【雪風の使い魔(ゼロの使い魔ネタ)】

時は春。
トリステイン魔法学院にて、使い魔召喚の儀式が行われる今日。
生徒たちは一生をともに過ごす使い魔の召喚に、
胸の鼓動を高鳴らせ、己の番を今か今かと待ちわびていた。

「ほお、ミス・ツェルプストーはサラマンダーを召喚しましたか!これは珍しい!」
「火竜山脈のサラマンダー……うふふ、微熱に相応しい使い魔ね」

次々と順番が回ってゆき、赤い髪の女生徒がサラマンダーを召喚。
次に指名された人物は……青い髪の少女だった。

「では、ミス・タバサ」
「…………」

眠たげといえば眠たげ、やる気がなさそうといえばその通り。
つまり無表情に近い少女は、
名を呼ばれても表情ひとつ変えずに生徒の輪の中から一歩を踏み出す。
生徒の輪の中心に立つと呪文を唱え、魔力を解放。
途端、嵐にも似た暴風が吹き荒れ渦巻くと、やがてそれは爆発するように霧散。
全てが消し飛んだ、と思いきや……

「───タバサが平民を召喚した!?」

人垣の中から響いた声が、その全体を動揺させた。
そう、風が吹き飛んだ景色の中、学院内の広場に作られた生徒たちの大きな輪の中心。
そこに存在していたものは、
使い魔と呼ぶにはあまりに魔物に遠い、人間という存在だった。

「…………」

年の瀬はタバサより少し上程度。
15のタバサより少し程度ならば17か18程度だろうか。
短く乱雑に切られた髪に、
キリっとしてはいるが学院の中でいえばそう格好のいいものでもない普通の顔立ち。
服装は明らかに平民のソレで、ただ気になる部分といえば、
両腕に……指から肘までかけて、見たこともない紋章のようなものが存在すること。

 ───これが、わたしの使い魔───

タバサはどこか他人ごとのようにそう思った。
それもそうだろう、自分の名を偽り、己の名ではないもので呼びかけた存在だ。
応えてくれたとして、せいぜいで魔法が使えない平民がいいところ。
当然の報いだ、と彼女は顔を俯かせた。

 シャルロット=エレーヌ=オルレアン。それが彼女の本名。

タバサという名前は傀儡の名前。
かつて人形につけた名前を今は自分が名乗るなど、どれほど滑稽だろう。
だが自分の名を名乗ることは許されない。
目的を遣り遂げるまで、自分はタバサとして生きなければいけないのだ。

「……ウソ。タバサがよりにもよって平民……?なにかの間違いじゃないの……?」
「………………《ふるふる》」
「タバサ……───ミスタ・コルベール!これはやり直しは出来ないんですか!?」
「ええ、それはいけません。使い魔の儀式とは一生の共を選定する神聖な儀式。
 竜が欲しかったのに鼠が出た、などと言って拒絶をしては、
 応えてくれた使い魔に失礼というもの。さあミス・タバサ。契約を」
「………」

呆然と立っている男に、タバサは近づく。
その目がすっと動き、辺りを見渡し、鼻がすぅっと空気を吸うと、
彼は一度だけじっくりと目を閉じ、やがて開く。

「……問おう。貴女が私のマスターか」

どこかで聞いた台詞を言うと、彼は近づいてきた青髪の少女にそう言った。

「……そう」

少女もまた短く答えると、少女は静かに呪文を唱えてゆく。

「……我が名はタバサ。五つの力を司るペンタゴン……
 この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

そして、少々背の高い彼の服を引き寄せ、屈ませると……くちづけをする。

「むぶおっ!?」

男の反応はといえば、驚愕。
すぐに離れようとするが、
もう一度状況を整理すると暴れようとする体を治め、されるままになる。
やがて……彼の腕にある紋章が光り輝くと、それがまるで文字のように形を変えてゆく。

「…………使い魔召喚の儀式、ねぇ……。あーなるほど、これってアレか。なるほど」

男は納得がいったかのようにうんうんと頷くと、完全に状況を整理する。
そして儀式は終わった、と呟く少女の顔を覗くようにして、告げる。

「我が主よ、名を授けよう。我が名は中井出博光。
 我が命はこれより貴女のためのものであり、我は貴女の盾にも剣にもなりましょう」
「……?」

きょとんとした顔で彼を見るタバサ───
その左手の甲に、今度は男のほうから口付けが行われる。

 ジリィッ!!

「───!!」

途端、彼女の左手に鋭い痛み。
見てみれば、そこには己の使い魔の腕についたように、ルーンの文字が刻まれていた。

「見ての通り平民だが、見事役に立ってごらんにいれましょう。……シャルロット」
「!!」

小さく、タバサにのみ聞こえるように囁いた言葉が、彼女の表情を驚愕に変えた。
しかし彼は無邪気に笑うだけで、驚きに染まるタバサの頭を優しく撫でると、
この陽気に頭がシャイニングなコルベール先生の指示のもとに中央から生徒の輪へ。
そのあとを少女は追い、追いつくや少し焦りを見せた風情で彼の服を引っぱる。

「……、どうして」
「え?なに?」
「どうして、わたしの名前を……」
「……使い魔は相手の目となり耳となる。そりゃ、多少は知らないとおかしいでしょ。
 あ、それと俺のことはヒロミツって呼んでくれ。俺もシャルって呼ばせてもらうから」
「…………」

タバサは困惑を拭いきれないどころか、ますます深めた不安顔で彼を見上げた。
一方の彼は儀式の時のキリッとした表情など忘れてしまったかのように、飄々としている。
そんな彼を見上げていたタバサだったが、

 どっかぁあああああんっ!!!

……突如爆発した生徒の輪の中心。
その轟音に目を移し、微妙ではあるが驚きの顔をする。

「ルイズが平民を召喚したぞ!」
「タバサに続いてルイズもだ!」

生徒が騒ぐ。
そんな中、確かに中心……ルイズと呼ばれた桃色の髪の少女の前には、
うう、とうめく少年が居た。

「オ〜〜〜ッ、ど、どうやらマジでアレな世界に来ちまったようだぜ〜〜〜〜〜っ!」

それを見たヒロミツは、どこか楽しげに声をあげる。
その様子を見上げるタバサは自分の使い魔の扱いに困りながらも、
それよりも何故彼が自分の名を知るのか。
それは本当に契約から来る既知なのかを考えた。





       ───雪風の使い魔、魔王───





1/ヒロミツ

「……あなた、何者?」

最初に訊かれたのはそんな質問だった。
現在、僕はシャルに引きとめられて、
ルイズ嬢の使い魔サイトとともに庭に残っている状態。
そこには、たしかえぇとゴルベーザ……じゃなくてコルベール先生も居て、
ここに居るのは俺、シャル、ルイズ、サイト、キュルケ、コルベール先生となっている。
あ、あとキュルケの使い魔のサラマンドゥァー。
自己紹介されたわけじゃねーからなんともはっきりいかない状況だが。

「うむ。この博光、実はこの世界の人間ではない」
「はあ?なに言ってるのあんた。召喚の時に頭でも打って馬鹿になったの?」
「うっさい桃頭」
「もっ!?」
「ぶふっ!」

頭ごなしに否定してくるルイズ嬢に言葉を返すと、サイトがブホシュと噴き出した。
そんな光景を目にしながら、僕はえーと……ヒラガサイトだっけ?に話し掛ける。
名前確かそれでよかったよね?ここがあの世界なら。

「……で、恐らく……貴様もこの世界の住人ではないね?」
「貴様って……いや、そうだけどさ」
「自己紹介が遅れた。我が名はルミエール=D=カーナ。
 偽名だからよ〜く覚えておいてくれ」
「本名を言えよ本名を!」
「フフフ断る。俺の本名を知ってていいのは我が主、タバサだけだ。
 何故なら俺は彼女ただ一人を守る英霊なのだからな」
「……えいれい?なんだそりゃ」
「まあまあ。ただの人間ってことさね。それでキミは?」
「……平賀才人。見ての通りの人間だよ」

肩を竦めて言う。
ふむふむ、やはりこれは……ゼロの使い魔の世界、だよね?
いやスゲースゲー、よもやこの博光がこんなパラレルな世界に飛ぶとは。
俺自身はそう詳しくは知らんが、意思たちが知ってる。
いろいろごちゃ混ざってて、どれが本当の知識なのか解りゃしねーけど。

「ふむふむ。つまり二人は互いにこの世界の住人ではなく、
 ミス・タバサ、ミス・ヴァリエールの召喚に伴い飛ばされてきたと?」
「押忍その通りですゴルベーザ先生」
「コルベールですぞ。しかしそれが本当ならば興味深い。
 えぇと、なにかそれを証明できるものはありますかな?」
「うむ。では───サイトよ、そのノートパソコンを」
「え?あ、あぁ……ってあんたはなにか無いのかよ」
「や、だってこの場で、それより地球技術を現すのに便利なのってないじゃん?」
「地球…………って、あんたもしかして日本人か!?」

すっと口に出すと、思いのほか素直な反応。
俺はそれに全力を以って応えると、サイトは感心。

「イエスアイアム!貴様と同じ世界の住人さ!」
「へ〜〜〜っ!よかったぁ、俺急にこんなところに飛ばされて、ワケ解らなかったんだよ!
 あ、俺平賀才人……ってさっき言ったか。よろしくな!」

うん、異郷の地にて見つけた同出身国の僕を見て大変安堵したらしい。
僕の右手を両手で掴んで、シェイシェイと上下に振るってくる。

「あっと、じゃあこれ。立ち上がりに時間かかるけど……」
「これ、XP?」
「ああ。最近立ち上がりが遅くなっててさ」
「……随分古いの使ってるんだなぁ……」
「え?なに言ってんだ、そんなに古くないだろ」
「いや。この博光が居た日本では、既に窓・GXPというのがだな」
「へ?…………あ、あのー…………あんたが居たのって西暦何年?」
「グオッフォフォ……!!ようやく気づいたか。この博光が居た日本の年は○○○○年だ」
「なぁあああっ!!?未来人!?すげぇ!そんなことまで出来るのかよ召喚って!」

なにやら興奮冷めやらぬ様子。
つーかファンタジーに飛ばされるって事態に、疑うことを忘れているのかもしれない。
外の四人は蚊帳の外感を胸に、俺達の反応を見ていた。

「おっと失礼。ではまずこの映像を見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく……綺麗ですな……」

コルベール先生が眼鏡を輝かせながら言った。

「あの。これは科学っていって、魔法とかじゃないけどいろいろなことが出来るもので」

そんなコルベール先生に、サイトくんが親切丁寧にコトを教えてゆく。
その脇で僕はその様を見つつ……シャルの傍へと戻った。

「……で。差し当たり俺の仕事は?」
「……特にない」
「そ、そすか」

前途は多難そうだ。
なんて思っているとゴルベーザ様がニコリと笑い、説明を開始してくれる。

「では今度はこちらの説明を。
 私はコルベール。このトリステイン魔法学院で教師をしております」

まずは自己紹介から、ということらしい。
次いで青、赤、桃と自己紹介を始めてくれた。

「……タバサ」
「キュルケ=フォン=ツェルプストーよ」
「ルイズ=フランソワーズ=ル=ブラン=ド=ラ=ヴァリエールよ」
「長い。フランソワ=ボタでいいだろ」
「ぶほぉっ!?」

あ、またサイトが噴いた。

「な、なななな…………ちょっとあんた、人の名前をとって長いですって!?」
「あ、ボタはいいの?じゃあボタ、ちょっと黙ってて」
「黙るわけないでしょちょっと!
 誰かの使い魔だからってわたしがなにもしないと思ったら大間違いよ!?」
「しなくていいから黙って桃頭」
「桃頭言うなぁっ!!」
「それで、ここは?あ、この世界は?って訊いた方がいいか」
「あ、俺もそれ気になってた。えっと……コルベール、先生だったっけ」
「ちょっと聞きなさいよ!!」

むがー!と迫る桃色を、彼女の頭を抑えることで突き放しつつ、ゴルベーザ様を促す。
ゴルベーザ様はふむふむと頷いて、再び説明を開始する。
まず一。
この世界がハルケギニアってものだということ。
その二。
魔法使いは貴族で、使えないヤツは平民であること。
はいその三。
自分たちは使い魔として召喚されたため、主人を助けるよう務めること。
その四。
人間が召喚されるなんて前代未聞、に近いらしいということ。
というのも遙かなる古の時代にそういう事例があったとかねーとか。

「で……我らはようするに主人を助けていけばいい、と」
「そうなるね。では、ヒロミツくんだったかな?」
「ウス」
「ではヒロミツくんと。ヒロミツくんとサイトくんにはこれから、
 使い魔として主人であるミス・タバサとミス・ヴァリエールに付き従ってもらう。
 うん、いろいろあるとは思うが、励んで欲しい」
「付き従うって……こんな世界に飛ばされてきて、
 いきなり執事みたいなことをしろってのかよ」

ゴルベーザ様の言葉に驚くサイト。
仕方もない、というか桃頭の下じゃあほぼ下僕扱いだろう。

「当然でしょ?あんたはわたしの使い魔なんだから」
「使い魔と下僕の境界も解らん桃がよく囀るわ」
「っ……だからなんなのよあんた!すぐそうやってわたしにつっかかってきて!」
「言葉の通りだ桃。俺達は人間だ。確かに使い魔にはなったが、
 いきなり召喚されて“わたしがあんたのご主人様だから言うこと聞きなさい”って。
 そんなこと言われたら誰だって反発するわ」
「そういうものなんだから言うこと聞くのは当たり前でしょ!?」
「ん〜……じゃあ例えを出そう。今現在の俺とサイトの心境。
 ある日普通に暮らしていた僕らは急に異世界に召喚。
 変わった髪の色をしている人々に急に使い魔だと言われ、その下で働かされる。
 ………親に奴隷として売られて、訳も解らないままに働かされるみたいな心境。解る?」
「んぐっ……!」

きっちり説明してやると、さすがに詰まったらしい。
怯むような顔で、身を軽く仰け反らせた。

「まあ俺はシャルの下で働くことになんの問題もないけどさ。サイトはどう?」
「どう、って……そんなこと言われても解んねぇよ……」
「そか。じゃあまずは従ってみなさい。
 少なくとも、この世界での生活を保証するのは俺でも他人でもなく、ご主人様だろうし」
「え?……こいつが、俺のこと?」
「そ」

ちなみに。
俺は普通の年齢状態からさらに時を遡らせ、
召喚の場に居た生徒たちの年齢に即座に合わせた状態で降り立った。
年齢からも外見からもサイトとあまり変わらん状態だ。
……さすがに一人だけ飛び出た感じじゃ違和感だし。

「えーと……それでゴルベーザ先生」
「コ……コルベールだよ」
「おお失礼。使い魔ってのは一般的になにをするものなの?
 まさか主の生活の助けだけするってわけじゃないでしょ?」
「ふむ……似たようなものなのだがね。まずはともにあること。
 そして主人の目となり耳となる能力を与えられます」
「目と成り耳と成るか。えーと…………見える?シャル」
「…………」

千里眼、というかイーグルアイを使って、遙か遠くのものを見てみせる。
と、タバサ……というかシャルロットはちょっと呆然としていた。
一方のサイトはというと。

「見えるか?」
「見えないわ」
「……キミ、ついてないなぁ」
「あんたがダメダメなだけよっ!
 ああもうっ!ヴァリエール家の三女がこんなっ……なんてことなの!」
「あら、ゼロなあなたにはお似合いじゃない、ル・イ・ズ?」
「う、うるさいわねキュルケ!黙ってなさいよ!」

全然ダメらしい。

「それから、使い魔は主人の望むものを持ってくると云われているね。例えば秘薬とか」
「え?盗んでこいってこと?」
「い、いやそれは違うよ。うん、確かに例えが悪かったかもしれないね。
 秘薬は精製するものであって、木に実っているわけじゃないからね」
「なるほど、要するに材料集めみたいなものか。OK、それくらいなら出来ましょう」

ウムスと頷く。すると、

「出来るのか?」

とサイト。
俺はそれに頷いてみせると、似たような背格好の彼の肩を組んで笑ってみせた。

「どうせ見栄張ってるだけでしょ。平民がそんなことできるんだったら苦労しないわ」
「だから黙ってなさい桃」
「桃って言うんじゃないわよ!!」
「まあまあミス・ヴァリエ−ル。……そしてこれが一番重要だよ。
 使い魔は主人を守る。その能力で、敵から主人を守るのが一番の役目だ」

……沈黙。その後、開口。

「…………あんたじゃ無理そうよね」
「だって人間だもん……」

桃とサイトの会話はそんなもんだった。
俺はといえば……シャルの首を後ろから抱き締めるような感じで、ニカッと笑って見せた。

「守ればいい。いいねそれ、単純なのって大好きさ」
「はぁ?あんたになにが出来るっていうのよ」
「うっさい桃。平民平民馬鹿にしてると痛い目みるんだぞこの」
「くっ……!ほんとむかつくわねこの平民……!
 あんたたち平民に出来そうなものなんて、
 洗濯掃除、その他雑用くらいなもんでしょ!!」
「自分はそれすら出来ないくせに」
「《カァッ……!!》ん、んんんぎぎぎぎぎぃいいいいいいっ!!!!」

顔を真っ赤にして地面を踏みまくる桃。
うん、貴族って嫌いです。
やつらが平民を嘲笑えば嘲笑うほど。
と思っていると、シャルがぺしりと僕の頭を叩いてくる。

「シャル?」
「……あまり言いすぎないで」
「……了解した」

俺の頭を叩いた本をもう一度開き、読み始める。
……聞いてたのかね、今までの会話。

「ともかく、話はこのくらいにしましょう。さ、皆さん教室に戻って。
 まだ訊きたいこともありますが、授業をサボらせるわけにはいきませんからな」

言いながら頷くゴルベーザ先生に、その場の皆様が頷く。
サイトは納得がいかないようだけど、慣れてもらう他ないでしょう。
そんなわけで……僕らの新しい生活が始まりました。




3/ヒロミツ

一日が過ぎた。
どうやら使い魔といってもやることなど特に無いらしく、
一日をほぼ無言で過ごすシャルの隣で、僕はぼ〜っと過ごしていた。
“共に在る者”として近くに居なければいけないということもあり、
サイトとともにず〜っと奇異の視線にさらされてたわけですよ。
貴族どもは口を開けば“ヘーミン!ヘーミン!”って腕を上げたり下ろしたり……ウソだ。
ともかく、今こうして目を開けた状況は夢でもなんでもなく、
自分こと中井出博光は……やはり、一つのベッドの隣で眠る少女に召喚されたらしい。

「……はぁ」

英霊になってしばらく。
“ただ一人を守る者”として英雄化した自分は、様々な世界を巡っている。
元の世界……“地界”に戻れることはもはや叶わず、
架空のみを行き来する不老不死の存在───それが俺だった。
人として生きた日々は既に過去。
亜人たちと精霊の力、そして英雄王の力によって英雄になった自分は、
もはやどう足掻いても“ただの人間”には戻れない。
そんな事実にどれだけ頭を抱えたことか。
……まあ、不老不死なだけで“ただの人間”ではあるんですがね?

「………」

守ることになんて興味がなかった。
だが今は守る者として存在している。
ただ一人を。それだけを譲るカタチで。
どんな状況であれ、
自分を召喚した者を生涯助ける……それが俺の英雄としての在り方だった。
彼女の左手の甲に出来た紋章は、その証だ。

「…………」

すぅすぅと静かな寝息をたてる主。
その髪をそっと撫で、やさしく起こす。
寝る場所が無いとはいえ、昨日はここで寝てと言われて焦ったものです。
あっはっは、僕もまだまだウヴよのう。
でも……うん。
もはや帰れなくなってしまった世界とさよならをした過去に礼をしながら、
俺は今も生き続けていた。
……死ぬことのない、永久の旅をしながら。

「…………?」
「おはよう、シャルロット」
「………」

ぼんやり顔だった。
その顔によく絞ったあったかタオルを当てて、やさしく撫でてやる。
シャルはされるがままに撫でられ、それが終わると俺はやさしく髪を梳き、
それでもぼうっとしている顔に眼鏡をかけてやると、

「さ、起きて。今日も元気に行こう」

てしんっと軽く背中を叩いて、朝の挨拶を終了させた。

【時間がないので終了】

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