12/人材登用 反董卓連合が、連合の勝利で終わってから早一ヶ月。 仕事に追われたり遊んだりをする日々の中、ふと届けられた報せ。 使者 「平原の牧、劉備。前の董卓討伐において多大なる功績をあげたことを認め、 徐州の州牧を命ずる。かしこみて帝のご仁慈をお受けするように」 偉そうな言葉とともに渡されたのは、書簡と一編の印。 それが終わるととっとと帰る使者を見て、みんなぽかんとしている。 いや、もしかしてそのしゅーぼくとかいうのが凄いことなのか? 桃香 「……徐州の州牧だって。……でも州牧ってなに?」 朱里 「以前は刺史と言われていたものですね。霊帝の時代に州牧という名に変更され、 権限なども刺史や牧よりも大きなものになっています」 雛里 「太守みたいなものだと考えて良いかと……」 桃香 「太守……私、太守様なんだ……あれ? でも私、反董卓連合じゃ目立ったことなんてしてないよ?」 中井出「あ、それ多分俺が流した話が大きく広まった所為だと思う。 連合軍は、逃げ出した総大将に取って変わった、 劉備、曹操、孫策の手で勝利を得た〜って感じで噂流しておいたんだ」 星 「ほお。抜け目がないですな主」 中井出「使える状況はなんでも使ってこそだと思うのですよ」 でも太守……徐州の太守か。 中井出「あ、でもこの平原はどうなるんだ? もしかして掛け持ち?」 朱里 「あ、いえ、おそらく朝廷より後任の方が来られるかと」 桃香 「勤まるかなぁ〜……平原の街のみんな、ご主人様にべったりだったから……」 中井出「うぅむ、せっかく街のみんなと好き勝手言える友達になってきてたのに」 雛里 「せっかく、頑張って内政したのにね……」 朱里 「うん……」 星 「まったくだな。なじみの酒屋や拉麺屋が出来たというのに」 愛紗 「そうは言うが、これは大きな前進となる。……すぐに徐州に移りましょう」 愛紗の言葉に、少し寂しさを感じながらも頷く。 そうだよね、馴染んだところから離れるのは寂しいよね。 でもまあ、ここで学んだことを次に活かせば、徐州はもっとステキな場所になるさ。 ───……。 そんなこんなで徐州……にやってきて、早一ヶ月。 早いもので、慌しかった引越しや新たな生活が身に馴染むと、あ〜……ワイって人間やってんなぁ……と、自分の中の“順応”に感謝した。 ようやく徐州の生産高や産業の状況なども纏め終わり(まあ朱里の手腕だが)、少しずつ書類整理から離れられる時間が増えてくると、俺もまた街に繰り出し人々と接する日々を送っていた。 平原との規模の違いか、書類仕事が割り増しになったことに桃香が涙ながらに嘆いていたが、国として強くなるってことはそういうことなのですと教えると、私頑張るよ! と気合いを入れて…………夜更かしまでして書類と睨めっこして風邪を引いて倒れた。 そんなことがあって、みっちりと愛紗の説教を受けつつ回復した桃香が、侍女となった董卓……月と、賈駆(董卓と一緒に居た軍師殿)……詠と談話している時、それは起こりました。 兵士 「も、申し上げます!」 中井出「解ったすぐに行く!」 兵士 「えぇっ!? ま、まだなにも───」 中井出「うむ! 言ってみただけだ!」 詠 「あんたはちょっと黙ってなさい!」 中井出「うう……詠ちゃんひどい……」 即答してみたら詠ちゃんに怒られました。 この世界に来てから怒られてばっかだね俺……。 詠 「真名で生きていくしかなくなったからってあんたに呼ばれると寒気がするから黙れ って言ってんのよこの馬鹿!!」 中井出「一息でどれほど叫ぶのキミ!」 月 「え、詠ちゃん、ご主人様にそんなこと言っちゃだめだよぅ……」 中井出「あ、兵士さん続けて。このメガネは無視していいから」 詠 「眼鏡言うな!!」 兵士 「は、はっ……ただいま城門に公孫賛殿が……! 多数の兵を引き連れ、劉備様に保護を求めていらっしゃるのです!」 中井出「許可する!! いいね桃香!」 桃香 「保護って、誰かに襲われたってことだよね!? もちろんだよっ!」 中井出「うむよし! 月! 詠! 寝床の準備を! 出来るだけ多くだ! 桃香! 朱里と雛里、それからみんなを呼んで玉座の間に集まっておいてくれ!」 桃香 「了解だよっ!」 返事をするや、桃香が駆けてゆく。 兵士に頼めばいいものを、じっとしていられなかったんだろう。 そんな桃香の行動に触発されるように月も詠も動いてくれて、俺はといえば転移を実行、城門前まで一気に飛んだのでした。 するとそこには、白と金で飾られた鎧のところどころを黒の煤と返り血とで汚した白蓮の姿が……! その後ろには傷ついた兵たちも居て……彼女が戦に破れたことを理解させた。 中井出「白蓮殿……」 白蓮 「っ!? ……なかい……中井出か! すまない、急に転がりこんできて……!」 中井出「構いませぬ! それよりいったいどうされた! 貴様ほどの者が……!」 白蓮 「…………っ……麗羽が……袁紹の奴が奇襲を掛けてきて、 遼東の城を全て落とされたんだ……!」 なんと!? あの名門女の仕業だと!? おっ……おぉおんのれあの馬鹿女ァア……! まぁあだ懲りてなかったと見えるわぁああ……!!」 白蓮 「反董卓連合の後、私は本国に戻って内政に取りかかっていたんだ……。 だけどある日、宣戦布告の使者が来ると同時に、 国境の城が次々と落とされてしまって……」 中井出「宣戦布告と同時に!? それでは奇襲どころか事後承諾のようなものではないか!」 白蓮 「気づいた頃には領土の半分を制圧されていて、反撃するにも兵力が足りず……!」 中井出「…………白蓮殿」 白蓮 「……すまない。多少の顔見知りだとはいえ、 急にこの人数で助けを請うのは無茶があることくらい解ってるんだ。けど……」 中井出「……なにも仰りますな。……よくぞ、生きてくれました」 白蓮 「───……中井出……」 中井出「逃げ延びることは恥に非ず。さぁ、傷を癒しましょう……中へ」 白蓮 「…………すまない、ありがとう……───」 中井出「ぬっ!?」 言葉を発した後……張り詰めていた気が抜けたのか、白蓮殿は気絶した。 そんな彼女を咄嗟に抱き留めると、抱き上げて城へ。 兵士たちにも付いてくるように言って、俺達の急な軍議は始まった。 ───……。 白蓮殿が目を覚ましてからは軍議も本腰。 仲間になってくれと頼み、あっさりと仲間になってくれた白蓮殿。 そんな彼女にどんな仕事をしてもらうのかを考え、どんな仕事も地味にこなせることを知ると、広く浅く担当してもらうことに。 ───したところでまた報せだ。 兵士 「も、もも申し上げます!」 中井出「なんだ! 軍議中であるぞ!」 兵士 「し、しかし火急の用件ゆえ!」 中井出「あ、うん、ごめん、言ってみたかっただけだから。で、なに?」 兵士 「はっ! え、え……袁術の軍勢が国境を突破し、我が国に侵攻してきました!」 中井出「なんですって!?」 愛紗 「どういうことだっ!? 宣戦布告も出さず、奇襲をかけてきたというのかっ!?」 兵士 「はっ! 国境の警備隊を突破後、猛烈な勢いで侵攻してきております! このままでは州都に到着するのは時間の問題かと!」 白蓮 「……! 同じだ……! 私達の時と……!」 中井出「ぬ、ぬううう!!」 袁家……どこまでも卑劣な! この世界では宣戦布告をしてから突貫するのが礼だと聞いておるが、よもやそれさえせずに国境を越えるとは……! 中井出「鈴々! 星! 出入りである! 迎撃準備をせよ!」 星 「応っ!」 鈴々 「合点!」 中井出「朱里と雛里は輜重隊の手配を! 戦いにも礼を尽くす者なればこの博光が出ることはせぬが、 最低限の礼も尽くさず民を、兵を殺す者に慈悲など要らぬ! 総員、出せる力を尽くし、速やかに殲滅せよ! 以前の我らなら危うかったやもしれぬが、今は白蓮殿が連れてきた兵も居る! 他の諸侯連中に助けでも乞おうものなら、 袁術の味方になって我らを潰すに決まっておるわ! 此度の戦、我ら劉備軍のみで打倒するものとする!」 朱里 「は、はい!」 雛里 「御意、です……!」 中井出「あ、ちょっと待って朱里、雛里」 朱里 「はい? ───はわぁっ!?」 雛里 「あわわ……?」 駆け出そうとした朱里と雛里を両腕で抱き締め、少し深呼吸。 中井出「……ん。落ち着いた。ごめんな朱里、雛里。怒り任せに指示されたら怖いよな」 朱里 「はう……いえ、ご主人様のお怒りももっともですから……」 雛里 「あのその、ご、ご主人様の気持ち、解りますから……」 中井出「〜〜ああもういい子だっ! よしっ、さっさと行ってさっさと倒すぞ〜!」 朱里 「はいっ!」 雛里 「が、頑張りますっ!」 荒ぶる気持ちを、二人を抱き締めることで封殺。 冷静さを欠いては戦は負けかねないしね。 よ〜し行こう! 袁家の者どもに、我らの恐ろしさを思い知らせてくれるわ! ───……。 斥候によると、敵さんはかつて張角が死んだっていう場所に近いところに居るらしい。 しかしなんとも不思議なもので、奇襲をかけてきたにもかかわらず動きが鈍重。 なにかじわじわとくるものがあり、朱里が言うには恐らくはなにかしらの罠をしかけている可能性が高い、とのこと。 ……ちなみにその朱里は、雛里とともにかつてのように僕の肩の上。 二人を撫でながら、将、兵とともに進行しているわけです。 ……と、ここでもういっちょ斥候さんが戻ってきて、 兵士 「前方一里のところに敵陣を発見! 随所に炊煙が上がっているため、現在は食事中かと思われます! まだ我々には気づいていないかと!」 星 「なに? 敵地でのんびりと食事?」 愛紗 「しかも我らの接近に気づいていない……? 非常識極まりない。何を考えているのか」 鈴々 「愛紗、よく考えてみるのだ。 袁術は袁紹の従妹なのだ。それだけで全部納得出来るのだ」 全員 『…………ああ……』 満場一致で納得した。 雛里 「これは好機ですね。 このまま敵陣を急襲すれば、数の不利を覆すことが出来るかと」 と、ここで雛里が軍師モードに移行。 その頭を撫でると、すぐに顔を真っ赤にして、肩の上から真っ赤な顔で僕を見下ろす。 愛紗 「確かに、向かい合って戦うよりも有利だ。 初手に痛恨の一撃を与えれば、以降の展開が有利になるかと」 中井出「他のみなさんは…………よし、賛成みたいだね。先陣は誰が切る?」 鈴々 「はいはいはーい! 鈴々が行くのだ!」 中井出「うむよし! では鈴々に頼もう!」 鈴々 「やたっ! 鈴々が先陣なのだっ!」 中井出「右翼は愛紗、左翼は星! 中軍に白蓮と雛里を、後極に本隊を置き、桃香と朱里を配置! あ、僕は状況に応じて動くからそのつもりで、って感じでどうでしょう」 雛里 「適材適所だと思いますし、良い采配かと♪」 中井出「そっかそっか、雛里に褒められると嬉しいなぁ! はっはっはっはっは!」 雛里 「《なでなでわしわし……!》わぷっ! へ、へぅ……えへへ……」 一通り雛里を撫でたのち、二人を肩から下ろしてバトルスタート! 白蓮殿は私なんかが中軍でいいのか?と戸惑っていたが、もはや仲間な彼女になんの遠慮がありましょう。 中核は任せたぜ?と親指を立ててみせると、白蓮殿は照れながらも了承してくれた。 ───……。 砂塵を舞わせて突撃する。 先陣を走る鈴々はもう大喜びで、目前にある戦いへとまっしぐらである。 その後ろを白蓮率いる白馬隊が駆け、右翼には愛紗の隊、左翼には星の隊。 白蓮のさらに後ろの本隊には桃香が居て、その全体での突撃が開始されている。 だが───しばらく進むと、旗を上げぬ謎の部隊を鈴々が発見。 鈴々 「構うことないのだ! 突撃! 粉砕! 勝利なのだーーーーっ!!」 中井出「うむ! 袁術ごとき、我らの敵では──────はうあ!?」 鈴々 「にゃ? お兄ちゃんどうしたのだ?」 中井出「鈴々ストップ! あ、ストップってのは止まれとか停止しろとかって意味で!」 鈴々 「解ったのだ! 全隊止まるのだーーーっ!!」 勢いづいていたところに停止命令……士気下がるだろうなぁと思いつつも、前方に存在する隊の……下げられていた旗を見る。 ……深紅の旗。一目で解るくっきりとした赤……紅蓮の旗と、その中央に描かれる……“呂”の文字。 あれは─── 鈴々 「───呂……呂? 呂……呂布なのだーーーーーっ!!」 そう。 虎牢関の戦いの中で知り合った無表情だけど表情豊かな少女の旗。 それが俺達の目の前にあり───! 中井出「ぬうう! 動きが鈍重だったのは、 恋を味方に引き入れるのに手間取っていたからか!?」 鈴々 「そんなことはどうでもいいのだ! 今は目の前の呂布を倒すことが重要なのだ!」 中井出「───否! 否である鈴々よ! ……少しここで待ってて?」 鈴々 「にゃ? いいけど……どうするのだ?」 中井出「ん? んー……恋……呂布を仲間にする」 鈴々 「……またお兄ちゃんの悪い癖が出たのだ」 中井出「クセとか言わないでよ! 女癖が悪いみたいに聞こえるじゃないか!」 それでも待ってくれる鈴々に感謝を。 後ろの隊や左右の隊に停止してもらいつつ、俺は単身、恋が率いる部隊の前へと歩いていった。 そして…… 少女 「一人で呂布殿の前に出てくるとは命知らずなヤツです!」 ……呂布ではなく、なんかちっこいのが出てきた。 わあ、朱里や雛里並みの小ささじゃないか? いやもっとか? 中井出「うむ! だが誰よりも命の尊さは知っているつもりである! 名乗らせてもらおう……我は中井出提督! 天の御遣いである!」 少女 「天の御遣い? ……その御遣いがこんなところに何用なのです!」 中井出「ん〜……恋〜? 居る〜?」 恋 「……!」 あ、居た。 少女 「りょりょりょ呂布殿の真名を!? きさまー! 誰の許可を得てそんなことを言ってるですかー! あまり妙なことを言うとこの陳宮がただではおかないのです!」 中井出「本人である!!」《どーーん!》 陳宮 「うそをつくななのです!」 恋 「……ちんきゅ、ほんと」 陳宮 「ななっ……なんですとぉーーーーっ!!?」 うん、元気な娘ッ子だ。 虎牢関では見かけなかったが……いや、ただ本当に見かけなかっただけか? 隅々まで見たわけじゃないしなあ。 陳宮 「ま、まあ呂布殿がうそをつくわけがないからそこは信じるのです! それでその御遣いが何用なのです!」 中井出「恋、俺と一緒に来ないか? 袁術などと一緒に居てもつまらんだろう。 俺は歓迎するし、美味しいもの、い〜〜〜っぱい食べさせてやるぞ?」 言いつつフェルダールネクタルを栽培し、近づいてその柔らかそうな口に持っていく。 と、モフリと食べる恋。 ……わあ、ほんと無表情だけど表情豊かだ。 今の状態は尻尾振ってるみたいな感じだろう。 恋 「…………」 中井出「《くいっ》オウ?」 恋 「……みんな、おなか減ってる……」 中井出「みんな? ……兵士たちのことか?」 恋 「……《こくり》」 見れば、確かに兵士たちは結構衰弱、というか弱った顔をしていた。 恐らくはそういうところを突かれて、袁術なんぞに手を貸すことになったんだろう。 中井出「ん……よしよし。今すぐみんなにもご飯配るからな? ……辛かったろ? 今までよく頑張ったな」 恋 「《なでなで……》ん…………ん、ぅ……」 愛情とCHRたっぷり、こころゆくまで撫で回し、そうしている間に食料を用意。 様々なものを栽培し、その場でざっと調理すると……博光風速食料理のでっきあがりでぃ! 中井出「さあ! 食べてみてよ!」 陳宮 「いけませんぞ呂布殿! 毒でも仕掛けてあるやもしれぬです!」 恋 「…………大丈夫。…………解る」 ひょいぱくっ…… 恋 「……おいしい」 陳宮 「なんですとーーーーっ!!?」 中井出「いやあの……俺これでも料理の腕には多少自信があるんだけど……」 陳宮 「毒は入れていないというですか!」 中井出「入れませんよ失礼な! ───さ! 兵士の皆さんも食べて食べて! 一口サイズだからどんどん食えるぞ!」 兵士 「うぉおおおっ! めしっ……めしだぁああっ!!」 陳宮 「ふわっ!? お、お前ら待つのです! まだ恋殿が食べ《どんっ!》きゃうっ!」 中井出「!」 むういかん! メシを前にした兵士たちが我先にと動き出し、体の小さい陳宮殿が飲み込まれて……! …………じゃあ助ければいいか。はいひょいっと。 陳宮 「《きゅむ》はう!?ななななにをするですーーーーっ!! ちちちちんきゅーは呂布殿に全てを捧げた身でえぇえーーーーっ!!!」 中井出「なにって引き寄せただけじゃ……おや?」 引き寄せたというか抱き寄せる形になってた。 いや待て! だが……だが悪くない! 決して悪くない感触だぞ! 体が小さいからすっぽりと我が腕に包まれ、しかもこの抱き心地といったら……! ……………………あの…………僕ロリコンじゃないよ? ただナギーやシードを抱き締めてからというもの、こうして小さなお子を抱き締めるのが好きになっただけで。 と、そこまで考えたところで、陳宮殿の口にもフェルダールネクタルをモフリと。 よい香りがしたのでしょう、陳宮殿は躊躇せずモフモフと食べ始め、僕はその間陳宮殿を抱き締めてまったりしてました。 いや……なんかもう自分がロリコンじゃない自信が無くなってきたかも……。 でもなぁ……ドリアードのことは普通に好きだしなぁ……。 いや待ちなさい? 母性父性があるように、これは俺の中の祖父性なのでは? 我が愛情はじーさんから得たもの。 ならばこそ、これは……うむ! 祖父性に違いない! そうかそうか! 解決してよかった! と解決したところで、陳宮殿を恋のところまで連れてゆき、その傍へ下ろす。 なんか赤い顔して僕のこと見上げてたけど……ゲェしまった! またCHR戻すの忘れてた! 陳宮 「ちんきゅーきぃーーーっく!!」 中井出「《ドボォ!》モルスァ!!」 赤顔の陳宮さん、いきなり飛び蹴り! それは我が脇腹に見事に埋まり、ステータスを戻してなかった僕は大ダメージを負ってしまいます。 中井出「ま、待て貴様……! 今、キックと申したか……! こ、この時代、この大陸で……よもや米語を聞けるとは……!」 陳宮 「なにを言ってるのです! これはちんきゅーが考えてちんきゅーがつけた華麗なる名前です! それよりおまえ! ちんきゅーになにをしたですかー! お、おおおおまえを見てると顔が、顔が熱くなって……!」 中井出「……………」 恋 「……、……」 うわー、陳宮殿も恋も顔真っ赤。 もしやこの博光から漏れるどうしようもないカリスマ性が、彼女達をこんなにも混乱させているとでも……いうのだろうか。 …………まあ、利用できるものは利用しましょう。 その方が会話もスムーズになるかもだし。 中井出「俺はなにもしてはいない。……だが、話はまるで変わるが、 よかったら俺とともに劉備のもとへ来ないか?」 陳宮 「だだだだれがおまえみたいなおとことー!」 随分と口調から知性が抜け落ちたような一言だった。 中井出「そっか……恋は?《きゅっ》…………」 恋 「行く」 即答でした。 言葉で、というよりは服を引くという態度であっさりと決定。 陳宮 「う、ううぅう……呂……恋殿ぉ〜……」 恋 「……ちんきゅも来る」 陳宮 「! ……れ、恋殿」 それで落ちた。 陳宮殿は恋の腰元に抱きつくと、無念ですの〜とぐずり始める。 むう、これはいけません、子供がぐずる姿じゃちょっと苦手です。 でもその前に鈴々に袁術への突撃指令を発令。 メシを食う元董卓軍兵士や僕らが居る場所を避けての、大突撃が開始された。 陳宮は少しびくっと震えたが、恋に“だいじょうぶ”と言われると、覚悟を決めたのか構えることもしなくなる。 ……味方になってって言ってるのに、あくまで敵と見てたんでしょうかね。 中井出「陳宮殿。貴女に、元気が少しだけ出る魔法をお見せしましょう」 陳宮 「な、なにをする気です!?」 中井出「よ〜く見てろよ〜?」 まずは手を開いて、自分の手の中になにもないことを教える。 次にその右手を陳宮になにかを指し出すような感じに握り締めて、その手の中にユグドラシルから点心花(あんまんみたいな種)を出現。 さらにそれを和菓子に変える力で和菓子……すあまに変換! 出現し、変化した感触に手が少し押し開かれるのを確認してから、ゆっくりと軽く握っていた手を開いていくと、そこにはきっちりと掌大のすあまが。 恋 「……!」 陳宮 「お、おぉおおお!? ななななんなのですこれはーーーーっ!!」 中井出「え? いやだから……元気になる魔法。はい」 陳宮 「《ぱこっ》はむぅっ!?」 叫ぶことで大きく空いた口のなかに、ぱこりとすあまを突っ込む。 一瞬拒絶しそうになったが、叫びから戻る口がはむりとすあまを噛み、舌がその甘さを感知したらもうだめだった。 陳宮殿はその甘さに魅了され、モチモチしたソレをハムハムと食べ始める。 中井出「善き哉! ……えーと、まだ食べれる? 食べれるならもといっぱい作るけど」 陳宮 「んぐんぐんぐ……! た、食べ物でこの陳宮が……むぐむぐ」 中井出「ああもう可愛いなあ!!」 陳宮 「《がばーーっ!》むぐー!?」 はむはむと、両手で持ったすあまを食べながら僕を睨む姿がプリチーでした。 中はきっと筋金入りです。ロシア猫のごとく。 だから思わず正面から抱き締めて、素早く体の向きを変えると、後ろから抱き締めるようなかたちでやさしく、愛とカリスマとやすらぎと自然の香りが溢るる抱擁を……! 陳宮 「や、やめるのですーーーっ! ちちちちちちんきゅーは! ちんきゅーはーーーっ!」 言う割りに抵抗らしい抵抗はありませんでした。 そんな陳宮殿の頭をやさしく撫でると、抱き締めた状態のままで一歩二歩と進む。 いやぁちっこい! 抱き心地が素晴らしい!ってそんなことしてる場合でもなかった! 中井出「恋、陳宮殿! ようこそ劉備軍へ!」 恋 「…………《ふるふる》」 中井出「あれぇ!? 仲間になってくれないの!?」 恋 「……《ふるふるふるふるふるっ!》……ちんきゅ、真名」 陳宮 「はぅ、はぅ……はぅっ!? ななななんですとーーーっ!? ちちちんきゅーの真名をこんな男に預けろとおっしゃるのですか恋殿ーーーっ!」 中井出「……なるほど。では拙者から。 姓は中、名は井出、字は提督。真名は博光にござる」 恋 「……ひろみつ」 中井出「うむ! でもなんか劉備軍のみんなからはご主人様とか呼ばれてるの……。 様づけで呼ばれるのは嫌なのって言っても、全然聞いてくれないんだ……」 陳宮 「様づけを拒むなど、家臣からの信頼を嫌うようなものなのです。 おまえは贅沢なやつなのです」 中井出「なにを仰るか! この博光は自分がそう偉い存在などとは思っておりませぬ! むしろ偉いのは桃香───劉備のほうでしょう! だから僕のことは博光と───」 恋 「……《ふるふる……》ご主人様」 中井出「あれぇ!? いやちょっ……聞いてた!? ねぇ聞いてた!? 僕博光って呼ばれたくて───」 恋 「……恋、ご主人様……って……呼びたい。…………だめ?」 中井出「だめじゃあありません! だめじゃあありませんともちくしょーーーーっ!!」 不安がる子供みたいな顔……純粋に残念そうにする顔を見て、真っ向から否定できる筈もなく。 かつて外道を地でゆく魔王博光と呼ばれたこの博光が……うう、丸くなったもんだなぁ。 恋 「……ちんきゅ」 陳宮 「う、うぅう…………音々音……なのです……」 中井出「ねねね?」 陳宮 「音、音、音、……そう書くです……けど真ん中の音は……」 中井出「なるほど、この字か」 荒野の地面に足で文字を描いてみせると、こくりと頷く陳宮殿。 恋 「……ねね、って……呼んでる」 中井出「ねねか。俺としては陳宮殿って呼び方も好きなんだが」 音々音「好っ……《グボンッ!》」 中井出「ややっ!? どうされた陳宮殿! じゃなかった! ねね! どうしたの!? 顔赤いよ!? ねぇ! 奥歯にもやしでも詰まったの!?」 音々音「ううううるさいのです! なんでもないから近寄るななのですーーーっ!!」 中井出「…………恋殿、僕、もしかして嫌われてる?」 恋 「……《ふるふる》」 そうなのかなぁ……。 いやまあ、いいんだけどね? 絶対に仲良しさんになってみせるし。 中井出「じゃ、行こうか。恋、音々音、まだ戦う力は残ってるか?」 恋 「《きゅるごぐ〜〜〜〜……》…………おなか減った」 中井出「ん、そかそか。ではこれを食べなさい」 そう言って取り出したのは、餞豆と呼ばれるフェルダールに伝わる豆である。 ドラゴンボールでいうところの仙豆と同じ呼び方だが、こちらは回復効果はなく、腹だけが膨れる。 それを恋に食べさせると、不思議な顔をしてお腹を撫でて………… 恋 「…………おなか、少しいっぱい……」 中井出「少し!?」 ……この時、僕は彼女の食事の量を想像してみて、俺が居ない状態で仲間に引き入れてたら、食の問題で劉備軍は壊滅してたんじゃないだろうかと……そっと考えた。 ───……。 その日の戦は劉備軍の勝利というかたちで治まった。 奇襲を受けた袁術は兵の大半をごっそりと削られ、しかし弱りながらも逃走。 だけど袁術が居ないうちに行動を起こしていた雪蓮の手によって、帰る場所も落とされていた、と。 人の領土を奪おうとして、自分の領土を奪われたなんて、アホな話である。 そんなわけで客将という立場でいた雪蓮たち孫呉が、袁術を裏切ることで独立。 晴れて孫呉の名を高々と世に送り出し、袁術は現在行方不明、とのことである。 板挟みにされて生きてるんだから大したもんだと思う。 それとも雪蓮が逃がしたやったのか。 それは解らんが、まあ……なにはともあれ独立おめでとう、というやつだ。 なんて言ってる間に、ひとつ吉報を聞く。 吉報と言ってもいられない気もするが……華琳が袁紹をブチノメしたらしい。 俺達が袁術と戦っている間にだそうだから、袁家ってのは落とされるのも同時の名門らしい。 ……そんな報せがあってからしばらくして、文醜と顔良ってお供とともに、我らの国に隠れていた袁紹を鈴々が発見したのが少し前。 さらに妙な格好……なんか華琳の着ている服みたいなのを着て、変装しつつうろついていた袁術を、星が亀甲縛りで捕らえたのも少し前。 袁術は張勲って軍師と一緒だったようで、張勲は捕らえられた袁術を見てあわあわと慌てるばかりだった。 ………………こんなのが一国の太守とかやってたんだよ? 信じられます? この世界の名門ってすげぇんだなぁ……と、しみじみ思った瞬間だったさ。 中井出「そィで貴様ら、我らが劉玄徳様の土地に何用か!」 袁紹 「なんですのその口の聞き方! この名門」 中井出「喝ァアッ!!」 袁紹 「ひぃいっ!?」 中井出「その名門袁家は既に死んだ! 少しは慎めサンダージョワジョワ!!」 袁紹 「さ、さんだ……?」 袁術 「なにをわけの解らぬことを申しておるのじゃ! 妾を! 妾と七乃を解放してくりゃれーーーっ!」 中井出「ならぬ! 貴様らがおこなってきた所業の数々、この博光の耳も聞き及んでおる! 卑劣にも領土を奪い、本城の目の前に至ってから宣戦布告を届け、 それと同時に襲いかかるなど! うぬらの名門としての誇りはその程度のものか!」 袁術 「なにを言うのじゃ! “せんせんふこく”をするのは礼儀であろ!」 中井出「喝ァアアアアッ!!」 袁術 「ひぃー!?」 中井出「出す状況が間違っているというのだ! 貴様らがやっているそれは、 そこいらの盗賊が使うこすずるい屁理屈以下であるわ!」 現在は徐州にある僕らの城の中庭で、5人を説教中です。 それはもう馬鹿じゃなかと!? と説教する軍曹さんのごとく。 中井出「想像してみなさい! 自分がそれをやられた時のことを! 思い出してみなさい! 進軍していたのに、客将である孫策に本城を襲われたことを! 袁術! あなたがやっていたのはそういうものの最先端! 孫策にやられたことの、何倍も悔しいことなのですよ!!?」 袁術 「な、なんじゃとー!? 七乃! どういうことなのじゃー! 七乃がそうすれば正々堂々であると申したのであろー!?」 七乃 「あぁん美羽様ひどいです! 美羽様だって賛成してくれたじゃないですかー!」 中井出「お黙りなさい!!」 袁術 「ひゃうっ!」 七乃 「はうっ!」 中井出「さっきから聞いていれば罪を認めようともせず、他人に押し付けようと必死……! うぬらは反省という言葉を知らぬと見えるわ!!」 顔良 「……あ、あの〜……」 中井出「ぬう!?《クワッ!》」 顔良 「ひゃっ! ……あ、あの……」 仁王立ちする僕の前で正座する5人。 その中の一人、袁紹さんの片腕の顔良殿が、おずおずと手を挙げる。 中井出「何用か!」 顔良 「は、はいあの……それで私達、どうなっちゃうんでしょうか……」 文醜 「斗詩、そりゃあひとつしかないだろ。 ここまで怒ってるやつがあたいらを許すと思うか?」 袁紹 「ちょっと文醜さん? それはどういう意味?」 文醜 「……んっ」(首を斬るゼスチャー) 袁紹 「なぉあっ!?」 そして変な声。 袁紹 「冗談じゃありませんわ! なぜこの三国一の名家たる」 中井出「喝ァアアアアッ!!」 袁紹 「ひぃっ!!」 中井出「名門袁家は滅んだと言っとろうが! それともなに!? 本気で滅亡されたい!? 今ここで袁家途絶えさせたい!? だったら全力で協力するぞド畜生が!!」 言いながらジークフリードを出現させ、 そこに全属性を封入させた灼闇を弾けさせつつジリリと迫る。 袁術 「はうう! な、七乃ー! 怖いのじゃーーっ!!」 文醜 「まま待った! 麗羽様にはあたいたちから言っておくから! ……って、あれ? ……なぁ斗詩。滅亡されたい、ってことは……」 顔良 「……! あ、あの……?」 中井出「……うむ! 元々この博光にうぬらを殺す理由なぞないわ。 だが謝るところには謝ってもらう。袁紹、顔良、文醜。 うぬらは我ら劉備軍の将に真名を許し、 公孫賛殿に謝罪し、これを許されれば我ら劉備軍に迎えよう」 文醜 「……うわっ! マジでっ!?」 顔良 「麗羽様っ!」 袁紹 「……なぜわたくしが白蓮さんに謝らなければ《ジャキッ》ひぃっ!?」 中井出「ねぇ……死ぬ? 本気で今ここで死ぬ? そんなことも解らないんだったら死んだほうがいいかなぁ……ねぇ?」 袁紹 「……ふんっ! 戦に負けてもわたくしは名門袁家! 脅しになど屈服するわけが──」 スフィンヴァガガガガォオンッ!!! 袁紹 「…………あり、ま……せ…………?」 横に振るったジークフリードの一閃が、剣閃となって中庭の景色を破壊する。 剣閃を受けた木々は爆裂し、吹き飛び、無残な硝煙をあげている。 中井出「……一思いに殺す、って……本気でそう思ってる?」 袁紹 「…………《ガタガタガタガタ……!!》」 袁術 「あわ、わわわわわ……!! 七乃、七乃ぉお……!!」 張勲 「み、みみみ美羽様ぁあ……!!」 中井出「礼に適わぬことをしたんだ、謝罪は当然だ。 その当然さえしないで、よくも名門を謳えたな。 生きる道があるってこと自体が、普通じゃ在り得ないって解ってないなら、 一度生き地獄ってのを味わってみるか?」 袁紹 「〜〜〜〜っ……わ、わかりましたわよ! 謝れば───」 中井出「たわけぇっ!! 仕方なく謝ることになんの意味があるか! 自分の身になって考え、深く反省し、その上で謝罪せよと言っている!!」 どごぉんっ!と踏み締めた地面がドンナーによって砕け、雷が散る。 それを見た文醜と顔良がさぁっと青ざめ、俺の体が全身凶器であることを知ると、すぐさまに袁紹の説得にあたる。 中井出「さて……《じろり》」 袁術 「ひぃーーーーっ!!? ゆ、ゆゆゆ許してたも! 妾は、妾はーーーっ!!」 張勲 「お慈悲を! お慈悲をぉお〜〜〜〜〜〜っ!!」 座りながら抱き合いつつ、カタカタと震えるおなごさまたち。 そんな二人の前に立ちつつ、まずは正面向いて正座するように指示。 中井出「我が儘娘には躾が必要である。 それを煽って我が儘放題にさせるなど……注意が必要であるぞ、張勲殿」 張勲 「うぅ……でもでも、美羽様の我が儘を叶えるのが私の喜びでして……」 袁術 「な、七乃ぉ…………な、七乃は悪くないのじゃ! 殺すなら妾を殺せぇっ!!」 中井出「じゃあ死になさい」 袁術 「ひぃーーーーっ!!?」 張勲 「み、美羽様ひとりを死なせはしませんよ! わ、わたしも……」 袁術 「な、七乃……!」 張勲 「美羽様……!」 中井出「………」 えーと……どうしてくれようかこの自己犠牲馬鹿ども……。 中井出「では袁術よ。裁きを申し渡す!」 袁術 「ひっ…………う、うむ……! わ、妾を殺すのであろ……?」 中井出「ばかもん! そう命をやすやすと差し出すものではないわ! うぬ一人が死んだところで、 うぬらの勢力によって死んだ者が生き返るわけではない!」 袁術 「うう……ならばどうせよというのじゃあ……」 中井出「さっきも言ったであろう! 劉備に心から謝罪し、許しを得るのだ! もちろん、真名を劉備軍に預けるのも忘れるでないぞ!」 袁術 「う、うぅう…………わ、解ったのじゃ……!」 中井出「うむよし! ならばまずこの博光に預けてみるがいい! その覚悟もないようでは謝ることさえ出来ぬわ!」 袁術 「覚悟くらいある! 馬鹿にするでないのじゃ! 妾は袁術、字は公路、真名は美羽なのじゃ!」 中井出「……うむ。では美羽よ。我のことは博光と呼びなさい。この博光の真名である」 言いながら、緊張から逃げ出さないよう美羽の前に座り、真っ直ぐにその目を見る。 こういう状況でのこれは結構プレッシャーだ。 ……が、美羽は俺の目から自分の視線を外すことなく、 美羽 「う…………ひ、博光……」 怖々と、我が名を口にした。 中井出「……うむ」 それが嬉しかったから、俺は美羽にそっと手を伸ばすと……びくっと目を閉ざし、震える美羽の頭をやさしくやさしく撫でた。 それを続けていると、おそる……と目を片目を開き、この博光の様子を見る美羽。 その視界の中に、さっきまで存在していたこの博光の怒り顔などある筈もなく。 俺は慈愛に満ちた笑顔で、というよりは祖父性溢れる笑顔で美羽を撫で続けた。 中井出「美羽、聞きなさい。悪いことをしたのなら謝るのは当然だ。 悪いことをしてしまったなら、怒られるのも当然なのだ。 こうして怒られて、怖い思いを何度もするから、人は誰かにやさしくなれる。 自分がされて怖いことを、他人に押し付けてしまってはあまりにも悲しい。 少しの失敗なら許せる心を持ちなさい。 少しの失敗でも立ち上がる勇気を持ちなさい。 そしていつか自分の行動に迷った時は、周りに頼りなさい。 それまでのお前が周りにやさしく出来ていたなら、 きっと周りはお前を助けてくれる。 それが、威張り散らしているだけじゃあ得られない“人の輪”ってものなんだ」 美羽 「……人の……?」 中井出「うむ。……怖くしてごめんな。でも、解ってほしい。 甘やかすだけじゃない、叱る人っていうのは、 本当にその人のことを思うから心から叱るんだ。 叱ることで、その人の心が自分から離れてしまうかもしれない…… そんな怖さと戦いながら、それでもその人に立派になってほしい。 そう思うから、心を鬼にする。……でもな、その人が解ってくれるのなら、 鬼で居続ける理由なんてないんだ。 …………美羽。お前は、この博光を鬼のままにするか?」 美羽 「…………博光は……」 中井出「……うん」 美羽 「博光は……妾のことが心配だから、怒ったのかや……?」 中井出「………」 美羽 「《くしゃり……》わぷっ……?」 おずおずと口を開いた美羽の頭を、心を込めて撫でる。 そして言ってやる。 当たり前だ、と。 ……だってね、こんなお子があのまま我が儘街道まっしぐらで成長したら、それこそ誰も付いてこなくなっていつかどこかで寂しく死んでた。 そんなの、悲しいじゃないか。 中井出「いいかい美羽、よく覚えておきなさい。 これからお前は劉備に謝って、許してもらうか許されないか。 その壁に道を阻まれるだろう。 ……でもな、お前が本当にいけないことをしたって思うなら、 この博光はお前を許すよ。兵もなく領土も無くして、帰る場所もないだろう。 許されなきゃ、ここに住むことも出来なくなる。───それでも」 美羽 「《なでなで……》それでも……?」 中井出「……うん。俺は、お前を許そう。許して、生きる糧を与えます。 だからね、美羽。怖くても寂しくても、ちゃんと謝ってきなさい。 いいかい? 一人でだよ? 張勲と一緒じゃなく、自分一人で。……出来るかい?」 美羽 「…………も、もちろんなのじゃ! 妾を誰だと思っておるのじゃ!」 中井出「……美羽だ。俺にとっては、お前は名門袁家の子でも、どこかの太守でもない。 可愛くて元気な、ただの“美羽”だよ」 美羽 「うくっ……」 ひくっ、と息を飲む。 飲む、というよりは詰まったような感じ。 その理由は……多分、目にいっぱい溜まってこぼれそうな涙にあるんだと思う。 中井出「奇襲によってたくさんの人が死んだ。 制圧されたことで、守れなかった責を責められる人が居る。 人に命令をするっていうのは、自分の考えたことでなにかが起こるってことで…… 軽く口にしたことでも、自分の知らないどこかでたくさんの人が死んでいる。 でもな、美羽。その事実から逃げるな。生きて、その責を少しずつ返していけ。 死んでしまうよりも、それは辛いことかもしれないけど、 そうして少しずつ、この国に返してゆけるなら……お前は、生きていていいんだ」 美羽 「……っ……」 中井出「お前が袁術だって知れば、きっといろんな人がお前を責める。 たくさんの人がお前を罵倒するだろう。それはとっても怖いことで、 今この博光に怒られることよりもよほどに苦しく怖いことなんだ。 ……でもな、美羽。苦しくても我慢して、悲しくても耐えてみろ。 どれだけ馬鹿にされても罵倒されても、 それは自分がしてしまったことへの報いだって思って受け止めろ。 そして……どうしても耐えられなくなったら───」 美羽 「《すっ───》あ……」 撫でていた手の下から、潤んだ目で俺を見ていた瞳が驚きの色に染まる。 俺は少し身を乗り出させて、美羽の小さな体を抱き締めた。 中井出「……自分に恥じることなく、目一杯泣け。 泣かない子が強いんじゃない、泣きたい時に泣ける子が、強いんだ。 お前は、そんな弱い子にはなるな。 自分のしたことを受け止めて、笑いたい時に笑って、 泣きたい時に泣ける子になりなさい」 美羽 「《……なでなで》…………っ……ひうっ……うくっ……」 中井出「ああ……怖かったな……ごめんなぁ、いっぱい怖くした」 美羽 「うぐっ……ひっく……ふ……ふぅうあぁあああああん…………!!」 俺の肩に顎を乗せるかたちになっている美羽の頭と背中をやさしく撫でる。 泣き出した美羽に一番驚いたのは袁紹で、張勲はどうしたらいいものかとおろおろしてる。 そんな二人に“気の済むまで泣かせてやってくれ”と目で訴えると、袁紹はフンッと顔を逸らし、張勲は……なんだか赤い顔をしてこくこくと頷いた。 ……その日、美羽は桃香に謝って、許しを得ることになる。 もう、袁家の誇りなんてものなんて気にすることもなく、すまぬのじゃ、許してほしいのじゃ、この通りなのじゃと頭を何度も下げ、その勢いと反省の色にぽかんとしたままだった桃香が、ハッと我に返って止めるまで、それは続いたのだという。 そうして桃香の許しを得た美羽は玉座の間を飛び出すと、真っ直ぐに中庭に来て俺の腰に抱きついた。 ……初めて誠心誠意謝って、許してもらったのが嬉しかったのだという。 俺にも泣きながらごめんなさいを言い続けるその姿に自然と笑みがこぼれ、落ち着くまでずっと抱き締めながら頭を撫でた。 ……で、一方の袁紹はというと…… こっちはさすがに国を占領された身の白蓮。 高飛車に謝られてもはいそーですかと納得出来る筈もなく、許されるまで時間がかかったそーな。 ヘタすれば白蓮も死ぬところだったっていうのに……それでも許しちゃうんだから、白蓮は生粋の“いいひと”なんだろう。 こうして俺達に新たな仲間、袁紹、袁術、呂布、文醜、顔良、陳宮、張勲が加わり、劉備軍はいっぺんに賑やかになった。 Next top Back