッ!!
彰利 「いあぁっづっ!!」
悲しんでばかりはいられない状況がそこにあった。
いっそ思い切り悲しむことが出来れば、多少は吹っ切ることも出来たろうに。
ミク 『我は葱を極めし者……』
彰利を一瞬にして吹き飛ばし、背中で語るヤツの背には、“葱”の文字が浮かび上がる。
……なんて説明していいやら。
ともかく困ったことに、こいつは攻撃力を馬鹿みたいに特化させたミクらしく。
葱での攻撃が恐ろしく強すぎて、手に負えなくて困っている。
ストリートファイターシリーズの豪鬼みたいなミクだ。
肩あたりから青緑色のオーラが出てたりするし。
こんな馬鹿みたいな格好なのに強さだけはホンモノだなんて、俺もう実家に帰りたい。
……実家、とっくの昔にないけどさ。
悠介 「白理に染まれ───ラグナロク!』
白を解放し、離れていた距離を一気に詰めにかかる。
相手の速度はそう高くない。
ただ、攻撃と耐久力が異様にある。
それさえなんとか出来れば、まだ先は見える筈だ。
悠介 『魔ァ神剣!!』
走る最中に剣圧二連を這わせ、それを追い越して一気に疾駆。
防衛本能か、視覚で確認するより先に延ばされた手を潜り抜け、
ミクの背後へと滑り込むように駆け抜ける。
そして───うおっ!?
ヒュゴゴドォッゴォンッ!!
悠介 『っ……ぎっ……!』
ツーテールのうちひと房がゲンコツとなり、後ろに回った俺目掛けて振り下ろされた。
咄嗟にラグの平面で受け止めたが、
どういうパワー馬鹿なのか、受け止めた俺の足がタイルをヘコませた。
悠黄奈「詰めます!アブソリュート!」
だが一方を攻撃しているということは、一方に気が逸れているということ。
それを知っているからか、すぐさま悠黄奈が距離を詰め、絶氷の槍で攻撃を仕掛ける。
ミクも攻撃の意思を感じてか、悠黄奈へと向き直り
悠介 『甘いッ!』
その時を待っていた俺の足払いに足を取られ、体勢を崩したところに悠黄奈が詰め───
ミク 『防衛システム稼動』
───いや。
体勢を崩してなお、自由に動くツーテールのもう片方を動かし、
無数の槍に変化させたそれを悠黄奈目掛けて延ばしてゆく!
悠介 『させるかぁっ!!』
ミク 『《がしぃっ!》───!?』
だが甘い!!
散々っぱら提督の戦い方を見た俺が、体勢を崩した相手をそのまま見過ごすと思ったか!
今こそいくぜ!STRマックス!ジャァアアイアントッ───スウィイイイング!!!
悠介 『うおぉおおおおおおおおおっ!!!!』
ミク 『っ……!っ……!ギ───サンダーボルトシステム、起動───!』
悠介 『《ヂガァンッ!バリバリバリバリッ!!》───ハッ!
ぬるいんだよ葱娘ぇっ!!月鳴の裁き!フゥウルブラストオオオオオオッ!!!』
ビヂヂッ───ギヴァァッシャァアアアアッ!!!
ミク 『───!ギキィイイイイイイイイッ!!!!』
悠介 「っ───ぜぁああああああっ!!!」
火力マックスで裁きを放ち、
その熱でミクに触っていられなくなった時点でミクを投げ飛ばす。
ミクは勢いのままに遠くの壁に激突したが───平然と起き上がり、眼を光らせた。
彰利 「……まいったね。あいつ強ぇえワ」
悠介 『解りきったこと言うなよ……だからこその作戦だろ?』
悠黄奈「ですね……」
ちらりと、自分の肩越しに後方のルナを見る。
封冠を完全に外し、長く綺麗な黒髪を風もなしに揺らしながら、
その髪に黒の電撃のような胎動を幾重にも見せる姿を。
作戦ってのはこうだ。
俺と彰利と悠黄奈とで時間を稼ぎ、
ルナ───いや、フレイアが溜めるに溜めた鎌の一撃で、なんとかしてもらうという、
言ってしまえばひどくシンプルだが、当たりさえすればただでは済まない技。
彰利が皇竜解放状態で溜める、という案もあったが、
本人からの“安定化が完全じゃない”という言葉の末、ルナに任せることになった。
彰利 「し、しかしまだ完全解放じゃねぇの?既にオラの数倍はありそうなんじゃけど」
悠介 『ルナとフレイアとじゃあ回路と鎌の扱い方のレベルがそれだけ違うってことだろ。
それに───』
彰利 「……月の精霊の力、上手くブーストとして使ってやがるわ」
悠介 『ああ……』
月の名前をその身に授かってるだけはある。
ルナ、という名の女性の姿をしたフレイアは、
月の力、月の加護を全てバックアップに回し、
まるで満月の引力により水位をあげるかのように、
ぐんぐんと死神の回路の力を引き上げてゆく。
体にはもう、体の内側では隠しきれないほどの回路の筋が、幾重にも赤く浮かび上がり。
それは頭から指の先まで、そして長く美しい髪の先まで伸び。
まるで全身を赤く染めるかのように、回路が眩く赤く、彼女を染めてゆく。
それはまるで黄昏を抱く創造の世界の言のよう。
そんな俺の思考を知ってか知らずか。
フレイアの口が笑みをこぼすみたいに動いた。
───染まれ染まれ染まれ染まれ
赤く緋く紅く朱く───
もちろんその途端になにかが起こることもない。
フレイアが笑ったのはその時だけで、のちにはさらに深い集中が見て取れた。
……はぁ。
出来るだけ、ミクを押さえなきゃな……。
悠介 『彰利、いけそうか?』
彰利 「まあお待ち《ゾフィィンッ》───うし。とりあえずフルパワーだ』
彰利が破面を出現させ、ニコリと笑う。
……どうして彰利や提督は、ニヤリと笑おうとしないのか。
そんなことが気になったが、面白いんだから気にしないことにした。
悠介 『すぅ……はぁ。よし!覚悟完了!絶対ェ打っ潰すぞ彰利ぃいっ!!』
彰利 『おお!懐かしの不良モード!いいねぇ!ではアタイも!』
お互い気を引き締めまくり、ミクに向かって疾駆。
悠介 『雷撃系の技は俺がなんとかするから気にせず突っ込め!』
彰利 『オーライ!』
地を這うような走りで間合いを詰めた彰利が、左腕から竜の腕を出現させ攻撃に移る。
ミクはそれを───あろうことか右のテールハンドでゴギィンと受け止め、
即座に自分の右腕で攻撃に入る。
しかしある程度の先読みは出来ていた。
その合間を縫うように放ったメガレールカノンがミクの拳を飲み込み、
数瞬の間だけ停止させる。
ミク 『ギッ……!』
彰利 『ディナータイムだアモルファス!!』
ミク 『《ガドォッ!》ヂギュッ……!腹部に軽度の損傷……!』
その数瞬に、地面を踏みつけた彰利の影から巨大な黒のバケモノが飛び出し、
ミクの腹部へと激突。
そのままの勢いでミクを中空に飛ばすと、影へと戻ってゆく。
彰利 『チェック───!ラオウ召喚!!』
ラオウ『グゥオオオオオオオゥウウッ!!!!』
影が引っ込むと同時に彰利の背から十八翼が飛び出し、
それがひとつの塊となって鎧を纏った巨大な黒に変異する!!
召喚というより黒を攻撃に向いた姿に象ったと言うべきか。
巨人の上半身のみのような姿のそいつは、両手をガシィンと合わせると高く振り上げ、
中空のミク目掛けて一気にヴァゴシャドッゴォンッ!!!
振り下ろし、硬い鋼鉄タイルへと叩きつけた───!!
ミクの体がタイルの上で跳ね、しかしそんな無茶苦茶な体勢からテールハンドを延ばし、
彰利 『うげ《バッガァッ!!》ぶっはっ───!』
彰利の顔面を殴りやがった。
しかも殴ったついでに胸倉を掴み、
自分の体を引き寄せるようにして無理矢理体勢を立て直すと、
掴んだままの彰利目掛けて馬鹿みたいな速さで駆けてくる!
悠黄奈 「フェンリル!」
フェンリル『フゥウォオオオオオゥウンッ!!!』
悠黄奈とフェンリルが氷結レーザーを放って援護に回るが、
ミクはそれを放電による発熱で溶かし、そのまま彰利へと突っ込んでゆく!
彰利 『ゲエエこいつ滅茶苦茶だ!だが甘ぇ!!』
ミク 『みっくみくに───《がくんっ!》───!?』
真っ直ぐに彰利目掛けて走っていたミクが、いきなりバランスを崩した。
彰利が、影を伝ってミクの足に黒を巻きつけたのだ。
さらに黒たちはミクの体に巻きついてゆくと、
彰利 『ちったぁ落ち着けパワー馬鹿め!月然力・重!!』
重力操作の月然力にて、ミクの動きを封じにかかった。
彰利 『はいここでルナっちが格好よくタメを終了して発射!』
フレイア『まだ無理だけど』
彰利 『なんですって!?このケバイノーめ!!』
フレイア『《ゴシャアアアン……!!》もっぺん言ってみろ家系風情が』
彰利 『ア……ハイ……ナンデモアリマセン……』
彰利の言葉に、フレイアの髪の毛が紅蓮に染まる。
回路が一気に力を含んだような、そんな感じだった。
彰利 『イッ……イマネェィ!トテェモォゥ!コワァイカァンジガシタァ!』
悠介 『思わず外人口調になるくらい怖かったのか───ってそれはいいから!』
彰利 『解っとります!───悠介!ユッキー!』
悠黄奈 「その呼び方やめてくださいよ!」
彰利 『ここはアタイに任せて先に進みなさい!』
悠介 『なにぃいいーーーーーーっ!!?』
フレイア『ちょっ……なに言ってんのアンタ!これまで溜めたわたしの努力は!?』
彰利 『ストックでGO!』
フレイア『……い、いいけどさ……《コキュィンッ!》……はぁ」
悠黄奈 「でも、彰利さん一人に任せて平気なんですか……?」
彰利 『───おう、任せとけ』
悠介 『───』
彰利は真っ直ぐに俺の目を見て言った。
……それをやられちゃ、信じないわけにはいかなかった。
悠介 『《キンッ……》……ふう。……解った。けど、やばくなったら逃げろよ?」
彰利 『当たり前じゃい。原中が無くなっても、原ソウルは我が心に。
やばくなったらすぐ逃走!それが我らの原ソウル!』
悠介 「……よし。───悠黄奈、フレイア!行くぞ!」
フレイア「まあ、あなたがそれでいいならいいけど」
白を解除して、ミクが守っている扉へと走り出す。
当然ミクは迎撃のために構えるが───俺達は、少なくとも俺は走る速度を緩めない。
それどころか今までのを助走にするように、さらなる疾駆で駆け抜ける。
……信じるって決めたならな、無謀でも突っ走るのが男ってもんだ!
彰利 『へへっ……サ〜ンキュ、悠介。お前の信頼、受け取っとくよ。
ん〜じゃいっちょやりますかい!
───中井出!悠介!“世界”のストック───使わせてもらうぜ!
発動せよ我が世界!“我が運命の終着”()!!』
唱え、彰利がストックを解除する。
すると見えていた景色が一瞬にして変異し───
機械だらけだった景色が月面の上へと変わる。
悠介 (っ……!こりゃ……)
ミク 『……!?体感状態に異常発生!情報処理分析…………未知!』
なんて思い切ったことしやがる……!
まさか戦いの場を月面にするなんて───!
彰利 『……ここなら俺は、いつだって覚悟を決められる。先に言っとくぜ、葱娘。
死に物狂いで戦う男を、機械分析ごときで測りきれると思うなよ』
ミク 『重力に異常!重力に異常!分析、ガ……間ニ、合ワ───』
状態に異常を感じたミクの横を抜けるのは簡単だった。
俺はそのまま、世界を閉ざすイメージを手に広げながら、
扉があった筈の場所に手を延ばし、それを開け放った。
悠介 「悠黄奈!フレイア!こっちだ!」
悠黄奈 「は、はい!」
フレイア「うぅわ無茶するわあのトンガリ!」
開け放った扉の先へと悠黄奈とフレイアを導き、通すと同時に扉を閉ざす。
……これでもう、“ここ”と“扉の先”は乖離された。
場所自体が既に違うのだ。
開けたところで、再び機械だらけの部屋に出るだけだ。
そこには、彰利もミクも居ない。
悠介 「……勝てよ、彰利」
世界創造のイメージを出しながら、扉を開けば或いは届くかもしれない。
だが、信じると決めた。任せると覚悟した。
だったら、俺達は進むだけだ。
───急ごう。
機械で世界征服なんて馬鹿げた行動を、さっさと終わらせるために……。
【ケース741:弦月彰利/展開みっくみくバトル2】
コォオオ……と、肌を斬り裂く寒さが俺達を包む。
いつかと同じ、生きながら死を体感させる寒さだ。
そりゃそうだ、ここに辿り着いた時点で、俺はゼノと死ぬことが決定していた。
けど……どうしてだろう。
ひどく懐かしい自分と出会えた気がした。
生きていられる日常に辿り着いてから、ずっと置き去りにしていた自分に出会えたような。
それは、そんな懐かしい気分だった。
彰利 『───月の家系が闇、弦月が一子……弦月彰利。てめぇを───ぶっ壊す!!』
足りなかったのは意識だったんだろうか。
どれほど覚悟を決めても、忘れてしまったものには手が届かない。
だからこそここに来て得られたものは、
今までのどんな窮地も、俺は“月の家系”として走ってきたのだ、という答え。
死神になったからなにかが出来たわけじゃない。
死神王になったからって、誰かに勝てたわけでもない。
なにかになるまでもなろうとするまでもなく、
俺は月の家系であったからこそ強く生きれたのだと。
彰利 『うおぉおおらぁあああああっ!!!』
月然力で酸素を作りつつ、さらに重力を作り、
普段と遜色ない状態の自分を作って仕掛ける。
ミクはまだ分析なんぞをしているようで、ガゴォンッ!!
ミク 『ギッ!!』
俺の拳を顔面にまともに受け、ほぼ無重力に誘われるままに吹き飛びかけるが、
拳の先に出現させた竜の腕でその足を掴むと、身を翻して月面へとミクを叩きつける!!
ゴボォッファアッ……!!
彰利 『───』
手応えは浅い。
月面に溜まった砂か塵のようなものがクッションになり、
そもそも聴覚が異常化しているのか、音も骨を伝ってでしか感知できない。
だからこそ、これはダメージにはならなかったと確信できた。
直接攻撃はこの場ではアテにならない。
自分で作っておきながら、難儀な場所だと苦笑した。
ミク 『───状況対策確認。重力上昇───!!《ゴゴッ……メリメリメリ……!!》』
彰利 『うおっ!?』
のんびり苦笑する間もない。
対策を引き抜いたミクは、あろうことか重力上昇なんて業を使ってみせ、
重力環境の不利をないものにしやがったのだ。
……もういちいち考えてられない。
こうなったら攻撃が効くまで、いくらでも連撃するだけだ!
ミク 『───重力環境克服。これより対象を殲滅する』
彰利 『《コキッ、コキッ……》来いよ』
もう覚悟は十分に決まっていた。
決まってなければ、周りに誰かが居れば、
殲滅するなんて言われりゃ慌てふためいてたかもしれない。
けど今は俺だけだ。
ふざける必要も、場の雰囲気の彩りを気にする必要もない。
そう思いつつ、秦崇雷()の真似をしている時点で、
おふざけは既にアタイの体に染み付いてるんだなぁと実感してしまう。
こう、ね?首をコキッコキッと鳴らしたあと、
小ばかにするように含み笑いを混ぜた声で“来いよ”と言うんだ。
その際、手を延ばして指の先を軽くチョイチョイと動かすのも大事だ。
手の甲はもちろん下向き。相手を最大におちょくってやりましょう。
ミク 『オォオオオオオッ!!!!』
彰利 『つくづくミクっぽくねぇねアンタ!その顔でオォオオはどうよ!』
すっかり地に足がついてる(文字通り)ミクが突進してくる。
お世辞にも疾駆とかそういう技巧が混ざったものではなく、文字通りの突進だ。
さっきまでなら逃げ腰にもなってただろうが、
ガッチガチに固めた覚悟が、ひどく俺を冷静にさせてくれた。
そのくせ、心の中には激しいくらいの熱さが燃えている。
いい高揚感だった。
ミク 『破壊対象を目前に確認!ただちに《ビュワァッ!》───対象、消滅───?』
ミクが弧を描いて吹き飛ぶ。
そう、直接攻撃がダメならそれ以外だ。
走ってきたミク自身の影を操り、足を掴んでの真空投げ。
突然のことに俺を見失ったその背中へ、ためるで密かに溜め続けておいた羅刹を───!!
彰利 『ストック解除!はぁああ───もらったぁっ!!』
一気に放つ!!
キュオギパァッフィィインッ!!!
ミク 『ギ───!』
彰利 『……!ッチィ!!』
放った羅刹という名の闘気レーザーはしかし、
ミクが固めたツーテールで固められたテールハンドによって防がれてしまった。
が、ただ防がれただけじゃない。
羅刹はテールハンドを破壊し、ミクをショートヘヤーにし、
厄介だったテールハンドを完全に行使不能にしてくれた。
決定打には至らなかったが、今はこれで十分だ。
彰利 『詰める!』
ミク 『ツーテールを破壊した程度で図に乗るな青二才がぁああっ!!』
彰利 『うるせぇ二歳にもなってねぇベイビーが!
悔しかったらミレニアムヴァースデイ迎えてみろ!』
おもむろに踏み込み、体勢がまだ整っていないミクの顔面へと拳を振るう!
だがミクは身を捻るとともに俺の拳に手を軽く添えると、
俺の拳の“突き出す力”を利用して体勢を思い切りぐりんっと捻り、
遠心力を利用した蹴りを繰り出してきた。
ならばと、俺もその蹴りを右腕で受け止め、その反動を利用して自ら地面から足を離す。
押される勢いのままに体を回転させ、半回転した瞬間にミクの頬へと踵を落とす!
───が、そこにある筈の頭がない。
代わりに俺の胴へと走る密着感と、急激にブレる景色。
それで理解した。自分が投げられるのだと。
ミク 『堕ちろ!』
彰利 『甘い!《ビジュンッ!》』
ミク 『───!?対象が消滅!?』
飛翔転移でミクの手から逃れ、
今まさに投げようとした体勢を急に崩されたミクの眼前へと降りる。
そして今度こそ、その綺麗な造形の顔面へと気と徹しと黒を混ぜた一撃をォオオオッ!!
彰利 『真・音速拳!!』
ボリュッファゴギィンッッ!!!
彰利 『づっ───!』
ミク 『ギ、ガ……!?腹部……内部、ニ……謎のショウ、ゲキ……!!』
どこか軽く、どこか重い静寂の世界に音速が弾ける。
手加減無しの全力で打ったためか、前は平気だった手が無残に砕け、
手の皮も風船が破裂したみたいに血に染まっていた。
しかもその血の熱さが宇宙空間に冷やされ、直後に氷結。
痛みに意識が散漫したためか、月然力が弱まっていたのだ。
慌てて、血の冷たさが骨を固めてしまう前に月生力で癒し、月然力を再び解放。
状態を万全に整えると、
腹部の痛みに戸惑うミクへと容赦無用の徹し音速撃を放ってゆく。
腹を庇い、下がっている左頬に音速の右手刀を落とし、
バランスを崩したミクの右頬に音速の左ハイキック。
跳ね上がった鼻っ柱に右足で跳躍しての右足ハイアングル音速ネリチャギ!!
全てを全力で放ち、そうしたのちには左手一本を残して四肢を破壊した俺が居た。
本当に、真実遠慮抜きで真音速を放った代償だ。
なにより、敵の体が硬すぎるのだ。
どういう冗談なのかマジなのか、
恐らくは中井出が倒していったメカどものスキルがこのミクには適用されている。
それは多分、耐久力やらなにやら、全部だ。
音速で破壊できないなんてよっぽどの硬さ。
闘気が効かなかったらまず俺に勝ち目なんてなかった。
……今この時点でも、勝ち目があるかが怪しいのだから。
どれだけ覚悟が決まってようが、それが必ず勝ちに繋がるかっていったら否なんだ。
負ける覚悟も勝つためにする様々なことへの覚悟も決めてこその覚悟。
助ける覚悟も助けない覚悟も、殺す覚悟も殺さない覚悟も、
相反する覚悟を決めてこその覚悟───だよな、中井出───!
彰利 『てめぇはここでブッ壊す!恨みはねぇが壊すって決めた!
知れ!覚悟ってのは自分の我侭を意地でも貫き通すことだと!
そこに、他人の言葉なんかで簡単に曲げちまうような弱い意思なぞ必要じゃねぇ!
説得されて敵に寝返るヤツには覚悟が足りねぇのさ!
悪になりきるっていう覚悟がなぁっ!!
───おめぇは正義と名乗ったら正義を貫き通せるか?
決して曲がらぬ正義の剣を、たとえいつか己の正義が悪と呼ばれようとも。
己が正しきと信じた道を、たとえ親友に説得されようと。
大事な人に説得されようと。解らず屋と罵られようとも───!!
己を貫き信じ通す覚悟が!正義が!悪が───!お前の中には存在するか!』
ミク 『あなたがわたしにとっての悪ならば、わたしはわたしの道に立つ唯一絶対の正義。
その覚悟───たとえマスターでも曲げることは出来ない!!』
彰利 『い〜い目だ。メカにしとくにゃもったいねぇが、てめぇはここで壊れろ。
……他に誰も居ねぇから言ってやるけどな。俺の中の正義は“仲間”だ。
たった一人の親友と、たった一人の悪友だ。
俺は自分をそれほど信じちゃいない。それ以上に仲間を信じてるからだ。
それを貫き通すことで他のやつらを蔑ろにして、傷つかせることになっても。
俺はなにより───悠介と“提督”を優先にするだろうよ』
ミク 『……人間特有の信頼というものであると認識』
彰利 『ただの一方的な思い込みだ。買い被るねぃ、照れるじゃねぇの』
言いながら、拳を構える。
……見れば、ミクも同じ構えをしていた。
ミク 『対象を突破すべき存在と認定。その命、頂く』
彰利 『じゃあ、俺はお前の命をもらっていく。
……刺し違えてでも殺しにかかる覚悟があるなら、かかってこい』
───言葉はなかった。
ただ、地面を蹴り弾くその姿はさっきまでのパワー馬鹿の動きではなく。
困ったことに、こいつが学習する兵器だということをむざむざと見せ付けられた。
だが知れ!俺とていつまでも同じ場所でもがく二枚目ハーンではない!
成長?俺のは進化だ!と誰かが言っておりました!さあ誰でしょう!!
彰利 『この世界は俺にとって都合のいいものだ。
常識も、運命も、創造原理も破壊してある《ツッ───パァンッ!》』
ミク 『───!?』
軽く跳躍し、俺の顔面目掛けて放たれた蹴りを、手を添えるようにして逸らした。
勢い余って背を向ける結果になったミクからは焦りが感じられるが、恐らくこれは囮だ。
ミク 『殲滅───!《ガコンッ!》』
思った通りだ。通り過ぎた足とは反対の足の膝がガコンと勢いよく外れ、
そこからミサイルが放たれる!
彰利 『異翔転移!』
しかしそんなもんは通用しない。
飛び道具って時点で俺はさっさとそんなものを世界の外へと転移させ、消し去った。
彰利 『俺にとって都合の悪いもんなぞ必要じゃあねぇ。
それが、卑怯と言われようが、勝つためにはどんなことでも我慢する覚悟!』
ミク 『偉そうに言える言葉ではないと確認』
彰利 『愚劣で結構!奇麗事なんざ求めてても勝てない戦いってのがあるんだよ!』
死に物狂いじゃなければ勝てないと思ったヤツが、
普段から気にしている美意識など大事にするか?
そんなもの、本当に勝ちたいって、勝たなきゃいけないって思ったなら、気に出来ない。
気にしないんじゃない、出来ないんだ。
彰利 『ツッ───しぃいいいらぁああああああっ!!!』
ミク 『その技はもう通じない───!ラーニング!』
ヂババババババババシャアンッ!!!
俺とミクの間で、鋭く放たれる拳が空間を弾き続けてゆく。
驚いたのは一瞬。
だが、もはや驚くまい。
こいつはとんでもない速度で俺から戦闘情報を受け取り、覚えていっている。
つまり、こいつの前で一度でも放ったものはラーニングされ、
物真似よりも精巧に繰り出してみせるのだ。
もちろん、月操力なんかが使えるわけでもないのは確かだが、
体術が武器である俺にとってはこのラーニングは厄介以外のなにものでもなかった。
彰利 『っ……くっそがぁっ!苦労しないで技を覚えるヤツなんか嫌いだ!』
ミク 『苦労せずと考えている時点で思考回路が甘チャンだと気づくべき───!!』
拳と蹴りの乱打が続く。
どれも音速の域に達し、不完全ながらも宇宙空間───月の上での攻防は、
飛び散る汗を固まらせ、砕いてゆく。
砕けるのは俺の体ばかりだ。
砕けた先から癒し、だが音速で破壊される体には、
通常速度の回復などさして役にも立たず。
ダメージを与えるのではなく、
距離を取るために放った蹴りが仕切り直しの機会をくれた時。
俺の体は、自分が想像していたよりもよっぽどボロボロだった。
左腕なんて、気づけば氷ついていて、ヒビが入っているくらいだ。
痛覚すら麻痺する冷たさってなんだよ……
と背筋を凍らせる思いで呟いて、月生力をかけていった。
だが。そんな回復を待ってくれる敵など居るわけもない。
眉間にシワを寄せた、
敵対心を表現したような顔で飛び込んできたミクが、再び拳を振るってくる。
俺の方には───……!まだそれに対抗するほどの体力が回復しちゃいない───!
彰利 『く、ぐっ……!』
躱そうと……したのだろうか。
体がゆらりと動くのを感じた。
そうだ……そのまま傾いて、無様でいいから倒れちまえ。
そうすれば───ザッ!
彰利 『……へ?いやちょっ───』
それがなんだというのだろう。
俺の体は俺の意思なんてほっぽって、構えをとっていた。
真っ直ぐに、ミク目掛けていつでも拳を振るえるように。
彰利 (……まいった)
やばくなったら逃げる。
そんなこと言っておいて、あいつは結局逃げなかったことを思い出す。
ようするにそういうことなのかもしれない。
男として───いや。人として、キメるべきところでキメずしてなにが原中か。
人よ、格好よくあれ。
たとえそれが他人の目に滑稽に映りしものだとしても、
己が誇りに賭けて、それが格好いい行為だったと胸を張れ。
それが我らの───
彰利 『っ……うおぉおおおおおおおっ!!!!』
原中魂なり───!!
ヒュッ───ガゴォンッ!!
…………。
……それは、なんの技術もへったくれもない、ただの乱暴な拳だった。
正拳突きと呼べるほど姿勢も整ってないし、
どっかの不良が力がいっぱい入ってンだからこれが一番威力あンだよと謳っているような、
ただの大振りの、無駄がありすぎる拳。
それがミクの拳と衝突し───直後、俺の手の内部から、ゴクリ、と嫌な音がある。
その感触を、音を、知っている。
骨が折れ、血管を破り、内部で大量の血が溢れた時に鳴る音だ。
その熱さが、外気の温度と相反して、まるで火傷したみたいな熱となって手の中に溢れる。
───だが。
パガァンッ……!
彰利 「───……?」
痛みのあまりの破面を保っていられなくなった俺の前で、同時に、ミクの左拳が砕けた。
ミク 『……!?』
……そう、単純な理屈だ。
いくら高性能、太古の文明の技術だからって、耐えられるものと耐えられないものがある。
真音速というものと、この架空とはいえ宇宙空間という場所。
連撃に次ぐ連撃、そしてこの場を占める圧倒的な寒さに、ミクの腕に限界が来ていたのだ。
当のミクは、そんなものには既に順応していた筈なのに、と……
不思議な顔のまま砕けた腕を見下ろしていた。
俺はその隙を逃さず、左の音速手刀で砕けた腕に追撃をし、肘から先を完全に削ぎ落とす。
それに焦りを感じたミクが距離を取ろうと後ろに下がる───いや、下がろうとするが、
そんなものは俺が仕掛けた月醒力・影縫いが許さなかった。
彰利 「シッ───!!」
動かない足に混乱を抱いたミクに追撃をするのは簡単なことだった。
同じくヒビが入っていた右拳に蹴りをブチ込み、
右足を戻す反動を利用しての左肘落としで同じく肘から先を落とし。
“破壊されること”への怯えを露にしたミクが、小さな悲鳴を漏らした瞬間。
決着はもう、ついていた。
キュボドガァッシャァアアンッ!!!!
ミク 『ギガァアアアアアアッ!!!!』
振り切った拳がミクの腹をブチ破り、風穴を空ける。
左拳は無残に砕け、溢れる血が片っ端から固まってゆく。
真音速の速度を剛体術のインパクトを合わせた我流奥義の炸裂が原因だ。
彰利 「……OK」
着ていた黒衣を投げ捨て、世界を閉ざす。
ほうられるままにどこまでも飛んでいきそうだった黒衣は、
突然重力を思い出したように落ちて、崩れたミクの残骸へと舞い降りた。
ようやく戻ってきた温度に一息をついて月生力。
深い深い息をつきながら、改めて崩れ落ちたミクを見てみると、
ところどころが凍り付いて、とても復活が望める状態じゃあなかった。
破壊した先から回路などが凍てついたんだろう。
今ではもう、もの言わぬ残骸でしかなかった。
……怖ぇえな、宇宙空間。
なんにせよ、終わりだ。
回復したら追っかけるかね…………あ〜、久しぶりのマジモードは疲れるわ。
───ピピッ
彰利 「!!《ババッ!》」
妙な電子音が耳に届いた瞬間、誰に向けてでもなく構えていた。
そうだ……勝負が決したって思った時こそが一番危ない。
油断すんなよ、俺……!ふざける時はふざけて、戦う時は全力で戦う!そう決めたろうが!
ミク 『ガッ……ギ、ギガガ……!!!』
彰利 「…………」
電子音は、ミクから聞こえていた。
……呆れた。まだ動けるのかよ。
ミク 『殲滅、センメツ……、セン……メツ……!』
彰利 「……ふう」
胴を破壊されたミクは立ち上がれず、ガクガクと蠢くだけだ。
だがきっと、その気になればレーザーだのミサイルだのを撃ってこれる筈だ。
……ここで、完全な破壊を完了させ───
彰利 「………」
中井出「………」
中井出が居た。
なんか、エネルギーポットみたいなの担いで、コソコソと部屋を出ようとしてた。
中井出「やあ」
挨拶された。
───と、中井出に気を取られていた隙にミクが無理矢理起き上がり───ってやべぇ!!
彰利 「〜〜〜〜っ!!」
きたる痛みに一瞬怯えがまざり、咄嗟に身を縮めて眼を閉じてしまった。
───だが痛みも衝撃もやってこない。
確認できたのは、傍に居たなにかが俺の横を通り過ぎた事実だけで……
彰利 「っ───!しまったぁあああっ!!」
ミクの狙いが解った。
目なんて閉じてる場合じゃねぇ!
あいつ───エネルギーポットを奪って回復を図る気だ!!
彰利 「チッ───《ゾフィンッ!》デュンケルヘイト───!!』
体力的にしんどいが、ここで回復させるくらいなら全力使いきってでも破壊する!
突き出した右手に黒緋の極光を収縮させ、デュンケルヘイト・セロを───!
ガゴゴガゴバシャガッシャァアッ!!!
彰利 『───セ……ロ?《コトーン》』
あまりのアッケラカーンな状況に、頬に出現させた破面がタイルに落ちた。
中井出目掛けて飛びついたミクだったんだが、
まず覇気脚で足を砕かれ、飛びつくことが出来ずにバランスを崩した。
そこへ顎を掬うアッパーカットが決まり、次に再生が始まっていた腹部への肘。
前のめりになったミクの顔面に膝蹴りをブチかましたのち、
持ち上がった顔面へとハイキック。
次いでその勢いのままに自ら身を捻って回転し、
しゃがむと同時に水面蹴りで相手を浮かせ、
即座に立ち上がって、落下に合わせるようにミクの頭を烈風脚で踏みつけ、破壊した。
ワア、やっぱ基本攻撃力が天と地だよアタイの武具と中井出の武具。
踏み付けでアレ破壊しますか?普通。
つーかいくら機械だからって、ああも躊躇無く女の頭破壊するたぁ……。
中井出「じゃあ僕急ぐから。あ、伯が先に行ってるから、そっちのほうよろしくね?」
彰利 「ホエ?……あぁっ!待ってよぉぅ!!」
地獄先生ぬ〜べ〜の人体模型の真似をするも、
中井出はさっさとエネルギーポットを持って行ってしまった。
伯って……オルランドゥだよね。
なしてここに来とんの……?
なんてことを訊きたかったんだけど…………まあいいや。
彰利 「───うしっ!すぐ追いつくからな!待ってろよ、悠介!」
さあ行こう!
俺達の戦いは───始まったばかりだ!
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