───冒険の書51/僕らの提督観察日記───
【ケース199:藍田亮(再)/リーガン】
で───
中井出「あのね?僕ね?さっきまで綺麗なお花畑と川を見ててね?なんかね?
じいさんとばあさんと両親の代わりに何故かダニエルが手ェ振っててね?」
藍田 「今すぐ忘れろ!忘れるんだ提督!!」
なんとか一命を取り留めた提督は、少年のような素直な目で臨死体験を語ってくれた。
もちろんシャレになってないから即座にやめさせた。
レオン「……大丈夫なのか?」
藍田 「大丈夫大丈夫。なにせ提督だ」
レオン「根拠がまるで理解不能なんだが」
ナギー『ヒロミツはこれしきでは折れはせんのじゃ』
シード『そうだ。父上はこれくらいで折れるほどヤワではないのだ』
レオン「しかしだな。こうホウケられては───」
藍田 「甘く見んでもらおう!我らが原中の提督は貴様が思うほど低い男ではない!!
たとえ今貴様が槍で攻撃しようとも、見事受け止めてくれよう!!」
レオン「───それは興味深い。では遠慮なくゆくぞ!───はぁあっ!!!」
あ、本気で攻撃ゾグシャア!!
中井出「ギャアーーーーーーッ!!!」
藍田 「て、提督ーーーーーっ!!!」
レオン「…………やはり、ここまでホウケた者が急に攻撃を避けるなど無理な───!?」
ヒュフォンッ!!
レオン「っ……!」
突如、双剣が煌く!
見れば、頭からチューーーと血を出している提督が双剣を手に構えているではないか!!
中井出「なにをするか貴様!!人が気持ちよく寝てるところに!」
や、寝てなかったって。
でも元気になったみたいだし、これで───
中井出「俺はこれから魔物退治に行かなきゃならんのだ!
貴様のようなヤツに構ってる暇はなぁーーーーい!!」
藍田 「………」
夏子 「………」
……スコーンと忘れてる。
いや、むしろ忘れようと自己防衛機能が働いたのか?
エロマニアと呼ばれまくった事実をよっぽど忘れたかったんだな、提督……。
まあとりあえずだ。
レオン「……迷いの無い太刀筋だ。久しく見ぬ“戦士”の太刀筋……ああ、これだ。
これこそ私が求めていた強者の───」
藍田 「レオン、ちょっとレオン」
レオン「ん……ああ、すまない。なんだ?」
藍田 「熱弁中のところすまんが……
提督ならとっくに窓から飛び降りて外に出ていったぞ?」
レオン「なっ……なぁっ!?」
話を聞くや否や、ババァッと窓から身を乗り出して辺りを見渡すレオン。
その目に映るのは、全力疾走で町の外へと走る提督の姿だけだった。
レオン「───面白い!外で決着をつけようというわけか!」
藍田 「で、自己解決完了と。お前も提督に負けず劣らず奔放っつーかなんつーか」
夏子 「……亮、もうレオンって人も外に飛び降りてったけど」
藍田 「速ェエ!!」
あいつら……ここが二階だってホントに解ってんのか……?
───……。
……。
で……よしときゃいいのに、なんで俺はご丁寧にフィールドにまで出てきてるんだろうか。
時々自分の律儀さに呆れてくる。
さて、そィで当事者二人の現状はというと───
ゴガギギガギゴギヂギギギガヂィインッ!!!
レオン「はぁあああああっ!!!!」
中井出「うりゃうりゃうりゃうりゃ!へあへあへあへあ!!」
───火花でも散るのではないかと思うほどの剣戟を繰り返していた。
一方の提督がまるでアドルフくんみたいな声で叫んでるのはいまいち緊張感が……
レオン「見切れるか、我が一撃!!」
中井出「爆弾パチキ!!」
レオン「《ゴッパァンッ!!》ぐはぁっ!?」
中井出「アリキック!!」
レオン「《ゴキィンッ!》ぬぐっ───!?貴様!」
中井出「サミング!!」
レオン「《ドチュッ!!》ぐぉあぁあああああああああっ!!!!」
中井出「“三陰光圧痛”!!」
レオン「《グキィッ!》くあっ!?」
中井出「ストレングスマックス!!サッカーボールシュートォッ!!」
レオン「《バガオォオオンッ!!!》ぐぶあぁああああっ!!!!」
……いや、まあ。
提督が戦うってことで、大方の予想は出来てたわけだが……
こうまで荒唐無稽を身体で表現したかのような戦いを披露してくれるとは。
しかしサミングからの行動は美しく流れるような動きだった。
視界を奪われたレオンの足首のスネの内側、
足首から訳10センチにあるとされる急所を強く圧迫。
烈海王でも転倒へと屈してしまう激痛に襲われ、
倒れだしたレオンの横に回り込んだ刹那に顔面目掛けてサッカーボールキック。
目から涙を流し、頭を押さえて転げまわるレオンがいっそ哀れだった。
レオン「ぐっ……!貴様には剣士としてのプライドが無いのか!!」
中井出「皆無!!」
レオン「なっ……なんだとぉおーーーーーーっ!!?」
レオンは本気で驚いていた。
彼をここまで驚かせたのは恐らく、提督が最初で最後となるのだろう。
レオン「そんなものは認めん!貴様も剣士ならば剣技の一つくらい見せてみろ!!」
中井出「ぬう!ならば見せよう!ソードマスター流究極奥義!!───“毒霧”!!」
レオン「《ブシィッ!!》ぐぉおあぁあああああああああっ!!!!!」
総員 『どっ……毒霧吐いたぁあーーーーっ!!!』
ソードマスター関係ねぇ!!
レオン「き、貴様っ……恥を知れ!剣士ともあろうものがこのようなっ……!」
中井出「恥なら腐るほど知ってる!だからもう泣かない!!泣かないよ!?多分!!」
藍田 「おおっ……もしや今の提督はっ……!」
夏子 「痛みを忘れたのではなく、乗り越えようとしているのっ……!?」
でも絶対泣くと思うな、俺は。
中井出「それに貴様こそ恥をお知り!!戦場とは勝ってなんぼ!!
どれだけ形式美を崇めたところで、死んだらどうにもならんのだ!!」
レオン「づっ……私はそんなものは認められない!!貴様、名をなんと言う!」
中井出「中井出博光」
藍田 「───ありゃ?今回は遠き者は耳に聞け、って言わないのか?」
中井出「最近名乗り疲れててさ……」
藍田 「そ、そか……」
レオン「私と真剣勝負をしろ!今ここでだ!!」
中井出「だめね!断るね!!」
レオン「なっ……!貴様は男としてのプライドまでないのか!」
中井出「あるとも!あるがそれが敵と戦う理由になるかといったらさにあらず!!
俺の男ロードは戦いを避けたくらいじゃ廃れないのだ!!」
物凄い奔放っぷりだ。
既にレオンが物凄く疲れてる。
言葉巧みに相手を疲れさせる原中の技法……やられた方はたまらない。
レオン「〜〜〜っ……来ないのならこちらからゆくぞ!!」
中井出「───仕方ない。見せてやろう、一時限りのみ輝くこの博光の自信の正体を。
武器はしっかり二刀流!!」
マキィンッ!!《中井出のステータスが二倍になった!》
中井出「さらにストック解除!!武器はやっぱり二刀流!!」
マキィンッ!!《中井出のステータスがさらに倍化された!!》
中井出「さらにストック解除ォオオ……!!背水の陣を解放し、
さらにスットク解除でルドルグニスに稀黄双剣の“六閃化”を上乗せ!!
どんな能力でもストック出来るという設定の裏を掻いたこのスットクを見よ!
もちろん六閃化を封入するに際して、丘野くんの剣を借りたが。
この双剣の輝きを恐れないなら!かかってこい!!」
レオン「仕方のない……!すぐに仕留めて───」
中井出「AGIスペシャルマックスぶちかまし!!」
バゴッシャァアアアッ!!!!
レオン「おぐぉおっ!!?」
藍田 「うわ……」
倍化+倍化で脅威的になっていたステータスの全てをAGIに回した、
超速度ビッグバンタックルが炸裂。
レオンはその脅威的衝突力に身体をもっていかれ、
提督は───自分からぶちかましたくせに物凄いダメージを負ったようで、
その場で釣られた魚のようにもんどりを打っていた。
さすがAGIマックス。そしてVITゼロ。
レオン「真面目にやろうとしている自分が間抜けに見えてくるな……」
総員 『原中だし』
そう、真面目にやるだけ翻弄されるだけだ。
レオン「……もう、終わらせていいだろうか」
丘野 「おお!大きく出たでござる!」
藍田 「やっちまえー!レオン!」
夏子 「倒せるものなら倒してみてー!」
麻衣香「ゴー!騎士団長ゴー!」
中井出「少しはこっち応援しようよ!!
つーか普通は俺応援するとこでしょここ!!」
殊戸瀬「……がんばれー」
中井出「お……おお!殊戸瀬二等!貴様というヤツは!」
殊戸瀬「───騎士団長」
中井出「そうくると思ったよちくしょう!!」
レオン「提督とやら。茶番は終わりだ……決めさせてもらうぞ」
中井出「茶番って……」
事態の価値が低すぎることに悲しみを覚えたらしい。
我らが提督はあれで、案外心が純情というか弱いというか、
ものの価値をつい考えては、時間を無駄に過ごしている少年のようなところがあるわけだ。
だからなんだというわけでもないが……どうあれ決着はつきそうである。
レオン「ゆくぞ!」
レオンが疾駆する。
その速度は───速い。
およそ一般兵ごときでは出せない速さだ。
レオン「奔れ!稀紫槍カルドグラス!!」
レオンが紫色の光を模様から出す槍を構え、提督へと向かってゆく!
中井出「走れ!───むしろ俺!!」
対象として提督が走り出す!
手には六閃煌く炎風の双剣!さあゆけ提督!男を見せよ!!
中井出「せィやぁっ!!」
ヒュフォフォフォフォフィィインッ!!!!
振るう双剣が十二に至る!
向かうところにはレオンの姿!さあ、どう出るレオン!!
レオン「シィッ───《ジャギギギギガガガガガガァンッ!!!》」
藍田 「ゲ、ゲェーーーーッ!!!全部弾きやがったぁーーーーーーっ!!!」
麻衣香「い、いいえ!博ちゃんの攻撃自体も本人にとってあれが一閃なら、
一回の攻撃で終わるわけがないわ!」
丘野 「そ、そうでござる!きっとあの場に居るのが拙者なら、連撃は当然でござるよ!」
それは実際その通りだった。
提督は戦士アビリティ“剣舞”を行使し、豪雨のような連撃を振り下ろす!
だがそれさえも、閃く槍の連撃に弾かれてしまう。
双剣と槍とが合わさるたびに、時折爆裂する剣と発生する鎌鼬がその場を支配する。
が───強ぇえ……!あいつ強ぇえよぉ……!!
藍田 「ていうかさ、キミたちいつの間にここに集ったの?」
麻衣香「外に走ってく博ちゃんを見たから」
丘野 「あれだけ嫌がってたのになんと奇妙なと思い、追ってきた次第でござる」
エロマニア事件のことを必死に忘れようとしてる彼だからこその行動だろう。
きっともう宿には戻らんだろうし。
なんて思ってた時、提督のマグニファイ効果が切れた。
中井出「おわっ!?」
レオン「その隙、いただく!!」
───槍が奔る。
それは迷うことなく提督の身へと───
中井出「“覇気脚”!!」
レオン「《ドゴォンッ!!》くああああああああっ!!?」
……届く前に、ストレングスマックスの覇気脚がレオンの爪先を具足ごと踏み潰した。
よくやるなぁ……一歩間違えればVITゼロの状態だから一撃で終わってたぞ。
中井出「フフフ……おごる神心会、久しからずや……」
レオン「くっ……やはり貴様には剣士としての誇りが無いようだな……!
こうまで部外の戦闘方法に頼るとは……!」
中井出「いや……槍使いのお前に剣士としての在り方を問われても……」
総員 『あ……』
正論だ。
レオン「剣士とはあらゆる局面にて、あらゆる武器を駆使出来てこそ剣士!」
中井出「うそつけコノヤロー!だったら何故俺に文句をつけるか!」
レオン「お前のそれは卑劣な行為の集大成だろう!そんなものは剣士の業とは言えない!」
中井出「卑劣の集大成って……」
言われてるなぁ、提督。
中井出「ならば言おう!聞くがいい騎士の者よ!
貴様の騎士道がそうであるように、これが俺の戦い方である!!
勝利に執着することのなにが悪!!
貴様はそうして他人に自分の騎士道を押し付けるだけで満足するのか!」
レオン「それこそ戯言だ!私は押し付けなど───!」
中井出「うそつけコノヤロー!!そうやって騎士道騎士道叫んでる内は、
貴様の言う騎士道は押し付けでしかないわぁーーーっ!!
騎士道なんて誇りは、自分の中の一本の芯として持つだけで十分!!
そうして相手に騎士道騎士道と言っていては、
知力馬鹿が知識を見せびらかすのと同じ!違うか!!」
レオン「否だ!!私の誇りは!セントールの誇りはもっと気高い!!
お前の言うような小さきを唱えるものではない!!」
中井出「ならば問う!!貴様には誇りがある!それは立派なことで、確かに誇れることだ!
だが、他の者にも譲れぬ誇りがあるのだと何故考えない!!
貴様にとっての誇りの位置がどれだけ高いものかは知らん!
だがなー!自分の誇りの位置が定位置だなんて考えんなコノヤロー!!
騎士たちを束ね、国のために戦うというその姿勢は大いに結構!
しかしたった10$を稼ぐための仕事にも誇りを持つ者はきっと居る!!
だから貴様の言っている騎士道は!
その下を這ってでも誇りを持って生きようと言っている者への
侮辱でしかないと言っているんだぁーーーーっ!」
レオン「っ……!?」
うーわー、すげぇこじつけ。
でも無駄に正論が混ざってるから思うように言い返せない。
中井出「貴様は果たして!誇りのために騎士団長になったのか!
国を守るために騎士団長になったのか!!
貴様は果たして戦に拘るために戦場に奔るのか、守りたいから走るのか!!
地位がそんなに偉いのかぁーーーーーーーっ!!!」
そして炸裂ノーランド。
変身後の姿が大戦士カルガラのくせに、提督ってほんとノーランドが好きだよな。
レオン「───言いたいことはそれで終わりか?」
中井出「終わりだ!まいったか!」
いやまいらないまいらない……。
レオン「お前の言葉は教訓として覚えておこう。だがそれでもこれが私の進み方だ。
お前の言う譲れぬ誇りが今の私なのだ。だからこそ引けない。
ここまで積み重ねた私は今ここに立っているんだ。それが答え───」
中井出「死ねぇええーーーーーーーっ!!!!」
レオン「なぁっ!?待て!まだ話の最中───!!」
中井出「馬鹿め!自由人である我らにそんな道徳は通じやしねー!!」
藍田 「すげぇ!それでこそ提督だ!」
丘野 「外道でござるな!」
中井出「うるさいよ!」
レオン「───!その隙貰ったぁあーーーーっ!!!」
中井出「なにっ!?お、おわぁあーーーーーーっ!!!!」
奔る槍の突き!
弧ではなく点を描く攻撃は、双剣を構えようとする提督よりも早く腕を磨り抜け、
今度こそ提督の腹を貫いた!!
レオン「……終わりだ」
中井出「レイ=セフォー流奥義“ブーメランフック”!!」
レオン「なに《ボグシャア!!》はかっ───!!」
藍田 「ゲ、ゲェエエーーーーーーーーッ!!!」
なんと見上げた根性かっ……!!
腹を貫かれてなお、提督は拳を振るってレオンの顎を的確に打ち抜いたのだ。
恐らく不意を突かれた時点でステータスはSTRに回していたのだろう、
レオンはその一撃で意識を飛ばし、K.Oされた格闘技選手のようにグシャアと倒れた。
一方の提督もダメージがデカすぎた故だろう、キラキラと神父送りにされていた。
……さよなら提督。
また会う時は、きっとあなたは泣いているだろう。
───……。
……。
で……
中井出「エロマニアじゃない……僕はエロマニアじゃないんだ……」
サンドランドノットマットから出てきた提督は、案の定泣いていた。
恐らく礼拝していた人々に転移される現場を目撃されて、注目を集めすぎたのだろう。
聞こえた声を思い返してみれば、
“神の降臨だー”とか“ゴッドエロマニアだー”とか言われまくってたわけだし。
そりゃ泣くわ。
藍田 「………」
レオンはレオンで、気絶させられたことが今でも信じられないみたいに落ち込んでるし。
騎士道ってのも妙なところで融通が利かないらしい。
いや全てにおいても差支えなんてないだろう。
融通利かずの塊だ。
藍田 「人として、アレやられちゃ立ってられないって。気にすんな」
レオン「……ああ、いや……気にはしていない」
うそつけと言ってやりたい。
レオン「長居しすぎた。私はもう行くことにする」
藍田 「そうかそうか。って、そういや飛竜は?」
レオン「ここに居る」
レオンはそう言うとココンと手の平サイズの珠をつついた。
するとそこから現れる紫色の飛竜。
ああ、こりゃディルゼイルを思い出すな。
殊戸瀬「……エル。挨拶」
と、そんなことを思っていると、
ふいに殊戸瀬までもが持っていた珠をつついて飛竜を召喚。
驚くレオンを余所に、エルに挨拶を促していた。
レオン「……驚いた。飛竜まで連れていたのか、お前たちは」
既に殊戸瀬の肩とかに乗れるほど小さくないエルがズシィンと大地に降り立つ姿を見て、
驚いたのはレオンだけではなかった。
ああなかった。
いつの間にこんなにデカくなったんだコイツは。
藍田 「ああそういえば……レオンはその飛竜、どうやって?」
レオン「私とロアは兄弟のようなものだ。産まれた日も歩んだ時間も同じだからな。
私はいわゆる捨て子というもので、飛竜の住む山の麓に捨てられていたらしい。
それをどんな奇跡か、飛竜に育てられた」
藍田 「……よく生きて……いや、成長できたな」
レオン「ああ。母乳が齎されないで生きるなど、奇跡以外のなにものでもない。
だがこうして生きている。
おそらく飛竜の山になにかしらの存命維持の理由があったんだろう」
なるほど。
じゃなけりゃあいくら奇跡っていっても生きてられるわけがない。
レオン「お蔭で竜の言葉も理解出来る上、話すことも出来る。
ある程度成長してからは人間の言語も教えてもらい、こうして今を生きている」
藍田 「え……竜族って人間の言葉を話せるのか?」
レオン「知識としてはだ。そうでなければ竜族が人の言うことに頷くことなんて出来ない」
言われてみれば……空界の竜王たちって全員が全員、人の言葉は理解してたよな。
それと同じってことか。
レオン「それではな。───そこの女、あまり飛竜をいじめてくれるなよ」
殊戸瀬「言うこと聞かない限りは頷けもしない」
即答だった。
ともあれレオンは飛竜に乗って空高く去り───
俺達は蒼空を飛んでゆく影が見えなくなるまで見送っていた。
去り際に提督になにか言っていくと思ったんだが、
予想を大いに外れ、レオンはなにも言わずに去っていった。
藍田 「で……提督ー?これからどうするー?」
中井出「eromaniajanaiyai……」
藍田 「メルニクス語はもういいから!帰ってこい提督!提督ー!?」
ナギー『どうしようもないのぅヒロミツは』
シード『いや。きっとああして瞑想しているんだ。さすが父上だ』
総員 (すげぇ考え方だ……)
殊戸瀬「エル」
エル 『クアアッ!!』
がぶりんちょ♪
中井出「ほぅわぁあーーーーーーーーーーっ!!!」
頭から丸ごとかぶりつかれた提督が絶叫した。
もちろんすぐに離されたが、
ホウケていた提督にとってそれは大ダメージへと繋がったのである。
中井出「なにすんの殊戸瀬!あやうく頭蓋が砕けるところだったよ!!」
殊戸瀬「脳漿が飛び出るところだった?」
中井出「脳漿とか悠長なこと言う前に死んでるよ!!
死んだら頭蓋骨陥没も脳漿炸裂も関係ないってどうして解らないの殊戸瀬は!!」
殊戸瀬「……エル」
中井出「大体殊戸瀬はいつもいつも《カプリ》ヲヴァアーーーッ!!!
脳が脳が脳が脳がぁあアアアぁああーーーーーーっ!!!
今すぐやめて殊戸瀬!脳が砕ける!脳がギャアーーーーッ!!!
なにすんのちょっ───やめる代わりに振り回せなんて言ってないよ!
やめてぇええーーーーっ!!首がもげちゃうぅうーーーーーーっ!!!!」
喩えるなら布にじゃれついた犬が暴れるが如く。
エルは提督の頭に噛み付いたまま首をフンフンと振って遊んでいた。
そして、それとともに揺れる提督の首から下がかなり微妙な恐怖を誘う。
中井出「もっ……もげるもげるもっ……《コキンッ》おほぅっ!!」
藍田 「ひいぃっ!提督の首から小気味のいい音が!!」
夏子 「提督さん!?提督さぁーーーん!!」
麻衣香「博ちゃんの首が異様に伸びてるーーーっ!!」
丘野 「首長族!?もしやそれは首長族の真似でござるか提督殿!!」
夏子 「ああっ!提督さんがキラキラと消えてゆく!!」
丘野 「そりゃああそこまで首が伸びてれば脊髄崩壊してるでござるよ!!」
さようなら提督……。
貴方が戻ってきた時、また貴方は泣いているだろう……。
【ケース200:中井出博光/元気をお出し】
───……。
中井出「………」
藍田 「えっと……提督ー?」
丘野 「提督殿〜……?なんでござるかその暗黒を煮詰めたような暗さは……」
僕はエロマニアじゃない……エロマニアじゃないんだ……。
神様でもゴッドエロマニアでもエロマニヨン人でもないんだよ……。
どうしてこんなことになったんだろう……俺は間違っていたのか……?
僕らにも心はあるんだ……僕らにも……。
中井出「い、否!!元気を出そう!
そして二度とここには来ねー!来るもんかコノヤロー!」
丘野 「おお!提督殿が復活したでござるよ!」
藍田 「やけっぱちっぽいけど今はこれでいいや!
じゃあ早速行きましょう!サー!!巨人の里へ!!」
中井出「うむよし!ならば今こそ歩き出そう!───総員、準備は整ったか!!」
総員 『サーイェッサー!!』
中井出「歯磨きも忘れずにしたか!」
総員 『サーイェッサー!!』
中井出「アイテムも揃えたか!」
総員 『サーイェッサー!!』
中井出「ドアノブは直したか!」
総員 『サーノォサー!!』
中井出「ならばよし!もう無視してやるコンチキショー!!
それでは総員!一路巨人の里を目指して前進せよ!!
イェア・ゲッドラァック!ライク・ファイクミー!!」
ザザァッ!!
総員 『Sir!YesSir()!!』
さよならサンドランドノットマット!もう二度と訪れまい!!
無料の鍛冶屋は勿体無いけど、それよりも大事な人としての誇りがあるんだ!ごめんよ!
つーかね!町を歩けばエロマニア、
買い物出かけりゃエロマニアって耐えられるかこの野郎!!
俺もうここには戻らない!ほんとだよ!?それは絶対に絶対です!
誓ってもいい!!つーか誓う!!俺はっ……俺はエロマニアなんかじゃねーーーーっ!!
……と、そんなことを思いつつ───心の中で半ば泣きながら、
いいことをした筈なのにイタイ思い出が発生した町をあとにしたのだった。
いやほんと……二度と訪れまい。
───……。
……。
藍田 「ナギ助ー、道こっちでいいのか?」
ナギー『ナギ助ではないというに……。そもそもおぬしたちは地図を持っているのであろ』
藍田 「まあ一応」
さて、そんなこんなで砂漠を抜けた俺達はトカホウテ山という山を上って、
とっとと先へと降りて、その先に広がる広大な草原を歩いていた。
ここまで来るとところどころで巨人の姿を見るようになり……
なんだか自分たちが小人にでもなったんじゃないかと錯覚を覚える次第である。
もちろんそんなことはないんだが、
巨大なモンスターをこれまた巨大な斧で打倒するさらに巨大な巨人を見ていると、
やはりそう思わずにはいられないわけだ。
ナギーは藍田二等の言葉を適当に躱しつつ、
シードと一緒になって巨人たちを見て“おーおー”と騒いでいる。
ここのところはやっぱり子供だ。
もちろん我らもだが。
藍田 「あれが巨人かー!でっけぇえええなぁあ!!」
丘野 「巨大なモンスターも一撃でござるよ!」
中井出「エールーバフバフエールーバフバフ!!」
藍田 「デカいぞ強いぞ大きいぞー!!」
夏子 「はぁ……ほんと男って子供……」
藍田 「何を言うんだ夏子!童心を持ちながら、あえて大人ぶっててなにが面白い!!
むしろ童心はフル活用して楽しむのがそう!!」
男衆 『原!ソウ!ル!!』
中井出「男に産まれ、人としての道を歩み!幾多の悲しみを越えて迎えた原中への入学!」
藍田 「漠然となんの目標も持たぬまま訪れた未来へのレール!
期待も持たず、むしろ小学の頃よりも楽しむ心を無くした我ら!!」
丘野 「しかし希望はそこにこそあった!!
それこそが我らの希望のエルドラド!原沢南中学校迷惑部!」
中井出「汝、今尚心に童心を持つのであれば立ち上がれ!!」
藍田 「少年の頃より己が胸に閉じ込めていた心を解き放て!!」
丘野 「その部活には遠慮の一切が無用!!我らこそがそう!!」
男衆 『ジャスティス!!』
中井出「遠き者は耳に聞け!!」
藍田 「近き者は目にも見よ!!」
丘野 「我々こそが激動の青春という名の乱世の中、
“童心”という武器を振りかざして駆け抜けた原中の猛者!!」
男衆 『原沢南中学校迷惑部である!!』
中井出「童心は武器!!」
藍田 「青春こそが戦乱の世!!」
丘野 「我らはともに心を分かち合い、時には平気で裏切ることをここに宣言する!!」
男衆 『あの時の誓いを忘れたわけではあるまいな!』
夏子 「あ、だ、大丈夫……覚えてる、覚えてるから……」
そう、我らは今のメンバー全員が部活に揃ったあの日、今の言葉を叫んで誓った。
あの時の思いは今も我が心に。
念のために言っておくが、“時には平気で裏切る”という部分を考えたのは彰利である。
本気で裏切るわけではなく、その場のみでのふざけた裏切りである。
だからこそみんなも余計に砕けることが出来るわけであり、遠慮無用になるわけだ。
それが原沢南中学校迷惑部。
既に部活動の域を超越した存在である。
ナギー『おお、あれじゃな。見えてきたのじゃヒロミツ』
中井出「おおあれが。つーかなんで俺を名指しで言う」
ナギー『気分なのじゃ』
いやぁしかし……でっけぇえええなぁ……。
こりゃお前……あれだ。
地界で言うビル街なんて目じゃねぇぞ……?
丘野 「ヒャッホゥ新しい町でござるよ!!しかも巨人の里でござる!
いろいろ興味が尽きないでござるよー!!」
中井出「はっはっは、おいおい丘野二等、あんまりはしゃぐなよ。
一人で先に行くと危ないぞー」
丘野 「大丈夫でござるよ!
童心は忘れたけど身体は大人で《ベグチャア!!》オギャアーーーーーッ!!!」
中井出「お、丘野二等ォオオオオオオーーーーーーーーーッ!!!!」
藍田 「お、丘野二等が通りすがりの巨人に踏み潰されたぁあーーーーーーーーっ!!!」
シャアアアン……キラキラ……
総員 『………』
こうして彼は巨人の里を目前にして塵と化した。
本来だったらあと数歩で巨人の里に入っていたというのに、
とんだアクシデントに巻き込まれたために塵となっての来訪となった。
死んだプレイヤーが近くの町に飛ばされるというのなら、
間違い無く丘野二等は巨人の里の何処かに飛ばされたわけであり……
こんなバカデカい町の中から丘野二等一人を探すのは、
むしろ“ウォーリーを探しやがれコノヤロー”の方が遙かに楽なのではなかろうか。
そんなことを思いつつ、俺達は楽しみという名のハートを
思春期に増殖する好いた惚れたでモジモジする青少年青少女のごとく
心に秘めたまま訪れる筈だった町に、
むしろそれとは正反対の沈黙と憂いを持ったまま来訪する羽目になったのであった。
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