───冒険の書332/VS武具宝殿
【ケース821:───/孤独なる者】
つい今まで正しかったものが吹き飛ぶ。
その様は自然災害よりも素早く広がり、次々に人々を、木々を薙ぎ倒した。
それでも働きかけるマナと然の力が即座に木々のみを癒し、
人々だけは回復に至らず、死亡する。
彰利 『うぉおおらぁあっ!!!』
そしてまた衝突。
ぶつかり合う武具と武具が爆弾が炸裂したような音を立て、
ショックウェーブを放っては肌を焼く。
一方は殺気を撒き散らし、一方は殺気を一点に絞り。
だが一方だけを見るわけではなく、向かってくるもの全てを破壊した。
彰利 『ッチィ!』
圧し負け、片方が地を滑る。
だが一方が追撃をするより速く他の者が一方に斬撃を落とし、追撃を阻止。
連撃を加えるよりも一撃に全てをかける勢いで斧を振るうが───
ゼット『っ……圧し負ける……!?』
紅蓮蒼碧の巨大長剣の前に、かつての空界の恐怖の象徴は息を飲む。
既に現実とゲーム世界とのリンクは済んでいる。
力自体、この世界と現実とを合わせたものになり、
黒竜王としての力も存分に使えるというのに、
神魔竜人の力を竜のみに凝縮した力が圧し負ける。
その馬鹿げた事実を作っているのが、ただの地界人だという。
これが悪夢でなくてなんだ、と───彼の思考が舌打ちをした。
ゼット『オォオオオオオッ!!』
撃を連ねる。
振るう刃は全て急所を狙い、だがその悉くが弾かれ、避けられ、
一撃たりとも傷を作る刃にはならない。
ゼット『く、おっ───!俺が!この俺がツゴモリ以外の人間に───!』
翻弄されるなど───!
続く言葉が怒号とともに放たれ、渾身を込めた斧が振るわれる。
斧は呆れた速度で振るわれるがしかし、斬ったのは残像のみ。
気づいた時には竜人として生えていた角を切断され、その事実にハラワタが煮えくり返り、
動きを止めた刹那に───首と動体が切り離された。
藤堂 『なんだよこの馬鹿げた強《ゾンッ───》ア……』
首が飛ぶ、心臓が貫かれる、頭が両断される。
急所を狙う攻撃も普通に攻撃する動作も、その武具の効果故に一撃必殺の力を持っている。
言葉通り、彼は一切の慈悲をその手に持たなかった。
女であれ誰であれ、敵になるなら殺し、己自身を壁として、かつての味方を殺し続ける。
彰利と悠介が、さっきの戦いは心底遊ばれていたのだと歯を噛み締めるほど、
力の差は歴然としていた。
悠介 『ゼットが一撃……!どれだけの竜殺しが備わってやがる……!』
ならば小さなことから情報を得てゆき、それを超越すればと考えるは創造者。
封印されていた光の武具の能力も解かれたが、今それを使う気もなく、
イメージのみを鮮明に弾き出すとソレを武器に戦う。
ヒュゴガッシアァアアッ!!!
悠介 『っ……!』
振るう創造武具はたった一合で砕け散る。
イメージが鮮明でなかったわけではない。
単純に武具の精度が比べるのも愚であるほどに違うのだ。
この二年、この世界にあるあらゆる武具や素材を以って完成された究極のひとつ。
武具レベルさえ1万に至った時、
武具から宝貝へと昇華したソレの名は“武具宝殿”。
全武具と霊章自体がひとつの武具となり、
願えばエジェクトするまでもなく、その手に必要な武具が出現する。
宝具化により意思もひとつとなった故にジークフリードにあてがわれた倍化は全能力倍化。
これにより全ての能力の効果時間が倍化し、
鬼人化継続時間に至っては9分になっていた。
称号としての武具宝殿の名が宝具へと至ってから、そう時間は経っていない。
この場にマナが満ちなければ、
不可能を可能にする力が前借り分すら満たせなかったからだ。
中井出「器詠の理力()!知るがいい勇者ども───種族の強さなど関係ない!
ただの地界人だろうが、目指し至れる場所は同じである!」
中井出の態度は普段と変わらない。
変わらないまま、殺し続ける。
それは決別の意思であり、
同時に相手が相手だからこそ全力でかかるという、彼なりの敬意の気持ちだった。
彰利 『サウザンドアームズ!───悠介!』
悠介 『っ……光の武具使いたくないんだぞ俺は!
言ってる場合じゃないって解ってるが───くそ!!ラグ!“剣槍雨”()!!』
悠介、彰利が虚空に無数の武具を出現させ、中井出目掛けて一気に放つ。
光の武具、というよりはラグナロクを変換させ、解放する。
武具固定の際、剣状態とブレートオープンのみとなったギミックも、
彼が創造と超越と変換を取り戻すことで、その手に戻る。
力の全てをスピリットオブノートに渡した時点で様々な能力を失ったが、
このラグナロクに宿る力は失われてなどいない。
ゼットの力が現実世界のものと同化したのと同じく、武具とて同じようにリンクする。
同化、と呼ぶよりは同調と呼ぶべきだろう。
そうして生成された中空の武具の数、およそ100以上。
放たれ、豪雨が如く降り注ぐソレを前に、中井出は動くこともせずに霊章より灼闇を召喚。
それがシドの姿を象ると、
シド 『喝ァアッ!!』
ゴワァッシャァアアアンッ!!!!
かつてデスゲイズのメテオでさえ気だけで破壊したソレを再現させ、
100もの刃を全て塵にしてみせた。
その塵が悠介の元に戻るとラグナロクに戻るが、
喝のみで粉砕された事実に驚愕を隠しきれない。
悠介 『こ、んな……!』
シド 『……ヌシ、目を開け。
戦い、勝つための手段を“使いたくない”などと言って勝てる相手ではない』
悠介 『……伯……』
シド 『全てを出し尽くせ。あらゆる手段を用い、ひたすらに強くなりたいと願え。
その思いが、挫けぬ心が未来を切り開くために必要なものだ』
それだけを言うと、シドの姿を象っていた炎が消え、代わりに出現したのは灼闇の馬。
通常の馬の一回りもニ回りも大きな馬が、出現と同時に疾駆。
嘶きをあげ、対面する者をぶちかましで吹き飛ばしてゆくと、
次の瞬間には人型になり、
レオンの姿を模したソレは、稀紫槍カルドグラスを手に突撃を仕掛けていった。
ゴギャァッヒィンッ!!
その一方で、衝突する刃が火花を散らす。
しかしそれも刹那的なもので、ぶつかり合った片方が大きく弾かれたたらを踏む状況が、
幾度も幾度も展開されている。
悠介 『っ……』
力では勝てない。
そう感じた悠介は連携をと判断するが、
味方の大半がレオンに薙ぎ飛ばされ、連携を悉く阻止してくる。
その姿は状況に応じて変化し、大魔法を放たれればシドが気で破壊、
細かな魔法はサイナートが斬り滅ぼし、アルビノが烈風を引き出し一気に接近すると、
セトがエクスカリバーで一閃し、斬り滅ぼしてゆく。
その一連の行動が冗談のように整っていて、隙を突くどころではなく、
達人同士が力を合わせ、それが一体となった灼闇の魔人はもはや剣聖の域。
連携など望むべきではないと直後に判断した悠介は、
己が身と親友との連携で攻撃を仕掛けてゆく。
彰利 『ブッ潰れろォオオッ!!ゴッドハンドインパクト!!』
力で駄目ならば技術、技術で駄目ならば力、それでも駄目ならば双方で。
皇竜王の力を引き出せるだけ引き出し、拳を強く握り締め拳を突き出す。
竜の右手である巨大なソレは真っ直ぐに中井出へと振るわれる。
時を止めようが時間を飛ばそうが構わず殴れるよう、月空力を織り交ぜての攻撃だった。
中井出「八葉六式───撃破滅却」
そんな攻撃を前に中井出はただ、軽く握った手から人差し指だけを立て、
拳に合わせて突き出しベッキャアア!!!
中井出「ギャーーーーッ!!!」
あっさり砕かれ絶叫した───が、直撃を受けて吹き飛ばされながらも回復を実行。
大木に激突し、背中をしこたま打ちつけ血反吐を吐きながらも、
我道を突き進むことをやめようとはしなかった。
そう、どれだけ強くなろうが根本は変わらない。
戦いにおいても自分が楽しめなければ意味がないと、なにかの真似をしては自滅している。
それでも、かつての友たちに向ける威圧は一切緩めようとはしなかった。
悠介 『詰める!』
彰利 『オウヨ!』
大木によりかからせていた体を弾くように前に出ると同時に、
悠介と彰利が同時に仕掛ける。
対する中井出は両手にジークムントとジークリンデを召喚。
剣に器詠の理力を通し、武具が教えるままに体を動かしてゆく。
ギギャギャギガギギガギンガンギィンッ!!!
突き出す連撃と飛び散る火花。
二人同時に攻撃をしているというのに、
その悉くが片手ずつで捌かれるという非常識がここにある。
レベル差は戦う度に削られていっているというのに、
自分たちはレベルを上げ続けているというのに何故……?
二人の疑問は当然だったが、この場で戦うという条件では、中井出であろうが変わらない。
戦う意思により経験も積めれば、灼闇の魔人が他の者を殺せば殺すほど経験を得る。
中井出にとっての敵などこの場には腐るほど居て、
すぐ傍で復活すれば再び襲い掛かってくるという状況下にある。
天地の覇紋による経験値増幅の効果もあり、
同条件どころか中井出の成長のほうがよほどに速いのだ。
レベル差は削られていっているのではない。
むしろ自分たちのレベルが上がれば上がるほど、
中井出のレベルの上昇条件も上がってゆく。
それこそ、この場にわざわざ敵を集結させた本当の目的。
敵のレベルを上げながら自分も無理矢理向上させるという、
今の味方が居るからこそ、
ドリアードの協力があったからこそ実現が可能になった反則技だった。
悠介 『“緋竜槍”()!!』
緋の槍に変換したラグナロクが虚空を奔る。
手を離れた直後、心臓を貫く事実を捏造する槍は真っ直ぐに中井出の心臓目掛けて飛翔。
だが中井出はなにを思ったのか自ら槍目掛けて疾駆し───突然、悠介の眼前に現れた。
槍が刺さる直前に時間を飛ばし、“刺さった”という未来を吹き飛ばしたのだ。
悠介 『は《ザゴォッ!ボガァォン!》───!』
息を飲んだ瞬間にはジークムントが右肩を斬り砕き、
胸を裂き、脇腹を斬り抜け、その動作のまま血を振り払っていた。
悠介 『ガ、ァアアアッ!!』
体は斜めに両断され、ズチュリと嫌な音を立てて崩れゆく。
すぐに癒しを創造するが、創造に意識を取られた瞬間には頭を砕かれ絶命していた。
彰利 『っ───野郎ォオオオオッ!!』
中井出「ああ野郎だとも!男だとも!」
拳を振るう、蹴りを放つ。
どれをやっても決定打にはならず、
だというのに中井出の攻撃はガード越しからでも彰利のHPを確実に削り、
その事実に彰利も愕然とする。
当然だ、武具の性能が明らかに違う。
彰利と悠介が融合で力を足し合えるのなら、
中井出は自分と武具宝殿だけで二人分の倍化能力を持つのだ。
一人で向かう限り、一人で二人分の力を持つ者にそうそう勝てる筈もない。
いや、中井出の熟練と倍化能力の全てが人器にあてがわれているのなら、
それは全て武具に寄る能力であり、
つまり強化され続けているのはあくまで武具ということになる。
二人分の力を持つのではなく、一人と一つでなければ力を引き出せない存在。
故にその倍化能力も一つに絞られ、驚愕すべき能力を溢れ出させていた。
彰利 『光速釘パンチ!!おぉらぁあああっ!!』
だからどうしたと言うように、彰利は拳を突き出す。
己の両拳と、皇竜王の両拳。
その四本で光速拳を連発し、徹しを乗せてガードの上から中井出を攻撃する。
光速の拳が間を空けることなく身を打ち、固めたガードでさえやがて崩され───!
ガゴドドドドドドォンッ!!!!
ついに、その拳が中井出の身に沈む。
本命である皇竜王の拳での光速拳はガード崩しにしかならなかったが、
次いで放たれた彰利自身の拳が腹部と胸部を殴り穿ち、
徹しの力が働いたために外部ではなく内部に走った光速の衝撃が、
中井出の内臓を爆発させた。
中井出「ぶっ……えげあはっ!!がっ!ぐあっ……!!」
当然、血反吐をぶちまけて体を折る中井出。
肺と胃を砕かれた彼は呼吸もままならない状態で胃酸に血が混ざったモノを吐き出し続け、
ヒュゴォウンッ!!
彰利 『っ……!』
だが、それでもなお攻撃をやめない。
振るわれたジークリンデが彰利の喉の皮一枚を削りとり、
次いで発生する鎌鼬が喉を切り裂いた。
彰利 『いぎっ……!てめ……まだ……!!』
───油断はしない、戦いとは命の遣り取りだと、この世界で散々と学んだ彼だからこそ、
死にそうな時にはそれこそ死に物狂いで向かうべきだと心に刻んでいた。
死にそうだから死ぬ覚悟をするんじゃない。
死にそうだからこそ、最後まで抗う覚悟を。
中井出「がはぁっ!ぐぶっ!があぁっ!!」
呼吸すら出来ない状態で、窒息しながら剣を振るう。
すぐにマナが内臓を癒すが、それは元の状態に復元するわけじゃない。
破裂した胃袋から漏れた胃液は他の内臓にかかり、気持ち悪いまでの痛みを齎す。
それを灼闇で蒸発させると、
痛みに涙を溢れさせた目で彰利を睨み、中井出は突撃を再開させる。
振るう双剣に技術的なものなど無い。
無いが、当たればただでは済まないと本能が知るが故に、
彰利は無意識に大きな動きで攻撃を避けてしまう。
紙一重で避ければ、先ほどのように喉が切られることも身に染みたためだった。
彰利 『ラァッ!!』
だがその動作からでも取れる行動はある。
通り過ぎたジークリンデを殴りつけ、
地面に突き刺すと、その隙を穿ち再び光速拳を構え、一気に放つ!
ゴガガガガガガィインッ!!!
彰利 『《ブシッ……!》ぐあっつぅう!!?っ……ジークリンデ!?なんで───』
だがその攻撃は、蒼碧の巨剣の腹で全て防がれる。
その強度は、殴った拳が逆に篭手の中で圧迫され、血が噴き出るほど。
武具宝殿を得た中井出にとって、
地面に突き刺さったからといって抜き取る動作が必要になることなどない。
抜けないのならば霊章に戻し、再び出現させればいいだけのことなのだ。
その動作はただ腕を持ち上げるだけの動作で十分間に合うものであり、
構えなければ放つことが出来ない光速拳では間に合う筈もない。
中井出「この博光を前に確実、確定なんて言葉など必要ではない……必要なのは覚悟のみ!
本気でくるがよいわ彰利一等兵死ねぇえーーーーっ!!!」
彰利 『行くより先に来てんじゃ《ガギャァンッ!!》いがあああっ!!』
中井出「本気を出させて負けてりゃ世話ないわ!ならば話術で匠に翻弄しつつ殺すのみ!」
乱暴に振るわれる双剣。
それを器用に躱しながら、彰利は時を待つ。
時には篭手で弾き具足で弾き、隙を突いては光速拳を打ち込み、
怯んだところへさらに連撃を。
中井出「チィイ……さすがに一筋縄ではいかんか!ならば!」
彰利 『───!』
果たして、待っていた時は訪れる。
中井出が双剣をジークフリードに変え、いざソレを振るおうとする刹那こそ───!
彰利 『待っていたぜそいつを!運命破壊せし漆黒の鎌()!!』
中井出「ぬう!?」
篭手に秘められた鎌が、闇の光を放つ。
破壊する対象は、ジークフリードの合成ギミック能力───!
彰利 『その武器が合成していられるというのは───ウソだ!!』
中井出「───!しまっ───!」
ガッシャァアアアアアンッ!!!!
倍化した黒の力により、能力の幅を増した運命破壊が中井出のジークフリードを分解する。
手に持っていたジークフリードは、今まで合成してきた武具全てを強制分解し、
数多の武具を地面に落下させると、最後にグレートソードのみが残る……!
彰利 『てめぇの強さは武具によるものだったな───!
だったらその武具全てを合成状態から分解しちまえばこっちのもんだ!』
中井出「き、貴様《ドゴゴゴゴォンッ!!》がっ───」
言葉と同時に放たれた光速拳が、中井出の腹に突き刺さり、
武具を失った彼の体を破壊する。
腹には風穴が空き、今までの強さがウソのように吹き飛び、
大木にぐしゃりと当たると……中井出は抵抗する様子もなく、がくりと項垂れる。
彰利 『へっ、ざっとこんなもんっ!』
勝利を確信し、灼闇が暴れていた場所を見やれば、
味方の大半は死んでいたが、灼闇の魔人はやはり消えていた。
それを確認してから中井出に向き直ると、トドメを刺すために皇竜王を召喚する。
既に下半身まで存在し、今までの具現化が幼稚な遊びだったかのような鮮明な召喚。
だが、九頭竜の名に相応しくあるべき九つ目の頭がそこには無い。
それをどこか、力量足らずの自分を嘆くような目で見上げると、トドメに。
八頭の口が開き、同時に極光を溜めてゆく。
───そう。
もし間違いがあったとするならば……
ここで、“竜”を出したことこそが───
ギシャゴバァアォオオンッ!!!!
彰利 『え───《ガボォンッ!》……っ……う、おお……!!?」
皇竜王の偶像が破壊される。
そうされることで、繋がっていた彰利の両腕が斬り飛ばされ、
訳も解らないままにただ驚愕をする。
腕が飛んだことに、ではない。
倒れていた筈の中井出が居ないことにだった。
声 「貴様はひとつ、間違いをした」
彰利 「っ……何処だ!!」
両腕を失い、力の源を皇竜王ごと破壊された彰利が叫ぶ。
だが聞こえる声は問いに答えることをせず、淡々と話を進める。
───そう。
中井出の武具は確かに、ジークフリードに重ねるように成長させてあると思われがちだ。
実際、それが故にグレートソードの姿にまで形が戻った。
だがそれが完全に通用する時期があったとするなら、武具レベルが10000を越す前だ。
今や“武具宝殿”というひとつの宝物庫になった中井出の“武具”は、
どれかひとつの運命や構築要素を破壊したところで、
宝殿の中に戻ってしまえばすぐに元に戻るのだ。
破壊するのであれば武具宝殿の構築要素を破壊するべきであり───
彰利 「ッチィ!だったら───《ドッ》……けはっ」
中井出「無駄ですよ、キース。貴様の両腕はもはや手元にない。
鎌が篭手に合成されてるなら、運命破壊は出来ないさ」
背中から胸へと。
刺し、貫かれ、飛び出た剣に血が流れる。
は、と……彰利が息を吸おうとした時には命はとうに燃え尽き、彰利が塵となる。
それを見た、灼闇に翻弄されていた者たちが声を荒げて襲い掛かかるが───
霊章から噴き出た灼闇がバハムートと化し、
極光のレーザーを横薙ぎに払うと、向かってきた者は塵も残さず消滅した。
……真龍王の芯骨によって、より鮮明に具象化出来るようになった灼闇の竜が静かに唸る。
この真龍王の力を乗せたエクスキャリバーこそが、
カイザードラゴンを殺してみせた力の真であった。
そして今、溢れ出で、真龍王の形をしている灼闇がジークフリードに流れ込んでゆく。
剣身に灼闇の炎が宿り、剣全体に竜の紋様が浮かぶ。
全守護竜の素材を用いたからこそ至った究極の屠竜剣。
その一撃は、相手が竜であるならばどんな竜であろうと殺すだろう。
中井出「───来たか」
カオス『魔王ォオオオオッ!!!』
ところどころが崩壊したジャングルの中で待っていた中井出。
そこへ飛翔し、ラグナロクを振るうのは、大木の前で復活し、
このままでは勝てないと断じた故に融合を決した総勢だった。
たった一人、死なずに残っていたみさおが安堵の息を漏らす。
決着の約束は全滅か、魔王討伐で決まる。
ならば、たった一人でも生き残っていれば勝負は終わらないのだ。
そのルールを胸の中で確認したのち、みさおも手を伸ばし、カオスと融合する。
カオス『いくぜ魔王……もう手段なんて選んでられねぇ!全力でてめぇをぶっ殺す!』
味方全員で融合することで、経験もレベルも上乗せになった。
ならばもはやレベルで負けることはないと、ラグナロクを構え、中井出と対面する。
武具さえ融合状態になっている今、熟練移動をするまでもなく熟練度は均等に近い。
剣も槍も魔法も弓も銃も体術も使いたい放題だ。
だというのに、中井出を前に一歩を踏み出せないでいた。
容姿は村人の服の、ただの地界人。
この世界にあって、誰よりも武具を愛し、誰よりも強敵と戦い、誰よりも成長した男。
地界人でありながら武具の力のみで黒竜王の力を越え、魔王として君臨する。
カオス『………』
……地を蹴り、数歩で届く距離だというのに、
同じく剣を構える相手が自分より弱いなど、どうしても思えなかった。
だが戦うと決めたのならそれを貫かなければ相手に失礼だと思った。
……目の前の男に対して、それだけはしてはいけないと、
理由が解らないままだというのに、融合した全員の意思がそう告げた。
カオス『シィッ───!』
疾駆───直後に一合、二合、三合───!
剣と剣がぶつかり合い、
その度に異常な強さを誇る武具同士が衝撃波を放ち、空気を振動させてゆく。
互いに、映画のシーンのようにわざわざ剣に剣を当てに行くようなことはしない。
全て急所を狙い、それを逸らすために剣を弾く。
そんな攻防が一秒のうちに幾度も続く。
光速拳の応用で放たれる光速剣を、中井出が真正面から受け止め弾いてゆく。
辿り着けて精々音速。
光速に勝てるわけもないというのに、どうしてそんなことが出来るのか───
カオスは疑問に思ったが、強すぎる能力だからこそ気づけない盲点もある。
カオス『当たらない……!?なんで───!』
いや、当たっている。
ただどういうわけか、絶対に致命傷には至らない。
中井出「そこっ!」
ガギィンッ!!
カオス『づッ……!?《ビリビリ……!》』
光速剣舞が弾かれ、ラグナロクを握るカオスの手に、痺れたような感触が走る。
その痺れは、光速の軌道が読まれたという、信じられない事実の確証たるものだった。
カオス『なんで《ゾバァンッ!!》ぎあぁ!?』
事実に驚愕した刹那に、体を斜めにぶった切られる。
肩から脇腹へ赤い線が走り、一旦を置いて出血。
中井出「貴様の光速は実戦では役に立たん」
カオス『っ……んだとっ……、───!?』
ヒュゴがぎぃんっ!!
カオス『ぐっ!、はっ!?』
無造作な攻撃。
単調であるそれをカオスが受け止めると、刹那を置いて次の撃が放たれ、
それを弾くと次が来る。
剣戟の弾幕で押さえつける気か、と体を構えるも、カオスを襲う剣戟はえらく単調。
一撃が終われば一撃を、とそれが数回続き───
違和感に気づいたのは一分も経たないほんの僅かな間のこと。
剣戟の間隔が少しずつ狭まり、いつしかそれは剣舞へと変わった。
さらにガードした筈が頬を斬られ腕を斬られと、
ガードしているというのにガードの外から刃が飛んできているのかと錯覚を覚えるほどに、
器用にガードを潜った攻撃が続く。
何故、と思ったとき、カオスには答えが───
中井出が言っていた言葉の意味が解った気がしていた。
それを感じ取ったのか、中井出の攻撃の速度は上がり、威力も一気に向上する。
カオス(敵に塩を贈るってか……!いい度胸だよまったく!)
───光速拳。
それは、速度という武器を限界まで極めんとした攻撃。
だが、速度に頼るからこそ直線的であり、変則的な攻撃が出来ない。
剣であろうがそれは変わらず、光速のイメージを乗せるとなれば攻撃方法は二つ。
斜め上からの振り落としか突き。この二択になる。
斬り上げでは関節に速度が乗っていかず、横薙ぎも同じ。
ならば光速拳の要領で突くか、重力を気にせず振るえる斬り下ろししかない。
二択程度の攻撃ならばパターンを読むくらい中井出にも出来、
そこに武具に眠る達人たちの意思と武器の意思が重ねられれば、弾けない道理もない。
カオス『───トランス』
それを理解したうえで、カオスはトランスを解放。
意識をより同調させると他方向からの光速をやってみせ、中井出に息を飲ませる。
カオス『必要な技術とイメージは揃ってる。もう……教えられるまでもない!』
構えは無し。
いつでも光速を出せる域にまで意識を研ぎ澄ませ、
全身を多関節のバケモノに変える。
黒と光のブーストがそれを可能にし、カオスは一呼吸置いたのちに一気に爆ぜる!
普通の斬撃ではなく光速の斬撃を幾重幾筋にも走らせ、中井出の身を切り刻んでゆく。
もはや予測のつかない光速斬撃を前に、当てずっぽうで剣を振るい、
偶然に弾く程度にしか役に立たないガード。
それはほんの僅かな時間の経過であっという間に立場を逆転させ、
カオスの勝利を予感させる───ように見えたが。
ゴギャァンッ!!!
カオス『いっ……!』
再び、剣が弾かれる。
当てずっぽうでもなく、確かに光速剣に合わせて。
だが驚愕する余裕はない。
目の色を変えたように逆に振るわれる剣舞が己を襲う事実に、
カオスは光速剣でそれらを弾きながら息を飲む。
カオス(───動きが変わった……倍、いや、それ以上……!?)
速度も動きも明らかに違っていた。
およそ人間が耐えられる速度ではないそれを、目の前の存在がやってみせている。
彰利でさえ黒で体を覆わなければ、速度に負けて腕が破裂する光速。
それを何故。
フォギィン!パギガギャァンッ!!
幾重もの衝突が一つに聞こえるほどの速度。
そんな状況にあっても、速度で勝っているのは未だカオス。
だが圧し負けている事実はここにあり……!
カオス『〜〜〜っ……馬鹿げてるにもほどがあるだろっ……!!』
こちらは数十人の集合体であるというのに。
何故たった一人にこうも押される、圧し負けるのか……!
思わず唇を噛んだカオスだが、その目が見る。
分析───悠介の能力が、敵である中井出の現在の状態を。
───それは、9分間のみ許される絶対時間。
武具と中井出本人の倍化能力により、
かつての限界を突破した人器能力が弾き出す“順応”の奇跡。
月の属性が、
ドリアードの核が埋め込まれた大樹ユグドラシルから生まれ出るマナを増幅し、
マナが全身の内部に流れる霊章を強化、
回路のように全身に流れる霊章が地界の回路、順応の能力を増幅。
倍化し、さらに倍化した人器能力に耐えうる力を能力解放時にのみ弾き出し、
音速を超える速度と、その速度に負けぬ強度と回復力を“順応”の力のみで可能にする。
人体が光速に勝てる筈もない。
そんなことをすれば、振るった体ごと破裂するだけだろう。
だがそれを可能にする現象がひとつだけ存在した。
それは、速度向上の時魔法。
己の体にヘイストを、己の周囲にさえヘイストを。
“対象”でなければ発動しないものを、
テオスラッシャーの粉塵を己の体に纏うことで可能にする。
対象であればいい、ということを逆手に取り、テオスラッシャーに武具に眠る意思を付加。
そこにヘイストをかけ、
自分の周囲の空気も自分と同じ速度で動いているという現象を作り出す。
同じ速度で動くのであれば抵抗らしい抵抗もなく、音速の壁にぶつかることもないと。
当然全てが上手く運ぶ筈もなく、腕は見る間にズタズタになっていくが───
それらの傷が、異常でしかない速度で回復してゆく。
カオス『人器……!?人の力でここまで───』
中井出「晦一等兵……!貴様はいつか、ゼットを倒すために人であることをやめたな!
だが俺はやめない!俺は人間である自分が大好きだ!
貴様の志は確かに見事だった!なにかを守ると決めた決意を胸に、
なにかのために人である自分を捨てたのだ!───だが知るがいい!
条件は限定されたものだったが、人は……人間はここまで出来る!至れるのだ!」
カオス『っ……オォオオオオオオオオッ!!!』
剣舞と剣舞がぶつかり合う。
精霊たちが安定させたこの世界が無ければ辿り着けなかったこの領域。
安定させる精霊たちをも超える力を得るという理不尽と不思議の世界にあって、
しかしそれはスピリットオブノートとオリジンの“超越”により可能になる。
現にそこまでを成長してみせた中井出がここに居て、
その力は他の全員を足した総力を前にだろうと引けをとっていないのだ。
───音速以上の剣舞が空間を弾かせる。
互いに急所を狙い、互いに己の身を剣で守り、再び狙う。
速度ではカオスが勝ち、威力では中井出。
それらがぶつかり合い、傷つけられるのは一方的に中井出だけだったが───
カオス『《ズッ!》───!』
音速以上、光速未満の斬撃。
とはいえ自分が放つ攻撃威力よりも高いものをその剣で弾き続けた手は、
すぐに痺れを帯び、握っていた剣から離れそうになる。
それを、渾身を以って握り締め、喉を狙って放たれた剣を弾く。
長続きをすれば負けるのはカオス。
攻撃を食らおうとも即座に癒され、それどころか全員が融合した故に跳ね上がり、
出来上がったレベル差が中井出を幾度もレベルアップさせてゆく。
その度に攻撃威力は跳ね上がり、速度までもが向上してゆく───!
カオス(これ以上、まだ上がるのかよ───!!)
驚愕は当然だった。
だがレベルが上がる度に熟練度の限界値は伸び、その熟練度が人器にあてがわれるたびに、
当然のように中井出の人器能力は向上する。
人器能力が向上すれば彼が武具とともに弾き出す力も上昇。
悪夢のような循環がそこにはあった。
融合しなければ太刀打ち出来ず、融合すればこの場のマナが敵を強くする。
だが、だからといって融合を解けば敵いもしない。
悪い冗談だ、と。自然と思考が言葉を紡いだ。
ギギャァン!ゴギィンッ!ゴバァンッ!!
一合一合の度に放たれるショックウェーブは尋常ではない。
音速を越え続けているのだ、発生して当然だ。
だがショックウェーブよりも強烈な衝撃波は、弾き合わせた剣が放つものだった。
音速を越えた故に発生するのではなく、
武具が激突したその威力が故に発生する、
空間が波立つ様がそのまま衝撃波のように見える。
そんな現象を、二人の人間が発生させているのだ。
二人がぶつかり合う足場の大地は衝撃で抉れ、
その空間だけが異常であるかのように───
他の自然風景から乖離されているようにさえ見える。
中井出「《ゾッ!》っ!」
カオス『《ブシッ!》くぅっ!』
永遠に続くかと思われた剣戟も、やがて僅かずつズレが生じる。
中井出のレベルが融合体のカオスに追いつき始め、力の均衡が崩れ始めたのだ。
だが───たとえば。
最悪の状況が、最悪の時に訪れたのならば、そんな均衡など───
中井出「《ズバンッ!》いがっ!?く、は───!」
腕に弾痕。
対峙するカオスとは別の方向から飛んできたソレが、中井出の腕に小さな穴を空けた。
中井出「───」
中井出はそんな事実に怒ることも驚くこともせず、
せめてもう少し続いて欲しかった、とだけ漏らした。
一瞬だけ向けた視界には、銃を構えた閏璃凍弥。
そして、レイル=ベルナードと穂岸遥一郎。
いずれも中井出を覚えていた面々だった。
だがその弾丸が己に向けて放たれてなお、理解できないほど馬鹿ではない。
───来るべき時が来たのだ。
三人はなにかしらを叫ぶとカオスに意思を届け、
一旦下がったカオスを回復させたのちに融合。
中井出と一緒にジハードたちと積んだ経験が一気にカオスに流れ込み、
縮んでいた差が一気に開く。
中井出「………」
……そうして、男は突然独りになった。
この道を選べばいずれは、と覚悟していたことだ。
だが悲しくないわけがなく、ただ胸を打つ理不尽さに歯を噛み締める。
別れの言葉なんてない。
ただ、味方が敵に回っただけだと心に強く言い聞かせて前を見た。
敵……そう、全てかつての仲間だったみんなの融合体を。
自分と戦うことで、融合体の中に居る自分よりレベルの低い者のレベルが上がり、
それにつれてカオスのレベルが上がり、自分のレベルも上がる。
そんな状況下にあって、揺れる心なんて今は邪魔だと、今出来る限りの戦いに全てを注ぐ。
ギバァンギバァンギバァンギバァンギバァンッ!!
ヂギィンゾバァンガカァッフィィン!!
カオス『ぐぅううう!!』
中井出「おぉおおおおおおっ!!!!」
次々と一万を超える者たちが倍化を発動させ、中井出を圧する。
が、それでもレベル差が離れようと追いつき、追いつかれようが越し、
お互いに一歩も譲り合わない攻防が続く。
回復が追いつく速度を既に越え、互い自身の血や互い自身の返り血で赤く染まったまま、
それでも斬り、弾き、弾かれ、斬り返しを繰り返す。
やがて双方のレベルが均衡し、レベルも上がらなくなる頃。
───埒が明かぬ。
舌打ちしたのはゼットとゼノの意思であり、その意思が“能力”を発動させる。
剣のみで戦っていたカオスの背より皇竜王の両腕が現われ、
それらが中井出へと襲い掛かったのだ。
いわば奥の手とも言える攻撃。
だが、それは中井出とて同じこと。
レベルを上げるという目的を度外視すれば、こんな回りくどいことなどしなかっただろう。
皇竜王の両腕が眼前に迫った刹那、彼は三つの武具能力を解放した。
───それで、終わり。
悪戯に決着に走ったが故に、それは発動せざるを得なかった。
結果から言えば皇竜王は微塵と砕け、
奔る刃束から発生する二百四十もの鎌鼬とボマーのスキルが空気を爆砕し、
それによって発生する光が二百四十にもなる刃束を輝かせる。
そう。
ことここに至るまで、中井出は冥空斬翔剣を発動させていなかった。
六閃化も言うまでもなく、庭師剣もそうだ。
その三つをエンペラータイム中にあわせることで、
紅蓮蒼碧の巨大長剣は二百四十もの剣と化す。
そこに滅竜を乗せたエクスキャリバーをくらい、皇竜王は微塵と化す。
九頭目があればこんな無様は晒さなかったであろうその姿が消える様に、
驚愕を受けるのはゼットの意思。
先ほどもだが、最強と謳われた皇竜王がこうも容易く斬り滅ぼされる事実に驚愕を覚える。
悠介 (ゼット!勝気なのは悪くないが機を焦るな!)
ゼット(黙れ!いつまで弾き合いを続けるつもりだ!こんなものは時間の無駄だ!
どけ!意思を俺に委ねろ!俺が戦いというものを教えてやる!)
ならば、今の自分ならばと意思をもぎ取り、突撃を仕掛ける。
召喚した皇竜王を破壊されたことで体が弱っていたが、
それもレベルアップにより回復する。
だが勢いはそこまでだった。
一撃一撃を捌くことが互いに精一杯だったというのに、
相手の武器が二百四十にもなるという事実。
一撃を弾くだけで手に痺れを覚えていた存在が、これに耐えられる筈もなく。
ギシャゴバガンガガガガォオオンッ!!!!
カオス『っ!ぎあぁあああああああああっ!!!!』
5閃で武器を弾き落とされ、残る二百三十五閃もの黄竜剣がカオスを襲う。
咄嗟に後ろに下がったが、切り裂かれた空間が破裂し広がり、
剣は避けたが空間炸裂を避け切れなかったカオスは右肺から肩、
右腕全てにかけてを削り取られ、無様に地面に転がった。
カオス『が、っは……!ぐ、づぁあ……!!』
数十人分の痛覚が一気に押し寄せる。
意思が数多く存在するために、
ひとつの体にかかる感覚というものが高いものになりすぎているのだ。
誰だって指を切れば痛いと思い、この瞬間もその例に漏れない。
数十人分の“痛い”と思う意識がカオスの体を襲い、立ち上がれなくなるほどに痺れる。
カオス『は、はっ……はー……っ!は、はぁー……っ!!』
あまりの痛みに声が震え、癒しに集中できない。
続けていたトランスをあっさりと切ったのは、
そのトランスが痛覚に集中しないための行動だった。
そんな彼の頭目掛け、無情にも剣が落とされる。
確かな、決別の言葉とともに。
「───それじゃあな。楽しかった、俺の日常───」
───逆転劇が起こることもなく、終わった。
数十人もの意思の塊をたった独りで打ち砕いた男は、
どこか懐かしむような目で───
大木へではなく、空洞の外へと飛んでゆく塵を眺めていた。
それが決着と決別の証。
もはや全ての人が一万を越えたであろう今、いつまでも戦う理由もなかった。
伸ばせるところまでは伸ばした。
そう考えておこう。
そう思うことにして、中井出は静かに歩き出す。
もはや騒がしい仲間など居ない、自然要塞へ。
それでも亜人族やナギーやシード、
悠黄奈やドリアードが待ってくれているだろう事実に、
静かにありがとうと呟くと……自然と流れる涙を拭いながら、
誰に向けてでもなく手を振った。
それは本当に、なんでもないって思えるくらいの───
明日会う約束さえ出来ないままの、サヨナラの挨拶だった。
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