15/独立宣言、王の謀反
はい、今日も元気に鍛錬鍛錬……博光です。
映像を見せたあの日から、やけに稽古に誘われる……というより挑まれるようになった。
鈴々 「にゃーーーっ!!」
中井出「うむ! 迷いのないよい突きである! だが! ───足下がお留守ですよ?」
鈴々 「《スパァン!》うにゃあっ!?《どしゃあっ!》」
中井出「うむ! よし次である!」
鈴々に素晴らしき足払いを決めると、彼女はどしゃーと中庭の芝生に転がった。
星 「参る! はぁーーーっ!!」
中井出「うむ! 疾駆からの連突とその速さ、見事である! だが否!
槍の最大の武器はその長さを生かした薙ぎ払いである!
突きだけでは我は捉えられぬ!」
星 「フッ、もちろん心得ておりますとも! せぁあっ!」
中井出「しかし悪戯に薙げばいいわけでもあらず!」
星 「うぬっ!?」
薙ぎが始まる動作を確認し、一気に間合いを詰める。
槍はエモノが長い分、中に潜りこまれると弱い。
詰めた瞬間に足払いをキメて芝生に転ばすと、次、と唱える。
愛紗 「いかせていただきます! ───はぁああっ!!」
次は愛紗。
礼をし、地を蹴り、豪快とも呼べる動作で、しかしそれでいて無駄のない動きで攻め入る───!
中井出「しかし定石!!」
愛紗 「《ズパァンッ!!》うひゃあっ!?」
基本に忠実なために、動作が読みやすかった。
一撃も受ける前に足払いは決まり、残るは───
恋 「……いく」
中井出「うむ!」
恋だ。
三国無双と謳われたその強さ、僕に見せてください。
……いや、まあ結構見せられてるんだけどさ。
───……。
しゅぅうううう…………
中井出「うむ! 今日も皆、よくぞ励みもうした!」
全員 『………………《ぴくぴく……》』
向かってくる皆様を悉く跳ね除け、様々な状況、様々な武器との対応をみっちりと叩きこみました。
幸いにしてこの博光、武器の豊富さならば誰にも負けません。
武器の振り方も武具に聞けば達人以上。
こうして一騎当千の武将とも渡り合えるわけです。
中井出「では癒しましょう。義聖剣!」
能力って便利です。
あっという間に回復した皆様は、だはーーーーーー…………と長い息を吐いて立ち上がり、今日も今日とてありがとうございましたの礼をして解散…………とはいかず、指摘された動きを復習するかのように互い互いに向き合って攻防を始める。
そんな景色を見ながら、僕はキョロキョロと辺りを見渡して…………
中井出「《ギラッ! ギラリ!》」
小さな体で多めの書物を持ち運ぶ雛里を見つけ、目を光らせました。
もうね、僕認めるよ。
ロリコンではないけど、小さな娘ッ子を胸にすっぽり抱くのが大好きです。
猫が居たら抱きたくなり、犬が居るなら撫でたくなる……そんな感じなのです。
だから、おたおたと歩くその姿をてこてこと追い、追いつくと───
中井出(───はうあ!)
落ち着け俺! これではただの変質者!
小さきおなごを後ろから抱き締めるなど、あなたどこのインブレイスアサシン!?
中井出「イヤァアアアーーーーーーッ!!!」
雛里 「《びくっ!》へうっ……!? ……、……?」
僕の悲鳴に雛里が驚き、振り向く頃には、僕はその場から逃げ出しておりました。
いかん危ない危ない危ない……! いったい僕はなにを!
認めはしたけど変質者に落ちるのはご勘弁! ジョッ……ジョースター卿! 勇気を! 僕に勇気をください!
…………。
中井出「だからね? 僕本当に悩んでるんだ」
雪蓮 「急に来てなにを言うかと思えば。そんな話されるなんて思わなかったわ」
中井出「常に誰かの裏を掻きたいお年頃……博光です」
悩んで悩んで、やってきたのが呉。
ウヌヌーと唸りながらも、中庭の東屋に座る僕の腕の中には、ここに来る前に捕まえた明命。
雪蓮 「でも、小さければいいってわけじゃないのね」
中井出「小蓮は少々耳年増すぎます故。
僕はなんというかこう、腕の中でじっとしてくれる人が好きです」
明命 「あうっ……す、好きですか……あうう……《てれてれ……》」
雪蓮 「じゃあ私も大人しくしてるから抱き締めて?」
中井出「だめでごわす」
雪蓮 「ちぇ、けち」
ジト目で見られながらも、腕と足の中明命を撫で繰り回す。
もちろん超カリスママックスハートで、愛を振り撒きながら。
そうしていると物凄い速度で明命の顔がとろけていって、それを見ている雪蓮はしきりに羨ましいオーラを放っておりました。
中井出「ところでさ、まあその、抱き締め癖からは離れるんだけど」
雪蓮 「? なに?」
中井出「そろそろこの乱世も佳境。
我が劉備軍も、もっと身も心も強くならねばならんと思うのです」
雪蓮 「……うん、それで?」
中井出「うむ。しばらく劉備軍を離れようかと思うのです」
雪蓮 「ほんとっ!?」
明命 「御遣い様っ! でしたら是非!」
中井出「ああいやお待ちなさい。
離れるといっても、自らさよーならーってわけじゃなく。
言った通り、状況的に能力を使わなきゃ逃げられない状態に陥って、
相対する人物が僕を欲するならその人のところに行きましょうって、そんな感じ」
雪蓮 「じゃあ今、みんなで博光のこと囲んでふんじばったら、呉に来てくれる?」
中井出「雪蓮たちは遊びに来た人をよってたかってふんじばる人間じゃないから、
それは心配してない」
雪蓮 「むー……」
明命 「うぅ……その言い方はずるいです、御遣い様……」
そんなこと言われたら、出来ないじゃない……とこぼす雪蓮に笑みを以って返す。
その間も明命を撫で回して、お子エナジーをチャージしてゆく。
中井出「……ん、よしっ! 明命、刀持ってるか?」
明命 「え? あ、はい、常備用の帯刀ですけど」
この世界にあって、おそらく明命だけが扱う武器。
日本では有名な武器、野太刀ほどの長さのソレが明命の武器だが、今持っているのは懐にしまってある短めの刀らしい。
中井出「むうそうか。じゃあ我が武器を貸そう。
いっちょ手合わせってほどでもないけど、稽古的なものをやろう。
ついさっきまで劉備軍の皆様とやってたことだから、そう硬くならないで、ね?」
明命 「へうっ!? み、みみみ御遣い様が!? 稽古をつけてくれるんですかっ!?」
中井出「うむ!」
雪蓮 「あー! ちょっと待った! はいはいはーい私私! 私もやる!」
中井出「えぇ!? な、なんですかいきなり!」
雪蓮 「だって〜♪ あんなの見せられたら戦いたくもなるじゃない?
いわゆる本当の意味で世界を救ったかもしれない男との手合わせ!
これを前に身を奮わせないでなにが武人よっ!」
……なんかヘンなスイッチ入っちゃったみたいです。
中井出「うぬぬ……よろしい! ではそこの中庭でやりましょうぞ!」
雪蓮 「よーし! あ、じゃあちょっと待ってて、南海覇王持ってくるわ」
中井出「うむ。では明命、我らは先に始めるとしましょう」
明命 「は、はいっ! 胸を貸させていただきます!」
武具宝殿から刀のカテゴリーのみをエジェクト。
中庭にゾンザザザザザザザンッ!!と突き刺さる刀を見て、明命と雪蓮がごくりと喉を慣らす。
中井出「自分の手に馴染みそうなものを選びなさい。焦らなくていい、ゆっくりと」
明命 「……は、はい」
楽しげに先に東屋の階段から降りていった雪蓮を追うように、明命も降りてゆく。
俺もゆっくりとその後を追って…………
明命 「……《ぞくり》…………み、御遣い様……私、これがいいですっ!」
焦る風でもなく、迷うことなく明命が手にしたソレは───ツヴァイハンドソード。
刀の形はしているが、分類は剣のソレを、明命は手にした。
野太刀よりもよほどに太く重いもの。
鞘ごと地面に刺さったそれを明命が抜き取ると、他の刀が武具宝殿へと戻りゆく。
中井出「うむ。それを選ぶとは中々の豪気。では明命よ、うぬに問う。
うぬは普段、己の武器……刀をどのようにして振るっている?」
明命 「え? ……こうして抜いて、構えて、敵に───」
中井出「うむ。だがそれでは剣と変わらぬ。よいか明命よ。
これよりうぬに我が国に伝わる刀術、居合いを教えよう。
居合いの場合はこちらの方が教えやすいわけだが……ふむ。
よし明命、まずはこれを持ちなさい」
明命 「え? あ、はい」
ツヴァイハンドソードの変わりに杖を渡す。
明命は少しポカンとしているが……
中井出「ではまず型から。腰を低く重心を足に、こう」
明命 「……こう、ですか?」
中井出「うむ。次に左手で鞘を掴み、右手で杖の先端をこう握る」
明命 「……《ごくり》」
中井出「思い切り、引っ張ってみろ。目の前の敵を薙ぎ払うが如く」
明命 「はいっ!」
フィキィンッ!!!
明命 「えっ───えぇっ!?」
引っ張ってみれば飛び出す刃。
そう、ご存知仕込み杖である。
中井出「うむ。それは仕込み杖といって、居合いを学ぶには最適な武器だ。
まずはそれで慣れるとしよう。……どれ、ちょっと貸してみなさい」
明命 「は、はいっ!」
明命から仕込み杖を受け取り、再び腰を低くして構える。
中井出「よーく見ておきなさい。極めれば、こんなことも出来る───ツッ!!」
ヒュゴヒャアッキィンッ!!!
───……オ、オォオオゥウン…………!!
中井出「……うん。さて、何回まで見えた?」
明命 「ご、五回……ですか?」
中井出「残念、十回だ」
明命 「じゅっ……」
飛燕虚空殺。
九つの円とトドメの突きで敵を滅ぼす仕込み杖の奥義の最高峰であり、範囲内に取り込まれた相手はまず助かりゃせんってくらいのとんでもない奥義だ。
一瞬とはいえ空間を歪ませるほどだ、尋常じゃない速度が必要となる。
けどそれも、疾風奥義を覚えられればなんとかできると思うわけだ。
この世界のみんなはきっと、僕なんぞよりも立派な才能をお持ちです。
ゲーム世界の子供らにも烈風が使えたんだ、きっと大丈夫さ。
中井出「じゃあ次は烈風だ。この奥義は先に明命が抜いた刀を生かせる歩法で、
これを習得できれば多分、なによりも速く動ける」
明命 「な、なによりも、ですか?」
中井出「少なくとも三国一の速度は保証するよ。……そうだな、明命。
中庭の端……あそこから、あっちの端まで、一歩で届くか?」
明命 「一歩!? むむむ無理です無理ですっ!」
中井出「うむ。では見ておきなさい」
まずは空間翔転で中庭の端まで。
そこで明命に手を振って、いくぞーと合図。
すぅ、と呼吸をして───一歩。ドンッ───!!
明命 「!!」
中井出「やーはー明命〜!」
明命 「……、う、うわ、わわわ……! す、すごいですっ! 御遣い様っ!」
宣言通り一歩で辿り着いてみせると、明命は感激のあまり胸の前でぱしんっと手を合わせて歓喜乱舞。
中井出「博光でよろしい。ではこれより幾つか奥義を見せましょう。
これを覚えたい、というものがあれば、それを一つだけ教えます。
習得出来るかは明命次第である」
明命 「お、奥義伝承ですか!? わ、私なんかでよいのでしょうかっ!!」
中井出「うむ! だがとても困難なものである! 習得できるかはやはりうぬ次第よ!
……あ、それともその前に一戦交える?」
明命 「はい! あ、でもやっぱりちょっと待っていてください!
いつもの武具の方が動きやすいのでっ!」
言うや、ゴシャーーーアーーーと走っていってしまう。
それとは入れ違いに雪蓮が戻ってきて、走っていった明命を見て少しポカンとしていた。
……うむ。ではまずは雪蓮から。
どおれ今日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
───…………。
しゅううううう…………
中井出「成敗!!」《どーーーーん!!》
結論から言えば、皆様ぐったり。
どこで知られたのか、ぞろぞろとやってきた武将の皆様は何故かバトルモード。
装備に身を包んでやってきては、僕に挑みまくりました。
もちろん片っ端からブチノメーションですが。
ぜはー……と疲れ切っている皆様を、劉備軍の時と同じく回復。
……するや、起き上がって、まだよ!とか言う雪蓮にアイルーを進呈。
明命 「お猫様っ!?」
中井出「明命は刀だからジョニーね」
明命 「はうっ! い、いいのですか!?」
中井出「みんなにも。これからその猫たちがあなた方に技を教えてくれます。
しっかり覚えて強くなりましょう」
雪蓮 「……教える、って……猫よ?」
中井出「戦ってみる? 呂布より強いよ?」
雪蓮 「あ、あはー……やめておくわ。誇りとかいろいろなものが崩れ落ちそう……」
中井出「よろしい。では───」
思春 「待て」
中井出「おお? ……思春殿、どうされた?」
思春 「………」
訊ねると、チキリと剣を取り出す思春。
その構えは……戦闘体勢。
蓮華 「思春!? なにをする気!?」
その様子に蓮華が止めに入るけど、思春は構えを続ける。
思春 「申し訳ありません、蓮華様。呉の恩人に刃を向けるは不忠義なる所業。
しかし私はこの者を認めております。ですからこれは決して、
この者が気に食わぬからというつまらぬ理由での行動ではないのです」
蓮華 「ならば何故!?」
祭 「ふむ……よいではないですか権殿、気の済むようにやらせてみればよい」
蓮華 「しかし祭!」
中井出「いや、構いませんよ蓮華。───思春、全力で来なさい。
お前の全て、受け止めてやる」
思春 「……感謝を」
武人にとって、強者に全力をぶつけるのは喜びだと雪蓮は言った。
そして、思春はかつて錦帆賊と言われた江賊の頭だったという。
プライドも高いだろうし、水上の覇者と呼ばれた者が一度敗れた程度で納得する筈もない。
そんな彼女だからこそ真正面から受け止め、弾き、叩き潰しを繰り返す。
彼女が納得するまで、彼女が立てなくなるまで。
───……。
やがて、思春が荒い息を吐き、立ち上がれなくなる頃。
俺は剣を思春の目の前に突き立て、その前にドッカと胡坐をかく。
中井出「興覇よ。まだやれるか?」
思春 「っ、はっ……はぁっ……、っく……、はぁ……!」
蓮華 「もういいだろう思春! 何故そうまで挑むのだ!」
雪蓮 「まあまあ蓮華。……大事なことなのよ、これは」
祭 「武人として挑むばかりではないのですよ」
冥琳 「思春はそれを買って出ているのです」
蓮華 「思春が……?」
孫呉は揺るがない。
新しいものを次々と取りいれ、強大になってゆく曹魏とは対照的に、今まで培ってきた土台を大切にする戦い方をする。
それは思春の錦帆賊の水兵技術に然り、呉軍の連携の強さに然り。
だから他者からものを教えられ、それをそのまま学ぶは恥と。
技術は自らで開拓するのだから、他者の技術は要らぬというかの如く。
そんな“今まで”をポッと出の俺に託すなど、と。
でも思春は“認めている”と言っていた。
俺のことは認めてくれていて、だが時代とはそう安いものではないのだ。
たとえ自分がどれだけ全力を放ち、防がれ、地面に転がり、立ち上がれなくなろうとも。
そんな思いを胸にしてだろう、握力が無くなり、震える手で落ちている剣を掴もうとする思春。
雪蓮 「───はい、そこまで」
しかしそこで、終了の言葉が投げかけられる。
止めたのは…………雪蓮だった。
思春 「か、はっ……はぁっ…………しぇ、れん……さま……」
雪蓮 「……ありがとう、思春。呉のためにそこまで身を削ってくれて。
けど、もういいわ。貴女が認めているというのに、
貴女一人にやらせるわけにはいかない」
中井出「…………あれ?」
雪蓮 「というわけで交代ね? 博光」
中井出「えー……」
雪蓮 「あー! なによーその嫌そうな顔ー!」
中井出「雪蓮って引き際知らないから……」
冥琳 「……《うんうん》」
雪蓮 「こら冥琳!」
冥琳 「……ふふっ」
中井出「…………ほんとにやるの?」
雪蓮 「ええ。私達になにかを教えるなら、相応の覚悟を以って挑みなさい?」
中井出「───ほう。覚悟と申したか《ギンッ》」
雪蓮 「あ」
覚悟。
覚悟という言葉には、きっと誰よりも敏感にして素直。
俺はすぐに自分の中のスイッチを切り替えると、疲れきった思春の頭を優しく撫で、驚いて俺を見上げたその顔に心からの穏やかな笑みを贈る。
そうしてからジークフリードを抜きつつ立ち上がり、すぅ、と息を吸って構える。
中井出「さぁ……《ゴシャァアアアキィイイインッ!!》───かかってきなさい」
CHR三分の二、STR、VIT、AGLに残りの三分の一を分け与える。
といっても我がレベルは途方もなく、三分の一でも十分すぎるほどの数値がある。
そんなカリスマ溢るる僕を前に、雪蓮は“あっちゃ〜……”とこぼした。
雪蓮 「ね……ねぇ博光〜? 本気になった博光ってとっても凛々しくてかっこいいけど、
攻撃しづらくなるから加減してくれると……」
中井出「なりませぬ! なりませぬぞ!
───王よ! さあ剣を手に、かかってきなさい!
汝の覚悟、この博光が受け切ってみせましょうぞ!」
雪蓮 「め、めいり〜〜〜〜ん!」
冥琳 「覚悟を以っての言葉なら責任を取りなさい。そら、お待ちかねのようだ」
溢れるカリスマ! 輝く僕!
それを前にして、他の皆様はいつかのゲーム世界の人々や竜族のように、跪かないようにするので必死である。
すげぇ……普通ならつい跪いてしまうほどだというのに。
……あ、じゃあどんな困難にもめげぬよう、その誇りを磨きましょうぞ!
マグニファイ! 発動! 10分の9をCHRに! 残りをSTR、VIT、AGLに! さらに幸せ光線を放ちつつ、愛果てしなくを解放!
もちろん愛を解放したところでペットになど出来ませぬが、この世界じゃどうやら言葉通り愛を振りまくらしいので、それでよし。
溢れるカリスマと愛、そしてそれを受けながら感じる幸せに負けぬ修羅であれ!
雪蓮 「…………《ぽ〜〜〜……》」
ゲェッ! 早くも負けてる!
い、いかん! さすがにマグニファイはやりすぎた!?
あ、でも跪いたりしてないから大丈夫! セーフだ!
中井出「では、参られよ!」
雪蓮 「はぅっ!? ───わ、わわわ……《かぁああ……!!》」
中井出「ぬ?」
雪蓮の顔が真っ赤に染まってゆく。
喩えるならば、自分が今の今まで相手に見惚れていたのを咎められたどこぞの夢見る少女のようだと自覚してなにやってんだあたしゃー!と叫ぶ少し尖った少女のごとく。
うん、喩えが長いけど、男勝りの少女がある日恋をしました的な流れ───まずいじゃんそれ!
とか思ってると雪蓮は僕から視線を外して屈み込み、なにやらぶつぶつと呟き始めた。
雪蓮 (うわ……なにこれ……! 博光の顔、まともに見れない……!
え? なに? なんなの今の。この人となら天下が取れる、
取れなくてもどこまでもついていける、って……私が思ったの?)
えーと……あのー? 構えてる僕はどうすれば……。
中井出(なんかこれ……素直に猫たちに任せたほうがよさそうだね)
ならばと思って、剣を武具宝殿に戻す。
と同時にマグニファイ効果も切れて、ステータスも戻したから皆様も正常に…………なってねぇ。
なんか赤い顔のまま、緊張は取ってくれたみたいだけど僕のこと見てる。
中井出「はいおしまい! おしまいね!? ね!? じゃあみんな猫と修行開始!
僕ご飯作ってくるから、出来るまでは頑張っててね〜!」
そんな視線から逃げるように、僕は口早く言葉を吐くと、そそくさと逃げ出した。
───……。
そして……料理も出来て、酒も用意してしばらく。
中庭に戻ってみると、みんながぐったりとしてらっしゃった。
中井出 「ヘイジョニー!」
ジョニー『《ズシャアッ!》そこまでニャッ!!』
呼びかければ、素っ飛んできたジョニーがマブカプ2のキャプテンコマンドーの真似を。
きっちりポーズまで同じなのは、僕がそう教えたからです。
中井出 「みんなの調子、どうだ?」
ジョニー『上々ニャッ! 最初は上の空だったけどニャ、
何回か剣をぶつかり合わせたらシャッキリしてくれたニャ!
戦いへの本能的ななにかが伝わってくるニャ』
中井出 「漠然としていて解りにくいですね」
ジョニ−「そんなものニャ」
それだけ言うとジョニーは霊章の中に潜り、それを見たジニーやアイルーもこちらに来て霊章に消える。
そうして猫達が全て霊章の中……ユグドラシルに戻ると、食事の匂いに気づいてか、みんながこちらを見る。
中井出「さーあメシである! 酒もあるから───さあ! 食べてみてよ!」
そんなみんなに食事を勧めた……んだけど、僕の顔を見るなりみんな顔真っ赤っか。
グボンッ!て音が似合ってそうなくらい赤くなって、あちらこちらと視線を泳がしていた。
…………やべぇ、俺とてもやばいことをしてしまったかも。
そんなことを思っていた時、僕の前に来て声をかけてくれたのは……意外ッ! それは思春だったッ! などとジョジョをやってる場合ではなく。
思春 「あ、ひ、……こほんっ! ……博光殿。貴重な鍛錬の数々、心より感謝を」
中井出「え? あ、うん。こちらこそ。呼び方はそのまま博光でいいからね?」
思春 「は、はっ! もったいなきお言葉!」
中井出「……あれ?」
いやちょ……あれぇ!?
なんか物凄くおかしくないですか!?
思春が……あの思春が“もったいなき”って僕に!?
中井出「ど、どーしたの思春! 僕なんかにもったいなきなんて!
しっかりするんだ思春! キミが付き従い敬うべきは蓮華でしょう!?」
思春 「もちろんです。しかし敬うべき対象はなにも一人のみにあらず。
私は蓮華様を、呉を愛し、その呉に胤を齎す博光殿を」
中井出「キャーーーッ!? キャーーーッ!! そそそんな胤とか言わないぃいっ!!
しぇぇえええーーーれぇえーーーーーーーん!!
キミがヘンなこと言うから思春がぁあああーーーーーっ!!」
雪蓮 「わ、私の所為じゃないもん!!」
中井出「こんな状況で子供みたいなこと言わないの! 普段はいいけど!
いーい思春! 最初のキミを思い出して!?
僕に料理の毒見までさせたじゃないか!」
思春 「無礼の極み、面目次第も御座いません。ならばこの首を以って」
中井出「やめてやめてえええええっ!! 死は償いになんかならないの! だめ!!」
思春 「し、しかし私は」
中井出「蓮華ぁーーーっ! 止めて! 思春のこと止めてぇーーーっ!!」
蓮華 「し、思春! 私はお前が勝手に死ぬことなど許さぬぞ!」
思春 「蓮華様……」
まずいです……これは非常にまずい。
なんか思春にヘンなスイッチが……。
中井出「ふ、ふぅ……いったいどうなることかと……」
雪蓮 「博光が悪いのよ。武器構えた途端、すごく格好よく見えるんだもん」
中井出「そりゃあ、戦に対する覚悟は僕の中ではとても大切なもの故。
誰かと戦うなら真面目にもなりましょう。……ほら、みんなもこっち来て。
ご飯にしよ? 美味しく出来たから」
離れに招き、広げた食事を皆様でつつく。
途端に賛美の溜め息が漏れ、僕は心をよくしました。
祭 「……うむ。やはりこの味じゃのう。
この味を知ってからでは、どうも今まで飲んでいた酒が水のように感じていかん」
冥琳 「それは以前からでしょう黄蓋殿。
飲み過ぎるなと言っても、こんなもの水のようなものだと」
祭 「いちいちうるさいのぅ」
酒を飲む人も居れば食事をする人も居て、味に夢中になる頃には僕はようやく一息つけました。
あのままヘンな雰囲気になってたらやぼぅございました。うん、ヤバかった。
中井出「それでね? まずは僕、魏に行ってみようと思うんだ」
なもんだから、僕はみんなが引くようなことを敢えて言ってみました。
すると、ビッタァ!と停止する呉軍の皆様。
明命 「えぇえっ!? ご、呉には来てくださらないのですかっ!?」
中井出「それもまた時が来たら。
俺さ、徐州の民も呉の民も、みんな太守を認めて過ごしてるのを見てきた。
でもさ、魏の許昌とかはまだなんだよね。まだ魏には一度しか行ってないし、
雪蓮暗殺のこともあって、華琳には会わなかったんだ。
ラーメンはまあまあだったんだけどね?
まあそんなわけで、一度じっくりと魏が制する街っていうのを見ておきたい」
蓮華 「で、でも博光っ!」
中井出「この博光がこの世界ですべきこと。それはこの天下に平和を齎すことぞ。
でもさ、考えてみたんだよ俺。
誰かが天下を取るってことは、別の誰かが目指した天下を挫かれるってこと。
それは確かに仕方ないことなんだけど、
それならせめて、民たちには自分が信じた主の下に居て欲しい。
じゃあどうすればいいのか、って話だけど……
天下を統一して、三つに割ったらどうだろうかと」
冥琳 「なに?」
穏 「天下を三つに〜……ですか?」
穏の言葉に、ウムスと頷いてみせる。
中井出「そう。天下三分の計。
目指したものがあるから戦って、譲れないものがあるから奪い合う。
実に結構。それを納得させるには全力でぶつかって勝ち取るしかないと思う。
でもそうして手に入れた場所も、
かつての太守のほうがよかったって言う人だって居るだろうし、
自分一人でなにもかもを背負えるわけでもない。
だからね、天下を統一して、雪蓮、華琳、桃香に全てを託す。
これ即ち天下三分の計なり」
雪蓮 「誰が統一するの?」
中井出「…………俺が独立して国でも発てようか?」
雪蓮 「あ♪ じゃあ私がお后になってあげよっか」
蓮華 「姉様は呉の王でしょう!!」
鋭いツッコミでした。
中井出「まあもちろん俺が戦うわけにもいかないし……ついてきてくれる人だけ集めて、
他は……天涯孤独の人や子を拾って育ててみますかなぁ」
祭 「ほう。それはなかなか面白そうじゃのう」
蓮華 「祭まで!」
祭 「はっはっは、まあ酒の肴にはなりますでしょう」
中井出「でもついてきてくれる人の予想がつかん。
まあでも、機が熟したら旗でも掲げてみるよ。その時は正々堂々───」
雪蓮 「だから、私がついてってあげるってば」
蓮華 「姉様っ!」
雪蓮 「いいじゃない、だって私一度死んだようなものなんだし。
博光が居なきゃ、死んでた命よ?」
蓮華 「し、しかし私は…………姉様が居なければどうしてよいのか……」
雪蓮 「大丈夫よ蓮華。あなたは王になる。
これからの呉を担うだけの力が、貴女には備わってるんだから」
蓮華 「雪蓮姉様…………」
思春 「蓮華様。この甘興覇、必ずや蓮華様をお支えしてみせます」
蓮華 「思春……」
……ぬう。
ちょいとお待ちなさい? これっていったい……
中井出「あのー……冥琳?
なんか雪蓮がいつの間にか僕のとこに来ることになってるんだけど……」
冥琳 「……あれは時々無茶を起こすからな……」
わあ、あれ扱いだ。
雪蓮 「では、受け取りなさい。
これが母、孫文台の代より受け継がれし王の証、南海覇王よ」
蓮華 「……姉様……本当に……」
雪蓮 「ええ。孫呉の宿願は貴女に授けます。私は孫の姓を捨て、博光と───」
中井出「だから待てっつーとるんじゃーーーい!!」
雪蓮 「ひゃんっ!? もー! なによ博光!
今いいところなんだから邪魔しないの! めっ!」
中井出「めっ! じゃねーですよ! いやほんと! キミほんとに僕と来る気!?」
雪蓮 「結局お返し、返してないじゃない?
死ぬ筈だった私を生かした責任、ちゃ〜んと取ってもらうんだから。
まさかそんな覚悟も無しに私を生かした、な〜んて、言わないわよね?」
中井出「───覚悟と申したか」
雪蓮 「あ」
俺の拳が血を求めている! じゃなくて。
中井出「よろしい! ならば我とともに来るがいい! だが忘れることなかれ。
僕と国を興すってことは、いつか蓮華率いる呉とも戦うやもってことだよ?」
雪蓮 「国は一人で支えるものじゃないわよ。
私が居なくても、担い手は居る。そうでしょ? 冥琳」
冥琳 「…………ふぅ。言い出したら聞かないあなたに、なにを言っても無駄でしょう?」
雪蓮 「えへー、まあね」
小蓮 「シャオも行く!」
雪蓮 「あらだめよ。小蓮にはこの国で大きくなってもらわないと。
蓮華を支えてやってちょうだい。この子、いつも気を張ってるけど弱いから」
蓮華 「姉様!? わ、私は弱くなど……!」
雪蓮 「そう? だったら見せて頂戴、貴女が作る呉を。
私を追うことも、母様を追う必要もない。いい? 蓮華。
貴女は貴女が目指す呉のため、戦いなさい。
天下が取れなくても誰も責めたりはしない。
いい? 貴女が目指す呉を手に入れなさい」
蓮華 「私が目指す……?」
……うむ、やはり雪蓮は頭のいー子だ。
蓮華がどういうことで迷うのか、よく理解している助言だ。
冥琳は少し苦笑している……これからどんな呉が出来るのか、なんとなく予想出来ているんだろう。
冥琳 「ふむ。ところで中井出」
中井出「え? なに?」
冥琳 「お前の作る国は、来る者拒まずなのか?」
中井出「……んー……基本的にはそんな感じ。
あとは……そうだね、雪蓮の例もあるし、
死にかけた人を救って、そういう人を迎えるのも悪くないかもと」
冥琳 「……そうか」
それを聞いて、冥琳は静かに苦笑。
…………なるほど、やはりか。
雪蓮も冥琳のことにはうすうす感づいているのかもしれない。
俺の顔を一度見ると、俺が小さく頷いたのを見逃さず、にこーと子供のように微笑んだ。
……最初の違和感は、雪蓮を救った時だ。
緑色の粒子が飛び交う中で、その粒子が冥琳の周りを困ったように飛んでいた。
外側から癒せない理由は、恐らく内側にあるなにか……病気かなにかだろう。
雪蓮の場合は腕の傷口から粒子が治してくれたが、冥琳には傷などなかった。
まさか口や鼻から入るわけにもいかなかったのだろう、粒子たちはしばらくすると諦めて自然に戻ったのを覚えている。
それをどうして雪蓮が感づいているのか、といえば……彼女お得意の勘なのだろう。
中井出「えーと……それじゃあ?」
雪蓮 「……中策って変な名前よね」
中井出「…………《ヒククッ》」
雪蓮 「? どしたの博光。顔が引きつってるけど」
中井出「イ、イエ? ナンデモナハァイヨ?」
ナカサク、って聞いて、タゴサクを思い出したんじゃないよ? ほんとだよ?
でも確かにナカサクハクフはないよね。
冥琳 「孫でいいでしょう? べつに孫の姓が呉にしかないわけでもない」
雪蓮 「ん。まあそうだけどね。けじめみたいなのはつけたほうがいいかな〜って」
祭 「ふむ。……ならば策殿よ。髪を置いてゆきなされ。
その美しく長い髪を御首紋とし、首から下の髪を全て」
雪蓮 「う、……うえ〜ん、祭がひどいこと言うよ〜」
中井出「国を捨てるっていうのにそれだけで済むのは破格です。やめてもいいのですよ?」
雪蓮 「それはいや。……蓮華、南海覇王を」
蓮華 「ね、姉様!? まさか本気で───! そんな、美しい髪が───」
小蓮 「雪蓮お姉ちゃん!」
呉のみんなが見る中で、雪蓮は自分の手で長く美しい髪を束ね、その上に南海覇王を通し───ザンッ───と、切り取った。
中井出「ギャーーーーーッ!!」
そして南海覇王を鞘に納め、机の上に静かに置くと、切り取った髪を綺麗に折り、南海覇王の横に置く。
そう……美しいポニーが……! ポニーテール様がただの髪と化し、無残な姿で……!!
雪蓮 「───呉の王、孫仲謀。預かりし宝剣、南海覇王を返還致します。
我が身の一部とともにお治めください」
蓮華 「姉、様───」
その言葉は、本当の決別の証。
俺とともに来るという、本気の覚悟だった。
冥琳 「……蓮華様。もはや彼女は王でも武官でもありません。
預けし宝剣と献上されし身の一部を以って、
貴女は国への裏切りをどう扱われますか」
蓮華 「……っ……くっ! 許せる大義である……!
今まで、よくぞ呉のために働いてくれた……!」
雪蓮 「───もったいなきお言葉」
身を正し、礼を返すと、雪蓮は俺の手を引いて歩き出す。
……止める者は居ない。
けど、擦れ違う寸前、冥琳だけが俺達にだけ聞こえる声量で呟いた。
……すぐに追う、と。
16/ワーーオ! モートクー!(再)
中井出「インチキさ! マスクマァン!《バァーーーーン!!》」
…………。
雪蓮 「意味あったの? 今の行動」
中井出「ただマントを広げるだけじゃつまらなかったんで」
雪蓮 「まんと……外套のことよね?」
黒マントの中から顔を出す雪蓮に、“まあそんなとこ”と返す。
徐州に帰るにあたって、さすがに雪蓮を“はろー”と紹介するわけにもやべぇ面白そう。
ハッ! いやいかん危ない危ない危ない……! ここでそう思ってしまうから散々な目に遭うのですよ僕よ!
そんな目に遭おうとも成し遂げたいものに出会ったら、平気でやるのが博光ですが。
そんなわけで僕は雪蓮をマントに収納した状態で徐州に戻ってきて、どおれ政務に精を出すとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
と気合いを入れ、執務室に行こうとしたところで、
兵士 「も、申し上げます!」
中井出「だめだ」
兵士 「ええっ!? そんなっ!」
慌しく玉座の間に駆け込んできた兵士に即答を返してみました。最強。
星 「これこれ主、伝令をからかうものではありません」
中井出「おや星」
いつから居たのか、星が兵士の後ろからとことこと歩いてきていた。
ちなみにここは玉座の間。
誰も居ないのをいいことに、玉座の傍でインチキマスクマンの真似をしてたんです。
中井出「あいや冗談である! して、如何した!」
兵士 「はっ! 北方の国境に突如、大軍団が出現!
関所を突破し、我が国に雪崩れ込んできております!」
中井出「な、なに〜〜〜〜っ! ど、どこのどいつだ〜〜〜〜〜〜〜っ!」
星 「主よ。それは愚問だ。袁紹軍が潰れた今、北の勢力はひとつしかおるまいに」
中井出「あ、華琳か。つーことは…………兵よ。敵の数は?」
兵士 「……はい。敵の兵力はおよそ五十万ほどかと」
中井出「へぇー、ごじゅうま……五十万!?」
星 「───五十万。勝負にならんぞこれは……」
え、えーと……我らの兵がおよそ三万……ぶへっ! 相手にならねー!
十倍どころの騒ぎじゃないよ!?
星 「義勇兵を募っても精々で五万程度。これを五十万に当てるなど無謀の極み……」
中井出「じゃあ逃げる?」
星 「……ふむ。潔いのですな、主は」
中井出「普通に考えてこりゃ無理だ。だったら国を捨てて何処かに行くのも手さ」
星 「しかし、民はどうなさる。皆、桃香様や主を信じている者達。
それを見捨ててゆくと?」
中井出「関所などの備蓄を分け与えて、それでさよならで十分だ。
あとは華琳が治めてくれる……勘違いしちゃいかんぞ星よ。見捨てるのではない。
三万という数で小さな誇りを武器に戦い、一番被害を受けるのは何処だ?」
星 「…………主……」
中井出「向こうだってこちらが無茶な戦をし、それを受け、我らを撃退したとしても。
相手にだって被害は出る上、こちらに逃げられてはやり場のない怒りを抱える。
そんな怒りは、逃げ場のないこの地に暮らす民に向けられる。
……そんな危険に民の暮らしを投げ遣るくらいならば、我らの誇りなぞ安いもの」
星 「…………承知。主の意思、確かに受け取りましたぞ」
小さく頷く星に、俺も小さく頷く。
問題は何処へ逃げるかなんだが……
中井出「北には華琳、南に蓮華。とくれば…………南西、荊州方面に逃げるか」
星 「ほう、それはまた何故?」
中井出「荊州よりさらに西に、蜀って地方がある。
そこではいろいろ継承問題が起こったらしくて、
内戦勃発の兆候が見られるようになったとか朱里が言ってた」
星 「ほう……ではその内戦に混ざり、蜀という地方を───」
中井出「うむ。太守の劉璋殿の評判が悪いと聞く。
税高く、官匪が蔓延っているというのにそれに気づかず、
貴族どもは豪奢な暮らしにうつつを抜かすという最悪の太守ぞ」
星 「なるほど……それならば、攻め入ることに何の躊躇いも必要ありませんな」
中井出「でしょう? ですから兵士よ。
急ぎこの旨、桃香を始めとする武官文官全員に通達を頼む」
兵士 「は、はっ!」
兵士が駆けてゆく。
それを見送ったのち、玉座ではなくそこへと続く階段に腰をかけ、ふぅと一息。
そんな俺を見て、星も隣に座ると、俺を横目で見る。
星 「……重く腰を落ち着けるような振る舞いですな、主よ」
中井出「……ふむ。やはりヌシの目は誤魔化せん」
小さく笑って、まるで酒会を開いたような暢気さで心内を口にする。
中井出「星よ。我はこの地に残るぞ」
星 「この地に? ……我らを蜀へ行かせた上でか」
中井出「うむ。華琳の軍の行動は速い。
恐らく今からすぐに逃げたところで、長坂あたりで捕まるだろう。
そしてこの地の民は桃香を愛している。
中にはこの国での生活を捨て、付いてくると言う者も居る筈。
そうなっては、民もお前達も逃げ切ることは出来まい」
星 「……しかしな、主よ」
中井出「桃香は少し成長せねばならん。理想を掲げるのは大事だが、
いつまでも天の御遣いの名に隠れてしまうような者が王では、
これからの道、劉備軍は天下を手になど出来ぬよ」
星 「っ……それは……」
星も思うところがあったのだろう。
……桃香はやさしすぎる。
本当の意味でこの乱世の厳しさをまだ知らない。
だから、知る必要があるのだ。
己の名で、人徳で、どこまでいけるのかを。
中井出「桃香が成長するには、この博光の名は邪魔なだけだ。
故に行け、星よ。汝が槍、桃香のために役立てい」
星 「主…………まさかこの場で、五十万の兵を迎え撃つ気か!」
中井出「落ち着かんか星、今しがた申したであろう。この場で戦うは得策に非ず。
民にやさしく出来ぬ太守なぞ太守ではない。
民あっての国。そんなことも解らん輩に我は見えるか」
星 「……では!
主を慕い、付いていこうとする民が! 将が居るならば貴方はどうする!」
中井出「生憎と包容力はそう広いものではないんだよねぇ……。
自己責任が持てるなら連れてくよ? それ以外はダメ。
ただ漠然と付いていきますと言われても、僕に生活力を望むのは無茶ってもんだ」
星 「主よ……! 貴方は───!
共に手を重ね、目指すべきを誓ったのは虚言だったと! そう言うのか!」
中井出「…………」
立ち上がり、僕を鋭い目付きで見下ろす星。
そんな彼女と同じく立ち上がり、少し高めに手を翳す。
星 「……主よ……!」
中井出「……星。俺は約束を違えることはしない。
進むべき道は違えど、俺はみんなが笑って過ごせる時代を目指している。
やり方が違うだけなんだ。……桃香も、華琳も、蓮華も。
そこに俺が加わるだけ…………ただそれだけなんだよ、星」
星 「加わる───……まさか、貴方は……」
中井出「ああ。俺は俺の国を、旗を発てる。
俺自身が戦うことはないが、向かってくるなら容赦はしない。
国っていっても無からの旗国だ。どこかを攻め落として、なんてことはしない。
王朝の許しなんて知ったことではないし、俺は俺のやり方で行く」
星 「桃香様と愛紗と鈴々は主と結盟をした仲であろうに!
それを裏切ると仰るか!!」
中井出「……我らは生まれた日は違えど、死ぬ時は同じ日同じ場所で。
誓いを違えたりなどせぬよ、星。この博光、かわいい義妹を死なせたりなどせぬ。
そのための発起なのだ、あまり責めてくれるな」
そうは言うが、星は睨むことをやめようとはしない。
しばしそのまま視線が交差し…………やがて。
星が槍を取り、穂先を俺に向けて構える。
星 「構えよ。主君の意思に背くのならば、貴方はもはや不忠者。
相応の処罰を受けてもらおう」
中井出「……ふむ。この場合、それを受ける理由が我にない場合はどうすればよいかな?」
星 「フッ、ならば抗いなされ。我らの信頼を桃香様一人に担わせるつもりなら、
その重みというものを知っていただく」
中井出「なるほど。だがそこまでだ。もう桃香たちが来る」
星 「………………」
星は、寂しそうな顔をして武器を納めた。
そして言う。
どう話して聞かせるおつもりか、と。
中井出「ふつーに話すよ? やあ僕博光! 謀反するね!? って」
星 「愛紗あたりが気を失いそうですな。やめなされ」
中井出「それを見るのも面白いと思うんだけど……まあいいや。
皆には俺はここに残るぜ〜〜〜っ!とだけ言おう。
桃香に成長してもらいたいのは本音だ」
星 「納得すると、お思いか?」
中井出「するさ。じゃなきゃ桃香の夢が華琳の夢に食われるだけだ。
桃香さえ生きているのなら、意思は死なない。
だから、趙子龍。桃香を頼む」
星 「………」
……星は俺の言葉になにも返さず、一度礼をしたのち……歩いてゆく。
玉座の間から、俺の前から。
そんな光景を眺めながら、ふぅ、と一息。
さて、不忠義者にはどんな罰がありますかなぁ。
ついそれっぽい口調で問答してたけど、俺は内心楽しんでいた。
何故って……ようやく思い切り、自分らしく振る舞えそうだから。
雪蓮 「楽しそうね〜」
中井出「だって雪蓮ウェッヒェッヒェッヒェッ!」
雪蓮 「うわ、ほんと楽しそう」
中井出「いや失礼、ゲフリムフン! 俺は元々状況を楽しむことが大好物なもので。
こうしてともに歩むと決めた誰かと別れるのも、案外楽しいかな〜って」
雪蓮 「楽しいだけじゃ終われないわよ、博光。私だって国を捨ててきたんだから。
私の髪の毛の代償分くらい、頑張ってもらうんだから」
中井出「あー、もぉちろんだ。そのためには、やるべきことをやらないとな」
頷き、歩く。
もうこの場に居るわけにはいかないからだ。
……さぁて、丁重にお持て成しをしてあげないと、華琳のヤツが怒りそうだ。
ここはいっちょ、盛大にからかってやるとしよう。
せいぜい、桃香たちが長坂を抜けるまで。
───……。
ザムゥ〜〜〜……
中井出「さて、こうして魏を迎えるために荒野へ降り立ったわけだが───雪蓮さん?」
雪蓮 「ん? なに?」
隣に立つ雪蓮さんに、武器をひとつ。
南海覇王を蓮華に継承させちゃったから、武器がないとね。
雪蓮 「……これって?」
中井出「東方不敗って剣。殺せないけど、触れた対象が面白いように吹っ飛ぶ。
それと……これだな」
ブリュンヒルデの一部の形を変え、マントにするとそれを着させる。
雪蓮 「……わ、あったかい」
中井出「竜鱗の外套にてござる。人類の技術などではおよそ傷がつかん。
そしてそれは羽織ることで、己の肌をも竜鱗が如き固さにするもの。
決して、外してはなりませんよ? ちと卑怯だけど、五十万対ニだもの」
雪蓮 「え? え? やっぱり戦う? 戦うの?」
中井出「うむ! ただでは捕まってやりませぬ! せいぜい暴れてくれましょうぞ!
そして知るのです雪蓮……敵を殺さずに吹き飛ばすことの楽しさを。
命を奪うだけではいけません。武を振るいつつ人を活かす剣。
我らは活人剣を振るい、天下を治めるのですよ」
雪蓮 「んー……よく解らないことはいいわ。ようはこれで敵を斬れ、ってことでしょ?」
中井出「その通りである! では《くいっ》オワッ!?」
いきましょうぞって時に、服を引っ張られる。
中井出「な、なに? 雪蓮。僕今───あれ?」
雪蓮 「ん? どうかしたの? ───あれ?」
引っ張られた服の先には雪蓮は居なかった。
というか真後ろから引っ張られてるのに、横に立ってる雪蓮が犯人なわけもなく……つ、と後ろを見てみれば、寂しそうな顔で僕の服を引っ張る恋……と、隣に音々音。
中井出「れ、恋!? ねねも───う、うぬら何故ここに! 桃香たちと一緒では───」
恋 「……恋は、ご主人様についてきただけ」
音々音「桃香殿がどうであれ、恋殿とねねはおまえの仲間になったのです!
そのおまえが軍から抜けるならば、それに習うのが縁というものなのです!」
恋 「…………《コクコク》」
中井出「……いいの? ねねはこの博光のこと結構蹴るし、嫌っておるかと思ったが」
音々音「あ、あんな過去を見せられて、いつまでも蹴れるねねじゃないのです!
ただし恋殿になにかしらひどいことを働くようならぁあ……!!」
中井出「うむ! ちんきゅーきっくでもなんでも受けましょう《ぱごぉん!》たわば!」
恋 「!」
雪蓮 「ちょ、博光!?」
音々音「ひう!? ね、ねねじゃないのですよ!? 誰なのです石なんか投げたのはー!」
ねねがバッと辺りを見渡す! ……と、息を切らせながらこちらを睨む影が一つ。
その傍らにも疲れきってる人影一つ……なにかを散々探して、ようやく見つけたってくらいにゼーゼーだ。
中井出「ぬうう! なにやつ!」
詠 「なにやつじゃないわよ!!」
詠ちゃんでした。
いやキミ……どんなコントロールしてんの……。
あ、でも、ということは隣の影は…………やっぱ月だ。
とか思ってるうちにズカズカと人ンこと指差しながら近寄ってくる詠ちゃん。
詠 「あんたぁあっ!! ボク言ったわよね!?
月を泣かしたらただじゃおかないって!」
中井出「聞いてませんが?」
詠 「言ったわよ! そしてあんたは月を泣かした! だから……だからっ!!」
中井出「え? え? な、なにが悲しいの月、なにが辛いの?
奥歯にもやしでも詰まったの?」
詠 「つまらないわよそんなもの!!」
中井出「な、なんだとてめぇ! もやしを馬鹿にすることは僕が許さんぞ!
もやしはなぁ! 普段は目立たないが安い上に味付け次第で……!」
雪蓮 「んー……博光?
熱く語ってるところ悪いけど、そろそろ砂煙が見えてきたわよ?」
中井出「帰ってもらいなさい! 今僕はもやしを語るのに忙しいんです!
いいか詠! 聞け! 聞くんだ!
もやしは! もやしはなぁあ《ベパァン!》ベブ!」
詠 「きゅ、急に掴みかからないでよ気色悪い!」
中井出「ワナバババ……!! ───ハッ!? 俺はなにを……?」
力説虚しく、ビンタで正気に戻る俺参上。
ぬ、ぬう、なにか大変なことが起きていたような……
中井出「っと、そうであった! 詠! 月! キミたちなんということを!
今すぐ桃香たちとお逃げめされい!」
詠 「お断りね」
中井出「何故!?」
詠 「月があんたと一緒がいいって言うからよ!
まったく、どうしてこんな男と……!」
中井出「ぬう! 月さん!? 何故に!?」
恋 「……《ふるふる》」
中井出「ぬ……恋?」
月に問いただそうとするも、その間に首を振った恋が割り込んでくる。
いやあの……危害とか加える気ゼロですから。
そんなことされると博光としては悲しいんですけど……
月 「へぅ……だ、だって……
私と詠ちゃんが信じたいって思ったのは、ご主人様ですから……」
詠 「なっ!? な、なななんでそこでボクの名前まで出すの!?
冗談じゃないわよ! ボクがここここんなヤツを!?
信じる!? そんなこと!」
雪蓮 「へー……博光ってやっぱりなんだかんだで人徳あるんじゃない。
呉からの共が私ひとりじゃ、ちょっぴり寂しい?」
中井出「一番騒がしい人がなに言ってんの」
雪蓮 「あー、ひどーい!」
恋 「…………?」
不平を漏らす雪蓮の頭をぐりぐりと撫で、もっとやさしくしなさいよー!と更に不平を浴びて笑う俺の横。
左隣の雪蓮とは対象に、右隣を陣取った恋が疑問符を浮かべながら雪蓮を見た。
音々音「むー……? そういえば誰なのですこの女は。
はっ! …………おまえがひっかけた女ですか!」
詠 「……あんた……」
中井出「ち、違いますよ!? なにその軽蔑な眼差し!!」
雪蓮 「違うとは言い切れないわよね〜?
だって私、呉を捨ててまでついてきたんだもの」
月 「……? 呉……?」
詠 「…………、…………っ!! なっ、えっ!? あ……!?
あ、あああんた、まさか……!!」
雪蓮 「ええ。“元”孫呉が長女にして王、孫策伯符。
いろいろ事情があって博光と一緒に旅をしているところよ」
音々音「孫……ななななんですとーーーーーーーーーーっ!!?」
うん……そりゃたまげるよなぁ。
俺も話の外の人物だったら絶対叫んでたよ。
音々音「ちんきゅーきぃーーーっく!!」
中井出「《ドボォ!》おふぅ!!」
そして早速脇腹に走る痛み。
あまりの不意打ち加減にVITを上げるのを忘れ、まともに受けてしまった。
中井出「おががなにすんねん……!!」
音々音「それはねねの台詞なのです!
お、おおおおおまえはいったい何処でなにをしてきたというのかーーーーっ!!」
中井出「え? なにって……独立宣言?」
雪蓮 「ねぇ?」
雪蓮と向き合って、ねー?と首を傾ける。
中井出「その手伝いを雪蓮がしてくれるというので、
僕は彼女とともに旗を上げることにしたのです。もちろん来る者拒まず!
一緒に来てくれるというのなら、これほど心強いことはなし!
……ただし桃香たちと敵対することになるけど、それでもいい?」
恋 「……恋は、ご主人様と一緒」
音々音「ねねは恋殿と一緒なのです!」
詠 「月があんたと一緒に行くっていうなら、ボクは一緒に行くまでよ」
恋 「…………みんなも、一緒」
中井出「みんな? ……ウオッ!?」
ちらりと見れば、恋の足下には夥しい数の動物たち!
こ、これはまたなんともはや……!
中井出「う、うむよろしい! では雪蓮と恋を除いた者たちよ!
貴女方を我が裡なる大樹ユグドラシルへと案内しましょう! ───失礼!」
詠 「え? なによちょっと!!《ばさぁっ!》きあーーーっ!!」
マントで雪蓮と恋以外をバサァと収納! そのまま霊章を通してユグドラシルへ!
覇王となった今の僕に、不可能の文字は多分ありまくるがこれは可能だ!
雪蓮 「……思ったんだけど、それってどうなってるの?」
中井出「このマント? このマントは闇黒の外套といいまして、
これで包んだものは僕の意思によって……えーと。
収納したり、この腕の紋様の中にある世界へ飛ばせたり、いろいろ出来るの」
恋 「…………?」
中井出「恋も、ここでの戦いが終わったら飛ばしてあげるからな〜?」
恋 「《なでなで……》……《こくこく》」
雪蓮 「それってどんなところなの? 博光が居た世界?」
中井出「ん〜……大自然が広がる神聖な場所……って言えばいいのかな。
猫とか妖精とかドワーフとか精霊とか、人間や魔王の子供が居たりする」
雪蓮 「……なんかよく解らないけど凄そう…………ねっ、私も行っていい?」
中井出「うむ。どうせ散々暴れたあと、華琳に捕まるつもりなんだから。
その時にあんまり大々的に雪蓮が捕まると、呉軍が馬鹿にされそうだしね」
雪蓮 「べつにいーのに。私もう呉とは関係ないし」
中井出「俺が嫌なの。雪蓮はもっと自分を大事にしなさい」
雪蓮 「《なでなで》……あう」
頭を撫でてやると、真っ赤になって俯く雪蓮さん。
……あんまり自分のこと大事にしてる感じしないもんなー、この猫娘は。
……と、そろそろこんなことやってる余裕もないな。
中井出「恋、これ」
恋 「?」
武具宝殿から取り出した戟を、恋に渡す。
代わりに恋の方天画戟を受け取り、霊章でひと飲み。
恋 「……? ……?」
恋は渡された戟をいろんな角度から見て、最後に僕の顔を見て首を傾げた。
中井出「無双方天戟っていう武器だよ。恋に使ってほしい。
いいかい? これで人は殺せない。
ただし、敵を斬ると敵が面白いように吹き飛ぶ。
俺達がするのは平和をこの乱世に齎すこと。
殺しをすることで憎しみの連鎖を広げることじゃない。
殺さない代わりに、思いっきり吹き飛ばせ。……と、それから───」
ブリュンヒルデを分け、再び竜鱗の外套を作る。
それでばさっと恋を包んでやると、少し顔を赤くした恋の頭をやさしくやさしく撫でてやる。
中井出「今までと違う勝手に苦労するかもしれないけど、それでも一緒に来てくれるか?」
恋 「《こくり》」
……迷いはないようだった。
なら、いい。
中井出「よし! では雪蓮! 恋よ! やつらを精々驚かせてやろう!
汝らの武力は一騎当千では量れぬ!
一騎にしてニ十五万を吹き飛ばす修羅であれ!」
雪蓮 「うわっはぁ〜、無茶言ってくれるわ」
恋 「……やる」
雪蓮 「まあ、やるけど。ねぇ博光? 曹操のことだから、
こっちが三人だけって知ったら向こうも三人で来ると思うんだけど?」
中井出「む。それはつくづく然り。じゃあ───バーチャルシフト」
プログラムジェノサイドハートを始動。
霊章から溢れる文字の羅列が景色を覆うと、一変してそこには十万もの兵の姿が。
雪蓮 「わひゃあっ!? な、なにこれー!」
中井出「映像です。触っても突き抜けるだけだけど、見た目では絶対に騙せる。
これで雪蓮と恋が“全軍突撃”とか言えば、向こうも突出してくるさ」
雪蓮 「あはは、なるほど。博光って結構悪知恵働くわね〜」
中井出「もちろんだ! なぜならこの博光!
元々人をからかいからかわれ、楽しく生きることを生き甲斐とした修羅よ!」
雪蓮 「今はいろいろ甘くなってる?」
中井出「ハイ、自覚してます」
言いながら二人の頭を撫でて、最後に肩をポンッと叩く。
と同時に“全体化”と“マグニファイ”を発動させ、VITをとことんまでに振り分けてやる。
中井出「じゃ、魏軍も到着したことだし……まずは舌戦?」
雪蓮 「どんなこと言うのか、楽しみにしてるね?」
恋 「……《こくこく》」
中井出「うむ」
映像の軍隊を背に、ズチャアと魏軍の前に立ち塞がる。
すると、前衛を任されていたらしき惇殿が前に出てきて、
夏侯惇「貴様らは劉備軍の者か!」
中井出「いいえケフィアです」
夏侯惇「……けひ?」
中井出「いえなんでもないです。それで惇殿。
こちらへ何用ですかな? こちらには劉備殿の城、彭城と街しかござらんが……」
夏侯惇「ふん! 知れたこと! 華琳様の名の下、劉備を討ちにきたのだ!」
中井出「そっかそっかー。……行かないで、って行ったら?」
夏侯惇「潰すだけだ!」
中井出「え? なにを?」
夏侯惇「お前達をだ!」
中井出「なんで?」
夏侯惇「邪魔だからだ!」
中井出「どうして邪魔なの?」
夏侯惇「彭城に行くからだ!」
中井出「なんで?」
夏侯惇「劉備を討つためだ!」
中井出「どうして?」
夏侯惇「華琳様が仰ったからだ!」
中井出「なんて?」
夏侯惇「な、っ…………え、えーと……あ、うー……
う、うるさい! とにかく行くんだ!」
中井出「なんで?」
夏侯惇「劉備を討つからだ!」
中井出「何処で?」
夏侯惇「彭城でだ!」
中井出「どうして?」
夏侯惇「劉備の街だからだ!」
中井出「でもキミたちが占領したらキミたちの街だよ? 怖くしちゃ可哀想だよ」
夏侯惇「うぐっ……う、ううう……しゅ、しゅ〜〜らぁ〜〜〜〜ん……!」
夏侯淵「ああもう、姉者は可愛いなぁ…………───中井出」
中井出「む」
呼ばれて飛び出て、というか。
歩兵として歩いてきたのは淵殿で、惇殿とは対象的な蒼の武具に身を纏い、僕を見る。
惇殿は赤です、念のため。
夏侯淵「お前がここに居るのは何故だ。劉備を守るためか?」
中井出「生憎だが俺は守るなんてことが大嫌いだ。
俺が起こした行動で誰かが勝手に守られるならそれでいいけど、
俺は自分から守ろうなんて思わない」
夏侯淵「では退いてもらおう。私達はこれより、劉備軍に一斉攻撃を仕掛ける」
中井出「はっはっは、断る。残念だが劉備はもう徐州を離れた。
だがここでお前達がいたずらに進軍しては、街の者達が怯える。
守るなんて言わないが、誰でも笑顔がいいって思うのは当然だろう?
日を改めなさい。それからゆっくりと徐州を手に入れればいい。
こんな大勢ではなく、数人ずつで」
夏侯淵「なに……!? ───華琳様!」
華琳 「聞いていたわ。……博光、そこを退きなさい。
これは陣取りの遊戯などではないの。
敵の意思を挫ける機会があるのに、みすみす逃すと思ってるの?」
中井出「うん。逃して? あいつらまだまだ弱いから、強くなってから挑みなさい」
華琳 「お断りよ。あんな、みんな仲良くだなんて理想ばかりを口にする者が、
この乱世を治めようだなんて甚だ理解できないわ」
中井出「人の理想はそれぞれさ。誰にも、それを笑う資格はない。
理解できなくて当然だろ? ……華琳は桃香じゃないんだから」
華琳 「………」
中井出「………」
向かい合う。
華琳から放たれる覇気はとんでもないものだろうが、守護竜たちと真正面から向かい合って来たこの博光。
今更古の覇王に睨まれたことで動じるわけもなし。
華琳 「……いいわ。ならば力ずくで捻じ伏せるのみよ。
そして貴方を手に入れた上で、劉備を叩く」
中井出「それは、合戦の合図ととって、いいのかな?」
華琳 「ええ。貴方が戦わないのは残念だけれど。その程度の数で勝てるつもり?」
僕の後ろの兵を見て、華琳はニヤリと笑うが───
中井出「フハハハハ……うむ。せいぜい暴れさせてもらおう。
それとも、この博光も戦った方がいいかな?」
華琳 「───魅力的な提案ね。いいわ、己が眼で見たいものもある。
やる気になったのならいつでも来るがいいわ」
華琳は呆れた物をみたような笑みを浮かべ、本陣に戻ってゆく。
それとともに───
夏侯惇「全軍突撃! 私に続けえええええっ!!!」
魏軍兵「ウォオオオオオーーーーーーッ!!!」
惇殿の絶叫とともに、魏軍の兵が走りだす───!
中井出「雪蓮! 恋!」
雪蓮 「待ってましたー! ───いくわよっ! 全軍抜刀!!」
恋 「……抜刀」
中井出「うむ!」
雪蓮と恋の言葉に合わせ、映像の兵に抜刀をさせる。
こうして構えて待っているだけでも、こちらが迎撃体勢をとっているのだと思うのは当然。
やがてまず、雪蓮と惇殿が衝突し───剣がぶつかり合った途端、惇殿が馬から弾き飛ばされ、空を飛びました。
夏侯惇「なっ───!?」
夏侯淵「姉者!?」
次いで恋が豪快にブン回した無双方天戟が兵士どもを吹き飛ばし、囲もうとする先から飛ぶ飛ぶ!
雪蓮 「……わ、あははははは! これ面白いかも!」
恋 「……《こくり》」
一撃で相当の手応えだったのでしょう。
雪蓮と恋は身を震わせるようにして前を向くと、もう立ち止まらずに魏軍兵の渦へと身を投げ出した。
そうして始まる無双バトル。
一撃一撃が確実に敵兵を吹き飛ばし、斬り付ける攻撃がマントに弾かれ、驚いた隙にまた吹き飛ばされ。
五十万もの兵を前に臆することなく突き進めるのは、ひとえに彼女らがそれだけの地位に居たからなのでしょう。
視線の先で巻き起こる大乱闘を遠目に見ながら、黒で象った椅子にどっこいしょーと腰かける。
せっかくだから装備は戦国武将のものに。
武者の鎧をブリュンヒルデで象って、しっかりがっしりと装着さ。
中井出「お〜吹き飛んでる吹き飛んでる」
怒号のような絶叫と、もみくちゃにされているようでされていない雪蓮と恋。
吹き飛ばされた敵は他の兵を巻き込んで倒れゆき、衝撃の大きさに気絶しては、次のヤツが突っ込んでいっては吹き飛ばされる。
しかしながらたった二人に全員でかかるわけもなく。
敵さんは僕の方にまで突撃をし……いや、むしろ後ろの兵の映像目掛けて走ってきていた。
もう合戦は始まってるんだし、と思い、映像を消す。
すると兵たちに動揺が走り、だが俺が一人と見るや突撃を再開!
ほぉ〜〜りゃ〜〜っ!と槍を突き出しガィインッ!!
魏軍兵1「あれっ!? は、あ、あれっ!? えっ!?」
我が源氏の鎧に武器が弾かれることに心底驚き、一歩二歩と後退る。
中井出 「我が前に武器を手に立ち、我を攻撃する者よ。
汝はこの博光に魏軍として戦いを挑んでいる、ということで構わぬか」
魏軍兵1「な、なにを言ってるんだこいつ……!」
魏軍兵2「あ、当たり前だろうがっ! 曹操様が願うはこの先の彭城制圧と劉備軍の征伐!
こんな場所でもたつくことを曹操様がお望みになられる筈がない!」
中井出 「……ならばよし!」
手に出現させたジークフリードを、お偉い老人さんが地面に杖をカンッと立てるようにして、地面に突き立てる!!
途端に我が体からは金色の灼闇が吹き荒れ、我が身は光の戦士モードに……! ……カタチだけだけどね。流石に全力解放したらヤバイです。
魏軍兵1「は、ああ……!!」
魏軍兵2「な、なな……!? か、体がっ……震えて……!」
金灼()の解放だけでこれだもの。
光の戦士を解放したらどうなることか……そもそも鎧から金色の炎が噴き出ること自体が恐ろしいのかもしれんが。
中井出 「さてうぬらよ。畏怖を覚えたのならば退け。
退かぬなら、実力を行使するだけよ」
魏軍兵1「っ……ど、どの道……逃げだす兵士なんて、戻ってもいいことなんてない!
う、うあぁああああーーーーーーーっ!!!」
魏軍兵2「! う、うおおおおおおおおっ!!!」
中井出 「お馬鹿ぁあーーーーっ!!!」
戦いを前に逃げ出すことは悪ではない! やけっぱちになって全てを捨てるのが悪なのだ! もはやこの博光、辛抱たまらん! 貴様ら今から修正してくれる! 歯ァ食い縛れ!!
中井出「ギミック! 無想新月棍!!」
リーチだけなら誰にも負けん!
この棍で……ギッタギタにしてくれる〜〜〜〜〜〜〜っ!!!
───……。
中井出「ウェエーーーーッハッハッハッハッハッハ!!
震天烈空斬光旋風滅砕神罰割殺撃ィイイイイイイイイイイッ!!!!」
棍を振るう振るう!
許可は得てるから思う様に振るい、群がる敵兵を吹き飛ばしまくる!!
もちろん致死率ゼロです。くらったら吹き飛んで痺れるだけで、ダメージもほぼゼロ。
魏軍兵「ひ、ひぃ! ばっ……バケモノだぁああああっ!!」
中井出「わぁーーはっはっはっはっは!! 戦いというものをその身に刻むがいい!
奥義ィッ!! 業魔ァッ! 灰燼剣ンンッ!!!」
貴方たちに素晴らしき地獄を。
ダメージ1の痺れ炎を奔らせ、敵の軍勢を次々と黙らせてゆく。
一応、雪蓮や恋が居るところとは離れた場所で。
中井出「はぁああいはいはいはいはいはいはいぃいいいいいっ!!!!」
棍を振るう振るう振るう!
群がる敵をボッコボコにし、叩きのめし吹き飛ばし、逃げる者は追わず、来る者だけをブチノメーション!
だが、そうこうしているうちに兵が下げられ───
華琳 「そこまでよ、中井出提督」
中井出「え? なに?」
呼ばれて振り向けば、円を描くように退いた兵の輪の中心に華琳。
兵たちは僕らを囲むようにして集い、僕と華琳を眺めていた。
中井出「……なんの、おつもりかな?」
華琳 「降伏しなさい。さもなくば、貴方を矢の雨が射抜くわ」
中井出「……ふむ。この博光が矢ごときで射抜かれるとお思いか?」
華琳 「いいえ? ただ私は状況の問題を口にしているだけよ。
貴方は人以上の力を出し、我らを圧倒することを好まない。
だから殺せるというのに殺さず、こうして戦ってみせている。……違うかしら?」
中井出「うむ。この世界はこの世界を生きる者が制するべきだ。
この博光、確かに今を生きる者以上の力を以ってこれを制すること、良しとせぬ」
華琳 「ええ。だから───」
中井出「だが。売られた喧嘩まで引き下げるほど、人が良いわけでもないが?」
華琳 「…………」
中井出「うぬの兵に一撃くらったのでな。殺す気には殺す気で、と行きたいところだが、
魏軍からの喧嘩として受け取った故、こうして吹き飛ばした。
一人からの殺意など、50万に分ければこの一撃で十分でしょうよ。
……さて華琳よ。この場合、この博光は大人しくヌシに降るとお思いか?」
華琳 「……、……いいえ、それはないわね」
中井出「うむ。だから降ろう」
華琳 「そう……───…………え?」
あ、変な顔してる。
中井出「え? いやだからね?
桃香を追わず、客将として迎えてくれるなら、一緒に行くよ? って」
華琳 「………………」
かつてないほどの戸惑い顔が見れました。
作戦は成功と言えるでしょう。
───……。
そんなわけで……
中井出「魏ゴガゴー!」
僕は許昌に居ました。最強。
華琳 「それで……教えてもらえるのかしら?
何故あなたと一緒に、孫策……呉の王が居たのかを」
中井出「それは雪蓮が僕とともに新たな旗揚げをすると決めてくれたからさ。
孫呉とは縁を切ってきた……まあ家出みたいなもんかなぁ」
華琳 「……本気? 孫呉の英雄、小覇王とまで謳われた孫策が」
中井出「はっはっは、いつか華琳もやってみるといいよ。
王なんてものは誰かに押し付けて、自分は好きなことをやる。
この世界にはな、王であるために出来ないことがいっぱいあるんだ。
俺はそういうものも含めた“楽しい”を探してる」
華琳 「まさか。私は天下を取り王になる。
それは、誰がなんと言おうが成し遂げなければならないことよ」
馬に乗りながら街を進み、城を目指すかたわら。
華琳とこれからのことを会話しているわけですが……
中井出「それでもだよ華琳。キミはちと王という名に固定観念を持ちすぎてる。
いいかい華琳。“王はこうでなければいけない”───
そんな考えの上に王って名があるのなら、そんなものは人形にでもやらせておけ。
けれど自分にしか出来ないなにかがあるから王を名乗るなら、
もっと“自分”を出せる王であれ。堅苦しい王なぞ何処にでも居る。
お前は何処にでも居るような王にはなるな」
華琳 「誰にものを言っているの? 私は曹孟徳よ?」
中井出「だからなんじゃい。人間である以上間違いは必ずするわ」
華琳 「なっ───」
中井出「名前に溺れるな馬鹿者。曹孟徳だから失敗しないんじゃない。
曹孟徳だから失敗することもあるんだ。
だから言ってるんだ、王はこうでなければならないなんて考えに飲まれるな。
お前の今の返答は、まさに自分がそれだと認めてるようなものだろう」
華琳 「………」
中井出「はっきり言えばこの博光、お前を王としてなど見ていない。
だからもっと視野を広めてみなさい。邪道だからそこを見ないようにしていれば、
せっかく存在するなにかをお前は自分の意思で遠ざける。
それが正しいからとそこばかりを見ていれば、見逃すなにかが絶対にあるのだ。
……せめてさ、大陸の王になるより先に、そんなものを一つでも見つけてみろ。
たった一人でも、お前に王としてじゃなく華琳として接する馬鹿が居るうちに」
華琳 「…………───必要ないわ、そんなもの」
中井出「そーかい」
意地っ張りですこと。
そういう眼をしたヤツなんて、俺は何度も見てきたんだ。
ほんとは寂しいくせに、なまじっか周りに自分を慕うヤツが居るから、自分の奥底にある願望を押し込めちまってる馬鹿。
中井出「んーじゃ、この話は無しか。まあ、俺の手はいつでも空いてるから。
今の話を思い出した時にでも手ェ伸ばしてみろよ。
乱世の奸雄、なんて呼ばれてるお前じゃなく、華琳として伸ばすなら……
いつだって叱ってやるし、いつだって甘やかしてやる」
夏侯惇「貴様ぁっ! なにを話しているのかと思えば! 華琳様を叱るだと!?」
夏侯淵「姉者。……華琳様、申し訳ありません。姉者がどうしてもと───」
華琳 「気にしていないわ。全てこの男の世迷言よ」
華琳の言葉に、小さく笑みをこぼす。
だったら、なんで俺なんかを手元に置きたがったのか。
……まあ、珍しさを先に走らせたならそれでもいい。
こうして、二人で話をさせなさいと主に言われても、主を思えばこそ聞き耳立てる愛すべき馬鹿者も居ることだし。
中井出(……やれやれ。みんなの意思を受け取ってから、随分とお節介になったもんだ)
未来凍弥の影響かね。
それとも晦や彰利や穂岸の影響か。
甘やかす癖は閏璃のか? 無駄に突っ走りたくなるのは柾樹の癖か。
……どちらにしろ、俺はどうにもこのちっこい王のことが気にかかっているらしい。
中井出「……当然のことと自然のことは違うからな。
手ェ伸ばしてみても俺の両手が塞がってたら、
お前は一人で天下に居るんだろうな。それとも敗れて新天地を目指すのか」
夏侯惇「華琳様が負ける筈がないだろう!」
中井出「ん。そうやって信じてくれる誰かが居るうちは、今のうちならなんとかなるさ。
でもな、そうやって猛進し続けて、いつか仲間を戦場で失って。
力を失って仲間も失った時……この子は立っていられるかな」
華琳 「っ───いい加減にしなさい! 私は貴方を客将として迎えたけれど、
世迷言を謳う人形として迎え入れた覚えはない!!」
中井出「………」
華琳が俺を睨み、叫ぶ。
皆はその張り詰めた緊張感に息を飲むけど、俺は違う。
中井出「侮辱として取るか、教訓として取るかの違いだよ、曹孟徳。
そう怒るな。少なくとも、俺は仲間も失ったし自分って存在も失った。
お前よりは、戦場の多少は人生経験があるつもりだよ。
……でも、俺はお前じゃない。お前がどんな意思の上で立っているのかも知らん。
どんな理由の先に乱世平定を目指したのかもしらん。
俺にとってそれはどうでもいいことだし、他のやつらの理由にしたってそうだ」
華琳 「……どうでも、いいですって?」
中井出「ああ、どうでもいい。誰が何処で戦おうが何処で死のうが。
自分の理想を貫かんとして散れるなら、この世界のやつらは本望なんだろう?
だったら俺が言えることなんてたった一つだし、
それを受け入れられないならそいつはきっと、その生きかたの方が幸せなんだ」
華琳 「春蘭……秋蘭……───この、無礼者の首を───!」
中井出「……でもな。俺は戦場から離れてまで
“楽しい”を探さないヤツがなにより許せない」
華琳 「きっ……、───……」
中井出「俺の役目はこの乱世に平和をもたらすこと。
なら、俺はこの世界を俺なりのやり方で平和にするだけ。
だってのにお前ときたら、眉間にシワ寄せてうんうん唸ってばっかりで」
真面目っぽく喋ってた俺が、急に砕けた表情や口調になったのが意外だったのか。そろそろ城に着くってくらいの場所で、華琳はポカンと口を開けて俺を見ていた。
中井出「言っておくとな、華琳。
お前らはそれで本望かもしれないが、俺はちっとも本望じゃねぇ。
だからお前に教えてやる。王ってのは確かに大事だけど、
なにも四六時中王である必要なんてないんだって。
それで、なんでこんなことに、って思う時がきたら───
お前が拾った俺っていう馬鹿者がそういう生き物だったからだ、って諦めろ」
華琳 「…………貴方は」
中井出「俺はな、笑顔が好きだ。馬鹿みたいに騒ぐのが好きだ。
一緒に馬鹿やってくれるやつが好きで、一緒に泣いてくれる馬鹿が好きだ。
王だから、責任ある立場だから、なんて理由で泣かないヤツは嫌いだ。
だから、お前がもしそんな立場に居るっていうなら、
せめて泣けるくらいにはしてやる。まあよっぽど頑固者そうだしなぁ、淵さん?」
夏侯淵「……ふふっ、そうだな。華琳様は少し頑固でいらっしゃる」
華琳 「なっ! 秋蘭!?」
夏侯淵「華琳様、私はこの者がなかなか気に入りました。
やり方はどうあれ、華琳様を思っての言葉。
私はこの者がなにも、全て虚言として吐いているとは思えないのです」
くすり、と静かに笑みながら言う彼女……淵さんは、華琳をやさしい眼で見ていた。
なるほど、多少の違いはあれど、華琳に歳相応にしてもらいたいと思う気持ちは彼女にもあるようだ。
夏侯惇「そうか? 侮辱しているだけにしか思えないんだが」
中井出「惇さんは蒼いなぁ」
夏侯惇「? お前の眼は節穴か? 青いのは秋蘭だろう」
夏侯淵「……ふふっ、姉者は可愛いなぁ」
華琳 「………《しゅばぁっ!》ひゃあっ!?」
惇淵二人が問答を始める中、馬上ということで少し離れた位置に居た華琳を、火闇を伸ばして引き寄せる。
そしてすっぽりと馬上の僕の足の間に収め、後ろから抱き締めると……頭を撫でる。
華琳 「な、ななっ、なにを───!」
中井出「華琳! 息を吸え! 息を吐け! 強がるばっかじゃなくて弱くもあれ!
王を辞めろなんて言わないから、当然としてそこにあるものを意識して見てみろ!
大地を見下ろせ! 空を仰げ! 対極に位置する物に眼を向けろ!
血で血を洗う悲しみの乱世があるのなら、
そんな世界でも笑顔を笑顔で塗り潰す暖かな世界もあると知れ!
一方だけではつまらん! 正しい道だけではつまらんぞ華琳!
邪道にも眼を向け、邪道の中から認められる物を拾い集めてみろ!
世界は広いぞぉ!! お前が見ている世界なんてちっぽけだ!
だからそんな世界の視野をもっと広めてみろ!
自分の腕だけじゃ包めないなら友を増やせ!
自分の弱さも笑顔で受け取って、伸ばした手を掴んでくれる友を増やせ!
世界は楽しいぞ! 世界は面白いぞ! 王という位置だけで満足などするな!
王としての楽しさも、華琳としての楽しさも!
我が儘でもいい! 全部に手を伸ばして、全部を仲間と一緒に手に入れろ!
そうすればいつか、届かなかったものにも手が届く!」
叫びながら、華琳の頭を撫でる。
嫌がるが、そんなものは知らん。
そんな中で、撫でながらこちらに引き寄せて、視線が空に向かうように傾ける。
中井出「……だがな、地を制したところで空には届かぬ。
誰かを笑顔にしても、誰かが悲しむ。
対極がある限り、全てを笑顔にすることなど到底無理。
……でもさ、出来たらいいなって思う。出来ればいいなって思う。
それは理想論だけど、理想があるから天下を取ろうとするお前が居て、
その理想に賛同するやつらが集まってくれた。
……なぁ華琳。お前が見上げる空は、蒼いか?」
華琳 「………あ、蒼いわよ」
中井出「そか。…………俺の空はもうずっと赤いままだ。
どんよりと雨雲に包まれて、そのくせ灰色じゃなくて赤く染まってる。
眼の奥に血がこびりついてて、降ってくる雨はみ〜んな赤い。
まるで血みたいだ。自分の理想のために戦って、得たものなんて赤い空。
仲間は俺を忘れて、帰る場所さえ失って。でも…………信念だけは」
華琳 「《……トクンッ》……博光?」
傾けた華琳の耳が、俺の心臓部分に当たる。
その鼓動を聞いたのか、華琳が俺を見上げるように見る。
中井出「華琳。蒼のままの空を見ろ。赤い夕焼け空を見ろ。
黒く染まりゆく夜空を見ろ。白んでゆく朝焼けの空を見ろ。
赤のままの空じゃなくて、お前はいろんな空を見ろ。
全てが終わってもお前がそんな空を見上げられるなら、俺はそれで満足だ」
華琳 「…………」
やがて、その景色も終わる。
馬を降りた頃には華琳は俺から離れて、ニ、三、兵や将たちに言を放つと城へと消えてゆく。
そんな彼女を見送ったのち、俺は───
中井出「………………あれ? そういや俺、これからどうすりゃいいんだっけ」
迷走。
あれ? か、華琳さーん?
僕これからどうすりゃ……
夏侯淵「お前はこっちだ。部屋を用意してある」
中井出「おや淵殿」
そんな僕を救ってくれるメシア様降臨!
そんな彼女の案内のまま、僕が辿り着いたのは………………
中井出「馬小屋?」
夏侯淵「の、隣だな」
中井出「……」
チラリ、と見てみれば、物置としか思えんぼろっちぃ小屋。
中井出「謝謝!!」
夏侯淵「《ぎゅむっ!》な……」
淵殿の手を握って感謝!
まさかこんな一軒屋(?)を客に与えてくれるとは!
中井出「サンクユー! じゃなくてありがとう! 華琳にお礼言っといてくれ!
いや〜、こんなステキな場所を与えてくれるなんて、いいとこあるじゃないか〜」
夏侯淵「……いや、なんというかだな……。お前は喜んでいるのか?」
中井出「え? 喜んでるよ? なんでさ」
夏侯淵「いや…………お前がそれでいいならいいんだが。
ああそうだ、お前に言っておきたいことがあった」
中井出「え? なに?」
夏侯淵「……ありがとう。華琳様の頬を叩いたことは許せないことだが、
姉者の目を治してくれたことを、心から感謝する」
中井出「よせやい、気が向いただけだって。
それにお礼を言われたくてやったわけじゃないし。
よ〜〜〜し早速掃除だぜ〜〜〜〜〜〜っ! ……っと、ありがとう淵さん!
僕これから掃除するから、他に用事がないならここでいいよ」
夏侯淵「…………うむ」
片目を隠す髪をいじりながら、溜め息。
よく解らんが俺は笑って返して、淵さんには戻ってもらった。
……さて! まずするべきことは掃除だねっ!
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