───冒険の書328/魔王決戦───
【ケース815:双月朧弦/世界最強魔王伝】
風が吹き荒ぶ。
対面する相手は魔王。
脱力した状態で俺を睨みつけている。
手にはなにも持たず、徒手空拳のまま。
一方のこちらはラグを構えているというのに、その余裕が癪に障る。
だが───果たして……?
朧弦 『疾ッ!』
考えるより攻撃。
地面を蹴り、間合いを詰めてラグを振るう。
袈裟から入り、横薙ぎ、突き、斬り上げ、斬り下ろし。
だがそのどれもが躱されドボォッ!!
朧弦 『ぶぅっはぁっ!?』
腹部に衝撃。
見下ろせば、いつの間にか俺の腹に突き刺さっている魔王の掌底。
魔王 「バッスー……ピンコオ拳!」
朧弦 『っ……野郎……!』
どこまでもふざけたヤツなのにこの強さ……異常としか言い様がない。
真面目に戦いやがれと吼えるが、
そのふざけた戦いに救われているのは俺の方なんじゃないのか……?
ふと、そんなことを思う。
魔王 「カマンッ!!」
魔王の安い挑発は続く。
魔王はステップを繰り返し、俺の攻撃を後方へ下がることで避けているが───
だったら一気に間合いを詰めて!
朧弦 『“捻り穿つ”!!』
僅かな間合いで突撃をし、突き出す剣に螺旋のイメージを付加。
ラグを中心に回転する雷が、魔王の胸部目掛けて突き出される。
魔王 「それでは勝てぬ」
しかし魔王は突き出される武器の速度よりも速くバックステップをして、
攻撃範囲内からたった一歩で離れてみせた。
朧弦 『……ナメるな!』
ならばと発動させるは光!
身を光にし、その速度を以って一気に突撃をかける!
魔王 「はははははは!!」
光 『んなっ───!?』
だがそれすらも、異常でしかないヤツの速度に追いつくことが出来ない……!
魔王は残像さえ残る速度でバックステップを繰り返し、まるで戦う意思を《ザファッ!》
光 『……!え───!?』
一定以上の距離を詰めた時、だろうか。
急に景色が変わり、俺と魔王はジャングルめいた景色の下に立っていて───
魔王 「危ねぇ危ねぇ……目的忘れるところだった……。
あ、じゃあもう来ていいよ?逃げるのやめるから全力でぶつかるし」
光 『……だから───!ナメるなって言ってるだろうが!』
魔王 「仕方ねぇだろうが挑発中なんだから!
ナメられるのが嫌なら挑発される前に強くなれよコノヤロー!!」
なんの話をしてるんだか!
理解の的を射ない魔王の言葉に苛立ちを隠せない俺は、光の状態のままに一気に接近!
言葉通り逃げることをやめた魔王の頭へと、実体に戻って斬撃を下ろす!
魔王 「真剣!白刃取り!《ゾブシャア!!》ギャアーーーーーーーッ!!!」
対する魔王は真剣白刃取りをしようとして失敗し、
頭から股下までを一気に両断され《ボンッ!》───消えた。
朧弦 『なっ……幻影!?』
声 「ブゥハハハハハ!!これぞ秘奥義幻影無光拳!!そしてもらったぞ!後ろを!」
朧弦 『っ!せいぃっ!』
振り向きザマに一閃!
───するが、声がした場所に魔王はおらず、風を斬るだけに終わる。
声 「あーあー敵の言葉をまともに受け取っちゃって……。
後ろだって言われたら後ろを攻撃なんて、いけませんよ。メッ」
朧弦 『……!?何処だ!!』
声 「空だーーーーっ!!」
朧弦 『っ!───いや!』
まともに受け取るな!上、じゃなければ下!
なにも考えずに自分に足下へと剣を突き立てる!
……が、なにも居ない。
声 「クラックシューーッ!!」
朧弦 『《がごんっ!》いでぇっ!?』
呆然とする中、魔王は空から回転踵落としで襲い掛かってくる。
こ、こいつは……!
魔王 「まともに受け取るなって言ったのに……。
注意自体が撹乱のためだと気づけないとは」
朧弦 『テメェッ……!真面目にやる気、あるのか……!』
魔王 「うむ!真面目にやってるからこそのこの戦いである!
うむうむ……どう?カチンと来た?俺を何度でもコロがしたくなるほどに」
朧弦 『しぃっ!』
返事なんてしない。
真剣に戦おうとする自分を侮辱されていると確信した俺は魔王だけを見て突撃をし、
再び剣舞を放ってゆく───!
魔王 「キミ、最初から本気できたまえ。それでは私には勝てぬ」
朧弦 『あーそうかよ!───トランス!』
融合した状態で、さらなる深さまでトランスを解放。
解放しきれない自分の内側を無理矢理解放して、全ての能力を向上させる!
これで───!
魔王 「マイト!」
朧弦 『《ガバァンッ!!》ぶげぇあっ!?』
身体能力が向上してすぐの第一歩目に合わせ、振るわれた拳が俺の顔面を捉えた。
爆発する拳を軸に体が回転し、それが一回転を終えるより速く再び顔面に衝撃。
地面に殴り落とされドボヂガァンッ!!!
朧弦 『げぁっはぁっ!!』
直後に脇腹に雷を纏った蹴り。
勢いよく蹴られた軽いボールのように、
広い景色の先目掛けて吹き飛ぶ俺を転移してきた魔王が───
魔王 「羅生門!!」
朧弦 『ぐ《ドバァンッ!!》っ───』
腹部に、体が内側から爆発したかのような衝撃。
刹那の間を置いて、横に飛んでいた筈の俺は泉目掛けて真っ直ぐに落下し、
魔王の掌底を中心に発生していたショックウェーブを眺めながら泉の底まで一気に沈み、
泉の底に激突した。
朧弦 『ぶっ……ぶげぁっ……!!《ごぼぉっ……!!》』
吐き出した酸素に血が混ざり、目の前の透明色を染めてゆく。
……強ぇえ……!
これだけ強いのに、まだ本気じゃねぇぞあいつ……!
朧弦 (傷を癒す水が出ます……弾けろ……!)
口元を手で覆い、直接口の中に回復の水を創造して飲み込む。
そうしてから、水底のクレーターに埋もれた自分の体を起き上がらせ、
勢いのままに水から飛び出る。
朧弦 『はぁっ……!魔王ォオオオッ!!!』
魔王 「そう……もっと自分が強ければ、強くなりたい、いやなるんだと願え!
そうでなくては貴様らが強くなることはない!さあ来い勇者よ!
貴様の潜在能力全てを以って……わたしを倒してみるがいい!!」
魔王はキン肉マンスーパーフェニックスのような言葉を言って、
やはり剣も出さずに構えることもない。
その様にカチンと来る。
朧弦 『本気で……本気で戦え……!人を見下すのも大概にしろよ……!』
魔王 「え……見下してた?俺。俺ただ魔王らしく段階を踏まえようと、
珍しく常識に則ってただけなんだけど……」
朧弦 『武器も出さない構えもしない!
そんなんで、本気でぶつかるヤツが納得すると思ってるのか!
てめぇはその時点で人を見下してるんだよ!』
魔王 「…………見下してなんかないんだけどなぁ……。
んん……じゃあ解った、一切遠慮しないよ?
俺ただ貴様らの成長を願ってやってただけなんだよ?
それを無視して俺の好きにしろって言ったのは貴様らだからね?」
朧弦 『なんのことだか知らないけどな……!
こっちが必死なのに手ェ抜かれるとムカツくんだよ!』
魔王 「……はぁ〜あ……あのね貴様ら。そんなレベルのうちからそんな、
漂白剤チックなこと言ってると後悔するよ?
だから俺が戦いの本質ってのを貴様らに叩き込む。まずは───女化!」
朧弦 『───!うぃいっ!?』
魔王の姿が男のソレから女へと変化する!
い、いやちょっと待て!女ってのはマズい!
弦月彰利の意識が拒絶反応を……!
魔王 「さらに、戦いってのは命のやりとりだと知れ!刻み込め!
敵が本気を出してないなら出してないうちに何故コロがそうとしない!
全力でぶつかり合う美学!?フハン!
そんなものは戦闘狂だけが唱えればいいだけのことだ!
仲間を助けに来たヤツが本気じゃない相手に卍解しろとかほざくくらいアホだ!
お前なに!?助けに来たんじゃないの!?戦いに来ただけ!?
だったらずっとずっと、いっそ永遠に剣八っつぁんと戦ってろってんだ!
俺はそんな美学を打ち崩すために、貴様らの敵となろう!───じゃあ死ね」
ザゴォンッ!!
───……。
……。
悠介 「……はっ!?」
彰利 「お……あ……!?」
言葉を聞いたまでは覚えている。
だが気づけば俺達は、大きく天井まで伸びた巨木の傍に立っていた。
彰利 「……あの一瞬の感覚…………時止められてコロがされたか……」
悠介 「…………」
本気を出された結果がこれだ。
あいつはいつでも俺達を殺せた。
なのにそうしなかったのはどうしてだ、と考えたが───
そんなものは解らないしどうでもいい。
彰利 「いくぜ悠介……このままじゃ終われねぇ!
言われた通りにするのは癪だがヤツの言う通り全開全力で行っきゃねーべよ!」
悠介 「ああ!」
そして、再び融合。
自然の地下空洞の……おそらく中心であろう大木から離れ、大体の目星をつけて転移する。
───ビジュンッ!
魔王 「はいおかえり」
朧弦 『うおっ!?《ガゴドバァンッ!!》ぐぼあぁっ!!』
しかし転移したすぐ目の前に魔王が居て、殴られた刹那に再び泉に沈む。
しかも今度は浮き上がる暇もなく追加で放たれたレーザーに射抜かれ死亡。
そして───再び大木の下へ飛ばされた時、どうしてかレベルが上がる。
ワケが解らなかったが、もはや強くなることにいちいち理由を考えている時じゃない。
今一度融合して転移し、不意打ちをガードするとようやくバトルの再開だ。
だがこの土壇場に来ても弦月彰利の意識は女を殴ることを拒み、
晦悠介の、敵であるなら戦うべきだという意識とぶつかり、動きが鈍る。
悠介 (っ……彰利!いい加減にしろお前!戦いの場にあって、男も女もあるかよ!)
彰利 (んなこと言われてもしょうがねぇでしょ!?体が勝手に止まるんだから!)
そんなことを言っている間に腕を破壊され、腹を貫かれ、最後に頭を吹き飛ばされて死亡。
相手が使う武具は篭手と具足だけだっていうのに……!
【ケース816:晦悠介/戦う者と戦えない者】
ザリッ……
悠介 「……きっぱり言うぞ彰利。お前、戦いに向いてない」
彰利 「グムムギギ〜〜〜〜ッ!!」
悠介 「ヘンな声出すなよ……いいか?ここからはもう俺だけで行く。
力があっても相手を選ぶんじゃ、戦いになんてならないだろ……。
そもそもお前、もしルドラたちと戦うことになって、
お前の相手がウンディーネやドリアードだったらどうする気だよ」
彰利 「たっ…………戦うさ、そりゃ」
悠介 「………」
だめだな、と思った。
こいつは女に手をあげられない。
なにかきっかけ的なものがあればと思ったが、そんなものはない。
かける言葉がなかった俺は、もうそれ以上言葉を残すこともなく疾駆。
魔王が居る場所へと走り出した。
……いや。
魔王 「やあ」
向こうから歩いてきやがった……!
えらく綺麗な顔立ちだが、もはや殴ることにも斬ることにも抵抗はない。
相手が女だろうが老人だろうが子供だろうが、戦うと決めたら戦うべきだ。
それが命の遣り取りってものなんだから。
悠介 「悪いな……ここからは俺ひとりだ」
魔王 「あ、やっぱり?……おいそこのお前ー、そーだよお前だよトンガリ頭ー。
お前恥ずかしくねーのかー、コノヤロー。
力あるくせに親友一人に任せっきりになって、
で、男が相手になると嬉々として襲い掛かるのかーコノヤロー。
……きっぱり言ってやろう!かっこ悪ぃんだよタコが!」
彰利 「《イラッ……!》なんだと魔王コノヤロウ……!」
魔王 「ほんと男として妙なプライド持ってるヤツはこれだからよぅ!
俺お前みたいなヤツ見てるとホント腹立ってくるわ!
なに!?そんな低根性のくせに人に本気出せとか言ってたのか!?
お前相手が最初から女だったら同じこと言えたのか!?
俺はワンピースのサンジくんが好きだがな!
あの“女だけは殴らん”って根性は胸糞悪くなるほどクソ根性だと思っている!
それで自分ボコボコで!カッコイイと思ってるのかコノヤロー!
漂白剤の一角さんだってそうだ!秘密にしときたいからって、
卍解使わずにボコボコってパターンをこれから何回続ける気さ!
てめぇらになぁ!戦いがどうだこうだ言う資格なんざハナからないんじゃあ!!
もーいいてめぇ!今からてめぇの根性叩き直してやる!
何回死んだらその腐った根性直るのかこの目で確かめてやるよ!」
彰利 「っ……ち、近づくんじゃあねぇ!俺は女は《ゾゴンッ!》───」
悠介 「あきっ───チィッ!」
一瞬の移動と一撃で首が飛んだ。
すぐに塵になった彰利は再び大木の下で蘇るが、魔王と目が合った途端に惨殺。
魔王はわざと彰利の反応を見てから殺しにかかっていた。
悠介 「〜〜〜〜っ……魔王!」
魔王 「邪魔したけりゃしろ。ただしここで直しとかないと、
一生こいつは土壇場で役立たずだぞ」
悠介 「……それでもな……!親友を殺され続けて黙ってられるほどっ!
俺は行儀がよくないんだよ!!」
斬りかかる!
疾駆し、その背中目掛けて!
振りかぶり、振り下ろした剣が背中に当たる───直前。
魔王の両腕から漏れる黒の炎から巨大な馬が出現し、
体当たりとともに俺を燃やし尽くした。
直後にすぐに目の前の大木の下で目を覚まし、
目の前で親友が無抵抗のままに殺される様に苛立ちを覚える。
そして───怒りのままに振るう拳は、魔王ではなく復活した直後の彰利の頬を捉えた。
彰利 「ぐづっ……!な、なに───」
悠介 「いい加減にしろ!!」
彰利 「っ……」
張り上げる声とともに、たたらを踏む彰利の胸倉を掴んで睨みつける。
回数の問題じゃない……プライドのために命を捨てたこいつが許せなかった。
悠介 「お前の命ってのはそんなに安っぽいものなのか!?
プライド守るために何度も捨てていいものなのかよ!!
ここがゲーム世界じゃなかったらお前死んでるんだぞ!?
死んでまで守らなきゃいけないプライドなのか!?
そんなに女殴るのが怖いか!」
彰利 「け……けどよ……手が……手が震えて……」
悠介 「過去の亡霊に負けてるんじゃねぇ!!
お前のはただ、親父の亡霊に勝てずにうじうじ言ってるだけだろうが!
拳を硬く握れ!ちゃんと前を向きやがれ!格好がどうとかの問題じゃない!
今のお前は戦場に立つだけで、戦えもしない邪魔者だ!」
彰利 「っ……」
彰利が唇を噛み締める。
それでも決意を新たに声を張り上げることもしない親友に、いい加減堪忍袋が───!
魔王 「おやめなさい!!」
悠介 「!……魔王……!」
魔王 「ふぁ〜〜〜ったくカスどもが……。
そんなやりかたで直っているならこの博光が既にやっておるわ。
そいつの根性はな、こうして直してやればいいのだ」
魔王が俺を押し退け、彰利の胸倉を掴み上げる。
そしてギンッと彰利の目の奥を覗き込むようにすると、たった一言を口にした。
魔王 「親父の影に怯えてんのか?弱虫野郎」
彰利 「《ブ……チンッ───!!》……!ンだとてめぇっ!!!」
魔王 「《ブンッ!》ひょいとな」
悠介 「───!へ……!?」
殴りかかった。
あっさり躱されたが、今確かに彰利から女に向けて拳を───
魔王 「ゴハハハハハ!!やれば出来るではないかクズが!!
まあ荒療治だが気にするな!思えば原中時代に説得した時もこれだったしな!
あの時半殺しにされた痛み、アンナの痛み!覚えちゃいるが水に流したことよ!」
彰利 「俺はっ……俺はあんなクズ野郎に怯えてなんかいねぇ!訂正しやがれ!」
魔王 「うんごめん」
彰利 「なっ───は……え!?ご、ごめ……?《ブンドシャア!》ヘゴバ!?」
素直に謝られたことがよっぽど驚きだったのか、
怒りの熱も何処へやら、戸惑った彰利はあっさりと魔王に投げ捨てられた。
そうしてから魔王は男の姿へと戻ると、今度こそ剣を出し、俺達を睨みつける。
魔王 「プライドなんてクソ食らえだ。俺達が今この世界でしてることはなんだ?
プライドの守り合いか?だったら余所でやってください。
命がありゃあプライドなんていくらでも作れる。
ポリシーなんてものは命には代えられない。理解しろ、勇気のねぇ勇者ども。
戦いってのは勝たなきゃ意味がねぇ。
どんなに姑息でも、生き残らなきゃ意味がねぇ。
卑怯卑劣上等じゃないか。それが作戦だったならお前らは納得できるだろ」
彰利 「てめぇ……」
魔王 「滅茶苦茶強いボスを倒すために近くの川をせき止めなきゃいけなかった。
けど川をせき止めると下流の村人が苦しむことになる。
そんな時、やらなきゃいけないことはボスを倒すことだ。
目的はボスを倒すことであり、村人を救うことじゃないんだからな。
───刻め、勇者たちよ。なんとなく助けたいから人々を救うなんてのは偽善だ。
偽善で結構って言うなら止めたりはしないが、
そのために周りを巻き込むことに意味はない」
悠介 「……なにが言いたい」
魔王 「勇者じゃない。一人の戦士としてかかってこい。
相手が魔王だから戦うんじゃない、
相手に打ち勝ちたいから立ち向かう修羅であれ。
ヘタな正義感なんて捨てちまえ。そんなもの、ただのゴミでしかない」
悠介 「そんなもの、人の勝手だろう。人には人の正義がある。
お前がどうして悪の道に拘るのかは知らないが、
そればっかりは押し付けられる覚えも納得する覚えもない」
魔王 「本当にそうか?だったらいいんだけどな」
ニコリと笑う魔王。
言葉の意味を探ろうとするが、それよりも速く魔王は特攻が仕掛けてきた───!
ギャヒィンッ!!
悠介 「く、お……!!」
振るわれる一閃にラグを合わせるが、押し負けて軽く飛ぶ。
さらに着地の動作を狙われ、
剣を突き出し突っ込んできた魔王に不利な体勢ながらもラグを振るうが、
それもあっさり弾かれて顔面を殴りつけられ、泉まで吹き飛び───!
悠介 「くっは───せいぃっ!!《バシャアッ!》」
勢いがついているうちに水を蹴り弾き、空中で体勢を立て直しながら後方の陸に着地。
体勢を立て直しているうちに数発のレールガンを放つが、それも付け焼刃。
あろうことか拳で殴り落とされ、
魔王は無傷のままに彰利に歩み寄ると、ニヤリと笑っていた。
悠介 「彰利!目ェ覚ましやがれ!今お前が居る状況を把握しろ!!
相手がいつだって女になれるからってなんだ!
女を殴ったら親父みたいになるんじゃない!
女を殴って心まで腐らせたら親父みたいになるんだろ!?
お前はそんな男か!?そんな心さえ保ってられないくらいの下衆野郎なのか!!」
彰利 「…………あー、ちょっと黙ってなさいキミ。今覚悟決めてんだから」
悠介 「だまっ───お、お前なぁ!!」
彰利 「───魔王。俺は格好悪いか?」
魔王 「悪いね。最悪だ。冗談でも笑えないくらい最悪だ。
だから、そんなお前に処方箋をくれてやろう。
……お前の親父は日常で女を殴った。
だが、今のお前が居るここは、日常か?それとも戦場か?」
彰利 「───……あ……」
魔王 「間違うでない、戦士よ。
貴様が立っているここは戦場であり、だが確かに日常でもある。
胸を張り、芯に刻みなさい。俺達は同じ条件の下で世界に立っている。
男であろうが女であろうが、戦場でも日常でも同条件であるべきだ。
男は女を守るべき、というのであれば、女が戦場に立つのは邪魔になるだけだ。
それで女を守って死んだとして、女は喜ぶか?絶望するだけだろう。
理解しろ、COOLに。生と死が平等だと謳うなら、
それを決する戦場に男も女もない。
命の遣り取りの前に男も女も、人もモンスターも関係ないのだ。
貴様が屠ったモンスターの中にどれだけの雌モンスターが居たと思う。
貴様はそれを後悔するか?それともどうせモンスターだしと無視するか?」
彰利 「…………」
魔王 「モンスターの言葉が理解出来る俺からしてみれば、
意思を持つ者を殺すというのは人間を殺すのとそう変わらない。
有象無象のモンスターをどう殺そうがと考えようが、
やつらは俺達と同じでひとつひとつに意思がある。
それとも貴様は人間の女性型のモンスターは殺さず、
型崩れした雌モンスターは軽々殺す、ただの偽善者か?」
彰利 「───!そ、れは……」
魔王 「そんなものはただの薄っぺらな覚悟だ。
そんな覚悟じゃあ、誰かの所為にしながらじゃなければ立ち上がれない。
強く刻め、強く戒めろ、自分自身の意思で立ち上がれ───!
お前は男か!お前は女か!それとも戦人か!!」
彰利 「…………、そうか…………そうか!俺は───!」
彰利の目に強い意志が篭る───!
……ようやく決意が固まりやがった……!
よし、これでゾブシャア!!
彰利 「ギャアーーーーーーッ!!!《キラキラ……♪》」
魔王 「でも死ね」
悠介 「なにぃいいいいいいーーーーーーーーっ!!!?」
大驚愕!
なんかいい話になりかけてたのにあっさり殺しやがったあの魔王!
あ、いや……!敵なんだから当たり前なのかもしれないが……!
魔王 「覚悟が決まったならコロがして当然!さあ来るがいい勇者どもよ!
貴様らに最高の恐怖と絶望と───死をォオ……くれてやァアる……!!」
……なんで最後だけ若本則夫風なんだ?
いや、それよりも……殺気が溢れ出して来た…………本気だ。
とうとう本気でザゴォンッ……
───……。
ずだだだだだだっ!!───だんっ!
悠介 「あのなぁあああっ!!こっちがいざって構えるより速くコロ《ザゴォン!》」
……。
悠介 「いやちょ《ザゴォン!》」
……。
───…………。
…………。
……。
悠介 「はー!はー……!は、はー!はー!!」
彰利 「ぐっは……!疲れる……!防御だけしてると疲れんのな……!!」
魔王 「うむうむ……ようやく咄嗟に急所をガードできるまではレベルアップしたか。
じゃあステップアップだヒヨッコども!」
悠介 「な、なんか趣旨変わってないか!?俺達決闘して《ザゴォン!!》」
……。
悠介 「───だぁあから少しは《ゴギィンッ!》いづぁっ……!
す、少しは喋らせろぉおおおおおおっ!!!」
散々一撃で殺されまくり、いい加減受け止め方も見切れてきた頃。
それでもガードの度に吹き飛ぶ俺は、
言わずにはいられなかった言葉を言《ザゴォン!》……った途端に死んだ。
……。
……よーし、いい加減無駄口叩くなよ俺。
それは隙になるってことを、もうこの78回の死亡で学んだ筈だろ?
ガギンガギゴギィンキャヒィンッ!!!
悠介 「すぅっ───せい!」
ヒュフォゴッギャヒィンッ!!
悠介 「ぐわぁっ……!つぅ……!!」
復活とともに襲い掛かる剣舞を全て受け止め、合間を縫うようにして斬撃を返すも、
それは強撃によって弾かれ、腕に走るシビレが俺の動きを数瞬止める。
だがそこを彰利がカバーし、体勢を立て直す頃には二人がかりで魔王と渡り合っていた。
ここに来た時の初期の自分たちに比べてそのレベル差、529。
ここはどうかしてる。
戦ってるだけで、負けてるっていうのにレベルが上がる。
どうなって───
彰利 「ばかっ!悠介!」
悠介 「っ!だぁああっ!!《ガゴギィンッ!!》くあっ……!!」
彰利 「駄阿呆!!ボケッとすんな!」
悠介 「おぉおおお前に言われたくないぞ駄阿呆なんて!!」
そう、もう渡り合えている。
相手の動きも大体掴めてきていて、しかもレベルまで上がって。
他のみんながどうしているかは知らないが、少なくとも俺たちは確実に上達している。
それも…………どうしてだろう。
この魔王相手だと、成長させられてるっていうのに嫌悪感めいたものが沸かない。
むしろもっとぶつかっていたいような───
彰利 「悠ゥウウ介ェエエエエッ!!!!」
悠介 「だわぁ雑念禁止ぃいいっ!!《ザゴォッ!!》いっ───いがぁあああっ!!!」
少しの油断も出来ないのは、まあ相変わらずだが。
腕の肉を半分ほど斬られ、骨が切断された痛みに思わず体を縮みこませそうになるが、
それを努力と根性と腹筋で阻止。
動かないソレをだらんと下げたままに追撃を弾き、
意識を魔王に向けたまま回復の霧を創造。
もっと……もっと集中しろ……!
余計な雑念は自分の命を落とすことに繋がるだけだ……!
このままじゃ終われない……!
第一、俺達は二人がかりだっていうのにまだ一撃も当ててないんだから……!
悠介 「っ!そこだ《バゴォンッ!!》ぺぎゃうっ!?」
彰利 「悠《ドゴォンッ!》えひゃいっ!!」
と、隙を突いての攻撃がただの誘いで、殴り倒された次の瞬間には彰利も大地に沈む。
だが身を翻すと距離を離すように飛んで起き上がり、
直後に倒れていた場所にレーザーが放たれていた。
暢気に倒れていたら死んでいた……思わず喉が鳴る。
悠介 「……っふぅ……!」
大地に立つや、額の汗を拭う。
集中しっぱなしってのは想像以上に疲れるものだ。
彰利もそれは同じなようで、だがこんなチャンスは滅多にないと、
もはや敵がどうとかではなく自分のために魔王と睨み合う彼が居る。
悠介 「……トランス《キ、ィイイイ……!》』
ならばもはや、と。
俺は白と神々の力とトランスを解放し、彰利へと手を伸ばした。
……彰利はそれを見て、悪い待たせたと手短に呟くと、黒と皇竜とトランスを解放。
二人で融合を解放して、俺達は再び───朧弦となった。
魔王 「おおくるか!よろしい!」
朧弦 『今度こそアンタを潰す……!今なら出来る筈だ!』
魔王 「上がったレベル500程度でなんとかなるなら苦労しないと思うけど」
朧弦 『そんなことはやってみなけりゃ解らないさ!
───創世八幡宮!&ハトを“世界”に変える力!!』
魔王 「おお!?」
広げたハトの世界に存在する鳩全てをコストにして、
八幡宮の世界を新たな世界で塗り潰す!
普通ではやろうとも思えないことを武器にする……
それが創造の自由だと、晦悠介が誰かに教わった!
それが誰なのかは解らないが、知識の全てを武器にしなければ勝てないと断言する!
変換先は当然───月夜の黄昏!!
魔王 「なん……だと……!?たった1ターンで自分のフィールドを作り出すとは……!」
朧弦 『俺の土俵に降りてもらうぜ……!
ここならアンタの土俵である自然のマナは届かない……!』
魔王 「フ……考えたな遊戯。だが忘れるな。
デュエルとは先の見えないロードとの戦い!
勝利の確信などいつでも覆される世界であると知れ!
故に貴様に見せてくれる!この場が貴様のみの土俵でないことを!
───俺のターン!俺はこのターンで霊章輪・月を発動!
自らの体をマナ増幅の場とし、さらに月光竜シャモンを召喚!!」
ココンッ───ファギィインッ!!
シャモン『クキュ〜〜〜ッ!』
朧弦 『───!?月光……竜……!?』
魔王が竜玉を突付くとそこから小さな小さな竜が飛び出る。
あんな小さな竜を呼んでなにを───と思ったが、それは一瞬にして驚愕に変わる。
魔王 「このモンスターカードが場に出された時、場が夜で空に月がある場合!
シャモンはその光を浴びて月の守護竜イルムナルラへと進化する!!」
朧弦 『なっ───!?』
メキッ……ゴキメキ……!!
イルムナルラ『クァアアカカカォオオオン!!!!』
月の光を浴びた途端の変貌。
小さな竜は巨大な竜へと変わり、魔王の隣に降りると俺を睨みつける……!
その大きさは他の守護竜には確かに劣るものの、
飛竜よりは確実に大きいと確信させる体躯だった。
人間の頭ひとつ分程度の大きさだった竜が、こんな……!?
魔王 「さらに俺はこのターンで“葱娘召喚の儀式”を使う!
霊章の導きにより、出でよ初音ミク!!」
ミク 『いえさっきから居ますけど』
魔王 「…………早く言ってよ恥掻いちゃったじゃないか!」
ミク 『ええっ!?わたしの所為なんですか!?
……って、あの。シャモンちゃんが居て、わたしを呼ぶってことはつまり……』
魔王 「よろしく」
ミク 『〜〜〜……わ、解りました!ミク、頑張ります!
頑張りますから、ちゃんとやれたら褒めてくださいね!?』
魔王 「うむ!ではいくぞ!」
ミク 『はいっ!』
魔王 「───さらに魔法カード“融合”発動!
このカードの効力により、場に出ているモンスター二体を融合させ!
今!“月光眼の究極竜”()!降臨!!」
月光竜とミクが融合してゆく……!
直感が、それを完了させてはいけないと教え、咄嗟にアンリミテッドストリームを放つが、
それは月光竜の体に傷すらつけられないままに反射し、黄昏の草原を抉った。
そうこうしている間に融合は終了し、その場には……!
ファアアゴォオオオッ!!!
究極竜『クォオオオオオオオゥウウウッ!!!!』
月の光を身に浴び、煌々と金色に輝く造形も見事な月光竜の姿が……!
光だけでまるで突風でも浴びせられているような威圧感が神経を焼いてくる……!
金色の鱗に走る謎の紋様から出る灼闇の炎さえ、その光に当てられ金色に輝くほど。
しかもどことなくメカが混ざったような風情で、
遊戯王で言う“メタル化”が付加されたかのような輝きをその皮膚に持っていた。
朧弦 『バ、バスト、ラル……!クレッシェントドラゴン……!』
魔王 「クク……!《ドンッ★》───と無駄に遊戯王してないで、と。
シャモン、ミク、コテンパンにしてしまいなさい!
僕はちょっとそのー、集中出来ないから、熱い視線の持ち主と話をしてきます」
究極竜『クシャウ』
やるだけのことをやると、魔王は背を向けて歩き出す。
待て、と追おうとするが、バサァッ!と眼前に浮き塞がるは月光竜……!
目の前に居るだけで解る……こいつはヤバいと。
だが、だからといって戦わないのはウソだ。
俺は、この世界に下りた瞬間から……男でも女でもなく、戦士として駆けてきたのだから。
朧弦 『………』
チラリ、と少しだけ魔王の行く先を眼で追ってみる。
するとその先にはドリアード。
顔を真っ赤にさせて、見合いの席のようにして二人して俯いて、ってドリアード!?
なんでドリアードがここに───ってうお!?《ドボォッ!!》
朧弦 『ぢっ───!ってぇ……!!《ズザァッ》』
驚いてるうちに尾撃をくらい、草原の大地を数メートル滑る。
そうだ……今の敵は目の前の月光竜だ……!
目ェ見開いて覚悟決めろ……!余所なんて見ている余裕はないんだから───!
朧弦 『最初から全力だ!メガレール……!かめはめ波ァアーーーーーッ!!!』
突き出したラグに、持てる力の全てを込めて発射……いや!
朧弦 『っ……!?うわやべえ!!』
究極竜『ルアアァアアカカカォオオオンッ!!!!』
月光眼の究極竜の体が光り輝き、口に極光が溜められる!
しかもそれと同時に月夜の黄昏の景色にいくつもの“映像”が放たれ、
フィールドを覆っていく……これってつまり───!
朧弦 『ま、待て!そんな出力の極光でカーネイジなんてされたら───!』
ゴカァッ───!!
朧弦 『待ってくれるわけがねぇええーーーーーーっ!!!!』
極光が乱反射する!
月夜の暗さを閃光の輝きで照らし、その輝きは映像に反射する度に巨大になり輝きを増し、
やがて目も開けられなくなってきた頃、俺目掛けてそれは……!
朧弦 『っ……レヴァルグリード!!』
背中から皇竜竜の飛翼を召喚!
大きなそれで自らを覆い、盾とする!
直後キュドォッガァッ!!!
朧弦 『《ビギィッ!!》───!ぐがぁああああああっ!!!!』
相当なる速度故か。
一瞬のみ通った衝撃が飛翼を越えて俺にまで届き、
衝撃だけで皮膚が破裂し、ところどころの骨が砕ける音が耳に響いた。
当然立っていられなくなり、
崩れ落ちるようにその場に倒れ……それと同時に飛翼も消滅する。
朧弦 『は、ぐ……!くお……!』
両腕両足、ともに駆動不能。
グミすら手に取ることも出来ない状況の中、回復の霧を創造して無理矢理骨と皮膚を癒し、
腕が動くようになるとグミをかっ込んでポーションで癒す!
生きてりゃ十分……!衝撃は殺しきれなかったが、
レヴァルグリードの体なら盾に出来ることが確認できただけでも、耐え切った価値はある!
朧弦 『っ……はぁ……!』
飛び起き、ねめつける先には月夜の中空に漂う究極竜。
月光を浴びて輝くその姿はひどく幻想的だが、
その容姿とは裏腹な力を持つことは今の一撃でよく理解できた。
朧弦 (追撃がなかったのが気になる…………
いや、まさかあのレーザーのあとは動けないのか?)
決め付けるには早い。
早いが……たとえそうじゃなかったとしても、十分な圧力にはなった。
あんな力を見せられては、警戒せざるを得ない。
いや……つまりあれは、魔王から自分へと俺の意識を釘付けにするために……?
だとしたら少しは加減しやがれ!死ぬかと思ったわ!
朧弦 『すぅ…………よし!』
深く呼吸をして準備を完了させる!
さあ……勝てる気なんて全然しないが、出来るとこまでやってやる!
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