【プロローグ5】 四月二十二日、水曜日。 今日は朝礼があります。 だってのに、結局泊まりおったジジーソンはモノスゲーのんびり。 能力をバラしたくない僕としましては、さっさとガッコに行って欲しいのだが。 昨日の暑さは結局メシ食ってた所為とゴロちゃん効果だっただけであり、四月も後半、まだまだ涼しい日々が続きます。 中井出「アァンタァアアアアッ!! いつまで寝てんのホントもォォォォ!!!」 なのでさっさと起きてもらった。 鉄心 「こりゃ! 老人をもっといたわらんかいっ!」 中井出「生憎と差別が嫌いなもんで。相手が誰だろうとやると言ったらやるぞ俺は」 鉄心 「ふぅむ……ここまで休むつもりはなかったんじゃがのぅ。 ついつい空気が良くて、くつろいでしまったわい」 中井出「そりゃ結構。あんたで最後だから、さっさと顔洗ってらっしゃいな」 鉄心 「ふむ? 百代たちはどうしておる?」 中井出「道場で鍛錬。せっかくだから京たちの実力を見てもらってる」 鉄心 「おおそうかそうか。ではワシは───」 中井出「覗きポイントの確保とかぬかしたら二度と出入り禁止にさせてもらうが」 鉄心 「男としてこれは覗くところじゃろうが!」 中井出「どこまでエロイんだクソジジイ! つーか体操服がブルマとかぜってーテメーの趣味だろあれ! あとスク水に旧式が混ざってるのも!」 鉄心 「男ならばブルマと旧式じゃろうが!《クワッ!!》」 ……こんなジジイが学園長で大丈夫か、あの学園。 中井出「とにかくこの場所で覗きとかは禁忌。 やった時点で出入りの権利剥奪。それはファミリーだろうが変わらない鉄の掟だ。 あのガクトでさえ自重してるんだから、 学園長がやっちまうなんて、示しがつかないすよ」 鉄心 「ムウ。まあ冗談じゃ」 冗談に聞こえなかったんですけど。 まあ実際に冗談だったらしく、ヒゲを撫でると「鍛錬の様子でも見てみるかのう」と歩きだす。OK、しっかり道場方面だ。 中井出「さて、じゃあこっちも料理を作っておきますか」 元気なお子には美味しいご飯。鉄則です。 中井出「それにしても、決闘かぁ」 モモとの久しぶりのマジバトル……やってる最中、ガラにもなくトキメケを感じた。 フルブラストこそ解放しなかったものの、人器解放状態に付いてくる者がおった。 能力を手に入れて以降、どの世界でもずうっと妙な孤独感を感じてたけど……モモの言うとおり、高すぎる能力にがっくり来てた部分もあったんだろうか。 モモだけじゃない。自分自身でもスッキリしたって気分だった。 戦闘狂になったつもりなんてなかったけど、何かを全力でやろうって気持ちになったのは随分と久しぶりだった気がした。 中井出「……川爺って、どのくらい強いんだろ」 全力、受け止めてくれるだろうか。 中井出「っと、いかんいかん」 こういう考えは押さえ込まなければ。楽しければOK、それが僕。 でも、そだねー。全力を出しきってみたいって願望は、確かに僕の中にある。 それが叶う日がくるかといったら、まず無理だろう。 現状優先。ファミリーが楽しく壮健でありますように。それがなによりだ。 ───……。 朝礼、雑談、勉強、昼、さっさと過ぎて放課後。 特にすることもないので京の部活を覗いてみると、しっかりと指導をしている京の姿。 これが、慣れるまではぶきっちょで話すこともままならなかったというんだから奇跡さ。 京 「違う。そこは軽く捻る感じに」 小杉「こうですね? プレミアムに理解しましたっ」 そして久しぶりに発見、プレミアム娘。 新入生案内の時以来か? 中井出「失礼、見学していってもいい?」 しかしなによりもまず、見学許可を得るのが先。 僕は3年生であり部長でもある矢場弓子(アチャ子って呼んだら怒られた)先輩に声をかけた。 矢場「結構で候」 ちなみにこの人、語尾が“候”な変わった人です。 ほんと変わり者が多い学園です。俺も含めて。 京 「あ、博光」 中井出「ヨース。様子見に来たよー」 小杉 「……? プレミアムに誰ですか?」 京 「未来の夫《ぽっ》」 中井出「兄の中井出博光ざんす」 京 「血は繋がっていない。“義”を頭につけるべきだよ」 中井出「文字としての違いを的確に受け止めないでくれ」 京 「博光の言葉なら雰囲気で解る」 ナニモノですかアータ。 小杉 「先輩の兄……もしかしなくてもプレミアムに強かったり!?」 中井出「プレミアムってほどではないで候」 矢場 「真似は許さないで候」 中井出「ソーリーで候」 ふむ。様子を見に来ただけだし、じゃあ帰るかな。 中井出「京、今日の晩ご飯はなにがいい?」 京 「さっぱりしたものを所望。具体的に言うと野菜あたり」 中井出「具体的どころか漠然としてるんだが」 京 「そこに辛さを投入する喜び。10点」 中井出「さっぱりの意味がまるでないですね。まあいいや、野菜主体な? んじゃあちょっと考えながら帰るかぁ。夕飯、楽しみにしとけー?」 京 「うん、すぐ帰る。というわけでさっさと教えるからさっさと覚えて」 小杉 「えぇっ!? い、いえ、プレミアムに望むところです!」 中井出「ではお邪魔しました。京のこと、お願いします」 矢場 「……家族思いで候」 中井出「手のかかる娘ですからね、どーしても気になって」 矢場 「善きことで候」 中井出「うす」 きちんと先輩には礼を。しかし勝手な学園長やモモにはフツーです。 あとむかつく教師相手も。 基本、自由奔放でいってますけぇ。 小杉 「ところで……先輩は、 もし私がお兄さんにプレミアムな決闘を申し込んだらプレミアムに怒ります?」 京 「どうせ勝てないからやるだけ無駄」 小杉 「むっ! それは少し言いすぎではないですか? この武蔵小杉、既に1年では敵無し! 決闘を続けてNo.1に登りつめた者! 今や2年へ挑戦し、2年も制圧しようとしているほどです!」 京 「珍しくも気遣って言ってる。やめたほうがいい」 小杉 「───…………解りました。そこまで言うのなら私のプッレ〜ミアムな実力! 先輩にも見せてあげます! ───お兄さん! 少しよろしいですか!」 中井出「え? なに? ……あ、もしかして一緒にご飯食べたいとか?」 小杉 「プレミアムに違います! 1−S筆頭、武蔵小杉! 2年であるあなたにプレミアムな決闘を申し込みます!」 中井出「え?」 言うや否や、何処に持っていたのか自分のワッペンを取り出すと、よく磨かれて綺麗な道場の床に叩きつける! ……決闘システム。己が持つワッペンを相手のワッペンと重ねれば決闘許諾っていう、なんとも不思議な決闘法。 まあ断る理由もないので……ではなく、しつこく食い下がられてもメシが遅れるだけだしね、はい許諾。ワッペンスパーン。 中井出「勝負方法は弓道でいい?」 小杉 「自ら自分の首を絞めるとは……! 私が何部なのかをまさか知らないわけがないですよね!?」 中井出「いや、来たばっかりだから案外見学かもしれないし、 説明もされてないから弓道部と断定するのは、 見学者だった場合はキミに失礼だと思う」 小杉 「なんとプレミアムな深読み! しかし私は弓道部! その私に弓道で挑戦とは───」 中井出「勝負かけてきたのはキミね」 小杉 「プレミアムにそうですが、今は腰を折らないでほしいです!」 どういう口癖なんだ、プレミアムって。 中井出「京の兄です」 小杉 「いえ、それは聞きましたけど」 中井出「うむ、ならやろう」 部長さんに断って、弓を用意してもらう。 弓と矢だけ。あとはなんとか工夫で。 とか思ってたら早速放送がかかって、 声 『これより弓道場で決闘を行います。 1−S、武蔵小杉VS、2−F、中井出博光』 こと細かに勝負内容も仰ってくださいました。どこで聞いてた、放送部員。 次々と現れる野次馬を横目に、とほーと溜め息が漏れた。 いやはや、まさかこの博光が放送される日が来ようとは……。 鉄心 「ではワシが立ち合いを務める!」 中井出「来るの早ッ!! 聞き耳でも立ててたのかジジーソン!」 鉄心 「ちょっと通りかかっただけじゃ」 翔一 「面白そうな放送を聞いて俺、風とともに参上!」 中井出「あっちの窓が空いてるから、風っていうなら流れてくれ」 翔一 「来て早々につれないこと言うなよー! キャップである俺を差し置いてこんな面白いこと───許せん!」 中井出「いーからキャップは大和と転校生の性別の賭けの準備でも進めててくれって」 翔一 「お、やっぱ解ってたか。 っへへー、あれはあれで面白く盛り上げるから心配すんなっ」 実にいつまでも童心を忘れぬ人である。 昨日もチカリン(千花)に誘われてケーキ食いに行って(おごりで)、ろくに話もせずにケーキだけ食って帰ってきたっていうし。 中井出「キャップってほんと、女子に興味ないよなー」 翔一 「お前にだけは言われたくないぞぅヒロ。 お前だって女子の裸見たって動揺もしないだろ」 中井出「あら耳が痛い」 翔一 「で、勝算は」 中井出「弓術が上手い京の兄ということで、なんとなく受けてみました。 刺激って大事だしね。負けた時は負けた時で」 翔一 「そこらへんに燃え上がりがないんだよ。 もっと、ぜってぇー! 勝ってやるぅー! とかないのかー?」 あ。呆れてらっしゃる。 しかしなぁ、それを言うにはいささか歳をとりすぎた感が。 つーかモモまでちゃっかり来てらっしゃる。それどころかファミリーまで。あの、冬馬、準? ユキまで連れてくることないじゃない。 中井出「あーもーわぁったよ、勝ちゃいいんだろ勝ちゃあ。 京とユキの前でみっともなく負けられっかよ」 翔一 「お前のそういうところ、ゲンさんみたいでいいよな」 中井出「ゲンさんだったら“勘違いすんじゃねぇ”は必須でしょうに」 翔一 「おぉそれもそうだった」 しかしOK。 まずはプレ美さんに先に射ってもらって、あとはキリッといきましょう。 鉄心 「双方前に出て名乗りをあげるが良い!」 小杉 「1−S、武蔵小杉!!」 中井出「我こそが2−Fの魔王、中井出博光である!!」 小杉 「おぉおっ!? プレミアムな迫力!」 中井出「甘いわ武蔵よ! 戦いは既に始まっているのだ! 気迫に負けるようではまだまだ甘し!!」 小杉 「おぉお……教訓として受け取っておきます!」 鉄心 「うむ。ワシが立ち会いのもと、決闘を許可する」 中井出「うす。勝負方法は射で、持ち弾十発。的中以外は点に入らない。OK?」 小杉 「結構です。先に私でいいんですか? 私のプレミアムな実力を見て、愕然としても知りませんよ」 中井出「よいですよ。そしたらミレニアムな実力で塗り替えてしんぜよう」 小杉 「ぬぬっ、なんだかそっちの方が壮大な印象が……! しかし言葉と実力は必ずしも一致しません。いかせていただきます!」 的場に立つプレ美さん。 早速弦を引き、矢を放つ。 ルールは簡単。言った通り、十発射って的中が多かった方の勝ち。 プレ美さんは言うだけあって、的中八回。 他二発も的中にほぼ近い位置だ。 中井出「おおやるなプレ美さん」 小杉 「プレ美!? 小杉です! 武蔵小杉!」 中井出「武蔵なのに弓道ってのは実に見事。一般に反逆する精神、見事。 なのでこの博光、全力を以って打ち破ってみせよう」 小杉 「ふふふっ、今日のは自分でもベストが出せましたからね。 このプレミアムベストを越すことなどそうそう───」 中井出「んー───……《キィイイイ───》」 人器解放、集中領域発動。 矢を十本持ち、弓こそに射法を教わり、その全てを全力を以って実行。 中井出「熾天滅殺!」 ヒュドカカカカカカカカァンッ!!! 中井出「───ふむ」 小杉 「………………へ、へわっ……!?」 一本射る。的中。その一本目に二本目、二本目に三本目を突き刺すように、一気に射出した。根深く刺さったそれはほんの数秒だけ突き刺さったままとなり、少し経つとごしゃりと床に落下する。その数───十本。 小杉 「プ、プレッ……プレレッ……《なでなで》はうあっ!?」 中井出「んむ残念。的に当たらなきゃ的中じゃないわな。プレ美さんの勝ちだね。 そんじゃあ僕は晩飯の用意しなきゃいけないからこれで。 あ、食いたいやつは先に言ってねー。ファミリーや友達限定でご馳走するぞー」 百代 「よし行こう」 一子 「ご飯と聞いてアタシ参上っ!!」 翔一 「くそっ、バイトさえ無ければ……! お、遅くていいなら食いに行くから残しといてくれよなっ!」 冬馬 「では久しぶりにご相伴に預かりましょうか」 準 「おお、若がそう言うなら。ユキはどーするよ」 小雪 「僕は帰るだけだから、許可なんていらないもーん」 準 「おーそりゃ結構」 見ていた皆様が硬直する中、そうして談笑しながら歩いた。あとは帰るだけ───だったんだが。 鉄心 「対戦者戦意喪失! 勝者ぁ、2−F、中井出博光!」 中井出「勇気ある逃走!!」 川爺の余計な言葉を耳にした瞬間にはダッシュ! しっかりと弓は返して、 矢場 「是非入部をしてほしいで候」 中井出「嫌で候!」 いきなり勧誘されてもしっかり断って逃走! まったく冗談じゃあありません! 僕は永遠なる帰宅部ですよ!? 生涯、入った部は迷惑部だけで十分ぞ! ───……。 ……。 京 「あれからいろいろ訊かれて大変だった」 中井出「すまん、ちょっとした冒険心だったんだが。 まったく、だから言ったのに。京の兄ですって。 なんとなく力を察してくれると思ったのに」 京 「誰もこんなのほほんとした顔で、あんなに上手いなんて思わない」 家に帰り、久々のフルメンバー+1で食べる食事。 今日はまゆっちが実家から食材を貰ったとかで、かなり豪華になっておられる。 だってほら肉ですよ肉! 創造物以外の肉なんて久しぶりだ! そしてコピーも万全! 食いたいだけ思い切り食えるってモンよ! ……ちなみに一人だけのけものはあんまりなので、きちんとキャップの帰りを待ってからのメシとなりました。 翔一 「いや〜悪いなぁ、わざわざ待ってもらって。 俺はこんなファミリーを持てて幸せ者だ」 中井出「迷惑料はキャップの分の肉って言ったら全員頷いた」 翔一 「ちくしょうお前ら鬼だ!!」 そんなこんなで賑やかな食事が始まります。 百代 「大和ー、ごまだれー」 大和 「自分の方が近いでしょーが……よっと」 中井出「はいはいどんどんおあがりね。肉はまだまだあるけぇのォ。 激辛にチャレンジしたい方はこちら、京鍋をつついてください」 京 「とってもヘルシー」 準 「マグマにしか見えんわっ!」 中井出「逆に激甘にチャレンジしたい方はこちら、小雪鍋をつついてください」 小雪 「すっごくあまあまー♪」 準 「もう鍋っつーかマシュマロ鍋じゃねぇかァァァァ!!」 冬馬 「どれ、それでは京鍋を一口。《パクリ…………ドッ!》」 準 「わ、若ー? 涼しげな顔で汗が滝のように出てますよー?」 冬馬 「ふ、ふふ……ななななるほど……! 辛さだけでなく、きちんと味も解る……! おそらくはこれが辛党ならではのこだわり……!」 京 「それが解るならトーマは立派。 食べないで文句ばかり飛ばすガクトやモロとは大違い。ね、ワン子?」 一子 「《ぎくり》……も、もちろんアタシも食べれるわよっ!? 大違いだからねっ! 《どきどき……ぺろりズキィーーーン!!》ふぅうんぐぐぐぐーーーっ!?」 ワン子悶絶劇場。 だが辛しと解っていようが食す貴様の心、実に見事! タバスコを飲み物として飲める京の舌にはついていけぬだろうが、それでも良し! 小雪 「きゃははははっ! ワン子、美味しくて涙流してるー!」 岳人 「美味しそうっていうか悶絶してるだろおい……」 卓也 「いくら馬鹿にされても、あれは食べたくないなぁ……」 中井出「ほんと、どーして二人揃って辛いものとか甘いもの好きに育っちゃったかねぇ」 大和 「冬馬と準は違うのか?」 準 「俺達まで好きにならねーよーにって、博光が気ぃ使ってくれたんでね。 一緒に育った経験はあるけど、まさか若がこうなるほど辛いとは思わんかった」 冬馬 「ここで水を飲んだら負けだと思っています《だらだらだらだら……!!》」 百代 「いや。素直に汗が怖いから飲んどけ」 中井出「ちなみに明日は人間力測定。リキ付くものいっぱい食べろよー?」 翔一 「だったらまず俺に肉食わせろよー……」 中井出「おおいいぞー。じゃあこれから出す問題に答えられたら。 むかしむかしあるところに借金こさえたオジサマがおりました。 経営も難しく、しかし外にはそんな顔は決して見せません。 彼を救おうにも彼は拒んでばかりで、自分の事情を話そうともしません。 しかしある日、その事情を強引に調べ、理解した外道がいらっしゃった。 彼は思いました。ここを救うにはここに人が来るように仕向ける必要があると! さああなたの行動は如何に?」 翔一 「《キラーン♪》力を合わせてオジサマを救う! 具体的には腹ペコな俺に肉を寄越せ! それで俺は風になれる!」 中井出「えーよ、たーんとお食べ」 翔一 「ヒャッホォーーイ!!」 いつの世も子供なお方だった。 まあともあれ、がっつがっつ食ってるようでなにより。 焼肉、しゃぶしゃぶ、鍋、なんでもござれパーティーだから思い切りどうぞだ。 準 「で? わざわざこの場でそんな問題出すってこたぁ、 ただの問題ってわけじゃないんだろ?」 中井出「OHYES。伊達にハゲてないな」 準 「ハゲ関係ねーから」 中井出「や、実はさ。ほら、でけぇ本屋出来たじゃん? あれの煽りをくらってさ、我らがマニアック川神書店が経営難なんだ」 翔一 「んおっ!? ふぉうふぁのふぁひょ!!」 中井出「ばかもん!! モノ食いながら喋るでない!!」 翔一 「んぐっ! んぐんぐごっふ! ま、マジかよ! そりゃいっつも客なんて一人来ればいいほうで、京なんて立ち読みだけだし!」 冬馬 「なるほど、経営難ですね」 大和 「キャップの言葉だけでよーく解ったよ」 由紀江「川神書店さん……いいですよねあそこっ、歴史の本がいっぱいでっ」 翔一 「おおまゆっち解ってる! 歴史本を買うときは是非ウチのバイト先でどうぞ!」 京 「まゆっちならおやっさんのひと声で逃げると思う」 準 「あー、おやっさんは誰に対しても“バッキャロー”って言うからな」 中井出「子供の頃、バッキャローマンってあだ名つけたらゲンコツされたぞ」 卓也 「それはヒロが奔放すぎるだけだって!」 と、しばらく言いたいことを言い合って、いざどうするかを考える。 翔一 「ちなみに借金ってのはいくらくらいなんだ?」 中井出「百万」 一子 「ぶぅっふぅ!?」 京 「妙技、正座走り」 あまりの金額にワン子が吹き出した。 それを、正座のままで歩き、避ける京。 るぁんま2分の1であった技術を、京に習わせたものだ。 百代 「それはまた……子供が出せる額じゃないな……」 中井出「ちなみに立て替えておきました。出世払いでどうぞと」 総員 『お前何者!?』 中井出「博光です《ジャーーーン!!》」 冬馬 「いえ……まあ。人を四人、養う力があるんですから、当然といえば……まあ」 準 「この土地さえ買ったっつーんだからなぁ……どこの御曹司だって話だ」 百代 「けど家族は居ないと。お前はいったいどうやって育った」 中井出「みんなと馬鹿やって育ちました。ままま、いーじゃんそんなの。 金があろうがなかろうが、僕の行動なんてそうそう変わらんし贅沢もせぬ。 それは皆様がよく知っとるでしょうに。必要な時に使うからこそ貯蓄は輝く。 その“使う時”ってのが今だったってだけですわ」 冬馬 「まあ、そうですね。お金は使いどころが重要なわけですから」 中井出「でもだ。それじゃあ根本的な解決になってないわけだよ。 客をなんとかあの店に呼び戻さなければ。 もちろん、本のレパートリーは今のままで」 卓也 「流行のDVDとかは置けないのかな」 翔一 「だめだ。オヤジの店はマニアックな本がウリなんだからな。 歴史ものの本以外は置くことを許さないだろ。こだわりあって続けてるんだから」 そうなのだ。だから問題。 なので僕は最近、時間があれば大和ョゥのところに行ったりしてたんだが。 岳人 「なんか策とかねーのかよ軍師」 大和 「まあ一応。それに関しては少し前からヒロと案を出し合ってたからね」 翔一 「なっ……ずりぃぞおめーらぁ! キャップに内緒でそんなおもしれーこと!」 中井出「纏まってからじゃないと逐一行動して場を掻き回すバンダナ馬鹿が居るからさ」 翔一 「《ぐさり》………」 京 「そのくせ最後は纏めるから困る」 翔一 「な、なんだよー! 纏まってんならいーじゃねーか! それより今話すってことは具体案が纏まってるんだろ!? 教えろ!」 大和 「ラジャ。まずこれを見てくれ。あ、キャップ、その肉丁度良い」 準 「ほいいただき」 翔一 「あぁあっ! お前それ俺が焼いてたっ!」 準 「話が気になるんだろう……? だったら肉どころじゃねーわなぁ」 翔一 「話も聞く! 肉も食う!」 ぐだぐだだった。 まあこのタイミングで話題を振った俺がそもそもなんだけど。 中井出「ほれワン子、こっちの野菜が煮えてるぞ」 一子 「ぐまぐま……」 中井出「ガクトはもっと野菜も食え。お前が一歩足りないのは野菜分が足りないからだ」 岳人 「マジかよ! じゃあ今まで損してたんじゃねーか……!」 卓也 (違うけど……まあ野菜も食べないとだし、ツッコまないでいいかな) 中井出「飲み物持ってくるけど、モモはピーチとして、他はー? リクエストー」 総員 『クオリティーナッシャー!!』 中井出「あーはいはい、仲いいね、お前ら」 宴会場みたいな盛り上がりを見せるダイニング和室を出て、食器類が置いてある戸棚へ。 そこから人数分のグラスと、美味しさをセーブしたナッシャーを創造。 大きい透明なケトル……ケトルって言えるのかはべつとして、容器に入れてグラスとともに持っていく。もちろんお盆に乗せて。 足で戸を開けて戻れば、軍師大和の話を聞きながらも鍋をつつきまくるみんなの姿。 実に元気だ。 中井出「おらー、きさんら飲み物だぞー」 翔一 「おぉぉっ……待って……ました……」 中井出「喉にモノ詰まらせながら待たれたのなんて初めてだよ! いーから飲め!!」 さて。飲み物も持ってきたところで、箸が一旦止まる。 その頃には具体案も出されて、この場に居たみんながなるほどと頷く。 中井出「こうなるとモモの助力……主に川神院の助力が必要になるんだけど」 百代 「いいぞ、じじいに言っておいてやる」 中井出「あと作る側としても見る側としても、いいと思える確認的なものがほしい。 日本が好きな外国人とかが見て、これはいいものだなーとか言ってくれるのとか」 岳人 「いきなり難度が上がったな……」 翔一 「今度転校してくるヤツに見せるって形でどうだ?」 卓也 「あ、それいいかも。すぐに馴染めそうだし」 大和 「ただこれだけじゃあ本当に、ただ歴史に興味がある人じゃなきゃ来ない。 もうひと声が欲しいって思って、みんなに相談したんだけど。なにかない?」 翔一 「ふーむ……」 岳人 「俺様の筋肉に触り放題券とか付録でつける、なんてどうだ?」 百代 「書店が潰れたらガクトの所為だな」 岳人 「ひでぇな! 付録で潰れるとかってアリかよ!」 卓也 「でも付録って発想は悪くないと思うよ。おまけって、なんだか心くすぐられるし」 ……ふむ。確かに。 ならばと付録の方向で考えてみようって話になった。 準 「はいはいはいはーい! 幼子の見守り方、って付録を!」 百代 「犯罪者が増えるだろーがハゲ」 冬馬 「ここは男女の正しい落とし方をですね」 百代 「だから、犯罪者が増える一方だろーが」 一子 「遠くの笛を聞き分ける方法!」 大和 「それはワン子だけでじゅーぶん」 中井出「じゃ、モモは?」 百代 「仔猫ちゃんのやさしい落とし方」 岳人 「やべぇ俺様買いそう! 年下には興味ねーけど!」 中井出「却下。ガクトみたいなのが増えたらどーすんのさ」 百代 「チッ」 岳人 「あれ……俺様何気にひどいこと言われなかったか?」 小雪 「きのせーだよ。それより僕はマシュ───」 中井出「却下。辛いのも却下」 京 「何も喋らせてくれない……でも以心伝心。 何を言うのか解ってるなんて、長年連れ添った夫婦みたい《ぽっ》」 準 「そりゃまー長年連れ添ってる家族だからねぇ」 京 「ハゲ、この肉もう煮えてるから食べて」 準 「おおサンキュ……って真っ赤っかじゃねぇかァァァァ!! どうすりゃこんな分厚い肉が中の層まで赤くなるんだよ! 煮込みすぎだろ!!」 小雪 「僕のもあげるー」 準 「《べちょり》…………椀が溶けたマシュマロでいっぱいだよちくしょー……」 中井出「お残しは許しまへんで?」 準 「これどんな拷問!? たった一言口出ししただけで腹痛大決定だよ!」 それぞれが案を出し尽くしたところで皆様停止。 ろくな案が出なかったからだ。 百代 「なにかないのかよ舎弟にして軍師」 大和 「む……俺達だけで考えないで、周りも巻き込んでみるってのはどうだろう」 百代 「周りもか。役に立ちそうなやつ、居るかぁ……?」 中井出「ふーむ……まゆっちはどう?」 由紀江「つ、つくも神の降ろし方などっ……!!」 中井出「怖いよ!?」 京 「みんなの技術を付録に込めてみるとか。たとえば私なら弓術」 小雪 「僕はてこんどー!」 百代 「む……なら私は川神の技術をか? ジジイがうるさそうだ」 中井出「それ以前に却下。不用意なこと言わないの、京」 京 「もちろん妥協案。本当にはやらないよ」 中井出「大変結構。よーしよしよしよしよし!」 京 「《なででででで!》はうっ……はぁ〜〜〜……うーーー……」 抱き締めて、頭を撫でまくりました。チョコラータのように。 昔から抱き締められたり撫でられたりが好きで、そうするとはふーと長い溜め息を吐く。幸せそうでなにより。 中井出「昔助けるのが俺以外だったら、俺以外に撫でられてハフーしてたのかね。 そう考えるとちょっとどころかかなりジェラシー。 でも助けてくれてありがとうは言いたくなる不思議」 京 「空想に嫉妬する博光も素敵」 中井出「家族でお願いします」 京 「その位置ならきっと妻《ぽっ》」 中井出「弓道場でなーに聞いてたんでしょうかねこのお子は」 あれほど兄だとゆーとるのに。 と、京とじゃれていたそんな時でした。 一子「んぐんぐ……でもさ、こうして美味しいのを食べてるから言うんじゃないけど、 川神グルメマップ〜とかつけるなんてのはどう?」 総員『───……』 ふと、何気なくワン子が言った言葉に、この場に居た全員が固まった。 グルメマップ。 なるほど、それは確かに作ろうとしているものにも有効。ある意味歴史だ。 作ろうとしているものが“川神の歴史”ってものならば、出来てゆく店もまた歴史。 一子 「んあぅ? どしたのみんな。 食べないなら食べちゃうわよ?《がばしー!》ひゃあう!?」 中井出「ワン子お前最高!! もう抱き締めちゃう!!」 京 「───! グルメ情報なら適任が居る。クマちゃんに助力を願うべき」 中井出「おお! 京も冴えてる! 最高! 抱き締めちゃる!」 京 「お礼は熱いキスがいい」 中井出「投げキィーーッス!」 岳人 「《ビタァーーーン!》いってぇえっ!? 誰だよ今魚投げてきたの! なんか熱いし! ……しかも美味い!!」 卓也 「投げられたキスを食べるなんてどれほど飢えてるのさ!」 京 「そのキスじゃない……」 中井出「綺麗に避けておいてよく言いなさる……」 というわけで纏めにかかる。 作るものは川神の歴史書。しかも僕らが1から調べるパーフェクトゥ版。 で、川神の歴史といえば川神院に情報が集中してるってもんだから、モモから川爺に許可申請を取り次いで、散々調べたあとには付録。グルメマップだ。 グルメといえば川神でも有名な食通、我が2−Fが誇る太っちょさん、熊飼満ことクマちゃん。いっつもなにか食ってらっしゃるが、舌は確かな温情派。 様々な食に関する知識を持ち合わせているため、男女問わずに仲がいい。 中井出「じゃあ額にキッスで」 京 「《ちむ》───! ……博光からキスしてくれたの、初めて……。これはもう落とせる?」 中井出「それほどナイス案だったってことです。そして落ちません」 京 「今日……部屋の鍵、開けておくから……」 中井出「一緒に寝てるでしょーが!!」 まあそれはともあれ、やることは決まった! あとは皆で時間のある時に! 中井出「というわけでキャップ!」 翔一 「おうっ! みんな、いきなりだがオヤジを救うため、 ひいては川神市をもっと盛り上げるためにいっちょやってやろうぜい!! カンッパァアーーーーーイ!!」 総員 『乾杯!!』 それぞれが飲み物を掲げて叫ぶ。 消化を助ける効能と腹が減る効能、そして代謝をよくする効能があるので、まだまだ食えます。 翔一 「おぉっ、やる気になったら腹も減ってきた! がつがつ食うぜぇ!!」 準 「これって体重増えんかね? や、後の体重よりも目の前のメシってのは頷けるけどよ」 冬馬 「今が良ければ大和なれ、ですよ」 大和 「あとは野となれ山となれだろ、それ。こっち見て舌なめずりとかやめてくれ」 中井出「まあそんなわけだ。冬馬も準も、よろしくな」 準 「恩には恩を返さにゃならん。お前にゃ返しても返しきれねぇ恩があるし、 恩じゃなくてもなにかやってやりてぇ。一言で言うならお安い御用だ」 冬馬 「そうですね。差し当たり学園の書物や端末などから、 情報収集をするところから始めましょうか」 中井出「犯罪はなるったけなしの方向でね。足がつかないならOKだけど」 卓也 「それ認めちゃまずいでしょ!」 素晴らしきツッコミでした。 うん、やっぱモロのツッコミは素晴らしい。 翔一 「で、提案なんだけど。金曜に来るドイツからの転校生、 面白そうなヤツだったらファミリーに体験入居させてみないか? 入れるかどうかはしばらく経ってからの全員の意見で」 卓也 「また唐突だね。まゆっちのほうもまだ確定していないっていうのに」 京 「私は反対。今さら人数増やして、ここの空気が悪くなるのは困る」 中井出「そんな空気も平然と破壊する……こんにちは、中井出博光です」 京 「でも博光、もし基地のことをけなされたりしたら、平気でいられる?」 中井出「いっぺんヘヴン見てもらいます」 準 「ワー、笑顔でコッワーイ!」 冬馬 「まあ、そうですね。 基地兼中井出宅であるここをけなされては、私としても黙ってはいられません」 準 「俺もお前らの仲の良さは知ってるし、京やユキが大事にしてるのも知ってる。 もちろん俺だって大事に思ってんだから、言われたらどうなるか解らん。 だが新人さんにゃあその気持ちは解らんのだから、情状酌量はあるだろーさ」 中井出「ここはメシ食う場所であって、“秘密基地”は奥。 そこを受け入れられるかどうかだよな。 わざわざそんなところに行かないで広い場所で集まればいい、 なんて言われた日にゃあ……」 ぞわりと髪が逆立つ。 まるで怒りに髪を逆立てる範馬勇次郎のように。 ……基地扱いにしているファミリーのたまり場は、中井出宅と称されるこの家の奥の、隠し扉の先にある。階段を上った先の二階がソレだ。 そこには前に脳内纏めした通り、みんなで持ち寄った漫画やゲーム、様々なものが置かれている。もちろん非常食もあって、そこで軽く食べられるように、お茶も出来るようにとポットも常備している。 理屈ではない、秘密基地と決めた場所には“そういう空気”が存在する。そこに居るからこそ安心出来る、一体感ってものがあるのだ。許した者だからこそ入れる、許した者しか入れない場所だからこそ、心から安心出来る場所。つまり、誰のものでもない“風間ファミリーの家”。 そこを否定なんてされてみろ、俺だってどうなるか解らん。 中井出「まあでも、さすがにそこまで空気の読めないことは言わないだろっ」 一子 「うんうん、言えてるっ」 百代 「言ったらどうする?」 中井出「ぬっ……まず三度! 三度訂正願いを!」 百代 「それでも否定し続けたら?」 中井出「ドイツの歴史に終止符を……!」 卓也 「なんなのそれ! 話が国家レベルまで飛んでるじゃない!」 中井出「ぐぬぬ! 確かに怒りはすれどやりすぎレベル! ならばどうする!? ……退散してもらおうか。ここでは何もなかったんだ。 ファミリーを否定する者など要らない。 僕は何より友を、仲間を、そして家族……ファミリーを大事にします。 皆が集い、心やすらげる場はエルドラド。なにものにも代えられない。 それを、知ろうとするより先に否定否定で押し切ろうとするのであれば……! ルケッ、ルケケッ、ルケケケケケケ……!!」 大和 「なんかヘンな笑いが出てるぞー」 中井出「うおう!? し、失礼。ファミリーのこととなるとどうにも冷静じゃあいられん」 卓也 「でも、気持ち解るよ。 秘密基地は、たとえここからすぐでもここにはない空気があるし。 あそこを否定されたりしたら……想像つかないけど、僕も怒るだろうなぁ」 準 「まあそーゆーこった。まゆっちっていったか? お前さんも気をつけなさい。 理屈じゃねぇ。入れば解ると思うが、あそこは“童心の帰る場所”なのさ。 ケチな理屈を持ってっていい場所じゃあねぇのよ。 解らねぇならな、“そこ自体が子供の頃の宝物”だと思っとけ」 由紀江「童心の帰る場所……ですか」 京 「ハゲが珍しくいいこと言った。10点」 準 「俺ゃどこまで珍しさで認識されてんだよ!」 確かにその通り。 あそこは童心が帰る場所だ。 あそこでだけは本当に子供のように、遠慮せずになんでも言い合うガキに戻れる。 もちろんいつだって遠慮なんてしてないけど……そう、理屈じゃねーんだ。 中井出「準も言ったけど、あそこはいわばファミリー全員の宝物なんだ。 宝物をけなされりゃあ誰だって怒る。 それだけ知ってれば、まああとは時間の問題な筈だ」 翔一 「ま、転校生が面白いか否かで決まるんだけどな。 だが俺の直感が告げている! 転校生は面白いヤツだ!」 岳人 「キャップの勘は無駄に当たるからな……ちなみに女か?」 翔一 「それは賭けてのお楽しみだ!」 百代 「なんだなんだ、賭けなんてやってるのかお前ら。当然分け前はあるんだろうな」 翔一 「あ゙」 大和 「馬鹿……」 あっさり口を滑らせおったわこの馬鹿キャップめが……。 モモに儲け話のことなんか聞かれた日にゃあ、なにもしてないのに分け前寄越せとか言うに決まってるってのに。 冬馬 「賭け事ですか。ちなみに配当は?」 翔一 「う……ああもう! どっちも二倍で一口千円! 一人最高一万までだよ!」 百代 「男は要らんから女に一口だ。舎弟、金出せ」 大和 「姉さんまだ借金返してないでしょーが!」 百代 「じゃあヒロ、一口」 中井出「賭け事は自分の金でやってこそのスリルを味わうもんです。 金が無いんだったらやるんじゃありません」 百代 「チッ、じじいみたいなこと言いやがって。 ちょっとくらいいいじゃないかよー、なぁなぁなぁー」 中井出「アータいつからそんな甘え癖がついたの!! ……割と昔からか。 んー…………」 百代 「…………《じーー……》」 中井出「はぁ。良し。たまにはえーよ」 百代 「お? てっきりつっぱねると思ったのに、どういう風の吹き回しだ?」 中井出「せっかくねだってきたんだし、たまにはね。うれしーだろー」 百代 「《わしゃわしゃっ》ぬあっ! だ、だからやめろっ!」 中井出「昔の約束、覚えてる?」 百代 「昔の? ……………………───おい、まさか」 中井出「あっはっはっは、まあま、じょーだんじょーだん。 別に勝ったから条件を追加するーとかないよ。対等でじゅーぶん。 年齢とか気にして騒げないのが一番つまらんしね」 百代 「…………お前、最初からそのつもりだったのか? 子供の頃から?」 中井出「え? そだよ? 他になにが?」 百代 「………」 ポカンとした顔で見られた。 そして、学園最強を気安く撫でる僕こそが、家族全員からポカンと見られていた。 割とよくある光景なのにね。 岳人 「そういや今まで気にしてなかったけどよ。 どうしてモモ先輩ってヒロにゃあ気安くされても黙ってるんだ? 俺様が呼び捨てとかしたら関節外されたりもするのに」 中井出「昔条件つきの勝負をして勝ったことがあってね。 その時の条件ってのが、なんでも一つ言うことを聞くこと。 で、俺は対等になることを願いました」 岳人 「うわっ! もったいねー! なんでそこで恋人にとか言わねーんだよ!」 中井出「俺にとっての恋人って、家族よりも位置が下だけど……それでいーの? 俺、恋人よりも友や仲間や家族を優先するよ?」 卓也 「親密になってる筈なのに、ヒロとの仲は遠くなってるね、それ……」 準 「結婚を前提にーとかだったらどーすんの、お前」 中井出「みんなに紹介して、きちんと一緒に歩きたいです」 京 「となるとファミリー内の仲は有利」 中井出「自分がきちんと好きになれるかが一番問題なんだけどね。 大切ではあるけど、恋人として見れるかっていったら解らないもんだろ? なぁキャップ」 翔一 「ああ、まったくだ」 大和 「話を振る相手を心得てるなぁ」 だってキャップってば恋人とかよく解らんって人種だし。 中井出「それにね、そんな勝った条件で恋人にしても、楽しめないだろ。 お互いじ〜っくり好き合ったほうが絶対にいいって。 お、この肉もういいね。ハムッ! ハフハフッ! ハフッ!」 いやしかし何度でも思おう! 大人数で食べるメシ……うめぇ! 孤独に生きてくるとほんとこんな団欒が大事で大事で……! これを否定するヤツが居たらほんと……許せないな。666回殴りつけても気が済まん。 中井出「みんなまだいけそう? いけるなら肉追加するよー」 一子 「まだまだいけるわっ! 追加追加っ! あ、野菜もねー」 準 「あ、おにいさーん、上カルビ追加でー」 百代 「叫びたくなるくらいの美味い肉が食ってみたいぞー」 中井出「ワン子が通常で準が上カルビ、モモが美味い肉で……他には?」 岳人 「ステーキをがっつりとだ!」 京 「辛キムチを追加してほしい」 翔一 「ライス追加だ! いや〜、肉食うとメシが美味いよな〜!」 中井出「ほいよ了解」 由紀江「あ、お手伝いします」 中井出「そ? じゃ、頼むよ」 二人して部屋を出る。 熱気が強い食事用の和室と違い、一歩外に出ればまだまだ涼しい四月の空気に驚く。 由紀江「わわっ、寒いって感じちゃいますっ……」 中井出「中が大人数で、しかも熱が出るもの使いまくってるからね。 え〜っと、肉、肉〜っと。あ、まゆっち、野菜そっちにあるから出しておいて」 由紀江「あ、はい。……うわーぁ! た、たくさんありますねっ……!」 中井出「うむ。中井出農場の作物だ。うまいぞ〜? っと、肉の用意完了と」 由紀江「普通にカルビがある冷蔵庫ってすごいですね……」 中井出「買えばそりゃああるさね。えーと、あとキムチとライスと〜……美味い肉」 由紀江「美味しいお肉……なんのお肉なんですか? それ」 中井出「刻震りゅ……ゲフッ! ゲフゴフンッ! えー……秘密。 それよりまゆっち、携帯電話持ってる? 一応連絡用にアドレス交換をと」 由紀江「え、えぇええ!? い、いぃいい《クワッ!》いいんですか……!? わ、私と交換なんて……!!」 いいです。でも顔が怖いです。 ハッキリ言えない僕が居ました。だって怖いです。 由紀江「はうあっ!? …………携帯電話……持ってませんでした……《たぱー……》」 中井出「ありゃま……んじゃあ今度、ファミリーの女連中と買いに行くといい。 男とじゃあノリが違うだろうからね。 あと、一つ助言。大事な、実行すれば……というか実行すべきな助言」 由紀江「は、はい」 中井出「どもりは慣れれば直るとして、言いたいことは押し込めずに遠慮無しで言うこと。 言っては失礼ではないかって考えるのは必要だけど、 考えすぎて何も言ってくれない人を信頼するのは難しいだろ? まあ、だからって何も考えずに、 自分の物差しだけで言いたいことズバズバ言われたら、 みんなきっと黙ってないから気をつけて。黙るのはいけない。 でも、相手の立場になって考えずにズバズバ言うのもいけない。 もし言うのであれば、自分が傷つく覚悟、相手を傷つける覚悟も持つこと。 無神経ってよく言われている僕ですが、お陰でよくボコられております」 由紀江「……痛くないんですか?」 中井出「痛いとも。うちの担任の言葉だけど、痛くなけりゃあ覚えん。 自分が言ったことで殴られたりするなら、 それは相手にとってそれだけ痛かったんだって思うことにしてる。 だから避けません。甘んじて受けてます」 由紀江「ゆ、友情って痛いんですね……」 中井出「大事だからね。痛い目見てでもこいつと馬鹿やっていたいって思えたら、 もうそいつは知り合いじゃなくて友達さ」 何度そういうダチに出会い、何度忘れられたかしら。数えるのも気が遠くなるほどだ。 でも何度だって友になろう。だって、ダチとの時間の楽しさは、何度世界を変えたって心地良いものですから。 中井出「もし迎え入れてもらえたら、是非とも仲良くしてやってくれ。 言われてやるべきことじゃないけど、それでも。 俺にとってはファミリーの幸せこそが願いだよ。 そのためなら、俺はいくらだって汚れてくれる」 由紀江「……本当に、大切なんですね。そこまで思えるなんてすごいです」 中井出「ククク、博光だからな」 松風 『よく解んね〜けど理由になってないぜーそれ』 中井出「いいのいいの。じゃ、戻ろうか。さっさとしないとモモが暴れそうだ」 由紀江「暴れるんですか?」 中井出「暴れるの。抑えるには、若く美人な女か舎弟を差し出すしかない」 百代 「それか、力ずくで止めるかだ。なぁヒロ」 中井出「それでほんとに止まるなら、だけどね」 いつから傍に居たのか、なんてのはわざわざ確認しない。 こいつはいつでもどうやってでもポンと現れるのだから。 中井出「我慢できなくなったか? ほれ、美味い肉」 百代 「違う。ピーチジュースおかわりだ。 ナッシャーは容器に入れてきたくせに、どうしてピーチジュースがないんだよ」 中井出「ピーチジュースは市販ものだからね。 作ったほうがいいなら作るけど、やっぱ好みってあるでしょ?」 百代 「作ったほうがって。お前、桃なんて栽培して───…………いや。作れるのか?」 中井出「………」 百代 「《わしゃわしゃ》うわっ!? だからっ! お前はっ!」 中井出「ずっとこんな時間が続けばいいよな。俺、こんなに毎日が楽しいの、久しぶりだ」 頭を撫でて、擦れ違いザマに小さく呟いた。 モモは抵抗すらやめるほどにきょとんとして俺を見て、俺はそんな顔に笑顔を返した。 ───終わりがあるのは知っている。 ただそれを、今のままで迎えられないのが辛いだけ。 終わりはいつも孤独だから、せめてこんなにも家族を大事に思えるこの世界だけは、笑って去りたいと……本気で思うようになっていた。 中井出(フカヒレ、元気かな) 前の世界で最後に話したフカヒレのことを思い出す。 散々馬鹿やって、忘れられて、でも……消える前にもう一度友達になれた馬鹿な男。 当然忘れられたままだったけど、それなりに惜しんでくれた。 それだけでどれだけ救われたか。 この世界は本当に居心地がいいから、おじさん真剣泣きしちゃうかも。 …………そういや、デニーロ元気にしてるかな。 “九鬼”って聞いた時は最初はまさかとは思ったけど、テレビに揚羽さんが出た時は笑った笑った。 英雄とはその後に会ったから、もうなんの因果なのか。 “世界は繋がった” この世界と前の前の世界とは隣接関係にあって、同じ人が存在している。 だから当然、ジャイアンボイスのロボ、デニーロも居るわけだ。 俺の呪いの法則として、“生き物以外”は俺を忘れない。 機械や自然は俺を覚えていてくれて、しかし人間や精霊などといった人型に近しいものはどうしても忘れてしまう。 デニーロは最後まで覚えててくれて、未有に怒られてたっけ。 ありがとう、最後まで心の友って呼んでくれてたのは、きっとお前だけだった。 でも世界は世界だ。一つ飛べばもう別の場所。世界観が同じというだけで、存在する人物は同じようで同じではない。 デニーロと会うこともないだろうし、会っても…………─── ───……。 ぱくり。 百代「うみゃぁああああああーーーーーーーーーっ!!!?」 総員『うゎあっ!?』 悩みを吹き飛ばして少しののち、モモが絶叫した。 大和 「ど、どうしたのさ姉さん」 百代 「《ぽ〜……ハッ!?》あ、い、いやっ、こほんっ! …………《ちらり》」 中井出「ん? ご所望の美味い肉だが。ちなみになんの肉かは教えん」 翔一 「お? なんだ美味いのかそれ。モモ先輩、俺にも食わせろ!」 岳人 「肉と聞いてはこの俺様も黙っていられないな!」 準 「あ、ばかっ、こーいう場合は地雷な時が多いって相場が───」 百代 「こっ───……、ぎ、ぎぎ……! く、食え……!」 中井出「おおっ!?」 馬鹿な! 常人では美味すぎるが故、誰にも渡したがらないというのに! すげぇ……さすがモモ。常人離れしてやがるぜ……! でも“こ”って言ったね。多分“これは私のものだ”と言いそうになったんだろう。 しかししっかりと耳を塞ぐモモ。当然そうする。僕だってそうする。 あとに待っていたのは、一斉に口に運び、一斉に叫ぶファミリーの姿だった。 翔一 「うおおおおおおお!! 今まで食べたどの国の肉よりも美味ぇえええええっ!!」 岳人 「うぅあなんだよこれ! 筋肉が! 筋肉が喜びの躍動を!」 卓也 「うわぁ! これならグルメリポーターが目を見開く瞬間とかも納得できるよ! って、うわわ、涙出てきたっ……!」 京 「驚きの味……! 二度と辛党に戻れなくてもいいって覚悟が決められそうだった。 厳密に言うと髪の毛が異様に伸びて筋肉ゴリモリになって、 周囲からはさん付けで呼ばれる覚悟が」 準 「ハイ危ない言葉禁止ィイッ!」 冬馬 「ふふ、準? 涙が出ていますよ《ポタポタポタタタタ……》」 準 「や、若〜? 自分も出てますからね? 滝のよ〜〜〜に出てますからね?」 小雪 「あはふ〜…………しあわせぇええ〜〜〜……♪」 由紀江「こ、これはっ……これはっ……!」 大和 「鳥……!? いや、鳥じゃなくて、豚でも牛でもない……な、なんだ!?」 松風 『そう、様々な味が融合した、まさに味の宝石箱や〜〜〜〜〜〜〜っ!! ……でもこれで、たぶんまゆっちが持ってきた肉の味を覚えてるやつ、 誰も居なくなったぜきっと〜……』 由紀江「ふぁいとです松風くぅうっふぅう……!!」 一子 「泣かない泣かない〜……♪ 美味しいなら美味しいで、それだけでいいじゃないのよぉお〜〜……♪」 中井出「おお! ワン子がいいこと言った!」 でも顔がモノスゲー緩みきってて、締まらない。 締まらないケド、皆の幸せそうな顔がこう、なんというか、見てるだけでほっこりだ。 岳人「モモ先輩! もっと! もっと俺様に!」 百代「だーめーだー! あとはもう私の分だっ! ていうかガクトお前一気に取りすぎだ! 見てたんだからなっ!」 岳人「ちまちま食って、ものの味が解るわけねーじゃん! モロも言ってやれ!」 卓也「なんでここで僕に振るのさ! やめてよ巻き込むの! 今のモモ先輩、子を守る獅子みたいな顔だよ!?」 百代「がるるるるるる……!!」 翔一「よし行け軍師! 話をして宥めろ!」 大和「知力100あっても無理なことを押し付けるなよっ!!」 諸葛亮でもだめらしかった。 むしろ知力が90もあったら、危うきには近寄らんと思う。 なぁ? 朱里。 準 「やれやれ相変わらず賑やかだねぇ。おい博光ー? あの肉もうねぇのかー?」 中井出「仕込んだ分があれだけなのだ。 いろいろ準備も必要だし、とっておきだから次はいつになることやら」 すぐに出せますが、必死なモモってのも結構キャワイイじゃないですか。 うむうむ、父性が溢れます。見ててこう、悪ガキみたいでこう……あ、頭撫でちゃろか? まあそんな気分になるわけだ。 冬馬 「ふふっ、意地が悪いですねぇ博光は」 中井出「そーゆーこと言わない。つーか見透かさないの。 バレたらいろいろ面倒だし、味覚が肥えてほかのもんが美味く感じなくなる。 こーゆーのはたまにで、少量だからいいの」 冬馬 「ええ、もちろん解っていますよ。相変わらず家族思いだと感心していたのです」 中井出「自分でも驚くくらいさね。っと、まだ飲めるか? 注いじゃる」 冬馬 「ええ、いただきます」 小雪 「ねぇねぇ博光〜? マシュマロなくなった〜……」 中井出「マシュマロばっか食ってないで肉と野菜も食いなさい」 小雪 「はーいっ♪ ぐまぐま〜♪ まぐまぐ〜♪ ハゲハゲ〜♪」 準 「なんでこの娘はことあるごとにハゲ言うのかね」 中井出「気に入られてるってことじゃないか。 よかったな、ユキが髪を剃るまで男に近付いたのはお前が初めてだ」 準 「うわーいちっとも嬉しかねぇーーーぇっ!!」 小雪 「お友達でお願いします〜♪」 準 「しかもソッコー振られてんじゃねぇかァァァァ!!」 小雪 「だって僕はヒロミツのものだもーん、他の人になんかあげないのっ」 中井出「これこれユキさん? 自分をもの扱いするもんじゃあありません」 そして家族でお願いします。 でも騒いだわりに、準は楽しそうだった。 準 「俺は幼児を愛で続けられるなら、たとえ生涯独身でも一向に構わん」 片手で念仏ポーズを取って、穏やかに輝くハゲが居た。 宴もたけなわといいます。騒がしい時間はいつまでも続かず、さすがに追加を頼む者が居なくなり、鍋やプレートが空になったあたりでお開きとなった。 帰るのも億劫ということで、全員お泊りだ。 由紀江「お、おぉおお思いがけずお泊り会の夢が叶ってしまいましたよ松風っ……!」 松風 『やったぜまゆっち、この調子で次は女友達とぱじゃまぱーてぃーだぜっ!』 中井出「みんなー、パジャマ用意してあるから、風呂入ったらちゃんと着るようにねー。 私服のまま寝るのは家主としてこの博光が許さぬ!」 由紀江「なんか早速叶いそうですーーーーっ!!?」 いやごめん、食い終わったあとでも、やっぱりこれだけの人数が居れば騒がしいわな。 しかし女、男の順の風呂に入り終わると、ようやく消灯……となるはずもなく。 翔一「気持ちよかったぜーーっ! 疲れが一気に吹き飛んだ!《テコーン♪》」 岳人「風呂、なんだかいい香りがしたよな〜……」 卓也「うわ、ガクトの一言の所為で、気持ちよかったって言葉がヘンな風に……」 岳人「うるせーよっ! けどあの湯船にモモ先輩とかが入ったって考えるとこう……!」 翔一「んー? 風呂なんて誰が入ったあとでも同じじゃねーか」 岳人「キャップはほんと、そーゆーとことかお子様だよなぁ」 準 「次は是非F組委員長を招きたいものだ」 卓也「菩薩のような笑顔でいきなりなに言い出してるのさっ!」 冬馬「いいかもしれません、と言うよりも私は反対ですね」 準 「言ってみただけですわ。ま、この気安さは身内でしか出せません」 冬馬「ええ、その通りです」 大和「この際正式にファミリー入りしてもいいんじゃないか? 二人とも」 岳人「ま、S組だけどF組のやつらに比べりゃ親密度も段違いだしな」 卓也「僕も二人なら歓迎するけど」 冬馬「ふふっ、いえ、今はまだ遠慮しておきます。 このつかず離れずの状況が、割と気に入っているんですよ。 あまりにも居心地がいいから、学業などもおろそかにしてしまいそうで」 準 「あーそりゃ解るなぁ。時間忘れて燥げるのなんて、ここと学校くらいなもんだ」 翔一「この気安さこそがファミリー! けどどうせならFに落ちてくればもっと騒げる!」 準 「や、だからおろそかになるって言ってんだろーがー、コノヤロー」 男子連中は早速部屋に布団を適当に並べ、各々が適当な位置に寝転がって話し合っている。消灯だー、なんて言ったところで聞きやしません。むしろ俺がそれを言いに来るのを待ってたようですらある。 まあ、気持ちは解るが。 で、一方の別室、女たちはというと─── 百代 「ところでお前ら。なにか色っぽい話とかはないのか?」 一子 「いろっぽい……いきなりアダルティだわ!」 京 「キスなら毎日。寝込みを襲って」 小雪 「でもやりすぎると怒るから、そのへんはじちょー」 百代 「アツアツだな……まゆっちはどうだ?」 由紀江「ふひゃいっ!? い、いいいえいえいえ、私にそんな、色っぽい話は……!」 松風 『頑張れまゆっち〜、 ここで一発色っぽい話を出せれば、人気急上昇するかもだぜ〜!』 由紀江「はっ、そ、そうでした、自ら話題を潰してばかりでなく、歩み寄る勇気を!」 百代 「おお? なんだ、急に真面目な顔になって」 由紀江「い、いろっ、色っぽい話、色っぽい話ぃい……《ぐるぐるぐるぐる……!》」 百代 「と、思ったら表情だけで目は回ってるな……」 京 「博光相手だと割りと普通に話す。不思議」 百代 「よーし、じゃあ今日はまゆっちの昔の話を聞かせてもらおうか。 もちろん、まゆっち自身の強さのこともたぁっぷりと……な?」 由紀江「えぇええええーーーーっ!!? い、いえ私なんて強く───」 小雪 「謙遜はいきすぎると嫌われるって、ヒロミツがいってたよー? んふふー♪」 由紀江「ふぐっ…………つ、強いか、どうかは自分で言えるものでは……その。 けれどその、あの…………すぅ、はぁ……。 い、言いたいことはきちんと言う、ですよね……はい。あ、あのっ、私一度、 力を振るった所為で周囲の人に嫌われたことがありまして」 百代 「うん? …………そうか。 だから極力、刀を常備しているくせに振るおうとしないのか」 由紀江「刀は魂。振るう振るわずに関わらず、常に剣士としての己を意識せよと父が」 百代 「しかし、振るった先で嫌われた」 由紀江「《ぐさっ》はうぐっ!」 百代 「……まあ、安心するがいいさ。 ここで刀を振り回したところで、お前を嫌うやつなんて一人も居ない。 むしろそうやって自分を見せようとしなければ、 次第に溝が深まってぽつんと独りになるだけだ。 ま、私が言うまでもなくヒロのやつが言ったと思うが」 由紀江「あ……はい。言いたいことはきちんと言うこと、と。 けれど好き勝手を言うだけではなく、相手の立場になって考えることも重要とも」 百代 「ああ、そーだ。まあ基本は好き勝手言っても、モロがツッコんで緩ませてくれる。 解るな? モロがツッコめないような冗談は、ここでは敵意として認識される。 一見なんの取り柄もない、パソコンいじるだけが脳なヒョロボーヤに見えるが、 ファミリーの一員に無駄なやつなんて一人たりとも居ない。 些細なことで支え合っているから、今もこの関係が続いている」 由紀江「は、はい……」 百代 「待ってるだけじゃ、いつまで経っても友達だ。 ヒロには大切にされるだろうが、いつか気づくぞ。 一歩、輪に入れていない自分に」 由紀江「………」 こっちはこっちでちょっと重い話になっとった。 あんれまあなんたること。 百代 「ん? おーヒロー、風呂上りの色っぽい女の体を覗きにきたのかー?」 中井出「消灯を告げに来たんだけど……ん。色っぽいね、綺麗だよ、モモ」 百代 「……ふぉお……?」 一子 「? お姉様? どうかした?」 百代 「い、いや、予想外の切り返しに驚いた」 由紀江「え、えっとその、あのっ……」 松風 『おうおうにーちゃん、いつからそんな口説きテクを身に付けたんだ〜?』 中井出「なんか宝ャみたいだなオイ……口説いとりゃせん。事実を言っただけです。 京、小雪、今日はちゃんと自分でやったか?」 京 「いつもいつも自分でやれと言いながら、やっぱり気にしてくれる博光が好き」 中井出「家族でお願いします」 小雪 「やったけどぉ、やってー?」 中井出「乾いた髪にこれ以上なにをしろと?」 ほんとこの構ってちゃんは、声もあいまって小蓮にしか見えんわ。 ……体はまるで正反対ですがね。ハイ。 京 「またフられた……」 中井出「フってません。というか家族で満足できないのかお前は」 京 「博光が恋人よりも家族や友人、仲間を優先するのは知ってる。 でもそれらじゃ出来ないことを私はしたい。10点」 百代 「仲間同士でも愛があれば出来るぞ。ハーレム状態だ」 中井出「平等に愛さないと刺されるぞ、モモ」 百代 「刺される前に落とす」 中井出「残念だが俺は落ちんぞ?」 百代 「だったら戦うまでだなっ」 中井出「なんで急にウキウキ笑顔っ!?」 由紀江「あの、ところでその、勇気を出して訊いてみますけど……」 松風 『みや───』 由紀江「い、いえ松風っ、これは大事なことなので、松風に言わせるわけにはっ! ……すぅう……はぁあ……! い、いざ。 あ、あの……京さんや小雪さんのアタックを、その。 躱しているのは何度か見てますが……博光さん自身、好きな人は……」 中井出「今のところ、無しかなぁ。いやほんと、恋より友達? キャップと変わらん。 ただ恋愛経験もあって、ひっでぇ終わり方でフラレたけど」 京 「それはどんなっ!?《クワッ!》」 中井出「おぉっ!? ど、どうどう…………。えっとな、俺が恋したことがあるのは二人。 最初の一人はなりゆき任せみたいな感じで付き合い始めて、 でも最後は俺じゃなくて別の誰かの子供と一緒にさいなら」 由紀江「いきなりとっても重いですーーーーっ!!?」 中井出「次はまあ……いろいろあって本気で、思いっきり惚れた相手。 なんだけど、キャップたちにも言った通り、忘れられてさいなら」 小雪 「あなたのことを、忘れます?」 中井出「あーまー、そんな感じ。未練なくすっぱり忘れられたってわけだ」 百代 「で、そんなことが連続した所為で恋に生きるのが怖くなったと」 中井出「いや、出来るならまたしてみたい。魅力的なお子が沢山だからね。 でも選べる立場じゃないし、今は子供みたいに燥いでるほうが楽しい」 京 「魅力的って言われた……《ぽっ》……でも落ちないのは何故?」 中井出「いろいろ事情があってねー」 ソソッ……と近寄ってきた京をきゅむと抱き締め、頭をやさしくやさしく撫でる。 すぐにとろけ、俺の体をぎうーと抱き締める腕には離してなるものかという強き意思が……! なんてことをやってると予想通りにユキも抱き付いてきて、二人の頭を撫でつつほっこり。 心配してくれる家族って、ありがたいね。おじさん思わず涙しちゃう。 中井出「つーかな、俺のことばっかじゃなくてモモ、お前もだろ」 百代 「ん? なにがだ?」 中井出「好きな相手の一人くらいつくれば、戦闘本能もそっちに向かうんじゃないか?」 百代 「む……好きになったことなんてないからよく解らん」 中井出「子供の頃、川爺が好きだった〜とかは?」 百代 「私がじじいの頭くらいの大きさの時から姿が変わらないんだぞ? そんなバケモノをどう好きになれっていうんだ」 何歳だよあのジジイ。 中井出「じゃあ恋愛経験未だにゼロか」 百代 「そーだな。 私に男と認められて、かつ私が気に入っていること。前提としてこれだな」 中井出「キャップとかどうだ?」 百代 「ガキすぎるだろ。主に心が」 中井出「なるほどなるほど。……この世界にモモを落とせるヤツなんて居るのかね」 百代 「さぁなー。ただ、条件を満たしているやつなら居るぞ」 中井出「や、キャップは却下されたからいいっしょ。いや待て? もしかして英雄?」 百代 「変態に興味はない」 一言だった。 まあ、あいつはワン子ラヴだし。 一子 「お姉様に認められているなんて、そいつはきっとすっごく強いのね……! それともすっごく偉いとか……! こうしちゃいられないわ! 修行修行!」 百代 「まあそうだな。すごく強い。偉いって意味でも、合ってはいると思う」 中井出「誰ですかそのパーフェクト超人」 由紀江「想像もつきま───……あ」 中井出「ひょ? どしたのまゆっち、人のこと見て赤くなって。 熱? 湯あたりでもした? どれ、扇いじゃる、さあさ」 布団の上に座って、正座な膝をぽむぽむと叩く。きちんと右手にゃあウチワ。 どこから出したか、などという質問は……トリッシュ、創造しただけです。 百代 「おお、じゃあ扇いでくれ」 中井出「《とすんっ》ややっ!? これっ! どう見ても赤くも…………ありゃ? ちと赤い?」 なんだか勝手にモモが膝に頭を乗っけてきた。 すぐにどかそうとしたけど、ほんのり赤い。主に頬が。 百代 「風呂に入れば赤くもなるだろ。それよりほら、早く扇げよー」 中井出「むう……なんなのかねぇこのお子は。もしかして甘えたがり盛り? む、ならば甘やかしてしんぜよう。 ちょっと待っててねまゆっち、今このお子を甘やかすから」 由紀江「え? あ、は、はい?」 松風 『わ、わざとなのか? わざとなのかこの男〜……』 中井出「まゆっち、よく解らんけどなんにもわざと的なことはしとらんよ?」 由紀江「いえこれは松風が勝手にっ!?」 京 「膝枕したい人は整理券をどうぞ。ちなみにどう足掻いても一番最後」 小雪 「僕、ミヤコの次ー♪」 いつの間にか順番待ちになっていた。 とはいえ湯あたりでもないのに冷ますと風邪でも引きそうってことで、耳掻きをしてやることに。 中井出「はいモモ〜、ちょっと横向いてね〜……はい」 百代 「《さわり》ひゃうんっ!? な、なにっ───」 中井出「耳掻きです。つーかヘンな声出さないの」 京 「モモ姉さんのいい声いただきました。10点」 小雪 「モモちゃん色っぽ〜い、あははっ♪」 百代 「ヒロ……あまりお姉さんに恥かかせるなら───」 中井出「家族の耳掃除をするのが恥なもんですか。京も小雪も俺がやっておる。安心せい」 京 「ヤられてます……《ぽぽぽ》」 小雪 「気持ちいいよー♪」 由紀江「…………《かぁああ……!!》」 中井出「……ねぇモモ? なんで耳掻きやってるだけなのに、こんなに空気が桃色なの?」 百代 「この場に居るメンバーの所為だろ」 違いなかった。 そんなわけで全員の耳掃除をし、ようやくモモに解放されて男組の部屋に戻ると、 中井出「よっしゃあ貴様ら横になれ! この博光が耳掃除をしてしんぜよう!」 卓也 「どういう経緯があれば夜中に男の耳掃除をしたくなるのさっ!!」 中井出「したいと思えば即実行! それがこの俺中井出博光!」 耳掃除を提案した途端にモロにツッコまれた。 うんステキだ。 翔一 「おお! 最近聞こえが悪かったから頼むぜっ!!」 卓也 「キャップもなんの抵抗も無しに頷かないで!」 中井出「まあま。自分だけでは見えない汚れ、第一位だと思うしね。 様々な場所を綺麗にしてこそモテる。これ、人間の知恵」 岳人 「俺様も頼むぜ《ムキーン》」 卓也 「さりげない一言で急にやる気を出さないでよっ!」 中井出「いやいやぁ、大事だよこういうのは。やる気こそ大事。 大体あながち間違っちゃいねーよ? 綺麗好きには好まれるね絶対。 うちの綺麗好きな委員長だって絶対そうだね」 準 「次は俺も頼む《ゴシャーン♪》」 卓也 「また一人釣られたよ! どれだけ人の性格熟知してるんだよヒロは!」 中井出「大事な家族ですから。さっき京たちの耳も膝枕状態で掃除してきたから、 今やこの俺の膝は女性の香り! ……間接キスならぬ間接枕?」 岳人 「おぉっ!? ちなみに最後は?」 中井出「京。つーかモロも髪がちょっと耳にかかり気味だし、せめて中は掃除せんと。 特別に一番にやっちゃる。ゆっくりしちぇけ」 卓也 「う……た、確かにちょっと聞こえが悪いかも」 翔一 「あれだけ聞き漏らさずに的確にツッコミ入れといて、よく言うぜ」 冬馬 「ふふっ、まあまあ。ああ、私は是非大和君の次で」 大和 「なにその的確な順番指定」 こんな調子で夜が終わる。 明日は人間力測定……いったいどんな結果になるやら、今から楽しみです。 ……もちろん、あくまでレベル1状態で頑張るまでですが。 Next Menu Back