番外のさん/歩む道、我らは胡蝶とともにある 霊が乗り移って完了する生まれ変わり。 いろいろ条件はあるようなのだが、今となってはべつに血は関係ないらしい。なにせこの大陸のほぼに俺の血が混ざっているから、だそうだ。 冥琳も言っていたには言っていた。なにかが起こればそこから辻褄が始まるかもしれないと。 だとしても、まさか過去にまで干渉できるだなんて誰が知る。 そりゃあ、銅鏡を使って統一を願ったことでは一応、過去から現在にかけて干渉をしているわけだ。今さらあーだこーだ言ったって、なったものはなった、としか言いようがない。 でもそれって幽霊になってしまえば過去から現在までの歴史を変えられるってことじゃないか? いいのかそれ。 なんて思ってたら、目の前の女性が教えてくれました。干渉出来るのは自分が霊であった頃の時間だけであり、死んだばかりの人が過去に戻って歴史に干渉、なんてことは出来ないらしい。未来を見ることが出来ても、たとえば人として生まれ変わってしまった時点で、その先の出来事なんて記憶から消えて無くなってしまうんだそうだ。 だから現在に絶望して、“こんな筈じゃなかったのになぁ”なんて自殺して霊になったところで過去には戻れないし、辻褄に干渉することも出来ない。そもそも自殺なぞしたら地縛霊になって、自殺した場所から見える範囲までしか行動ができないから、惨めになるだけだと。 あとは……ややこしい話、一定以上の……その、知名度というのだろうか。が、ないと、歴史に干渉することなんて無理なんだそうだ。三国の戦いが三国志って名前で歴史に残っていたように、けれど残っていても“実はこうだったのでは”なんて“もしも”が許されないと、過去から未来を変えることなんて出来やしない。 それは、俺が銅鏡に願って、辻褄が現代に追いつくまでに“軸”として願ったものとそう変わらない。 例外として、いつかの瞬間に俺が銅鏡に願ったことで完成した“もしも”は、そこに存在する定義からは外れるのだとか。 例外ってなんだろう。 軽く首を傾げる俺に、彼女はクスッと笑って返した。 「では自己紹介を。姓は夏侯、名は|琳《りん》、字は|元才《げんさい》。今の姓名字は、ですが。改めた自己紹介で言えば、姓は曹、名は丕、字は子桓。普通ならば夏侯頌瑛として産まれる筈の存在でしたが、その歴史を塗り替えて生まれました。……まあ、その割りには容姿はかつてのままですが。夏侯頌瑛の髪は水色でしたね。私は見ての通りです。母さまの金色と、父さまの黒。だからこそ頌瑛ではなく母さまの真名から“琳”を、夏侯の姓の誉れたる字、元譲と妙才から取った元才を頂きました」 「……まさか執念で転生までするとは思わなかったぞ……?」 「そういう世界にしたのは父さまですよ。……さて、父さま? 人の祖を辿れば、誰が最初なのかなど解ったものではありません。いい加減、血も薄いようですし。そこで父さま? あなたは1800年後に生まれた者を前にしても、まだ血筋がどうとかを理由に受け入れてはくれませんか?」 「お前まだ諦めてなかったのか!?」 「当たり前です。なんのために父さまと同じ程度の外見年齢になるよう、産まれる時期を選んだと思っているのですか」 「………」 聞いてアロエリーナ。 ちょっと言いにくいんだけど、聞いてアロエリーナ。 かつての娘の執念が怖いの。 聞いてくれてありがとうアロエリーナ。 アロエなんてないので、エアアロエリーナに聞いてもらった。……え? 孟徳さん? 彼は都合の悪い時にばっかり現れる脳内妄想だから、きっと聞いてくれないよ。 「霊体で時を待つ中で、私たちも様々を知りました。成し遂げられなかったこともたくさんあって、口惜しさのあまりに危うく悪霊と化すところでしたけど、皆が廟を作り、祀ってくれたおかげで、この時代までを待つことが出来ました」 「……だからって、ここまで待つか、普通。いや、嬉しいんだぞ? 嬉しいは嬉しいんだ。正直、もう会えないんじゃないかと思っていたんだ。華琳との間に子供が出来て、たとえその子に“丕”って名前をつけても、お前であった記憶なんてきっと無い。だから……」 「そうですね、全くの別人になるでしょうね。むしろそっちにはこの体に宿る筈だった命を代わりに譲ってあります。父さまの子というのは誇らしくもあるのですが、“そういう対象”として見てもらえないことの辛さは、既に散々と味わいましたから」 「けどな、仮にも親子で」 「もう本当に“仮”ですから問題ありません」 「や、意識的な問題も」 「その考えを捨てる努力をしましょう」 「華琳がなんて言うか」 「むしろ応援してくれます」 「………」 ああそうだろうね。こだわらず抱いてあげればよかったのに、とさえ言われたよ。 「はぁっ……そりゃな、結局老いるまで誰も好きにならなかったお前だ。その覚悟は解ってるつもりだけどな」 「あ、説得は無駄ですから続けても仕方ないですよ、父さま」 「………」 「………」 「俺のどこが」 「全てですっ!《どーーーん!》」 質問も半端に、即答で返された。 口があんぐりと開いたまま、閉じられなくなるほどに見事な即答。 しかも自分のその感情を微塵も疑った様子のない、真っ直ぐな目だった。 「……一時的な気の迷いだって思ってたのに。どうしてこんなふうに育ったのかなぁ」 「父さま以外に男として見ることの出来る人物が居ませんでした。民や兵は、男女ではなく民や兵でしかありません。もちろん道具のように見ていた、なんて愚かな感情もありません。ただ、性別を意識した相手として見ることが出来ませんでした」 「お前のこと気になってた男だって結構居たのに」 「? 初耳ですが」 「お前がそういう話を聞こうとしなかっただけだろ……」 それ以前に俺がお帰り頂いた、という事実もあるにはある。 親ばかでごめんなさい。 「まあ、とりあえずみんなのところに行くか。娘が記憶を持ったままいきなり転生しました、とか言われても処理しきれない」 「ははぁ……けれど父さま? 外はもっと大変なことになっていると思いますが」 「……エ?」 外の空気を吸いたかった。 その心に導かれるまま、喋りながら扉の前へと歩き、ソレを開けていた。 部屋の空気が流れる。 外へ向けてか、中へ押し込まれるか。 部屋の中と外ではやっぱり温度は違うようで、そんな小さな温度差に目を瞬かせた瞬間、閉じた瞼の内側……黒よりも明るい色の中に、一瞬だけ映った景色が焼きついた。 焼きついたら……目を開けるのが怖くなっていた。 と、いうかだ。 ……そんなのアリ? 「ア、アー……丕サン?」 「……父さま。いい加減に私に真名をください」 「華琳から貰えばよかったじゃないか。というか、だな……! どうしてみんな、揃いも揃って俺から貰いたがるんだ!」 目を閉じながらの問答。 そして、閉じた視界の先から、少し笑うような声。 「それはもちろん、お手伝いさんから受け取りたいからですよ」 ……ああ、もう。 必死になって目を閉じてたのに、台無しだ。 俺をお手伝いさん、なんて呼ぶ人物なんて、一人しか居ない。 「……まさか。みんなこの歳あたりに生まれる子の在り方を譲ってもらった、なんて言わないよな?」 『言います』 声が綺麗に揃った。 しかも一人や二人どころか、十人や二十人でもきかない。 とてもとても嫌な予感とともに嬉しい予感も走って、ええいままよとばかりにパッチリと目を開く。 その先にあった光景を見て、まず思ったことといえば…… 「キミたち。いったいなにをした」 こんなこと、出来るものなのか? っていうのが最初。 だって、目の前には娘達はおろか、警備隊の連中までもが居たのだから。 「父さ……いえ、ここはあえて。“ととさま”が願ったことを、そのまま託しただけですよ」 そう言ったのは禅。 にっこり笑顔でそう言って、誰の真似なのか胸をトンッとノックして見せた。 「俺が願ったことって」 「はい。遅くなりましたが、約束が為りましたので……ようやくここへと辿り着けました」 「いやいやいやっ、言っている意味がだなっ……」 「父よ、難しく考える必要はないぞ。簡単に言うと、私たちも母らと同じく父の願いと一緒に呼ばれたような存在だ」 「え?」 柄が腕を組みながら、目を伏せてうんうんと頷いている。妙な仕草で喋るのはやめなさいってあれだけ言ったのに。 「父は銅鏡に外史統一を願い、世界の支柱としては“あの頃”が傍にあることを願った。そこのところはモンゴルモミアゲハゲマッチョに聞いている」 「そこは貂蝉って一言で言ってやろうな……」 「父が中々こちらへ来られなかった事情も、于吉とかいう胡散臭いやつから聞いています」 「そうなのか?」 述がムフーと自慢げに語る。 ……たぶん、なんでもいいから俺の知らないことを俺に教えてあげられるのが嬉しいのだろう。 「はいっ、私たちは父上との“約束”に縛られていましたから、すぐに父上のもとへと参じることはできませんでしたがっ」 「……お前は何処でも元気だなぁ、邵」 ツインテール状態じゃなければ明らかに明命なかつての娘が、元気に返事をする。 ここまで似ているのにもはや娘ではないというのは、いっそ詐欺ではなかろうか。 でも……そっか。約束を守るために、ずっとここで待っていてくれたんだよな。 左慈の言う通りじゃないか。 “果たされなければ眠りにつけない想いというものもある” 約束が果たされたからこそ、彼女たちの魂はようやく眠りにつけ、この時代へ御遣いとして来ることが許された。 そして、それが許される時間を10と数年戻っただけの話。しかも、娘という立場では婚儀が出来ないからという、ただそれだけの理由で。 「えと。それじゃあ……なんだ? その。お前たちも、もしかして御遣いの氣とかを……」 「いいえ〜? 残念ながらそれはありませんよ〜?」 答えたのは延。 相変わらずのぽやぽや感をそのままに、頬に手を当て首を傾げるようにしながら、にっこりと笑っている。 「ええっとですねぇ、私たちは普通ならばお父さんの娘としてそのままここへと降り立つところを、銅鏡の願いと御遣いの立場を代償に、子供として産まれてきてしまったのですよ〜。ですから元の氣はあっても、それはお父さんが扱うような二種の氣ではなく、産まれ持ったものしかないんですねぇ〜」 「いや……え? そんな代償行為をいったい誰とすれば、そんなことが可能なんだ?」 「常識や辻褄とですよ、お手伝いさん。お手伝いさんに呼ばれただけでは、御遣いの氣とともにただこの時代に飛ばされるだけです。ですから御遣いの氣を犠牲にして、産まれるところから始めました。元々霊体でしたし、偉大なる母らのように肉体を持って降り立てるほど、私たちが存在する“外史”は存在していなかったようです」 「それに、それを為すにはこの世界はもう、随分と辻褄を形にしすぎていたそうです。元の自分の体を持ったままこの時代に、ということを為すには、私たちの歴史は……死んだ、という歴史は、この時代に定着しすぎていたのです」 延に続き、j、登が説明してくれる。 そこらへんのことは左慈が説明してくれたらしい。 ……案外暇なのか、あいつら。 ていうか、こっち来てるんじゃああるまいな。 「……そっか。そういえば、華琳たちを呼んだ時も、辻褄が時代に追いつくまでの勝負のつもりでやったから……そっか」 なるほどだ。 なるほどだけど……まさかなぁ。 「それで全員、この時代に生まれ変わりってやつをしたってことか……」 「理由はどうあれ、私は父さまの傍に居たくて、その……っ!《ぱああ……っ!》」 「……ファザコンって死んでも治らないんだなぁ……」 馬鹿ですら治ると言われているのになぁ。 しみじみ思いつつ、扉の先に居た娘達を見る。 娘達は娘達。そのまんまの意味で、全員いらっしゃる。 真っ先に思ったことはなんだろう。 俺こそお帰り? 改めてただいま? ……いや、ここは心を込めて、この言葉をある人に贈ろう。 ……じいちゃん、頑張れっ! 名前はもう決まっているから、真名を考えてもらおう。 みんなの前だっていうのに突如として抱き付いてきた呂姫を抱きとめつつ、その頭を撫でる懐かしさを笑みとして浮かべながら、心の中のじいちゃんにサムズアップを贈った。 「で、だけどさ。俺の記憶が確かなら、廟には町人や兵の魂もあったから……その」 「? はい、ですから、父さまはこの世界の支柱として、“あの頃”を願いましたよね? 言葉としてよりも、意識として。助けてほしいという言葉の割には、“守れなかった”という思いのほうが強かったわねん、と……モンゴルモミアゲハゲマッチョが言ってました」 「だから、丕さん。貂蝉って呼んであげなさいってば」 ……言いつつ、ああ、なんて納得してしまった。 つまりあの時、俺が見た兵たちみんなの幻は……不安だった俺のために、ひと足先に会いにきてくれた人達の姿なわけで───え? 「え……じゃあ……」 会える、のか? 居てくれるのか? どれだけ泣いても、どれだけ叫んでも届かなかった言葉が、今なら届けることが─── 「……父よ。涙を溜めているところ、悪いが。これだけは言ってくれと左慈ってやつに頼まれた。……“世界は、思うほどやさしくはない。貴様が願った世界は平和になってからの世界だ。そこに、貴様の願うあの頃など無い”……と」 「っ……」 ……ああ、そっか。 思い出せたのはあくまで、御遣いの氣が運んできてくれた記憶があったから。 全てが全て思い通りになるわけもなく、なにもかもが幸福である未来を思い描けるほど、あの時代の幸福と苦労が混ざり合うことなどなかったのだ。 そう思った瞬間、喉に、なにかが詰まる。 グッ……と込み上げる何かを喉からこぼれないようにしたら、代わりに涙がこぼれた。 それを見るや娘たちが一斉にざわざわと狼狽えはじめ、場は混乱の一途を激走する。 「………」 そんな騒ぎを前に、逆に落ち着けた。 親だから涙を我慢しろ、なんて覚悟は永久に要らないって、そう思う。 それでも引っ込んだ涙を無理矢理流そうとは思わないから、今は…… 「……ありがとう」 そしてごめんなさい。平和ばかりを願ってしまい、ともに戦ってくれたあなたたちを願ってやれなかった。 口には出さず、記憶の中のみんなに謝り、自分を心配してくれるかつての娘達を、ぎゅっと抱き締めた。 ……人数が多すぎて抱き締められなかった娘も居たけど、途端に背中に抱きつかれたり腕にしがみつかれたり、首に抱きつかれたり腰に抱きつかれたり……こ、こらっ! 邵っ、姫っ! 人の首を奪い合うんじゃありません! 首が絞まる! 絞まっ《ゴキャア!》ギャアーーーッ!! ───……。 一日を明かしただけで、都はとても賑やかになっていた。 もちろん昨日の都がそうでなかったとは言わないが、目を移すと何処にでも笑顔がある。そんな景色にかつてを重ね、笑顔になっている自分を笑ってしまう。 「御遣いさまーーーっ!」 「御遣いさまぁあっ! また会えて嬉しいです!」 街には見知った顔ばかり。 聞けば、都には必要最低限の管理をする者しか置かなかったらしく、今現在ここに居るみんなは……厳密に言えば昨日までは居なかった者。つまり……あの頃のみんなだ。 喜びも後悔も混ぜた思いで見つめる視界には、転生したらしい兵や民の姿。 どこまで贅沢な願いを託したんだか、俺は。贅沢を唱えるなら、もっと貪欲にいけばよかったのに、とも思えてしまうけど。 みんなはもちろん、俺との再会を喜ぶだけではなくて、生前に後悔したことをしようとする人も結構居たりして、その顔は笑顔だったり泣き顔だったり。 「かあちゃん……かあちゃんよぉ……! 俺ぁ、仕事に出てた所為でお前を見送ってやれなくて……!」 「なぁに今さらめそめそしてんだいっ! あんたは立派にあたしたちを守ろうとしてくれたんじゃないかいっ!」 「もう無理はさせねぇっ! 今だったら薬だってあの頃よりあるんだっ! 絶対に、絶対に俺より先になんか死なせたりしねぇ!」 「……はいはい、まったく……。いい大人が青っ洟たらして泣いてんじゃないよ。……でも、ありがとうね」 「っ……〜〜〜……! かああちゃあああんっ!!」 「だぁっ! もうっ! 泣くんじゃないったら! ほらっ! 御遣い様も見てるだろうっ!?」 過去から生まれ変わって現在に至っても、約束が果たされたのが今だからなのか、昨日か今日にかつての記憶を思い出す者も多かった。 かあちゃんだのなんだのと言っている人たちも居るが、面白いことに俺と外見年齢は変わらない。そりゃそうだ、あの頃の二人はまだ結婚すらしていなかった。若い筈なのに、口調は亡くなる前の口調だっていうんだから、そこにはきちんと歴史がある。 「……うん」 さて。 都への帰還を果たした翌日の朝。 雲ひとつない蒼天の下、一人でゆっくりと散歩をしていた。 都の街に溢れる喧噪はいつかのまま。 ただし、若い者ばかりが居るというのに聞こえる口調は大人のものばかり。 完全にかつてのままの、とは当然いかないまでも、眩しいくらいの“あの頃”がここにはあった。 それがこの時代にあるのは、自分がきちんとあの頃の平和な世界を心に焼き付けていたからなのだろう。 ……我が儘だろうけど、どうして戦の頃のみんなも思い出してやれなかったのか。それだけが悔しくて仕方ない。 思い出せなくなってしまったみんなの顔も、思い出して涙したあの頃も、今では悔しさばかりに埋め尽くされて、でも……彼らが頑張ってくれたからこそあるこの平和だ。それを悔しさで否定するつもりなんて……当然ないのだ。 思い出せたものを否定したりはしない。 またいずれ忘れてしまうのだとしても……ならせめて、この平和を守っていこう。 豪快に笑う、外見だけは若い店番の女の人に投げ渡された物を見て、滲む涙を拭って誓った。 貰った桃を、齧って笑う。 まずはいろいろやらないとだ。 娘達や街のみんな、兵がこの時代に来たことで、教えなきゃいけないことが一気に増えた。 昨日まででも結構なものだったけど、これはやり甲斐がありそうだ。 まずはこっちで実績を見せつけて、こちらでも取れるのなら資格なんかも手に入れて。 それから、大手を振って日本に……………… 「帰れる……カナ」 なんか全力で引き止められるか、みんなして付いてくるとか言いそうだった。 さすがにあの人数を連れていっても、案内出来る部屋などないわけで。 ……あれ? これってもしかして、俺がここに住むしかなくなるのか? 道場を継げと託されたのに? 「まあ、娘達だって臨終まで生きたんだし、今さらそんな我が儘なんて言わないよな」 それを言ったら、自分と一緒になってくれたみんなもだけど……みんなの場合、他の外史の意識と……主に若い頃の意識との統合が多かったから、精神がそっちに引っ張られてるんだろうからいいんだが……宅の娘たちの意識は、たぶんそうじゃない。……たぶん。 だからよっぽどのことが無い限り、また恋をしたり結婚したりをするんだろうし、そしたらまた俺は貴様なんぞにィイイと相手を殴りにかかるのだろうか。ダ、ダイジョウブダヨ? 流石に猛、ソンナコト。……いかん、“もう”が猛ってらっしゃる。 そうだな、そうしたら娘達も自然とここに残ることになるんだろうし、きっと大して変わらない。 「うん」 桃を食べ尽くして、胸をノックした。 一度は忘れてしまったみんなの顔を思い浮かべ、これからも強く生きてゆく意志を胸に叩き込むようにして。 どうか見守っていてくれ。 願ってやれなくてごめん。 思い出せたあの日、せめて会いにきてくれてありがとう。 ごめんとありがとうを胸に、今日も一歩を踏み出した。 ……。 そして立った、久しぶりの玉座の間。 自分の部屋……まあ、屋敷か? その建物の隣に位置するそこへ、久しぶりに大勢が集まった。 面白いことに、母親と同じくらいの背格好の娘達に、皆呆然としている。 「さて。もう集められた理由など察しがついているでしょうけれど。昨日と本日とで、状況が変わったわ」 急に娘が再び、しかも今の自分と同じ外見年齢で現れれば、そりゃあ誰だって驚くだろう。 むしろ昨日まで李さんだった人が、かつての娘になっているのだから驚き以外に何を抱けと。そんな様子の母親である稟は、眼鏡をいじりつつも困った顔をしていた。 玉座に座るのは当然華琳。 他の外史では天下を統一した桃香や蓮華も、“その先”までを記憶していないことから、素直に華琳に場を譲った。 「軽く纏めた情報は陸延からもらっているわ。事が起こったのは昨夜であり、それを感じ取った貂蝉、卑弥呼、左慈、于吉が廟へと訪れたそうね」 「はいぃ〜、既に安定に向かっていた辻褄をいじくるのは危険だ、とのことだったんですけどねぇ? ならば既に生まれていた子として傍に立つのなら問題はないでしょう? と」 「……そう。まあ、あの腑抜けた者たちを鍛え直すのは骨が折れそうだったのだから、それは別に構わないのだけれど。それはつまり、あなたたちはもう私たちの娘ではないということよね?」 華琳が鋭い方向で目を細め、言い放つ。 それに対し、動揺したのは母親たちの方だ。 「はいぃ〜、それはもちろんですよぅ? 意識は確かに元の私たちですけれど〜……血縁としては、遠い子孫ということになりますねぇ〜」 「それで? そうなってしまった以上、私たちがもしこれから子を産むとして、娘として産まれるのは、“昨日までその体に存在していた魂”を宿した子供であり、あなたたちではないということ?」 「はい〜」 『───』 全員、ますます同様、停止。 のちに華琳が出した言葉は、「冗談ではないわね」だった。 「子孫とはいえ、何処の誰とも知らぬ者が作った子を産めということ?」 「いえいえぇ、魂はそうであっても、記憶などは全然。それらの記憶も私たちの中にはあるので、産まれてくる子は間違い無く孟徳母さまの娘ですよぅ?」 あ……やっぱり娘なのは確定なのですか。 それってやっぱり俺の血の所為なのですか? そうなのですか? 「……つまり、他の男の種で育まれた者ではないと?」 「当たり前ですよぅ。お父さんと孟徳母さまが頑張って出来る子なのに、どうして他の男の種で産まれるんですかぁ」 「……そ、そうね。そうだったわね。………」 あちこちから安堵の溜め息が。 いやあの……昨日までの子が可哀相だからやめてあげて……。 「こほんっ! ……では、別のことを訊くけれど」 華琳さん、顔真っ赤です。 でもなんだか嬉しい。今を生きていた子の場所を無理矢理娘達が奪ってしまた状況なのに、ちょっと不謹慎とは思いつつも……やっぱり嬉しい 「あなたたちはこの国で生きて行くのかしら。日本の一刀の家には、もうこれ以上入る余裕はないのだけれど」 「いいや、曹操。その問題は別の方向で解決している」 「……なんですって?」 赤いままの華琳に待ったを唱えたのは冥琳だ。 縦セーターがやたら眩しい、随分と時代に染まった服装だ。 「彼女らが北郷の道場に来るとして、私たちはフランチェスカに通うことが決定している。フランチェスカは全寮制だ。私たちが寮に入る分、道場に空きが出るだろう」 「あら。冥琳? あの時代では娘だったとしても、今は遠い血縁というだけのこの子達をどう紹介する気なのかしら?」 「北郷老は冗談を好かん。正直にありのままを話せばいいさ。あの時代では娘だった。この時代では事情があって血縁ではないと。祖父がどうしようもないほどに“血”にこだわるのであればどうしようもない。こだわらぬのであれば迎えてくれる。それだけのことだろう」 「それだけではないから言っているのだけれど?」 「なに?」 言って、華琳がじいっと見つめるのは……娘達。主に曹丕だったりした。 「さて、かつての娘たちよ。あなたたちに問おう。あなたたちは娘として一刀についてくるの? それとも女としてついてくるの?」 ざわっ……と、間違い無く玉座の間にとんでもなく大きな動揺が走「女としてです」ッタァーーーッ!!? 即答!? 丕さん!? あなたって人は! 「もはや確認するまでもないとは思いますが、私は父さまと結ばれるためならば1800年すら堪える意地と覚悟がありました。今さらその想いは変わりません」 「………」 「………」 「丕。“諦めなさい”、と言ったら?」 「諦めません。というより、もはや諦める理由がありません」 「……この国に一夫多妻制をしつこいくらいに残すよう文献を記したのはこのため?」 「言いましたよね。1800年すら堪えることの出来る想いだと」 かつての母と娘が、胸を張って睨み合う。 その張られた胸の差に、ビキビキと母側の額に血管が浮き出るが、けっしてツッコんではいけません。 「まあ、そうね。あなたの気持ちはあの頃から解っていたことだから。……それで? 他の者はどうか」 華琳が娘達に向き直り、言い放つ。 するとどうでしょう。みんながみんな胸をノックして、……ワア、スゴークイヤナヨカーン。 「えへへぇ、面白いことにですねぇ〜、“血筋”という枠から離れてみると、お父さんはそれはもう素晴らしい殿方でしてねぇ? いえいえ、元々が私が支えてあげなくてはと幾度も思ったお父さんですし、いっそこうなったのは何かの好機だと思いましてぇ。ねぇ述ちゃん?」 「親だからと諦めた者は大半です。むしろ、かつては他の男を迎え入れたからこそ、父上の良さに苦悩する姉妹のほうが多かったくらいです。……登姉さまはそれで後悔したのですから」 「受け入れてみれば、人の顔色ばっかり窺ってびくびくして。どうしてこんな人だったのか、などと何度も思ったものです」 「ですですっ、なので断然父上がいいかとっ」 「お手伝いさんほどお顔が輝いて見える方など居ませんでした。むしろ娘だどうだと、それで否定され続けるのもいい加減に限界です。偉大なる父は既に死んだのですから」 「だから勝手に殺さないで!? 生きてるからね!?」 「……現在の父は母にベタ惚れで、娘の私は基本、放置ですから。やはり私と真剣に向き合って接してくれる人など、お手伝いさん以外にはいらっしゃいません」 「私はべつにどちらでも……と言いたいところですけど、ととさ……父さま以外の人と一緒になって知ったことは、あまり楽しいことではありませんでしたから。だから、ですね、ととさま……じゃなくて父さま。結婚というものの良さを教えてくれると、嬉しいです」 「禅……キミもなのか……」 キミだけはまともだと思ってたのに。 そして柄さん? なぜキミは祭さんの前に立っているので? 「母よ! 今日は宣戦布告に来たぞ!」 「ほほう……? なんじゃ、北郷を奪ってみせるとでもぬかすつもりか?」 「な、なんで解った!?《がーーーん!》」 「……お主はちぃとも成長せんのぉ……ああ、だが別に構わん。時に柄よ。お主、過去に娘を産んでおったよな?」 「お、おお? それは……まあその」 「もちろん儂も覚えておる。生まれた頃は随分と親ばかになっていたが……柄よ」 「だ、だからなんだ、母よ」 「……初体験はどうじゃった?」 「あんなもの、痛くて気持ち悪いだけだっ! なにがよくて父と何度もするのか、神経を疑うぞ、母よ!」 「かっかっか! そうかそうか! 応、それを訊きたかっただけよ! ……ならば楽しみにしておけぃ、童。北郷とするそれは、お主の常識が覆るぞ」 「???」 「可哀相にのぉ、どうせ義務的にやったことしかないのだろう。もしその時が来たなら、たっぷりと愛してもらえ」 「な、なに……? 母は賛成なのか? 仮にもかつての父と私が、その」 「別に、あの時代から親が子を襲うことなど無かった訳ではないじゃろう。嫌悪するか否かは本人同士が嫌がるかどうかじゃ。それの何処に儂の感情が関係する」 「………」 相変わらずな祭さんだ。 むしろ止めてください。 「うう……禅ちゃんも乗り気なんだ……」 「はい。かかさまには申し訳ありませんが、前世で連れ添った人がひどすぎました。他の姉妹もそうだと思います。もう男と連れ添うのは、と。だからむしろ、いつまでもかかさま……ハッ!? いえその、母さまたちが連れ添ったままのととっ……───あぅう……。と、ととさまと連れ添うことがどれほど幸せなのか、知りたいのです」 「う、うー……! だめって言いたいのに、ご主人様の悪いところを上手く挙げられない……! あ、愛紗ちゃ〜〜んっ!」 「なっ……!? と、桃香さま、その件で私を頼られましても、私とてご主人様の悪いところなどどう挙げれば良いか……! だ、大体、“臨終までを生きた私”は卑怯だ! 仕事もするし鍛錬もするご主人様と一緒に生きるなどと! 最初からそうであったなら、私とて悪口など出なかったろうに……!」 あー……そういえば蜀側に降りた俺は、よく愛紗にジト目で見られていたよなぁ。 ……なるほど、そう考えると、魏で最後まで生きた俺は、愛紗にとっては理想の男性……らしい。欲を言うなら自分より強い相手とのことだが、一言言おう。無茶言うな。 「むしろお前が賛成なのが一番信じられないんだが……」 「知を残すためとはいえ、嫌々連れ添った相手に抱かれて吐いたわ。嫌だと言ってもやめなかったわね。男なんて本当にクズよ。だとしてもお母様はあんたに抱かれて私を産んだわ。罵倒しながらもなんだかんだで一緒に居る……そこに、ちょっと興味が出ただけよ」 荀ツは「ああやだやだ」と言いつつも顔を赤くしてそっぽを向いた。 ……なんとなくだけど、頭を撫でてみたら顔を真っ赤にして俺を見上げ、どうしてか慌て出す。……いや、どうしてかもなにもないんだけどな。 ここまでの人数の娘が居ると、なんとなく解ることもあるんだ。この反応、構ってほしいのに自分からは言い出せない時の、いじけた呂姫によーく似ていた。 思えば荀ツとはろくに話も出来なかったし、頑張ってきたことを褒めてやることも出来なかった。主に桂花が俺から遠ざけまくってた所為で。 かつてを思いつつ苦笑をこぼすと、真っ赤なままであうあう言っていたツが、急に「にゃーーーっ!」と叫んで頭を撫でる俺の手を払った。 「お母様おかしいです! この男に頭を撫でられたら、嫌悪よりも安心感が先に! 男なのに! 男なのにぃいっ!!」 「落ち着きなさいツ! それはその男が妖術で貴女を操ろうとしているだけよ!」 「妖術!? こ、この痴れ者! 娘をあやかしの術でたぶらかそうなんて、恥くらい知りなさいよ!」 「桂花ぁああっ! どぉおしてお前はいっつもいっつもぉおおっ!!」 叫びつつも後退るだけで、逃げるなんてことはしないツ。 ……これで、頑張ってくれているのかもしれない。 けどそうか、やっぱりツは男が嫌いか。 桂花に言われて洗脳されていた部分もあったんだろうけど、嫌々連れ添った相手が悪すぎたと。そういえば娘達って、連れ添った相手は意地でも俺に会わせようとしなかったよな……どうしてだろう。 お陰で現在、彼女らの前世たる相手はこの時代には居ない……かもしれない。 やっぱり許すべきじゃなかったのかなぁなんて思いつつ、娘達全員がこんな状態とは……と視線を移せば、子高……孫登と話している蓮華さん。 「登。あなたもなの?」 「私は……堂々としている男の人がいいです。いつも私に……いえ、女性に怯え、見栄ばかりを張ろうとする人ではなく。顔色を窺うなとは言いません。あの時代、女性の方が強かったのは確かですし、そんな人達に囲まれる日々は確かに怖かったのかもしれませんが……《ちらり》」 「?」 子高が俺を見る。 親と話し合い、好きにしろとでも言われたのか、早速俺のところへ突撃を開始した娘達を捌いている俺を。というかね! なんで突撃してくる! いいからちょっと落ち着きなさい! 一応ここ、玉座の間なんだから! 「……確かに、あなたたちを軽くあしらえる男なんて、一刀以外には居ないわね……」 「呂姫なんて余計にですよ。今の私たちにはかつてあった年齢差がありませんから、それも余計に」 ちなみにその呂姫さん。 恋と目を合わせて、じっと見つめあったのち、恋がこくりと頷いたらこちらへ突撃してきた。誰よりも先に。 物凄い勢いで走ってきて首目掛けて飛びついてきた彼女を、まずは右腕で受け止めることで躱す。しかしめげずに首を狙う彼女へと、俺の首は私のものだとばかりに駆けて来た邵が飛びつき……その助太刀にと駆けて来た述が参戦、あとは次から次へとだ。 ああ……! 彼女らに御遣いの氣が無くて本当によかった……! じゃなければどうなっていたことか……! 力負けしてもみくちゃにされて、生傷が絶えないどころじゃなかっただろう……! ていうかね!? 祭さん!? 笑ってないでなんとかして!? こっちはもうさっきから全力で氣を行使してて、いい加減疲れっ……てないけど、あああもうこういう場合っていっそ疲れたほうが“いい加減にしなさい”とか言って引き剥がされただろうに! 邵を剥がせば姫が抱き付いてきて、姫を剥がせば禅が……禅!? キミもですか!? 確かにあの頃は常識的な娘として、こういうスキンシップはなかった気がするけど! あ、あぁーーもう! どんと来い娘達! いっぱいいっぱい甘やかしてやる! ……いや違うよ!? け、結婚を許したわけじゃないんだからねっ!?《ポッ》 ツンデレ怒りをする中でも、娘達は遠慮することなく突撃を続けた。 それを躱したり剥がしたり捌いたりをしている内に、そんな体捌きを捕えることに熱中し始めたのか、娘達の目がやがて真剣なものに……! って待って!? なんでこんなことに!? 別に鍛錬とかしてるわけじゃないんだけど!? 「とっ! はっ! とわっ!? ちょっ……落ち着きなさいキミタチ! 今は大事な話の途中で」 「腰っ……いただきまし《ディシィッ!》きゃうっ!?」 関平のタックル! それを額へのデコピンで一瞬押さえ、その一瞬の間に剥がした邵を生贄に捧げ、躱す。 「《がばしーっ!》ふわぅあぁーーーっ!!?」 「はっ!? これは邵姉さま!?」 そんな行動も抜け目無く狙ってくる娘たちを次々と捌いて、邪魔にならないように少しずつ玉座の間の端へと下がってゆく。 「……最初からあそこまで捌ければ、戦でも十分通用したのではないかしら」 「惜しいわねー、戦の中であんな一刀と出会えてたら、もう全力で魏を潰しにかかってたのに」 「あら雪蓮。あの時の戦が全力ではなかったとでも言うつもり?」 「あっはは、違うわよ。そういう意味じゃなくて、一刀の居るところばかりを狙ったってこと。間諜でも飛ばして、一刀が遠征にでも出たらそこを狙う〜とかね」 「そう? けれどね、雪蓮。一刀はあの頃、弱かったからこそ今の一刀があるのよ。あの時代で努力を覚えたからこそ弱さも強さも知っている。最初から強かったなら、ああはならなかった。想像がつかないあなたではないでしょう?」 「まあねー。私はただ、あの頃に全力で戦いたかったなー、なんて願望を挙げてるだけだし。華琳こそ解ってるでしょ? “戦の中だからこそ出来ることもあった”。今、どれだけ望んだって“殺し合い”なんて出来ないわよ」 「ええそうね。真剣勝負は出来ても、殺し合いは無理よ。時代の問題ではなく、心構えの問題で」 「………」 「………」 「惚れた弱みって怖いわねー。まさか自分がこんなことになるなんて、思ってもみなかったわよ」 「そう? 弱みなど見せなければいいだけのことじゃない」 「触れられるだけで顔を真っ赤にする小覇王様がよく言うわよ」 「だからっ……自分のかつての二つ名をからかいに使うのはやめなさいと言っているでしょう……!」 「まあ結局のところ、解っていることはひとつでしょ? ……私たちはもう、この中の誰にだって、殺す気で得物を振るったりなんて出来ないってこと」 「……そうね。ひとつでも欠けてしまったら心を砕いてしまう柱があるんだもの、それは無理なことね」 捌いて捌いて捌きまくって、娘達全員の手から逃れた刹那。 バッと床を指差して咆哮。 「正座ッッ!!」 『!!《ズシャアッ!!》』 途端、娘ら全員が条件反射のように正座をする。 ……かつての時代、説教といったら正座であった。 その名残が、まだ心の底に刻まれていたらしい。 そうじゃなかったら言葉の途中で襲われていたに違いない。 みんなが正座した時点で俺も安堵して、その場にドカッと腰を下ろした。 一番近くに居た曹丕が、ハッとして動こうとするけど、俺も座っていることに気づくと立ち上がることが出来なかったようだ。 「それで、華琳〜!? どうするんだこれから〜!」 とりあえずは落ち着いてくれた娘達を前に、玉座の傍に立ちつつ雪蓮と話していたらしい華琳に先を問う。 と、どうしてか雪蓮とくすくすと笑い合って、雪蓮が蓮華と桃香に手招きして傍に立たせた……と思ったら、 「どうするもなにも。ここで断れば要らない暴動を起こすだけでしょう? 過去にあなたは親子だからという理由で丕の想いを受け取らなかったわね。ええ、親だから。ならば今のこの状況、好かれていることにどういう問題があるというのかしら?」 「大有りでしょう!?《がーーーん!》血縁はどうあれ、かつての娘だぞ!?」 「ええそうね、かつての、ね。どこに問題があるのかしら」 「気持ちの問題が大有りですが!? ていうかだなっ、俺にしてみれば一度結婚した相手から女性を奪うようなものなんだが!? しかも娘!」 「あら。この時代のこの子たちがいつ結婚をしたというのよ。言ってしまえば私たちだってそういった関係ではないわね。全ての外史が集って、結果として生まれたこの外史。そういう記憶はあれど、経験はしていないようなのだから」 「ふっ……ぐっ……!!《かぁああ……!!》」 愛した経験もあり、子供を生んだ経験もある。 けれどそれは全て記憶だ、この時代ではまだ何もしていない。 つまり、つまりだ。あの覇王様はこう言いたいわけだ。 「まさか、いい機会だからこの場に居る全員を受け入れろ、とか」 「話が早いわね。その通りよ」 「死ぬわぁああああああっ!! 今でさえ散々振り回されてるのにこれ以上俺にどうしろっていうんだぁああっ!!」 「人は順応出来るものなのでしょう? あなたの鍛錬の常套句じゃない」 「慣れろと!?《がーーーん!》」 いやっ……いやっ! だって今でさえもっと構ってほしいとか目で訴えてくる将がいらっしゃるのに、その上倍近くの人が増えてみなさい!? あなたたち前言撤回してまで暴走しそうで、したらしたで俺が死にそうなんですが!? いらない暴動が起こるっていうのもそりゃ解るよ!? 他の娘はどうであれ、丕にしてみれば1800年も待った、そのっ……こ、恋路の成就になるわけなんだからっ……! けどな、だからってだなっ! 「なによ。これだけの女に言い寄られて、なにが不満だというの? きっと日本国もあなたを認めるわよ? なにせこの国の問題を早くも解決出来るのだもの。男を下に見る女の改善、女性ばかりが産まれるために定着してしまった一夫多妻制度。あなた一人でどうとでも出来るじゃない」 「……! ……!《ぱくぱく……!》」 反論しようにも声が出ない。どうしろと。 しかも無駄に日本国に期待されている分、断ろうにも断りきれない。 日本からしてみれば一人の学生を贄に出せば解決し、しかも上手くすれば氣のことまで知ることが出来るという嬉しいおまけつき。もっとも、教えるとしても道場に通わないなら教える気もまったくない。つまりこれはビジネスですか? いえ、解決する前に俺が過労死しそうです。 「で、でもな? ほら、女性の人数に大して男がっ……! いくらなんでも体力的に……! あ、夜のことって意味じゃなくて、そもそもの人数差の話だぞ!?」 「安心なさい、疲れたら華佗にどうとでもしてもらうから」 「チクショオオーーーッ!!」 解決策が身近に居てしまう時の悲しみって、きっとある。 いや、実は、別に受け入れるだけならいいかも、とは思っている。 丕のことを思えば余計にだ。結局誰とも結ばれずに一人を愛したってところには、素直に感動さえ出来る。これで相手が父親じゃなければ、って思いの方がデカいのは仕方ないにしてもだ。 受け入れなければ丕は断固として抗議を飛ばすだろうし、みんなが良くて私たちはダメなのは何故だって話に発展。理由が“娘だから”ではもはや通用しない始末だし、そもそも“誰かが良くてお前はダメ”って考え大嫌い! 冗談でなければ言いたくもない! そういう意味ではいろいろごめん及川! 「さて、一刀? あなたの答えを聞かせてもらおうかしら」 「───」 ここでハーレムもののラストよろしく、“逃げ出して追いかけられてエンディング♪”は、のちに地獄しか待っていませんね。この場の全員が敵に回る。確実に。そしてあの最後は好きではない。 神様だけが知っているセカイのごとく、一人を選んでアディオスを? 華琳の言う通り、“合わさったこの外史”では誰とも結ばれていない今こそ、それが出来るのは確かである。で、あるが、この場に居る全員が敵に回る。確実に。むしろ全員を受け入れることが出来るのにそれを今さら否定するのはあまりに非道。したら殺される。非道な王になったら殺しにきなさいって華琳の言葉が、何故か俺に返ってきそう。 じゃあかつては娘だった子を受け入れて多妻の内に加えろと? ……それは非道ではないと言えるのだろうか。や、一般的な話をするなら、そりゃあ非道じゃないとは思う。血縁にしたって何代離れてるんだって話だし、血縁がある相手との婚儀が意地でもダメだというなら、世界なんぞいっそ滅んでもいいんじゃないかとも思う。それこそ、過去を辿れば誰と誰が血縁なのかなんて、考えるだけ無駄だ。“祖先は原始人です!”って名言しちゃえば誰もが家族でキョーダイだ。 つまりは……ツマリハ…… 「エ、エート。ジャア例エバダケド、ミンナトサヨナラシテ、カツテノ娘タチヲ受ケ入レルトカ言ッタラ」 『殺すわ』 「ヒィやっぱり!」 王らが声を揃えて仰った! 桃香も例外ではなく! 「じゃあそのっ……華琳が言った通り、今は誰とも経験してないんだし、一人を選んだら───」 『殺すわ』 「これも!?」 でもそりゃそうだって納得出来るあたり困ったもんでした。 だってね、そりゃね、一つの外史のみで言うのであれば、自分が選ばれるって確信を持てる人だってそりゃあ居るよ。俺も魏の外史だけだったら確実に華琳を選んでいたし。 それが今じゃ全部の外史の記憶がある。一人を選べなんて言われたら、誰になることやら。 「えと。まず最初に冗談であることを言っておくな。あー……こほん。……いっそ全員との関係を切るとか───」 『───《ゴリッ……!》』 「ヒィごめんなさい本当に冗談です!!」 王のみならず、この場に居る全員から殺気が溢れた。 言ってみたもん勝ち、という言葉があるけど、言っていいことと悪いことは当然ながら存在する。冗談で場を和ませたかっただけなのに、その一言ですべてが崩壊することだって、冗談のように聞こえるだろうが本当にあるのだ。 「あぁ……はぁ。あの時も訊いたことだし、今さらって返事しか予想できないけどさ。みんなはそれでいいのか? 遠慮無しで言わせてもらえるなら、俺は体力を保たせる自信がこれっぽっちもないぞ?」 「疲れ果てたら氣を使ってまで体を動かして、人のことを鳴かせたくせに」 「華琳サン、たぶんそれ文字にしたら字が違う」 「どのみち、あなたの体力問題なんて誰も心配していないということよ。一日中だって走っていられるあなたが、今さら人付き合いで体力が続かない? どういう冗談よ」 「精神的疲労の話ですハイ」 「それこそ今さらじゃない。あなたがそんな───」 「華琳〜? これから一生、酔っ払った桃香と雪蓮と春蘭の相手をしてって言ったら頷けるかー?」 「まっぴらごめんだわっ! ───あ」 優勢であった覇王が、しまったという顔をした歴史的瞬間である。 「……華琳? 自分に出来ないことを人に押し付けるのは覇王的に非道じゃないかな?」 「う、ぐっ……! い、いえ、それは限定的な話でしょう? 桃香だって常時酔っているわけではないし……!」 「そうだったとしても、今でさえ時間の許す限りにみんなの都合に付き合っているのに、その人数が倍になったら不満ばっかり溢れないか? 俺の体力が平気でも、時間は無限じゃないだろ」 「だ、だからそれは、日毎や週毎に分ければ……」 「ある日にどうしてもその人と何処かへ行きたいって思っても、俺はその日が来るまで我慢しないといけないと?」 「う……」 言いつつ立ち上がって、華琳のもとへ。 目の前まで辿り着くと、目を合わせて次から次へと質問を投げる。 華琳がよくやる、相手の目を見つめ、虚言を許さない方法なのだが……華琳さん、既に真っ赤になって視線をちらちら動かしまくっております。 そして俺の発言。外道である。我慢しているのはみんなだって同じだろうに。でもこういう時じゃないと反撃できないので、ごめんなさい、今は許してください。 そんな気持ちを込めて周囲を見渡してみると、みんな“やれやれ”って顔で苦笑していた。 「は〜ぁ、まったく。華琳は一刀に強いのか弱いのか」 「きっとどっちもだよ。ねー? 華琳さん?」 「一刀もこういう時ばかりは強気に出るものね。これが床の上だったらと思うと……」 「あっははは、蓮華も言うようになったわねーっ! ほらほら想像してみなさいよ華琳〜♪ 床の上で縛り上げられて、逃げ道も塞がれた挙句にこうして言葉で責められてる自分を〜♪」 「っ!《キュボッ!》」 「うわっ! 真っ赤! ちょっと大丈夫なの華琳! なに想像したのか知らないけど……想像? ……そんな、一瞬で? ……もしかして経験というか、そんなことされた記憶があるの?」 「なっひゃっ!? な、ないわよ……? ないわよ!!」 (……あるわね。へー、華琳ってば経験豊富) (……あるの、ね……って、まさか、于吉に洗脳されたあとの……?) (わわわ、あるんだー……! 私はそういうの、ちょっと怖いかなー……) 真っ赤になって反論はするけど、涙目で視線がうろつきっぱなしの珍しい華琳さん。 ああ、うん、あれは思い出したくないだろうなぁ。覇王にまで到った記憶のある彼女なら余計にだ。自分に対する罰だからーとか言って、縛った上に後ろから、とか……なぁ。 あー、華琳さん? そこで桂花は見ないほうがいいって。余計に赤いから。今、もう本当に可哀相なくらい赤いから。 「小動物状態の華琳をいじめるのも楽しいけど、先に答えがほしいわね。じゃ、一刀? そろそろ本気の答え、聞かせてもらっていーい?」 ふぅっ、と。 片目を閉じつつ俺の方を向いて言ってくるのは雪蓮。腰に当てた手が、なんというか少し怒っている様を表している気がする。 言い逃れとかはいいからさっさと結論聞かせなさいってところだろう。 ……答えなんて、ここに招かれた時点でひとつしか存在していないじゃないか。逃げられないし断れない。断る気があるのかと言われれば、さすがに元娘だ、断りたい気持ちのほうが大きい。 けど、1800年越しの恋を応援したいって親ばか状態な思いも確かにあるわけで。 ああもう、ほんと……男親ってやつは……。 「解った、受け入れる」 『……!!《ぱああっ……!》』 受け入れる、の言葉に、娘達が一斉に笑顔になる。正座のまま。 「ただし、やっぱり好きになる過程というか、そういうのは段階を得てだな……」 「はいは〜い? 一刀さ〜ん? どうせお嬢様の時と同じようなことになるんですから、そういうのはもういいですよー?」 「っぐ……!」 視線を向ければ、ピンと伸ばした人差し指をくるくる回す七乃さん。 ええ、ええ、そうでしたね……! 確かにあの時と状況は似てるんでしょうね……! だが全く同じなわけじゃあない! あの時の場合は子供な俺の、美羽への気持ちがあったからすんなり受け入れられただけであって、娘に恋する俺は存在していない! だから───! と、脳内が言い訳を探している情けない状況のさなか、つんつんと背中をつついてくる雪蓮さん。向き直ってみれば、にっこり笑顔で真面目なセリフ。 「ねぇ一刀? 一度相手のことで悲しんだ娘を、また悲しませたいの?」 「だぁああもうお前ら全員幸せにしてやるァアーーーーーッ!!」 ヤケクソは、心さえしっかり前を向いていれば確かな決意である。 一歩を踏み出す勇気が湧かない場合、ヤケクソほど勇気ある行動はない。 それがたとえ、のちに血涙を流したくなるほど冷静になったあと、後悔に向かうのだとしても…… 「父さま……父さまぁっ!」 「《がばしーっ!》とわぁっ!? あっ……ま、ったく……! お前なぁっ、1800年も待つくらいならさっさと転生して、新しい恋でも探してろよっ! さすがにこればっかりは荒っぽく説教させてもらうぞ!?」 「構いませんっ! ここに辿り着けたなら、私の恋の勝ちですからっ! 勝ちで……か、ち……ふ、ふわぁあああん……!!」 「へわっ!? な、ななな泣いたぁあああっ!!? あ、か、華琳っ、どどどどうすればっ!」 「何故そこで私なのよ……いいから、抱き締めて頭でも背中でも撫でてあげたらいいでしょう?」 「へー? ふーん? 華琳はそうされると落ち着くんだー。へー」 「……雪蓮? あなたとは一度、思いっきり話し合う必要がありそうね」 「いいわよ? いつかの遊びの続き、いっとく?」 「ええそうね。今度は桃香も蓮華も混ぜて、この中で誰が最強なのかをはっきりとさせようじゃない……!」 「え、ね、姉さま?」 「遊び? わあ、よく解らないけど楽しそうっ! それって私にも出来ますかっ!?」 「王様方!? 一応感動の場面だろうに喧嘩の予定を立てないでくださいますか!?」 言ったところで聞きやしない。 雪蓮が蓮華に、華琳が桃香に説明をして、やがて四人がゴゴゴゴゴゴと謎の迫力を出しつつ睨み合う結果に……ってどんな説明をしたんで!? そんな四人がたっぷりと睨み合ったのち、俺の方をバッと見ると同時に手まで突き出して、 『遊び道具!!』 「あるかぁっ!!」 即答で返した。 そうこうしている内に正座していた元娘らも突撃してきて、場は混沌と化す。 けれど俺も、少し考えを改めようと胸に刻んでいた。 思えばあの時代、愛だ恋だよりも国家としての効率ばかりを望んでいた。 俺は基本娘の嫁ぎ先は任せっぱなしだったし、というか俺が出ると相手に襲い掛かるパターンばっかりだったから、任せるしかなかったのだが……それでもだ。 娘達にはきっと、相手に対する恋心も愛も無かったに違いない。 なのに母親たるみんなは恋する瞳をしてたっていうのなら、顔にも言葉にも出さなかったけど、不満は十分あったのだろう。 だったら? ……だったら、無理にでも首を突っ込ませるべきだったと思った分、恋心に応えるくらいのことはしてやりたいと思うのだ。 あれだけ生きて、恋もまだだとするのなら、それはあんまりだと……そう思ってしまった。 政略結婚なんてこの時代じゃあもうする必要もない。 なら、恋を知って、いつか俺じゃなくても別の人に恋をするまで、俺がその代役を───! ───……。 その日から、俺の多忙の日々は加速した。 「父さま父さまっ、朝です!」 「う、うぅ……ん……あぁ、丕……おはよう……。あ、あー……あのな……? 体は子供でも、意識は大人なんだから、もっとだな……」 「? あの、記憶があるというだけで、私はどちらかというと子供の意識の方が強いんですよ? 産まれて、育って、過去のことは“知識”として存在しているだけですから。だから父さまの娘というものも“常識”としてではなく“知識”としてなので、そう意識してないわけでして」 「……マテ。それってつまり、他の娘も……?」 「え? あ、はい。そうですけど」 「………」 「?」 (エート。ジャアツマリ? 彼女らにとっては過去のことは本を紐解いたのと似たようなことで? 親だったから、というブレーキはそもそも一切存在していないことに……?) 加速した矢先、やばいことを知り…… 「お手伝いさん! お手伝いさん! 胡麻団子を作りました! 一緒に食べましょう!」 「そ、そか。ところでj? なんでこっちを見ないんだ? 目を見て話すっていうのは基本だって言ったろ?」 「めめめ眼鏡も無しに直視しろと!? 目が潰れます!!」 「俺そんなに醜い顔してるの!?《がーーーん!》」 「いえあの違いますそういう意味では決して……! た、ただ眩しいという意味でっ……! 以前にも話したでしょう!」 「まだ直ってないのかそれ……」 「は、はい……しかも未来における婚儀を許可された時からは余計に……!」 「その……j? その眩しさは知識から来てるだけだよな? べつに俺の顔は、そんな、眩しいとかは……」 「知識抜かしてでも直視できないほどですが……!?」 「アレェエエエ!!?」 そして知識だけでは間に合わないほど、既に恋を知っている少女らも居るわけで。 「うふふへへぇえ〜〜〜……♪ とうとうお父さんを支えてあげられる時が来ちゃいましたねぇ〜……♪ さあお父さん? どんどん延に甘えてくださいねぇ〜?」 「ヤスマセテクダサイ」 「あらあらぁ〜、こんな朝から膝枕なんて、お父さんは本当に甘えたがりですねぇ〜」 「普通に休ませて!? いや違うから! 膝枕とかじゃなくて!《ぎゅむっ》わぷっ!?」 「では胸枕ですかぁ? いいですねぇ〜、こうして頭を抱いて、なでなでしていると和みますねぇ〜……いいこいいこ〜♪」 「ちがっ……延!? 延さん!? 間違ってる! いろいろと間違ってるから!」 「お父さん〜? もっとも〜っと延を頼ってくださいね〜?」 「───…………」 なんかもう、途中で抵抗は無意味だと悟らされたり。 「父! 美味しい果実水を作ろう! 酒の味は解らないが、じゅーすは好きだ! そして酒に染まっている母を目覚めさせてやろう!」 「オー、ソーダナー」 「お、おおう? どうした父。目に光がないぞ?」 「イヤ……ベツニ……果実水ネ……果実水……《ガサッ、ゴソソ》」 「おお? 林檎か。父、まずは林檎のじゅーすか?」 「……ハオオ!《メキメキグシャメシャッ》」 「父!? 林檎が! 林檎が砕けている! もっと普通に絞ろう!? 手でやらなくてもいい! むしろ壊すのは駄目だ!」 ぼーっとしている間にいろいろあって。 「………」 「………」 「…………」 「…………」 「静かですね……」 「……うっ……ぐっ……! ふぐっ……!」 「父上!? 何故急に泣かれるんですか!?」 特に何をするでもなく中庭の東屋の傍、その小さな坂に腰を下ろして空を見上げた時、なんだか泣きたくなりました。 一緒に居た述が滅法驚くほど。 「ちなみに滅法って、常識を超えている様、という意味が含まれているらしい。そもそもが因縁から生じていないものを差すらしい」 「どうしていきなりそんなことを私に!?」 「……父さん、もう疲れたよ……」 「顔を合わせて早々にこの世の終わりみたいな顔をされる身にもなってよぅ……」 禅はなんだか癒しです。癒しなのに、結婚はしたいのだそうです。 少したそがれてから昼を迎えると、食事休みを挟む……こともなく、次の元娘に拉致された。相手はデートと言って引かない。 「姫……ごはんくらいのんびりと……」 「次、子高姉が待ってる……時間なくなるの、嫌……!」 「…………俺も時間が欲しいデス……」 けれど娘との時間も楽しまなければと意識改革を始め、振り回されながらもそれは続き───やがて。 「さあ行こうかツ。今日はたっぷりとデートしよう」 「デッ……!? な、なにを言っているのかしら!? デート!? これはただの散歩よ! なんで私が男なんかとっ」 「ああそうだ、デートなら手を繋がないとね」 「《きゅむ》ひゃああっ!? ちょっ……急に触るんじゃないわよ汚らわ───」 「? 腕を組むほうがよかったかな?」 「しっ……ぃ……!?《スッ》って、だから何を勝手に腕をっ!」 「ははは、ツは今日も可愛いなぁ。でも、あんまり叫んでいると周りが驚いちゃうぞ? めっ、だ」 「《こつんっ》…………だだだだだだだ誰だあんたぁああーーーーっ!! ちちちっちち父に変装してこの私を騙そうだなんてどこまで痴れた男! しょしょしょ正体を現しなさい! 誰を騙せても私をだませるなんて! 騙せるなんてーーーっ!!」 「《にこり》……行こう?」 「なっ……うっ……! あ、あぅあ……っ……だ、だれが……!」 「ね?」 「───…………ハイ《コクリ》」 やがて、暴走した。 夜になり、全員とのデートを終えた男、北郷一刀は、目を渦巻状にしてにこりと笑ったのち、受身も取らずに床に倒れたそうな。
ネタ曝しです。 *アロエリーナ 言いにくいことも聞いてくれるステキなアロエ。 植物である。 CMで実際にあった存在なので、きっとヤツはCM内の女性の心の拠り所だ。 *神だけが知っているセカイ 神のみぞ知るセカイ。 きちんと一人を選んだエンドだったのは嬉しかった。 いろいろ思うところはあったけど。 Next Top Back