───その頃の大事件/メルヘンと空界人男性が滅亡した日───
【156:イセリア=ゼロ=フォルフィックス/今日から“メ”王】
ヂ、ヂヂヂ……チキ、チキキ……
イセリア「はふぅ……えーと……こことここに修正入れて……」
未来人類や子供グループをヒロラインに送り込んでから数時間。
わたしはやっぱり相も変わらず修正作業に追われていた。
けどこれはこれで面白いから別に文句は無い。
そう、この行動自体には。
ただ……イドが仕掛けたデストラップの解除がとんでもなく面倒なのは確かだ。
いったいどれほど作ったのか……消しても消しても尽きることがない。
イセリア(でもここで愚痴こぼしたらまた喧嘩になりかねないし……)
わたしは忍耐の女である。
だから我慢するのだ。
実際、このメンテナンスやプレイヤーの状態を見るのは嫌いじゃない。
……なんて思ってた時だった。
ガチャ───
ベリー「はーろー!」
……今、じゃなくて、いつ如何なる時でも会いたくなかった人と遭遇した。
というか空界側からの扉を開けて堂々と侵入してきた。
そういえば今まで何処に行ってたのか、
姿が見えなかったと思ったら……空界に居たらしい。
ベリー 「あぁイセリア、まだこっち居たんだ」
イセリア「な、なにか用?実験体にならならないよ」
ベリー 「そんなことじゃなくて悠介に報告しに来たんだけど……
あれま、取り込み中なんだ」
イセリア「すぐ伝えなきゃいけないことならわたしが伝えるから言って。
そして出来れば去って」
ベリー 「わはー、相変わらずわたしには冷たいなぁ。まあいいや。
えーとね、単刀直入に言うと空界の男が全滅した」
…………。
イセリア「…………え?」
ベリー 「むー。聞いてなきゃダメでしょイセっちゃん。
あのね?空界の、男性全員が、一部を残して全滅したの。解る?」
イセリア「───…………」
え?
ぜ、全滅って……え、え……?えぇええっ!!?
イセリア「え、ちょ、なんで!?」
ベリー 「なんでってそりゃ。悠介も居なければ精霊も居ない空界よ?
メルヘン達が黙ってるわけないじゃない」
イセリア「ぐあ……」
あっちゃぁああ……!!
忘れちゃいけない存在のことを完ッ全に忘れてた……!!
いくらおぞましいからって、これはマズイ……!!
イセリア「竜族たちはなにやってるの!?」
ベリー 「幻獣と竜族とか巨人族っていう強大な存在はサーフティールに移したわ。
あとは装置いじってサーフティール自体を光の屈折で見えなくすれば保護完了。
今のところは見つかってないから大丈夫」
イセリア「………」
それは……よかったと思っていいんだろうか。
確かに巨人族や竜族や幻獣と交配され続けたら、空界なんていくつあっても足りない。
ここに来てメルヘン……勘弁してほしかった。
イセリア「で……一部の男性っていうのは?」
ベリー 「カルナとかバルグ=オーツェルンとか。
空界には必要な男はきちんと保護したわ。
まあー……それ以外は老若男問わずに襲われて全滅したけど」
あー……一応老若男女の中の“女”は度外されてるらしい。
ベリー「わたしはただそれの報告と、
出来れば悠介にメルヘン退治を頼みたかったってだけよ」
ノート『残しておいたのが仇となったか。いいだろう、私が行く』
ベリー「え?スッピーが?」
ノート『スッピーと言うのはやめろ。汝ら、しばしの間ここを任せて平気か?』
ノーム『おー、全然平気だぞームッチー』
ノート『ムッチーとも呼ぶな、たわけ。なに、ものの数分で終わるだろう。
それまで続けてくれればそれでいい』
ベリー「いやー……さすがの無の精霊スピリットオブノートでも数分とまでは───」
ノート『ふむ。ならばその目で見るといい。なに、時間は取らせん』
ベリー「オッケー」
それだけ会話を交わすと、二人ともさっさと空界へのドアの先に消えていった。
イセリア「………」
まあ、維持くらいなら出来ると思うし、今は頑張るとしよう。
【157:ヤムベリング=ホトマシー/すぴりっつあーおーるうぇいずうぃずゆー】
ビジュビジュンッ!!!
ベリー「わっとと!!」
ドアから出た途端、スピリットオブノートの力で海上に転移させられた。
もちろん突然無くなった足場と、
落下する勢いすぐさま魔術を展開させて水の上に降り立ったけど。
ベリー「ちょっとスッピー!もうちょっとやさしく扱いなさいよー!」
ノート『汝にはそれくらいが丁度いいだろう。……どれ、メルヘンを呼ぶ。衝撃に備えろ』
ベリー「え?呼ぶってどうやって───」
ノート『メルヘンが好む“活きのいい男の匂い”を創造する。それだけだ』
パチン、とスピリットオブノートが指を鳴らす。
すると───ォォォォォ……ォオオオオオオ……ゴォオオオッ!!!
ベリー「うわ、ほんとに来た」
遠くから、来るわ来るわの阿修羅面。
空腹者の目の前に大好物を置いたかのような勢いで、目をギラつかせてスッ飛んできてる。
ノート『分析開始───完了。
軍勢の中で最も強いメルヘン───汝の力量の超越を完了する。
……微塵と消えろ。“芯穿つ無尽の神槍”』
───で、そんなメルヘンを迎え撃ったのが───
スピリットオブノートの周囲に突如創造された、紫色に輝く光玉だった。
やがてそれはギシィと高い音を立てて鋭い光を放つと、
数え切れないほどのグングニルを幾度も幾度も放った───!!
ギィイイイイイヴァガガガガガガァォオオオンッ!!!
ドガガォンガォンガォンガォオオンッ!!!!
ベリー「う、わ……うわぁあ……!!」
その攻撃方法に一切の容赦はなかった。
メルヘンを貫いたグングニルは虚空で止まると新たな光玉へと姿を変え、
そこからさらに幾つものをグングニルを放ったのだ。
つまり貫かれれば貫かれるほど、降り注ぐ神槍の数は増え───
その度に消滅するメルヘンの数は、それこそ次々と倍化していった。
その間スピリットオブノートは目を閉じてなにかを探知して───
やがてそれが終わると、虚空に創造した緋色の槍を空へと放った。
その槍は中空で何十本もの鏃に変化すると、何処とも取れない場所へと飛んでいった。
それはおそらく───ここに来ていないメルヘンを破壊するためのゲイボルグ。
と……何を思ったのか、スピリットオブノートは目の前の虚空に、
それこそ何千本という数え切れないくらいの槍を創造した。
それから───
ノート『───ふむ。全ての補足を完了した。竜槍よ、穿った存在ごと我が元へ戻れ』
スピリットオブノートがそう言った───次の瞬間!
虚空に何匹ものメルヘンが現れた!
けどその身体はどのメルヘンも緋い槍に穿たれていた。
ノート『終いだ。3と掛からず刹那に消えろ。産まれる以前に還る時だ。
全ては生まれ、やがて還る。即ち───“全ての終わりにして始まりなる者()”』
キィンッ!ゾガガガガガガヂガァアアアンッ!!!!
ベリー「……!!」
瞬きする暇は無かった。
突然虚空に強制転移させられたメルヘンは、用意されていた何千という槍に身体を穿たれ、
のちに自爆するより早く、
スピリットオブノートの無属なる波動によって完全に消滅させられていた。
鋭い閃光が輝いたと思い、思わず目を閉じて……開いてみれば。
そこには爆煙もメルヘンの塵さえも存在していなかった。
ノート『さて。帰るぞ』
ベリー「あ、あわ……あわわ……!!」
とんでもない精霊だったんだ……やっぱり。
改めて恐怖しちゃったよわたし……。
確かにこれなら、ミルハザードにも勝てるって言ってた言葉はウソじゃないかも……。
ベリー「で、でもいったいどういう強さなのこれ!あれだけ居たメルヘンを───」
ノート『───既存超越だ』
ベリー「……え?」
ノート『本来、私自身は他の精霊と同じ身体機能しか備えていない。
その気になれば汝でも私を打倒できるだろうよ』
ベリー「え?またまた、そんな冗談……」
ノート『事実だ。私は“強者の能力”を超越して初めて、その者より強く戦える。
故に超越しなければ動きが鈍くもあれば、
マスターとの初戦の時のように胸を穿たれるような隙も出る』
ベリー「そうなの?」
確かにおかしいといえばおかしい。
スピリットオブノートっていったら精霊の中ではトップといっていい存在だ。
そんなヤツに悠介が認められたなんて、正直今でも信じられない。
ベリー「じゃあわたしがいきなり不意打ちとかしたらどうなるの?やっぱり当たる?」
ノート『目で見るだけじゃない。気配で感じる強さをも超越出来る。
そうなれば不意打ちを喰らうことはまず無い』
ベリー「うひゃあ……完璧超人だ」
ノート『そも、そういう事態に陥ること自体が稀だ。私からはどうとも言えないな』
ベリー「そっかぁ……」
モハー、と息を吐いて、海上から遠くを眺める。
やがてぐるーりと見渡すに至り……
ベリー「えっとさ。どうするの?死んじゃった男衆。やっぱり蘇らせる?」
ノート『否だ。精霊の私から言わせてもらえば、
“破壊する者”が居なくなった事実に満足しているくらいだ。
無駄に多すぎたくらいだ、これくらいが丁度いい』
ベリー「あいやー……」
ノート『生きたい者だけが生きればいい。生き残っている男は居るのだろう?』
ベリー「まあ、そりゃあね……」
ノート『それならばこの程度のアクシデントで騒ぐな。どうとでもなる』
ベリー「けど、このままじゃ男がクローンで大量生産〜、なんてことに」
ノート『悠黄奈の件を忘れたか?どのみち長続きはしない』
ベリー「まあそうだけど。
でもレイルとレインみたいに触媒があればどうとでも出来ることじゃないの。
またカオスの波動みたいなものが手に入ったら、それこそ───」
ノート『その時はその時だ。言ったろう、どうにでもなると』
ベリー「あー……」
今思い出した。
そういえばスピリットオブノートって他の存在が嫌いなんだっけ。
悠介とツンツン頭と仲良くやってるところとか見てたから、すっかり忘れてた。
つまり現状は、スピリットオブノートにしてみればむしろありがたい状況。
自然を破壊する者やマナを無駄に使用する者の約半分が消えたのなら、
確かに……まあ、わたしとしても嬉しい限りだけど。
まいったなぁ、悠介と出会ってから魔女性薄れたかなわたし。
前だったら“それがどうしたー”って感じだったのに。
ベリー「でもさ、スッピー?こうなると女たちが自分たちは生き伸びようってことで、
千年の寿命を狙いに来ると思うんだけど───って無駄か。
千年の寿命の森……サウザーントレントには緑竜王が居る」
ノート『そういうことだ。
辿り着き、強引に手に入れようとしたところで殺されるのが目に見える。
かつての癒しが枯渇する前とは違うのだ。解るだろう』
ベリー「ん……そだね」
かつて、この世界がまだ癒しに満ちていた頃。
この世界は寿命に溢れていた。
泉という泉は人間に適した千年の寿命を宿し、
それを飲んだ者はわたしみたいに長きの寿命を得た。
どれだけ時間が経っても老いない……それは、飲んだ者に“不老不死”を思わせた。
もちろん己の不死を試そうなんて馬鹿は居なかった。
当然だ、それで死んだら元も子もない。
けど、かつての人間たちは別の方法で己の不死を証明しようとした。
それがかつて、人間たちが癒しの大樹を枯らせた事件。
敵の存在がなにするものぞと突貫し、挙句に癒しを枯らせ、世界から寿命を削っていった。
唯一、源泉であるサウザーントレントの寿命を残して。
その件で寿命を延ばしていた者は全滅。
せいぜいで、癒しのことに興味が無かったために干渉しなかったわたしだけが残った。
今の空界に居る千年の寿命を宿す空界人達は、
死んでいった空界人たちが保存しておいた寿命を飲んでそうなったにすぎない。
濃度の濃い泉のものも保存していたらしく、それを飲んだ者は悉く死んだけど。
人間ってのは己の寿命に関しては案外執着が強いもので───
それを人間が飲むことの出来るものに改良を加えるまで、時間はそう要らなかった。
ベリー「……そーね。
今の空界は、一度ここで文明退化に遭うくらいが丁度いいのかもしれない」
あのまま愚直に研究ばっかりしてたら、
今度は別の方向で癒しは枯渇していたかもしれない。
あんな空気はもう御免だ。
あー、失敗した。
オモシロ半分に魔術なんて広めるんじゃなかった。
ベリー「あ、でもさ。悠介のお仲間さんたちって空界に住むのよね?寿命延ばした状態で。
だったら他の空界人が怒るんじゃないの?」
ノート『心配は無用だ。ヤムベリング=ホトマシー、
今すぐ千年の寿命を人間用に加工し、それをマスターの部屋まで届けてくれ』
ベリー「……えぇっ!?それって人数分!?」
ノート『たわけ、一人分で十分だ。それ以外は複製する』
ベリー「あ、あー……なるほど」
焦った。
あの人数の分全てを作るとなると、いくらわたしでも一日二日じゃどうにも出来ない。
ベリー「あ、ちょっと待った。最後に質問。
いくら人の数が減ったからって、悠介たちの仲間が子供とか作ったら───」
ノート『その心配も無用だ。弦月彰利が男全員から繁殖機能の消滅を実行した。
どう足掻こうがあの人数以上増えることはないだろう』
ベリー「あらー」
わたしの知らぬ間にいろいろと準備は進められていたらしい。
現状はリアルタイムで進行するってこと?
は〜ぁ……まあいいや、
寿命に飢えた女性軍はゼロとフォードに適当に追っ払ってもらおう。
あとは野となれ山となれだ。
ベリー「ところで悠介たちが『生き返らせる〜』とか言ったらどうする気なの?」
ノート『阻止する。いい加減、死んでも生き返れるという油断を消してやる必要がある。
……まあ、それを言えば私もマスターが死にでもしたらどう出るかは解らんが。
それより汝、いつまで最後の質問をする気だ』
ベリー「ありゃ?あらら、あはははは」
笑って誤魔化すことにした。
最後の質問なんて言葉は、案外アテにならないものだ。
ノート『では頼んだぞ。複製した寿命は、寝ている者たちに無理矢理吸収させる。
ヒロラインの中でなにかしらの反応に襲われるかもしれんが、まあ無視だな』
ベリー「………」
スッピーってたまに非道になるよね。
面白いからいいけど。
さてと、じゃあサウザーントレントに向かいますか。
───……。
……。
ややあって。
総員 『ギャアアアアァァァァァス!!!!』
寝ている状態で寿命を埋め込まれた彼ら彼女らは絶叫した。
無意識なのか身体がドタンバタンと跳ね回り、
それが終わると全員揃って『グビグビ……』と泡を吐いて動かなくなった。
ベリー 「これでよし……っ」
イセリア「いいわけないでしょこのいんごーババア!!これ絶対に分量間違えてる!!」
ベリー 「調合なんててきとーてきとー、くだらねー」
イセリア「分量間違えたら死ぬこともあることくらい知ってるでしょう!?
いったいなに考えて───!!」
ベリー 「あーあーうっさいうっさい。
そこのところは考えて作ってあるから大丈夫よーうん大丈夫ー。
はーあ、なぁんでこんなツンケンに育ったんだろねー。親の顔が……美しい」
イセリア「“見てみたい”でしょ普通……!!なにそのヘンな言葉!!」
ベリー 「うっさいって言ってるでしょー?
大丈夫よ、しっかり身体に馴染むように出来てるから。
地界人はそういう魔法的なものに慣れてないっていうか、
地界外の干渉に慣れてないから過剰反応起こしてるだけ。解る?」
イセリア「………」
ベリー 「なにかな、その疑いの眼差しは……だいじょぶよねー?スッピー?」
ノート 『全員死んだ』
ベリー 「えぇ!?うそ!!」
ノート 『ヒロラインでの話だ、騒ぐな』
ベリー 「は……はぁああ……驚いた」
イセリア「驚いたってことはそういう心配があったってことでしょう」
ベリー 「うるさいなぁ、いーじゃんべつに」
でもヒロラインっていうのの中で、寿命を埋めこまれた人が死んだのは間違いないらしい。
わはー……あとでどんなこと言われるやら。
……いいや、このまま逃げちゃおう。
ベリー 「わはー、じゃあねーみんなー!あとはよろしくー!」
イセリア「なっ───ちょっと待ちなさいババア!!少しは手伝いを───」
ベリー 「めんどいからヤだね!あでゅー!!」
イセリア「っ〜〜〜……このババ魔女ーーーッ!!!」
イセリアに大変失礼な言葉を送られつつ、さっさと空界に逃走した。
やはー、たまにこういうアクシデントがあるのも面白い。
さぁて、こっちはこっちでなんとかしないとね。
メルヘンは全滅したから、避難させてた男どもを解放しないと……あーめんどい。
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