───冒険の書301/それでも僕らは必死だった───
【ケース754:岡田省吾/バーンシュタイン…………ニート】
ガィンッ!ゴギンガンギャリィンッ!!
レイナート「ふふふははははは……!!どうした、傷ひとつつけられんではないか」
ルナ 「ふっ、ふぅー!うっさいうっさいうっさぁーーい!!黙ってなさいよぅー!」
ルナさんが鎌を振るう。
それは遠心力を上手く利用した、綺麗な連撃だった。
鎌の特性を理解してないとああまで捌けやしないだろう。
なのに、レイナートはそれらを両腕で弾いてゆく。
……基本防御力が高すぎるんだ。
武器でも防具でもなく、腕で弾くなんて。
いくら古代技術がすごいからって、刃物を腕で防ぐかよ……。
ルナ 「はぐっ───ユッキー!交代!」
悠黄奈「任せてください!っ───疾ッ!!」
交代を合図に、球体から解放された悠黄奈さんが走ってゆく。
この世界で、逃げること以外で疲れることなんてのはありはしないが、
頑張って攻撃を当ててるのにダメージがまるでない、という心境は心を折らせるもんだ。
それもこれもレイナートの野郎が一人ずつかかってこいだなんて言うからだ。
……俺達は現在、球体に飲まれた状態にある。
レイナートが始めた“ゲーム”とやらだ。
戦うのは一人のみで、誰かの名前と交代を口にすると、
呼ばれた者は解放されて、交代を唱えた者が球体に飲まれる。
あいつはこうやって、俺達で遊んでいた。
自分はここまで強いのだぞ、と誇示するように。
レイナート「ほう、速いな。スピードタイプか。フハハ、いいぞ。もっと私を楽しませろ」
悠黄奈 「───」
上から見下ろす態度を前に、けれど悠黄奈さんは冷静だ。
晦みたいに分析能力や創造の理力があるわけじゃないけど、
その分神魔霊竜時代の“技術”がまだ体に残っている───と、思う。
体がそれについてこれるかは別として、記憶として残っているなら……多分強い。
ヒュガガンガンガンガンッ!!
レイナート「む───速い……」
放たれる打突。
全て眉間に向けて放たれたが、そのどれもがレイナートの両腕によって弾かれる。
次いで左からの横薙ぎ。
長い槍の特徴を生かした範囲攻撃。
レイナート「当てればいい、というわけでもあるまい?」
レイナートはこれを、下から軽くチョンッとつつくことで槍の軌道を変えてみせ、
子供が鉄棒をくぐるみたいに軽く体勢を下げ、躱してみせた。
悠黄奈 「───チェック」
レイナート「なに?」
だがそれこそが悠黄奈さんの狙いだった。
一瞬にして目の色を深い蒼に変えた悠黄奈さんは、
体勢を屈めたレイナートの眉間目掛けて、強引に止めて構えなおした槍を振り下ろす!
いや、横薙ぎの槍自体が本気の攻撃ではなかったのだろう。
強引に止める、と言うにはあまりに軽く整った体勢に、思わず俺の体にも力が篭った。
ゴギィンッ!!
───しかし。
そこまでしてなお、レイナートの反応は間に合った。
即座に振るった掌が本能的に眉間を守ったのか、
それとも太古の文明で底上げされた反応速度とはそこまで速いものなのか。
レイナートの手は槍をしっかりと防ぎ、千載一遇のチャンスを無き物にした。
……これでもう油断なんてしないだろう。
レイナートの表情がスッと引き締まるのをゾボガガガガガガフィンッ!!!
レイナート「ぐがぁああっ!!?」
……感じたところで、無駄だった。
まあ、そうだよなぁ……なにせ元・晦だ。
あんなあからさまな眉間攻撃だけで終わるわけがない。
相手に見えやすいようにあえて眉間を狙った攻撃は、
見事レイナートの手を封じ、その隙に周囲に展開されていた氷の槍の群が、
レイナートの体を幾度も幾度も貫いた。
隙だらけの眉間を狙えたからチェックと言ったんじゃない。
相手を詰められるところまでいったからこそ、チェックと言ったんだ。
レイナート「ぎあああっ!!ギ、ギザマアアアァアアアッ!!!」
痛さのあまりだろう。
乱暴に振り払われた槍は、その滅茶苦茶な力のままに悠黄奈さんを押し退け、
そうしたレイナート自身は自分の体に刺さる氷の槍をズボズボと抜いてゆく。
レイナート「何故、何故こうも“肉体”にっ……!貴様!見えているのか!」
悠黄奈 「いいえべつに。ただルナさんが振るった鎌に対してのあなたの行動。
それを頭に入れていただけです。
……どこを狙えば慌てて防御したのか。どこを狙えば冷静に防御したのか」
レイナート「くっ……ぐ……!」
……そう、かぁ……!
体を機械に変えちまえば、古代文明の恩恵を一身に受けられるけど───
でもそれで全身を改造しちまったら、もう“自分”が残らない。
古代文明の力に自分が取り込まれないようにするには、
多少自分を残しておく必要があったってことか。
そしてそれは、機械ではなく生身の部分として、まだレイナートの体に中に残ってて。
悠黄奈さんは冷静にそこを穿ってみせたんだ。
確信に至らない予測的なものでしかないけど、多分、間違っちゃいない。
あいつは力を欲したけれど、力のために全部を捨て切れなかったんだ。
レイナート「私は……私は帝王なのだ!本来ならば貴様らなど触れることすら叶わぬ!
それを───それを!ぬぅうあぁああああああっ!!!」
レイナートは怒りに打ち震え、頭を掻き毟り、取り乱す。
それを隙と見て放たれた氷の槍はしかし、
邪魔なものに癇癪を起こすように振るわれたレイナートの腕によって砕かれた。
レイナート「竜族をも屠れる力を得た!デスゲイズとてこの技術の前には退く!
それを!それを!───なんなんだ貴様ら!
何故それを貴様らごときに砕かれる!貴様らごときを相手に血を流す!
竜族だぞ!竜をも怯えさせる力を持ちながら!何故!」
悠黄奈 「簡単です。───あなたにはあなた自身の技術がない。
機械に頼りっぱなしになり、機械を繰り極めるだけの技がない。
人器も器詠の理力もないあなたには、
博光さんのように武具から大切なことを教わるだけの力も無い」
レイナート「きえい……?なに……?」
悠黄奈 「ええ、当然でしょうね。あなたはそれらを道具としか見ていない。
博光さんのように“相棒”と唱えられない時点で───
武具に身を委ねられない時点で、あなたが操れる限界など知れているんです」
レイナート「───」
レイナートは悠黄奈さんの言葉を前に、呆然とした。
立ちすくむとも違うが、ただ何も言わずに棒立ちになり、悠黄奈さんを見ている。
いや、見ているようで……どこも見ていないのかもしれない。
だが……次第にその肩が揺れ、それが───笑いだと気づいた時。
俺達にも聞こえるような大きな声で、笑い出した。
レイナート「相棒!?委ねる!?なにを馬鹿な!機械や武具など道具だ!
力ある従者を顎で使うように!反発する者どもを改造して駒とするように!
技術というのはその上に胡坐をかくために存在する!
それこそが“手に入れた者”が得るべき特権だ!
魔王の剣がサウザンドドラゴンを斬り下したように!
私もまた、この技術で世界を掌握する!
この力さえあれば私に出来ぬことなどないのだ!!」
……。
呆れた。
なんだ───強いとか思って損した。
こいつ、ただの癇癪持ちのガキじゃないか。
確かに技術的には強いけど、持ち主がこいつじゃあ技術も浮かばれない。
悠黄奈 「…………はぁ。もうわたしたちの言葉など、
捻じ曲げてしか受け取らないと思いますから言いますね。
───あなたは、王じゃないただの力に溺れた独裁者です」
レイナート「ふはははは!?ほざけぇ!私が!私こそがこの世界の王だぁあ!!」
言いながら大きくバックステップしたレイナートは、パチンと指を弾いた。
その瞬間、レイナートが立つ床から妙な機械が飛び出て、
レイナートの体を覆ってゆく。
声 「いいだろう!完璧な私を見せてやる!
技術など人の下にあって初めて機能するものだ!
制御することなど容易い───!」
…………。
かける言葉は無かった。
恐らく包まれた機械の中で自分の改造でもしているんだろう。
……哀れだ。力を誇示しなきゃ自分を保ってられないのだ。
自分が一番じゃなければ気がすまない子供を見ているようだった。
でも、いいのか悠黄奈さん。
古代の技術は多分、レイナートを強くする。
今は竜族にも敵う力、という意味で、飛竜になら通用する程度の力だったんだろうが───
攻撃が効く箇所がこれ以上削られたら……
悠黄奈「《にこり》───岡田さん、交代ですっ♪」
岡田 「エ?《キュポンッ♪》───うぅうあずっりぃいいいいいいっ!!!」
球体から弾き出されながら、そう言わずにはいられなかった。
きょっ……強化させといてチェンジとかナシでしょおぉおお!!
うおお悠黄奈さんのばかー!!
【ケース755:弦月彰利/ちょっぴり焦げて今が食べごろ。……彰利です】
シュウウプスプス……
彰利 「カカカカカカカ…………!!」
中井出花火を炸裂させた中井出の気持ちが、とてもよく解る一瞬でした。
あたりの建物まで吹き飛ばして、クレーターの中心で愛を囁くアタイは、
ものの見事にぐったりマイハート。
すぐに自然回復が起こってくれるけんども、
大地を揺るがすこのパワー……まさに国宝級である。
彰利 「ああ、いかんなあ……いかんいかん」
アタイは月の家系の男ぞ。
死神ではない。
だからすぐに鎌に頼ろうとするの、ヨクナイこと。
……デスティニーブレイカーには頼る気満々だけどね。
彰利 「今まで散々解放させた鎌は、ブレイカー能力に変換したんだし───ウムス。
もう他の鎌に意識を向けるのはやめましょう」
その代わり、時操の方は月空力側でなんとかすりゃオウケイさ。
なぜならアタイは───弦月じゃけぇのぉ!!
彰利 「さ、そげなわけで───…………建物が吹き飛んでしまったがね……」
どうしよう……。
これじゃあもしかしたらあったかもしれねー宝とかも無事じゃあねーでしょう。
……キ、キニシナーイ!
これまで結構探しても無かったんだし、きっと無かったのさ!
彰利 「ほいじゃあ───…………当初の予定通り、テオダール探索でもしますかね」
行き先は塔!そこで解放するのだ!全てを!
───……。
そげなこげなで塔!タワー!タァアアウワァアアーーーーッ!!
……そこには悠介とウルーリィとレイル氏が集っており、……あれ?藍田くんは?
彰利 「藍田くんは?」
悠介 「いや……知らないが」
レイル「誰も見てないそうだぞ」
閏璃 「俺……見たぜ?」
彰利 「おやそうなん?どこで?」
閏璃 「みんなと分かれる前に、その場で」
彰利 「そういう意味で言ったんじゃねィェーーーーッ!!」
ある意味予想通りな返事でした。
うん、気を取り直そう。
彰利 「ほいで?……これがテオちゃん?」
悠介 「ああ。分析でもそう出てる」
彰利 「グ、グーム……しかし封印されているようだが〜〜〜〜っ」
悠介 「だから困ってるんだよ……。分析してみても、封印のパターンが解らない」
彰利 「クォクォ?だったらアタイに任せてみるといいぜ?
これの封印はねぇ、1192───」
悠介 「チェーンロックの方なら閏璃が自力で開けた」
彰利 「ホゲェーーーッ!!?」
なん……だと……!?
このアタイがよもや乗り遅れた……だと……!?
いやそもそも、あるかも解らない宝に目が眩んで、
一番最後に来たのがマズかったんだろうけど。
反省。
悠介 「あとの封印のことは───この書物に書いてあるんだが、
それぞれ亜人と竜族が魔法でのプロテクトをかけたらしいんだ。
けどな、そのプロテクトっていうのが漠然としてて解らん」
彰利 「魔法プロテクト?」
レイル「竜族って魔法使えるのか?」
彰利 「うむ、それはオウヨ。中井出ならよく知っとるよ。
あいつほど守護竜と戦ったヤツってば居ないから」
レイル「じゃあそれをぶつければいいとか、そういうんじゃないのか?」
彰利 「守護竜ここに連れてきて?……いや、そりゃ無茶っしょ……」
レイル「ああ、そりゃそっか」
閏璃 「じゃあ封印ごと運ぶとか」
悠介 「ここまでしっかり封印されてるんじゃ、動かすことも出来ないと思うぞ」
閏璃 「ありゃ〜……だめか」
グウウ、八方塞デェス!!
いやしかしマテ?
彰利 「悠介YO、キミが魔法を創造してぶつけてみるのはどう?」
悠介 「だからな?ぶつけるべき魔法パターンが解らないんだ。
多分属性的なものだとは思うんだが───」
彰利 「時だ!時に違いねー!さあGO!!」
悠介 「待て待てっ!それが合ってたとしても、次が解らんだろうが!」
彰利 「亜人族が時魔法で竜族が竜魔法!きっとこれに違いねー!
でもうん、確かに竜魔法なんて知らねー。
こりゃあいよいよもって───覇王翔吼拳を使わざるを得ない!」
悠介 「関係ないから黙れ」
彰利 「ご、ごめんなさいと言わざるを得ない」
でもねぇ、な〜〜んかこう……引っかかってるものがある気が。
…………気の所為かね。
彰利 「しゃーのない……諦めて中井出ンとこ行く?」
悠介 「だな。こうしてても仕方な───……」
彰利 「ウィ?」
悠介がアタイの後方を見て硬直。
なに?と振り向いてみると、
中井出「やあ」
……中井出が居た。
彰利 「なんだべ!もう死んだんだべか!」
中井出「しっ……失礼な!死んでないよ!ただ退場願われたから遊びに来ただけだよ!!」
レイル「退場?」
中井出「そ、そうなんだ聞いてくれ!岡田くんたちが大変なんだ!
レイニートの野郎、貴様は最後だとか言って僕を球体に閉じ込めたんだ!」
悠介 「……………………。で……閉じ込められた提督がどうしてここに居るんだ?」
中井出「え?あの……灼闇で食って、防御スキルとして吸収したんです。
その他にも転移すれば抜け出せたり、
フロートで球体を軽くすれば移動が可能だったり、
なんだか普通に逃げ出せそうだったから逃げてきたんです」
彰利 「…………ほいで、抜け出せたキミが何故ここに?」
中井出「いやあのー……ニートさんが僕は最後だって言うから、
それまで探検しようかな〜って……あ、あれ?
なんでみんな拳パキペキ鳴らしてるの?
あの、ここ、そんなことする場面じゃないよね?
これから力を合わせてテオダールを奪って……なんでいそいそ武器取り出すの!?
違うよ!僕敵じゃないよ!ただちょっとまだこの都市の探検してなかったから、
僕の順番が来るまで探検しようかなって思っただけで!
ぼ、僕寂しかったんだ!戦うつもりでいったのに最後だなんて言われて!
だからちょっと困らせてみたかっただけで、
べつに見捨てて逃げたわけじゃヴァーーーーーーッ!!!!」
ドゴゴシャバキボキガスゴス……ドスッ……ドゴッ…………!!
【ケース756:弦月彰利(再)/“提督”が消えた日】
プスプス……
中井出「うぐっ……ひっく……うぇえ……」
そげなわけで泣き中井出。赤子じゃないが気にするな。
泣き赤子の名前っていいよね。うん、解らないならいいんだ。
彰利 「ほれェエエエ!いつまでもメソメソしてんじゃないのォオオオ!!」
中井出「問答無用で殴っといてひどくない!?それ!!」
悠介 「い、いや、殴っといてなんだが、
提督……テオダールの封印の解き方、知らないか?」
中井出「テ、テオダールの封印……!」
閏璃 「し、知っているのか雷電……!」
中井出「う、うむ……噂ばかりのものだと思っていたが───」
と、なにやら中井出が民明的な説明をしながら、
ヘイストを一発、フレアを一発放って解説を終えた。
中井出「と、いうわけなんだ」
ガシャーーーン!!───ピピンッ♪《テオダールの封印が解けた!!》
総員 『ホゲェエエーーーーーッ!!?』
それで、なんの冗談なのか封印が解けてしもうた!!
ホワイ!?何故!?
……つーかやっぱ時魔法と竜魔法だったん!?
いやいやなんか納得いかねー!リターンマッチだ!───じゃねー!!
とか考えてるうちに中井出はテオダールを持ってズダーと当の外へ出て、
慌てて追いかけたアタイたちの前でエーテルアロワノンを召喚!!
猫たちにテオダールを渡しつつ、大事なものだから厳重に保管してと頼むと、
キュポンッ♪とエーテルアロワノンを収納した。
……か……簡単だなぁ……。
中井出「フフフ……これでこの世界が危機に見舞われることはなくなった……!
さあみんな!思い切り無茶しようぜェエエ!!」
総員 『《ざわり……》サッ───Sir!!YesSir!!』
その他の言葉は必要じゃあなかった。
言われた途端に体中の血がフットーしたかのように熱くなって、
体にざわりと寒気のようなものが走った。
レイル「なんだか知らんが勇気が沸いてきた!」
閏璃 「うむう!やってやろうぜピザ氏!」
レイル「俺=ピザって方程式はやめような?まあいいやとにかくGO!」
閏璃 「うおおーーーっ!!」
レイル氏とウルーリィが走ってゆく。
向かった先は───さらなる地下、レイナートが居る場所だろう。
俺と悠介も走りかけたけど、
どうしてか動こうとしない中井出が目に留まって、足を止めた。
悠介 「提督?どうしたんだ?」
中井出「…………ん……うん」
彰利 「ホワイ?」
コリ、と頬を掻いてからの頷きだった。
その仕草が、どうしてか嫌な予感を浮かばせる。
ふざけて、での嫌な予感じゃない。
もっと、なにか深い意味での───
中井出「お前らには……じゃないな。彰利、晦、頼みがある」
悠介 「………」
彰利 「な、なんじゃい、真面目な顔しおって」
中井出「真面目な話だからなぁ……うん。
お前らはさ、もう知ってるだろ?……新しい記憶のこと」
彰利 「───」
悠介 「提督、それは───」
中井出「彰利が提督……いや、将軍になって、原中を引っ張ってきた記憶だ。
悪い冗談なのか、俺の中にもありやがる」
じくりと胸の奥がざわつく。
嫌だ……とても嫌な気分だ。
彰利 「中井出、俺ゃ───」
中井出「彰利。……原中の連中のこと……頼んでいいか?」
彰利 「───《カアッ───!ギリィッ!》」
悠介 「っ!提督!それは!!」
彰利 「ぐっ……!……今すぐ冗談だって言ってくれ、中井出っ……!
わ、悪ぃ……じゃないと本気で……殴っちまい、そうだっ……!」
本当に、冗談じゃない。
原中は中井出が中心だったから成り立ったひとつの世界だ。
あの出会いと集いは奇跡的なものであり、
中井出が中心じゃなけりゃ、俺達はあそこまで楽しめなかった筈だ。
それなのに、植え込まれた記憶の所為でその記憶が負ける───!?冗談じゃねぇ!!
中井出「───」
彰利 「…………」
悠介 「……お、おい……」
中井出はなにも言わない。
ただ、ひどく真剣な目で俺の目の奥を覗いていた。
正面に立ち、背けることなく、真っ直ぐに。
やがて──────その視線の意味が解ったとき。
俺の拳は、震えを止めていた。
彰利 「……どうしてだ。どうしてそう簡単に、なにもかも託すんだよ……」
中井出「近い将来、みんな俺のこと忘れちまう。
今でこそ覚えてくれてるやつらも、……いずれ、お前らも。
だからさ、しこりなんて残したくないんだよ。
お前が将軍として原中の中心になった時、
“俺、こんなポジションに居たっけ?”なんてことを考えないようにさ。
辻褄合わせって言葉があるだろ?
……お前が受け入れてくれれば、全部軸に繋がる。
俺なんて存在は原中に居なくて、俺は提督じゃなくて、
そもそも原中に存在すらしてなかった誰かになるんだ」
彰利 「俺が承諾するって、本気で思ってるか?」
中井出「……お前はやさしいからな。断らないよ。───多分だけど。
頼む、彰利。……バトン、受け取ってくれ。
お前がしっかりと将軍じゃないと、あいつらはお前を信じてくれない」
あいつら───原中の猛者どものことか?
なんでだよ……あんなに散々と馬鹿にされて罵倒されて、それでもまだ、どうして───
中井出「俺が原中に居た証は俺の中にある。
お前らの中から消えても、俺は全部覚えてるから。だから───」
彰利 「嫌だね」
……即答が出た。
きっぱりと、目を逸らさずに。
そうだ、そんな頼みは受け取れない。
彰利 「お前が提督だったっていう思い出は、お前だけのもんじゃねぇんだよ。
俺は忘れたくねぇ。悠介以外でここまで一緒に、
包み隠さず馬鹿やれたのなんてお前くらいなんだ。
どうしてそれを自分で手放すことが出来るんだ。
……俺は嫌だ。絶対に、嫌だからな」
中井出「…………。晦は?」
悠介 「俺もだ。曲がりなりにも家系に産まれた俺だ。
人間の汚い部分とか醜い部分、いっぱい知ってる。
けどそんな汚い部分を持ってでも、ここまで素直に付き合えたヤツは提督だけだ。
俺は一人の人間としてのあんたを尊敬してる。
あれだけの人数の未来を、あんたって存在だけでこうも変えた提督を。
忘れたいなんて……思えるわけないじゃないか」
中井出「………」
俺と悠介の言葉に、中井出は弱ったような顔をして、溜め息を吐いた。
けどこれは譲れるもんじゃない。
大体おかしいだろ……あいつらの記憶が正常に働くために、
中井出が一層に孤独にならなきゃいけないなんて。
そんな小さな苛立ちを込めて中井出を見ていると、
中井出は辺りを小さく見渡したあと、もう一度溜め息を吐いて……言った。
中井出「………俺さ。みんなが好きだ」
悠介 「……提督?」
彰利 「みんな、って……」
中井出「原沢南中学校迷惑部のみんなが大好きだ。
どこまでも馬鹿やって、どこまでもふざけあって、どこまでも笑い合う。
そんな原メイツを、心から愛してる。……それはさ、今だって変わらない。
裏切られた気持ちを味わったくせに、
それでもあいつらには笑っててほしい、楽しんでほしいって思うんだよ」
彰利 「だから提督をやめる……ってのかよ」
中井出「ああ。そうだ」
彰利 「っ!」
気がつけば腕を振るっていた。
踏み込んで、中井出の顔面目掛けて。
中井出はそれに気づいているくせに、俺の目をじっと見つめたまま動かない。
……結果として、拳は止まった。
いや、悠介が腕を掴んで止めてくれた。
中井出「彰利よ。世界は既に塗り替えられた。
この世界でおかしいのはあいつらじゃない、俺達なんだ。
けれどそのおかしな中の記憶には俺だけが居ない。
だったらどうするか?……異端は異端らしく、除外されればいい。
そして異端らしく正規なる者を討ち下して支配するのだウェハハハハ!!!」
彰利 「………」
悠介 「いや……て、提督?」
中井出「べつにほら、生きること否定するわけでもないし、
お前らの記憶から今すぐ消えるわけでもないし。
現状とそう変わらないなら、俺は少しでも面白い方を選ぶのさ。
だから、頼む。あいつらにもう一度、“楽しい”を思い出させてやってくれ」
彰利 「中井出……」
お前がそんな風に頼むなんて。
お前がそんな風に願うなんて───
そうだよな、悔しくない筈がない。
今まで自分が提督として中心に立ってたのに。
ただ小さく仲間はずれになるどころか、殺人鬼扱いだ。
そこまで親しかったわけでもないヤツらにまで嫌悪されて、
純粋に楽しむだけだった筈のこの世界でも、いろんなものを背負って生きている。
その荷物を少しでも受け取ることはできないだろうか───
そう思ったら、今までの苛立ちも悲しみも、全部消えていた。
彰利 「───解った。受け取ろう、そのバトン。
これより俺が、原沢南中学校迷惑部部長にして将軍、弦月彰利を名乗る」
中井出「……ああ。頼んだ。忘れちまったことに罪はないんだからさ。
あいつらのこと、思いっきり楽しませてやってくれ」
───その言葉が最後だった。
次の瞬間には俺の中でなにかが切り替わり、一瞬、目の前の男の名前を忘れてしまう。
だけどすぐに思い出すと……もう、彼に対する認識は、
中井出博光以外のなにものでもなくなっていた。
悠介 「───…………え、……っと……中井出、だよな。中井出博光」
中井出「うん僕博光」
彰利 「……?どう出会ったんだっけか」
中井出「自分の胸の中に訊いてみろ!!」
彰利 「なんですって!?───よし解らん!!」
中井出「うむうむ……それで、よかったんじゃ……。
俺のことを詳しく覚えているようじゃ、お前は将軍になりきれん。
……これで、俺が原中に居たって歴史が俺以外の中から消えた、か───」
……?
中井出がなにやらブツクサ呟いとる。
中井出、中井出……中井出だよな、中井出……。
まずいぞ、目の前の男のことがどんどんと曖昧になってくる。
そうなっちゃいけない筈なのに、どうしてそうなっちゃいけないのかも解らない。
彰利 「〜〜〜っ……悠介!」
悠介 「ああ───多分同じ気持ちだ!さっさとやれ!」
彰利 「オウヨ!月影力!悠介と影を繋いで俺と悠介の能力をリンク!」
悠介 「創世八幡宮!世界創造を以って彰利のバックアップに回る!」
彰利 「ん〜でもってぇえっ!!デスティニーブレイカー!
───こいつのことが思い出せない、なんてことは───嘘だ!!」
中井出「ゲ、ゲェエーーーーッ!!こらやめれーーーーっ!!」
目の前の男───もう名前も思い出せなくなった男が叫んだ。
だが思い出せないのが悔しくて、
悠介が後から後から変換していく鳩が“俺の力”となって、鎌の力を増幅させてゆく。
中井出「待たんね!僕にも僕の考えがあって───!
言ったでしょ!?べつに今僕のこと忘れるわけじゃないって!!
いやちょ───やめっ……!やめろっつーのに!!」
彰利 「《ドボォッ!!》ゲブゥ!!」
男の拳が俺の腹に突き刺さる。
その瞬間、俺の中に蓄積されていた力が霧散して───
【Side───中井出博光】
思い出そうとする力を止めるために、彰利にボディブローを一閃。
不意を突かれたためか、予想外の俺の行動に驚いたのか、
彰利が今まさに放とうとしていたブレイカーは霧散した。
腹を庇いながら少し俺から距離を取った彰利は俺を睨んで言う。
彰利 「なっ……なにしやがるっ……!」
その目は、突然殴ってきた俺を思い出そうとする意思が篭っており───
こと、人の反応ってやつには敏感なのか鈍感なのか微妙な僕でもすぐに解るほどのそれを、
俺は止めにかかった。
中井出「思い出さなくていい!今思い出されるといろいろ困る!
今は記憶の奥底で時を待つのだ!」
彰利 「───……時を、待つ……?」
中井出「ルドラをどうにかするまで待っていられたら記憶はそのまま残る!
ここで無理に思い出そうとすれば、それだけ記憶消去の力が働くだけだ!
貴様らも猛者ども同様、早々に忘れてしまう!だから今は思い出すな!
いや───原沢南中学校提督が命じる!!
我のことを記憶の奥底に留め、我のことを忘れよ!!」
彰利 「───!」
悠介 「……!」
そう唱え、今まで使おうとしなかった“時の力”を使う。
ルドラたち十三の精霊の武具を合成させたことによる力と、
その武具に込められていたルドラの力の残り。
それらを合わせた力を解放し、彰利たちに命じた。
すると───
彰利&悠介『っ───Sir!!YesSir!!』
最後に大きくそう唱えると、俺にささやかな笑顔を見せて───
それが一瞬の幻であったかのように、さっきまでの驚愕の顔を見せ、やがて……忘れた。
その時───きっとこんな力を使わなくても、
奥底に響かせれば高らかに返事を返したんだろうって思って、小さく後悔した。
彰利 「ん……あ……?俺……?」
悠介 「…………、誰だ?お前───」
目の前の二人が俺を見て不安めいた表情を一瞬だけ見せる。
もちろん、俺の返事は───
中井出「この世界を牛耳らんとするステキで有敵な大魔王様……こんにちは、博光です」
だ。
世界を牛耳るとかそんなことには反応せず、
大魔王、という言葉に大きく反応した二人は、
コオロギもかくやという速度でバイーンとバックステップをした。
いや……なにもそんな速さで逃げなくても……
【Side───End】
目の前に見知らぬ男が居た。
中井出博光と名乗る大魔王……らしい男は、
なんていうか冗談みたいに普通の村人っぽい姿で───
逆に咄嗟にバックステップして、
距離をとったアタイらがアホみたいな構図が出来上がった気がした。
悠介 「だ……大、魔王……?」
中井出「そう!この世界は僕の手で、
恐怖と絶望と時々のハートフルコメディーにて支配されるのだ!
支配されることの恐怖!許されない自由!
でもそんな中でフと触れる指と指……!
寂れた街角で出会った二人はお互いの苦労をささやかに話し合い、
意気投合して、やがて交換日記からお互いの愛を深めてゆく……!Ah……!!」
彰利 「……悠介どうしよう、こいつ変人だ」
悠介 「ああ……それはもう間違いようがないくらいの変人だ……」
彰利 「……ん、解った解った……魔王になりたい可哀想な人なんじゃね……?
飴あげるから隅っこでジャガー目潰しでもしときんさい……?」
中井出「……いやあの……なにその可哀想なものを見るやさしい目……」
自称大魔王がとても悲しい顔をしてらっしゃった。
だってねぇ……どう見てもムラビトンZの方がしっくりくるし。
気になることがあるとすれば、腕にあるイレズミみてーなものだけど───
きっとハクをつけたくて掘ったタトゥーに違いねー!
そう考えるとますます哀れになってきまして。
中井出「なにはともあれ初めまして。僕大魔王博光!」
彰利 「……こげなところに居ると危ないよ?家にお帰り?」
中井出「あれぇ!?なんだかすっかり可哀想な人に認定!?」
悠介 「ていうかこんなところ、どこぞの村人が来るような場所じゃないぞ?
それとも実験体になりそうだったところを逃げ出してきたのか?」
中井出「わあ、てんで信じちゃくれねー。でも村人として見てくれるのは大変ありがとう。
というわけで僕もう行くね?これがきっかけで、
僕という存在がどれほどみんなの中から消えたのかが解ったから」
彰利 「OH?」
悠介 「消える?それってどういうこ───と、って待て!危ないんだって!
急に逃げるな速ぇええーーーーーっ!!!!」
自称魔王が信じられん速度で走り去った!
その速度たるや、トップスピードのF1カーをも凌駕する!
……F1見たことねーけど!
中井出とかいうやつが走ってった方向を追って見てみるも、既に姿形もありゃしない。
彰利 「オー……とりあえず……」
悠介 「……追う、か?」
彰利 「しかねぇっしょが……」
きっと足の速度だけが自慢の一般市民に違いねー。
それとも既に改造済みか途中かで、速度だけ強化されたとか。
なんにせよなんとかして止めんと───ゾクリ。
彰利 「あ、あらやだ……なんだかとってもヤな予感」
悠介 「彰利?……あ、あー……」
悠介も気配を感じ取ったんだろう。
こちらへ真っ直ぐと飛んでくる、とってもとっても面倒な誰かさんの気配を。
うんざりな気もしながら、その声からは邪悪な気配がなくなっていることに、
多少の安堵を感じたアタイもどうかしてるんかね。
……ちなみに。
近づいてくる気配とともに届いた声は、我と戦えぇえええええ!!!……だった。
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