【プロローグ10】
我が世の朝が来た。
京とユキを起こさんように外に出て、青空の下に出た僕は、大きく息を吸ってブブルバフーと吐き出した。なんだかとってもハイテンション。
なんだろうね、久しぶりにさ、うん。人間やってるって気分なんだ、僕。
中井出「轟天弦月流レィディォウ体操ーーーっ!!
あそぅれチャーンチャーンチャチャーンチャカチャーンチャ、
チャーーンチャーーンチャチャーーーン! フンハァッ!《ビシバシィッ!!》」
体操したあとにポージングを取ると、俺の体からビシバシと素敵な音が鳴る。
ジョニーブラボーなんて懐かしいことをやってしまった。
でもそんな懐かしさも笑いにしかならないくらい、頬が緩んでいる。
中井出「うぉおおおおおーーーーーーーーっ!!!
生ぃいーーーーーきてぇえええーーーーるぞぉおおおーーーーーーーっ!!!」
当然が嬉しい。
おお、見るもの全てが新しく見える。
なんていうかこう……ね、ねぇ!? 全てを見た、または知ったつもりになっていた老人が、実はイノナカフロッグだったことに気づいて目覚めたみたいな感じです!
ホ、ホオオアアア! じっとしてられん!
おぉおおおおなにかしたい! どうしよう! 僕、今とっても興奮してる!
中井出「おはよう自然たち! 今日も僕を生かしてくれてありがとう!
もう僕の中にドリアードの核はないけど、
それでも振り撒ける活力は振り撒きたい!
さあ! 今日も一日、森写歩郎な日(つまり花丸な日)をお過ごししましょう!!
僕の中の核無きユグドラシルに宿る属性の種たちよ!
僕に根付きし“然の順応属性”を以って、多少の活力を振り撒きたまえ!」
順応のお陰で多少は根付いた属性を振り撒く。
種が小さく芽を出し、多少マナに活気を持たせるけど……それだけ。
もはやこの博光、創造した種以外を一気に咲かせることなど出来なくなっておった。
中井出「ウムムー」
でもいい。やさしい心はそのままだ。
中井出「そうだね。ファミリーのみんなにヒロラインやってもらうのも、悪くないかも」
イベントが上手い具合に進めば、ゲームキャラの意思が生まれるのはもちろん、ゲーム内自体が生命を持ち、マナがもっと精製されるかもしれない。
ユグドラシルは確かにあるんだけど、ゲーム世界がリセットされた所為でフェルダールには無いんだよね。ゲーム内の位置で言えば、存在している場所はガイアフォレスティア。マナ生成環境としては最悪の場所だ。
だからなんとかさ、浮遊要塞にまで戻してくれれば、マナの自動生成もかなりのものになると思う。意思は別としても、精霊のみんなが“ユグドラシルと契約してくれた”ことがここで吉と出た。
ゲーム世界単体じゃあマナ生成なんて成功する筈がない。しかし、元のヒロラインを精霊たちが管理していたように、ユグドラシルには全精霊の種が残っている。つまりマナを生成させるための“力のカケラ”が残っているのだ。
これを上手く芽吹かせて、さらにフェルダールを自然いっぱいに出来れば……上手くいけばブレイカーで壊せるかもしれない。ブレイカーじゃなくても……あー、“自分から受け入れる”なんてことにしてなければ、ディザスティングヴァニッシャーで災い扱いして消せたかもしれないのに。
……ジェノサイドエクリプスで呪いを殺せないもんかな。
中井出「むーん」
分析…………完了。
無理だね、ブレイカーと同じで、対象の存在率が大きすぎるとマナが枯渇して死ぬわ。
中井出「! そうだ! 開け冥府の門! デッドブレイカー!!」
彰利の鎌の中からハデスディザスターを解放!
それを昇華させ、地獄の門を開いてかつての仲間の魂を探ってみるが…………居ない。
世界自体が違う所為か、ただの一人も存在しなかった。
中井出「うっ……うおぉっ……!」
しかもそれだけで立ち眩みがする始末。
うう……弱ったものよな、この博光も。
ただの武具能力ならまだしも、マナや気力を使うものだと辛い。
うん、つまりは分析とかならいいんだ。それが変換とかになると辛い。
なにかを消費するようなものがとにかくだめだ。
たとえTP消費能力でも、もうだめだ。
中井出「ならばネクロマンサーの呪い装備反転能力を……!
………………だめだ、やっぱり56億は長すぎたよ……」
呪いが発動するタイミングが“自分が世界から消える前”なんて、設定しなきゃよかった。受け入れる呪いが当時は強すぎた所為で、ブラックノートン先生の不可能を可能にする力で捻じ曲げてもらうしかなかったとはいえ……ほんと馬鹿なことをした。
“俺が死んだ時”とかにすれば、ずっと笑ってられたろうに。
“物語の世界”で自分が消える前ってのは不利すぎる。
物語が終わりに近付けば、自然と自分は要らないものと判断されて飛ばされる。
今までは早く次に行って最果てへとか思っていたけど、この世界ではそれが辛い。
……ククク、しかしこの博光、もはや後ろ向きな気分で突っ走ることなど多分せぬ!
中井出「よぅしならば前向きに突っ走ってみよう!
どこらへんが限界なのか、試してみる時! カモーンワン子!
ぶぴぴぴぴぃいいーーーーーーーーっ!!!!」
ワン子笛を取り出し、思いっきり吹く!
………………すると敷地外から土煙を巻き上げて走ってくるワン子の姿!
一子「なになにっ、呼んだっ?」
実に10分以内の到着! なんと素晴らしい!
中井出「うむ! 俺の体が刺激を求めている!!
つーわけで一緒にダッシュだ!
ダーッシュダーッシュダッダッダダァーーーッ!!」
一子 「おおぅ……ヒロがやる気だわ!」
中井出「いけるところまで走ろう! 持久力強化だ!
体が許す限り、世界の果てまで走るつもりでダッシュだワン子!」
一子 「わかったわ! よーいどーーーんっ!」
俺達は走った。
片方ブルマ、片方パジャマという異様な二人が駆けてゆく。
その朝、俺は海の上を駆ける練習をしました。
ワン子に輝く瞳で見つめられながら。
……。
ドトッ、ドトッ、ドトッ、ドトッ……。
中井出「大暴れ、将軍」
でげてーーーーん!! でっ・てっ・てっ・てぇーーーーーーーーーん!!
で、ダッシュが終わると家に帰って朝食や鍛錬を済ませてガッコへ。
杉平さんの格好をして、カリユガンホースに乗ってですが。
ワン子は用意があるからって、川神院まで戻ってます。合流する予定ですがね。
中井出「うむ。今日はなんだかいつもより視線が高く感じる。
これも気分の高揚の所為よな」
京 「どう考えても馬の所為。でも幸せ」
小雪 「このお馬さんあったか〜い」
我が前には京、後ろには小雪。
大きな黒の馬に三人で跨り、通学路をユクノデス。
まあしっかり黒でコーティングして、ただの黒い馬にしか見えなくしてるから大丈夫だけど、京と小雪はこれが火闇の馬だってことを知っている。
理解してくれる人が居る……そんなことさえ久しぶりですよ。
京 「でも、制服でなくて平気?」
中井出「うむ。ガッコに寄付金を入れることにしたんだ。
俺に出来ることを増やして、俺の存在率低下を防ぐ。
川爺も頷いてくれたし、寄付金入れるなら服装自由って言うから」
小雪 「それで将軍さまなんだー?」
中井出「やぁ、クリスが馬で登校してきたとき、
やっぱりィヤンパクトって大事だねって思ってさ。
いずれはエーテルアロワノンに乗って登校したいとさえ思ってる」
リセットされてるから浮遊すらしないけど。そもそもまだ斉王に襲われる前の花の都だ。
……とか考えていると、遠くからズドドドドというあの音が。
声 「止めよあずみ!」
声 「はいっ! 英雄さまぁあああああっ!!」
モノスゲー速度で横側から走ってくる人力車。
その上に立つヒーローが俺を見つけ、ニヤリと笑ってきたのだ。
英雄 「そこなる者は我が友博光ではないか!
フハハハハハ! 今日はまた素晴らしい格好をしているな!」
中井出「おはようである我が友英雄!
そう、この博光も少々好きな格好をとってみようと思ってな!
お前が英雄ならば我は将軍! 大暴れ将軍である!!」
英雄 「おお、あえて暴れん坊将軍を真似しきらないところにこだわりを感じるぞ!」
中井出「しかし明日には明日の風が吹くもの。
明日にはRIKISHIの姿で登校しているやもしれぬな!」
英雄 「学生でありながら常識を破壊するその姿勢、実に見事である!!」
中井出「うむ! ところで英雄よ、今日はまたどうしたというのだ?
まだ早い時間だというのにこの道をゆくとは」
英雄 「うむ。実は珍しくも仕事が綺麗に片付いたのでな。
今日も一子殿が鍛錬をしていないかと、見守ろうとやってきたのだ」
中井出「なるほど……存分に焦がれておるのだな」
英雄 「ああ……一子殿を思うと、我のこの胸がしめつけられるのだ……!
あのひたむきな姿に、我の心は落ち着くという言葉をとうに忘れてしまった!」
見事なまでにホの字です。
他人を前にここまで言えるからこそ恋なのでしょうか。
中井出「それは素晴らしい意思であるな! それが愛か!
ちなみに我は、たとえ血が繋がらぬとはいえ、家族を愛してやまぬ!
それが恋だと解った時、我の心は朝から落ち着きを知らぬのだ!」
英雄 「家族愛か……それもまた実に眩しきこと!!
だがなるほど、その目は確かに我と同じ目……。
お前は家族に真実の恋をしているのだな」
中井出「その通りだ! 男女の差別なく、俺は家族に恋をした!」
京 「《きゅむっ》はうっ……だ、だめ博光……人が見てる……」
あずみ「その割には顔はとろけきってますねーーーっ☆」
京を後ろから抱き締めてみれば、俯いて人の目を気にする京……なのだが、メイド……忍足あずみの言う通り、顔はとろけきっていた。
中井出「だが構わぬ! とろけていようと愛してる!!」
京 「!?」
小雪 「うー! ヒロー! ヒロヒロヒロミツー! 僕は!? 僕はー!?」
中井出「えぇっ!? や、家族って言ったでしょ!? でも構わん愛してる!!」
身を乗り出して首に抱き付いてくるユキにそう返してやると、「えへへー」と笑顔になってそのままギウウと抱き付いてきてグオオ喉が絞まる喉が絞まるゥウウ……!!
だが素晴らしきかな恋と愛。
あずみ「愛されてますねーーーっ☆(……チッ、朝からうるせーんだよ)」
中井出「そしてキミは絶好調黒いね」
あずみ「………」
中井出「博光イヤーは地獄耳!」《ドーーーン!!》
忍足あずみ。英雄のメイド。
英雄が巻き込まれたテロ事件の時にその場に居たんだが、巻き込まれてなお必死に生きようとするその生の輝きに惹かれ、メイドになる。
ちなみに風魔の出の者。忍者だね。そりゃ人力車も一人で引けるわ。
忍者、人にして人に非ずだし。
ていうか京がさっきから震えてて、今やガタタタタと大きく震えだしておるのですが。
京 「あ、あい、あいあいあいあい……! 博光が……博光が私に……!」
中井出「?」
顔がどんどん赤くなってます。
えーと…………まあいいや、きっとなにかうれしいことがあったのよ。
……てゆゥか僕の肩越しに顔を突き出して僕を見るユキも、赤い目を輝かせて僕を放してくれない。……えーと、何事?
英雄 「フフフハハハハハハ! 実に善き家族愛だ!
ところで聞いたぞ博光よ! 学園に寄付をするそうではないか!」
中井出「うむ! 家族のためのみにと思っていたが、それだけでは足りぬ!
より良き学園生活を皆が送るため、我は寄付の道を選んだ!」
英雄 「フフハッ、ハッハッハッハッハ!! 見事だ……!
庶民の生まれでありながら数多きに“善き”を齎すその姿勢、まさに男!!
貴族華族云々、どれほどの言葉を並べようと、
始まりから裕福である者なぞ皆無!
誰もが小さきから始まり巨大に至り、ようやく周囲が見えてくる!
それが解らぬ無粋な輩が時にお前を見下すことだろう……。
だがそれでもなお挫けぬお前であることを我は信じているぞ!」
中井出「ワハハハハ当然である! 他人がどう思おうと我は我であるわ!!
しかしその助言、ありがたく胸に刻む。そして感謝の印に金平糖をやろう」
英雄 「むっ───ほう。我は姉上の影響もあり、金平糖にはうるさいぞ?」
知ってます。
この金平糖だって、揚羽さんのものをコピーしたものだし。
なので返事はせずにニヤリと笑ってみせると、それを返事と受け取って金平糖を食べる英雄。金平糖を食べる黄金タキシードの変態……シュールだ。
英雄 「なにっ……!? これは姉上のものとほぼ同じ……!?」
中井出「揚羽さまは覚えていらっしゃらぬだろうが、
この博光は揚羽さまと遊んだことがあるのだ。その時にこれをもらった。
そして、この味は忘れられるようなものではない」
英雄 「なんと……! ならばすぐに教えてくれればいいものを」
中井出「揚羽さまは揚羽さま、英雄は英雄だ。
この博光はお前とはお前個人として友になりたかったからな。
なんのコネもなく、なんの関連もなく出会い、友になる。
真の友とはそういうものであろう?」
英雄 「フフッ……なるほど。ならばこれからも姉上への報告は無しにするとしよう。
これからも善き友で居てくれ、我が友博光よ!」
中井出「当然である! ワハハハハハハ!!」
英雄 「フフフハハハハハハハッハッハッハッハッハ!!!」
小雪 「? ……あはははははははー!!」
京 「……しょーもない……《ぽっ》」
世界はとっても平和でした。
英雄 「では我はゆくぞ。また会おう! さあ出せ、あずみ!」
あずみ「了解です英雄さまぁああっ!!」
そしてたった一人でデケェ人力車を引いて、平気で坂道下る自転車並みの速度で走ってゆくメイドさん。……なにもんでしょうかね彼女。もはや忍者だからとかそういう次元じゃないでしょ。
一子 「あ、いたいた、おーい!」
中井出「むっ!?」
そのすぐ後にワン子が走ってきた。
うむ、あれだけ走ったあとだというのに元気であるな。
中井出「おお、これは一子殿。今朝も善き風車日和であるな」
一子 「一子殿っ!? ……新鮮な呼ばれ方だわ……!」
中井出「うむ。現在の拙者は将軍ゆえ、それっぽい喋り方をしているのだ。
さて、既に三人乗りしているわけであるが……一子殿も乗ってみるかな?」
一子 「《キラキラ……!》いいの!? 乗る乗るー!」
いいのもなにも、到着して早々、らんらんと輝く目で見られればね。
なので手を伸ばすと素直に手を持ち上げ、俺の手を掴んだ。
それを引っ張り上げてやれば、京と僕の間に座るカタチにギンッ!!
一子「ひやうっ!? な、ななななんだよぉお……どうして睨むんだよぉお……」
振り向きザマに物凄い形相で睨んでくるミャーコがいた。
そんな京を宥めつつ、仕方も無しにワン子には一番前に乗ってもらうと、なんやかんやで喜んでいるようで燥いでいた。
……つーか英雄、タイミング悪いにもほどがある。
もうちょい待ってればワン子に会えたのに。
中井出「さて、まだまだ早朝であるわけだが、モモはもう起きておったか?」
一子 「じいちゃんと話があるから〜って。
アタシはヒロが来いって言うから来たけど、なにするの?」
中井出「皆を迎えにユクノデス。愛する家族を迎えに往く……素敵!」
一子 「愛する家族? それってアタシも?」
中井出「? なにを仰る、当然じゃないですか」
一子 「おー……」
目を輝かせて振り向くワン子だが、京にぐきりと顔を正面に戻され、ギャーギャーと騒いでいた。
小雪 「むー……僕もヒロミツの前がいいなぁ……」
中井出「おうおう、ほうかほうか。では来なさい」
相変わらずの肩越しに、ぶーと頬を膨らませていたユキを前に。
なんだか京がショック顔になってたけど、ならばと背中に回ってきて抱き付いてきました。ええ、そりゃもう存分に。……み、妙ぞ……こはいかなること? なんだか今日に限って京とユキがやけに甘えてきようぜ……?
もしや愛!? みんなも昨日突然、家族愛に目覚めた!?
て、てゆゥかね!? 京さん!? なんでそんな密着してくるの!? やめてよ! 耳は息を吹きかけるところじゃないよ!? なんで首筋舐めてくるの!? 耳を噛むんじゃありません! い、いやっ、くすぐったいのはダメなのっ! らめぇええーーーーーっ!!
中井出「では往きましょう《キリッ》」
京 「表情には出さない博光も素敵……」
中井出「素敵じゃなくていいからやめて!?」
でも往きます。
まずは島津寮だね。
……。
ガトトッ! ガトトッ! ガトトッ! ガトトッ! ガトッ、トットッ……トッ……。
中井出「頼もう!!」《どーーーん!》
蹄のリズム良く島津寮に着くと、高らかに声をあげる。
……返事はありませんでした。
中井出「ま、まあいいや! 僕ちょっと中見てくるね!?
見てくるから放してぇええ!!」
京を背後に回したのは失態であった!
なにをそんなに興奮しているのか、体を密着させて首は舐めるわキスをするわ息を吹きかけるわ耳を甘噛みしてくるわ! なんか湧き上がったばかりの愛も手伝って、自分がヘンな方向に目覚めちゃいそうで怖い! 僕怖い!
余は将軍であるぞ!? 将軍になにしてんのォォ!!
しょ、将軍だぞー! 馬鹿にすんなー!
中井出「トタァーーーッ!!」
京 「あ」
強引に離れ、地面に着地。
うう、大変なことになるところだった……!
散々な思いをしながらも、少し気持ちよかった自分が悲しい。
なんか僕朝からおかしいのよ。今までだったら全然平気だったのに。
中井出「うむ」
でも朝はきちんとしないとね。
衣服を正して〜〜……ビシッ!!
中井出「むう!《シャキィーーーン!!》」
衣服を正せばすっきり回復! それは道士郎クオリティ。将軍関係ないけどね。
さあまずは挨拶さ。
中井出「やーほー。みんな起きてるー?」
玄関を通り、中へ。
するとクッキーが迎えてくれて、まだ大半が寝ていることを知る。
中井出 「キャップも寝てる?」
クッキー『なんだかワクワクして眠れねーとか言ってて、一時間くらい前に寝たよ。
なにかあるのかい?』
中井出 「いや、特に今日はそれといった学校行事はなかったはず」
なんだろね。
……ああ、もしかして、結局やれなかったヒロラインのこと?
まあいいや、寝てるってんならわんぱくヴォーズを起こすリーサルウェポンがある。
まずは部屋の前に行ってと。
中井出「起きなさい。起きなさいわたしの可愛い翔一や……。
もう、朝ですよ。今日はとても大切な日。
翔一が初めてお城に行く日だったでしょ。
この日のためにお前を勇敢な男の子として育てたつもりです」
声 「育てられてねぇーーーーーっ!!」
……。ドラクエの真似したら声が聞こえました。
でも出てこない。寝惚けながらもツッコむ姿勢、実に見事。
勇者って呼べば出てくると思ったのにな。
ならば。
中井出「しょーおーちゃーん♪ あっそびーましょーっ♪」
ドヴァーーーン!
翔一「おうっ! 遊びと聞いて俺、風のように推参ッッ!!」
一発です。
まだまだお子だから、この掛け声には敏感のようなのです。
翔一 「……んあ? お、おおヒロじゃねぇかっ、どした?」
中井出「完全に目ぇ醒めてないのに、体が反応するってのもすごいねぇ」
寝た状態でここまで走ってきて、ああまで元気に返事をする人を、俺はキャップ以外に知らない。
中井出「一緒にガッコいくべー。誘いにきたよ?」
翔一 「ん、んー…………? あれ? 遊びは?」
中井出「ああ、そこは覚えとるのね……」
まあともかく、リフレカズラの樹液を創造。
ハイと渡し、飲んでもらうとスカっと元気!
翔一「よぅっし! そんじゃあちゃっちゃとメシ食って行くかぁ!
麗子さーん! 俺、メシ大盛り! 焼き海苔と醤油で!」
声 「我が儘言ってないで出されたもんしっかり食べな!」
声 「えー……おおっ、これはこれで美味そっ!」
ダイニングに消えたキャップはほっといて、次は大和とクリスとまゆっちか。
まゆっちは起きてそうだけど……よし。
中井出「ゆーーきーーちゃーーーんっ♪ がぁっこぉ〜行こぉ〜〜っ♪」
ドギャズシャアッ!!
由紀江「ははははい是非ぃいっ!!」
中井出「なん……だと……!?」
ば、馬鹿な……この博光が視認出来ぬほどの速度で降臨するとは……!
二階からこの速度で……!? 恐ろしいお子……!!
で、あの。なんで泣いてるの?
由紀江「とも、友達が……友達が迎えに……。
それもゆきちゃん……ゆきちゃんがっこいこって……!
子供の頃に諦めた場面が、今まさに……うぅうっ……!」
松風が口を挟めないほど感激らしい。
まさかこんなにも喜んでくれるとは。
中井出「さ、僕のことは気にせずしっかり噛んで食べてらっしゃい」
由紀江「はいっ」
ほっとけばいずれ、ありがとうございますしか言わなくなりそうな予感がしたので先を促した。……さて、あとは大和ョゥだが。
中井出「ヤドカリって可愛いよなー《ぼそり》」
───……ズドドドドドッ!!
大和 「だよなっ! 可愛いんだよなヤドカリッ!!」
中井出「ウェーイ……」
フツーの人なのにこの反応でした。
ヤドカリ好きもここまで行くと、一種の美です。
部屋から結構離れてるのに。
───直江大和。
風間ファミリーの軍師で、飄々としていて中々掴めない男。
自分のペースを周りに合わせることが上手く、交流関係……まあ人付き合いが上手い。
しかしヤドカリの前ではとても素直で、愛で始めると止まらない。
部屋でヤドカリ……オオヤドカリっていうヤドカリを飼っているくらい。
名前はヤドンとカリンだ。そのまんまじゃねぇかと言った岳人が長々と説教されたのもいい思い出さ。
……。
ヤドカリ話を終え、しっかりと朝食を摂ってもらう中、俺はといえば……島津寮・二階に来ていました。京やユキやワン子には外で待ってもらっております。
ワン子が料理の匂いに興奮するのを美味ジャーキーをあげることで収めてもらい、のんびりと。
中井出「………」
IN・クリスの部屋……なんだが、すげぇ。ぬいぐるみだらけだ。
だが愛に満ちておりますな。
そうかそうか、クリスはぬいぐるみが好きか。
中井出「で……」
……人がやってきたと言うのに目を覚まさん騎士娘が居た。
騎士道精神を謳う者が、こんな調子で大丈夫か?
中井出「大丈夫だ、問題ない」
だって寝たい時は寝ていたいものね。解るよ。
でもガッコはガッコです。さあ勇者よメザメルノデス。
中井出「むう」
まずは揺すってみる。……ダメ。
声をかけてみる。……ダメ。
楽しい話をしてみる。……顔がニヤケただけだった。
怖い話をしてみる。……震えだした。
中井出「……仕方のないお子」
いくらなんでも熟睡しすぎですぞお嬢。
こうも見事に寝られると、もうどうしたらいいのか。
しかも寝相の悪いこと悪いこと。
着衣の乱れが目につきます。…………って、なんで僕、顔が熱いんでしょうね。
なんだか肌とかに目を向けづらくなったというか。
あ、あれ? もしかして恥ずかしがってる?
ほ、ほっほっほ、何を馬鹿な。この博光が今さらおなごの肌にトキメケドキュン?
有り得ぬ! 有り得ぬよ!
……有り得ぬから早く起こしましょうね?
中井出「月奏力」
月奏力を解放することで楽器も無しに音を奏で、それを以って大和丸夢日記のOPの音楽を鳴らガヴァアッ!!
中井出「ギャア起きた!?」
すげぇ! 大和丸すげぇ! 大和丸すげぇ見事! 見事!
あ、でもぬぼぉおおお〜〜〜って感じの顔だ。
ならば失礼、暖かな濡れタオルを用意して、顔を拭きます。もふっと。
しばらく拭いていると意識もはっきりしてきたのか、クリスが「ふゎい?」とよく解らん声を漏らした。
中井出「モーニン」
クリス「───…………………………、……………………ふわぁっ!?」
凄まじい返事だった。
中井出「ドイツの朝の返事は“ふわぁっ”……と。よぅし、チェックだチェックゥ!」
クリス「待て! それは誤解だ! というか何故お前がここに居る!」
中井出「迎えに来たよ? 一緒にガッコいこ?」
クリス「そうではなくてっ! ここは自分の部屋で───」
中井出「外から呼んでもキミだけが起きなかった。だからやってきました。
麗子さんとまゆっちの許可は得てるぞー。
あ、あとですね。ごほん。
その格好であんまり激しく動かんでください。目に毒です」
クリス「なに? ………………〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
クリ子ちゃん、自分の格好を見て真っ赤の図。
や、そりゃね? パンティェー一枚に浴衣って格好じゃあ目に余る。浴衣が寝巻きなのは実に見事と褒めたいところですが。
つーかまだまだ寒いのにその格好って、風邪でも引きたいんだろうかこのお子は。
クリス「あ、いや……お前は女の裸にすら反応しない男なんだよな?」
中井出「いやそれがね? 今朝からヘンなんですよ。
京に迫られてドキドキだし、ユキに抱きつかれてホキャーとか叫んじゃうし、
なんていうかこう落ち着かないっていうか。あれ? 俺どっかおかしくなった?」
クリス「……それが普通の反応だと思うが。よし、もう見ても平気だぞ」
中井出「速ぇえ!」
早いっていうか速いよそれ!
振り向いてみればきっちり用意出来てるし!
……出来る女ってすげぇ。
クリス「すまないな、せっかく迎えに来てくれたというのに。
だが安心しろ、これはたまたまだ。普段はパリッと起きられるんだぞ」
中井出「ん……そうかい、よかったねぇ……」
クリス「なっ……なんだその慈愛の目は! 本当だぞ!?」
中井出「まぁま、もう朝食出来てるから、しっかり食べて今日も一日頑張ろう」
クリス「むうっ……なんか納得いかないが、確かに朝は必要だ。
時間もまだあるし、やりたいこともあるからな」
中井出「やりたいこと?」
クリス「いなり寿司を作るんだっ! 弁当とは別にだっ!《キラキラ……!》」
眩しいくらいの笑顔でした。
こう、子供がピクニックにワクワクするような、輝く瞳で言われた。
中井出「なるほど、おやつ的な感覚だね?
好物って主食とかとはべつに、つまみたくなるよね」
クリス「解るかっ!? そうそう、そうなんだっ!
あ、と。ところでヒロ、お前の好物はなんなんだ?」
中井出「僕? 僕はうどんとあんぱん。安上がりなヤツだと近所でも有名です」
クリス「そうなのか……だから肉とかをあまり食べないのか?」
中井出「いや、フツーに好きだよ? でも好物リストに入れるほどじゃない。
俺は肉とか食うよりも、笑顔で燥ぐキミたち見てるほうが満たされるの」
クリス「うぐっ……こ、この間はすまない、結局カップメンも全部食べてしまって」
中井出「美味かった?」
クリス「ああ、目を疑うという言葉があるが、あの時ばかりは味覚を疑った」
中井出「ならいいよ。家族の笑顔が俺の笑顔。笑って笑って」
ニコリと笑ってそう言う。
それはつまり、きちんとクリスのことも家族と思っているってことで。
クリスは少し戸惑ってたけど、「笑顔にしてもらってばかりなのは我慢ならない」と言って、降りていってしまった。
中井出「ム?」
なにか気に障ることしたかな俺。
まあいいや、おなごの部屋にいつまでも居るもんじゃないね。
……。
で、皆様がメシ食っている間にガクトとモロを起こしてきたのは割愛。
現在は島津寮の外で、皆様を待っているところさ。
岳人 「どうせなら女子に起こされてぇ……」
中井出「だから女化して行ったじゃん」
岳人 「反応しちまった自分がめちゃくちゃ情けねぇじゃねぇかっ!!」
卓也 「僕も最初何事かと思ったよ……。
先に映像見てなかったら、絶対に騙されてた……」
岳人 「けどヒロ、お前に頼みがある」
中井出「オウ? なに?」
岳人 「女になって全裸に《ドスッ》えぴゅっ……!《どさっ》」
中井出「あ、あれ? ガクト? ガクトォオーーーーッ!!?」
ガクトが突然ドサリと倒れた。
えぴゅっ!? えぴゅってなに!?
京 「朝から変態な筋肉をやっつけた。10点」
中井出「あー……」
見れば京はパチンコの玉を握っていた。あれを指弾で飛ばしたらしい。
調べてみれば、しっかりと首の急所部分に赤くなった箇所が。
卓也 「今、友達の外道宣言を聞きそうになったけど、大丈夫。僕は何も聞かなかった」
中井出「……うん、気にしたら負けだね。ていうかエロ怖い」
卓也 「僕は今でも、ヒロが元々スケベだったことが信じられないよ」
中井出「人間、変わるもんです」
しばらくして寮のみんな───より先に、ゲンさんが現れた。
忠勝 「てめぇらうるせーぞ、寮の前でギャーギャー騒いでんじゃねぇ」
中井出「ゲンさん、一緒にガッコいこ?」
忠勝 「あぁ? なんでそうなるんだアホかボケ」
一子 「いーじゃんタッちゃん、たまには一緒に行きましょーよ」
忠勝 「………」
中井出「ルグウィイイイイッフィッフィッフィッフィ……!!
んん〜〜〜? どうしたの? ねぇどうしたのタッくぅうううん……!!
なんで迷ってんの? ねぇなんで? ねぇねぇねぇ……!!」
忠勝 「カッ───うるせっ、付き合ってられるか。
一人で行く《がしっ》なっ……離せテメェ」
中井出「え? やだ」
忠勝 「やだじゃねぇ、どこの我が儘男だてめぇ」
中井出「あなたの瞳の中の我が儘男です。最強」
放しやがればかりに腕を振るいますが、知ったことではない!
中井出「お友達が増えるよ!」
一子 「やったねヒロちゃん!」
忠勝 「鬱陶しいんだよテメェら……チッ、もういい、俺は行く」
中井出「おぉっと動くな!? 動けばワン子が」
忠勝 「《クワッ!!》」
中井出「……イ、イェエ……? ナンデモアリマセンッ……!」
忠勝 「チッ……」
な、なんという眼光……この博光の足が……!
強敵と出会う度に震えていたこの博光の足が、わりといつも通り震えておるわ……!
……あれ? でも手を放しても動こうとしないや。
忠勝 「……なにやってんだ、さっさと行くぞ」
中井出「エ? ───……いいの?」
忠勝 「勘違いすんじゃねぇ、
俺が付き合わないだけで一子が人質まがいにされるのが夢見が悪ぃだけだ」
中井出「ほっほっほ、言われずともせぬといふのに。あ、これどうぞ」
忠勝 「あぁ? …………なんだこりゃ」
ゲンさんが、渡されたリフレカズラの樹液入りの容器を見て言う。
まあどうぞと促してみれば、いろいろと文句を言いながらも素直に飲んでくれるゲンさん。
忠勝 「……ん、お……」
中井出「リフレッシュドリンクです。
日々の疲れとかだるさが取れると思うんだけど……どう?」
忠勝 「………」
中井出「ホイ?」
忠勝 「……なんでもねぇ。チッ、余計なもん飲ませやがって……」
中井出「ゲンさんいっつも働きっぱなしで疲れてるだろうしね。
ワン子にも同じもの飲ませてるから、疲れたらまた言って。
用意するのもそう大変じゃない」
ネコット農場はもう無いけど、創造でならまだ出せるし。
なんだかんだで精霊の力に保護されてたって解る現状だよね、ほんと。
ドリアードの核が無くなっただけで、もういろいろと重いのなんのって。
契約も剥がされちゃったし、あるのは56億かけて順応することで根付いた属性の脈くらいか。それすらなかったらとっくの昔に枯れてるね、俺。
ビバ順応。
今、人間でありながら精霊が持つ、マナと癒しを活力に変える博光がゆきますよ?
……。
ファミリー+ゲンさんで道をゆく。
変態の橋に差し掛かる頃にはモモと合流、その先で冬馬や準と会って、わいわい話しながら歩いた。
ええ、もちろん格好と馬のことには盛大にツッコまれました。
中井出「ワハハハハハ! いーだろー!」
百代 「いや、素直に似合わん」
中井出「《ぐさっ!》ゲルググッ!」
準 「……グフと言わないところに妙なこだわりを感じた」
モモの一言が突き刺さりました。なにも“誠”を込めて言わんでも。
まあ確かに似合わんのはよく解ってるんだが……うう、ちくしょう。
忠勝 「つかテメェ、馬なんてどっから持ってきやがった」
中井出「あなたの知らない世界から。つーわけで僕もみんなと一緒に歩きたい。
ユガちゃんあんがとね、アディオ〜ス」
一緒に乗ってる京、ユキ、ワン子を抱えて着地。
手を振るとカリユガンホースが走り去り、見えなくなったところで霊章転移で回収。
百代 「便利だなー」
中井出「便利だよねー」
忠勝 「馬、街中に放って平然としてんじゃねぇよ……」
中井出「ダイジョブよ、許可得てる馬だし頭いいんだ」
ともかく道をゆく。
やあ賑やか。なんか嬉しい。なんかこう……あああムズガユイ!!
ななななにかしたほうがいいかな!? 落ち着かないYO僕!
今すごいまゆっちの気持ちが解る! テンパってるよ僕きっと!
忠勝 「そわそわそわそわ、さっきからうざってぇぞテメェ……」
中井出「言いつつももわざわざ傍に来て気遣ってくれるキミにサンクス」
忠勝 「勘違いすんじゃねぇ、朝から鬱陶しいもん視界の中に入れたくねぇだけだ」
中井出(いい人……!)
翔一 (いい人だ……!)
大和 (いい人……!)
ほんと、ファミリーに加わってくれないかしら。
百代 「落ち着きが無いのは確かだな。どーしたんだヒロ、お姉さんに言ってみろ」
中井出「え? や、いいですべつに」
百代 「いいからほら……お姉さんにだけそっと話してみるんだ」
中井出「《フゥッ》ハギャワァアーーーーッ!!? ななななにすんの!!
耳に息とか! びっくりするじゃないのさ!」
百代 「………」
京 「………」
小雪 「………」
中井出「───ハッ!?」
ア、アレ? 僕今までこんな反応したことあったっけ?
アレレェ!? なんかヘンだぞマジで! お、俺がおかしい!
卓也 「なんか物凄く珍しい瞬間を見た気が……」
岳人 「いっつも平気ヅラしてたヒロが、耳に息吹きかけられて逃げた……」
大和 「…………ヒロ、お前、性に目覚めただろ」
中井出「《ビクゥ!!》エァア!? イヤナババババなな何言ってるの!?
ぼぼ僕がそんな性だなんて!」
準 「おーお……どうやらマジみたいだねぇ」
クリス「朝から様子がおかしいとは思っていたが……」
冬馬 「喜ばしいことですが、いったい誰に対して? やはりモモ先輩でしょうか」
京 「確かめてみよう。博光ぅ……♪」
中井出「《フゥッ》ギャーーーイ!!」
小雪 「ヒロミツー♪」
中井出「《フゥッ》ギャーーーイ!!」
息を吹きかけられ、距離を取ったところにユキが待機していて、さらに吹きかけられて逃走した。
ば、馬鹿な……ば、馬鹿な……! この博光がブレス程度でこんな……!!
卓也 「なんか……全員っぽいんだけど」
百代 「気が多いなおい」
中井出「う、うるさいやい! 僕そんなんじゃ《フゥッ》ギャーーーイ!!」
喋り途中に再びユキに息を吹きかけられ、ザリガニのように逃げる僕が居た。
翔一 「性ってなんだよー、どうせなら冒険に目覚めようぜー?」
由紀江「いえあの、耳に息吹きかけられたら、誰でもびっくりすると思いますけど」
総員 『ヒロだからおかしいんだ』
由紀江「そ、そうなんですか……? ていうかどうして博光さんまで言ってるんですか!」
中井出「だって僕が一番ワケ解んないんだもん!」
ち、違う! こんなの僕じゃない!
家族を愛しいと思ったからってこんなっ! まさかっ!
…………あれ?
もしかして俺、長生きしすぎて麻痺してた感情が、久しぶりに昂ぶっている状態?
いやそんな安直な。きっといろいろ安心してるからテンパってるだけだよ。
大丈夫大丈夫、すぐ慣れるさ。
百代 「んんー……ヒロ」
中井出「ひゃいっ!?《ビクゥッ!》」
翔一 「声かけられたくらいでいちいち大袈裟だなぁ。最初の頃のまゆっちみたいだ」
卓也 「あ、それ解るかも」
由紀江「今なら心の友になれる気がします……」
いやそんなこと言われても。でも確かにそんな気がするからステキ。
じゃなくて、モモったらいったいなに?
手招きしてきといて、正面に立ったら立ったでじーーーっと目を覗いてきて。
…………あ、あのー? そんなに見つめられると……あらやだ顔が熱い!
もしかして照れてる!? 僕照れてる!?
翔一 「おお赤いっ! 赤いぞっ!? っははー、おもしれー!」
岳人 「すげぇ! ヒロの恥ずかしがってる顔、初めて見るかもしれねー!」
中井出「う、うるせーーーっ!」
準 「鬼の目にも涙と言うが、
まさかわめき散らして泣いた翌日にこんな顔が見れるたぁねぇ」
中井出「うるせーーーっ!」
準 「はいはい、照れ顔で凄まれてもぜーーんぜん怖くありません」
中井出「ク、ククーーーッ!」
小雪 「ムゥウ〜〜〜〜ッ」
中井出「いやあのユキさん!? これはキン肉マン二世の真似してるんじゃなくてね!?」
なんかもう京やユキにまでオモチャにされてる僕が居る!
助けて! 誰か助けて! そうだゲンさん! ゲ───ややっ!? ゲンさんがワン子をじーーっと見てる! しかもそのワン子がなんだか話の輪に入ってない! 何事!?
でもちらちらとは見られてて、いやしかしこれはいったい!?
ぬうう! 赤くなっている場合ではないぞ僕! ここは元気に───!
大和 「では姉さん、続く言葉をどうぞ」
中井出「エ?」
元気に声をかけようと思ったら、大和の一言で僕を自分のほうへ向かせるモモ。その視線を僕の目だけに向けて、それこそ真っ直ぐに僕の瞳を覗き込んだまま仰いました。
百代 「ヒロ。お前が欲しい。私のものになれ」
中井出「かぞっ───《ボムッ!》か、かかっ……かっ……」
準 「赤っ!?」
クリス「おお、これが噂の瞬間沸騰……! すごいな、見事なまでの赤さだ!」
京 「涙まで滲ませて真っ赤になって狼狽える博光……これはこれで……《ぽっ》」
岳人 「おらどーしたー? お決まりの家族で〜は、今日はないのか〜い?」
一子 「な、なにかしら、なんかこう、構いたくなるような使命感のようなものが……!」
卓也 「ワン子が保護欲に目覚めた!?」
会話に混ざってきたと思ったらそんなオチですか!?
でもヘン……ヘンよ! 僕どうかしちゃったの!?
こんなトキメケ、ドリアードの時以来じゃない!
……あれ? じゃあマジで恋しちゃった? い、いやいやそんな馬鹿な!
京 「そしてそんなあなたが好き《ぽっ》」
中井出「ふぇっ……!?《ボッ!》」
卓也 「あ、また赤くなった」
冬馬 「そして私も好きです」
準 「ってまた赤くなったよ! おいおいやべぇぞ、このままじゃこいつまでバイに!」
翔一 「俺も好きだぜ!」
準 「って人の話全然聞いてねーーぇ!!」
ギャ……ヤヤ……!!
顔が熱い……! 息が詰まる……!
馬鹿な……この博光が……! 好きと言われて震えているだと……!?
小雪 「好きー♪」
京 「好き……♪」
中井出「や、やめろぉ! やめろぉおお!! なんだよぅ囲むなよぅ!!
好きとか言いながら逃げ道塞ぐなよぅ!!」
逃げ道を塞がれて、周りから好き好き言われまくりました。
なんの拷問なのか、言われるたびに力が抜けて動けやしない。
大和 「───……ああ、なるほど」
翔一 「んお? なんか解ったのか大和」
大和 「ん。よーするにさ、ヒロは俺達ファミリーのことが好きなんだってこと」
岳人 「おぉ? んーなの解りきってることじゃねーか」
卓也 「あの映像を見ればねー」
大和 「いや、俺達が思ってる以上に。以上って言葉を異常に置き換えても良いくらい。
つまり家族愛の究極に至ってるって、そんな感じ」
総員 『………』
中井出「うぅうう……」
顔が痛いくらいに熱い。皆に囲まれうずくまった僕は、ようやく止まってくれた好きラッシュに、怯えつつも片目を開いて見上げてみれば……ニヤニヤと笑うファミリーの姿がありました。
そして始まる、さっきまでは言わなかった者まで混ぜた好きラッシュ。
中井出「や、やめろぉ! やめろぉおおお!!」
その日僕は、好きという言葉に対してここまで照れが入る自分を、いっそ憎みました。
……。
……。
中井出「うぐっ……ひっく……うぇえ……!」
卓也 「で……泣いちゃったんだけど……」
百代 「あぁあああ……! なんかこう保護欲みたいなものが沸いてくるな……!」
卓也 「引き際見極めずに泣かせといて何言ってるのこの人っ!」
なんてこと……この博光がよもや泣かされるとは……。
でもいいんだ、僕は家族がこんなにも好き。
それが解っただけでもこの涙は無駄にはならんのさ。
岳人「───! な、なぁモモ先輩? ふと思ったんだが……」
百代「な、なんだガクト!
私は今、この愛に怯え切った家族をどうしてやろうかと……!」
岳人「いや……そのヒロに女化してもらったら、その泣き顔、最高じゃね?」
百代「《ガァーーーン!!》…………」
卓也「いやいやそこで衝撃受けないで! それやったら今度こそ逃げ出すって!」
百代「好きと言われて照れすぎて怯えるヒロ子……いいなぁ……!」
卓也「ヒロ子って誰!?」
なんか大変な話になってきた。
もう僕逃げたほうがいいかも。
中井出「うう、ちくしょう……いつか泣かし返してやんだかんなー!?」
百代 「好きだぞ」
中井出「《ボムッ!》ふやうっ!? あ、あがががが……!!」
お、おいぃいいい!! こんな軽い言葉だけの愛で照れんな俺ェエェエエ!!
気を! 気をしっかり持ちなさい!? じゃないと俺、ダメな子になる!
中井出「こここっこここの博光がいつまでもやられっぱなしだと思うなぁ!!」
百代 「おぉ? じゃあどうするんだ?」
中井出「え、えとっ、そのっ……」
百代 「ん〜〜?」
勇気をっ……勇気をお出し!
もう十分に蓄積できたでしょ!? 僕はもう失わない! だからススムノデス!
中井出「ぼぼっ……ぼっ……すぅ、はぁっ───ぼっ! 僕も好きですっ!」
…………。
百代 「……へ?」
中井出「───…………《カァアアアアッ!!》ギャアアアアアアアアアアア!!!!」
ダメでした。
諸刃どころか俺しかダメージ受けねぇよこれ!
もうやだ! 僕もう旅に出る! なのに準が襟首掴んで逃がしてくれない!
準 「ああっとこらこら〜? 何処に行こうっての」
中井出「オレヨリツヨイヤツニアイニイク!!」
準 「だからそりゃどこだって」
中井出「オレヨリツヨイヤツニアイニイク!!」
ギャア顔が熱い! 助けて!
つーか照れのあまりにマジ告白みたいな感じになった!
余計に恥ずかしいギャア助けて!
翔一 「おーい、なんかモモ先輩、驚いた顔のまま固まってるぞー?」
中井出「見ろ、見事なカウンターで返した。《シャキィーーン♪》
調子に乗ってるからこうやって痛い目に遭う」
京 「あ。状況的に有利と知るや、物凄い速度で復活した。そんなあなたが好き」
中井出「ギャーーーーッ!!!」
小雪 「あはははは、赤くなった赤くなったーっ」
中井出「ギャアやめてつつかないで! なんだよぅやめろよぅ!!」
今日もいい天気。
でも僕はまた、恥ずかしさのあまり泣きました。
きっとあれだね、春の空が僕を弱くしたんだね。そうだよきっと。
大和 「んー…………ようやく、対等の位置に立てたってところか」
準 「あ、やっぱり? 仲間だ家族だ言いながら、
どうにも見守る立場に立ってたからねぇこいつは」
冬馬 「それが対等になったからこそ、ああして余裕も無しに照れていると。
今まで自分が守るって意識が強かったために、
強くあろうと無意識に努めていたということですか。
ふふっ……可愛いですねぇ」
準 「本人、また囲まれて遊ばれちゃいるがね」
大和 「ていうかクリス、あれ一応は集団イジメに近いけど、動かないの?」
クリス「あ、いや……そうなんだがな。
あいつの顔を見ていると、どうも止めるのが野暮な気がした」
大和 「顔? …………ああ、なるほど」
冬馬 「いい顔ですよね。あれが本当の博光ですか。
“本当の笑顔”を貼り付けたような顔ではなく、外見年齢相応の表情です」
大和 「ここでおもむろにゲンさんに質問。ヒロのあんな顔見てどう思いました?」
忠勝 「うるせぇ。いちいち俺に話振るんじゃねぇ」
ハッ!? ゲンさんがこっち見てる!
助けて! 助けてぇえ!!
忠勝「……チッ、一つだけ忠告だ。
構うのは勝手だが、てめぇら自身が注意しとかねぇとすぐに元に戻るぞ」
大和「え? それはどういう意味?」
忠勝「……すぐに解る。この調子じゃ放課後になる前に元通りだ。
ったく、もういい付き合ってられるか。
俺は先に行くからな、遅れんじゃねぇぞボケども」
大和「?」
あれぇ!? 言うだけ言って行っちゃった!?
待って! 待ってぇえ!!
……。
なんのかんのあって教室へ辿り着いた僕は、自分の席でHRの時間を満喫しておりました。からかう相手が今は居ない……落ち着ける時間です。
梅子「……。……」
梅ちゃんの声が耳に届く。
進路希望調査があること、昨日の夜にC棟二階の窓ガラスが一部破壊されていたことなどが知らされ、あんれまぁと口をあんぐりさせた。
悪いことをするお子が居るものですね。
伝達事項を終えればHRは終了。テキパキと教室を出て行った梅ちゃんを見送ると、早速皆様が各々の会話を始めた。
僕は……机にぐったり状態だ。
岳人 「進路……俺は梅先生の旦那って書くぜ……!」
スグル「勇者が居るぞぉおおおっ!!」
育郎 「生きた伝説になれるぜ! 即座に死ぬかもだけど。
でもうまくいけば、あのツンとした顔をヒーヒー言わせられる関係に……!」
中井出「《キリッ》待ちたまえ。ヒーヒー言わせるだけがロマンではない。
そこまでの過程を忘れてはならん。たとえば段階を踏みつつのデート。
あのキリっとした顔がふとした時に照れに変わる瞬間を想像してみたまえ」
育郎 「やべぇ勃った!」
卓也 「速すぎでしょ!! ていうか結局そっちにいくの!?」
岳人 「お、おぉお……若さにかまけて段階を忘れるところだったぜ……!
俺様とのデート中に照れる梅先生か……!
ヒ、ヒーヒー顔を想像するよりも胸にくるのはどうしてだ……!?」
中井出「サトルノデス。それが欲情ではなく恋の瞳を持って相手を見るということ。
肉体関係だけの目ではない……それが───愛!!」
岳人 「あ、愛!!」
スキンヘッドは言いました。
幼女を慈しむ心は人をやさしくさせると。
しかしそれは何も幼女のみに限定させるものではない。
誰かを慈しむこと、それはきっと、年齢を越えてやさしさを齎す奇跡である。
岳人 「俺様目が覚めたぜ! 進路調査時にはデカデカと旦那って書こう!」
卓也 「あぁああ……ガクトがその気に……!」
中井出「また一人、愛の勇者が誕生しました。
ここで折れても再び不死鳥のごとく蘇ることでしょう。南無」
千花 「折れること前提っていうか、折れるの目に見えてんのにねー。
ほんと男って無駄なことばっかするわ」
中井出「だまりゃっ! 無駄と解っていても進む勇気はとても素晴らしい!
ならばせめて背中を押すことこそが友情!
報われたならともに喜び、散ったならばともに悲しむのが仲間!
そしてそれら全てをともに分かち合い、ともに歩むのが家族である!!
やってやるんだガクト! キミならば周囲の目など気にせず進める!」
岳人 「言われるまでもねぇ! 俺様やるぜ!!」
ここに、勇者が誕生した───!!
千花 「……なんか今日の中井出、おかしくない?
いつもはなんかこう……ねぇ?」
羽黒 「なんかウザイ系? 家族愛もあそこまでテンション高いと目に余る系〜」
中井出「まあまあ」
千花 「うひゃあっ!? え、あ、え? さ、さっきまであっちに……!?」
中井出「テンションがおかしいのは認めます。ごめんなさい。
自分でも今日の自分はおかしいとハッキリ自覚がありますので。
昨日さ、とっても嬉しいことがあって、
自分でも抑えきれないくらいにおかしいのですよ。
もう少ししたら落ち着くと思うから、どうかほうっておいてください」
千花 「あ、う、うん……?」
羽黒 「うーわっ、わざわざ会話拾ってるとか超ウザイ系」
中井出「ごめんね」
言うだけ言って戻りました。
うん気にしない。テンションおかしいのは認めてるし。
卓也 「……いいのあれ」
中井出「いいのいいの。
だってほら、最初に会話拾ってウザイ言い出したの向こうじゃん?」
卓也 「あ、なるほど。気にするほうが馬鹿らしいや。
ちゃっかりしてるねヒロ。照れとかもう大丈夫?」
中井出「そっちも少しずつ。つーかモロも結構言うね」
卓也 「カチンとくるの、誰にだってあるでしょ」
モロも家族思いだなぁ……ええ人や。
……。
昼。
今日も弁当を作ったのだが、今日は朝のうちに皆様に渡したので取りに来る者無し。
代わりに、食いに来る者の姿はあった。
百代 「よーヒロー、一緒に食いに来てやったぞー」
中井出「くにへかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう《キッ》」
百代 「おおうっ!? 朝とはまた随分と変わり果てた表情だな……!
どうしたんだこれ」
卓也 「それがさ……」
大和 「勉強教えてとかあれはどうなってるんだとか、
頭の弱いやつらが次々と助けを求めるあまりに……」
翔一 「一日経たずに元に戻った」
忠勝 「言わんこっちゃねぇ」
大和 「ゲンさんの言う通りだったよ。というわけで一緒に食おう」
忠勝 「アホか、勝手に食ってろ」
言うだけ言うと、ゲンさんは教室を出て行ってしまった。
ううむ、手強いお方だ。
百代 「……せっかくのオモチャが……。お前ら覚悟は出来てるんだろうなぁ……!」
卓也 「いやいやいやいやこれは不可抗力でしょっ! 」
中井出「まあまモモちゃん、
人様のクラスに来て殺気を沸きあがらせるもんじゃあありんせん。
さ、おべんと食べましょ。座って座って」
一子 「………」
百代 「───《ぴくり》」
中井出「……《にこり》」
百代 「…………そうだな、食うか」
一瞬でアイコンタクト成立。
うん、やっぱりワン子の元気が足りません。
原因はもう解っているから、それをどう解決するかなんですけどね。
……ワン子、いろいろぐるぐる渦巻いてただろうに……感謝してもしきれん。
絶対になんとかしなければ。
クリス「というわけで自分はいなり弁当だ!」
中井出「なんの! 僕は早朝に買ってきた出来たてあんぱん!」
卓也 「や、それ自分の弁当の方が美味しいでしょ……」
中井出「何を言う! 好物と弁当とではいろいろ違うものでしょう!?」
クリス「そうだぞモロ! それは譲れない!」
卓也 「どうしてここでクリスまで言ってくるの!」
さ、そんな出だしでしたがお昼です。
あんぱんを牛乳と一緒に食す……たまりません。
百代 「うまそうに食うなぁ……ちょっと食わ」
中井出「だめだ」
百代 「そ、即答か……ちょっとくらいいいじゃ」
中井出「だめだ」
百代 「ゆるぎない意思まで以って言うか……そんなに美味───」
中井出「だめだ」
百代 「……そこまで好きなのか? あんぱん」
クリス「朝に説明されていなければ驚くほどの好物っぷりだな……」
うどんも好きだけど、さすがに弁当には出来ないからなぁ。
やろうと思えば出来るけど、出来たて食べたいし。
なのであんぱんだ。
56億年前はよく購買で、最後でも買えるんだからあとにしろと競争集団に怒られたものです。やあ懐かしい。
中井出「クマちゃんこのパン美味いよ。店教えてくれてありがとねー」
熊飼 「うんうん、あそこのパンは時間が経っても美味しいんだよね。
喜んでもらえたなら教えた甲斐もあったよ」
クマちゃんはやさしいなぁ。
いやそれにしても美味しい。
舌が美味いものに慣れすぎた時にはやっぱりあんぱんです。
中井出「ご馳走さまでした」
百代 「もう食べたのか」
中井出「一個しか買ってないからね。だが満足です。
というわけで羽黒ちゃーーーん!!」
おもむろにガングローリィ2ーF代表の羽黒さんに声をかける。
羽黒 「あぁ? メシ食ってる女子に声かけんなよ中井出ー」
中井出「まぁまそう言わずに」
羽黒 「どうせならイケメンに声かけられたい系〜」
中井出「イケメン……ふむ」
ならばCHRを上げてと。
中井出「……お嬢さん、よければお話を聞いて頂きたいのですが」
羽黒 「だからブサメンはとっととはうあっ!?」
羽黒さん、停止。
今のうちにさっさと話を進めて、羽黒さんの机の上に美味なるデセルを置いてきた。
百代 「おい、あれ」
中井出「小声でうるせーうるせー舌打ちしながら言ってたから、
うるさくなってもらいましょ。……はぁ、陰険だねぇ俺……抑えないと」
卓也 「それもやっぱり家族愛?」
中井出「自覚してからというもの、些細なことでもこう、カツーンとくるというか。
冷静になって自分を見つめ直してみたら、そりゃあ周囲にはウザく見えるよ」
声 「ヴウウウウンオォオオオオオッ!!!?
超ォオオ美味い系ェエエエエエエイッ!!!?」
声 「ちょっとうるさいわよ!」
声 「メシ食ってんのに騒ぐんじゃねぇよ!」
中井出「で、こんな感じです」
大和 「ある意味鬼だな……」
中井出「無料で美味を進呈しただけです」
翔一 「なるほど、ある意味親切だ」
でも控えましょうね。
周りには周りの意見があるのですから。
うん。
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