───冒険の書20/ファンタジーの価値観───
【ケース116;穂岸遥一郎/バトルブレイバーロマネスク】
雪音 「ふんふふんふーん♪るんららー♪」
近況報告……面倒だったから国から出た。
完。
雪音 「はううーー!やっぱり国に縛られてるより自由に動けるのが一番だよー!」
そして今日も元気な触覚娘。
名を観咲雪音。
さっきから目の前をチラチラと揺れる触角が気になってしょうがない。
試しにズビシィとデコピンで弾いてみた。
触覚 『ミギャアアアアーーーーーッ!!!!!』
遥一郎「フオッ!?」
しおしおクシャア……
すると、触覚がしおしおになってくたりと倒れた。
さらに観咲までもが生気を失った顔でドシャアと倒れ───!!
───……。
がばぁーーーっ!!
遥一郎「ヤな夢見た!!」
ハタと目覚めると、戦闘終了後の景色。
……たはー、そうだった。
さっき戦ったマタンゴに眠り胞子かけられて眠っちまったんだっけ……。
雪音 「ホギッちゃんダイジョブ?わたしの手、何本に見える?」
遥一郎「千本」
雪音 「わたし千手観音じゃないよぅ!!」
遥一郎「しかしだな観咲。千手観音ってのは本当は千本も手は無いんだぞ?」
雪音 「えぇっ!?そうなの!?サギだよ!豆知識な上に詐欺だぁっ!!
わ、わたしちょっと行ってトリビアの泉に逮捕状出してくる!」
遥一郎「落ち着け。トリビアの泉は人を逮捕したりしないから」
雪音 「あれ?そうだっけ……あれ?えと……なんの話してたんだっけ」
遥一郎「観咲。俺の腕は何本に見える?」
雪音 「えと……二本?」
遥一郎「実はその内一本は義手だったんだ」
雪音 「えぇえええっ!?そうだったの!?」
遥一郎「ウソだ」
ドシャア!
あ、コケた。
雪音 「ホギッちゃん!そういう性質の悪いウソつくの禁止!
わたしのやさしさは有料なんだよー!」
遥一郎「じゃあ要らん」
雪音 「うわ、即答」
遥一郎「俺は無償の優しさだけが欲しいんだ。有料は要らん」
ノア 「もちろんですマスター。
わたしは誠心誠意、全てを無償でマスターに捧げる覚悟です」
雪音 「わわ、大胆発言だよ……それって体も捧げるってことかな?ことかな?」
ぼごすっ!
雪音 「んきゃあうっ!!いっ……たぁーーーい!!ホギッちゃんなにすんのさー!!」
遥一郎「ゲンコツ」
雪音 「そ、そうだけど、そういうこと訊いてるんじゃなくてぇ!!」
ノア 「身も心も捧げる覚悟はありますが、邪な考えを抱くのなら容赦は致しません。
解っていないようですから教えてあげます。
メイドとは……主人の邪な欲望の捌け口ではありません。決・し・て・です!!」
雪音 「あ、あわわ……」
ノアの鋭い眼光の迫力に迫られ、さすがの観咲もカクカクと頷くだけだった。
ノア 「解っていただけたのなら結構です」
目を閉じて、どこか嬉しそうな顔で息を吐くノア。
そして俺が思うことはいつもひとつ。
……ノアっていつからメイドだったんだろうか。
それ一点のみだった。
俺はメイドを雇った覚えはこれっぽっちも無いんだけどなぁ。
雪音 「それはそうとホギッちゃん」
遥一郎「ん……なんだ?」
雪音 「一度訊いてみたかったことがあるんだよ。いいかな」
遥一郎「ダメって言っても話すんだろ?なんだ?」
雪音 「うん。えっとさ、メイドさんを従えてる男の子の気持ちって……どんなの?」
遥一郎「知らんが」
即答した。
雪音 「えぇっ?なんでさー」
遥一郎「俺はメイドを雇った覚えなんて無い。それが理由だ、まいったか」
雪音 「……ホギッちゃん、まだ寝惚けてる?胞子が脳に達しちゃった?」
遥一郎「なに、仮にそうだとしてもお前の満開桜脳には負ける」
雪音 「んぅぅ?……それってなに?どういう意味?」
遥一郎「お前の馬鹿さ加減には負けるって意味だ」
雪音 「うぐっ……ガッデムー!!」
サクラ「気になるです。なんで雪音はガッデム言うです?」
澄音 「それはね、子供の頃雪音が初めて覚えた英語だからだよ」
雪音 「わわわ澄ちゃんバラしちゃダメヨー!!」
なんでエセ中国風なんだ?
遥一郎「あ……そういや蒼木と観咲の馴れ初めって聞いたことがなかったな」
澄音 「僕と雪音の出会いはね、僕がまだレイラと出会う前。
散歩してる最中に拉致魔に攫われそうになった時、
雪音が助けてくれたところから始まったんだよ」
遥一郎「……役柄が性別的に逆な気がするが」
雪音 「それ以前にウソだよぅ!!
ホギッちゃんどうして澄ちゃんの言葉だとそんな簡単に信じちゃうの!?」
遥一郎「格の違いってやつだな」
澄音 「実はね、今の言葉は閏璃くんに
“こう訊かれたらこう返せ”って言われてみて言ったことなんだ」
遥一郎「あいつか……」
閏璃凍弥。
知らない仲じゃないが、イマイチつかみ所の無い男である。
性格は……きっと観咲に似てるだろう。
遥一郎「えーと……?tell 閏璃凍弥……っと」
───…………ピピンッ♪
声 《モォ〜シィ〜モォ〜シィ〜?》
遥一郎「なんで第一声が天然声オウムなのかは知らんが……元気かー?」
声 《はっはっは、たった今仲間に殺されたところだ。
今神父がありがたい説教してくれてるけど、聞く?》
遥一郎「いや、いい」
声 《そうか、残念だ。それで……なんか用か?ていうか敵国にテル入れて大丈夫か?》
遥一郎「そこんとこなら安心しろ。既に俺達は国を見限って自由の身だ」
声 《そうなのか。こっちは無料ルルカパスってのと、
5G$をミッションの報酬で貰ったところだ》
遥一郎「へえ……国の仕事にそんな報酬があったのか」
声 《ちなみに俺の5G$の半分は、俺を殺した来流美の手に渡ったようだ。
なんか25P$しか無い》
遥一郎「そりゃ災難だったな……」
声 《……よし。今からちょっと暗殺して奪い返してくる。じゃあな》
遥一郎「え?いやちょ───暗殺って……」
タタタタ……
雪音 「……ホギッちゃん?」
遥一郎「………」
俺は黙って観咲に“静まれィ!”のゼスチャーをする。
ややあって……
声 《あ、あら凍弥……戻ってくるの早かったわ───》
声 《死めぇええーーーーーーーっ!!!!!》
声 《ね───ってちょ、あわぇぁああーーーーーーーーっ!!!!》
ドゴロシャバキベキドガボスドゴゴシャッドゴッ……ゴシャッ……
…………。
閏璃が切り忘れた通信からは、ただ激しい攻防を繰り広げる音ばかりが聞こえた。
そして……
声 《はあっ……はあっ……!……お前は強かったよ……だが間違った強さだった》
声 《ていうかさ、閏璃くん。普通にお金を受け渡しすればよかったんじゃないかな》
声 《いや、来流美なら金を渡すと見せかけてスイング式DDTくらいかましてくる》
声 《どういう不意打ちなんだよそれは……》
声 《まあともあれ金も取り戻したし……あれ?375S$……?》
声 《倒すと半分取れるなら、まあそうなるだろうなぁ……》
声 《凍弥ぁああーーーーっ!!!》
声 《わっ!もう復活してきた!!》
声 《ふっ……ふはははは!来るがいい金の亡者めが!貴様の金はここだ!
俺に勝てたらこの金……貴様にくれてや》
ボゴルシャアーーーーッ!!
声 《ゴフぇェあぁあァアアーーーーッ!!!》
声 《ああっ!偉そうなこと言ってた割に一撃で!》
声 《戦ってから回復なんてしてなかったからな……》
声 《喋り途中だったのに……可哀相に》
勝負は一瞬でついたらしかった。
ていうか不毛そうなので通信はもう切ることにした。
サクラ「与一、これからどうするです?」
遥一郎「どうするって言われてもな」
雪音 「サイナートさん裏切ったならもうあの国には居られないよね」
遥一郎「サイナート、レイナート、レックナート……
まったく、兄弟喧嘩世界ってのも如何なもんかな」
澄音 「最初に聞いた時は驚いたね。まさか三国の王様が三兄弟だったなんて」
遥一郎「覇権者争いに巻き込まれる身にもなってほしいな」
雪音 「あぁ、だったらさホギッちゃん。いっそのことみんなでひとつの国に集まる?」
遥一郎「……?集まってどうするんだ?」
雪音 「世界征服ーーーっ!!」
遥一郎「…………」
こりゃまた大きく出たもんだ。
だがここで訊ねなければなるまい。
遥一郎「ほほう。それでお前は世界を征服して、どうする気だ?」
雪音 「世界のあらゆる珍味を用意してもらって、世界の面白いゲームをやって、
全てわたし優先で回ってもらうんだよー!!」
はううーー!!と、倒れかねん勢いで伸びをするように両手を掲げ広げて叫ぶ観咲。
俺はそんな観咲の頭をポムと撫で、言ってやった。
遥一郎「……お前、半端な魔王よりも世界征服者の素質あるわ」
と。
目的も無しに“征服してやるぞー”ってのが一番性質悪い上に虚しいだろうから。
観咲は俺に撫でられた箇所に手を当てて、
複雑そうな顔をしていたが……特に気にするでもなく、またはしゃぎ始めた。
澄音 「元気だね」
遥一郎「元気なヤツほど征服者には向いてるんだろうな。
解らないっていうんなら、一日だけでも王様になってみればいい」
澄音 「あはは、それは雪音に丁度いいかもしれない」
遥一郎「………」
イメージしてみる。
観咲が王になり、ひとつの国を治めるその様を。
………………。
遥一郎「……いくらイメージしてみても、荒廃した国しか頭に浮かばないんだけど」
澄音 「あっはははははは、穂岸くんは正直だなぁ」
遥一郎「そこで笑い出す蒼木も、相当にな」
澄音 「あはははは、そうだね、ははは、そうかもしれない」
蒼木にしては珍しく笑う。
というか……どうやら妙なツボに入ったらしく、涙を流しながら笑っている。
本当に珍しい状況だ。
雪音 「はうっ!澄ちゃんが泣いてる!?おのれホギッちゃん!澄ちゃんになにをした!」
遥一郎「漫談をひとつ」
雪音 「……澄ちゃんって落語好きだったっけ?」
遥一郎「微妙に違うが」
ノア 「それよりマスター。これからの行動を教えていただけますか?」
遥一郎「や、俺よりもさ。ここはレイチェルの姐さんに」
レイラ「わたし……ですか?」
澄音 「うん、頼むよレイラ」
レイラ「はあ、あまり気は進みませんが……そうですね。
ではセントール王国に行ってみますか?」
遥一郎「セントール……ってことは閏璃たちと合流するってことか?」
レイラ「雪音さんの意見ではありませんが、
知り合い仲で争うよりも一緒に楽しんだほうがいいのでは、と」
遥一郎「なるほど」
雪音 「はいはいはーい!わたし閏璃くんとは戦ってみたいよー!」
わはー!と両手を上げつつ楽しそうな観咲が会話に参加した。
遥一郎「どうしてお前はそうアグレッシヴなんだ……」
雪音 「ホギッちゃんヒドイ!
ファンタジーに来たんだから一度は誰かと戦ってみたいんだよぅ!」
遥一郎「そっか。俺は……戦ってみるとしたら原中の提督を狙いたいな。
あたかも某ゲームの某バリスタで某団長が某サブリメンに襲われるが如く」
雪音 「んぅう……?なにそれ」
遥一郎「秘密だ」
言って、草原に座らせていた身体を起こして伸びる。
……ふう、さて。
遥一郎「よし。レイチェルの姐さんの提案通り、セントール王国にでも行ってみるか?」
雪音 「えぇ……?また国に縛られるのなんてヤだよぅ」
サクラ「フリーマンがいいです。潜在能力発動中に攻撃されると
“ウゥーーッシャシャシャシャシャシャア悶えろォ”です」
雪音 「うーん、フリーマンだね」
サクラ「極上の死に感謝です」
遥一郎「一部の格ゲー好きにしか解らないネタはいいから。
えっ……と……ノアからなにか意見はあるか?」
きゃいきゃい騒ぎ立てる観咲とサクラの頭をポムポムと叩いて落ち着かせつつ言う。
と───直立不動のまま目を閉じて黙っていたノアが目を開き、
ノア 「それではマスター、わたしの意見を述べさせていただきます。
……わたしとしては、
同じく自由の身である方を探してみるのも悪くはないのではないかと思います。
同じパーティーになると統率が取れなくなりそうなので仲間にはならず、
今のような人数のまま、連絡を取り合って冒険をしてゆくのです。
そしてゆくゆくは自由人のみの勢力で全ての国家を潰す……というのは」
遥一郎「最後の国家潰しはいらない」
ノア 「……失礼いたしました。では冒険者と連絡を取り合うというのは───」
遥一郎「うん、いいと思う。戦うだけが冒険じゃないんだし。
というわけで、この世界の各地を回って
いろんなものを見る旅を決行したいと思うんだけど……他に意見のある人」
雪音 「はいやー!」
遥一郎「手を挙げる時は“はい”でいいから。……で、どうした?観咲」
雪音 「人とのバトルは?しないの?」
遥一郎「急がなくても、襲われたら返す方向でいいと思う。
これからいろんな場所を旅するんだ、絶対に盗賊団とかに出くわすと思う。
そうなった時に観咲がどれだけ強くなってるかだよ」
雪音 「あ……そっか。ホギッちゃんてやっぱりよく考えてるんだね」
遥一郎(お前が考え無しすぎるんだろ、と言いたいところだが……)
せっかく納得してくれたんだ、波を立たせる必要もないだろう。
そう思うと、俺はもう一度観咲の頭の上でポムポムと手を弾ませ、歩き出すことにした。
雪音 「えっとホギッちゃん?もちろんモンスターとかとは戦っていいんだよね?」
遥一郎「ああ、遠慮なくだ」
雪音 「うん、それでこそホギッちゃんだよー!」
遥一郎「……どういう意味だそりゃ。
俺は貴様ほどアグレッシヴに生きた記憶は無いんだが」
雪音 「気にしない気にしない」
とたたたた……と先へと駆け出す観咲。
まだ行き先も決めてないんだが……いいのか?
澄音 「雪音ー?行き先も決めてないのに何処に行くんだーい?」
と、俺の考えを代弁するかのように声を上げる蒼木。
その声にハタ、と動きを止めて振り向く観咲だったが───
雪音 「フリーマンに行き先なんて関係ないよー!!」
元気満々でズビシィと奇妙なポーズを取られると、ああ確かにと思ってしまった。
まあ……そうかも。
なににも縛られてないなら、
これから先も何事にも縛られず、行き先も決めず、風任せに生きるのもいいだろう。
雪音 「風来坊〜!風来坊〜!ふ〜んふ〜んふふ〜ん♪」
遥一郎「チャン=コーハンの鼻歌の真似か?」
雪音 「違うよぅ!!」
遥一郎「そか。じゃあノア、サクラ、行こうか」
サクラ「はいです」
ノア 「マスターのお心のままに」
澄音 「レイラも、ほら」
レイラ「はい、澄音さん」
蒼木が差し出した手に、レイチェルの姐さんが手を絡める。
俺はそれを微笑ましく眺めながら、やがてゆっくりと歩き出しガシィッ!!
遥一郎「だわぁっと!?」
サクラ「………」
突如、何を思ったのかサクラが俺の背中にしがみついてきた。
抱きつく、とかではなくしがみつき。
まるで背負うことを強要している子供のように……
ノア 「サ、サクラ!あなたマスターになんてことを!」
遥一郎「あ、あー……いや、いい、いいからさ、ノア」
ノア 「ですが……!」
いつまで経ってもサクラはサクラ、ノアはノアだ。
俺としてはもうちょっとしっかりしてほしいんだが、童心に帰るのは悪いことじゃない。
俺は背中に張り付いているサクラを勢いとともにもう少し上部に持ち上げると、
しっかりと足を抱えるようにして負ぶった。
ノア 「……羨ましい」
遥一郎「ん……なんか言ったか?ノア」
ノア 「いえなにも」
つん、と、そ知らぬ顔で目を閉じるノア。
こっちも相変わらずだ。
従属者を完璧にこなそうとするあまり、自分の欲望をあまり口に出そうとはしない。
……出す時は出すから、もう喧噪ばっかりで大変なわけだけど。
はぁ……賑やかな状況をうるさいって言ってられる内が、やっぱり華だよな……。
【ケース117:中井出博光/ヒロミチュード2】
コキュゥウウウン───……マキィン♪
《双剣ガザミに新たな属性が付加された!》
中井出「美しい……」
レアアイテムというのはどうしてこう輝いているのか。
俺は合成屋で他の武器と合成させたガザミを見て、心を躍らせていた。
……ここはエトノワール王国。
清水たちに続いて何気なく立ち寄った場所で、
俺達は思い思いに散らばって行動を開始した。
俺は、倒したアンデッドモンスターから手に入れた武器をガザミと合成しに。
丘野は投擲武器の調達に。
藍田は木村夏子の対呪開眼に付き合い、麻衣香と殊戸瀬は調合材料や魔法書を買いに。
中井出「新たについた属性は毒と麻痺……くぅう、早く試し斬りしたいなぁ」
さすがに一個ずつしか合成させてないから、毒レベルも麻痺レベルも1程度。
何度も攻撃を加えなきゃ毒にも麻痺にもなってくれない半端中の半端属性だ。
他の属性といえば“蟹キラー”が付加されてる程度で、特に目立った属性は無い。
しかし属性が増えるというのはなんとも嬉しいものだ。
だがこの合成ってのが中々出費が激しくて……
喜びと金を引き換えにするってのはまさにこのことだと思う。
中井出「怪盗ペリカンか……欲しいな」
ペットとして飼うことが出来たなら、金を払わず奪われもせず合成が出来るらしいのだが。
うーむ、難しい。
中井出「双剣だから盾が装備出来ないのが困りものなんだよな……。
盾も合成で育ててみたかったんだけど」
鏡の盾とかスパイクシールドとか……いいね!
でも装備できないから諦める。
俺はこのガザミに全てを捧げる所存だ。
威力を上げたり強化したりは出来るそうだから、
なにも最初っから強い武器に頼らずともいいのだ。
なによりこの武器のマグニファイは相当にお気に入りだ。
手放すのは勿体無すぎる。
こう……なぁ?武器はしっかり二刀流!って叫んで、
頭の上で剣を交差させるのが好きなのだ。
他の武器にもそりゃあ鬼人化の潜在能力はあるかもだが、
これは二刀流だからこそ映える気がする。
中井出「次はどんな属性が入るんかなぁ……ウックック、今から楽しみだなぁ」
ハタから見れば、どこぞに居るかもしれない刀剣マニアのような俺だった。
べつに間違っちゃいないかもしれないからいいけど。
俺としては“鎌鼬”とか“会心の一撃”とか“必中”が欲しい。
どれも風来のシレンである能力だが、だからこそだ。
双剣に鎌鼬と会心と必中が付いたら……そりゃもうステキさ爆発だろう。
うおお、是非とも欲しくなってきた。
中井出「ベースは晦が固めたわけだから、“妖刀かまいたち”は期待していいと思う。
必中の剣は……まず無いだろうな。当てるかどうかはこっちの腕次第だし。
あとは───……」
……ミノタウロスの斧。
会心の一撃っていったらこれしかない。
とはいえ、ミノタウロスの恐ろしさは晦の記憶の映像の中で嫌ってくらい見たから……
中井出「ウーヌ……これはとてつもない壁になりそうだ」
ヘタすればこっちが痛恨の一撃の餌食になりかねない。
だがこれはロマンだ。
合成をするものにとって、これほどのロマンがあるだろうか。
武器合成で是非とも欲しい付加能力ダントツのNo.1、会心の一撃だ。
そう、是非とも欲しい。
中井出「あとはドラゴンキラー……晦的に言うと屠竜剣か」
欲しいものは腐るほどある。
おお、この世界には男のロマンが溢れてる。
……その分、死ぬ確率もロマンの数だけ存在するが。
中井出「まあいいや、サンクスおっさん」
合成屋「おう、またいつでも来な」
合成屋にブンブカと手を振りつつ別れる。
さあ次は鍛冶屋だ。
武器の改良とかを頼んで、さらに強くなるために。
というか今の俺、自分が強くなるより武器が強くなるほうが嬉しかったりする。
ああ、いいなぁこういうのって。
生きてる、って感じがするよ。
ズバーム!!
中井出「頼もおーーーっ!!鍛冶屋はここでよいかーーーっ!!」
鍛冶屋「へいらっしゃい!」
中井出「魚屋かよ!という“悪の華”的なツッコミは置いといて。
ここって武器の強化は出来るのか?」
鍛冶屋「ああ、人間に友好的な獣人族が技術を教えてくれてな。
鍛えることも強化することも可能だぜ」
中井出「ほうほう……鍛えると強化するってのは何が違うんだ?」
鍛冶屋「鍛えるってのは武器をそのままに切れ味や強度を高めることだ。
強化ってのは元の武器をベースに、
素材を組み合わせて別の武器を作っていく技術だ」
なるほど……モンスターハンターみたいなもんか。
中井出「ちなみにこの双剣ガザミは強化出来るか?」
鍛冶屋「おっ……こりゃ珍しい、レアウェポンじゃねぇかい。
しかも双剣と来たか。こりゃいい、一度手をつけてみたかったんだ」
中井出「なんとな?」
鍛冶屋「すまんが一日、これを貸しちゃくれねぇかい?
最近の野郎どもはヤレお国の制式武器だとか、
店売りの武器だとかを持ってきやがって面白味が無かったんだ。
そこに来てコレだ。あの強敵テイオウガザミをよく倒せたもんだ」
中井出「……まあ」
俺が倒したわけじゃないが。
鍛冶屋「後悔はさせねぇ。俺の鍛冶屋生命を賭けてもいいし、もちろん代金も要らねぇ!
これを一日、俺に預けてみちゃくれねぇか!!」
ピピンッ♪───《イベントが発生しました。コマンドどうする?》
1:預けてみる
2:ダメヨー!!
3:それはお譲りしますよ、鍛冶屋さん
中井出「………」
結論───1!!
中井出「よぅし解った!貴様を信じよう!!貴様の腕に期待を持つ!」
鍛冶屋「よっしゃ!やっぱ冒険者はそうこなくちゃな!!
そんじゃ宿で一泊するか、冒険でも楽しんでてくれや!
俺ゃ一日がかりでこの武器を仕立ててみせっから!」
目をキラキラと輝かせている鍛冶屋に手を振り、俺は鍛冶屋を後にした。
そして───決めておいた集合時間になるに至り、みんなにそのことを説明し───
───……。
……。
やがて、宿で待つこと丸一日。
俺は再び鍛冶屋のドアを開いていた。
鍛冶屋「へいらっしゃ───おおアンタか!待ってたぜ!」
中井出「おお。その元気さからすると───」
鍛冶屋「おうよ出来てるぜ!俺の一世一代の傑作だ!受け取ってくれ!」
ガシャンッ───《双剣ブラッシュデイム+15》を手に入れた!!
中井出「お、おお……こりゃまた強そうなカタチ……っと。
そうだ、属性とかはどうなった?まさか消えたりなんかは……」
鍛冶屋「それなんだがな。ついついいろいろ試したくなっちまって、
ウチにある属性武器をとことん混ぜちまったんだ。
ああ、合成屋が俺の友人でな。
だから───もし気に入らん属性があったらスマン!それだけは謝らせてくれ!」
ナビを用いてブラッシュデイムのステータスを見る……と。
毒 :★★★
麻痺:★★★
回復:★★
銭 :★
金 :───
背 :★★
───とあった。
中井出「なあオヤジよ。この回復と銭と金と背って付加はなんだ?」
鍛冶屋「あ、ああ……回復は敵を攻撃するとこっちのHPが回復するってやつだ。
銭は敵を倒すと$を落としたりして、金は錆びなくなる。
背ってのはHPが少なくなると攻撃力が増す。背水の陣ってやつだ」
中井出「……いいのか?こんなに付けてもらってタダで」
鍛冶屋「それは言いっこなしだぜあんちゃん!こっちはもう満足してんだ!
レアウェポンをいじれる喜びに比べりゃあ代金なんて安い安い!
こればっかりは金さえありゃあいつでも出来るわけじゃあねぇんでな!」
なるほど、そりゃ確かに。
というか……★1つだけだった毒と麻痺の属性が一気に★3つになってる。
しかも他の属性まで付けてもらって、+が15もついてる。嬉しくないわけがない。
鍛冶屋「今回はあんがとよ。またいつでも来な」
中井出「う、うむ。時にオヤジ。付加能力は最大で★いくつまでなんだ?」
鍛冶屋「5つまで上がる。
その剣ならもう毒と麻痺は50%くらいの確率で発動するだろうよ」
中井出「おおそうか。それはどうもありがとう」
礼儀は忘れない。
俺はきちんとペコリとお辞儀をして、ホクホク笑顔で鍛冶屋を後にしたのだった。
───……。
……。
藍田 「で、どうだった?」
丘野 「見せろ提督!」
鍛冶屋を出て集合するなり、いきなりの質問。
丘野と藍田は目を輝かせつつ、俺の武器のお披露目を待っていた。
中井出「こんな剣が出来た」
俺は誇らしげに、鍛えてもらった剣を見せる。
おお美しい……剣の長さも少し伸びたから、攻撃範囲も変わった筈だ。
しかも付加能力も結構なもの……ああ嬉しい。
藍田 「お、おおおこれが……!!」
丘野 「なにやら迫力を感じるな……!」
中井出「しっかりと潜在能力も鬼人化のままっていうのが一番嬉しかったかも」
ナビを利用してもう一度ブラッシュデイムの説明を見てみる。
◆蒼剣ブラッシュデイム───そうけんぶらっしゅでいむ
透き通る滑らかさを持つ蒼い双剣。蒼剣とも双剣とも呼ばれている。
生物素材をふんだんに使っており、刃には丹念に磨かれた蒼竜の硬い鱗が使われている。
ガザミとの基本攻撃力の差は歴然であり、
だがやはり鬼人化した時にこそその真価を発揮する。
蒼竜の鱗に力が少し残っていたのか、時折微風を発する。
★潜在能力:鬼人化、鬼人化中のみ20%の確率で鎌鼬現象が発生する
藍田 「うお……至れり尽くせりブレードじゃん……」
丘野 「しかも無料って……あーいいなぁ、俺もこういう武器が欲しい」
中井出「投擲武器の方はどうだった?」
丘野 「不滅投擲武器、車輪の刃を買ってきた。壊れることも消えることも無いらしい」
藍田 「俺は目新しいものは手に入れられんかった」
中井出「そっか。で……女衆は?」
丘野 「あ、それがさ、とうとう木村が対呪を開眼してさ」
中井出「早ッ!!そうなのか!?」
藍田 「職業が聖職者だったのが良かったらしい。
今は綾瀬と殊戸瀬と一緒になっていろいろ見て回ってるよ」
中井出「……あの装備でか?」
藍田 「開眼したらあっさり脱げた」
……それでいいのか呪い装備。
丘野 「と、そんなわけで木村にはこれを装備させたいと思ってる」
と……そんなことを思っていた俺に、
丘野二等がズォオとバックパックから取り出したものは───
丘野 「黄泉路孵()りの杖。ミイラを暗殺した時に落とした呪い武器だ。
効果は“アイテムとして使うと、地面からアンデッドモンスターが出てくる”だ」
中井出「凶々しいな……」
丘野 「一応使い魔として扱えるらしいぞ?
一体召喚につきTPを5消費するみたいだけど」
藍田 「そして地味にセコイと……」
丘野 「これ装備した状態で規定値に達すると、
隠しジョブの“死霊使い()”になることも可能だとか」
中井出「面白そうだ、是非やらせよう」
藍田 「依存無し。その方が夏子への危害も減るだろうし」
……こうして、木村夏子改造計画がゆっくりと始まったのだった。
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