10/楽しめぬ旅行など時間と金の無駄であると断言しろ
中井出「死ねぇえええええええっ!!!!」
エヴァ「落ち着けアホォーーーーッ!!!!」
初っ端はこんな感じでした。
人のアーティファクトを勝手に解放したキティに殴られてハデに飛んだ僕は、関西呪術協会の長さまを殺れずに痙攣することとなります。
中井出「ひ、ひどいやマクダウェル……! 僕の弱点が背中だって知ってるくせに……!」
エヴァ「だから殴ったんだ! 頭を冷やせ馬鹿!」
中井出「いや……だって敵の親玉だし」
さて。
せっちゃんからこのちゃんの実家に行きましょうと提案されてからしばらく。
僕らはここ、このちゃんの実家である関西呪術協会の総本山に来たわけですが、そこのドンであるパパりんを見たらどうもこう、襲い掛かりたくなりまして。
中井出「大体貴様ね! いったい何を教えてはるん!?
あーもーここに来るまでに神鳴流だかなんだか知らんけど、
モトコはんと似たような流派の人に襲われるし、ネギは丸焼きになりかけるし!」
ネギ 「丸焼きにしようとしたのはヒロミツだよ!?」
中井出「実はそれは敵に操られておったんじゃーーーっ!!」
ネギ 「えぇええーーーーーっ!!?」
詠春 「モトコ? はて……それはもしや宗家の青山素子さんでは?」
中井出「てめーにゃ教えてやんねー! くそ《パゴシャア!!》ジェーーーン!!」
エヴァ「いちいち敵意剥き出しで喋るな鬱陶しい!
それよりだ近衛詠春! おそらくじじぃもその新書に書いてあるだろうが、
下も抑えられんとはかつてのサウザンドマスターの盟友の名が泣くぞ!」
中井出「馬鹿野郎!! 盟友の名が泣こうと自分の名が泣かなけりゃいいんだよ!」
エヴァ「馬鹿はどっちだこの大馬鹿教師!」
中井出「なんだこらやるか大馬鹿生徒!」
エヴァ「やってやるよヒロミツ! どっちが従者でどっちがマスターか決めてやる!」
状況? ええ、カオスです。
もうね、事実を知らん人がパル姉さんしか居ない状況にあって、僕らはそれはもう好き勝手に騒ぎまくっております。
夕映きちさんとのどかさんも事情はきちんと説明されたようで、むしろ魔法やネギに対して物凄い感心を抱いたらしく───夕映きちさんなんて今じゃ熱心に世界図絵を開いて、のどっちを誘って勉強中です。
魔法世界のこととか魔法のことも書いてあるらしいから、それから入門書などをダウンロードして勉強してはるそうなんよ。
中井出「マッスルゥッ……ミレニアム!!!」
そんなことは今はよしとして、取っ組み合いになるやキティを空中に投げた僕は壁へと跳び、そこを踏み台に真横へと飛翔!!
丁度落ちてきたキティの背中に頭を、手は彼女の両手を掴んで、勢いそのままにロープへと叩きつけゲェエエエーーーーッ!! そういえばリングの上じゃないからロープなんて無かゴバシャァッ!!
ドンドガバキベキゴシャーーーアーーーッ!!
中井出&エヴァ『ギャアアアアアアアアア!!!!』
見事、障子を破壊した僕とキティは外へと飛び、その先でバキベキゴロゴロズシャーアーと跳ね転がってグビグビと泡を噴いた。
詠春 「は……はは……さ、騒がしい、ね……」
刹那 「な、中井出先生無事ですか!?」
中井出「大丈夫!《ジャーーン!!》……オワッ!?」
刹那 「うわわわわぁあーーーっ!!? 先生っ!? くく首が180度曲がって……!」
中井出「オワァアーーーーッ!!」
詠春 「……なぁネギくん。彼は妖怪の類かな……?」
ネギ 「ううん、普通の人間だよ? ちょっと特殊な力を持っているだけで」
詠春 「……“普通の人間”……?
く、首が180度曲がってても普通に生きている彼が……?」
詠春さんはなんだか見てはいけないものを見たって顔で、僕を見てました。
だから僕も180度首を曲げたままポッと頬を赤らめ……た途端に「気色悪いわ!」とキティに無理矢理クビを真っ直ぐに戻されて
中井出「ぐぎゃあああーーーーーーっ!!!」
泡を噴きました。
エヴァ「《ビクッ!》わっ!? ど、どうしたっ!? やややりすぎたか!?」
刹那 「……あの。やりすぎというか、その方向では360度に……」
エヴァ「…………ひひひヒロミツーーーーーッ!!?」
言葉もなく、やがてとさりと倒れる僕を見て、キティが叫びました。
うん、なんのかんのと遠慮無く騒げる相手として認めてくれているのか、たまに心配とかしてくれるキティに感謝です。
根はいいお子なのよね、キティって。たぶん、きっと。
ハルナ「……ゆえゆえ? のどか? それから呪術協会とやらの長の娘さん?
これがどういうことなのか……《にやぁああ……》
このパル様にも教えてもらえるかなぁ?」
夕映 「はうっ」
のどか「あわっ」
木乃香「ふわっ」
で、事実を知ってようが知らなかろうが、当人の前で呪術とか言ったり魔法書とか出してみたり、360度回転してみたりそれで生きてたりすれば、普通におかしいとも思うわけで。
しかしそんなパルちーの肩をポムリと叩き、ゆっくりと首を横に振るう影ひとつ。
カズPだ。
朝倉 「パル……下手を打てば死ぬ世界だけど、踏み込む勇気はある?」
ハルナ「フフンッ《ギュピーーーン!》愚問だね朝倉!
面白いこと、ネタになることを捨て置いて生きることこそが、
ペンを持つ者にとっての死と言えるね!
あんたが報道に命を懸けるように、
私もネタと漫画に───魂を懸けよう!《ドギャァアーーーーン!!》」
朝倉 「GOOD!! ……って言いたいところだけどね。
ネタで済ませられるのはここまでだよ、冗談抜きで。
本当にいい? わくわくするような世界ってのは半面、辛い世界でもあるよ?」
ハルナ「フッ……《クイッ》……私の理想像だ」
なにやら眼鏡を中指で持ち上げて、ニヤリと笑うパルちーが居た。
って、俺も360度オールレンジバトルともオサラバせねば。
はいメキャキャキャっとばたぁーーーんっ!!
エヴァ「ばっ、ばかっ! そっちは720度っ……!」
刹那 「先生!? 先生ーーーーっ!!」
ストレートに倒れました。
こう、上手く出来たつもりの粘土細工が重力に従って倒れるみたいに。
口からこぼれる泡が真っ赤に染まったと、のちに聞かされました。
───……。
ネギが無事新書を渡し、宴もひと段落がついた頃。
僕と詠春殿とネギは風呂でのんびり寛いでいた。
なにやら奥側にある大きな岩の後ろに人の気配とか感じるんだけど、きっとそこはツッコムべきではないところ。
詠春 「はっはっは、しかしあのエヴァンジェリンがああも燥ぐとは。
貴方の実力は相当なものだと判断していいのかな?」
中井出「いえいえそんな、ただエネルギーボールで世界を破壊出来る程度の実力ですよ」
詠春 「はっはっはっは! それは面白いっ、なかなか愉快な人だっ!」
中井出「あっはっはっはっは!」
ネギ 「ひ、ヒロミツ? 冗談だよね……?」
愉快な話や真面目な話、退屈凌ぎに自分の些細な昔話など、細々と話しておりました。
そういった中で、俺が信用に足る人物だと知ると、このちゃんが狙われる理由も教えてくれた。
中井出「このちゃんがサウザンドマスターを凌ぐ魔力の持ち主?」
詠春 「ええ。あの子にはやんごとなき血脈から受け継がれた凄まじい呪力───
魔力を操る力があります。それは事実、サウザンドマスターを凌ぐもので……」
中井出「なるほど、その力を以ってして、世界征服を企んでいたと」
詠春 「い、いや、西を乗っ取る、東を潰すといったことまでだとは思いますが」
中井出「それはまたなんとスケールの小さい……」
詠春 「…………なぁネギくん。これは私の考えが小さいという意味なのだろうかね……」
ネギ 「僕も正直、ヒロミツのことは掴みかねてます……」
中井出「や、だってサウザンドマスターって世界を救ったんでしょ?
それだけの力を持つ者を越す力を得といてそんな、日本の支配がどうとかって。
ほら、規模で考えてみて? ぼや〜〜っとでもいいから」
詠春 「………………お、おや? なにやら急にスケールが小さいような気が……」
ネギ 「う、うーん……?」
ともあれ、現状はそんなところという意味でしょう。
今現在の僕らに出来ることといえば、西をからかって遊ぶだけ……そう、それだけなのだ……。
中井出「けどまあ……俺が敵なら、こうしてのんびりしている今こそを狙うと思うガネ。
総本山でもなんでも関係無しに、目的のためなら手段を選ばない。
それが覚悟ってもんであり、手段ってもんだろうし」
詠春 「ふむ……確かに現在、実力者たちは皆出払っていて、招集をかけねば戻らぬ有様。
貴方の心配ももっともだろうが……」
ネギ 「大丈夫だよヒロミツ、
だってサウザンドマスターの……父さんの盟友が居るんだから」
なんとまあ随分と嬉しそうに言っちゃって……。
父親との繋がりを見つけられたのがよほどに嬉しいと見える。
しかし明日……明日ねぇ。召集かけるにしたって、随分とまあのんびりとしたことで。
こうなると、この夜……そう、まさに今こそ相手は動き始めるでしょう。
俺ならばそうします。外道の限りを尽くしてこそ悪。まずは女子供を狙うのは定石で、必要であれば強者の前で弱者を盾に目的を達成。
と、くれば───
中井出「詠春殿。生徒たちは今なにをしてるっけ?」
詠春 「? いや、それは……」
ネギ 「みんなでカードゲームやったりするって言ってたよ?
電車の中でもやってたんだって」
中井出「……そか。まあ、キティが居るからなんとかなるかな」
お子様だからもう寝てるかもだけどね。
一応心配だから見に行っておこうか。
中井出「ん。ちと心配ごとが出来たから俺もう出るね?
あ、二人はのんびりしてて。ちょいと気になっただけだし」
詠春 「はっはっは……それは結構ですが、娘に手を出したら───《ギパァッ!》
ただでは……おきませんよ?」
中井出「どこのロリコンだねこの博光は……」
目の色を反転させてまで言うことじゃあございません。
神鳴流剣士ってこの眼色反転が好きなのだろうか。
───……。
さて、そんなわけで風呂を出てほかほか気分で夜桜を視界の端に歩いているわけですが。
中井出「桜吹雪が綺麗じゃねーか」
などとあばれ花組の真似をする余裕さえあるこの博光は、のんびり歩いて何故かどこも真っ暗な風景を堪能してました。
ええまあ、一言で言うならもう襲撃されちゃってるよって言葉に付すわけですが。
各部屋を覗いてみて、石像がごろごろ存在するだけ。
恐らくだが、風呂に戻ってみたところで……武器を持たぬ詠春殿やネギもそうなっている可能性が高い。
───そして。いろいろあって忘れていたことが一つだけあるのを思い出したら、救いなどなかったのだと確信した。
中井出「……ばかやろ」
訪れた部屋の一角。
石になってしまっている生徒たちが居るその隅で、運命破壊の効力が切れてしまったためか、力無く倒れているキティの姿があった。
気絶しているのだろう、石化こそ免れたようだが、倒れたその姿に抵抗のあとがあったのが、どうしても自分をやるせない気持ちにさせた。
中井出「……やることなんて決まってるよな? 博光よ」
同じ不老不死を担う者が、こうもいたぶられた。
普段は無関心で通しているというのに。最弱状態だというのに、抵抗も虚しく叩きのめされた。
……想像するだけで腸が煮えくり返る。
中井出「ごめんな、マクダウェル。もっと気を張っていればよかった」
修学旅行に燥いでいたのはなにも、お前だけじゃあなかったようだ。
本当に、馬鹿でごめん。
中井出「デスティニーブレイカー。彼女の戒めを破壊しろ」
運命破壊を発動。
一時の解放ではあるが、怒りを覚えているのは俺だけじゃない。
彼女にも仕返しの権利はあるし、なにより……勝手に相手を潰すと後で文句が飛びそうだ。
エヴァ「……、ん……う……」
中井出「やあ。目覚めの気分はどうだ?」
エヴァ「…………最悪だな。嫌な顔を見た」
最弱状態から解放されるや、傷ついていた部分がすぐに治る。
目を開けるまでに大した時間もかからず、訊ねた言葉にそう返せるなら十分だ。
体を起こす彼女は気だるそうに辺りを見渡すと、石化したクラスメイトを見て溜め息。
そして、俺を見て言うのだ。たった一言、「嘘吐きめ」と。
中井出「はっはっは、嘘じゃないぞぅ?
ちゃぁんと解決すれば、鎮めることにもなりませう。
ン? それともなに? ン? 鬱憤晴らしも出来ないまま気絶してたかった?」
エヴァ「………余計なお節介だ、ばか」
言って、トンと僕の胸を殴ってくる。
代わりに俺は彼女の頭をわしゃわしゃと撫でてやり、「やややめろぉお」ともらす彼女の弱さを堪能した。
中井出「つーかさ、お前……カードは? アレ使えば、封印とか呪い無視して戦えただろ」
エヴァ「……お前がなんとかするって言ってたから、旅館の荷物入れに置いてきたんだよ」
中井出「…………」
エヴァ「《わしゃわしゃ》うわわわわやめろぉお……!!」
信じてくれてサンクス。心の中でそう言って、存分に撫でた。
中井出「んーじゃ……ディスペル」
拳から立てた人差し指をくるくると回し、式と魔法陣を展開。
出現する魔法陣を式の力で広げ、さらに光と闇とで拡大させ、この総本山を包み込むとディスペルを解放。
すると石化していたお子めらがガシャアンッ!と解放され……何故か裸だったので、すぐに着衣を創造、自動で着付けさせた。
も、もうっ! これだからネギまの世界はっ! 無駄に裸体になるんだからっ! もうっ!
う、うるせーぞ猛者ども! 何処の生娘だーなんて言うんじゃねーざます!
エヴァ「つくづく規格外だなお前……」
中井出「お互い様じゃい」
きゅむと後ろから抱き締めたキティをひょいと持ち上げ、肩車。
すっかり定位置になってしまったと言うべきなのか、こうしてないと落ち着かない自分が居たりするから異常である。
エヴァ「……戸口をくぐる時は気を使えよ」
中井出「解った、全力で駆け抜ける」
エヴァ「欄間にぶつかるだろうがっ! そっちに気を使えって言ってるんだよ私はっ!」
魔法の効果なのか、とさりと気絶して倒れた生徒たちを、とりあえず影で受け止めてから寝かせた。
しばらくすりゃあ詠春殿も来るだろうし、今は……
中井出「ははは…………うん……無事で居てくれてよかった。
不老不死だからって、最弱状態で粉微塵にでもされてたらって思ったら、
背筋が凍る思いだったよ……」
エヴァ「…………ヒロミツ……」
記録者……クロリストってのはこれで案外キツい。
器詠の理力を有し、人器を手に入れた自分の記憶の容量はそれこそ異常なくらいのもの。
内包する者の全ての記憶を持ち、意識的に覗かないようにしているとはいえ、それは既に脳に記録されているものだ。
だからだろう。
誰かが危険にさらされた時や、嫌な状況が似通ったりすると、誰かの記憶と目に見える世界が重なることがある。
なまじ家系のやつらも内包してしまっているため、そういう映像は山ほどだ。
だから本当に、傷つきながらも無事で居たことに、深く安堵する自分が居た。
エヴァ「誰かの死は怖いか?」
中井出「四千年生きたって、何千年生きたって、俺が俺である限り慣れるもんかよ……」
エヴァ「……そうか。そうだな、それはきっと私もだ」
サウザンドマスターが死んだと知った時、彼女はどう思ったのか。
それは解らないが、ショックだったのは解り切った事実だろう。
エヴァ「───……浴場の方が騒がしいな。まだあのガキが居るのかもしれん」
中井出「ガキ? んー……検索検索……おお。
すぅっ───おーーーいテルティウムーーーーーッ!!
お兄さんが遊んでやるから出ておいでーーーーーっ!!!」
エヴァ「《ビクッ!》うわっ!?」
大声で叫んでやる。もちろん猛者知識から、やつが嫌がるとされる呼び方で呼んでだ。
フェイト? そんな名前は知らん。
なんて思っていると、虚空に水の渦が出現。
そこから白髪のクソガキャアが出てきて───
テルティウム「───その呼び方、やめてくれないかな。
何処で知ったのかは知らないけど」
暖かさをカケラも感じさせない人形の目で、俺へ向けて手刀を突き出した。
が、それを無防備に食らってなお、無視して突き出された腕を掴む。
手刀? そんなものはこの鍛えこまれたつもりの大胸筋で破壊してやったわ。
テルティウム「……へえ、面白い体をしているね、キミは。
石化させた人たちまで治っている。キミの能力かな?」
中井出 「いや、なんか自力で破壊して直ってたけど?」
テルティウム「……悪いけど、その手の冗談は好きじゃないんだ」
虚空に水が集束する。
即座に圧縮された水の槍がこの博光を貫かんと発射されるが、そんなものは無視して目の前の小僧の顔面をバガシャアッ!!
テルティウム「ぶっ───……!?」
展開されている障壁ごとブン殴ってやった。
全力でではないが、スピードだけの拳でゴパァンと。
だが怒りは治まらぬ! 顔にはビキッ! バキッ! ミシッ! と血管が浮き出て、感情から来るものだろう人器の猛りがこの博光を熱くする!
中井出「……貴様はな、やっちゃいけないことをした」
勢いのままに壁に叩きつけられ、そんな事実に戸惑っているらしい小僧へ向けて歩く。
中井出「ひとつ。俺の生徒に手を出したこと」
霊章を解放し、ぴっちりして邪魔くせぇスーツを爆砕し。
中井出「ひとつ。関係のないやつらまで石化させたこと」
目を竜族めいた鋭いものに変異させ、さらにその色を金色深紅へと変える。
中井出「そして、なによりも許せねぇのがっ……!!」
スピリッツオブラインゲートを解放、内包する全精霊とユグドラシルよりマナを直結、我が力とする。
中井出「俺達の修学旅行をっ! 台無しにしたことだぁっ!!」
……叫んだ途端、肩車中のキティがステーーンと盛大にズッコケました。
拍子に肩車状態から落下するほどに。
エヴァ「おいぃいいっ!!? そこは流れから言って“同胞の私を痛めつけたことだー!”
とか言うところだろぉおおおっ!!?」
中井出「エ? え、あの、だってもうほら、
生徒に手を出したこと〜って言っちゃったし……え? だ、だめだった?
そう言ったほうがカッコよかったかな……!」
エヴァ「格好の良さとか気にしている場合かぁあっ!!」
中井出「ば、場合だよ!? 場合だもん!
こんな時に格好つけないで、この博光にいつ格好つける場があると!?」
エヴァ「つくづくアホだなお前はぁああっ!
少しでもじぃいんと来ていた私の時間を返せぇえええっ!!」
中井出「な、なにを言う! そんなもの返せるわけ《ゾボォッ!!》おごっ───!?」
エヴァ「……なっ!?」
胸から腕が飛び出た。
表現としてはそれが一番合っていて、けど問題なのはその腕の先、手と呼ぶべきものが、なにかを持っていること。
ソレはトクントクンと脈打っていて、胸骨を貫通したらしきそれに力が込められると、ソレ───心臓と呼ばれるべきものが、ぐしゃりと音を立てて潰れた。
テルティウム「茶番は長引くと雑音にしかならないよ。
どちらにしろ、これで終わりだろうけどね。
……生身に一撃を入れられたのは初めてだった。これはそのお返しさ」
腕が抜き去られる。
背中から、ってのがマズかった……胸からなら確実に弾けただろうに。
俺はそのまま畳みの上へとベチャリと───倒れず、常に抑えていたものが檻を破る音を聞いた。
破ろうとする音ではない……何重にも仕掛けておいた檻が、一度で破壊される音を聞いたのだ。
中井出「や、べっ……! マクダウェル! 逃げろ! 今すぐにだ!
生徒たち連れて、影でも何でも利用して───!」
自分の血に濡れたカードホルダーごと投げ渡し、それだけを言う。
“それが限界”だ。
キティが疑問を返そうとした時には、もうソイツは俺を飲み込んでいた。
【Side───エヴァンジェリン=A=K=マクダウェル】
それは一言で言えば破壊の象徴だ。
それがなんなのかと言えば、私は今でも口を閉ざしたくなる。
ヒロミツの中の世界で見たソイツとは明らかに違う。
それはそうだ、ソイツがヒロミツだというのなら、同じ世界に存在する時点で力は分割されている。
だがそれでもコイツは異常だと解る。
あの世界で分割されていた力があったとしても、それは相当に抑えられたものなのだ。
ベルセルク『ルグォオオウシャァアアアアッ!!!!』
行動は速かった。
疑問に思うことなくヒロミツのアーティファクトを召喚し、その能力を以って私以外の全ての生命を別の場所へと転移させた。
異翔転移という、月の家系ってところの能力だ。
それが済むとアベアットを唱え、カードに戻す。
ゲーム世界では効果がないことだが、現実世界では戻せるようで安心……など言っていられない。
エヴァ「っ……! でたらめにもっ……ほどがっ……!」
放たれる咆哮はまるで竜族そのもの。
守護竜というものと戦ったことがあるが、殺気や気迫などは比べるだけ馬鹿らしい。
噴き出る闇色の炎が金色に変わり、しかしその金色が再び闇に侵食され、暗黒の炎へと変わる。
威圧感は異常だ。
どんなバケモノ、どんな竜種に遭おうともこれほど呼吸を詰まらせたことなどない。
興味を沸かせてしまったことが命取りだというのなら、事実それは命取りだったのだろう。
ヒロミツが逃げろと言ったからには、逃げておくべきだったのだと───この後、私は痛感することになる。
ベルセルク『我が宿主を追い詰めし者よ……我に汝の力を示せぇぇええい!!』
闇が吹き荒れる。
闇の魔法の暴走状態の力など赤子に思えるくらい、それは激しく気色が悪い。
姿はヒロミツだというのに、力が明らかに違っていた。
ずしゃりと一歩を歩むだけで風が吹き荒れ、二歩歩くだけで殺気に立ち眩みを覚え、三歩目にはその場にへたり込んでいた。
テルティウム「───……キミ、本当に人間かい?
反応はどこまでいっても人間だというのに、
キミが纏っているそれは人間が扱えるものでは───」
刹那、子供の姿が消えた。
喋り途中だった筈のソイツが視界から消えた、と思った時には、ヒロミツの姿もなく───おかしな話だ。ヒロミツが消えたことに気づくより早く、敵が消えたことに気づいたのだ。
残像がどうののレベルじゃない。
あれは恐らく───
テルティウム「呆れるね。“扉”を無視して僕を捕まえるなんて、
少し無茶苦茶がすぎるんじゃないかな」
ベルセルク 『…………カァアアア……!!』
時間蝕。
瞬間移動だとかそういった類のものではなく、時間に触れることの出来る異常能力。
ヒロミツのアーティファクトを発動させたことのある自分だからこそ解る。
あの子供が使っている水を“扉”とした瞬間移動……その通る道にまで干渉し、喉を掴んで引きずり出すような異常さ加減も。
消えたと思うほどの移動速度も、馬鹿げた能力も。
口を開けば蒸気のようなものが溢れ出し、炎竜でも見ているかのような気分にさせる。
真実バケモノじみたそいつは、子供の喉を掴んで持ち上げたまま、私の背後に立っていた。
テルティウム「……それで、どうするんだい?」
特に自分の命に興味などないのか、宙吊り状態でも焦りを見せない。
それどころか小さく溜め息を吐くと詠唱し、なにもしない狂人へと───石化魔法、石の息吹を浴びせる。
テルティウム「拍子抜けだね。少しは楽しませてくれると───……
どうなっているの、キミの体」
だが、石化しても動くその体に呆れが走る。
完全に石化しているというのに、無理矢理動かしているのだ。
拍子に腕が壊れようが、即座に燃え盛る炎がそれを繋げ、たとえバラバラになっても死することがない。
それ以前に心臓が潰されているというのに、このバケモノはいったい……
ベルセルク『ぎしぃいいい……!!』
子供は無表情。
対する狂人は───つまらないものに出会ったような、舌打ちをしているような表情だった。
テルティウム「血の一滴に至るまで石化したっていうのに……《パシャッ───》」
だが直後、再び扉を使って転移。
狂人の手から逃れると、
ガドドドギュボズボガバァンッ!!!
床を突き破って幾重もの石の槍が召喚され、狂人を貫く。
いや、貫いたのだが───そこにはなにもなかったかのように、狂人は歩いた。
己を貫いた石の槍を無視し、歩だけでそれを破壊して。
次いで放たれた石の息吹も完全に無視だ。
再び石化しようがそれを自力で破壊……した直後に疾駆し、石化破壊時に砕けた肘の先が無い腕を振るうと、肘の先から燃え盛る闇の炎が伸び、床に落ちていた腕と接合。
そのまま虚空へと腕を伸ばし、何もない空間を斬り裂くと───そこから胸を貫かれた子供が引きずり出された。
テルティウム「無茶苦茶が……すぎるんじゃ、ないかな……?
幻像ごと貫かれるとは、さすがに想像していなか───」
仕返しとばかりに掴んでいたものを潰す。
もっとも心臓と呼べるものなのか、ただの核なのかは知らないが───しかし相手も相当だ。
潰されたものなど飾りだと言うように再び転移しバゴシャォゥン!!
エヴァ「っ!?」
消えた瞬間床に殴りつけられ、バウンドした。
あの子供も何が起こったのかまるで解らなかっただろう。
空間干渉が出来ようが出来まいが、現れる瞬間ならまだしも消えた瞬間に殴られるだなんて普通じゃない。
ならばと瞬動で移動を開始するが、あっさりと横につかれ、いよいよ驚愕を顔に出す。
テルティウム「力が強い者は、動きが鈍くなければ釣り合いが取れないんじゃないかな」
ベルセルク 『鈍くない……? 違うな───お前がノロマなのさ……!』
あとは惨劇以外のなにものでもない。
障壁ごと殴り飛ばされ、壁を破壊して外へと飛ばされる。
本能からか転移で退こうとしたところで暗黒の剣閃で空間ごと斬切され、遠く離れた位置だというのに自ら振るう勢いで腕を千切り、炎で繋げて伸ばすソレに捕まり、地面に叩き落される。
地面を破壊しながら、落ちた獲物へと疾駆するその姿はまさに狩る者。
竜族の咆哮以上のモノを叫びながら、放たれる石の槍を己を守る炎の円で破壊し、ただ突き進む。
目眩ましのために放ったそれが無効と見るや詠唱、石化の邪眼を放つ小僧だが、それさえ無駄に終わる。
テルティウム「石化は無駄……魔法も無視となれば」
小僧がとった行動は肉弾戦。
真正面からぶつかり、攻撃の度に出る隙を魔法で潰すといったものだが───無駄だ。
気づけ、いい加減に。
お前は“相手にすらされていない”。
ベルセルク『………』
狂人はもはや笑っていない。
雑魚を始末することを面倒と思っても、楽しめないものがそうするように。
小僧は素早く動き、転移し、石の槍、冥府の石柱を幾度となく叩き込む。
どれもこれもを避けもしない狂人は、ゆっくりと、しかし確実に小僧へと歩み寄る。
転移しようがその距離は変わらず、一歩進めば確実に一歩の距離を殺されている。
やがてそれがゼロになる頃……あいつは塵と化すのだろう。
エヴァ「………」
傍観している場合じゃない、逃げるべきだ。
逃げることを恥と思える状況じゃない。
“あいつ”は逃げろと言った。へらへらしているくせに馬鹿げた力を持つあいつがだ。
それはつまり、自分では制御しきれないソレが内側に居ることを知っていたからで───
ヴァンガガガガガガガォオンッ!!!
距離がゼロとなった。
小僧は左手で首を掴まれ持ち上げられ、燃え盛る炎に触れた途端に爆発しだす。
左手一本で持ち上げながら、右手にはさらなる爆砕の炎を圧縮させ、やがて小僧が焦げてきた頃。
一気に振るわれた右手によって、小僧は───塵と化した。
敵は殲滅された……はずなのだが、狂人は虚空を見上げた。
その先には先ほど破壊されたはずの小僧が───……既に無数の刃によって囲まれていた。
ニタァ……
そんな笑みがようやくこぼれると、逃げ道を無くした小僧は串刺しどころではない、蜂の巣にすらなれないほどに無残な肉塊と化した。
───いや、それすらも幻像だったのか、直後に真下の地面に小僧が転移する。……したのだが、その頃には地面を爆発させて疾駆した狂人が、自らの手に転移させた紫色の閃光を放つ巨大長剣で斬滅。
両断されたソイツは再び転移をしたが、そこには半身が無く、幻像でごまかせなくなってきたことを見るもの全てに理解させた。
テルティウム「───」
逃げなければ“消される”。
殺されるどころの話ではない。
たとえ不老不死だろうが、その理を破壊された上で殺される。
それを、戦ってすらいない私でも理解できた。
ならば逃げるべきだというのに、この体は、意思は、身を焦がす恐怖というものに飲み込まれてしまっていた。
どれくらいぶりだ?
人として生きていた自分が、いつの間にか真祖になってしまって、人に殺されそうになった時以来?
それとも捕らえられ、燃やされた時だろうか。
あれは辛かった。なにせ呼吸が出来ない。死なないまでも、いや、死ねないからこそ呼吸が出来ない恐怖を延々と味わわされた。
それとも初めて憎しみのうちに“殺し”を行った時?
……どれも違う。
これが経験したことのある程度の恐怖であったなら、きっと私は平然と動けたはずだ。
テルティウム「……まだ壊されるわけにはいかない。悪いけど退かせてもらうよ」
聞こえた声に寒気がした。
小僧は幻像に自分の大半を注ぎこみ、破壊されると同時に“この場”から消え去る。
恐らくは雇い主か誰かのもとに戻ったのだろうが、冗談じゃない。
ここに私が居るというのに、あんな暴走野郎を残したままで……散々暴走させた自分だけが逃げるなと。
エヴァ「〜〜っ……大した感情の無い人形と違って、私は繊細なんだぞっ!」
口にした自分の言葉で、動かない体に喝を入れる。
取り出したのはヒロミツのカードホルダーだ。
そこから役に立つものはないかとカードを漁るのだが───ふと、そのホルダーから二枚のカードがこぼれる。
見たことがない人物のものだ。
名前は───いや、それよりもカードが光り輝き、自分を呼べと叫んでいるようで……
エヴァ「ええい! “来れ”()!!」
しかしヒロミツではない私がヒロミツの従者を召喚することは出来ない。
故にヒロミツのアーティファクトを発動、ヒロミツの能力を纏うことで契約に誤魔化しを効かせ、召喚を執行する!
エヴァ「“ 召 喚 ”()!! ヒロミツの従者()!! 北郷一刀()、平賀才人()!!」
カードに導かれるままに召喚。
すると一歩先の左右に出現した魔法陣より、二人の男が舞い降りる。
片方は白く輝くような“制服”に身を纏い、木刀を持つ男。
片方は青と白の混じったパーカーを着た、金色の長剣を持つ男。
一人は整った顔立ちで、冷静な風情。
一人は幼さの残った少年といった風情。
一刀 「はぁ。だから言ったろ提督さん。
心臓破壊をキーにしたジェノサイドカウンターなんてやめとけって」
才人 「やるならせめて洗脳カウンターとかにしとけってさ」
言うや、青のパーカーの少年の両手と額、そして胸部に光が点る。
白と銀が混ざった制服の男は体から氣を溢れさせると、一瞬にしてそれを自身と黒の木刀に固定、咸卦法にも似た雰囲気を纏い、構えた。
そんな二人が、ポカンとする私に振り返ると、
一刀 「提督さんに喝を入れる。手伝って欲しい───って言っても今頃は、
ベルセルクの内側でゲフェフェフェフェって笑ってるんだろうけど」
才人 「ああ、じゃなきゃ召喚された時点で頭と胴体引き離されてるよ。
内側から蝕んでくれてるのはいいけど、
提督が表に出るには喝でも入れてベルセルクを怯ませないとな。
───いくぜ、デルフ。ようやく調整も終わったみたいだし、久しぶりに……!」
デルフ『おうよ! このデルフリンガー様の力、見せ付けてやるぜ!』
エヴァ「………」
ぽかんとする。いや、したままだ。
何を言ってるんだこのアホたちは……ヒロミツを知っていながら、いや……あの狂人を知りながらそれを言えるのは、正直異常でしかない。
だから言ってやった。止められる自信はあるのかと。
一刀 「うん? あぁ、はは……ないなぁ」
才人 「けどまぁ友達だし、親友だから。
大事なヤツが危ないなら、救ってやらなきゃ嘘だろ?」
たったそれだけの理由の下、二人は駆けた。
ヒラガとかいう男は屋敷から大地に下り立つや地面に剣を突き立て、額に刻まれたルーンのようなものをさらに輝かせて地面から大きなゴーレムを生成。
ホンゴウとかいう男はそのまま駆け、無造作に振るわれる狂人の拳を左手一本で受け止めると、即座に右手に持った木刀で反撃。
あんなものでは傷一つ───と思った直後、直撃した木刀の一撃が狂人の肩を砕き、斬り裂いた。
馬鹿な、と思うよりも速くソイツは再び地を蹴り、もげた狂人の左腕を捨てると同時に空いた左の肘を狂人の胸の中心部分へと叩き込む。
中国武術か? と軽く疑問に思う中でその一撃は、胸や心臓ではなく背中に直撃する。もちろん肘がではなく、徹った衝撃の全てがだ。
背中が弱点になることは、ヒロミツのアーティファクトを解放した時点で理解していたが……あの狂人が怯むほどに弱点となるのは初めて知った気分だ。
そうして怯んだ時には右の次弾である崩拳が放たれていて、それが再び胸に直撃、衝撃のみが背中を穿った瞬間、軽く宙に放り投げていた木刀を今度は左で掴むと、対象の喉に鋭い突きを錬氣込みでぶち当てた。
一刀 「才人!」
才人 「あいよっ!」
ヒラガが返事を返すより早く、ゴーレムが駆け、狂人へと拳を落とす。
それは容易く受け止められ、直後に天を衝く闇の業火に焼かれて塵と化すが───
才人 「全力で“ナモナキツルギ”だ! チャンスは一度だけだかんなっ!」
エヴァ「! 任せろ!」
かけられた声にハッとし、闇の魔法を発動、装填する。
ヒラガはゴーレムが業火に飲まれた直後こそを隙と判断、疾駆して狂人へと向かう。
当然狂人は拳でソレを破壊しようとするが、振るわれる拳の全てはホンゴウが受け止め、化勁で全て殺してゆく。
そうして辿り着いたヒラガ。
突き出した右手が、穴が空いたままのヒロミツの心臓部に突っ込まれ、そこから右手に刻まれたルーンの輝きが溢れると、狂人の動きが完全に停止する。
それが意味するところを完全に把握した私は、転移するとともに“断罪の剣”()に込めたナモナキツルギを───!
一刀 「……スマン、限界《ゴプシャア!!》」
才人 「……悪ぃ、もう止めらんない」
エヴァ『なぁあああーーーーーっ!!!?』
振り下ろすより先に二人に限界が!?
化勁で受け流すには力が強すぎたんだろう、ホンゴウは体内から割れたような裂傷から血を噴出させると倒れ伏し、ヒラガも動き出した狂人に殴り飛ばされ、屋敷を破壊しながら吹き飛ぶ始末。
しかも振り下ろした断罪の剣は、ナモナキツルギを宿しているにも関わらず素手で、そう素手で掴まれてしまう始末で───!!
エヴァ「どっ……どどどどこまで無茶苦茶だきさまぁああーーーーっ!!」
恐らくは単純にレベルの差と、それから人間ではない私には“人器”は扱いきれないということ。
100%発動は出来るものの、あくまで“かつては人であった部分”のみ。
これでは届く筈も───
才人 「へへっ……まあ止めるのは無理だけど」
と、私がこれからどうするかを思考している内に、断罪の剣にキンと触れた黄金……いや、金色の剣がその力の全てを───あろうことか吸収した。
当然、剣を掴まれていた私も自由となり、即座にホンゴウを連れて下がるが───
才人 「“来れ”()! “虚無とともに在る騎士”()!!」
いつの間にカードを抜き取っていたのか、ヒラガはカードを解放。
紺色の装飾外套を身に纏った状態で召喚すると、
才人 「いい加減っ───目を覚ましやがれぇええええっ!!」
ナモナキツルギが装填された金色の剣を一閃。
右の肩も破壊し、両腕を完全に奪ってみせた。
すると、大気までもが震動するような“鼓動”が響き……───この場に満ちていた嫌な空気の全てが霧散する。
才人 「はぁ…………。よぅ提督、久しぶり」
あとは気安いことがあっただけ。
ヒラガは剣を背中に背負っている鞘に納めると、軽く手を上げてそう言った。
対するヒロミツ(?)は───
中井出「バッファローマン! 俺に力を貸してくれーーーっ!!」
どこからか、ヒロミツの体躯には合わない両腕を両肩に召喚!
指を絡ませハンマーにすると、ヒラガに向けて振り下ろした!!
途端に、私の手から逃れたホンゴウに氣を込めたパンチを顔面に貰うと、「ウチュチューーーッ!?」とおかしな声を出して吹き飛んだ。
……迷惑をかけた反省が無いと見える。お仕置きが必要なようだった。
【Side───End】
その後わたしは従者のキティと才人と一刀にボコボコにされた。
中井出「ちくしょ〜〜〜……」
顔面がひどい有様だ。
両腕は斬れてるし、体は痛いしで。
しかもベルセルクを抑えるために力使い果たしちゃったから、今の俺……雑魚です。
中井出「すまんがかずピー、腕、くっつけてくれない?」
一刀 「力使い果たしたのか? ん、解った」
迷惑をかけて怒らせたものの、それでも頼めばやってくれるかずピーが大好きです。
落ちている腕を持ち上げて、肩と接触させるとそこに氣を流し込み、くっつけてくれる。
右腕が終われば左腕も。そうしてくっついた腕を振り回して、
中井出「アリガテェもんだねェ……医学ってのはヨォ……」
と、顎をしゃくらせながら言ってみたら《ボゴシャア!!》……キティに殴られた。
才人 「で、これからどうすんだ?」
中井出「このパターンからすると、このちゃんが攫われちゃってるわけだし……
助けないわけには、いくまいよ?」
一刀 「それは賛成なんだけどさ。お前、能力大して使えないんだろ?」
中井出「うむ! 使えるのは武具だけだが、困ったことに器詠の理力も使えなくなってる!
技術の無いこの博光など雑魚中の雑魚! 剣なぞ振り回すことしか出来ぬわ!
でもまぁ楽しむつもりではあります」
そう。困ったことに武器の“能力”が完全停止状態。
だからフロートも使えないために、ジークフリードが重いのなんの。
ギガノタウロスの斧を霊章にしまってある状態で、ジークフリードを出すならまだ軽いんだけどね……。
いいや、基本に戻ってジークフリードのみでいこう。
のみってのはあれだ、他の武具を混入させない、フツーのグレートソード。ただしカタチはジークフリード。
……と思いつつ霊章から武器を……と思ったら、本気で一本ずつしか取り出せないことに気がついた。
もちろん、ジークフリードを出そうとしたのにジークリンデだったりジークムントだったり。
仕方ないので、まずは“鞘”を取り出すことにした。
両脇にひとつずつ、ジークムントとジークリンデ用のを。
なにせ困ったことに、融合も使えないのだ。ジークフリードに出来ない。
だからこうして鞘を両脇に、双剣を納めて…………アレ? なんか以前より……重い?
中井出「…………《だらだらだら……》」
どうしましょう。
どうやら必要以上に力を解放してしまったらしく、随分とまあ弱体なさっている……。
これってフツーの人間だった頃とあまり変わらない?
いやいやいや、この長剣を持てるくらいなんだから、フツーとまではいかない。
……いやでもこれ、オリハルコンが混ざってるから軽いんであってそのー……。
中井出「……面白!!」《どーーーん!》
OKOK! むしろ望むところじゃーーっ!!
封印されたり呪われたりしたわけじゃないんだし、むしろこの状況を楽しむ!
そんなわけだから鞘と双剣は戻して、ホズを左腕に、と。
中井出「えーとそれじゃあ───」
キティに「ホルダー返して?」と言ってカードホルダーを受け取ると、それと一緒にアベアットを唱えたキティから僕のカードも受け取る。
それをホルダーに納めつつ、
一刀 「じゃ、これで戻るけど」
才人 「さっさと自由に動けるようにしてくれよ、提督」
と言って、カードに戻る二人にソーリーと唱えて、戻った二枚も納める。
中井出「あとは若いモンに任せつつ、盛大に遊びましょう」
エヴァ「今までの出来事についての説明は一切無しか……」
中井出「進みながら話すわい。
今頃、キミが飛ばした者どもが猿女を止めに入ってる頃だろうし」
焦らない焦らない、一休み、一休み。
───……。
……で、何処へ行ったもんかなーと適当に進んでいると、ガヤガヤと騒がしい場所を発見。
辿り着いてみれば、そこでは……
ドンガドンガドンガドンガァッ!!
パゴシャバゴシャドッガァアアッ!!!
古菲 「中々歯ごたえがアルネ! もっとかかてくるヨロシ!」
楓 「はっはっは、これは中々面白いでござるなぁ」
群がる……えーと、妖怪?を、素手でブチノメしてゆく我らがくーさんと楓殿がいらっしゃった。
明日菜「あっ……先生、大丈夫なの!?」
刹那 「先ほど、あの時と似通った……いえ、
あの時以上の禍々しい気配を感じましたが……」
そこには明日菜くんやせっちゃんも居て、魔物に囲まれた状態の最も中心には、目を回しながらも立っているのどっちと夕映っちの姿が。
うーわー、来ちゃったんだこのお子めら……。
さすがにカズPとパルちーは居ないようだ……って当たり前か。
ネギの姿が見えないとなると、猿女を追っていったのかな?
中井出「さて……マクダウェル、キミはどうする?」
エヴァ「暴走状態のお前を見たあとじゃあ、こいつらは面白味もないただのザコだよ。
ここに居るやつらで十分だろ? 私はボスのところに行く」
中井出「そか。なにか欲しいカード、ある? 今ならネギと貴様用に一枚ずつ貸すよ?」
エヴァ「弦月彰利のカードをよこせ。途中で既存破壊効果が切れても困る」
中井出「よっしゃ。じゃあネギには晦のカードを。あいつ、雷とか好きそうだし」
エヴァ「渡すより先に終わらせるさ。私が最強種だということ、今の貴様に教えてやるよ」
くすりと笑い、カード二枚を手にとって飛んでいくキティ。
影を使ったゲートで転移すりゃ速いだろうに……ありゃ空から現れて見下したいだけに違いない。
中井出「よっしゃーーーっ! お、俺も混ぜろ〜〜〜〜っ!!」
明日菜「はっ……せ、先生が混ざってくれるなら、楽にいけるかも……!」
楓 「確かにこの数はちと厄介でござるしなぁ」
古菲 「だらしないアルヨ、アスナ。これしきで呼吸乱しては、戦いにならんアル」
明日菜「しっ……仕方ないでしょーーっ!? あの世界以外でのきちんとした戦いなんて、
エヴァンジェリンちゃんの時以来だし、体力はすぐ無くなるしーーーっ!!」
疲れないあの世界と違って、この世界じゃペース配分間違えれば疲れるだけだしね。
中井出「ほらほらー、無駄口叩いてないでー《シャゥゥィンッ……》」
キュボガドンガァアアッ!!!
ブシィイイイッ……バクンッ!!
明日菜「キャーーーッ!!?」
古菲 「オオッ!? 竜●砲アルカ!?」
中井出「うむ! その通り!」
ホズから竜撃砲をブッ放し、妖怪の群れを一気に削る。体に走る反動がたまらねェYO!
しかしながらチャージに時間がかかるし、現在は出現させたものの属性しか使えないもんだから……然の属性大砲しか放てない。
煙を吐いた筒の部分がバクンと開き、排熱を始めると腕も熱いしで結構面倒。
だが十分よ! 左手を翳し、ボウガンをレッツガトリング!!
ザスゾスドスドスと敵さんを蜂の巣状態にして、チャージが済めば竜撃砲!
僕の体に影響する能力発動やジークフリードの武具能力が無くなっただけで、個々の武具能力は生きているようで安心!
……でもマグニファイとかは使えないようで、僕悲スィ。
中井出「明日菜くん! 余所見してないで目の前の敵に集中!
せっちゃん! 周りを気にせずどんどん大技を出したまえよ!」
明日菜「そそそそんなこと言われたって……はっ……もう、腕が疲れて……!」
中井出「ウヌヌ……! って咸卦法使ってないじゃないの!
使えるものはきちんと使いなさい!」
明日菜「あわっ……そ、そうだった!」
慌てて発動される咸卦法。
眩い氣を纏った彼女に、せっかくだからと一枚のカードを渡し、使うように言う。
明日菜「男の人の……?
藍田さんのカードの時も思ったけど、先生ってみんなとキ───」
中井出「してないよ!?
既に内包してる状態なんだから、どこに触れようが契約できたの!
いいから早く使いなさいもう!」
明日菜「あ、は、はいっ! “来れ”()!! “乱世を統べる白銀の御遣い”()!!」
解放するや、白銀の光が明日菜くんを包み込み、ハマノツルギには黒色の光が点る。
さらには左手限定だけど、受けとめたダメージの全てを己が持つ武器に蓄積されるという恐ろしい能力付きであり、しかも自動回復能力が白銀の光に付属されているから……うん、受けたダメージなぞはよほどでない限りさっさと回復する。
しかも行動全てに疾風烈風といった先人の奥義が込められており、それらは疲労無く使えるから労せず戦える。
同じくせっちゃんにも才人のカードを渡し、ひとまずはここを切り抜けることに専念してもらう。
早くしないと、キティがあっさり終わらせちゃいそうだし。
一応ね? ナマのリョウメンスクナノカミを見ておきたいんです。
出来るようなら吸収して、ヒロラインのボスにするのも面白そうだし。
刹那 「体が……軽い!? 今ならどんなことでも出来るような気が───!」
そうこう思っているうちにせっちゃんがアーティファクトを解放。
騎士のマントが彼女の襟首を包み、バサリと揺れた途端に彼女の両手と額、そして胸に使い魔のルーンが出現。
手に持つ夕凪には金色の光が点り、大気中のマナを吸収、力に変えてゆく。
中井出「くー! 受け取れェエイ!!《シュパァンッ!!》」
古菲 「アイヤッ!《パッシィーーン!!》……ニョホ? 何アルコレ」
中井出「シュバルドラインのカードです。
カードを構えてアデアット! って言うだけで発動するから。
楓殿にはもちろん丘野くん! ジョブがフリースタイルで固定された今、
かつて削除されたジョブも自由自在!」
楓殿にもカードを投げ、僕はといえば……
中井出「チーターマンッ♪ 俺、ってチーター!」
ボウガンを心行くまで堪能しました。
しかしまあなんだ、やっぱり銃で行こうと思い、フルウノングンを取り出し、ホズを戻して乱射。
一発当たれば即退魔! だから一撃必殺状態なんだが───ち、違う! なんか違う!
中井出「な、なにかこう、
スカッとヒー公……じゃなくてこんな時にこそ役立つ武具は……!」
閏璃のナハトズィーガー? SUVウェポンも面白そうだけど、今の俺だと衝撃で肩とか外れそうだ。
だったらラグナロク? あれなら弓から剣からレーザーまで、痒いところに手が……い、いや、ギミックならジークだけで十分だし……。
あ、だったらフレイアさんのダークイーターとか……器詠の理力がないから使いこなせる自信がないや……。
…………わあ、俺本当に武器を扱いきれなきゃとことん雑魚だ。
中井出「あ。だったら───」
武具を全部仕舞って、一つのキューブ型の物体を出す。
その名……秘密箱。
中井出「ゲフェフェフェフェ……!! グオッフォフォ……!!」
怪しい笑いが止まらねェYO!
さぁ、早速巨大化を使用して───! ンゴゴゴゴゴ……!!
中井出『ガッハッハッハッハッハァ……!!』
パンドラポットスキル、巨大化を発動!
そう、秘密箱とは融合させる前のパンドラポッドの名前!
そうだよそう、こんなステキアイテムがあったじゃないか!
これ一つで30通りの楽しみ方が出来るステキアイテムが!
明日菜「えぅえっ!? わなななななばばぁあーーーーーっ!!?」
烏天狗『ななななんじゃあこりゃぁああーーーーーっ!!!』
巨大化した我輩アポカリプスの真の姿、刮目せよ!
なんてことを思いつつ、構えた手を以って山のフドウのように張り手を繰り出す!!
鳥天狗『は、ああ……! て、手が《バゴチャア!!》あわば!!』
雑魚どもを一気に蹴散らしたら、即座にもう一度巨大化を発動。
超巨大化すると、お子めらを手に乗せ───
中井出『さあ……ゆきましょう……?』
地面をズシーンズシーンと歩きながら、キティの気配を追った。
明日菜「……あのー、先生? この場合って私達、カード貰う意味なかったんじゃあ……」
中井出『ゴハハハハ……正直この博光も混乱しておったわ』
刹那 「下手な魔法や呪術よりも、よほどに魔法らしい気もしますが……」
明日菜「ほんっとーに、魔法使えないんですか?」
中井出『使えません』
言いながら、足をチクチク刺してくる魔物どもをゴッシャメッシャと蹴散らし踏み潰しながら歩行。
さすがにこの大きさで走ったりしたら───面白そうだ。
中井出『ゆくぞ僕のキミたちよ!』
明日菜「へっ!? あ、ひぃいいいえぇええええーーーーーーーーっ!!!?」
ドゴォンドゴォンと山を越え谷を越え!
まさに神にもなった気分であっという間に目的地。
……もうちょっと巨大ロボ気分でも味わっておけばよかったと思ったのは、しばらくあとのことでした。
猿女 「二面四つ手の大鬼、『リョウメンスクナノ』ほぉおおおーーーーーーっ!!!?」
中井出『やあ』《どーーーーん!!》
まずは生徒たちを地面に下ろして、スクナノカミの倍以上のデカさで「やあ」と挨拶。
そんな僕を見上げる、先に来ていたキティもネギも、テルティウムくんもさすがに驚愕。
カモ 『なななななななななんじゃあこりゃぁああーーーーっ!!!』
そしてカモくん、それは烏天狗と同じリアクションだ。
そんなことを思いつつ、まだ半身までしか出ていないスクナさんの頭をムンズと掴み、ゾリュリュリュリュと無理矢理引きずり出す!
中井出『さ、マクダウェル。やっておしまい』
エヴァ「い……いや……なんていうか………………もういいからさ……潰せよ……」
毒気を抜かれた……じゃないな、やる気をそがれたような声でそう答えるキティは、本気でぐったりしていました。
何事? とも思いつつも、スクナさんをSTRマックスでゴバシャアを殴り倒し、さらにその上から顔面を踵でゴシャアとスタンプ。
すぐに元のサイズに戻ると、彰利の鎌を取り出して滅亡を謳う閻王の虚空()を解放。
円球状の闇でスクナさんを閉じ込めると、さっさとパシンッと両手を合わせて抹消。
闇に消し去って、ヒロラインへの吸収を終了した。
猿女 「えっ……えぇえええーーーーーーっ!!!?」
中井出「ああもう一個ずつしか能力使えないのがこんなに面倒だとは……。
まあレベルがマイナスになってないだけマシか……。
それで、どうするのかな、猿人さん」
猿女 「え、えんじっ……!? くっ、こ、今回は譲ったりますえ!」
……あ、逃げた。
まあいいか、ヤツ一人じゃあなにも出来ないだろうし。
中井出「あとは……」
チラリと視線を向ければ、そこにいらっしゃるテルくん。
テルティウム「不思議なものだね、本当に。心臓を潰してもまるでこたえない人間なんて」
明日菜 「心臓!? つつっつつ潰された!?」
中井出 「きっとボケてるのよ。ほら、僕ピンピンだし」
胸の穴も心臓もとっくに修復済み。
ジェノサイドカウンターも心臓破壊じゃなく洗脳に向けておいたし、誰かに洗脳されそうにならん限りは暴走することもない。
テルティウム「確かに今回は分が悪そうだし……僕もここで退かせてもらうよ」
中井出 「うむ、そーしなさい。今度来るときはもっと楽しめる方向の催しを頼む」
テルティウム「一方的にやってくれた上に、我が儘だねキミは《……パシャアッ》」
語ることも語ったのか、水が弾けるように消えたテルくん。
中井出「……こうして……長い長い戦いの日々は……幕を下ろしたのだった……!」
エヴァ「勝手に終わらせるなっ!
ぼーやが石化しかけているんだっ! なんとかしろっ!」
中井出「エ? ……なにににににににににににィイイーーーーッ!!?」
言われて振り向いてみれば、苦しそうに息を荒げながら倒れ伏すネギー!
すぐに明日菜くんや他の皆様が駆け寄るが……!
中井出「うう、こりゃひでぇ……! 手の尽くしようがありすぎる……!」
エヴァ「ありすぎるのかっ!? だったらさっさと直せアホォッ!!」
中井出「キミがやったらどう? スプリングフィールド一族に借りを作れるよ?」
エヴァ「わ、わわ私は治癒系は苦手なんだよっ……不老不死だからっ……」
中井出「…………ふむ」
エヴァ「《ぽむぽむ》わぷっ!?
だだだから頭を撫でるなとっ《わしゃわしゃ》ややややめろぉおお〜〜っ」
自分が出来ないことを、この博光に頼ってくれたのがなんか嬉しかったのです。
キティの頭を存分に撫でた僕は、ニコリと笑って───
中井出「……明日菜くんがハマノツルギで小突けば一発じゃない?」
───きっと誰もが思ったであろうことを口にしてみた。
───……。
結局のところ、体を侵し始めた魔法には効果がないってことで、ウロボロスをエジェクト。
それを使ってホギーの魔法を……うんだめだ、能力引き出せない。
仕方ないのでホギーのカード、“常咲きの桜花桃精”()を使用。
石化魔法でひと思いに石化させたのち、蒼木くんのカード“蒼を目指す風精”()を解放。
ディスペルでこれまた一気に癒し、事無きを得た。
……え? 最初っからディスペル使え?
だって息苦しそうだったし、それなら一気に石化してからやったほうが速いでしょ? ってことで。
そんなわけで、僕らの戦いはついに終焉を迎えたのでした───……
───……。
で、巡り巡って修学旅行三日目の朝。
中井出「どうしても行くのかね」
刹那 「はい……私は昨日、己の無力さを痛感しました。
守るために距離を置き、修行を積んで戻ってきたというのに、
私は私自身の力だけでは……お嬢様を守ることができなかった。
先生が来てくれるまで、私は───」
中井出「それで、キミが去ったあとのこのちゃんは?」
刹那 「私でなくとも、きっと他の誰かが。
幸いここは総本山……長を頼ればきっと、私などよりも力のあるものが───」
中井出「ふむ……」
よっぽど無力感を噛み締めているようだ。
半ばいじけているといえなくもない……のか?
中井出「せっちゃん。俺が以前キミに言った言葉、覚えてる?」
刹那 「え……? あの、どれのことだか……」
中井出「……このちゃんの“身”だけを守れていれば満足か?」
刹那 「あ……」
中井出「確かにあのゲンドウ野郎(若)に頼めば、新しいヤツが付かされるだろうさ。
けどな、じゃあこのちゃんが友達として受け容れた枠はどうなる?
急に友達が居なくなって、
親に訊いてみれば“相応しくないから去った”なんて言われたら」
刹那 「〜〜っ……し、しかし私はっ! 私はもうっ、こんな私ではっ───!」
走り出そうとするせっちゃん! だがしかし、その足がピンと張られた糸にとられ、ステーンと転ぶ。
刹那 「!? !?」
エヴァ「落ち着け馬鹿。話が終わるより先に逃げるな」
中井出「そうそう。まあでも、一度距離を取って考えたいっていうなら───よし。
せっちゃん。キミ───この博光の娘になりなさい」
エヴァ「へ?」
刹那 「え……」
転んだ拍子にデコを盛大に打ったのか、額をさすりながら涙目でこちらを見ていたせっちゃんにキッパリ。
中井出「身寄りも行く宛もないなら、この博光の素晴らしき家へと導こう。
で、自分に自信が持てるようになったらこのちゃんの護衛に戻るといい。
あ、大丈夫大丈夫。精霊の娘も魔王の息子も居るし、
今さら誰が娘になったところで私は一向に構わんッッ!!」
カクカクと体を小刻みに揺らしながら言ってみせました。
でもやっぱりポカーンなせっちゃん。
中井出「あ。なんならキティも来る?」
エヴァ「待て。久しぶりに頭が痛い。……お前は何を言いだしているんだ?
この女を娘に? それはあれか、四千年を生きた者の余裕か?」
中井出「いや。僕は身寄りは無いが生きることを諦めぬ者の一方的な味方っぽいものだ。
迷いし者を導きましょう。一応副担任だし。で、どうかなせっちゃん。
我が家に来れば、学校が終わったあとはヒロラインし放題だけど」
エヴァ「《ハッ!》その手があったか! いやしかしこんなやつの娘……!?」
中井出「居候でもいいけど。ただしせっちゃんは娘になること以外認めません。
家族が居ないなら、我が家に来んしゃい。
で、たっぷり鍛えてから護衛に戻ればええ。
長には僕から脅迫───もとい、言っておくし、もし長が断ったら……
将軍家三大奥義の一つ、大江戸ドライバーでグオッフォフォ……!!」
刹那 「脅迫はやめてくださいっ!
……〜〜……そ、そのっ……申し出は大変嬉しいのですが───」
中井出「嬉しい!? よろしく娘よ!!」《メギャーーーン!!》
刹那 「話を最後まで聞いてくださいっ!!《がばしっ!》うわぁっ!?
ちょっ……先生!? 中井出先生!?」
せっちゃんを肩に担いで、さあいざゆかんホテル嵐山!
どーせまだみんな寝てるだろうけど、今はともかく修学旅行へ戻る時!!
中井出「さあマクダウェル! 修学旅行の続きだ! 楽しむぞ〜〜〜っ!」
エヴァ「《トトッ》もちろんだ! さぁ進めヒロミツ! いざ、まだ見ぬ日本風景へ!」
左肩に担いでいるせっちゃんとは反対側、僕の右肩に駆け上り、ちょこんと腰を下ろすキティを、太股を支えることで担ぐ。
さあ、新たなる旅立ちだ!
俺達の冒険は───始まったばかり!!
刹那 「で、ですから話をっ……話を聞いてくださいぃいーーーーーーっ!!!」
中井出「大丈夫だ娘よ! これからはこの博光が衣食住全てを担ってくれようぞ!
なーーに安心おし! この博光、もはや一銭もなくとも豪華生活を送れる異常者!
今さら何人養うことになろうが、その全てを受け容れましょう! 気が向けば!」
エヴァ「いちいち最後に格好つかないやつだな……」
中井出「構わぬわ! まあそんなわけだから気にシナーイ!
お前は今のうちに行く道を決めておきゃあいいのさっ!
決まるまではゆっくり考えるがよい!
あ、でもパパとか呼んでくれたらなんとなく嬉しいかも」
エヴァ「………」
中井出「……あの、なに? なんか睨まれてるような……」
エヴァ「いや、あーその……ああ、うん……あー……なんだ、そのー……。
わ、私はお前と対等だよな? 同じ不老不死で、その……」
中井出「図に乗るなよ小娘!
貴様とこの博光とでは生きた歴史が5倍以上《ゴベキャア!》ジュモール!!?」
首の骨を折られました。
───……。
ズキズキズキズキ……
中井出「あのね……冗談も冗談と受け取れないようでは……」
エヴァ「本気の目で言ってて冗談もクソもあるかーーーっ!!」
中井出「本気の目で冗談言ってたのさ! あーもう首痛い……」
刹那 「確実に折れていたのに平然としているほうもどうかと思いますが……」
二人を担ぎながら歩く。
せっちゃんも観念してくれたのか、担がれるままになってます。
中井出「で、対等かどうかだったね?
確かに今の僕、随分と弱体化してるし……対等なんじゃない?」
エヴァ「いや、そういうのじゃなくてだな……こ、こう……な?
立場的というか、位というか……」
中井出「なに!? つまり同じ不老不死でも吸血種である自分のほうが位が高かろうと!?
キ、キミはそんな目で僕を見てたのか!」
エヴァ「だからそうじゃない!! 従者とかマスターとか、そんなものを抜きにしても!
お前は私の隣を歩いてくれるんだろって訊いてるんだっ!」
中井出「なんだと!? 貴様から肩に乗っかってきたのに下ろせというのか!?」
エヴァ「だーーーーーっ!! どうすれば解るんだこのアホは!
おい桜咲刹那! どうすれば伝わる!? どこまでアホなんだこいつは!」
刹那 「え……いえあの、私にも言っている意味がよく……」
中井出「だよね、だよねぇ!? それみたこと《ゴキャア!》カオラッ!?」
首を折られました。
───……。
ズキズキズキ……
中井出「で、つまりは……娘になるのは対等じゃないし、居候っていうのも情けない。
だからマクダウェルの家に住め、と?」
エヴァ「そ、そうだっ! そうすれば、学園の屋上でテントに二人で住む必要も、
私がわざわざお前のところに行ってログインする必要もないだろっ!」
なるほどっ……その手があったか!
なんて良い手だ、やっぱマクダウェルは天才だな!
中井出「やだ。めんどい。お前、学園の屋上の便利さ解ってない。
寸前まで寝ていられる至福は、ログハウスに住む貴様では解らん」
エヴァ「面白ければ面倒ごとにも首を突っ込む男の言葉がそれかっ!?
ていうか今物凄い心と言葉の違いを突きつけられた気分になったんだが!?」
中井出「気の所為だ! まあともかくそんなわけだから、ゲートを作ろう」
エヴァ「ゲート?」
刹那 「“扉”……ですか?」
恥ずかしそうにしながらも、キティと同じく僕の左肩に座るカタチになっているせっちゃんが言う。
うむ、ゲートだ。
どこそこの扉を開けたらそこに繋がっているーとかのゲート。
晦がよくやってた手だな。
中井出「我がテントとマクダウェルのログハウスを繋ぐ。
で、テント内もどうせなら増築して……ああいいや。
むしろ許可を得ている者だけ、そこを開ければログインってことにしよう。
それ以外の人が開けばただのテントだ。
で、許可の証を〜〜〜……そだね、ギャバンの証とします」
刹那 「あのネックレスですか?」
中井出「うむ。あれ以上の許可の証はあるまいよ。というわけで。
なんかもうせっかく弱体化したんだし、僕もヒロライン参加するから。
込めすぎた力は黒ノートン先生がヒロラインの糧にするって言ってたし、
レベルの上限も上がったそうだから。
神々どもにはその糧を使ってフィールドを増やしてもらってるし、
ハルケギニアも追加されるからいろいろ忙しくなるし……」
暮らしが広がれば夢が広がりますってやつだね。
住まいが増えれば生きにくくなるのも事実だけど。
まあ一言言えることがあるとしたらアレだ。
中井出「一刀が降り立ったら、魏呉蜀が統一するかもしれんってことだよな……」
凪は今のところ僕のことを隊長って呼んでるけど、かずピーがログインすれば統合された外史の数だけ好きメーターが振り切れるだろうし。
それは他の国の皆様もきっと同じさ。
思い切ったことしたよなぁかずピーも……外史の統合なんてしたら、感情とかもごっちゃになって大変だろうに。
中井出「才人も最強化計画のお陰で恋姫連中よりレベル高いし……」
それいったらギーシュもだけど。
ルイズ? ああ、ルイズなら未だに才人症候群中だと思うよ?
ツンデレがデレデレに変わっただけだし。
中井出「そーなったらなったで楽しめばいいか」
なるようになれである。
と、考え事をしながらだからか随分と早く旅館に辿り着いてしまった。
中井出「ではまあ、これからもよろしくということで。
せっちゃん───パパと呼んでくれたま《コキャスッ!》たわば!」
刹那 「ああっ!? また首がっ!」
エヴァ「お前はいい加減にしろっ! どこまで父性をぶちまけたいんだ!」
中井出「《メキリ》だ、だってさ! やっぱり娘には親として見られたいじゃないか!
かつて僕にも娘が居た! でもヒロラインには参加しなかったから意思が無い!
しかも滅法嫌われたから今さら迎え入れることなんて出来ないし、
そもそももう僕の娘じゃないし!
わ、解る!? なんつーかこう……飢えてるの! 愛に飢えているのだよ!
だからせっちゃん! 僕を父と呼んで《ゴキリ》ブビーーーーーッ!!?」
静かに、だが勢い良く捻られた我が首! そして鼻から勢いよく噴き出る血液!!
うおお目が回る! い、いや違う、回っているのは俺の首だ!
刹那 「は、はあ、あの……先生には随分支えてもらいましたし、
恩をそれで返せるのなら……」
中井出「あ。《コキン》でも恩を返したからって逃げ出したら即座に捕まえるからね?」
刹那 「……大丈夫です、もう逃げません。逃げてもどうにもならないし、
私は……やはりお嬢───このちゃんの傍に居たい」
中井出「…………うむ」
善き哉。
そもそもせっちゃんは物事に対して少々奥手がすぎるかと思います。
それではこの先いろいろ辛いでしょうに。
中井出「あ。そういえばせっちゃん、仮契約とかはもうした?」
刹那 「え? い、いえ。カモさんから促され、
私もネギ先生の魔力向上は望むべきものだとは思ったのですが……
思いの外、古や楓、アスナさんが善戦してくれて……その」
うやむやになったと。
まあ解るかも。ネギだって現時点では原作よりも強くなってるし、魔力向上は今すぐ必要ってこともない。
中井出「そかそか。このちゃんもやってあるから、てっきりしたものとばかり……」
刹那 「勝手に仮契約などされて、随分とひやひやしたのを覚えていますよ、まったく。
あの頃は中井出先生がどんな人物か、まるで解っていませんでしたから」
エヴァ「それは今も同じだろうよ」
ニヤニヤしながら話を聞いていたキティが、何故かこのタイミングで話に参戦。
ハテ、とせっちゃんが思考をめぐらせるのだが、どうやら同じ答えが出たようで。
刹那 「確かに……今でも謎の多い人ですね」
エヴァ「“家族”に隠し事をするのか? いい親とは思えんがなぁ《ニヤリ》」
中井出「よし。じゃあせっちゃんにだけこの博光の過去を教えよう。
じゃあねマクダウェル」
ひょいと、「エ?」と目をまんまるにして呆然とするキティを下ろす。
その上でせっちゃんを肩に乗せたまま旅館へと入ろうとする僕───の服を両手でぐっと掴んで、待ったをかけるべく見上げてくる影ひとつ! ていうかキティ!
エヴァ「ちょっと待てっ! そこは私も連れていくところだろっ!?
い、意地悪するなっ!! 対等だって言ったじゃないか!」
中井出「やっぱそれが狙いだったかこのお子は……」
エヴァ「《ギクッ》うっ……」
知りたかったら創世の猫を読めと言ってるのにもう……。
中井出「それに、見たってあまりいいもんじゃないよ? いつか吐いたの、忘れた?」
言いながら、服を掴むキティを抱え、再び肩へ。
……なんだかなぁ、いつからこんなにお子めらに甘くなったのか。
そりゃあナギーやシードは随分と甘やかしたような気はするが…………あー……。
やっぱりいろいろ意思の影響って強いんだろうね、どうにもならん。
人間をやめたときに体が猫に変わったみたいに、内側のほうも大分融合しちまったってことだろう。
エヴァ「言ったろ、全部見た上で笑ってやるって。
お前が経験したものなんてそんなもんなんだって笑ってやる。
だから対等の私に過去を見せてみろ。じゃないときちんと対等になれないだろ?」
中井出「フン断る《ボギンッ!!》ぐぎゃああああーーーーっ!!!!」
首の骨から頭骨をもぎ取られました。……もちろん、筋とか皮はくっついたままで。
……まあ、なんだ。どちらにせよ自分がどう変わろうが、これもまたこの博光ということで。
自分で自分を受け容れられぬ者に無粋な今日明日を生きる資格はねぇやな。
結局ルドラを否定して生きてきた俺達だ。
あいつの理想は飲んでやれなかったけど、生き方が違ったなら笑ってやれたかもしれん。
それでもこっちの道を選んだのなら……なあ? 自分がこれから何に影響されてどう変わろうが、自分だって胸張ってやらなきゃお前が報われねぇもんな、ルドラ。
けど、つまんないわけじゃないから安心おし。俺達は今を十二分に楽しんでる。
訪れる今日明日がどれほど無粋だろうが笑って生きるだけだ……───ほんと、生きててよかったよ。
……ちなみに。
この後、みんなで修学旅行最終日を堪能し、ネギの父がかつて使ってた別荘とやらにも行くことになるんだが。
それの前にネギウスがパルちーに唇を奪われ、無理矢理仮契約をさせられるという事態が起こる。
当然そそのかしたカズPや協力したカモ助にはお仕置きを実行。
ヒロラインで強制VSバルバトスを味わってもらい、終いにしました。
え? あ、ええ。もちろん別荘の書物は全部コピーさせてもらいました。
ワケ解らん文字ばっかりだったから僕は読んでないけどね……。
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