22/迷える……羊
-_-/?
ただ、地を蹴るしかなかった。
選択肢? そんなものは存在しない。
訳も解らないままにただ走り、救いを求める以外に何も出来なかった。
戦う? 守る? それは強者の理想論だ。
今の自分に出来ることなど、自分の命を守ること……ただそれだけ。
それも、逃げることでしか守れない。
人が見れば情けないと笑うだろうか。
……冗談じゃない。
そう思うなら抵抗のための武器もないままに、武装した連中に追われてみろってんだ。
相手が一人ならまだしも、俺を追う連中っていうのは“連中”で括るのも馬鹿らしいほどの数なのだ。それを相手に戦えって? ……ほんとうに、冗談じゃない。
「はっ……くっ……くそっ……!」
どうしてこんなことになったのか。
今までは訳が解らないながらもなんとか過ごせていたのに、やつらが来てから全てが狂った。いや、狂ったというのならそもそも、“この世界に降りた時から”狂っていた。
「どうなってるんだよっ! くっそぉおおおおおっ!!」
白の軍勢に追われた俺は、ただ叫んだ。
いや、正確には白だけではなく、どこか原始時代の装備を思わせるものに身を纏った連中も混ぜた者たち。
五胡を名乗る軍勢から逃げ続け、疲れて止まり、しかし死にたくないから逃げ続けた。
誓って言うが、俺は俺を追うやつらに何かをした覚えもなければ、狙われるきっかけを作った記憶も一切ない。べつに記憶喪失だなんて言うつもりもなければ、“この世界のこと”でさえよく知りもしないのだ。
だが自分のことは知っているつもりだ。
聖フランチェスカに通っていた学生。性別は男で、名前は───北郷一刀。
もう一度言うが、命を狙われるようなことをした覚えは一切ない。
だというのに何故か追われ、ただただ安住の地を目指していた。
その安住の地がどこかといえば……出来てそう経っていないにも関わらず、安定と強さを誇る“日輪”の旗の下を目指していた。
なんでもそこは、家族を失った者たちを積極的に集め、保護しているのだと聞く。
だったら俺もとこうして走っているわけだが……これって俺ごと敵として見られないか?
一刀「言ってられる状況じゃ……ないよなっ……はっ……はぁっ……!」
今更別の国を目指して走る体力なんてない。
そもそも剣道を多少やっている程度の俺に、この時代を駆け抜けるやつら相手に逃げ続けろってのは無茶ってもんだ。
しかも竹刀も胴着も一切無い俺に戦えって? まったく冗談じゃない。
一刀「………」
“北郷は世界を滅ぼす悪なり。悪を滅ぼすは正義の責務なり”
突然現れた白装束の男たちにそう叫ばれ、追われる日々は続いた。
なんとか逃げ切ってもしばらくすると現れ、いつ現れるのかと緊張し続ける日々は俺から余裕ってものを削っていき、もういい加減限界がきていた。
それでも死にたくはなかったから走り続けて、ついにここまで───
一刀「はぁっ…………っ……く、はぁっ……!」
日輪の城。
言ってしまえば独立宣言はしたものの、国としては認められていないそこを前に、大きく深呼吸をした。
城と呼ぶにはあまりに奇妙。
どう見たって木々が密集した外観でしかないのに、生える木ひとつひとつがきちんと城の役割を果たし、存在していた。
自然要塞という言葉がよく似合っている。素直にそう感じた。
そんな場所の大きな門が開き、そこからは一人の男性を先頭に、馬に乗った何人もの子供たちが飛び出して───こ、子供ぉっ!?
一刀「って、驚いてる場合じゃないって! 待ってくれ!
ちょ、止まっ───ととと止まァアアーーーーーッ!!? キャーーーッ!!」
ゴシャアッ……!!
-_-/中井出博光
───おや? なんか踏んだ?
いざ合戦だーって勢いよく出たはいいけど、勢いよすぎたね。
というわけでビッタァと止まってみせると、数歩前の地面に痙攣する一人の少年。
中井出「ややっ!? なんたること! 行き倒れの少年がおる!」
いやまあなんとなく予想つくけどさ!
ヤベェエエーーーーッ!! カリユガンホースで人轢いちまったァァァァーーーッ!!
慌てて馬から降りると少年を抱き起こして、ヨオオしっかりしてくれよおおとばかりにビンタを炸裂させる! すると痙攣すらしなくなり、ぐったりとする少年さん。
中井出「あら面白い!!」
なんてこったいトドメ刺しちゃった!?
雪蓮 「ちょっと博光、急に止まってどうしたのよ」
中井出「あぁいやうん! なんかね!? 無関係の人轢いちゃったみたいで!」
雪蓮 「埋めよっか」《どーーーん!》
中井出「OK!!」《どーーーん!》
男 「ちょっと待てぇええっ!!」
中井出「あ、生き返った」
謎の少年復活絵巻。
きっと僕らには見えない場所で、正義超人たちが超人強度を分け与えてくれたのだ。
中井出「よろしくジェロニモ」
男 「どなた!? じゃなくてっ!
あ、あー……えっと。ここって“日輪”の城で……いいんだよな?」
中井出「え? あ、うんそう。で、キミは? あ、僕中井出提督。
ここで雪蓮と一緒に王様もどきをやってます」
男 「あ、こりゃどうもご丁寧に。俺は北郷一刀。
そこらで働きながら、場所を転々としてる」
中井出「おおそりゃ逞しい。で、今回は日輪に転々としに来たと。
ああでもすまんねぇ、今から僕ら、出陣なんですよ。
ほら、なんでも五胡ってのがこっちに向かってるらしいじゃない?」
一刀 「あ───そうそれっ!」
中井出「ホイ?」
僕の言葉に一刀くんがオッタマゲーション。
人のことを指差してまで、ソレダとばかりに驚いておった。
……ぬ? 何事?
一刀 「俺、なんかそいつらに追われてて……よかったら匿ってくれると───」
中井出「だめだ」
一刀 「即答!? なっ、ど、どうしてっ!」
中井出「こちらの得が一切ございません。なのにあなたは匿えと言う。
アナタ、なにか提供できるもん、ございます?」
一刀 「な、なにかってそんなこと言われても……
あるのはバッテリー切れのケータイと、あとは財布くらいで……」
中井出「お前もうおしまい。バイバイ」
一刀 「なっ───! そ、そんなっ! 俺はここなら助かるって思ったから───!」
中井出「ふむ。じゃあキミに質問。生きるためならなんでも出来る?」
一刀 「土壇場になってみなきゃ“なんでも”なんて解るもんかっ!」
中井出「ようこそ日輪へ!!」
一刀 「えぇええええーーーーーーーーーっ!!?」
出した試験にあっさり合格した一刀くんを迎え入れました。
ここで出来るとか言おうものなら本気で見捨ててましたさ。
だって、そんなもんは本当にそんな状況になってみなきゃ解らんことだもの。
雪蓮 「えー……? その子、拾うつもり?」
中井出「一刀くん、といったね? キミに衣食住を約束しましょう。
その代わり、日輪でしっかり働いてもらいます。
働かざるもの食うべからず。ここでは誰であろうが住人であり武人だ。
生きたいのなら鍛錬し、強くなり、己の身は己で守りなさい。
それを“やろうともしない人間”は、きっぱり言おう。邪魔だ」
一刀 「───…………」
中井出「生きることに必死になれるなら頑張れる。
咲き誇る花はいつか仰りました。生きるだけでは罪と。
まあでも病気や歳で動けなくなった人に生きるなと言うのは酷ってもんなので、
動けるのならば生き、抗えるのなら抗いなさい。
そのための糧を、僕はあなたに提供します。あなたはそれを受け入れますか?」
一刀 「…………」
雪蓮 「受け入れないって」
中井出「ほっほっほ、まあまあお待ちなさいな、そう焦るものでもありんせん。
───しゅうら〜ん、ちょっといい〜?」
離れた位置から、僕らが動くのを待っていた秋蘭を呼ぶ。
彼女は馬を操るとこちらまで来て、きちんと馬から降りてから声をかけてくれた。
秋蘭 「どうした?」
中井出「ちとこやつの面倒見てもらっていい?
こやつに戦場ってものを見せて差し上げる。
戦うってことを知ってもらって、生きる意味と死ぬ答えを胸に刻んでもらうんさ」
秋蘭 「それはまた……ひどい男だな」
中井出「乱世で生きるって、そういうことよ。
都合よくメシだけ食ってのんきに暮らすなんて出来るわけがござんせん」
あ、でもそれ言ったら俺ってそんな感じか?
戦わず、衣食住を提供するだけ、って。
……提供してるだけ、多少はマシなんでしょうか。ちょっと悲しくなってきた。
中井出「よっしゃ、じゃあいきますか。雪蓮、殺しはご法度だからね?」
雪蓮 「解ってる解ってるー♪」
中井出「恋、あくまでその武器で戦うんだぞ?」
恋 「《こくり》……ご主人様の言うこと、恋……守る」
中井出「ご主人様言うなっつーとるのに……」
詠 「ちょっとあんた、今回はボクに指揮を取らせる約束でしょ?
忘れたわけじゃないわよね」
中井出「うむ。ただしねねっ子と一緒ってのが条件ね」
音々音「ねねっ子言うなです」
恋が駆る馬に一緒に乗っているのは詠ちゃんと音々音。
我が家の軍師さまは優秀だから、戦局のことで深い心配はしていない。
なので思う存分戦というものを見てもらいましょう。この、なんだかツヤツヤしてテラ光りした服を着たお子に。
中井出「いざいざいざぁっ!! 五胡だか二胡だかタコだか知らんが、
我らの地(勝手に決定)に突撃を始めたことを前悔させてやるぁあーーーっ!!」
一刀 「前悔!? あ、ああ……前に悔いるって意味───って無理だろそれ!」
中井出「言うだけならタダさ!」
一刀 「つかこんな子供たちに戦をさせる気か!? 無茶だろ!」
中井出「ならば戦いもせず殺されろと!? バカモン! そんなものは生きるのと違う!
戦ってのはなぁ! 武器を手に戦う意思を持ったなら、
そこに老若男女なんて関係ない世界のことを言うんじゃい!!
キミはそんな場所に匿ってもらいにきた! その事実をしっかり受け止めい!」
一刀 「うっ……ぐ……!」
言葉に詰まった一刀くんにウムスと頷き、馬を走らせるッッ!!
詠ちゃんに策はございますかと問えば、華雄さんが「我が武に策など要らず!」と叫ぶ始末。なんだか雪蓮も恋も同じ気持ちらしく、月を置いて出てきてしまった詠ちゃんは少し後悔しているようでした。
中井出「詠ちゃんごめん、兵たちの指揮を任せていい?」
詠 「詠ちゃん言うな! 〜〜っ……けど、解ったわよ。
どうせ将の連中はボクの言うことなんて聞きやしないし」
中井出「うす。では」
さらにさらにと加速する。
北西より来たる五胡を迎え撃つため、全勢力(デマ)を以って突撃!
えー、なぜデマかというと、城の留守を狙って総攻撃されたら“打つ手無しじゃわい!”になるからです。
なので月と数人の兵士に残ってもらっております。
他国の突撃を確認したら、慌てて戻りましょう作戦です。
ええもちろん、奪われたら全力で奪い返すだけでございますが。
中井出「あれ? でも涼州っつーたら馬騰さんの領地とかじゃなかったっけ?
よく知らんけど」
詠 「桃香たちが長坂を抜けて逃げ延びたあたりで、涼州は曹操に潰されてたそうよ。
馬騰は死んで、馬超とその仲間は桃香と合流して逃げ延びたって」
中井出「なんとまあ……マジすか」
詠 「ていうかあんた遊びに行くことあるんだから、それくらい知っておきなさいよ」
中井出「ソ、ソーリー」
だって僕、自分のことで手一杯なのですもの。
街に人も増えてきたし、ならばと頑張るのは当然でせう?
でも考えてみりゃあ秋蘭が定軍山で黄忠殿に襲われるってこと自体、随分先に進んだ話だ。そりゃあ涼州も潰されるってもんですね。
で、その涼州が華琳ではなく五胡に奪われてしまったと? ちと違うか?
元々馬騰がそっち側の血を持ってたんだっけ? 確か混血がどうとか聞いた覚えがあるようなないような。
まあいいや、解らんことは解らんことで。
今はともかく、降りかかる火の粉を払い落としてブチノメすだけである!
秋蘭 「む───敵影を確認した」
中井出「マジですか!? すげぇ目してますね秋蘭さん!」
僕もとピエロアイーン(イーグルアイ)で見てみると、確かにおるわおるわの敵影!
その数───10万はくだらん! って居すぎだろオイ!!
1000にも満たない人数の国(?)を潰すのに何人がかりっすか!?
秋蘭 「少なく見ても5万以上……勝負にならんぞこれは……」
中井出「ぬう……ぬ? あれか? 一刀くんが言ってた白装束って」
一刀 「ここから見えるのか!? どんな視力してるんだよ……!」
果てしない平原と、その横を流れる大きな川。その先からやってくるは、モンハンのボーン装備一式を身に纏ったようなやつらと、白装束に身を包んだ者たち。
どっかの宗教団体だって言われたらあっさり信じちゃいそうな服だ。
中井出「秋蘭、あげな服、僕この世界で初めて見る気がする」
秋蘭 「うむ。私もあんな服は見たことが───“この世界では”?」
中井出「うす。僕の居た世界ではまあありそうだ」
一刀 「? あんたの居た世界って?」
中井出「僕……HIKIKOMORIだったんだ……」
一刀 「世界ってその世界か!?」
まあウソですが。
しかしなにが目的であんな格好してるんだあいつら。
や、相手が何者であろうがやるっていうなら潰すだけでござんすが。
中井出「さ、さあ詠ちゃん! 僕はどうしたらいい!?」
詠 「詠ちゃん言うのをやめなさい」
中井出「それはだめ」
詠 「打つ手無しだわ……」
中井出「それだけで!?」
涼州領地を前に、立ち往生。
さすがになんの準備も無しにあの軍勢に飛び込むのは自殺行為だ。
むしろ突っ込みたくはあるが、今回は兵たちに経験を積ませるため……だったのに。
それが何故こんな軍勢相手に……!
雪蓮 「これ、実戦訓練どころじゃ無いわよねー……」
中井出「そうね……ほんと、どうしましょ」
依然、敵さんはこちらへ向かい動いている。
地平線が動いてますよってものを見るのは初めてじゃないが、黒の軍勢と戦うよりはよっぽどマシだと断言出来る。もちろん、そんなもんは僕の勝手な思想で、みんなにとっちゃあ厄介なのは変わらない。
中井出「僕らの国の兵って何人?」
音々音「500です」
中井出「………」
こちらの兵は確かに強化兵って言っても過言じゃございません。
ございませんが、初めての実戦が一桁倍数で済まない数を相手にってのはひどすぎる。
逆に恐怖を植えつけることになって、よしんば圧倒できたとしても余計な自信をつけることになる。それは大変よろしくない。
中井出「戦大好きの華雄さん、あの軍勢を前にどうしますか?」
華雄 「………」
訊ねてみると返答なし。さすがに呆然としてらっしゃった。
ならばと視線を雪蓮に向けてみれば、にっこり笑って返答。
雪蓮 「どちらにしろあの軍勢が城に向かってるなら、戦うしかないでしょ?
博光が参加してくれるなら、心配なんてする必要もないんだけど」
中井出「うーむ……そりゃ、桃香や華琳と関係のないところならいっそとは思うけど」
そもそもあの白装束が気になりすぎる。
一刀くんを狙ってるっつーけど、このお子がいったいなにをしたのかという話だ。
もしやさるお国の王子様!?
中井出「あのさ、一刀くん? 貴様ってどっかのお偉いさんだったりするの?
だからこうして命狙われてるとか。
それともどっかの誰かみたいに“俺は魔王だー”とか言っちゃったとか」
一刀 「いや、だから解らないんだって。気がついたらこの時代に居て、
英雄がみんな女で、なんとか生きながらえてたらいきなり殺すとかどうとか」
中井出「なるほど解った!」
一刀 「なっ……ほんとか!? つか、本人にも解らないのに今の説明で解るのか!?」
中井出「ああ解ったね……きっと彼ら嫉妬してるのよ。このイケメンがァァァァ! って」
一刀 「…………真面目に聞こうとした俺が馬鹿だった」
中井出「わはははは馬鹿め! 馬鹿め!!」
一刀 「くっは……腹立つなぁこの!!」
うん、結局解らん。
だからいいじゃない? とりあえずは女にモテそうなフェイスしているってことで。
中井出「で、これからどうするかだけど……一刀くん、死にたい?」
一刀 「死にっ……死にたいわけあるかっ!」
中井出「そだよね。よし、んじゃあ抗おうか。一刀くんが死ねばそれで済む話だが、
だからといって貴様が死ななければいけない理由を僕は何も知りません。
んで───」
恋 「……殺すなら、殺される覚悟もするべき」
中井出「その通りアマス。というわけで雪蓮、秋蘭、華雄、恋。
存分に武を見せ付けてくれましょう。
兵のみんなは詠ちゃんとねねと一刀くんをとことん護衛すること。
まずは敵の動きに慣れましょうね? 反撃は心に余裕が出来たらにすること」
兵1 「あ、あっしらに、それが出来るでしょうか……」
中井出「鍛錬の日々を思い出しなさい。
防具だってそう簡単に壊れるようなもんじゃあございません。
相手が子供だと踏んだ相手に目にもの見せちゃれ。
もっとも、相手が子供だろうと敵は敵って判断する“戦人”が相手だった場合、
相当な覚悟が必要になるから……それはこちらも覚悟しておくこと」
雪蓮 「私たちは?」
中井出「もちろん、と・つ・げ・きY」
秋蘭 「へ、兵無しでか?」
中井出「押忍!!」
無茶も苦茶も当然。
500対10万って時点で解りきったことぞ!
ならば将が一騎当二万を発揮するしかあるまい!
中井出「大丈夫大丈夫、絶対やれる! やれる気持ちの問題だ絶対にいける!」
秋蘭 「根拠はあるのか?」
中井出「え? ない」
秋蘭 「………」
雪蓮 「あははっ、博光にそういうの求めるだけ無駄よ。
でも、勝てるって言うなら勝てるでしょ」
中井出「うむ! 突撃して戦って勝つ! それだけである!」
華雄 「おお……なんと解りやすい作戦だ……! 勝つのは当然だな!」
恋 「《こくり》……当然」
秋蘭 「……姉者ならば喜んだのだろうなぁ」
額に指の何本かを添えて、疲れた表情の淵さんが印象的でした。
なるほど、苦労人の素質を持っていそうです。
とまあそれはそれとして、そろそろ突撃かけないとこちらを丸々囲まれてしまいそうだ。
OK?と目配せしてみれば、皆様は既に突撃体勢。
ならばなにを臆することがございましょう───突撃をかけるのならば今!!
中井出「うっしゃあでは参ろう! 敵は五胡!
あ、兵のみんな、怖くなったら逃げて構わんからねー!?
でも逃げる時には絶対に軍師と一刀くんを守ること! でなければひどいぞ!」
一刀 「いじめっこみたいな締め方だなおい!」
中井出「ほっほっほ! 戦終わったら訊きたいことあるから、しっかり生き残れよー!
んじゃあいきますよみなさん!」
総員 『応っ!!』
作戦など決めず、各々が動きやすいように動くこと。
我が国ではそれだけが第一。
仲間を大事にし、それが出来ないやつが大事にされる理由はないのだから知ったことではございませんって国だ。
ならばこそ己の武を思う存分に披露し、打ち勝つことこそ最大の防御!
中井出「城を攻め落とすというなら、一応王扱いな俺としても黙ってられぬ!
いや、一刀くん始末したいだけなんだろうけどさ、
なんか差し出すのも癪だから貴様らブチノメーション!
いっくぜぇジークフリード! ウェイクアァーーーーーーップ!!」
カリユガンホースで走る中、ジークフリードを両手で構え、ウェイクアップを発動。
すると、ロマサガ3で小剣が大剣に変わる奇跡を見せるが如く、巨大長剣がさらに巨大になる。その状態で加速を続け、一番に五胡の軍勢に突っ込むや思う様に振るう!
中井出「ウェーーーッハッハッハッハ!! 大暴れ、将軍!!」
そこに技術なんてものはございません。
ただ自分が攻撃されないように、近寄った敵をとことん斬りつけるだけ。
馬から下りてハンマー投げの要領で振り回すだけでもよさそうなもんだが、な、なんかこう、ほら、馬上攻撃ってちょっとだけ格好いいじゃない? だから《ドボォ!!》
中井出「ギャアーーーーッ!!《ドシャーーーム!!》」
格好よさに気を取られた隙を突かれ、槍で叩き落とされました。
刹那に始まる集団リンチ! この距離だと逆に巨大剣が不利を呼び込みやがった。
ならばとジークフリードを霊章に戻し、代わりにファフニールとドンナーに変える。
中井出「死にはしないがとっても痛いからお覚悟を!」
むしろこっちも痛い! VITは相手に合わせて減らしてあるから滅茶苦茶痛い!
ただ致命傷になる部分は防具で固めてあるから、死ぬことは早々ないが……
中井出「ライオットォオオーーーーーッ!! スタンプッ!!」
振り上げた具足に雷が篭り、それで地面をどっかーんと踏みしめると地雷震が発生。
周囲に居た五胡兵は地面に弾かれるように宙に吹き飛び、どしゃどしゃと地面に落下してゆく。
中井出「こんなときになんだけど、
ライオットって聞いてギルティギア思い出す人ってどんくらい居るんだろ」
俺はギルティギアっつーよりはLUNARシルバースターストーリーの雷魔法かなぁ。
このライオットスタンプだって、ライオットを足に込めてスタンプするってだけだし。
中井出「では再び参る! って、お、おわーーーーっ!!」
ハッと見た景色……宙に待った五胡兵が地面に落ちきった景色の先で、いななきを上げながら暴れ回るカリユガンホースを発見。
司令塔というか、命令する主人を失ったクロスケさんは実に暴れたい放題だった。
中井出「い、いかーーーん!! 殺しは、殺しはいか───はうあ!」
いや待て! こいつらは一刀くん……つーかかずピーでいいねもう。
かずピーを殺しにきておるのだ! しかもなんだかよく解らん理由で!
ならばいっそボコボコにされるべきでは!? と今更なことを言ってみる。
見渡してみれば、地雷震&地面への落下でピクピクと痙攣している五胡兵。
中井出「まあ、飛び込む前に確認したしね」
恋が言ったことだ。殺す覚悟と殺される覚悟。
そんなものを持たんで戦場に立って、攻撃されたことに文句を上げる馬鹿が居るか。
戦場に差別など必要に非ず! ならば! 国を滅ぼそうと相手が突出する=滅ぼされる覚悟アリと受け取ろう! だったら躊躇もなんにもいらぬ! 仲間さえ踏みながら、まるで人形のように突撃する五胡兵を改めて睨むと、ファフニールに包まれた拳をギウウと握り締めた。
中井出「轢ィイイきィイイ逃ィイイげぇえええっ……!!」
強く握りこまれた篭手が熱を持ち、空気上の塵を燃やし、それを火種に篭手自身が燃え盛る。だがさらにさらにと握り締めると、火は炎に、業火に段階を経て変わり、その頃には目前へと迫っていた敵さんへと、
中井出「ボッカ・ズッパァアアーーーーーッ!!!」
烈風脚で地面を蹴っての轢き逃げナックル!!
一歩で進める距離の限界までを拳で一気に潜り抜け、その距離に居た兵の全てを吹き飛ばした。ノーマルシャインナックルみたいなもんだね、うん。ただし敵さんは宙に吹き飛ばされて「ほぎゃーーーっ!」って叫んで落ちてるけど。
白装束「殺す……殺す」
白装束「北郷一刀こそ災いの権化……」
白装束「それを庇うものは災いの遣いなり……」
中井出「ゲェこたえてねぇ! 痛覚無いのかこいつら!」
なんということでしょう! 地面に叩きつけられたってのにこいつら全然平気で起き上がってきてる! こ、これは異常! “覇王伝説 驍”で冥鬼が使ってた痛覚無視の薬でも使ってるの!?
な、ならば“それが私の天命!”とばかりに斬ってやらねば! とか思ってたら、視界の隅で五胡兵が空を飛ぶ。
中井出「ホワッ!? な、なに!?」
既に10万の軍勢に飲まれた僕ら。
兵や詠ちゃんたちは上手く離れていてくれるだろうが、だとしたら───
華雄 「無事か! 城主よ!」
中井出「かっ……華雄さぁああアアアアーーーーん!!」
金剛仁王爆砕斧をゴフォォゥンと振るい参上したのはなんと華雄さん!
金剛爆斧よりも軽く、しかし大きな吹き飛ばしウェポンを装備した彼女は、不敵な笑みで悠然と歩いてきた! き、来た! メイン斧来た! これでかつる!
中井出「てゆゥかえぇええーーーーーっ!!? あ、あの華雄さん!?
僕出来るだけ敵の数を分断させるために、左側に突っ込んだんですが!?
それが何故あなたまで左側に!?」
華雄 「敵の数が多い方へと突き進む! それが武の証明だろう!!《どーーーん!》」
中井出「うわーーいこの人春蘭みたぁーーーい!!」
そして喋り途中に襲い掛かってきた相手を、振り向きもせずに斧で払って吹き飛ばした!
すげぇこの人! 何気に武力がハンパじゃないよ! ぶ、武力90〜92だっけ? それだけあれば並みの兵力は敵うまいよ!
統率力こそ多少低いものの、武力だけならば相当! 雪蓮とどっこいくらいでしょうに!
中井出「………OH」
閃いてしまった。
しまったので、悠然と歩いてきた華雄さんにアイテムを。
華雄 「? なんだこれは」
中井出「ジェットブーツとフィートシンボルを融合させた指輪です。つけてみてください」
華雄 「…………?」
よく解ってないようだけど、しっかりと嵌めてくれた。
何故か左手薬指だったが、無意識でしょう。
華雄 「これでいいのか?」
中井出「おっけーざますー! では早速潰しましょう!
我らが武、今こそ天下に見せつける時!」
華雄 「ふははははは! 我が武を以ってお前を天下の頂に導いてくれようぞ!」
中井出「応さ! さあ───!」
華雄 「臆さぬならば───!」
『かかってこい!』───叫び、一気に駆けた。
当然、ジェットブーツの効果で華雄の行動速度は上昇、攻撃力はフィートシンボルによって強化された状態だ。一歩のキレも振るう斧の速度や威力も、先ほどとはまったくの別物。
それを受け止めた五胡兵どもが横薙ぎに吹き飛ばされる光景は、見ていてとても気持ちがよかった。
華雄「お、おおお……!? これは……!」
武力が90〜92なら、何かを足して100にしてしまいましょう作戦。
今の華雄さんに、敵などあまりおろうはずもござりませぬ!
まあもっとも───景色のさらに遠くで、暴風領域を腕一本で繰り出している奉先さんには敵いませんが。素であれなんだもんなぁ……武力100は伊達じゃあねぇや。
アクセラレーターさん理論だね。測定限界が100だから100なだけで、本来は150以上あるんじゃなかろうか……ああいや、この世界の奉先さんなら200とか軽く超えそうだよ。
中井出「ブラーバブラーバ!
その調子です華雄さん! 今のあなたに敵はあんまり居ない!」
華雄 「……おおっ! そうだとも!
ようやく……ようやく我が武を疑うことなく受け入れてくれる主に会えたのだ!
ならば我が武は貴公にこそ捧げよう! うぅぉおおおおおおおっ!!!!」
華雄さんの目に闘志が宿る! もっと熱くなれよぉおおとばかりに宿る!
そうなるともはや止まらず、地を蹴り人を薙ぎ、敵の攻撃を武器ごと破壊し吹き飛ばし、倒れた相手は石突部分でゴルフのようにゴヴァアと殴り飛ばし、相手が動けなくなるまで執拗に攻撃を続けた! うむ! 戦場ではそれが正しい! 誰だってそうする! 俺だってそうする!
中井出「武力最強!」
華雄 「武こそが我が道!」
中井出「我道即ち!」
華雄 「破壊力!!」
中井出「なんか心も体も熱くなってきた! いこう華雄さん!
今なら10万の兵もやっつけられる気がする!」
華雄 「ふははははは無論だぁああ!!」
もはや立ち止まることをせずに突っ込んだ。双剣を出現させて、キャリバーを発動させて身体能力を向上させてからはもっと無鉄砲に。
それは華雄も同じで、むしろ速度が上がることで敵に攻撃させる隙を悉く殺し、大きな斧を思う様振り回し、吹き飛ばしまくっていた。
雪蓮 「うわ〜……華雄ってあんなに強かったの?」
中井出「おや雪蓮。楽しんでる?」
雪蓮 「楽しむもなにも。
戦いっていうか、人形相手にしてるみたいで歯ごたえも緊張感もないわよ。
向かってくるのを叩いて倒すって、それだけ。
殺気もなにもないんだもの、楽しめたもんじゃないわ」
中井出「あ……やっぱり?」
五胡兵はどうにもおかしい。
数は居るものの、人形みたいに命令だけをこなしてるって、そんな様相だ。
ただ、それは兵だけであり、白装束はまだ意思を以って行動している感がある。
なのでそこいらに転がっている白装束を引きずり起こし、ビンタを数発くらわせて目を合わせた。
白装束「う、ぐ……き、貴様らは……なにゆえに邪魔をする……」
中井出「貴様らが我らが城目指して突撃してきたから」
白装束「おろかな……北郷一刀を差し出せば、戦う理由などなかったというのに……」
中井出「そうか。じゃあ……えーと」
白装束を掴んだままに能力を解放。
リネームで白装束の名前を北郷一刀にすると、「はい」と笑顔で。
北郷一刀「……貴様は我らの敵だ……!」
中井出 「あれぇ!?」
そしたら敵として認定されてしまった!
ホワイ何故!? せっかく人が珍しく親切したっていうのに!
あ、“してやった”じゃないのがポイントです。
押し付けで勝手に感謝されると期待するのはアホゥなことですよ?
中井出 「フン!」
北郷一刀「《ゴキンッ!》うきっ!?」
というわけでこいつを帰すわけにはいかなくなりました。
首をゴキリと捻ってやるとゴシャアと倒れる姿にホッと一息、名前もきちんと元通りにして駆け出します。うん、俺は何もやらなかったし見なかった。
ただしあとでいろいろ訊くために、捕虜として捕らえておきましょう。
それ以外はヘルユー。
秋蘭 「……やれやれ、骨が折れる……!」
中井出「おや秋蘭。あれ? さっきまでそこに居た雪蓮さんは?」
秋蘭 「お前が敵として認識された途端、敵が殺気を向けてきてな。
それに体を震わせたかと思えばそれ、あそこだ」
中井出「む? ……ぬおお」
促されるままに見てみれば、五胡兵が一箇所に向けて突撃をしまくっている。
しかしその中心では誰かさんが大暴れしているのか、五胡兵が飛ぶ飛ぶ。
聞こえてくる声は……ああ、なんかもうすぐ解った。だって、戦いを心から愛してやまないって声で笑ってるんですもの。
一瞬見えた子供姿の桃色ヘヤーが印象的でした。顔は狂気に歪んでましたけど。
中井出「暴れれば暴れるだけ囲まれるって解っててやってんだろうね。
現に僕のところ、あまり来ないし」
秋蘭 「まあ、それも他の者が注意をむけているからとも言うが───なっ!」
中井出「おお的中。お美事にございまする」
こちらをゆらりと睨み、駆けて来た五胡兵が額を射抜かれて吹き飛ぶ。
額に当たったのに突き刺さらずに吹き飛ばすだけって、なんだか新鮮。
秋蘭 「この数相手では一日かかっても終わらんぞ。どうする」
中井出「……ん。無鉄砲に突っ込むとこれだからね……。
ほんと計画性がない王さまもどきでごめんなさい。華琳ならどうするだろ」
秋蘭 「ふむ。そもそも10万相手に突出するより先に、策を練るな」
中井出「よし手遅れだ。俺達らしく行こう」
秋蘭 「うむ、了解した」
俺の言葉に目を伏せ、ふっと笑う小さな青のお子。
この人数を前に余裕ですなと言ってみれば、姉者で慣れていると返された。
なるほど、あの方ならば頷ける。妹のさだめですな。
中井出「んじゃ、一人あたり2万担当で」
秋蘭 「軽く言ってくれるな……善処しよう。ただし、己の命を優先するが、構わないか」
中井出「そうじゃなきゃ怒ります。ヤバくなったら逃げましょう」
秋蘭 「国の名に傷がつくが?」
中井出「名前で命が救えますかっての。
自国の者の命をゴミのように捨てる王なんて最初から望んでおりません。
他国のことなら知り合い以外は基本どうでもいいけど」
にこりと笑ってチャクラムを召還。
そこから全刃武器をゴギャァンと突き出し、超速回転させる。
鎌鼬が発生して、さらにそこに火の粉がくっついて飛び散りまくって、付着と同時にギガボマーが発生して大爆発を起こしておりますが知りません。
アッハッハッハァ、三国の問題に五胡なんて知らん場所が首突っ込むなんて場違いもいいところだドチクショウガァアアアアア!!
中井出「華雄〜! 雪蓮〜! 恋〜! ……俺も混ぜろォオオオオオッ!!」
烈風脚でレッツゴー。
ブレードチャクラムを回転させたまま突き出し、ガードしようとした武器ごと捻り穿つように吹き飛ばす! あ、でも切り刻まれて爆発してゴシャーンと落下したらさすがに死ぬ? いや、なんかもういいや。殺気は感じるものの、こいつらからはなんか生命っぽいものを感じないし。
中井出「エンゼルチャクラム♪《テコーン♪》ドォオオゥリェェエッ!!」
チャクラムを投げる。
轟音を立てて空気を切り刻みながら音速でカッ飛ぶ刃の円盤が、みっしりと存在する五胡兵を切り刻み爆裂させ吹き飛ばしながら宙をゆく。
そこに遠隔でウェイクアップを付加させれば、再び巨大な武器の完成である。
……うん、景色が爆発しまくってます。見るも無残です。
中井出「閃光弓・熾天!! 鳴り響け、俺のメロス!!」
チャクラムが遠くの敵を薙ぎ払い爆発させまくる景色を眺めつつ、備えるのは先輩殿の弓と覇王のメロス。
それをキリリと轢き絞るとイメージを増幅させてから解放!
中井出「風のように疾きて撃つ也! 弓術奥義・疾風()!!」
一本の矢を数十本に分裂、発射することで正面に居る敵を射抜きまくる。
しかし後方まではカバーできず、後ろから狙ってきた兵に蹴りをかまし、そのまま体を踏み台に宙へと舞い、
中井出「鷹のように舞いて撃つ也! 弓術奥義・鷲羽()!!」
眼下の敵に向けて放つ矢がマナを纏い、鷹の姿になるや曲線を描き、群がる敵を吹き飛ばしてゆく。敵が居なくなった大地に下りると次の矢を番える。
中井出「鬼のように怒して撃つ也! 弓術奥義・大牙! ───おぉおりゃぁああっ!!」
番えた矢にメロスという名のマナを込め、溜めて溜めて溜めまくって巨大化させる。
それをゴヴァァンと放つと、正面に居た敵の全てが景色の果てへと吹き飛んでいった。それでも2万を討つにはちっとも足りず、それどころかどんどんと増えていっているような……!?
中井出「ッチィ! なんか妙ぞ!《ゴシャンッ!!》」
それを確認すると同時に手元に戻ってきたチャクラムをゴシャンと受け止めると、長剣に戻して弓を収納する。代わりに長剣であるジークフリードに伎装弓術をかけ、紅蓮蒼碧の巨大剛弓へと変換。
そこに竜槍ゲイボルグを番え、イメージを込めて引き絞る。
中井出「次はきちんと命を持って産まれてきなさいね。───屠竜!!
ぶぅううち抜けェえええええーーーーーーーーっ!!!」
番えた緋槍を放すと、真っ直ぐに飛んだそれは一人の男の心臓を貫いた。
だがそれだけでは終わらず、その後ろの兵も、その後ろの兵の心臓も貫き、貫く度に三十もの鏃を放ち、離れた場所に居る兵の心臓へと舞い降りる。
だってのにそんな光景を目にしたところで、敵兵は馬鹿みたいにこちらの命を狙いに進むだけ。やっぱり操り人形だねこいつら。しかも命がない。
構造上は人間なんだろうし、心臓を穿たれれば死んだ。
しかし仲間の死を見ても止まることなく、半身に焼けどを負おうが無視とくれば、普通じゃないのは明白だ。───攻撃を仕掛けるたび、そんな相手を見るたびに遠慮の文字を潰して、さらにさらにと攻撃を重ねる。
中井出「射刃鎧装()・ジェネロウ!!
これぞ剣を弾丸として発射する奥義ヤマアラシ! 一斉掃射ァアーーーーッ!!」
遠慮なぞ知らぬ! 霊章からジェネロウを召喚するや、その巨大な鎧に収納された無数の剣を弾丸として発射! 群がる敵を容赦無く串刺しにしてからイメージ解放! 影で繋いだその剣を変化の指輪の能力で爆弾に変換、指をパチンとカッコよく鳴らして《コシュッ》…………い、いいんだもん! 指なんて鳴らせなくたっていいんだもん! なんだよもう!! 指パッチンなんて嫌いだバカッ! で、でもいつか鳴らしてやるんだからねっ!?《ポッ》
と無駄にツンデレ怒りをしているうちに大爆発を起こす剣。
当然、串刺しになっていた兵やその周りに居たやつらは仲良く消滅。
なのにまだごっちゃりと居る敵さん……いや、ごめん、正直甘く見てました。
これは疲れるわ……。
雪蓮「あははははは!! あはははははは!! いいわよいいわよ〜博光〜〜〜っ!!
もっと派手にやって派手に! 心が躍るわっ! あはははははは!!」
華雄「どれだけの数で来ようが貴様ら雑兵なぞに討たれるこの華雄か!!」
恋 「……弱い。つまらない」
秋蘭「……ふむ。確かに数ばかりで歯ごたえを感じないな」
なのに他の四人は結構楽しそうでした。恋は退屈そうだったけど。
殺気はあるんだ。あるだけど、実力が追いついてない。
一言で言うと四人が強すぎるんです。
……そうだよね。なんかこの世界の将って、兵とか居なくても十分強いよね。
中井出「え、えーと……歯応えがないからもういいって人、挙手〜……」
四人 『………』
はい、とっても正直な四人でした。
い、いや、この世界の将の強さがどうかしてるんだって!
じゃなきゃこんな、一人一人から殺気を浴びせられてるのに全員挙手なんて!
中井出「……はぁ。じゃあ、いいからとりあえずマントルの中に入ってて。
こいつら始末するから」
恋 「……? できる?」
中井出「30秒あれば、多分」
雪蓮 「見てていい?」
中井出「巻き込まれて死にますよ?」
雪蓮 「……中に入ってるわ」
中井出「そうしなされ」
マントルを翻し、皆様を霊章内に転送。
あとは……この、相も変わらず増え続けて、こちらへと亡者のように寄ってくる敵さんを始末するだけでごわす。
中井出「まずは真龍鞘ランドグリーズにジークフリードを納めまして、背負います」
次いで、巨大な鞘なランドグリーズからノームの精霊武器を一本拝借して、はい“走震流檄”()。振り回してから地面に突き刺すと、前方へと地面が爆ぜるほどの地震が走ってゆく。次いで白を解放しながら檄をゲオちゃんに戻すと、光になってその地震の先までを一気に駆け───地震とともに吹き飛んでくる兵の軍勢を前にするまで追い抜くと、指に光を込めて四点を描く!
中井出「虚空に描くは四点の軌跡〜♪
───魔導万象四式! クアドナルラインゲート!!」
ランドグリーズとジークフリードに全ての武具を融合させてあるから、武具を使った攻撃は出来ません。なので意思から引き出す能力のみで、チャージが終わるまでをカヴァー!
式を解放するや両手に集合する風のマナを使い、まず右手で右から左へと手を振るって暴風を発生、景色を埋める兵の郡を中心に吹き飛ばし、次いで左手で左から右へと空を掻いて左側の兵の群れをやはり中心に! ゴシャグシャと勢いよく兵が衝突して嫌な音を立てますが、これくらいでまいってくれりゃあ苦労はしない。
しかしこれで随分と中心に寄ってくれた。これで十分だろう。
中井出「そんじゃあ……こほん。ゲオルギアス、解放!!」
ランドグリーズという名の巨大な鞘にジークフリードを納めておくことで、特殊能力ゲオルギアスを解放───ジークフリードに滅竜の力と全武具の能力を蓄積。それを解放すると同時に鞘自身もジークフリードに融合。
防御を捨てて力のみに特化したこの一撃、耐えられるものなら耐えてみせい!
ちなみにサウザンドドラゴンはこれで死んだ! でもやるのは灼紅蒼藍剣にあらず!
中井出「全武具能力解放───ダンシングソード!!」
ウェイクアップ能力で巨大になったジークフリード。
その状態で解放される霧氷剣やムーランルージュやスターストリーム。
アトリビュートキャリバーとは違い、全ての属性をゲオルギアスで解放されたジークフリードは金色の輝きを纏い、構えているだけでもマナの暴風を放っている。
それをゆっくりと脱力しながら構えて、疾風、烈風、白、インスタントブースター、様々な加速要素を解放した上でにこりと笑って小さく唱える。たった一言だ。それで終わる。
中井出「───エースインザフォール」
フィキィンッ───…………
…………。
静かに風が吹いた。
音は、剣を振るった時に鳴った綺麗な音だけ。
だというのに景色は開け、振るう前に閉じていた目を開いた先には、変わらずにこちらへと向かう五胡兵の群れが存在するだけだった。仲間だというのに隣に居る相手を居ないものとして認識、ただ進んで俺を殺そうとするだけ。
そんな光景を静寂の中で見つめ───ふぅ、と息を吐くと、遅れたように高鳴る轟音。
ようやく追いついた衝撃が景色を破壊し、歩いていた兵を、まるで音で破壊するように塵より微塵に砕いてみせた。
あとに残ったのは、攻撃範囲外からこちらへと向かおうとする兵のみ。彼らが見る景色の、俺が立つ位置までの景色には、兵が居た痕跡はもちろん、血液さえも残っていなかった。
中井出「…………エ、エト……」
そんな一撃の威力に、振るった僕こそが驚いていた。
……強ッ!! 岡田くん強ッッ!!
あいつこんな能力普通に使ってたのかよ! 怖すぎるだろ早撃ち!!
中井出「ア、アワワ……! 大地が抉れてしまった……! 剣閃だけでこれって……!
じゅ、10万の半数以上もの兵が……あの軍勢が一発って……!」
あ、悪夢よ! 悪夢だわ!
自分でやっておいてなんだけどひでぇよこれ!
いいいいくら透粒粉塵も使ったからって、骨も……血液すらも残らんとは……!
中井出「え、えーと……ごめんなさい淵さん……いきなり人殺しちゃったよ俺……」
秋蘭 「いや。人の気配は感じなかったが」
装備を全て元に戻し、マントルを装着。そこから顔を出させた淵さんに素直に謝った。
淵さんは否定するが、そういう問題でもないような……。
雪蓮 「ふえぇえ〜……すっごいわねー……。あれだけの数を一撃だなんて」
中井出「うん……どうせならレイジングロアか業魔灰燼剣やればよかったかなと。
それなら残らず屠れたかもなのに」
華雄 「よく解らんが、手段の問題なのか?」
中井出「違うと思う」
どうしましょう。
マナはまだまだ充実してるから、向かってくる敵もさっさと始末出来るんだが───ってあれ!?
中井出「……見た?」
雪蓮 「ちょっと、なにあれ。白装束がぽんぽん出てきて……え、えぇ!?」
恋 「……? ご主人さまと同じ力……?」
中井出「なんと!? こ、この博光以外にも召喚能力を持つ者が!?
つーか俺の能力、召喚っていうか霊章内のもの出してるだけなんですけど?」
いやそんなことはどうでもいい。
原理はどうあれ、これで相手に人間って感じの何かを感じない理由が解ったような解らんような! 一言で言うならこいつら人間じゃねぇえーーーーっ!!
中井出「敵にネクロマンサーでも居るの!?
ハッ! 三国志で妖術的なものといえば張角とか!?」
“これぞ奇跡〜! あ、そ〜れそ〜れ!”とか言いながら杖から炎出すの!
いや落ち着け! これ妖術とかそういうので片付けていいのか!?
白装束「北郷一刀を殺せ……! 北郷一刀こそが悪……!」
中井出「ばかもん! 悪的悪を為さぬ者を悪と呼ぶとは恥を知れ!
さらに言えば相手を悪と呼ぶヤツにろくなヤツぁ居ねぇんだよ!!
俺の人生経験の全てをかけて言ってやる! 俺こそが悪よ!!」
胸に手を当てて大声で叫んでみた!
そしたらマントの中のみんなも含め、視界に映る敵までもが沈黙した。
そんな静けさの中でチャキリとジークフリードを突き出して構え、
中井出「《にこり》レェエエイジングロアァアーーーーーーーーッ!!!」
ギガァアアッチュゥウウウン!!と例の轟音を立てて、巨大な波動砲が放たれる。
それは突然出現した白装束もろとも、残りの五胡兵や白装束を巻き込み、聳え立つ山の一つを丸々破壊してぇええってストップストップ!
中井出「っ……消えろぉおおおおっ!!!」
向かう先に絶氷の膜を展開! 山に届く前になんとか塞き止めて、膜で閉じ込めたそれをアモルファスで飲み込む!! …………黒を消した先の景色には、抉れた地面と……大きな山がきちんと存在していた。
中井出「………………はぁああ……」
なんとか、山を消し飛ばす前に極光を消すことに成功。
大地はえぐれたものの、山々におわす生物を滅ぼさずに済みました。
……ただ、霊章内のエーテルアロワノンの一部にそれが解き放たれ、日光浴をしていた永田くんが消し炭になったというお知らせが武具を通して届きました。
いや……なんつーか……ごめん。
中井出「……ふむ。復活する様子は無し、と。
なんだったんだろね、あの突然出現する白装束さんは」
秋蘭 「うむ……それは、あの北郷一刀という男に訊いたほうが解るかもしれないな」
中井出「そか」
頷いてから歩き出す……前に、マナと癒しを解放。
抉れた自然に流し、崩れた部分を復活させた。
自然は大切にしませんとね。
中井出「じゃ、戻りますか」
雪蓮 「? このまま五胡を潰したりとかは?」
中井出「しません。得体が知れないにもほどがあるでしょ。
それに目的がかずピーだとするなら、
しかも好き勝手にぽんぽんと兵を出現させることが出来るなら、
兵たちのことが心配だ」
雪蓮 「あ───そっか。でも大丈夫だと思うわよ?」
中井出「ホエ? なんか策でも?」
雪蓮 「んーん、ただの勘」
中井出「…………そか。そりゃ、安心だ」
安堵の溜め息をひとつ、戻ってきたカリユガンホースを霊章に戻しながら歩き出す。
マントも収納して、一人でてこてこと。
中井出「───」
……あら。
音も立てずに後方に誰かが“いきなり”出現した。
気づかないフリして歩いてるけど、花たちが教えてくれてる。
結構長身。白と黒と緑の三色に分かれた色の服を着た男。
眼鏡をかけていて、額には妙な紋章がある。
くすくすと笑って、俺に向けて手を突き出して───
中井出「《ドクンッ!!》っ……!? がっ……あがっ……!?」
───花達が教えてくれたのはそこまで。
その途端、体が跳ねるくらいの衝撃が俺を襲い、立っていられなくなるほどの眩暈が俺を襲う。
声 「やれやれ、手間をかけさせてくれますね。貴方が何者かは知りませんが……
あれほどの力をこのまま戻すのは勿体が無いというもの」
聞こえる声は楽しげだ。
そんな声が聞こえるたびに、自分の意思とは関係なく脳がヤツの言葉を正しいものとして受け入れようとする。
な、なんだこりゃ……洗脳か……!?
まっ───まずいぞそれ……! まずいぞそれだけは……!
他のことなら大抵のものに抗体持ってるけど、洗脳はまずい……!
空界殺人事件やイドに操られてたことで多少の抵抗力と順応は出来てるけど、ここまで直接的な洗脳は……!
声 「まあいいでしょう。
貴方が何者か、などということは、味方にしてからゆっくりと知ればいいこと。
貴方自身に喋ってもらうとしますよ」
中井出「っ……き、貴様……! 何者だ……!!」
俺の言うことを聞かない体を無理矢理に動かし、振り向いてみれば……そこには花たちが教えてくれた通りの格好の男が居た。
そいつは俺の顔を見るやクスリと笑い、どっかで聞いたような声で喋る。
??「これは失礼。私は于吉と申します。少々の方術を齧った存在。
そして、今あなたにかけているのがその方術です」
声……この声、あ、あー……頭がガンガンする。
こ、子安さん? この声は子安さん?
中井出「術……!? 魔法みたいなもんか……!」
于吉 「魔法というものが何を指すのかを知りませんが、おまじないのようなものですよ。
痛いところに手を当てて、治れ治れと強く願う。
すると人体というのは不思議なもので、痛みを多少和らげようと努力する。
痛みというものは断続的に走るものでしょう?
しかしその痛みに呼吸と思考の間隔を混ぜてやると、
多少ですが痛みが走る間隔を狂わすことが出来る。
私はそういった作用を貴方の脳に放っています」
中井出「〜〜〜っ……俺の体を、その痛みの間隔ってのに見立ててるってか……!」
于吉 「ええ。触れもしないのに出来るから術と言うのです。
そして貴方は既に我が術中にある。せいぜい利用させてもらいましょう。
まず手始めに……」
中井出「……ま、待て……! 俺が俺じゃなくなる前に聞かせろ……!
お前は、なんの目的でこんなことを……!」
自分の間隔を人の脳に叩きこむなんて、どうかしてる。
けれど確かに少しずつ“自分”ってもののリズムが狂い、そろそろ喋る自由までもが奪われようとしていた。
于吉 「簡単ですよ。北郷一刀を始末する。それだけが目的です」
中井出「……そんなことじゃなくて……! どうして始末するか、をだな……!」
于吉 「欲張りですねぇ……知りたがり屋は早死にしますよ?
まあ、どうせ操られたまま死ぬのでしょうが。
……いいでしょう、教えてあげます。冥土の土産というものですね」
中井出「〜〜〜〜っ……」
頭が痛む。
声が出なくなってきて、そのくせ視覚と聴覚だけははっきりしやがって、腹が立つ。
于吉 「このくだらない連鎖を立ち切るためですよ。
そもそも北郷一刀が邪魔をしなければ、
私たちの目的はとうに終わっている筈だった」
中井出「…………?」
目的……? 邪魔、って…………う、あ……だ、だめだ……!
口がもう、完全に動きやがらねぇ……!
于吉 「最初の北郷一刀にはしてやられました。
お陰で左慈と彼を基盤に、無駄な外史が作られ続けている」
中井出「………」
于吉 「物語には主役が必要ですね? なにせ主役が居なければ物語にならないからです。
この世界……外史連鎖というものも、
なまじ主役というものが出現してしまったから続いているのです。
主役は銅鏡を割った二人。即ち、左慈と北郷一刀。
この外史連鎖を立ち切るには、どちらかが死ななければいけない」
中井出「……?」
于吉 「ええ。割った要因が二人であったのなら二人で主役。
一人が死ねば主役は成立しない。
この世界はそんな単純なことで成立しているのです。
そして、単純だからこそ難しい。
銅鏡は割れた際、世界を構築するために幾つかの厄介ごとを引き起こしました。
ひとつ。舞台に左慈の世界を選んだこと。
ふたつ。砕けた銅鏡の欠片の数だけ、北郷一刀が居る世界を用意したこと」
中井出「………」
な、なんだ……? 何を言ってるのかさっぱりだ……。
こやつはほんと、何がしたくて……。あ、殺すんだっけ……?
于吉 「酷いとは思いませんか? 私たちは一人だというのに、北郷一刀は何人も居る。
それも、この外史を知る者が望む数だけ枝分かれした世界に。
私たちはそんな、人が願う数だけいくつも存在する世界の中から、
北郷一刀が居る世界を砕けた銅鏡の数だけ探さなければいけないんですよ。
そしてそれら全てを殺さなければ、北郷一刀という主役を殺しきれないんです」
中井出「……っ……」
于吉 「しかも見つけるたびに彼は三国のいずれかの勢力の力を得て、
私たちに抵抗を見せます。死にたくないのは当然ですが、困るのですよ。
その外史が潰れる時間までを逃げ延びて、時が来れば新たな世界を築いて逃走。
最初の北郷一刀に新たな銅鏡を託したのが間違いだったのです。
結果、外史の数が増えただけで、この連鎖は終わるどころか広がるだけだった」
連鎖……外史連鎖。
天地空間で言う、時間軸みたいなもんか?
人が取る行動ひとつひとつで出現する、あれと……似たようなもんなのか。
于吉「……解るでしょう? 私たちはもう終わらせたいんですよ。
何度も何度も繰り返される、多少違うだけの同じ世界。
どれほど幸せな終わりを迎えた外史があろうが、
終わりを迎えれば崩れるのが外史。
確かに終わりを迎える度に北郷一刀の数は減ります。
ですが、稀にその理を破壊する者が現れる。
終わる筈だった外史に“意味”を残し、
外史に生きる者までもが意味を構築するための存在となる。
もはや勝手に消える北郷一刀に用はありません。私たちは───意味を持ち、
“外史の常識を破壊した北郷一刀”を始末しなければならないのですよ!」
……常識破壊?
そりゃ、随分と聞き慣れた言葉だ。
北郷一刀ってのがこいつらにとってどれほどの罪人なのかは知らんが……
于吉 「あと少しなんですよ……!
砕けた銅鏡の数、消えるべき者の数は片手で数えられる程度……!
待っていても、あと数十年で終わる筈だったのに……!
どこかの外史の北郷一刀が、終わる筈だった外史に戻ってしまった!
するとどうです!? 消える筈だった外史が再び意味を持ち、
しかもその外史が終わる理由までもが捻じ曲げられてしまった!
……はっ……はぁっ……! ……っ……解りますか……?
私たちはその北郷一刀を見つけ出さなければならないのですよ……。
そう……なんとしても……」
中井出「……っ……はっ……」
息を吐く。
脳を鷲づかみにされているような気持ち悪さに吐き気が込み上げるが、それを抑えて。
于吉「だから利用することにしたんですよ……北郷一刀という存在を介して、
他の外史の北郷一刀を砕けた銅鏡を通して探すのです。
次にどの外史に行けばその北郷一刀が居るのか。
それを知ることが出来れば、この連鎖もようやく終わりを迎えるのです。
待っていればいつかは終わる? そのいつかがいつになるのかも解りません。
長く生き続けすぎたのですよ。
いつかだのすぐだのと勝手に言う輩ばかりですがね。
───私たちはそんなに待てない!!」
クワッと目を見開いて俺を睨む于吉を見ながら、少しずつ頭の中で纏める。
ようするにこいつらは客観的にこの世界を見れる存在で、そもそもこの世界の住人ではない。外史ってものの世界には左慈ってヤツの世界が選ばれたってことなら、この世界は左慈ってやつが居た世界をベースに象られている。
ただしいくつかの物事が混ざったために、“客観的に見る者”の願いや思いが混ざったために、本来男である筈の英雄たちが女であったり、歴史が捻じ曲がったりしちまってるって……そんなところか……?
中井出「……!」
于吉 「……? おや、随分としぶといですね。なにかまだ質問でも?」
中井出「……、……」
于吉 「……はい?」
頭の中をひとつの事柄でいっぱいにする。
どういう原理なのかはイマイチよく解らんが、痛みやなんやの話はとりあえず置いておいて、これが“術”ってものなら……!
于吉 「あ、頭が痒い? ……緊張感がありませんね。
これから傀儡として生きるというのに」
中井出「───」
于吉 「やれやれ、まあいいでしょう。では最初の仕事です。
腕を動かして、頭を掻きなさい」
言いながら、于吉が手を軽く動かす。
すると腕が勝手に動き、俺の頭をカリカリと掻いて《パギィンッ!!》
中井出「……FUUUUM……! うむ、惜しかったねぇボーヤ」
于吉 「……? ───なっ!? 術が解けた……いや、強制的に解かれた!?」
脳に直接作用するなら、頭に触った時点で篭手をマジックキャンセラーに変えればよろしい。それが術ならほぼを破壊しましょう!
武具の変更は俺の中の意思が勝手にやってくれました。あとは今得た洗脳ってものの力のデータを回路へ送って、順応させちまえばいい。少々時間はかかるが……
于吉 「ならばもう一度!」
中井出「! ギャアーーーーーッ!!」
于吉が手を翳し直す!
すると僕の頭がまるで万力で圧迫されるかのように締め付けられ───!
中井出「《ボチューーン!!》アギッ!」
于吉 「!?」
爆発した。
司令塔を無くした体がボテリと大地に倒れ、ビクンビクンと痙攣する。
于吉 「こ、これはいったい……」
中井出「ぬ、ぬうこれは……五体投地……!」
于吉 「し、知っているのですか───、って、なっ───!?」
もちろんドッペンルゲンガーですが。
本物の僕は于吉の横に立って、驚き顔の于吉に向けて
中井出「やあ」《どーーーん!》
爽やかに挨拶をしました。最強。
于吉「……! 貴方も道術か方術の類を使うと見て、間違いなさそうですね……!」
そんな僕から距離を取りつつ、しっかり睨みをきかせる于吉さん。
さて、どうせならまだまだ聞きたかったんだけど、どうせもう喋らんだろうし……。
中井出「知りたいことは多少は聞けました。
よーするに貴様らはこの世界の連鎖ってのを終わらせたいわけね?」
于吉 「……。それを知ってどうすると?
他の世界の北郷一刀のように、私たちの邪魔をしますか」
中井出「んー……いや。終わりにするの、手伝ってもえーよ?」
于吉 「…………──────は……?」
ずりりっと落ちそうになる眼鏡をそのままに、于吉さんはぽかんとした顔をしておる。
まるでワケが解らないといった様相にござる。
だがこの博光、楽しいを知らぬ者に楽しいを教えることこそが本懐とする者。
敵だろうがなんだろうが、つまらなそうにすること、ヨクナイ。
于吉 「信用出来るとは思えませんね。ではひとつ条件を出すとしましょう。
北郷一刀を私たちに」
中井出「だめだ」
于吉 「前提条件から否定されて何を信じろというのですか貴方は!!」
中井出「うるせーーーっ!! 殺すことしか考えてねーからダメなんじゃねーか!!
いーからちょっとこっち来ォ!!
ようは連鎖ってのを終わらせられりゃあいいんでしょ!?
大した話もせんとただ終わらせるとか言って暴れて、
貴様らそれで終わらせられるほうが納得すると思ってんの!?」
于吉 「そうしてでも終わらせたいものがあるのですよ……貴方にはそれが」
中井出「解らないから話せっつーとるんじゃああああ!!
ええいてめぇらいっつもそう! 自分から近づこうともしないくせに、
こうして問い詰められると“貴様らに何が解る”って!
知ってもらう努力した!? 解ってもらおうと近づいた!?
それすらしてないのに何が解るって、矛盾も大概におし! このタコ!」
于吉 「た、たこ……!?」
中井出「そして僕は知ろうと努力しました。
洗脳に耐えつつ、優勢と見るやべらべら喋るあなたの口から。
さ、もう遠慮はいりません。その、調子に乗ると軽すぎる口から、
まるで水をこぼすがごとくべらべらと喋るでおま」
于吉 「な、な…………!!」
……あ、あれ? やさしく語りかけたはずなのに、于吉さんが血管ムキムキで怒ってゆくんですが? ワッツ!? か、彼の身にいったい何が……!?
于吉 「……一時退かせていただきます。
貴方のこれからの行動がどうあれ、我々はこの外史連鎖を終わらせる。
協力するならご勝手に。恐らく、貴方の……いえ。
北郷一刀のところには、貂蝉が向かっているでしょうから」
中井出「貂蝉? ……おお! あの呂布がベタ惚れだったとかいう!?」
マアステキ! 絶世の美女って見てみたい!
いや、トキメケを感じたいとかじゃなくてさ、ほら、見てみたいってだけ。どれだけ美女でも好きになんなきゃどうでもいいことだし、僕はドリアードが大好きなのですから。
……とか、ポッと頬を染めているうちに于吉さんは消えてしまわれた。
すげーなぁ方術って。転移まで出来るのか。
中井出「……っとと、俺も帰らんと」
なんでも貂蝉とかいうのがかずピーのところに向かってるとか言うし。
どんな人かなぁ。楽しみだなぁ。
───……。
でんどんでんどんでんどんでんどんでん!!
貂蝉 「ぬぅっふぅううう〜〜〜〜〜〜ん♪
あぁ〜〜なたが提督ちゃんぬぇええ〜〜〜〜〜〜〜ん?」
中井出「キィイーーーヤァアーーーーッ!! おばけーーーーっ!!」
帰った僕らを待っていたのは筋肉ダルマでした。
貂蝉? 誰それ。
貂蝉 「きゃんっ、どこどこおばけっ! 貂蝉たら怖ぁあ〜いぃっ!」
一刀 「……うぅっぷ……!」
中井出「ややっ!? これかずピー! 吐いてはなりませぬ!」
現在、日輪の城の前。
詠ちゃんは防御陣を組みながらゆっくり後退していたようで、散々と騒いでるうちにここらまで来ていたらしいんだが、白装束どもがここにも現れたらしい。
兵のみんながそれらを見事に成敗していたんだが、急に現れたそやつらの数も結構なものだった。そこを助けてくれたのが───
貂蝉「ぬふん♪《ヴァチーン!! ファゴォオオオ!!》」
……この、ウィンクで暴風を巻き起こしている貂蝉(自称)だ。
僕はそんな怪物を目の前に、この絶望感にも似た想いを共感していただきたく、マントルに収納していた皆様を召喚。同じく叫んでもらった。
中井出「え、えっとその……自分で貂蝉とか言ってたけど、
もう一度名前、聞いてもよかです?」
貂蝉 「あらん? あぁ〜なたァ……わたしに興味深々ンン?」
中井出「………」
貂蝉 「………」
中井出「……綺麗な漢女の目をしてらっしゃる。あなたを信用しましょう」
貂蝉 「きゃァン! わたしのことを一目でそこまで解ってくれたのは貴方が初めてよん!
そう! わたしは貂蝉! 愛と正義と愛のために戦う漢女!」
中井出「正義とな!? ……貂蝉よ、貴様のその正義、なにを以って振るうものぞ!」
貂蝉 「ぅ愛ぃい!!《ズビシィイーーーン!!》」
片目をヴァチーンと閉じてウィンク。綺麗なサムズアップがそこにあった。
中井出「……愛だな!」
貂蝉 「愛ねぇん!!」
ニコーンと激しく笑い、ズヴァーーーンとハイタッチ。
するとゴキャアと折れる僕の腕!!
中井出「“激痛”()!!」
お、折れたァーーーーッ!! ハイタッチで折れたァァァァ!!
どういう腕力してんですかこの漢女ェェエエーーーーーッ!!!
恋 「……! ご主人さまを傷つけた……!」
中井出「はい落ち着きましょうね恋。腕ならもう治ったから」
恋 「《なでなで》…………《こくこく》」
一瞬で檄をゴキャンと構えた恋が、頭撫で一発で落ち着きました。
一刀 「貂蝉が……貂蝉が……あの貂蝉が、ゴリモリマッスルのおっさんだなんて……」
貂蝉 「喝ァアアアーーーーーーーーーーーーッ!!!」
一刀 「うひょわぁああーーーーーーっ!!!?」
中井出「ひょっ!? ど、どうされた貂蝉さんにかずピー!」
一刀 「い、いやそれが、このおっさんが急に」
貂蝉 「喝ーーーーーーッ!!!!」
中井出「ヌォオァアア!!? なんだその裂帛の気合はァァァァ!!」
貂蝉から禍々しい……もとい、激しい氣の暴風が発せられる!!
その氣は僕らを怯ませ、暴風の中で息がしづらい状況に立たされたような感じに───ってナニモンですかアータ!!
貂蝉「おっさんって誰ェエエ!? おっさんってどォオこォオオッ!!」
一刀「い、いや、それはあんたが」
貂蝉「くあぁあああーーーーーーーーーーつっ!!!!」
一刀「うひぃいいいいっ!!?」
目が光った! 今目が光った!!
般若の形相で目を光らせて、しかも体からは黒のオーラ……こいつ人っていうよりもう魔王側の存在だろオイ! なんかいろいろ間違ってない!? 貂蝉!? え!? 貂蝉なの!? 今まで出会ってきた英雄たちも、多少ながらにどこか歴史に似通った部分があると思うのに、このお肉さまからは何も感じられない!!
中井出「あ、あのー、それで漢女さん? ご職業はいったい……」
貂蝉 「ぬふんっ? ご覧の通り、踊り子よんっ♪」
中井出「………」
三国志演戯で、そういえば踊り子貂蝉ってのが居たっけ……?
……なにも似ているところをそこだけにしなくても……。
中井出「……なぁかずピー」
一刀 「……なんだぁ……?」
俺の隣に両手両膝をついて絶望に打ちひしがれているかずピーに一言。
とても疑問に思ったので、心を込めて。
中井出「……今の世の中の踊り子って、紐ビキニ一丁が普通なのか……?」
一刀 「……一介の学生に、踊り子の姿を訊ねるなよ……」
それもそうだった。
23/あぁ〜なたの夢にぃい〜〜〜ん……直撃よん♪
ズチャッ……!
貂蝉「ここが日輪なのねん……綺麗な場所じゃぬぁあ〜〜〜いぃ」
バキキャラクターのように、裸足でズチャっと音を立てた貂蝉が日輪の街を歩く。
歩き方がいちいち乙女チックで、隣を歩くかずピーの肌がさっきからチキンです。
僕? 僕はもう慣れました。伊達に超絶ミラクルダンディー・コックリーニョさんの悪夢にうなされちゃおりません。
中井出「それで貂蝉さん? ここには何をしに?」
貂蝉 「んもうせっかちさんなんだからん。でも急ぎたい気持ちも解るわん。
───……于吉ちゃんと、戦ったのねん?」
どこまで知っているのか、貂蝉はキリッとした顔でそう言った。
そのキリッとした顔に、詠ちゃんやねねがビクゥと肩を弾かせて震えているのは、まあ見ないフリをするべきでしょう。
中井出「うむ。手ごわき相手でごわした……よもや妖術使いだったとは」
詠 「妖術……? ちょっと、そんな話聞いてないわよっ!?」
中井出「いや、実際妖術ってカテゴリに入れていいかがちと解らんかったもんで。
本人は方術とか言ってたけどさ」
あれはすごいって頷けるもんだった。
旧時代の人間に、まさかあげなことが……と、この博光も驚いたわ。
旧時代といえば、陰陽師の話だけでも結構驚きなのにね。
まさか本当に“術”ってものを使えるとは。
外史……外史ねぇ。
時間軸ってものが存在して、それが実際に外史の軸から分かれた“誰かに望まれた世界”だってんなら、俺達が生きた歴史ってのも外史みたいなもんなのかな。それなら……なんか、普通の日常から月の家系ってものを知って、ここまで歩いてきた自分の道ってのも解る気がした。
ただし俺はあの世界では主役じゃあなかった。
だからこうして弾かれて、今もどことも知らない世界を彷徨っている。
中井出「ねぇ貂蝉? もし主役な誰かが物語から外されたら、
その時点でその物語は終わるのかな」
貂蝉 「主役が居なければ物語は成立しないものよん?
主役が外された時点で、“その物語”は停止するか終わるの。
つまり、主役がなんらかのきっかけで戻ってこれる物語は停止。
戻ってこれない外史はそのまま終わる。
といっても、停止した時点で別の外史は作られているのだけれどねん」
中井出「あれか。人の行動の数だけ物語が作られるなら───」
貂蝉 「そう。“その主役”が居ない別の物語として始まっているのよん。
だからかつての主役だった者が戻れたとしたら、停止した位置からの開始。
停止した時点で始まった別の外史では、
かつて知り合いだった子がとっくに老人になっていると、
そんなことも有り得るわけ」
中井出「……なるほど」
やっぱり似たようなもんなのか。
俺達はそれを時間軸として捉えてただけで、パラレルって認識で片付けるべき世界の列は外史ってもので。
彰利たちはそういう場所に歴間移動で干渉していた。
つまりは───
中井出「あのさ。貂蝉も連鎖を終わらせたいのか?」
ちらりと、この世界の仲間を一瞥してから言う。
出来るだけ、意味が通らないように。
貂蝉はそんな俺の行動に気づいてか、目配せだけで了解の意を示し、ウィンクで風を巻き起こした。
貂蝉 「いいえぇ? わたしは肯定者。終わりではなく広がりを望む者。
同じ存在ではあるけれど、人の願いは広がるべきだと思っているの」
中井出「それでいーの? なんか管理者みたいな立場なんじゃないの?」
貂蝉 「わたしたちは見守りながら、左慈ちゃんや于吉ちゃんみたいな子を止めるだけ。
創られるものは創られるべきだと思うわん。だって、そのほうが楽しいじゃない?
可能性をわざわざ潰すなんてひどいこと、わたしは賛成できないわァん」
中井出「ふむ」
物語は広がりをみせるべきね。
……でも、終わらせたいって気持ちもなんか解るんだよね。
中井出「思ったんだけど……貂蝉たちは“ずっとそのまま”なのか?」
貂蝉 「───」
あくまで当たり触り無く。
詠ちゃんたちは質問の意味が解らずに首を傾げているが、貂蝉は意味がわかったようだ。
貂蝉 「ええ。ずぅっとこのまま。左慈ちゃんや于吉ちゃんもそうね」
中井出「……そか」
つまり、産まれた時からその姿ってこと。
そのまま何十年も何百年も見守り続けてるって考えるべきか。
于吉の、あと数十年で終わるかもしれないとかそういう言葉から察するに。
貂蝉 「軸自体、銅鏡が割れる前から存在していたのよ。
ただし、そこに“欠片”は存在しなかった。
左慈ちゃんは元からあったほうの外史を、
銅鏡の力で無かったことにしようとしたのだけれどねん?
ようやく見つけた銅鏡を盗み出したそこに邪魔が入って、
砕けた分だけ外史が作られてしまった。
そこに、それ以前の割った者の記憶や願いを組み込んだ状態で」
中井出「願いっつーのはつまり……アレが女だったり、歴史がばらばらだったりって?」
貂蝉 「物解りが早くて助かるわぁん。
まあ多少、割る以前に接した誰かからの願望とかもこう、
混ざっちゃうこともあるのだけれどねぇん」
中井出「あー……たとえば学友が女にだらしなくてそんな誰かの言葉を受けた誰かさんがそ
れをついつい頭の中で何度も繰り返してたらそれが願いだと銅鏡さんが受け入れち
ゃってゴシャーと願いを叶えてしまったとかか……」
貂蝉 「一息でとっても喋れるのね……ステキ」
ウィンクしないでください、その度に風が巻き起こって怖いです。
中井出「かずピー、キミの友人に女にだらしなくて、
ちょっぴり歴史に妙な願望持ってた人とか居る?」
一刀 「へ? あ、あー…………居るっちゃ居るな。及川っていうんだけど」
中井出「アー……」
貂蝉 「あらぁん……」
俺と貂蝉は顔を見合わせて、それはもう大変長い溜め息を吐いた。
中井出「欠片が混ざる前の外史ってどうだったんだ?」
貂蝉 「もちろん男が男だったわん」
中井出「……キミは?」
貂蝉 「もちろん漢女よんっ!《ムキーーン!!》
だって、わたしは肯定を糧に生まれて、
左慈ちゃんたちは否定を糧に生まれたんですもにょぉん!」
中井出「……だよねぇ」
いろいろ複雑なんだね、この世界。
えーとつまり? 于吉たちが終わりを迎えるには、まずこの“欠片の世界”……通称かずピーランドを終わらせなければならない。
終わらせた上で、再び銅鏡使って外史の無い世界を望めばミッションコプリート? そりゃ、もう少しで終わらせられるって時にこんな事態を起こされちゃあ殺したくもなるわなぁ……。
あれだ、ドミノ世界記録を取材に来た誰かさんに崩された時の口惜しさのような。
中井出「えっと……ようはさ、于吉たちは連鎖から外れたいわけだよね?
外史否定者として生まれたのは聞いてて解ったからさ」
貂蝉 「いいえ、外史否定者が外史否定をやめれば、存在する意味が無くなるわ。
どのみち否定しなきゃならないのよ、彼らは」
中井出「なるほど。じゃあ外史じゃない世界に飛べれば満足なわけだ。
となると、まずは……」
貂蝉 「ねぇん? 提督ちゃん? あなたいったい、なぁ〜〜〜にをする気なのぉん?」
中井出「とりあえず全員が楽しいって思える世界が創れたらなぁと。
“そのために生まれた”からって馬鹿正直にそれしかしないのはつまらんでしょ。
だからちと、その常識を破壊させてもらいます」
あれだ。
つまり左慈ちゃんは外史が嫌い。于吉ちゃんも。
で、それをなんとかするにはかずピーをブチコロがして欠片を一掃しなければならん。
なのにどっかのかずピーがとある外史の意味を捻じ曲げてしまい、今はその外史が意味を持ってしまった。それを破壊しないことには元の外史には戻れない。
なぜなら欠片の世界の構築要素に自分が巻き込まれ、主役格として認められてしまったから。だからこれは、いわば左慈ちゃんとかずピーの喧嘩の世界なのだ。決着がつかん限りは終わらない。
けれど様子から察するに、かずピーは別にこの世界の住人ではなく、別の世界から呼び込まれた……いわば“天の御遣い”に位置する存在らしい。
あー、えーと、それらの意味するところは……デスネェイ。
中井出「ふむ」
俺達が産まれた瞬間と大して変わらん。
俺達が産まれた時には世界は既に存在していて、親にも過去がきちんとある。
それと同じように“創られた”瞬間から桃香やら華琳やら雪蓮やらにも過去は存在していて、彼女たちはきちんと自分の意思を以って生きている。
その中の誰かが願い、かずピーは御遣いとして降臨。
今のところはどの国とも接点を持っていないようだから、誰に願われたのかは謎。
于吉ちゃんが言ってたどっかの外史のかずピーは、その外史の意味を捻じ曲げて、さらには終わるはずだったその世界に新しい意味を持たせてしまった。
……欠片の世界は恐らく、かずピーが主役なのではないのだね。
あくまでこの恋姫無双って世界の外史連鎖の主人公がかずピーと左慈ってだけ。
それぞれの外史ひとつひとつの主人公は、恐らくはかずピーと深い仲になる者。
たとえば桃香だったり雪蓮だったり華琳だったりするのだろう。
中井出「おおうややこしい。
ともかく僕は世界の否定肯定以前に楽しんでないことを否定する。
いっそさ? 恋姫って世界をひとつの世界として完成させちまえばいいじゃない」
貂蝉 「ぬふん? それってどういうことん?」
中井出「外史を肯定、外史を否定。そんな連鎖の見守り人なんてやってられーん!ってさ。
銅鏡の欠片ってのを掻き集めて、欠片の世界じゃなくて銅鏡の世界にしちまうの。
構築要素はかずピーや左慈ちゃんに関わったやつら全員。
外史全部をくっつけてひとつにして、そこに意味を持たせる。
そこならキミらも歳とっていつかは消えます。見守るのが嫌なら、そうなさい」
貂蝉 「…………あぁ〜らやだぁ、とんでもないこと考えるわねぇ」
中井出「うす。しかしそれをするならまず、
かずピーと左慈ちゃんに決着をつけてもらわなければならん。
“外史”って世界を終わらせるためにね。
でも弱いかずピーじゃあ戦うよりも逃げる方を選ぶ。そうでしょ?」
貂蝉 「………」
貂蝉は何も言わない。
ただ、恋のことが呂布であると知ってたまげているかずピーを見て、遠い目をしていた。
中井出「最初のかずピーってのがどんな選択をしたのかは知らんし、正直どうでもヨロシ。
だが、生きているのに楽しまないのは許せん! どうせなら楽しもうぜ!
ということで、強いかずピーを探してそいつと左慈っちをぶつける!
全力でぶつかり、やがて芽生えるライヴァル心……!
お互いがお互いをなんか知らないけど認め合って、
いつしかそれは次なる世界の構築要素となり……!」
貂蝉 「う〜〜〜ん……そう上手くいくかしらねぇ……」
中井出「いかない部分はバックアップしますわ。
手始めに、ちと歴間干渉してかずピー探しでもしましょ?
ちょいとかずピーいい? あ、みんなは先に中に入ってて」
秋蘭 「……うむ。男同士の話というのもあるだろう」
貂蝉 「いやぁ〜〜ん! 殿方に囲まれたかよわい漢女を置いていくっていうのん!?」
秋蘭 「いや……かよわくはないだろう……」
貂蝉 「ンマッ、失礼しちゃうわっ」
くねくね蠢きながら仰るお肉さんは正直不気味でした。
しかしながら歴間干渉ってものには興味があるらしく、手を振りながら先に戻ってくれたみんなに感謝しつつ、まだ作り掛けの街の片隅に潜り込むと、話を続ける。
貂蝉 「それで? 歴間干渉ってなんなの?」
中井出「俺の世界では時間軸……この世界では外史ってものに干渉する能力。
月空力っていうんだけどね、それを使って、
ちと他の外史のかずピーとコンタクトをとります」
貂蝉 「ンマッ、そんなことが出来るのっ!?」
中井出「多分だけど。なにせ時間的座標も滅茶苦茶なこの世界だから、
頼れるのはかずピー自身ってことになるけど」
一刀 「え? お、俺?」
訳も解らず引きずられたかずピーは混乱していた。
だが実際にそうなのです。だって迂闊に歴間移動なんかしたら、外史の渦に巻き込まれてどこに落ちるか解りませんもの。
なので干渉。そうだね……意味を持った外史のかずピーがどんな感じなのかは別として、こういった時代の武将たちが弱っちい男子を放っておくわけがございません。
きっとこのかずピーよりも多少はKIというものがございましょう。
なので探すのはKIの高いかずピー。それを条件に、歴間干渉を開始する。
中井出「ん〜っと………………うあ、かずピーキミ、KIが無いにもほどがある……」
一刀 「いや、氣とか言われても。現実にそんなの使えるわけないだろ?」
中井出「なにをおっしゃる! 氣はありますわ! ただキミがそれを扱えないだけさ!
現に…………あらまあ」
不思議。
こやつ、何気に氣が二種類ございますわよ?
微量だけど、確かに二つ。
へぇえ……面白いもんだ。晦みたいに何かが混ざってるわけでもないのに。
でも、これは逆に助かる。こんな珍しい氣の持ち主、普通は居ない。
中井出「OK、条件絞り込めそうじゃわい。えーと………………」
貂蝉 「どう? どうなのん?」
中井出「あ、いや、あんまくっついてこないでください」
貂蝉 「あらぁ〜〜〜〜ん照れちゃってカワイイッ!《ポッ》」
言いながらドスドスと肩をぶつけてくる。
あの……なんですかこの状況。
一刀 「………えと。俺は何もしないでいいのか?」
中井出「うむ。意識を乱さないでいてくれれば。まあそんなわけで、寝てください」
一刀 「へ?《ドキュッ!》うきゅっ!?」
問答無用で地獄突きを喉仏に突き刺す。
するとズルリと倒れ込むかずピー。
よし、これで乱れない。悪夢でも見ない限りは。
中井出「さってとー……ぬう、結構疲れるなこれ。
移動の方はただ飛ぶだけだからいいけど、
干渉ってのは……世界を押し退けて無理矢理繋げるみたいなもんだからな……。
………………っと、居た居た。
えーと、すまん貂蝉、俺の方も繋げるのに集中したいから、
これからのことをかいつまんでそっちのかずピーに伝えて」
貂蝉 「あらァ……わたしでいいの?」
中井出「押忍。知らないことを適当に教えて、
いつか左慈ちゃんがそっちに行くかもってことだけでも。
相手側のかずピー、なんか風邪引いて寝てるっぽいからさ、
貂蝉にはその夢に入ってもらいます。
もっとも、そうするためには貂蝉にも、そのー……
軽い睡眠状態になってもらう必要があるんだけど」
貂蝉 「それが愛のためならどんとこいよん!
さぁ提督ちゃん! ぅあぁなたの手でぇ……わたしを眠り姫にしてぇん!」
中井出「いや……そりゃあ寝かせるんだけど……なんかヤなんだけど、その頼まれ方」
でもOK。
巨象も寝かせる睡眠薬入りのガルピスを創造して、ハイと進呈。
貂蝉はそれをごっふごふと飲み下し、ムキーンと乙女チックなポーズをとった。
中井出「………」
貂蝉 「………」
中井出「………」
貂蝉 「………」
中井出「なんで寝ないの!?」
貂蝉 「知らないわよぉん!」
なにこのお肉様! いったいなにで形成されてるの!?
ええい次! とにかく睡眠効果を増幅させて───!!
───……。
…………。
貂蝉 「んぐぉおおおおごごごすびぃいいい……!!」
中井出「はぁあ……」
やっと寝た。
使った睡眠系のブツ、軽く二桁に到達したんだけど……大丈夫かこのお肉さま。
つーかこの大地を揺るがすようないびき、なんとかなりません? 乾いた大地の社が大地を揺るがす時みたいに、ンゴゴゴゴゴって地面が揺れてるんですけど。
中井出「はぁ……しっかし疲れる。外史ってのはどれだけいっぱいあるんだ?
おいさん、既にもう苦しいざんす」
だっていうのにかずピーも貂蝉もグースカピーですよ。気持ちよさそう。
僕も寝たいところだが、今は無理でございます。
中井出「……っと、よし。ちゃんとかずピーの夢に入り込めたみたいだ。
おっほっほっほ、驚いてる驚いてる」
夢の中の映像を、式を通して覗いてみた。
すると、貂蝉を前に叫ぶあっちのかずピー。
大丈夫だ、俺も怖かったさ。だからフォローはしません。
がんばれかずピー、俺はもう苦しいから月空力に集中することだけを考えます。
───……。
しばらくすると、寝ている貂蝉が「ぅ愛ぃい!」と叫んでサムズアップしたり、妙にくねくね悶え始めたりと、正直に、ドストレートに言うとキモかった。
それらをある程度見守っていたんだが、いい加減に限界が来て、夢の中の貂蝉にギバーーップ!と語りかける。
夢の中で光に包まれるお肉様は不気味の一言につきた。
貂蝉 「ん……ん、んんん……」
中井出「や。お目覚め?」
貂蝉 「ぬふん♪ とぉおお〜〜〜ってもい〜い夢がぁあ……見ぃれたわぁぁああん♪」
若本則夫チックな喋り方で、ポッと頬を赤らめるお肉様。
ええと、はい、とってもよかったそうです。
中井出「ふむ。夢の中の話も聞けたし、こっちもまあいろいろと纏められたよ。
んじゃあ、これからのことは好き勝手にやっても?」
貂蝉 「止めたってぇ……止まらないんでしょん?」
中井出「もちろん。キミや左慈ちゃんが好き勝手やるなら、こっちだって好き勝手だ。
て言っても、元々好き勝手な僕ですが」
あっちのかずピーが居る座標も解ったし、気が向いたら訊ねてみるのもいいと思う。
もちろん素性は隠して、だけど。
中井出「よっしゃ、じゃあ戻ろうか。みんなが首を長くして待っておるよ」
貂蝉 「あなたってば不思議な人……ご主人様が居なかったらわたし、恋していたかも」
中井出「あっはっはっはっは、なにをおっしゃる。
基盤が成立した世界にあって、誰かに恋をするのなら主人公に、でしょう。
俺は永遠の脇役でいいの。自分のじゃない物語の端っこに隠れて笑う道化。
そういう立ち位置が好きなんだ」
だからいつか、刻震竜と戦う前に晦言ってみせることが出来た。
何を守ってもいいから俺は守るなと。
脇役は場を盛り上げて、要らなくなったら捨てられる。そんなもんでいいんだ。
だから実際にあの世界からは弾かれたんだろうし、こういうよく解らん場所に居る。
実際に、どうしてこげな場所に落ちたのかっていう明確な理由は……そりゃ解らん。
解ったところで俺に何が出来るのかなんてのはもっと解らんのだし……ならいいじゃん?
解る時がきたら解る。解らないなら解らないなりに、好き勝手に動くさ。
俺は、正義を貫いて誰かのために動かなきゃいけない“主役”じゃないんだから。
中井出(ふむ。ならこの物語の主人公はかずピーだね)
OK! 彼を無理矢理バックアップしよう!
それからそれから───……まあ、それからはいろいろと楽しみながらで。
ちょっとあっちの軸を覗いてみたら、なんか学校とか作ってるらしいじゃん。
そこに乗り込んでみるのも面白そうだ。
で、“壱”を書いてみましょーってところで“売”と書いてみるの! ステキじゃない!
中井出「……まあ、今はとりあえず休みたい」
久しぶりに能力を思う様使いすぎた。
お風呂入って、あったかい布団で眠るンだッッ!!
中井出「貂蝉とかずピーにもきちんと部屋用意するから」
貂蝉 「是非ご主人様と同じ部屋でよろしくぅん!」
中井出「それはかずピーが嫌がるだろうからダメ。でも警護はしてやっておくれ。
命狙われてるみたいだし」
貂蝉 「ンまぁーーかせて頂戴イイインヌ!!《ズビシィーーン!!》」
再びの、雄々しいサムズアップだった。
……さて。ほんと、これからのことをいろいろと考えていかんと。
五胡はこちらに完全に目をつけただろうし、かといってそっちばっかに気を張ってると、華琳たちが容赦無く襲ってきそうだし。
まずはかずピーを鍛えますかな。
二つの氣を持つヤローなんざ初めて見るでごわす。
育てれば化けるやもだ。
滅茶苦茶嫌がりそうだが、ここで暮らすってのはそういうことだから拒否は聞きません。
うしゃー! なんだか明日から楽しくなりそうじゃわい!
……うん、今日はもう無理です、寝ます。
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