───冒険の書337/崩壊する世界で───
【ケース833:中井出博光/クロリストが至る場所】
一面が黒だった。
迫り来る黒、詠唱する黒、影を繋いで動きを封じようとする黒、
行動の種類や大きさも形も全てが不揃いで、けれど目的だけはひとつに終着する。
それは、俺を殺すこと。
ゴオォッフィィイイインッ!!!
ザンガガガガガォオオオオンッ!!!!
黒 『ゲギャァアアアアアアアアアッ!!!!』
この世界から“ゲーム性”が失われつつあるためか、武具たちから“ルール”が消える。
使いたい能力をいつでも使え、
武器を振るえば火と風が吹き荒び、黒どもを吹き飛ばしてゆく。
双剣から放たれた二刀流居合い羅生門が直線状の敵を微塵にしながら吹き飛ばし、
黒塵が舞う道を烈風で駆けては、なおも襲い掛かる黒どもを斬り滅ぼした。
中井出「おぉおおりゃぁああああああああっ!!!」
敵がこれでもかというくらいに接近した場合には双剣を長剣に変え、
両手持ちフルスウィングで薙ぎ払い、
開いた空間と時間を利用して、チャージ攻撃を行ってゆく。
黒 『るげぇええぅううっ!!!』
中井出「───!伯!!」
だが、どんなに注意していても隙なんてのは出来る。
その隙を、灼闇から召喚する伯に埋めてもらい、立て直すと同時に戻ってもらう。
消費は出来るだけ少なく、行けるところまで行く。
力は際限なく霊章内のユグドラシルから溢れてきている。
けど、使い続ければやがては枯れるかもしれない。
みすみす死なせてしまうくらいならばと灼闇で飲み込み融合させたナギーもシードも、
核とともにユグドラシルの傍に居てくれるドリアードも俺にとっては大事な仲間だ。
絶対に死なせない……その覚悟を貫くために、俺は絶対に死ねないのだ。
中井出「アトリビュートキャリバァアーーーーッ!!!」
双剣化させたジークから剣閃を放ちまくる。
もはや六閃化をしようが体力は減らず、思う様に能力を使い、敵を殲滅することが出来た。
だが俺の体はあくまで人間のもの。
ゲームの加護から離れた状態で、ずっとそれが続けていられるのかは不安ではあった。
中井出「エネルギー!全開!!ジュースティングスラッシャァアアアアアアアッ!!!」
キュボォオオガガガガアァアッ!!!!
閃光を帯びた突撃槍の攻撃が黒の山を破壊する。
が、その力が消え、
地面に着地するや巨人クラスの大きな黒が俺目掛けて巨大斧を振り下ろし───!
中井出「リングシールド!!《ゴガァッキィンッ!!》」
一呼吸保てばいい。
迫りくる斧を、虚空に出現させたリングシールドでほんの少しだけ受け止め、
ガシャア───と砕ける頃には体勢を立て直し、勢いを無くした斧ごと黒を斬滅する!
中井出「はぁっ───次!!」
問題があるとするならば疲労。
ゲームから離れたことで現れたそれは、今は平気だがやがては呼吸を乱し、
振るえる筈のものを振るえなくするのだろう。
弱音を吐きたくなったが、弱音ならもう吐いたのだ。
今更吐く弱音なんて必要じゃない。
中井出「奥義!双牙旋空衝!!」
長剣化させることで六閃化が解けていた長剣を双剣に変え、六閃化を発動!
即座に奥義を発動させ、地を踏みしめるように重心を落として剣閃を振り回す!!
炎風の剣閃が前方だけではなく後方にまで吹き荒び、
近寄ろうとする者全てを切り刻んでゆく!
イド 『チッ……なにをしているザコどもが……!』
そんな中で忌々しげにしながらも、一人動かない黒と赤が混ざった体色の精霊。
……それでいい、まだ動くな───!
余裕を見せてそのまま黒を流し続けろ……!
お前は黒でルドラと繋がっている……だったらここで黒を滅ぼし続けることは、
少なからずルドラの弱体化に繋がるのだから───!
中井出「はぁっ───《ギュリィッ!》つおっ───!?」
足首に圧迫感───双剣を振るいながら見下ろすと、足首に黒の蛇が巻きついていた。
そしてそれはドロリと溶け出し、地面と俺の足首から下を埋め尽くし、
身動きが取れないように───
中井出「甘い!ドンナー!!」
ヂガァォンッ!!
小細工を雷で破壊。
とはいえ一つの場所から動かないのは危険だと察知して、地面を蹴って上空へ。
フロートを使い、浮いたところでそれを追って黒たちが飛び上がってくる。
中井出「ははっ───いい風が吹いてるねぇ今日はァ!!」
その、馬鹿みたいに“俺を追う”ことしか出来ないそいつら目掛け、
双剣を戻し徒手空拳となった手を空に掲げたのち、真下に目掛けて振り下ろす!!
途端、その手から巨大な円盤状のソニックウェーブが幾重にも発生し、
上昇してきていた黒どもを一気に地面へと叩き落とし、捻り潰してゆく……!!
武具宝殿を得たことでスキルを発動する武具を選ばなくなった今、
ファフニールからだって風を巻き起こすことが可能。
武器を仕舞って油断させるつもりだったが、
想像した通り、命令通りに俺を襲うことしか脳がないらしい。
フェイントが無駄ならそれでいい……単純に潰し続ければいいだけだ。
……と思ったらそうでもないらしい。
やつら、小さい体では勝てないって踏んだのか合体してデカく───って!
どこの超合金ロボットだ貴様ら!!
巨大黒『グゥオオオオオオッ!!!』
巨人が二倍のデカさになって翼を生やしたみたいな不恰好な黒が飛んでくる。
一気に捻り潰そうって気らしいが───ところがどっこい死にません!
中井出「デカくなったのはむしろ好都合だ《キィンッ》───いっくぜぇえええっ!!!」
俺目掛け、斜め上へと突撃飛翔する黒!
ソレ目掛け、手に出現させたジークフリードを回転させて急降下してゆく!
手加減は───ごめん、アリだ。
中井出「黄竜剣!!」
ドギシャゴバァォオオオオンッ!!!!
───ザァッ!!
剣をブチ当てるや、刹那に微塵も残らず空中で分解、消滅した黒の先の地面に着地後、
即座に襲い掛かる無数の黒たちを双剣化させたジークムントとジークリンデ、
時にドンナーで斬り、蹴り、吹き飛ばしてゆく。
手が回らなくなれば灼闇を召喚、その状況に適した仲間の意思を宿し、
ジハード『はっはっはぁ!ルゥウォオオオオオオオッ!!!!』
キシャァィインッ───ドンガガガガガォオオオンッ!!!!
これを殲滅。
ジハードが創造した幾つもの極光レーザーが黒どもを吹き飛ばし、
そこに出来た道を走り、わざわざ追ってくる敵を見てジハードとともに笑う。
中井出「粉塵爆破ァッ!!」
ギャリィン!
キシャヴァボガガガガォオオンッ!!!!
元居た位置から走りきった位置まで巻いた粉塵が、
双剣を合わせることで発生した火花によって爆発する。
思い通り黒は吹き飛び、それを見ると愉快そうにしてジハードは引っ込んだ。
黒 『ギギャアアッ!!』
中井出「!とわっ───」
しかし敵さんも馬鹿じゃない。
傲慢魔人のイドだって、面白くなくなれば策を講じる。
敵さんが長柄の武器を手に俺の背中を狙ってきたのだ。
ギャギィンッ!!
ジョニー『ニャハハハハ……!おっと旦那ァ、それ以上はオイタが過ぎるニャ……!』
しかしそれを灼闇ジョニーが自前の刀で弾き、サングラスをゴシャーンと輝かせる。
それを確認した刹那に黒は武器ごとバラバラになり、
ジョニーは“ノリが悪かったニャ”と呟くと引っ込んでゆく。
……そうだ、俺は一人で戦ってるわけじゃない。
安心して背中を預けられるヤツがいっぱい居る。
霊章の中では今もドリアード、ナギー、ローラが自然を育み、
さらなるマナを生成しているだろう。
そのマナ生成に混ざり物が入らないよう、
シードとナーヴェルブラングが死の気配を飲み込んでいるだろう。
他のみんなだって、こうして俺を守ってくれている。
……俺が見た夢の中の記憶では、俺はナギーとシードを飲み込まずに戦わせ、失っていた。
その時の悲しみを、たとえ夢の中とはいえ俺は忘れない。
……生きなきゃいけない。勝たなきゃいけない……!
必ず勝って、未来へ───!!
中井出「連撃行くぜ!地+雷!地雷震!!」
ジークフリードのままで属性を封入、振り上げて地面に突き刺すと、
俺を中心に雷を帯びた地震が走り、黒どもにダメージを与えながら中空に吹き飛ばす!
中井出「火+氷!ヴォルカニックレイン!!」
続いて付加、解放!
空より雹の雨を降らせ、それに当たった敵を爆裂させてゆく!
中井出「雷+月!活心・伏龍!!」
さらに解放!
俺を中心に外側へと渦を巻くように螺旋旋回する金色の雷を召喚!!
宙に弾かれていた黒どもがそれを受け、さらに上空へと弾かれてゆく!
そして───!
中井出「紅蓮に炎!蒼碧に光!吹き飛べぇええ……!!シャイニングフレアァァッ!!!」
振り上げた紅蓮蒼碧から眩い閃光が放たれる!
レーザーでもなんでもないただの光───だがそれを浴びた黒全てが爆発を起こし、
雷鳴が響いている大空の下、稲光にも負けない轟音と光を放って一気に消し飛ぶ!!
イド 『…………な……に……?』
その様をイドはどう見ただろう。
ただの偶然?それとも実力?
ああ、そんなことはまあどうでもいい。
俺は心底疲れ、フラつくと地面に膝をついた。
ジークフリードを杖代わりにして立ち上がるが、体はフラフラなままだ。
イド 『ク───』
それを見て、イドは俺の状況を判断したようだ。
再び黒を湧かせると、
あっさりと666体(予測)となった黒の大群で俺を押し潰さんとする。
中井出(《にやあああ……!!》ひっかかったぁああ……!!!)
当然、弱った様子などフリである。
体は霊章から溢れ続ける然の加護で疲労のひの字すら感じていない。
だが疲れた風情を見せながら、敵を殲滅してゆく。
疲れているヤツを追い詰めて潰す、という状況に歓喜を覚えたのだろう。
時折に見えるイドの顔は喜びに満ちているようだった。
だからこその敵の姿。
大きな敵ばかりを出現させ、俺を捻り潰そうとしていた。
あたかも、虫にとっては巨大な少年が、その命を弄んで殺すかのように。
中井出「“排撃”!!」
キュドガバァンッ!!
まず一体目───振り降ろしてきた大きな拳に掌底を合わせ、徹しとボマーで爆砕。
続く横からくる大剣の一撃に意識を集中、
マナを気に変えて錬気し、それを空気にぶつけて圧に変換!
空気を押すようにして、躱すのではなくむしろ踏み込み───巨体を空気で投げ飛ばす!!
巨大黒『ギッ!?』
触れられてもいないのに宙に舞った自分に疑問を抱いたのだろう。
黒はヘンな声を出すと、真ッ逆さまに地面に落ちようとする身を庇おうとし、
中井出「羅生門!!」
ドゴォッパァアンッ!!!!
巨大黒『グゲェエアアァアアアアアアアッ!!!!』
頭が地面につくかつかないかのところで俺の双掌を胸に受け、
真横に吹き飛びながら火と風の属性に焼き刻まれながら爆発し、数体を巻き込み消滅した。
───その瞬間。
そこに出来た隙を逃さず襲い掛かってきた二体の巨体の片方が俺の体を掴み、
もう片方の巨体がその腕ごとをハンマーで砕かんとゾバァンッ!
巨大黒『ギ?』
いや……もう終わっていた。
ハンマーを持ち、振り上げていた両手が光線によって切断されている。
ミク 『はいはーい♪みなさんよーく聞いてくださいねー?
マスターを叩き潰そうなんて考えをするひどい人には───天罰です♪』
キィンッ───
まず聞こえたのが軽い音。
両腕を切断したのはカーネイジだろうか、なんてことを思った途端、
空から幾筋もの巨大な閃光が舞い降りて666体の巨体を飲み込み……
って次元衛生砲じゃねぇか!!
や、やめてぇええ!!こんなの間違ってくらったら僕死んじゃうぅうううっ!!!
ミク 『むっ!大丈夫ですよぅ!マスターは失礼です!
わたしそんなにドジじゃありません!』
いやあの心読まないでくだヂュガァンッ!!
中井出「ひぃいっ!?」
俺を掴んでいた黒と、叩き潰そうとした黒がすぐ横で消滅する。
支えを無くした腕とともに地面に落下した俺は、
少しの間だけ倒れた状態で、光の柱が降り注ぐこの絶景を眺めた。
ミク 『どうですマスター!ピンポイントアタックだって意のままです!』
中井出「あ、う、うん……そうね。でもね、なんか背中が火傷負ってるんだけど……」
ミク 『褒めてください!』
中井出「人の話聞いてる!?」
───倒れ、動こうとしない俺を、立つ力もない状態だと勘違いしたんだろう、
イドはさらに数を増やし、俺を押し潰そうとした。
それを確認するとミクは引っ込み、次いで出てきたのはシャモン。
月の大盤の力か、最初から守護竜モードで咆哮を発したシャモンが、
マナを増幅させることで急激に溜めた極光レーザーで、出てきた先から黒を破壊してゆく。
しかし敵が出す黒は出す場所を選ばないのか、
段々と面倒な場所からも現れるようになり、
再び包囲される頃には俺がシャモンを引っ込ませた。
中井出「はぁっ……ったく、休む暇も無しか……!」
既に立ち上がり、重たげにジークフリードを構える俺を、イドは愉快そうに見ていた。
いやまあ、重そうに見せてるだけだけど。
今の内にそうして余裕ぶってやがれ……絶対に吠え面かかせてやる───
中井出「すぅ……はぁ……───よし!!《バガァンッ!!》」
地面を蹴り砕き疾駆!
烈風で前に出た俺は滑り込むと同時に四閃化させたジークフリードで黒を薙ぎ倒し、
その一閃に合わせて一気に襲い掛かってきた黒を、続く振り戻しで叩き斬る!
次いで再び烈風を発動させ、連ねること四閃───!!
中井出「アルベイン流最終奥義!!」
一呼吸一呼吸の度に有り得ない速度で移動を続け、
およそたった一歩では届かぬであろう場所で黒が弾け、
その次の瞬間には別の場所で黒が弾け飛ぶ。
中井出「冥ッ空ゥウウッ───!!」
疾駆だけで既に音速の塊と化した俺の体はまるで弾丸。
斬りつけるまでもなく、ぶちかまされた黒は吹き飛び霧散していた。
中井出「斬ッ翔ォオオ剣ンンッ!!!!」
薙ぎ払う。
放たれる魔法も魔術も式も、法術だろうが砲弾だろうが矢だろうが、
全てを破壊し反射させ叩き落とし、敵が群れれば群れるほどその被害は増大し───!!
中井出「おぉおおおおりゃぁああああああああっ!!!!!」
火と風だけでは終わらない、
この世界で手に入れてきた様々な属性がジークフリードから放たれ、
黒どもをケシズミにしてゆく!
音速烈風でのぶちかましで吹き飛ばされていた黒ごと巻き上げ、
空中で切り刻みまくった先の上空。
そこで空間翔転移を発動させる。
転移系能力は封印されていると思っていたが、
どうやら晦以外が逃げてしまえばそんなものは必要ないと判断したんだろう。
空中から一気に地面へと転移した俺は、即座に属性を解放して構える。
中井出「永劫なる風よ!我が意思に集え!!───逃がさん!!」
元素と風を合わせた光をまずは空中に射出!
放たれた閃光の風は、
未だ空中に吹き飛んだままの黒どもより先の空へと至ると一気に破裂!!
光の矢を無数に降らせ、空中に居るる黒どもを射抜いてゆく!
中井出「皇舞!旋煌閃!!」
続いてその射抜かれている黒目掛け、荒ぶる風の剣閃を超速剣疾風斬にて放ってゆく!!
もはやペナルティも無し───何度疾風を放とうが烈風で駆けようが、
腕が動かなくなることも盲目になることもない!
黒 『キギャアアア!!』
中井出「っ!《ザグッ!》ぢぃっ!こんのっ───!」
しかし巻き込まれなかった敵が、技の終わりをわざわざ待ってくれる筈もない。
横から脇腹の皮膚を引き裂かれた俺は、
痛みに怯みつつも、低い体勢で俺を見上げてきた黒の顔面を“蹴り脚鋏殺し”で破壊!
崩れ落ちた体を烈風脚で蹴り飛ばし、
さらに襲いかかろうとしていた黒にぶつけて吹き飛ばす!
それを境に、敵の動きが大きく変わる。
力重視から速度重視になり、巨剣であるジークシリーズでは当てづらくなり、
少しずつ体を刻まれては傷を増やしてゆく……!
だったらと装備を変換、ファフニールとドンナーに能力を託し、
速度で翻弄しようとする敵を逆に追い、その顔面を殴り砕く!!
黒 『ギ、ギ───!?』
中井出「界王拳!」
ならばとさらに速度を上げようとする黒の背後に高速移動し、その背中を破壊。
後ろから迫った黒の顔面に肘鉄を埋めてやり、
身を翻すとともに延髄斬りをするように回し蹴り。
さらに迫った黒の拳を避けると同時に顔面を踏み台にして跳躍。
途端に狂ったように俺を追って飛ぼうとする学習能力のないやつらに目掛けてぇえっ!!
中井出「稲妻反転蹴りィイイイッ!!!」
雷を纏った雷迅蹴りで急降下する!
弾ける雷をまともにくらい、固まっていた黒どもが木っ端微塵になると、
着地をするやさらに休む間も無く属性を解放!
メテオレインを降らし、接近してきた黒を潰し、
隕石に宿る火属性が爆発を起こし、潰れた黒を塵と砕いてゆく。
そうして開いた敵と俺との距離をやはり利用し、力を溜めると───
舌打ちをしたイドがここで黒どもの強度を高めてさらに数を増やしてくる!
大きさは俺くらいだろうか───人型の頼りなさげなソレは、
しかし嫌な予感さえ感じる威圧感を以って……666体で襲い掛かってくる!!
中井出「ちょっ───」
勝てないとまでは言わないが、死ぬ思いだけはするわけにはいかない。
ゲームから外れたこの体がどれほどの痛みにまで耐えられるのか、俺は知らないのだ。
死にたくないとどれだけ思おうが、
急激に襲ってきたあまりの痛さに神経が死を選ぶ可能性だってある。
───だが焦ることはしなかった。
慎重に溜めた力を解きほぐすとジークフリードを手に出現させ、
合わせた属性の力を以って魔法でも魔術でもない、ひとつの技術を発動させる。
中井出「ミドガルズオルム!!」
まずは大地。
逆さにしたジークフリードの柄を両手で持ち、地面に突き刺す。
───途端、この世界が一瞬にして壊れたんじゃないかって思うくらいの地震。
地面が爆砕するような揺れの後に、
大地自体が黒を敵と見做したかのように衝撃を放ち、黒どもを攻撃。
中井出「大海嘯!!」
次に水。
地震により瞬時に行動できなかった黒たちを巨大な津波が襲い、飲み込んでゆく。
所詮水だなどと侮るなかれ、巨大な津波は鉄板くらいいとも容易く破壊する。
もちろんそれは喩えであり、
守護竜能力で放つこの津波の威力がその程度で終わる筈もない。
飲み込まれた先から微塵と化す黒も視認出来るほどの数だった。
中井出「フュンフレイジ!!」
そんな中で、翼があったために津波から逃れた黒目掛け、灼熱の火。
剣の先から放たれた五つの極炎レーザーは飛行能力のある黒を刹那に焼き殺し、
ケシズミにした。
中井出「波動風!」
マナが溢れる。
尽きることなく溢れるそれを思う様に使い、荒ぶる風の大砲を放つ。
まるでレーザーのような風が剣の先から放たれると、
横に飛ぶサイクロンにでも巻き込まれたかのように、
遠くに居た黒までもが巻き込まれ、黒同士ぶつかりながら風の奔流に呑まれ、塵と化した。
中井出「超電磁砲()!!」
続いて雷。
剣に込めた雷を高速を超える速度で放ち、
それを横薙ぎに振り回し、なおも突撃する黒どもを薙ぎ払ってゆく───!
だが、横に振り回すばかりでは空中にそれは届かない。
ちょっとした隙を突き、空から舞い降りるは竜の形をした黒のバケモノ!
俺を人飲みに出来そうな口を大きく開け、噛み付きにくる!
中井出「絶氷の膜!!」
だが歯が体に届くより先にシールド能力を解放。
その強度が許す限り、ありとあらゆるものを防ぐ氷の膜がそれを防いだ───途端。
この膜を瞬時に破壊するためだろう、黒どもはすぐに行動を変えると、
呪文を詠唱し、666体全てが一斉に膜目掛けて魔法を……!!
中井出「ホーリーレイ!!」
そんなものは却下だと、光の属性を解放!
ミクが降らせた次元衛星砲のミニチュアのような光が暗雲の隙間から幾つも舞い降り、
詠唱中の黒どもの悉くを破壊。
666体を滅ぼそうと降り注ぐ光の柱はまるで、
曇りから晴れへと移り変わる空の輝きを描いた絵画のように美しい。
だが当然、敵の数から考えれば全てをカバーできるわけもない。
膜に向けて魔法は放たれ、膜は20発も当たったら崩壊。
残る魔法の大群は俺へと降り注ぎ───!
中井出「アスピライザー!」
それら全てを、闇の属性……ダークドラゴンの体質変化能力で吸収する。
魔法吸収と呼ばれるそれは魔法の悉くを吸収し、
一度吸収した魔法は一切無効化させるという極悪能力を持つ。
さらに吸収した魔法は全て俺のものとなり、
中井出「カラップス!!」
振り上げた剣が招きし元素の雷が、吸収した魔法をさらなる力に変え、舞い降りる!!
その雷はあまりに巨大、あまりに広範囲であり、雷の巨大レーザーを彷彿とさせた。
固まっているとはいえ、この広い平原に存在する黒全てを飲み込むほどの規模の雷。
灰色の雷……と呼ぶよりは高速で渦巻くエネルギー体のようなレーザーが降り注ぎ、
それを浴びた俺以外の全ての黒を破壊していった。
イド 『………』
……そんな景色を、忌々しげに見る影がひとつ。
うすうすどこかおかしいと思い始めているのかもしれない。
振り返ってみれば一方的に俺が殺す場面ばかりが続き、
見ている者としては面白くないものがあったのだろう。
遊ぶのをやめたのか、今までの黒よりも密度の高い黒を数多く放ち、俺に向かわせた。
中井出「っ……!」
ぶつかり合う。
素早く振るわれた黒の剣をジークフリードで受け止め、人型の物体を押し退ける。
するとすぐ横からもう一体が襲い掛かり、
それを合図にするかのように四方八方より黒の群が───!
中井出「《ゾンッ!》くはっ!てめ《ザゴォッ!》いがぁっ!!」
数も速さも強さも、今までの比じゃあなかった。
視界を覆うくらいの数だっていうのに、
その行動の全てがひとつの行動であるかのように的確な連携。
反撃に振るう攻撃が容易く躱され、その隙を穿つように再び開始される連携。
見る間に切り刻まれていく自分の体に、どんどんと焦りが生じてくる。
イド 『ふふふはははははは!!やはりか!
大技が続くと思えば、どうやら死力を振り絞った悪足掻きだったようだ!』
笑い声が聞こえる。
確かにこの時点で急にこの強さは想定外だった。
もっと引き伸ばして、黒を削っていく予定だったというのに。
中井出「かっ!くっ!ぐううっ!」
刻まれる。刻まれる……!
抵抗をするが、そのどれもが容易く避けられ、攻撃が届かない……!
いや、届かないんだったらいっそ───!
中井出「ホズ!《キィンッ!》」
近接武器を霊章に沈め、腕にホズを召喚させる。
さらにミクをはちゅねバージョンで肩に置き、ビットを召喚して乱射!!
ユグドラシルで生成されているのは然のマナ。
それを無変換で放つため、威力は他属性への変換後よりも上!
さらにそこにジークフリードを始めとする様々な武具の属性を付加して放つため、
当たれば爆発を巻き起こし、氷結し、感電するといった、
様々な付加効果と破壊力を引き出す───!
だが当然のことながら、俺には剣の技術も銃の技術もありはしない。
今までのやつらは自分から突っ込んできて、
無造作に攻撃することしか知らないやつらだったからそのままでも平気だったが───
中井出「器詠の理力()!!」
足りない分は武具を頼る!
意識を集中させ、武具が教えてくれるままに体を動かし、ホズを乱射する!
中井出「ミク!敵は出来るだけ引きつけてから吹き飛ばせ!」
ミク 『はいっ!』
撃つ!撃つ!撃つ───!
後方180度をミクのビットに任せ、前方180度を俺が。
だがそうなれば上がお留守になり、案の定翼を生やした嫌なヤツが奇襲をかけてくる!
その途端に地上の敵も一斉に襲い掛かってきて、上へと攻撃を移すことが出来なくなる!
中井出「ミク!しっかり掴まってろ!───ハイパーアーマー発動!」
ザガガガガガンッ!と一斉に切り込まれるが、既にVITはマックス。
地上でいっぺんに攻撃できる数なんて精々で8程度。
その攻撃をまず受け止めたのち、他の黒からの攻撃が届かないことを確認すると、
ステータスを一気に攻撃へと転化!
ホズを沈め、手に出現させたジークフリードをブン回してぇええええっ!!
中井出「ブッ飛べカラミティイイイイイイイイッ!!!!」
自身を回転させながらの全力両手持ちフルスウィング!!
同時に放たれるエクスキャリバーが、今が好機と押し寄せ、
ぎゅうぎゅう詰めになった黒どもを逃すことなく一瞬にして破壊する!!
飛翔黒『ギッ!?《ザゴォンッ!!》』
それが済むや飛んできたきた黒を頭から股の先まで両断し、塵にする。
これで再びイドのみとなる現状……───イドは無傷で、俺は既に傷だらけのボロボロだ。
息も荒く、それこそこのままブッ倒れて休みたいと思うくらい。
それでも敵は黒を召喚する。
どこまで粘るのか見てみたくなったのか、
確実にダメージを与えていることに愉快さを覚えたのか。
真意は解らないが、再び召喚された黒の数はおよそ倍。
考えなしに貯蓄してある黒を片っ端から出したような、
大きさも武器も不揃いの……そう、
空界や狭界で見られるようなモンスターたちを、一気に解放してきた。
中井出「すぅ……ふぅ……!」
大丈夫、まだ頑張れる。
みんなはもう脱出できただろうか……今となっては確認の方法はない。
いや、きっとまだだろう。
こいつらの狙いはそもそも晦。
あいつが回復した時点でイドたちに囲まれている、というのがノートン先生の予測だった。
中井出「おぉおおおおおおっ!!!!」
剣を振るう。
紅蓮蒼碧の巨大長剣……初心者修錬場の頃からの付き合いであるグレートソードとともに、
俺達が生き、楽しみ、頑張ってきた証があるこの大地の上で、
それを破壊しようとした敵と向かい合い、死力を尽くす。
なるほど、世界を破壊する魔王から自分の世界を守ろうとする勇者ってのは、
きっとこんな気持ちなのかもしれない。
黒 『ギキャァアアアアッ!!!!』
───然の塔が脱出口になることは夢で知っていた。
あそこに転移装置があることも、そこが武具を置いていかなきゃ通れないことも。
全てはルドラの思惑通りであり、ドリアードが知らないとなれば、
あの武具を弾く見えない壁を仕掛けたのはルドラだろう。
けど、知っていたからこそ小屋の中でノートン先生に頼んだ。
武具は全てこの世界に置いていくことになるだろうから、
現実世界で武具たちのバックアップをコピーしておいてくれ、と。
もしこの世界で晦が仕留められなければ、やはり現実世界でも戦うことになる。
そうなれば多少なりとも力を持った俺達は邪魔な敵でしかないのだ。
だからこその武具を通さない壁。
あれだけの強さの武具たちをコピーするとなれば、
ノートン先生の負担もかなりのものだろうが───未来へ辿り着くためだ。
今は無理してでも通してもらう。
中井出「はっ!せい!おぉりゃ!くあっ!づあっ!おぉらあああっ!!」
速度型ではなく突進型の黒をジークフリードで斬り刻み、
速度型の黒をミクのビット、飛行型の黒を灼闇レイナートの重火器が落とす。
操られていたとしても、さすがは機械王とか言われただけはある。
レイナートの射撃スキルは高く、結構な速度で飛び回る敵も的確に撃ち落としていた。
霊章から燃え上がる灼闇───
それが俺の頭上で人の形を造り、敵を撃ち落とす様はまあヘンではあるが。
中井出「はぁっ……!」
敵の数は減らない。
一撃で確実に仕留めているというのに、
一撃で二体以上を一気に刻んでいるというのに、減るどころか増える一方だ。
それに比例するかのようにこちらの傷も増える一方で、
段々と、だが確実に回復速度を上回らんとする攻撃に焦りを感じる。
キャリバーで一掃しようが、またすぐに黒は溢れかえり、景色を埋めてゆく。
まずい……!このままじゃ押し潰される……!
こいつら火円シールドの爆発も無視して突っ込んできやがる……!
痛覚がない分、どこまでも無茶を続ける敵ってのはこれだから!くそっ!
中井出「だったら速度を上げるだけだ!Vシステム!」
唱えた瞬間、体に蒼白い光が灯る。
V-MAXのコスミックレイヴの膜が俺を包み、能力を向上させる。
中井出 「暴れるぞ二人とも!よぉおく狙えよぉおおっ!!」
ミク 『はいっ!』
レイナート『望むところだっ!』
爆発するように地面を蹴り、走るというより飛翔する!
それにより疾駆だろうが跳躍だろうが、
着地時にどうしても生まれる隙を心配することもなくなり、
黒を刻みながらでも即座に振り向ける状況を完成させ、
低空を飛翔しながら斬り刻み、撃ち落とし、破壊し、塵にする!
それでも減らない数にいい加減頭を痛めるが───まだだ。
やれるところまで全力で突っ走る!
中井出「っ……はぁ、はぁっ……!」
とはいえこれだけの速度で攻撃をし続けるのは、どれだけ癒しが強かろうが疲労を齎す。
さらに先の見えない戦いに心が折れそうになり、
俺はそれを改めるためにも一度上空に逃れ、息を───整える暇もありゃしない。
黒 『ルゥウォオオオオオオオオッ!!!!』
地上に居た黒どもが翼を生やし、俺を追ってくる。
何度目だ、この状況……。
中井出「このやろっ……追うなら女の尻だけおっかけてろよ!オトコノコでしょ!?」
性別なんか知らねーけどさ!
中井出「紅蓮に元素!蒼碧に月!全力で行くぜ───重力100倍!!」
だったらその上昇の力ごと潰してやる!と、発動させるのは重力のキャリバー。
見下ろす一面の黒の大草原が一気に押し寄せる景色の中、
視認できる範囲へと一気に降ろす超重力。
灰色になった空気が黒の大草原へと放たれると、
上昇してきていた黒たちが嫌な音を立てて空中で折れ、
地面に落下すると粉々になるまで圧し潰されてゆく。
イド 『……フフ……ククク……』
次いで放たれる黒は巨大なドラゴン。
サウザンドドラゴンほどもあろうかという巨体を召喚し、
俺をギシャゴバァォオオンッ!!!
イド 『……、なに……?』
……狙おうとした瞬間。
召喚した途端に黄竜剣で斬滅してみせると同時に着地。
生憎と竜殺しには特化している……今更竜を出したところで、むしろ歓迎できるくらいだ。
イド 『なるほど、竜殺しに長けているのかその武器は。
スピリットオブノートが考えそうなことだ……』
中井出「───」
一瞬、考えていることと同じようなことを言われて、息を飲んだ。
心を読まれているのか、と。
けどそうじゃない、あいつは現状を確認しただけだ。
ニヤリと笑うと、今度はゼプシオン級の巨人を召喚し、向かわせてくる。
しかし相手は一体。
疾駆とともに乱暴に振るわれた巨剣をとりあえず弾こうとジークフリードを振るうが、
あろうことか弾こうと振るったジークフリードごと自分の体が弾き飛ばされ、
吹き飛んだのちに無様に地面を転がった。
中井出「い、ぎっ……!《ビリビリ……!!》」
なんて力してやがる……!
ジークフリードを伝った衝撃だけで手が痺れてる……!
巨人 『ゴォオオオオオオオッ!!!』
中井出「は、はは……」
……まずいなぁ……なんとかなるって思ってたの、考えが浅すぎたかもしれない。
迫る巨人を見て、そう思わずにはいられなかった。
けど、思うだけで口にはしない。
弱音は、もう置いてきたのだから。
イド 『ククッ……ハッハッハッハッハ!!
頑張ったようだがここまでのようだな!それともなんだ!?
まだ力を隠しているのか!?だったら今の内に見せておけ!
どうせもう二度と解放することなど出来なくなる力だ!』
中井出「……」
イドが笑う。
離れた位置で腕を組みながら、初期の頃のベジータを彷彿とさせる風情で。
……いいぜ、だったら───何処までだって付き合ってもらう!!
ガンババババォオオオオンッ!!!!
イド 『───、……なんだ?』
灼闇と風が巻き起こる。
俺の体を中心に、火円シールドから巻き起こった灼闇の炎風が、
俺を包み込み───やがて。
バルバトス『ぶぅううううるあぁああああああああっ!!!!』
その炎風自体が、生まれ出でた魔人によって切り裂かれる。
イド 『なんだ……!?変身能力……!?───やれ!さっさと殺せ!!』
イドが巨人に命令を下す。
即座に振るわれた巨剣がバルバトスを襲うが───
バルバトス『クゥウウズがぁあっ!!』
けたたましい轟音とともに、その巨剣が容易く砕かれる。
衝撃により黒の巨人がたたらを踏むが、
バランスを崩したその足こそが切断され、巨体が地面に転がる。
だが黒はすぐに形を崩し、
そこに預けられた力分の数の黒となり、大勢でバルバトスに襲い掛かる。
バルバトス『微塵切りだぁ……ジェノサイドブレイバァアーーーーーーッ!!!!』
だがそんなものは有象無象でしかない。
凶々しい斧から放たれた灼闇の波動に飲まれ、その全てが微塵と消える。
イド 『なんだと……?フフ、なるほど、それが奥の手か。
ならば試してやろう……その足掻きが何処まで続くか』
言葉通り、イドは次から次へと自分の影から黒を吐き出す。
思えばこんな能力を精霊全員が身につけていたら、
シェイドの立場ってとことんないんじゃなかろうか。
そんなことを思っている間にも戦いは続き、出るたび出るたび黒が斬滅されゆく。
数で攻めればジェノサイドブレイバー、力で攻めれば三連殺。
そんなことを幾度も幾度も繰り返し、舌打ちしたイドが黒の巨大なバケモノを召喚する。
それはまるでデスゲイズのようで、しかしそれよりもよっぽど凶々しい力を持っていた。
目の前にするだけで、見上げるだけで解る……
ぐちゃりどちゃりと骨と崩れる肉だけの巨大な人型のバケモノの強さ。
イド 『こいつは今まで宿主が見てきた、
過去より未来の最果てまでの死した者たちの躯の塊だ。
俺は生き物の死を食い、力に変える。この意味が解るな?
こいつはその“力そのもの”だ。俺を構築する“世界”ともいえるもの。
どれだけ足掻こうが人間一人の力など1000年分の躯があれば十分。
だがこの躯は億以上もの年月の中で死した生き物全ての塊。
───どう足掻いたところで貴様などでは勝て───……?なにを───』
バルバトス『ワァアルドデストロイヤァアアッ!!!』
イド 『……フン?なにをするつもりか知らんが』
ギガァッシュドッガァアアアアンッ!!!!
───……ゴコッ……バラバラ……
吹き飛ぶ。
たった一発の攻撃で、ご自慢の世界とやらはケシズミになっていた。
イド 『……、なん、だと……!?一撃……!?馬鹿な!
たった一年で生き物がどれほど死ぬと思っている!それを億だぞ!?
億にも至る年月の中で固めた躯が───こんな……!!』
世界、と唱えた時点でその世界の命は終わっていた。
べらべらと御託を並べているうちに溜めていたワールドデストロイヤーによって、
自慢げだった躯の世界は終わりを告げる。
そうなればイドの力も極端に落ち、なにもしていないというのにイドは息を荒げていた。
イド 『馬鹿なっ……こんな……!こんなことが───!!
おのれぇえええええええええっ!!!!』
もはや埒もなし。
イドは今度こそ自ら攻撃を仕掛けてきて、
それを迎え入れるどころか自らも突撃するバルバトスと正面から激突する!!
イド 『《ギシィッ!》ッ……チィイイ……!!お遊びが過ぎたか……!!
人間ごときを押し退けられんとは……!!』
バルバトス『ふははははははは!!もっと楽しもうぜぇえ……この痛みをよぉおっ!!』
イド 『フン、馬鹿を言うな。
何故俺が貴様のような人間との小競り合いに付き合わなければならない』
トンッ───
斧と腕とがぶつかり合う中、イドのもう片方の腕が伸ばされ、
バルバトスの胸───心臓部分に突きつけられる。
なにを……と思った次の瞬間だった。
イド 『死の精霊が命ずる。“死ね”』
ドクンッ……!!
バルバトス『……、ガ───《ガシャァアンッ!!》』
たった一言、命令されただけで心臓が止まり、バルバトスモードが強制解除される。
まるでガラスが砕けたような音とともに容姿が砕け、
その衝撃に弾き出されるように後方に吹き飛んだ俺は、
物凄い疲労感とともに着地点にそのまま膝をついた。
イド 『……変身能力とは違うのか?
どうやらあの姿自体に命があったようだが……まあいい。
その様子では今のは本当に奥の手だったんだろうよ。
無様だなぁ……えぇ?地界人』
中井出「がっ……はぁ!はぁあ……!!はっ……ぐ、っは……!!」
息が荒れる……くらったのが変身してる最中で良かった……!
あんなの普通の状態でくらってたら間違いなく死んでいた……!
つーか……くっそバルバトスの野郎……!
いくら力が汲々され続けるからって無茶な使い方ばっかしやがって……!
お陰で……フリじゃなくて本気で体が……!
イド 『……ここまでか。では死ね。なに心配するな、すぐに晦悠介も送ってやる』
イドが、膝をついて立ち上がれない俺の前へと歩き、立ち止まり、腕を振り上げる。
見上げれば凶々しい色の腕が鋭い血の剣に変化し、
それを振るわんとするイドの狂気と歓喜に満ちた顔がそこにあった。
───たとえばたったひとつ。
振るわれる。
あれが頭に落ちれば俺は死ぬだろう。
たったひとつだけ、強すぎる敵に対抗する手段……───いや。
血の色をした真っ赤な剣に引き裂かれ、自分の血がどれかも解らないまま死ぬのだろうか。
確実に殺す方法があるのなら。それはザゴォンッ!!
イド 『…………あ?』
腕が飛ぶ。
俺のではない、深紅に染まった血液の剣を作り出していた腕が。
───それは、敵が勝利を確信して油断した時だ。
イド 『きさ《ゾボォッ!》げはっ!?』
腕を切り落とした刹那にジークフリードの向きを変え、
烈風で地面を蹴り弾き立ち上がると同時にイドの心臓を穿つ!!
そしてイドが力を解放するより速く全力解放ォオオオッ!!!
中井出「くぅうたばれぇえええええええっ!!!!」
ギシャゴバァォウンッ!!!
ズガァアガガガォオオオンッ!!!!
心臓に突き刺したジークフリードからあらゆる属性を解放!!
内側から爆砕し、散らばる肉片全てをホーリーレイで微塵と砕き、全てを掻き消す!!
コォオオォォ…………ォォ……ゥン…………
中井出「はあっ……はぁあ……!!」
そして、全てが消えた。
精霊の中でも慢心だらけのイドが相手で良かった、って……今は思うべきなんだろうか。
……最初っから狙いは一つだけ。
如何にイドを油断させ、余裕を持たせるか。
土壇場まで追い詰めてわざと逆転させて、
こちらの力が尽きたと思わせる……その瞬間こそが、
誰にとっても油断の瞬間であることを、俺は知っていた。
そう……全ては今の一撃のために。
中井出「はぁ………………ふぅ。……は、はは……く、っはははは……!!」
……終わった。
この世界で死ぬ者はもう居ないだろう。
ルドラが別の精霊を送ってくるならまだしも、こうしてイドを倒した今、
とりあえずはこの世界から全員脱出できるはずだ。
俺も、晦も。
そう思ったら、未来へ辿り着けると思ったら自然と頬が緩む。
中井出「よっしゃぁあああっ!!!どうだルドラァァアッ!!
俺は運命に勝《ズボォ!!》───、…………え……?」
……だから、油断をしてしまったんだ。
土壇場で、気を引き締めていなきゃいけなかった場面で。
ここだけは間違っちゃいけなかったって場面で、俺は───
中井出「あ……、れ………………なんで……俺…………」
自分の腹から血まみれの腕が飛び出ていた。
それは俺の背中から腹にかけてを貫通していて、
治そうとしても腕が抜けなくて、癒すことも出来ず───
声 『ギ、ガグ……!オ、ノレ……オノレ……!!
コノ俺ガ……!キサマノヨウナ人間ニ……!!』
中井出「……、イ、ド……!?がはっ!」
…………全てが、繋がった気がした。
夢の中、どうして俺の腹には風穴が空いていたのか。
どうして俺は塔の中で黒と戦っていたのか。
その全てが、今。
中井出(なんだよ……じゃあ……)
俺は運命に勝ててなどいなかった。
振り下ろされたイドの腕を切り落とし、
それを破壊しなかった時点で───俺の負けは確定していたのだ。
腕 『ミチヅレダ、貴様モ……!苦シメナガラ殺シテヤルゾ……!!
貴様ハモウ、辿リ着キタイ場所ニスラ辿リ着ケンノダ───!!』
中井出「《メキィッ!びしゃっ!!》がっ───ぎあぁああああああああっ!!!」
血を吐く。
内臓がメキメキと締め付けられ、癒したいのに癒せない痛みに胃の中のものをぶちまけ……
あまりの痛みに立っていられなくなり、
やがて───俺は体に巡り始めた死の気配に悲鳴を上げ───
中井出(ちくしょう……!ちくしょ……ちくしょおお……!!)
届くかもしれないと伸ばした手も未来に届かないままに、その場に倒れ、意識を失った。
Next
Menu
back