03/おぜう様ブルース
【中井出博光/どこでだって迷惑な男】
ルイズは自分のベッドで夢を見ていた。
もちろん将来に対する夢を、足をパタパタさせながら思い描いていた〜なんてことではなく、純粋に眠りこけて見ていたのだ。
よーするにあれだ、レム睡眠時に見るっていうやんちゃな記憶整理の現象。
カリーヌ「ルイズ! ルイズ!? どこに行ったの! まだお説教は済んでいないわよ!」
夢の中に響く、母の声。
デキのいい姉二人に比べられ、物覚えが悪いと叱られていたのであった。
隠れた植え込みの下から、誰かの靴が見えた。
召使い1「ルイズお嬢様は難儀だねぇ」
召使い2「まったくだ。上のお二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになられるのに」
中井出 「終わったな。所詮クズはクズということだ。ブロリー的に」
ルイズは悔しくて悲しくて歯噛みした。
召使いたちは植え込みの中をがさごそと探索した。
見つかる、と思ったルイズはそこから逃げ出し《バサァアッ!》
ルイズ「きゃああああっ!!!?」
───た途端、仕掛け網が地面から飛び出し、宙吊り状態で捕獲された。
中井出「ゲェエエハハハハ!!
この博光から逃れられると思ったかえ! ウヒェハハハハ!!」
ルイズ「え? え!? なななんであんたがここに居るのよっ!
え!? ていうかこれって……私の昔の記憶……夢!?
夢なのになんであんたが!」
中井出「博光だからさ……!《キラキラ……!》」
ルイズ「わけが解らないわよっ!!」
ぬう、せっかく美麗に輝いてあげたのに。
ハイ、そんなわけなんで今日は夢の中からお送りします、日本テレフォン民話、キッチョム話。
じゃなくて、ゼロの使い魔・風のアルビノン……じゃなくてアルビオンです。
───……。
……退屈です先生。
ギトー「最強の系統がなんの系統か。諸君はお解りか?」
中井出「肉弾戦です先生」
ギトー「魔法の話をしている。部外者は黙っていてくれたまえ」
夢から覚めてしばらく。
顔を真っ赤にして怒ったルイズに顔面ストレートされて「つぶつぶー!」と叫んだ僕は、今現在は皆様と一緒にギトー先生の授業を受けていました。
ええもちろん退屈凌ぎにいいんじゃないかなーとか思ったからこその行動。その実つまらん。
ルイズの部屋に忍び込んで、悪夢を見せてたのはいいんだが……まさかあっさりバレるとはなぁ。
まあ才人もノリノリだったからオーケーということで。
中井出「ねぇ才人、フーケが脱獄したって話、聞いた?」
才人 「なっ……マジでか……!?」
だから先生無視で小声で話し始めました。
大学の講堂めいた場所で話を進めるギットギト野郎(スリムです。名前がギトーなだけ)は、己が最強ですと言いたげに話を進めてます。
キュルケさんが「虚無では?」と言いますが、「伝説の話などしとらん」的にばっさり。
ちなみにフーケの本名はマチルダ・オブ・サウスゴータっていうらしい。
ジョイトイとか付けたくなりそうなサイドネームだね。
しっかしつまらん授業だなーほんと……最強の系統? そんなものは武術以外にゃ存在しまいよ。
杖がなければ戦えん者たちと武術家を比べてもらっちゃあ困るというもの。
ギトー「風だ。風の系統こそが最強。その所以を教えよう。風は全てを薙ぎ払───」
中井出「センセー、魔法撃つから魔法で掻き消してもらっていいですかー?」
ギトー「ほう? ふふ、構わん、やってみたまえ」
中井出「じゃあ……《ガキ、ゴキンッ》───フレア」
ホズを準備、講堂下のギトーさんに向けて撃った。
彼は風を出現させてどぉっごぉおおおおおん!!!!
……吹き飛んだ。
中井出 「さ、みんな、今日は自習だって。
先生の自慢話なんかよりも有意義な時間を過ごしましょう」
ルイズ 「……あんたって本当になんでもありね」
才人 「ははっ、でもスゲーすっきりした」
キュルケ「最強系統が聞いて呆れるわよ」
タバサ 「……《……こくり》」
ここはアルヴァニスタ王立魔法アカデミー……ではなく、トリステイン王立魔法学院。
今日も生徒たち(貴族ども)が勉学に勤しみ、地味〜に魔力をあげる場所である。
俺……修行はしなかったけど、この生徒どものやる気のなさ見てるとげんなりする……。
生徒も生徒なら教師も教師だけどね……。
───……。
時は流れてとっぷりと夜。
今日の分の鍛錬を終え、長く息を吐いている才人とともに、ルイージ……もとい、ルイズ嬢の部屋へお邪魔しております。
ルイズ「なんであんたがここにっ……!」
中井出「才人のことでちと話があってさ。で、こうして来てみたわけだけど───」
クククゥ、今日というこの日、ここでなにかしらのイベントが起こるのは猛者ネットワークにて調査済みよ。何が起こるのかまるで知らないけど。
中井出「少し話しません? 他愛なき話でじゅーぶんだから」
ルイズ「あんたなんかと話すことなんてないわよ、さっさと出て行ってくれる?」
中井出「うんやだ。で、話なんだけどさ。才人の───」
ルイズ「出てけって言ってるのよっ! なんなのよもう!」
中井出「話だってば! ちと集中して修行させてやりたいから、
少し才人に暇をあげてって言いにきたの!」
ルイズ「嫌よ、お断り! なんで私があんたなんかの頼みを聞かなきゃいけないのよ!」
中井出「ならば中井出博光が命ずる! 才人に暇をよこせ!!」
ルイズ「命令なんて余計にお断りよ! ばっかじゃないの!?」
中井出「………」
ここまでストレートに馬鹿と言われるとは……大して面識の無い相手にここまでとか有り得ないよ……貴族って本当にこんなんばっかなの?
アンリエッタさんとの話で、こういうやつも居るんだなーとかささやかに思ったっていうのにこの態度……うん、やっぱ貴族は嫌いだなぁ俺。
中井出「ルイズ嬢。真面目な話をする。“聞く耳を持て”」
ルイズ「だから嫌だって言ってるでしょ? 邪魔だからさっさと出ていって」
中井出「話、聞いて?」
ルイズ「いーーーーやっ!!」
中井出「聞きましょう?」
ルイズ「出てけって言ってるの!」
中井出「…………調子乗んなよ貴族女郎」
ルイズ「え?」
ボソリと呟いた言葉に、ルイズが目を丸くする。
貴族、ハハ、貴族か。ワハハハハハハ!!! 仏に習い、三回待ってやったがだめだな、全然だめだ!
中井出「ちゃんちゃら可笑しいわ貴族めが! それが貴族か! その在り方こそ貴族か!
ならば俺は貴族の全てを忌み嫌おう! 魔法が使えるからと平民を虐げ、
上に立つような振る舞いを見せるくせに下の者の言葉も聞かない!
ハッ! 底が知れる! 貴族!? 蛮族の間違いだろうがクズが!!」
ルイズ「なっ───!? なんですってぇ!?」
中井出「貴族が平民に勝っているものはなんだ!? 家柄と魔法だけだろうが!
ろくに労働もしねぇクズどもが、それでよく踏ん反り返れたもんだ!!
食わせてもらってる分際で胸張って、豪華に振る舞い平民を見下す!
貴族の生き方!? 貴族の在り方!? 平民は貴族には勝てない!?
生き方の時点で劣りまくってるてめぇらにンなこと言われたくねぇんだよタコ!!
魔法が使えないから少しは平民の気持ちが解るだろうと話し掛けてみればこれか!
あーあ中途半端だなぁてめぇは!
魔法使いとしてもダメ! 平民の理解者としてもだめ!
けど上に立つものとしてが一番だめだ!! なっちゃいねぇ!!
解ってねぇようだから、解ろうともしねぇようだから声を大にして言ってやる!
てめぇら貴族は魔法が使えなかったらただのお荷物でしかねぇんだよ!!」
ルイズ「───!!」
言い返そうとする少女に、本音でぶつかってやった。
あーもーこれだから貴族ってのは嫌だィヤ、といった風情で。
しかし、叫び終わってみればルイズ嬢は目に涙を溜め、震えだした。
中井出「と。暴露話はここまでにしてと。で、才人のことなんだけどね?」
ルイズ「……、……っ……《ぽろぽろぽろ……》」
中井出「ルイズ=フランソワーズ、泣くことは許されません。
今の言葉は貴族が言われて当然の言葉。
貴女はそれでも貴族として在りたいというのなら、ここで泣くのは間違いです。
それと、あんたに何が解るー、とかも無しね?
逆に言えば、貴様ら貴族に平民の何が解る。
平民とメイジの狭間に居るお前なのに、
メイジであることに執着しすぎた貴様では、もはやどのような言葉も中途半端。
けど、今の罵倒を力にするも無駄にするも貴様の自由よ」
ルイズ「っ……このっ……よくも……! 涙なんか……!」
中井出「……ふむ。この博光、反吐が出るほど嫌いな相手をわざわざ叱ったりなどせぬ。
涙を拭い、立ち上がる意思があるのなら今ここで示しなさい。
嗚咽に苦しもうとも、自分はメイジで貴族であると証明してみせなさい。
ふんぞり返るしか脳が無い存在は貴族ではなくただの馬鹿よ。
貴族ってのはよ、もっと気高く美しいもんだろうが。
───それを見せてくれ、ルイズ=フランソワーズ。
他でもない、貴様の成長を願い、貴様を信じる使い魔くんのために」
ルイズ「え……───サイト……?」
ちらりとルイズ嬢が視線を動かす。
と、黙ってじっとルイズ嬢を見ていた才人が、こくりと頷いてみせる。
中井出「才人は平民だ。俺も平民。けどな、それ以前に人間やってる。生きてるんだ。
他のみんなもそうだ。
今を生きるため、明日の糧のためにみんな必死で働いてる。
黙ってても糧が得られる貴族とは違う。
そんなお前が平民の何かを知っているなんて、
間違っても口にしちゃいけないことだ。
だから、そこのところは勢いであろうと言わなかったことに感謝する。
だがな、それだけでは足らんのだ」
ルイズ「……《ぐすっ……》……なによ……足りないものって……」
中井出「貴族としての自覚だ。一方的見解を話すけど、
平民が願う貴族の在り方ってのはもっと気高く美しいものだ。
お前らみたいに魔法が使えるから、
家柄がいいからって踏ん反り返るものじゃない。
俺達からしてみれば、コルベール氏こそが貴族だよ。
お前らはただの馬鹿な金持ちと変わらない」
ルイズ「っ───! な、んてこと、言うのよ……!
わっ、わたしっ……私は、ヴァリエールの娘として……っ!」
中井出「それがいかんのだ。どこの家だろうと関係ない。
俺達が見てるのは貴族って枠であって、家名なんざどーでもいいんだよ。
貴族らしく在ってほしい。願うのはそれだけで、
それは魔法で平民を脅したり見下したりする姿のことを一切指さない。
お前らがしてることはそんなチンピラみたいなことであって、
貴族然とはしていない」
ルイズ「〜〜〜っ……」
キッと睨まれるが知らん。
逆にその眼を見つめ返し、本気の意思を見せてやる。
中井出「同じ貴族に、同じメイジであるはずの誰かに見下され、馬鹿にされてきた。
それでもお前は努力をしてきたんだろ?
平民だって雑用任されたり、あろうことか買われたり体を求められたりしても、
“今を生きること”を諦めずに必死に前を向いて生きてんだ。
努力を知るお前がどうして平民を見下す。貴族だからか?
だったらお前が目指す貴族ってのは、所詮そんなものってことか?」
ルイズ「そんなことないっ! 貴族っていうのは───…………貴族……貴族、は……」
中井出「……うむ。貴族は? お前の目指す貴族を唱えよ。
さすれば俺は、見直しもするし落胆もしよう。
だが、たとえ答えが落胆に至ろうが、お前に変わる気があるのなら。
立ち上がろうとする気があるのなら、俺はルイズという一人の存在を認めよう。
お前が貴族だから認めるんじゃない、魔法が使えないから認めるんじゃない。
立ち上がり、前を見る“覚悟”を持っているからこそ認めよう」
ルイズ「う……、───か……覚悟……」
中井出「失敗を恐れろ。成功を恐れるな。倒れる勇気を持て。逃げ出す怖さを知れ。
逃げ出しても諦めない心を秘めろ。
そして……“自分”として明日を夢見る覚悟を刻み込め。
貴族がお前を象るんじゃない。
お前が貴族を象る生き方を俺に、平民に見せてくれ。
踏ん反り返るだけが貴族じゃない。
高き位置に立つ意味を、見下されてなお諦めぬことの強さを。
───ルイズ、お前が証明してくれ。“ゼロ”からの出発を果たすために」
ルイズ「───!!」
貴族は嫌いだ。
けど、人の全てが嫌いなわけじゃない。
俺は人である自分を受け入れ、汚い部分もいい部分も見てきた。
殺しもしたし絶望もした。
それでも希望をこの眼で見て、全てに忘れられても笑顔がある未来を求めた。
貴族が嫌いだ。
けど、貴族ではなくその人個人が好きになれる人ならば、きっとそいつとだって“楽しい”は探せる。ようは……手を伸ばすか伸ばさないか。そういうこったもんな。
ルイズ「………教えて、ヒロミツ。貴方の……平民、ううん、皆が求める貴族の在り方を。
私は必ず、そこに至ってみせる。貴族だけが自己満足で終わる貴族像じゃない。
私はみんなに認められる貴族に……私になりたい」
中井出「───」
才人 「……うん」
俺は声を出さず頷き、才人は声を出して頷いた。
どっちも、笑顔だった。
中井出「じゃあまず最初だ。自分のことは自分でやること。
他人任せにしないで、面倒でも自分でやることだ」
ルイズ「うくっ……う、うん……」
中井出「そして、そんな面倒をも“楽しい”に変えられる自分になれ。
たとえば……そうだな。キミにとっても大事な人が居るとする。
家族でもいい、自分でもいい、そんな誰かを思い浮かべてみてくれ」
ルイズ「ん、ん……それ、誰かのために行動しろってこと?」
中井出「違うな、全然違う。いいかいルイズ、行動の全ては“自分のため”に行え。
他人のためってのは一番だめだ。自分のため。行動力の全ては自分のために使え」
ルイズ「え───ま、待ちなさいよっ! それじゃあさっき言ってた貴族像と───!」
叫びだそうとするルイズに、手で待ったをかける。
それは違う……違うのだよルイズよ。
中井出「いいかいルイズ、よく覚えて。
人は誰かのために行動するにはあまりに弱い生き物だ。
誰かのため誰かのためと行動しても、土壇場ではとても弱い。
当たり前だ、人は他人のために本気で命を捨てられるほど、無謀には出来てない。
けどね、ルイズ。それも自分のためならばきっと可能だ。
死にたくないと思えば、必要以上の力を出せると信じるんだ。
そして……行動の理由を“誰かのために”なんていう“他人の所為”にしない。
“自分は誰かのために戦った! だから私が罰せられるはずがない!”
こんなことを後から言うヤツを、キミは目指したいか?」
ルイズ「…………《ふるふる……》」
中井出「ん、それでいい。たとえ自分が行ったことが罪になるとしても、
それを誰かの所為にしない……そんな強い“自分”であれ。
そして、自分がとった行動の結果でこそ、誰かを守れるやさしい者であれ。
ルイズ。“誰かのために戦ったから、私が感謝されるのは当然だ”なんて思うな。
“私は自分のために戦ったのだから、感謝される謂れは無い”と胸を張れる───
そんなスカした馬鹿に、お前はなれ。
今の貴族の在り方よりも気高き自分。
それでも誰もを見下さない強いキミに、お前はなれ。
それを自然に出来たなら、お前は立派な貴族だよ」
ルイズ「立派な…………貴族……」
俯いて、自分の手を見下ろす。
ゼロだゼロだと言われ、メイジらしくもなかった。
平民と同一視されるのも嫌で、ならば貴族の名にすがるしかなかった彼女。
けど、その貴族としての在り方も否定された彼女は今何を思うのか。
ルイズ「サイト……その。あ、あああんたは……威張ってばっかりの私は……嫌い?」
才人 「んあ? あ、あー……そーだな。
頭ごなしに怒鳴られてばっかりで、喜ぶヤツなんて普通いねーよ」
ルイズ「《チクッ……》……う……」
才人 「……けどさ。
それよりも……魔法が使えないってだけで周りに馬鹿にされてるお前が辛かった。
同情って言やぁ同情なのかもしれねーけどさ。
それでも……女の子一人をよってたかって見下すようなヤツは貴族じゃねぇ。
否定されてもめげないお前の姿に、頑張れって言いたくなったよ」
ルイズ「サイト……」
才人 「努力してるお前は格好いいって思う。
でも、家名を盾に誰かを見下す姿は……
その頑張る姿を曇らせる材料にしかならないんだよ」
ルイズ「───!」
目を見開き、後退る。
でも……逃げ出さない。
ショックを受けようと、彼女は才人の自分への言葉を受け止めようと必死だった。
ようやく成功した初めての魔法、その結果である自分の使い魔に自分を否定された。
それは俺が考えるよりもよっぽどショックがでかいだろう。
それでも逃げ出さず喚かず、涙が滲むが留まっていた。
才人 「変わる努力……していこうぜ、ルイズ。
お前一人じゃ出来ないなら、俺が一緒に居てやる。
お前一人じゃ立てないなら、俺が手を引いてやる。
正直な話、自分の世界には戻りたいし……残してきちまったものもたくさんだ。
友達と話したい馬鹿話を今さら思い出して、話しておけばよかったとか……
考え出したらキリがねぇよ、今すぐにでも帰りてぇよ。
それでも───俺はお前の使い魔だから。今はゼロの、お前の使い魔だから。
お前が変わる覚悟を決めるなら、俺だってここで生きる覚悟を決めてやる。
だから……俺も覚悟を決めるから、お前だって覚悟を決めろ」
ルイズ「覚悟……? 帰りたいのに……私のためにここに居てく───い、居るの……?」
才人 「お前のためじゃねぇよ。提督も言ったろ?
俺は俺が生きるために力と覚悟を持つって決めた───自分のためだよ。
けど、お前が笑っていられる結果を必ず残してやる。
そういう“自分のため”に俺は生きるんだ」
ルイズ「………」
……マア。
あの、才人さん? それって告白だよね? かなりレベルの高い告白だよね?
自分のために生きるけど、その行動の全てでお前を笑顔にしてやるっていう告白?
……マママア……!! 会ってまだ一ヶ月と経ってないっていうのにゾッコンですか!?
ちょっといきすぎじゃ───……え、え? なに? なんだよ猛者ども、今いいところで……え? 使い魔のルーンは、主人を裏切らないために主人を好きになるようになってる? マジでか!?
中井出(こ、こりゃやべぇ……てーことはこれは偽りの愛!?)
さてどうする博光。
シリアスをやってみた手前、ここで「騙されるな鉄郎!」とか叫ぶのは大変よろしくない。よろしくないが面白そうだからやってみたいんだが……どうしよう。
中井出(てゆーかあのー。もしかして俺、お邪魔虫?)
なんだかソワソワしてきた。
だってこんな間近で二人の世界作られちゃあさぁ……。
やがてルイズが、戸惑いがちに手を伸ばし、才人が差し伸べていた手にソッと乗せ───トン……トンッ。
中井出(ひょっ!?)
ようとしたまさにそんな時、ドアがノックされた。
初めに長く間隔を空けて二回。次に短く三回。
中井出「誰だコノヤロー!!」
そして僕は“空気読めよテメェエエエエ!!”とばかりにドアを開けた!
すると、スルリと入って勝手にドアを後ろ手に閉める、真っ黒な頭巾を被った謎のローブさん!
ルイズ「……だ、誰?」
で、中断されてしまったがために顔を赤くして手を引いてしまうルイズ嬢。
才人は勇気と覚悟を以って手を差し伸べたというのに、それを拒絶されたような気分だったのでしょう。少し寂しそうに笑った。
だってのにこのローブさんは「しっ」と口に人差し指を当ててから、ローブの影から杖を取り出すと軽く振るい、同時にルーンを呟く。
ルイズ「“探知魔法”?」
ローブ「どこに目が、耳が光っているか解りま《ボカリッ!!》きゃうっ!?」
とりあえずゲンコツくれてやりました。
ローブ「い、いたた……え、えぇ?」
中井出「コノヤロー! 人の決意の瞬間を邪魔した上になに暢気に解説してやがるか!」
ローブ「え? え……? あ、あの、わたくしは」
中井出「最初に一言言っておく! 俺は貴様がたとえ国王だろうと神だろうと追及する!
貴様は今自分が何をしたのか解っているのか!
人の決意を! 覚悟を! あろうことか邪魔したのだ!」
ローブ「えぇっ……それは……も、申し訳ありません……っ!
けれどもこちらも火急の用があったのです、どうか───」
中井出「金や物で許しを乞うのであれば、僕の丸太のような足が貴様の腹に減り込む。
僕が欲しいのはそんなものではない……結果である!」
ローブ「………………そう、ですね。お金で許しを乞うなど、王族失格です」
中井出「え? 王族?」
疑問を返してみれば、ローブさんが頭巾をふぁさりと取る。
するとそこにはゲゲェエーーーーッ!! 品評会で会った姫ちゃんが!!
ルイズ 「ひっ……ひっ、ひひっ、姫殿下!?」
アンリエッタ「お久しぶりね、ルイズ・フランソ《ぼかぁっ!》わきゅうっ!?」
でも殴りました。ゲンコツです。
中井出 「コノヤロー! 謝罪も半端に話を流そうとするとは何事か!
実に嘆かわしい! 貴女はそれでも人間か!」
アンリエッタ「う、うう……?」
頭を押さえ、涙目になりながら僕を見上げる殿下さん。
そんな彼女をルイズ嬢のベッドに座るように指示し、僕はといえば床にドッカリと座ってお話モード。
中井出 「姫ちゃん、これはいかん、まったくいかんぜよ。
人の決意を邪魔するのは、からかう時以外にしてはいかんぜよ。
今ね、ルイズの使い魔くんがルイズを守ると誓いを立てようとしてたの。
それをキミは───文字通り土足で踏みにじったのだ!」
アンリエッタ「!!《がーーーん!!》」
中井出 「でもまあそんなことはもうどうでもよろし。殴ったならそれが対価だ。
さて───才人にルイズ、キミたちは覚悟を胸に刻めたね?」
ルイズ 「ヒロミツ…………さ、才人、私……」
才人 「───俺は決めた。お前に降りかかる災いの全てから、お前を守ってやる。
帰れるのかも解らねーし、
帰れるんだとしてもそれがいつで何処なのかも俺には解らねぇ。
だから……もし帰れる日が来るならそれまでずっと。
帰れないんだったら一生、俺がお前を守ってやる」
ルイズ 「サッ……サイト……!」
そして繰り広げられる二人の世界ザ・ワールド。
僕は殿下さんをそっと部屋の隅まで連れてゆき、そんな二人の様子を見守った。
アンリエッタ「まあ……わたくしはお友達の恋路を邪魔してしまったのですね」
中井出 「恋路ではないね、あれは主従だよ。まだ恋には至っておらん。
ところで姫ちゃん、なにか用? もしかして遊びにきてくれた?
っとと、そういや頭だいじょぶ? 殴ってごめんね、痛かったっしょ」
アンリエッタ「あ、いいえ。叩かれて当然のことをしたのなら、痛くて当然です。
けれど……あの。その姫ちゃんというのはその……」
中井出 「俺この国の者じゃないし、姫ちゃんに忠誠を誓う理由ないから。
フレンドリーでいいんじゃない? 姫ちゃんで。
で、用事がなきゃこんなところにゃ来ないよね?
ルイズに会いにきただけ? なんぞ力が要るならこの博光、
殴ったお礼に願いを叶えてしんぜよう」
アンリエッタ「な、殴ったお礼、ですか? うう……」
途端にばつの悪そうな顔をする姫ちゃん。
なにぞ言いづらいことのよう……試しに猛者どもに聞いてみれば、なんでも手紙……それもラヴレターを取り戻してほしいとかなんとか。
中井出 「悪いようにはせん。この博光、退屈こそが唯一の敵。
なんでも言ってみるがよかろ。簡潔に、きっぱりと。
もごもごして言わないようならそこの窓からご退場願うが」
アンリエッタ「あの……ここを何階だと思っていますか?」
中井出 「嫌ならさっさと言う。俺はキミを王族とも貴族とも思わんことにした。
人一人が人一人に相談するのになんの躊躇が必要かね?
俺ほど都合のいい存在、他にはおらんぞ?」
アンリエッタ「え……そ、そうなのですか?」
中井出 「言ったでしょ? 俺はこの国の者じゃないって。
だからほら、どんな難しい注文も承ってあげるきん、言いなさい?
おいさんにどーんとまっかせなさーい!」
アンリエッタ「《なでなでぐりぐり》わぷぷっ!? あぁああのあのっ、なにをっ……!」
頑固な姫ちゃんの頭をぐりぐりと撫でる。
王族扱いしないのに姫ちゃんなのかって? アンで呼んだらアンちゃんになるじゃん。さすがにそれはないって。
中井出 「なにか依頼があったから来たんじゃないの?」
アンリエッタ「あ……………………は、はい、実は……」
それから彼女は話してくれました。
ゲルマニアの皇帝と政略結婚しなけりゃならねーこと、アルビオンの貴族どもが反乱を起こし、反乱軍が勝てば次に狙われるのはトリステインだから、別の国と同盟を結んで国力強化を図るらねばならねーこと。
ラヴレター(手紙とだけ言ってたけど)がアルビオンの貴族どもの手に渡ったら、確実にゲルマニア皇帝に渡して結婚をなきものにするだろうこと。
もちろん同盟がオシャカになればトリステインはアルビオンに襲われ、最悪「皇帝様の純情を弄んだなぁああ!」とゲルマニアも襲いかかってくるかもしれねーこと。
中井出 「姫ちゃんまだ若いのに……ゲルマニア皇帝ってロリコン? 少女趣味?」
アンリエッタ「しょ、少女だなんて仰らないでください……わたくしはもう……」
赤い顔でそっぽ向かれた。
子供と見られて少し拗ねたっぽい。
まあいいコテ。
どうにもその手紙ってのがウェールズ皇太子……アルビオンの王子さまが持ってるらしいのだ。しかもそいつが姫ちゃんの意中の人らしい。
……? なら持ってて当然っていうか、いいんじゃない?
アンリエッタ「いえ……アルビオンの貴族……
反乱を起こしている者と争っているのがウェールズ様なのです。
万が一にもウェールズ様が負けるようなことがあれば───」
中井出 「ナルホロ。大事な人を失った挙句、
手紙をロリコンに届けられて同盟の件もおじゃんだと。
では───現在は亜人のこの魔王中井出博光が乞おう。
汝の秘めたる願い、汝の真意を我にさらせ。
この博光、誰かの恋路を応援することを嫌うが、
嫁ぎたくもない者へと嫁ぐ者をそのままにするのは夢見が悪い。
ただそれだけのために貴様の願いを我が願いとし、
自分のために動いてやろう。故に───さあ唱えろ。
貴様の希望は何処にあり、貴様の絶望は何処にある」
絶望を知る者として聞き、希望を知る者として受け取り、自分のために叶えよう。
依頼料は俺の夢見の良さだ───それで十分よ。
アンリエッタ「───……信じて、よろしいのですね?」
中井出 「順番が違うなお嬢ちゃん。信じるのが先で、頷くのが俺だ。
同意を求めてから信じることなど全てにおいて疑心にすぎぬわ。
信じたいなら勝手に信じろ。同意を求めることで俺に責任を押し付けるな」
アンリエッタ「あ………ふふっ、では。わたくしアンリエッタは、貴方を勝手に信じます。
勝手に期待しますし、勝手に遣り遂げてくださると信じましょう。
これでいいですか、などという確認は取りませんよ?」
中井出 「……ん、姫ちゃんは偉いなぁ」
アンリエッタ「《なでなで》あわわわっ!? あぁああのあのっ!?」
余裕の笑顔を撫でてやり、では動き出す。
さぁて、これでしばらく退屈せずに済みそうだ。
あっちもあっちで手を取り合ったみたいだし、姫ちゃんは真っ赤だし。
───それから僕らは話し合い、明日の朝に早速出ることになった。
どおれ明日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
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