140/都って書くと、続けてこんぶと書きたくなる誘惑 都暮らしが安定に向かうと、さすがに人員不足も問題になってくる。 人は慣れてからが一番危ないという。 車の運転や、危険物の取り扱いについてがいい例だろう。 なので魏呉蜀から何人か兵を分けてもらい、警備隊の任についてもらう。 ……集まってくれた兵のみんなが顔見知りだったのは、何かの陰謀だろうか。 いや、疑り深くなってるだけだよな、なんの裏も無いし親切心からだって。 「でさ。この通りには食事処を集中させたんだけど……」 「はい、解り易くていいと思います」 そんな兵たちと一緒に、蜀で時間を貰った朱里が、今は先生代わりとしてこれからの都についての相談役として立ってくれている。 七乃に訊くだけでもそりゃあ安定はしていたんだが、細かなところに爆弾仕掛けるから怖いんだよな、七乃って。もちろん本物の爆弾じゃなくて、あとで俺が驚き困るような仕掛けを作っておくのだ。 お陰で急な仕事が増えたりすることがあって、しかもそれが決まって忙しい時に発生するもんだから毎度毎度目を回しながら対処する。……おまけにと言うべきか、ギリギリ解決できるものを残すもんだから、確かに民からの信頼度は上がるんだが……こっちの身が保たない。 「ありがとな、朱里。来る度に質問ばっかりでごめん。やっぱり朱里はすごいな」 「いえ、足りない知識や欲しい知識があるなら、わたしに解ることでしたら是非訊いてくだしゃいっ! わたしゅたちはそのために学んできたんでしゅかりゃっ! …………はわぁっ!?」 今日も元気に噛んでいた。 どうにも褒められることに慣れていないのか、慌てて言い直そうとする度に噛む。 焦りの連鎖に迷い込む前になんとか止めて、これからのことを話し合う。 急いで豊かにする必要はないっていう部分には、朱里も俺も同じ意見だった。 三国っていうしっかりとした周囲があるなら、そこから少しずついいところを吸収していけばいい。それを三国の架け橋みたいにすれば、都に住む人も各国の風習に慣れやすいだろうとのこと。そのための人付き合いの上手い人達の集いだ。 「何かを作る時は、作ってる時が一番楽しいっていうけど、ほんとだなー。作ってる時はみんなと一緒に燥ぎながら作業してればよかったんだけど、こうして考えることばかりになると頭が痛い。……少し、雪蓮の気持ちが解るかも」 「はわっ……!? あ、あはは……」 困った顔で苦笑を浮かべる朱里だったけど、目が語っていた。 “ああはならないでください”と。 口にしてしまったらいろいろと大変だからなぁ……俺や華琳や冥琳は平気で言うけど。 「警邏は三国の兵を混ぜながらってことだけど、平気か?」 「はい。平和を見守るべき兵が、兵同士で喧嘩をしていたら話にもなりませんから。まずは兵同士の交流も大事ですし───」 「なるほど、そのために俺が間に入るわけか」 「はい。兵のみなさんが都での警邏に慣れるまでは、一刀さんが一緒に回ってください」 「俺がみんなと仲が良くても、兵同士がそうだとは限らないんだもんなぁ……難しいな」 「こればかりは仕方ないですよ……兵ともなれば、仲間を討たれた人も居るでしょうし」 「うん……」 何か男同士でのきっかけがあればな、なんて思う。 くるくると思考を回転させてはみるが、そう簡単には答えは出ない。 過ぎたことは仕方ないと兵同士が納得してくれれば嬉しいとは思うけど……やっぱりそういうのは時間の問題だろう。 「なにか些細なきっかけでも───…………あ」 「? あの、一刀さん? ……? 顔に、なにかついてましゅか?」 じっと自分を見つめる俺に、朱里が首を傾げたのちにぺたぺたと頬辺りに触れつつ噛んだ。なにもついてはいないんだが……朱里、朱里か。 「朱里の秘蔵の艶本をきっかけに、男達が熱く語り合───」 「だめでしゅ!!」 「ですよね!」 かつてないほどの気迫で拒否された。そして噛んだ。 うん、言ってみただけで、さすがにそれはないと俺も思ってたし。 「じゃあ、今のところはじっくりゆっくりだな。……はぁ〜……町ひとつでこれなのに、国を管理する王様っていうのはすごいな」 「ふふふっ、それが願って居る場所なら、どれだけでも頑張れるものですよ。桃香様も仕事をしている際はうんうんと唸っていますけど、問題が解決した時は誰よりも喜んでおられますから」 「言われただけでもどれほどの喜びかが想像つくのが桃香の凄いところだな」 子供のように燥いで、愛紗に窘められている光景が想像に容易い。 「あの。ところで一刀さん? 最近お休みは───」 「仕事漬けでございます」 「はわっ……!? だ、だめですいけませんよぅ! きちんと休める内に休まないと、倒れてからでは遅いんですよ!?」 「や、冗談冗談。忙しくはあるけど、適度に息抜きはしてるから。……休みらしい休みがないのは、人手不足の所為だと思えば頑張れるしさ。それに兵の仲は、俺を通して仲良くってこともいいけど……うん、華雄にお願いしてもいいんじゃないかって思うんだ」 「華雄さんですか?」 「そ。なんだかんだで人に好かれるんだよね。カリスマ……とはまた違ったものなんだろうけど、兵にやたらと慕われてる」 うん、俺ももちろん仲介みたいなことはするけど、華雄の仕事が警邏か俺との鍛錬くらいしかないのもどうか。そこに兵の鍛錬調整を入れれば、彼女も喜ぶんじゃなかろうか。 「なるほど……では華雄さんに一度束ねてもらいましょう。今現在、人手が多いとは言えない状態なので、今の内に固められるところは固めてしまうつもりで」 「ん、了解。じゃあ兵の統率は華雄に任せることで決定……と。なんというか、朱里が一緒に考えてくれるとあっという間だな……。俺も慣れたつもりはあったけど、こう……いざ“決定”ってところまで来るとどうしても不安になってダメだ」 「何も迷わない、感じないでは獣と一緒、といいますよ?」 「そうかな。…………獣は獣で考えてるとは思うけど、そういう意味じゃないか」 「糧になるものを仕留めると決めたなら、途中で止まることをしません。それが獣です」 「───」 「……はわっ……」 多分、今朱里と同じことを考えた。 俺と朱里が見下ろすのは、兵の統率に華雄を当てるというものを書いた書類。 朱里の言葉のあとに見下ろしてしまったそれを前に、俺達は目を見合わせて思考した。 「え、っと……。これで、いい……よな?」 「は、はわわ……えと、その、あの……あぅう……」 獣……獣。 いや、華雄が獣だというんじゃない。華雄の思考がこう……なんというかその。なぁ? 「だだ大丈夫! 獣は獣で考えるし、逆に考えれば統率って意味では獣に勝るものはそうそうないんじゃないかなぁ! ほ、ほらっ、春ら───いやゲフッ! ゲッフゴフッ! ……ナナナンデモナイ」 余計なことを言って春蘭に届いたら、首が取れそうだ。 よし大丈夫! 華雄に任せよう! 「…………これで春蘭のところの突撃兵軍団みたいになったらどうしよう……」 「だ、大丈夫ですよ……きっと……。ほ、ほらっ、突撃する場所なんてありませんし……」 「あ───そ、そうだよな、そう、そうだ、はは……」 言われてみれば今の世、争いらしい争いなど起こることなどない。 山賊はやはり居るようではあるけれど、それらも現れるたびに三国が早急に始末しているそうな。俺が襲われたことがきっかけになっているのなら、少しだけ山賊に悪い気が…………いや、しちゃだめだろ、そこは。気をしっかり引き締めろ、北郷一刀。 「じゃあ……その。次の案件に」 「はい。それで、あの……今日までそれほどまでの問題もなく動いているんですから、そう危なげに決定を下さなくても大丈夫だと思いますよ」 「うう、朱里はやさしいなぁ……。そう言ってくれるのは朱里だけだよ……。思春なんて、軽い怯えを口にしようものならばこうやって───」 目尻を指でクイッと上げて、顔を少し怒り顔にして言葉を発する。 「“貴様がここの柱だろう。甘えたことをぬかすな”───って」 「………」 「……あれ? 朱里?」 朱里が沈黙。 しかし声をかけると慌てて顔を背け、カタカタと肩を震わせた……と思ったらブフゥと噴いた。……ああ、笑ってたのね。 「いや……そんなに可笑しかったか?」 「いえあにょっ……ぷふっ……! かかかじゅとしゃんの顔がっ……!」 「………」 堪えきれなくなるほどに可笑しかったのか……歪ませた俺の顔。 そういえば朱里はもちろん、雛里もよくよく俺の顔を見てくるもんなぁ。 顔の変化に敏感なのかしら。よく解らん。 ……けどまあ、笑いがあるのはいいことだよな。馬鹿にされてない限りは。 「ん。じゃあここらで休憩にしようか。あまり頑張りすぎても長続きしないし」 「一刀さんは働きすぎなくらいです……噂では、仕事を放り出して街に遊びに行ってばかりだと聞いていたんですけど……情報に踊らされましたね。軍師として、まだまだ未熟です……」 「いやいやそれ本当だからね!? 自分で認めるのもなんだけど! 朱里が未熟だったら世の中の軍師のみなさん泣いちゃうから! ……いやちょっ……待っ……そんな“ご謙遜を”って顔されても事実だからね!? これ以上自分で認めたくないから信じて!?」 自分で自分はサボってましたと何度も頷かされているようで、心のライフポイントがゾリゾリと削られてゆく。 けど、大丈夫。俺ももうきっと強いコ。この程度ではまだまだ折れま─── 「ではその……魏の種馬という噂も……?」 「いえそれは事実です」 ───どうしよう折れそう。 無垢な瞳で見つめられ、自分は獣でしたと認めた気分だった。気分どころか実際言わされたわけだが。 しかもそのあとも次から次へと自分の恥ずかしい噂の真実についてを問われ、赤面しながらもそれに答えていった。困ったことに顔を逸らそうものなら嘘ではないかと疑って落ち込むもんだから、目を逸らすことも出来ない。 いつからこの部屋は拷問室になりましたか。 「で、では次の質問をっ……!」 「ままま待った待った! 朱里待って!? なんか俺が答えるのが当然みたいになってるけど、いつから質問コーナーになったの!? 仕事は!?」 「遅れるようでしたら手伝いましゅから!」 「そういう問題じゃなくてね!?」 フンスと鼻息も荒く、顔を赤くした朱里が詰め寄ってくる。 この軍師さま、本当にこの手の話題が大好きのようで……しかも話を逸らそうとしても何故かいつの間にか話が戻っていて、嫌なところで諸葛孔明様の話術の匠さに翻弄され、机に肘を立てながら頭を抱えた。 ……そんな俺を、朱里は何故かうっとりした顔で見てらっしゃったとさ……。 ……。 数日が経った。 ある意味視察であったのだろう朱里の仕事が終わり、入れ替わるように……とはいえ数日後に雛里が都を訪れると、のんびりとした空気ながらもジワジワと開発を進める日々が続いた。 魏への操云々を抜きにして付き合うという言葉通り、俺が遠慮すると朱里は「遠慮はなしですよー」といたずらっぽい笑みを浮かべ、胸を張っていたが……そんな朱里も蜀へと戻り、雛里が借りてきた猫のようにおどおどしながらも様々な助言をくれる。 そして俺はとある記録を更新中で、少しココロが浮かれていた。ある意味で。 「………」 「………」 さて、いろいろと教えてくれる雛里についてだが。 傍に朱里が居ない雛里は、それはもう驚くくらいに無口だった。 借りてきた猫でもまだ“にゃー”くらいは言うだろうってくらい、無口だった。 しかも、“もしかして嫌われてる?”と反射的に思ってしまうくらいに……目が合うと思い切り目を逸らされるのだ。いや、目じゃなくて顔か。 そんな微妙な空気を、何故俺は自室で感じているのでしょうと思わなくもない。 普通なら自分が一番心休める場所であるはずだろうに。 「………」 「………」 しかしながら、俺が案件に梃子摺って頭を抱えていると、可愛いものを愛でるような自愛の瞳でこっちを見てきたりする。 ……えーと。もしかしてこれ、俺が困ってる姿を見て喜んで……る? 以前それとなく訊いてみた時は思い切り否定されたもんだけど。 朱里にも似たような様子を見ることがあったし、もしかしてこの世界では頭のキレる人はみんなSと決まっているのだろうか。 華琳もそうだし桂花も……華琳限定でアレではあるけど、他には厳しいしなぁ。 七乃は───………………考えないでおこう。うん、考えるのが怖くなってきた。 七乃を例にあげようとした時点でいろいろ悟れる部分もあったのだ。 けど……けどまさか、朱里や雛里がそっち側かと思うと、やっぱり怖いじゃないか。 「え、えぇっとぉお〜……雛里? 雛里は〜……その。俺の困ってる顔とか、好き?」 「…………、…………───? ───!? あわっ!?《ぐぼんっ!》」 あ。あー……真っ赤ですよ。もしかして確定ですか? 本当に本当なんですか? まさか……! ああっ、まさか、そんなっ……! 本当に、よもやとは思ったけれど───! 雛里がSな人だったとは……!! (注:違います) (そう考えると、あの大衆の面前で俺に“魏との関係云々を忘れて蜀と付き合ってほしい”なんていう行動に出るのも頷ける……! あ、あれは俺に恥ずかしい思いをさせるためだったのか……!) 雛里……こわい娘ッ……! そしてきっと朱里も同様にッ……! (そうか……そうかッ……! その姿勢こそが伏龍……! なるほど……今までは伏せていたというのだな、眠れる龍め……っ! そしてこちらの鳳雛も底が知れぬわ……!) ……いやまあ、考えすぎだろうけどさ。無駄な迫力を心の中で発してないで、普通に考えようか。……普通に考えても、“俺の困り顔なんて見てて楽しいかね”って言葉が真っ先に出た。普通はそんなもんだろう。 「訊いてみたいんだけど……俺の困り顔なんて見て、楽しいか?」 なんでもない風に語りかけたつもりだったが、疲労感満載の声が出た。 そんな声を真正面から受けた雛里は、なにを勘違いしたのか拳をきゅっと握ると胸の前に構え、 「たたたったた楽しい、でしゅ……! かか可愛いでしゅっ!!」 ……なんてことを言ってくださった。 まさか本当に楽しいと返されるとは。可愛いと返されるとは。冗談だ、きっと気の所為だと信じたかったのに。 こうまで真正面から言われるとさすがに照れくさい。言った雛里本人もジワジワと顔を紅くして、やがて顔が真っ赤になると、大きな帽子を深く被ることで顔を隠した。そしてそのまま何故か俺の寝台に駆け、ばさりと布団に潜り込んでしまった。 アダマ○タイマイ二世───その誕生の瞬間である───! じゃなくて。 「え、と……そ、そっかそっか。こんな顔でも役に立つならいくらでも見てくれ。というかなぁ……まさか俺の顔を見てた理由が、本当にまさか、“可愛いから”だとは……」 言いつつも寝台の上のアダマ○タイマイ様の傍に寄って、出てくるように説得を開始するのだが───いろいろと恥ずかしがるのに、男の布団に潜るのには抵抗が無いのだろうか。女の子の心はなんとも不思議なものですね。 (……先が思い遣られる……主に俺の所為で) 出来るだけ悩まないようにしようと心に誓ってはみるものの、悩まないなんて無理だ。 悩めばその困り顔を見て雛里がポーっとして? それがまた俺の悩みの種になって……ああ、なんということでしょう。妙な連鎖が出来てしまった。 や、でも仕事は仕事だから、きっと雛里は大丈夫。仕事はきちんとやるさ! ……いや、やるのは俺か。雛里は助言してくれるだけだ。 「ええいとにかくやろう! 雛里! 仕事だ! 仕事をしよう!」 「ひやぁぅうう……!!」 「ひやぁぅうじゃあありません! より良い都作りのために今日も頑張るんだ! 時間は待ってはくれないんだ! しかし時間が無いを言い訳にしない勇気を! 時間なんていっぱいあるんだから! ───睡眠時間削れば!」 「え、え? えぇ……?」 タイマイ様がそっと布団から顔だけを出す。帽子は布団の中で取れたようだった。 「睡眠時間なんて無いものと考えればいいんだ! そうすればココロはハイで体は休まらないで風邪引いて───でも作業は進む! ……それが奉仕のココロです」 「あ、あわわ……それは、じ、自己犠牲では……」 「大丈夫! キミならできる!」 「あわっ……!? わわ、わたしゅが……やるん、ですか……!?」 ……ちなみに。 その日は朱里が居なくなった途端に発動した七乃トラップの所為で、数えるのも面倒になった徹夜の何日目かであった。 思考回路は軽やかにとろけ、気を引き締めていないと暴走。 タイマイ様の前でココロをポジティブにと、少し緩めたのがまずかった。 もはやココロの暴走は止まることなど知らず、揺れる視界のままにタイマイ様状態の雛里をがばりと抱き上げた。 真っ赤な顔、小さな悲鳴。 そんな彼女をお姫様抱っこ状態のまま───………………寝台にぽてりと倒れた。 「あわっ……!?」 寝台+女+男=? その日の俺はきっとどうかしていたに違いない。 いや、実際どうかしてたからこんなことになったわけで。 雛里を抱えたまま寝台に倒れた俺は、愛しき布団の香りと雛里からする優しく甘い香りに導かれて───…………そのまま寝た。 こう、仰向けの雛里のお腹に頭を預けるようにして。 「は、あ、うっ……!? 一刀しゃ……!? あわぅぅう……!?」 耳に雛里の困惑の声が届いた───頃には既に眠りの中だった。 むしろそんな囁くような困惑が、今のこの北郷めには子守唄にさえ聞こえたのです。 いや、うん。ようするに考えることを放棄するほど眠かっただけなのだ。 甘い香りと柔らかい感触が心地良い。 「………あぅう」 深い眠りについたその日。 なんでか自分が子供の頃の夢を見た。 誰かにずっと頭を撫でられるような感触を頭で感じながら見た夢は─── 初めて何かを上手に出来た時に、親が頭を撫でてくれた夢だった。 ……。 さて。 女性の腹部を枕にして寝るという、たわけたことをしてしまったあの日以降。 何故だか雛里が少し身近に感じるようになった。 というのも、相変わらずのカミカミ言葉なのだが、遠慮……といえばいいのか。ソレが少しだけ無くなったのだ。 朱里が居ないとかなり空いていた距離が、日に日に縮んでゆくのを感じた。 時折様子を見にきてくれる思春が“またか……”って目で俺を見たけど……俺、別になにもやってないと思うんだ。寝てしまった以外。 「あの、一刀さん……」 「んぁっと、そうだそうだ、集中集中」 「いえあの……あんまんを作ったので、よかったら……」 「へ? ……あ、あらー……」 作った、って……厨房の方に行ってたってことだよな。 なんとまあ、出て行ったことにてんで気づけなかった。 口で集中言いながら、結構集中していたようだ。 自分のよく解らない集中力に照れ笑いをしながら、頭を掻きつつあんまんを貰う。 蒸かしたてのようで、ふわりと上がる湯気と香りが食欲をそそる。 食べ物がこの手の中に! と意識してみれば、急に泣き出す腹の虫。 いただきますを自然な笑みと一緒にこぼすと、我慢もせずにかぶりついた。 「………」 雛里はそんな俺を、どこか穏やかな目で見守っていた。 その瞳はまるで、わんぱくな子供を見つめる母親のようで───! それは言いすぎだ。 けど、なんでか最近の雛里はいろいろと世話を焼いてくれる。 俺と美羽が大分困惑するほどに。 何が彼女をあそこまで変えたというのか。 美羽に言わせれば“主様がきっと何かをしたのじゃ”とのことだが……あの、ストレートに俺を疑われるのも心外なんだけど。でも他に理由が思いつかないのも事実なわけで。 そんな美羽も今は七乃と一緒に別行動中。 現在、雛里と二人きり。 そうなると、雛里はえーと……なんて言えばいいんだ? あ、あー……うん。“甘やかそうとする”……かな? 「雛里? じぃっと見られると食べ辛いというか……むしろ一緒に食べない?」 「へわっ!? あ、ひゃい……っ!」 ……へわって言った。 あわ、じゃなかったのが地味に意外で新鮮だった。 しかしながらきちんと椅子に座ると、そこでもくもくとあんまんを食べ始める。 リスみたいな食べ方だ。速度はもちろん劣る。 「………」 「……《ちらちら》」 「?」 「……!《しゅばっ》」 で。 食べてる間もなにやらやたらと見られる。目が合うと逸らされる。不思議。 しかもその視線が何故か俺の目とかじゃなくて、口周りに向けられている気がするのは気の所為でしょうか。 「………」 まさかなぁ、と考え付いたことを実行してみることにする。 雛里があんまんに視線を向けた隙に、餡子を頬につけてみる。 そして何食わぬ顔であんまんの咀嚼作業に戻るのだが───ちらりと雛里を見てみれば、俺の頬に存在する餡子様に気づいたようで、何故か“今こそ好機! 全軍打って出よ!”とでも言いそうな迫力を放った。 ……いやまあ、その時点で答えは貰えたから、すぐに餡子を自分の指ですくい、食べたけどさ。その時の雛里の顔は…………ガーンって感じで、すぐにどんよりと暗雲を肩に背負ったような顔になった。 (これは……あれか? もしかして思春期さん特有の……!) お姉さんぶりたい病? 背伸びをしたいお年頃が今まさに……!? 「懐かしいなぁ……俺も一時は妙に大人ぶったりしたもんだ……」 剣道で天狗になったり、俺はすごいんだーとか思ったり。 意味もなく“フッ”とか笑ってみたり、自分なら他の人には出来ない“技”というものを開発できるとか自惚れたり。結果的にはここに来て、技……ではなく氣は得たけど。あの日々は無駄と無駄でないものとでごっちゃになっていた。 けど、そんな調子に乗った自分はあっさり叩き折られた。 本当に強い、剣道を楽しむ人は言わずもがな───女性には負けないと思っていたのに、不動先輩にまでに徹底的に負けた。 この世界に来てからは余計にだ。 男の尊厳? ハハハ、そんなものはこの世界にはないさ。 必要なのは変わる勇気と貫きたい理想のみ。 俺の理想は華琳の傍で、国に返してゆくことだけだ。 そのためにすることは、可能な限り躊躇わずにいこうって思いを……今は少しずつ育んでいるところだ。 急に決める覚悟もあれば、じっくり育む覚悟もある。 俺のそれは、たくさんの他の覚悟が無ければ育ってくれないのだ。困ったことに。 だから何度でも覚悟を決めて、じっくり育てていきませう。 「……はふぅ」 あんまんを咀嚼し、お茶を啜って流し込む。乱暴にではなく、じっくり味わってから。 ご馳走様を言うと雛里もお粗末様でしたを返してくれて、穏やかな空気の中で微笑み合った。 ……ただ、穏やかながらも最後まで俺の頬を見つめていた雛里については……もう、なんと言ったらいいのやら。頼むからおかしな方向に大人ぶらないキミでいてください。 ……。 数日が経った。 雛里が蜀に戻ると、数日後に別の軍師がやってくる。 彼女らはそれぞれの国の王がこうあってほしいということを俺に教えてくれて、俺はそうなれるように頑張っている。 もちろん飲み込めるものと飲み込めないものはあって、そういう時は徹底的に話し合う。 三国の意見全部を受け入れたら現れる綻びは、平和の中にももちろんある。 というか、都ではなく“俺個人”にああなってほしいそうなってほしいって注文が多い気がするのは気の所為だろうか。 「気の所為ですね」 七乃さんはとてもあっさりキッパリとそう仰った。 「人の心を読まないでくれ」 「一刀さんは解り易いですからねー。大抵は顔に出ます」 「理解力のある顔だと近所でも評判です(ヤケクソ)」 軍師さんは人をからかう癖でもあるんだろうか。 ともあれ、今日は生憎の雨。 外での作業は中止になり、現在は自室で書簡整理の真っ最中だ。 「しっかし……書簡整理の日々が続くのはもう別に諦めたからいいんだけどさ。よくもまあこんなに案件が届くもんだよな。というか、呉関係の話が結構多いような。ハテ?」 「呉から一刀さん宛てに届いた書簡がたっぷりですからね。主に周瑜さんや孫権さんが孫策さんに頼んだものがごっそりと」 「叩き返してきなさい」 「もう一度でも手をつけてしまったら、絶対に受け取りませんよ?」 「そこのところは冥琳と蓮華に任せるよ。むしろ送る前に気づいてほしかった」 「送る書簡も手が込んでますからねー。都に関係しているものに紛れ込ませてますよ」 「知恵を絞るにしたって、もっと別のことに搾ってほしいよな……まったく」 言いながらも自分の意見や提案をさらさらと書き連ね、丸めた竹簡をカショリと積む。 雪蓮にはサボリたいって気持ちもあったんだろうが、全く無駄だと思うことはしない性質だ。だったら……まあ、これも別の国のことを軽くでも知る機会ってことで。 「んー……別にやるのはいいんだけどさ。これって自国のことを都の俺に任せてるって、嫌な噂とか流れたりしないか?」 「支柱で、のちに三国の父になる人に頼むことの何が悪いと?」 「まさか真顔で返されるとは思わなかった」 支柱で三国の父かぁ……改めて言われると、なんと現実味の無い……。 でもいつかはそこに治まる予定らしい。 いや、治まるのか。らしいって言い方はもう今さら卑怯だろう。 「あ、ですがきちんと王の意見を立てる必要はもちろんありますよ? 支柱だからこの意見を通せー! とか言ったら、あっという間に地獄絵図ですからねー」 「そんな提案、出した時点で王や軍師に止められるって。そもそも、こうすればいいよーって言われて“じゃあそれで”って考え無しに決めるような人が、民から慕われる王になれる筈がないだろ。なったとしても、名前だけの王だよ」 「はあ。今の言い方ですと、桃香さまあたりは───」 「流されやすいしやさしすぎるところはあるけど、意思は固いよ。きちんと自分が信じたものを貫こうって意思があるなら、適当な甘言なんかに流されたりしないし───流されても、止めてくれる仲間が居る。だったら間違わないって、うん。立派な王様だ」 「なにやら悟った言い回しですねー。まるで桃香さまのことなら全てお見通しと言いたいかのような態度です」 そんなんじゃないと返して、次の竹簡へ移る。 「似てるからかな。桃香ならそうするんだろうなっていうのがなんとなく解る。あ、もちろん俺もそうするって意味じゃないぞ? 似てるって意識はそりゃああるけど、考えることの全てが一緒ってわけじゃないし。ただ……」 「ただ?」 「いや。もし俺じゃなくて桃香が華琳に拾われてたら、どうなってたのかなって。考えてみると結構楽しい」 「桃香さまがですか。うーん…………どうしてでしょうね−、華琳さん───じゃなかった、華琳さまが振り回されているところしか浮かんできません」 「だよなー?」 言って、顔を見合わせて笑った。 もちろん華琳も厳しくするんだが、それでもなんとか自分の仕事をこなしつつも、華琳のカドを取ってゆく桃香の姿が思い浮かぶ。 「まあ、前提として“天の御遣い”という役目が無い限りは、あの華琳さまが受け入れるとは思えませんけどねー」 「うん、それは俺もそう思ってた。俺だってそうだったわけだし、胡散臭かろうが予言があって本当に助かったよ」 じゃなきゃ今頃どころか始まったばかりのこの世界で、春蘭あたりに賊扱いされてゾブシャアと七星餓狼のサビに……も、ならないか。 「利用するって言葉、案外悪いことばかりじゃないよな」 「なんですか、いきなり」 「いやいや、なんでもない。じゃあ七乃、悪いんだけどこの書簡の山を運ぶの、手伝って」 「借り一つでなら喜んでっ♪《ピンッ》」 「一人でやります」 「おやまあ、欲がありませんねー」 好き好んで借りを作る馬鹿が何処におりますかい。 とはいえ、借りを作るのも悪いことばかりじゃないんだって言いたいんだろう。 でもそれは借りを作る相手が自分にとってありがたい人かどうかで大分決まるわけで。 七乃はどうでしょう。……ろくでもないですね、はい。 「欲はあるけど、それより七乃に借りを作るほうが怖い。というか、“欲が無い”の使い方間違ってるだろ。なんで七乃に借りを作ることに欲見せなくちゃいけないんだ」 「借りという交渉機会を置いておいて、あとで私が一刀さんにご奉仕を───」 「と見せかけて、仕事全部押し付けるんだな?」 「はい、正解です」 綺麗な笑顔だった。ピンと立てた人差し指がくるくると回されている。 「はぁ……奉仕って言葉から仕事を押し付けるところまでいく過程が見えない……」 「まあ結果だけ口にするのは楽ですからねー。まずは借りというきっかけから一刀さんを持ち上げまくっちゃいまして、気をよくしたところに少しずつ仕事を混ぜていくんです。言葉巧みに操られていることを知らない一刀さんは幸せなままに仕事をして、私は策が成ったことに喜びながら仕事をせずに済むと。……幸せだらけですねっ!《ぱああ……!》」 「ぱああじゃないよ! なんて笑顔でなんて怖いこと言うのこの人!」 言いながらも、どこかくすぐったさを感じて笑っていた。 我が身ながら、随分と砕けてきたなぁと思える。 それだけ都暮らしの日が長くなったってことだろう……許昌にも、もう“戻る”というよりも“行く”って意識が強くなっていた。 最初はあれをやらなきゃこれをやらなきゃで、きっと眉間に皺も寄っていただろう。 やっぱり人間は慣れてこそなんだろうなぁ。順応あっての人間だ。うん。 逆に、慣れるまではなんでも我慢しなきゃ……なんだろうか。 「さっきまでの話と関係ないけど、何事にも素早く対応、順応出来る人が一番強いような気がしてきた」 「そういう人を嫌う人も居ますけどね」 「七乃はそのへん、上手くやれそうだけど?」 「私は私の言葉に面白いくらいに踊らされてくれる人が大好きなんですよ。自分は大丈夫だなんて思っているのに、気づいた時には……という人などは特に……!」 「そこでうっとりした顔で俺を見るの、やめません?」 一人恋人繋ぎのように絡み合わせた手を、頬の横に添えてのキラッキラ笑顔。 あーあー、目に見えるくらい瞳が輝いてらっしゃる。 そんな彼女を前に溜め息を吐いて間を取って、仕事再開を告げた。 「……話し合ってばっかりじゃなくて、仕事しようか。で、冥琳は?」 「街の市の様子を見に。ほら、蜀から呉に行ってここへ来た人を見るために」 「ああ、あの……」 今回都に来た軍師は冥琳だった。 ちょくちょくと入れ替わる頭脳さんたちへの対応に、慣れるどころか振り回されっぱなしな俺だが……それでも桂花や音々音が来るよりは大分ましだったと言える。 桂花は愚痴と文句と罵声しか吐かないし、恋が傍に居ない音々音ときたら、それはもう借り出された猫のようにキョロキョロオドオド、ハッとすれば俺にちんきゅーきっくをかますほどの猛者となり、そっちがその気ならと自室でプロレスごっこをすることもしばしばだった。 うん、いやらしい意味じゃなくてね? 飛び蹴りをしてきたところを抱き止めてキャプチュードとか、まあそんなところだ。もちろん落下先は寝台の上に積まれた布団の上なのでそこまでは痛くない。あくまでゆっくりとしたキャプチュードだし。 全力でやったら泣くを通り越して唸るほど痛いだろう。 ところであれをカメハメ52の関節技の一つに認定している肉な人は、それでいいのだろうかと思ってしまうのだが……まあ、いいか。俺が考えても仕方ないし。 「ん、これでよし、と。休憩しますかぁ」 「もういいんですか? まだまだありますけど」 「手伝わずに人のことをからかいまくってる人に言われたくありません。つーか手伝う気ないならそっとしといてお願いだから!」 叫びつつも伸びる。 やぁ、やっぱり伸びをするのって気持ちいいよね。何度でもしたくなるくらいだ。 まあそれはそれとして、休憩するにしてもどうするか。 「あ……そういえば美羽は? 七乃と一緒じゃないなんて珍しい」 「お嬢様でしたら、仲直りを切欠に呉のみなさんとの交流を増やしてますよ。あれで外見は特級ですからね。周瑜さんも連れて歩くのはまんざらでもない顔ですし」 「あー……なるほど。そういえば美羽のやつ、宴の時も仲直りしてからは随分と雪蓮に抱きつかれてたっけ」 酔っ払いに抱き締められて、胸に埋もれて窒息しそうになっていた少女を思い出した。 「ふふふ……お嬢様を“やつ”だなんて、随分と慣れたものですねー」 「へっ!? え? やっ……俺そんな言い方してたかっ!?」 「ええ、まるで長年連れ添った相手の仕方の無いところを苦笑する夫のように」 「夫とかはいきすぎじゃないか!? いくならせめて親友とか相棒どまりで……!」 「親友で相棒なんですか?」 「あ、や、違う……けど」 語尾を弱める俺に、そうでしょうともと笑って返す七乃。 なんというか本当に……言葉じゃこの人には勝てる気がしない。 むしろそんな人ばっかりだよな、俺の周りって。 「あーはいはい言いましたよぅ。言ったかもしれませんよぅ。……そりゃさ、ほぼ毎日を同じ部屋で過ごしてれば、嫌でも慣れるだろ……」 「そうですか? その割には思春さんは変わりませんけどね」 「言わないで! 悲しくなるから!」 確かに一緒に寝てくれるようにはなったよ!? 呉での一件以来、それは確かさ! でもやっぱり態度はそこまで変わらない……! 変わらないのです……! いつか“お前”になった呼び方も、また貴様に戻ったし……! 「俺、思春になにか嫌われるようなこと……したかなぁ」 「その鈍感さが既に犯罪級ですね。一度頭部でも強打してみることを強くお勧めしますよ」 「強打した先にはなにが?」 何気なく訊いてみた。冗談の延長みたいな口調で。 すると七乃は「んー……」と頬に人差し指を当ててから、にっこり笑ってハイ一言。 「死ですかねっ!」 「笑顔で死ぬことを強く勧められても困るんだけど!?」 もちろん全力でツッコんだ。 そこまでやって、ハッと気づいて実りある休憩を目指さんとする。 そう、俺はこれから休憩に入るんだから、無駄な体力を使うわけにはいかない。 からかわれるのはこれで、体力を使うものなのだから。 「でも、愚鈍というものは直せと言われて直せるほど、楽なものではありませんからね」 「うお……愚鈍とまで言うか」 「言葉で遊ばれている時点で愚鈍ですよ。休憩はどうしたんですか?」 「ぬおっ」 突然訪れた驚愕に、妙な声が自然と出た。 そうだった、休憩だ。 つか、解ってるならからかわないでほしい。 「って、だから美羽と休もうとしたら、七乃がどうのこうのと」 「それらを軽く躱せるくらいでなくては、都の支柱も長続きしませんよー?」 「だってそうしたら七乃のこと完全無視することになるだろ」 「私の話そのものがからかい扱いですか!?」 「会話の八割がからかいへの複線じゃないか。そんな妙な罠張ってないで、普通に話せばいいのに」 「一刀さんやお嬢様はからかい甲斐がありますから。お嬢様は理解なく振り回されて、一刀さんは知りながらも振り回されて、あとで振り回されていたことに気づくところが最高ですっ」 目が爛々と輝いてらっしゃった。 そんな彼女を眩しそうに目を細めて眺めた俺は、にっこり笑って言葉を届ける。 「七乃ー、今度からキミの仕事増やすね? 内容を軽く確認したあとに渡すから、俺に押し付けても無駄だから」 「はうっ!?」 笑顔が涙目に変わった。 何かを言おうとする彼女に「さあ! 七乃が言ってくれたように休憩しよう!」と元気に告げて、全力で部屋から逃走。 慌てて追いかけようとする七乃から氣を使ってまで逃げ出し、俺は風になった───。 ……。 というわけで、街までやってきた。 「冥琳、居るかな」 キョロリと見渡してみるが、賑わいを見せる街の様子があるだけ。 各国からやってくる行商や、店を出している者、なんらかの用事で移動する者が道を行き、立ち止まっては品を見てゆく。 あちらこちらで楽しげな声が聞こえるあたり、都も随分と落ち着いたものだ。 「あ、居た」 とある市の隅。 果実が売られている場所で、美羽が果実にかぶりついて楽しそうにしている。 その隣で溜め息を吐きつつも、金を払う冥琳が。 あれ? もしかして勝手に食べたから代金を払ってる……とか? いやいや、宅の美羽はもうそんなお子ではござーませんことよ!? ……などと親ばかっぽく混乱してないでと。 とりあえず声をかけてみよう。 「冥琳、美羽」 近付きつつも軽く手を挙げて声をかける。 俺に気づいた二人がこちらを向き、冥琳は苦笑、美羽はにこーと笑って迎えてくれた。 「買い物?」 「視察のようなものさ。蜀の軍師らの方針とやらを一度、目で確認しておきたくてな」 「あぁ……なるほど。で、どう?」 「悪くない。というか、私も同じ方針でいくだろうと感心していた。だが、一部にいやに食料関係が多い気がするのだが……」 「あー……それ、ねねの仕業……」 「……なるほど、呂布用にか」 「人の話聞かないで勝手に指示出してね。まあ最近は人も増えてきたし、食料関係はあって困ることはないからいいんだけど。今のところは」 「そうだな。田畑の開発も目覚しい。あれは北郷の指示か?」 「一応。あまり天の知識に頼りすぎるのもなとは、何度も思ってるんだけどね……」 それこそ、以前思っていた通りのようになりそうで怖い。 好き勝手に行動しておいて時間が来ればハイさよならは、あんまりだろう。 「武器があるならば使わなければ意味がない。お前のそれは、軍師に知識を使うなと言うようなものだぞ」 「うーん……でもさ。知識があるからってそれを押し付けて、いつかまた居なくなるかもしれないっていうのは……なんか嫌じゃないか? なんかさ、自分が住み易い環境が欲しいから、自分が居た場所の環境に合わせさせようとしてるみたいで……」 「その結果が発展に繋がることに、何故抵抗を覚える必要がある。お前は好きに知識を提供してみればいい。否と思えば止める者が居る。それが“国”だ。お前の目には、軍師が出した言葉ならなんでも頷く王しか見えていないのか?」 「…………いや。人の忠告も聞かないで、突っ走って飲んで食ってサボっての恐ろしい自分勝手国王様が浮かんだ」 「そうだろう? まあ、あれを見習えとは言わない。だが、たまには好き勝手をしてみろ。国に返すことばかりに焦っていては、それこそいつか大きな間違いをするぞ」 “目標とは一種の強迫概念だからな”と彼女は目を伏せ笑った。 目標というものに強い憧れを持つあまり、そうであろう、こうであろうとすることに必死になりすぎ、周りが見えなくなるのだという。なるほど、少し解るかも。 「少しは祭殿を見習ってみろ。あの方は国に返すことに熱くはあるが、力の抜き方というものをよく心得ている。酒を飲めと言うのではなく、片手間で出来る趣味を持ってみたらどうだ」 「鍛錬」 「……また随分ときっぱり言ったな」 それは片手間では出来んだろう、ときっぱりと言ってくだすった。 でも趣味らしい趣味は確かにない。 趣味……趣味か。 「………」 「……?」 「どうしたのじゃ? 主様」 ……あれ? 趣味……ない? 国に返したい一心で突っ走ってきたけど、そういえば息抜きとかにも誰かと話したりして時間を潰したり鍛錬したりで、俺……自分の趣味らしい趣味、持ってない……!? はっ! ゲーム……! ……は、この時代じゃないし。 携帯いじりもちょっと違う。というか無駄にいじったらバッテリーが死ぬのが早そうだから、必要な時以外は開いてないしなぁ。 「……冥琳」 「言いたいことは解った。というかな……“国のため”も大概にしろ」 心底呆れた顔で言われた。 けれどそれも少しの間で、仕方の無い弟を見るような目で笑い、「それならば視察に付き合ってみるか?」と訊ねてきた。 なるほど、趣味探しの歩みか。 「ふふっ……おかしな男だ。国のために動くのが趣味とは」 「むっ……冥琳だって似たようなものじゃないか」 「私は私で趣味はあるさ」 「雪蓮を叱ることとか?」 「断じて趣味ではない」 「雪蓮に振り回されることとか?」 「違う」 「……! 雪蓮と酒を飲むことかっ!」 「違う。なんだその“これがあったかっ”という顔は」 「雪蓮絡みなのは間違いないだろうなって。それとも読書?」 「……私としては、どうしてそれこそが一番最後に来るのかを訊きたい」 読書らしい。 でも悲しいかな、趣味が読書って、軍師だと当然みたいに思ってしまう。 なんといえばいいのか、こう……仕事の一環? って……ねぇ? 「好きこそ物の上手なれって言葉があるけど、その通りってこと?」 「ふむ……? まあ言いたいことは解るが。好きならばこその知識という武器だ。そもそも、そうでなければ好き好んで誰かの頭脳になることなど望まぬだろう。出した助言も勘に負ける世界だ。趣味として受け取らなければ、いろいろと辛い部分もある。……解るな?」 「ああ……それはよーく解る」 どれだけ鍛えてもイメージトレーニングしても、勘だけで攻撃を避けるおそろしい人を知っております。それが知識面でも勘で解決するのなら、果たして俺達の趣味って……と。 「じゃあ別に俺の趣味が鍛錬でもいいんじゃないか?」 「……なるほど。理屈的には通るか。ただ、片手間ではないな」 「ごもっとも」 店の人にお金を支払いつつ、果実を食べる。 うん美味い。なんというか素材そのものの甘みが凝縮されたいい果実だ。 「………」 ……丸かじりなんだから当たり前だった。 苦笑しつつももう一つ買って、冥琳に渡す。 きょとんとしていたが、俺と美羽が顔を見合わせて同時に果実を食べてみせると、苦笑して受け取り……かじった。 「ふふ……甘いな」と笑う彼女は、続けて珍しいことを呟いていた。 まあ……普段なら在り得ないのだろうけど、「買い食いというのも悪くない」と。 雪蓮がこの場に居たら、笑い転げるほどの言葉だったんだろうなぁ。 そんなことを、どうしようもなく笑顔になってしまう顔を引き締めようと努力しながら考える。顔は引き締まらないままに冥琳に気づかれて、いろいろと文句を言われてしまったが……まあ、苦笑だろうと笑ってくれたので良しってことで。 「趣味がサボリってのもありかな」 「却下だ」 だからつい出た言葉だったんだが、あっさりと却下された。 毎度、こんなものである。 141/何かのきっかけは、いつも近くに潜んでいるもの 時間はそんな調子で流れていった。 「兄ちゃーん! ほらほら早く早くー!」 「おいちょっ……案内頼んでおいて突っ走るなー!」 「もうっ! 季衣ー!? 兄様を困らせないのー!」 各国の将らが代わる代わる訪れて、各国や都の実りになるためのことを提案、または成して戻ってゆく日々。 「にゃははははっ! おじさん、ラーメンおかわりなのだっ!」 「なっ!? ま、まだ食うってか! ……っへへ、気に入ったぜぇ嬢ちゃん!」 「金……足りるかなぁ……」 「申し訳ありません一刀殿……」 「いや、愛紗が謝ることじゃないでしょ……。全てはこの北郷めの油断ゆえのこと……。くうっ……ダッシュ競争で負けた方が奢るなんて言わなければ……!」 「食べ物が絡むと強いですから、鈴々は」 「今実感してるところ……」 それらが実りを結ぶ度に都は大きくなり、人も増えて絆も増えて、みんなの笑顔も増えてゆく。 「だからね? 美しい華琳さま───曹操さまがその手で料理を5品作りました。食べる野獣夏侯惇はそれを独り占めしようとしますが、卓に居る者は3人。どう分ければいいでしょう」 「ぼくがたべるー!」 「わたしもー!」 「ああもう違うって言ってるでしょ!? つまりこの野獣が───!」 「うつくしいそうそうさまはやさしいから、やじゅうさんにぜんぶあげちゃうのー!」 「美しいと言ったところは褒めてあげる。でも野獣には躾けだけで十分よ!」 「えー?」 「やじゅうさんかわいそー」 「かーいそー……」 「ふん、いいのよそれで。つまり野獣の分は抜かすから、この場合は美しい曹操さまが料理のうちの4を取って、一つはもう一人に。つまり可愛らしく従順な筍ケに渡るという───」 「桂花……お前って懲りないなぁ……」 「うるさいわね野獣(男)!」 「あ、春蘭」 「ひぅ!? ななななによやる気!? やるならやりなさいよ北郷を!!」 「いや冗談だから……ってなんで俺がやることになるんだよ!」 「うるさいわね野獣(男)!」 「……お前ってほんと、ブレないよなぁ」 それらの変化にも慣れてくる頃には仕事の数も減り、それぞれが新しい環境に慣れることで問題も無くなっていった。 「璃々ちゃんは物覚えがいいなぁ。春ら───どこかの誰かにも見習ってほしいくらいだ」 「えへへー」 「おうおう、だらしなく顔を緩ませおって。北郷はあれじゃのう、子供を持つと牙を無くす人種じゃな」 「え……そ、そうかな。んー……そう言う祭さんはどう? やっぱり厳しくしつつも褒めるところは褒めるみたいな?」 「うん? 儂か? 儂は───」 「あら。祭さんならきっと、育児は旦那様に任せてお酒ばかり飲んでいますわ」 「あ、凄い説得力」 「むぐっ……好き勝手言いおって……!」 「はっはっは、そうよなぁ。この中で育児に向いておる者など、紫苑くらいしかおらんな」 「桔梗は? なんだかんだで子供には甘そうな印象があるんだけど」 「うふふ……ええ、実はその通りなんです。桔梗は口ではいろいろ言いながら、子供を甘やかしてしまって……」 「ぐっ……い、いや、そんなことはなかろう? 甘やかすことなど───」 「つい先日、ここへ来る前。いいと言っているのに璃々に饅頭を買ってあげたのは誰だったかしら……」 「うぐっ!?」 「祭さんも、一刀さんと大事な話があるから璃々の面倒を見てほしいと頼んだのに……張勲さんに誘われるままに、一刀さんが作っているお酒を見にいっていたとか」 「ぬあっ!? い、いや、あれはじゃな……!」 「……璃々ちゃん、覚えておくんだ。こういう状況のことを、“母は強し”って言う」 「はははつよしー?」 「ああ。お母さんはな、強いんだ」 「うんっ、おかーさんつよいー!」 「ほ、北郷! 笑っておらんでなんとかせい!」 「紫苑は説教が始まるとねちねちとしつこくてかなわんのだ!」 「あっはっはっは、なに言ってるのさ祭さん、桔梗。俺がそうやって助けを求めても笑って済ませるじゃないか」 「こういう時に女を守ってこその男だとは思わんのかっ!」 「それってただの“女性にとっての便利な男”ってだけでしょ!? ……うあああああ! 言ってて自分が立ってる今の環境とあまり変わらないだろって思ってしまった!」 「みつかいさま、げんきだしてー?」 都が“開発はひとまずここまでで十分”というほどまでに発展を見せると、思い出すこともある。 誰かとああいうことをするのは、都が安定してから。 そんなことを思い出す度に華琳のことを思い出す自分が居たのだが……自制してきた反動か、やたらとそういうことを意識するようになってしまった。 「はぁあ……」 「む? どうされた、急に溜め息など」 「あ……ごめん、警邏中なのに」 「いや、それは構いませぬが。しかし支柱自らが警邏など、随分と平和な都ですな」 「一人ですることは思春にも華雄にも禁止されてるよ。今は星と一緒だからこうしているわけだし」 「ほう? だというのに溜め息とは。北郷殿は私と居るのは退屈か?」 「や、そういうことじゃなくてさ。いろいろと考えることがあってねー……」 「ふむ?」 「えっ……と……実は───」 戻ってきてからの最初の相手は華琳がいい。 そんな想いを抱いていた俺なのだが、いざ都が安定に向かうと、どう切り出したものかと考えたりなんだりで、妙に落ち着かない。 そういったソワソワした感覚は皆も感じていたようで、会う人会う人それぞれが心配してくれた。申し訳ない。 「はっはっは! なるほどなるほど! 北郷殿は経験豊富と聞いたが、初心であるなぁ! はっはっはっは!」 「はぁ……まあ、笑われるとは思ってたよ……」 「いやいやっ、ある意味では見事な忠誠。そこまで思われている曹操殿が羨ましいくらいですな。いやしかしっ……ぷふっ! はっはっはっはっはっは!」 誰かに話してみれば、それはもう盛大に笑われた。 しかし応援もされて、なんというか物凄い微妙な気分になったのは言うまでもない。 「ふーん? じゃあやっぱり最初は華琳となんだ」 「魏のためにー……って、頑張ってきたんだから、こればっかりはね。支柱云々以前の問題だし、というか真面目に考えると物凄く恥ずかしい……」 「はぁ〜あ……代わる代わる、都に来る将に甘言吐いて骨抜きにしてる支柱が、中身はこれだもの」 「や、骨抜きになんてしてないだろ。手伝ってくれたことに感謝するのは当たり前だし、お礼に贈り物したり買い物に付き合ったりするのだって当然だ」 「自覚のない甘言だから困るのよ。で? 華琳とはいつするの?」 「真正面からなんてこと言いやがりますか、この元呉王様は」 「することに変わりはないでしょー? だから教えて? ね? ほら」 「そんなの俺にだって解るもんか。つか、それ聞いてどうするつもりだよ」 「華琳が“鳴く”のって、聞いてみたいじゃない? だから気配を消して盗み聞き───」 「国へ帰れ!!」 まあともかく。 そんな、むず痒い日々が悶々と続いたのだ。 目覚めた朝に大変な過ちを犯すなんてことは、今のところはない。今のところは。 ただ、こうして意識し始めると難しいのが男といふものでありまして。 「はぁああ……」 「《なでなでなでなで……》う、うみゅ? 主様? 何ゆえに妾の頭を撫でながら溜め息を吐くのかの」 「いや……落ち着くなぁって」 「おおっ、それは新発見よのっ! 妾の頭を撫でることで主様が落ち着くなら、好きなだけ撫でてたもっ!」 「そうして油断させておいて、ゆくゆくはお嬢様をぺろりと───」 「いただきません。そして何処から沸いて出やがりましたかそこの陰謀軍師」 「いえいえ、少し報告をと。きちんと“のっく”もしたんですけど、ちっとも返事がないので勝手に入らせてもらいました」 「……鍵閉めてなかったか。まあいいや、それで?」 「はいはいそれでですね? 都も大分落ち着いて、各国との交流も深くなったじゃないですか。民のみなさんから“過ごし易くなった”とお礼の言葉をいただきましてねー」 「みんなが慣れてくれれば他のみんなの仕事も減ってくれるからなぁ……効率的な意味で。むしろ今までが不安定すぎただけだって」 「まあそれは過ぎたことなので。えぇと、実は民の一部から献上物がありまして」 「献上物?」 「家の倉から出てきた古い物だそうで、よかったら受け取ってほしいそうですよ」 「古い、って……古の剣とか?」 「いえいえ飲み物だそうです」 「大丈夫なのか!? それ!」 「もしや熟成された蜂蜜水かの!?」 「美羽。もし蜂蜜水だったら、高い確率で腐ってると思うぞ」 「なんじゃとぉ!? 蜂蜜水を粗末にするとは許せぬやつじゃの!」 「……あとな、蜂蜜水って決まったわけじゃないから」 今にして思えば……これがとある出来事のきっかけになったわけだなぁ……。 いつも心と思考の片隅に華琳が居て、妙に落ち着かなくなってしまった俺。 それは───日々を悶々と過ごすようになってしまった俺が、華琳が都に視察に来るということを耳にした、少しあとのことだった。 ───……。 そわそわそわそわ……! 「ア、ア、アウゥウ……!」 「あのー、一刀さん? 気持ち悪いですから落ち着いてくれません?」 「また直球だなおい!」 ある、夏が訪れようとしている暖かい日の自室。 今日はそう……華琳が都へ視察に来る日。 言伝を頼まれ、早馬に乗ってきた兵を迎え、歓迎したのち……それからの日々を抑えきれない思いを胸に過ごしてきた。 まだ朝も早い今……俺の心はてんで落ち着きを見せぬまま。 だがもう決めてあることがある。 今日、華琳に視察をしてもらって……都の発展と安定を認められたら、彼女にもう一度告白しようと思っている。 そ、それでその後は、夜をともに、って……ねぇ? う、ううう……! 考えてたらまたそわそわが……! 「アウー!」 「だから落ち着いてください? というかなんですかー? その奇声は」 「落ち着かないんだって! ああもう喉が渇く……! み、水……!」 自分で落ち着きが無いと自覚しながら、緊張のために渇いてしまう喉を潤す。 何杯目かはもう忘れた。飲みすぎて厠に行った回数も結構であり、つい先ほども厠に……って、あれ? 俺、水注いでたっけ? 入ってたからそのまま飲んじゃったけど…………あれ? まあいいか、七乃か美羽が気を利かせてくれたに違いない。 「そんなに喉が渇くなら、もういっそ川で待機しちゃってみるのも手じゃないですかねー。お水飲み放題ですし。……それにしても、到着と同時に視察を開始するつもりだから迎えはいい、だなんて……曹操さんも相変わらずというかなんというか」 「はぁ……そうなんだ、お陰で一層不安なんだよ……。今こうしてる間にも、もう到着して視察してるかもしれない……!」 こここっここ告白の言葉はどんなものがいいだろう!? ああいや待て! まだ安定を認められたわけじゃないんだぞ!? あれ? でもその場合、こんな悶々とした気持ちのまま、安定が認められるまで───いやいやいや! その時はその時だ! 煩悩など再び消し去ってくれましょうぞ! だから落ち着いてください俺の心臓。 「大丈夫なのじゃ主様。主様や皆が頑張って栄を目指した都じゃ。それが早々、認められぬ方向に発展するはずがなかろ?」 「ん…………だな、そうだよな。まず俺が信じないとだよな」 「信じ、成功した暁には曹操さんと性交───」 「はいそこストップ!! それ以上いけない!! ていうか七乃! 仕事は!?」 「途中ですね。ほら、以前言っていた献上物の整理です。華雄さんに頼んでおいたんですけど、大雑把にやって壊してしまいそうだったので、今は私が」 「あぁ……そういえばあれ、結局なんだったんだろな。飲み物だって言ってたっけ?」 「はい、丁度ここに持ってきて───…………」 ……? 喋り途中だった七乃が、びしりと固まった。 その視線は机のほうに向いており、そこには俺が飲んだ湯飲みが。 「あ、あのー……一刀さん? あの湯飲みはどこから……」 「え? や、丁度水が入ってたから飲んじゃってもいいかなーって。七乃が淹れてくれてたのか? ありが───」 ……。今度は俺がびしりと固まる番だった。 この流れって。沈黙って。つまり……そういうこと? 「エート七乃サン。つかぬことをお訊きしますが……」 「はあ、あの……死んだりするようなものではない筈なので、大丈夫だとは思いますが」 「う、うみゅ? 七乃、先ほどの水がどうかしたのかの……?」 「実はそのー……献上物が少し混ざった飲み物だったりしちゃいまして」 「普通に俺にって淹れてくれたものだと思ってたんですけど!?」 「頼まれなきゃやりませんよ? 頼まれても嫌なら断りますし」 「いろいろ問題ありまくりだろお前……って、え? じゃあ……?」 なにやら嫌な汗がダラダラと出てきた。 え? いや……え? もしかしなくても本当に俺……飲んだ? 「本当は少し舐めて、効果を調べるはずだったんですけどね。手間が省けたと喜ぶべきなのでしょうか、土葬の準備をするべきなのでしょうか……」 「え!? 俺死ぬの!?」 「いえいえ、毒の類でしたら飲んだ時点でなにかしらの反応があると思いますよ」 「そ、そっか、そうだよな……ってちょっと待とう!? “少し舐めて効果を調べる”って言ったのに、なんで結構な量が注がれていたんで!? これ俺が水飲むために用意しといた湯飲みだよね!?」 「い、いえいえいえっ、ですから大丈夫ですよっ。それはほぼ水で、古の飲み物は数滴垂らしただけですからっ」 「……輝く瞳で言われても説得力が無いんだが……」 「一応付属されていた書物に、効果らしきものも書いてありましたし、そもそも私が飲もうとしていたものを一刀さんが飲んじゃったんじゃないですか」 「じっ……自分の机に置かれた水を飲むなと言われても! って……う、んん……? あれ……ちょっと気分悪くなってきた……。トイ……厠行ってくる……」 「曹操さんがいらっしゃったら、厠で盛大に吐いていると───」 「言わんでいいっ!!」 からかわれたりはしたが、心配そうな顔のままの七乃に見送られ、自室を出て厠を目指した。美羽がついてこようとしたけど、さすがに勘弁願う。 まったく七乃は……ことあるごとに人をからかって───……ん……あれ? なんか……あれ? 妙に体が熱くなって……きた……? 「ん……、……っ!? つっ……!」 そんな感覚を自覚ののちに、突然鋭い痛みが体を襲う。 けれどそれは一瞬……かと思いきや、今度は鈍痛がのっしりと体に圧し掛かり、眩暈を起こして通路の一角に膝をついてしまう。 「あ、れ……?」 目の前が揺れる。 頭が揺れている感覚は無いままに、視界ばかりがぐるぐる回るように。 ……気持ち悪い。 なのに吐けない。 「え、と……」 すぐに思い出して、こういう時の医術を華佗に教わったままに思い出す。 しまった……こんなことになるなら、七乃の話を最後まで聞いておくんだった。 効果がどうのこうのって言ってたし……飲もうとしていたってことは、そう悪いものでもないはず、なん……だけど…………─── (あ……だめだ、これ───) 意識が遠退く。 通路の床に、重く吸い込まれるように、視界が暗くなりながら床に近付く。 せめて衝突しないようにと腕に力を込めて体を支えてみるが、それが出来たのもほんの少し。すぐに腕は力を無くし、土下座するような姿勢から崩れ落ちるように、ごろんと横倒れになった。 (───……) 拍子にひゅっ……と息をしたら、意識がスゥッと抜けていった。 最後に思春と華雄の声が聞こえて、心配をかけないようにと抜けていく意識を繋ぎ止めようとしたが、間に合わない。 そのまま意識を手放し、意識の無い暗闇へと埋没していった。 ……結局。 その日、“俺”が華琳と顔を合わせることはなかった。
ネタ曝しです *肉な人 キン肉マン。 48の殺人技と52の関節技はカメハメのものですが、いつの間にかキン肉族48の殺人技などになってしまっている。 マウスがイカレてます。こんにちは、凍傷です。 僅かワンクリックでダブルクリックの性能! 移動させたいプログラムがドラッグどころかダブルクリックで起動。その無駄機能に順応してくれる!と意気込んでみると、ワンクリック効果しか出ない腹立たしいマウス。 ええ、きちんとマウス設定がおかしくなってないかは調べたんですが……もう随分使ってますからね、買い換えねばです。 なのに買い換えるお金が手元に無いと来ます。 まあそれはそれとして。 毎度遅くなっております、90話です。 IFらしい話がてんで無い中、ようやくIFらしい話を出せそう。 と言いつつも、なんか恋姫なら普通にありそうって思えるから不思議。 タイトル通りのアレですから、知っている人にとっては「ああアレか」なお話。 “こんなのIFでしか出せないよね”と思った時から既にこの話は出来ておりました。 頭の中で出来ていただけだから、書き起こすのが大変なのですよね……。 はい、そんなわけで次回に続きます。 一話もので出すとか言いながら、早速続きものですよ。 我ながら上手くいきません。 では、また次回で。 Next Top Back