186/成長した先でどうなるのかは、きっと本人も知らないし解らない 今さら言うが、怖いものは怖い。 この場合の“今さら”は、何度も言っているから今さらなのと、怖くて当然なのだから今さらなのとが混ざっている。 場所は中庭。目の前には華雄。 黒の空の下、見張り台の松明を灯りに、俺と彼女は武器を手に対峙していた。 というのも華雄が食後の腹ごなしに鍛錬をしていたので、それにつき合わせてもらっているだけ……なのだが。 軽く動かすつもりの体を全力で動かさなければならないハメになり、戸惑いつつも─── 「くぅあっ───ここっ!」 「《ギャリィンッ!》むぅっ! また弾くか!」 おかげで、手甲でのパリィの練習は随分と捗っている……って言っていいのだろうか。 デカイ斧だからこそ軌道が解り易いと大半の人は言うだろうが、この時代のお方の腕力で言えば、あまり他の武器と速度が変わらない気がするのです。 しかもデカいだけあって真上からの振り下ろしの威力の高いこと高いこと。 パリィと言えば聞こえはいいが、腕で払うだけなのではなく、腕で逸らしながら体を逃がしているような状態だ。 つまり斧怖い。 (は、はっ……はぁっ……! いくら氣を流しやすくなったからって、怖いもんは怖いって! レプリカだからってあんなもんまともにくらったらどうなることか……!) 切れ味云々以前に潰れます。普通に鈍器じゃないか。 デカくて速くて強いこと。 これだけ揃えば負けはないとは誰のセリフだったか。 いや、覚えてるけどさ。 「ならばこうだ!」 「───!」 逸らし、その勢いに俺の氣を加えて弾いた先。 華雄はその反動を利用して大きく振りかぶり、それこそ俺の胴体を両断せんばかりの勢いで金剛爆斧を横凪ぎにしてきた───ってこらぁああっ! ほんとに死んじゃうだろぉおおおってキャーーーーッ!!? (しゅしゅしゅしゅしゅ集中!) まずすぐに体を傾けて、振るわれる斧に自分の氣をくっつける。 常時力に変換している氣へと自分の氣を混ぜ合わせて、力の向く方向を上へと逸らしながら、なんとか加速で追いつかせた手甲を添えて───上へと弾く!! 「《ヂョリャァッ!!》ひぃいっ!?」 一息のうちにやった行動の直後、傾け中だった身体の先、逃がし遅れた髪の毛をヂョリっと掠め、金剛爆斧が見事に逸れた。 俺はといえばその迫力と、やってのけた行動に一気に気が緩んで、傾けた勢いそのままに尻餅をついてしまう。 ……で。 逸らされた華雄はその勢いを利用してその場で回転。 遠心力を味方にした次なる一撃が、尻餅をついた僕へと思いっきりってキャーーーッ!? (いやだめこれ逸らすっていうか触れたら篭手ごと砕けそうなんかいろいろでもでもギャアアたすけてぇえええーーーーーッ!!) 刹那、俺の脳裏には今までの思い出が高速で流れてって走馬灯じゃないかこれ!! ええいもういいだったらこの刹那の集中を利用する! って意識した途端に普通の速度に戻る世界。 「うぉぉおわぁああーーーーっ!!?」 慌てて逃げた。そりゃそうだ。直後に、本当に直後に俺が尻餅をついていた場所に金剛爆斧がドゴォンと落とされ……その部分の地面が綺麗に裂けました。 (うん……死ぬ……死ぬよね、あれ……) もっと集中しないといつか死にそうです。 走馬灯って意識しないからそういうことが出来るんであって、きっと意識したら脳の速度なんて普通に戻るに決まってる。 なので普通の速度しか出せない意識下の脳で、今自分の身に降りかかっている火の粉を分析する。 まず自分。金剛爆斧から慌てて逃げる勢いで起き上がり、華雄と対峙する形で構えている。 対する華雄。 金剛爆斧を手に、地を蹴って俺へと激走───ゲエエエーーーーッ!! 「れれれれ冷静に! まずは───」 構え! 華雄の構え……斧は両手で前に構えている! 振り被る様子はまだ無し! なら…… (散々目に焼き付けて刻み込んだことを思い出せ! 金剛爆斧を振る距離まで、あと……) ぐっと重心を下ろす。この場で攻撃を受け止めようとしていると見せかけるため。 氣を木刀に流し込んで、受けるだけじゃなく攻撃もすると見せかけるため。 やがて華雄が金剛爆斧を振り被る動作に入る……その一歩前。 「おぉおおおおおっ!!!」 木刀に集めていた氣は切り離して、瞬時に足へと氣を装填。 地面を蹴り弾くとともに華雄との距離を一気に縮めた。 「!? っ、なっ」 華雄はここで金剛爆斧を振り被ったわけだが、既に俺は目の前に。 動作を何度も見て、それでも真っ直ぐに行って相手を潰すという真っ直ぐな華雄だからこそ通用する方法。言い方は悪いかもだが、それでも勝ってみせる華雄だからこそ続けている行動なのだろう。 「せぇええあぁあああっ!!!」 一気に距離を縮めての、氣だけで行う加速居合い。 篭手の重さが木刀に乗ったそれは華雄目掛けて 「ふっ!《ビュォファアッ!!》」 「───うぇっ……!?」 振り切った。 が、ぶつかるような対象はそこにおらず、華雄は振り被った体勢のままに跳躍。 それこそ俺の太刀筋なんぞ見飽きているのだろう、本当にギリギリの高さで跳躍して、木刀を躱してみせた。 その上で金剛爆斧から片手を離すと、俺の肩に手をついて、トンと弾むように後方へと降り───て、振り向いたら絶対に斧を突きつけられて終わりだ。 そう直感したら行動は速い。 肩から手が離れるや、振るった木刀を戻す反動を利用しての加速居合い。 振り向き様に振るわれたそれは着地する華雄へと吸い込まれるように弧を描いて、しかしその華雄こそが構えていた金剛爆斧によってあっさりと防がれ、仕切り直しに到る。 無理な体勢からの居合いを放った俺は次の行動に移るのに時間を要したし、着地を狙われた華雄もバランスを崩したまま着地することになって、動けたのはほぼ同時だった。 「……うむ。日々を重ねる毎に追いつかんとしてくるその在り方よ、実に見事だ。私の武を受け止めてなお立ち上がれる男など、やはりお前だけだ。実にいい」 どずんと斧を地面に突き刺して、華雄さんは語る。 いつもの顎に指を当てた格好を見ると、とりあえず戦いは終わったのだろうかと息を吐く。 でもまだ目が鋭いから、油断はしないようにしましょうね。 「ごほん。時に北郷」 「ん? なんだ?」 随分とまたわざとらしく“ごほん”とか言った。 咳払いじゃなくて、本当にごほんって言った。 言ってからは何故か目の鋭さは無くなって、あちらこちらへ視線を泳がせている。 ハテ、なんだろうか。なんだ、というかどうかしたのだろうか。 「お、お前との付き合いも……その、もう随分になるな」 「そうだなー。思えばあの宴の時、初めて戦ったのも華雄だったし」 「むう……負けた時はどうしてくれようかと思ったが、結果から見れば……負けてよかった……とは言いたくないが、だがしかし負けねば……うぬぬ」 「えと……なんの話? 勝った負けたの話なら、あれは引き分けってことになったじゃないか」 「そ、そうだな。そうだったな。うむ。その後の戦いで負けたのだからな。負け……うぬぬ」 「………」 どうあっても負けというのは清々しくはいかないらしい。 まあ仕方ないのかもなぁ。俺って真正面からぶつかるっていうよりは小細工が多いし。 でも解ったください、小細工無しで勝てるような次元じゃないんです、あなたたちの居る世界は。 けれども男には、たとえ負けると解っていても立ち向かわなくてはならない時があるんだ。でも……いつか勝てるようになってやる。って前にもやったよこれ。 「ともかくだ。お前の女になると言った言葉に嘘はない。そもそも嘘は好かない」 「そうだね、華雄ってそういう性格してるよ」 「そうだ。だから、だな。うぬぬ……」 ……さっきからうぬぬと唸ってばかりの華雄さん。 俺はどうしたら? もしかしてまたか? また乙女心とやらを察しなければならない場面に立っているのか俺は。 (よし考えよう) なんだっけ。華雄は俺との付き合いも長いなーと言ってきた。 昔を懐かしみたい? に、しては負けたことを悔やみまくっているわけで。 ……ハッ!? もしや今こそその雪辱をと切り出すところ!? そ、そうか。武のことばかりの彼女が言いそうなことじゃないか! 言いづらそうにしているのは、その行為が過去の敗戦をぶちぶちとこぼすような女々しい行為と思っているからか! そこへ俺が“じゃあこうしようか”と言うことに、乙女心への勝利が───! 「解ったよ華雄」 「え、なっ!? ななななにがだっ……? わわ私はまだ何も───」 「いっぱい、長い時間をもやもやさせたんだよな、きっと。大丈夫、俺……もう決めたから」 「う……そ、そうなのか。私としては、その、お前とそういうことをするというのは、いざとなると……。確かめ合うだけでなく、何かを生み出すための行為と自覚するのとではいろいろと違うというかなんというか……!」 口早に喋る華雄の目がぐるぐると回っていっている。 い、いったい何事か? 顔も赤いし……ああ、そりゃそうか、武人として過去の敗戦をだのと言うのはそれほど恥ずかしいことなのかもしれない。 負けてばかりの俺にはきっと解らないことなのだ。 そこまでを解って受け止めてやらないで、何が乙女心か。きっとそういうことなのだ。きっと。 でも生み出すってなんだろう。 (……勝利か!) なるほど納得! 「じゃあ華雄。早速だけど───」 「なっ……さ、早速か!? ゃっ……そのっ……戦い、昂ぶっているのは解るがっ……! い、いや待て、私はまだその、周期というかだな、まだなんだ」 「? しゅうき?」 しゅうき? まだ? 秋季……秋? 秋になると本当の実力が出せるとか? な、なにそれすげぇ! じゃなくて。 臭気……じゃあないよな。 終期……なにかが終わる? もしかして暑い日には力が出なくて、やっぱり秋は最強になれるとか、ってだからそれは違う。たぶん。 昂ぶっているっていうのは……普通だよな。さっきまで戦ってて、いい具合に体も温まっている。 今なら無茶な動作でも出来そうな気がする。やるなら今でしょう。 「よく解らないけど、華雄は今すぐはまずいのか?」 「う……ああ。敵前逃亡のようで悪いが、これも約束だ。皆で誓いを立てた以上、それを私情で崩すわけにもいかん」 (……反董卓連合で突出したこと、やっぱり悔やんでるのかなぁ) 言わないでおこう。余計なことだ。 ともあれ、どうやら何かをみんなで誓ったらしい。 みんなとの誓いと俺となんの関係があるのかは解らないが、きっと大事なことなのだ。 こういう時の女性の……えーと、連帯感? っていうのは強い気がする。 男の俺には解らないことがたくさんあるのだろう。 そこのところは毎度のことながら、ちょっと寂しく思う。 もし俺が乙女心というものを正しく理解出来たとしても、そういったものの輪には入れないんだろうなぁ。 入れたら入れたで、かなり壊そう……もとい、怖そうではあるが。 「でもさ、そんなに急いで生み出すものじゃないんじゃないかな。華雄がその気になれば、いつでも出来ることだと思うし」 実際、仕合で勝つのも死に物狂いな俺なんだ。 華雄が本気でこちらを潰す気でくれば、あっという間だろう。 ……なんてことを口にしたら、華雄さん顔真っ赤。ホワイ!? 「ま、待て。それはそれで男らしいと思うが……! お前はっ……お前はそんな、いつでも平気だとでも……!?」 「え? あ、えと。うん、出来るだけ時間は作るよ。おかしな話だけど、誓いとか約束を守ってまでの何かをしようって話なら、後回しにはしたくないし」 「───」 うんと頷いて、グッと拳を握ってみる。 ノックはしなくても決まる覚悟もある。 こんな覚悟くらい、胸に刻まなくても決められなきゃ男じゃないっ! とか、清々しい気分で覚悟を決めていると、華雄がどうしてか赤い顔……なのはさっきからだけど、ポー……と、なにやら目を潤ませてこちらを真っ直ぐに見ておりました。え? なに? 瞬きしてなくて目でも乾いた? そ、そんなんじゃないよな? 「そうか……そ、そうか……。後回しにしたく───あ……こほん。……なるほど。器の大きいことだな。初めて会った時の、どこかおどおどした男とは到底思えん。これが男か」 「いや……なんだろう。華雄の話を聞いて、俺自身……そこまで変われた気がしないんだけど……むしろ全然」 (お……男か……。初めて抱かれた時以来、こうまで女であることを自覚させられたことはなかったな……。これが男の……ほ、包容力? とかいうものか。武はまだまだだというのに、寄りかかってしまいたくなるこの気持ちは……うう……《かぁああ……!》) 「………」 なんだかさっきから華雄の顔色が大変なんだが……大丈夫なのか? (訊いてみたところで問題ないって頷かれそうだし、顔色以外は全然平気そうだし……うん、様子を見よう) と……それはそれとして。変われた気、というのは本当にしない。 今でも武器を向けられればヒィイとか叫んでしまうし、危機からは逃げ出したくなる心ももちろんある。 そこらが多少変わった程度で“男だな”と言ってもらえるなら…………その一歩ってのは、男にとってはとんでもなく大変な一歩なのでしょうなぁ……としみじみ思ってしまった。 いや待て、そりゃそうだ。武気向けられて怯えないところからの一歩なら、もう十分すぎるだろオイ。 待て待て待て! なんかもう俺、いろいろな基準がおかしくなってないか!? ぶ……武器、コワイ。OK? あ、相手が武器を持って向かってきたら、それはもう戦う意思と見なしてブチノメーション……ってちょっと待て! 基準がおかしい! やっぱりおかしい! 話し合いだろまず! なんで相手が武器を持ったら嬉々としてぶちのめさなきゃならんのだ! あぁっとと、口調口調……! (……いろんな人との鍛錬の日々に、もはやまずは話し合いという部分すら抜け落ちたか……) 主に華雄とか春蘭とか祭さんとか雪蓮とか華雄とか春蘭とか春蘭とか春蘭とか華雄とか。 おじいさま……人は変われる生き物ですね。変わった事実に今まで気づかなかった自分に、自分が一番驚いております。 ……と、それはそれとして華雄だ。 武人っていうのはやっぱり自分には厳しいものなんだなぁって、改めて思う。 約束と誓いを前に、自分の目標のための一歩を、一時的にだろうが止めてみせる。 そんな生き方って、素直に凄いと思う。そう簡単に出来ることじゃない。 (きっと散々悩んでの答えなんだろうな……) そこにどんな約束や誓いがあったのかは知らないが、“武に生きる者として”を根っこから認めている華雄が踏みとどまるのだ。相当なことだ。 武人って……格好いいなぁ。(*いろいろ間違っています) そうだな、こういう潔さとか格好良さに、俺は憧れたんだ。 そんな憧れも半ばに勝手に天狗になって、叩き折られて見失ってしまったけど……真っ直ぐで居られたら、俺もこんな風に潔くも真っ直ぐな存在になれていたんだろうか。 「なぁ華雄」 「! う、うんっ? なんだっ?」 なにやら俯いて考え事をしていたらしい、ぶつぶつと呟いていた華雄に声をかけると、ハッとした様子で顔を持ち上げる。 呟きは言葉として全く拾えなかったものの、これから伝えることを考えていた所為かあまり気にならず、後で訊いてみることも忘れて声を出していた。 「俺でも力になれることがあったら、いつでも言ってくれな。もちろん今悩んでる何かのことでもいいし、約束や誓い以外のことでもさ」 「………」 ぽかんとした顔。 ハテ。 妙なことを言っただろうかと、自分の言葉を頭の中で繰り返してみるが、別に……ヘンじゃないよな? と思っていたら、華雄はフッと笑って「なるほど、これも男か」と呟いた。 「あぁ……その、なんだ。大きく出るのは構わないが、そういうことを言うから後に後悔をするのだ。お前は少し、無警戒がすぎるぞ。……ん? 後に後悔? 後に悔い? ……うむ!《どーーーん!》」 いや、うむじゃなくて。意味被ってるから。 って、後悔? 無警戒? 「……えっと、そうかな。そうは言っても、俺に出来ることって限られてるし、みんなだってそう無茶は言わないだろ。春蘭とか桂花は遠慮のタガが外れてるからご遠慮願いたいけど」 「な、なんだと……あの二人、妙に北郷に突っかかっていると思っていたが、私たちの知らない場ではそうまで積極的に……?」 「え? 積極? ……あ、あー……そうだな、ある意味相当積極的だよな」 急に鍛錬に付き合えって、こっちの都合も関係無しに首根っこ掴んで引きずったり、人が疲れて熟睡している時ばかりを狙って部屋に侵入、虫が詰まった籠をぶちまけるとか。嫌な方向に積極的な所為で、もう随分と深い意味でご遠慮願いたい。 ……そんな想いを込めた言葉だったのに、何故か華雄さんは再び俯き、顔を赤くしながらうんうんと唸っていた。いつもの顎に手を当てるポーズも、どこか恥ずかしがっている乙女を彷彿とさせる格好を連想させるほど。ア、アレレー……? いつもは堂々とした姿勢に見えるのに、おかしいなァ……。 「お前はそんな状況にも対応出来ているのか……(*訳:急に迫られても受け入れ、抱き締めているのか)」 「そりゃあ、うん。対応出来ないとまずいだろ(*訳:対応できないとボッコボコだし、虫まみれだし、必死だよ)」 「む……そうか……逞しいんだな」 「逞しいとかそういう話でもない気がするけどね……。早く満足させてやれるようにならないと」 「まぁっ!? まっ……満足出来ないほどに持て余しているのかっ!?《がーーーん!》」 「そりゃ、春蘭相手はまだまだ難しいよ。桂花はまあ……最近じゃあやられる前に押さえつけるくらいは出来るようになってきたけど」 「押さえつけっ……!?」 「や、これがまたすごい暴れるんだ。夜遅くに睡眠妨害しに来ておいて、殴るわ噛み付くわ。そうなれば力技しかないだろ?」 「な…………なる、ほど……力ずくか……。自分が認めた男に、力でというのは……武ばかりを誇っていた者としては、ある意味で幸せなのかもしれん……《ごくり》」 「え?」 「え?」 やあ、なんだか今日の華雄は聞き上手だなぁ。 熱心にうんうんと頷きながら、時に顔を赤くして聞いてくれる。 ところであのー……ところどころで僕と彼女の理解に温度差を感じるのですが、気の所為ですよね? っと、温度で思い出した。 「あ、話は変わるけど、華雄も風呂、入るよな?」 「うん? ああ、そういえば今日は風呂の日だったか……うむ、いただくとしよう」 「そか」 それじゃあ俺の番は結構あとになりそうだ。 他のみんなも入るだろうし……うーん、俺は俺で、兵のみんなと一緒にドラム缶風呂にしようかなぁ。あっちはあっちでなんというか、妙に心くすぐるものがあるんだよなぁ。 足が伸ばせないのは辛いけど、そこには男心を擽るなにかがあるのです。 普通に風呂を待ってたら相当時間がかかりそうだし……かといって、一緒に入る気はさらさらございません。 ああいうことをいたしたことがあるからといって、女性と一緒に風呂に入るのとは……やはり違うのだ。というか基本、一人で風呂に入ることをしない皆様だ。 大勢の女性の中に男が一人…………考えただけで怖い。 羨ましいと思える人は、まずはその状況を深くイメージしてみてほしい。 常に意識され、常に誰かに見られ、行動のひとつひとつを監視されつづけているような心地。さらにはその視線や女の中に男が一人という状況が、リラックスしたいのに出来ない状況を生み出す……! リラックスしに来て余計に疲れてちゃ意味がないだろう。 それでも羨ましいと思える人はきっと居る。居るんだろうなぁ……。 傍から見ることが出来たなら、俺だってきっと羨んでいただろう。 ……その果てに過労で倒れてりゃ、世話ない。そういう話なのだ。 休憩は大事です。リラックスはとても大事です。 好意を抱いてくれる大勢の中で、休むことの出来る時間というものがどれほど大事か……これを、どうか忘れないでほしいのだ。 想像出来ないなら、その周囲全員が自分を嫌っている人だったら、という方向でイメージしてみてほしい。気が休まる時間があるかを考えてみてくれ。常に警戒し続ける、緊張し続けるというのは、本当に楽じゃないのだ。 「そんなわけで、俺は兵舎に行こうと思うんだ」 「話がまったく見えんのだが」 思いのたけを纏めて、結論だけを華雄に届けた。 ……呆れだけが残った。 ───……。 なにかが動き始めていた。 それは間違いなんかではなくて、俺を見る女性の目が、日に日に怖くなっていた。 ……とある日のことだ。 その日は柄と一緒に鍛冶工房を見学したり、隊ごとの調練の様子を見学したりしていたのだ。 鍛冶工房では目を輝かせ、調練では兵の動きに目を輝かせ、本当に楽しい日だった。 が、些細なことというのは、些細であろうとそこに存在するからには感じてしまうものなのだ。 「違和感だ」 「違和感?」 見学も一通り終わって、街をのんびりと歩いていた。 昼の頃ってこともあり、街は活気に溢れている。 適当な店に寄って肉まんを買ったり果物を買ったりして、もぐもぐしゃりしゃり。 柄は買い食いが好きらしく、給金の大半はそちらで消滅するらしい。 だから以前話したバイトめいたものに積極的に申し込んでは、小銭を稼いで買い食い。 酒が苦手なのに対してそっちで浪費しているとくるのだから、趣向での散財って点ではあまり変わらないのかもしれない。 まあ、そんなわけで違和感。柄とは関係ないが、違和感を語ろう。 「最近視線を感じないか?」 「これだけ人が居るんだから当然だと思いますぞ、父よ」 「その妙な星口調はやめなさい」 「直ってくれないんだ、助けてくれ父よ」 その落ち込み様は凄かった。 そんな柄の頭をぽむぽむと撫でて、話を戻す。 「視線っていってもただの視線じゃないだ。なんというかこうー……狙われているって感覚に近い。桂花が俺を狙うソレとは違うんだけどな? たとえばほら、」 「《きゅむ》おおっ……? よく解ったな父……私が手を繋ぎたがっているって」 「まあ、そんなとこ。こうやってさ、手を繋ぎたい〜とか、そういうものの延長の何かを強くしすぎたような視線を感じるんだ」 「手を繋ぐことの先? …………に、握り潰すのか!?」 「怖いよ!! そうじゃなくて!」 父としてそれはどうなのかとも思ったものの、恋人としてのアレコレを軽く説明する。 手を繋いだり、指を絡ませ合って握ったり、腕を組んだり抱き締めあったり、まあいろいろ。……チ、チスまでは言ってない。気にしないでくれ。キスとか思い描いたら殺意の波動に目覚めそうなのでチスという表現にしているとかそんなことは心底どうでもいい。 だがそれを言わなければ、柄がチスの話題を出すことなど─── 「なるほどっ、そういったことのあとに接吻をするんだなっ」 ───子供の知識の量を見誤っておりました。この北郷も老いておったわ。 そして娘からそういう話題が出てくると、心にめらりと黒い感情が……! 「あ、あー……その。柄? 柄はー……あー、なんというかその、えー……なんだ。おー……」 「いないぞ。男は皆軟弱だ。私は私の相手と認める存在は強い存在がいいっ」 「察しがいいなぁ俺の子なのに!」 「父は私たちの相手とか、そういった話になると途端に“あー”とか“おー”とか言って、ちらちらこちらを見るからな」 よく見てらっしゃる……こんな頃から女って怖いのかもしれない。 ……女にしてみれば、この頃から男は暴力的で怖いのかもしれないが……この時代の男がどれだけ暴力に走ろうが、潰されそうな気がするのは俺だけじゃないよな……? 今やあの心優しかった璃々ちゃんも、“氣を操って武に生きることが出来る人”な現在ですものなぁ……。 「そう言う子ほど、あっさりコロリといきそうな気がするのはどうしてだろうなぁ」 「むうっ……失礼だな父は。私は私より強いか、一緒に強くなれる相手とじゃないと嫌だぞ」 「俺が言うのもなんだけど、我が娘たちはちゃんと結婚できるんだろうか」 「いざとなったら父がもらってくれ」 「もらいませんやめなさい」 恐ろしいことを言わないでくれ。ただでさえ最近、丕と登の様子がおかしいんだから。 なんだかやたらとヤキモチというのか、嫉妬みたいな視線を向けてくるのだ。 脇腹抓ってくるし。 「? 何故だ? 璃々姉ぇは父の娘だが、父の子を産むつもりでいるのだろう?」 「璃々ちゃんは紫苑の娘であって、俺の娘ではありません。前にも言っただろ」 「な、なんと……では父は黄忠さまの夫から妻を寝取って、今まさに娘までをと……!」 「俺もうお前たちを桂花の私塾に通わせるの嫌になってきた」 言った途端に“何故解ったのだ!?”みたいな顔をされる。解るわ、いい加減。 「いやまあ、それはいい。あ、いいっていうのは俺が寝取ったとかそういうことじゃなくて。……言っておくけどな、紫苑の旦那さんは」 「あ、待ってくれ父よ。なんとなく解る。死んでしまったか、蒸発したのだろう? 父が人からなにかを奪うような人じゃないことくらい想像がつく」 「だったら寝取るなんて言葉をまず使わないように」 「《ディシィッ!》はにゅっ!?」 デコピン一閃。 いたずらっ子な顔をしてニシシと笑っていた柄は驚いていたが、額をさすりながらもやっぱり笑った。 「まあ、そんなわけで。俺としても璃々ちゃんは娘っていうよりは妹みたいに見てきたから、子供をとか言われてもな……っつか、え? それ、璃々ちゃんが言ってたのか?」 「え? ああ、うん。璃々姉ぇ、いつかはそうしたいって恥ずかしそうに言ってた」 「───」 璃々ちゃん……キミならもっといい男を狙えるだろうに……。 あ、でもそうなると、紫苑がどんな反応するのかは気になるな。 俺は妹として見てきたつもりだから、娘を嫁にやるよりは多少は、多少〜〜〜は冷静になれる筈……。 「なぁ父よ。もし璃々姉ぇが他の男のもとへ行ったら、父はどんな反応をするんだ?」 「璃々ちゃんが自分から行ったなら、それはもう祝福するだけだろ」 「むう。じゃあ男が言い寄ってきたら?」 「まずはそいつのことを調査だなっ! なによりやさしさと包容力がないとなっ! 外面だけがよくて、恋人とか妻になった途端に私物化みたいにして、逆らえば叩くとかそういうやつだったら───」 「だったら?」 「産まれてきたことを祝福しつつも生きていることを後悔させてくれるわグオッフォフォ……!!」 「父!? 笑い方がおかしい!」 「おおっ!?」 い、いかんいかん、悪魔的な想像が膨らみすぎて、ついサンシャインスマイルが……。 あれ? でも擦れ違う町人たちには微笑ましい顔で「あっはっは、またですか御遣いさまー」なんて言われてスルーされてますが? …………俺、“また”とか言われるくらいにサンシャインスマイルなんてしてるのか? あ、いやいや、子煩悩がって意味だよね? サンシャインがじゃないよね? 「けどまあ、あれだな。柄はその“父”って呼び方、変えてみる気はないのか?」 「? おかしいのか、父よ」 「おかしいっていうか……祭さんが小さくなったような容姿でその喋り方って、結構違和感あるぞ」 「むう、私は私なんだが……それに私は母には似ないよう生きると決めているんだ。むしろ父の故郷である……天? だっけ? に生きる人のようになってみたい! にほんーとかいう場所なんだよな!」 どうなんだー! と訊いてきなさる。 興奮すると口調が乱れるのは遺伝ですかおじいさま。 「まあ、そうだな。ケータイの写真で見せたような服とか建物がある」 「おぉお……よく解らない角ばったものがいっぱいだったあれか」 「日本を好きになるのはいいけど、それよりも故郷を好きになろうな。俺も故郷だからこそ好きなわけだし」 「故郷への愛か。父、私は都になにを求めればいいんだろうか」 「ん? んー……買い食いが好きなら、買い食い出来るものの種類を増やすとか? 牛乳も地味に広まってきたし、クレープやアイスの店を作ってみるとか……」 「あいすは知ってる。父のあれは美味いな。でもくれーぷってなんであるか?」 「口調がおかしくなってるぞー。えっとだな、薄く焼いた生地に果物とかアイスとかクリームとかまあともかく美味いものを包んでだな……」 「父、私はラーメンが好きだ。包めるか?」 「無茶言わない!」 輝く瞳で見上げられ、そんな瞳に残酷な返事。そりゃ汁さえ度外視するなら包めなくも無いが……ク、クレープにラーメン……!? ああいや、タマゴトッピングのラーメンみたいなものなのか? と、そんな思考の前で、がーん、と聞こえそうなほどに仰け反る娘に、彼女が誰に似たのかをよく考えてみて、鈴々と星を足して、それを春蘭で割ったかのようだと結論づけた。 姉妹の前では割とまともなのに、俺の前ではどうしてこうも抜けているのか。 あれか。 祭さんも誰かの前ではキリっとしてるけど、冥琳が絡むと失敗が目立つアレなのか。 「なんていうか……似てないなぁとか思っても、妙なところで娘なんだなぁお前って」 「し、失礼な!」 あ、今のは自分に似てる。なんて思ってしまった。 「私は母のようにのんだくれではないし、誰かを巻き込んで、その誰かを理由に酒を飲んでいたーなどという言い訳はしないぞ!」 「行動のたびに邵を巻き込んでるお前が言うか」 「邵とはきちんと“りえき”を認めた上で協力し合っているのだ! 大丈夫、問題はない!《どーーーん!》」 「利益……へぇ……」 そんなことを考えて行動してたのか。 子供だとか思ってたら、結構考えて行動してるんだなぁ。 俺が子供の頃なんか、他人の利益というよりは自分のことばっかりだったもんなぁ。 「邵にとっての利益って?」 「父の匂いは動物を引き寄せるから、父の服を拝借して邵に渡すと、邵はその日はお猫様天国で《がしぃ!》はう!?」 「前に洗濯に出した服がズタズタになって返ってきたと思ったらお前か! お前だな! お前なんだなぁああっ!!?」 「《がっくんがっくん!》およゎぇあぅえぇあぁああっ!!? すまっ、すまなんだ父よっ! 謝るから揺らすのはやめやぅえぁぇえええっ!!?」 犯人が解ってるのに“お前か”もなにもないものだが、それだって凪が新調してくれたからこそフランチェスカ学園制式学生服【レプリカ】としてここにある。 恐らくは猫に引っかかれたのであろうあの制服も、随分と思い出深いものだから捨てたりなんかしていないが……いや、あの時は目の前が真っ白になったもんだ。 つい美以たちを疑ってしまったりもしたが、真犯人はここに居たのだ。 「柄……天ではな、子への制裁には昔からの伝統奥義として、お尻ぺんぺんというものがあるんだが」 「ぬ、ぬう……尾死裡貶変……!」 「無理に男塾風にせんでよろしい」 教えたの俺だけど。 しかしさすがに娘にやるのは残酷だろうか。 ほら、一応まだ町に居るわけだし。 「………」 “この世界で男女差別なぞ笑いの対象では”と思った俺……べつに悪くないよな? 溜め息ひとつ、掴んでいた柄の肩を離すと、頭を乱暴に撫でた。 祭さんのように軽く結ってある髪がほどけて、はらりと広がるのもお構いなしに。 「うう……なにをするんだ父……。髪を綺麗にまとめるのは、あれで難しいものなんだぞ……? 乱暴にやると妙なところで引っかかって、固結びになったりするし……」 「俺の思い出の詰まった制服はズタズタになったら直らないけどなー」 「ひ、卑怯だぞ父! それを言われたらもはや言い返せないではないか!」 「無断で人の一張羅を取引材料にしてくれた上にたわけたこと言ってんじゃあございません」 「《ぎうー!》むびゅーーーっ!!?」 両の頬を引っ張ってやりました。 最初こそ暴れたものの、さすがにやりすぎたと反省していたのか、抵抗もなくなる。 その抵抗が無くなった時点で俺も息を吐いて、頬を引っ張っていた手を離して……頭をぽむぽむと撫でてやった。 「なんていうか、子供だよなぁお前らは。子供、なんだよなぁ……? 当然なんだけど納得出来ないのは、妙なところで子供らしくないからなんだろうな」 「こ、子供なんだから子供なのは当然ではないか。あ、いや……というか、父? 人が見ている……あまり頭を撫でないでくれ、恥ずかしい……」 「魔のショーグンクロ〜〜〜……!」 「《メキメキメキメキ》ギャーーーーーッ!!」 頬を赤らめ、俯きつつもちらちらと周囲に視線を泳がせていた柄。 そんな娘の頭蓋にアイアンクローをプレゼントした。それを含めての説教だばかたれ、とばかりに。 「お前は痛いよりも恥ずかしいほうが罰になるだろ。ほら、とっとと歩く」 「うぅ……父、他の姉妹らと比べて、私の扱いがぞんざいじゃないか……? 私はやさしい父が好きだぞ……?」 「甘やかしたらとことんまで甘えるだろーが。それこそ俺に迷惑かけるって意味で」 「今まではずっと誰かに迷惑をかけないようにと言われてきたんだっ! それが、今は父が庇ってくれたりするんだぞ! 嬉しいじゃないか!」 「ええいほんとどうしてくれようかこの馬鹿正直娘」 どうやら自分が無茶をした結果で、誰かに庇われるのが嬉しいらしい。 気の強い柄のことだ、きっと将来も自分を守ってくれた誰かに惚れたりするのだろう。 その時は……そ、その時は。 うん、まずはブチノメ……じゃなくて、鍛えてあげようなっ! うん! この世界の女性を守るっていうのはとんでもないことなんだから、鍛えないと! 大丈夫! 愛があれば鍛錬なんてどうってことないさ! あの曹孟徳をして無茶と言わせる我が鍛錬の真髄……その全てを叩き込みましょう! あと南蛮に連れていって、野生の勘を身に付けさせて、春蘭とか華雄と対峙させても逃げ出さない勇気を持たせて、恋の本気モードを前にしても前を向く勇気を…………─── 「!? ち、父!? 何故泣いているんだ!? 私が悪かったのか!?」 「へ? あ、あれ?」 なんか泣いてました。 イヤ、僕ベツニ、今までよく生きてタナーとかしみじみ思っただけで、悲しいことがあったワケじゃないヨ? 「あ、ぁあああ……すまない父、すまない……! 泣かせるつもりなどなかったんだ……! 私はただ、甘えて見たかっただけで……!」 「こういう時くらい男らしい口調はなんとかならないのか娘よ」 「涙を流しながら真顔で言われると、それはそれで凄く胸に突き刺さるぞ、父よ……」 改めて振り返ると、なんとも親子らしくない会話である。 でも親に対する口調がこんなで、妙に態度が大きいのは祭さんの娘らしいのかなぁ。 ……祭さんっていうよりは、やっぱり鈴々や星や春蘭っぽさが盛りだくさんな気分だ。 「ところで父よ」 「話題の切り替えが早いのは母親譲りだよな、絶対」 「いや、反省はした。父を泣かせてしまうなど自分が情けない。だが話したいこととそれはまた別なので、気持ちは切り替えたほうがよろしいではないですか」 「その微妙に敬語みたいなのが混ざる口調はなんとかならないのか」 「じゃあ父が口調を決めてくれ。泣かせた非礼は態度で示そう!《どーーーん!》」 「ワーイ男らしー」 どうにも性格なのか、柄と接するときは娘と、というより悪友のようなノリでいってしまう。口調や態度に遠慮がないからだろう。 そしてそれを、俺が受け入れてしまっているからだ。 しつけをしっかりとする人ならば叱ったりもするんだろうが、一度、まともに接することすら出来ない状況を味わってしまっている俺としては、強く出すぎるということに躊躇を持ってしまっている。 母親相手ならいざしらず、俺相手ならべつに砕けた口調でもいいかぁ、なんて考えが出てしまっているのだ。だって俺の扱いって、御遣いで支柱なのにいろいろとアレだったし。慣れってやつだ、どーしようもない。 胸を張ってフンスと鼻息も荒く、「さーこいー!」なんて言っている娘を前に軽い頭痛を覚えた。戦士の力と血が滾ってタックルでもかますんだろうか。 「じゃあ試しに。祭さんみたいに喋ってくれ」 「!?」 あ、固まった。 まさかこうくるとは思っていたなかったのか、視線が泳ぎ放題だ。 というかさっきから歩いては止まり歩いては止まりで通行人の邪魔になってるな、俺達。 「え、あ、えー……そ、そうじゃのう父。わ、わわわ、わー……儂は、あー……酒が好きじゃー!《どーーーん!!》」 「落ち着け」 上手くイメージ出来なかったようで、結局祭さん=酒に行き着いたらしい彼女は、両手を天へと突き出して真っ赤な顔でそう叫んだ。 ガオーとでも言いそうな、なんとも可愛い迫力しかなかった。 「ふはははははは儂は黄蓋であるぞじゃー! 酒を持ってこーい! じゃー!」 そして語尾に無理矢理“じゃ”をつけて、あとは酒を欲する謎の生命体が光臨しなすった。 こんなところを祭さんに見つかるか、誰かに見つかって祭さんに報告されたらただではすまないだろう。 なので─── 1:共犯って素晴らしいよね。(一緒に叫ぶ) 2:口を塞いで黙らせる。(手で……手ですよ? 口なわけがない) 3:説き伏せる。(祭さんに見つかったら危険だ等の説得) 4:チョークスリーパーで落とす。(得られる静寂、生まれる後悔) 5:マッスルリベンジャーで叩き潰す。(落ち着け、俺) 結論;1 ───え? あ、いや……その意気や良し! 受身ばかりの馬鹿者であったこの北郷、今こそ捨て身に辿り着かん! 「酒が好きだーーーっ!!」 「酒が好きじゃーーーっ!!」 天下の往来で叫ぶ親子の姿よ、なんと潔い。 そしてなんのノリなのか、もはや軽い騒ぎなどいつものことと認めている都の住人は、これもいつものことだとばかりに……一緒に騒ぎだした。 「おー! 俺っちも酒が好きだぜぇーーーっ!!」 「仕事の後に飲む酒は最高だぁなぁ!!」 「だっはっはっはっは! こんなこと、普通堂々と言えねぇわなぁ!」 なんだかよく解らないうちに広がる輪……酒好きたちによる集い。 熱く、厚い絆は自然と酒好きの本能をくすぐり、酒を愛するものはその鼓舞にも似た叫びを耳ではなく心で聞きとめ、この場へと集ったのだ……! 「ほおう? 楽しそうなことをしておるのぉ北郷」 『ひぎゃいっ!?《びくーーーん!!》』 ……そう。 きっと誰にも負けないほどの酒が好きな、あの人まで。 お約束? ええお約束ですとも。 (なぁ柄。こんな時……こんな状況に題名をつけて絵にするなら、なんてつける?) (はっはっは、父はよく解らんことを言うなぁ。私にはもう難しすぎてなにがなにやら) (そっかそっかぁ。こういう時はね、重要なことを題名にするのが一番なんだ) (そうなのか。それじゃあ───) (ああ、それじゃあ───) サブタイ:振り向けばそこに。 「おかしなこともあるものじゃのう。確か我が娘は、酒が大層嫌いであった筈だが……」 「はっ……は、ああ……!」 胸の下で腕を組み、にたりと笑う姿は恐怖の塊。 なんかもう柄が、武論尊さん漫画のモブっぽい引き攣った声をもらしている。俺もだけど。 「酒の味に目覚めたのか? んん? どうなんじゃ?」 「は、はうっ……はうう……!」 軽く腰を折り、自分の顎に手を当てて値踏みするような視線で柄の表情を間近で覗き見る祭さんは、もう解っててやっているのが周囲の誰もが理解できるほどに楽しそうに柄をからかっていた。 で、そんな柄はチラチラと俺に、視線で助けを求めてくる。 「よし、では酒を飲みに行くとしよう。ああ心配はいらん、儂の奢りじゃ」 「!? だっ───んぐっ!」 あの祭さんが奢り!? 酒で!? 思わず懲りずに誰だ貴様とか言いそうになるのをなんとか抑え、ともかく驚愕。 そんな様子を、祭さんがじとーっとした目で見つめてくる。 ああ、うん。俺もだなぁ。こういうところでの失敗がいつまで経っても少なくできないから、いろいろと苦労を重ねるんだろうなぁ。 娘に偉そうなことをてんで言えない父親でございますが、今後ともよろしく。 そんな思いを込めて、ササッと柄の後ろに回り、「うん?」と祭さんが訝しむのに合わせてニコリと微笑む。 「祭さん。俺はね、祭さんやみんなと鍛錬をしてきて、解ったことが結構あるんだ」 「ほう? こんな状況で言うということは、重要なことか」 「うん。祭さん、賭けをしよう。俺が勝ったら柄も一緒に見逃してくれ」 「はっ、勝負ときたか。お主が儂に勝負を仕掛けるなぞ、珍しいこともあるものじゃのう」 「どうする? 勝負方法を聞いてから受けるか、このまま受けるか」 「見くびるでないわ孺子。勝負を挑まれれば受けて立つのが武に生きる者よ。戦が無くなったとはいえ、腕を鈍らせるようなことなぞしてはおらん」 当然とばかりに、勝負に乗ってくる祭さん。 そんな事実に柄の体が強張るが、まあ心配しなさんなとばかりにポムポムと頭を撫でる。 「じゃあ勝負ね。俺と柄が城の部屋に戻るまでに、祭さんが捕まえられなかったら俺たちの勝ちで! んじゃゴー!!《ダッ!》」 「なっ!? なんじゃとっ!?」 言うや、柄を抱えて全速ダッシュ! もちろん氣を弾かせて加速させるのも忘れない。 一歩で相手との距離を殺す歩法に身体への加速効果も合わせ、人が溢れる街の中を駆け抜けていった。 「くうっ! やってくれるわ!」 すぐに追いかけてくる祭さんだったが、フフフ……甘いぞ祭さん! 街、そして祭さんとくれば、上手く身動きが出来ない理由は存在する! 「あ! 黄蓋さまだー!」 「黄蓋さま! 遊んでー!?」 「ぬあっ!? こ、こらっ! 道を空けいっ! 今はちと立て込んでおってじゃなっ……!」 あっという間に街の子供たちに囲まれる祭さんの図。 そんな光景を自分の肩越しに見つめ、さてととばかりに先を急いだ。 「くううっ……おのれ北郷ぉおおっ……! よくもこの儂を出し抜いて……ってこらっ! 誰じゃ今胸を触ったのは!」 「ご、ごめんなさい……わたし、こうがいさまみたいにおおきくなりたくて……」 「こんなもの、大きくても邪魔になるだけじゃっ! 重い上に走りづらい……くっ、なるほどのう、走るという時点で勝利を確信しておったか、北郷め……! って、だから胸を触るでないわ! ええいいつの時代も何故子供はこうなんじゃ!」 いろいろと躊躇がないからだと思います。 ハンケチーフでも揺らしたい気分だったけど、そんなことをして別の誰かに捕まるのもアレなので、早々にその場から離れ、部屋を目指したのでした。
ネタ曝しです。 *デカくて速くて強いこと。これだけ揃えば負けはない。 KOFシリーズより、七枷社の勝ちセリフ。 小説最大多数の最大幸福ではデカくて速くて喧嘩が強い上に男前、になっている。 *チス チベットパドマー寺院におわすティンズィン様流のキスの言い方。 ゆでたまご、好きですか? あ、違うそうじゃなくて。えーと、3×3EYESより。 パドマー寺院でよかったよね? *グオッフォフォ……!! サンシャインスマイル。キン肉マンより。 生まれた子に罪はない。問題になるのは育て方と育ち方である。 *お前か! お前だな!? お前なんだな!? あいつに変なことを吹き込んだのはお前か! お前だな!? お前なんだな!? カナリア-この想いを歌に乗せて-より。ドリキャスですね。 これの部長は不憫だったなぁ……。 あ、ちなみに言っているのは部長で、記憶が確かなら移植版新キャラストーリーで叫んでました。 某ヒロインルートのアレは、今でも事故のニュースを見る度に思い出す……。 そんな記憶のリプレイは、震えては待てないのです……。 *魔のショーグンクロ〜〜〜 キン肉マンより、悪魔将軍の技。 やられたバッファローマンがわざわざ紹介してくれている。 将軍クローではない。魔のショーグンクロ〜〜〜だ。 その実、ただのアイアンクローである。 *さーこいー! アークザラッド2より、グルガのセリフ。 他にも「戦士の力がぁ!」や、「俺の血がァ!」などがある。 そしてグルガタックルは相手を一歩下がらせることで有名。 とりあえず服を着なさい。 いや懐かしい。 スケルトンをリーザのラヴィッシュで仲間にして、リヴァースエッジ装備させて主力にしてたなぁ……。 名前はパパトスカーニで。 *パパトスカーニ 空想科学世界ガリバーボーイより、ガリバーの養父の名前。 パパ・トスカーニ、と書く。 ジュドー様、いいキャラしてたなぁ。 *マッスルリベンジャー キン肉族三大奥義のひとつ。奥義の壁画はころころ形が変わる。 KOFで真似されており、それぞれ…… マッスルスパーク→クラークスパーク マッスルインフェルノ→ハイデルンインフェルノ マッスルリベンジャー→マキシマリベンジャー ……と、なっている。 でも気合の入り方はマキシマリベンジャーが一番だと思うんだ。 なお、マッスルリベンジャーのみ失敗時に雷が落ちるっぽい。 マッスルスパークは未完成でも平気なのに。 *その意気やよし 別に意味はないのだけれど、思い出すのだから仕方なし。 鳥の将に死なんとする、其の鳴くや哀し。 人の将に死なんとする、其の言ふや善し。 この言葉を知ったきっかけは、かおす寒鰤屋という漫画でした。 作者さんは現在、王様の仕立て屋という漫画を書いている模様。 かつて見た漫画家さんがまだ頑張っているのって、なんだか嬉しい。 *武論尊さん漫画のモブっぽい引き攣った声 北斗の拳や花の慶次などのモブさんが言う言葉。 「はああ……!」とか「は、ああ……!」とかいろいろ。 大体が恐怖に怯えている時など。 なん……だと……!? 133話が負けた……!? 馬鹿な、やつは四天王最強だぞ……!?(文字数的な意味で) フフフ、どうやら敵もなかなかやるようだ。 だがこの134話は一筋縄ではいかんぞ。 ……うむ、一筋縄でいけばなんというかそのー……私の負けだ!《どーーーん!》 ええ、当然この言葉に意味などはございませんとも。 ただ毎度毎度後半へ続く〜では、なんだかなぁと……。 しかしこう……なんでしょうね。 なん……だと……と書いてしまったために思い出したのですが、とりあえずブリーチのキャラは一度、敵を追い詰めたら頭蓋を粉砕して魂のカケラまで消滅させるまで勝利を確信しない戦い方をしてみてほしい。 きっと新鮮な気持ちで見れると思うんです。 そうまでしても「なん……だと……!?」になるのなら、もはやいっそ清々しく見れますとも……もうキャラの名前を覚えきれてない凍傷ですが。 Next Top Back