15 外からの侵入が可能。 それを聞いて動かずに居られる者が何人居るだろう。 ここ、アルヴヘイムオンラインに生きる者たちは等しく、ずっと飛んでいられる己に憧れる。 どれほど焦がれ、ヴァーチャルとはいえ空を飛べるようになっても、飛行可能時間は皆、同様に存在するのだ。 だからこそ憧れる───飛行時間に制限の無いアルフへの進化に。 シルフ1「いくぞっ……せぇえっ……のぉおっ!!」 シルフ2「よしっ! 第二陣行くぞっ!《バッ!》」 ここに、いつかの写真を撮ったメンバーが居る。 いつかのように縦に担ぎ合い、それぞれが飛行時間いっぱいまでを飛び、次のシルフが飛び、その上のシルフが飛びと、何度も何度もスイッチをしながら天を目指した。 蒼の似合うこの世界が狭苦しい常識から外されて幾日。 人々は変わらず攻略を目指し、偽オベイロンの言葉に惹かれて新たにゲームを開始した人も含め、アルヴヘイムオンラインはこれまでにない大賑わいを見せていた。 シルフ5「よし届くっ! 進入禁止の見えない壁もない! いける! いけるぞ!」 シルフ6「よしっ! じゃあ任せたぜリーダー!」 シルフ7「悪いっ! この礼は別のクエストで必ずするから!」 クリアキャラクターはこのクエストを手伝えない、という条件もあり、いろいろと揉めはしたものの、とりあえずクエリアできるかどうかを試す意味で選ばれたとある人物。 そんな彼が世界樹の頂点を目指し、ついに羽を広げて天へと飛んだ。 翅をはためかせ、全力で飛び、飛行時間が尽きそうというところでなんとか頂上付近の木の枝を掴むことに成功する。 落ちてたまるかと全力で枝を手繰り寄せるように上って、塔を無視して大地に足をつくことに成功した。 シルフ7「おっ……おっしゃぁああーーーーーっ!!」 ノバ、という青年は声高らかに叫び、そこで仲間たちにメッセージを飛ばして全力で感謝と喜びを口にした。メンバーもまた素直に喜び、リーダーに賛辞を送る。 けれども、リーダーもパーティーメンバーも解っていることがあった。 “外には守護者が居るはずだ”。 なのに平気でここまでを上ってこれたことに、違和感を覚えた。 丁度敵が居ない時間だった? それとも世界樹の塔の方で、誰かが暴れている時間と丁度被ったのだろうか。 疑問に思ったものの、とりあえずは進むことにする。 当然、スクリーンショットと映像を撮りながら。 ノバ「うぅわっ、すっげ……! もう慣れてたつもりだけど、絶景すぎんだろ……!」 ちらりと見た世界樹の上から見下ろす景色は絶景の一言。 思わず足を止めていろいろな角度からスクリーンショットを撮ってしまう。 動画として撮影しているにも係わらず、そんなことをせずにはいられなかった。 ノバ「えっと、これからどうすりゃいいんだ? あの……鳥かごみたいなところに行くのか?」 確かティターニアって姫? が捕えられてるんだったよな。そう呟いて歩く彼は、なんだか段々と自分が選ばれた勇者になった気分になってきた。 なにせ自分だけがここに辿り着けたのだ。恐らく世界初。嬉しくてたまらない。 なのでアイテムストレージから格好いい装備を選んで着込むと、ティターニアってのがどんな存在なのかを確かめるべく、鳥かごへと急いだ。 枝が絡まり複雑に伸びて、それでも綺麗に道を象っているその天空の大地を踏みしめ───やがて、鳥かごへと続く大きな広場へと辿り着いた。 ノバ「うわ……明らかにボスとか出てきそうな場所……」 言ってはみたものの、イベント開始の音ともに現れたのはボスではなく、なんというかひょろっちく見える普通の男っぽいやつだった。 これがオベイロン? 偽なんだからこのひょろっちさも当然なのか? と思っていると、 オベイロン?「やあ」 なんか普通に挨拶された。 呆気に取られているとにこりと笑い、彼は自分を褒め称えた。 オベイロン?「おめでとうございます、よくぞここまで辿り着きました。 私はこの世界樹を治めるオベイロンの偽者、ナナシと申します。 気軽に偽オベイロンや偽イロン、ナナシとでも呼んでください。 ああいえ、そんなことはどうでもよろしいですね。 改めて、おめでとうございます。 ここに辿り着いたのはあなたが初めてです」 やはり初めて。 いろいろとツッコミたいところはあるものの、盛大な音楽とともに褒められるとさすがに悪い気がしない。 しかもこれで自分は自由に空を飛べる権利を得るのだ。世界初。たまらない。 ナナシ「いや、実におめでたい。 初めての登頂者には素晴らしい贈り物をしたいと思います。 なのでアビスの力を知れ」 ノバ 「!?」 言葉の途端、ナナシから円形の闇の波動が放たれる。 あっという間に綺麗だった景色は闇に飲まれ、気づけばナナシの姿も異形のものへと変貌していた。 ノバ「え!? ひ、えっ!? ななななんだよこれ!」 流れる四魔貴族バトル1のBGMとともに、いきなり発動するメイルシュトローム。 陸、しかも天空とも取れる場所で、まさか水責めはねーだろと踏んでいた彼は、渦潮と津波に飲まれて死亡した。 ───……。 ……。 コーン……。 エギル「……と。これが投稿された動画の全貌だ」 和人 「馬鹿だろあいつ!!」 動画に懐かしい顔が出た瞬間、喜んだのも束の間に、そのかつての友人が普通にボスをやっていた。 ……ここはダイシー・カフェ。エギル……アンドリュー・ギルバート・ミュルスが経営する喫茶店だ。 和人 「クリアさせる気があるのかよ……。 また会えて嬉しいけど、いいのかこれ……」 エギル「大人しく世界樹の内側から攻略しろってことだろう。 それよりお前はいいのかキリト。 オレはてっきり、お前が一番に攻略すると思っていたんだがな」 和人 「ああえっと。クリアしてみんなを解放してやりたいとは思うんだけどな。 リーファ……あ、開始してから協力してくれてるシルフがいるんだけど、 その娘の手伝いとかがあってさ。俺だけでも進もうとは……まあ思った。 でもさ、さすがに初期装備で突っ込むのは危険だろ? 相手がナナシじゃなかったらそのまま突っ込んでただろうけどさ」 エギル「なるほどな。……ああそうだ、シリカとは会ったか? あいつも始めたらしいから、もし会ったら協力してみるのも手だろう」 和人 「……もしかして、コンバート済みか?」 エギル「SAO時代の武具は全部使えて、ハートファミリアもそのままだそうだ。 ユイも居ればピナも居るって燥いでいたぞ」 和人 「ぐっはぁああっ……! 俺、アイテムがバグって表示されてたから捨てちまったぞ……!?」 苦悩する和人をよそに、エギルは「ご愁傷さまだ」とウーロン茶をご馳走した。 エギル「それにしても、ナナシも随分と元気そうだ。 普段から常識外れな男だったが、まさかシステムにしがみついて生きているだなんてな」 和人 「そうだな。元気すぎてみんな困ってるくらいだろ」 主に攻略方面で。 まさかのボス役を買って出るとは。 和人 「なぁエギル。シリカがどの種族から開始したか解るか? 出来ればサラマンダー以外がいいんだけど」 エギル「ケット・シーだそうだ。 ユイもピナもペット扱いになっているから、自由に動かせると喜んでいたな」 和人 「ペットか……っとと、そろそろ時間だな」 エギル「なんだ、もう帰るのか?」 和人 「さっき言った娘と約束があるんだ。それが終わったら、攻略に踏み出すよ」 エギル「そうか。オレも近い内に入ると思う。 その頃にはとっくに攻略されていることを祈ってるぜ」 和人 「任せとけ。死んでもいいゲームなんてヌルすぎるだろ」 エギル「違いない」 二人はニカッと笑って別れを告げた。 帰路を歩む足も、いつかを思えば随分と楽になった───が、直接会って謝り、300人を解放するまで、きっと自分達の中のSAOは終わらない。 だから、今は暇の許す限りに攻略しよう。 和人「……その前に」 シルフをサラマンダーから救う必要がある。 シグルド、とかいうヤツがシルフを裏切り、サラマンダーに寝返ったというのだ。そんな状況だっていうのに急に入ったメンテナンスのお陰で宙ぶらりん。ラクトの管理から外れたゲームを誰がメンテするのかといえば、きっとナナシなのだろうが、たったひとりで何をどうメンテするのか。 いろいろと考えることはあったものの、リーファとともに一度ログアウトをして、再度ケットシーとシルフの同盟調印の場に集合、ということになった。といっても、ほぼ同じ場所でログアウトしたので、ログインする時間さえ遅れなければ、すぐに合流できるだろう。 シルフ領の領主、サクヤさえ罠に嵌め、調印の儀という武具も大して持たない場に、サラマンダー全員で総攻撃。それを無効化させるためにも、ログインのタイミングは早くなくてはいけないのだ。 ───……。 帰宅し、早速自室でリンクスタートを唱えると、ログアウトしたところからの再開。 同時にリーファも来たようで、目が合うと軽く挨拶をした。 リーファ「インして早々にごめん、キリトくん。ちょっと急がないとまずいかも」 キリト 「解ってる。掴まってくれ」 リーファ「《ガシグィイッ!!》うわっひゃひょわぁあああああああっ!!!?」 腕を掴まれた、と思ったら、リーファは風の中に居た。 武具は捨ててしまった悲しいキリトではあるが、身体の能力値は変わらずSAO時のままだ。 走れば景色は流星の如く流れ、大分離れていたというのにあっという間に調印の儀の場が見えてきた───が、様子がおかしい。 リーファ「……!? な、なにあれ! 会談場に竜巻……!? まさか間に合わなかった……!?」 キリト 「諦めるのは状況の全部を見てからだ! 急ごう!」 リーファ「う、うん……!」 走る。走る走る走る。 走って走って、同盟調印が行なわれる筈であった会談場へと辿り着くと、その竜巻の出所を見て───キリトは、頭を抱えた。 直後にドゴゴシャメゴボチャと空から降ってくる人、人、人。 それら全てが種族・サラマンダーであった。 そしてそんな竜巻を、短い刃を振るうことで切り裂いてみせた存在が、今目の前に。 シリカ「調印を邪魔するなら、敵ということですよね? いえ、邪魔というかいきなり襲い掛かられましたけど。 ナナシさんに曰く、攻撃していいのは攻撃される覚悟を持った者だけです。 なので───」 落下したサラマンダーが死亡扱いになり、小さな炎のオブジェクトとなって浮いた。 蘇生アイテムか蘇生魔法を使わなければペナルティを受け、町に戻されるだけである。 シリカ 「ALO最強だかなんだか知りませんけど、邪魔するなら覚悟してもらいます。 あたしはナナシさんに会って、嫌がられようとも謝らなきゃいけないんですから」 マンダー「………」 シリカの言葉に、いかつい顔のマンダー……サラマンダーの男は、ふぅむといった感じに息を吐いた。 しかし退くつもりも道を譲るつもりもないらしく、しゃらんと鞘から剣を引き抜いた。 ───魔剣グラム。 この世界でも有名な、任意で物質透過が出来る武器であり、敵が剣や盾などを構えて防御しようが、それをすり抜けて攻撃出来るという異常性をもつ剣だ。 名をユージーンという彼はそれをシリカへ向け、ニヤリと笑う。 ユージーン「見たことのない武器を持っているな。 このグラムと同じく、レジェンダリーウェポンか?」 シリカ 「ある意味で伝説ですね」 キリト 「───……」 急いで到着したものの、状況に頭を抱えていたキリトは思った。 ああ、そりゃあ伝説すぎて泣けてくる、と。 シリカがナナシから譲り受け、以降も愛用しているバケモノウェポンだ。 ソードアートオンラインの名に恥じぬどころか知ったところじゃない、と絶叫する勢いで、ソードスキルなんぞ使わずとも最強を誇れる彼女が愛した武具は、見晴らしのいい会談場の下、陽光に当てられて蒼く眩しく輝いていた。 ユージーン「あの人数を一気に斬り捨ててみせた強さは認めよう。 おそらくはどこぞに待機しているシルフの魔法とともに暴れたのだろうが、 見立てでは強かったのは魔法で、お前は目を引き付けるための囮だろう」 シリカ 「長い話は結構です。退いてもらえませんか?」 ユージーン「お断りだな。我々も目的のために動いている。 どうしてもというのなら、実力で退けてみせろ」 シリカ 「解りました。お行儀のいい開始の合図は必要ですか?」 ユージーン「ふははっ、笑わせるな。構えた時が《ズパーーーン!》ギャアーーッ!」 総員 『えぇええーーーーーーっ!!?』 ……死んだ。瞬殺である。 首を一閃。小さな炎の塊となった彼は、恐らく自分がなにをされたのかも理解しないままにYou are deadの文字を見ていることだろう。 シリカ 「それではええっと、アリシャさん、サクヤさん、調印しちゃってください」 サクヤ 「あ、あ……? あ、えあ、…………ああ、ハイ」 アリシャ「わ、解りました……ョ?」 あまりの速度、強さに呆然。 二人の戦い……いや、むしろユージーンの一方的ななぶり殺しを眺めるために武装を解いていた六十数人のサラマンダーたちも、どうしていいものやら、固まっていた。 そんな中で調印の儀式は進行されて、シルフとケットシーは同盟を結ぶこととなった。 リーファ「あの、サクヤ」 サクヤ 「リーファ!? どうしてここに───!?」 リーファ「この場が狙われてるって報せが来たから、彼と急いできたんだけど……」 言いつつリーファがちらりと見ると、キリトが竜巻少女に話しかけているところだった。急に話しかけられて驚いたらしい少女が短剣を構えた途端、ヒィなんて悲鳴をあげていた。 ……どんな敵が来ても余裕で戦って、サラマンダーたちに囲まれても余裕だった彼がだ。……知り合いなのだろうか。 シリカ「え、あっ、キリトさんですか!?」 キリト「や、やあシリカ……シリカだよな? その装備をつけてるってことは」 シリカ「はいっ、また会えて嬉しいですが早く行きましょう!」 キリト「切り替え速いなおい! 目的地は解るけど、ちょっと落ち着いてくれ! 〜〜〜……その、悪い。俺、ニューゲームするタイミングが悪かった所為で、 武具が初期のものしかないんだ。アイテムもバグってたから捨てちゃって」 シリカ「───」 ひょう。と、空気が凍った。体感出来るほど。なにせその場にいた全員が、その発生源に目をやったからだ。 シリカ「捨てた、んですか? ナナシさんと一緒に手に入れたものや、譲ってもらったもの全部」 キリト「ヒィッ!? ぃやっ……! そうしないと持ち主もバグ扱いされて、 能力値も初期化されると思ったからっ……! 仕方なかったんだ!」 シリカ「捨てたのは何処ですか! すぐに拾いに行きますよ! ───ユイちゃん! ナビお願いします!」 ユイ 『はいっ! 最近で大量に捨てられたアイテムを検索します!』 キリト「え、や、でも攻略───」 シリカ「初期装備しか持ってないくせになに言ってんですか!」 キリト「《ぐさっ》………」 そもそも初期装備しかないからどうしたものかと考えていたのだ。躊躇する理由は……まあその、たとえばここらでいいものが入手できたらなー、という考えはあった。 そこんところをこの場の責任者……サクヤやアリシャ・ルーに訊ねてみると、むしろこちらが攻略のために揃えたいところだと言われてしまった。 サクヤ 「せめて先立つものがあればな……」 シリカ 「お金ならありますからこれでちゃっちゃと集めてください!」 アリシャ「え? や、さすがに同じケットシ《ジャラドゴォン!!》 ギャニャアアーーーーーーッ!!!」 オブジェクト化されたシリカのポケットマネーがアリシャ・ルーの手に無理矢理持たされて、彼女は潰れた。 哀れにもそれで死亡扱いになってしまい、小さな炎と$袋が残される。 サクヤ 「リッ……リーファァアーーーーッ!! 早く蘇生を! 調印の儀で相手領主を殺したとあっては暴動が起きる!」 リーファ「ちょちょちょちょっと待ってぇえっ! 理解が追いつかないからぁあっ!!」 慌てて蘇生魔法をかけるリーファを余所に、キリトもお金をドズンと置き残し、「すぐ戻るから!」と言うと、蒼の少女とどこかへ走り去ってしまった。 走る、というか…………え? なにあの速度。空飛ぶよりもよっぽど速い。 ……。 ゾガァアアシャシャシャシャシャァアーーーーアアア!!! 蒼と黒が道をかける。渓谷なんぞひとっ跳び、簡単にショートカットをして、山々も駆け抜けて、洞窟なんぞを無視してひたすらに。 ユイ 『アイテム自然消滅時間まであと三十秒です!』 シリカ「もうキリトさん! どうしてもっと早く拾いにいかなかったんですか!」 キリト「だから仕方ないだろ!? そりゃあ惜しいとは思ったし泣きたい気分だったけど、 攻略するのが先だって思ってたんだよ! 上にはアスナが───ナナシの妹が囚われてるって考えたら、 もたもたなんて出来るわけないだろ!」 シリカ「だったらまずはあのお金で武具を買い揃えて向かってくださいよ! バザーを探せば誰かが使ってた中古品とか見つかるでしょう!? なんですか初期装備って! 死なないからってゲームナメてるんですか!?」 キリト「そんなこと言われる日がくるとは夢にも思ってなかった!」 ユイ 『───! ありました! あそこです! 急いでくださいあと8秒です!』 シリカ「っ……あたしが拾いますからこれ持っててくださいっ!」 キリト「へっ? あぉあうぉわぁあああああっ!!?」 シリカは持ち物全部をキリトへ渡して、チリチリとポリゴン片を昇らせ始めているアイテムへと、全力で地面を蹴って接近した。 そして片っ端から拾い集めるとそのまま一気にストレージへと流し込むように入れて…………終了。 捨てたのが森の中の、しかも目立たない場所だったため、誰に拾われることなくその場にあった。 安心顔でほっと一息、キリトへと振り返ったシリカが見たものは、自分が渡したアイテムに潰されて痙攣しているブラッキー先生の姿だった。 シリカ「なにやってるんですかキリトさん……」 キリト「潰されてるんだよ! 渡すならそのまま渡してくれよ! わざわざオブジェクト化する意味あったのか!?」 シリカ「こうじゃないといっぺんに渡せないんだから仕方ないじゃないですか。 それとも……愛用の二刀、消えちゃってよかったんですか?」 キリト「うぐっ……! …………サンキュ、シリカ」 シリカ「はい♪」 女ってこえぇ……! 自分より年下の少女を前に、キリトは素直にそう思ったそうな。 そんなわけでアイテム交換。 かつての愛用品がきちんとした名前に戻り、自分のアイテムストレージにあることに感動を抱きつつ、彼は早速装備を変更した。 キリト「………」 ずしりと手に馴染むこの重さ。ともに、文字通りの死線を潜り抜けた相棒たち。それを手にしてしまえば、もはや負ける気はしなかった。 それらをヒャフォフォンッと振るうと、既に背にある鞘へとチキンと納めた。 シリカ「いけますか?」 キリト「いけますとも」 ニヤリと笑い合うと、もう止まらない。 さあ、攻略してやろう。長く続けさせられたクソッタレなゲーム。けど、得るものがなかったわけじゃない、大切だからこそ攻略しなければいけないゲームを。 キリト「……ちなみに外と中、どっちから攻略する?」 シリカ「……動画、見ました?」 キリト「見た」 シリカ「……すぐに会えるには会えますけど、ナナシさんのことです。 絶対に再会を喜ぶなんてことよりも、自分の楽しいを優先させます」 キリト「だよな。となると、敵対するのは確実。 アルフになるどころか、動画みたいに津波に飲まれて流されるのがオチだ」 シリカ「動画を見て水魔法耐性を高めて立ち向かった人も、 きっと次は別の属性で滅ぼされますよ」 キリト「アビスの力を知れ、だろ? ちょっと知り合いに調べてもらったんだけどな、 あれって今から二十何年も前のゲームにあった言葉なんだ。 あ、BGMも」 シリカ「───ほ、他の属性問題はどうなってました?」 キリト「攻略法は? って訊かないところはさすがだよ、シリカ」 よくあいつの性格を解ってる。 攻略しようなんて思ったところでボコられるのがオチだ。なので、他の攻撃や属性問題が心配になるわけだ。 キリト「属性はそれぞれ火と風と水と物理、かな。 ロマンシングサガ3ってゲームに出ていた、四魔貴族の能力だ。 で、アビスの力を知れって言葉はその貴族のうちの水、 フォルネウスってやつの言葉だった。 弱点として体術のナイアガラバスターがよく効くらしい」 シリカ「な、ないあが……?」 キリト「プロレスの投げ技みたいなものだよ」 シリカ「あんなでっかい敵にどうやってそんなのキメろっていうんですか!」 同感だった。 ……。 結局はろくに対策も練れる筈もなく、やっぱり内側から攻略することになる。 ともあれ、このクエスト……世界樹の先で偽オベイロンを倒せば終わるのだ。 雑魚は無視してボスまで一直線でいけば、なんとかなるかもしれない。 シリカ 「戻りましたっ!」 リーファ「うえぇえっ!? もう行ってきたの!? だってあたしとキリトくんが会った場所って……!」 キリト 「……リーファ。いいんだ……。 俺はともかく、シリカには常識は通用しないから……」 シリカ 「褒め言葉ですっ《ふんすっ》」 胸を張って言う言葉だったらしく、シリカは上機嫌であった。 シリカ「あ、それでなんですけど。向かう先の敵の強さも未知ですし、 出来れば世界樹攻略を手伝ってほしいんです。 さっきのお金は先行投資みたいなものとして受け取ってもらえると助かります」 サクヤ「ああいや、それはかまわない。 こちらも世界樹攻略のために同盟を結び、武具や資金を集めていたのだ」 シリカ「じゃあ早く集めましょう! お金はあるんですから!」 サクヤ「いやあのな、物事には段取りというものが……。 金があるからと、すぐに武具が目の前に飛んでくるわけがないだろう」 シリカ「キリトさん」 キリト「はぁ……あいよ」 ……のちに、シルフ領とケットシー領の領主は二人して語る。 蒼い天使に逆らうなと。 なめらかに輝く蒼いドレスを着た美しいケモミミ少女は、己の薄い胸をドンとノックして、なんと“買い物係り”を請け負った。ついでにキリトも。 嫌そうな顔を見れば解る通り、つき合わされているという言葉のほうがよっぽどしっくりくるのだろうが。 シリカ 「では必要な物資をメモしてください。 あ、ログに残しておきますんで、メッセージででも結構ですけど」 サクヤ 「……リーファ、こやつらは……」 リーファ「キリトくんのことはあたしが保証しますけど……」 アリシャ「や、こっちもその娘のことは知らないヨ? 用心棒募集はしたけど、 まさかこんなに強い娘がうちに居たなんてしらなかったヨー」 シリカ 「世界樹がどれだかいまいち解らなかったので、 偉い人なら知ってるかなーって思いまして」 キリト 「いやいやいやっ、でかい樹がありゃそこに向かうのが普通だろ! 世界樹だぞ“世界”樹! でかいに決まってるじゃないか!」 シリカ 「あたしの中の常識なんて、 ナナシさんにギルドマスターにされた時点でいろいろ壊れましたよ……」 キリト 「なんかゴメン」 ちょっぴり悲しい風が吹いた。 ともあれ、二人は早速行動に出た。 やはり早く救い出したいという思いもあるし、再会したいという思いもある。 だが、だからこそ確実にと地盤を固めての攻略に踏み出る。 タイムリミットは特に儲けられていない。 誰かが寝たきりだと無理矢理結婚させられる〜なんて制約もないため、確実性を選べば当然助力は必要だった。 そうして二人は走り回り─── 呆れることにその日のうちに、必要な資材と武具は揃っていた。 サクヤ 「これはなんて夢だ……? 我々が散々と苦労した意味は……」 シリカ 「意味なんて目の前の現実と比べれば、なんの役にも立ちませんよ?」 アリシャ「なんだか知らんケド重い言葉だね」 キリト 「じゃあ、今日はいろいろ回って疲れただろうし、日を改めて───」 シリカ 「ではいきましょう! 攻略です!」 総員 『な、なんだってぇええーーーーっ!!!?』 むんと構えるシリカを余所に、武具の受け取りに集まっていた同盟の戦士たち、大絶叫。 むしろシリカのほうが“なんですかその反応”って顔をしている。 キリト「シリカ……ピナとかユイのレベリングとは違うんだから、 ここは日を改めて───」 シリカ「この中に疲れている人は居ますか? 居ませんよね? あたしとキリトさんより疲れてる人が居るっていうなら休んでください。 残りで攻略します。全員動けないならあたしだけでも行きます」 キリト「落ち着けってシリカ! 急ぎたい気持ちは解るけど、 ここに居るみんなはジークフリードのメンバーじゃないんだ! 俺達の勝手な都合で動かしていいわけがないだろ!」 シリカ「じゃあキリトさんはどうですか?」 キリト「他を巻き込まないって条件なら、俺だって今すぐ行ける」 シリカ「ではいきましょう!《どーーーん!》」 キリト「……お〜……」 シリカと冒険地獄決定。 溜め息をひとつ、覚悟を決めた彼は呪文詠唱を始め、その姿をSAO内のボスモンスター、グリームアイズに変異させた。 キリト『こうなりゃヤケだ。どんな方法でも使って、正々堂々と出し抜いて攻略する。 俺達ジークフリードメンバーに遠慮は無しだ』 シリカ「すっ……すごいです、ね、キリトさん……! まさか、変身能力だなんて……!」 キリト『……シリカに怯えられるとすごく悲しいから勘弁してくれ……』 シリカ「なっ! あたしだって怖いものは怖い乙女ですよぅ!」 巨体になったキリトがシリカを手に乗せ、グッと足に力を込める。 それを見てか、リーファが二人を呼び止めた。 キリト 『リーファ?』 リーファ「その。シルフを助けてくれたお礼、全然出来てないから。 あたしが行っても役に立てるか解らないけど、援護くらいは出来ると思う」 シリカ 「一緒に来てくれるんですか!?」 リーファ「ひゃうっ!? あ、えと、はい……。 や、役に立てるか解りませんけど……」 シリカ 「? あれ? あの……なんで敬語なんでしょうねキリトさん」 キリト 『あそこまで圧倒的な強さを見せておいて、それを言うのか……』 こてりと首を傾げる少女に、今この場に居る全ての者が恐怖していた。同時に頼もしくもあるのだが。 ともあれシリカを左手に、リーファを右手に乗せたグリームアイズキリトさんが体を起こし、今度こそ大地を蹴る。 身体能力はそのままに、物凄い速度でこの広い世界を駆けていった。 のちに。 ……近くに居た冒険者が、見たことがない巨大モンスターを発見したと騒ぎ、シルフとケットシーは口を閉ざす以外に方法がなかったとかなんとか。 16 世界樹。 アルヴヘイムオンラインに存在する、天へと続く巨大な大木であり、中身はまるで塔のようだと、挑戦したものは語った。 情報ページを調べれば難攻不落、攻略不可能とさえ言われている場所であり、けれど今、その扉を開く……化物ひとり。グリームアイズ化したキリトである。 シリカ 「リーファさん。これ、中はどんな感じなんですか?」 リーファ「あ、はい。中は大きな空洞みたいになっていて、 飛行して天井までを飛ぶ、みたいな感じになってます。 もちろん攻略不可能と言われるくらいに敵がいっぱいいますから、 いくら二人が強くても、この人数でいけるかどうか……」 シリカ 「あの。あたしの方が年下ですよね……? 敬語やめてください」 リーファ「だ、だって世界最強のユージーン将軍をあんなあっさり!」 シリカ 「むうっ……! いいですかリーファさん。これは武具がすごいんです。 あたしだけの力じゃないし、 これを揃えたのはほぼナナシさんなんですからっ」 リーファ「ナナシ……?」 聞いた名だ。たしか、兄の恩人。 あれ? ということは、もしかしてこの人、SAO生還者? 兄と同じく、この人もその人と知り合いだったのだろうか。 リーファは思ったことを訊ねたい欲求に駆られるも、訊ねるとして、なんと言っていいものかと言葉を詰まらせた。 兄のリアルネームを出すわけにもいかない。ナナシという人がどんな人なのかを訊くのも、SAOっていう世界から人々を救った“故人”のことを、ずけずけと訊くのも悪いと思ったのだ。 結局訊ねることもできないままに扉は開かれ、その先に足を踏み入れた。 重苦しい音とともに開かれる、世界樹に取り付けられた巨大な扉は、なんというかせっかくの立派な樹に余計なものつけないでよとか突っ込まれそうなものの、開ききると……内側に篭っていた空気を外へと流していった。 キリト『………』 そして─── シリカ「?」 そして…… リーファ「え? ……あ、あれっ!?」 扉を開けた先が、かつてとまるで違う状況に、リーファは混乱した。 通常ならば、とてもとても広く高い、ミサイル発射口みたいな筒状の空洞を飛行、天井を目指すクエストであった筈なのに、天井は思うほど高くもなく、上へ進む手段らしきものもない。 どうなっているのか。目を疑う事態に、少し足早になって世界樹の中へと駆けた───途端、ゴコォン!と激しい音を立てて扉が閉まった。 キリト『!? 扉が───ッ』 シリカ「デストラップですか!? リーファさん構えてください!」 こんなことはSAOでは茶飯事だった。二人の行動はとても速く、リーファが驚き振り向いた時には完全武装状態。 慌ててリーファも剣を構えるが、 ???「ようこそ我が世界樹へ。歓迎しよう、下界の者たちよ」 なにもなかった筈の広間に、光とともに現れる───耳の尖った屈強な男。 四方に注意を向けていた三人はすぐに男へと視線を向けた。 男 「ここに来たということは、天を目指しアルフになることを願うのだな? もちろん構わんが、天へ向かう者にはいくつかの試練を用意させてもらった」 キリト『試練……?』 男 「四つの試練を越え、生きていられれば扉は開かれるだろう。 故に汝らよ。その試練を受ける気はあるか? ああ、人数に制限はない。よく考え、何人でも連れてくるがいい」 シリカ「来られる人が居ないのでこの人数で十分です!」 男 「受けるのだな? 試練を。それはつま」 シリカ「くどいです!」 男 「血を流せ」 シリカ「───あ、えぇっ!?」 なおも確認を取ろうとする男の言葉に、被せ気味に放った言葉が勘に障ったのか、男から急に深淵の波動が放たれた。 それはこの広間をあっという間に飲み込み、男だったものは急にバゴンベゴンと体を躍動させ、巨大な魔物へと変貌した。 キリト『だぁあっ! シリカァッ! せめて話くらいきちんと聞いてやれよぉっ!』 シリカ「だってしつこかったんですもん!!」 巨大な二頭の化け物に跨り、鎖を手綱代わりに巨大な焼き鏝を持つ男。 名をアラケスと言い、水、火、風、物理の中の物理を担う四魔貴族だった。 シリカ「キリトさんやっちゃってください!」 キリト『戦闘になったら俺なのかよ! ええいくそっ……!』 同じく巨体なキリトさんが闇の地を蹴って接近。 巨体がゴヒャウと風を巻き込んで疾駆すると、アラケスは鎖を引いて跨っている化け物に合図を送ると、それを迎え撃つように突撃を仕掛ける。 広間中央で巨体と巨体がぶつかり合い、キリトは巨体になっているために剣を振るえないので、鋭く尖った爪を揃えるようにして貫手を作って振るい、アラケスは左手に持った空気を焼いている焼き鏝を振るう。 途端、強烈な轟音と、もの焼ける匂い。 焼き鏝に腕を焼かれたキリトは反射的に腕を庇い、アラケスはそれを見越していたのか武器を突き出したままに大回転をし、ぶちかましをしてくる。 焼き鏝にこそ当たらなかったものの、こちらの動きに完璧に合わせた行動に弾き飛ばされ、真っ黒な大地に倒れると同時にキリトの変身も解ける。 リーファ「キリトくん!」 すぐにリーファが回復魔法を使い、させるものかと突撃してきたアラケスの焼き鏝による刺突を、シリカがパリィングダガーで大きく弾いた。 リーファ「えぇええええっ!!?」 これにはさすがに絶叫のリーファさん。あんな巨大な焼き鏝を、そんな小さな体とダガーで!? リーファの驚愕をよそに、シリカは大きく仰け反ったアラケスを前にソードスキル・ビースティングスラッシャーの構え。 ビースティング……蜂の一刺しの名を冠したそれは、ちまちまとした積み重ねが必要なダガースキルにしては珍しく、一撃必殺を期待できる剛撃ソードスキルだ。 そしてパリィングダガーでパリィをされた敵は、次の一撃にダメージプラス修正が入る。連続攻撃ではいけない。一撃がデカくなるのだ。 だからこその最高の一撃。 ソードスキルなんぞ使わなくてもほぼ最強の“竜巻のシリカさん”の異名を持った、ジークフリード最強のお嬢さんが使う数少ないソードスキルのひとつである。 シリカ「スズメバチのように二度目はありませんよ! せえええやぁあっ!!!」 地面を踏み砕く勢いで蹴り弾き、弾丸のように弾けた跳躍を見せたシリカ。 真実その姿は弾丸めいた速度でアラケスの懐に激突し、激突した部分……心臓の上には、彼女のダガーとその武器に込められた衝撃とが重なり、アラケスの逞しい胸を空洞にしてみせた。 リーファ「…………へっ……!?」 同行した彼女がそんな声を漏らすのも当然だろう。 なにせあんな巨体のバケモノが一撃だ。彼女じゃなくても、 キリト「相ッ変わらずバケモノだな……」 ……同じギルドメンバーでも、さすがに呆れ果てていた。 なにせ真実一撃で終わり、アラケスの傍で濃いくらいに存在していた緑色のゲージは、みるみる内に緋に染まり、砕け散ってしまったのだから。 キリト「ふぅ。なんにせよ、これで次に───」 そう、アラケスは砕け散った。 が───焼き鏝は消えない!! 砕け散ったアラケスの手と鎖から弾かれるように飛んだ焼きごては、その巨大さを存分に生かして黒の地面にゾゴンッと音を立てて減り込んだ。 当然黒の床がドジュウウウウと音を立てて溶けるのだが、溶け続けるどころか焼き鏝が砕け、周囲を火の海にしてみせた。 キリト 「な、なんだこれ! リーファ!?」 リーファ「ししし知らない知らない! 知らないよこんなの!」 シリカ 「……! 終わってません! 構えてください!」 キリト 「なっ───」 シリカが注意を促した途端、火の海の底から赤の深淵の闇が溢れ出す。 そして───焼けるような熱風とともに、それは聞こえた。 ???「定めじゃ……」 深淵の闇に飲まれた先、今度は全身を炎のマントで覆い、巨大な鎌を手にした男が現れた。 キリト「連続戦闘かよ……あいつ本当にクリアさせる気あるのか……!?」 シリカ「ありますよっ! だって元はクリアが絶対不可能だったんですから! 高難度でも可能性があるのなら、それは絶対不可能じゃないんです!」 キリト「ははっ……違いないっ!《フォキィンッ!》」 笑い、キリトは二刀流で構える。使い慣れたそれが手に馴染むと、かつての戦闘方法も鮮明に思い出せた。 疾駆し、炎のマントで覆われていない場所を狙って、その巨体目掛けて跳躍を─── アウナス「体力を回復してやろう」 キリト 「《パパァアアッ!!》えぇえええええっ!!?」 ───しようとしたところ、なんか回復してくれた。 炎使いでも違う作品だろそれ! と思わずツッコミかけ、バランスを崩したところに無慈悲に振るわれる死神の鎌。 ざごんっ、という音が鳴り、キリトは一撃で死亡した。 シリカ 「キリトさん!?」 リーファ「ウソ! 一撃死!? 待ってて、すぐに蘇生魔法を───!」 詠唱を始める───が、次の瞬間、炎に包まれた広間に熱風が吹き荒れる。あまりの熱さに悲鳴を上げ、詠唱も中断され、HPゲージもごっそりと削られた。 シリア「このっ───! ピナ! ユイちゃん!」 ピナ 『キュアアッ!!』 ユイ 『はい!』 ピナがコールドブレスを吐き出し、ユイが装備アクセサリから千年氷晶を使用。場に吹雪が吹き荒れ、ヒートウェイブの効果を軽減させた。 指示を出すとともに駆け出していたシリカは武器をフォルセティからセブンナイツに変えて、一気に跳躍。アウナスは炎のマントで炎の壁を作り、防御するが───シリカのナイフはそんな炎をあっさりと切り裂き、その勢いのままに肉薄する。 シリカ「お生憎ですが! この短剣に属性防御なんて通用しませんよ!」 セブンナイツ。一見してただの鋼鉄製の短剣なのだが、属性防御を無効化させる力を持つ。 当然無効化だけ、という話なのだが、シリカが装備する防具やアクセサリが、相手の属性を無効化させるだけでなく、一時的に消し去る力を発揮した。 ブルーライトドレスという、ブルーライト一式装備(全てLA装備)を身に付けた場合にのみ発揮されるマナブレイクは、残酷なことに相手の属性を粉砕する。 条件として初撃のみであることと、相手の持つ属性と相手自体が密着している状態で、属性効果に攻撃をするというなんとも限定された条件下にのみ成功する、面倒くさい効果だ。 しかしこれをやられれば、ファイアブレスを吐き出している最中の火竜もただの竜だ。氷のレーザーを放つ氷の魔女相手に、レーザーをスパっと切るだけで、ただの魔女になるという可哀想になる能力。 だが、固有ソードスキルとして追加される能力であるから、当然サウザンドリーパーのディレイ無しの効果は乗らない。 ───そんな効果が発動した直後、シリカはシステム的技後硬直に襲われる。肉薄してもそれでは意味がない。 シリカ「───! ここです!」 そんな硬直を、シリカは意識を閉ざすイメージを一瞬働かせたのち、パリィングダガー側でソードスキルを発動。しかし即座に装備を解除させると強引にソードスキルをキャンセルさせ、体にかかるディレイを強制キャンセルさせた。 そうしてからはセブンナイツをフォルセティに持ち直し、ブルーライト一式もかつてのウィングスリーズに変換。ディレイオーダーまでを瞬時に装備し終えて、無慈悲なる斬撃の嵐を放った。 炎のマントを切り裂かれ、剥き出しになったアウナスの硬い肌にトンと足をつけば、あとは地獄絵図だ。 自由意志により好き勝手に動く嵐をどう止めることが出来よう。 竜巻の中心から熱でも爆発させるか? 無理だろう。なにせ相手は竜巻だというのに、小さすぎるのだ。 苦し紛れに鎌を振るうも避けられ、ヒートウェイブを放っても剣圧にあっさりと斬られる。 おのれ───! と、マントを再び燃え上がらせた瞬間、そのマントが超高速の27連斬によって無残に砕け散る。 キリト「ALO版アームブラスト! ……なんてね」 復活したキリトが、リーファの魔法による加護の下、ジ・イクリプスで炎のマントの耐久度を0にしたのだ。 シリカ「復活してたんなら早くきてくださいよぅ!」 キリト「無茶言うなよ! 一撃死なんて、くらってみると混乱ばっかなんだぞ!?」 言いながらもキリトも駆け、跳躍し、シリカのようにアウナスの体を切り刻み始める。 キリト「シリカ! ビースティングは!?」 シリカ「連続では無理です!」 本来ならば先ほどのように簡単に仕留められる相手ではない。 現にアウナスは幾度も炎の波を発動させ、シリカやキリトを吹き飛ばし、龍尾返しなどのソードスキルを振るっては二人を追い詰め─── キリト「そんだけ見せられりゃ軌道も覚える! ぜぇえあああありゃぁあああっ!!」 ───否。 爆弾でも爆発したような轟音を立てて、死神の鎌が破壊された。 武器がポリゴン片と化したアウナスは驚愕に硬直するが、そんな隙を見逃すほど、このお二人は優しくなかった。 バックステップをしつつヒートウェイブの構えを取るアウナスに、キリトは二刀流ソードスキルではなく片手剣のソードスキル、ヴォーパルストライクで一気に接近。そのままアウナスの足を穿ち、バランスを崩したところへ シリカ「“パリィ”は無しです《ニコリ》」 短剣でありながら盾の役割を果たしていたソレを仕舞い、そこにもうひとつ短剣を装備。 シリカ「“アングリスト”!」 彼女はそれを、バランスを崩したアウナスへと投擲。次いで、追うように自らも跳び、胸に突き刺さったアングリスト……“鉄を斬り裂くもの”の柄に、別の短剣を突き出した。 名を“スティング”。“つらぬき丸”という、短剣という短い武器のカテゴリにしては珍しい名のそれは、武器効果として接触したものを一直線に吹き飛ばすような貫通力があった。 結果、アウナスはアグナスのように胸を穿たれ、ポリゴン片と化してゆく。 シリカ「さすがにこれ以上連戦は───」 落下する。 跳躍していたのだから当然といえば当然だが、その過程。 炎に炙られていた闇の床が、あろうことかパァンッと砕けた。 砕けた先には───なんと空。 シリカ 「えっ……!?」 キリト 「なっ……!?」 リーファ「ちょわぁああっ!!?」 世界樹に入って、まだ一回も階段やら飛行やらをしていなかったというのに、三人は大空に居た。しかも落下している。 慌てて空を飛ぼうとするが、風の所為で上手くいかない。 どころか、シリカは完全に空の飛び方に戸惑い、風に弄ばれるばかりだ。 リーファ「シリカさん! 背中! 背中をもっと意識して!」 シリカ 「そっ……そんなこと言われてもぉおおおっ!! 会談場に行くまでも何度も練習したんですけど、 結局一度も飛べてないんですよぉおおおっ!!」 キリト 「アー、ナルホドー」 道理でアイテム拾いに行く時、ずっと走っていたわけだ。 キリトはなんとかバランスを取りながら、シリカの涙声を聞いて頷いていた。 信じられるか? あの人、ついさっきボスを二体も殺した人なんだぜ……? などと彼が思っている間にも風に吹き飛ばされ続ける三人。落ちるだけではなくさらに上へと吹き飛ばされ、あろうことか雲まで突き破り───一度風が止まり、見渡した景色のなんと綺麗なこと。 飛行機に乗っている際の窮屈感すらない、そのままの大空の景色があった。 リーファ「わああ……!」 これには、空を自由に飛ぶことを好んだリーファは大感激だ。 何者にも縛られない自由な空を目指したというのに、いつの間にか領主同士の諍いや種族の問題に巻き込まれ、INしたところでそれらに巻き込まれるか手伝うかばかりになっていた。 自由に冒険をするどころか、単独で行動すればサラマンダーなどの他種族に襲われるばかり。だから、つい「いつからこうなっちゃったのかな……」とこぼしてしまうのも仕方の無いことだった。 ???「あわれなムシケラども……」 そんな思考が一気に凍りつく。 再び吹き荒れる風に呑まれ、雲の中に押し込まれた───その先に、そいつは居た。 キリト「シリカ! いけるか!?」 シリカ「ムリですぅう〜〜〜っ!! たたたたすけてくださいぃいいっ!!」 巨大な化物を前に、暴風は止む。 しかしシリカはピナに後ろ襟を噛まれていなければ飛んでもいられない状態で、戦力にはならなそうだった。しかも目を回している。 キリト 「この調子でいくと、こいつを倒したら次は水……ってところか」 リーファ「───《ぎくり》」 キリト 「? リーファ?」 リーファ「う、ううううん!? なハんでもなハいよホッ!?」 明らかになんでもある返事とともに、彼女は挙動不審に返した。 そうして、足場の無い空中バトルは開始されたのだ。 Next Top Back